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アプリヘンド・メサイア

#クロムキャバリア #ノベル #エルネイジェ王国

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#クロムキャバリア
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#ノベル
#エルネイジェ王国


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メサイア・エルネイジェ
【メサイア逮捕編】
メサイアが帰国して捕まって牢屋にぶち込まれるノベルをお願いします!
今回は複数人の合わせノベルでご依頼させて頂きます。

アドリブ・改変歓迎です。
困難・不明な点の解釈はお任せします。

●つまり?
とある依頼の終了後、メサイアと水之江はナイアルテさんの所に戻ってきました。
そこでメサイアは手紙を受け取ります。
『戴冠式を執り行うので帰ってきなさい』
エルネイジェの王家に生まれた者は、二十歳を迎えると戴冠式を執り行い、臣民に正式な王族と認めて貰わなければなりません。
「ですけれど今帰れば捕まってしまいますわ……」
しかし次の一文で考えが正反対に変わります。
『おいしいご馳走を沢山用意して待っていますよ』
「なんですって!? こうしてはいられませんわ〜! ナイアルテ様〜! わたくしをエルネイジェ王国に送ってくださいまし〜!」
自分が指名手配されている事など完全に忘れてしまいました。
「そうですわ! ナイアルテ様とお博士もご一緒なさるとよろしいのですわ〜! ご馳走はみんなでお召しになった方が美味しいのですわ〜!」
そしてメサイアは帰国の路に就きました。

そしてエルネイジェに到着したメサイアを待っていたのは、インドラに乗ったソフィア率いる聖竜騎士団とメルヴィナでした。
皆険しい表情をしています。
「皆様〜! わたくしが帰って参りましたわよ〜! ご馳走はどちら? こちら?」
空気の読めないメサイアはヴリトラから降りてしまいました。
すると突然インドラがヴリトラに襲い掛かりました。
ヴリトラは一瞬でノックアウトされてしまいます。
「んんん?」
急な出来事にメサイアは呆然としてしまいました。
「皆の者、手筈通りに頼みます」
聖竜騎士団のキャバリア達はヴリトラを拘束するとどこかに運び去ってしまいました。
「メルヴィナ、頼みましたよ」
「まさか本当に帰ってくるとは思わなかったのだわ……」
メルヴィナはメサイアを水の球体に閉じ込めてしまいました。
「これはどういう事ですの〜!? わたくしのご馳走は〜!?」
騒ぐメサイアを無視してソフィアはナイアルテさんと水之江に話しかけます。
「ナイアルテ様、それから其方のご婦人様……我が愚妹が大変なご迷惑をお掛けしました。ここまで連れて来て頂いた御礼として、ささやかながらおもてなしをさせてください」
ソフィアは深くお辞儀します。
「ええっとつまりそれはタダでご飯をご馳走してくれるって事かしら? おっと、私は桐島技研所長の桐嶋水之江と申します。兵器類でのご相談があれば是非」
水之江は名刺を差し出します。
ソフィアは怪しい人だなと思いました。
こうしてナイアルテさんと水之江は王城へと案内されました。

一方メサイアはというと。
「わたくし何も悪いことしておりませんわ〜!」
牢屋にぶち込まれました。

それから一晩が経ちました。
メサイアの元にソフィア、メルヴィナ、水之江、ナイアルテさんが訪れます。
そしてソフィアは言いました。
「メサイア、貴女に判決が下りました。ですが判決を言い渡すその前に……」
ソフィアはメサイアの尻を思いっきりぶっ叩きました。
「いってぇですわ〜!」
尻叩きが終わると、遂に判決が言い渡されます。
「メサイア、貴女はキャバリア裂きの刑に処されます」
「なんですってー!?」
キャバリア裂きの刑とは牛裂きの刑のキャバリア版です。
エルネイジェでは一般的な処刑方法です。
「無実の罪でお処刑なんて嫌ですわ〜!」
大騒ぎするメサイアにソフィアは言いました。
「助かる方法がひとつだけあります。それは……戴冠式を終えて、民に真の王族として認められる事です」
続きます。

だいたいこんなイメージでお願いします。
絶対こうでなきゃダメとかそんな事は全くありませんので、ノリと書きやすさ重視でお願いします。
ナイアルテさんの出演に問題がある場合はいい感じに誤魔化してください。

以下はネタに困った際の参考資料程度として扱ってください。

●メサイアから見たソフィアとは?
「すんげぇ強くてすんげぇ恐ろしいお姉様ですわ……」
喧嘩でもキャバリアの試合でも一度も勝てた試しがありません。
幼い頃はよく尻叩きされていました。

●メサイアから見たメルヴィナとは?
姉です。
「メルヴィナお姉様は嫁ぎ先で気を病んでしまわれたのですわ……おいたわしや!」

●メサイアから見た水之江とは?
「お博士ですわ」
ヴリトラの整備や装備の面倒を見てくれるちょっと変な博士です。


桐嶋・水之江
【メサイア逮捕編】
リクエストの本文はメサイアと同様です。
以下はネタに困った際の参考資料程度として扱ってください。

●どんな人?
桐嶋総合技術研究所の所長です。
無自覚な悪い奴です。
自分の研究の為なら何をしても許されると本気で思っています。
ですが普段は周りの倫理観に仕方なく合わせています。
悪名が広まり過ぎてスポンサーが全く付かないので、研究の為の資金繰りに奔走しています。
グリモアの力を使って世界を渡り自社製品を売り捌いたり、猟兵の斡旋と引き換えに利権を得ています。
相手がオブリビオンでも構わず商売します。
人のお金で食べる焼肉が大好きです。

●メサイアとの関係は?
メサイアを桐嶋技研の住み込みの従業員として雇っています。
業務内容は新装備のデータ収集です。
メサイアは戦力として非常に強力なので重宝しています。
メサイアが国を出奔して来た事は知っています。

●エルネイジェ王国に来た目的は?
あわよくば王族とお近づきになってエルネイジェ内での活動基盤を確保しようとしています。

●文字数配分について
ソフィア・メルヴィナ・メサイア・水之江は全て【塩沢たまき】が管轄しているPCですので、文字数や扱いのバランス等は気にしないでください。
仮にソフィアとメサイアばかり喋ってるという状態になっても全く問題ありません。
特に水之江は設定とロールプレイの都合上、その場に居合わせているだけでも目的を達成出来ますので完全な脇役でもOKです。
一言二言喋るだけでも全然大丈夫です。
水之江の文字数はナイアルテさんに割いてあげてください。
文字数一杯じゃなきゃヤダとかそんな事は全くありませんので、思うがままに書いて頂ければ幸いです。


ソフィア・エルネイジェ
【メサイア逮捕編】
リクエストの本文はメサイアと同様です。
以下はネタに困った際の参考資料程度として扱ってください。

●何人合わせ?
メサイア
ソフィア
メルヴィナ
水之江
以上の四名です。

●続き?
今回は何度かに分けてリクエストさせて頂きたいと考えております。
よろしければお願いします。

●ソフィアから見たメサイアとは?
愚かな妹です。
捕まえたら尻を引っ叩いてやろうと心に決めていました。
ですが処刑されるのはあまりにも可哀想なのであの手この手で助けようとします。

●ソフィアから見たメルヴィナとは?
妹です。
ヒステリーを起こさなければ物静かなのでよき相談相手でもあります。

●メサイアの罪状は?
国費の横領とヴリトラの無断使用並びに無断で国外持ち出し、その他諸々です。
重罪です。
戴冠式で正式な王族と認められたならばヴリトラの使用に関わる罪は不問になります。

●聖竜騎士団?
エルネイジェ王家直轄の独立部隊です。
規模は小さいです。
王族や親戚、特別に親しい間柄の者で構成されています。
男子禁制という訳では無いですが女子が多いです。
敵国からはくっ殺騎士団の蔑称で呼ばれる事もあります。

●エルネイジェ王国ってどんなところ?
現代の北欧系に近い風土と街並みです。
科学も魔法もありますがちょっとファンタジー世界寄りです。


メルヴィナ・エルネイジェ
【メサイア逮捕編】
リクエストの本文はメサイアと同様です。
以下はネタに困った際の参考資料程度として扱ってください。

●メルヴィナから見たメサイアとは?
愚かな妹です。
手に負えません。
ですが嫌いな訳ではないです。
自分も嫁ぎ先から逃げ帰ってきた手前なので出奔の件をあまり強く咎められません。

●メルヴィナから見たソフィアとは?
血気盛んな姉です。
自分とは正反対の属性だと思っています。



●急転直下
 猟兵達の戦いは常に多世界を跨ぐものである。
「それはわかっておりますが、それにしたって大変なお仕事でございますわね~お仕事の後の一杯。ストゼロが身に染みますわ~!」
 メサイア・エルネイジェ(放浪皇女・f34656)はあっけらかんとしていた。
 激しい戦いが繰り広げられる世界の命運を懸けた戦い。
 オブリビオンとの戦いとは常に世界の破滅と隣り合わせだ。
 それは、桐嶋・水之江(機巧の魔女・f15226)も承知の上であろう。いや、彼女は世界の危機こそ己の研究資金を集める絶好の機会であると思っている節があった。
 正直に告白するのならば、自分の研究が進むのならば何をしても許されると思っていた。
 倫理観は存在しないのかという問いかけに対して、水之江は『それでお金が入るならやぶさかではない』と言うだろう。

 そんな二人を前にグリモア猟兵のナイアルテはなんとも言い難い顔をしていた。
 グリモアベースに戻ってきたメサイアたちの戦いは転移を維持している彼女の知るところである。
「お疲れ様でした。メサイアさん、少しお時間を頂けますか?」
「わたくしに、です? あら、なんでしょう?」
「私は戻っているわ……いえ、待っているわ。従業員の管理をしっかり行うのも雇用主の務めだものね」
 メサイアはその言葉に珍しいこともあるものだと思った。
 後なんか様子がおかしい。
 いや、もっと正確に言うのならば水之江の表情が変である。
 あれはなんと言語化すればいいのだろうか。

 言うなれば、完全に金の匂いを嗅ぎつけたような顔であった。そんな水之江の様子にナイアルテは、だからメサイアだけを残そうと思ったのだが、無下に追い払うことはできない。
 水之江の倫理観の欠如は知っている。
 これまで多くの猟兵たちをグリモアベースで見てきたが、水之江のように諸々の倫理がぶっ飛んだ猟兵はそうそう居るものではない。
 ましてや彼女はメサイアの事情を知っている者である。
 水之江もまたメサイアが自国を出奔してきたことを知っているのだ。
「あら、どうしたのかしら。私が居ては困ることでも?」
「いえ。そういうわけでは……」
 ナイアルテの逡巡を見透かすように水之江は笑む。
 ここで、そうだ、とは言えない。言ってしまえば、それをメサイアが不信に思うからだ。ナイアルテは時に猟兵達に死地と言って良い戦場に送り出す身である。
 不信の種を育てるようなことをしてはならないと己に戒める。

 というか、どう言い繕っても水之江は確実にメサイアに戴冠式を知らせる彼女の親族からの手紙を嗅ぎつけるだろう。
 完全に己のスポンサードにしようと目論むはずだ。
 ならば、下手に泳がせるより清濁併せ呑むように水之江を巻き込んだ方が手っ取り早いと思ったし、なんなら倫理観に悖ることをしようとしたのならば、自分が止めれば良いと思ったのだ。無理だけど。
「なんですの? なんですの?」
 こちらを、とメサイアにナイアルテは手紙を差し出す。
 豪奢な封筒に今どき珍しい封蝋には、ある小国家の印章が施されていた。それをみやり、メサイアの瞳が揺れる。
「ほぎゃ!」
 メサイアは慌てて封筒を開封し、中に納められていた手紙に視線を走らせる。
 その動きはよどみなかったが、動揺しているのか便箋を握る手がふるえていた。
「何々、『戴冠式を執り行うので帰って来なさい』?」
 水之江がメサイアの背後から覗き込む。
 そこに記されていた内容を読み上げる姿にナイアルテは咎めるが、水之江は聞いていない。
「いいじゃない。戻れば」
「で、ですけれど今帰れば捕まってしまいますわ……」
「どのみち遅いか早いかでしょ」
「いやですわ~!?」
 水之江の言葉にメサイアは叫ぶ。
 前科者であるメサイアにとって余罪はたっぷりある。魔法学園の不祥事も、キャバリアを無断で持ち出したことも。その間にあったであろう諸々も。
 その事を思えばこそ彼女は猟兵になったのを良いことにあっちをフラフラこっちをフラフラしているのだから。

「あら、でも続きがあるわよ。用事は『戴冠式』だけじゃあないのかしら?」
「え、なんです? なになに? ふんふんのふん」
 メサイアは手紙の内容を最後までしっかり読み込む。
 その視線を文末まで読み切った時、彼女の瞳がキラリと輝く。
 先程まで己がしでかしたことにより、怯えていた彼女はもう其処にはいなかった。
「なんですって!? こうしてはいられませんわ~! ナイアルテ様~!」
「は、はい!?」
 え、何。
 ナイアルテはびっくりした。メサイアが急に手紙を読み終わったかと思いきや自分の腕を掴んでぐいぐいグリモアベースから出ていこうとしているのだ。
 いやだ、巻き込まれたくないと彼女は思った。
 普段のメサイアの戦いぶりを見ていると……頼りになるのだが、こう、破天荒が過ぎるのだ。絶対巻き込まれるやつだと彼女は理解した。
 いや、でも水之江のこともある。
 彼女のことを止めなければならない。
 
 倫理観がぶっ飛んで成層圏を抜けて、スペースシップワールドからスペースオペラワールドまで突き抜けそうな天才科学者を放置しておくことほど怖いものはない。
 水之江はグリモアの力を使って当たり前のように世界を渡っては自社製品を売りさばいたり、猟兵の斡旋を行った引き換えに利権を獲得したり、挙句の果てには相手がオブリビオンであっても商機になると理解すれば、即座に商談に乗り出すような女性である。
「だって人のお金で食べる焼肉って美味しいじゃない」
 そうじゃない、とナイアルテは叫びたかった。
 いやもしかしたら、それもまた水之江の一つの作戦なのかもしれない。
 本当は善良な心根があって、それを隠しているだけかもしれない。悪ぶっているだけかもしれないと思っている。
 人を疑うのよくない。
 人の善性を信じられないで何が、と彼女は思い直すのだ。さっきまで、いざとなったら水之江を物理でどうにかすればいいとか思っていた者とは思えない。
「わたくしをエルネイジェ王国に送ってくださいまし~!」
「えっ、急にまたどうしてです?」
「ほら、ここを見てくださいまし!『おいしいご馳走を沢山用意して待っていますよ』ですって! こうしてはいられないのですわ~! おご馳走がわたくしを待っているのですわ~!」
 よだれが零れそうだった。
 本気かな、とナイアルテは思った。
 こんな嘘みたいな見え透いた誘い文句ある? と思った。メサイアのことを流石に見くびりすぎじゃないかと思った。

 メサイア的に言うならば、『でっけぇお釣り針ですわ~!』と云うやつである。
 そんな釣り針に釣られるわけがないとナイアルテは思っていたが、水之江はもうとっくにご理解しているのである。
「あらそう。それは楽しみね。お腹いっぱい食べなさいな」
「ええ、たくさん食べますわ~! あ、そうですわ! ナイアルテ様とお博士もご一緒になさるとよろしいのですわ~! ご馳走はみんなでお召になった方が美味しいのですわ~!」
「いいのかしら。ええ、でも折角のメサイアのお誘いなのだもの。ご相伴に預からせていただこうかしら」
 にこりと、微笑む水之江。
 そこはかとなく怪しい。怪しさが白衣着ているようにさえナイアルテは思ったが、もう止められない。

 彼女が暴走超特急のメサイアと暴走機関車の水之江の二人を止められる訳がない。
 そんなわけでナイアルテはクロムキャバリア、アーレス大陸に存在する小国家『エルネイジェ王国』へと二人と共に転移するのだった――。

●急転直下からの急降下
「ただいま戻りましたわ~! おご馳走!」
 ごきげんよう、みたいなイントネーションでメサイアは明るい顔で『エルネイジェ王国』の地を踏む。
 キャバリアである『ヴリトラ』と共に三人はクロムキャバリアに転移する。
 そんな彼女の背後から水之江は興味深そうに周囲を見回す。
 見た所、『エルネイジェ王国』は魔法と科学が同時に存在している文化を持つようであると彼女は即座に理解する。
 彼女の頭脳は即座に国家予算の程度を割り出す。
 配備されたキャバリアの数。
 防衛施設。
 そうしたものを視線一つで巡らせ、理解するのだ。それは謂わば品定めをしていると言っても良いものであった。
「水之江さん」
「わかってるわよ。まったくもう疑り深いったらないわ」
 ナイアルテの言葉に肩をすくめる。
 というか、彼女にとって目的はすでに達成されている。『エルネイジェ王国』での活動基盤。それはこの場に足を踏み入れた時点で達成していると言ってもいい。

『ヴリトラ』と共に帰郷したメサイアを出迎えたのは、『インドラ』と呼ばれるキャバリアに騎乗したソフィア・エルネイジェ(聖竜皇女・f40112)と聖竜騎士団のキャバリア。そして、メルヴィナ・エルネイジェ(海竜皇女・f40259)であった。
 彼女たちの姿を認め、メサイアの顔がほころぶ。
 久方ぶりの姉たちの顔を見て気が緩んだと言っても良い。それにご馳走を用意してあると手紙に記されていたのだ。
 もうおなかぺこちゃんである。ぺっこぺこで背中におへそがくっつきそうであった。無論、比喩である。そこまでほっそりしてない。

「皆様~! わたくしが帰って参りましたわよ~! ご馳走はどちら? こちら?」
 無用心にもメサイアは『ヴリトラ』を降りてしまった。
 水之江はあえて止めなかった。
 止める理由などなかったから、と言えばそれまでである。
 どう考えても方便にあれでしょ、と思っていたが口に出さなかった。彼女はこの『エルネイジェ王国』とのパイプを欲していた。
 確かに従業員であるメサイアの戦力は非常に強力であるから重宝している。
 けれど、カードの切り方というのは常に手札の多い方が強い。
 それに彼女にはワイルドカードがある。交渉など如何様にでもできよう。
 
 だから、止めなかったのだ。
「メサイア……愚かな妹です」
 ソフィアとメルヴィナの言葉は同じだった。
 ふたりとも末妹であるメサイアに対して同じ思いを懐いていた。いや、僅かにメルヴィナのほうが優しいとも言えたかもしれない。
 彼女はメサイアに対して手に負えない、と言う印象を抱いていた。
 けれど、愚かな、というのならば己も同じだ。
 嫁ぎ先から逃げ帰ってきた手前、その立場からメサイアを糾弾することなどできようはずもない。それにメサイアのことは嫌いではない。
 妹として可愛がりたいという感情もある。
 だからこそ、出奔のことを咎められない。

 だが、ソフィアは違う。
「『インドラ』!」
 瞬間、彼女の駆るキャバリア『インドラ』のアイセンサーが煌めく。
 メサイアが降りた瞬間を狙って『ヴリトラ』を『インドラ』が一瞬で取り押さえたのだ。刹那の瞬間とも言って良いほどの速攻。
 乗り手が騎乗していない『ヴリトラ』は、機械神とは言え、力を十全に発揮できない。
 メサイアが降りた瞬間をソフィアは逃しはしなかったのだ。
「あ~あ……やったわね、メサイア」
「んんん?」
 メサイアは水之江の言葉を上手く飲み込めていなかった。
 現状もまた同様だった。
 呆然としていた。
「あの、わたくしのおご馳走は?」
「皆の者、手はず通りに頼みます」
 ソフィアは聖竜騎士団へと告げると、騎士団の機体が即座に『ヴリトラ』を拘束しすぐさま運び去る。
 あっという間の出来事だった。
 メサイアはというと、まだ呆然としていたが、漸く飲み込めたようだった。
『インドラ』が『ブリトラ』をぶっ飛ばし、何か知らぬ内に連れ去られてしまったのだ。

「これはどういうことですの~!? わたくしのご馳走は~!?」
「あの、『ヴリトラ』さんのご心配は……」
「ご馳走は~!?」
「メルヴィナ、頼みましたよ」
「まったく……まさか本当にあれで帰ってくるとは思わなかったのだわ……」
 メルヴィナは頭が痛い思いであった。しかし、やるべきことはしなければならない。
 ソフィアの言葉に顔所は水の魔法を手繰り、メサイアを水の球体たる檻へと閉じ込める。
「見事な手腕ね。それはユーベルコード?」
 水之江は水の球体の中で騒ぎ立てるメサイアを横目にメルヴィナへと尋ねる。

 けれど、それを制するようにソフィアが『インドラ』より降りて歩み寄る。
「ナイアルテ様、それから其方の御婦人様……まずは非礼のお詫びを。我が愚妹が大変なご迷惑をおかけしました」
「い、いえ……そんなことは」
「私の住み込み従業員なのだから、手荒にしてほしくはないわね。確かにメサイアの身分は王族かもしれないけれど、出奔した後でしょう。なら、今は私の雇った従業員だわ」
 だから、と言うように水之江の瞳が煌めく。
 また悪巧みしていると、ナイアルテは思った。けれど、それ以上にソフィアの漲る重圧にあわわってなっていた。
 一触即発といえばいいのだろうか。
 メルヴィナも血気盛んな姉を止めることができない。

 だが、ソフィアは誰に諭されるでもなく自身の感情を収める。
「ご協力頂き感謝しております。愚妹を此処まで連れて来て頂いたお礼として、ささやかながらおもてなしをさせてください。『エルネイジェ王国』の第一皇女、ソフィア・エルネイジェの名の元に、ご不便をおかけすることはないとお約束いたしますわ」
 あくまで客人として、という態度をソフィアは崩さない。
 深くお辞儀した姿に水之江は面食らう……ことはなかった。
「これはこれは。皇女殿下とは知らず。おっと此方から名乗らなかった非礼をお詫び致します。私は桐嶋技研所長の桐嶋・水之江と申します」
「桐嶋技研……」
「ええ、兵器類でのご相談があれば是非」
 水之江が差し出した名刺をソフィアは見つめる。
 悪しき者ではないかという疑念はある。けれど、ソフィアは、それをおくびにも出さない。
 冷静出会ったと言うべきだろうか。
 彼女のあり方を見定めているとも取れる一瞬の間の後に名刺を受け取り、一分の隙もない所作で告げる。

「では此方で歓待を」
 メルヴィナはソフィアの言葉に頷く。
 血気盛んな姉ではあるが、姉の気質を彼女はよく理解している。同時にソフィアもまたメルヴィナのことを信頼している。
 だからこそ、メルヴィナに二人の歓待を任せたのだ。
 二人は『エルネイジェ王国』の城内へと招かれるままにメルヴィナに誘われていく。
 水之江の視線をソフィアは見つめる。
 交錯する。
 そこに思惑が絡むことを知りながら、しかしソフィアは踵を返す。
 己にはまだするべきことがるのだから――。

●急転直下からの急降下からの
「わたくし何も悪いことしておりませんわ~!?」
 なんでこんなことになりますの、とメサイアは牢屋で嘆いていた。
 あれからすでに一晩が立っていた。
 冷たいし、しんどいし、お腹すいたし、叫び倒して喉も枯れ果ててしまっていた。
 というか、完璧に罠にはめられたと思った。
「あんな巧妙な罠、誰だって嵌ってしまいますわよ~! 卑怯ですわ! 正々堂々ぶつかり稽古でもしてくださったほうがマシですわ~! ヴリちゃんでぶっ飛ばしてくれやがりますのよ~!」
 がっちゃんがっちゃんとメサイアは檻の鉄格子を揺らす。
 いつものメサイアである。
 お腹が空いても、牢屋にぶち込まれても。あんまり変わらないのである。

「メサイア」
「ぴいっ!」
 聞こえたソフィアの言葉にメサイアはピンと飛び上がる。
 鉄格子の向う側から聞こえた言葉に思わずメサイアは姿勢を正してしまう。
「いえ、別に何もしておりませんわ~! お姉様とぶつかり稽古なら負けませんわ~! とか思っておりませんわ~!」
「……」
 黙るソフィアの背後にはメルヴィナ、水之江、そしてナイアルテもいる。ナイアルテだけなんか場違いな気がした。
「メサイア、貴女に判決が下りました。ですが、判決を言い渡すその前に……」
 ソフィアはつかつかと格子の前に歩み、鍵を外し扉を開く。
「ああ、お姉様~! お久しぶりですわ~!」
 目いっぱいの愛想を振りまいてメサイアは感動の対面をセルフプロデュースする。
 キラキラとなんか見慣れないきれいなエフェクトが掛かっているような気がした。気の所為だが、なんかそんな幻視をメサイアはしたのである。
 
 これならば行ける。誤魔化せるとメサイアは思った。
 けれど、現実は非情である。
 無駄に流麗なモーションで駆け寄るメサイアをソフィアは、これまた1フレームも譲らぬ見事な踏み込みで持って抱え込み、ぐるりと体勢を入れ替える。
 そう、これは『エルネイジェ王国』に伝わる伝統的なお仕置きスタイル。
 膝上にメサイアを載せ、がっつり片腕でホールド。
 自然、四つん這いになるメサイア。
 そして、突き出される臀部。
 そこまで見ればもうわかる。
「わお」
 水之江は口を開く。お見事、とも言ったかもしれない。

 瞬間、ものすごい破裂音が響き渡る。
「いってぇですわ~!」
 それはソフィアによるおしりペンペンであった。この年になってまさかおしりペンペンされるとは思っていなかったメサイアは思わず叫んだ。
 だが、一発で終わるわけがなかった。
 続く破裂音。
 ソフィアは容赦しなかった。
 マジでぶっ叩いていた。ぺんぺんなんて可愛い感じではなかった。でもなんて言っていいかわからなかったので、あえてぺんぺんと言わせて頂こう。
 ひとしきりぶっ叩いた後、ソフィアは漸くメサイアを開放する。
 幼い頃からメサイアはソフィアに喧嘩で勝ったことはない。キャバリアによる試合でも同様だった。
 どうあっても敵わない。
 おしりペンペンも度々されていた。お尻の痛みを忘れたことはない。
 今でもソフィアの凍えるような声を聞くと、お尻がひゅんってなるのである。姉に敵う妹などいるはずがないのである。
 それくらい、メサイアとソフィアの力関係は決定的だった。
 まあ、確かに猟兵としての力量だけで言うのならばメサイアはソフィアを上回っているだろう。
 けれど、事は単純ではない。
 まあ、見れば分かるものである。どうあっても勝てない。メサイアにとって、ソフィアとは人生における負けイベントなのである。
 近づかなければ負けないとか、フラグを立てなければ大丈夫とか、そんなことはない。あっちからやってくるのである。
 少なくともメサイアにとってはそういうものであった。

「いいですか、メサイア」
「ひぃ、ぴぃ……お尻がシックスパックになる所でしたわ……」
「お聞きなさい」
「ひぇっ!」
「正座なさい」
「はぃ!」
 ナイアルテは思った。
 ソフィアに逆らうのはやめておこうと。メルヴィナも思ったかも知れない。水之江は思ってない。

「メサイア、貴女はキャバリア裂きの刑に処されます」
「キャバリア裂きの刑?」
「ま、まさか、それは……!」
「知っているのかしら、メサイア」
 水之江はちょっと茶化した。どっかの書房を探してきたほうが良いのかなとナイアルテは思ったが、此処で自分も乗っかっては確実にソフィアにぺんぺんされると恐れたので黙っていた。
 雉も鳴かずば撃たれまいっていうやつである。賢明である。
「ええ、メサイア、貴女も知っての通り。キャバリア裂きとは牛裂きの刑のキャバリア版です」
 股から真っ二つになるあれである。
 想像するだけで怖い。
 ちなみに『エルネイジェ王国』では一般的な処刑方法である。そんなわけあってたまるかと思ったが、そんなわけあるのである。
 メサイアの青ざめた顔を見ればわかる。マジである。これが。
「なんですってー!? 無実ですわ! わたくし無実でしてよ~!? 無実の罪でお処刑なんて嫌ですわ~!」
 じったんばったんどったんばったんの大騒ぎである。
 これが王族なのかなとナイアルテは思った。だがまあ、ナイアルテには王国事情はわからぬ。ナイアルテはグリモア猟兵である。予知をして、お菓子をUDCアースで買っては食べて暮らしている。
 だが、己の予知による事件を解決してくれたメサイアをこのまま真っ二つにさせるわけにはいかなかった。
 思わず声をあげようとして彼女はメルヴィナに制される。
 メルヴィナは視線だけでメサイアを救わんとした走れナイアルテに示してみせた。本題は此処からである。

 ソフィアもメルヴィナもメサイアのことは愚かな妹だと思っている。
 けれど、嫌いなわけがない。
 血を分けた妹なのだ。確かに彼女がしでかしたことは大罪であろう。処刑されるなんてあまりにも可愛そうだと二人は思っていた。
 だから、なんとしてでも助けようと思っているのだ。
 四方八方に手を回した。
 それでようやく手にしたのだ。

「助かる方法が一つだけあります」
「な、なんですの~!? キャバリア裂きの刑以外ならなんでもやりますわよ~!?」
「いいからお聞きなさい」
「ひぇっ、わかりましたのよ~ソフィアお姉様はいつもビリビリおっかねぇのですわ」
「いいですか」
「はいっ」
 その言葉にソフィアは頷く。
 メルヴィナも頷いた。お互い視線を合わせて目配せする。
 ここまでは予定通りだと言わんばかりだった。
「それは……」
 ごくりんこ。
 メサイアの喉が鳴る。
 キャバリア裂きは嫌だ。キャバリア裂きは嫌だと、まるでどっかの魔法学園の帽子に祈るようでもあった。

「戴冠式を終えて、民に真の王族として認められることです」
 その言葉にメサイアは見上げる。
 それが己の刑を免れる条件。
 どのみちメサイアに拒否権はない。断れば、このままキャバリア裂きの刑に処されて左右真っ二つになる。
 あら、はんぶんこ怪人みたく格好良くありませんこと? とちょと思ったり思わなかったりしたが、しかし、彼女に決断させるには充分だったかもしれない。
 喉が鳴る。
 戴冠式。
 王族が王族として認められるための必要なこと。
 メサイア・エルネイジェ――二十歳を迎えた今、此処に人生の岐路が現われる。
 果たして無事に戴冠式を迎えることができるのか。お尻がマジで真っ二つになるかもしれないという憂き目を他所に、彼女は無事に切り抜けられるのか。
 まだ未来は決まっていない――。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2023年06月07日


挿絵イラスト