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災厲あれど、しかして砥厲せざるあたはず

#ケルベロスディバイド #ノベル

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荒珠・檬果




●神格化
 神へと昇華すること。
 それは誉れというのならば、確かにそうなのだろう。
 神へと至ることを望むのならば、それは多くの人の信仰を得なければならないだろう。
 尊敬だけではない。畏怖も得なければならない。
 神とは二面性を持つ者である。
 恐れは畏れに。
 そうすることで磨かれるのだ。ただ一人の力にてなり得るものは何一つ無い。

 信仰持つ人の手が伸ばされ、触れることによって練磨されていく。
 削ぎ落とし、時に付け加えられていく。人の口伝は、人を神へと昇華する。
 ならば、神を穿つ穂先は如何にして磨かれるのか。
 それもまた人の口伝えであろう。

●至らずとも至る
「とはいえですねぇ。どうしてこうなったんでしょうねぇ」
 荒珠・檬果(アーケードに突っ伏す鳥・f02802)は、その橙色をした首をかしげる。
 彼女はバトルゲーマーである。
 アーケードゲーム大好き。
 もふもふしたもの大好き。
 彼女の戦い方は簡潔である。己に式神を憑依させて戦うことを得意とする。
 即ち、嘗てサムライエンパイアにて存在した第六天魔王『織田信長』が手繰る秘術『魔軍転生』によって憑装したように彼女のまた式神を己に憑依させることによって、その技、その力を振るうのだ。

 しかし、である。
 彼女が己に憑依させる武将たち……三国志時代に活躍した彼等の力は驚くべきことに『神』を殺す力を得ている。
「なんで、というのは……まあ、そうなのでしょうねぇ」
 誠忠将『劉封』、刮目将『呂蒙』、封豨将『顔良』、秤裁将『于禁』。
 彼等の力を得ることによって神殺しを体現するユーベルコード。
 彼等にゆかりのある神と言えば、ただ一人。

 そう、武聖関羽である。
『劉封』が遠因となり、『于禁』の敗北は呉を誘引し、『呂蒙』が打倒し捉える。
 『顔良』廟ある地においては神へと昇華した関羽を祀る関帝廟は存在せず。より合わさるようにして武聖関羽を絡め取り、その生命を散らす因果となる。
 そうした因果が拡大され、神を殺す、という力を得たのは人の想像力の為せる技であったのかもしれない。

 彼等の生きた歴史は人の中で物語へと変わる。
 付け加えられ、削ぎ落とされ、変容していく。変わることを受け入れることができるのが人であるというのならば、その最中で関羽が神へと昇華したことと彼等四将が神殺しの力を発露するのはあながち間違いではないだろう。
「でも、気まずいといいますかぁ……」
 式神として彼等を憑依させる檬果はどうにも居心地が悪い。
 だってそうだろう。
 関羽に因縁ある四将。
 四将によって因果満ちる関羽。
 そのいずれも彼女はユーベルコードとして力を振るうのだ。言ってしまえば、彼等が彼女の中で内在しているようなものである。

「まあ……神々の如きってありますし。それに……あそこも神殺しのやつありますからねぇ」
 彼女は猟兵としてこれまで多くの神を見てきた。
『神農兀突骨』、『レディ・オーシャン』、『デウスエクス』たち。
「でもでも、それでも拡大解釈にも程が有るとは思いませんか!?」
 内在する式神たる武将たちに問いかける檬果。
 だが、返って来る言葉はどれも要領を得ない。それ以上に、同じ力を貸す存在同士でありながら生命のやり取りを行った事実もあるというのに、さらりと武聖関羽は、それを許している。
 それがまた不思議なことであるように思える。

「縁? そういうものです?」
 返ってくる言葉に首を傾げる。
 縁というにはあまりにも、と思ったのだが、宿縁とはつまりそういうものである。逃れ得ぬこと。
 例え、世界が異なろうと。異なる歴史が紡がれるのだとしても。
 恐らく四将は武聖関羽の前に因果として現れることになるだろう。そうした宿命が横たわることを受け入れるだけの器が彼等にはあるのだ。
 それが既に過去になった存在だからこそ、得たものでもあるのだろう。
 これ以上変わらぬのものを過去という堆積でもって歪め、邪悪たる世界の敵となるのがオブリビオンならば。

 檬果が手繰る彼等は。
「人の口で、手で歪むのではなく磨かれていったのならば……|厲《わざわ》いではなく、|厲精《れいせい》することによって、嘗ての宿縁も変わろうというもの!」
 人の口伝ほど変容するものはないだろう。
 時に善きことに。時に悪しきことに。
 時代が移ろえば、あらゆる意味が流転するかもしれない。
 どれが正しいかも、過ちであるかも示すことはできないかもしれない。己の理解の正しさを誰が肯定することができるだろうか。

 神ならぬ身であるのならば、なおのことである。
 だからこそ、檬果は思うのだ。神ならぬ身であるからこそ、己の白日珠は彼等を宿すのだ。
「……と言いつつも、やっぱりどうしてこうなっちゃったんでしょう! 私の解釈違いとかなってません!? 大丈夫です!?」
 彼女は途方に暮れる。
 いや、彼女だけではない四将もまた――。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2023年07月10日


挿絵イラスト