透いた青が、世界を満たす。
空には朝露を薄く梳いたような澄んだ白藍が、海には水底に夏染む葉の眠る紺碧が、ただその触れ合う境界線だけを描いて、どこまでも広がっている。
足許には、陽を浴びて淡く色づく白い砂浜。
その波打ち際には、まるでこの空を映したかのような優しい青の水面が燦めき、触れる肌にそっと涼を届けてくれる。
浜辺を遊び場にするちいさな生き物や、浅瀬の先へと行けば見え始める、色とりどりの愛らしい魚たち。
そして真白な雲の群れが、その万彩の景色を、鮮やかな夏景色を、柔く包む。
――ブルーアルカディアの青が、此処にある。
✧ ✧ ✧
「そんな綺麗な場所があるって聞いたの」
みんなも行かない? と尋ねたマリー・アシュレイ(血塗れのマリア・f40314)は、感情のあまり見えない|顔《かんばせ》ながら、どこか期待感を帯びた眼差しを向ける。
行き先は、島の半分を海が占める、ブルーアルカディアのとある浮島。
ほかの浮島のような大規模なレジャー施設はないが、そのぶん豊かな自然と彩りを満喫できる夏の島だ。
「昼間から夕方までは、海遊びができるわ。海は深いところでも10mくらい。ダイビングも十分楽しめると思う。浅瀬にも熱帯魚はいるから、シュノーケリングも良いかも」
必要な器具は現地で貸してもらえるし、勿論素潜りしても構わない。浅瀬ならそのまま顔を水につけただけでも海中を愉しめるだろう。
浜辺を遊ぶ小蟹などの海辺の生き物を眺めたり、美しい色合いの貝殻や、ちいさな星型の砂を集めてのんびり過ごすのも良さそうだ。
夕暮れには、波の音を聞きながら唯遠くを眺める――そんなひとときもきっと、胸に残るはず。
「夜になったら、海辺でナイトマーケットが開かれるわ。色んな場所から飛空艇で運ばれてきた、珍しい品が揃ってるんですって」
浜辺や、海へと突き出た道幅の広い桟橋に並ぶ、|燈籠《カンテラ》の灯りと出店の群れを覗き見れば、神秘的な天蓋の裡で柔らかな光に包まれ燦めく、様々な宝物と出逢えるはず。
東の浮島で取れた、色彩豊かな宝石とアクセサリー。
西の浮島で作られた、美しいレースや織物。
北の浮島からは、職人の繊細な手仕事による寄木細工と時計。
そして南の――現地の浮島からは、耳許を愉しませる数多の楽器。
「例えばオルゴールとかは、手巻きのもあるけど、中には天使核を使った機械的な品もあるらしいわ。あなたの探しものも、見つかるんじゃないかしら」
月が淡く灯る星空と、静かな波音。
夏の熱を仄かに残すさらりとした夜風に乗って、夜の海辺に穏やかな音色が響く。
さあ、行こう。
一夏の想い出を作りに――空の海へ。
西宮チヒロ
こんにちは、西宮です。
今年もブルーアルカディアの夏へのお誘いにまいりました。
🐳全体補足
・2章完結のシナリオとなります。
・各章のみの参加、途中参加も歓迎です。
・各章のPOW/SPD/WIZの選択肢は一例です。OPに添った内容であればご自由にお過ごしください。
・OPにない情報はご自由にプレイングに盛り込んでください。極力採用します。
・公序良俗に反する行為、未成年の飲酒喫煙、その他問題行為は描写しません。
・色々できるので複数の遊びを取り入れても構いませんが、それぞれの描写が薄くなりますので、どれか1つに絞ってプレイングをかけていただくことをお勧めいたします。
🐠各章補足
<1章>日中~夕方
・ビーチパラソルや椰子の木など、木陰もご用意あります。
・海の家などの飲食店はありませんが、飲食持ち込み自由です。
・マリンスポーツも現地に一式揃っているものとします。
(機械的なものは天使核や小型飛空艇などで代用)
<2章>日没後
・街中ではなく海辺での夜市です。
・飲食系の出店はありませんが、飲食持ち込み自由です。
・出店から離れればあちこちに静かな場所はあります。
🐳同伴人数
いずれも冒頭に【IDとお名前】か【グループ名】をご明記下さい。
・オーバーロード使用なし:ご自身含め2名迄
・オーバーロード使用あり:人数上限なし
※同伴者全員オーバーロード適用必須
🐠採用人数
オーバーロード使用なしの方は20名様まで採用。
それ以上は余力次第。流れる可能性もありますのでご了承下さい。
オーバーロードは、プレイングに問題がない限り全て採用します。
🐳プレイング受付期間
タグにてご連絡いたします。
オーバーロードは送信可能であればいつお送りいただいても構いません。
🐠当方グリモア猟兵
お声かけいただき、プレイングに問題がなければご一緒します。
皆様のご参加をお待ちしております。
第1章 日常
『天空の海水浴場!』
|
POW : 体力の限り思いっ切り泳ぐ!
SPD : 小型飛空艇で海面ギリギリをカッ飛ばす!
WIZ : 砂浜でのんびり眺めを楽しむ!
|
種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
ティティアルナ・トゥーティアーズ
お空に浮かぶ島にも海があるの?…不思議。
星のように丸い訳ではないもの。
きっと海にも果てはある…けど、辿り付くのは大変ね。
島の端はどうなってるのかな…
海が落ちて滝のようになっているのかな…
水は尽きないのかな…お魚は大丈夫かな…
好奇心は尽きないけれど、今は、目の前の夏を楽しむことにするの。
森に海はないから、其処にあるものすべてが珍しい。
本で見るより海は青くて広い、日に照った浜辺の砂は裸足だと少し熱い。
浜辺の風は少し肌にベタベタする。
わたし、いいこと閃いたの。貝殻を集めて家族のお土産にする。
スマホで波の音をとって、この景色を収めて。
世界は本で見るだけより、本当にとても広くて眩しくて、綺麗なのね。
その薄青の双眸に見渡す限りの青を映したと同時、頬に海風が触れ、柔らかな金糸を掠った。
鼻腔をくすぐるのは、ほんのりと塩気を孕んだ優しい香り。それが潮風なのだと悟ると、ティティアルナ・トゥーティアーズ(森の|賢者《引きこもり》・f40993)は胸一杯に吸い込んだ。
「これが海なのね……」
ずっと森で暮らしていた娘のよく知る青は、木々に陰る葉の緑がかった濃い青。小川さえも森の|彩《いろ》を映していたから、これほどまでに溢れる青を見るのは初めてだ。
「……星のように丸い訳ではないのに、ここにも海があるなんて……不思議」
浮島というならば、きっと海の果てもあるのだろう。辿り着くのは大変そうだが、どうなっているのかはとても興味がある。
島の端は? 海が滝のように下界に落ちていっているのだろうか。もしそうなら、海水は尽きないのだろうか。魚もまた、落ちていってしまったりするのだろうか。
つい俯いて考え込んでしまったティティアルナの頬を、また潮風がくすぐった。誘われるように、再び顔を上げる。
「そうよね、今は目の前の夏を愉しむことにするの」
夏の陽に手を翳し、ふわり瞳を細めて、砂浜へと歩き出す。
ざくざくと音を立てながら波打ち際へと進んでみるけれど、砂の地面は足を取られ易くて、踏み込んだときにちょっと足が沈んで、歩きづらい。
ふと思いついてサンダルを脱ぎ、素足で砂に触れてみたら、陽に火照った砂はすこし熱くて思わず跳ねてしまった。
――そんなささやかなことすら、ティティアルナにとっては初めてのこと。だからこそ、自然と口許も緩んでしまう。
「海のことは本にも書いてあったけれど……こんなにも広くて青いのね」
書物で見た挿絵とはまるで違う。それもそうだ。この広大さは本の紙面には到底収まらないし、この複雑で美しい青はどんな巧みな言葉でも表しきれないだろう。
絶えず肌に触れて涼を届けてくれる風が、ほんのすこし湿度を帯びていることさえ、体感しなければどんなものか識ることもできなかった。
ようやく汀に辿り着くと、すぐに寄せてきた波が足許を濡らした。返してゆく波の向こう、また次の波が飛沫を上げて燦めいている。
ひんやりと気持ちいい足許と、耳に届く穏やかな波音。ここにあるすべてのものが、ティティアルナの胸を躍らせる。
「そうだ、いいこと閃いたの」
言って、娘は砂浜に眠るピンク色の貝殻をそっと拾い上げた。
それは、今日訪れなければ識ることのなかった、この海だけの彩りのひとつ。
それだけではない。心を落ち着かせてくれる潮騒と、どこまでも続く空と海の鮮やかな青もスマートフォンに収めよう。そうして集めたブルーアルカディアの海の欠片を、ここに来られなかった家族への土産にするのだ。
「……世界は本で見るだけより、本当にとても広くて眩しくて、綺麗なのね」
心に浮かんだ想いのまま唇に乗せると、そっと背を押す海風に身を任せるように、娘は足取り軽く、波打ち際を歩き始めた。
大成功
🔵🔵🔵
夜鳥・藍
WIZ
水着23
のんびり浜辺を散策しましょう。
日差しは私にとってやや強めですけどカーディガンもあるから動くのが大変なほどでもなく。
どちらかと言うと吹き抜ける風が心地よいぐらいね。
でも海ごと空に浮いてるなんて。
スペースシップワールドでも思ったけれど宇宙を航海する事とか空に浮かぶ島とか。猟兵にならなければ常識外の事ばかり。二年以上たつのに未だ不可思議な事ばかりで。
景色を眺めながら時折見つけた綺麗な貝殻や星砂を拾い集めて、持参した小瓶に詰めてみようかしら。
小さいながらも星の海で貝殻は惑星なのかそれとも浮島かしら?
海は地上にあるもの――その固定概念を、世界は簡単に覆してくれる。
ぶらり浜辺を訪れた夜鳥・藍(宙の瞳・f32891)に、特にこれといった目的はなかった。
だが、それがいい。強いて言えば、今日はのんびりとこの島を散策するのがお目当てだ。さくりとサンダル越しに砂の熱を感じながら、砂浜を渡って波の袂へと歩いてゆく。
眩しいほどの夏の陽射しは、藍にとってはすこし強いと感じるけれど、お気に入りの水着――特にボタニカル柄のレースカーディガンが、それを優しく遮ってくれるから、波打ち際を歩く足取りも自然と軽い。
「……良い風……」
海から涼と潮の香りを運んできた風に、口許も柔く緩む。すう、と吸い込んだ海の大気が、身体全体に染みていく。
(でも……海ごと空に浮いてるなんて)
空に浮かぶ島に、宇宙への航海まで。スペースシップワールドを訪れたときも感じたが、猟兵になっていなければ常識外のことばかり。それも、かれこれ2年も経つのに、まだ未知の体験があるというのだから不思議でならない。
この世界、いやすべての世界には、あとどれだけの未知が詰まっているのだろう。
地平線と、それに寄り添うように|海に《・・》浮かぶ真白な雲を眺めていた視線を近くへ落とせば、乳白色の砂の中に見つけた、星砂とオーロラ色の貝殻たち。
「小さいながらも星の海で貝殻は、惑星なのか……それとも浮島かしら?」
まずは手始めに浮かぶ、ひとつの疑問。
この綺麗な海の欠片たちを集めて小瓶に詰めてゆけば、その答えも見つかるだろうか。
大成功
🔵🔵🔵
月水・輝命
【輝花】水着23
澪さんとは初対面ですが、水着コンテストに参加されていたのを見て、つい、一緒に遊びませんか、と声をかけましたの。
だいびんぐ?楽しそうですわね♪
ピンと来なかったのですが、あの、潜るのですか!?
迂闊でしたわ。わたくし、五鈴鏡という鏡のヤドリガミで海水は苦手……一応、ペンダントで水を操作出来ますが……
手伝って頂けるのですか? ありがとうございますのよ!
水属性攻撃を応用したオーラ防御で基礎の膜を張り、手伝って頂きながら潜る準備を。
人魚姿の澪さん、とっても綺麗ですの♪
そうっと潜っていきます。有難く、澪さんの手を取って、魚達や海の景色に目を輝かせます。
魚さん達が踊っているみたいですわ♪
栗花落・澪
【輝花】水着23
月水さんからの誘いには二つ返事でオッケーを!
折角だし、ダイビングとかどう?
そんなに深くないみたいだし
海中って凄く綺麗なんだよ
それなら、海水に触れないようにしたらどうかな?
僕も手伝ってあげる!
オーラ防御と風魔法を組み合わせた空気の膜を月水さんの作った膜に重ね掛け
呼吸も確保しつつ周囲の水を全て弾く様にして
自身はUCで人魚変身することで呼吸を確保
ふふ、ありがと
泳ぐことは出来る?
良かったら、手引いてあげるよ
月水さんのペースに合わせて泳ぎつつ
誘惑を乗せた歌唱を音波としてさり気なく飛ばす事で魚達を楽しませ
周囲に集めてみたり
自由に泳ぐ魚達も綺麗だけど
折角なら間近でも沢山見せてあげたくて
――一緒に遊びませんか?
水着コンテストに参加していた栗花落・澪(泡沫の花・f03165)を見かけた月水・輝命(うつしうつすもの・f26153)が、思わずそう声をかけたのは数日前。
二つ返事で承諾した澪と連れだって青の世界を訪れた輝命は、澪が両手に持つ器具を眺めてきょとんと瞬いた。
「だいびんぐ……ですか?」
「そう! 折角だし、そんなに深くないみたいだし。海中って凄く綺麗なんだよ」
「……あっ、あの、潜るのですか!? 楽しそうですわね♪」
あまり聞き慣れない単語ではあったが、海と器具を見て思い至った輝命は、ぽんと手を合わせて柔く微笑んだ。――が、すぐに表情を曇らせる。
「申し訳ありません、澪さん……迂闊でしたわ。わたくし、五鈴鏡という鏡のヤドリガミで、海水は苦手で……」
一応ペンダントで水を操作出来ますが、と申し訳なさそうに添える輝命に、澪が考えること数秒。ぴこん、と閃いて笑顔を向ける。
「それなら、海水に触れないようにしたらどうかな? 僕も手伝ってあげる!」
「え……? 良いのですか? ありがとうございますのよ!」
それからは話が早かった。輝命が水属性攻撃を応用したオーラの膜を張った上から、澪もまた風魔法とオーラ防御を合わせた空気の膜を重ねた。周囲の水を弾き、かつ呼吸も確保できるこの膜で覆われていれば、輝命も海中を満喫できるだろう。
「大丈夫そう?」
「はい、これなら濡れなさそうですの」
先に浅瀬に入った澪に倣って、そうっと足を浸けてみる。海水のひんやりとした感触が肌に伝わるだけで、濡れる心配はなさそうだ。
「あ、澪さんはどうされるんですか?」
「僕なら大丈夫。――水の精霊よ、力を貸して!」
瞬く間に生まれた光に、澪の姿も包まれる。そうして次に現れたときは、華麗な人魚の姿に転じていた。元気いっぱいの水平モチーフの水着も似合っていたが、鱗燦めく幻想的な見目も思わず見入ってしまうほど。
「人魚姿の澪さん、とっても綺麗ですの♪」
「ふふ、ありがと。泳ぐことは出来る? 良かったら、手引いてあげるよ」
「ありがとうございますの。では、ありがたく……」
触れた掌に心強さを感じながら、そうっとゆっくり勇気を出して海へと入る。
白砂に波紋が揺れる浅瀬を過ぎ、薄青の花を溶かしたような水面に身を委ねて潜ってゆけば、そこにあるのは、晴れ渡った空とはまた違う、水と陽の燦めく海の青の|彩《いろ》。
「すごい……すごいですわ……!」
白、赤、黄。無数の様々な魚たちが、彩り鮮やかな身体を翻して自由に泳いでゆく。縞柄の魚が遊ぶ森は、珊瑚礁。まるで深い森を上から眺め見るような景色に輝命は瞳を燦めかせ、澪もつられて微笑み零す。
狐耳をぴんと立てながら、興味津々あたりを見渡す輝命。そのペースに合わせて泳ぐ澪が、誘惑を秘めた唄をそっと紡げば、歓ぶように魚たちがふたりの元へと集ってくる。
「澪さん、魚さん達が踊っているみたいですわ♪」
「ね? 凄く綺麗でしょ?」
自由に泳ぐ彼らも綺麗だけれど、せっかくなら間近でもたくさん見せてあげたい。
その想いに応えてくれた魚たちと、嬉しそうに声を弾ませる輝命の様子に、澪も笑顔の花をいっぱいに咲かせた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ユア・アラマート
灯(f00069)と
服装:水着23
いい景色だ。お前と迎える夏も随分増えたな
浅瀬で遊ぶのいいが、ここでしかできない事を楽しむのもいいと思うぞ
水上バイク、お前なら運転できるだろう?
これは、思った以上に爽快だな。まるで飛んでいるみたいだ
もう少ししっかり掴まったほうがよさそうか…苦しくない?
べ、別に照れてないが…わかった
しかし、抱き心地がしっかりしてきたな…変な意味じゃないぞ
それくらい頼もしくなったってことだ
今年の水着もよく似合ってる
さすが私の旦那様だ
私の水着が似合ってるのは当たり前だろう?
お前に褒められたくて、気合を入れてるんだから
おかげでその言葉が聞ける
ああ、もっと速くこの海を駆けようか!
皐月・灯
ユア(f00261)と
服装:水着23
お前とこうして海を眺めるの、もう何度目かな。
オレは相変わらず泳げねーけど……まあ、これなら問題ねー。
こういうのの乗り方なら、大体わかるしよ。
ふうん……大方覚えたぜ。
おいユア、もっとちゃんと掴まれ。いや、照れてねーでもう素直に抱き着け。その方が安定する。
抱き心地ってお前……いいけどよ。
鍛えてっからな。普段はオレがお前を抱き上げてるから、気付く暇もなかったか?
……お前もよく似合ってるぜ、ユア。
そういうのは当たり前とは言わねーぞ。
毎年……違うな、毎日だ。オレに魅せるために努力してんだろ?
だからオレも言葉にすんだよ、柄じゃなくてもな。
……ほら、飛ばすぜ、掴まってろ!
潮の香りに惹かれるようにふたり、青寄せる波打ち際でひとつ息を吐く。
「いい景色だ。……お前と迎える夏も、随分増えたな」
「ははっ、そうだな。お前とこうして海を眺めるの、もう何度目かな」
そう隣のユア・アラマート(フロラシオン・f00261)へと笑みを零すと、皐月・灯(追憶のヴァナルガンド・f00069)はまた地平線へと視線を向けた。
出逢ってからいくつもの季節を巡り、そうして永遠を誓う縁となった。その刻のなかで海を愉しむ機会もたびたびあったが、今年も肩を並べて同じ青を眺めていられる。
「さて、灯。どうする?」
「オレは相変わらず泳げねーから……」
「そうだな。浅瀬で遊ぶのもいいが――灯、あれなんてどうだ?」
「ん?」
ユアの視線の先を追えば、大きな椰子の木の下に濃紺の天蓋があった。天使核で動く水上オートバイを貸し出している店のようで、店先の|汀《みぎわ》で店員が客相手に使い方の説明をしている。
「ここでしかできないことを楽しむのも、いいと思うぞ? あれ、お前なら運転できるだろう?」
「まあ、ああいうのの乗り方なら、大体わかるしよ」
よし行ってみよう、と口端を上げたユアと連れだって店を訪れて、恰幅の良い店主から2人乗りを一台借りて沖に出る。
「ふぅん……大方覚えたぜ。いつでも出られる」
「よし、行こう!」
くん、とスロットルレバーを引くと、忽ち水上を奔り出した。ひんやりとした海風と白く弾ける水飛沫が、肌に触れて心地良い。
晴れ晴れとした夏空の下、あっという間に沖から離れて青の|直中《ただなか》に飛び出せば、そこはもうふたりだけの時間。
「これは、思った以上に爽快だな。まるで飛んでいるみたいだ……!」
「おい、ユア。……もっとちゃんと掴まれ」
「え? そ、そうか……苦しくない?」
「いや、照れてねーで、もう素直に抱き着け。その方が安定する」
「べ、別に照れてないが……わかった」
蝶をモチーフとした上着越しに、そっと背中から腕を回して灯の胸元に触れ、その愛おしいぬくもりに委ねるように背へと頬をつけた。
「しかし、抱き心地がしっかりしてきたな……」
「抱き心地って、お前……」
「……変な意味じゃないぞ」
少し慌ててでもいるのだろうか。背中から顔を上げたらしいユアの声に、いいけどよ、と灯もぼそりと洩らす。
「それくらい頼もしくなったってことだ」
「鍛えてっからな。普段はオレがお前を抱き上げてるから、気づく暇もなかったか?」
波音に混ざる、灯の笑み声。釣られて口許を緩めたユアが、そっと囁く。
「今年の水着もよく似合ってる。――さすが、私の旦那様だ」
「……お前もよく似合ってるぜ、ユア」
緩やかに速度を落としていった水上オートバイが、ゆっくりと青の上で停止した。
あたりには誰もいない夏色の世界で、ふたりの視線が交わる。
「当たり前だろう? お前に褒められたくて、気合を入れてるんだから」
きょとんとしながらも自信たっぷりに答えたユアに、灯はちいさく嘆息した。
「そういうのは当たり前とは言わねーぞ」
「灯……?」
「毎年……違うな、毎日だ。オレに魅せるために努力してんだろ?」
その努力を当たり前だとは思いたくはない。それが自身のためのものなら、尚のこと。
「だからオレも、言葉にすんだよ。……柄じゃなくてもな」
そう言って一瞬だけ視線を逸らした灯の耳飾りが揺れた。ユアと揃いの、桔梗の花。
「ふふ、努力した甲斐があったというものだな。おかげで、その言葉が聞けた」
「……分かったならほら、飛ばすぜ。掴まってろ!」
どこか照れ臭そうにハンドルを握り直した灯の背に、今度は躊躇うことなくユアはぎゅっと抱きついた。再び青を駆け始めた水上オートバイは、心地良い風と飛沫を運んでくれる。
「行くぜ、ユア」
「ああ、もっと速くこの海を駆けようか!」
加速してゆく心のまま、この青の先まで――ずっと。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
陽向・理玖
【月風】
和風のサーフパンツ
いやーこりゃなかなか綺麗な海だな
静かで過ごしやすいんじゃね?
手を取り浜辺を歩きながら
おっ貝殻発見
名前は違うかもだけど桜貝っぽい?
ちっちゃいし可愛い色合いだな
こっちのは日に翳すときらきら虹色っぽく見えるぜ
ほら
瑠碧の目の前で翳し
綺麗だな
…まぁ瑠碧の方が綺麗だけど
赤くなるのも可愛い
水着よく似合ってるぜ
星型の砂も見っけ
何でこんな星型になるんだろうな?
この砂と貝殻と瓶とかに入れたら
…夏だと何て言うんだ?…まぁいいや
スノードーム?とか作れんのかな
瑠碧折角だしもう少し集めて帰ったら作んねぇ?
ナイトマーケットにいい感じの瓶とかも売ってたらいいんだけど
瑠碧
夏の思い出沢山作ろうな
手を握り
泉宮・瑠碧
【月風】
水着23
浮島に海…昨年も不思議でしたが
でも、空の青とも近くて綺麗ですね
昼はゆっくり景色が楽しめそうです
つば広の白いストローハットを被り
理玖と手を繋いで浜辺を歩いて
貝殻、ですか?
本当、何だか花びらみたいですね
そちらのは…遊色効果でしょうか、浮かぶ虹色が綺麗…
…ん?
付け足された言葉に赤くなります
…それは、不意打ちです
星の砂、は…元々は生きていたとか、聞いたような?
ただ、この世界やこの場所では
宙から落ちてきた星の欠片かも知れませんが
小瓶に詰めるのは、楽しそうですね
スノードームで意味は分かりますから、大丈夫と思います
はい…ナイトマーケットの楽しみが増えましたね
握られた手を握り返して
はい、一緒に
幾つもの季節を重ね星霜と成しても、今この刻の君は唯一だから。巡り来た夏にまた笑顔を滲ませながら、陽向・理玖(夏疾風・f22773)と泉宮・瑠碧(月白・f04280)は|汀《みぎわ》を往く。
「いやー、こりゃなかなか綺麗な海だな。静かで過ごしやすいんじゃね?」
「はい。浮島に海……昨年も不思議でしたが――でも、空の青とも近くて綺麗ですね」
昼はゆっくり景色が楽しめそうです、と白い麦わら帽子の下でふわりと微笑む瑠碧に、理玖もまた眦を緩める。
この大空にも似た水色のワンピースドレスの水着に、理玖が合わせたのは同色の和風のサーフパンツ。娘の羽織る透いた白も用いた、揃いの品だ。彩と心と、そして掌を重ねて、あてどなくただ波打ち際をなぞるように散歩する。
「おっ、貝殻発見」
「貝殻、ですか?」
ちょいとしゃがんでから立ち上がった理玖の掌には、愛らしい淡いピンク色。
「名前は違うかもだけど、桜貝っぽい? ちっちゃいし可愛い色合いだな」
「本当、何だか花びらみたいですね」
理玖の大きな掌の裡だからだろうか。一層ちいさく見える彩に、瑠碧の口端も柔く緩む。
「こっちのは、日に翳すときらきら虹色っぽく見えるぜ。ほら」
「遊色効果でしょうか? ――わ、」
指先で摘まんだそれを瑠碧の目の高さでひらひらと翳してみせれば、艶やかな乳白色に浮かぶパステルカラーのグラデーションも燦めきながら色を変える。
「浮かぶ虹色が綺麗……」
「ああ、綺麗だな。……まぁ」
「……ん?」
「瑠碧の方が綺麗だけど」
さらりと零れた甘い声に、瑠碧の耳がぴくりと動いた。ぱっと花開くように頬が淡紅に染まり、青の双眸がほんの少し、逸らされる。
「……それは、不意打ちです」
どうにか絞り出した言葉にも、赤くなるのも可愛い、なんて返されるものだから、益々顔に熱が灯ってしまう。
「水着、よく似合ってるぜ」
「ありがとう、ございます……理玖、も」
俯きかけていた視線を上げればそこに、愛おしい人の晴れやかな笑顔があった。
そのまま浜辺を進んでゆけば、より白みを帯びた砂浜に出逢った。打ち寄せる波も穏やかで、白砂に映るターコイズブルーの水面が優しく揺れている。
その青に見入るように視線を落とした先には、今度は星型の砂。掌に掬ったときの、さらさらとした手触りが心地良い。
「前から思ってたけど、何でこんな星型になるんだろうな?」
「星の砂、は……元々は生きていたとか、聞いたような? ただ、この世界やこの場所では、宙から落ちてきた星の欠片かも知れませんが」
去年訪れた別の浮島には、花火から零れた光が星のように舞い落ちる砂浜もあったから。そんな風にふと過ぎる記憶にも、いつだって彼が居る。
「この砂と貝殻と瓶とかに入れたら……夏だと何て言うんだ? ……まぁいいや」
「ふふ。小瓶に詰めるのは、楽しそうですね」
「スノードーム? とか作れんのかな。――なあ、瑠碧。折角だし、もう少し集めて帰ったら作んねぇ?」
ナイトマーケットにいい感じの瓶とかも売ってたらいいんだけど、と零す横顔に瑠碧もそっと瞳を細めて。
「はい……ナイトマーケットの楽しみが増えましたね」
意味は分かりますから大丈夫と思います、と添えた娘の指に、そっと触れるぬくもり。
「瑠碧。夏の思い出、沢山作ろうな」
向けられた眼差しに頷きながら、重ねた手に力を籠める。
「はい、一緒に」
今年も訪れた夏に紡ぐ、ふたりだけの約束。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
御堂・伽藍
アドリブ、即席連携歓迎
ティティス/f35555
と邂逅予定
一応WIZ判定
ぅふふ♪ へんてこ
闇にして人形にして我楽多。そんな我々が斯様な光景に
心躍る、か…
足場習熟悪路走破ダンスアート
気ままに砂浜を駆け回り心のままに踊り
砂浜に足跡の模様を描く
念動力UC
時に貝殻などを念動で動かし、範囲の内に複数模様を描いて踊ったり
波間に揺られて浮かび仰向けにプカプカ♪(沖に流されないように)
ふと目端に彼女の端末を見つけ
? ティティ♪
小さく手を振る
合流して後、ティティに引っ張ってもらって水上スキーごっこしたり
一緒に潜って海中散歩と洒落込んだり
(もちろん周囲に配慮)
波打ち際で一緒にダンスしつつ
ひとつ おしえてあげる
ティティス…それは、海の女神の名前
「父親を凌ぐ大英雄の母となる」約束の女神
貴方も知ってるあの「雷の主神」が諦めたのよ?「下剋上されたらかなわんわぃ!(落胆)」だって(クスクス♪)
あなたもいつか なるのかしら? おかあさんに
ティティス・ティファーナ
SPDで判定
*アドリブ歓迎
伽藍/f33020に同行
波間や砂浜を眺めて「風と波音が心地良い」と囁いて一瞬フェアリィの姉を思い浮かべるものの事ある毎に姉を呼んで頼るのも…と思って思い止まります。
自然の情景を眺めながら水面の中を泳ぐ海洋生物を見付けて海面ギリギリを疾走しながら遊戯として楽しみます。
他にもクジラの鳴き声を聞きながらイルカの戯れをクスリと笑ったりしながら木陰で一休みをして、海の上の飲食店を見渡して飲み物や氷菓子などを購入して食べながら「姉には甘味が過ぎるか」などと考えながらも伽藍が居たら声を掛けてトランスフォームしながら適材適所に対応しながら情景や風景の会話や仕草を楽しみます。
ひとつ大きく吹いた海風に、ティティス・ティファーナ(召喚獣「アストラル・エレメント(幽魔月精)」・f35555)の金糸がふわり夏の陽に燦めいた。
耳許に届くのは、柔らかな潮騒の音色。寄せては返す漣の調べに、ティティスは海を眺めていた双眸をそっと窄めた。
「風と波音が心地良い」
ぽつり零した声音に混じり、浮かぶのはフェアリィの姉の姿。
(……だが、事ある毎に姉を呼んで頼るのも……)
そう思い直したティティスは、寄せてきた波に誘われるように海へと歩みを寄せ――軽く跳躍した。
足許を見遣れば、青染む海をゆく色とりどりの魚たち。そんなコントラストを愉しんだあとに視線を上げれば、そこには柔らかな白雲が縁取る空の涼やかな青。そんな贅沢な景色を愉しみながら、水面に触れるか触れないか、その際を飛沫を上げながら駆けてゆく。
魚たちと競うように遊んで沖に出た先、水平線を背にして戯れるイルカたちにくすりと笑み零して。空いっぱいに遠く響く鯨の歌に耳を傾けながら岸へと戻って、満足げな一息を吐きながらティティスは木陰に腰を下ろした。
「姉には甘味が過ぎるか」
ぱくりと口に運んだかき氷を味わいながら、次いでオレンジの輪切りの飾られたトロピカルジュースを飲む。どうにも姉のことを考えてしまうのは、最早仕方がないことなのかもしれない。
そうして最後の一匙を口に含んだところで、聞き慣れた声に名を呼ばれた。
「ティティ♪」
「――伽藍」
「ぅふふ♪ へんてこ」
青の描く果てなき地平線を|眼《まなこ》に映せば、眦が緩み胸も跳ねるのは仕様のないこと。御堂・伽藍(がらんどう・f33020)はくすりとちいさな笑みを零すと、陽を浴びた白浜へと駆け出した。
砂に足を取られても構いやしない。すぐにその感覚に慣れた伽藍は、時に浜辺を彩る貝殻を念動力で躍らせて、花弁のようにふわりと風に添えて、青を背景に足跡の軌跡を止め処なく描く。
(闇にして人形にして我楽多。そんな我々が斯様な光景に心躍る、か……)
我が事ながら不思議なものだ。けれど、そうしたい欲が空っぽのはずの裡を満たしているのも確か。ならば抗うこともあるまいと、伽藍は軽やかなステップを刻んでゆく。
キャンパスに筆を走らせるように、舞台で華々しく舞うように、気儘に、心の侭に。
そうして踊り尽くした娘が、休憩がてらぷかり仰向けで波に揺られていた折に見つけたのがティティスだった。手を振りながら海から上がれば、どうやらかき氷を食べ終えたらしい彼女もすっと立ち上がり合流を果たす。
折角ふたり揃ったのだ。何をしようかと相談の末、互いのお勧め――水上スキー遊びと波打ち際のダンスを一通り満喫せんと、まずは海へと繰り出した。
海上と僅かな距離を保ちながら滑るように駆けてゆくティティスに手を引かれれば、胸に溢れる爽快感と高揚感。つい洩れてしまった笑み声はそのままに、弾ける飛沫で、海の紺碧に一条の白を真っ直ぐに描いてゆく。
海中散歩も、ふたり手を重ね。足先をフィンに変形させ、魚のように優雅に泳ぐティティスが誘うのは、陽の注ぐ青と色鮮やかな魚たちのコントラストが美しい海の楽園だ。
再び浜辺へ戻ったら、心ゆくままに一緒にダンス。風に身を任せ、波音に合わせて舞い踊れば、ふと交わった視線と、伽藍の微笑。
「ひとつ、おしえてあげる」
何を、と問う代わりにティティスは一度瞬いた。それを返事と受け止めた伽藍が、続きを語る。
「“ティティス”……それは、海の女神の名前。“父親を凌ぐ大英雄の母となる”約束の女神」
「約束の女神?」
「貴方も知ってるあの“雷の主神”が諦めたのよ? 落胆して『下剋上されたらかなわんわぃ!』だって」
くすくすと笑いながら、向かい合う先の銀の双眸を、伽藍がじっと見つめた。
「あなたもいつか、なるのかしら? おかあさんに」
己の名。女神。そして大英雄の母。
今はまだ無き明確な答えも、ティティスの歩む先に――未来に在るのだろう。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
コッペリウス・ソムヌス
同行:みつき(f34870)
相棒な蝙蝠のライラも連れて
ブルーアルカディアといえば青なんだろうけど
夏の陽射しは眩し過ぎるくらいだからねぇ
夕暮時の砂浜で…波の音を聴きながら
のんびり過ごすのも良いかなぁ、なんて
ライラも、そうだと言っている…ような
貝殻や星型の砂には多少興味もあるみたいだね
冷たい飲物も有難く頂いておこうか
景色を眺めるうちに、ふと零れたのは
……陽が沈む海の色って
ちょっと望郷な気分にもなりがちでねぇ
島生まれ…育ち?ってだけの話なんだけれど
ふふ、隠れ里と似たような雰囲気だったのかも
其処は二度と戻らぬ絵画のようなもの、にせよ
今日みつき達と見た此の景色は
いつまでも忘れず覚えておくつもりさ
神白・みつき
コッペリウス様(f30787)と
蜥蜴のみたらしも連れて
確かに日中は陽射しも強かったようですね
夕方まで待って正解でした
水平線に沈む夕陽も、他の季節とは異なる趣を感じます
みたらしも日中より過ごしやすそうです
星型の砂に潜っては出てきて…楽しそうですね
とはいえ、油断はできません
冷たいお茶を持参しましたのでコッペリウス様もどうぞ
彼の視線の先の景色を追いつつ
私は海とは無縁の生まれですがお気持ちは何となく分かります
夕陽のせいでしょうか
今はもう誰もいない里のことを思い出します
…忘れる勿れ、と誰かが告げているのかもしれません
ええ、今日のこともきっと忘れはしないでしょう
こんなにも美しい景色を友人達と見られたことを
大空を舞台としたこの世界を表す色ならば青なのだろうけれど、夏の陽は眩しすぎるからと、コッペリウス・ソムヌス(Sandmann・f30787)が神白・みつき(幽寂・f34870)を誘ったのは夕暮れ時の海辺だった。
「確かに日中は陽射しも強かったようですね。夕方まで待って正解でした」
「良かった……。波の音を聴きながら、のんびり過ごすのも良いかなぁ――なんて、思って」
ライラも、そうだと言っている……ような。そうちいさく零したコッペリウスの傍らで、夜色の愛らしい蝙蝠が月染む瞳を不思議そうに瞬いた。
「ふふ。素敵ですね。水平線に沈む夕陽も、他の季節とは異なる趣を感じますし……みたらしも、日中より過ごしやすそうです」
言って、隣で砂と戯れる、尾の長い蜥蜴にも似た朱砂の精霊の額をそっと撫でた。そのまま、もぞもぞと星の砂の海に潜っては顔を出すのを繰り返している様子を見るに、どうやらみたらしもここを満喫しているようだ。
「貝殻や星型の砂には、多少興味もあるみたいだね」
「とはいえ、まだ夕方ですから油断はできません。冷たいお茶を持参しましたので、コッペリウス様もどうぞ」
「有難う。頂くよ」
そうして受け取ったコップをそっと、傾ける。ひんやりとした茶葉の風味が、喉を優しく潤してゆく。
他愛もない、けれど穏やかな会話を紡ぎながら、音もなく色移り変わる海と空を眺め見る。あれほどまでに赤く色づく夕陽でさえ何も語りはしないけれど、それが寧ろ雄弁に何かを語りかけてきているようにも見えて、コッペリウスがぽつりと零す。
「……陽が沈む海の色って、ちょっと望郷な気分にもなりがちでねぇ」
声に惹かれて傍らを見れば、コッペリウスは唯、海を見つめていた。倣って視線を移したみつきの横で、続く言葉が洩れる。
「島生まれ……育ち? ってだけの話なんだけれど」
この夕暮れが、隠れ里と似たような雰囲気だったのかもしれない。ちいさく笑みながらそう添えたコッペリウスの横顔へと、みつきもそっと頷きを返す。
「私は、海とは無縁の生まれですが……お気持ちは、何となく分かります」
浮かぶ景色も伴う記憶も異なれど、そこにあるのは確かな郷愁だった。
戻りたいと願おうが願うまいが、決して戻ることのできない過去が、ふたりの裡にまだ残っている。
「夕陽のせいでしょうか。今はもう誰もいない里のことを思い出します。……忘れる勿れ、と誰かが告げているのかもしれません」
そうしてまた、この暮れ泥む空を見るたびに思い返す。
あの日のことを。その想いを。
それでも。
「其処は二度と戻らぬ絵画のようなもの、にせよ……今日みつき達と見た此の景色は、いつまでも忘れず覚えておくつもりさ」
「ええ、今日のこともきっと忘れはしないでしょう」
憂いを帯びた記憶ばかりではない。
穏やかな時間も、確かにあったのだと。
これほどに美しい景色を、共に眺めた友人たちのことを――この胸に留め置く。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
深山・鴇
【逢魔ヶ刻】
(水着22)
昼間に行こうってわけじゃないんだがね、夕方…日の落ちる頃合いなら逢真君も多少は平気だろう?
君が夏の海辺が苦手なのは重々承知だが、悪い思い出ばかり残るのもどうかと思ってね
はは、行く気になってくれて何よりだ、海底散歩と洒落こもうじゃないか
海の真上?って――っと、これはこれは贅沢な眺めだな
(ドボンと落ちた先、海の中。空気球の中から見上げる水面はまだ少し明るい夕焼け色だ)
綺麗だね
君の案内であちこち見て回っていれば、あっという間に日が沈んでいくのが海底からでもわかる
赤から薄紫、それから宵色
すっかり暗くなってきたね、逢真君
そろそろ浜辺に戻っても大丈夫な頃合いじゃないかい?
朱酉・逢真
【逢魔ヶ刻】(ヒトや物に直接触れる描写NG)水着20
心情)海に行きたいのかえ、旦那。俺は夏の海辺が大の苦手なンだ。陽の氣が強くッてね…太陽も元気なことだしさ。だから行くなら海中に行こう。潜れるのだろ? なァに、海中にも見どころはあるさ。いのちがあるのだからな。
行動)転送前に、旦那の頭周りに球状の結界を張る。こン中に空気を貯めとくことで、水中でも呼吸可能にするってワケさ。俺は呼吸しないンでね、いらん。じゃ、転送してもらおう――海の真上になァ。はいドボーン。重力操って、海底を歩けるが潰されない程度の塩梅にして海底散歩だ。サンゴ礁の鮮やかさもカラフルな熱帯魚も間近で見られるぜ。どォだい?
――海。
眼前の男が紡いだ言葉に瞠目しながら、朱酉・逢真(朱ノ鳥・f16930)は改めて問い返した。
「海に行きたいのかえ、旦那」
「昼間に行こうってわけじゃないんだがね」
言って、硝子の奥の双眸を細める。
「夕方……日の落ちる頃合いなら、逢真君も多少は平気だろう?」
「俺は夏の海辺が大の苦手なンだ。陽の氣が強くッてね……太陽も元気なことだしさ」
「それは重々承知だが、悪い思い出ばかり残るのもどうかと思ってね」
「――だから、行くなら海中に行こう」
突然の切り返しに、今度は深山・鴇(黒花鳥・f22925)が目を瞠った。まさか海中とくるとは思いもよらなかったが、断られるとばかり思っていたから有り難い。
「潜れるのだろ? なァに、海中にも見どころはあるさ。いのちがあるのだからな」
「はは、行く気になってくれて何よりだ」
海底散歩と洒落こもうじゃないか、なんて会話を交したその数日後。偶然グリモアベースで見かけた海への誘いに、これは渡りに船だ、と逢真を連れて来てみたら、気づけば頭部に透明なまあるい結界が張られていた。
「これは?」
「こン中に空気を貯めとくことで、水中でも呼吸可能にするってワケさ」
返ってきた答えに、なるほど、と鴇が頷く。
「君はどうするんだい?」
「俺は呼吸しないンでね、いらん。じゃ、転送してもらおう」
――海の真上になァ。
いいのか? というグリモア猟兵の窺うような視線に頷きながら、白いパーカーを目深に被った逢真がにまりと瞳を細めた瞬間、視界が一転した。
「海の真上? って――」「はいドボーン」
ふたりの声が重なったと同時、身体は一瞬にして海中へと沈んでいた。ほんの少しひんやりとする海水に、ウェットスーツジャケットを着てきて良かった、とそんな思考がふと過ぎる。
「――っと、これはこれは贅沢な眺めだな」
綺麗だね、と零れた言葉は、彼にも届いただろうか。
暮れ始めなのだろう。見上げた視線の先には、まだ薄明るい茜に染まる水面が燦めきながら揺れていた。思わず見入りそうになったところで、委ねていた浮遊感がふわりと消える。僅かな驚きを滲ませた視線を向ければ、矢張り逢真が口端を上げていた。
「重力操って、海底を歩けるが潰されない程度の塩梅にした。さァ、海底散歩だ」
肩越しに鴇を見る、その視線に誘われて歩き出す。
最初は、ごつごつと凹凸のある足許を気にしていたけれど、それもすぐに眼前の光景に奪われた。
あたりに満ちる優しいオレンジ色が水の流れに合わせて陰影を描き、その直中を無数の熱帯魚が群れをなして渡ってゆく。海底に広がる珊瑚礁は、薄紅に桃、青や緑ととりどりの色彩を纏っていながら、夕暮れのぬくもりを纏ってどこかあたたかい。その珊瑚の森を潜って遊ぶ緋色の魚が時折、ゆらゆらと水に揺れる逢真の長い三つ編みを口先でつつく姿も愛らしくて、つい笑みが毀れてしまう。
不意に、どォだい? と問う声が水を伝って響いた。
「サンゴ礁の鮮やかさもカラフルな熱帯魚も、間近で見られるだろ?」
「……ああ」
尽くそうと思えば浮かぶ言葉は色々とあるけれど、唯々言うならば美しい世界だった。朱から赤、薄紫を経て宵の色へ。逢真の案内に導かれ、あちらこちらを巡りながら、海の色合いもまたじんわりと夜へと移り変わる。
「すっかり暗くなってきたね、逢真君。そろそろ浜辺に戻っても大丈夫な頃合いじゃないかい?」
「あァ、もうそんな時間か」
言って、ふと逢真が仰ぎ見た先。一条の月の光が、海面を淡く輝かせていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
メロディ・シエルティ
水着23
マリー!
初めまして、メロディだよ
良ければマリーと一緒に遊びたいな
マリーの水着とっても素敵…!
美し過ぎて見惚れちゃうよ…!
何して遊ぶ?
マリーはどんなことが好きなのかな?
ふふ、そうなんだ!
私はお茶会と可愛いものとオシャレが好き
それじゃあ間をとってマリンスポーツだね(全く間を取れていません)
シュノーケリングにしよう!
輝く海の中は綺麗なものがいっぱいで
色とりどりの魚達や海の生き物達が泳いでいて
海の世界の美しさに感動しちゃうな
マリーも何か見えた?
え、それ私も見たい!
ふー、楽しかったー!
マリーは楽しかったかな?
最後は一緒にアイスキャンディを食べたいな
私はミルク味
海を眺めながら一緒にお話しよう
初めましての挨拶を交したメロディ・シエルティ(不思議の子のアリス・f37276)からの遊びの誘いは、マリー・アシュレイ(血塗れのマリア・f40314)にとっても断る理由なんてひとつもない。
「良かった! じゃあ何して遊ぶ? マリーはどんなことが好きなのかな?」
「そうね……スカッとすること、かしら」
愛用するのは、チェーンソーと手榴弾。アリスをオウガから護る忙しない日々を過ごしてきた少女の、それはある種のストレス発散方法だったが、さすがにそれを初対面の、しかもこんな可愛らしい子に対して言うことではないと悟ってかなりぼやかした。
「ふふ、そうなんだ! 私はお茶会と可愛いものとオシャレが好き」
「あ。お茶会は好き。落ち着いて食べられるのなら、の話だけど」
「一緒だね! それじゃあ今日は間をとって――マリンスポーツ……シュノーケリングにしよう!」
どう間を取ったのか、というツッコミ役は、残念ながらこの場にはいなかった。元来のボケ役・マリーは、それよりも“シュノーケリング”という単語に興味津々ぴぴっと兎耳を動かした。
「良いわね、シュノーケリング。やってみたことない」
「それなら丁度良いね。行こう!」
ぱたぱたと砂浜を駆けてゆく娘たち。
「マリーの水着とっても素敵……! 美し過ぎて見惚れちゃうよ……!」
「あ……ありがとう。メロディのも、すごく可愛い。お花もフリルも、似合ってるわ」
なんて言葉と笑顔を交してふたり、サマードレスを思わせる白のスカートを靡かせ、大きなリボンを躍らせながら、波音に乗って踊るようにエメラルドの浅瀬に向かう。
顔にはシュノーケルとマスク、足にはフィンをつけて。互いに見合って頷いたら、勢いよく海へとダイブ!
まるで背に羽根があるかのように、ふわりと浮かびながら海中を往けば、視界いっぱいの青を彩る熱帯魚たちがお出迎え。
「わっ、魚の行進だよ! すっごく綺麗……! マリーも何か見えた?」
「あそこの珊瑚礁に、赤い魚がいた」
「え、それ私も見たい!」
「こっち」
珊瑚礁を縫うように泳ぐちいさな魚の群れを観察していると、遠くにイルカらしき大きな影が見えた。ゆったりとした動きで優雅に泳ぐその手前を、目の覚めるような色の魚たちが尾ひれを棚引かせながら青満ちる世界を渡ってゆく。
眩しく燦めく夏の陽のスポットライトが降り注げば、一層世界は彩り鮮やかに輝きを増すものだから、ふたりはついつい感嘆の息を零しながら見入ってしまう。
そうして存分に満喫したら、最後の締めはもちろん甘いもの。
名残惜しみながらも浜辺へと戻った娘たちは、甘味を売る天幕で買ったアイスキャンディを片手に、大きな椰子の木の木陰に腰を下ろした。
「ふー、楽しかったー! マリーは楽しかったかな?」
「うん。珍しいものたくさん見られたし……メロディが一緒だから」
そう言って、ほんの僅かだけど確かに微笑したマリーに、メロディも歓びながら優しいミルク味をぺろりと味わう。
今朝出逢ったときには分かりづらかった笑顔も、同じものを見て愉しんだ今なら、ちゃんと分かる。
それがなんだか嬉しくて、メロディはひとつ笑みを深めた。
大成功
🔵🔵🔵
クーナ・セラフィン
空の世界にも海はある…うーん実に不思議。
でもだからこそ普通は見れない景色が見れていいよね。
空と海の青をじっくりたっぷり、楽しめたらな。
それじゃ折角の海だしダイビングしてみようかな。
呼吸確保するための器具つけていざ海底へ。…猫用あるよね?
水の透明度が高ければ深くても明るさもそのまま、さぞ綺麗な景色になっているんだろう。
鮮やかな色の魚とか貝、珊瑚も青と陽射しに映えて綺麗だねえ。
息というか酸素が続く限りゆっくり眺めて海水の中で楽しめたらいいな。
あ、海から上がるときはちゃんと真水を浴びて乾かして。
塩水は大敵だからにゃー。
ワイルド系なら寧ろカッコよさになるんだろうけどね。
※アドリブ絡み等お任せ。水着23
空と海の青を映した青い双眸をひとつ瞬くと、クーナ・セラフィン(雪華の騎士猫・f10280)はくすりと口端を緩ませた。
|此処《空》にも海がある。
実に不思議だけれど、だからこそ普段は見られない景色が拝めるというもの。ならばこの貴重な機会に、溢れるばかりの青をじっくりたっぷり満喫するのが一番だ。
「それじゃ、折角の海だしダイビングしてみようかな」
猫用あるよね……? と一抹の不安も抱いたものの、そこはさすが猟兵も訪れる海辺。浜の一角にあった天蓋テントの店々は、大きなものから小さなものまで、多種多様な種族にあったマリンスポーツ器具を取り揃えていて、クーナの懸念は杞憂に終わった。
そうして借りてきた一式――前脚にはグローブを、後ろ脚にはフィンをつけて、頭に掛けていたスノーケル付きのマスクをすちゃりと目許に下ろす。水着とお揃いのサンバイザーは、飛び込むには不向きかもしれないからと、一旦外して腕に通した。
「いっくよー」
にゃん! とくるり一回転しながら、岩場から海へと華麗なダイブを決める。普通の猫とはひと味違う騎士猫ならば、水でも海でもへっちゃらなのだ。
どぼん、と一気に身を沈ませた海底の、まずその青に目を奪われる。
波打ち際のエメラルドグリーンを重ねた、もっともっと深い青。ところどころ海中に降り注ぐ夏の陽は、波に揺られるたびに燦めきを増して、青の濃淡を一層複雑に、鮮やかにしていく。
(これはこれは……想像していたより綺麗だねぇ……)
海の青に包まれながら陽射しを浴びる鮮麗な珊瑚礁の森で、愉しそうに遊ぶ極彩色を纏った魚たち。赤に白のライン、白黒の縞模様、紫から黄へのグラデーション。とりどりの|彩《いろ》が舞うように踊る、まさにマリンショーのお披露目だ。
その傍に佇む、巻き貝やほら貝、宝貝や二枚貝。こちらもまた、色や形が個性的で見ていて飽きることはない。
(――あ、海から上がるときは、ちゃんと真水を浴びて乾かさないとにゃー)
ふわふわ自慢の毛ににとって、塩水は大敵。
ワイルド系なら寧ろ格好良さになるのだろうけど、なんて考えながら、クーナはもうしばらく、鮮明に煌めく夏の海を愉しむのだった。
大成功
🔵🔵🔵
御簾森・藍夜
水着23
心音が居なければ一人でぼやっとパラソルの下
ビーチベッドでごろごろ
心音がいたら心音を誘って
日傘代わりに鴉を差して海岸へ
浅瀬でシュノーケリングでも
浅瀬には熱帯魚がいるんだろう?ちょっと行ってみないか
南国らしいカラフルなドリンクも良いが、似たような色の熱帯魚と海を眺めるのも楽しいだろう
温かな海というのも心地が良いが、シュノーケルってちょっと難しいな
心音、ほらと指で合図して立てた人差し指に集まった魚を楽しみ終わったら海岸で一休み
ついでにビーチコーミングをしよう
心音、気に入りの貝殻でも探さないか
巻貝の類は漣の記憶を抱くという
ほら、耳に当てて見ろ。聞こえるぞ
そうやって一緒の思い出を一個一個作ろう
「(藍夜! すげぇぞ魚いっぱいだ! あははっ、集まってきた!)」
シュノーケルの装備を纏い、鮮やかなエメラルドグリーンの浅瀬に潜った途端に魚たちに囲まれた楊・暁(うたかたの花・f36185)は、視線でそう御簾森・藍夜(雨の濫觴・f35359)へと語りかけながら笑顔を見せた。
初めてのシュノーケリングは、それこそ最初は多少ぎこちなかったが、慣れた今はちょうど良いこの水温も心地良い。
なによりも、南国めいたカラフルなドリンクをふたりで飲むのも捨てがたかったが、同じカラフルならこちらもまた愉しいだろうと思って心音を誘って大正解だった。
魚に啄まれてくすぐったいのだろう。耳をぴくぴくと動かす様も、ゆらゆら揺れる尻尾も、どこをとってもすべてが可愛い。
は? 熱帯魚も可愛い? それよりも心音に決まっているだろう。
「(あ、確か指立てるともっと集まってくるんだよな? あはははっ本当だ、すげぇすげぇ!)」
――と言っているのも視線だけで完璧にキャッチした藍夜だったが、
(……いや、ちょっと待ておいそこの魚の群れ! どさくさに紛れて今、心音の頬に触れたな!?)
更に群れてきた熱帯魚たちから心音を取り戻さんと――指を立てると良いと自分が教えたのに――間に割って入って、後ろからぎゅっと抱きしめる。
「(藍夜??)」
「(……いや、何でもない)」
きょとんと暁に染む瞳を向けてくるのも可愛すぎる。そりゃあ魚も集まってくるというものだ。
だが触れるのは駄目だ。俺の許可なしでは触れさせないし、俺は許可を出すつもりは毛頭ない。
「(っ、ふふ、藍夜の周りにも集まってきてるぞ)」
腕の中で動いた心音に気づいて顔を上げれば、さっき散らした魚たちがまた戻ってきていた。鎌倉にも海はあるが、さすがにここまで眩しく鮮明な色の魚は見られない。珍しいもの好きな心が疼き始めたところで、くつくつと心音が笑った。
「(あいつら、俺たちみてぇだ)」
言いながら指さした先には、躍るように泳ぐ青と赤の熱帯魚。他は藍夜たちへと群れてきているのに、そんなことはお構いなしに2匹で戯れている姿に、藍夜もつい笑みを零す。
「(じゃあ……俺たちも?)」
答えは分かっているけれど、それでも心音自身から答えが欲しくて尋ねれば、最愛の人は答える代わりに、花のように綻びながら藍夜へと抱きついた。
「はー……! 面白かったぁ!」
浜辺に腰を下ろして一息吐く心音の、その尻尾を丁寧に持参のブラシでコーミングしながら、
「そうだ心音。折角だ、ビーチコーミングをしないか?」
「びーち……こーみんぐ? |それ《そのブラシ》で??」
「っ、くくく……かわいい」
「もう……!」
綺麗に整い終えた尻尾をぱたぱたと振りながら頬を膨らませる心音に詫びて、藍夜は説明を添える。気に入りの貝殻でも探そう、と誘われれば心音も大きく頷いて、日傘代わりに差した鴉の裡へと入って腕を絡めた。
ぶらぶらと、他愛のない話をしながら波打ち際を歩き、目を惹かれた貝を拾って、ふたり揃いのチャイナパーカーのポケットに詰めてゆく。
「あっ、巻貝だ! すげぇ綺麗……それに面白い形してんなぁ」
「巻貝の類は漣の記憶を抱くという。ほら、心音。耳に当てて見ろ。聞こえるぞ」
「じゃあ藍夜も」
そう言って互いに顔を近づけて、貝にそっと耳を添えれば、鼓膜に響く、微かな、けれど確かな波音。
こんな風にふたり、これからも共に想い出を紡いでいこう。
ひとつひとつ、大切に。
この耳許に届いた歌のように――ささやかながら、心に残る日々を。
大成功
🔵🔵🔵
キャスパー・クロス
プリムちゃん(f38888)と一緒
水着23姿で
「綺麗な海……綺麗な青……!」
ブルーアルカディアの名に違わぬ、陽光と混じり合って幾万にもグラデーションする鮮やかな青に心を震わせて
すごいよ、すごいね!って子供みたいにはしゃぎ、最愛の妻・プリムちゃんの手を引いてまるで焦るような速度で駆け出す
浅瀬に足を浸ければその冷たさにも青を感じながら
両手で掬った水をプリムちゃんの胸元へとばしゃり、唐突に水遊び開始!
浴びせられてはやり返し、そのたびきらきらと歓笑の声を上げて
身体が海の涼に慣れたら、自然と少しずつ沖の方へ
「そういえばプリムちゃん、泳げるんだっけ?」
離れないように、エスコートするように手を携え
泳げることを確認したら、それじゃあ行くよと小さく笑って深く息を吸い、ぴたりと身を寄せて
寄せては引く波の流れに敢えて逆らわず、深く水底に沈むように身体を預けていく
静寂に包まれ、目に見えるものは青に染まり、重力からも解き放たれて
寄り添う身体の感触だけがすべてになったら
ゆっくりと唇を重ねて、二人だけの時間を味わうの
シュプリムント・メーベルナッハ
キャスパーちゃん(f38927)と一緒に遊びに来ましたー♪
服装は水着23で。
わぁ…すっごぉい…!
海も空も青くてきらきらで、すっごい綺麗なの…!
ね、キャスパーちゃん、すっごいよね…!
こんな綺麗な場所があるなんて…あ、ちょっと待ってー!
(キャスパーに手を引かれて一緒に走っていく)
まずは軽く足を浸して。
ん、ちょっと冷たいかも…でも、これくらいの冷たさが心地良くて…って、きゃぁんっ!
(水かけられてびっくり)
もう、キャスパーちゃんてばぁ!お返しだよー!
(そのまま暫し水かけあい遊び。それはもう楽しそうに)
その後は二人で沖の方へ。
ん、泳ぐのは大丈夫だけど…足がつかない深さになるとちょっと怖いかも…
キャスパーちゃん、離れないでね?
キャスパーちゃんに寄り添いながら、真似るように海中へ潜り。波に身を預けながら、深い青の世界を感じて…
全てが青に染まる中で、キャスパーちゃんと二人漂って…二人きりで同じ世界を感じあってる、そう思えば改めて、一番大好きなお嫁さんへの愛しさがこみ上げて。
海の中、熱く唇を重ね合うの…♪
漣に惹かれるまま歩いた先、椰子の木の葉陰を抜けたそこに広がる一面の青に、キャスパー・クロス(空色は雅やか・f38927)とシュプリムント・メーベルナッハ(穢死檻の巫女・f38888)は一瞬息を飲んだ。
「わぁ……すっごぉい……!」
遠く遠く、どこまでも晴れ渡る蒼天と、波紋を燦めかせながら波打ち寄せるターコイズブルーの海。その異なるふたつの青の境ではなく、白雲の群れが涯ての境界線を描く様に、ここがブルーアルカディアなのだと実感する。
「海も空も青くてきらきらで、すっごい綺麗なの……!」
「本当、綺麗な海……綺麗な青……!」
何故この世界が“青”を冠しているのか。
この景色を見れば誰しも、その問いかけは知らずと裡から消えているだろう。それほどの青が、一瞬一瞬、澄んだ夏の陽を纏って繊細に色彩を変え、より一層鮮やかに燦めきを纏っている。
「すごいよ、すごいね!」
「ね、キャスパーちゃん、すっごいよね……! こんな綺麗な場所があるなんて――」
「ああもうすごすぎる! めちゃくちゃ透明感ある! 行こう、プリムちゃん!」
「――あっ」
子供みたいにはしゃぐ姿につられて笑みを零しかけたら、瞳を輝かせたキャスパーにきゅっと手を包まれて。
空も海も逃げやしないのに、うずうずと浮き足立つ気持ちが抑えきれずに駆け出した愛おしい人に手を引かれたシュプリムントの「ちょっと待ってー!」と響く声が、柔く夏風に溶けていった。
知らず火照った爪先を、白い飛沫を立てながら寄せてくる波にそっと浸ける。
「あははっ、冷たっ」
「ん、ちょっと冷たいかも……でも、これくらいの冷たさが心地良くて……って、きゃぁんっ!」
「ふふ、プリムちゃん可愛い」
両手で掬った涼やかな青をシュプリムントの胸元へ軽くかければ、それが水遊びの合図。
「もう、キャスパーちゃんてばぁ! お返しだよー!」
ぱしゃぱしゃと水かけ合うたびに弾ける、飛沫と笑み声。ときに渚を走ったり、ちょっと躓いて浅瀬に飛び込んだり。追って、逃げて、ふたりの娘はくるくると舞うように戯れる。
そうして思いきり笑顔を交して、海の温度に馴染んできたら、気になるのはもっと深い青のある場所。
ゆっくり波に揺られながら沖へと出て、一度、海と空の涯てを眺めた。頬に触れる海風に乗って、潮の香がひときわ濃く胸を満たす。
「そういえばプリムちゃん、泳げるんだっけ?」
「ん、泳ぐのは大丈夫だけど……足がつかない深さになると、ちょっと怖いかも……」
「そっか。――なら」
言って、そっと差し出された手にひとつ瞠目すると、シュプリムントは眦を緩めて手を重ねた。
絶対に離れぬように、離さぬように。
「それじゃあ行くよ」
「キャスパーちゃん、離れないでね?」
声に不安を滲ませるシュプリムントへと答える代わりに、キャスパーはちいさく、けれど確りと微笑んだ。手を繋ぎながらシュプリムントの腰を抱き、肌を寄せる。
視線を合わせて、頷いて。深く息を吸ってから、とぷん、と海の中へ身を沈めた。
一瞬にして切り替わった世界の|彩《いろ》。
極彩色の魚たちに歓迎されながら、波の流れに逆らうことなく、深く、深く、紺碧の中へと漂ってゆく。
仰ぎ見た視線の先にあった陽の光も届かぬほどの場所に着いたころには、景色は一面、瑠璃色に染まっていた。
あれほど鮮明だった魚たちも、ここでは僅かな色が見え隠れするばかり。
もう、波音も聞こえない。微かに聞こえる泡沫の弾ける音も、すぐさま静寂に溶けて消える。身体を大地に留める重力すら、ここにはない。
あるのはただ、影帯びながらも澄んだ青と、最愛の人のぬくもり。
同じ景色を、|彩《いろ》を見ている。そう実感すれば一層、幸せと歓びと愛しさが止め処なく溢れてくる。
どちらからともなく繋いだ手の指を絡ませ、強く握り身体を引き寄せ合う。触れた場所から伝わる熱が、歓びに染まる頬が、冷涼な青の世界だからこそ一層顕になって、沸き上がる愛おしさのままにそっと唇を重ねる。
どうかこのまま、もう少し。
青ではなく――あなたに溶けていたい。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第2章 日常
『天空のナイトマーケット』
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POW : ナイトマーケットを楽しむ
SPD : ナイトマーケットを楽しむ
WIZ : ナイトマーケットを楽しむ
|
種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
朱酉・逢真
【逢魔ヶ刻】
会話)ああ夜だ、少しは気分がいいよ。ナイトマーケットかァ。呪物売ってッかなァ。此岸で蒐めた呪物な、とある場所でひと纏めに置いてあンだけどさ。偶に合体してより|元気に《ヤバく》なってンだよなァ。今度旦那やイツメンに見せてやるな。遠慮すンなってェ。そォいう旦那は何買うよ?
行動)旦那の求める門を探そう。ご覧よ旦那、繊細な細工物のストラップがあるよ。買うかい? あとはチェーンかな…オヤ。ご覧よ旦那、あの楽器(種類おまかせ)。強い情念がまとわりついてら。ありゃもう少しで"宿る"ぜ。へ、買ってくれンの? ヤありがてェけどよ…ひ、ひ、奉納品ってンなら断る理由もねェやなァ。ありがとよゥ。
深山・鴇
【逢魔ヶ刻】
さて夜だ、調子はどうだい?
それは何より、今日はナイトマーケットが立ってるそうだよ
逢真君の興味は…まぁそうだろうね、呪物関連だろうね
これだけの規模、呪物の一つや二つあるだろうしねぇ
合体?呪物って合体するものなのかい?混ぜるな危険じゃないかいそれ
いやいやいや遠慮しておくしイツメンも断固辞退するって言ってるよ(心の代弁)あ、聞いてないね
俺かい? スマホのストラップか、メガネチェーンの替えってところかな
ふむ…赤い石のやつにしよう、スマホも赤と黒だしね
チェーンは丈夫であれば細工は拘らんが
ん?あれか。…呪いが?
よし、俺が出そう(それ、と買い求め)
たまにはいいだろう?うちのかみさまへの奉納品だよ
閃光のように最後のひかりを残しながら夕陽が雲の彼方へと消え、残ったひとときの紺碧もまた、紫を滲ませながら宵へと溶けてゆく。
調子はどうだい? と傍らに問えば、少しは気分がいいよ、と普段通りの声音が返ってきた。空が近いからだろうか。夜の海風は熱気を帯びることもなく、さらりと頬を撫ぜていくのが心地良い。
「それは何より、今日はナイトマーケットが立ってるそうだよ」
のんびりとした足取りで向かう先、昼とはまた異なる様相を見せている海辺へと鴇が視線を向け、逢真もまた同じものを双眸に映して口端を上げる。
「ナイトマーケットかァ。呪物売ってッかなァ」
「逢真君の興味は……まぁそうだろうね、呪物関連だろうね」
そう得心しながら、よりはっきりと見えてきた市の様子に目を瞠る。
緩く弧を描く沿岸、その一部に突き出た桟橋も含め、数多の天幕が連なっていた。軒先に吊されたとりどりの洋燈に灯され、店毎に異なる色合いの布地が柔らかく夜に浮かぶ。穏やかな漣の音に紛れて奥の方から聞こえてくる、澄んだ笛の音。人々の賑わいの中でも良く通るその調べが、どこか夜祭りを思わせた。
「これだけの規模なら、呪物の一つや二つありそうだね」
「これはこれは、掘り出し物が見つかりそうだァ」
効率良く探そうなんて考えは毛頭無い。気の向いたままに行き交う人々に混ざり、あちらこちらの店先を眺めてみる。プリズムが零れたかのように卓上で燦めく宝石と装飾品を見るに、どうやらこの一帯は東の浮島の品々を集めたエリアらしい。
「そういや、此岸で蒐めた呪物な」
「ああ、前に言っていた」
「そう。それをとある場所でひと纏めに置いてあンだけどさ。偶に合体してより|元気に《ヤバく》なってンだよなァ」
「合体?」
聞きながら店頭の品々を流し見していた鴇が、反射的に隣を見遣った。愉しげに眸を細めた逢真が、「あァ」と頷く。
「呪物って合体するものなのかい? 混ぜるな危険じゃないかいそれ」
「今度旦那やイツメンに見せてやるな」
「いやいやいや遠慮しておくしイツメンも断固辞退するって言って――」
「遠慮すンなってェ」
「あ、聞いてないね」
心の声まで代弁したというのに、連れは全く以て素知らぬふりときた。そォいう旦那は何買うよ? なんて振られた言葉には苦笑を滲ませ、鴇も「俺かい?」と聞き返す。
「スマホのストラップか、メガネチェーンの替えってところかな」
「成程。――あァ、ご覧よ旦那。彼処の店に、繊細な細工物のストラップがあるよ」
逢真の視線の先には、鮮やかな緋色の天幕があった。軒先で売り物を照らす洋燈の赤銅は余所よりも色濃く、それだけでこの店が経てきた月日が窺い知れる。
いらっしゃい、と出迎えた|嫗《おうな》は、それだけを言うとまた口を閉ざした。確かに此処では、余計な売り文句など不相応というものだろう。
言葉はないが、かといって拒絶されている気配もない。寄っても去っても咎められることのない雰囲気に浸りながら、異国めいた布の上にずらりと並ぶ宝飾品を見始める。
緑、青、黄と、色毎に並べられたその隣にある赤で視線が止まった。
「ふむ……赤い石のやつにしよう、スマホも赤と黒だしね」
「あとはチェーンかな」
「チェーンは丈夫であれば細工は拘らんが……」
言い終えかけたところで、目に留まったひとつを手に取った。金のストラップの端に一粒灯る、真紅の石。洋燈に翳すと光を抱いて燦めいたそれは、決して華美なわけではないけれど何故か心に残る。
「買うかい?」
まるで胸中を見透かすような逢真の笑みに、鴇も頷いた。嫗へと銭を渡し、対価として得た赤をそっと裡に仕舞う。
「じゃあ、次は逢真君のも――」
「……オヤ。ご覧よ旦那、あの楽器」
「ん? ああ、あれか」
ちらり仰ぎ見た向こうの店先にあるのは、丸みを帯びた木製の楽器だった。竪琴のように見えるが、見知った形とはまた異なるそれに惹かれるように、ふたりは翡翠染む天幕を潜った。
店主の話では、リラという名の古楽器だという。縦に弦が張られているのは竪琴と同じだが、ギターのような共鳴胴を擁している。
「強い情念がまとわりついてら。こりゃもう少しで“宿る”ぜ」
「……呪いが?」
ぼそりと零れた独り言ちのような声に、鴇もまた小声で尋ねた。静かに返る首肯に微笑を浮かべると、
「よし、俺が出そう」
言って、店主を呼び買い求める鴇に、今度は逢真が瞠目する。
「へ、買ってくれンの?」
「たまにはいいだろう?」
「ヤ、ありがてェけどよ……」
そんな風に逢真が恐縮めいた気配を纏うものだから、鴇もまたひとつ笑みを深めて、店主から受け取ったばかりの品を傍らへと差し出した。
「うちのかみさまへの奉納品だよ」
「ひ、ひ、奉納品ってンなら断る理由もねェやなァ」
ありがとよゥ、と続いた言葉と視線へ、満足げに頷きを返す。
何が宿るのか、誰の|情念《想い》か――それは、近いうちに自ずと知れるのだろう。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ユア・アラマート
灯(f00069)と
服装:水着23
色々な店があるんだな。賑やかだが、心地の良い騒がしさだ
せっかくだし、今日の思い出に何か贈り合わないか?
ここならいいものが見つかりそうだ
さて、とはいえあちこち目移りしてしまいそうになるな…ん?灯はもう決まったのか
これは、時計か。ああ、綺麗な装飾だな…とても綺麗だ
ふふ、お前の想いはしっかり感じるよ。ありがとう。大事にする
私の方は…これは、ハーモニカか。木で出来てるのは初めて見た
吹けるのか?…なるほど、それじゃあ私からはこれを贈ろう
灯の演奏が聞いてみたい。私にとっては十分価値のある事なんだよ
よし、そうと決まればもう少し静かな所にいこう、そこで演奏会だ
ほらほら、はやく
皐月・灯
ユア(f00261)と
服装∶水着23
食いもん系がねーってだけで、結構祭りっぽいよな。
いいぜ。昼間のはしゃぎついでだしな
確かに、色々あるが……そうだな。
オレからはこれにする。
ああ、見ての通りの懐中時計だ。中々良い作りしてんだろ?
……まあ、いつもと似たような意味合いを込めてんだけどな。オレとお前の時間を、これからも刻むもの、ってよ。
ん……? ああ、懐かしいな。
ダークセイヴァーに居た頃は、こういう木製のやつしかなかった。
……ああ、一応な。ガキの頃だけど、吹いてた覚えがある。
……なんだよそのキラキラした顔。
聴きてーなら吹いてやるけど、そんなんでいいのか?
わかったよ、でも上手いもんじゃねーからな?
再び砂浜へと戻ってきた皐月・灯(追憶のヴァナルガンド・f00069)とユア・アラマート(フロラシオン・f00261)へ、そっと夜風が涼を届けた。陽の名残を孕んではいるものの、さらりと肌に触れる風は、揃いの水着姿のままでも心地良い。
眩しい陽射しの代わりに、あたたかな洋燈の光が満ちる海辺を眺めながら、ユア・アラマート(フロラシオン・f00261)が感嘆の息を零す。
「色々な店があるんだな。賑やかだが、心地の良い騒がしさだ」
「食いもん系がねーってだけで、結構祭りっぽいよな」
波音に混ざって届く、鈴や笛の音色と弦を紡ぐ旋律。楽器が特産品というこの浮島故か、試奏する者も多いようだ。
その祭めいた調べに誘われるように、皐月・灯(追憶のヴァナルガンド・f00069)とユアは連れだって夜市へと足を向けた。
店の軒先に吊された洋燈が、様々に染め上げられた天幕の|彩《いろ》を夜に浮かび上がらせ、幕の奥からは歓談に弾む声が聞こえてくる。行き交う人々もまた、巡り逢えたであろう品を大事そうに抱え、歓びを滲ませている。
「なあ、灯。せっかくだし、今日の思い出に何か贈り合わないか? ここならいいものが見つかりそうだ」
「いいぜ。昼間のはしゃぎついでだしな」
断る理由なぞ欠片もない。眦を緩めて頷く灯に、ユアもふわりと唇で弧を描いた。
右を見れば、万彩燦めく鉱石や、それを美しくカッティングし台座に嵌めた数々の装飾品。左へと視線を移せば繊細な図柄のレースや織物が飾られ、隣の天幕の奥には美しい木目の筺や小物が並ぶ。
これほどの夜市ならば、即決するほうが難しいのではないだろうか。そんな思考が過ぎったところで、ふと見れば傍らの灯は既に買い物を終えたようで、ちいさな包みを手にしていた。
「ん? 灯はもう決まったのか」
「まあな。オレからはこれだ」
言って、手の裡にあったそれをユアへと差し出した。掌に乗るほどの大きさで、重くもない。この店で買ったのか、はたまた隣の店か。当ててみようかとも思うも、開ければ直ぐに分かることだと開封に専念する。
「これは――時計か」
「ああ」
天鵞絨の柔らかな布の上に収まっていたのは、銀に煌めく懐中時計だった。蓋の中央にはレースを思わせる装飾が施されており、ちいさな宝石のついた長針が定期的に動く様が見え隠れしている。
「中々良い作りしてんだろ?」
「ああ、綺麗な装飾だな……とても綺麗だ」
「……まあ、いつもと似たような意味合いを込めてんだけどな」
――それは、オレとお前の時間を、これからも刻むもの。
一度では足りない。何度だって紡ぎたい、約束。
「ふふ、お前の想いはしっかり感じるよ。ありがとう。大事にする」
一度でも十分なほど伝えてくれるのに、幾度だって約束をしてくれるから。どれほど言葉にすれば、この溢れるほどの感謝を届けられるだろう。
「しかし、思いのほか早く決まったな。私の方は何に……」
言いながら移した視線の先、隣の天幕の影にちらりと見えた形に惹かれて覗いてみれば、そこは小型の楽器を扱う店だった。細笛にオカリナ、小振りのリュート。掌のほどの大きさの板に鍵盤のように金属板が並んだ楽器は、ラメラフォンという名だと店主が教えてくれた。
とりどりの楽器の中に見知った形を見かけて、ユアが顔を近づける。
「これは……ハーモニカか。木で出来てるのは初めて見た」
「ん……? ああ、懐かしいな。ダークセイヴァーに居た頃は、こういう木製のやつしかなかった」
ユアがその口ぶりにひとつ瞬いて、尋ねる。
「吹けるのか?」
「……ああ、一応な。ガキの頃だけど、吹いてた覚えがある」
「……なるほど」
「……なんだよそのキラキラした顔」
知らず顔に期待が顕れてしまっていたようだ。ふふ、と笑みを零した女は、大切そうにそれを手に取った。
「それじゃあ、私からはこれを贈ろう。灯の演奏が聞いてみたい」
「聴きてーなら吹いてやるけど、そんなんでいいのか?」
「私にとっては十分価値のある事なんだよ」
言いながら、ユアは店主へと代金を渡し、包装を頼む。
灯はそんな風に言うけれど、他でもない愛おしい人が紡ぐ音色だ。どんな想いで、どんな風に奏でるのだろう。それを聴けることを思えば、いてもたってもいられない。
まいどあり! と景気よく送り出されたふたりは、再び洋燈のひかりが溢れる市のただ中へと戻ってきた。強請るような視線を向けながら、灯へと包みを渡す。
「わかったよ、でも上手いもんじゃねーからな?」
「よし。そうと決まれば、もう少し静かな所にいこう。そこで演奏会だ」
ほらほら、はやく!
声を弾ませながら、差し出される掌を取って。
ぬくもりを重ねたふたりは、まだ暫くは賑わうであろう天幕の群れを後にして、夜の浜辺へと駆け出していった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
夜鳥・藍
かなり迷いますね。
どれもこれも種類は違えどとてもキラキラしてますもの。
鉱石のように自然が作り出したもの。細工物など技術が生み出したもの。迷うに決まってます。
でも目先の欲しいだけじゃダメよね。探し物、必要な物を見つけないと。
部屋の様子を思い出してみれば。
鉱石・宝石系は結構もうあるわ。きぬもそれなりに。灯りも時計もある。
あとは…音かしら。
そうね、手巻きのものがいいわ。巻く時のキリキリ、キリキリと言う音もいいものだし。
曲は静かな夜に聞くような穏やかなもので。
あ、これがいいわ。丁度掌に乗る大きさの星型のケースに納められたもの。
透明なケースだけど硝子かしら?
ふと、夜風に乗って鈴の音が届いた。
この洋燈の柔らかな光に包まれた市の、どこかの店から響いてきたのだろう。微か陽の熱を孕む大気のなか、澄んだ愛らしい音色が涼を運んでくれる。
「……中々決まりませんね……」
左右の天幕へと視線を移しながら、夜鳥・藍(宙の瞳・f32891)がそう独り言ちた。
目に留まるものに惹かれるまま夜市を歩き始め、既に相応の刻が過ぎているはずだけれど、一向に買う物が決まらない。
良いものがないというわけではなかった。寧ろその逆だ。品は違えど、どれも輝いていて目移りしてしまう。
なにせここに集っているのは、片や自然が、片や職人が生み出した結晶とも言えるものばかり。思い迷うのも道理というものだろう。
(でも、目先の欲しいだけじゃダメよね。探し物、必要な物を見つけないと)
次またいつこの夜市に来られるか分からない。ここでしか手に入れられないものも多いのだ。今日の余韻が冷め、ふと手許に残ったものをみて、嗚呼あちらにしておけば良かった、などと後悔するのは勿体ない。
求める品は自分用。ならば、飾る場所は自室だ。今、部屋にあるもの、どんなものを置きたいかを脳裏に描く。
鉱石や宝石は、結構な数が揃ってきた。絹もそれなりに。照明や時計なども今あるもので十分だ。
「あとは……――あ、音かしら?」
藍の双眸をぱちりと瞬くと、藍はちいさく頷いた。そうだ。あの部屋には“音”がない。勿論、風のそよぐ音など周囲の音は聞こえてくるが、あの部屋だけの“音”がないのだ。
そう気づくと、藍は再び天幕の出店を渡り始めた。軒先に灯る洋燈の淡いひかりに照らされた看板の文字やシルエットを頼りに、楽器屋を巡ってゆく。
「――あ、これがいいわ」
そうして何軒目かの店で出逢ったオルゴールを、そっと手に乗せる。
透明な星型の筺に収められた、金と銀の音の源。
「このケース……硝子かしら?」
「それは水晶さ。この浮島の端にある、月光岬で満月を浴びて生まれた天然ものだよ。それを職人の手で磨いてカットしたんだ」
水晶、と反芻しながら再び視線を落とすと、天幕の裡を灯す柔らかな明かりを受けた筺に虹色のプリズムが生まれた。
知らずと見入ってしまっていたのだろう。「気に入ったかい? 良かったら曲も聴いてみておくれ」と、恰幅の良い店主に勧められた。
静かにそっと、|薇発《ぜんまい》を巻く。きりきりとちいさな音が零れて、それもまた心地が良い。
ゆっくりと紡がれる、穏やかな音色。
優しく、どこか慈しむような夜想曲が、|漣《さざなみ》を連れて静かに海へと溶けてゆく。
大成功
🔵🔵🔵
ティティアルナ・トゥーティアーズ
珍しい織物と綺麗なリボンが欲しいかな。
愛馬のステラ(白馬)に可愛いリップストップを作りたいの。
日課の森のお散歩帰りはすっかり疲れてしまって、
いつもステラに送り届けて貰っているから…感謝の気持ち。
夜市も初めての経験。
家族からは夜は危ない時間帯と聞いていたけれど、
この世界ではそうではないの?それとも夜市だから?
人が集まれば危険も減るのかな。
目に入るもの、手に取る全てが、珍しい。
わたしの世界(エンドブレイカー)の本にはなかったものばかり。
不思議なカラクリは天使核というの?
この世界の模様には星霊建築のような不思議な力はないのね。
あれこれと目移り。
もうこうなったら偶然の良い品との出会いを期待しようかな。
零るるほどの天満星の燦めきを仰ぎ見たあと、ティティアルナ・トゥーティアーズ(森の|賢者《引きこもり》・f40993)は視線を移した。
星空が自然の成す宝石箱と言うのなら、浜辺に連なる洋燈の灯りは、人という命の生み出すそれであろう。
これほどに人影はあるのに騒がしくはなく、人々の笑み声に混じり潮騒の音も耳に届く。
(家族からは、夜は危ない時間帯と聞いていたけれど……この世界ではそうではないの? それとも夜市だから?)
人が集う場所であれば、危険も減るのだろうか。
夜市は勿論、夜に出歩くことさえ初めての娘は、そうして不思議そうに目を瞠る。見えるもの、触れるもの、なにもかもが珍しくて、知らず心も浮き足立つ。
「確か、東西南北の島によって扱う品が違うのよね?」
今回のお目当ては、織物とリボン。
真っ白な毛並みの美しい愛馬ステラに、可愛らしいリップストップを作って贈りたいのだ。
日課の森への散歩の帰り、いつも疲れてしまってステラの背に乗せて貰って家路についている。その感謝を形にするのだから、とびきり珍しく、綺麗で可愛らしい品を探さねば。そう意気込んで夜市を巡り始めるも、
――この不思議なカラクリは、天使核というの?
――この世界の模様には、星霊建築のような不思議な力はないのね。
|ティティアルナの世界《エンドブレイカー》の本には記されていないものばかりで、目移りするなというほうが無理というものだ。
けれど、だからと言って心惹かれるものに目を背けるというのも難しく、なによりも勿体ないように思えてならない。
本にも描かれていない光景が、今まさに目の前に広がっているのだ。我慢するほうが悔いを残してしまうのではないか。
「……うん、もうこうなったら、偶然の良い品との出会いを期待しようかな」
見つけたそれが本当に求めているものかどうかなんて、すべてを見て回らねば分からない。それは道理だろう、と娘はそっと得心すると、再び洋燈のひかり満ちる市を歩き出す。
意気揚々と、いつもの散歩以上に店々をまわった末に、風魔法を織り交ぜた手触りの良い生地と、魔法が宿ると言われる花露で染めたリボンに巡り逢うのは、もうすこし先の話。
大成功
🔵🔵🔵
神白・みつき
コッペリウス様(f30787)と
夜市は昼間とまた違った賑やかさで
自然と浮足立ってしまいますね
見慣れない品々に目移りしてしまいます
夜闇に響く漣の音を聴きながら織物の露店を見せていただきましょう
これならば荷物にはなりませんし新しい装いを仕立てるのにも使えます
端切れが出たらみたらしの襟巻にもできますね
コッペリウス様にお勧めいただいた上掛けも
薄手ですが日除け風除けになってとても便利ですね
紫と橙…どちらも甲乙つけがたいですが
コッペリウス様、よろしければこちらで見つけた東雲色のものと
そちらの橙のものを交換しませんか?
朝焼けと夕焼けの色を今日の思い出として贈り合いましょう
紫は夜色が似合う共通の友人へお土産に
コッペリウス・ソムヌス
同行:みつき(f34870)
海辺で夕暮れ時を眺めた後には
ナイトマーケットにも足を運ぶとしようか
ヒトが何買うのか見てるのって結構面白くはないかい?
みつきは旅する身の上だっけ
織物だったら…そんなに荷物にならないのかなぁ
眺めて歩きながら見かけた、橙色のストールは
此れとかさっきの夕焼け空にも似てるようじゃないかな
……みたらしの事といい眷属色に染めようみたいに聞こえたりして
勧めるならコッチの紫色にしておこうか
夜明けの色にも見えて……此処に居ない
知り合いへの土産にも良さそうかも
…ふふ、東雲色かぁ
夕陽と朝焼けの交換てのも乙なもんだね
朝夕夜の三人分で並んで、
移り変わる空を眺めるのも楽しみにしておく?
「織物なんてどうでしょう」
と窺うような視線を向けた神白・みつき(幽寂・f34870)に、コッペリウス・ソムヌス(Sandmann・f30787)は僅かに瞬いた。
「それならば荷物にはなりませんし、新しい装いを仕立てるのにも使えます」
「そうか。みつきは旅する身の上だっけ」
言いながら、なるほどと得心する。旅人ならば、持ち歩くものは嵩張らず、汎用性の高いものが良いのも道理だ。
それに、それを想定しているということは、今宵買うものは日常的に――表現としては語弊があるかもしれないが、肌身離さず――使うものということだろう。
「織物だったら……そんなに荷物にならないのかなぁ」
「はい。端切れが出たら、みたらしの襟巻にもできますね」
そう言って柔く笑った娘の肩で、ちいさな朱砂の精霊も応えるように一声鳴いた。
熟れた果実のように熱色を纏った陽が、地平の果てに揺蕩う雲の向こうに沈むのを見届けてから、夜市へと赴いたふたり。
灯る|燈籠《カンテラ》のひかりも、交わる人々の声も、昼の陽に負けぬほどに溢れているのに、ふと耳を澄ませば確かに漣が耳に届き、そっと夜闇に消えてゆく。
「ヒトが何買うのか見てるのって、結構面白くはないかい?」
「ふふ。それは、私が買うところもですか?」
尋ねながらも、心中ではそうかもしれないと思い至る。
見慣れぬ品々は目を奪うには十分過ぎるほど興味深く、どこからか聞こえる鈴や笛、弦の響く音色はまるで祭のようで、みつきの足も心も自然と跳ねてしまうから。
ぶらりと歩いて辿り着いた、西の浮島に纏わる品を扱う店々の一角で、暫しふたり、あちらこちらの天幕を訪れては並べられた一品物を眺め見る。
服飾用の布地から、スカーフなどの一枚物まで。中には、絨毯のような厚手のものから、人ひとりが悠々と寝転べるほどの大判のものもあった。
似たような模様や色味のものもあるが、良く見ればひとつずつ違いがある。どれもが職人の手によって生まれた、この世に唯一つの彩だ。
「此れとか、さっきの夕焼け空にも似てるようじゃないかな」
「ストールですね。薄手ですが、日除け風除けになってとても便利なんですよね」
「コッチの紫色のは……夜明けの色にも見えるね」
みたらしのことと言い、どうにも“眷属色に染めよう”という風にも聞こえたコッペリウスが、さり気なく別の色を勧めてみれば、みつきも真剣な眼差しで考え込んだ。
「紫と橙……どちらも甲乙つけがたいですね」
「紫の方は、|彼《・》への土産にしても良さそうかも」
「それは妙案です。夜色が似合いますから」
ぱっと、花のような笑顔を咲かせた後、続いて何かを思いついた様子のみつきが、声を弾ませる。
「コッペリウス様、よろしければこちらで見つけた東雲色のものと、そちらの橙のものを交換しませんか?」
「……ふふ、東雲色かぁ」
良いね、と返しながら、手許へと視線を落とす。綺麗な色味だとしか思っていなかったそれが、名を与えられただけで特別な彩りのように見えるから不思議なものだ。
「夕陽と朝焼けの交換てのも、乙なもんだね」
「でしょう? 今日の思い出に」
「じゃあ、移り変わる空を眺めるのも楽しみにしておく?」
それは、何気ない|誘《いざな》い。
それでも、彼らの縁がこの先も続くのだと、少なくともコッペリウスはそう思っているのだという証。
今度は彼も連れ立って――三人、肩を並べて。
いつの日か、巡り来るかもしれないひとときを思い描きながら、みつきもふわりと眸を細めた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
稲垣・ミージュ
まほろ(f35834)と
モラピュアの姿でマーケット巡り
色んなものがいっぱいで目移りしそう
はぐれない程度に色々飛び回ってるよ
あ、蓮見くーん、こんばんはっ!
(元気よく手を振り)
どう、楽しんでる?
まほろも覚醒したから、一緒に来てるんだ
またねー!
これ、みんなのお土産にどう?
(螺鈿に似た細工のティースプーンを選び)
まほろはそれ相手に渡す時に告白しよ
気持ちはちゃんと伝えなきゃダメだよ
半端な気持ちで好きなんじゃないよね?
あの二人ならきっと大丈夫だよ
お義兄さんの方も色々思い出してきてしっかりしてきたじゃん
もぅ…
良い人で終わっちゃうよ
(頭の上に乗って覗き込み
呆れ笑い)
彼女ならまほろをお願いできるって思ったのにな
稲垣・幻
ミージュ(f36031)と一緒に
夏物ジャケットにシャツと、ラフな姿
はしゃぐのはわかるけど
異世界で逸れないでよ
蓮見くん、お久しぶりです
外って本当に色んな世界があるんですね
空飛ぶ島とか、昔見たアニメ映画みたいでワクワクします
どうぞお互い良い休暇を
(蓮見くんと別れて)
そのスプーン、いいね
これはガムランボール?
(瀟洒なデザインの真鍮のボールを手に
中心に朱色の石が嵌っている)
…いい音
あの人にはこれが良いな
(片想い相手を思い浮かべ)
…み、ミージュ!?
ま、前にも言っただろ!?
彼女は今、お義兄さんの記憶喪失で大変な状況なんだ
これ以上彼女の感情を掻き乱したくない
彼女達を助けられれば十分なんだ
…お、お願いって!?
「まほろ、まほろ! 色んなものがいっぱいで目移りしちゃうね!」
「はしゃぐのはわかるけど、異世界で逸れないでよ?」
そう微笑みながら軽く息を吐く稲垣・幻(ホワイトティーリーブス・f35834)の隣で、モーラットピュア姿の稲垣・ミージュ(ティータイムモーラット・f36031)が背中の愛らしい羽根をぱたぱた羽ばたかせながらひとつ跳ねた。
「大丈夫大丈夫、はぐれたりしないよ――あ、蓮見くんだ! 蓮見くーん!」
「え?」
見知った姿を見かけて、補足ちっちゃな手をぶんぶんと振りながら飛んでゆくミージュを追いかけながら、幻も倣って先を見れば、確かに名の主である少年の――|銀の雨降る世界を駆けた《あの》頃と変わらぬ――姿があった。
「こんばんはっ!」
「今晩は、幻さん、ミージュくん。おふたりもいらしてたんですね」
「うん。まほろも覚醒したから、一緒に来てるんだ」
そう言って向けられた円らな瞳の視線に頷きながら、幻が柔和な笑顔を向ける。
「蓮見くん、お久しぶりです」
「お久しぶりです。……ふふ、すみません。つい“大きくなって”なんて思ってしまいました」
「そう言えばそうですね」
つられて、幻もくすくすと笑う。
能力者として在ったときから10年ほど経って、夏物ジャケットにシャツ姿といったラフな着こなしもできるほど、大人になった自分。
片や、かつては3つほど上だったのに、今や年下の見目になっている彼。
それが運命の糸症候群によるものであることは聞かずとも明らかで、何故、と問うのは、すくなくともこの賑わいのなかではないことを幻も承知していた。
故に、いつも通り柔く双眸を細め、穏やかな声音で返す。
「それにしても、外って本当に色んな世界があるんですね。空飛ぶ島とか、昔見たアニメ映画みたいでワクワクします」
「ああ。ありましたね、有名な作品で……映画も臨場感ありましたが、実際に体感すると感慨深いです」
「蓮見くんはどう? 楽しんでる?」
「はい。見たことのないものばっかりで、どこから見ようか迷っていたくらいです」
おふたりも良い品と巡り逢えると良いですね、と微笑む双良に礼をしながら、
「どうぞお互い良い休暇を」「またねー!」
手を振り合って別れた幻とミージュは、再びぶらり夜市散歩へと繰り出した。
そぞろ歩きながら、目に留まった品があれば天幕を潜ってじっくりと眺める。そうして自然と思い浮かぶ“その品に似合いの持ち主”は、自分ではなく大切な人たちだ。
「ねぇねぇ、まほろ。これ、みんなのお土産にどう?」
「そのスプーン? うん、いいね」
ミージュの正面を見遣ると、螺鈿めいた淡い虹色の輝きを抱く、繊細な細工のティースプーンがあった。どうやらセットのようで、天鵞絨が敷かれたケースに複数本が収まっているそれを迷わず購入したら、またふたり並んでぶらり人波を歩き出す。
そうして、何気なく見た先に見つけたもの。ちいさくも確かな煌めきに惹かれて|朱《あけ》の天幕を潜れば、|燈籠《カンテラ》の柔らかなひかりを帯びた小振りの楽器が飾られていた。
「これは……ガムランボール?」
此処での名は異なるのかもしれないが、現代日本であればそう呼ばれる球体をひとつ掌に乗せてみる。隣から不思議そうに覗き込むミージュへと見せるように掌を横に揺らすと、ちりりと綺麗な音色が零れた。
「……いい音」
瀟洒な作りの球体の、その中央に嵌まる朱色の鉱石を眺めながら脳裏を過ぎったのは、想いを馳せる彼女の姿。「あの人にはこれが良いな」と零した声を、どこか呆れた様子のミージュが拾う。
「まほろは、それ相手に渡す時に告白しよ」
「……み、ミージュ!?」
突然の提案――というより圧――に、思わず声が裏返った。たじろぐ幻へと、尚もミージュはジト目を向ける。
「気持ちはちゃんと伝えなきゃダメだよ。半端な気持ちで好きなんじゃないよね?」
「ま、前にも言っただろ!? 彼女は今、お義兄さんの記憶喪失で大変な状況なんだ。……これ以上、彼女の感情を掻き乱したくない」
「あの二人なら、きっと大丈夫だよ。お義兄さんの方も、色々思い出してきてしっかりしてきたじゃん」
相手を気遣う優しさは幻の美点だが、それが最善とゆかぬ場合も往々にしてある。――特に、恋愛においては。
彼女達を助けられれば十分なんだ、と独り言ちるように洩らした幻に、ミージュもつい嘆息を零した。
「もぅ……良い人で終わっちゃうよ? 彼女なら、まほろをお願いできるって思ったのにな」
「……お、お願いって!?」
そうやって狼狽する姿に、どこか子供の頃の面影も重なって。
ミージュは幻の髪に埋まりながら、呆れ笑いを滲ませた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
壽春・杜環子
そらくんと
ねぇそらくん、わたくしに似合う物ってあるかしら?
ふふ、せっかくだから貴方が好きな物の似合う女になりたいのだけど、だめ?
なんてね、甘えてしまってごめんなさいね
なんでしょう、この空の国らしいものってあるかしら…?
貴方のような青いお星様の…身に着けられるものがいいの
あ、あのね!
その…
(自身より大きな手を、一瞬躊躇ってから取って
あ、あの、その、
一緒に…いられたらいいと、思うの
さみしいのは…いや、だから
ごめんなさいね、いい大人なのに!
あぁもう逃げてしまいたいほど恥ずかしい…!
きらきら瞬く中に簪があったのなら、探してみましょう―星を
そして、
わたくしから貴方に贈るのは花を…青い桜を模したブローチを
夜市の光に溶けてゆく旧友たちの背を見送ると、蓮見・双良(夏暁・f35515)は傍らの壽春・杜環子(懷廻万華鏡・f33637)へと視線を戻した。
「お待たせしました、杜環子さん」
「ううん。良いのよ。お友達?」
「はい。銀誓館の」
そんなありふれた会話を交しながら、ふたりもまた、連れ立って歩き出す。
島の住人の話では、ある程度は四方の浮島毎の店で固まってはいるが、それも定められたものではないらしい。
だから思いもかけぬ場所に目当ての店があった、なんてことも良くあるのだと聞かされれば、もうこれはすべてを見る心算になるのも必然。
とはいえ、折角のふたりの時間だ。気負わずにこのひとときを愉しみたいからと隣の杜環子の様子を見遣れば、ねぇそらくん、と甘やかな声が返ってきた。
「わたくしに似合うものって、あるかしら?」
「杜環子さんに? それなら――」
全部、と言いたいところだったが、それは彼女の好む答えではないだろう。
「ふふ、せっかくだから貴方が好きなものの似合う女になりたいのだけど、だめ? ――なんてね」
甘えてしまってごめんなさいね、と続けた声がどこか淋しそうにも聞こえたから。双良はそっと背に回した手で、華奢な肩を抱き寄せる。
「駄目なんてこと、あるわけないじゃないですか。……可愛い」
愛おしさを込めて、そっと耳許で囁く。それだけて頬に朱を走らせる杜環子が、なお一層愛おしい。
「かっ、からかわないでくださいまし!」
「からかってなんていませんよ? ――でも、本当にそれで良いんですか?」
彼女の望むことならなんだって叶えたいけれど、自分の好みが彼女に似合うかは、また別の話だ。
折角なら似合うもので飾り、その魅力を一層引き立てたい。その心中を察したのか、うろうろと彷徨っていた杜環子の視線が、漸く双良のそれと交わった。
「あ、あのね! その……」
「はい」
その艶やかな唇から紡がれる、一音たりとも聞き逃すまい。そんな前のめりな気持ちを柔らかな微笑みで隠してみせれば、ふと触れたぬくもりに、双良はその名の通りの青空色の双眸を瞬いた。
「あ、あの、その……一緒に……いられたらいいと、思うの。さみしいのは……いや、だから」
一瞬躊躇いながらも、勇気を振り絞って取った双良の掌。一回りも大きなその熱が、杜環子の手をぎゅっと包み込む。
「杜環子さん」
「ご、ごめんなさいね、いい大人なのに!」
あぁもう、逃げてしまいたいほど恥ずかしい――そんな想いさえも双良にはお見通しで、くつくつと堪えきれず笑みを零してから、「謝ることなんてありませんよ」と甘く語る。
「そういうことなら、喜んで。でも、これだけ品数が多いですし、ひとまずジャンルは絞りませんか?」
「ジャンル……なんでしょう、この空の国らしいものってあるかしら……?」
「此処らしさのあるもの……“青”、とか?」
「なら……貴方のような、青いお星様の……身に着けられるものがいいの」
可愛すぎるお強請りに、双良の口許もどうにも緩んでしまう。溢れて止まない愛おしさのまま、「なら、僕もあなたの傍に」と破顔する。
手を繋いで、寄り添って。ぬくもりを重ねて、光の海めく夜市を渡り歩く。
真紅、浅葱、萌黄に山吹。|燈籠《カンテラ》の灯で夜に浮かぶ、数多の|彩《いろ》の天幕を巡り――漸く巡り逢えた対の品。
ふたつを彩るのは、星抱く鉱石・|蒼玉《スターサファイア》で形作られた桜の花。
光があたるたびに蒼の裡に白い星が顕れる、地上ならば希少なその石は、東の浮島であれば比較的良く採れるという。
「僕からはこれを。一番好きな色を、一番愛する貴女へ」
蒼玉で作られた大小の桜の花。その袂から連なり枝垂れるのは、零れる夜露を思わせる白や金の真珠と水晶たち。
「わたくしから貴方に贈るのは、こちらを」
繊細な細工の金の台座に収まるのは、同じく蒼玉の桜がふたつ。寄り添う二輪は、共に在りたいという願いを込めて。
「良くお似合いですよ、杜環子さん」
「そらくんも。――とっても素敵です」
髪に、胸に飾られた蒼星が、夜にひとつ、燦めきを零した。
大成功
🔵🔵🔵
月水・輝命
【輝花】
ダイビングは楽しかったですわ♪
オルゴールの提案には、一も二もなく賛成を示します。お互い、披露し合いっこしましょう。
選ぶオルゴールは、少しゆったり目の速度のものを。音色のこだわりはなく。
月と星のデザインのものを選びますわ。夜空の月が、蓋に見えるもの。
買えましたら、浜辺へ行って、お菓子を作って頂けていたことに驚きますのよ。とても美味しそうですの!
甘味、大好きですのよ♪
苦手なものは特に無いですわ。どちらも頂いても?
澪さんに続けて、わたくしはUCを。
花々に優しい月の光を模したもので包み、柔らかく光らせますわ。
素敵な花畑を海辺で眺めて、更に甘味という贅沢。
素敵なひと時、ありがとうございますわ。
栗花落・澪
【輝花】
折角だし思い出になるもの買いたいよね
オルゴールなんてどうかな
お互い好きなもの選ぼうよ
僕はゆったりめの曲調で…少し高めの響くような音色が好きかな
※花モチーフの繊細なアンティークデザインでお任せ
購入したら浜辺へ
僕実はお菓子作って来たんだ
クーラーボックスから海を模したアイシングクッキーや
中身が零れないよう小瓶に入れたブルーハワイのゼリー
スプーンを取り出し月水さんへ
もし苦手なものがあったらごめんね
よかった。勿論両方どうぞ
浜辺に聖痕(どこにでもある花園)の魔力で花畑を生成
その中に座りオルゴールの音色を交互に流しながら
並んで海を眺めつつ甘いスイーツに舌鼓を
こちらこそ、誘ってくれてありがとう
とりどりの彩合わせて煌めく海の青を満喫した興奮冷めやらぬまま、月水・輝命(うつしうつすもの・f26153)と栗花落・澪(泡沫の花・f03165)は海辺に集う天幕の、その軒先の|燈籠《カンテラ》から零るるひかりの海へと踏み込んだ。
目を惹くものは光の数ほどあるけれど、今年の夏に出逢って、初めて遊びに来た今日だからこそ欲しいのは、ふたり共通の想い出の品だ。
「そうだ。オルゴールなんてどうかな? お互い好きなもの選ぼうよ」
あちらこちらへ視線を移しながら澪が提案すれば、
「素敵ですね! お互い、披露し合いっこしましょう」
すぐさまこくりと頷くと、輝命もまた愉しげに眸を細めた。
手巻きのも良いけれど、この夜市で売られているオルゴールには天使核で動くものもあると聞く。それこそ、まさに此処ならではの品ではないか。
そうして一度別れて市を巡ったふたりは、各々気に入りの一品を抱え、待ち合わせ場所である浜辺の端へと戻ってきた。
「お待たせしました、澪さん……!」
「大丈夫、月水さん。全然待ってないよ。さ、まずは一休みしよう? 僕、実はお菓子作って来たんだ」
「まぁ、お菓子……!?」
勧められるまま柔らかな砂の上へと腰を下ろした輝命の前に、クーラーボックスから取り出された澪お手製のお菓子たちがずらりと並ぶ。
海を模したアイシングクッキーと、ブルーハワイのゼリー。
ゼリーが小瓶に入っているのは、中身が零れぬようにという配慮もあるが、まるで海を小瓶に詰めたかのようで可愛らしい。
「とても美味しそうですの! 甘味、大好きですのよ♪」
「あ、もし苦手なものがあったらごめんね」
「特にないですわ。――どちらも頂いても?」
「よかった。勿論、両方どうぞ」
花のように綻びながら輝命へと匙を手渡すと、澪は静かに聖痕の魔力を己が裡に巡らせた。溜めた魔力を放出すると同時、周囲の砂浜が一面の花畑に彩られる。
まるで魔法のような変化に眸を煌めかせた輝命もまた、裡なる力を呼び寄せる。ぽつり、ぽつりと生まれた月の光が零れれば、忽ち一輪、また一輪と、花々が夜に淡く灯ってゆく。
その優しい光に包まれながら開けるのは、互いに選んだ|自鳴琴《オルゴール》の入った包み。丁寧に包装を解いて顕れた品に、どちらからともなくふたり、感嘆の息を零した。
「月水さんの、綺麗……。月と星が鏤められてる……」
夜空に浮かぶ月に見立てた円形の筺の蓋を開けると、濃紺の天鵞絨に抱かれた銀のオルゴールが顕れた。特殊な魔法でもかかっているのだろうか。周囲を飾るように金糸で施された刺繍の星が、角度を変えるたびに色を変えて燦めいている。
流れた音色は、ほんのりと穏やかなもの。落ち着いた響きが夜の波の音に混ざり、なお心地良い。
「澪さんのは、お花のモチーフなんですのね。繊細なアンティーク調で、素敵ですわ」
正方形の筺を形作るのは、レースを思わせる真鍮製の花模様。金に縁取られた硝子の蓋にある蝶の留め具を外せば、星月夜よりも緩やかな曲調の、鈴音のような愛らしい音色が響き出す。
互いの旋律を愉しみながら、花を愛で、海に癒やされ、食む甘みが裡に蕩ける。
――素敵なひと時、ありがとうございますわ。
――こちらこそ、誘ってくれてありがとう。
この夏がもたらした贅沢で幸せなひとときに、心からの感謝を。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
クーナ・セラフィン
ミモザさん(f34789)と
去年は夜空を飛んで楽しんだけど海辺の夜市の雰囲気もいいね。
どんな宝物に巡り合えるかな、とミモザさんと合流するなりして歩き回ってみる。
…何となく夜のお店の品物は普段よりも素敵に思える気がするような。
燈篭の灯りの雰囲気とかもあるのかなーと目移りしがちな言い訳してみたり。
でもやっぱ面白そうなのは寄木細工だね。
いやもう、こんな細かいの作るの途方もない努力が必要なんだろうし、構造見てるだけで楽しいよね。
ミモザさんはどんなものに興味を惹かれるのかな、と聞いてみたり。
どういう所が好きなのかとか、色々お店を巡って喋りながらこの夏の夜の浮島の時間を楽しみたいね。
※アドリブ絡み等お任せ
「やっぱり、寄木細工は面白いね」
所狭しと天幕の裡に飾られた品々のなかから、特に惹かれたひとつを手に取ってクーナ・セラフィン(雪華の騎士猫・f10280)が言う。
「いやもう、こんな細かいの作るの途方もない努力が必要なんだろうし……構造見てるだけで楽しいよね」
掌にあるのは、一見、木を組み合わせ生まれた繊細な柄が美しい、けれど唯それだけの筺のように見えるが、そうではない。
自慢気に語る店主の話によると、特定の手順を踏まねば開かない、仕掛け筺だというのだ。
最初から答えを知るのも、と躊躇ったけれど、体感してみなければ分からないこともある。少し試してみて案の定開かなかったそれの開け方を教えて貰い、漸く中を拝めたのが今手に乗っているそれだった。
「うんうん。まさか回転させるとは思わなかったよー」
面をスライドさせようとしてもびくともせず、押しても何ら反応がない。答えはなんと、独楽のように横回転させるというもの。「大切に扱わなきゃいけないものは仕舞えないね」と、くすくす笑った海藤・ミモザ(millefiori・f34789)に、クーナも釣られて笑みを零した。
去年の夏は、夜空の散歩を愉しんだブルーアルカディア。
今夏は浜辺の夜市と聞いて訪れてみたけれど、宵にぼうと灯る|燈篭《カンテラ》はまるで光の海のよう。波音に重ねて響く、笛や弦の試奏の音も相俟って、どこか祭の雰囲気を纏っている。
そんな特別な夜だからだろうか。夜店に並ぶ品々は、何となくいつもより素敵なものに見えるから不思議なものだ。
「燈篭の灯りの雰囲気とかもあるのかなー」
「あっ、分かる! そういうのあるよね!」
どうにも目移りしてしまうことへの言い訳めいた言葉に、ミモザが大きく頷いた。心惹かれるままに行動する傾向にあるからか、どうやらミモザにも心当たりがたくさんあるようだ。
「そうだ。ミモザさんは、どんなものに興味を惹かれるのかな? 場所とか、ものとか」
「んー……そうだなー。変化があるものかな? だから、さっきの仕掛け筺みたいなのも好きだよ」
花の一房だったころに、ずっと眺めていた空と海。日々移り変わってゆく彩や、陽のぬくもりや、風の音。“ずっと同じ”がないから、自然は見ていて飽きない。
「綺麗なアクセサリーは眺めてるだけでもうっとりしちゃうけど、その内もう一声欲しい気分になってくるんだよね」
「もう一声」
まるで人を相手にしているかのような表現に、クーナもくすりと笑って、
「そう! んー……例えば――宝石が飛び出したり?」
「っ、あはははっ」
思いも寄らぬ答えについつい吹き出してしまえば、ミモザもけたけたと笑い出して、ふたりの声が重なった。
「でも、ここならそんな品もあるかも?」
「かもね!」
――今宵、どんな宝物に巡り逢えるのだろう。
ひっそりと浮かんだ期待を胸に、ふたりは天幕連なる道を歩いてゆく。
大成功
🔵🔵🔵
陽向・理玖
【月風】
1章の水着に上着羽織って
おー
賑やかになって来たな
瑠碧の手をしっかり握って気遣いつつ出店を回る
何かいいものあるかな?
さっきの砂とか貝とか入れてスノードームに出来るような
いい感じの瓶とかあるといいんだけど…
なければアクセサリーケースとか
寄木の箱とかに入れて飾るとか?
あ、なるほど
ガラス面がある箱
それも良さそうだ
店の人に確認しつつ良さそうなものあれば手に取って
瑠碧は気になるものあるか?
手回しオルゴールか
いいじゃん
折角だし記念に買ってく?
まぁ拾った砂と貝殻と
瑠碧来たって記憶だけでも
十分記念にはなるけどな?
嬉しい事言ってくれるな
軽く肩抱き寄せて
でも回す度思い出せるのもまた楽しいぜ
オルゴールも手にし
泉宮・瑠碧
【月風】
水着23
賑やかになってきた様子に
微笑ましいと同時に、どうしても人が苦手な面が出て
つい理玖の手を握ります
出店を見て回りつつ、少しずつ強張りは解けて
むしろ、品々を興味深そうに見て行きます
スノードームに出来そうな…でしたら
シンプルめな小瓶とか無いでしょうか
硝子などの中が見える物だと良いのですが
箱等でしたら、ガラス面のある小箱が良さそうです
砂も少ないので、小物に詰めた方が可愛い気がします
個人で気になるのは…オルゴールですね
二人で寛ぐ際に鳴らしたりとか
天使核に馴染みが無いので、手巻きで良いかなと
形に残る記念でしたら…先程言ったオルゴールでしょうか
でも
私も理玖と同じで
一緒に来た記憶が一番の記念です
昼とはまた違ったひかりが灯り始めた浜辺に戻ってきた陽向・理玖(夏疾風・f22773)は、賑わう天幕の群れを眺めながら感嘆を零した。
陽が落ちたからと水着のうえから羽織った上着の、その袖を掠めながら触れたぬくもり。人々の愉しげな声は微笑ましくも、まだ人混みを苦手としてしまう泉宮・瑠碧(月白・f04280)が無意識に伸ばした指先に熱を重ね、指を絡めて確りと握り返す。
「行こうか」
「はい」
大丈夫かと問う代わりに、理玖は声をかけて瑠碧を窺った。
互いの眸に、互いを映す。
唯それだけで、不思議と心が凪いでくる。
海岸沿いにずらりと並んだ、彩り溢れる天幕たち。
賑やかだれけど、騒がしいわけではない。人々の声の随に波音すら聞こえる優しい市に、気づけば瑠碧の指先からも過剰な力が抜けていた。ほんの僅かな怯えを滲ませていた眸も、今は興味津々に密やかに燦めく様に、理玖も心中で安堵する。
「スノードームに出来るような、いい感じの瓶とかあるといいんだけど……なければ、アクセサリーケースとか……寄木の箱とかに入れて飾るとか?」
「……でしたら、シンプルめな小瓶とか無いでしょうか。硝子などの中が見える物だと良いのですが」
「あ、なるほど」
「箱でしたら、ガラス面のある小箱が良さそうです。砂も少ないので、小物に詰めた方が可愛い気がします」
「それも良さそうだ。――おーい、店主」
ちょうど立ち寄っていた寄木細工を扱う天幕の裡で、理玖はひょろりと背の高い店主を呼び止めた。探しものの説明を添えて心当たりを尋ねると――弟の店ならあるかもしれない、と。
――通りを真っ直ぐ行った先にある、青の天幕に星の看板を掲げた店。
目当ての店を見つけると、まずは理玖が繋いでいないほうの手でそろりと天幕を上げて入り、瑠碧がその後に続く。
「お兄さんに紹介されて来たんだけど――あれ? ここって楽器屋?」
「ああ、そうでしたか。ええ、うちは硝子を使った楽器屋なんです」
横笛、角笛などの笛類から、鍵盤のあるもの、吹くと軽やかな音が鳴る吹き硝子まで、ちいさくも室内の|燈籠《カンテラ》に柔く輝く品々に思わず見入ってしまう。
「あ……オルゴール……」
すぐ手前に飾られていたそれに気づくと、瑠碧はそっとひとつを手に取った。優しく蓋を開けると、可愛らしい音色があたりに響く。
「いいじゃん。折角だし、どれか記念に買ってく?」
「はい。ふたりで寛ぐ際に鳴らしたりとか……」
「おや、お探し物はオルゴールでしたか」
「あー……俺は、砂が入れられる小瓶とか箱とかなんだけど……」
言いながら説明を添えると、徐に主人が背後に並ぶ箱からひとつを取り出し、ふたりの目の前で蓋を開けた。
「わ……!」
「綺麗だな……! これもオルゴールか?」
「ええ」
頷いた店主が繊細な手つきで取り出し、ゆっくりとテーブルの上に置く。
形は、片手で包めるほどの円筒形。高さも掌に収まるほど。天使核に馴染みのない瑠碧の好む、手巻きのもの。
下部には猫足つきの銀の台座があり――店主曰く、ここにちいさなオルゴールが入っているそうだ――、上部は中が空洞の硝子でできていた。一番上は蓋状になっていて、中になにかを入れられるようになっている。
「そっか、これに上から砂とか貝殻とか入れれば……!」
「まさか、オルゴールとひとつにできるなんて……見つかって良かったですね、理玖」
もし見つからなくとも、拾い集めた浜辺の名残と、瑠碧と訪れたという記憶だけでも、十分記念にはなる――そう思っていたけれど。
「私も理玖と同じで、一緒に来た記憶が一番の記念です」
「瑠碧……嬉しいこと言ってくれるな」
沸き上がる愛おしさのままに、そっと肩を抱き寄せて。
「でも、回す度思い出せるのもまた、楽しいぜ」
「……はい」
幸せいろの笑顔を交して、世界に唯ひとつの、ふたりだけのオルゴールを手に取った。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ドルデンザ・ガラリエグス
ミモザさんと
こんばんわミモザさん、お疲れ様です
陽が沈めば夏も存外冷えますね…お嫌でなければ(ジャケットを肩に
着るには大きいでしょうが、風除けにはなるでしょう
(手を差し出して、繋いだら引いて
さ、行きましょう
いやあ楽しみです、私まだこの国には落ち着いてきたことがなくて
貴女の審美眼に叶う物はあるでしょうか?
あ…ミモザさん、見てくださいこれストームグラスというそうです
ガラスの裡に気圧によってこの気圧によって結晶の出来が違うのだそうです!
…―店主、この蝶が止まった物とミモザの花の一対を包んでください
この蝶はミモザ、貴女に
花は私が
ミモザさん、貴女の目に叶う素適なものを一つ、私にも探してくださいませんか?
――さ、行きましょう。
そう言ってドルデンザ・ガラリエグス(拳盤・f36930)が差し出した手に、ミモザも破顔しながら掌を重ねた。
労いの言葉も、夏でも夜は存外冷えるからと肩に掛けてくれたジャケットも、今日新たに紡いだ幸せの記憶。お嫌でなければ、とドルデンザは添えたけれど、嫌だなんて微塵も思うことがないほど彼への想いが募っていることを、どこまで気づいてくれているのだろう。
(『着るには大きいでしょうが、風除けにはなるでしょう』って……ふふ、本当。ぽかぽか暖かい)
どうしよう。こんな些細なやりとりだけでも、嬉しくて仕方がない。このままじゃ今日は、頬が緩みっぱなしになってしまう。可愛いとは思って貰いたいけれど、締まりのない顔を見せたくないのが乙女心というものだ。
「いやあ楽しみです。私、まだこの国には落ち着いてきたことがなくて」
「そうなの? ふふ、じゃあ夜市もいっぱい愉しもう♪」
ひとつひとつの天幕は小振りだけれど、それが一斉に集った夜市はそれは見事なものだった。
「わっ、こんなに凄いとは思ってなかった……! どれもこれも素敵で、目移りしちゃう」
「貴女の審美眼に叶う物はあるでしょうか?」
「あなたの選んでくれたものなら、なんだって気に入るよ?」
「ふふ、これはこれは……良い物を選ばないといけませんね。責任重大だ」
そう言って穏やかに笑ってくれるから、つられてまた笑顔になる。
繊細なレースや美しい織物に見入って、見たことのない奇抜なデザインの時計に驚いて。笛や鈴の清かな音色を愉しんだその後に訪れたのは、雪の結晶を看板に抱いた白の天幕の店だった。
「ここは何のお店だろ? こんばんはー!」
「おやおや……こんな市の端までお越しいただき、ありがとうございます」
丁寧にお辞儀をした翁は、そうゆるりと眦を細めた。
「こちらでは、どのような品を――ああ、宝石商……でしょうか?」
言いながら丁度目に留まった商品に気づき、ドルデンザが問いかけを変える。
「ご名答。うちは一風変わった宝石を取り扱っております。例えば――」
相性の良い属性と宝石を組み合わせた、魔法の媒介。
音や映像を記録できる鉱石や、洋燈の代わりになるもの。
中には、天使核をも絡めて複雑な仕組みも再現したものまで、店主が紹介するままに眺めてはふたり揃って感嘆を顕にする。
「あ……ミモザさん、これ……」
「ん? なんか良いのあった?」
興味津々ドルデンザの視線の先を見れば、硝子でできた一品があった。羊皮紙の品札に、|天気管《ストームグラス》とある。
「気圧によって、中に溶かした鉱石の結晶の出来が変わるのだそうです!」
「なにそれすごい! 気圧ってことは、お天気も予測できちゃうとか?」
「そのようですよ。――店主、この蝶が止まった物とミモザの花の一対を包んでください」
「ひえっ」
ほかにも色んな種類があるのに、それを選んでくれるの!? ぶわりと胸に沸いた歓びと恥じらいに、思わず変な声が出てしまった。どうやら店主から品を受け取っているドルデンザには聞こえてなかったようで、ほっと胸をなで下ろす。
「良いもの買えて良かったね♪」
「ええ。――では、この蝶はミモザ、貴女に。……花は私が」
「わたっ、私に!? ……い、いいの?」
急な呼び捨ては心臓に悪い。思わず大きく跳ねた心を知ってか知らずか、ドルデンザは穏やかに眦を緩めた。
「勿論です。その代わりと言っては何ですが、ミモザさん。貴女の目に叶う素適なものをひとつ、私にも探してくださいませんか?」
「そ、それなら……」
脳裏を過ぎったのは、数軒前の店で見かけたペアグラス。
それに気に入りの酒を注いでふたりで傾けたらきっと素敵、なんて思い描いてしまったワンシーンを、そのときは掻き消したけれど。
「気に入ってもらえるかは、分からないけど……」
ひとつは、彼に。
対のグラスを買って良いか、彼に尋ねられるかどうかは――その場の雰囲気と、ほんのちょっとの勇気次第。
大成功
🔵🔵🔵
メロディ・シエルティ
夜になっちゃったね、マリー!
あんまり遅いとウェズリーが心配しちゃうかな…?!
マリーともうちょっとだけ遊んでもいい?って聞いてみよう
もし大丈夫だったなら、一緒に遊ぼう
綺麗な星夜の下でお買い物
なんだかわくわくするね
あ!
可愛いアクセサリーが沢山あるよ!
お花のブレスレットも
リボンのカチューシャも
どれも素敵ー…!
全部欲しくなっちゃうなー!
このきらきらしてるネックレス
きっとマリーに似合うんじゃないかな?
ほら、可愛いー…!!
うん、買っちゃおうかな(私がマリーのために)
あ、次はマリーが行きたいところに行こうよ
気になるところはあった?
マリーと遊ぶ時間があっという間過ぎて
うーん、もっと一緒に遊びたいのに!
宵深まる浜辺の一角に、ぼうと浮かび上がる。
とりどりの色に染め上げられた天幕が光条を描くように連なり、時折その軒先に掲げられた|燈籠《カンテラ》が海風に揺れ、ほろほろと柔らかなひかりを市へと零してゆく。
「夜になっちゃったね、マリー!」
「本当ね。いつの間に……」
陽に燦めく青の散策が愉しくて、気づいたらすっかり夜の帷が下りていた。相変わらずの無表情ながら、「こんなに遊んだの、初めてかも」とマリー・アシュレイ(血塗れのマリア・f40314)が言ってくれたものだから、メロディ・シエルティ(不思議の子のアリス・f37276)は躊躇いがちにひとつ問う。
「マリー、もうちょっとだけ遊んでいかない? でも、あんまり遅いとウェズリーが心配しちゃうかな……!?」
「全然問題ないわ。ここには危険なんてないし……私も、まだ遊び足りない」
これぞまさに、親ならぬ保護者の心、子知らず。とは言え、父の願いを全うせんとするマリーからしてみれば、自分がウェズリーの保護者なのだけれど。
「やった! じゃあ一緒に遊ぼう!」
「うん」
夜空を満たす星明かりの下、賑わう人々の声。試奏をしているらしき楽器の音色。
その間を静かに抜けてゆく漣に背を押されるかのように、娘たちはひかりに包まれた夜市へと駆け出した。
まだ巡り始めたばかりだというのに、天幕の向こうに見える珍しい品々が視界に入るたびに胸が高鳴ってやまない。
「あ! 可愛いアクセサリーが沢山あるよ!」
「本当。入ってみましょ」
ひとつ手前の、ずどんと大きな鉱石ばかりを扱った店とは対照的に、天幕を潜り抜けた先には繊細な作りの品が美しく並べられていた。店先にあったものと同じ、白鳥を模したブローチをつけた女性があたたかく出迎えてくれる。
乳白色の天鵞絨のうえに並べられた宝飾品は、それだけで年頃の娘を魅了するには十分だ。
「お花のブレスレットもリボンのカチューシャも、どれも素敵ー……! 全部欲しくなっちゃうなー!」
「そうね……戦闘よりも難易度高いわ……。あ、こっちのピンクの宝石がついたネックレスも、可愛い」
「あ! そのきらきらしてるネックレス、きっとマリーに似合うんじゃないかな?」
「そう?」
似合う、の言葉にぴくりと兎耳が反応した。薄緑の双眸に滲む微かな期待に気づいて、メロディも花のように綻んだ。マリーが眺めていたネックレスを手に取って、その首許にあててみる。
「ほら、可愛いー……!!」
「…………ふふ」
今度はよりはっきりとした微笑みが洩れて、益々メロディの胸も浮き足立った。
見立て通り、淡いピンクの色味が、マリーの桜灰色の耳や尻尾と良く合っている。用いられた石も小振りで、華美過ぎないのもまた好ましい。
「――うん、買っちゃおうかな」
「? メロディ、これ買う?」
「うん。マリーのために」
「え??」
きょとんと瞬いた顔に思わず笑みを零すと、メロディは視線の合った店主へと手短に包装を頼んだ。暫くして受け取った淡いピンク色の包装紙に空色のリボンが掛けられた品を、マリーへと渡す。
「どうぞ、マリー!」
「……これ、プレゼント……?」
「そう! あなたに似合うと思ったから。受け取ってくれる?」
「……ふふ、ありがとうメロディ。……こういうプレゼント貰ったの、初めて」
幼いころに母を亡くし、|相棒のアリス適合者《ウェズリー》の扉を見つけるために国々を奔走していた父とは別れて暮らしていた。
長らく預けられていた修道院の皆は優しかったけれど裕福ではなかったから、誕生日も豪華な食事が出てくるばかり。
だから嬉しいのだと、そう淡々と語ったマリーへと、メロディが満面に笑む。
「よーし! じゃあ、次はマリーが行きたいところに行こうよ。どこか気になるところはあった?」
「ん。なら、あっちの――」
きっと愉しい時間はあっという間に過ぎてしまって、終わるころにはもっと一緒に遊びたいと思わずにはいられないのだろうけど。
今は唯、笑み声を重ねながら、はしゃぐ心のままに巡ってゆこう。
大成功
🔵🔵🔵
御簾森・藍夜
暁と
心音は可愛い
この空で俺は心音の可愛さをより引き立てる物が欲しい
ストール?
リボン?
花?
装飾品?
…これ
アンクレット?
雫のような飾りの連なる、大粒のサファイアが揺れるそれ
よく見れば金具は金の傘
ほう、雨の国で仕入れ?そこの太陽のは?ピアス?―買った
…心音、帰ったらこれにおまじないをかけよう。けど、それまでは付けておいてくれ
こいつの主はお前だと教えなければ
いつも通り手袋は取って繋ぐ俺の左と心音の右
―そうだ心音、あそこにこの国でだけ扱われてるって噂の雲織のコートを見つけたんだ
冬には大いに早いが、少し見ていかないか?耳まで納まるような可愛いのを買おう
折角なら揃いのを
陽光浴びだ白雲、雷雨抱いた黒雲、夕焼けの茜雲に、淡く薄い灰雲は…ほう、ストールか
それと―…このピアス
サンストーンの太陽とムーンストーンの月で一対だそうだ…心音はどっちがいい?
以前の穴は塞がって久しいから、今度心音が開けてくれないか?俺に
それで…(狐の耳に触れ
心音のは俺が開ける…いい?
でも恐かったらしないし、これはまぁ作り変えてもらおうな
誰しもが“特別な一品”を望むこの夜市で、御簾森・藍夜(雨の濫觴・f35359)もまた、形の定まらぬ、けれど求めて止まない特別な品を探して天幕を渡り歩いていた。
「どの店も色んなもんあって、見てるだけでも面白ぇな。……そういや、藍夜のお目当てって何なんだ?」
「心音は可愛い」
「――は!? な、なん、きゅうに……」
突拍子もない発言は今に始まったことではないけれど、それでも不意打ちめいた褒め言葉は、やはり吃驚してしまう。思わず声も裏返ってしまって、楊・暁(うたかたの花・f36185)は気恥ずかしさに耳を伏せ、視線を逸らす。
(ああそんな照れてる姿も可愛いし耳がしょぼんとしてるのも愛らしいし尻尾ぱたぱたしてるってことは実は嬉しいんだな可愛い)
と、心中でノンブレスで暁を大絶賛しながら、それでも藍夜は涼やかな顔を崩さない。大真面目な顔で、答えを返す。
「だから俺は、この空で心音の可愛さをより引き立てる物が欲しい」
「ど……どんなんだよ、それ……」
「そうなんだ。問題はそこだ。心音は何でも似合うからな。まぁそれはお前が特別に……いや宇宙一可愛いから当たり前のことなんだが、今はその美点が徒となっているのも事実……」
言って、真剣な眼差しで店内に飾られた品をひとつずつ吟味する。
ストール?
「良く似合ってる」
リボン?
「可愛い」
花?
「最高だ」
装飾品?
「結婚しよう」
「もうしてるだろ」
目に留まったものを片っ端から暁に宛がってみては絶賛する藍夜に最後、暁がジト目で突っ込んだ。たまに見せる、このちょっと呆れたような、けれど自分への愛情満ちた眼差しも愛おしい。
「――あ」
ぴこぴこと動いた暁の耳の向こう、天幕内を照らす|燈籠《カンテラ》に煌めく何かがあった。暁を連れて近くまで行き、ジュエリースタンドを覗き込む。
「……これ……アンクレット?」
「すげぇ綺麗だな……! あ、見ろよ藍夜。そこのとこ」
ティアドロップにカットされた大粒のサファイアが連なるそれは、良く見れば金具部分には金の傘の意匠が施されていた。店主曰く、東の浮島にある雨の国で仕入れてきたものらしい。
「よし、買おう」
「ふふ、良いのあって良かったな」
尾を揺らして自分のことのように歓んでくれる暁がとびきり可愛くて、藍夜もふにゃりと破顔する。
「……心音、帰ったらこれにおまじないをかけよう」
「まじない? どんな?」
「それは帰ってからのお楽しみ。けど、それまでは付けておいてくれ。こいつの主はお前だと教えなければ」
そう柔く瞳を細めると、その場で支払いを済ませたアンクレットをそっと暁の左足首につけた。華奢な足首に良く似合う。
「この太陽と月のモチーフのは?」
「それはサンストーンとムーンストーンで作られた、一対のピアスでございます。あわせていかがでしょう?」
「――買った」
「早!」
今度は思わず反射的に突っ込んでしまった。とは言え、互いのモチーフであれば自分も迷わず買っていただろうから、人のことは言えない。
手触りの良さそうな天鵞絨のケースに入れられた品を受け取ると、藍夜と暁は店を出た。通路に面した天幕の脇で鞄へとしまうと、藍夜が暁へと笑み零す。
「ピアス、心音はどっちがいい?」
「そ、そりゃあ……月の方が良いに決まってんだろ」
「ふふ、そうか」
聞かずとも分かっていた答え。けれど、恥じらいながらも美しい夜明け色の双眸で自分を見つめ、その声で紡いでくれる答えを聞きたかったのだ。
「以前の穴は塞がって久しいから、今度心音が開けてくれないか? 俺に」
「良いぞ? やり方は教えてくれよ?」
「ああ。……それで」
言いながら抱き寄せられ、優しく狐の耳に触れられれば、またも胸が大きく跳ねる。きっと、顔も赤いはず。けれど、その愛おしさの募る視線からは目が反らせない。
「心音のは俺が開ける……いい?」
「あ、そっか……ピアス穴……」
「恐かったらしない。イヤリングに作り替えてもらうこともできるしな」
そうなんだ、と一瞬思うも、その選択肢は端からありはしない。藍夜はいつだって自分の歓ぶ提案をしてくれるし、自分もそれを欲してしまうのだから。
「うん。いい。……藍夜に開けて欲しい」
――お前がつけてくれる|証《しるし》なら、それは俺にとっての一番の幸い。
藍夜の左手と、暁の右手。
いつものように素手の指を絡めて繋ぎながら、再び夜市を巡り出す。
「あ、心音。あそこの店じゃないか?」
「“この市でだけ買える”って噂の、雲織のコート?」
「ああ。冬には大いに早いが、少し見ていかないか? 耳まで納まるような可愛いのを買おう」
「藍夜とお揃いのか?」
「――勿論」
暁だけに見せる微笑みで頷きながら、店の方へと足を向ける。
陽を浴びた白雲。雷雨を抱いた黒雲。夕暮れの茜雲。様々な空模様を映したコートと、淡く薄い灰雲のストール。
揃いを身に纏って出かける冬を、心待ちにしながら。
大成功
🔵🔵🔵
キャスパー・クロス
プリムちゃん(f38888)と
23水着に一枚、無地のシャツを羽織り
手を繋いで心躍るデート
店先に並べられたひとつひとつが天蓋の煌きに負けない光を携えていて
そのどれもが夏からの贈り物のよう
何か欲しいものあるかなって思って見に来たけど、……全部だなぁ!
夜空の星をひとつ選べと言われたかのように決めあぐねながら
織物の並ぶ通りへと踵を進める
各々に綾なす青が誇らしげに迎えてくれる中で……
風吹く一瞬、ふわりと目に留まったのは
薄く光を透かす大きなカーテン
ただのグラデーションではなくって、混ざり合うというよりは、全ての青がそこにあるような
光を浴び風にそよげば、空の青も海の青も、青がくれる涼や潮の香り、静寂までもが胸の裡に浮かぶような
今日という一日の全部を思い起こすような彩を、ひと目で気に入ってしまって
「プリムちゃん、これ……!」
皆まで言わず、きっと同じ気持ちになってくれると信じて振り返る
全部が欲しいという我儘を叶えてくれた、とびきりの青
二人の部屋をこのカーテンで彩れば、きっと
風の通る窓が、思い出の扉になるね
シュプリムント・メーベルナッハ
引き続きキャスパーちゃん(f38927)と。
服装は23水着のまま。
お手々繋いで夜のお買い物デートっ♪
わぁ…すっごぉい…!
(昼に見た風景とはまた違う、色んな品物の煌めく光景の圧巻ぶりについ同じ感想が出てしまう)
どれもこれも全部きらきらしてて綺麗なの…!
みんな欲しくなっちゃうよね…!
宝石やアクセサリーにも目を惹かれるし。
細工物の精巧ぶりにもつい見入っちゃうし。
楽器を試しに鳴らしてみれば、音色が心に染み入るようで…
どれを買おうか迷いながら、織物の出店へ目を向ければ。
「キャスパーちゃん、これ……!」
お昼に見た蒼の光景を、そのまま写し取ったみたいな青いカーテン。
ここまで見て来た中でも一際目を惹かれたのは、キャスパーちゃんも同じみたいで。
お互いを呼ぶ声が、殆ど重なり合っちゃうかも。
勿論、迷わず買っちゃって。
これをお部屋の窓にかければ、いつでも今日のことを思い出せそうだよね…♪
「わぁ……すっごぉい……!」
昼と全く同じ感嘆を零したシュプリムント・メーベルナッハ(穢死檻の巫女・f38888)に、キャスパー・クロス(空色は雅やか・f38927)もくすくすと口許を綻ばせる。
陽に燦めく青に代わって、眼前に広がるのは夜に灯る光の海。その源たる|燈籠《カンテラ》が揺れる軒先を擁した天幕はどれも色とりどりで、それらが連なり夜闇に浮かび上がる様を見れば心も弾んでしまうというもの。
日中の余韻を残した水着姿のまま、まだほんのり陽のぬくもりを帯びた夜風に無地のシャツの裾をはためかせながら、キャスパーは繋いだ掌をそっと引いた。
“行こう”と、言葉はいらない。シュプリムントと視線を合わせる、唯それだけで想いは通じるのだから。
光の海の中へと入れば、|燈籠《カンテラ》から零れた燦めきを浴びた品々に、シュプリムントの嘆美も絶えない。
「どれもこれも全部きらきらしてて綺麗なの……! みんな欲しくなっちゃうよね……!」
ふと立ち寄った店先で、所狭しと並ぶ宝石や装飾品を眺めて瞳を輝かせる彼女へと頷きながら、キャスパーも再び視線を落とす。
「うん。何か欲しいものあるかなって思って見に来たけど、……全部だなぁ!」
それはまるで、夏からの贈り物。今宵一夜限りの、幻の品。
まさしく夜空に鏤めた星々のうちひとつを選べと言われているかのようで、決め倦ねてしまう。
それでも――一等大切な星はもう、この掌の先に在る。だからこそ、焦ることなどない。ふたりで過ごすこのひとときを、ゆっくりと紡いでいけばいい。
宝飾品に心惹かれながら、精巧な金銀の時計に見入って。寄木細工の絡繰り筺の仕掛けに悩んで、解を知って笑い合い、賑やかな音に誘われ入った楽器店で試奏した弦の音色に、ふたりそっと心を寄せる。
夜市巡りの最後に訪れたのは、布商品の天幕が並ぶ一帯だった。どの店もこぞって自慢の彩の大判を店先に飾る光景は、これまで見た場所よりも一層華やかだ。
繊細な刺繍が施されたものや、艶やかな織物。組紐、レース、木綿や綿そのものも売られていて、ここもまた見ていて飽きない。
「ん~~……見れば見るほど目移りしちゃう……! キャスパーちゃんは、どれかに絞れた?」
「まだ全然――あ、プリムちゃん。次、あのお店行ってみない?」
「え? どれ……あ、」
光のなかに、ふと見つけた青の天幕。日中に満喫したあの“青”を思わせるその色に、自然とふたりの足も向いた。
そっと入口の天幕を手で上げて中に入ると、いらっしゃいませ、とまずは柔らかな声音の青年の姿。そして次に、一面の青が出迎えた。
布地の種類は様々。けれど、色はどの店よりも多彩に思えた。どれもが青だけれど、容易く一括りにはできない――してはいけないほどの違いと魅力が、確かにある。
どこまでを青と見なすかは人それぞれですが、と前置いたうえで、店主が言う。
「空の青と言っても、色々あるでしょう? これは“四季”と名づけたシリーズです。同じく、“花”や“水”、“鉱石”などのシリーズもございます」
瑠璃、群青、紺碧、水色。中には黒や白に近しい紺青、藍白など。世界中の青が、決して広くはないこの空間に集っていた。
一夜だけの邂逅。その直中を抜けた夜風が、ひとつの青を揺らす。
「プリムちゃん」「キャスパーちゃん」
――これ……!
互いの声と視線が重なった先には、青のグラデーションが美しい大判のカーテンがあった。
天幕内を照らす|燈籠《カンテラ》の光が薄く透いて、夜とは思えぬほど鮮やかな青を浮かび上がらせる。
濃淡の色調、と言ってしまうには惜しいほどの色合い。
空の青、海の青、波立つごとに代わる水面の青に、椰子の木が作る影の青。それらがもたらす涼や潮の香、青に抱かれたあの静寂まで。混ざり合うのではなく、すべての青が此処に在り、光のもとで夜風に棚引くたびにその色味も変化する。
「お気に召しましたか?」
穏やかな問い掛けに、キャスパーとシュプリムントは顔を見合わせ、迷わず頷きを返した。
此処で出逢った青を、蒼を――ほかの何時でもない、“今日”を映したかのような1枚に、惹かれずにはいられない。
言葉にせずとも分かる、いや確信する。
その気持ちは、ふたり同じ。
店を出れば、再び視界に溢れた夜市のひかりと、頬を撫でる心地良い夜風。
互いの指先には、布袋の手提げ紐。袋の中にある、大きな包みにどちらからともなく笑みを零す。
「これをお部屋の窓にかければ、いつでも今日のことを思い出せそうだよね……♪」
「うん。ふたりの部屋をこのカーテンで彩れば、きっと……風の通る窓が、思い出の扉になるね」
全部が欲しい、だなんて我儘を叶えてくれた、とびきりの青。
その彩があれば、いつだって――ふたりの胸に、今日の想い出が鮮やかに蘇る。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
リィンティア・アシャンティ
水着23
イスラさん(f39558)と
謝らなくても平気ですのに
稀に見るしょんぼりイスラさんに困惑しています
そんな私は日中も探検していたしっかり者
探検の成果は鮮やかな色のお花たっぷりな花冠が1つです
それをそっとイスラさんの頭にのせて……可愛いイスラさんの完成です!
可愛いです、お花魔王様なのです
ナイトマーケット巡りの間は花冠、かぶっていてくださいね
にこにこしながらそう告げて、そっと手を取ります
もしかして意地悪魔王様より意地悪してしまったのでは?すごい!
珍しい品が多いと聞いていましたけど、燈籠の灯りできらきら輝いている宝石は星が瞬いているように見えますし
絨毯に織られている動物たちは動き出しそう……動きました?気のせいです??
気になるものは、機械仕掛けのオルゴール
天使核とは?
イスラさん、詳しいですね
不思議なものということは分かりました
まるで歌っているような音色
ずっと聴いていたくなりますね
夜の青色が漂う出店を巡れば不思議な世界に迷い込んだよう
オルゴールと大切な人と作る思い出
楽しくて嬉しくて、幸せです
イスラティル・アシャンティ
【水着23】
リィン(f39564)と
…水遊びは出遅れてしまったが、夜市は間に合った様だ
済まなかったなリィン、その分エスコートが出来れば良いが…誘わせてくれるか(申し訳なさそうにそうと手を差し出して)
花冠は確かにそうだろうが、|己《おれ》は可愛いか?(花冠が落ちぬよう屈みながら首を捻る)
市の賑わいと品揃えに目を見張り
流石は空船で運ばれてきただけはある
星にも劣らぬ光の紅玉や青玉、猫目石の耳飾り
織られた動物達が駆け回る精緻な絨毯
月明りの如き明暗の灯籠
いずれも|己《おれ》達の世界では見たこともない品ばかりだ
…動物は確かに動いているように見えるな、何故か
リィンは気になるものでも…嗚呼、動力か?
天使核なる魔獣の心臓を用いた代物だそうだな
瀟洒な名の割に物騒な出所ではあるが、燃料を気にしないで良いのは有難いな
ではこちらのオルゴールを2つ。寝室と居間にあるのも良いものかと
折角の機会だ、他の品は無理に直ぐに決めずに漫ろ歩くのも良いだろう
きっと、この市にも、透いた青にも劣らぬ程に輝く君の顔が見れるだろうから
――本当に済まない、リィン。
ふと、そう言ったイスラティル・アシャンティ(幽星の蒼獅・f39558)の声が脳裏に浮かび、リィンティア・アシャンティ(眠る光の歌声・f39564)はひそり笑みを零した。
確かに、久しぶりのお出かけ。しかもいつもと異なる世界を共に見られる機会だったから、弾む心のままに外出の準備をしたものだけれど。
(謝らなくても平気ですのに)
明らかに気落ちしたイスラティルに却って狼狽してしまったリィンティアは、だからこそ敢えてひとりで昼の青を訪れていた。
選んだのは、要所にリボンを、髪や肩、腰には青い愛らしい花をあしらった水色のビキニ。シンプルながらも存在感のある宝飾品が一層娘を彩り、漣を思わせる透いた青のレイヤードパレオが柔らかく海風に靡く。
眼前に広がるのは、空と海が織り成す一面の青。
空は、まるでネモフィラの花を溶かしたような澄んだスカイブルー。のんびりと揺蕩う白雲は思いのほか低い場所にあって、ここが天空の浮島だと改めて実感する。
それよりも多彩な彩を見せているのが、海だ。
波打ち際は砂の白で淡く色づいたターコイズブルー。そこから沖へ行くにつれて濃くなってゆき、涯てはコバルトブルーに染まる。
その視線の先、境界線を描くのはふたつの青ではなく、それもまた白雲。遠く、細く長く連なった雲が、この世界に美しい白線を描いている。
どれほどに自分がこれを見たがっていたか、誰よりも知っているイスラティルをこれ以上気後れさせないために、この景色を――夏の青に染まる世界を、覚えて語ってあげたい。
そう、これは次にふたりで訪れたときのための下見。余すところなく愉しむために、この青を知り尽くしておくのだ。
「その探検の成果がこれです!」
言って、ぱさりとイスラティルの髪に可愛らしい花冠が乗った。プルメリア、オーキッド、ブーゲンビリアなどを編み、鮮やかなハイビスカスをアクセントにした、リィンティア手製の特別な品だ。
「ふふ、可愛いイスラさんの完成です!」
「|己《おれ》は可愛いか?」
探検の成果というのはその通りではあるけれど、可愛いと言われて浮かんだ疑問を口にした。花冠が落ちぬよう屈みながら首を捻れば、「はい!」と元気な即答が返ってくる。
「可愛いです。お花魔王様なのです」
ですから、ナイトマーケット巡りの間は花冠、かぶっていてくださいね――なんて。嬉しそうに微笑みながら言われてしまっては、到底嫌だとは言えやしない。
なによりも、彼女はそう言ってくれたけれど、詫びねばいけないのは己のほうなのだ。
「昼の分、今宵エスコートが出来れば良いが……誘わせてくれるか」
いつもの魔王様然としたイスラティルは何処へやら。
モノトーンのサーフパンツに白シャツを軽く羽織った姿はすごぶる格好良いのに、獅子の耳がついていたのならへちょりと垂れ下がっていそうな彼の面もちに、
(もしかして意地悪魔王様より意地悪してしまったのでは? すごい!)
と心の中ではしゃぎながら、リィンティアは花のような微笑みを浮かべ、申し訳なさそうに差し出された手にそっと掌を重ねた。
昼間の輝く陽とはまた違った、|燈籠《カンテラ》の生み出す柔らかなひかり。
連なる天幕の軒先に下がったそのひかりが集まり、夜闇に沈む海辺をあたたかに灯す。
耳に届く漣と、誰かが試奏しているのであろう情緒的な旋律。それに溶ける人々の賑わう声と笑顔が、この夜市をどこか祭めかしていた。
その光の海をふたり、手を繋いで巡りゆく。
「珍しい品が多いと聞いていましたけど、すごいですね、イスラさん!」
「ああ、流石は空船で運ばれてきただけはある」
|燈籠《カンテラ》から零れた柔らかな明かりに燦めく、宝石や装飾品たち。
テーブルいっぱいに広げられた、紅玉や青玉、猫目石の耳飾り。棚に飾られた、月明りのような明暗を抱く置き灯籠。
「きらきら輝いていて、星が瞬いているようです……!」
「いずれも、|己《おれ》たちの世界では見たこともない品ばかりだ」
感嘆の息を零したリィンティアの隣で、星にも劣らぬ光だとイスラティルも目を瞠る。
地上の天満星を堪能したら、次に広がるのは夜に棚引く織物の波。
万彩に染まる艶やかな布に、繊細な柄の施された織物。ハンカチのような小物から、布や織物をふんだんに使った衣服まで、とりどりの彩が光を浴びて夜に幻想的に浮かび上がる。
「あっ、あの絨毯に織られている動物たち、動き出しそう……動きました? 気のせいです??」
「……確かに動いてたように見えたな、何故か」
特別な夜の、特別な市。それが見せる不思議な景色に酔いしれるまま、気づけば最後のエリアへと訪れていた。
夜空に響く、幾つもの音色。それが此処では一層、澄み渡って耳に届く。
色彩豊かな天幕の前面に掲げられた、その店で取り扱うものをモチーフにした看板たち。笛、鍵盤、弦楽器など色々とあるそれを眺め見ていれば、微かに、けれど確かに聞こえた愛らしい音。
星を弾いたらきっと、こんな音がするのだろう。そう思わせるほどの燦めく音色に惹かれ、リィンティアは繋いだイスラティルの手をちいさく引いた。
「リィン、何か気になるものでも……」
「あのオルゴールのお店、入ってみませんか?」
最愛の妻からの誘いに、イスラティルも柔く笑んで頷いた。金糸雀色の天幕を捲り、リィンティアを先に通す。
いらっしゃいまし、とあたたく出迎えたのは若い夫婦だった。聞けば、夫が筺を作り、妻が譜面を綴っているという。
様々にディスプレイされた筺は、デザインも素材も大きさも、すべてが多種多様だった。宝石箱に組み込まれたもの、音色とともに台座に添えられた人形が回転するもの、そして回転木馬を模した大きなものまでどれもが精巧で、ひとつひとつ見入ってしまう。
「そういえばイスラさん、天使核とは?」
「嗚呼、動力か? 天使核なる魔獣の心臓を用いた代物だそうだ」
瀟洒な名の割に物騒な出所ではあるが、燃料を気にしないで良いのは有難いな、と口端を上げるイスラティルに、詳しいですね、とリィンティアも尊敬の眼差しを向ける。
「不思議なもの、ということは分かりました。……まるで歌っているような音色で、ずっと聴いていたくなりますね」
「――では、店主。こちらのオルゴールを2つ」
「えっ? 2つも?」
「寝室と居間にあるのも良いものかと」
「……! ありがとうございます、イスラさん!」
大切なひとと、彼が選んでくれたオルゴールとで作ってゆく想い出。
愉しくて嬉しくて、どこまでも続く幸せに花咲く、とびきりの笑顔。
この夜市にも、昼の透いた青にも劣らぬほどのその輝きをもっと見たいから。
「折角の機会だ。他の品は無理に直ぐに決めずに、漫ろ歩くのも良いだろう」
「はい! じゃあ、次はどこに行きましょう?」
もう暫く、この夜の青が漂う光の海を、迷い込んだ不思議の世界を共に巡ろう。
そうして夜を越えて、朝を迎えれば。
――また、ブルーアルカディアの青に出逢えるのだから。
大成功
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