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一ノ瀬・帝の誕生日~同好会が始まる前に

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知花・飛鳥



一ノ瀬・帝





 6月15日は平日なのだから、ごく普通の高校生である一ノ瀬・帝(素直クール眼鏡男子・f40234)は真面目に学校に通っていた。勉学は学生の本分。そんなPTAが喜びそうなお題目はどうでも良くて、帝にとって学校とは勉強する場所というよりは休み時間と部活を楽しむための場所と言っても過言ではなかった。
 帝が所属しているのは食物文化研究同好会。字面だけを見れば真面目そうな同好会だが、要は部室でお菓子を食べたり帰りに買い食いしたりとやっていることは帰宅部とそう変わらない。良い大学を目指すのであれば部活の内申は大切だから、もっと教師受けの良い部活に所属しても良さそうだが、誰に何を言われても帝はこの同好会を退会するつもりなど毛頭なかった。
 今日は部長であり幼馴染の知花・飛鳥(コミュ強関西弁男子・f40233)が決めた現地調査の日だ。現地調査といっても何のことはない。学校近くのイヲンのフードコートに時間を決めて集まって、それぞれが注文した品を批評しながら食べるという単なる買い食いだ。月に一度程度のこの活動は、帝にとっては特別なもので。
 なにせ、大手を振って飛鳥と外食ができるのだ。こんなに嬉しいことはない。
 まあ部員が約二名ついてくるが、それはそれ。高校生にとって、フードコートでの一時は何物者にも変えがたいのは間違いがない。
 読んでいる小説に挟んだ栞に目を落とせば、思わず口元がほころんでくる。栞として使っているのは、何かの時に部員全員で撮影した写真で。この時の飛鳥の笑顔が一番気に入っている。これがバレても皆が映った写真だからダメージは少ない、などという打算も働いていたりもする。微笑む写真の飛鳥の頬に触れた時、当の飛鳥の声が響いた。
「ミカ! 堪忍、待たせてもうた?」
「いや、今来たところだ」
 嘘である。
 学校が終わって可及的速やかに来て待ち合わせ場所で待っていたのだ。
 今日は他のメンバーは掃除当番や委員会があるから遅れるかも知れないが、飛鳥は何もなかったはず。他の友だちと談笑していた飛鳥よりも先に来れば、待ち合わせのようではないか。など思い実行に移す帝は、我ながらいじらしくもあり意気地なしでもあり。
 息を切らせる飛鳥の火照った顔がかわいい。表情に一切出さずにときめいた帝の気持ちなど一切気づかないであろう飛鳥は、表情をぱあっと明るくすると駆け出した。
「……って、コスモレンジャーのクレーンゲームあるやん!? ミカ、ちょい待っとって! パパッとゲットしてくる!」
 目を輝かせた飛鳥が、クレーンゲームに飛びついた。飛鳥の後を追いかけてワゴンを覗き込めば、所狭しとコスモレンジャーのソフトビニール人形が並べられていた。正直飛鳥はソフトビニール人形の良し悪しは分からないが、素人目にもなかなかのクオリティだということは分かる。早速財布から紙幣を一枚取り出した飛鳥は、嬉々として両替機に突っ込んだ。
「こないな所でレアブラック見つけるやなんて、ほんまラッキーや!」
「そうなのか」
「よおし、弾は用意したったで! 待っとってなコスモブラック!」
「……頑張れ」
 コスモブラックは取りづらいところに置かれている。これは取れないフラグかと思う帝をよそに、飛鳥はコインを投入口に入れると真剣な目で向き合った。


 近年無いくらい真剣な目をした飛鳥は、ゆっくり降りる爪を息を殺して見守った。取りづらいコスモブラックはだいぶ取りやすい位置まで来てくれている。あと少し。あと一回。繰り返す内に気がつけば今月の小遣いをほとんど突っ込んでいて。今日の部活動を考えると500円は取っておかなければ。泣いても笑ってもこれが最後のチャンスだ。
「ぐぬぬぬぬ、もうちょい! そこや根性見せてみい! ……よっしゃあああ! やりおってあ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
 開かれた爪はコスモブラックの脇を引っ掛けて持ち上げる。思わず叫んだ快哉は、直後絶叫へと変わった。
 爪に引っかかったコスモブラックが、バランスを崩して台へと落ちる。商品取出口の上で無情に開かれる空爪に、飛鳥はがっくり膝をついた。
「そんな……。こんだけ頑張ったのに……。神も仏もおらんのかい」
「飛鳥……」
 帝が気遣わしげに肩を叩いてくれるが、顔を上げる元気がない。ブラックのソフビはもう持っているが、これはレア衣装。このソフビはまず置いてあるゲーセンを見つけることが困難で。諦めかけたところで出会ったのだ。ここが最後のチャンスかも知れないのに。
 中古市場にも出回ってはいるが、それは飛鳥のプライドが許さない。あと数回で取れるところまで来ているが、今月は別の出費もあってこれ以上使ってはいけないと理性が制止を掛ける。だがレアブラックは来月までどころか、明日までだって待ってくれないだろう。
 ああ、もう無理か。重く暗い気分のまま大きくため息をついた飛鳥は、差し出されるレアブラックに弾かれたように顔を上げた。
「取れたぞ。これでいいんだよな?」
「ミカ……!」
 我ながら神や仏を拝むようなキラキラした目で帝を拝めば、帝は恥ずかしそうに視線を外した。
「お前のやっているところを見ていると何となく出来そうな気がしたんで、やってみたら出来た。それだけだ」
「天才タイプか!?」
「これはやる」
「え、ええの!?」
「お前のだ」
「おおきに! ありがとうホンマうれしいわ!」
 今泣いた烏がなんとやら。満面の笑顔でソフビ人形を抱きしめては鑑賞する飛鳥の姿に、帝も珍しく柔らかな笑みを浮かべている。なんだか縁起の良いものを見た気分になって、飛鳥も嬉しくなってくる。笑いあった飛鳥は、プレゼントの一言に慌ててバッグを開けた。中から細長い長方形の箱を取り出した飛鳥は、そっと帝に差し出した。
「せやせや。忘れたらアカンさかいここで渡そか。ミカ、誕生日おめでとうさん」
「……誕生日? 誰の?」
「ミカのや。今日やろ?」
「ああ。開けていいか?」
 恥ずかしそうに頬を掻いた飛鳥に、帝が真面目な顔で聞いてくる。正直男子高生のチョイスではないから気に入ってくれるか心配だが、フォローできるならした方がいい。何なら返品交換も受け付ける決意を固めた飛鳥は、小さく頷いた。
「ええけど、笑わんといてな? あ、返品交換は受け付けるけど、今月はすっからかんやさかい来月に……」
「返品なんてするものか」
 思いの外力強い帝の声に、飛鳥は驚いて目を見開いた。悩みに悩んでチョイスしたのは、イニシャル入り漆塗りのマイ箸とケース。読書が好きだから栞にしようかとも悩んだが、食研の部長としては食にまつわる何かにしたかったわけで。
 濃い抹茶色のキラキラが入った漆塗りの箸は見た目も華やかで、高校生が持っていてもそこまで違和感は無い。はずだ。多分。食い入るように箸を見つめていた帝は、頬を綻ばせると今日一番の笑顔を浮かべた。
「ありがとう。誕生日なんて忘れていた」
「気に入って貰えたら嬉しいわ」
 にっこり笑った飛鳥は、埃を払いながら立ち上がった。ちょうど部員も来たみたいだから、そろそろ部活を始めようか。
「ほな、行こか。何にするか決めたん?」
「今日はうどんだな。早速使わせてもらう」
「それええな! 俺は何しよかなー?」
 駆け寄る部員に手を振り返した飛鳥は、ホクホクの笑顔でフードコートを見て回る。
 食物文化研究同好会の活動は、今日も賑やかに開催されるのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2023年06月15日


挿絵イラスト