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何でも言うこと聞くって言った結果~帝と飛鳥の場合

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知花・飛鳥



一ノ瀬・帝




「わぎゃあああああ!? 何か出た何か出た何か出たーーー!!」
「おぉ……シンプルながら、人間の本能的な恐怖心と嫌悪感を煽るビジュアル。なかなかクオリティ高いな」
「褒めとる場合か! 俺が死んでまう! アーッこっち来んな来んなーーー!!」
 高性能な最新ゲーム機のコントローラーを振り回しながら、半狂乱でホラーゲームをプレイするのは知花・飛鳥(コミュ強関西弁男子・f40233)。そしてそんなプレイ風景――というよりは飛鳥の様子をまじまじと観察するのは一ノ瀬・帝(素直クール眼鏡男子・f40234)。
 そもそもどうして、こんな状況になったかと言うと――。

「なあなあミカ、そろそろ中間テストやんか」
「そうだな」
 飛鳥からそう切り出された時、帝は内心『来たな』と思ったのはここだけの話。
「またやろうや、点数勝負!」
「負けた方が勝った方の言うことを何でも聞く……だったか?」
「せや、今度っちゅう今度は負けへんで!」
 もう、このやり取りも何度目だろうか――などと帝は思う。この勝負を挑まれる度に帝が勝利を収め、飛鳥に幾多の言うことを聞かせてきたはずなのに、懲りないものだとも。
 そして、此度の中間テストの結果が出た。普通に帝が勝負に勝った。
「おっかしいやろ! 現国の点数なら俺の方が3点上やんけ!」
「それ以外は? 勝負は全科目の総合で決めるという取り決めだったはずだが」
「ぐぬっ……」
 子供の論法で食い下がってくる飛鳥を一言で打ちのめしてから、帝はふと思う。
『何でも言うことを聞かせる権利』はもう幾度となく行使してきたものだから、正直に言えばネタ切れが否めない。いや、まだまだいくらでもなくはないのだが――それはそれとして。

「よっしゃ、俺も男や。言うたからには何でも言うこと聞いたる!」

(「何でも言うことを聞くと言ったな」)
 眼鏡越しの黒い瞳が、悪だくみの光を帯びる。
(「ならば、今回は『コレ』で行かせてもらうぞ、飛鳥」)
 数日悩みに悩み抜いた末、帝はとあるゲームソフトを街の家電量販店でゲットした。
 見るからにおっかないゲーム内容を示唆するパッケージがたまらない。これはかつて大ヒットしたホラーゲームのリメイク版だそうなのだが、流石話題作、ホラー好きの帝の心をがっつり掴んでいた。
 だが、これを帝がプレイする訳ではない。そう、真の目的は『何でも言うこと聞かせる』権の行使にあったのだ――!

 ある日の放課後、帝は飛鳥にこう切り出した。
「飛鳥、例の約束の件だが」
「!? あ、ああ、もちろん覚えとるで!?」
 中間テストの結果発表の日から多少日時が過ぎていたので、これはワンチャン忘れているかと内心期待していた飛鳥だったが、そうは問屋が卸さない。
 むしろ、帝は飛鳥に何をしてもらおうかを練りに練って考えていたのだから。
 何でも来いとばかりに、飛鳥は帝の顔を覗き込んだ。
「……!」
 その仕草に、一瞬帝が動揺したのに、飛鳥は気付いただろうか。
 気付かれていないことを祈りながら、帝はクールな表情でこう告げた。

「ホラーゲームの実況プレイをして欲しい」
「……なんて?」
「ホラーゲームの実況プレイをして欲しい」
 大事なことなので二回言った。どんなに断られても譲らない心意気であった。
 だが飛鳥は、いくら何でもするとはいっても限度はあると大いに抵抗した。
「いやいやいや、何でよりにもよって!? 俺がホラー無理なの知っとるやろ! 絶対嫌なんやけど!」
「そこを何とか……何でも言うことを聞くと言ったのは飛鳥の方だろう?」
「むぐっ……で、でもそれだけは絶対にイーヤーでーすー! なしてそんな自分から寿命縮めるようなことせなあかんねん!」
 ホラーゲームを? プレイしながらミカの前で実況する? それはもう罰ゲームの域を超えていると思う。どう超えているかの具体的な説明は難しいが、とにかく無理だ。
 その一心で帝の提案を拒否していた飛鳥は、フッと寂しそうな表情を見せた帝を見た。
「……そうか」
 飛鳥から顔を背け、今にもどこかに消えてしまいそうな振る舞いで、帝が言う。

「飛鳥が『負けた方が勝った方の言うことを何でも聞く』という条件で勝負を挑んできて、俺は納得の上で勝負を受けて勝った訳だが、駄目か」
(「うっ……!!」)

 後生だからそないな顔せえへんでくれ、と喉元まで出かかる飛鳥。
「せっかく考えたのに非常に残念だが、飛鳥がそこまで嫌がるなら仕方ない」
「あ……」
「せっかく用意したゲームも無駄になってしまうが、仕方な……」
「だあああああっ!!! やればええんやろ!!! 男見せたるわ!!!」
 桜色の髪をわしゃわしゃと掻きむしって、飛鳥が遂に折れた。わざわざゲームを用意してまで楽しみにしてくれているというのに、無碍にするのもいたたまれなかった。
(「お前のそういう所、好きだぞ」)
 そんなことを考えている風にはとても見えない顔で、帝は眼鏡の位置を直すのであった。

 ――そうして、冒頭の大騒ぎに至るという訳である。
 ホラーゲームに限らず、ゲームの実況というのは動画サイトでも人気のジャンルで、リアクションの大きさや面白さで他人が見ているだけでも楽しめるという痛快さを持っている。
 次の休日、帝が厳選したホラーゲームを持参し飛鳥の家へお邪魔し、最近ようやく比較的入手が容易となった最新型ゲーム機の(無駄に)美麗なグラフィックで、遂に飛鳥がホラーゲームを実況する時がやってきた。
 チュートリアルで操作の練習をしている時はまだ「何やこれなら行けるやん」と胸を撫で下ろしていた飛鳥だったが、いざ本編が始まってみるとおどろおどろしいゲーム内の舞台に、突然飛び出してくる敵に、ままならない操作に絶叫に次ぐ絶叫を繰り出し、その反応そのものに帝が内心満たされるという有様であった。
「無理や! ここどうしてもクリアできひん!!」
「諦めるな飛鳥、落ち着いて相手の動きを見れば必ず倒せる」
 リメイク前の原作でも攻略サイトでも『屈指の難所』と呼ばれる場所では泣き言がマックスに達した飛鳥がギブアップしようとしたが、帝はそれを許さず励ますばかり。
「おハーブですわ~~~! 体力回復ですわ~~~!」
 プレイを進めていくにつれて、徐々にテンションがおかしくなっていく飛鳥。ホラゲープレイ実況の醍醐味ですわね! これには帝も密かに上機嫌である。
 そして、遂にゲームクリアの瞬間を迎え――。

「終わっ……た……」
 スタッフロールをろくに見もせず、コントローラーを放り投げ、飛鳥は大の字になって床に倒れた。
「良く成し遂げたな、飛鳥。見ていてとても痛快だったぞ」
 ホラーが大の苦手という人間にホラゲーをプレイさせてその様子を観察することでしか得られない栄養素というものがこの世には確かに存在すると言わんばかりであった。

 幸いご近所さんからの騒音クレームもなく一日を過ごし、飛鳥も諸々のダメージから立ち直った頃。
 飛鳥のお母さんから差し入れてもらった冷たいコーラを二人で飲みながら、夕暮れ迫る窓の外を見ながら、飛鳥は呟いた。
「いやー……死ぬかと思たわ」
「その割には、最後の方はノリノリに見えたが」
 むしろ「死ねぇ!」とか言いながら戦っていた気がする。
「まあまあ、それはそれで、な」
 飛鳥は花のような笑顔で、涼しげな顔の帝を見て、こんな提案をしてきた。
「なあなあミカ、次のテストでも、勝負しよか」
 今回の件ですっかり懲りたかと思えば、これである。
 帝は一瞬驚いて目をまあるくして――飛鳥にしか見せないような笑顔で、答えた。

「いいぞ」

 飛鳥がどう考えているのかは、正直分からない。何も考えていないのかも知れない。
 だが、帝にとってこの勝負の申し込みをされ続けるのは、正直に言えば――嬉しい。
 何故『嬉しい』か、知られてしまったら、今の心地良い関係が壊れてしまいそうで、決して口には出せないけれど。
(「――いつまで、耐えられるだろうか」)
 今日の飛鳥のホラゲー実況プレイを生で見てしまって、ますます想いが深まったのに。

 危うい天秤の揺れは、青少年の中で今日も続いていく。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2023年06月19日


挿絵イラスト