ゴーアゲイン・メサイア
メサイア・エルネイジェ
メサイア
【メサイア戴冠式編】
メサイアが正式な王族に認められて晴れて無罪放免になり最後は牢屋にぶち込まれるノベルをお願いします!
時系列的にはテンポラリーベイル・メサイアの後です。
今回も複数人の合わせノベルでご依頼させて頂きます。
アドリブ・改変歓迎です。
困難・不明な点の解釈はお任せします。
●つまり?
黒竜教会でヴリトラを回収した一向は王都に蜻蛉返りしました。
シスター・ベアトリクスと何名かの修道女達も一緒です。
一向が到着した場所は巨大なドーム状の競技場でした。
その名もまんま王立国際競技場です。
戴冠式はこの施設で行われます。
●戴冠式とは?
王族が正式な王族として国民に認めて貰う為の儀式です。
古来からの慣わしとしてエルネイジェの国民は弱い王族を王族とは認めません。
なので力を示す必要があります。
力を示す方法は様々ですが、今回はキャバリアバトルで戴冠式を行います。
エルネイジェ王国でキャバリアバトルは国民的競技として親しまれています。
日本で言うなら野球やサッカーのポジションです。
本来の戴冠式は祭典の様なものでした。
しかしメサイアの場合は国民からの不信が強く、表面上の儀式では支持を得られないとソフィアは考えました。
なのでナイアルテさんと水之江に盛り上げて貰いつつ、本気の勝負を繰り広げる事で国民の支持を得ようとしています。
●それでどうするの?
ナイアルテさんは競技場内の実況席に、水之江とメルヴィナは解説席に通されました。
ソフィアはこれからの試合を盛り上げるようにナイアルテさんにお願いします。
ベアトリクス達にはメサイアの入場を盛り上げるようにお願いして隣接する特別観覧席に通しました。
一方のメサイアは控え室で侍女達にパイロットスーツに着替えさせられていました。
ソフィアは言いました。
「メサイア、よく聞きなさい。この戴冠式は最早単なる祭典では済まされません。貴女が国民からの信頼を勝ち取るには、私と全力で戦う必要があるのです」
「全力のソフィアお姉様に勝てる訳ございませんわ〜! 手加減してくださいまし〜!」
「なりません。闘争に於いて、我が国の市井の眼は欺けるものではないのです。この数年間の世直しの旅が逃亡生活で無かった事を民に証明してみせなさい」
そして戴冠式が始まります。
実況はナイアルテさん。
解説は水之江とメルヴィナでお送りします。
「皇女の中の皇女! 出てこいや!」
ソフィアのインドラが入場すると場内は歓声で溢れました。
メサイアのヴリトラが入場すると場内に猿叫が響きました。
ベアトリクス達が頑張ってくれていますが、その他の国民は静まり返っています。
戴冠式のルールは時間制限無しの一本勝負。
装備は両者共に武装無しの通常形態。
ライトニングバスターとジェノサイドバスターの使用は禁止です。
開始に向けてカウントダウンが始まりました。
「メサイア! 力を見せてごらんなさい!」
「キャバリア裂きの刑は嫌ですわ〜!」
インドラとヴリトラは互いに激しく威嚇し合っています。
カウントダウンの終了が開戦の合図となりました。
開戦からすぐにインドラとヴリトラは激しく衝突します。
ヴリトラが果敢に攻めますがインドラは手堅く攻撃をいなします。
ですがほんの一瞬の隙を突いてヴリトラが噛み付きました。
「ラースオブザパワー! わっしょい!」
そのまま持ち上げて地面に叩き付けます。
「見事! しかし! ラースオブザパワー返し!」
地に機体を着けた瞬間にソフィアは全く同じユーベルコードを使いました。
逆にヴリトラを地面に叩き付けてしまいます。
強烈な衝撃によってヴリトラは戦闘不能になってしまいました。
「ヴリちゃ〜ん! 起きてくださいまし〜!」
動けなくなったヴリトラをインドラが踏み締めて勝利の咆哮を上げます。
「わたくし負けてしまいましたわ〜! 無実の罪でお処刑ですわ〜! わたくし歴史に残る悲劇のお姫様ですわ〜!」
喚き散らすメサイアにソフィアが言います。
「メサイア……降りてきなさい」
「嫌ですわ〜! お処刑されてしまいますわ〜!」
「降りてきなさい!」
メサイアがヴリトラから這い出て来ると、場内はメサイアの健闘を讃える歓声に溢れていました。
「あら〜?」
ソフィアと良い勝負をしたメサイアを王族として認めてくれたようです。
「つまりわたくし無罪放免ですわ〜!」
こうして戴冠式は幕を下ろしました。
それから後程催された宴の席にて、メサイアはご馳走を食いまくっていました。
「うんめぇですわ〜!」
付き合ってくれたナイアルテさんと水之江も招かれていました。
「ふふふ……これでエルネイジェにぶっといパイプが出来たわ」
水之江はほくそ笑んでいます。
式場には周辺国の王族や貴族、財界の有力者など所謂VIPが来ています。
水之江が言いました。
「このお酒美味しいわねぇ。もう一杯頂ける?」
「お酒が欲しいんですの? わたくしにお任せですわ〜!」
酔っ払ったメサイアは口からストゼロを吐き出しました。
その姿はまるでマーライオンのようです。
するとなんという事でしょう、ストゼロによって式場は大洪水になってしまいました。
そしてメサイアは牢屋にぶち込まれました。
「わたくし何も悪いことしておりませんわ〜!」
おしまい。
だいたいこんなイメージでお願いします。
絶対こうでなきゃダメとかそんな事は全くありませんので、ノリと書きやすさ重視でお願いします。
ナイアルテさんの出演に問題がある場合はいい感じに誤魔化してください。
桐嶋・水之江
水之江
【メサイア戴冠式編】
リクエスト内容はメサイアと同文となります。
以下はネタに困った時の参考資料程度に扱ってください。
●水之江の心境は?
エルネイジェの王家とお近付きになれたので満足しています。
目的は既に達成できました。
「この程度のサービス残業なら御安いご用意よ」
●ナイアルテさんの実況について
ナイアルテさんのキャラに合わせていい感じにお願いします。
よくあるスポーツや競馬の中継のようなノリでよろしいかと思われます。
●水之江とメルヴィナの解説について
適当にいい感じでお願いします。
よくあるスポーツや競馬の中継のようなノリでよろしいかと思われます。
メルヴィナ・エルネイジェ
メルヴィナ
【メサイア戴冠式編】
リクエスト内容はメサイアと同文となります。
以下はネタに困った時の参考資料程度に扱ってください。
●メルヴィナの心境は?
疲れています。
「こんな大ごとにしてくれて散々なのだわ……」
●戴冠式だけど母ちゃんや父ちゃんは来てないの?
その辺はノータッチかいい感じにぼかして頂けると幸いです。
脳内設定上は父も母も兄も妹も弟もいるんですがこれ以上キャラ増やしちゃうと管理出来そうにないです。
ソフィア・エルネイジェ
ソフィア
【メサイア戴冠式編】
リクエスト内容はメサイアと同文となります。
以下はネタに困った時の参考資料程度に扱ってください。
●何人合わせ?
ソフィア
メルヴィナ
メサイア
水之江
以上の4人です。
●文字数配分について
同背後軍団の合わせなのでキャラ毎の文字数や扱いの公平性は気にしないでください。
●ソフィアの心境は?
メサイアの処遇は国民の総意で決まるので予断が許されない状況です。
なので緊張感を持っています。
ですがそれ以上に強くなったメサイアと手合わせしたがっています。
「かと言ってメサイアの行いは褒められたものではありません」
●インドラとヴリトラってどう戦うの?
一言で言うならプロレスです。
双方共に殴る・蹴る・引っ掻く・噛み付く・体当たり・尻尾で叩くなどの格闘戦主体です。
●ジェノサイドバスターとライトニングバスターはどうして使用禁止されたの?
フルパワーで発射すると会場が吹っ飛びかねないからです。
●八百長すればよくない?
キャバリアバトルに関してエルネイジェ人は目が肥えているのですぐにバレます。
また、つまらない試合をすると猛烈なバッシングに晒されます。
●なんでインドラとヴリトラが威嚇し合ってるの?
大昔から仲が悪いからです。
インドラにとってヴリトラは裁くべき邪竜です。
ヴリトラにとってインドラはお利口振ったいけすかない奴です。
二機が関わる御伽噺では大抵インドラがヴリトラを成敗して終わります。
ヴリトラの真の姿の胸の傷はインドラが付けました。
●王族たるは
クロムキャバリアにおける小国家の成り立ちというものは諸説存在する。
例えば、『サスナー第一帝国』は百年前の戦争の折に強大な帝国主義として知られていた。『エルネイジェ王国』に一時的に接触があったかどうかは失伝している。
何故なら既に滅んでいるからだ。
『憂国学徒兵』と呼ばれる9人の英雄たちに寄って滅ぼされ、続く『バンブーク第二帝国』も滅ぼし、今は『グリプ5』という小国家に形を変えている。
そのような背景には常に力が付き纏う。
滅ぼし、滅ぼされる。
それが小国家の成り立ちに少なからず影響を及ぼしているのならば、人々が国家に求めるものは自ずと力になるだろう。
国力であるプラントを求めて攻め込むことも、侵略に耐え守るためにも、いずれにせよキャバリアという力が必要となるのだ。
そして、人々は求めるだろう。
己達の上に戴く者たちは強くなくてはならない。
「キャバリア、即ち力。力即ちキャバリア。遥か昔より連綿と連なる戦いの記憶は人々の中から失われようとも、生まれ持った因子の螺旋に織り込まれたるは闘争を求める心」
ナイアルテ・ブーゾヴァ(神月円明・f25860)は巨大なドーム状の競技場にて手渡されたテキストをマイクを前にして読み上げていた。
彼女がいるのは競技場の一際高い場所。
それはまるで古来の|闘技場《コロッセオ》を思わせる光景であった。
円を描く観客席。埋め尽くす群衆という名の観客。
彼等は一様に地面を蹴っていた。それはまるで地鳴りのように競技場全体を飲み込んでいく。
正直に言おう。
ナイアルテはビビっていた。
めちゃくちゃビビっていた。『エルネイジェ王国』の国民性に、ではない。この闘技場でこれより執り行われる戴冠式という名のキャバリアバトルに、だ。
今宵、この場で戦う両者を彼女は知っている。
グリモアベースで自らが予知した事件を解決に導いてくれた猟兵。
それも二人は姉妹なのだという。
「故に、戦え。戦えと己が肉体が叫ぶ。さあ、おいでください。皇女の中の皇女! 出てこいや!」
後半はもう自棄であった。
もうどうにでもなーれ! と半ば彼女は諦めていた――。
●控室
「メサイア、よく聞きなさい」
ソフィア・エルネイジェ(聖竜皇女・f40112)の言葉にメサイア・エルネイジェ(放浪皇女・f34656)はキョトンとしていた。
黙って突っ立っていても、パイロットスーツに着替えさせられていくことに疑問を感じていな様子だった。
王族たる者、着替えは他者が行うものである。慣れたもんである。
しかし、メサイアはちょっとアホの子。なんで着替えさせられているのかを未だに理解できていなかった。
なんかシスター・ベアトリクスたちが忙しないなぁ位に思っていたのである。
そんなメサイアにソフィアは真剣なまなざしで告げる。
「この戴冠式は最早単なる祭典ではありません。貴方が国民からの信頼を勝ち取るには……」
「わたくしが採点されるなんてこと何一つありませんわ~! わたくしを評していいのか、天上天下においてわたくし……」
「いいからお聞きなさい」
ほっぺたをバッチンと挟み込まれてメサイアの顔はちょっと愉快なことになっていた。墨吐く蛸みたいだった。
しかし、墨吐くわけには行かない。彼女が出せるのはストゼロだけであったから。
「信頼を得るためには私と全力で戦う必要があるのです」
その言葉にメサイアは目を丸くする。
「そんなの無理ですわ~! 全力のソフィアお姉様に勝てる訳ございませんわ~!? 3歳のときも5歳のときも、9歳と11歳のときも!」
「姉妹喧嘩の話をしているわけではありません」
「むりむりむりですわ~! お姉様、手加減してくださいまし~! あ、そうですわ、ナイアルテ様もキャバリアお持ちでしたわ~! あの方ならボコせるのでは?」
「なりません」
にべにもなくバッサリである。
「闘争に於いて、我が国の市井の眼は欺けるものではないのです。良いですか、メサイア」
ソフィアの瞳がまっすぐにメサイアの瞳を見据える。
これまで彼女が国外にて何をしてきたのかをソフィアはかいつまんで聞いている。
あのグリモア猟兵から多くの事件において好意的な評判を聞き及んでいる。
間違いを犯したわけではなく、そして、何より『ヴリトラ』の力を世界のために使っていたのならば誇る所でもある。まあ、その多少、やりすぎじゃないかというところもあったが、そこは目を瞑ろう。
ともかく、ソフィアはメサイアが間違った行いをしてきたとは思っていない。
ただ、最初の原点というものがどうしようもなく間違っていただけであり、国民の理解を得られていないというところが、メサイアの問題点であったのだ。
故にソフィアは告げる。
「この数年間の世直しの旅が逃亡生活でなかったことを民に証明してみせなさい」
「どう考えてもソフィアお姉さまに勝てる見込みなんてないのですわ~! うえ~ん……ちらっ」
メサイアはソフィアを涙目でチラ見する。
上手いことソフィアの同情を引いて手心を得ようと思ったのだが。
「メサイア。貴女は私の末妹。不肖の、と付けぬこと、その意味を知りなさい。貴女のしてきたことは何一つ間違いではなく、何一つ無駄ではなく、何一つとしてやらなければよかったことなどないのだと」
その言葉にメサイアは覚悟を決めるしかなかった。
今は姉妹として扱われているとわかる。
けれど、この控室を出たのならば、其処から先は敵。倒さねばならぬ敵。
ソフィアは踵を返す。
最早語ることはないと言わんばかりの拒絶の背中であった。
「ソフィアお姉様……」
わかる。わかっている。彼女が己を憎いと思っているわけがないことを。いつだってそうだったのだ。厳しいことを言うのは自分のためなのだと。
わかっているけれど、それとこれとは別なのである。
姉なのだからもっとべったり甘やかしてくれたって良いじゃないですの! とメサイアはいっつもソフィアの背中を追いかけては、見事なモーションで尻叩きをされまくっていた。
いつだってそうだ。
ソフィアのメサイアへの尻叩きが行われる時、バタフライエフェクト的なあれで、こう世界が激震するようなことが起こるのである。そんなことある? あるのである。どっかの焼国家の湾内から巨神が出てきたりするのである。
「……いいですわ、お姉様。ならば勝って、証明……って、やっぱり嫌ですわ~! キャバリア裂きの刑だけは~!!」
「メサイア姫、往生際が悪いです。さあ、いきましょう!」
セコンドと言う名のベアトリクスたちに両脇を抑えられてメサイアは今、決戦の闘技場へと向かう――!
●熱狂たる坩堝
ナイアルテの宣言と共に闘技場の両端にスモークと投光器による演出が始まる。
「『エルネイジェ王国』に咲く二輪の花の登場です」
その言葉と共に重量感のある足音を立てて闘技場へと現れたのは白銀のキャバリア。聖竜と呼ぶのならば、まさしくこのキャバリアのことを指すのだろうと思わせるほどの圧倒的な存在感。
王国に伝わるお伽噺に於いて常に正義を成す竜。
その名は『インドラ』。
白銀の突撃槍と円形縦を携えた姿は闘士と言うよりは、壮麗なる騎士の如き威容。
アイセンサーが煌めき、槍を掲げた瞬間、闘技場からは凄まじい声援が響き渡る。『エルネイジェ王国』において王族とは強き者を示す。
弱き王族は王族ではない。
常に前線に立ち、後に続く民を率いて勝利を齎す。
それが王族なのである。
故に国民たちは熱狂的な感性を上げる。
「ソフィア皇女殿下ー!」
口々に声援が飛ぶ。それにソフィアはゆっくりと掲げた槍を構え応えるようだった。これより行われるのは常なる姉妹喧嘩ではない。
れっきとした祭典。
同時に己の末妹たるメサイアの処遇が決まる戦いでもある。
迷いはない。
逡巡もない。
あるのは、あのグリモア猟兵から伝え聞いたメサイアの戦いの軌跡である。驚くべき敵との戦い。それを経験したメサイアの力量というものがどれほどのものであるのか。
ふるえる。
恐怖でもなければ、メサイアに対する慄きですらない。
あるのは高揚であった。
「メサイア!」
その声に応えるように対なす闘技場の端から現われるのは黒銀のキャバリア。
暴竜と呼ばれた漆黒の装甲に凄まじき圧力を宿し、『ヴリトラ』が咆哮する。アイセンサーに宿るのは如実な怒りめいた感情であったことだろう。
『ヴリトラ』と『インドラ』。
それは『エルネイジェ王国』に伝わる機体において相反する存在。
犬猿の仲と言っていい。
機体から伝わるは、太古より続く因縁。
裁く者と裁かれる者。
その明確な立場が、二機の内なる感情を発露させるのだ。
国民たちはその姿に一声に静まり返る。
響くのは邪竜教会のシスターたちの猿叫だけである。はっきり言って場違いな気もするし、逆に彼女たちが叫んだことで他の国民たちは黙りこくってしまっていた。
はっきり言ってアウェーである。
「どう考えても自国の皇女の登場って感じじゃあないわよねぇ」
解説席に通されていた桐嶋・水之江(機巧の魔女・f15226)は頬杖ついたまま闘技場にて相対する二機を見下ろす。
「それはしかたないのだわ。メサイアは『ヴリトラ』を持ち出して世直しの旅に出たと思っているようだけれど、国民は国外逃亡したと思っているのだわ。それ以前にメサイアの皇女としての評価は最低。簡単なことではひっくり返らないのだわ……本当、こんな大事になる、という時点で散々なのだわ」
メルヴィナ・エルネイジェ(海竜皇女・f40259)もまた水之江と共に解説席に通されているが、心労からかどうにも顔色が悪いようだった。
それを見た水之江が王族って大変ねぇ、と他人事のように呟く。
とはいえ、メルヴィナは自らのことも大概だと思っている。
他国への政略的な結婚。
出戻りとなってしまったことは、外交という意味を考えれば失敗だろう。それを咎められても致し方なしと言う所を長姉であるソフィアに救われたのだ。
「今回のこともどうにかしようってことなんでしょ? それこそ八百長し放題じゃない」
「いいえ、それは無理なのだわ。我が国民はキャバリアバトルにおいては目が肥えすぎているのだわ。他国の闘技場がどのようなものであるかはわからないけれど、機体性能だけにかまけた勝利では納得しないのだわ。性能、技量。そのいずれも兼ね備えた勝利でなければ、例え、形ばかりの勝利を得たとしても……」
きっと国民はメサイアのことを認めないだろう。
今、闘技場を包み込むメサイアへの声援がないことが如実に語っている。
認めない。
ただ、その一言に尽きる国民達の態度。もっとも、メサイアが戴冠式まで世直しの旅を待つことができたのならば、このような事態にはならなかっただろう。
「全てはメサイアの堪え性のなさが原因なのだわ。おとなになったというのならば、示して見せるのだわ、メサイア」
メルヴィナは解説席から闘技場にて『インドラ』と相対する『ヴリトラ』に乗るメサイアを見つめる。
其処に在ったのは王族としてではなく、姉として妹を案じるものであった。
が、しかし肝心の本人と言えば。
「キャバリア裂きの刑はいやですわ。キャバリア裂きの刑はいやですわ。キャバリア裂きの系はいやですわ」
めちゃくちゃブルっていた。
いや、正確にはソフィアに勝てぬ場合の悪い未来を想像していた。
キャバリア裂きの刑。
それは『エルネイジェ王国』の伝統的な処刑法である。はんぶんこですわ。いや、よんぶんこですわ。
「両者並び立ち、互いの顔を見よ」
ナイアルテはもう自棄になっていたのでノリノリである。
「時を惜しむことなかれ。されど、刹那にて決するもまた認めよ。これは互いを壊す戦いではなく。これは互いの力量を認め合う戦い。両者!」
闘技場の観客たちは今回の実況者、なんか最初は乗り気じゃなかったのに、急にやる気出してきたな、とか思っていた。
「エルネイジェ王国戴冠式は血統において、その正統性を示すもの。これより我らが一人ひとりがその証人たるを心に刻め」
その言葉と共にカウントダウンが開始される。
減っていく数字。
最早、退くことはできない。覆すことはできない。
時が逆巻くことがないように、カウントダウンは戻らない――。
●0
瞬間、白銀と黒銀のキャバリアが闘技場の中央で激突する。
ただそれだけであるというのに、激突の音と共に観客席にいた人々は己の身を撃つ衝撃波に身をすくませ……ることはなかった。
彼等は『エルネイジェ王国』の民である。
キャバリアバトルは彼等の中では娯楽以上のものなのである。互いの矜持が違えるというのならば、雌雄を決することのみよって決着を見せるものなのである。
故に、この身を撃つ衝撃などに耐えられぬものは『エルネイジェ王国』の民などではないのだ。
「強くなりました……確かに貴女は他世界のオブリビオン……多くの場合悪しき者たちを、脅威なる者たちを打倒してきたのでしょう」
組み合う『ヴリトラ』と『インドラ』。
互いの出力は拮抗しているように思えた。
「かと言って、メサイア。貴方の行いは褒められたものではありません」
一瞬で『インドラ』と『ヴリトラ』の立ち位置が切り替わるようにして機体が振り回され『ヴリトラ』の躯体が宙を飛ぶ。
身を捻るようにして『ヴリトラ』が大地を踏みしめる間もなく駆け出し再び『インドラ』へと組み付かんと突っ込む。
「キャバリア裂きの刑は嫌ですわ~!!」
「だからどうして貴女はそんなに人の話を最後まで聞かないのです!」
メサイアは兎にも角にもキャバリア裂きの刑が嫌だった。
どうにかして回避したいと思った。
だが、回避しようとしても立ちふさがるのは長姉ソフィア。これまで一度たりとて勝つことのできなかった相手を前に、絶対に勝たねばならないという絶望的な状況。
確かに猟兵としての技量はメサイアの方が上であろう。
「この程度ですか、メサイア!」
『インドラ』が『ヴリトラ』の腕部をつかみ上げ捻るようにして黒銀の機体を大地に叩き伏せる。
「見せなさい。メサイア。貴女が私の妹であるというのならば!」
「あ~これはちょっと厳しいかもね。単純な武装の違いなく、ただ機体性能とパイロットの技量の差っていうのなら」
組み伏せる『インドラ』の挙動に水之江は感嘆たる声を上げる。
ソフィアの『インドラ』の操縦は無駄がない。洗練されていると言っても良い。巨竜型の躯体を操る術に長けている。
あれは才能というものではない。いや、才能は確かにあるのだろう。けれど、才能は磨かねば原石のままである。
その点、ソフィアは違う。
才能を持ち、天才と呼ばれ、なお、研鑽を怠らぬ者。
それが王族であるという立場を得たのならば。
「そうなのだわ。あれがソフィアお姉様。狂気めいた戦いへの執着を持ちながら理性でもって乗りこなすのだわ」
メルヴィナは組み伏せられた『ヴリトラ』を見ていた。
そう、確かにソフィアは天才と呼ばれるたぐいの者なのだろう。才能も、努力も、理性も狂気も何もかも飲み込んだ存在。
けれど、とメルヴィナは思うのだ。
「天性の、というのならメサイア、貴女だって負けてはいないのだわ」
組み伏せられた『ヴリトラ』の首が伸びるようにして『インドラ』の腕部へと噛みつく。強靭なる装甲は顎では噛み砕くことはできない。
けれど、組み付くことができた。
『インドラ』は力量差から『ヴリトラ』をいなしていたのではない。組み付かれれば、どうなるかを理解していたからこそ、まともに組み付くことを許さなかったのだ。
そう、メサイアの操る『ヴリトラ』の本領は組み付いてからであった。
アイセンサーがユーベルコードに輝く。
「ラースオブザパワー! ソフィアお姉様、今こそげこく……げこ……げこげこの乱なのですわ~!」
『ヴリトラ』の巨体が『インドラ』の腕部を噛み加えながら持ち上げる。
凄まじき力だった。
観客たちにどよめきが走る。組み伏せられた体勢から持ち上げた姿は、あまりにも鮮烈に彼等の心に刻み込まれる光景であった。
同時に悲鳴があがる。
そうだ。いつもお伽噺では聖竜が邪竜を屈服させるのだ。これでは、勧善懲悪にはならない。
「見事……しかし!」
『インドラ』の機体が持ち上げられながら巨体をねじり、その尾を大地へと叩きつけ、それを視点にして『ヴリトラ』の巨体を振り回し逆に地面に叩きつけるのだ。
なんたる力。
いや、技量と呼ぶべきか。柔よく剛を制すと言うが、圧倒的な力の前では、生半可な理合たる力は意味をなさない。
『ヴリトラ』の力は、まさにそうした力であった。
だというのに『インドラ』を手繰るソフィアは、それすらもいなすようにしてカウンターを決めてみせたのだ。
「ラースオブザパワー返し! メサイア。これでは足りない。何一つ足りないのです。貴女が得てきたもの。これだけだと言うのならば!」
待つのは極刑。
ソフィアの心に去来するのは、如何なる感情であっただろうか。
「ヴリちゃ~ん! 起きてくださいまし~!」
メサイアはコクピットの中でコンソールを叩く。
これで終われば極刑であることは言うまでもない。恐ろしい。恐怖と不安が襲いかかってくる。
こみ上げるものがある。
コクピットの中は衝撃で暗転している。
何もみえない。何も聞こえない。
「負けて良いはずがないのですわ~! このまま! 何一つソフィアお姉様に!」
返せずして死ねるわけがない。
恐怖は裏返る。生きたいという渇望。生きて、生きて必ず、という思いを受け『ヴリトラ』のアイセンサーが煌めく。
「ヴリちゃん!」
メサイアに秘めたる暴力性。
それによって『ヴリトラ』が再び立ち上がる。
その様を国民たちは見ただろう。
打倒されても立ち上がる。致命打を受けてなお、それでも立ち上がる。『エルネイジェ王国』最強のキャバリア乗りの一撃を受けてなお、それでも立ち上がる者がいるという事実。
「……いいでしょう」
ソフィアは再び立ち上がった『ヴリトラ』を『インドラ』のスマッシャーテイルの横薙ぎの一撃が打ち据え、吹き飛ばす。
最早、『ヴリトラ』は死に体であった。
けれど、それでも立ち上がったのだ。これは勝者と敗者とを決める戦いである。
ならば、立ち上がる以上打倒さなければならない。
最早『ヴリトラ』が立ち上がることはなかった。
その機体を踏みしめ『インドラ』が咆哮する。それは勝利の咆哮であり、お伽噺の再現そのものであったころだろう。
歓声が鳴り響く中、メルヴィナは息を呑む。
水之江はさて、どうしたものかと思考を巡らせていた。
「決着ッ! 両者それまで!」
ナイアルテの実況に、さらに沸き立つ歓声。
その歓声を聞きながらメサイアはコクピットに閉じこもって泣きわめいていた。
負けた。
負けてしまった。
キャバリア裂きの刑を巡る戦い。回避するための戦い。此処一番の火事場の馬鹿力的なものであれば、もしかしたらソフィアに勝てるかも知れないと思っていたのだ。
だが、それさえもソフィアは覆してきたのだ。
完敗だった。
けれど、それ以上にメサイアはおんおんと泣きわめいていた。
「わたくし負けてしまいましたわ~! 無実の罪でお処刑ですわ~! わたくし歴史に残る悲劇のお姫様ですわ~!」
めちゃくちゃ泣き喚いていた。
敗者の美徳的なところは何一つなかった。走馬灯のように記憶が流れていく。チェストしたり、誤チェストしたり、『ヴリトラ』蹴っ飛ばしたり、『ヴリトラ』と共に不届き者をぶっ飛ばしたり。
……あれ、なんかそんなに悪い子としてないと思っていたが、結構やらかしてませんわたくし、とかそんなことをメサイアは思ったが、やっぱり悪いことまったくしてないと結論づけた。
色々ぶっ壊したりしたけど、それは致し方ないことである。
何もかも『ヴリトラ』の力が強すぎるのである。でも、強い力じゃないと敵はチェストできないので、齢よりは良いのでは? とかなんとか。
「メサイア……降りてきなさい」
ソフィアの静かな声が聞こえる。けれど、メサイアは滂沱の涙を流しながら首をふる。どう考えてもキャバリア裂きの刑である。まっぷたつである。よんぶんこである。
「嫌ですわ~! お処刑はいやですわ~!」
「降りてきなさい!」
めちゃくちゃ本気のトーンのソフィアの言葉にメサイアはしぶしぶと『ヴリトラ』のコクピットから這い出す。
これからめちゃくちゃに罵倒されて、石投げられまくって、それはもうひどい目にあって体を真っ二つに引き裂かれてしまうのである。
ああ、なんていたわしい。
もうお風呂上がりにストゼロをぐびってやる心地よさとか、二度寝の心地よさとか、そうしたものを二度と味わえないのである。
涙、涙である。
「見なさい、メサイア。これを」
メサイアの手を取るソフィア。
そこに広がるのは罵声ではなく歓声。
全てがメサイアの健闘を讃えるものであった。一撃に伏すことなく立ち上がり、その意地を、その力を示したメサイアに国民は皆心に滾るものを感じたのだろう。
「もしかしてこれは~……?」
「貴女を王族として民が認めたのです。誇りなさい、メサイア。貴女の辿ってきた道の全てが無駄ではなかったと」
ソフィアに支えられてメサイアは万雷の喝采に迎えられる。
つまり? と首を傾げると実況席から駆け寄ってきたメルヴィナが抱きつく。
「無罪放免ということなのだわ、メサイア。本当によかったのだわ」
此処にメサイアは晴れて王族として認められ、これまでの国外逃亡は世直しのために飛び出した蛮勇ではなく武勇として民に知らしめられる。
こうしてメサイアの戴冠式は幕を下ろしたのだった――。
●祝宴
「うんめぇですわ~!」
メサイアはご機嫌であった。ご機嫌オブご機嫌。
それはもう大盤振る舞いの祝宴の料理をあちこちからごちそうに手を付けては、ひゅごって音を立てながら胃袋に納めていくのである。
そんなメアサイアを見てナイアルテは困惑しきりである。
あんなに食べてどうしてメサイアはスタイルが変わらないのだろうかと彼女は訝しんだ。もしかしてユーベルコード的なあれなのかと思ったし、何なら後でユーベルコード教えてもらえないかなと思った。
そんな祝宴の中で水之江は一人ほくそ笑んでいた。
『インドラ』と『ヴリトラ』の決闘。
それによって破損した機体の修復やメンテナンス。その他諸々の作業を水之江は手伝い、王国に太いパイプを繋いだのだ。
今も祝宴という名の名刺交換会に勤しんでいる。
「ふふふ……これでエルネイジェ王国にぶっといパイプが出来たわ」
もう笑いが止まらない。
この戦闘民族な王国であれば、キャバリアなど消耗品。となれば、自分の開発したあれそれの需要があろうというものである。
とはいえ、あまりにも露骨にやってはソフィアに目をつけられるので大人しくしておかなければならない。
「あら、このお酒美味しいわねぇ」
冷やした味わいはキリっとしていてアルコールの強さを一瞬忘れさせるのだ。
心地よい感覚に水之江はすっかり気に入ったようだ。
「もう一杯頂ける?」
「お酒が欲しいんですの、博士? なら、わたくしにお任せですわ~!」
メサイアはもうすっかり出来上がっていた。
ナイアルテやメルヴィナが止める間もなかった。
彼女の瞳がユーベルコードに輝く。平素であれば、まあ、常識の範囲のお酒を口からドバるメサイアである。
しかし、今回は違う。
冤罪を拭って、それはもうキレイな体となったのだ。
大手降って祖国を歩けるとなれば、それはもう気が緩みに緩みまくっているのである。それはべろんべろんに泥酔していると言う方が正しい。
「ではでは、無限ストロングチューハイ(リアルブレイカー)ですわ~!」
其処からの記憶がない。
いや、正確にはメサイアには、である。
次に彼女が目を覚ました時、そこは牢屋であった。
「――……ハッ!? な、何――ッ!? え、どういうことですのこれ!? また牢屋!?わたくし無罪放免されたはずでは!?」
鉄格子を挟んで揺らめく怒気があった。
「げぇっ、ソフィアお姉様――!?」
「……メサイア。またやりましたわね……」
「え、わたくしまたなにかやっちゃいましたか?」
そう、メサイアは祝宴の席で無限に口からストゼロをドパるという蛮行を行ったのだ。それはもう大洪水。
主産業であるおハーブ畑を浸酔(これが本当のしんすいつってね!)してしまったのである。それはもう大打撃である。
つまり。
「わたくし何も悪いことしておりませんわ~!」
元の木阿弥ならぬ、元のメサイアである――。
成功
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