サーマ・ヴェーダはワダツミの遺恨か
メルヴィナ・エルネイジェ
十代後半だった頃のメルヴィナが嫁いだ先で酷い仕打ちに遭って実家に帰るノベルをお願いします!
●大体の流れ
嫁ぎます
↓
酷い仕打ちを受けます
↓
頭がおかしくなって入水自殺します
↓
何故かキャバリアが助けに来てくれます
↓
実家に帰らせていただきます
時系列上ではメサイアがヴリトラを盗んで家出するよりだいぶ前です。
●つまりどういう事だってばよ?
婚約破棄して実家に帰る系令嬢です。
ただし迎えに来てくれるのはイケメンの騎士様ではなくキャバリアです。
ざまぁはしたいけど我慢します。
メルヴィナは十代後半頃に隣国の有力貴族の元へ嫁ぎました。
政府が決めた政略結婚でしたが、王家の血を引く者の宿命として受け入れました。
「きっと幸せになるのだわ」
仲睦まじい両親と賑やかな兄弟姉妹に囲まれて育ったメルヴィナは、家庭とは幸福なものだと信じて疑わなかったのです。
メルヴィナは誠実な男性が好みでした。
しかし夫となった人は女癖の悪い軽薄な男性だったのです。
ですが夫婦になったからには愛そうと努力しました。
「人を愛する人が人に愛されるのだわ……」
一方の夫はメルヴィナを好いてはいませんでした。
根暗そうな容姿と他の女性の匂いに目敏い性格が気に入らなかったのです。
ですが家系が決めた相手だったので嫌々形だけの夫婦を続けました。
女癖の悪い夫は毎日のように見知らぬ女を屋敷に連れ込みます。
それが嫉妬深いメルヴィナの逆鱗に触れました。
「不倫は許さないのだわ!」
メルヴィナが怒ると夫は激しい暴力を振るいます。
やがて夫のみならず他の者達からも酷い仕打ちを受けるようになりました。
「全然幸せじゃないのだわ……」
メルヴィナは気を病んでしまいます。
ある日の晩、メルヴィナは屋敷を抜け出しました。
「海が見たいのだわ」
そして彷徨い歩いた末に海岸へ辿り着きました。
メルヴィナは水辺が好きでした。
水面を見ていると穏やかな気持ちになれるのです。
「この海を渡れば家に帰れるのだわ」
おかしくなってしまったメルヴィナは砂浜から海へと入っていきました。
やがてメルヴィナの姿は海の中へ沈んでしまいました。
すると突然大きな影に身体を押し上げられました。
「リヴァイアサン……どうして……?」
大きな影とは巨大な海竜の姿をしたキャバリアだったのです。
リヴァイアサンは言います。
「うん? 不誠実には死の報いこそが相応しい?」
メルヴィナは暫く考え込んで首を振ります。
「今やり返すと家族皆に取り返しのつかない迷惑が掛かるのだわ……」
という訳でリヴァイアサンで暴れ回ってざまぁしたい気持ちを堪えました。
そして久し振りに見たリヴァイアサンから祖国を思い出しました。
「そんな事より帰りたいのだわ……こんな所もう嫌なのだわ……」
メルヴィナは泣き出してしまいます。
するとリヴァイアサンはコクピットのハッチを開きました。
メルヴィナが乗り込むとリヴァイアサンはエルネイジェ王国に向かって泳ぎ始めました。
「この恨みは忘れないのだわ……いつか必ず返すのだわ……」
大体こんなイメージでお願いします!
ノベルの結果で設定を生やしたいと考えておりますので、細かい設定等は気にせず自由に書いて頂ければ幸いです。
メルヴィナが酷い目に遭えば遭うほど実家に帰る動機付けが強くなってよろしいかと思われますので、容赦なくやっちゃってください。
●政府が決めた結婚相手?王政じゃないの?
王室と議会がそれぞれ政治権限を握っています。
議会の方が力が強いです。
百年前の戦争での大敗が切掛で王室の権威が失墜し現状の政治体制となりました。
●メルヴィナって嫉妬深いの?
嫉妬深いです。
浮気は許しません。
知らない女の匂いがするとすぐに気付きます。
●なんでリヴァイアサンはメルヴィナを助けたの?
王家のご先祖様に掛けられた呪いによってエルネイジェの血を引く者を守護らなければならないからです。
メルヴィナの精神の弱りを察知して予め近海に潜んでいました。
●結婚相手の男とは?
隣国の有力貴族か何かです。
プラント等の様々な利権を抱えている家柄なのかも知れません。
女好きなチャラ男です。彼女に子供ができたら棄てるタイプ。
DV夫です。
メルヴィナのような陰険で束縛してくる女の子は嫌いです。
親が勝手に決めた結婚相手のメルヴィナを嫌悪してます。
●勝手に実家に帰っちゃって外交上大丈夫なの?
よろしくないです。
政府はメルヴィナに結婚相手の元へ戻るよう要請しますが王室側が拒否しました。
これにより外交のみならず王室と政府の間に軋轢が生じます。
設定として考えているだけですのでノベル上ではあまり気にしないでください。
●婚約
幸せになりたいと願うのは人として当然のことであっただろう。
人は幸福追求する獣であると語る者がいる。
当然だろう。
誰が好んで不幸になりたいと思うだろうか。いや居ないのだ。誰も不幸になりたいとは願わない。
けれど、時に人の幸福は誰かの不幸せにつながるものである。
だというのならば、己の不幸は誰かの幸福なのだろうか。
メルヴィナ・エルネイジェ(海竜皇女・f40259)のまぶたは赤く腫れていた。
涙の痕が頬に刻まれている。
目元はクマができたように黒ずんでいる。
誰がどう見ても、彼女は不幸のどん底にいると言えるだろう。
夜風が泣き腫らした頬を撫でる。
けれど、冷たい風は彼女の哀しみを慰めてはくれなかった。誰も彼女を抱きとめはしなかったし、ふらつく足取りを見かねることもなかった。
誰も。
誰も彼女を暖かく受け止めてはくれなかった。
「……全然幸せじゃないのだわ……」
彼女の言葉は夜風に溶けて誰の耳にも届かない。
哀しみだけが深く彼女の胸の奥底から滾々と湧き上がる。どうしようもない。己の体が重たく感じる。
彼女の視線は夜の星々さえ見ていない。
風が轟々と耳を打ち付ける。ふらつく足取りをさらうように彼女をへたり込ませる。
目の前に有るのは切り立った崖。
その先は海だ。潮の香りがする。打ち付ける波の音が聞こえる。荒々しい音。けれど、どうしてかメルヴィナには、その音が心地よいものに感じられた。
海が見たいと彼女は願った。
何故そんな事を思ったのかなど思い返さなくてもわかる。
彼女の名はメルヴィア・エルネイジェ。
言うまでもなく『エルネイジェ王国』の皇女。序列で語るのならば、第ニ皇女という肩書が付く。
彼女は政略結婚で、この小国家に嫁いできた。
この小国家はプラントを多く有している。そして、彼女の嫁ぎ先に選ばれたのは、この小国家の有力貴族の嫡子だった。
彼女の『エルネイジェ王国』は王国と名乗っているが、王政ではない。王室あれど議会もまた存在している。
百年前の大敗から王室の権威が失墜して以来、議会の権力は隆盛を極めた。
わかっていたことだ。
メルヴィナにとって、それは王族としての努め。責務であると思っていた。確かに愛し合ってする結婚ではない。
誰かと誰かの利益のための結婚。
けれど、それでも、と思ったのだ。
「きっと愛を育む事ができるのだと。けれど……」
はらはらと彼女の瞳から涙が大粒のようにこぼれ落ちていく。枯れ果てたと思った涙は、また日々を思い返すだけでこぼれてしまうのだ。
●苛む日々
「きっと幸せになるのだわ」
彼女はその日、己の嫁ぎ先である有力貴族の館へと足を踏み入れていた。
だが、出迎えはなかった。
執事とメイドが数名。
たったそれだけだった。その態度に彼女は当初戸惑っていた。
「どうして旦那様は私を出迎えてはくださらないのだわ?」
「旦那さまは今、外せぬ所用で館を離れております」
「妻になる私がやってくるというのに……?」
「はい……」
メルヴィナは、まあ仕方ないと思った。
何故ならこれは、政略結婚だからだ。
確かに相手の有力貴族の嫡子も、納得いかないところがあるだろう。ならば、と彼女はそれから努力した。
例え愛されていなくても。
「人を愛する人が人に愛されるのだわ……」
彼女の心には『エルネイジェ王国』の仲睦まじい父母の睦まじさがあった。あのようになりたいと思ったし、また兄妹姉妹のように子供らが増えれば、きっと今は無関心な旦那様も変わるだろうと思った。
だが、そうはならなかった。
来る日も、来る日も。
「何故旦那様は朝食を一度も共にしてくださらないのだわ!」
彼女は声を荒らげた。
当然だった。家族の食事というのは大切なものだ。一日の調子を聞くのにも必要だし、予定を聞ければ何か手伝うこともできるだろう。
夕食のときには一日にあったことを語り合うこともできる。
相手が何をして過ごしたのか、どんなことに興味があるのか。それを知ることができる。知ることは即ち愛することだ。
だから、メルヴィナは旦那様のことを知りたがった。
多く知りたいと思ったのだ。愛するために。けれど、彼女のその知りたいと願った心は簡単に裏切られる。
「いけません、奥様」
執事がメルヴィナを止めるように前に立つ。
彼の後ろにあるのは夫の寝室だ。メルヴィナは理解できなかった。何故妻である己が夫の寝室に入ることを執事に咎められないといけないのだと。
「退くのだわ」
いいや、メルヴィナにもわかっていたはずだ。
理解していたはずだ。
嫁いできてから一度も褥を共にしない夫。
食事も共にしない。
一目会っただけでも、まるで己を遠ざけるようにして用事に出かけてしまう。
まるで自分の思い描く夫婦像ではなかった。
こんなことがあっていいのか。いいや、いいわけがない。
だから、これは現実ではないのではないかと彼女は思った。己の鼻が、耳が、目が、それを受け入れがたいものであると認識している。
ノイズが走る。
けれど、目の前の光景は現実だった。
己の夫の寝室にいるはずのない女人がいる。それも一度ではなかった。
毎日。
毎日。
毎日。
毎日!!!!!
「不倫は許さないのだわ!」
激高する。
愛してくれなくても。愛していれば愛してくれるはずだと信じていたのだ。
まだ愛してくれないだけならばよかった。
器に愛という水が注がれていないだけならば、まだ注げば良い。己の愛がいつか夫の器満たして溢れさすこともあるだろうと思った。
けれど、その器の底は抜けていた。
怒り狂う。
目の前が真っ暗になるような、真っ赤に染まるようだった。
だが、初めて。初めて己に夫が告げた言葉は彼女の怒りに冷水を浴びせるようなものであった。
「愛していない者同士なのに不貞などあるものか」
それは彼女の日常を一変させる一言であった。
●海より来る
それからというもの、メルヴィナの頬は涙に濡れない日はなかった。
どれだけ訴えても夫の女癖は治らなかった。
夫の指示であろう、屋敷の従者たちからも嫌がらせを受けた。筆舌に尽くしがたいものだった。
夫の不貞。夫の軽薄さに従者たちは咎めることをしなかった。できなかったというのが正しい。わかっている。けれど、それでも誰か味方になる者が一人でも居たのならば、彼女の心もまた幾ばくか護られたことだろう。
けれど、そうはならなかった。
誰にも打ち明けることはできなかった。
「……もう疲れたのだわ」
注ぐ愛は無限ではない。
涙が枯れ果てるのと同じように、愛もまた枯れ果てるのだ。
メルヴィナは頬を打ち付ける冷たい風背中を押されるように立ち上がる。
「この海を渡れば家に帰れるのだわ」
虚ろな瞳に星は写さない。
誰も助けてくれない。
痛む心は、病み続ける。ふらりと、踏み出す。
帰りたい。
あの温かな笑顔の下に戻りたい。長姉であるソフィアも。末妹であるメサイアも。にぎやかな兄妹たちの下に帰りたい。
ただそれだけが彼女の壊れそうな心をつなぎとめていた。
踏み出す。
彼女は気が付かない。
それより一歩でも先に進めば、崖下に落下してしまうだろうということに。そうなれば、生命は喪われると。
死ぬ。自分は死ぬ。
けれど、彼女にはもう何も分からなかった。
幻視する暖かさに手を伸ばすようにして彼女は前に進む。愛を注ぐために進んできた人生だったのに、その一歩先が暗闇であると気がつけぬまま彼女は崖下に墜ちていく。
彼女の生命は終わる。
無為に。
けれど、そうはならなかった。
そうはさせぬものがいた。
唯一人。
いや、たった唯一。
呪いにも似た盟約により、ワダツミは彼女の体を優しく受け止めた。冷たい海水も、吹き荒ぶ風も、何もかも彼女を傷つけさせぬと翻る鋼鉄の鱗。
「……生きている。私生きているのだわ……」
声が聞こえる。
ああ、と思う。これは。
「『リヴァイアサン』……どうして?」
彼女は己の体を海面から持ち上げるキャバリア――『リヴァイアサン』の煌めくアイセンサーを見つめる。
青い輝き。
彼女の瞳と同じ色。
「わかっているのだわ、不誠実には死の報いこそ相応しいのだって……でも」
でも、と彼女は頭を振る。
彼女の泣き腫らした瞳は、己の不条理ではなく、己が王族であるという責務にあふれていた。
「報復は今ではないのだわ。そんなことをすれば、家族の皆に取り返しの付かない迷惑がかかるのだわ……」
だから、と彼女は泣き腫らした瞳を伏せる。
こぼれる。
こぼれ落ちてしまう。涙枯れ果てても、たった一つの心が溢れてしまう。
「そんな……そんな、ことより」
彼女は望みをこぼす。
「帰りたいのだわ……こんなところもう嫌なのだわ……」
枯れ果てた涙が溢れる。
せきを切ったように溢れてしまう。
人の憂いに寄り添うのが優しさだというのならば、メルヴィナに寄り添ってくれた、たった一つ。
それが『リヴァイアサン』だった。
応えるようにハッチが開く。帰ろう、と誘うようだった。
帰っていいのだろうか。
「……そうなのだわ。願ってもいいのだわ」
同時に『リヴァイアサン』が告げる。
恨んでもいいのだと。
裏切られたのだ。
なら、因果は巡って報いを持って応えなければならい。
「ええ、わかっているわ、『リヴァイアサン』……いつか必ず返すのだわ……」
メルヴィナは深く、深く自覚する。
己の怨みは海より深いのだと。心に受けた傷跡は消えない。癒えることはあっても、消えることはない。
だからこそ、その傷の報いを。
咆哮が轟く。
「泣けない『あなた』のかわりに私が泣き、怒ることのできない『私』のかわりにあなたが怒るのだわ」
それは必ず果たされる。彼女が決めたことだ。
故に『リヴァイアサン』は応えたのだから――。
成功
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