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【🌕猟書家決戦】悪役として軸がブーレブレブレ！

作者：ion

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「ブレブレブレ、頭を垂れよ下郎共！　秘密結社ブレインの大首領、キング・ブレイン見参であるぞ！」
　システムフラワーズ中枢領域。猟兵達がかつて大戦を繰り広げた頃には存在していなかった筈の城で、猟書家“キング・ブレイン”が声を張り上げる。
「キングブレイン様ー！！」
「こっち向いてブレイン様ー！！！」
　キマイラフューチャーじゅうの怪人をかき集めたかと錯覚するほどの大集団が、キング・ブレインに熱烈な声援を送る。悪の首領を称えるというよりかはまるきりアイドルのコンサート会場のようであったが。
「あー、皆様ご機嫌いかがですか？」
　キング・ブレインはブレインで、片手をあげてにこやかに応じるものだから。
「うおおおおおおおおお！！！！」
「こっち向いてくれた！　ねえ、見たよね！？」
　怪人たちはますますヒートアップである。
「うぉっほん！　とにかく、我らの悲願が達成される時が来た！　システム・フラワーズに吾輩の愛機「ブレインバイシクル」を組み込むことで……見よ！」
　絶えず花に満たされた領域に、自転車の残骸が投じられる。
　この世界を飢えや貧困とは無縁の理想郷たらしめていた｜コンコンコン《なんでも出てくるシステム》は、今まさに猟書家の手に墜ちてしまったのだ！
「ああ……長かった。これがあれば」
　ブレインがぐっと拳を握る。
「あらゆる世界へとコンコンコンを用いることが出来る。さすれば飢えや貧困を根絶する事さえ不可能ではないでしょう……だが吾輩はそれをしない！　何故ならば、吾輩は悪の大首領であるからだ！！」
「なんて｜悪《ワル》いんだキング・ブレイン様！」
「流石だぜ！　ブレイン様！！」
　……この人なら本当にイイコトしても｜部下《ファン》達は離れないかもしれないが、そこは悪のプライドというものがあるのである。
「吾輩の作り上げたスーパー怪人軍団の諸君！　君達を、他の世界に送り込む！　今の君たちならば｜我が故郷《デビルキングワールド》の皆さんでは実行できないような悪事、すなわち幼稚園バスを100個誘拐したりといった事でさえ容易い筈だ！」
「ヒュー！！　スーパー怪人だけにスーパー悪事！」
「やってやろうじゃん！　我らがキング・ブレイン様のために！！」
　怪人たちは我先にとコンコンコンを辿り、他の世界へと旅立とうとした。
　だが、何だか辺りの様子がおかしい。
　花に満ちた大地は大きく鳴動し、拓けていく。すなわち――。
「おや？　なんだかキマイラフューチャーがふたつに割れてませんか？？？」
「こ、これはまさか……！」
　怪人たちのひとりが顔を蒼ざめさせた。
「知っているのですかベテラン怪人さん」
「メンテナンスルート……！　って事は、猟兵達にバレたのか……！？」
「メンテナンスルート？　何ですかそれ？？？」

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「メンテナンスルートってのはね」
　集まった猟兵達に順に視線を送りながら、ラヴィ・ルージュブランシュ（甘惑プロロンジェ・f35723）が話し始めた。
「システム・フラワーズが管理するコンコンコンに不具合が生じた場合、それをハイジョ出来るようにシステムへの道が拓かれる……つまり、キマイラフューチャーが真っ二つに割れるのだわ」
　どういう理屈なのかは誰も知らない。そういうもの、と受け止めるしかない。
「猟書家キング・ブレインは、潜伏期間にしれっとシステム・フラワーズに侵入して、そこに自分の居城を建てていたの！　なんでそんな事が出来たのかっていうと、オブリビオン・フォーミュラだったドン・フリーダムのCGに接触して受け継いじゃったっていうのよね。相変わらずよくわからないカリスマ性を持っているみたいなのだわ！
　ドン・フリーダムは猟兵がグリモアを使って集まるようになってからかなり早い段階で戦った敵だから、事情がよく分からない人もいるでしょうね。でも、そこは大丈夫。つまりものすごく便利なシステムが猟書家に乗っ取られちゃって、このままじゃキマイラフューチャーどころか全世界がピーンチ！　って受け止めて貰えれば大丈夫なのだわ！」
　まとめ方があまりにざっくりしているが、それはさておき。

「メンテナンスルートが開いた今、お前達もキング・ブレインの城「キングブレインキャッスル」にたどり着くことが出来るわ。どうでもいいけどネーミングセンスはちょっぴり残念みたいね。当然キング・ブレインに接触する前に配下の怪人が襲い掛かって来るから斃さないといけないんだけど、これが厄介なの。
　……なんかね、潜伏期間中に、キングブレイン様のお役に立つんだー！　って地獄のトレーニングをしてきた結果、すごーく強くなっちゃったんですって。具体的にいうと、めちゃくちゃいっぱいいるスーパー怪人集団はユーベルコードを四個使えるし、その中でも選りすぐりの「日直式キング・ブレイン四天王」なんてのもいるわ」
　なんで日直式四天王かというと、キング・ブレインのあまりの人気とカリスマ性に四人では収まりきらなかったので日替わりで担当しているらしい。
　ちなみにキング・ブレインは悪役らしく、恐怖で彼らを支配できたと信じ込んでいるらしい。

「あとね、これはちょっぴり予知が曖昧なのだけど、キング・ブレインを斃した後、少し彼とお話しできる時間があると出ているわ。勿論すぐに撤退してもいいのだけど、猟書家とじっくり話せる機会ってあんまり無いからお話してみるのも楽しいかもしれないわね。デビルキングワールドのお話でもしたら盛り上がるんじゃないかしら？　故郷のお話ってテッパンだものね！　なんならデビキンのお土産でも買ってく？」
　友達か。
「お話しできるっていっても、新たな情報を聞き出すとかそっち方面は期待できないみたい。あのつかみどころのない性格でうまくかわされちゃいそうだし、そもそもラヴィ達が知らない事は彼も殆ど知らないようだわ。それでも良ければ、付き合ってあげてもいいんじゃないかしら。ラヴィだったら、デビルキングだった頃の彼のお話とか聞いてみたいわ！　もちろん、今の彼の野望はきっちりばっちり止めた上で、ね！」
　頑張ってね！　と云い添えて、ラヴィは猟兵達をシステム・フラワーズへと送り出すのだった。

第1章 集団戦 『野菜乙女ヴァルきゅうりア』

POW   :    胡槍グングンノビール 【胡瓜の葉と蔦が絡まりついてる聖なる槍】が命中した対象を切断する。 SPD   :    精霊馬オボンスギル 自身の身長の2倍の【棒のような８本の足が生えた胡瓜の精霊馬】を召喚し騎乗する。互いの戦闘力を強化し、生命力を共有する。 WIZ   :    光翼ヴァルきゅうりアブラスト 【翠色に輝く光を身に纏いながらの】突進によって与えたダメージに応じ、対象を後退させる。【他の野菜乙女ヴァルきゅうりア達】の協力があれば威力が倍増する。 イラスト：猫家式ぱな子 👑11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

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　システム・フラワーズ。
　花の咲き乱れる楽園のような地の中空に悪の本拠地が浮かんでいる様は、異様な光景であった。
　秘密結社ブレイン。その大首領たるキング・ブレインが、この城にいる。

「おおっと、やっぱり猟兵が来たわね！」
　城への道を急ぐ猟兵たちを阻むものがあった。
　それは――……きゅうりであった。
「きゅうりって云わないで頂戴！　あたし達は天空の波留原からやってきた誇り高き野菜乙女！　その名もヴァルきゅうりアよ！」
　きゅうり改めヴァルきゅうりアは、必殺必中の聖槍——にちょっぴり似てるけどなんだかきゅうりの蔦やら葉やらが絡みついているその名も“胡槍グングンノビール”を振り翳し襲い掛かってきた。
　ここまでの流れならば、よくあるズッコケ敵である。
　問題は、彼女達が何百体もいる事である。……いや、何百本か？
　更にここはシステム・フラワーズ。周辺にブレインキャッスル以外の建造物はなく、うまく立ち回らなければ彼女たちから四方八方、一斉に攻撃されてしまう。
　地獄のトレーニングで強化された彼女達は、それぞれの能力値に合わせた３つのユーベルコードに加え、４つ目のユーベルコードを用いることが出来る。その上、個々の戦闘能力も並みのザコよりも強力だ。
「すべてはキング・ブレイン様のために！！」
「そして、私達が“ぐらびてぃ・ちぇいん”を手にするために！！」
　――なんか世界観間違えてない？
　間違えてないのかもしれない。なんか最近別の世界で｜小剣《グラディウス》とかケルベロスとか云ってるし。
　でも、そっちはそっち。こっちはこっち。
　とにかくまずは彼女達を斃し、奥に控えるブレブレをボコボコにしないと話が進まない。

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　第一章は集団戦です。
　何百本ものきゅうりがいるので倒しましょう。
　彼女達は猟兵の使用するUCに合わせた能力値のUCで攻撃してくる他、もう一つUCを使う事が出来ます。

【アサヅケイムの使者たち】
レベル体の【小型ヴァルきゅうりア】を召喚する。［小型ヴァルきゅうりア］はレベル×5km/hで飛翔し【塩を投げる事による目潰し】で攻撃する。

　つまり、きゅうりが増えます。あんまり放っておくと空から降る一億のきゅうり状態が完成してしまうでしょう。マヂ無理。


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「さーて、猟兵を迎え撃つのよ！」
「でも猟兵ってどんな格好なのかしら？」
「まあ、誇り高き野菜乙女がそんな事も知らないの？」
「じゃああなたは知ってるの？」
「まああたし達よりイケてないのは確かね！」
　ぺちゃくちゃお喋りするきゅうり達。
　ふと気づけば、彼女達の前に誰かが立っていた。
「あら、あなた誰？」
「猟兵？」
「らぶの名前はラブリー・ラビットクロー。見てのとーりのラビット怪人」
　うさみみパーカーの“そいつ”が云う。顔はガスマスクで覆われて全く見えない。
「ラビット怪人ですって。知ってる？」
「そういえばそんな子もいたような、いなかったような」
　何せ大人気のキンブレ様には配下がわんさかいる。きゅうりのスカスカ頭ではいちいち同僚の顔なんて覚えちゃいない。だって九割五分くらい水分だもの。
「今日はちゃんときゅうりが四天王っぽい活躍してるか見に来たぞ」
　ぐるり、ラビット怪人はきゅうり達の群れを見回した。
「ケドちょっと多すぎなん……ホントにお前達の中に四天王がいるのんな？」
「あったり前じゃない！」
　きゅうり達が胸を張る。
「アタシが三日後の四天王その三」
「私は一週間後の四天王その四」
　中略。
「ボクが五一日後の四天王その……」
「ホントのホント？　何が違うの？」
　要するにこの調子で色んなきゅうりが日替わりで四天王をしているらしいが、名乗りを挙げたきゅうりとその他きゅうりの違いはラビット怪人には分からなかった。というか本当にそんなものがあるのだろうか。
「これじゃー大しゅりょーもガッカリしちゃうかも……」
　ガスマスク越しでもわかる大きなため息。きゅうり達がぎくりと長身を強張らせた。
「そんな。キングブレイン様のお役に立てないなんて」
「そこでらぶに良い案があるのんな！」
　ぴっと掲げた右手。五本の指の隙間に、それぞれきらりと光る丸いガラス玉が挟まっていた。全部で、よっつ。
「ビー玉？」
「うん。しょーしんしょーめー大しゅりょー公認のビー玉なん」
　きゅうり達が顔を見合わせる。
「最後までこのビー玉を持ってたきゅうりが真の四天王なんな！」
　真の四天王。
「日替わりじゃなくて……？」
「毎日四天王を名乗れるのん」
　キンブレ様ガチ勢のきゅうり達が目の色を変えた。
【3カウントで投げ込みます】
「そーそーマザーの言うとーり」
　ラビット怪人が、タブレット端末からの音声と一緒にカウントダウン。
「それじゃあ行くよ、3、2、1……」
【ゼロ】
「アタシが！　四天王よ！！」
「何よっ！　トゲトゲに新鮮さが足りない分際で！」
「ムキーッ！　あなたなんて長さばっかり立派で全然美味しく無さそうじゃないのよ！」
　きゅうり達は翠色に輝きながら互いにぶつかり合った。ヴァルきゅうりアブラストによる体当たりはコンビネーションが何より物を云うのだが、今はただの仲間割れである。
「んっふふふ！　もっと争うがいーなん！」
　だいしゅりょー配下のラビット怪人、もといれっきとした猟兵のラブリー・ラビットクロー（とオフライン非通信端末【ビッグマザー】・f26591）は悠々とそれを眺めるだけでよかった。これで放っておけば彼女達は自滅する――。
「……ん？　なんか……」
【減るどころか増えています】
「なん！？」
　ヒートアップしたきゅうり達は互いに小型きゅうりを無数に召喚して塩をかけあい始めているではないか。
【このペースで増え続ければ十分後には一億本に。しかも塩で美味しくなるでしょう】
「そんなの知らねーのん！　らぶのラビットブレスをくらえーー！！」
　ラブリーなペイントを施した火炎放射器が、増えたきゅうり達も含めて焼き払った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

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　アルテミシア・アガメムノン（黄金の女帝・f31382）はデビルキングワールドで最もホットな魔王様の一人である。なんてったってあの熾烈な戦いを勝ち抜いた｜7thKING《りょーへー》の中でも一番と認められた7thKING代表なのだから！
　その上、堕天使であり魔王であり魔女である。この時点で属性過多（誉め言葉）だが、彼女の威光はこんなレベルでは留まらない。
　頭上には黄金に光り輝く光輪、背には神々しき六枚の翼。真なる力を解放した時には翼は十二まで増え、その姿はまさに｜熾天使《セラフ》に相応しい威風堂々たるもの。更にさらに、艶やかなる｜金髪《ブロンド》は黄金の女帝と呼ばれるにふさわしいドリルめいた縦ロール！
　これはもう、キングブレインなんてメじゃない程にとんでもないワルっぷりが見られるに違いな――
「飢えや貧困の根絶、やりたいならやればいいのに困った方ですわねえ」
　あ、めちゃくちゃ常識的でした。そういえば近頃のデビキンはワルい事だけがカッコいいのではないという新しい価値観も浸透しつつあるそうですね。
「ワルに拘るのはオブリビオンになってしまったからなのか未だにデビルキング法を遵守しているのか……どちらにせよ放置はできませんわよね」
　なんでも彼がかつての4thKINGであったとか、よいこすぎて滅びかけたデビキンの皆さんを護る為にデビルキング法が定められたとか、そんな話だった、ような。となればやっぱり根本的には奴もあの世界のお約束に漏れず「よいこ」な気もするが、それにしたって見過ごすわけにはいかないのである。
「彼がどうであれ、怪人の方はよいことは限りませんし……それにしても、きゅうりですか。成程」
「あら、ただのきゅうりじゃないのよ？　誇り高き波留原農園からやってきた野菜乙女！　ヴァルきゅうりアなんだから！」
　きゅうりは光の翼をはためかせてウインクからの決めポーズを披露した。
「……しばらくサラダにきゅうりを入れないように頼みましょうか」
「何でよ！！」
　なんというかこう――とても食欲の失せる光景だった。
「生意気な女ねえ、ちょーっとキンブレ様と同郷のかほりがするのがまた腹立たしいわ！」
「さっさとやっつけちゃいましょ！」
　きゅうり達は精霊馬にひらりと跨った。
「……やっぱりきゅうりなんですのね」
　乙女だのヴァルなんとかだのの字面に添えるとすごくお伽話とか神話的な存在にも思えてくる精霊馬という名称だが、実際にはきゅうりと割りばしで作ったアレの事である。デビキンに拠点を置くアルテミシアが知っているかはわからないが。
「うふふふふ！　これで私たちは機動力も強さも倍増！　さーらーにー！」
　きゅうり達が印を結び、チビきゅうり達召喚の儀式を始めだした。
「そうはさせませんわよ！」
　アルテミシアが掲げた掌から、戦場を覆い尽くすほどの嵐と神雷が迸る。｜暴風の神《ルドラ》の名を冠した滅颶が、野菜乙女も精霊馬もチビきゅうり達も、等しく吹き飛ばし、焼き払っていった。
「なによこれえ！　こんなパワー聞いてないわよお！！」
「強すぎない！？　数で攻めれば勝てると思ったのにぃ！」
　途端に泣き言を漏らしながら吹き飛んでいくきゅうり達。美味しく火が通った――かどうかは定かではないが、現KINGである女帝の威光を示すには、そして現KINGとかつてのKINGとの対戦の前座としては、悪くない最期だったといえよう。
　たぶん。

大成功 🔵​🔵​🔵​

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「どもー！　エイリアンツアーズでっす☆」
　花ときゅうりの空間に快活な声が響く。猟兵向け旅行会社の運転手、パウル・ブラフマン（Devilfish・f04694）のものだ。相棒のGlanzに跨って颯爽と現れた彼の隻眼が、きゅうり達を見てほんのわずかに引きつった。
「わぁ……女子が多い～」
「あら、やーっと私たちをちゃんと女子扱いしてくれる子が来たわ」
「やだ可愛い、アタシたちの美貌にメロメロなのね！」
　きゅうり達が元からゆるやかなカーブを描いている顔をくねくねさせてシナを作る。パウルにとっては相手がきゅうりだろうがバナナだろうが女子は女子であった。これは女子ならば何でもいいという事では無い。むしろその逆で――即ち、永遠の｜DTマインド持ち《ピュアボーイ》的にはオンナノコチョットコワイ。
　ちょっとやそっとじゃ意識って変わらないものなんだなあと、卒業したつもりの変な動悸と密かにバトルを繰り広げたりしていたパウルだが。
「勿体ないけど猟兵ならやっつけないとね！」
　きゅうり達がどこからかお盆によく見かけるアレを召喚したのを見て、いきなり目を輝かせた。
「ヤバそれカッケェ！　野菜がバイクに変形するなんてイカしすぎ！！」
　さっきとは別の意味でオトコノコゴコロ大爆発。変形というか、見た目的には割りばしブッ刺しただけだけど。
「こいつ何気に喜ばせ方を分かってるわね」
　きゅうりも悪い気はしないようだった。
「８本足同士、どっちが速いかバトルしようぜ――UC発動！！」
　こっちはSSWらしい白銀の宇宙バイクを変形させる。こうしてタコときゅうりの熱いバトルが始まった。酢の物の話ではなく戦いの話である。
「いいわよ、受けて立つわ！」
　精霊馬を颯爽と駆りながら、戦場の乙女たちは聖槍を次々とパウルへと差し向けた。字面だけなら神話の如き光景だがきゅうりである。
「わっ、とと！」
　絶妙なドライビングテクでそれらを躱しながら、パウルは精霊馬へと距離を詰める。敢えて槍の届く近距離を並走し、抜き去り際にKrakeを一斉に迸らせた。
「いたーい！！」
　割りばし、じゃなかった精霊馬の脚に四撃が命中する。八本の脚のうち半分を駄目にされた精霊馬は大きく姿勢を崩した。操縦して踏ん張らせなければいけない筈のきゅうり乙女の方も痛みにのたうつばかりで何もできない。
「生命力を共有したのが仇になったね。アハッ☆ぜーんぶエンスト起こさせてあげるよ！」
　次々とKrakeの砲撃が放たれ、きゅうり達は一本また一本と沈んでいく。
「くぅっ、こうなったら……！」
　きゅうりが奥の手とばかりにちびきゅうりと塩を差し向けるのを、パウルは見逃さなかった。いつでも装着できるようにスタンバイしていたゴーグルをすちゃっと着用。
「あっずるい！」
「料理で目が滲みそうな時はこーするとイイって習ったんだ♪」
　実の所、旧人類のあれやこれやの結晶たる宇宙蛸は普通の塩だの玉ねぎだのに目をやられる事なんてないのだけれども。
「恋人や家族から授かった知識がココで役立つなんて……流石だね！」
　大切な人達がパウルを気遣って教えてくれた事だ。パウルにとっては最上級に有益な知識だった。
「こいつシャイボーイかと思ったらとんだリア充だったわ！」
「裏切り者～！」
　謎の捨て台詞を残して、必殺技を潰されたきゅうりは精霊馬ごと掃射されていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

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　かつて、ヒーローズアースのとある星にて。
　不当に虐げられし者達を救った英雄がいた。

「キュウリなんざクルクル巻いてクルクル回る寿司屋の地下にいる彼等のご飯にしてくれてやるわ！」
　英雄、もとい女王（？）アルゲディ・シュタインボック（白金の癒杖・f03929）がびしいっと指を突き立て宣言する。……大丈夫！？　可愛い国民たちにあの頃みたいなブラック労働させてない！？
「まさか。ちゃんとお給料は出ているわ。従業員を安値でこき使うのは、いっときは良くても長期的は滅びの道一直線よ」
　ゆるく編んだ長い金髪に、抜けるような白い肌。いかにもなエルフらしい容貌でとんでもなく現代的な事を云う。
「まあ！　ホワイトっぷりならキンブレ様も負けちゃいないわよ！」
「なにせ冷暖房完備の寮（城の一室）あり、三食おやつ付きだものね！」
　謎の抵抗心をアピールしながら精霊馬にまたがるきゅうり達。
「あら、最近の悪の結社はしっかりしているのね」
　もっとこう、従業員を人とも思っていないような感じを想像していたとアルゲディ。いや、きゅうりだけど。
「とにかく、きゅうりといったらこれよ！　さぁお出でませ我が精鋭達！」
　召喚・珍妙獣群で喚び出すのは、もうお判りでしょう。キュウリ大好き河童アーミーズ！
　おデブからイケメンまで一通り網羅した、ナイスな河童たちの軍団である！
「キャー！　河童が来たわよー！」
　天敵の出現にきゅうり達が震えあがった。
「でも生で見るのは初めてよ、波留原には河童なんていなかったもの」
「何ちょっと感動してんのよ！」
「こうなったら……やられる前にやるっ！」
　きゅうりの蔦が絡んだ聖槍を振り翳し、突進してくるきゅうりと精霊馬。
『おやおや……お転婆なお嬢さんだ』
　目元がやたら涼やかなきゅうりが髪をかきあげるような仕草をしながら云った。当然髪なんてない。
「ンっ！！　聞いた！？　あの声！！」
「イケボってやつね……なんだっけ、あの声優に似ているわ」
「わかるわあ、グリ」
　それ以上はあぶない。
　とにかく野菜乙女と自称するだけあって花も恥じらう年頃のきゅうり達は、やたらと声のいい河童にメロメロになっていた。
「んんっ、本当いい声ね……河童だけど」
　アルゲディもこっそり堪能していた。男のイケボは七難隠すのだ。
「はっ、いけないいけない！　とにかく……さぁ行けーっ！　食物連鎖の摂理に従って食らうべし！　カッパ巻（一皿110円）にしてしまえ！」
　さすがホワイト企業！　値上げ値上げの波にも負けず一皿100円（税抜）を維持しているとは！　やっぱ河童しか勝たん！
　河童たちをけしかけながら、アルゲディはご飯にすし酢を投入してパタパタさせている。海苔だけでなく味変用に味噌もマヨネーズも完備だ。
「あいつら本当に物理的に食べるつもり！？」
「アタシ達きゅうりっていっても乙女なのに！」
「問答無用！　だってあなた達なんて所詮は夏野菜じゃないの！」
　かくしてキュウリ乙女隊vs.河童軍団の戦いの火蓋が切られた、というか一方的な勝負であった。
　辺りは一瞬にしてきゅうりの悲鳴とパリポリ小気味よい音で満ちていった。
「イイ食べっぷりね河童達。あの精霊馬も美味しく頂いてしまうのよ」
　すし酢作りに使ったうちわ（推しうちわ的デコ済）を手に応援するアルゲディ。ふと、大量のタッパーを取り出した。
「浅漬けにして後で祭りの屋台で売る分も確保しとくのよー！」
　さすがの機転である。猟兵VS怪人が大人気なキマフュで怪人を使った刺激的なメニューは絶対にバズる！

大成功 🔵​🔵​🔵​

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「くっ、流石ね猟兵……！」
　ギリギリと歯ぎしりをするきゅうり達。なんと歯があった。
「ククク、そちらこそなかなか悪くない」
「誰！？」
　中空を駆けるきゅうり達の視線が一点に注がれる。そこには一人の猟兵がいた。
「今のお主らは、ただボコられるだけの下っ端ではないということなのだな。はっはっは、怪人として強く大きく元気に育ったようで、妾は嬉しいぞ！」
　彼女の名は御形・菘（邪神様のお通りだ・f12350）。キマイラ達に大人気、蔓延る悪は許さない、最強の｜真の蛇神にして邪神《どうがはいしんしゃ》である！
「ならば！　全力を尽くし妾を打ち倒してみるがよい！」
「望むところよ！」
　きゅうり達が自慢の光翼をはためかせる。その翠色の輝きが神々しく増していった。
「フォーメーション｜C.C《キューカンバー》！　いくわよ皆！」
　きゅうり達が流れるようなコンビネーションで一斉に突進を仕掛けて来ても、菘は一切怯む事もなくその場に立ち続けてきた。
「空を駆けるきゅうり！　なかなかに画面映えしそうな光景ではないか！　だが！」
　菘の影がまるで生きているようにしゅるりと蠢いた。かと思えば、それは何百本もの鎖へと変化する。
「戒めの鎖たちよ、妾の影より出でて、空飛ぶ者を絡め取れ！」
　獲物を喰らう蛇のように、鎖はきゅうり達へと巻き付いた。
「きゃっ！」
「嘘っ、速い……！」
「はーっはっはっは！　飛翔する力を得たことが逆に仇となったな！」
　地を這うモノたちが、空を自由に飛び回る者達へと向けた羨望――そしてそれが転じた嫉妬。同じ場所に行けないのならばお前達が墜ちてしまえばいいと、鎖は執拗なまでに光翼持つきゅうり達を捕えていく。
　きゅうり達は瞬く間に増えていく。いかに菘の鎖といえど全員を捕らえるまでには至らないが、逆に数が多いからこそ程よい武器と防具が調達できるわけだ。
　そう、捕らえた敵というのは、いくらでも使い道がある。
「ならばフォーメーション｜G.K《グルケ》！　皆を助けるわよ！」
　残ったきゅうりが菘へと体当たりを仕掛けようとしても、菘の操る鎖が彼女の目の前に囚われの仲間を差し向ける。
「くっ……！」
　仲間へと突進しそうになり、慌ててたたらを踏むきゅうり。
「さすがに味方へ向けて全力チャージをブチ込めはしないか、結構結構！」
「卑怯者～！」
「はっは！　妾の世界を取り戻すためならば卑怯も上々！　でなければ邪神など務まらん！」
　ここぞとばかりに露悪アピールの邪神様。キャラブレを許さない配信者の鑑である。
「よろしい！　目には目を、卑怯には卑怯よ！」
　残ったきゅうり達が一斉に塩を振りかけて来た。
「むっ」
　捕らえたきゅうり達を盾にはしたが、粒を全て塞ぐのは不可能だ。邪神様の隻眼に塩が入り込んでしまった！　邪神様大ピンチ！
「あああ水分が抜けるぅううう」
　盾にしたきゅうりもしっかりダメージを負っていた！
「今のうちに仕掛けるわよー！」
「甘い！　この程度で妾は崩れぬ！」
　菘は視界を塞がれたまま鎖を思いきりブン回し、あらゆる方向からのきゅうり突進を薙ぎ払っていく。
「あ～れ～」
　すっ飛んでいくきゅうり達。涙滲む右目を乱暴に拭い、菘が金瞳を開く。
「さあ、打ち砕かれる覚悟、あるいは勇気がある者からかかってくるがよい！」
　擦った目元、やや薄くなったどぎついアイシャドウの奥、意外と可愛らしい素顔がバレないように――邪神様はより一層狂暴に、おそろしく、微笑んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

第2章 ボス戦 『猟書家『キング・ブレイン』』

POW   :    侵略蔵書「スーパー怪人大全集（全687巻）」 【スーパー怪人大全集の好きな巻】を使用する事で、【そこに載ってる怪人誰かの特徴ひとつ】を生やした、自身の身長の3倍の【スーパーキング・ブレイン】に変身する。 SPD   :    本棚をバーン！ 【突然、背中のでかい本棚を投げつけること】で攻撃する。また、攻撃が命中した敵の【リアクションをよく見て身体特徴】を覚え、同じ敵に攻撃する際の命中力と威力を増強する。 WIZ   :    脳ビーム 詠唱時間に応じて無限に威力が上昇する【脳（かしこさを暴走させる）】属性の【ビーム】を、レベル×５mの直線上に放つ。 イラスト：屮方 👑11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

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　かくして猟兵達は秘密結社ブレインの総本部、ブレイン・キャッスルに降り立った！
　そこには――
「おーっほっほっほ！　ここで逢ったが百年目！　……そんなに経ってない？　まあいいじゃないの！　とにかく、猟兵達は日直式四天王である私たちがけちょんけちょんのぎったぎったにして差し上げますわ～～～！！」
　さっきよりもキャラが濃くなったきゅうりが四本いた。
「ブレブレブレ、頭を垂れよ下郎共！　よくぞここまでたどり着いたな、褒めて遣わすぞ猟兵よ！」
　きゅうりの奥にキング・ブレインもいた。
「今こそヴァルきゅうりアさん達が乗り越えた地獄の特訓が、そして吾輩がコツコツ集めた『スーパー怪人大全集（全687巻）』が活躍する時が来た！　この力を以ていざ尋常に、お手柔らかにお願いします！」
　腰が低いんだか高いんだかいまいち分からないキマイラフューチャーの猟書家と、その配下である四天王（日替わり）のきゅうり達が襲い掛かってきた！

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　第二章はキング・ブレインときゅうり四本との同時戦闘です。
　きゅうりが使うユーベルコードは第一章のフラグメントをご覧ください。きゅうり達は数こそ少ないですが精鋭です……たぶん。見た目は変わっていませんが。
　とにかくキング・ブレインのためなら命も惜しまぬきゅうりと、猟書家キング・ブレイン本人を同時に相手しなければいけません。言動はコミカルですが、普通に強敵でしょう。


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“｜悪《ワル》”を目指した男はやがて王となり、大首領となって、異世界の中心に城を築き上げた。
　なんでも生み出せる｜魔法めいた力《コンコンコン》と、世界を渡る猟書家が出逢った。ここはまさに、野望の始まりの場所。
「そのお城なかなかユメがあるなん。らぶはとってもいいと思う」
「え？　そーですか？　なかなか嬉しい事を云って下さいますなぁ」
　ラブリー・ラビットクロー（とオフライン非通信端末【ビッグマザー】・f26591）の素直な賞賛の言葉に、思いっきり素になるキング・ブレイン。
「もっとカラフルにデコっちゃえばきっともっとかわいくなるぞ」
「かわいくですか。あまりかわいくすると悪の本拠地としての重みが……しかし確かに怪人の皆さんのようなキャッチーさというものも捨てがたい。ここは慎重に検討を」
「キング・ブレイン様！　相手のペースに乗せられてますわよ！」
「はっ！　いかんついつい」
　きゅうりからのツッコミに我に返る大首領。
「えへへ、敵の中にも面白い奴がいるんだな」
「うぉっほん！　もうその手には乗らぬぞ！」
　威厳ある口調で突っぱねるキンブレ。ちょっと嬉しそうだった。
「我らの野望を阻む猟兵達、今ここで根絶やしにしてくれる！」
「そーだな。らぶは猟兵で、お前達はらぶの商売敵。だからね……」
　セカイを輝かせる、ヒトのユメを、叶えるために。
「ここで勝負だ！」
　大ショーニンは、立ち向かう。

●
「皆、キンブレ様をお守りするのよ！」
　きゅうり達の精霊馬がラブリーの“牙”を阻む。チェーンソーにずたずたにされた野菜が後方にすっ飛んでいっても、また新たな野菜馬が立ちはだかる。
「きゅうりの馬もとってもキュートだの」
　彼女達らしいオリジナリティ。そして敬意を示すべきところはもうひとつあった。
（「一生懸命なお前達はきっと沢山ブレインを支えてきた。立場は反対だけどそれはゼッタイ凄い事」）
　ラブリーがヒトのユメを諦めないのと同じくらい、彼女たちの想いも強いはず。
「それならきゅうり達もゆめ可愛くアートしちゃえ」
　きゅうり達がもっている武器が教えてくれたのか、あるいは外のセカイに踏み出したフラスコチャイルドはいつかどこかで見た事があったのか。精霊馬の至る所からしゅるしゅると蔓が伸びて、ホンモノそっくりなきゅうりの花が一斉にぽぽぽぽんと吹き出した！
「わ、何よこれ！」
「前が、見えな……！」
　たたらを踏むきゅうり馬たち。ついでにあっちこっちにカラフルきゅうりのハリボテもどどどどんと出現した！　ピンクにブルー、ゆめかわナイズドされた巨大きゅうりたちだが、その作りは極めて精巧だ。だってこんなに素敵なものを、ちゃんと覚えておかないなんてもったいないのだから！
　突如バーンと大きな音が響いた。キング・ブレインがぶん投げた本棚がハリボテきゅうりに阻まれて倒れた音だ。
「おっとぉ！　今の攻撃は結構自信があったんですけどね」
「見つけたぞ、大しゅりょー！　らぶのラビットファングと一騎打ちなんな」
「望むところですぞ！」
　ふんぬっと再び投げつけられた本棚を、ラブリーの振動刃が一刀両断する。
「ああっ、大全集が30巻くらい吹き飛びましたぞ！」
　ゴキゲンな駆動音と共に何もかも粉砕するチェーンソーが、キング・ブレインの体にも届いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

●
　日直式とはいえ四天王というから、どれだけ凄い怪人が来るのかと思いきや。
「またきゅうりですか……キング・ブレインさんのそのきゅうり推しは何ですの？」
　ついさっき絶滅させた筈のきゅうりが平然とそこにいるものだから、アルテミシア・アガメムノン（黄金の女帝・f31382）が多少げんなりしているのも無理はない。
「なんと！　きゅうりはローカロリーかつナトリウムを排出するカリウムが豊富！　カロリーと塩分を摂りがちな現代人には欠かせない野菜ですぞ！」
「そうよそうよ！」
「……まあ、いいでしょう」
　何故か熱弁されてしまった。骸骨に栄養を説かれるとは。
「とにかく――優しく、きっちりと骸の海に還してあげますわ！」
「良いでしょう……いえ、良いだろう。我が侵略蔵書とスーパー怪人の皆さんの力、思い知るがいい！」
　悪の大首領に相応しい貫禄でキング・ブレインが云い放つ。その声に合わせるように、きゅうり達も光り輝く翼でアルテミシアへと迫ってきた。
「ただし、お忘れなく。わたくしはいずれ天下一統を成し遂げる存在。この力は全てに打ち勝つものです」
　アルテミシアの体から途方もない魔力が放出される。無限にも等しいエネルギーを｜欲望具現術《ウィッチクラフト》で練り上げていく――すべては彼女の思うが儘に。
　きらめく黄金の波動に絡めとられた光翼は瞬く間にその輝きを失っていく。誇り高き野菜乙女がただの喋るきゅうりに成り果てたのと入れ替わるように、キング・ブレインの頭部から極光が放たれた。だがそれすらも、“黄金の女帝”を崩すどころか傷一つつけるには至らない。
「何と！」
　あらゆるものを吸収するアルテミシアの魔力が、猟書家の必殺技すらも容易く往なしてみせたのだ。凄まじい力が交錯する戦場の中心にいるというのに、アルテミシアにとってここは完全なる無風。優雅な縦ロール一本すら揺れることなく、その翼で悠然と宙に身を預けている。
「さあ、頑張りなさい。ひょっとしたら届くかもしれませんわよ？」
「くぅっ、あの女ちょっと強いからって調子に乗って……！」
「まあ待ってくださいヴァルきゅうりアさん」
　アルテミシアの挑発にノータイムで乗ろうとしたきゅうりをキンブレが制した。
「ビームでかしこくなった今の吾輩には判ります。悪戯に攻撃を重ねても彼女の養分になるだけ」
「キャッ、キンブレ様あたし達を正式名称で呼んでくださるなんて」
「そんな事云ってる場合じゃなーい！　じゃあどうすれば？」
「しかし相手が仕掛けてくる気配もない。つまり……最大出力で抉じ開けます！」
　キンブレの脳もめっちゃ光り出した。眩しい。
「キャー！　カッコいいー！」
「せーので皆さんも合わせてくださいね！　一点集中で参りますぞ！」
　大首領と四天王のフォーメーション。世界を目指すワルの力が、現ワルの女帝目掛け最大火力で叩きつけられる。
「せー、のッ！！！」
　だが、城どころかシステム・フラワーズごと壊滅しかねないほどの力の奔流は、辺りに漂う魔力の網に残らず絡めとられ収縮していく。
「……まさか」
「タイムオーバーです。それでは決着を」
　涼やかな笑みのまま、アルテミシアが人差し指を動かす。
　たったそれだけの動作で、奪い去った力全てが流転し、キング・ブレイン達へと牙を剥いた。
　――“先代”ごとき容易く片付けられねば、世界のKINGなど、そして魔界制覇など、務まらないのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

●
「はっはっは、益々もってテンションが高くて実によし！」
　空飛ぶきゅうりと髑髏の城に、笑い声が響き渡る。
　破れた翼。硬化した巨大な左腕。蛇の下半身。彼女はそう、キマイラフューチャーを熱狂に包み込む唯一無二の邪神様、御形・菘（邪神様のお通りだ・f12350）！
「こちらこそ、素晴らしきバトルとなるようよろしくお願いします！」
「これはご丁寧にどうもどうも。ええ、互いに悔いの無いよう参りましょうとも！」
　直角に近い程にお辞儀する菘に、大首領キング・ブレインも倣う。見た目の怖さとは裏腹にどうにも根っこの善良感がぬぐえない二人組である。世が世ならよき｜戦友《とも》になった未来もあったかもしれないが、邪神様は邪神様であり、大首領は大首領だ。
「では……吾輩がコツコツ集めた侵略蔵書、スーパー怪人大全集のスゴさを思い知るがよい！」
　キング・ブレインが手にした本が輝き、光に包まれたキング・ブレインが姿を変える。その背は怪物じみて大きく膨れ上がり、透ける頭部の先端から鋭利な角が生えていた。
「スーパー怪人と吾輩キング・ブレインの融合！　さしずめスーパーキング・ブレインといったところだろうか！」
「キャー！　スーパーキング・ブレイン様～！！」
　きゅうりが黄色い声をあげた。
　菘は巨大化した敵に驚くでもなく、慄くでもなく、ただ悠然と、いつもの悪役然とした笑みのまま見上げている。
「どうした、恐怖で声も出ないか？」
　菘は答えない。ただ、唇の端から蛇めいた舌をちろりと出した。誘うように。
「……よかろう」
　キング・ブレインが地を蹴った。きゅうり達も彼に続く。
　城を揺るがすほどの跳躍と共に、鋭い角が菘へと迫る。ひと突きで命を奪われかねない程の巨大な敵相手に、彼女はただ、左腕を伸ばすだけだった。
　掌が貫かれる。皮膚が裂け、骨が砕ける音が菘の耳にも届いた。血が迸る。キング・ブレインの角が更にずぷずぷと入り込んでくる。このまま奥にある菘の本体まで串刺しにしようと。
　その角を、血塗れの左手が握りしめた。
　キング・ブレインが瞠目する。ニヤリ笑んだ菘が左腕をぐいと引く。引き寄せられた胴体をがっちり掴んで、全力全速のツイストをかけつつ投げつけた――今まさに菘に追撃を入れようと迫っていたきゅうり達へと。
「きゃあっ」
　巨大化したキンブレに押し潰され、あわれなきゅうり達は大地に還っていった。
「ぬっ、ヴァルきゅうりアさん……！　面目ない」
　立ち上がるキンブレもふらついている。巨大化した分、地面に叩きつけられたダメージも甚大だ。そして菘は、相変わらず笑みを崩さずに立っていた。
　余裕綽々？　そんなわけはない。掌の傷はほぼ貫通していて既に感覚がない。失った血のぶん視界が霞む。並みの神経なら強がるのすら困難な筈だ。
　それでも。菘は知っている。
　弱音を吐く邪神様など、全世界の誰も、求めてなどいないのだ。
「はーっはっはっは！　宣言しておこう、妾の攻撃はすべてこの通り、左手を犠牲とした当て身投げのカウンターだ！」
　覚悟を決めた｜怪人《オブリビオン》には、それを上回る覚悟で魅せつけるのみ。
　どっと噴き出そうになる冷や汗さえも押しとどめて、菘は呵々と笑い飛ばす。
「何度でも受け止めてやろう、お主らも覚悟をキメて踏み込んでくるがよい！　――エモさとは、カッコ良さとは何なのか、妾が存分に示してくれよう！」
　誰が相手だろうと。何が阻もうと。
　邪神様は、崩れない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

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　猟書家というものを。見据え続けてきた猟兵がいた。
　アルゲディ・シュタインボック（白金の癒杖・f03929）もその一人だ。月を通して可視化される世界のバランス。その果てに、今がある。
「聞いてるわよ……貴方、デビルキングワールドの救世主じゃない」
　ようやくたどり着いた“元”KINGに、アルゲディは言葉をかける。
「はて、何の事やら？　吾輩は皆さんが好き勝手暴れ回れるように発破をかけただけですぞ」
「それよ。｜悪《ワル》になって悪に対抗って並大抵の頭脳じゃあ思い浮かばないわ」
　よいこだらけの世界にただひとつ、正真正銘の｜悪《あく》が生まれた。
　正直者すぎる彼らは、あのままでは一瞬で滅ぼされてしまっただろう。抵抗する為には卑劣な手段も必要だ。でもそのままでは彼らは従わない。なら、法律にしてしまえばいい。悪い事こそが「カッコいい」事なのだと。何せ彼らはみんな根がよいこすぎるのだから法は絶対に護る。
　かくして再び純然たる悪が復活するまで、あの世界は適度に混沌で、ハチャメチャに平和であった。
「うーむ、面と向かって云われると恥ずかし……」
「ね、前から思ってたけど貴方、物凄く良いヒトね？」
　被せ気味に遮ったアルゲディの足元、しゅるしゅると影が伸びるのをキング・ブレインは見た。
「胡瓜のお嬢さん達も彼の優しさに惚れたんでしょ？」
　何故、戦闘のさなかにこのような質問を、畳みかけられるのか。キング・ブレインは思考し、そして理解した。
「成程……これは」
「“そうでしょ？”」
　迫る影。これは――『嘘』を喰らう影だ。
なんてことはない。ここでキング・ブレインが真実を云えば、影はただの無力な影でしかない。
「怪人達を支配した要因は恐怖なんかじゃない。仁義礼智信を知る名君のカリスマ……徳による人望！　“ねえ、そうでしょ？”」
　だがアルゲディは勝利を確信している。そしてキング・ブレインは歯噛みする。
　後方ではきゅうりが押し黙るキング・ブレインを心配そうに見守っている。さっき巨大キンブレに押し潰されてたのにしれっと復活しているのは、多分日直の順番が繰り上がったからである。
「良かろう。貴様が望む言葉を呉れてやる」
　キング・ブレインが天を仰いだ。
「吾輩は悪の大首領、キング・ブレイン！　あの魔王ガチデビルさえも凌駕する絶対的悪！　ゆえに良心など欠片も、微塵たりとも存在せぬ！　ブーレブレブレはぐうッ！！」
　賢者の影ががぶりとキンブレに食らいついた。めちゃくちゃ食いつきがよかった。
「キャー、キンブレ様しっかり～！！」
　きゅうり達が影をポカスカ殴るが見向きもされていない。
「ぐぬぅっ、かくなる上は、我らが猟書家の力の源、侵略蔵書の真髄を喰らうがよい！」
　キンブレが本棚に手を伸ばし――何の脈絡もなくそれをブン投げてきた。
「きゃあっ」
　間一髪、身を翻したアルゲディの傍で、本棚がぶつかった柱が見るも無残にひしゃげていた。
「どうだ思い知ったか！　これが本の力（物理）である！」
　600冊以上の物理の力は確かに恐ろしかった。
「ちょっと、急に本棚ぶん投げないでよ！」
　でもこれってあれでしょ？　照れ隠しなんでしょ？
「もう……恥ずかしがり屋なんだから💖」
　じゃれるようにアルゲディが杖を振るう。すると水晶球から魔法が――ではなくて魔法金属の軽くて振り回しやすい特性と先端の尖った構造がドストレートにキンブレの尻にダメージを与えた。
「～～～～～っ！？！？」
　最早悲鳴さえもなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

●
　花と電子の空間に聳え立つ異質、ブレインキャッスル。
　そこに彗星の如くカチ込む宇宙バイクGlanzと騎乗者パウル・ブラフマン（Devilfish・f04694）。
「ハァイ☆ダイナミック対戦ヨロシクお願いしまっす☆」
　物腰は丁寧に。でも腰元の触手から伸びる四砲はすかさず四天王たちに威嚇射撃をかましている。
　きゅうり達の悲鳴を掻い潜りながら、パウルの視線は彼女たちの後方、“大首領”キング・ブレインへと向けられる。彼は……なんか尻の辺りを押さえてうずくまっていたが、新たな猟兵の出現を察して跳ね起きた。
「ブレブレブレ！　ここまで来れたことは褒めてやろう猟兵よ！」
「わー、蓄積ダメでかそ～」
　威勢はいいが膝が笑っている。いかな猟書家といえど度重なる猛攻に立っているだけでもやっとなのは明白だった。
「まずいわ！　キンブレ様の守りががら空きよ！」
　きゅうり達が精霊馬を駆ってパウルへと迫る。畳みかけられる聖槍を巧みなハンドリングで躱しながらも、パウルの視線はキング・ブレインに固定されたままだ。
「ってかさ、女の子達が長時間盾役とかどーなのよ」
「ムム！　会話の流れを読まずここでいきなりバーン！」
　本当に何の脈絡もなく本棚がパウルへと投げつけられた。体積と重量にモノをいわせた暴力を、勢いをつけ宙に身を躍らせる事で避ける。
「きゃ～！！」
　Glanzのように華麗なトリックをキメられないきゅうり達が死に物狂いで本棚から逃げ延びていた。先程の射撃からの負傷で箸を、ではなく脚を引き摺っている馬もいる。パウルの視界に映るのは、配下たちの悲鳴にキング・ブレインが明らかに動揺しているさまだ。やっぱり、彼はいかにもデビルキングワールドの住人らしい。悪そうに振る舞えば振る舞うほど根っこの善良さが滲み出てしまう。
（「｜どっかの誰かと違ってね《・・・・・・・・・・・》」）
　自嘲めいた理解はしまい込んで、パウルはいかにも善良そうな笑みを向ける。
「とにかくさ。真のキングは……ここぞのタイミングで庇うべきなんじゃない？」
「キンブレ様、無視してください！」
「あんなのただの挑発ですっ！」
　きゅうり達がわめくが、当のキンブレの耳には入っていなかった。ただじっとパウルを見据えている。パウルもまた、キング・ブレインから一瞬たりとも目を逸らさない。
「……いいだろう」
　異世界の元KINGにして現大首領が、きゅうり達の前に躍り出た。
「キンブレ様！！」
「貴様の言葉には一理ある！　吾輩も正々堂々と貴様を迎え撃とうではないか！」
「悪の大首領が正々堂々としてどうするんですかキンブレ様～！！」
「ふむ、しかし頼みの侵略蔵書は（物理的に）使ってしまった。これでは猟兵を迎え撃つ事が出来ない……」
　考え込むような仕草で壁に手をつくキング・ブレイン。その直後、只の壁にしか見えなかった箇所からぎっしり本が詰まった本棚が現れた！
「ワオ」
「ブレブレブレ！　これこそコンコンコンの応用である！」
　高笑いしたキンブレが再び本棚を投げつけてきた。
「さすがキンブレ様！　悪の大首領らしく卑怯だわ！」
　しかし、その程度の卑怯で崩せるほど、相手は善人ではなかったのである。とうに予想されていた奇襲先に、最早パウルの姿は影も形もなかった。
「ザンネン――此処はもう、オレの領域だよ☆」
　宙に身を躍らせたキマイラの触手が伸びる。宇宙という大海を泳ぐ蛸。武器を得た海神の腕は、正確無比にキング・ブレインの脳天を打ち砕いていた。
　墨のように黒いペイント弾での狙撃は、彼の生命活動を断つには充分であったし――よしんば生き残れたとして、この状況を打破する為のかしこさを得るに必要なビームですら、二度と撃てなくなっていた事だろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

第3章 日常 『キングブレインキャッスルの最期』

POW   :    相手の強さを讃えて行く SPD   :    少しでも長く話せるよう工夫する WIZ   :    デビルキングワールドの話を土産に聞かせる 👑5 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

●
　猟兵達の力が、猟書家にして悪の秘密結社大首領、キング・ブレインをも凌駕した。
「ここまでのようだな……」
　キング・ブレインが膝を打った瞬間、けたたましいアラートが響き渡る。弾かれたように辺りを見回す猟兵に、キング・ブレインは笑みを漏らした。
「あれは吾輩に従ってくれたスーパー怪人の皆さんへの警笛だ。この城はまもなく崩壊する。なに、コンコンコンに被害を及ぼす程の規模ではない。しかしお前達も、命が惜しくば逃げた方がいいだろう」
　どうやら、この城にはキング・ブレイン自身の手によって自爆装置が埋め込まれていたようだ。悪の大首領らしく、野望を打ち砕かれた後は潔く散るという決意が込められていた。
「……それにしても、見事でしたなあ。聞けば吾輩が暗躍しているうちに、猟兵のみなさんはデビルキングワールドの7thKINGにまでなっていたとか。これだけ強いKINGがいるならば我が故郷も安泰でしょうなあ」
　散る事に悔いはない。けれど。
「懐かしいですねえ、あの世界は今、どうなっていることやら」
　郷愁というものは、どんな立場になろうと残るものであるらしい。

　猟兵の力を以てすれば、崩れ往く城から逃げるのは容易い。
　だがもし貴方の気が向いたのならば、勝者である猟兵を讃えて潔く死のうとしているキング・ブレインと、少しの間だけ話をしていく事も可能だ。
　ただしこの会話から得られる『情報』は、おそらく無い。本当にただの会話だ。根っこの所は善人である「悪の大首領」ゆえ、基本的にどんな会話にも応じてはくれるだろう。
　――さて、貴方はどう動く？


●
「真っ黒になっちゃったな」
　自慢の脳ビームも撃てないくらいに頭部を染め上げられたキング・ブレインの傍に、一人の少女がよっとしゃがみ込んだ。
　街の外でも楽に生きられるガスマスク、ウサギみたいな赤い眼差し。彼女の名はラブリー・ラビットクロー（とオフライン非通信端末【ビッグマザー】・f26591）。
「そんな姿じゃ大しゅりょーのイゲンが台無し。らぶのハンカチ使うといーぞ」
「おお……これはご丁寧にどうもどうも」
　視界が悪いのか彷徨う手に、ラブリーはハンカチを握らせてやる。消滅を受け容れ自滅しようとしているというのに、この骸骨男はやっぱりどこか間が抜けていた。
　そんな男を見下ろしながら、ラブリーは思う。
（「戦う前はあれ聞こーかなとかこんな事聞こーかなとか色々あったのに。戦ったらなんだかそんなの全部吹き飛んじゃった」）
　キマイラフューチャーの怪人も虜にしてしまうくらい面白くて、憎めない奴で、なのに何だか随分真面目に悪事を企てていて。
（「きっと守りたいみんなが居たから頑張ってKINGになって、それでも心配で……過去から戻って来ちゃうくらい大切なキズナだったのかも」）
　だって、猟兵達が現KINGだと聞いたと話す彼は、随分満たされたようであったから。
（「デビキンの事はよく知らない。けど、セカイを大切に思う気持ちはらぶにもわかる」）
　初めて一歩を踏み出した時。
　セカイはラブリーが思い描いていたよりもずっと辛くて苦しくて、そしてずっとずっと綺麗だった。あのキラキラが、ヒトのユメがもっと叶えばいいと――叶えたいと思った。
　きっと、そんな、気持ちだ。
「……。そのハンカチの模様かわいーでしょ」
　何度もごしごし拭ってようやく視界が晴れてきたらしいキング・ブレインが手元に目線を落とす。
「うむ、ゆめかわという奴ですかな」
「らぶのお気に入り」
「何と。それは申し訳ない事を」
　布地の半分以上が黒く染まったハンカチに、キング・ブレインが肩を落とす。
「でもオマエの顔の油ついちゃったからもーいらない。オマエにあげる」
「吾輩のポケットマネーからクリーニング代を……ん？　今なんと？」
「あげる」
　ラブリーは立ち上がって、ぱんぱんと埃を払う。それからキング・ブレインの返事も待たずにすたすたと立ち去った。
（「らぶ達はそーゆー想い大切にしたい。だから――」）
　いや。
　一度だけ、振り返って、云った。
「安心できた？」
　大首領だった男が少し面食らったように沈黙してから、笑みを向けた。
「ええ、とっても」
　きっと、ラブリーの想いは届いたはずだ。

（「――どうか心配しないでね」）

大成功 🔵​🔵​🔵​

●
　次にキング・ブレインの傍に寄ったのはアルテミシア・アガメムノン（黄金の女帝・f31382）。
「ほほほ、敗北と共に自らの居城を自爆させますか。悪の大首領として見事なワル仕草ですわね。流石はキング・ブレインさんです」
　黄金を具現化したような存在に、かつての大首領は目をすがめた。
「貴方には何というか、ひときわ眩しいものを感じますなあ。確か、ジャッジメントガールは猟兵全てを7thKINGと裁定した筈ですが」
「そこまではご存じですのね。あの戦争が終結した後、折角ですので再び頂点争いをしたのですわ。わたくしの目指す頂点は魔界制覇。その為には、魔界のKINGとなるくらい容易くこなしませんと」
　ワルらしくアクどい談合でライバルを蹴落とし――ではなく、正々堂々とあの世界の事件を解決して回り、アルテミシアは今の座を手に入れた。かつてのKING達のように実権を持つわけでなくとも、天下一統を掲げる彼女には必要な事だったから。
「なるほど、王といっても政権を握るわけではなく、最もワルくてカッコいい存在というポジションなんですな」
「そう云って頂けるのは光栄ですが、それは少し古い考えかもしれませんわ。今の魔界では、ワルい事以上にタノしい事が大切にされていますから」
「ほう？」
　キング・ブレインが目を丸くした。やはり長らく故郷を離れていた彼には知らない事も多いようだ。
「それはまたどうして。いや、皆さんのような強い者がいるならワルくなくても大丈夫なのかもしれませんが」
「気がかりですか？」
　かつてよい子すぎて滅ぼされかけた愛しき同胞たちが、また同じ道を辿るのではないかと気にしているのかもしれない。
「いいでしょう。ガチデビルさんの復活と滅亡。タノしいことを求め始めた悪魔達。魔界の近況をお教えしましょう」
　ガチデビルとの戦争を、7thKING決定戦を、全速力で駆け抜けた黄金の魔王から見た魔界の話。そのひとつひとつを、キング・ブレインはじっと聞き入っていた。
「成程。吾輩の考えはもう古いんですなあ。これも時代の流れですか」
　嘆くような言葉とは裏腹に、キング・ブレインはどこか嬉しそうだ。
「――そろそろ時間ですわね。それではごきげんよう」
　アルテミシアが目を瞑る。白い頬に睫毛の影が落ちる。
「ええ、名残惜しいですが」
「偉大なる４thKINGが、今度こそ安らかに眠れますよう」
　キング・ブレインが息を呑む気配がした。アルテミシアは答えず、そっと形の良い唇の端をつりあげた。
　オブリビオンであり、猟書家であっても、彼女にとっては敬意を払うべき先達。
　悪魔たちの理想が時代と共に変わっても、彼らを想うKINGの心は、きっと変わらない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

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　邪悪なる神を名乗り。
　あらゆるものは自分のものだと豪語し。
　そうして無辜なる民を虐げるすべてを打ちのめしてきた“邪神様”。
「……正直に言うと、お主のことは結構尊敬をしておるよ」
　そんな御形・菘（邪神様のお通りだ・f12350）が、キング・ブレインに抱いた感情は自然なものだったのかもしれない。誰も傷つかない世界にしたくて、｜悪《ワル》という概念を掲げた男なのだから。
「デビキンで魔王になれるほどの力と心を持ったお主が、何故悪の猟書家になったのか、翻意の経緯を知りたくはあるがな」
「ブレブレ、吾輩は元々悪の魔王、今も昔も変わりませんぞ」
　はぐらかされてしまった。
　或いは根の部分は変わっていないのかもしれない。コンコンコンという絶大な力を手にした時にこの男がまず思い描いたのは、あらゆる世界から飢えを無くす事だったというのだから。しかしオブリビオンという過去は存在するだけで現在と未来に牙を剥くものなのだろう。
「まあ、秘して散るのも巨悪の浪漫！　ならば妾もそれに乗るまで！」
「どうするおつもりですかな？」
「はっはっは、巨悪たるもの、野望が潰えたならばプランBを当然用意しているのであろう？　――悪の散り際というカッコ良い魅せ場をな！」
　菘の言葉に、キング・ブレインが虚を突かれたように目を丸くして――それから、ニヤリと笑んだ。
「勿論ですとも！　あちこちで爆発が起こり、この巨大な城がドーンバーンと崩壊するのです！　猟兵の皆さんの記憶に残る巨悪の最期！　ちなみにシステム・フラワーズにはダメージが行かない程度に火薬量を調整しているから心配はご不要ですぞ」
「結構結構。しかしそこまで考えておるなら、ここに来た猟兵たかが数人にだけしか見せつけられないというのも勿体ないであろう？」
「ふむ？」
　首を傾げるキング・ブレインに、菘は視線で周囲を示す。いつの間にか、二人の周辺に無数のドローンカメラが飛び交っていた。
「勿論外にも飛ばしておる。お主の云うド派手な爆発も、崩れ落ちる城もバッチリ写る。つまり妾のチャンネルにではあるが、お主の記録は永遠に残り、皆の記憶に残るのだ！」
「なんと、これは愉快な趣向ですなあ」
　キング・ブレインがカタカタと歯を鳴らす。
「しかし、準備を負えたなら逃げた方がいいですぞ。無人で撮影できるドローンならば尚の事……」
「この場に居るのは只の撮影スタッフだ。スタッフとして動画に手を抜きたくはないというだけの、な」
　邪神様という役割を完璧にこなすだけでは、一流の動画配信者とはいえない。
　自分が映る時も誰かを撮る時も、それが命を懸けた死闘であっても、動画映えを忘れない。だからこそ菘のチャンネルは、あんなにもたくさんのキマイラたちを惹き付けるのだ。
　そして、ファン達が「邪神様」を慕う理由が、もうひとつ。
「気にせず好きなように己の最期を見せつけてくれ！　妾は崩壊ギリギリまで付き合ってやるぞ！」
　菘の背後で爆発音がした。崩れ始めた城の中で、それでも彼女は堂々と立っていた。
　――敵であっても、敬意を忘れない。
　その信念を認めた上で、徹底的に立ち向かう。
　彼女たちのファンが「大首領キング・ブレイン」を忘れないように、髑髏の怪人もまた、邪神様という存在を目に焼き付けていったことだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

●
　崩落が進んでいる。
　崩れ落ちた天井が動けないキング・ブレインに降り注ぐ。
　とうに受け容れる覚悟を済ませていた男は、襲い来る筈の衝撃や痛みがいつまで経ってもやってこない事に疑問を抱いた。
　目線を上げると、そこには隻眼の猟兵、パウル・ブラフマン（Devilfish・f04694）が立っていた。キング・ブレインの視線に気が付いてにかりと白い歯を見せて笑う。
「ハァイ、お疲れ様☆」
　その笑顔のもう少し後方に目線を向けて、ようやく理由がわかった。パウルがブラックホールのような盾を二人の頭上に展開していたのだ。さながら、傘を忘れた友人を自分の傘の中に迎え入れるように。
「おや、これはどうも――いや礼は云いませんぞ、吾輩は悪の大首領で、あなたは猟兵ですからな」
「ふふっ、わかってるよ」
　何せオレのほうこそ瓦礫から庇ったくらいじゃ足りないくらいキツい一発をお見舞いしたからね、とパウルは笑う。
「それよりもさ、最近のデビキンの様子が気になるんだっけ？」
　ぴくりと。キング・ブレインが存在しない筈の耳を動かしたような気配がした。
「やっぱり！　イマね、こんなカンジで……——」
　パウルが取り出したのはタブレット。画面の中には、キング・ブレインが離れて久しい故郷の近況が次々と映し出されている。
「おお、これはあの魔王殿の城ではありませんか。なにやらリフォームしたようですな」
「イイねそういう地元トーク、オレまでアガっちゃう！」
「若い悪魔たちの写真もありますな。何だか皆さん風変わりなスイーツを持っていますが」
「それ今魔界で流行ってるんだって☆タノしい事を求めだした悪魔さん達が、ココ最近色んなムーブメントを作ってるみたいだよ♪」
　ひとつ傘の下。本当に只の友人同士のように、世界を救う猟兵と、世界を壊すオブリビオンは語りあった。
　パウルがキング・ブレインの行いを咎める事は無かったし、キング・ブレインもまた、自らの野望を打ち砕いたパウル達に恨みをぶつける事はなかった。
（「自分の掲げる理想と、己の本性が同じとは限らない」）
　人懐こい笑顔で武装したキマイラを、大多数の人間は善人ととらえるだろうし、パウル自身もそうあろうと振る舞ってきた。けれど実際がどうであるかは、他ならぬ自分自身が一番よくわかっている。
（「でも、その中で――自分でこうなりたいって足掻くキモチは、オレもちょっと、わかったりするから」）
　誰かに優しいと云って貰える度に、理想に近しい形で在れた安堵と、騙しているような罪悪感で押し潰されそうになる。それでも優しくありたい。人にとって“善い”存在でありたい。
　――贖罪？　最初はそうだったかもしれない。けれど、今は多分、少し違う。
「あなたから見て吾輩たちの故郷はどうですかな、いい場所だと思いますか？」
　キング・ブレインからの質問に、パウルは破顔する。
「うん！　戦争があった後なのに皆イマを楽しんでて、とってもパワフルだよね。すっごく素敵な場所だと思うよ！」
　作り込んだ笑顔よりも、ほんの少し子供っぽい顔で。

大成功 🔵​🔵​🔵​

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　イケメンって素敵よねと、黙っていれば可憐で楚々としたエルフことアルゲディ・シュタインボック（白金の癒杖・f03929）は語る。
　何せイケメンは目の保養になる。ただそこにいるだけで誰かを幸せにするなんてすごい事だ。
　でも世界は広く、生き物の姿形も豊富だ。アルゲディがナマモノと呼ぶようなヘンテコな生物たちにだって美醜が存在したりするのだから、当然骸骨にだってイケメンはいる。
「骨格美人なんて云ったりするし……でも、貴方の場合それとはちょっと違うのよね、心がイケメンっていうか」
「おや、おやおや、何だか照れてしまいますな」
　すっかり悪役ムードの抜けたキング・ブレインが頬を緩ませる。
「ぶっちゃけ貴方にならこの世界侵略されても良かったんじゃ？　って思ってたわ。怪人達も心酔してたし凶悪犯罪抑制にはなってたわよね」
「まあ吾輩の強さと恐ろしさを以てすれば容易い事でしたな」
「そういう事にしておきましょ」
「それに吾輩は連続バスジャック、それも子供の乗ったバスを狙うような事件を企てる恐ろしい大首領ですぞ」
　どうかしら、とアルゲディは微笑んだ。
　何となくこの人なら、もし猟兵を退けて野望を達成していたとしても、結局は思いとどまったり、裏からこっそり子ども達を助けたりしてるんじゃないのかとすら思える。
「迷宮災厄戦で現れた七人の猟書家も貴方が最後。何やかんやで私達猟兵とも長い付き合いだったわね？」
「吾輩どころか同胞達まで尽くやられるとは、相手が悪かったですな」
「さっきはその、一応敵味方としての戦いだし、私も意地悪したとは思ってるのよ」
　申し訳なさそうに杖の水晶球を指でつんつんするアルゲディ。反射的に尻を庇うキング・ブレイン。
「でも貴方に向けた評価とか感想は私の正直な気持ちでもあるの。……一生懸命悪事かまそうとしてるとこなんて、こないだまでのデビキン世界の悪魔と一緒ね」
「こないだ」
　キング・ブレインが復唱した。
「先程他の猟兵から聞きましたぞ。あの世界ではデビルキング法だけが全てではなくなったと」
「そう。誰ももう、無理に悪ぶる必要は無いの」
　彼等も、貴方も――そう、アルゲディは微笑んだ。
「あんなによい人たちにワルい事を奨励したのが、実は吾輩の最たる悪事かもしれませんな」
「あら？　私はそうは思わないけれどね」
　だってそれは、きっと愛する人たちを、世界を護る為であったのだから。
　――言葉を交わす間にも、また城のどこかで爆発が起こり、崩落が進み始める。
「そろそろ行った方がいいですよ」
「心配してくれるの？」
　やっぱり優しいのねと、アルゲディはころころ笑う。
「お別れよ、オブリビオンになっても邪悪に染まりきる事のない偉大なキングさん」
　最後に。
　そっと頬に、口づけをした。
「…………」
　飄々とした髑髏の顔に、はっきりと驚愕が浮かぶ。
「それじゃ……また、ね」
　それだけ云って、アルゲディは去っていく。
　走り出す彼女の後ろ、崩れた天井から大量の瓦礫がなだれ込む。アルゲディは振り返らなかった。
　――“また”と彼女は云った。
　過去が蘇るこの世界。いつか正しい形での生命として、再び出逢う事も、あるかもしれない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

最終結果：成功 完成日:2023年07月09日