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知の大海へと漕ぎ出せ、海の月

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馬県・義透
陰海月のお話です!
霹靂が友達&同居人(?)になる前後(21年6月~7月後半)くらい。


6月。だんだん暑くなってきて、お外で遊ぶのが危険(熱中症や干からびる可能性)ということで、陰海月は動画をよく見ていましたが。
またクリックミスしてお目当てとは違う動画が!
しかし、それは謎解き動画であって…陰海月の楽しみが増えた!

暑くて雨の多い7月のある日。見たことあるけど、読み方がわからないものを使った謎解きが出てきた。
「ぷきゅ?」
それはアルファベット。見たことがある理由は『パソコンのキーボード』。
普段の入力が『かな入力』であったため…さらに『おじーちゃんたち』にも馴染みが薄かったために、読み方がわからなかったのだ!
なお、それまでは『キーボードについてる、なんかの模様』とか思ってた。

しかし、ここで知識欲が刺激された陰海月。
さっそくアルファベットの勉強を開始!
フリーのアルファベット表を印刷して張り付けたり、文字練習帳やホワイトボード(『おじーちゃんたち』も使うことがある)にヘロヘロ文字でアルファベットを書いたり、読み方を動画で学んだり。
7月後半には、友だちになってた霹靂に『楽しいんだよ!』と誘って、一緒にアルファベット使った謎解き動画を見たり。
「クエクエ?」(こうかな?)
「ぷきゅー」(そうみたい)
果てには『ローマ字入力』に挑戦したり!

「ぷきゅー」
『KAGEKURAGE(陰海月)』とか『KAMUTOKE(霹靂)』とかぺちぺち。
謎解きサイトでも、『ローマ字入力』で答えをぺちぺち入力したり。
押しミスって英数字入力固定され、慌てて『おじーちゃん』こと『疾き者』に直してもらったり!

「ここを押せばいいんですよー」
「ぷきゅ!」

なおこの影響で、陰海月の方が『ローマ字入力』と『アルファベットを使った謎解き』が得意となりました。
あと、ホワイトボードの上部に、お遊びで『KA☆GE☆KU☆RA☆GE』とか書いたら、大切にとっておかれたとか。



●夏が来たる予感
 蒸し暑い、と思うようになっていた。
 肌に張り付くような空気。
 じっとりとした感触は湿気を帯びているからだろう。しとしとと降る雨の音は嫌いではない。
 多くの音が雨音に吸い込まれていくし、かき消されていく。
 そう思えば、雨の音というのも悪くはない。
 こういうのを環境音というのだと後で知ったのだが『陰海月』は外で遊ぶことができないのだけが不満であった。
 別に海洋の生物であるから、雨に濡れるのを厭うわけではないけれど。
 外で遊んでびちょ濡れになって屋敷に戻ってくると屋敷のいたるところが水浸しになってしまうからだ。
「ぷきゅ~……」
 外で遊べないのは仕方ないけれど、しかし、パソコンをポチポチして動画が見れるのは良いことだった。

 色んな動画が溢れている。
 そんな中でも『陰海月』にヒットしたのが『謎解き動画』であった。いろんなクイズであったり、常識を組み合わせたもの。世相なんかも加味してあるところがUDCアースの文化らしいと思った。
「ぷきゅ、ぷきゅ」
 ふむふむ。
 思考を巡らせる。
 それはとても楽しいことだった。わからないことも多い。けれど、それでもいろんな知恵を絞って、一つの解答を導くのは、頭の中で何かが火花を散らしているようにさえ思えて、『陰海月』には得難い感覚でもあったのだ。

 そんなふうにして雨の日は室内でパソコンをいじり、謎解き動画を見る日々が続いていた。
「『陰海月』、夜更かしをしてはなりませんよ」
「ぷ~きゅ~」
 あともーちょっとーとでも言う感じで『陰海月』が生返事をしている。
 その様子に『疾き者』はしょうがないですね、と少し困ったし、『静かなる者』はどうしたものかと思案する。『侵す者』は言って聞かぬのならと思ったが、それでは自主性に欠けると『不動なる者』に諭される。
 だが、彼等は『陰海月』の変化を好ましく思っていたことだろう。
 夢中になれるものがまた一つ増えたのだ。
 それは歓迎すべきことだろう。

 ただ、それが度を過ぎないようにしっかり見ておく必要がある。
 火の熱さは触れて怪我をしなければわからないだろう。
 けれど、その怪我を我が子にさせたいと思う親もまたいないのである。だからこそ、困っているのであるが。
「とはいえ、どうしたものでしょうかねー」
「言って聞かぬ、というのはあの年頃ではむしろ健全か?」
「自分のことを思い出しています?」
「それはそうですが……」
 うーん、と四柱は唸ってしまう。
 そんな彼等の悩みを他所に『陰海月』は知識欲が刺激されるままに動画を見漁るのだった。

●夏深まる
 日々過ごす時間は流れていく。
 どうしようもなく流れていく。時間は止まってはくれない。待ってくれることはない。
 今日も『陰海月』は動画を見ていた。
 謎解き動画。
 いつものように刺激された知識欲のままに『陰海月』は謎を解いていた。
 だが、画面に浮かぶのはアルファベット。
 見たことがあるが読めない文字だった。記号のようにも思えた。
「ぷきゅ?」
 なにこれ、と『陰海月』は思ったが、何か見覚えがあると思ったらパソコンのキーボードに刻まれている文字だと気がつく。
 ふむふむ、と『陰海月』は思考を巡らせる。
 読めないけど、知っている文字。
 ずっとキーボードについている文字だと思っていたのだ。何せ、おじーちゃんたちも同様であった。
 彼等もキーボードを使う事ができるが、常にかな入力だったのだ。
 アルファベット文字に対する知識が無いゆえに、『陰海月』は馴染みのない文字に知識欲を刺激される。

 なんといってもおじーちゃんたちも知らないであろう文字を、自分が知っていることができたのなら!
 それはきっと嬉しいことだし、おじーちゃんたちも喜んでくれる。
 お手伝いができるかもしれない。
 ふわふわと頭の中に想像がよぎる。
「ああ、どうしたことか。これなる文字が読めぬ」
「ううむ、皆目検討もつかぬ」
「仕方ありませんね、これは……お手上げです」
「おや、『陰海月』どうしたのですー? え、これをなんと読むか知っているのですかー?」
 四人が驚く顔が目に浮かぶ。
「ぷきゅきゅ♪」
 これは楽しい。絶対おじーちゃんたちはびっくりするぞ! 

 そんな風に思って、友達である『霹靂』たちとアルファベットの勉強に勤しむ。
「クエ?」
「ぷっきゅ!」
 そこからは速かった。
 アルファベット表を印刷し、壁に貼り付け、文字練習帳やホワイトボードを活用して描く練習をしていく。
 ヘロヘロとした筆跡であったけれど、徐々に様になっていくだろう。
『霹靂』も手伝ってくれる。
 何がなんなのかわかっていないようであったが、友達が楽しそうならいいか、とも思っていたのだ。

「ぷきゅ、ぷきゅ!」
 これだよ、これ、と『陰海月』が『霹靂』に動画を見せる。
 これが楽しいんだ、と示すと『霹靂』は首を傾げる。まだ難しいようであったが、共に学ぶ友がいるというのはありがたいことである。
 自分ではわかった気になっていたことも、友に教えることで新たに発見できることもあれば、再確認することもある。
 間違っていたことを自覚することもできる。
 だが、どうしようもないこともある。

 ある日、間違って英数字入力をロックしてしまって、どうしてこんなことになっているのか分からずに途方にくれたりもした。
「ああ、これはもう一度このキーを押せば……この通り」
『疾き者』がキーボードを直してくれたりもした。
『陰海月』はおじーちゃんすごーい、と感激しているようであった。それに『疾き者』はちょっとむず痒い気持ちになったが、鼻がちょっぷり伸びていたことを他の三柱は見逃さなかった。
「な、なんです……」
「いいえー?」
 そんなやり取りを穏やかに過ごしていく。

 成功から学ぶことは少ない。
 けれど、失敗からは多くを学べる。四柱ができることは、安心して失敗できる環境と失敗したときのリカバリーのやり方を教えることだ。
『陰海月』も『霹靂』も四柱の庇護の元、すくすくと知性を育んでいく。
 謎解き動画に夢中になって夜更かしすることも、それで怒られることも。
 どれもが得難きものとなって彼等の糧となっていくだろう。
 それを四柱は見守るのだ。
「おやおや……」
「すっかり寝落ちしていますねー」
 そこには謎解き動画に夢中になって、寝てしまった『陰海月』と『霹靂』のねぞべる姿があった。

 起こすまでもない、と四柱は互いに見合わせ笑む。
 いつの日にか、と思う。
 彼等が巣立つこともあるのだろうと。
 けれど、今だけは。僅かな時だけは共にあることを喜ぶべきだろう。
 育まれた知性の証を示すようにホワイトボードには、よれよれの、けれど、ちょっぴりマシになったアルファベットが並ぶ。

 それは自分を示す名。
『KAGEKURAGE』と『KAMUTOKE』。二つの名がホワイトボードに浮かぶ。
 知の結晶。
 知りたいと願い、理解し、前に進むための力。
 それを自分たちは与えられているだろうかと四柱は悩んでいた。
 けれど、それを見れば分かる。
 彼等は彼等自身の選択によって進んでいけると。
 いつの日かはまだ遠く。
 けれど、訪れるその時が楽しみであり、また遠ざけたくもあり。
 それがどうしようもなく愛おしいということであると知るのだった――。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2023年06月10日


挿絵イラスト