エクティアの蒼き信念
「……この力は、いったい?」
自分の手のひらから迸る蒼い電気を、青い髪の少女は目を丸くして見つめていた。
現在から遡る事数年前。これは彼女が改造手術を受け、サイボーグとなった直後の話だ。
「改造は成功のようですね」
「成功……私が、ですか」
少女の首には鎖付きのチョーカーがはめられ、そこには「エクティア」と名前が記されている。
彼女はもともと特別な人間ではない。この世界ではありふれた下級市民のひとり、生きる為に身を売った性奴隷の一人。それがとある研究所に買われる事になったのは、ただの偶然か運命の悪戯か。
与えられた新しい身体の「使い方」を、エクティアはおぼろげに理解する事ができた。
「プロトタイプ達の貢献が無駄にならずに済んで良かったです」
「……プロト、タイプ……」
研究員の一言で、エクティアの脳内に刻みつけられたデータが解凍される。
彼女はこの研究所が手掛ける初めてのサイボーグではなかった。1から10までのナンバーを振り分けられたプロトタイプ、そして更にその元となったナンバー0。彼女達のあらゆるデータをベースに改造が施されている。
そしてエクティアには改造時点で礎となった、プロトタイプナンバー全てのデータがインプットされていた。
「あっ……あああ……っ!」
この"事実"を理解した瞬間、エクティアは目から|涙《オイル》を流した。
それは自分のような塵屑のためだけに、犠牲になり停止状態になったプロトタイプ達に対する悲しみと罪の意識だった。同時にそれは、彼女の中にまだ人としての魂が残っている証明でもあった。
「これから貴女には次世代の開発のため、様々な実験を受けて頂きます。泣いている暇はありませんよ」
まんじりともせずに淡々と語りかける研究員のほうが、よほど機械的で非人間的に感じる。
この瞬間から、ただの奴隷だったエクティアの人生は一変した。そして彼女の根幹となる"想い"が芽生えたのも、この時だった。
●
――それからの日々は、実験に次ぐ実験、研究に次ぐ研究だった。
エクティアは全てにおいて優秀な結果を出し、研究所は彼女をベースとした新たなサイボーグを製造する。
以前のプロトタイプナンバー達の立場に、今度は彼女が置かれたわけだ。
後継機のロールアウト後もエクティアが廃棄されなかったのは、「理論上は最強」という評価を研究員や開発者から下されるほどの潜在能力にあった。
だが、そんな事は当人が気にする事ではない。自分を元に造られた"家族"と呼ぶべき存在を見る度に、彼女の脳裏にはプロトタイプの存在がちらつく。
(この子達を護らないと)
深い嘆きと悲しみの中で覚醒めた、誰よりも強い家族愛。それが今のエクティアの原動力だった。
彼女が最強と目される所以は単純に、意志の強さが、信念の強さが、精神力が――そう、愛の強さが、魂の強さが、他の個体と比べて桁違いなのだ。あくまで理論上という評価すら彼女には生ぬるい。
自分の家族が危険に晒されるのは何があっても認めず、命を懸けて守り抜く。
エクティアは自分から造られた全ての子を等しく家族であり庇護の対象として扱い、故に家族の敵となる汎ゆる|悪《オブリビオン》を打ち砕くと決めた。
「あの子達の|未来《ゆめ》を奪うのか? 認めない、認めれるわけがない、巫山戯るなよ!」
どんな些細なことも見捨てず、見て見ぬふりはせず、手を差し出し、抱き締め、家族の盾となり家族の為に生き家族の為に死んでいく|不死身の蒼煌雷霆《ブラウ・ケラウノス》。
全ての家族を愛する蒼き原点たる理由、エクティアの根幹はここに完成した。
そう――彼女もまた、悪の敵に他ならないのだ。
成功
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