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寒い寒い武家屋敷の怪

#サムライエンパイア

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#サムライエンパイア


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●私は幽霊じゃなくてー
 とある町にある一軒の武家屋敷。その屋敷に住んでいた者達はいつ頃からか姿を消してしまい、今は空き家となっていた。
 人も寄り付かぬようになり、雨風に晒され、時と共に風化していくかと思われたが――ある時から、妙な噂が町の子供の間で流れ始める。
 あの屋敷には女の子の幽霊が住んでいる、と。
 この日、町の子供の中でも腕白で好奇心旺盛な少年達が屋敷に足を踏み入れていた。
「うわっ、なんだよここ! すげー寒い!!」
「幽霊がいるって、本当だったんだ!!」
 少年達はぶるぶると体を震わせながら、屋敷の奥へと進んでいく。
 ……と、そこに。
「あーそびーましょー」
 ぱっ、と物陰から現れたのは、噂話に出てきた少女。白い肌、白い着物の小さな少女だ。
「うわっ! 出た! 幽霊!」
「幽霊じゃないけどー……遊んでくれる?」
 少女は首をかしげながら少年達に尋ねた。少年達は初め驚いたものの、自分達と同じ年代の背格好をした少女は見れば見るほど可愛らしい。すぐに警戒心を解き、少女の言葉に応えていた。
「遊ぶって、何して?」
「うーん……鬼ごっこ?」
「鬼ごっこか。じゃあ、最初に鬼を決めないとな」
「鬼はー……私がやるー」
 鬼は皆で決めると思っていただけに、少年達は少女の立候補にあっけにとられていた。
 時が止まったかのような静寂が一瞬場を支配して、
「つーかまーえたっ」
 両手を広げ、少女は一番近くにいた少年にぎゅうっと抱き着いた。抱き着かれた少年も、それを見ていた他の少年達も、何が起きたかわからずに。
 屋敷を満たす冷気が瞬時に少女の腕の中で凝縮し、少年は氷の中に閉じ込められていた。
「まずひとりー。他の皆も、すぐに捕まえちゃうねー」
「う――うわあぁぁぁぁ!!!」
 氷漬けにする少女に恐怖した少年達の叫び声が、屋敷の外に届くことはなかった。

●寒くてもグリモア猟兵頑張ります
「最近、なんだか寒い『悪夢』を見るんですが……季節のせいでしょうか?」
 グリモアベースにやってきたロザリア・ムーンドロップ(薔薇十字と月夜の雫・f00270)は、そんな疑問から話を始めていた。
 寒い季節には寒い夢を見やすいのかどうか。謎ではあるが、それはさておき。
「今回助けて頂きたいのは、『サムライエンパイア』に住む方々です。実は、ある町の寂れた屋敷にオブリビオンが住み着いてしまったようなんです」
 ロザリアは『ぐりもあのーと』を広げ、事件の詳細について話していく。
「オブリビオンが住み着いた屋敷なんですが、少し前から幽霊が住むという噂が立っていたんです。で、それに興味を持った子供達が屋敷に忍び込んでしまい、オブリビオンと遭遇、そのまま捕らわれてしまうんです」
 子供達、とは言うが、おそらく彼らはロザリアよりは年上だろう。
「ですが、今からその屋敷に向かえば、子供達がオブリビオンに遭遇するのを止められるはずです。ですから、皆さんにはまず、子供達と接触して、屋敷から帰らせてほしいんです」
 ロザリアが視た予知は、今はまだ実現していないただの悪夢。だから、助けられるなら助けたい。ロザリアはそう願い、そして目の前で話を聞いてくれている猟兵達もきっと同じ思いだと信じている。
「子供達を無事帰らせることができたら、あとは屋敷のオブリビオン退治ですね。幽霊……という噂ですが、実際は雪の妖怪……いわゆる雪女、というやつかと思います。見た目はそんなに怖くないかもしれませんが、その力は本物です。そのままにしておけばいずれまた同じ事件が起こりますから、ここで全部やっつけちゃってください!」
 ロザリアは寒さを吹き飛ばすかのように、元気よく叫んでいた。


沙雪海都
 布団から出るのが辛いです。沙雪海都(さゆきかいと)です。
 サムライエンパイアでのお話にお付き合い頂ければと思います。

●第一章でやること
 子供達を屋敷から帰らせましょう。
 それなりの人数がいるようですが、とりあえず『どんな手段で子供達を帰らせるか』を考えて頂くのがいいかと思います。
 ちなみに全員男の子です。
 来た道は覚えているようで、猟兵の皆さんの行動が成功すれば、あとは勝手に屋敷から出て行きます。
 つまり帰り道の護衛や案内は不要です。プレイングにあれば描写に反映されるとは思いますが。
 屋敷の中は雪女の影響もあり、結構寒いです。それを踏まえて作戦を立てた場合、判定に影響が出る可能性があります。

●第二章以降
 集団戦⇒ボス戦と続きます。どうぞお楽しみに。

 それでは、皆様のプレイングをお待ちしております。
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第1章 冒険 『怪異の館』

POW   :    怪奇は俺だ!お化けのフリをし、子供たちを驚かせ帰らせる

SPD   :    もっと良い場所があるぞ!子供たちを説得し帰らせる

WIZ   :    そこで何をしてる!子供たちを叱って帰らせる

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

阿紫花・スミコ
「どこの世界でも子供はかわいいねー。」

屋敷の屋根に腰を下ろしながら、子供たちを遠巻き見るスミコ。

「さて、はじめますかー。何人我慢できるかな・・・うひひ。」

いたずらっぽく笑うと、スーツケースに手をかけて、ひらりと地面へ。子供たちよりも早く屋敷へ入り、スーツケースからからくり人形「ダグザ」を解き放つ。

「悪い子はいねーがー・・・なんつって。」

ダグザは巨大な棍棒を持つからくり人形だ。古くから伝わる人形だから年期も入っている。暗闇で見ればそれは・・・怪異でしかない。ランペイジングストライクで命中力重視。子供たちに絶対に当たらないように気を付けてその辺の木々を破壊。ちょっとおどかしてやろう。


蜂蜜院・紫髪
*連携アドリブ歓迎
心情:…幽霊屋敷と聞いて近寄る悪童共と言えどオブリビオンが出てくるのはちーと薬が過ぎるのぅ。
流石に氷漬けは忍びない…薬としてちょうどいいように儂が【温めて】やろうかのぅ(悪い顔)

【行動方針はPOW】
行動:屋敷の内外を【陽炎の術】を使いながら監視します
子供達が来ればさり気なく混じって術を解いて【コミュ】します
驚いて転んだり、走ってきて転んだりした時は【癒しの狐火】で治癒してあげます
【もちろんこれらの行動を怖がらせるような幽霊の演技で行います】
*使っていいのであれば【真の姿】の尻尾や口元を見せてあげます



●前も後ろも怖いものだらけ
 時はグリモア猟兵が話した予知が現実となる少し前。問題の武家屋敷はどこもかしこもしんと静まり返り、そして寒い。
 猟兵ともなれば耐えるのも容易だろうが、ただの子供にとっては酷な寒さかもしれない。
「この屋敷、本当にもぬけの殻じゃのう」
 屋敷の中を軽く見回っていた蜂蜜院・紫髪(怠惰な蜂蜜屋・f00356)がため息交じりに言葉を漏らす。【陽炎の術】を使い、姿を消しながら屋敷の内外に監視の目を向けていたが、住人がいないのは当然として、住み着いたとされる雪女もここまで見かけていない。
「阿紫花殿、そっちはどうじゃ」
「んー……今のところはー……」
 一旦術を解き、屋敷の庭に出た紫髪は屋根の上に腰を下ろしている阿紫花・スミコ(人間の人形遣い・f02237)に確認する。屋根の上からであれば屋敷を囲う塀の向こう側までも見渡せそうだが、それでもまだ子供達は――。
「……いや、丁度いい、来たみたいだね。一人、二人、三人……ぞろぞろ来てるよ。どこの世界でも子供はかわいいねー」
 周りの大人に見つからないように、それぞれがきょろきょろと首を回して警戒し、ゆっくりと屋敷の門を潜り抜けてくる様子がいかにも子供らしく、スミコは思わず口元を緩めてしまう。
 屋根の上と目立つ場所にはいるが、距離があることや、子供達の警戒が専ら地上にいる人間に向けられていることから、スミコの姿が子供達に発見されることはなさそうだった。
「さて、はじめますかー。何人我慢できるかな……うひひ」
 一転、口角を吊り上げて悪戯な笑みを浮かべると、スミコは傍らのスーツケースを手に、屋根から軽やかに飛び降りた。着地と共に、土煙が地を這って広がっていく。
(……楽しそうじゃのう)
 紫髪はスミコが浮かべる悪い笑みを横目で見つつ、
(……幽霊屋敷と聞いて近寄る悪童共と言えど、オブリビオンが出てくるのはちーと薬が過ぎるのぅ。流石に氷漬けは忍びない……薬としてちょうどいいようにわしが『温めて』やろうかのぅ)
 先に縁側から屋敷へ入っていったスミコを追って悠然と歩く紫髪は、どこぞの商人と夜な夜な悪事を企む悪代官のような顔をしていた。

 子供達は屋敷の敷地内に入ってからいくつかの集団に分かれたようで、スミコと紫髪が待ち受ける場所にも数人の子供が寒さに震えながら、そろり、そろりと周囲の様子を気にしながら歩いてきていた。
 子供達の通り道に面する部屋に身を潜めたスミコは、あらかじめスーツケースから『からくり人形「ダグザ」』を取り出していた。子供達へ仕掛ける準備はできている。
 そして紫髪は屋敷内を迂回して子供達の背後を取り、【陽炎の術】で透明化した状態で接近、再び術を解いて集団の中に紛れ込んでいた。紫髪の身長は子供達と大差ないが、いささか人目を引きそうな出で立ちは質素な衣服の子供達とは対照的だった。
 そして件の子供達だが、
「なんでここ、こんなに寒いのかな……」
「やっぱりあれだろ? 幽霊がいるんだよ……」
「突然出てきたら、どうする?」
「幽霊ったって、女の子なんだろ? どうってことねぇよ……」
 目の前に集中しており、最後尾に増えた紫髪には気づいていない。
 子供達の歩みは遅いが、それでも着実にスミコが潜む部屋に近づいており――そろそろ頃合いか、というところで。
「悪い子はいねーがー……なんつって」
 スミコが精一杯頑張った不気味な声に合わせ、巨大な棍棒を持ったからくり人形が襖からにゅっと顔を出した。よく見れば人形とわかるものでも、突然現れ、かつ幽霊がいるという情報が刷り込まれていれば、
「出たあああぁぁぁ!!」
「うわあぁぁぁ!!」
 子供達は揃って悲鳴を上げ、慌てて踵を返そうとする。だが、挟むようにして立ち塞がる紫髪が追い打ちをかけるように言葉をかけた。
「おぉ怖い怖い。幽霊など、興味本位で探しに来るものではないのぅ」
 紫髪の目的もまた、子供達を驚かせ、屋敷から帰らせること。台詞はできるだけ溜めを作って引き延ばし、あたかも紫髪自身が幽霊であるかのような演出で。
 それまで何もなかったはずのところにいきなり現れたのだ。少なくとも、子供達にはそう見えていた。故に、紫髪の演技も相まって、
「後ろにも出たあああぁぁぁ!!!」
 子供達は床を転げのたうち回る。這いながら前を向けば、『ダグザ』がじっと見下ろして。
(よし、もうちょっとおどかしてやろう)
 スミコが操る『ダグザ』はガチガチと歯を鳴らして震える子供達から離れて庭に出ると、手近なところに生える庭木に狙いを定め、棍棒を振り上げた。比較的太めの枝の根元に棍棒が命中すると、メキメキと木の皮、繊維が断裂する音が響き、やがて幹から千切り飛ばされ宙を舞った。
「ひいぃ!!」
 恐怖に驚愕が混ざり、ひゅっと息を呑むような短い悲鳴になった。力を見せつけられ、固まる子供達。
「あんなのに潰されでもしたら、一たまりもないのぅ。お主等、潰されたくはないじゃろう?」
「潰されたくなあぁぁぁい!!」
 巨大な棍棒の恐怖は紫髪の存在に勝ったか。子供達はいよいよ飛び跳ね、紫髪の横をすり抜けて来た道を逆走していく。だが、完全に気が動転した子供達はまともに逃げられない。すぐに足をもつれさせ、転んでしまう。
「これ、落ち着かんか」
 紫髪は幽霊の演技を続けつつ、今し方床に転がった子供達へ掌を向けた。
『避けるでないぞ?』
 ほわん、と暖かな狐火が紫髪の手の前に現れ、風に流されるかのようにゆったりと子供達へ向かっていく。【癒しの狐火】は命中した対象を高速治療するユーベルコード。それでも子供達が表情を強張らせていたのは、おそらくそれが人魂にでも見えていたからだろう。
 狐火は子供達に触れると溶け込むように体に吸収され、転んだ痛みと寒さを癒していく。それで少し落ち着きも取り戻したのか、呼吸も少し穏やかになった。
(さすがにちと灸をすえ過ぎた感じもするのぅ……真の姿を晒すのは控えておこうかの)
 子供達はこれ以上ない恐怖を味わっている。ようやく救われたところに、また恐怖を植え付けるのはさすがに紫髪も気が咎めた。
「これに懲りたら、今すぐこの屋敷を出ていくのじゃ。……よいな?」
「は……はい!!!」
 最後はひどく素直に、子供達は紫髪の言葉に従って駆け出していく。
 その背中を見送るように、部屋の中からスミコが姿を現した。庭へ出した『ダグザ』に繋がる糸を手元で操り、傍に立たせて揃って見送るような格好で。
「これでひとまず、あの子供達はオブリビオンの雪女に遭わずに済みそうだね」
 子供達を十分驚かすことができて、子供達を守ることもできて。
 スミコは満足そうに笑っていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

神薙・沁
自身の年齢が子供なのを利用して
「寒いから他のところにいきませんか?」
ユーベルコードで発生する風を利用して演出してみたりする

屋敷から連れ出して帰路につくところまで同行
【目立たない】を使用して帰り道の途中から気づかれないように姿を消して
戦場に戻る

帰宅後に子供たちに「あれ?もう一人いなかったっけ?」などと思わせることができたらこちらの意図通り

子供に危険が及ぶよりは自分が幽霊だったと間違われるくらいのほうが
平和ですしね



●幽霊は、消えて初めてわかるもの
「なんかここ、すげー寒くないか?」
「うん……なんでだろう……」
 身を震わせながら屋敷を探索する子供達。違和感には気づいているようだが、今はまだ好奇心のほうが強く、慎重に廊下を進み続けていた。
 その様子を、子供達が進む先の曲がり角からこっそり伺っていた神薙・沁(影に潜みて・f06362)は、もう目と鼻の先、というくらいのところで、物音を立てないようにして子供達の前に出た。
「うわっ!」
 沁の登場に、子供達は体を竦ませて立ち止まる。
「……こんなところで、何をしているんですか?」
「な、何って……幽霊を探してるんだよ!」
 沁の問いかけに、子供達の一人が強い口調で答えた。現れた瞬間こそ不意を衝かれてまごまごしていたが、沁の風貌を目の当たりにして自分達と同じ年齢か、あるいは下と見て強気に出たのだ。
 尤も、それは沁も織り込み済みだ。年齢が近いからこそできることもある。現に、沁と子供達は自然な形で会話を始めていた。
「でも、ここは寒いでしょう?」
「さ、寒くなんか……ない!」
 言い切りはするが、言葉に淀みがある。
(見栄を張ってるのかな……でも、ここは帰ってもらわないと)
 沁は後ろに組んだ手の中で【捕縛風印】を発動させる。極細の糸やら猿轡やらロープやら、不要なものは全部手の中に閉じ込めて風だけを目の前の子供達に向けて流していった。
 立ち込める冷気に流れが生まれ、子供達の体の熱を一層早く奪っていく。もともと寒さに耐えうる衣服でもなく、寒風に当てられガタガタと震えだしていた。
「……どこからか、風が吹いてきましたね。もしかしたら、幽霊が近くにいるのかも」
「ゆ、幽霊!?」
「うぅ、寒い……寒いよぅ……」
「このままだと、凍えてしまいますよ」
 沁の言葉に返事はなく、子供達は抗う気力をすっかり失ってしまっていた。気が弱いと思われる子供は涙目になっているほどだ。
「ここは寒いから、他のところにいきませんか?」
 沁の最後の一押しに、子供達は黙って首を縦に振っていた。

 沁は風の演出を続けつつ、子供達の後ろについて同行し屋敷の外へ向かっていた。やや足取りは重いが、それでも一歩ずつ、安全な場所へと向かっている。
(……この辺でいいかな)
 ある程度戻ったところで、沁はそっと足を止めた。時折交わされる会話にも混ざらず目立たないように行動していたことで、沁が離れても子供達は気にすることなく歩き続けている。
「なんか、寒くなくなってきたよ……?」
「幽霊が遠くに行ったんだ! このままさっさと帰ろうぜ!」
 子供達は少し元気を取り戻し、一目散に屋敷の外へ駆け出していく。
 幽霊が遠くに行った――それはある意味、正しいのかもしれない。
 風を起こし、幽霊がいるかのように振る舞っていた沁は、子供達の背中を眺めて、まだ屋敷の中にいる。
 彼らが元の世界に戻った時、沁がいないことに気付けば――『あの子』が本当は幽霊だったと。そんな風に考えるかもしれない。
「子供に危険が及ぶくらいなら、自分が幽霊だったと間違われるくらいのほうが、よっぽど平和ですね」
 そして、この屋敷にいるオブリビオン――雪女を倒せば、幽霊騒ぎもきっと収まる。
 沁はくるりと子供達に背を向けて、戦場へと戻っていった。

成功 🔵​🔵​🔴​

小野・遠里
・WIZ

ではこちらも幽霊を出しましょう。しかも本物を。
(ユーベルコード『兄貴と私』発動!筋肉ムキムキマッチョマンな兄貴の霊を召喚!)
この兄貴に子供達を説教してもらいましょう。(喋れないなら自分が兄貴の背後に隠れ声色を使って兄貴の声っぽく発言)
『ふむ、良い体をしているな少年。だが私に並ぶにはまだまだだ』
『ここは私のような、究極の肉体美を求める者達がより高みを目指す為の修練場だ』
『成長途上にある君達にまだまだ危険だ。さあ、帰りなさい』

それでも帰らないなら、兄貴に摘み出して貰いましょう。

寒さの中に湧き上がる筋肉、スキンヘッドに良い笑顔、インパクトのあるポージング…子供達の心に傷が出来ないか心配です。



●寒さも弾くイカした兄貴
 幽霊を探す子供達を見つめる視線がここにもあった。
「あの子達が幽霊を探しているんですね……では、本物の幽霊を出しましょう」
 小野・遠里(遠里小野の未申・f09680)が意気込んで召喚したのは、武家屋敷には異質な筋肉もりもりマッチョマンの兄貴の霊だった。
 一体誰の兄貴なのか、などと無粋なことは聞いてはいけない。兄貴とは概念。そういうものだ。
 兄貴は現れるや否や、美しいポージングと共に後光を放ち、圧倒的な存在感を見せつけていた。
「さて、あとは兄貴で説教を……えーっと、あー、あー」
 遠里は喉元に手を当てて、声の調子を探る。女性が喋っているとばれないように声色を使い、兄貴にはいくつかのポーズを仕込んで台詞に合わせて動いてもらうようにした。
 そして兄貴は、颯爽と子供達の前に姿を現す。
「わっ! な、なんだ!?」
 廊下の角から突如、筋肉隆々にスキンヘッドで、眩しいほどの笑顔を見せる男がサイドチェストで飛び出したのだ。驚かない方が無理がある。
「ふむ、良い体をしているな、少年」
 遠里の声に合わせ、兄貴はあっけにとられる子供達を一人一人見定めていく。
「だが、私に並ぶにはまだまだだ」
 そこから兄貴は諭すモードへ。
「ここは私のような、究極の肉体美を求める者達がより高みを目指す為の修練場だ。成長途上にある君達にはまだまだ危険……さあ、帰りなさい」
 途中で物言いでもつかぬかと内心ドキドキしながら進めていた遠里だが、ここまで子供達が騒ぎ出すこともなく、一つやり切って胸をなでおろす。
(やれることはやりましたが、反応はどうでしょう。……もしかして、心の傷になんて、なってたりしませんよね?)
 ふと、あまりにも動きがなさすぎることに不安を覚える。姿もポージングも。存在自体に強烈なインパクトを持つ兄貴を前にして、大きなショックを受けていないかが心配だったが。
「……うぉぉ! すっげぇ!」
「よくわかんないけどかっけー!!」
 子供達から歓声が上がった。筋肉を存分に見せつけている兄貴を前に、子供達の瞳は輝いていた。
(えぇぇ!? ど……どうしましょう……)
 子供達の心を傷つけなかったのは良いことではあるのだが、逆に喜ばれるというのは遠里にとって予想外。子供と言えど、様々な感性を持っている。目の前の兄貴に対し憧れを抱く子供がいても不思議ではないのだが、この場に限っては困りものだ。
 駄々をこねるようなら無理にでもつまみ出す手もあったが、憧れの眼差しを向けられては、邪険に扱うのも憚られる。
 遠里は陰から様子を見守りつつ、別の打開策を考える。
「あの、どうしたらそんな体になれますか!?」
「え、いや、その、毎日筋トレ――」
(――じゃなくて!)
 子供からの質問に何となく答えそうになり、心の中で自らにツッコミを入れる。話が盛り上がっては、子供達を帰らせるという目的を達成できない。
(……ああもう、自棄です自棄、これでいきましょう)
 子供達の反応で逆に動揺してしまった気持ちを落ち着けるように、深呼吸の後、一つ咳払い。
「私のような体になるためには……筋肉の声を聞くことだ。君達の筋肉の声……私には聞こえるぞ」
 遠里は急遽、オカルトのような話に走った。だが、子供達はしっかりと耳を傾けている。
「君達の筋肉は、まだここの寒さには耐えられないようだ。『痛い、痛い』と泣いているぞ? 筋肉を大切にできなければ、私のようには決してなれない。であれば……わかるね?」
 子供達は皆、衝撃を受けてハッとする。少し興奮状態にあったためか感じていなかった寒さが、急に鋭さを増してきた。このままでは、目の前の人のような凄い体にはなれないと感じたか、
「わかりました! ……俺の筋肉、ごめんよ!」
 子供達は各々足やら腕やら、自分の筋肉を労る言葉をかけながら、来た道を戻っていく。
 その後ろ姿を見届けると、張り詰めた気が一気に抜けて、遠里はごろんと床に仰向けに寝転んだ。
「一時はどうなるかと思いましたが……これで、大丈夫ですよね」
 遠里の言葉を肯定するかのように、兄貴は遠里の顔の真上から、太陽のように輝く笑顔を向けていた。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

四王天・燦
「何やってんだ?」
符術『百鬼夜行』で影となって先回りして説得開始。
この屋敷縁の者と名乗ろう

「取り壊して建て直そうと思うんで下見してんだよ」
と嘘八百並べ立て。
先祖の物に手をつけられたくないから勝手に入るな…と言って聞くようなガキじゃねーわな。
一勝負して勝てば好きにして良いと言って花札勝負を仕掛ける。もちろん早業でイカサマする。
「アタシの勝ち。三両の支払いな」
払えないならさっさと帰れと捲くし立てるぜ。
尻尾巻いて逃げ出したらケラケラ笑って小銭を投げて渡すさ。
「冗談だ。駄菓子でも買って、池で蝦蟇釣りでもして遊んでな」
文字通り狐につままれた気分にさせてやる

おばさんとか抜かしたら鬼の形相で追い出してやるぁ



●幽霊屋敷で一勝負
 ただの空き家も、幽霊が出るとなれば幽霊屋敷に早変わり。子供達は前を歩く一人の背中にぴたりとくっつきながら、恐る恐る進んでいた。
 それを追う影が一つ。【百鬼夜行】で自身の肉体を影へ変化させた四王天・燦(月夜の翼・f04448)だ。標的となる子供達を見つけると、しゅるりと子供達の足元をすり抜け先回り。子供達の視界に入らない場所で元に戻ると、待ち伏せて声を掛けた。
「何やってんだ?」
「わあっ!?」
 突然降ってきた声に子供達は思わず身構える。
「だ、誰!?」
「アタシはこの屋敷に住んでるモンの親戚だ」
「え、そうなの?」
 燦の話に子供達は目を丸くしていた。もちろん、これは燦の出任せ。ここに住んでいた者の顔も名前も知らなければ、厠の場所だって知りやしない。
「ああそうだ。しばらく屋敷を空けてるうちに幽霊が出るだ何だと噂になって縁起が悪いから取り壊して建て直す、って話になったんで、その下見をしてんだよ」
 燦はこれ見よがしに、壁を触り、天井に目を向けていく。
「先祖の物に手をつけられたくないからな。勝手に入んなよ」
 手を振って追い払う仕草を見せると、子供達は一旦燦から離れていくも、遠くの方でひそひそと。たまにちらりと燦に目を向けながら、子供達は作戦会議に勤しんでいる。
(……ま、口で言って帰るなら、空き家とは言え人の屋敷に入ったりはしねーわな)
 子供達を帰すには一筋縄ではいかなさそうだ。ならば次なる手。燦は警戒心を覗かせる子供達へ近づいていく。
「おい、そんなに帰るのが嫌なら、アタシと一勝負しようぜ。花札、こん中で一人くらいは、やったことあんだろ?」
 取り出した札の束を見せ、子供達へ勝負を吹っ掛けた。一瞬ぽかんと口を開けていた子供達だったが、その中に、
「俺、できるよ。じいちゃんに教えてもらったんだ」
 勇敢にも、燦の勝負に名乗りを挙げた子供がいた。他の子供が見守る中、じっと燦の顔を睨んでくる。
「よーし。なら『こいこい』で勝負だ。お前が勝てば、この屋敷の中を自由に見て回るのを許してやろう」
「わかった」
 燦とその子供はその場に腰を下ろす。それから互いの手と場に札を配り終え、子供にとっての真剣勝負が始まった。
 では、燦にとっては、と言うと、もとよりまともに相手をする気はない。あらかじめ束の中から高い役を狙える札を抜いて手に隠し、手札から出す振りをして次々と場の札をさらっていく。
「ほらよ、五光だ」
「えぇ!? 嘘だぁ!?」
 まだ丸々半分手札が残っているにも関わらず最高役を作り上げた燦を前に、子供は悲鳴交じりの声を上げてじっと札を見つめていた。
「アタシの勝ち。さあて、負けたからには……三両の支払いな」
「えっ……そ、そんな……」
「勝負ってのはそういうモンだろ。アタシが勝ったんだから、言う通りにするか……払えなければ、さっさと帰んな」
 残った札を拾い上げて片付ける燦の前で、勝負に負けた子供は手を固く握りしめ、ぷるぷると震えていた。俯き、ぐっと感情を堪えているようだったが、燦が集めた札を床の上で揃えているところに、跳ねるように立ち上がって、
「くそっ! お……覚えてろよ!」
 やや上ずった声で捨て台詞を残し、脱兎の如く走り去っていく。他の子供も後を追い、駆け出していった。
 その背中へ、燦は小銭をいくらか手に取り、下手から鋭く飛ばした。一直線に空を切っていく小銭は子供達の足に勝り、
「いてっ!!」
 後頭部への衝撃に、子供達は頭を押さえて振り返る。小銭は床に落ち、子供達の足元で小刻みに跳ねて止まった。
「冗談だ。駄菓子でも買って、池で蝦蟇釣りでもして遊んでな」
 ケラケラ笑う燦の姿に、子供達は無言で足元を見つめ、仲間の顔を見つめ、また足元を見つめ、しゃがみ込んで小銭を拾う。一連の動作はどうもぎこちなく、理解が追いつかないまま言われたように動く様は滑稽だった。
「……次は勝つからな! 絶対だ!」
 結局、最後に再戦での勝利を宣言して帰っていった。小銭への礼でもなく、頭へぶつけられたことへの抗議でもなく、花札である。
 よっぽど悔しかったのだろう。そう思うと、捨て台詞も実に子供らしく。
 燦は手元の花札に相手をした子供の姿を思い浮かべて、くすりと笑っていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

雨宮・いつき
まずは子供達を無事に帰さないといけませんね

子供達を見つけたら友好的に声を掛けます
女の子の幽霊の噂については、
ここには今も人喰いの妖怪が住みついていて、それに喰われた女の子の無念が幽霊として現れるんです、
と説明して、だから妖怪に食べられちゃう前に帰りましょうと促します

素直に帰ってくれればいいですが、ムキになって探索を続けようとするかもしれません
その時は…ちょっぴり心が痛みますけど、【パフォーマンス】技能を活かして悪い妖怪の演技をして追い返しちゃいます
警告はしたんですけれど…ふふ、そんなに食べられたいんですね?
と悪い顔で脅して、怪我させないように気を付けつつ屋敷から追い立てるように狐火を操ります


御剣・神夜
SPD行動

こういう所に入りたくなるのはやっぱり子供特有の病気みたいなものなんですかね
とはいえ、危険が迫っている以上、どうにか説得して帰らせませんと

子供たちを見つけたら怖がられないよう
「こーら」
と親しげに声をかけつつ近寄る
驚いて逃げられたら幽霊じゃないと言いつつ、相手が止まるのを待つ
止まったら
「こういう所を探検したいのは分かります。でも、こんな所よりもっと良い場所があるでしょう?」
何処だ?と聞かれたら自信満々に
「お父さんとお母さんのいる家です」(エッヘンと胸を張りつつ
何処が?と聞かれたら
(最近の子はお父さんとお母さんがいる事の良さが分からないんですね)
と思いつつ、何とか説得を試みる



●怖いものにも序列あり
 雨宮・いつき(歌って踊れる御狐様・f04568)と御剣・神夜(桜花繚乱・f02570)の二人は揃って屋敷を見て回る。
「こういう所に入りたくなるのは、やっぱり子供特有の病気みたいなものなんですかね」
「そうですね……やんちゃをしてしまう子も、いると思いますよ。あぁでも僕は、あまりそういうことはしないほうですけど」
「ふふ……そうですか」
 耳をピンと立て、慌てたように言葉を重ねるいつきの様子に、神夜は目を細めて微笑む。
「男の子はちょっとやんちゃでもいいとは思うのですけど……とはいえ、危険が迫っている以上、どうにか説得して帰らせませんと」
「ですね……ただ、素直に帰ってくれるかどうかが、少し心配です」
 いつきは不安を口にする。子供が言うことをちゃんと聞いてくれるかは予測不能だ。だからこそ、いくつか手段は考えていた。
 あれこれ話しているところに、自分達の物ではない足音が聞こえてきた。他の猟兵達とはある程度手分けして屋敷内を回っており、ばったり遭遇することはない。ならば、聞こえてくる足音は。
「あ、いましたね。こーら」
 屋敷に侵入した子供達だ。まず神夜が、軽くたしなめるように、それでいて怖がられないように、親しみを込めて声を掛け、近寄っていく。
「女の人?」
「もしかして、幽霊!?」
「幽霊ではありません、私はちゃんとした人間ですよー」
 おどおどして、今にも逃げ出しそうな子供達へ、神夜は足を示して生きた人間であることをアピールしていく。それを見て、子供達はじっと神夜へ視線を向けるようになった。
「君達、こんなところでどうしたんですか?」
 一歩遅れて子供達のもとへやってきたいつきが尋ねる。事前に聞かされた話で子供達の目的は知ってはいるが、子供達自身の口から聞き出し、そこから話を繋げようとしていた。
「ここ、女の子の幽霊が出るって……」
「なるほど、女の子の幽霊……町で流れている噂を聞いたんですね」
 いつきは話を聞きながら何度も頷いて、あたかも知っているように装って、
「実はですね……ここには今も人喰いの妖怪が住みついていて、それに喰われた女の子の無念が幽霊として現れるんです」
 そう説明すると、子供達の表情は一様に引きつっていた。人喰いの妖怪、という話は予想外だったのだろう。いつきの語り口が穏やかだっただけに真実味があり、目の前の子供達は信じきってしまっていた。
「幽霊よりずっと怖いものがいるんです。……こういう所を探検したいのは分かります。でも、こんな所よりもっと良い場所があるでしょう?」
「それ、どこ……?」
「それはもちろん、お父さんとお母さんのいる家です」
 神夜がエッヘンと胸を張って言い切ると、子供達はぽかんと神夜の顔を見つめ、やがて我に返り、
「俺がここで食べられたら、お母さんとお父さん、悲しむかな……」
「寒いし、家に帰りたくなってきた……」
 家庭の、家族の温かさを思い、それぞれ胸の内を口にする。屋敷を探索しようという気はすっかりなくなっているようだった。
(……どうやら、『これ』は必要なさそうです)
 いつきは子供達の様子を見て、背中に隠していた青白い狐火をそっと消した。
「家ではきっと、君達の帰りを待っていますよ。だから妖怪に食べられちゃう前に帰りましょう」
「うん、そうする……」
 いつきの言葉に促されるまま、子供達はくるりと後ろを向く。すんなり事が運んだことに神夜は安堵し、
「いい子ですね。では、お姉さん達が送っていってあげましょう」
 最後まで子供達への気遣いを忘れずに。いつきと共に子供達に付き添い、屋敷の出口へ向かっていく。それからは少し他愛もないことを話し、門の前で手を振って別れて。
(最近の子はお父さんとお母さんがいる事の良さがわからないかと思いましたが……あの子達は大丈夫そうですね)
 小さくなっていく子供達の背中を眺めて、神夜は胸の中がほっこり温かくなったのを感じていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

御劔・姫子
【POW】【御狐はん(f00307)と一緒に行動】
雪女…話には聞いたことあるなぁ~、人を凍らせて連れて行くとか…
雪女の目的は分からへんけど、まずは子供達をこのお屋敷から離さへんとねっ!

ここはうちが雪女になりきって、ちょぉっと子供達を驚かせてみよかな~♪ 御狐はん、手伝ってくれはる?

【早着替え】で白装束に…うぅっ、ここえらい寒いなぁ…か、肩掛けとか無いと寒くてかなんわぁ…
で、でも寒さに負けんと、【存在感】【言いくるめ】でうちを本当の雪女やと信じさせるっ!

「う、うち雪女やで~、凍らせて食べてまうよ~…?」
(※どことなく【優しさ】が滲み出るぽんこつ演技)

あ、あれ? これやとあかんのかなぁ…?


御狐・稲見之守
【御劔姫子f06748と同行】
雪女とはまた面白いのが来たのぅ。侮るなかれ姫子殿、雪女はモノノ怪の中では歴史の古い者達であるゾ。元をたどれば雪の精、即ち山神の……って、もしもーし姫子どのー? ワシの話聞いとるかのー?

いかんめっちゃノリノリじゃ。いやはや、これでは一体どちらが童なのやら……ふふっ。さてやむなし。UC荒魂顕現。かるーく「氷の吹雪」を起こして姫子殿の雪女コスプレに演出をば。ワシは雪ん子のカッコでもしとこかの。

(ぷっと吹き出し笑い)

あいやなんでもないゾ。ついでに吹雪でそのまま室温をさらに下げてしまえい。ほれガキンチョども、風邪引かんうちにはよ帰りよれ。

へっくし。



●舞い降りた古都の雪女
「雪女……話には聞いたことあるなぁ~。人を凍らせて連れていくとか……」
「それもまた、雪女の一つの側面じゃ。この類のモノノ怪は土地によって語られ方が変わってくるからのぅ」
 御劔・姫子(はんなり剣客乙女・f06748)と御狐・稲見之守(モノノ怪神・f00307)は二人並んで屋敷を進む。姫子は時折、通りかかった部屋の襖をそっと開けて覗いてみたり、通路の先を気にしてみたりとせわしなく、見た目には小さい稲見之守は逆にどっしりと事に構えて臨んでいた。
「雪女の目的は分からへんけど……まずは、子供達をこのお屋敷から離さへんとねっ!」
「そうじゃな。相手は所詮、齢、十を少し過ぎた程度の童。何とでもなるじゃろうが、策はあるのかの?」
「うちが雪女になりきって、ちょぉっと子供達を驚かせてみよかな~思てるんやけど、御狐はん、手伝ってくれはる?」
「構わんが……雪女になるとは、また面白いことを考えるのぅ」
 感心する稲見之守の前で、姫子は白い衣をばさりと広げる。雪女の衣装として準備した白装束だ。
「ねえ、御狐はんも雪女にならへん?」
「ワシがか? ……いや、ワシは雪ん子のカッコで十分じゃ。ほれ、さっさと着替えねば、童共が来てしまうゾ」
 子供達に見つかる前に、と、二人は近くの部屋に入り込み、雪女の冷気漂う中、衣装替えを始めた。
 時間をかけることのないよう、手早く着替えるも、一瞬でも肌を晒せば冷気が容赦なく撫でていく。
「うぅっ、ここ、えらい寒いなぁ」
 姫子はぎゅっと目をつぶって堪えながら、白装束に体を通す。身には着けたが、白装束自体がすでに冷えており、堪らず体を手で擦る。
「……か、肩掛けとか無いと寒くてかなんわぁ……」
「童共を追い返すまで、少しの辛抱じゃ」
「そ、そやな……寒さに負けとったら雪女と信じてもらえへんし、うち、頑張るわ」
 体は寒くとも心は熱く。姫子は決意の表情で部屋を出て、稲見之守も後ろについていく。
 そのまま屋敷内をウロウロしていると、
「わっ!!」
「ひゃあ!!」
 丁度廊下の曲がり角。ばったり出くわして、子供と姫子はお互い驚きの声を上げる。そして思わず後ずさってしまったところに、
「なんか白いのいた!!」
「えぇ!? ほんと!?」
 曲がり角の先から捲し立てるような早口が飛び、どたどたと騒がしく子供達が姿を現した。好奇心に突き動かされた子供達には勢いがある。姫子は圧倒されつつも、一歩前に踏み出して、
「う、うち雪女やで~……凍らせて食べてまうよ~……?」
 ひょろりと細い声を出す。声色も普段通りで調子も緩く、おっとりした優しい雰囲気が前面に出た演技になっていた。加えて、雪女を自称する辺り、演技のぽんこつ具合に拍車がかかっている。
 当の子供達は、姫子の言葉に固まったまま。ひんやりと冷たい空気が場を支配していた。
(あ、あれ? これやとあかんのかなぁ……?)
 顔には出さないようにしていたが、心には不安が渦巻く。もう一度、何か言おうか、と考えていたところに、先頭に立っていた子供がびしっと指を突き出して、
「やっぱり! 雪女だ!!」
 声高に叫んだ。続いて、周りの子供達も、
「本当だ!!」
「やっぱりいたんだ!!」
 などと騒ぎ出す。姫子の演技の出来がよかったかはさておき、目の前の子供達には通じたようだ。
 だが、子供達は姫子の目の前で騒ぐばかり。
(疑われてはいないようじゃが……これではいかんのぅ。手伝うと言った手前、ワシも何かせんとな)
 姫子の後ろに控えていた稲見之守は、その体に隠れるようにしながら、
『我成す一切神事也、天裂き地割る神業畏み畏み奉願祈るべし』
 小さく小さく呪を唱え、弱めの氷の吹雪を顕現させた。それを、あたかも姫子が操っているかのように見せるべく、体越しに子供達へと吹き掛けていく。
「な、なんか急に寒くなってきた!?」
「雪女の仕業!?」
 子供達は冷気と氷を腕で遮り、何とか体を守ろうとする。その様子を見て、姫子も流れに乗じた。
「雪女は吹雪を操れるんやで~。ほ~ら、ほらほら~♪」
 両腕を上下にばっさばっさ。おそらく『吹雪を巻き起こす動作』なのだろうが、ほぼ棒立ちの状態なので、稲見之守にはそれが滑稽だった。
「……ぷふっ」
「御狐はん、何で笑うてるん~?」
「あいやなんでもないゾ。それより、もう一押しじゃ」
 稲見之守は姫子に動きを促しながら、自身の力を少しずつ強めていく。それに合わせて姫子の腕の動作が速くなっていったので、稲見之守は力を使いながら、笑いを堪えるのに必死だった。
 氷の吹雪を浴び続け、空間自体の温度も急激に下がっていった。いよいよ子供達の顔が青ざめていく。ここが潮時、と稲見之守は見て、
「ほれガキンチョども、風邪引かんうちにはよ帰りよれ」
 姫子の陰から顔を出し、子供達へ帰宅を促した。かじかんだ口では思うように言葉を発することができないようだったが、子供達はようやく一言。
「か……帰るぅ……」
 限界だった。それだけ言い残し、子供達はペンギンのように狭い歩幅で慌ただしく帰っていった。
「御狐はん、助かったわ、おおきに」
「何、この程度……へっくし」
 事を終えて気が緩んだか、急に体に寒気が走った。氷の吹雪を出していたのは稲見之守自身だが、それにより冷えた空気が体に障らないかと言えば、そうでもないらしい。
 片や、着替えの時は寒そうにしていた姫子は、吹雪の間近にいたにも拘らず、平気な顔をしている。
「やけど、雪女と信じてもらえてよかったわ。うち、雪女のことが好きになったかもしれへん」
 子供達をきちんと帰すことができたというのもあるが、自分のことを雪女と認めてもらえたことが余程嬉しかったようで。姫子はまたもやばっさばっさと腕を振り、さらにその場をくるくると回り出す。
「じゃが、侮るなかれ姫子殿、本物の雪女はモノノ怪の中では歴史の古い者達であるゾ。元をたどれば雪の精、即ち山神の……って、もしもーし姫子どのー? ワシの話聞いとるかのー?」
 稲見之守が述べた講釈も、気分を良くした姫子の鼻歌の前には掻き消されてしまっていて。
(いかんめっちゃノリノリじゃ。いやはや、これでは一体どちらが童なのやら……)
 ついには踊り出した姫子を前に、稲見之守は手の掛かる子を持つ親のような気分で笑っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『雪女見習い』

POW   :    ふぅふぅしてみる
【くいくいと対象を引っ張る動作】が命中した対象に対し、高威力高命中の【凍てつく氷の吐息】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD   :    とにかくふぶいてみる
【全力で吹雪】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ   :    みようみまねのゆうわく
予め【足を魅せる等の誘惑行動をとって赤面する】事で、その時間に応じて戦闘力を増強する。ただし動きが見破られやすくなる為当てにくい。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●雪女だけどー……まだ見習いー
 幽霊の噂を聞いて屋敷に入り込んだ子供達は猟兵達の活躍により全て帰すことができた。だが、話はそれで終わりではない。住み着いた雪女、それを退治する必要がある。
 猟兵達は屋敷を探索して回り、丁度広い中庭に出てきた時。
「あーそびーましょー……あれ? 変な人達がいるー」
 白い肌に白い着物。話に聞いた特徴そのままの少女が、中庭を挟んだ別棟からひょっこり顔を覗かせた。
「さっき来てた子達、帰っちゃったー? だったらー……変な人達、あーそびーましょー」
 その声を皮切りに、同じ姿をした少女達が一斉に現れ、猟兵達へ襲い掛かってきた。
四王天・燦
可愛い…それに悪意が感じられない。
「遊んで決着つけるか?」
花札持ってるのも縁。
誘惑を見せた雪女を縁側で勝負に誘う。
お互い納得するなら花札に拘らない

「お互い一息ずつ。お前が勝てば凍らせる、アタシが勝てば精気を戴く」
花札を教え模擬もして。
精気の戴き方は接吻での生命力吸収、妖魔解放を垣間見せ貪り尽くされるとお仲間になるとも説明。
戦闘でないなら術は解除

悴む前に早業のイカサマで勝ちを拾う。
ばれたり悴んできたら真剣勝負。
口付け、吐息、凍結…互いに妙に色っぽく傍目に異様な景色。
危険域で真の姿ブースト

「誰かに斬られて骸の海に還るより。アタシの中にいろよ?」
最後は勝利時に壁ドンで誘惑し精気奪取を受け入れさせるぜ



●少女の心は純真無垢
 猟兵達の前に現れたのは雪女、その見習いに当たる存在だ。人目を逃れるように屋敷の中に隠れていたようだが、屋敷への侵入者――猟兵達と『遊ぶ』ため、わらわらと姿を現した。
 ただ、その容姿が実に少女らしい少女であり、猟兵達へ襲い掛かるにはあまりにも覇気に乏しい。
(可愛い…それに悪意が感じられない)
 燦は雪女見習いにそんな感情を覚えていた。
「ううー……ゆうわくぅ、は、はずかしー……」
 雪女見習いは燦に向けて、どこで覚えたか誘惑を果敢に仕掛ける。着物の裾をくいっと持ち上げ、白く小さな足を見せた。
 普段は着物の奥に隠された部分。それを自ら晒し、雪女見習いはポッと頬を桜色に染めた。
 相手の性別は関係なく、その行動が自らの戦闘力を高める道。雪女見習いは羞恥心に耐え、ただじっと足を見せていたが。
「そういうのも悪くはないけどな……どうせなら、遊んで決着つけるか?」
 燦が手元に見せた花札の束。雪女見習いの興味に訴えるように小さく振って見せると、視線が釘付けになった。
「なに? それー」
「花札だ。やったことなかったら教えてやるぜ」
「おー? あそぶー」
 雪女見習いがさっと足を隠し、燦の前にやってくる。それを見て、燦は庭先の縁側に誘導し花札を広げた。遊び方は知らないというので、最初に簡単に教えておいた。
「遊ぶとは言え真剣勝負だ。賭けるものは賭けないとな。お互い一息ずつ。お前が勝てば凍らせる、アタシが勝てば精気を戴く」
 燦に不気味なオーラが宿る。かつて精気を喰らった魔物娘の魂が燦の体に呼び起されたのだ。それは、『お前もいずれこうなるんだぜ?』という宣言に近い。
 元は攻撃のためのユーベルコード。だが、雪女見習いは気にせず話を続けた。
「勝ったらふーふーできるのー?」
「ああ。だが負けたら……ここで、戴くぜ?」
 言って、燦は徐に人差し指を立て、目の前の雪女見習いの唇にちょんと触れた。突然のことに、雪女見習いはぱっと口元を手で押さえ、目を丸くする。
「うぅ……頑張るー」
「そうかい、せいぜい頑張んな」
 燦はオーラを解除して、雪女見習いと勝負を始める。雪女見習いは手札と場の札をじっと見つめ、戦略を考え、小さな手で多くの札を持ちながら、ぱしぱし場の札に当てて取っていく……が。
 無論、ここでも燦は容赦なくイカサマを仕掛け、自分が有利となるようにゲームを進めていった。
 そして、
「……アタシの勝ちだな」
 最後の札を取り、燦が勝利を宣言した。雪女見習いは互いが取った札を穴が開くほど見つめていたが、現実は変わらず、くたりと項垂れてしまった。
「私の、負けー……」
「じゃあ、約束通り――」
 燦はニヤリ、と、してやったりな笑みを見せつつも、最後の警戒は怠らない。何であれオブリビオン。雪女見習いの出方を伺い、反撃に出るようなら真の姿を開放し、力でねじ伏せるようなことも考えたが、雪女見習いはそれからも上目遣いで燦の顔を見つめてくるだけで、動こうとはしなかった。
 動かないならそのまま貪るまで。燦は雪女見習いを立たせ、近くの壁まで追い込み、小さな顎に手を添えた。引いて顔を上に――視線を合わせると、雪女見習いの瞳が潤んでいた。
「うぅ~……」
「誰かに斬られて骸の海に還るより、アタシの中にいろよ?」
 そっと燦が顔を寄せていくのを、雪女見習いは時が止まったように見つめ続けているだけで――。

 そこには二人だけの世界が広がり、そこにあるものは、一つに融け合っていくのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

蜂蜜院・紫髪
*連携アドリブ歓迎
心情:ふむオブリビオンと言えど童女の姿じゃと忍びないのぅ…む、お主ら【誘惑】の仕草が甘いのぅ
それでは男共は反応せんぞ、こうじゃぞこう…上手く【挑発】すれば男共は釘付け【時間稼ぎ】もできて一石二鳥よ…
何、礼を言われる事でもない…何せ狙いはお主らの【力】じゃからの?
これも一つの【フェイント】じゃ

行動:見習い達が一般人に被害を出さないように努めます

敵UCの発動準備の誘惑に対し【コミュ力】で【誘惑】【挑発】の指導をする体で一緒に予備行動の【時間稼ぎ】をし
相手が誰かを目標に攻撃を仕掛けたら護衛人形で【かばう】【武器受け】【オーラ防御】
【厄受人形】【呪詛返し】を使う事で人形で蹴散らします


雨宮・いつき
出ましたね、悪い雪女!
人に仇成す物の怪にはお仕置きです!
出ませい【御狐戦隊】、今日も張り切って御勤めの時間ですよ!

…と、意気込んで管狐達を呼び出したはいいのですが
ええと…あの雪女達は足を見せたりして何のつもりなんでしょう?
…はっ、まさかお色気対決をご所望ですか?
僕、里ではそっち方面の技は専攻してなかったんですけども…
いえ、でも挑まれたからには受けて立たねば!(勘違い)

こう、力なく地面にへたり込んで、衣服の肩をはだけさせて、
頬を紅潮させて上目遣いで眼差しを向けたりしたら【誘惑】されてくれないでしょうか!
…あれっ、管狐達が「うちの子に何させとんねん」と言いたげな表情で雪女達に襲い掛かってます!?



●誘惑指南・誘惑勝負
「出ましたね、悪い雪女! 人に仇成す物の怪にはお仕置きです!」
 いつきが威勢を張った相手、雪女見習いは見習いであれど力はある。今も向かってくる雪女見習いに向けて、いつきは管狐の召喚を試みた。
「出ませい【御狐戦隊】、今日も張り切って御勤めの時間ですよ!」
 ぽん、ぽん、ぽぽん、といつきの周りに現れたのは小刀を咥えた戦闘用の管狐達。いつきを守るように、そして雪女見習い達に対しては攻撃の姿勢をとる。雪女見習い達も殺到し、乱戦になるか――と思われたが。
「ゆうわくぅー……」
 ちらっ、ちらっ、と足を見せ、いつきへ誘惑を仕掛け赤面する。
「ええと……あの雪女達は足を見せたりして何のつもりなんでしょう?」
 攻撃行動ではなく、雪女見習いも可愛い部分はあるが、誘惑に足る魅力を持ち合わせているかと言われると難しい。その誘惑にどんな意味があるのか、いつきは計りかねている。
 そして行きついた答えは。
「……はっ、まさかお色気対決をご所望ですか?」
「たいけつー……?」
「僕、里ではそっち方面の技は専攻してなかったんですけども……いえ、でも挑まれたからには受けて立たねば!」
 雪女見習い達が困惑する中、いつきは謎の張り切りを見せる。
 誘惑行動を取り、赤面すること自体が雪女見習いの強化に繋がるのだが……いつきはどうもその辺には気づいていないようだ。
「ほぅ……お色気対決、とは面白いのぅ。じゃがお主ら、ちと誘惑の仕草が甘いんじゃよ」
 いつきと雪女見習い達の間に紫髪が割って入り、双方の様子を見ると、徐に雪女見習い達に近づいていく。
「こうじゃぞ、こう。上手く挑発すれば男共は釘付け、時間稼ぎもできて一石二鳥よ……」
 紫髪は雪女見習い達へ身振り手振りで誘惑演技の指導。その熱に入りようには、敵であるはずの雪女見習い達も感心して、
「おぉぉ、やってみるー。ありがとー」
「何、礼を言われる事でもない」
 素直に紫髪へ感謝する雪女見習い達へ、謙遜しながらいつきとの誘惑対決の見物を決め込むべくその場を離れ、
「……何せ狙いはお主らの力じゃからの?」
 本懐は雪女見習い達に届かぬように。
「ちょっと!? 何で教えちゃってるんですか!?」
「まあ落ち着くんじゃ。悪いようにはならん。それに、このほうが張り合いもあるじゃろう? 後は雨宮殿に任せるからの」
「わ、わかりました……では!」
 飄々とした態度で歩いていく紫髪を横目に見つつ、いつきは新たな誘惑の技を覚えた雪女見習い達と対峙する。足を差し出す仕草、布を捲る仕草。一挙手一投足がほんの少しだけ洗練されている……ような気もする。
 それに負けじと、いつきもぺたんと地面にへたり込み、身に付けた衣服の襟に指をかけ、そっと肩をはだけていく。
 そして、頬を紅潮させながら上目遣いで雪女見習い達に眼差しを向けるいつきの姿は蠱惑的だった。同じように誘惑のポーズを見せる雪女見習い達もたじろぎを見せていた。
「うー……なんか、あっちのほうが、凄い……?」
 互いに大きな動きを見せず、ただただ赤面する。不思議な光景を前に、紫髪はのんびりと高みの見物。
「……あの、これ、いつ勝負がつくんでしょう?」
「さぁのぅ」
「えぇ……」
 いつきは誘惑のポーズを続けてみるが、雪女見習い達はなかなか降参の声を上げようとしない。これではいつまでもこの状態が続いてしまうか……と思われたが。
 それまで黙って事を見守っていたいつきの管狐達が、とうとう血相を変えて雪女見習い達に飛び掛かっていった。小刀を振り回し、狐火を放っての特攻に、雪女見習い達が慌てたように着物から手を離す。
「狐さんがー……襲ってくるぅ」
 攻撃を仕掛けられてはたまらない、と雪女見習い達も応戦する。誘惑により赤面したことが戦闘力の強化に繋がっていたが、動きが見破られやすくなるというデメリットもある。いつきの管狐達は巧みに動いて雪女見習い達の攻撃を回避しながら狐火で燃やし、小刀で切り裂いていった。
「痛いー……やったなー」
 攻撃を受けた雪女見習い達は吹雪を起こす。激しく吹き付ける雪の風は管狐達のみならず、いつき自身も射程に入れて。
「……おっと、これはわしの出番じゃのぅ」
 いつきへと吹雪が迫る――そこに紫髪が飛び出し、人形にオーラ防御を施して受け止める。広がった防御の壁に沿って吹雪が周りに逸れていった。
「あ……ありがとうございます」
「気にするでない。ほれ、雨宮殿が長く時間をかけたおかげで、大分見切りやすくなっとるしのぅ」
 羞恥心を長く味わったせいか、雪女見習い達の動きはやけにぎこちなく、吹雪を出す初動もよく見える。そして、強化された雪女見習い達の力は、そのまま紫髪の力へと変わる。
「……これも定めということじゃ……すまんのぅ」
 一時は誘惑の指導もしたが――雪女見習いも、倒すべき相手には変わりない。紫髪はどこか寂しそうに呟くと、
『祓い給えヒトガタよ!』
 【厄受人形】により、防御した吹雪の力を武器として操る人形達に宿し、【呪詛返し】により破壊力を増強していく。そして場に放つと、紫髪の人形達はいつきの管狐達と共に雪女見習い達を圧倒していき、
「うわ~……やられるー」
 狐火を見舞われたところに人形達がボコスカ殴ると、雪女見習い達は粉雪のようにさらさらと風に流され消えていった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

御剣・神夜
へ、変な人たち
いや、確かにこの廃屋には似つかわしくない服装の面々かもしれませんけども、相手に言われると流石に答えますね
貴方達にだけは言われたくなかったのですが

袖を引っ張られないように気を付けつつ、自分の間合いで戦う
気付かず接近されて袖を引っ張られた場合は野太刀で氷の吐息を防御しようとする
吹雪を使われたら視界を遮られないよう気を付けつつ、近づいて攻撃する。寒さで意識が遠のきそうなときは唇を噛んで耐える。噛む程度でダメなら噛み千切る位の力でかむ
誘惑してきたらその時間に応じて攻撃力が上がるので優先的に潰す
「見習いと言えども立派な雪女。こちらも油断せず参りましょう」



●怪異を断つ者
 住む世界が違う、というのは時に残酷だ。雪女見習い達には多種多様な姿をした猟兵達は違和感の塊にでも見えていたのだろうか。
「へ、変な人たち……」
「うんー。へーんなー……人達ー」
 雪女見習いの言葉にショックを隠せない神夜。思わず苦笑いを見せる。
「いや、確かにこの廃屋には似つかわしくない服装の面々かもしれませんけども、相手に言われると流石に堪えますね」
 言って、神夜はすらりと野太刀『豪刀・牙龍』を抜き、正眼に構える。
「ですが、この廃屋に似つかわしくないのは貴方達も同じこと……見習いといえども立派な雪女、放置するわけには参りません」
「じゃあ、どうするー?」
 雪女見習いの問いに、それまで穏やかだった神夜の表情が険しいものに変わった。
「……ここで倒させて頂きます」
 風が流れ、庭木の枝が揺れ、神夜の姿が虚ろになった。残像が地を滑り、瞬く暇もなく雪女見習いの懐へ踏み込む。
 袈裟に振り下ろされた刃が断つ。白衣は雪の如く散らされ、雪女見習いが伸ばした手は神夜の腕に触れることなく溶けていく。
「うわぁ、危ない人ー」
「今度は危ない人、ときましたか……。危ないのは、果たしてどちらでしょうね」
 冷気を湛えた雪女見習いが群がり、神夜への接近を試みようとする。それを一太刀で退けて神夜は間合いを保ちつつ、それぞれの個体を見極める。
「うぅ、強いー。じゃあ、これはー」
 雪女見習い達の何体かが、静かに自分の着物へ手を伸ばす。恥じらいの表情を見せた、誘惑の合図。
「それは……許しませんよ」
 戦闘力を上げようとする個体に対しての神夜の警戒心は強かった。即座に気配を感じ取ると、一気に野太刀の間合いまで踏み込んで、
『天武古砕流奥義、流走!!』
 切っ先が地面に触れるまでほんの僅か、触れていれば土を抉り跳ね上げるほどの剣速で、神夜は雪女見習いの体を掬い上げた。刃は胴の中を滑らかに通り、肩から抜けて空を突く。あまりの速さに見開いた目が硬直し、光を失い少女は倒れていった。
「まだ……いましたね」
 雪女見習いの群れへ追い打ちをかける。ちらりと足を見せていた少女へ、薙ぐように野太刀を振り下ろして首を落とす。決着をつければまた次へ。結末は見ない。
 二体、三体、四体……次々に斬り伏せていくが、それでも雪女見習いの数はまだ多く。
「つーかまーえたー」
 抵抗を感じ、振り向けば、刀を持たぬ側の肘の辺りに小さな手が見えて。
「つめたいよー」
 ふぅ、と吹かれた雪女見習いの吐息は凍てつくほどに冷たく輝く。神夜は咄嗟に野太刀の刃の面を押し当てるようにして吐息を防ぎ、弱まった隙に腕を断ち、胸元を断ち、少女の束縛から抜け出して距離をとる。
 断末魔ものんびりと。間延びした呻き声を上げて消滅していく雪女見習いを見つめて、
(接近を許しましたか……。強化がなくとも、相応の力は持ち合わせている相手。意識は決して切らすことなく、参りましょう)
 場に溜まっていた冷気を吐き出して、新たに迫る雪女見習い達を見据えた。

成功 🔵​🔵​🔴​

テフラ・カルデラ
雪女さんの見習い…かわいいですけど油断していると危なそうですね…
そんなに遊んでほしければ遊んであげますよ!
ウィザード・ミサイルで焼き尽くしちゃいましょう~

ぐっ…数が多いのです…!
わわっ!?しまった!いっぱい抱き着いてきた!!
ちょ…冷たっ!?その冷たい吐息吹きかけないでぇー!!
ど…どんどん身体が凍っちゃう!?冷たあぁ…ぁっ…


御狐・稲見之守
【御劔姫子f06748と同行】
雪女はその容姿で男を拐かすのもまたその側面ゆえ油断されるな……あの、いや姫子殿? お姉さん雪女って。

[WIZ]いやあのな、雪女が誘惑するのに恥じてどうすんじゃ。まったく……UC魅力の術で無力化してしまおう。そんなにお顔を赤くして愛い奴よ。さあ恥ずかしがらずにお前さんのお顔をよく見せておくれ? ふふっ良い子じゃのぅ。

……やれやれ、見習いとは言え雪女が逆に誘惑されていてはな。お姉さん雪女もちょいとはそういう手管を覚えれば嫁の貰い手に困るまいに?(意地悪げに)


御劔・姫子
【POW】【御狐はん(f00307)と行動】
あっ! 本物の雪女…にしてはえらいかいらしいなぁ~♪
でも、この子達も『おぶりびおん』…ちゃんと懲らしめなっ!
そして、今はうちも雪女っ! 更にお姉さんなんやから負けへんよっ!

注意せなあかんのはやっぱり吹雪、特に掴まれた後やと避けきれへん。
せやから【ダッシュ】【フェイント】で的を絞らせんようにして近づくっ!
そしたら、【表奥義・蛟卸し】で一気に【なぎ払い】っ!
ちょぉっと心が痛むけど、これは悪い子へのお仕置きやっ!

「お姉さん雪女は、怒ると怖いんよ?」

ふぇ? お、御狐はん!? 小さい子になにしてはるんっ!?

(※アドリブ等歓迎です)


神薙・沁
他の猟兵の皆さんに攻撃を任せて興味を引く囮を決行

では、よかったら遊びましょうか
と声をかけて相手の興味を引く

戦闘(もしくは鬼ごっこ?)回避に専念しつつ
捕縛風印で足止めなどをしてひたすら逃げる
ただし興味をこちらに引き付けることが目的なので見えなくなるほど離れない
逃げながらワイヤーで引っかかったら転ぶよう足元に罠を仕掛けたりしておく

悪意がないとかえってたちが悪いなぁ・・・などと思いつつ逃げまわる
多数の雪女をある程度ひとまとめになるよう誘導して
誰か範囲攻撃が使える猟兵がいたらその人に合図おくって
一網打尽、などを狙ってみる



●可愛くてちょっぴり怖い雪女
 猟兵達が次々と雪女見習いを撃破する中、沁はあえて攻撃の手を他の猟兵に託し、囮役を担っていた。未だ戦いの中に入っていない雪女見習い達を見つけると、柔和な表情で近寄り、声を掛ける。
「皆さん、遊びたいんでしたっけ。……では、よかったら遊びましょうか」
「いーのー? じゃあ、遊ぶー」
「遊ぼ遊ぼー」
 沁の提案に雪女見習い達が寄ってきた。オブリビオンが敵意も見せずに近づいてくる、不思議な光景だ。
「何して遊ぶー?」
「鬼ごっこはどうでしょう? 皆で遊べますよ」
「おー、鬼ごっこー」
 沁の提案に、雪女見習い達の感触はよさそうだ。じゃんけんで鬼が決まると、沁は捕まらないようにしつつも離れすぎて雪女見習い達の意識が別に向かないよう、注意を払って中庭を走る。
「わー、待て待てー」
 鬼役の雪女見習いは、他の雪女見習いや沁を追いかけ回す。裾がひらひらと舞い上がりあまり速度は出ていないが、それでもとことこと楽しそうに駆け回っていて。
(悪意がないとかえってたちが悪いなぁ……)
 少し後ろめたさを感じつつも、沁は逃げる中で糸やロープなどをこっそりと地面に這わせていき、一網打尽の計略を進めていく。

「本物の雪女……にしてはえらいかいらしいなぁ~♪」
 きゃっきゃと鬼ごっこに興じる雪女見習い達を眺め、姫子の表情がとろんと緩む。ここが何でもない少女達の遊び場であれば、きっと日が暮れるまで眺め続けていたことだろう。
「じゃが、その容姿で男を拐かすのもまたその側面ゆえ、油断されるな――」
「でも、この子達も『おぶりびおん』……ちゃんと懲らしめなっ! そして、今はうちも雪女っ! 更にお姉さんなんやから負けへんよっ!」
「あの、いや姫子殿? お姉さん雪女って」
 子供達を帰してなお、姫子は雪女の格好を解かぬまま、この場に立っていた。年齢からすれば、ちょっと年の離れた、頼りになる雪女のお姉さん、でも通るのかもしれない。
 やる気があるのはいいことなのだが、その方向がどこか別に突き抜けている気がして、稲見之守はたじたじだ。
 一旦自分自身を落ち着かせるように、稲見之守はこほんと一つ咳払い。
「……まあよい。では、ワシらもいくとするかのう。囮役が引きつけている分は他で何とかなるじゃろう。ワシらはワシらで役目を果たすゾ」
 稲見之守と姫子が狙うのは、戦いに加勢すべきか、鬼ごっこに参加すべきか、どっちつかずのまま留まっていた雪女見習い達。周りで起こる様々なことに対して、幼い精神ではなかなか判断が難しいようだ。
 そこへ姫子はすかさず、タ、タンと庭石の上を跳んで詰め寄り、剛刀『巌太刀』を眼前へと差し向けた。
「わああぁー」
 切っ先に光る白銀に、雪女見習い達は声を上げて散っていく。
「逃がさへんで!」
 そのうちの何体かを狙い、姫子が追う。図らずも鬼ごっこの様相を呈した場で、雪女見習い達もオブリビオンらしく、果敢に姫子の衣服を掴もうとするが、すんでのところで姫子の姿が消えてしまう。
「あっ」
「ちょぉっと心が痛むけど、これは悪い子へのお仕置きやっ!」
 心を鬼に、姫子は刃を雪女見習いに向けて、
『これが御劔の技……奥義・蛟卸しっ!』
 薙いだ剣は、横目に姫子の姿を見た雪女見習いの胴をばっさりと輪切りにした。ずるりと滑って崩れ落ちていく雪女見習いの眼は姫子の顔に向けられたまま、脚も体も、地面に落ちる前にきらきら、さらさら、消えていく。
「お姉さん雪女は、怒ると怖いんよ?」
「怖いー、危ないー、うぅ、やっちゃえー」
 雪女見習い達が姫子へと殺到する、その反対で。
 姫子の飛び込みに散った別の雪女見習い達が稲見之守と対峙していた。お互いに睨みあっているようだが、稲見之守もその姿は年若く見え、それほど厳しい雰囲気は感じられない。
「むむー、これで、どうだー」
 雪女見習い達が痺れを切らし、前に出た。そして、素肌をちらりと。
 相手は女性。それでも、肌を晒すこと自体に恥じらいを感じるのか、ぽっ、と頬を染めて。
 そこには何かしらの魅力はあったはずだが……稲見之守には届かない。やれやれ、と顔を少し伏せて。
「いやあのな、雪女が誘惑するのに恥じてどうすんじゃ。まったく……相手を魅了するには、こうするんじゃよ」
 再び顔を上げ、羞恥に潤んだ雪女見習い達の瞳に向けて全身から術を放った。全く圧を感じさせない力は吸い込まれるように丸い瞳の中へ消え、雪女見習い達の視界は華やかな桃色の世界に変わっていた。
 木造の屋根、石造りの壁、砂利が広がる庭というみすぼらしい色の世界を塗り替えられて、雪女見習い達は稲見之守の手に落ちる。
「あうぅ……」
 ぐらぐらと揺れる体に近づき、さっと背中を手で支え、稲見之守は全てを預けさせる。
「そんなにお顔を赤くして愛い奴よ。さあ恥ずかしがらずにお前さんのお顔をよく見せておくれ?」
「はうぅ」
「ふふっ良い子じゃのぅ」
 手元の小さな頭を撫でて。魅了された他の雪女見習い達にも目を向け微笑み返すと、全員なよなよと力なく落ちていく。
 場を制圧し、ゆったりとした時間が流れる中、風が唸る音が聞こえてきた。
「これで……最後やで!」
 姫子の剣が、追った最後の雪女見習いを斬り伏せた。全て一刀両断。手心は加えず、姉としての威厳を示した……のだろう。
「御狐はん、そっちは……ふぇ? お、御狐はん!? 小さい子になにしてはるんっ!?」
 見れば、膝の上に雪女見習いの頭を乗せ、前髪を指で掬い上げる稲見之守、という摩訶不思議な構図が出来上がっていた。
「なに、誘惑に魅了を返したまで……造作もないことじゃ。どうじゃ、羨ましかろう?」
「う、羨ましゅうは……」
 今度は姫子の心が揺れた。頬を指でなぞれば、くふふ、とくすぐったそうに笑う。夢のような世界に、思わず一歩近づいてしまった。
「己の欲望に素直なのは良いことじゃ。じゃがのう……お姉さん雪女も、ちょいとはそういう手管を覚えれば嫁の貰い手に困るまいに?」
「よ――余計なお世話や!」
 顔を真っ赤にして叫ぶ姫子をも手玉に取って、稲見之守は意地悪な笑みを見せていた。

 雪女見習い達との鬼ごっこの中で、沁は彼女達を一か所に纏め始めていた。張り巡らした糸やロープが行動範囲を狭めていたが、雪女見習いの誰もがそれに気づくことなく、小さくなった遊び場を走り回っている。
(もうそろそろいいかな)
 時は来た。沁は仲間へ、頃合いだ、と合図を送る。その先にいたのは。
(雪女さんの見習い……あんなにはしゃいで楽しそうで、可愛いです……)
 テフラ・カルデラ(特殊系ドMウサギキマイラ・f03212)が縁側で、あちこちで動き、騒ぎ、時に戦う雪女見習い達を眺め、至福の時を過ごしていた。
 無論、ただ雪女見習いを眺めに来ているわけではない。沁が出した合図に気付くと、ぴょんと跳んで庭の中に立つ。
「でも、油断してると危なそうですね……よーし、いきます!」
 テフラは一つ気合を入れて、手の中に炎を宿す。そして走り回る雪女見習い達へ、
「皆、遊んでほしいんでしたよね? そんなに遊んでほしければ遊んであげますよ!」
 叫び、空に炎を撒いた。鮮やかな紅炎が矢に変わり、遊び場を戦場へと変えていく。空を突くテフラの指が振り下ろされると、矢が一斉に雪女見習い達へ襲い掛かる。
「わっ、わっ!」
 足に、背中に、頭に矢を浴び、鬼ごっこから一転、火炎地獄からの脱出劇へ。右往左往する雪女見習い達へ、テフラはなおも矢を浴びせ続ける。
 戦場は狭い。そのまま一気に押し切れる――かと思われたが。
「テフラさん、後ろ!」
「えっ?」
 沁が叫んだ次の瞬間、ぎゅうっと柔らかいものにお腹を締め付けられるような感覚。ひんやり冷たく、夏場ならとても気持ちいいものに違いない。
 天然の冷却材。テフラに抱き着いていたのは、ようやく逃げ出し、うまくテフラの背後に潜り込んだ雪女見習いだった。
「いーまーだー!」
 平坦な呼び声に、他の雪女見習い達が集まってくる。所々煤けた姿を見るに、テフラの攻撃で仕留めきれなかった者達だろう。
 それがお返しと言わんばかりに、一斉にテフラに抱き着いていく。
「ぐっ……数が……いっぱい抱き着いて……ちょ、冷たっ!?」
 ひんやり、の比ではない。抱き着いた雪女見習い達が一斉に冷たい吐息を吹き掛けて、テフラを冷気の中に閉じ込めてしまっていた。はぁ、と漏れる声が耳に触れ、うっとり……などと浸っている場合ではない。
「その冷たい吐息吹きかけないでぇー!! ど……どんどん身体が凍っちゃう!? 冷たあぁ……ぁっ……」
 吐息が触れた部分に氷が張っていく。一度生まれてしまえば後は息の流れるままに広がって、テフラは氷の中に完全に閉じ込められてしまった。
「やったー。これでふくしゅーせいこー――わぁぁ!!」
 雪女見習い達の喜びも束の間、どこかから飛んできた狐火が彼女達を追い回し、命中した傍から溶かしていく。
「全く……何をしておるんじゃか……」
 魅了した雪女見習い達との甘い一時を終えた稲見之守が、氷漬けにされたテフラを見兼ねて狐火で追い払っていった。余った狐火を氷に乗せて、頭の部分から溶かしていくと、湯気を出すテフラの頭が出て、ぴょこんと耳が立ち上がった。
「大丈夫ですか……?」
 テフラの攻撃に巻き込まれないよう、離れた場所にいた沁が、出てきたテフラを心配そうに見つめる。
「た、助かりましたぁ……。あの、あの子達は……」
「残ってたのはワシの狐火と、ほれ」
 稲見之守が視線で示した先では、姫子が特攻を仕掛け、残った雪女見習い達を斬り捨てていた。狐火に追われて反撃もままならず、刀の露と消えていく。
「ありがとう、ございます……」
「よいよい。それに、テフラ殿も十分立派な『囮』じゃったしのう」
 しゅんと縮こまって氷から救出されたテフラに、稲見之守は負い目を感じさせぬよう、けらけらとおどけた様に笑ってみせていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『『雪女』冷結』

POW   :    氷の制裁
【足を魅せる等して肌から冷気を貯め、指先】を向けた対象に、【対象の場所を起点に発生する氷の塊】でダメージを与える。命中率が高い。
SPD   :    氷の神隠
自身と自身の装備、【そこから吹雪を発しながら自身と】対象1体が透明になる。ただし解除するまで毎秒疲労する。物音や体温は消せない。
WIZ   :    氷の呟き
【心の底から凍てつく言葉】が命中した対象にルールを宣告し、破ったらダメージを与える。簡単に守れるルールほど威力が高い。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠ポーラリア・ベルです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●屋敷を氷に閉ざす、真の雪女
 噂の元となった少女――雪女見習いはこの屋敷から消滅した。
 これで一件落着、のように思われたが。
 屋敷内を支配する冷気は消えるどころか、強まるばかり。
 風に混ざって、光を反射する雪の結晶が落ちてくる。見上げれば、そこには。
「ああ、全て倒されてしまったのね。可哀そうに……」
 先の少女達が成長を遂げたような、妙齢の女性。
 本当に成長した姿なのか……それは定かではないが。
 一目でわかる。彼女もまた雪女であり、その力は、雪女見習いとは比べ物にならない。
「仇を取りましょう、えぇそうしましょう。貴方達全員の命を、ここで全て凍らせてあげましょう」
 そう言って、彼女――『雪女』冷結は地上に降り、猟兵達へ凍てつく視線を向けていた。
四王天・燦
約束を果たした見習いへの罪悪感が冷気より刺さる。
出来ることをしてあげたい

「見習いの魂を宿して冷気で挑む。腕前を評価してくれ」

守れない。傍観は論外。
『師を越えてあげようぜ。見習い卒業試験だ』
戦意ではなく、敬意と感謝で挑んで欲しい。
心の中へ囁き妖魔解放…纏うは雪女見習い!
魂に己を委ねる

吹雪の源を目指す。第六感でフォロー。
高速移動で詰め、氷の衝撃波を吹く。
可能なら袖を引く

『悔いを残すな。凍りつくほど熱い気持ちを見せてやれ』
全身凍っても、鼓舞して捨て身の一撃上等さ

「師匠、ありがと。皆の所に行ってあげて」
氷の柩で葬送

UC解除前にイカサマを謝罪。
雪女と昇天も良いけど、アタシ達と現世を歩んで欲しいと伝えるぜ


御狐・稲見之守
真打登場……というわけじゃな。さすがにここからはお姉さん雪女などとは言ってられんぞ姫子殿。いやだから、吹雪を出せるとかの問題でなく!

[WIZ]UC狐火、お前の氷か、ワシの炎か――さあさアヤカシ同士の力比べよ。お前が全てを凍らせると言うならば、ワシはお前を焼き尽くしてみせようぞ。

む、言の葉による呪詛……氷の呟きなどとつまらんことを――いやちょっと待て、お前ッ姫子殿に向かって「行かず後家」とはなんて非道いことを云うかッ!

ひ、姫子殿……? いかん、姫子殿が心の底から凍てつく笑い方しとる。


蜂蜜院・紫髪
*連携アドリブ歓迎
心情:おや、子供ばかりと思ったが保護者がおったのじゃな…御稚児趣味なのじゃ?
ま、仇を討つなら好きにすればよい…儂も子供を狙う者をそのままにはできぬからの

戦闘:基本は護衛人形を盾にし狐火で戦います
連携者が居るなら護衛人形での【かばう】や【癒しの狐火】での援護をします

氷の呟きに対し、ダメージを【覚悟】してルールを破り【厄受人形】【呪詛返し】を行います

*連携者別の返す際のルール
連携しない場合はWIZで対応

POW:親から【人を指さすな】と習わんかったのかの?
SPD:隠れて呟くなら好都合【そのままずっと隠れているがよい】疲れ果てるまでの
WIZ:戯言は聞き飽きたのぅ。もう【喋るでない】


御劔・姫子
【WIZ】【御狐はん(f00307)と同行】
ほんまもんの『お姉さん雪女』っ!? ど、どないしよう…吹雪も出せんと雪女いうんは失敗やったかなぁ…?

さっきの子達より、妖力の類いは強そうやなぁ…ここは慎重に、御狐はんの狐火の後で斬り込んで…

――今、なんて言いはりました? 『行かず後家の出来損ない雪女、そこを動くな』……そう言いはりました?

(UC【秘技・不抜乃太刀】を使用、【早業】【2回攻撃】で瞬時に二つの斬撃を発生させる)

それでうちを止めたつもりやったら、なかなかえぇ頭をお持ちやなぁ。(張り付いた笑みで京都的皮肉を述べる)

「え、怒ってへんよ。全然、怒ってへんよ? …ほんまやって」

(※アドリブ等歓迎)


阿紫花・スミコ
「なるほど、ボスのお出ましか。」

からくり人形ダグザを使い、ダグザの持つ巨大な棍棒で攻撃を行う。氷の塊はなるべくダグザで処理(棍棒でなぎ払う)する。

神隠しには、ガジェット「サーマルスキャナ」の熱源観察が役立つかも。

十分にダグザを印象づけたところで、おもむろに、ガンハイダー(迷彩ガンベルト)の明細を解除し、精霊銃「アヴェンジングフレイム」を抜き放つ。(早業)

「これでもくらえ!」

ダグザとはまったくの別角度から奇襲攻撃をかける。
アヴェンジングフレイムを右手、腰当たりの高さに構え、引き金をひきながら左手で撃鉄を高速にはじく。
刹那に放たれた6発の銃弾は、炎を纏ってターゲットを襲う。(ファニングショット)


テフラ・カルデラ
色々あって身体も温まってきましたね…
雪女相手ならばまた同じようにウィザード・ミサイルで燃やしてしまいましょう…!
凍っちゃうのはさっきの見習いさんで慣れたので、あわよくば囮にもなれそうなのです…!

あっ…ホントにこっち来た!ま…まだ心の準備が…冷たぁぁ!?
凍える抱擁なのです…って凍る速度が速い!?
もうほとんど…凍って…動けな…ぁっ…


雨宮・いつき
彼女が雪女達の親玉ですね…
世を騒がせる怪異を鎮めるのが僕の勤め
あなたの仇討ちを成させてあげる理由はありません
どうか御覚悟を!

とはいえ、あの呟きは厄介です
一度は受けても耐えれるかもしれませんが、二度三度と続けばこちらの身が持たないでしょう
ならば雪女が言葉を紡ぐ前に、周囲に起爆符を飛ばして爆破、爆音と【衝撃波】によって言葉を搔き消す事で無力化します!
一瞬隙を作る事が出来れば好機、雷撃符から飛ばした稲妻による【マヒ攻撃】で動きを止めましょう
その間に霊力を籠めて狐火を大きく形成
氷結を操る者には熱で対抗です
全力の焔の球をぶつけますよ!


神薙・沁
眼をとじてヘッドホンで音楽を聴いているような仕草
集音機能で逆に周辺の音を探って相手の現在地を思わしき場所に鋼糸で攻撃
一度捕まえてしまえばたとえ見えなくても攻撃できる

完全に透明にしなくても見えづらければ十分効果はあるんですよ
といいつつ捕縛風印を使用

鋼糸で捕まえることができたら他の猟兵に声をかけて
攻撃を促す
鋼糸で捕まえても見えづらいようなら手裏剣を投げつけてそれを目印にするようにすればいいかも(まぁ攻撃当てた時点で透明化を解除してるかもしれないけど)



●最後の雪女
 漂う冷気は白く、地表に沿って猟兵達の足元を冷やす。冷結の体から流れ落ちていたものが、不意に細かい雪粒と共に猟兵達へと吹き付けていく。
「真打登場……というわけじゃな」
 これぞ雪女の本領、とでも言うように、稲見之守は吹雪の中で不敵に笑う。
「さすがにここからはお姉さん雪女などとは言ってられんぞ姫子殿」
 幾度となく姫子を支えてきた稲見之守。ここでも隣に立つ京都弁の少女へ気遣いを見せる。
 その姫子はと言うと、
「ほんまもんの『お姉さん雪女』っ!? ど、どないしよう……吹雪も出せんと雪女いうんは失敗やったかなぁ……?」
「いやだから、吹雪を出せるとかの問題でなく!」
 終始不思議な感性で物を言う姫子に稲見之守は振り回されているようだった。
(おや、子供ばかりと思ったが保護者がおったのじゃな……御稚児趣味なのじゃ?)
 紫髪は吹雪の中、目を細めつつ、レンズの奥から冷結へ鋭い視線を向ける。見るからにこの屋敷の雪女、その元締めと言えそうな相手。猟兵達の活躍により見習い達が子供達と出会うことはなかったが……そうなるように仕向けていたのは、もしかしたら目の前にいる雪女の差し金なのか、と思案する。
(見習い達を一掃されていささか不服のようじゃの……ま、仇を討つなら好きにすればよい。……わしも子供を狙う者をそのままにはできぬからの)
 譲れぬ思いは自分も相手も同じだが、紫髪にその思いをぶつけ合うつもりはない。ただ、為すべきことを為すのみ。
「なるほど、ボスのお出ましか」
 スミコは冷結の登場に警戒心を見せ、『からくり人形「ダグザ」』を傍らに準備する。巨大な棍棒を構えさせ、出方を伺っていた。
 ヘッドホンを耳にかけ、目を閉じる。沁は吹雪の中でも表情を変えることなく。じっと目を閉じ、音楽に耳を傾ける――と思いきや、集音機能を使い、冷結の動き、周囲の状況の変化に気を配る。『時紬の糸』を手に握り、音に変化があれば、すぐさま飛ばす。そのために、聴覚へ意識を集中させていた。
「…………」
 燦の複雑な思いは、口を引き結んだ真剣な表情が物語る。目の前の敵を倒す――それだけに留まらないのは、雪女見習いとの交流があったから。
 彼女達に悪意は感じなかった。会話をした。花札で遊んだ。その体にそっと触れた。
 そして、精気を貪り、取り込んだ。
 たとえ悪意がなかろうと、雪女見習いはオブリビオン。だから喰った。
 ハーピーとも、アルラウネとも、マンティコアとも同じ。だからそれでいいのだと信じていた。
 だが、目の前にいる雪女は……雰囲気から察するに、雪女見習いの上位種族に当たるもの。
 あるいは、師弟の関係にでもあった存在か――。
 吹雪に身を投じている燦。だが、肌に刺さる寒さよりも、心の奥底、取り込んだ魂にちくりと刺される冷たい棘のほうがずっと痛く、苦しい。
 その魂を取り込んだ体で、冷結と向き合わねばならぬのだから。
(見習いの魂を宿して冷気で挑む。腕前を評価してくれ)
 燦の選択。それは彼女なりの覚悟であり、一つのけじめなのだろう。
(彼女が雪女達の親玉ですね……)
 普段は物静かな雰囲気のいつきも、今は眉を吊り上げている。雪粒が頬を引っ掻こうとも、顔は真っ直ぐに冷結へ向けて。
「世を騒がせる怪異を鎮めるのが僕の勤め。あなたの仇討ちを成させてあげる理由はありません。どうか御覚悟を!」
「覚悟をするのはどちらでしょう? 私の冷気を甘く見ては、いけませんよ?」
 冷結が両手に冷気を集め、それまで広範囲に広がっていた吹雪を猟兵達に集中させていく。
「貴方達にはこの言葉を――」
「そうはいきませんよ!」
 攻撃を仕掛けようとする冷結に、いつきが先んじて動く。『起爆符』を数枚手に取り、吹雪の中へばら撒いた。吹雪の前に勢いを失ったところを見計らい即座に爆破、雪と風と音を纏めて吹き飛ばす。
 冷結へダメージを与えるためではない。耳を劈く爆音は冷結の声を消し、猟兵達へ浴びせかけられるところだった凍てつく言葉を掻き消していた。
「煩わしい……っ!」
 いつきが投擲した符の爆煙が煙幕のように広がり、冷結から猟兵達の姿が霞む。冷気を放出する方向を絞り、煙を払おうとするが、それを避けるように大きく煙の中を回りながら、稲見之守、姫子、テフラ、紫髪の四人が突破して冷結に迫る。
「助けてもらって体も温まったので、この程度の吹雪はへっちゃらです! 雪女相手ならば炎に弱いはず……また同じように、ウィザード・ミサイルで燃やしてしまいましょう……!」
 テフラは弓を引くように腕を構え、両手の間に炎を走らせる。本物さながらの炎の矢を、魔力を推進力とすることで連続射出し冷結を追っていく。集中した冷気の外側、炎の力が減衰しにくい方向から放たれた矢が白い着物を焦がし、冷たい肌を赤く熱した。
「これしきの炎など……!」
 手から放つ冷気を燃え移った炎に向け鎮火させるが、その跡は黒く焼け焦げていた。やや防御に回った冷結だが、そこへ稲見之守と紫髪、二人の炎が向かう。
「お前の氷か、ワシの炎か――アヤカシ同士の力比べよ。お前が全てを凍らせると言うならば、ワシはお前を焼き尽くしてみせようぞ」
「『アヤカシ』とはな……まあ、わしも大概似たようなものかの。なれば、炎の合わせ技じゃ」
 二人の周囲に浮かぶ炎――狐火は意思を持っているかのように離れ、冷結が放つ冷気を掻い潜っていく。
「この……」
 冷気を光線のように細く集約して、殺到する炎の一つを撃ち抜いた。だが、その時にはすでに他の炎も眼前に。赤熱する景色を遮るように両腕で顔を覆い、放出した冷気を薄い壁にして炎を必死に耐えていた。
 だが、視界を塞いだところで、示し合わせたかのように姫子は素早く詰め寄ると、
「妖力の類は強そうやけど、隙があんで」
 冷気は炎が集中する前面を守ることしかできず、側面はがら空き。冷結が腕の裏側から向けた横眼の視線が姫子には見えたが――躊躇うことなく下方から一振り。氷のような青い帯とひらひら動く袂をばっさりと大きく斬り裂いて、中の白い肌に太く深く傷を刻み込んだ。
「くっ……ああ、忌々しい剣ですね……そんなものを振っていれば、貰い手もいなくなるというもの」
 苦痛に顔を歪めながらも狐火を何とか耐えきった冷結が、傷を押さえながら恨めしそうに呟く。声の調子は暗く、聞いた者の心に闇を落とす。
 その言葉が突き刺さるに足る理由があれば。
「――今、なんて言いはりました?」
 姫子の体がビタッと固まる。その様子に、稲見之守は寒気とは別の震えを覚えた。
「言の葉による呪詛か――! じゃが、その内容――」
「聞こえなかったなら、もう一度言って差し上げましょうか。貰い手のいない女性……そういうのを、確かこう言うんでしたね。『行かず後家』と」
「ちょっと待て、お前ッ姫子殿に向かって『行かず後家』とはなんて非道いことを云うかッ!」
 稲見之守が覗いた姫子の顔。能面を張り付けたような笑顔は冷たく、恐怖すら覚える。
「『行かず後家の出来損ない雪女、そこを動くな』……そう言いはりました?」
「姫子殿ォ!? さすがに雪女もそこまで無慈悲ではなかったゾ!? いかん、姫子殿が心の底から凍てつく笑い方しとる……」
 もう色々手遅れだろう。稲見之守は諦念の面持ちで行く末を見守るしかなかった。
 姫子は目覚めたように瞳を見開き、意識を冷結へと集中させる。刹那、剣を持つ腕の輪郭が一瞬ぶれた。
 それは神速にも達していようかという程の、常人には観測不能の斬撃。一瞬にして胴に交差した裂傷が現れ、遅れてやってきた激痛に冷結の体が折れ曲がる。
「それでうちを止めたつもりやったら、なかなかえぇ頭をお持ちやなぁ」
「いつの間に……!」
 防御が全く追い付かず、姫子の剣の餌食になる。傷口を冷気で固めていくが、動きへの支障が少なくなる程度で、ダメージは蓄積されていくばかり。
 それでも、冷結はまだ攻めの姿勢を見せる。
「ですが、言葉を聞きましたね……! 今から『怒ってはいけません』よ……?」
「え、怒ってへんよ。全然、怒ってへんよ? ……ほんまやって」
 姫子の目は完全に据わっている。冷結の言葉に対し、何らかの影響を受けているはずだが……姫子は未だピンピンしている。
(多分、怒りを通り越してるんじゃろうなあ……)
 稲見之守は遠い目をしながら分析していた。
「ふむ、聞いた者ならその術にかかるか……なら、わしも怒ってはいかんのじゃな?」
「……えぇ、そうなりますね」
「なるほどのう……それは好都合じゃ」
 紫髪が律儀に冷結へ確認すると、その瞳が徐に冷たく鋭いものへと変化した。
「年端もいかぬ子供を手に掛けようなどとろくでもないことを考えよって……。子供を失った親が何を思うか……見習い達の仇を取ろうと考えるお主が、分からぬ訳はなかろう!?」
 そして、大げさに怒りを露にし、捲し立てる。冷結が定めたルール、それを破った先に待つのは――。
「……っつぅ……覚悟はしておったが、それでもきついものがあるのぅ……」
 肉がねじり切られるような痛みが全身を襲い、紫髪は堪らず膝をつく。自ら、あえて冷結の策に踏み込んだ。代償はあったが、得るものもある。受けたユーベルコードを【厄受人形】と【呪詛返し】『護衛人形』に封じ込め、
「戯言は聞き飽きたのぅ。もう喋るでない」
 糸を伸ばし、強化した力を冷結に向けた。走力、腕力が格段に上がり、紫髪が見せた予想外の動きに虚を突かれた冷結の傷を抉る。保護の氷を突き破り、冷結の顔を苦悶に歪ませた。
「次から次へと……!」
 猟兵達の猛攻に耐えかねて、冷結は守りの吹雪を放つ。再び広範囲へ、戦場を覆うように広げられた雪の嵐に紛れるように、冷結の体がすぅっと景色の中に溶けていく。
「……!? 姿が消えてしまいました!!」
 狙う相手が見えなくなり、テフラは炎の矢の先をふらふらと動かす。右を見ても左を見ても、冷結の姿は見当たらない。
(たとえ透明になったとしても、物音は消えないですよね)
 吹雪の中、沁は音を聞き続けた。布が裂ける音、燃える音、肉が斬れる音、凍り付く音、焦りの声、怒りの声――全てが耳に入ってなお、沁は戦いの流れのままに、機を待った。
「……そこです!」
 何もない場所から聞こえる、砂利の音に冷結の存在を感じ、鋼糸を飛ばす。宙に張られた糸は真っ直ぐその地点に伸びて、ひゅるっと透明な空間を捕まえた。ぐいっと引かれる力に抗い、足で踏ん張り捕捉した対象をその場に張り付ける。
「雪女を捕まえました! 今のうちに!」
「ありがとう! いくよ!」
 沁の声に、スミコがからくり人形のダグザの糸を操り、走らせる。棍棒を振りかざし襲い掛かるダグザを見たか、沁の糸が激しく振り回されるが、沁は両手で糸を持ち、離すまいと食いしばる。
 逃げられないと見て、姿の見えない冷結はダグザに吹雪を見舞う。突風の勢いに乗った雪がビシビシとダグザの表面に叩きつけられるが、吹雪ごと割るように棍棒をその場に落とした。ガツン、と大きな衝撃と共に、その下にあった砂利が反動で奥へ弾け跳んだ。
 『サーマルスキャナー』を装着し、熱源反応から冷結の存在を確実なものにしたスミコは『ガン・ハイダー』の迷彩を解除し、精霊銃『アヴェンジング・フレイム』を瞬く間に抜いた。ダグザの糸は伸ばしたまま、次も棍棒の大振りを狙い動かしながら、スミコ自身は射線を確保し、さらに不意を突けるように跳ぶ。腰のあたりに構えると、空中で銃口を向け、
「これでもくらえ!」
 ダグザと角度をつけての挟撃。熱源のみでは表情などはわからないが、熱源――体の動きに驚きが現れているようなのを感じつつ、右手で引き金を引き、左手は撃鉄に添え、高速で六発の銃弾を弾き出した。
 銃弾の表面に火焔が走る。ほとんど間隔なく放たれた銃弾の炎は連なり、槍となり冷結の体を貫いた。空中に炎の輪が一瞬浮かび、じりじりと広がろうとしているところへ氷が吹き付けられるのを、赤く燃え、青く冷えていく熱の景色の中にスミコは見ていた。
「完全に透明にしなくても見えづらければ十分効果はあるんですよ」
 鋼糸で縛った相手へ、沁は風に乗せてさらに極細の糸、猿轡、ロープという三種の拘束神器を投げ込んでいく。糸がもう一本、しっかりと巻き付き、二点で抑え込まれた冷結の胴付近へロープが絡み、空間へ完全に固定されたところへ猿轡が巻き付く。両腕と胴、そして顔の辺りの高さに拘束具が巻き付いたことで【捕縛風印】が完全発動し、冷結のユーベルコードを封じる。それはつまり、透明化が解除され、姿を現すということ。
「これなら、攻撃を楽に当てられます!」
 縛りを解こうともがく冷結へ、いつきは雷撃符を新たに放つ。符から放出される雷がその体を撃ち、痺れを全身へ行き渡らせた。
「……!!」
 目を見開き、体を硬直させる冷結。糸やロープによる拘束が一瞬不要になったところで沁はすかさず手裏剣を放った。元は目印用に準備したものだが、いつきという電撃使いがいたことを受けて咄嗟に選択していた。冷結の両手、両足にそれぞれ一本ずつ突き刺さった手裏剣の露出した先端が避雷針となり、いつきの符の電撃をさらに集中させ、冷結の全身を中まで焼いていく。
「人間……如きが……っ!」
 意思に反して固まる体を強引に動かし、口を塞ぐ猿轡を外す。【捕縛風印】で放った糸とロープは回収する直前に沁の手をすり抜け、冷結に奪われてしまった。そのまま鋼糸も外されたが、冷結の体は見た目にも満足に身動きが取れなさそうなほどに傷ついていた。
「その体で、僕の全力の焔、避けられますか!?」
 冷結と沁の攻防の合間に、いつきは霊力を籠めて生み出した狐火を一つに集め、大きく形成していた。頭上には太陽のように大きく、しかし青白く輝く巨大な焔球。それを霊力で操り、冷結へ投擲する。直撃すればその体を丸ごと呑み込んでしまいそうな巨大な球が襲い掛かる中、冷結も力を振り絞り吹雪の壁を作って防ぐ。次第に体も薄れていくが、もう満足にユーベルコードを繰り出す力が残っていないのか、完全には消えていない。
 焔球が吹雪の壁を突き破る。青く燃え盛る焔に冷気が掻き消され、力で押されているのを感じ、直撃の寸前で冷結は体を地面に投げ出して退避を試みた。それでも半身は炎に呑まれ、真っ黒な煤と煙が立ち昇る。
「あと一息です!」
 もうほとんど力も残されていないであろう相手。テフラの放つ炎の矢はボロボロになった冷結の煤けた着物を破壊し突き刺さる。
「炎……許しません……!」
 続けて射掛けられた矢を、冷結は手で遮り、握りつぶした。無傷とはいかず、握り込んだ掌が焼けている――が、今更多少の消耗は意識の中に入らない。立ち上がり、矢を放つテフラへ一歩一歩接近していく。
「凍らせに来たんですか!? でも、凍っちゃうのはさっきの見習いさんで慣れたので、囮にもなれそうな……」
 テフラはその場から動かない。囮としての覚悟を決めた――にしては、その表情には動揺も見られる。
「あっ……ホントにこっち来た! ま……まだ心の準備が……冷たぁぁ!?」
「いい心掛けですね……一思いに凍らせてあげましょう」
 ざらりとした感触の指がテフラの肌に触れる。それだけでも相当なダメージを受けていることが伺えるが、冷気の力は健在で、テフラの体を凍らせにかかる。
 だが、冷結の背後に、別の冷気と共に浮かび上がる影。
(師を越えてあげようぜ。見習い卒業試験だ)
 燦が取り込んだ雪女見習いの魂を体に宿して立っていた。放つオーラも雪女のように、真っ白く冷たい。燦は雪女見習いの魂へ寄り添うように自身を委ねていた。
「ああ……お前は……」
 冷結の言葉はどこか優しく――それは燦であって、燦でない何者かに向けられたもの……だったのかもしれない。もう半分ほど凍ってしまったテフラを開放するべく燦は高速で詰め寄ると、冷結を引き剥がし氷の衝撃波を吹いた。細かく突き刺さる氷の破片。
 衝撃波を至近距離で食らい、冷結の体が燦の手から離れて紙屑のように吹き飛んだ。雪女見習いのように衣服を引く仕草も、ボロボロに損傷した状態ではすぐに千切れてしまう。
(悔いを残すな。凍りつくほど熱い気持ちを見せてやれ)
 燦の体が動く。握られた拳が腰の辺りで力を溜める。小細工はいらない。ただ一撃、それで全てを終わらせればいい。
 ゆったりとした足取りはいつしか加速し、燦は疾駆し冷結の元へ。もう逃れる気はないのか、冷結は燦を待ち受け、冷気を纏い――。
 燦が放つ冷気の拳。二つの冷気が衝突し、燦の冷気が冷結の全てを侵食、凍らせていく。拳が接触した力の衝突点から、全身へと広がっていくのを、冷結は虚ろな瞳で見つめていて。
 全てが凍りつき、冷結の体が氷の棺の中に収められた直後――遮るものが消滅した燦の拳が一気に振り抜かれ、
「師匠、ありがと。皆の所に行ってあげて」
 それは思いを重ねた燦と雪女見習いの二人の言葉。拳は全てを貫き砕いていった。
 冷結の体が氷の中で輝きながら形を失い、地面に落下して砕けるころにはもう何も残っておらず。
「……悪かったな。目的のためとは言え、あの時――ちょっとだけ、ズルをしたんだ」
 足元で氷が、冷結の痕跡が失われていく中、燦は宿した魂へと語り掛ける。燦が己の力としたのは、数多くいた雪女見習いの中の、たった一人。
 冷結も消滅し、自分の中にいる者だけが現世に縛られる存在になってしまうが。
「皆の元へ――雪女と昇天も良いけど、アタシ達と現世を歩んでみないか? これまでよりもずっといい人生……ってのを保証する――いや、それを与えてやるのが、アタシなりの責任の取り方、ってやつだ。だから、な?」
 最後の氷の欠片が砕け、燦が魂に委ねた体を取り戻す。雪女が屋敷から完全に消滅し、冷気がゆっくりと晴れていく中、胸の内に温かさが宿っているのを、燦はじんわりと感じていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年03月10日


挿絵イラスト