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君と学食ランチ

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知花・飛鳥



一ノ瀬・帝




 学生の本分は学業なれど、育ち盛りの男子高校生ともなれば学校生活の中で重要な位置を占めるのはやはり昼食。四時間目の終了のチャイムのあと、一ノ瀬・帝(素直クール眼鏡男子・f40234)はスクールバッグのいつもの場所に手をやり――。
「あ」
 と、小さく声を零した。
「そういえば昨日帰ってからコンビニに行って……」
 財布を戻し忘れたな、と思い出す。タイミングの悪いことに、緊急用にと入れておいた五百円玉も先日使ってしまい五百円玉が財布に入れば戻しておこうと思ってそのままだ。
「無いものは仕方ないか」
 今日は昼飯抜きだな、と覚悟を決めて図書館にでも行こうかと鞄を閉じると見慣れた桜色が視界の端に見え、視線を向けた。
「ミカー!」
「飛鳥」
 薄桜色の髪を揺らし、知花・飛鳥(コミュ強関西弁男子・f40233)が帝の目の前で人懐っこい優し気な笑みを浮かべて唇を開く。
「ミカ、昼飯食いに行こうや」
 学食、はよ行かな座る場所なくなるで、と飛鳥が帝の袖を引っ張る。
 その無邪気な仕草に心臓を鷲摑みにされたような気持ちになりつつ、帝が首を横に振った。
「え、なんで」
 断られるなんて思ってもいなかった飛鳥は目を瞬かせ、もう一度、なんで? と首を傾げる。
「悪い、財布を忘れてしまったから俺は行けない」
「は!? 一大事やんそれ! 育ち盛りの高校男子が昼食抜きやなんて……」
「一食くらいなんとかなるだろ」
 大げさだな、と目を和らげた帝に飛鳥が猛然とした勢いで首を横に振った。
「あかんて! ご飯は力の源やからな! ……せや、俺に任せとき!」
 いい事を思いついたとばかりに飛鳥が笑うと、帝の腕を引っ張って歩き出す。
「おい、引っ張らなくても……」
「えーからえーから!」
 ぜーんぶ任せとき! と飛鳥が張り切って引っ張るので、帝は付いていくしかなかったのであった。
 引っ張られて到着したのは見慣れた学食で、飛鳥はなおも帝を引っ張って食券売り場の列へと並ぶ。
「飛鳥、もう一度言うんだが」
「えーからって言うたやんか。今日は俺が奢ったる!」
 どんと任せておけ、とばかりに飛鳥が自分の胸を叩く。
「いや、でも」
 悪い、と言うよりも早く飛鳥が券売機を前にして帝に振り向く。
「ほら、はよ決めへんと後ろがつっかえるやろ? ミカはどれにする? 俺はカレーやな」
 あとプリン、と迷わず食券のボタンを押して、あとはお前だけだぞと帝を見遣った。
「……じゃあ、これ」
 指先でボタンを押し、出てきた券を手にして食堂のカウンターへと向かう。
「すまない、近いうちに何かしらの形で返す」
 食券を飛鳥の分と一緒に食堂のスタッフに渡すと、そう言って帝が飛鳥に向かって軽く頭を下げた。
「そんな頭下げることでもないやろ? えーよえーよ、そんなん気にせんで! だいたい、俺なんてこの百倍くらい世話になっとるし!」
 誇張ではなく、マジで! と飛鳥が屈託ない笑みを浮かべて帝の背をぱしぱしと叩く。
「それにな、俺ら|ダチ《友達》なんやから、もっとこう……気楽に頼ってくれてええんやで?」
「……そうだな」
 気にしなくていいと笑う飛鳥の笑顔は可愛く、その優しいところも好きだと思う。けれど、はっきりと友達だと言われてしまうと、胸の中がもやもやとしたものに包まれるようで、帝はどこか曖昧な言葉を返した。
 そんな帝の気持ちにはひとつも気付かぬ様子で、そうやろそうやろ! と、飛鳥はご機嫌そうな笑顔で出てきたトレーを手にし、空いている席を見つけるとそちらの方へと歩いていく。飛鳥にひとつ遅れて帝もトレーを手にすると、手を振る彼に向かって迷わず歩き出した。
 向かい合わせになって座り、両手を合わせていただきますの礼を取る。
「いただきます」
「いただきまーす! ん-、やっぱ学食のカレーは最高やな」
 スプーンいっぱいに頬張って、幸せそうにカレーを食べる飛鳥に眼鏡の奥の瞳に柔らかな光を浮かべて帝も箸を手に取った。
「ミカは焼き魚定食? 相変わらずチョイスが渋めやな~」
「身体にいいからな。そういうお前のカレーとプリンという組み合わせもなかなか不思議だと思うが」
 魚の身を綺麗に解しながら帝が言うと、飛鳥がちっちっち、と指を横に振る。
「わかってへんな~、カレーの程良い辛さの後にあまーいプリン! ベストな組み合わせっちゅーやつやで?」
 プリンよりも何よりも、お前の方が甘そうだと帝は思う。桜色の柔らかそうな髪も、夕暮れの空のような紫色の瞳も、全部、自分のものにしてしまえたら――。
「ミカ? おーい、ミカー」
「ん、ああ、すまない」
「飯を前にして考え事するとは、そんなに財布忘れたんがショックやったんか」
 茶化す様な飛鳥の言葉にそうかもな、なんて返しつつ帝は再び焼き魚に手を付けた。
 いつか自分の思いを伝えたら、どうなるのだろうか。今の関係が壊れてしまうだろうか、それとも……目の前で暢気な顔をしてプリンをつつきだした愛おしい幼馴染にこっそりと溜息をついて、帝は定食を食べることに集中することにした。
「はー、美味かったぁ。やっぱプリンには生クリームがのってへんとな」
 甘党の飛鳥が最後の一口を飲み込んで、満足そうに頷く。
「飛鳥、生クリームが付いてる」
「え? どこ?」
「口元の……ああ、そっちじゃない、っていうか服の袖で拭こうとするな」
 仕方ないな、と帝がポケットからハンカチを出して、飛鳥の口元に付いた生クリームを拭う。
「綺麗んなった?」
「ああ」
「おーきに!」
 拭われたところをぺろりと舐めて、すっかり空になったトレーを片付けようと立ち上がる。
「ミカ?」
「……なんでもない」
 ほんの少し、そう、ほんの少しだけ帝にとって刺激が強かっただけで。
 精神を集中させるように細く息を吐き、よし、と帝が立ち上がり自分のと飛鳥のトレーを手に持った。
「あ、俺の」
「これくらいはな」
「ええのに。ミカは律儀やなぁ」
 笑う飛鳥の声を背中で聞きながら、返却口にトレーを返すと二人並んで食堂を出た。
「これで放課後まで泣かんですむな!」
「腹が減ったくらいで泣きはしないが」
 助かった、と帝が頷く。
「あ、せや! な、今日の礼」
「ああ」
「今日の宿題教えてや」
 数学の問題がよくわからなかったのだと、飛鳥が唇を尖らせる。
「……それ、いつもと変わらなくないか?」
「全然ちゃうやん、俺が教えてやって言うんと、帝が教えさせてくださいって言うんは」
 な? と悪戯っ子のような瞳で飛鳥が笑う。
「なるほど……じゃあ、今日の礼に飛鳥がわからないところを俺に教えさせてください……か?」
「ふ、はは、あはは! そうそう、そんなら放課後に部室でな」
「部室で勉強になるか?」
 教室に入りながらそう言うと、飛鳥がそうかも、と視線を泳がせた。
「ん-、そんならミカんち? 俺んとこやと下のが|かもて《構って》ーって来るし」
「いいぞ」
 即答した帝に笑って、そんなら約束な! と飛鳥が席へと戻っていく。
「……片付けはしてあるな」
 見られて困るものだってない、と頭の中で思い浮かべ、帝は放課後の勉強会の為に午後からの授業に挑むのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2023年06月17日


挿絵イラスト