食物文化研究同好会番外編~きなこがつないだもの~
きなこは今日も世界一可愛い。
きなこというのは源・全が飼っている猫の事だ。茶色と白の模様がきなこもちみたいなので、きなこ。
ふわっふわで、前世は犬だったんじゃないかというくらい人懐っこい。家族みんなメロメロの我が家のアイドルだし、当然のように全のスマホの待受もきなこだ。
あるうららかな日曜の朝の事だった。
「きなこはいつでも可愛いなぁ」
今日も全に撫でられてきなこはご機嫌である。
ツボを心得たソフトタッチに身を委ねていると、全が優しく抱きかかえてくれた。
「毛並みもふわっふわだし、肉球はつやっつやだし」
更にご機嫌度アップでごろごろと喉を鳴らしていると――
「ずっとふわふわつやつや可愛いきなこでいる為にも、今日は病院に健診に行こうね」
――びょういん?
その単語にきなこの耳がぴくりと反応した。
びょういん。それはきなこにとって誠に恐ろしい場所である。
何匹もの動物たちが檻に入れられ自由を奪われているそこには、おいしゃさんというきなこが見た事もないような変な格好をした人間がいて、「怖くないよ~」と大嘘をつきながら平然と痛い事や怖い事をしてくるのである。
一番恐ろしいのは、普段はきなこに優しくしてくれる全や家族たちですら、あの場所では平然ときなこを裏切りおいしゃさんの云いなりになる事だ。そうさせる恐ろしい何かが、びょういんにはあるに違いない!
しかも全が取り出したのは、外に行くときにきなこを閉じ込める狭い檻ではないか!
「ふにゃッ!!」
嫌だ!! と必死で叫んだきなこは全の腕の中からジャンプで飛び降りた。
「あっ、きなこ待っ……」
どこかに身を隠さなければ!
部屋中を全速力で駆け巡ったきなこは、普段は行けない場所への道が開いている事に気が付いた。
あそこなら逃げられるかもしれないと、一目散に身を滑らせる。
「きなこ、そっちはダメだ!!」
後ろで全が叫んでいるが、パニック状態のきなこには届かなかった。
「お母さん、きなこ捕まえて!!」
「えっ、あ……!!」
きなこは知る由もないが、そこはベランダへ通じるガラス窓。たまたま洗濯物を干していた全の母が、たまたま網戸を閉め忘れていて、それをたまたまきなこが発見してしまったのだ。
「きなこ、落ち着いて……!」
母が洗濯かごを放り投げてきなこを捕まえようとするが、その手は虚しく宙を切る。普段はよく全たちの云う事をよく聞いてくれるきなこも、この日ばかりはどうしようもなかった。
ベランダの柵をすり抜け全速力で駆けていくきなこの姿は、あっという間に見えなくなってしまう。
「……っ! きなこ!!」
全の呼びかけにも、全く反応が返ってこなかった
「そんな、きなこが……」
「もう! どうしてベランダちゃんと閉めておかなかったの!?」
思わず大きな声で怒鳴り散らしてしまってから、酷い罪悪感に襲われた。
「……ごめん。ごめんね」
いつの間にか自分より小さくなっていた母が、俯いてますます小さくなって謝るのだから尚の事だ。
(「俺だって人の事云えないのに……きなこが病院嫌がるのは分かってたんだから、周りをよく見てから準備を始めなきゃいけなかったのに。怒鳴ったりして、最悪だ……!」)
ぎゅっ、と拳を握りしめる。
「と、とにかくお姉ちゃんやお父さんにも話して、病院はキャンセルして……」
「俺、きなこを探してくる!!」
一番走りやすいスニーカーに足をつっこんで、全は駆けだした。
◆
一方その頃。
(「猫ってやつはどうしてこんなに可愛いんだろうな」)
水鳥川・大地もまた、贅沢な休日を満喫していた。
つまり、日課の野良猫観察である。
必要以上に近寄ったりすることはしない。大地は猫が大好きだが、残念ながら猫たちにとって大地は警戒対象であるらしい。ネットで色々検索して、ゆっくり近づいたり高めの声で話しかけたりと試行錯誤してみたが変わらなかった。図体のでかい人間は小さい猫にとってはどうしても怖いだろうと、この頃は諦めている。
「そういやあいつもやたらビクビクしてたな」
クラスメートで、今は同じ同好会所属にもなった全を思い出した。警戒心が強いのか気が弱いのか、こちらが話しかける度にビクッと身体を強張らせる変な奴だ。
(「野良猫みたい……なんて可愛いモンじゃねえか」)
のんびり昼寝している猫を、遠くからスマホの写真に収める。
「うんうん、我ながらいい出来だな」
ふわふわの白い毛が綺麗に映っていて、今度の待受はこれにしようと決めた。
「……ん?」
ふと脚に何かが触れた感覚がして覗き込む。すると、一匹の猫が大地の脚にすり寄っているではないか。大地は目を丸くした。密かに細々と続けてきた猫観察の中でも、これは初めての出来事である。
「俺が怖くねえのか、変な奴だな」
しばらく猫がしたいようにじゃれつかせて、離れていかないのを確認してそっと頭を撫でてみる。
にゃあん、と猫は大地の手に頭をすりすりさせて喜んだ。
「お、まえ……!」
きゅううん、と自分の心臓が締め付けられる音を大地は聞いた気がした。
今まで動画やテレビでしか見た事がなかったデレデレに甘える猫の図がリアルで見れたのだ! しかも、甘えられているのは他ならぬ自分である!
「しかしこんなに懐いてるってことは、多分野良じゃねえよな……ちょっといいか?」
茶色と白の毛並みの首元に触れてみると、大地の予想通り細い首輪があった。迷子札がついていて、電話番号も書かれている。
「やっぱり。でも、もしかしたらただの散歩中なだけかも……?」
昔より減ったといっても、外飼いされている猫もいるもので。
悩んだものの、大地は札の番号あてに電話をかけてみることにした。
◆
「きなこー!!」
辺りを走り回りながら、全は必死できなこの名前を叫び続けた。
(「どうしよう……きなこ、家の外なんて一人で歩いた事ないのに……!」)
外に用事がある時は絶対にペットキャリーケースで移動していたから、外の事なんて殆ど知らないだろう。きなこがどう動くかは全にも検討がつかなかった。
(「普段の感じならその辺でのんびりしてそうな気もするけど、でもあの時はパニックになってたからうんと遠くに行ってしまったかも……」)
運動不足の身体はすぐに悲鳴を上げる。荒い息を整える全の脳裡には最悪な光景ばかりが浮かんだ。
もし、きなこが可愛いからって誰かに攫われてしまったら。
他の猫と喧嘩して怪我をしてしまったら。
もし、きなこが道路を横切って車に撥ねられてしまったら。
「……いや、ネガティブな事を考えるのはやめよう!」
そんな事にならないためには、とにかく一刻も早くきなこを見つけないと。
「どうしよう、このまま探そうか……それともいったん家に帰って、きなこの好きなおやつとかおもちゃを取ってこようかな……それにこういう時ってどこに連絡したらいいんだっけ、保健所? 交番??」
冷静にならなければと自分に云い聞かせても、いつまで経っても平常心というやつは帰ってこない。
焦る全のポケットでスマホの着信音が鳴った。
画面には「自宅」と表示されている。震える手で受話器のアイコンを押した。
「もしもし!」
「全? 今どこにいる?」
母の声だった。
「えっと……ドラッグストアの辺り」
「よかった! あのね、きなこが見つかったって」
「えっ! 本当に!?」
――きなこが見つかった。
母の言葉を何度も反芻する。
「迷子札を見て連絡してくれた人がいたの。その薬局の近くに広い駐車場があるでしょう。そこに来てくれって。うちから行くより全の方が近いから、行ってくれる?」
「勿論! じゃあまた後で!」
「待って」
電話を切って全力ダッシュしようとした気配を察したのか母が声を大きくした。
「待ち合わせてる人がどんな人かわからないでしょ。背が高くて金髪の男の人だって」
「背が高くて、金髪の男の人かあ。うん、わかった」
少し意外だった。迷子猫を保護してくれているというから、何となく女性か、男性でも優しそうなイメージを勝手に思い描いたが、そういう感じではなさそうだ。
(「でも、わざわざ連絡してくれたって事はいい人だよね」)
「じゃ」
「うん。お願いね」
「わかってる」
電話を切り、はやる気持ちをおさえて待ち合わせ場所に向かう。
◆
通話を終えた大地は、しゃがんで茶白の猫を撫でてやる。
電話をしている間も猫は全く逃げる様子がなく、大地の脚にじゃれついて楽しそうにしていた。
「お前本当に可愛いな。猫とは思えないほど人懐っこいし、毛並みもフワッフワだし。あー連れて帰りてぇ……いや無理なんだけど」
悲しいかな大地はまだ高校生。生き物を飼う責任と決定を自分一人で負える歳ではないし、それにこの猫は飼い猫だ。
「こんだけ人間に懐いてるって事は、お前の飼い主はいい奴なんだろうな」
目線を上げると、辺りをきょろきょろ見回している人影がいるのに気づいた。
「あいつか?」
大地と同じくらいの年頃の少年のようだった。少し背が低くて前髪が長く、一見すると中性的な女の子にも見えかねない風貌の人物だ。
その人物がこちらに気が付いて「あっ」と小さく声を上げ駆け寄って来る。
(「ん? どこかで見たような」)
駆け寄ってきたその人も、訝しげに立ち止まって、前髪の隙間からこちらを見て――
「源!?」
「み、水鳥川くん!?」
お互いまさかの出逢いに目を丸くして叫ぶ。
「お前だったのかよ。てっきり電話に出た女の人が来るかと思ったぜ」
「あ、あれはお母さんです。たまたま俺のが近いとこにいたから……」
足下を見下ろすと、きなこが大地の脚の隙間からこちらをじいっと伺っている。
「きなこ。もう今日は怖い所には行かないよ」
警戒を解くようにしゃがみこんで、ゆっくり全は声をかけた。怖がらせてしまった病院というワードを避けて。
「だってよ。お前の為にあんな息切らして走ってきてくれたんだから信じてやれよ」
大地が言葉を添えると、納得したようにきなこは全の元へと歩み寄った。全が手を伸ばすと、そこが自分の居場所だというように自分から胸に飛び込んでくる。
「ごめんねきなこ。悪かったよ。あ、えっと……ありがとうございます、水鳥川くん。おかげで助かりました」
「大したことしてねぇよ。むしろ役得だったっつーか」
「ん?」
全が首を傾げると、大地がぎろりと睨みつけて来た。
「何でもねぇって」
「ひッ!!」
これが照れ隠しであると気づくには、まだまだ大地への恐怖心が強すぎる全だった。
それにしても――
全の腕の中でご満悦ながら、きなこはずっと大地の方に熱い視線を送っている。
(「随分水鳥川くんに懐いているなあ」)
いくら人懐っこいきなこといっても、ここまで警戒心を見せないのも珍しい。それにあそこまでパニックだったきなこが、再会した時にはすっかり落ち着いていたのも驚きだった。
(「水鳥川くんもペット飼ってたりするのかな、それで接し方がうまいとか」)
気になりはしたものの、睨まれた恐怖がまだあるので聞けない全だった。ちなみに大地的には睨んだつもりはないし照れ隠しでほんの少し語気が荒くなっただけだった。
結局その後は再度お礼を云い、随分と名残惜しそうなきなこと共に家に戻ったのだった。
◆
翌朝。
(「それにしても可愛かったなー、源のとこの猫」)
教室の席でぼんやりしながら、大地はそんな事を考えていた。
(「写真撮っときゃ良かったな。眺めるのに夢中ですっかり忘れてたぜ。でも人ん家の猫を勝手に撮るのも良くねェよな。……源に撮っていいか聞きゃよかったのか? でもなあ、そんな事したら猫好きってバレちまうし」)
水鳥川・大地、十五歳。格好つけたいお年頃。
カメラロールの大半が猫で埋まってるだなんて、とてもじゃないが人には言えない。
「水鳥川くん」
「おわッ!!」
不意に後ろから声をかけられて素っ頓狂な声をあげてしまった。
振り返ると当の全がいつものようにびくびくしていた。
「ンだよ、急に声かけんなよ」
「ひっ! ご、ごめんなさい……」
全は全で喉を引きつらせている。お互いにびっくり顔のまましばし沈黙が下りた。
(「なんだこれ、新手のコントか?」)
「あーもういい。んで? 何の用だよ」
「あ、はい。あの、昨日の事なんですけど……」
「ああ、あれそういうんじゃねーから」
「はい?」
「別に俺がわざわざ休日に猫を探して出かけてるとかそういうんじゃなくて、たまたまブラついてたらお前んちの猫に逢っただけだから」
「……はあ」
全は不思議そうな顔をしている。……あれ?
「えーと、俺の趣味を笑おうとしたとか、それをダシにユスりに来たとか、そういうアレじゃなく?」
「はい、そういうアレではなく」
「ンだって!?」
「ひゃあッ!?」
思わず声が荒くなる大地、頭を抑えてびくつく全。
クラスメートの何人かが何事かと振り向いたが、大地が真っ赤な事に気が付いた人はいなかった。
「じゃあどういう要件だよ」
「……あの」
ほとんど涙目になりながらも全は続ける。
「良かったら、うちに来ませんか?」
「はァ?」
「その……昨日は俺しか、というか俺もちゃんとお礼を云えてなかったので……母も、ぜひお礼がしたいって。その、大したおもてなしは出来ませんけど」
「そんなの別に……」
礼を云われるほどの事じゃない、と断ろうとした大地だが、ふと思う。
(「源の家。つまりあの猫もいるんだよな?」)
全力で甘えてくれた可愛い茶白猫。全はきなこと呼んでいた。
また逢えるのでは? もしかしたら、触らせてもらえるのでは?
ふわふわの質感を今でも掌が覚えている。――名残惜しくないといったら、大嘘になる。
「…………まァ、どうしてもって云うなら」
「ありがとうございます。あの、母も喜びます」
いつもおどおどびくついている全も、心なしか嬉しそうで。
きなこの事を抜きにしても悪い気はしない、というのが正直なところであった。
◆
「ただいまー」
玄関を開ける全の声に、ばたばたとスリッパの音が近づいてきた。
「おかえりー、あら、いらっしゃい!」
「ッす」
ぺこりと大地が礼をすると、全の母らしい人が出迎えてくれる。
「この度は本当にうちの猫がお世話になったみたいで、ありがとうねえ」
「いや、大人しくしてくれてたんで、大した事は……」
「そんな事ないわよ、とっても助かったんだから。ね、全」
「うん」
「本当は全の姉と父もお礼を云いたがってたんだけど、どうしても外せない用事があって」
「そうなんスね」
「その代わり、お菓子とか色々用意したから食べて行ってね。あ、でも男の子って甘い物好きじゃなかったりするかしら?」
「いや、俺は割と……」
相槌を打ちながらも大地はどこかそわそわした様子だ。
(「! 水鳥川くん、ひょっとして」)
何かを察した全が玄関のドアを閉めてから呼びかける。
「きなこ、おいで」
廊下の向こうから駆け寄って来る猫。
「!!」
大地が目を輝かせるのを、全は見逃さなかった。
ふわっふわの茶白猫は、まず自分を呼んだ全の方に駆け寄ろうとしたが、隣にいる人物に気づいて目を輝かせ軌道を変える。
「ふにゃっ!」
全力ダッシュで大地に駆け寄ったきなこは、膝を追った大地の腕の中にそのまま迎え入れられた。
「こら、きなこ! 制服にスリスリしたら毛がついちゃうからダメだよ」
あわあわ焦る全。本当に大地を気遣っているのが半分、「いくらきなこだからってこんなに懐くなんて」と驚いているのがそのうちの更に半分、そして残りの四分の一は、ちょっとしたヤキモチであったりもした。
「いいっていいって」
当の大地がそう云ってくれたので、きなこは早速頭を摺り寄せてなでなでを催促している。
(「本当に水鳥川くんの事が好きなんだなあ……」)
「全。おやつは全の部屋に持って行けばいい?」
幸せいっぱいの人間と猫をぼんやりながめていた全は、母の言葉に我に返る。
「あ、うん。すみません、ずっとこんなとこで……俺の部屋に行きましょう」
◆
いくら人懐っこく賢いといっても猫であるので、ゲームの配線やこまごました私物の多い自室にきなこを招き入れる時はそれなりに気を遣うものなのだけれども。
今日のきなこはひたすら大地に撫でられてうっとりしているので、とても大人しかった。
「これ駅前のいい和菓子屋のやつだろ、そんなに気を使わなくてもいいのにな」
お盆の上に並べられたお菓子たちを見下ろして大地が云う。そして、その目線がきなこをまぶしたお餅に吸い寄せられた。
「そういえばお前もきなこって云うんだな。顔もだけど名前も可愛いなぁ」
いつもと違うといえば、この大地もだと全は思う。強面の仏頂面が今日は緩みっぱなしで、全や全の家族がきなこを可愛がる時とまるきり似たような雰囲気だ。
(「水鳥川くんのこんな楽しそうな笑顔、初めて見たかも」)
こうして見ると、ちょっと図体がでかいだけでやっぱり同い年なんだなと認識させられる。さすがきなこ。可愛いは全てを懐柔する。
「水鳥川くんって、猫が好きなんですね」
「なッ」
真っ赤になって声を荒げる大地に全が身体を強張らせる。
「ご、ごめんなさ……だ、だってその、きなこもすごく懐いてるし、接し方がうまいのかなって」
てっきり怒られると思って謝ってしまったが、そうではなかった。
「……まァ、な。その、誰にも云うなよ」
こほん、と咳払いしながらそう返されて、全が目をぱちくりさせた。
(「……照れてる?」)
意外な気もするし、そうでない気もした。
不良というのは案外動物に優しいものだ、少なくとも全が触れてきたフィクションの世界では。
「それはいいですけど、どうして秘密にしておくんですか?」
「ヘンだろ、俺が猫好きなんて」
「そうかなあ。猫は可愛いから当たり前だと思いますよ」
大真面目に云われた。大地がこほんと咳払いをする。
「……あの、ひとつ頼みがあンだけど」
「はい」
「きなこの写真、撮っていいか?」
「え、そんな事でよければ、ぜひ」
膝の上でとろけているきなこをカメラに収める。
「こんな至近距離で撮らせてくれる奴、初めてだ……」
本当に感極まった様子で呟いているので、思わず吹き出しそうになるのを全は堪えた。
「何だよ」
「いいえ何でも! あ、いや、もしよかったらメッセアプリ繋がりませんか……ああいえ、勿論嫌だったらいいんですけど!」
慌てて両手を前に出して弁解しながらも全は続ける。
「その、もしいい写真撮れたら水鳥川くんに送れますし、それだけじゃなくて、たまに家に遊びに来てくれたらって……きなこが喜びますし」
「成程な、いいぜ」
食い気味に了承する大地はいつも以上に仏頂面だった。
きっとニヤニヤしそうになるのを堪えているんだなと、全は微笑ましく思った。
◆
夕方ごろに大地は家を出た。
後ろ姿に手を振り見送りながら全は思う。
(「やっぱりちょっとだけ怖いけど、いい人、なんだなあ」)
猫好きに悪い人はいない。それどころか、きなこがあんなに懐いているのだからいい人に決まってる。
(「それにしても、水鳥川くんに撫でられてる時のきなこ、かわいかったなあ」)
大好きな猫に喜んで欲しいから、勇気を出してメッセ交換をしたコミュ障である。猫は全てに勝るのだ。
そして大地は大地で、曲がり角を曲がって自分の姿が全から見えなくなったところでがっくりと項垂れていた。
「俺の、バカ! 折角写真撮ったのに待受に登録していいか訊くの忘れてるじゃねぇか……!!」
こちらをまっすぐ見上げてくるまんまるな瞳。間違いなく、スマホを見る度に幸せになれる筈なのに!
早速全にメッセージを送るべきか。いやでもがっつきすぎだろうか。
悩みに悩んだ大地が結局了承を得られたかどうかは、二人だけが知っている。
成功
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