【戦後・集中講義】明日が良き日となるように
●注意
当依頼は、PBWアライアンス『コイネガウ』からのシナリオです。
PBWアライアンス『コイネガウ』の詳細を以下でご確認お願いします。
公式サイト:(https://koinegau.net)
公式総合旅団:(https://tw6.jp/club?club_id=4737)
●刻々と過ぎ行く日々も日常は
複数のカルト集団による希島襲撃事件からいくらかの時は流れたが、島の各所に刻まれた傷が癒えるには十分ではないようで、未だ復興作業は続けられている。
島民達は憂いの拭えない日々を送っている。それは国立希島学園の生徒達も同様なのだが――彼らはまた別の悩みも抱えていた。
(やむを得ない事態だったとは言え、五月が休校措置となったのは痛いぜ……六月の集中講義があると言っても、コマ数を増やすとかしないといけないだろうしな)
生徒達の悩みを知るヤタガラス・マークツゥ(希島国軍部・八咫烏遊撃隊の熱き大鴉隊長・f38165)は、生徒達が集まっている教室までの道すがら物思いにふけっていた。生徒達の悩みとは――そう、単位について。進学、卒業のためには一定数の単位を取得する、これはこの世界に限らず似たような仕組みになっていて、ヤタガラスと共に教室に向かっていたロザリア・ムーンドロップ(薔薇十字と月夜の雫・f00270)も知るところ。
本来なら授業があるべき一か月を休校とし、その補填をどうするかはいくらかの論争があった。不可抗力なのだから免除すべきとも、講義の実態がないのだから認めるべきではないとも。どの意見も一定の正当性を含んでいるためにどれを正しき姿とすべきかが悩ましかった。
それで、折衷案のような形で決定されたのが集中講義の活用だった。短期間での強化学習、その密度をさらに高めることで生徒達の学習量を増やし、結果を単位として生徒達に還元する。合わせて水面下で集中講義の題材を募り、授業数そのものも増やすことで零れる生徒がないようにと配慮もした。意欲と体力があれば挽回は可能ということだ。
(だがまあ、今まで見た限りじゃ優秀そうだし、期待しとくぜ……お前ら)
目的の教室に辿り着き、ロザリアが先に戸を開けてヤタガラスが中に入る。教官と補佐官、そんな立ち位置だ。ヤタガラスが教壇に上がって集まった生徒達を一望する間に、ロザリアは抱えていたポスターのようなものを広げ、板書用のボードに貼っていく。
「|これから軍事学の集中講義『復興支援』の説明をするぜ!《カーカカカ、カーカカーカカ、カッカカーカカー!》」
身振り、アクセント、それからロザリアが貼っていた復興支援の説明図でヤタガラスは講義を開始する。
「|希島の都市機能はある程度回復してはいるが、まだまだな部分も多い《カカカカカッカカーカカーカカ、カカカカッカーカーカカーカカ》。|そこでお前達には国防軍が行っている復興支援を共同で進めてもらいたい《カカカカカーカーカカカッカカ、カカーカカーカカカーカー》。|具体的には三つ、支援が必要とされているところがある《カカカカッカカカッ、カカカカカーカーカカッカカカ》。|詳しくはロザリアが説明するぜ!《カカカ、カカカカカ、カカカッカカ!》」
そこでヤタガラスは教壇をロザリアに譲る。
「はい、ご紹介にあったロザリア・ムーンドロップです。はじめましての人もそうでない人もいるかと思いますが、宜しくお願いします。さて、軍事学の集中講義として復興支援を行っていただくわけですが、今、支援として求められているのは『施設・交通インフラ等の補修活動』、『物流の復旧活動』、『被災住民のメンタルケア活動』の三つとなります。内容は凡そ言葉の通りですが、補修活動は力や体力、物流の復旧活動は速度や手際の良さ、メンタルケア活動は配慮や誠実さといった精神面が求められる感じでしょうか。皆さん、各々の得意な分野で希島復興のお手伝いをしてみてください。場所や現地での担当者などは希望に応じて適宜お伝えしていきますので、少しでも早い復興を目指しましょう! それでは、宜しくお願いします!」
沙雪海都
沙雪海都(さゆきかいと)です。事件を風化させないことも大事かと思いますが、まずは平穏な日常を取り戻していきましょう。
●フラグメント詳細
第1章『プレイング』
国防軍と共同で希島の復興を行っていきます。行動方針は以下のようになっていますので、好きなものを選んでプレイングを書いてみましょう。
POW:損傷した施設や交通インフラなどの補修活動に参加する。
SPD:遅延あるいは停止している物流の復旧活動に参加する。
WIZ:被災した住民へのメンタルケア活動に参加する。
それぞれ活動場所が異なりますので、合わせプレイングの場合は行動方針を合わせておいてください。
第1章 日常
『プレイング』
|
POW : 肉体や気合で挑戦できる行動
SPD : 速さや技量で挑戦できる行動
WIZ : 魔力や賢さで挑戦できる行動
イラスト:YoNa
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
イリスフィーナ・シェフィールド
ふぅ、倒しても倒しても出てくるのがゾンビの特徴とはいえ飽き飽きですわ。
ゾンビとはとうぶん関わりたくないですわね。
更に授業数が減らされるとは許すまじですわっ。
……と愚痴をいっててもしかたないので頑張りましょう。
わたくしは施設・交通インフラ等の補修活動を担当しようと思いますわ。
コードで強化された能力と飛行力で重い瓦礫の撤去とか資材を運搬したりします。
●復興の一歩を踏み出すために
世界の存亡を賭けた戦い――その呼称は決して大袈裟ではなかっただろう。希島を襲った未曽有の事件。同時多発的なそれらはホープコードを持つ島民達、あるいはユーベルコードを持つ渡来者達の手によって解決と相成ったが、島が負ったダメージは各地で散見されており、すぐに元通りの平和な日常が戻ってくるわけではなかった。
(倒しても倒しても出てくるのがゾンビの特徴とはいえ飽き飽きですわ。ゾンビとはとうぶん関わりたくないですわね)
ゾンビと言えばホラーゲームなどでよく題材になる敵の代表格だ。プレイヤーを恐怖に陥れる不死の性質は現実のものとなれば厄介極まりなく、イリスフィーナ・シェフィールド(相互扶助のスーパーヒロイン・f39772)は改めて島の現状を確認しながら、思い返した惨劇に嫌悪感を示す。付け加えるならば、この戦いが起こったことで学園は事件解決まで休校の措置を取った。それを喜ぶ者ももしかしたら居たかもしれないが、授業の年間計画が潰れることになり単位取得の面では由々しき事態。勉学に意欲的なイリスフィーナとしては間接的にも迷惑を被っていたのである。
さて、単位取得の挽回策として学園が打ち立てた集中講義の一つにイリスフィーナは参加していた。講義と冠してはいるが実態は島の復興作業であり、国防軍が破壊された施設や交通インフラの補修活動を行っている。シフト制で二十四時間休むことなく、一日も早い復興を目指しているだけにイリスフィーナとしても気合が入る。
(まぁ、愚痴は愚痴にしかなりませんし、愚痴を言う暇があれば体を動かすべきですわね)
吐き出したい心のわだかまりを復興作業のエネルギーに変えてイリスフィーナは現場監督の指示を仰ぐ。今は瓦礫撤去と資材運搬が並行して行われているが交通が整理されていないことがどうしても枷となっていた。キャバリアを導入して手を増やしているが融通が利く機体の数は多くない。
「重い物を運ぶのでしたら……ゴルディオン・オーラですわっ!」
今欲しいのはまさにキャバリア役。イリスフィーナは全身に金色のオーラを纏うことで戦闘力を増強させた。その根源は意志の力であり、イリスフィーナが願う分だけ向上が見込める。キャバリアが両手で抱えるような巨大な瓦礫を細腕で持ち上げ頭上に支えると、臨時で設けられている集積所までひとっ飛びで運んでいく。希望の担い手は斯くも頼もしいのか、と現場監督は遠くなるイリスフィーナの姿に目を丸くしていた。
集積所は事件の破壊力を見せつけるかのように数多の残骸で埋もれており、イリスフィーナが運び込んだ瓦礫が山の上に積まれていく。再生利用、あるいは廃棄処分、いずれにせよ相応の月日が必要に思えてイリスフィーナは胸が締め付けられる思いがした。事件の再発があってはいけない。だが自分には何ができるのか――。イリスフィーナは補修用資材を運び引き返す中で考えていたが、明快な結論には至らない。
「――よーし、各自、次の者に作業を引き渡すように!」
そうして、イリスフィーナ自身は何往復したか数えていなかったが定刻となって引き継ぎが始まる。イリスフィーナは後に引き継ぐ者が居ないため資材を運び込んだところで今日の作業は終了となった。予定のスケジュールよりも作業が早く進んでいるようで、イリスフィーナの働きぶりを称える現場監督の労いには期待も大いに込められていた。
ただ、その言葉に手放しで喜んでいい状況でないことはイリスフィーナがまさに目にしたところで、都合良く見積もったとしてもそれは月単位のうちの一日か二日。
(道のりは長いですわね……ですけど、終わりのない旅でもありませんわ)
それでも必ずや元の街並みが復活すると、島民達は信じているし、イリスフィーナもまた願っている。決して失われることの無い希望を胸に、イリスフィーナは静かに帰途に就くのだった。
大成功
🔵🔵🔵
シモーヌ・イルネージュ
POW
6月は集中講義があるって聞いてて、だいぶブルーだったけど、復興手伝いで単位が出るっていうのなら大歓迎だ。
ここで今のうちにたくさん単位取っておけば、あとで楽になりそうだしね。
手伝いはもちろん体を使ったもので。
【怪力】だから、重機が無くても重量物も運べるよ。
カルト達が壊した瓦礫の類をさっさと片付けて、道路を敷き直してしまおう。
●道のりは遠くとも道はある
集中講義と聞けば、如何にも教室に缶詰めでひたすら知識を叩き込んでいくような重苦しい雰囲気が漂う。シモーヌ・イルネージュ(月影の戦士・f38176)はそんな未来を想像してか、来たる六月に対してはブルーな気持ちを抱いていたが。
事態は五月に起こった希島襲撃事件で一変していた。集中講義は相変わらず存在しているものの、ただただ座学に耽るのみならず島の復興に携わることでも単位の取得が可能と言う。
(復興の手伝いで単位が出るなら大歓迎――ここで今のうちにたくさん単位取っておけば、あとで楽になりそうだしね)
誰しも得手不得手というものがあり、シモーヌとしては渡りに船だ。早速復旧作業の最前線たる現場に赴いたシモーヌ、目の当たりにしたのは大きな亀裂が幾重にも走り、悪路と化した街に四苦八苦する重機の姿だった。
復旧作業に大きな力を発揮しそうな重機だが、支える地盤が脆ければ動きも鈍る。ガタガタに歪んだ道を一旦真っ新に戻そうにも剥がした先に戦火の傷が刻まれており難航中だ。
「『降りていく』ってのが厄介なんだろう? だったらアタシが行くさ」
下手に重機を動かして二次災害を起こしてしまっては目も当てられない。それで動くに動けていなかった重機の代わりにとシモーヌは名乗り出て道路の陥没に飛び降りた。重機が崩してから回収不能になっていたアスファルト塊を適当に見繕い、積み木を組み上げるかのように纏めてから一気に担ぎ上げる。
傍からはいつ押し潰されてもおかしくないように見えたが、シモーヌが発揮した怪力は百キロを超えるであろうアスファルト塊をがっしりと支えていた。
「……ちょっと離れておいてくれると助かる!」
そう重機の操縦者に声を掛けたシモーヌは、タイミングを見計らって一気にジャンプ。担いだアスファルト塊ごと飛び出すと、重機が後退してできたスペースへ転がし落とした。
「あとは砕くなりしてトラックにでも積めば運び出せるだろ? こっちは任せときな」
言うだけ言ってまた飛び降りる。そうなると忙しいのは重機のほうだ。運び出されてくるアスファルト塊のスペースを確保すべく撤去作業が急ピッチで進み、ぎりぎりでシモーヌの到着に間に合わせる。復旧作業を仕切る現場監督も眉間にしわを寄せるばかりだったがシモーヌが来てからは指示を飛ばす手が止まらない。
傷は虫歯を取り除くかのように削られていく。そうして修復の土台を作ったところへ運ばれてきた資材が宛がわれ、道路が新品の状態で蘇っていた。
「明日の現場はどこだ? 何だって運んでやるよ」
百人力――そんな言葉が全く誇張でないほどにシモーヌの存在は頼もしく、無理を承知で復旧作業を手掛けていた彼らは光射す未来を見たのだった。
大成功
🔵🔵🔵
コニー・バクスター
SPD
「ふぅ、先月は防衛戦が大変だったね。
今月は集中講義か……コニー、がんばる」
防衛戦の時、コニーは画面外で戦っていたよ。
キャバリア部隊で工業地区に参戦した。
今月は後始末というか、それが授業か。
「物流の復旧だったら、キャバリアの出番だね☆」
コニーはBRRを操縦して宅配便等の配達に加わるよ。
BRRのHCも駆使して、機動力を上げて配達に勤しむのだ。
やはり今は戦後。不足する食糧品とかを機動力で支援するよ。
「まあ、道は長いが、ぼちぼち配達するか。
ロザリアとカラス、コニーの単位よろしく」
物流は大変な道のりも多く、コニーが奮闘。
1学期はちょっと遊び過ぎた。ここで挽回。
アドリブ歓迎。
●コニーの単位は予約済み!
希島防衛戦には陰の功労者が存在する。情報の錯綜と極めて混沌とした情勢の為に防衛軍すら戦中の全てを把握し切れていないのだ。
故に、コニー・バクスター(ガンスリンガー・ラビット・ガール・f36434)のように、防衛戦に従事したものの戦果が公に伝わっていない者が少なからず存在してしまっていた。
もしかしたら今後、詳報が何らかの形でされるのかもしれないが――さておき。過ぎたことをとやかく言わずにコニーは今の島を見る。各地で復興作業が始まっており、学園は単位取得の名目で集中講義を立ち上げた。島と学生と学園、三方の得で成り立つ授業は実地訓練のようなもので、コニーは愛機BRRを駆り出して物流の復旧活動に勤しむことにしていた。
「君がコニーさんかい? 自前のキャバリアを持っているんだね? なら話は早い、助かるよ」
配送物の仕分けに追われていた現場担当者の男性は、乗りつけたBRRから降りてきたコニーの姿に顔を明るくして言った。如何にして荷を捌くかに苦心していたようで疲労が色濃く伺える。
「とーぜん! 物流の復旧だったらキャバリアの出番だもの☆ で、コニーが配達しないといけないのはどのくらい? コニーのBRRだったらどこまでだって跳べちゃうよ!」
「頼もしいなあ、だったら、そこにあるものから――」
担当者はコニーの言葉を信用し切って住居地区のかなり広範囲に渡る宅配便を託していた。それから現場スタッフで手を回せそうな数名を呼んで荷積み作業を開始する。
(んー……あー、そういう)
一緒に荷積み作業を行っていたコニーは少し気になっていた。宛先は各家庭のはずだが荷の大きさが均一、それは却って不自然だ。それで積み入れがてら差出人をちらと覗くと、島の行政機関から。中身は食糧品と日用雑貨各種らしく、つまりそれは島が確保した物資を各家庭に振り分けた支援物資だったのだ。
「責任重大だね。それじゃ、行ってきまーす!」
担当分を全て積み終え、コニーは早速BRRを躍動させた。一刻も早く家庭に届け、不安な気持ちを取り除きたい――思いは山々、しかし如何に機動力溢れていても物理的な限界は生じてしまうので。
「まあ、道は長いよねー……でもま、ぼちぼちやるっきゃないかー。きっちり働いてみせるから、コニーの単位忘れるなよー?」
思い出すのはやたらとカーカー言っていた割に何故か粗方内容が理解できた教員と、たまに街中で見かけもする、補佐役の手慣れた少女の顔。今回ばかりは忘れられては困るのだ。一学期は何かと新しいことの多い時期、友達が増えて、あの子と一緒に遊びにいったり、この子と一緒に遊びにいったり――それで少々遊び過ぎたという自覚はあって単位は黄色信号。コニーは集中講義での挽回を目論んでいる。
講義の結果がどう学園に伝わるかは与り知らぬところだが、与えられた仕事を与えられた時間内に捌ければ良い色で伝わってくれるはずと。コニーは最適のルートを頭に描きながらBRRを操縦し柔軟に着地、最初の配達先の団地にやってくる。
「さぁて、これとこれとこれとこれで……よいしょー!」
往復回数は配達の出来に直結する。コニーは同じ棟の荷物をこれでもかと積んで抱え上げ直走った。
「宅配便でーす! 宅配便でーーす!」
家主が出てくるまでの時間も惜しく、同じ階の部屋は一気に呼び鈴を鳴らして声を掛ける。それで丁度一周した頃に家主が出てきて、順番に段ボール箱を渡していく。
「まぁ! 助かるわぁ!」
「でしょ! 島のお偉いさんもやる時はやるって感じだよね☆」
家主とのちょっとした交流も、ながら作業の中にあった。もしかしたらその言葉はコニーの仕事ぶりに掛けられたものかもしれないが――結局のところ、よく分からないままコニーは去っていく。
次がある。その次も、そのまた次も待っている。全ては島の住民の為であり、コニー自身の単位の為。BRRは何処までも跳び回って、安心と信頼を届けていったのだった。
大成功
🔵🔵🔵
散布済鶏唐・レモネード
手には、直接触れないようにハンカチで包んだ[バラの枯れ枝]を指先で回しつつ。物を思う。
バラの枯れ枝、私の手にした1本だけなはずは無い。未だに、希島の各地に散らばり、人知れずその秘め切れぬ力を漏らしているはずよ。
もし[バラの枯れ枝]を集めて、一箇所の筆記具立てや筆箱に仕込めば、集団の思想を操ることもできる。
例えば、この学園。例えば、希島の中枢。思い通りに動かす事だって。
でも、もし私以外の誰かが、同じ考えに至っていたら?
すでに、枝の回収を始めていたら?
悪意で希島を覆うつもりで居たら?
・
・
・
その思惑、邪魔をさせてもらうわね。
街の復興作業に参加して、大きな瓦礫や倒木はHCで砕いて運びながら、枝を探すわ
●見えない悪に立ち向かう勇気
ハンカチの包みをそっと広げていくと、中から出てきたのはバラの枯れ枝。希島防衛戦の最中で散布済鶏唐・レモネード(許されざる狂行の者・f38834)が拾っていたもので、住居地区を襲ったリビング・デッド魔導会というカルト集団に属する一体が己の身を捨てて放った残滓になるものだ。
枯れている、とは通常なら植物の死を意味するものだが、死を超越する存在が放ったそれはやはり枯れるという死を超越していて未だに恐るべき力の一端が漏れているようだ。素手で触れようものなら力に冒され思考は徐々に腐り始める――ただし、それはスラング的な概念を多分に含んだものであって、より正しく表現するなら特定の思想に傾倒、心酔してしまう、と言うのが良かろう。
右翼、左翼と言われるものよりももっと業の深い思想。蔓延ることが害悪に直結するかは疑問の残るところだが少なくとも社会は平穏でいられなくなる。希島が毒されていく様をレモネードはふと想像してみたが、やはり地獄絵図という感想しか生まれなかった。
見た目は枯れ枝然としたものであって、街路樹の根元や花壇の中に在らば全く以って見分けが付かない。故にレモネードは、先の戦いの中で放たれたもので未だ回収されていないものが存在し得る点を危惧していた。在るだけでも危険、そしてもし悪意ある者が希島の転覆を狙って枯れ枝を利用しようものなら――。
事態は急を要するようにも見えた。事件を引き起こしたカルト集団は全て潰したが、現れていない悪は在ると考える方が自然だ。同様の襲撃事件、引き起こされる未来も何処かには紛れていよう。それを回避するには一刻も早い行動が肝要だが、如何せん今の希島では、戦場となった地域を復興作業に従事する者達が多く出入りしている。
彼らは必ずしも希島防衛戦について詳らかな知識を持ち合わせていない。一般のボランティアスタッフ、あるいは行政関係の事務職員等、とにかく人手が必要で動ける者達が悉く駆り出されている。そういった者達が件の枯れ枝に触れることがあってはならず、その為にはレモネード自身が復興作業に従事して彼らの負担を減らす必要があった。
枯れ枝が紛れるなら戦場となった地域が最も怪しそうで、それらの地域を回るためにレモネードは各地の補修活動に参加することにした。未だ爪痕は残り、破壊された建築物の瓦礫や街路樹であった倒木などが其処彼処で道を塞ぐ。交通網が分断されては搬出、搬入作業に遅れが生じて修復が一向に進まないのだ。
「キャバリアはまだかぁ~?」
塞がった道を見てトラックを運転する作業員が嘆いている。復興作業の大きな力となるキャバリアは数が限られており、切り詰めて各地に配備されているため現場によっては足りていないというのが現状だ。
「私に任せて」
崩壊したビルであろう。砕けながらも巨大な瓦礫として横たわっていたところにレモネードが拳を握り込んで正拳突きを繰り出した。一見すればレモネードは小柄な少女、作業員は直感的に訝しんだが、放たれた正拳突きが瓦礫を木っ端微塵に吹き飛ばしてトラックが通るだけの道を切り拓いたのを見て仰天した。
「残っているのも片付けておくわ。あなたは早くここを通って」
「お、おう……ありがとよ」
窓から顔を覗かせていた作業員はそそくさと運転席に直り、ハンドルを握りアクセルを踏み込んで道を通っていく。それを見届けた後、レモネードは残る瓦礫も粉砕しながら、後々運び出しやすいように路側に山積みにしていた。
「……やっぱり、あったわね」
作業を続け、丁度対向車線に差し掛かった時だ。粉砕した瓦礫の下から黒褐色の細い枯れ枝が出てくる。明らかに禍々しく、レモネードはハンカチを防護手袋代わりにサッと拾い上げた。
悪しき者の手に渡る前に回収できたバラの枯れ枝。しかしレモネードにとっては、ようやくの一本という感覚しかない。島中に放たれた枯れ枝の全数は不明、それを誰よりも速く集めていくのは困難を極めるが。
(どんな思惑があろうとも……邪魔をさせてもらうわね)
レモネードの決意はぶれない。瓦礫を破壊し続けるレモネードの手には、一層の力が籠ったようだった。
大成功
🔵🔵🔵