2
暴虐は青風と共に、災禍は鮮血と共に

#ダークセイヴァー

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#ダークセイヴァー


0




●獲物を求める青き風
 ダークセイヴァー。そこは異端の神によって支配された、絶望が渦巻く暗黒世界。
 曇天の空の下、今日も山麓の村に夜の帳が訪れようとしている。痩せた土地から得られる収穫は決して多くはないが、それでも人々は慎ましく、限られた糧の中で暮らしている。
 だが、その日に限って村を吹き抜ける冷たい風は、恐るべき暴虐の使途を連れて来た。
「ひぃっ! た、助けてくれぇっ!」
「逃げろ! 暴虐の青風が……カエルラマヌスが来たぞ!!」
 逃げ惑う村人達。女や子どもの悲鳴が響き渡る中、我が物顔で村を蹂躙するのは青き小竜。
「や、やめてくれ! お願いだから、助け……っ!?」
 命乞いなど、意味は無い。その小竜は知能こそ高けれど、しかし残虐さは人間の比ではない。
 相対すれば、力無き者は確実に命を狩られるだけ。集団で狩りをし、時に獲物を痛めつけて弄ぶ様は、小さき暴君の名に相応しい。
「うわぁぁん! 助けて、お母さん!!」
「いやっ! は、離して! お願い……やめ……っ!?」
 抵抗する者達を軽くあしらった騎竜達は、か弱き女や子どもに狙いを定め、その腕や首元に噛み付いたまま攫って行く。その場で捕食しないことは意外だったが、残された村の者達からすれば、それは些細なことだった。
「うぅ……な、なんてこった……。寒い冬が終わって、ようやく春になろうってのに……」
「もう、この村は終わりじゃ……。若い者も、女や子どもも、み~んな連れされてしもうた……」
 力無く泣き崩れる村人達の声は、しかしカエルラマヌス達には届かない。凱旋を示すが如き雄叫びを上げ、青き暴虐の使途達は、血に染まった村を後にした。

●鮮血の災禍
「……と、いうわけで、ダークセイヴァーで事件発生ね。カエルラマヌスとかいう小さな竜の群れが、山の麓にある村を襲っているわ」
 既に、いくつかの村は壊滅的な被害を受けている。これ以上は放っておけないと、パトリシア・パープル(スカンクガール・f03038)は集まった猟兵達に説明するが。
「今回の事件、なんていうか……ちょっと、妙な感じがするのよね。村を襲うカエルラマヌスなんだけど、こいつらの首領ってやつ? 親玉というか、操っているヴァンパイアの姿が見えないのよ」
 カエルラマヌスは、その凶暴性と高い知性を買われ、ヴァンパイア達に使役されることもある小型の竜だ。しかし、今回の襲撃には、ヴァンパイアの息が感じられない。ならば、出現するカエルラマヌスは野生種ということになるが……それならそれで、おかしな点があるとパトリシアは続けた。
「野生の肉食竜だったら、普通は獲物をその場で殺して食べるでしょ? 肉を持ち帰るにしたって、やっぱり殺して動きを止めてから持って帰るのが普通じゃない?」
 ところが、村を襲撃するカエルラマヌス達は、抵抗する者を排除こそすれど、そこで殺して食べることはしない。最終的には、女や子どもといった弱い者に狙いを定め、動けなくなる程度に痛めつけた上で、山の方へ攫って行ってしまうのだという。
「これは、わたしの勘なんだけど……たぶん、こいつらを束ねる親玉のオブリビオンが、ヴァンパイアの他にいると思うのよ。魔物だか、異界の神だか知らないけど……そいつが命令して、村人を攫わせているに違いないわ」
 そういうわけで、一刻も早く暴虐なる小竜達を討伐せねばならないが、襲われた村も放ってはおけない。まずは生き残った者達の救助を行い、その上で敵の動向を探るのが懸命だ。
 最後に、そう締め括って、パトリシアは猟兵達をダークセイヴァー世界へと転送した。


雷紋寺音弥
 こんにちは、マスターの雷紋寺音弥です。

 ダークセイヴァーの山麓付近にある村で頻発する、凶暴な小竜による拉致事件。
 事件の裏には、より強力なオブリビオンが潜んでいる形跡が……。

 第一章では、カエルラマヌスに襲われた村の救助に向かい、生き残った人々を救出していただきます。
 続く第二章で、騎竜カエルラマヌスとの集団戦。
 第三章で、カエルラマヌスを操っている事件の黒幕と戦い、倒していただきます。
190




第1章 冒険 『救助活動』

POW   :    力で瓦礫を退かしたり、治療の障害となるものを壊す

SPD   :    怪我人を見つけたりテントを建てたり、治療に必要なことを行う。

WIZ   :    患者の治療を行ったり、話を聞いてあげて安心させる。

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

楠瀬・亜夜
美しく残酷な世界、本当にこの世界はそんな言葉通りですね
この世界で記憶を辿るのも私にとっては重要ですが……それ以上にこの世界を救わねばならないそんな気がします。

ともかく今は事を急ぎます、【ダッシュ】で村の様子を一通り確認して回って村と村人達の状況をある程度把握して的確に動けるようにしましょう。
拠点にできそうな場所を確保して【救助活動】を開始します。
簡易サバイバルキットで多くの人に応急手当をしていきますね
本格的な治療は……得意な人に行って貰った方がいいでしょうし

他の人から手伝いを要請されたらできる限りは力になります。


二條・心春
ひどいです…こんなことって…!と、とりあえず、皆さんの手当てをしないといけませんね。

私は村を回って、怪我人に治療をしていこうと思います。
治療のためのユーベルコードはありませんが、「医術」と救急セットがあれば応急処置くらいはできるはずです。こういうのは早いうちに応急処置をしていれば生き残る確率が上がるんでしたよね。できるだけ多くの人に処置をして、治療用のテントに連れて行きましょう。
もちろん、怪我してる方への声掛けとか、お話を聞いたり、心のケアも忘れませんよ。大丈夫、私達が来ましたから、もう安心ですよ。できるだけ優しい言葉をかけてあげたいです。


護堂・結城
司狼(f02815)と参加、アドリブ歓迎

あいも変わらず、理不尽と人の被害の大きさに満ちた世界だな…
俺らが来たからもう大丈夫、なんて無責任なことは言えねぇが少しは安心させてやりてぇもんだ
とりあえずは救助から、今回の敵はどんなボスやら…

【POW】

『雪見九尾の闘気の尾』で土の巨人を呼び出して
【怪力】や【念動力】を駆使して瓦礫の撤去の作業を主にしていくぜ

作業中に司狼の放った狼達が救助が必要な人を見つけて呼びに来るか(【動物と話す】を使用)
【野生の勘】や【第六感】で人がいるのを感じたら救助を優先

全てを救えるなんて思っちゃいねぇが、それでも目の前で命が危ないやつは放っておけねぇわな。


彼岸花・司狼
結城(f00944)と参加、アドリブOK

…生かしておくことに意味があるのかね?
なんにせよ、今は村の方から、だな。

【野生の勘】を発揮して瓦礫周辺に生存者がいないか確認、
またUCで召喚した狼【と話し】て瓦礫の中に埋もれた生存者/遺体がないかを探らせる。
狼の群れはばらけさせて【範囲攻撃】【一斉発射】で周囲を探索、くわえて【2回攻撃】で念入りに狼に調べさせる

特に巻き込む物も者もなければ【力溜め】【怪力】で鉄塊剣を振るい、
瓦礫を【吹き飛ばし】て【なぎ払い】、【鎧砕き】により小さくしていく

実際の救助や、細かい作業についてはSPD班か結城に丸投げ

可能であれば【追跡】の為に救助活動中に村人から情報収集を行う。



●惨劇一過
 小竜の襲撃を受けた村。そこに辿り着いた猟兵達が見た物は、目を覆いたくなるような光景だった。
「ひどいです……こんなことって……!」
 村に残る、襲撃の爪跡。血痕の残る壁に、崩れた家屋。そして、未だ助けを求めて力無く叫ぶ人々を前にして、二條・心春(弱さを強さに・f11004)はそれ以上の言葉を紡ぐことができなかった。
「美しく残酷な世界……。本当に、この世界はそんな言葉通りですね」
「相も変わらず、理不尽と人の被害の大きさに満ちた世界だな……」
 平穏な生活が一夜にして地獄へと変わる。その様を形容した楠瀬・亜夜(追憶の断片・f03907)に、護堂・結城(雪見九尾・f00944)もまた頷いて。
「……生かしておくことに意味があるのかね? なんにせよ、今は村の方から、だな」
「俺らが来たからもう大丈夫、なんて無責任なことは言えねぇが……少しは安心させてやりてぇもんだ」
 彼岸花・司狼(無音と残響・f02815)の言葉に続け、結城もまた村へと向かって行く。
 惨劇一過。暴虐の限りを尽くした竜の牙は、しかし決して抜けることなく、未だ村人達の命を、希望を、骨の髄まで脅かし続けるものだったから。

●決死の救助
 未だ血の臭いが消えぬ村の中。疾走するは、100匹近い狼の群れ。
 こういう場合、獣の嗅覚は人のそれよりも頼りになる。瓦礫に埋まった者を助けるのもそうだが、物影に放置されている者や、より深い傷を負った者を、優先して見つけ出すためには有効だ。
 もっとも、小竜に襲われたばかりの村人達にとって、何の前触れもなく村の中を走り回る狼達は、新たなる脅威にしか見えなかった。
「ひっ! く、来るな! こっちに来るなぁっ!!」
「うぅ……竜がいなくなったと思ったら……今度は狼に食べられるのか……」
 救助のついでに村人達から情報を聞き出そうと思ったが、これではまともに話すことも難しそうだ。しかし、今は説明して回る時間も惜しいため、とりあえずは救助に専念するしかない。そう思って、村の中央にある、古びた家屋に目をやったときだった。
「あれは……」
 家屋に群がる狼達が、やけに騒がしく吠えている。中には瓦礫に対して懸命に攻撃しているものもいたが、あまり効果はないようだ。
「お前達、少し退いていろ」
 周囲に巻き込むものがないのを確認し、司狼は瓦礫を鉄塊剣で、力任せに薙ぎ払った。壊れた屋根の部分が吹き飛ぶと、果たして中から出て来たのは、赤子を抱えた女性だった。
 やはり、埋もれた人間を見つける際に、野生の獣の嗅覚は頼りになる。母親の背中に乗っていた板を除けると、外の空気に触れて安心したからか、途端に赤子が泣き出した。
「あぁ……た、助かっ……たの……?」
 ようやく光が届いたことで、女性は安堵の溜息を吐いて、抱いていた赤子を司狼に渡した。母親の体でしっかりと守られていたからだろう。幸い、赤子に怪我はなく、後は女性の脚に乗っている瓦礫を取り除くだけだ。
「これは、少し力がいるな。だったら、俺に任せてくれ」
 人の力で退かすのは難しいと見えたのか、司狼に代わり、結城が言った。土の巨人を呼び出して、結城は未だ女性の脚に乗ったままの瓦礫を退かそうと試みる。が、それを成そうとした瞬間、横で見ていた心春が慌てて止めた。
「……待って下さい!」
 今はまだ、その瓦礫を取り除くべきではない。そう言って心春は二人を止めると、女性の傍らに寄り添って、優しく声をかけ手を取った。
「大丈夫。私達が来ましたから、もう安心ですよ」
 怪訝そうにして顔を見合わせる結城や司狼を余所に、心春は亜夜に目配せする。頷く亜夜が、応急手当用の簡易サバイバルキットを取り出したところで、心春はその中からナイフと止血帯を取り出すと、女性の太股を縛って血の流れを止め、血管に沿ってナイフで斬り付けた。
「……ひぃぃっ!!」
「すみません! 痛いけど、我慢して下さい!!」
 噴き出す鮮血に悲鳴を上げる女性の手を握り、心春は申し訳なさそうにしつつも叫ぶ。唖然とする他の者達に、心春は女性の血を止めつつも、真剣な表情になって説明した。
「瓦礫に圧迫されたところには、血に毒が溜まるんです。それを抜いておかないと、助けた時に全身に毒が回って……心臓が止まってしまうこともあるんです」
 こういう場合、慌てて助けようとすれば、それは要らぬ二次災害を引き起こしてしまう。俗に、クラッシュシンドロームと呼ばれる症状だ。軽度であれば眩暈程度で済むが、場合によっては本当に死亡してしまうため、洒落にならない。
 専門的な医療の技術を、心春が持っていたのは幸いだった。知識のない者にも解り易いよう説明し、心春は改めて女性に詫びると、今度こそ瓦礫を退かして欲しいと結城に頼んだ。
「本格的な治療は、ここでは無理ですね。あちらに拠点を設けました。よろしければ、そこまで私が付き添いましょう」
 負傷し、自力で立つことも難しい女性に肩を貸し、亜夜が村の入り口付近を指差して告げる。村の付近に、他の猟兵達が張ったテント。そこまで行けば、もう何も心配する必要は無いと。
「そういうことなら、俺は要救助者の捜索に専念させてもらうぜ。悪いが、本格的な応急手当は、お前達に任せた方が良さそうだからな」
「それなら、狼達からの情報は、俺が代わりに聞いておこう。力仕事が必要な場合も、遠慮なく呼んでくれ」
 結城と司狼も、それぞれに得意な分野を担当し、手分けして救助を進めようと改めて告げる。血と惨劇の跡が残る村は未だ暗雲に覆われていたが、その中に微かな光と希望が見え始めた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

紬雁・紅葉
少しなりとも、お役に立てれば…

大きすぎるような瓦礫はUCで砕き、それなりの物は怪力(必要に応じて力溜め併用)で運ぶ

更に拠点防御の知識を駆使し、地形を利用して瓦礫を簡易防壁として活用できる場所に積む

治療や避難して腰を落ち着ける場所を予め掃除し整える
小さく雑多なゴミや瓦礫が量あればUCにて薙ぎ払い範囲を吹き飛ばす

遺留品や大事な品を探している人が居れば、失せ物探して見当の場所を見切り探し出す

ふと「山」の方を仰ぎ見て
山…女子供や負傷者…弱者…?
さて何者か…?
敵を思い一瞬だけ羅刹紋が浮かぶ

※アドリブ、緊急連携、とっさの絡み、大歓迎です※


ビードット・ワイワイ
治療せし者の為に治療道具を持参せり。
怪我人が安静できるようにテントを作ろう。
我がUCにて骨組みを作り資源の浪費を最小限に抑えけり。
これにて【救助活動】の一助となろう。

安心せよ。我が巨躯に畏怖するのはしょうがなき。
されどここに汝らを害せし者はおらず。ここにて傷を癒すがよい。

我が【コミュ力】にて落ち着かせつつ【情報収集】しよう。
此処を襲いし敵の個体数、去りし方角、ここ最近の不審事等を聞こう。

不躾ではあろうが教えてはくれまいか。
汝らの同胞を必ずや奪還してしんぜよう。我らは猟兵。
一時の破滅を覆さんとする者なり。今ここにて汝らを救おう。
人よ、破滅は未だ来ず。信じて待つがよい。


アヴァロマリア・イーシュヴァリエ
生まれながらの光を出来る限りたくさん全力で届けるわ。
一緒に「オーラ防御」の範囲も広げて、冷たい風や雑菌を遮りって、「誘導弾」「念動力」の応用で
特に重傷な人に癒しの光を集中して、無駄のないように使えば闇雲に治すより効果もあるはずよね。
疲れちゃうけど、頑張るわ。マリアは聖者だもの、傷ついた人に癒しと「祈り」を届けないと。
それと、笑わないと。悲しい顔を見て不安にさせないように、ちゃんと助かるって安心できるように。
笑って、助けてあげないと……

大丈夫、どんな怪我もマリアが必ず治すから、拐われた人達も助けてくるから、安心して。

※助けられない人が居たら誰も居ないところで誰にも気付かれないように泣きます



●死神は安堵と共にやって来る
 村の入り口に設けられたテントは、様々な負傷者で溢れ返っていた。
「うぅ……あ、脚が……脚が……」
「お母さん……どこ……? 何も……何も見えない……」
 中には幼い子どもや老人もおり、ともすれば彼らの命の灯は、今にも風で吹き飛んでしまいそうだ。カエルラマヌスに見逃されたのは運が良かったが、果たしてそれは、本当に幸運と呼んでいいものか。
 小竜に弄ばれ、生きたまま巣に攫われるか、それとも悪戯に傷つけられて、そのまま朽ち果ててしまうのか。どちらに転んでも、絶望しか残されてはいない。だが、その絶望を打ち砕かんと、猟兵達は最後まで諦めずに奔走する。
「安心せよ。我が巨躯に畏怖するのはしょうがなき。されど、ここに汝らを害せし者はおらず。ここにて傷を癒すがよい」
 救護テントを張り終えたビードット・ワイワイ(根源的破滅招来者・f02622)は、不安に脅える少年の手を取り、そう告げた。最初は脅えていた少年も、その大きな手に安心したのだろうか。力無く、微かに微笑むと、しかしその顔から血の気が引いて行く。
「うん……ありが……とう……」
 少年の心は恐怖から解き放たれたが、それは彼の命を繋ぎ止めていた、緊張の糸も断ってしまいそうだった。そんな少年に寄り添って、アヴァロマリア・イーシュヴァリエ(救世の極光・f13378)は聖なる光を解き放ち、改めて少年に約束した。
「大丈夫、どんな怪我もマリアが必ず治すから。拐われた人達も助けてくるから、安心して」
 傷さえ癒せれば、それだけ救われる命も増える。苦痛と痛みを抱えたまま眠ってしまえば、安堵は油断という名の死神と化し、瞬く間に負傷者の命を狩ってしまう。
「すまぬな……。我にも他者を癒す術があれば、汝の負担を減らせたのだが……」
「いえ、大丈夫よ。マリアは聖者だもの。傷ついた人に癒しと『祈り』を届けないと……」
 相次ぐ治療で身体の疲労は限界に達していたが、それでもアヴァロマリアは表情を変えず、敢えてビードットにも微笑んでみせた。
 この場所では、心の折れた者か、あるいは気を抜いた者から死んで行く。安心を与えるための優しさでさえ、このダークセイヴァー世界においては、傷付き苦しむ者達を永遠の虚無へと誘う、告死天使へと変わってしまうこともある。
 だが、そんな場所だからこそ、聖者である自分は笑っていなければならない。そう、笑わないといけないのだ。どれだけ辛く、涙を流したいと思っても、人々を不安にさせないように。その上で、彼らに真の癒しと安らぎを与える、聖なる光を届けねば。
「そう……笑って……助けてあげないと……」
 他に手当ての済んでいない者は残っていないか。ふらつく足取りで、アヴァロマリアは改めてテントの中に運び込まれた人々を見回した。
「良かった……。誰も……苦しんでいる人は……いないわね……」
 全ての命を救うことができた。そのことに安堵の溜息を吐き、そのままアヴァロマリアは意識を失い倒れ伏した。
「限界ね。少し、休まれた方がいいわ」
 周囲の清掃を終えた紬雁・紅葉(剣樹の貴女・f03588)が、アヴァロマリアを抱き起こして近くのシートに寝かせつつ言った。見れば、村とテントの周りは瓦礫による簡易の防壁が施され、そう簡単には次なる襲撃を行えない程度には守られていた。
「山……女子供や負傷者……弱者……? さて、何者か……?」
 ふと、山の方を仰ぎ見て、紅葉の身体に一瞬だけ羅刹紋が浮かんだ。
 果たして、敵はどのような存在で、何の目的を持って人々を攫っているのか。大方、碌でもない理由に違いはないのだろうが、まずはその正体を少しでも探らねば。
「不躾ではあろうが、教えてはくれまいか。汝らの同胞を必ずや奪還してしんぜよう」
 我らは猟兵。一時の破滅を覆さんとする者だ。そう言って、ビードットは意識を取り戻した負傷者達に、改めて敵の数や去った方角などを尋ねて回った。
「あいつらは……いきなり、山の方から来たんです……。たぶん……山のどこかに巣があって……」
「それと……山の奥にある洞窟から、不気味な声が聞こえて来たって話を聞いたような気が……」
 情報の多くは、推測や噂に過ぎないものだった。それでも、敵の拠点を割り出すために、有効なものには違いなかった。
「そういえば……昔、まだガキの頃に、嫌な話を聞いたことがある……」
 そんな中、脅えた様子で震えながらも、比較的傷の浅い村人が、重苦しい言葉で語り出した。
 曰く、騎竜カエルラマヌスには、それを従える暴虐の女王が存在すると。それは、あらゆる者に恐怖を与え、その心を自らの糧として力を蓄え、全てを食らい尽くす魔竜であると。
 果たして、それは忌むべき御伽噺か、それとも恐るべき現実か。真相を確かめるべく、猟兵達は改めて、山に潜む邪悪を討つことを決意した。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​




第2章 集団戦 『『暴虐の青風』カエルラマヌス』

POW   :    蹂躙する騎竜
戦闘中に食べた【犠牲者の血肉】の量と質に応じて【身を覆う青紫色の鱗が禍々しく輝き】、戦闘力が増加する。戦闘終了後解除される。
SPD   :    飛躍する騎竜
空中をレベル回まで蹴ってジャンプできる。
WIZ   :    邪悪な騎竜
自身の装備武器に【哀れな犠牲者の一部】を搭載し、破壊力を増加する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●邪悪なる小竜の巣
 薄暗い森を抜けて山を登ると、その洞窟はすぐに見つかった。
 周囲に散乱する小さな骨は、既に風化して、その主の姿さえ判別できない。辛うじて判るのは、人間だけでなく、多くの動物もまた餌食になっているということ。時に、鹿や猪だけでなく、巨大な熊のものと思しき骨まで転がっているのは、それだけ中に巣食う者が凶暴な存在であることを物語っている。
「あ……うぅ……ぁぁ……」
「キ……キキッ……キ……」
 人の呻くような声と、それに混ざって響く不快な鳴き声を耳にして、猟兵達はそっと洞窟に足を踏み入れた。奥から吹いて来る風は妙に生臭く、それが犠牲者たちの放つ血の臭いであることは、誰ともなしに感づいていた。
 やがて、洞窟の奥まで歩を進めると、果たしてそこにいたのは無数のカエルラマヌス達。その数は、5匹や6匹といったものではない。およそ、猟兵達の3倍の数はあろうかという小竜達が、洞窟の奥で蠢いていたのだから。
 洞窟の隅に空いたすり鉢状の穴の中に、カエルラマヌス達は捕えた人間を放り込んでいるようだった。逃げ出すことは容易に見えたが、満足な傷の手当てもされず、果ては周りを見張られた状態では、力無き村人達が自力で逃げ出すことは不可能だろう。
 そんな哀れな犠牲者を、カエルラマヌス達は強引に引っ張り出して、洞窟の奥にある穴へと連れて行った。
「いや……や、やめて……。お願い……助け……」
 懇願する女性の意思などお構いなしに、カエルラマヌス達は彼女の穴の奥へと放り込む。瞬間、悲鳴に続いて凄まじい咆哮が洞窟内に響き渡り、岸壁だけでなく空気や水面さえも激しく揺れた。
「キキッ……キキキッ……!」
「キッ……キキッ……キッ!」
 生贄を穴に放り込んだカエルラマヌス達が、小躍りしながら鳴いている。それが彼らの笑う声だと気付き、猟兵達は戦慄した。
 そう、あの小竜達は、笑っているのだ。命乞いをする獲物が、その願いさえ聞き届けられず、無残にも生贄と化して行く様を見て。
 もう、これ以上は黙って見てはいられない。あの小竜達を討伐せねば、悲劇はこれからも延々と続く。
「……キッ!?」
 己の住処に踏み込まれたことを知って、カエルラマヌス達は一斉に猟兵達へと視線を向けた。その瞳に宿るのは、激しい敵意。鋭い爪と牙を剥き出しにして、狡猾なる騎竜達は、猟兵達を次なる獲物とすべく襲い掛かって来た。
ビードット・ワイワイ
見たり見たり見たり、汝らの破滅を見たり
最早掛けし言葉無く、畜生以下の獣かな
竜と見えし姿もおこがましい。残す意味が見出せず
有せし理性は外道なり。理性を削りて後悔せよ
ここが汝の破滅なり

我はUCにて重火器を作ろう。これにて動向【追跡】しよう
いくら逃れようと高速の銃弾からは逃れられず
弾丸一つ一つを【念動力】にて操作し洞窟一帯を
【範囲攻撃】にて【なぎ払い】、【誘導弾】を【一斉発射】しよう
ついでとばかりに【属性攻撃】にて酸属性を付与
装備を溶かし丸裸にしよう

逃げよ逃げよ逃げよ、命乞いをするがよい
我はその言葉を聞きて、汝らに永劫の安寧を与えよう
ここが汝の終焉なり


紬雁・紅葉
嗚呼、これは…これは度し難い
状況を把握した途端、肌にくっきりと羅刹紋が浮かぶ

良いでしょう…一匹残らず焼き払ってくれましょう
来るが良い!泥虫共!!(恫喝)

【雷の魔力】を防御力、攻撃力に付与
ゆるゆると近寄り薙刀と剣の二刀で迎え撃つ

回数に任せ敵の周囲の範囲ごと雷属性衝撃波で薙ぎ払う
地形を利用し天井壁に吹き飛ばし強か叩きつける

敵の攻撃は躱せるか見切り躱せるなら残像で躱し
そうでないなら武器受けからカウンター衝撃波を狙う

仲間は積極的にかばい援護射撃
更に手数を加速させる
決して突出せず仲間と共に着実に戦線を押し上げる

穴の奥に
恐れるが良い…
剣の死神が来たぞ!

※アドリブ、緊急連携、とっさの絡み、大歓迎です※



●邪悪なる晩餐
 洞窟に足を踏み入れると、無数の瞳が一斉に猟兵達へと向けられた。
「キッ……」
「キキキ……」
 甲高く不快な鳴き声を上げて、小竜達が静かに距離を詰めて来る。縄張りへ侵入されたことへの怒りはない。彼らはただ、新たなる獲物が自らやって来たと思い、歓喜と嘲笑の意を示しているだけなのだ。
「見たり見たり見たり、汝らの破滅を見たり。最早掛けし言葉無く、畜生以下の獣かな」
 迫り来る小竜の群れを前に、ビードット・ワイワイ(根源的破滅招来者・f02622)はそれだけ言って、静かに生成した火砲を向けた。
 生きるために糧を求める。それは生物として不変の摂理であるが、しかし野生の獣は獲物を狩れど、その命を弄び、無駄に痛みと恐怖を与えることは決してない。そういう意味では、この小竜達は、すでに自然の理からさえも逸脱した存在だ。
「嗚呼、これは……これは度し難い」
 紬雁・紅葉(剣樹の貴女・f03588)の肌に、羅刹の紋様がくっきりと浮かんだ。
 こいつらを生かしておく理由などない。天啓や神託などなくとも、それは分かる。人の本能に刻まれし嫌悪感。善悪を超越した、吐き気を催すような存在を忌避する何かが、目の前の小竜を討伐せよと訴えている。
「弐の式……来たれ」
 己の身体に稲妻を力を纏い、紅葉は迫り来る小竜の群れを、薙刀の一振りで薙ぎ払った。迸る閃光と雷鳴に足並みを崩され、小竜達は瞬く間に飛散し、悲鳴を上げつつも岸壁や天井へと叩き付けられてゆく。
「逃げよ逃げよ逃げよ、命乞いをするがよい。我はその言葉を聞きて、汝らに永劫の安寧を与えよう。ここが汝の終焉なり」
 追い打ちとばかりに、ビードットが生成した重火器から無数の誘導弾を発射する。いかに俊敏な動きを誇る小竜であれど、追尾する砲弾までは避けられない。おまけに、点ではなく面を制圧するようにして弾幕を展開すれば、そもそも逃げ場などありはしない。
「……キッ!?」
「キィッ!! キキィィィッ!!」
 炸裂する砲弾は小竜達の皮膚を焦がし、その身を容赦なく焼き尽くす。それだけでなく、強酸を含んだ液体を散布されたことで、彼らの纏う騎竜としての装備もまた、酷く腐食して使い物にならなくなっていた。
「キキッ……」
「キィッ! キキキ……」
 本能的に危機を悟ったのか、小竜達は洞窟の奥へと退いて行く。だが、このまま逃げ出すのかと思った彼らは、しかし撤退をするどころか、奥に設けられたすり鉢のような窪みへと殺到し。
「ひぃっ! く、来るなぁっ!」
「や、やめ……ぎゃぁぁぁっ!!」
 洞窟内に響き渡る人々の悲鳴。狡猾なる小竜達は、己の力を増すための糧とすべく、捕えていた者達を見境なく食らい始めたのだ。
 外道、ここに極まれり。あまりのことに、猟兵達は言葉を紡ごうにも、何も言うことができなかった。
「……グルルルゥゥ……」
「キキキッ……キキ……キシャァァァッ!!」
 邪悪なる騎竜の瞳が赤く輝き、青き鱗が禍々しく輝く。食らった獲物の肉を力に変え、犠牲者の残滓を武器として己の身に纏い、暴虐の青風は高々と吠える。
 騎竜カエルラマヌス。彼らが人々より恐れられる理由は、その狡猾さだけではない。徹底的に獲物を嬲り殺す残虐さ。その非道なる行いを己の力と変えて、あらゆる暴虐の限りを尽くす故。
「良いでしょう……。ならば、一匹残らず焼き払ってくれましょう」
 もはや、生かしておく理由など欠片もないと、紅葉は改めて薙刀を握る手に力を込めた。ビードットもまた火砲を構え、再び迫り来る小竜達を迎え撃つ。
「有せし理性は外道なり。理性を削りて後悔せよ。ここが汝の破滅なり!」
 雷鳴と爆風が周囲を焦がし、それらをくぐり抜けた小竜の牙が、猟兵達へと殺到する。だが、腕を噛まれ、胸元を爪で抉られようとも、彼らは決して退かなかった。
「恐れるが良い……剣の死神が来たぞ!」
 薙刀の柄で叩き伏せた小竜の首元に、刃を突き立てつつ紅葉が叫ぶ。その言葉が穴へと吸い込まれ……奈落への入り口を思わせる穴の奥から、唸るような咆哮が聞こえて来た。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

二條・心春
…覚悟はしていましたが、村よりさらにひどい状況ですね…。だからこそ、私達猟兵が助けなければいけませんし、私はそれくらいしかできませんから。

今回は【召喚:蛇竜】で、ワームさんと一緒に戦います。毒の息で敵を弱らせて、締め付け攻撃で1匹ずつ確実に倒してもらいましょう。命を弄んで、嘲笑って…許せません。思いっきり暴れちゃってね!
私は「第六感」で連携攻撃や武器の強化を狙う個体を見つけて、槍で直接、もしくは「衝撃波」を飛ばして攻撃して、ワームさんを援護します。

一緒に戦ってくれる方がいたら、私なんかでよければ協力させてもらいます。今も苦しんでいる方々を早く助けたいですから。


楠瀬・亜夜
命が命を喰らうのは逃れられぬ世界の理、ですがこれはあまりにも
悪趣味過ぎる。そもそも彼らは過去に生きた者達、ご退場願いましょうか。

とにかく敵の数が多いというのは厄介ですね
まずは敵の戦力を削っていきましょう。
接近戦を試みる他の猟兵がいれば【クイックドロウ】【援護射撃】を
駆使して銃撃による援護を行います。
リロード中の隙は投げナイフでカバーをできるようにします。

ほどなくして【星神のラメント】を発動しましょう
狩る側が狩られる側に回る恐怖、それを少しでも感じたのであれば
星は死という形で救いの手を差し伸べるでしょう。
UCによる不可視の広域攻撃を実行します。


護堂・結城
やっぱ救助よりもこっちの方が性に合ってるわ
死を弄ぶ奴は生かしておかねぇ。だから「いつもの」言っとくぜ
…外道、殺すべし

【POW】
喰って強くなるのはお前らだけじゃねぇ
生命力吸収で周囲の感情を集めて『雪見九尾の劫火剣乱』を発動
念動力で浮かせた五刀と、氷牙を変身させた斬馬刀に劫火の剣群を纏わせ
属性攻撃と衝撃波を載せたなぎ払い、範囲攻撃を狙う

敵の攻撃は見切りからの浮遊させた刀で武器受け
力を溜めた怪力で斬馬刀を叩きつけるカウンターだ
オマケだ、纏った劫火で傷口をえぐってやる

ここまで人の死を愉しんできたんだろ?
これも楽しんでくれよ、てめぇらが散々笑ってきた事だぞ

「頭を垂れろ。死はお前の名を呼び…捕まえたぞ」


アヴァロマリア・イーシュヴァリエ
ごめんなさい、間に合わなかった……助けられなかった
でも、これ以上は絶対、許さないから

『光あれ』で、竜たちを全部撃ち抜くわ。ジャンプしても、誘導弾と2回攻撃で撃ち落とす
光になったマリアの防御力にオーラ防御と念動力の壁も重ねれば、竜たちが強化してきたってきっと、大丈夫

あなた達はお腹が空いていただけかもしれないけど、操られているだけかもしれないけど、犠牲になっちゃった人達はもう、救えない
だから、マリアはあなた達も救わない。食べた人達を武器にするなんて、絶対に、許さない!
全部全部、光に飲まれて消えちゃえばいい……!

終わったら、残ってる人達を一人でも多く助けるわ
でないと約束を守れない

※泣きながら戦います



●悪逆の風
 洞窟に響き渡る小竜の咆哮。それに混ざって聞こえて来るのは、生きたまま肉を喰らわれた者達による悲痛な叫び。
「……覚悟はしていましたが、村よりさらにひどい状況ですね」
 微かに漂う血の臭いに、二條・心春(弱さを強さに・f11004)は、それ以上は何も言えなかった。
「命が命を喰らうのは逃れられぬ世界の理……ですが、これはあまりにも悪趣味過ぎる」
 同じく、楠瀬・亜夜(追憶の断片・f03907)もまた口元に手を添えつつも、しかし瞳はしっかりと目の前の敵を見据えていた。
 生きるために命を奪う。それは仕方のないことだろう。だが、それでも奪う側には奪う側として、最低限守るべき礼儀もある。
 獲物を仕留めるのであれば、なるべく苦しませず、一撃で殺してやるのがせめてもの情け。しかし、この小竜達は敢えて獲物を殺すことなく悪戯に嬲り、果ては己が力を得るためだけに、生きたまま獲物を食らい殺す。
 あまりに悪辣。あまりに外道。その凄惨たる光景を前に、アヴァロマリア・イーシュヴァリエ(救世の極光・f13378)は泣き崩れた。
「ごめんなさい……。間に合わなかった……助けられなかった……」
 小竜達は、攫った村人を無事では帰さない。どことなく、予感はしていたことだ。が、それでも改めて現実を突き付けられると、受け入れられないこともある。
「キキッ……!!」
「キッ……キキキッ……!!」
 嘲笑するかのような鳴き声を上げつつ、小竜の群れが一斉に猟兵達へと突撃して来た。彼らの狙いは、泣き崩れているアヴァロマリアだ。
 獲物の心の隙を突き、一気呵成に襲い掛かって蹂躙するのが狡猾なる騎竜の戦い方。時に、泣き叫ぶ子の前で親を殺し、懇願する親の前で子を嬲り殺す。悪逆非道の青き暴君。それこそが、騎竜カエルラマヌスが、暴虐の風として恐れられる所以。
「気をしっかり持ちな。泣いてるだけじゃ、敵の餌食になるだけだぜ」
 迫り来る騎竜の牙を、護堂・結城(雪見九尾・f00944)は斬馬刀で受けつつアヴァロマリアへ言った。
「辛いのは、私も同じです。でも……だからこそ、私達猟兵が助けなければいけません」
 同じく、心春もまた、竜の変じた槍を振るいつつアヴァロマリアへと告げる。この場に集まりし者、その想いは等しく同じであると。そして、少しでも約束を守れるように、今は戦わねばならないと。
「そもそも、彼らは過去に生きた者達……。ご退場願いましょうか」
 もはや欠片程の遠慮も不要。迫る小竜の群れに亜夜が銃弾を撃ち込めば、その隙に敵陣へと斬り込んだ結城が、斬馬刀の一薙ぎで叩き伏せ。
「………やっぱ救助よりも、こっちの方が性に合ってるわ。死を弄ぶ奴は生かしておかねぇ。だから『いつもの』言っとくぜ」
 外道、殺すべし。そう宣告する結城の右目が、劫火の如く赤々と輝いた。

●怒れる瞳
 騎竜の鱗が禍々しく輝き、繰り出される爪が肉を抉る。喰らわれた者達の身体は、そのまま彼らの武器となって、猟兵達へと牙を剥く。獲物を食らうことで身体能力を増したカエルラマヌス達は、もはや小竜などと呼べない程に、危険極まりない邪悪なる魔獣。
 しかし、そんな騎竜の群れを前にしても、猟兵達は一歩も退くような素振りを見せなかった。
「どうした? 俺を食うんじゃなかったのか?」
 結城の繰り出す斬馬刀の一撃が、カエルラマヌスの頭を、身体を斬り飛ばす。反撃を食らうことなど、想定済みだ。それでも、ここで少しでも退いたが最後、敵はその隙を突いて一斉に攻め立てて来るだろう。
「キィィィッ!!」
 甲高い雄叫びと共に、結城の後ろから一匹の騎竜が、彼の喉笛を食い千切らんと迫って来た。が、その牙が結城の喉元に食らいつくよりも早く、無数の銃弾が驟雨の如く降り注ぎ、騎竜を物言わぬ肉塊へと変えた。
「数が多いというのは厄介ですね。接近される前に、少しでも減らしたいところですが……」
 新たな銃弾を装填しつつ、亜夜はナイフに手を忍ばせる。案の定、こちらのリロードの隙を突いて敵が襲い掛かって来たが、その程度のことは想定内だ。
「残念ですが……この距離は、まだ私の間合いです」
 咄嗟に投げ付けられたナイフが、騎竜の瞳に突き刺さる。悲鳴を上げてのたうつ騎竜に、心春が呼んだ蛇竜の霊が襲い掛かる。
「力を貸して? 私と一緒に戦ってほしいの」
 猛毒を吐き、縦横無尽に空を飛ぶ蛇竜の霊が、手負いの騎竜に巻き付いた。肉体を持たない霊魂でありながら、その締め付ける力は凄まじい。骨の軋む音、肉の潰れる音がして、騎竜は血を吐き動かなくなった。
「もう少しね。早く終わらせて……少しでも攫われた人を助けてあげないと……」
 徐々にだが、確実に戦いの流れが自分達の方へ向いていることを知り、アヴァロマリアは改めて、人々が捕らわれている窪みへと目をやった。
「……っ!? あれは……」
 瞬間、飛び込んで来たのは、騎竜に咥えられた男だった。敢えて急所を外されているのか、まだ死んではいない。が、獲物を見せつけるようにしながら突き出す騎竜の意図を悟り、アヴァロマリアは思わず攻撃の手を止めた。
「私が動いたら……その人を殺すつもりね……」
 どこまでも、どこまでも底抜けに邪悪で、狡猾なる騎竜。彼らは人の言葉を発しない。しかし、血のように赤い色の瞳が、武器を捨てろと訴える。
「あ……あぁ……た、助け……て……」
 首に食い込む牙の痛みに耐えかねて、囚われの男が手を伸ばした。その悲痛な様に、思わずアヴァロマリアが光剣を降ろしたところで、周りにいた騎竜が一斉に彼女へと飛び掛かって来た。
「キキッ! キキキ……」
 群がる仲間の竜に押し倒されるアヴァロマリアの姿を見て、男を捕えていた騎竜が小躍りしながら小さく吠えた。男の首から牙が外れ、自由の身になった彼は、一目散に逃げ出そうとしたのだが。
「た、助かっ……ぎゃぁぁぁっ!!」
 再び後ろから飛び掛かられ、背中の肉を引き裂かれる痛みに男が悲鳴を上げた。狡猾なる騎竜は最後まで人々を謀り、その肉を食らいながら血に染まった口で嘲笑っている。
「……っ! こいつら……」
「聞きしに勝る外道ぶりですね。もはや、一匹たりとも生かす理由はなさそうです」
 騙し討ちを仕掛けた騎竜へ、結城と亜夜の怒れる瞳が向けられる。それでも、未だ嘲笑うことを止めない騎竜だったが……強烈な閃光と共に弾き飛ばされる仲間の姿を見て、赤い瞳に驚愕の色が浮かんだ。
「許さない……もう、絶対に許さない……」
 そこにいたのは、騎竜の群れに襲われて、無残にも餌食になったと思われたアヴァロマリアだった。
 彼女は食われてなどいなかった。敵の爪と牙で蹂躙されそうになる直前に、自らの身体を光のエネルギー体へと変えることで、辛くも難を逃れていたのだ。
「あなた達は、お腹が空いていただけかもしれないけど……操られているだけかもしれないけど……犠牲になっちゃった人達はもう、救えない」
 その瞳に映るは怒りではなく悲しみ。どんな命であれ、その価値は等しくあるはずだが、しかし目の前の小竜達にとっては、他者の命など玩具程度のものなのだろう。
「だから、マリアはあなた達も救わない。食べた人達を武器にするなんて、絶対に、許さない!」
 アヴァロマリアの叫びが、無数の光の矢となって、カエルラマヌス達へと降り注ぐ。逃げ場など、どこにも与えない。広がる光輝は、その1つ1つが邪悪なる小竜達を貫いて、更に輝きを増して行き。 
「全部全部、光に飲まれて消えちゃえばいい……!」
 真昼の如く、照らし出される洞窟の壁。溢れんばかりの光の奔流が過ぎ去った後、そこには騎竜の残滓さえも残ってはいなかった。
「キッ……!?」
「キィッ……! キキィッ!!」
 さすがに不利を悟ってか、残された僅かな騎竜達は猟兵達に背を向けて、洞窟の奥へと逃げ出して行く。もっとも、そう簡単に彼らを逃がしてやるほど、今の猟兵達は甘くなく。
「命を弄んで、嘲笑って……許せません!」
 心春の命により、蛇竜が猛毒の息を吐いてカエルラマヌス達の行く手を阻む。それでも強引に突破しようとしたものは、その身を毒の霧に蝕まれ、肉を腐らせながら朽ち果てた。
「嘆きの星々よ、恐怖に震える哀れな大地に、終焉を与え給え」
 逃げ場を失った小竜達へ、亜夜の繰り出す不可視の触手が襲い掛かる。狩る側が、狩られる側へと回った恐怖。それを少しでも感じたのであれば、星々の瞬きの中、死という形の救いを受け入れろと。
「ここまで人の死を愉しんできたんだろ? これも楽しんでくれよ、てめぇらが散々笑ってきた事だぞ?」
 進むも地獄、逃げるも地獄。抗う術を失った小竜達を、容赦なく追い詰めるのは結城だ。呼び出されしは、復讐の劫火により作られし剣群。それらを自身の持つ斬馬刀に重ね、躊躇うことなく叩き付け。
「頭を垂れろ。死はお前の名を呼び……捕まえたぞ」
 大地をも割らん程の、凄まじい一撃。轟音と共に、焔を纏った巨大な刃が疾走し、邪悪なる騎竜を一匹残らず掃討した。

●深淵に潜む者
 カエルラマヌスの群れを一掃したところで、猟兵達は改めて、窪みに放り込まれていた村人達を助け出し、そのまま洞窟の外へと導いた。
 本当であれば、傷付いた彼らに満足な手当てをしてやりたかった。しかし、これで全てが終わったわけではないことは、この場にいる全員が理解している。
 洞窟の奥、カエルラマヌス達が生贄の如く捕えた人間を放り込んでいた先から、恐ろしい殺気と唸り声が聞こえて来る。
 果たして、あの奥に潜む者は何か。悲劇の連鎖を断ち切るべく、猟兵達は穴の奥へと歩を進めた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​




第3章 ボス戦 『『血染めの災厄』ルベルレギナ』

POW   :    女王の慈悲
【ルベルレギナに恐怖したものの生命力】を代償に自身の装備武器の封印を解いて【五感で認識したものを無抵抗に嬲り殺す爪牙】に変化させ、殺傷力を増す。
SPD   :    女王の躾
【視界内の全てのものに恐怖をもたらす咆哮】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ   :    女王の奴隷
戦闘力のない【ルベルレギナに恐怖し絶望した奴隷】を召喚する。自身が活躍や苦戦をする度、【ルベルレギナに生きたまま食われること】によって武器や防具がパワーアップする。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は黒玻璃・ミコです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●紅き災厄の女王
 細く長い穴を滑り降りると、唐突に開けた場所に出た。
 洞窟の天井が抜け、辺りには光が差し込んでいる。天井とは別の場所から風が吹き込んでくるのは、この場所が、どこか別の場所と繋がっているという証拠だろう。
 だが、なによりも目を引くのは、中央に座する巨大な竜に他ならなかった。それは紅き衣を纏い、しかし全身を覆う鱗は、カエルラマヌスを彷彿とさせる。突然変異によって生まれた女王種。邪悪なる騎竜の親玉が、低い唸り声を発しながら顔を上げた。
「ほぅ……貴様達か。我の庭と城に立ち入らんとする不埒者どもは……」
 男とも女ともつかぬ不気味な声で、猟兵達の姿を捉えた竜が告げた。人語を解する竜を前に驚く者達もいたが、竜は何ら気にせず怒りで身体を震わせていた。
「許さぬぞ、下郎……。もう少しで、我は吸血鬼どもさえ凌駕する、至高の力を得られたというのに……」
 そのためには、自らに隷属する数多の生贄が必要だった。が、全ての騎竜を倒された今、それを補充することはもはや不可能。ならば、せめてお前達だけでも、今、この場で我が爪と牙の贄となれと、竜は高々と吠え、そして叫ぶ。
「さあ、恐怖せよ、小さき者どもよ! 我は女王、ルベルレギナ! 我の前に立つ者は、皆、等しく死、あるのみ!」
 全身から迸る圧倒的な殺気に、洞窟の空気が激しく揺れる。
 その者の視界に捉われたが最後、恐れを抱かずにはいられない。
 その者に対して欠片程でも恐怖を抱けば、その先に待つのは鮮血の結末。
 血染めの災厄、ルベルレギナ。奇しくも、村人達の間で語られていた恐るべき魔竜を前に、猟兵達は覚悟を決めて、最後の決戦に挑んで行く。
楠瀬・亜夜
(首魁に相応しい迫力……恐怖に駆られたら負け……か)

なるほどなるほど。女王様は大層な野望をお持ちでおられる
……残念ながらその野望は叶う事はありませんがね
死は平等に訪れる、王よ ご退場願いましょう

相手の威圧に押されてはいけませんね
まずは【クイックドロウ】を駆使し【先制攻撃】を行い
右前足を銃撃を浴びせましょう。
これで少しでも動きを抑制出来ればいいんですがね

【knife vision】によりナイフを展開し陽動を兼ねて
敵へ一斉攻撃させましょう
その隙に一気に敵の喉元まで近づきナイフで一閃を狙います。
巨体は動作そのものが攻撃、注意しましょう

恐怖を抱きそうになったらナイフで自ら傷を付け
痛みで恐怖を緩和します


紬雁・紅葉
…ふ、ふふ、ふふふ…
羅刹紋を顕わに身を震わせ笑う
嗚呼!嗚呼!全く!全く度し難い!!

"剣神"の神霊体を宿し、正面からするすると近寄り
射程に入り次第九つの属性を織り交ぜた破魔衝撃波で
回数に任せ範囲ごと薙ぎ払う
奴隷が出てきたら風の衝撃波でまとめて吹き飛ばす

仲間は積極的にかばい援護射撃

敵の攻撃は見切り躱せるなら残像などで躱し
そうでなければ武器受けからのカウンター破魔衝撃波を狙う

弱きばかりを喰らう弱虫を畏れよと?
強きを喰らえもせぬ泥蛇を怖れよと?
斯様な小蛇風情が天下に覇を唱えると?
成程!その厚顔無恥は確かに恐ろしい!
(嘲笑)

痴れ者が!去り罷りませい!

※アドリブ、緊急連携、とっさの絡み、大歓迎です※



●恐怖を司る者
 岸壁に周囲を囲まれた場所で、猟兵達は巨大な竜と対峙していた。
 女王種ルベルレギナ。騎竜カエルラマルスの変異体であり、同時に彼らの頂点に立つ存在。
(「首魁に相応しい迫力……恐怖に駆られたら負け……か」)
 人語を解する邪悪な竜を前に、楠瀬・亜夜(追憶の断片・f03907)は油断なく相手の出方を窺った。
 全身から放たれる凄まじい威圧感。多くの命を狩って来たであろう爪と牙は、小柄な騎竜達のそれとは比べ物にならない。少しでも気を抜いたら最後、こちらの命は、そこで潰える。
「なるほどなるほど。女王様は大層な野望をお持ちでおられる。……残念ながら、その野望は叶う事はありませんがね」
 敵に気押されしないよう、亜夜は敢えて挑発的な言動を放ち、ナイフと銃を抜いて構えた。話の通じる相手とは思えなかったが、少なくとも舌戦において互角であれば、心で負けることはないだろうと。
「ふふ……ならば、どうする、小さき者よ? その矮小な火砲と刃で、我の首を取るつもりか?」
 もっとも、さすがは女王と言うべきか。ルベルレギナもまた亜矢の言葉に、何ら動じる様子は見せなかった。
(「相手の威圧に押されてはいけませんね。まずは、少しでも相手の動きを止めなければ……」)
 巨大な敵は、挙動そのものが脅威となる。ならば、脚を狙って動きを止めんと、亜夜は銃弾を連射する。
「……ほぅ、これは面白い。我を恐れず、無謀にも仕掛けたことは誉めてやろう」
 だが、小型の騎竜であれば瞬く間にハチの巣にしていたであろう攻撃を食らっても、竜の女王はしばし顔を顰めただけで、その銃痕から滴り落ちる血を軽く舐めてみせた。彼女からすれば、この程度の負傷など、掠り傷といったところなのだろう。
「下らぬ遊びの時間は終わりだ。貴様達には、今から絶望の未来を見せてやろうぞ……」
 響き渡る魔竜の咆哮。その声に闇の奥より呼び出されしは、恐怖に心を破壊されて、女王の奴隷と化した人間達。
「あれは……」
 奴隷の中に見覚えのある人影を見つけ、武器を握る亜夜の手が怒りに震えた。
 この洞窟に足を踏み入れた際、カエルラマルス達によって、生贄として女王の巣へと放り込まれた女性だ。彼女を始め、カエルラマルス達に攫われた者は、その多くが女王の手によって、心持たぬ奴隷へと変えられてしまっていた。
 村を襲った騎竜達が、その場で獲物を殺さずに攫った理由は、これだった。全ては、女王の糧となる奴隷を増やすため。奴隷の数が多ければ多いほど、女王は戦いの場において、自らの力を高めることができるのだ。
「見よ! これが我に恐怖し、絶望を胸に抱いた者達の末路! 遠からず、貴様達も同じ運命を辿ると知るがいい!」
 そのために、今から奴隷の肉を食らって、しばし腹を満たすとしようか。既に抵抗する力さえ奪われた奴隷達に、女王の非情な牙が迫る。が、その巨大な口が奴隷の頭を噛み砕くよりも速く、凄まじい衝撃波による一撃が、彼女の奴隷を吹き飛ばした。「……ふ、ふふ、ふふふ……」
 身体を小刻みに震わせて、紬雁・紅葉(剣樹の貴女・f03588)が笑っていた。その身に浮かび上がるは、羅刹の紋様。一瞬、恐怖に気が触れたのかと思われたが、彼女は至って冷静だった。
「嗚呼! 嗚呼! 全く! 全く度し難い!!」
 剣神の神霊体を身に宿し、紅葉は静かに竜の女王へと近づいて行く。生き物の本能としての恐怖よりも、内から湧き上がる怒りの方が大きかった。
「弱きばかりを喰らう弱虫を畏れよと? 強きを喰らえもせぬ泥蛇を怖れよと? 斯様な小蛇風情が天下に覇を唱えると? 成程! その厚顔無恥は確かに恐ろしい!」
 吸血鬼を越える存在になると言いながら、実際は山奥に身を隠して人を攫い、反撃の気を窺うばかり。そのような者が覇王を気取るなど、なんとも片腹痛い話であると。
「貴様……脆弱な肉の塊の分際で、我を愚弄するか? 貴様如き、死にかけた奴隷の一匹でも食らえば、それで十分よ」
 さすがに、これには黙っていられなかったのか、ルベルレギナは衝撃によって死に掛けている奴隷を咥えると、それを咀嚼して飲み込んだ。瞬間、紅き衣に包まれた蒼鱗が妖しく輝き始めるが、しかし女王が次の行動に出るよりも速く、紅葉が一気に距離を詰めた。
「痴れ者が! 去り罷りませい!」
 これだけ的が巨大であれば、攻撃を当てることも容易いはず。九つの属性を纏った衝撃波がそれぞれに女王の身体を薙ぎ、それに合わせて亜夜も続く。
「夢か現か幻か、その身で味わって頂きましょう」
 その言葉と共に、複製される彼女のナイフ。その数、およそ20本以上。飛翔する刃を驟雨の如く降り注がせるが、しかしそれは見せ技に過ぎず。
「死は平等に訪れる……。王よ、ご退場願いましょう」
 果敢に敵の懐へ飛び込むと、そのまま喉元をナイフの一閃で斬り裂いた。
「……ッ!? 貴様……どうやら、我を本気にさせたいようだな……」
 急所を狙われたことで、ルベルレギナの瞳が怒りの色に染まる。それを見た亜夜は、自分の意思とは関係なく、背中を冷たい汗が流れるのを感じていた。
 ああ、この女王は、未だ本気など出してはいなかったのだ。己の計画を台無しにされたことを怒りつつも、しかし自分達との戦いを、所詮は遊び程度にしか思っていなかった。
 だが、ここから先は、そうではない。逆鱗に触れられたことで、怒りに任せて荒れ狂う女王の力は、いかほどか。
「良いだろう……ならば、逝く前に見せてやろう。貴様達が決して抗うことのできぬ……本当の恐怖というものをな!」
 放たれた女王の咆哮が、周囲の空気と大地を震わせる。いや、それだけでなく、女王の視界に映る全ての者の心さえも、圧倒的な力で蹂躙して行く。
「……くっ!?」
「こ、これは……」
 恐怖には、決して屈しない。そう誓っていたはずの心が、ほんの一撃で折れそうになった。
 それは、生物の魂の奥に刻まれた、あらゆる存在が抱く根源的恐怖。いかなる豪傑や、高位の僧侶でさえ抗えない恐怖心を呼び覚まし、心の内に縫い付けてしまう女王の躾。
「ふん……他愛もない。貴様達には、既に逃げ場などないと知れ」
 巧みに動き回ることで撹乱しようと試みる亜夜と紅葉だったが、女王はそれさえも見通していた。
 魔竜の鱗が一際強く輝くと同時に、その身に纏った紅き衣が剥がれて行く。同時に、亜夜と紅葉の身体からは、己の意思とは関係なしに、全身の力が奪われて行く。
「ふふふ……絶望が! 痛みが! そして、苦痛と恐怖が我の糧よ! さあ、貴様達も我に、その血と肉を捧げるが良い!」
 紅き衣が巨大な爪と牙に変わり、亜夜と紅葉に迫り来る。恐れてはならない。避けねばならない。そう、頭で解っているのに、身体の自由がまったく効かない。
 これが女王の実力か。その視界に捉われ、咆哮を耳にしたが最後、心の奥底に強制的に恐怖を植え付けられてしまうのだ。
「……がっ!?」
 四方八方から迫る爪と牙が、紅葉を嬲るようにして痛めつけた。平時であれば難なく避けられるはずの攻撃だったが、女王の策に嵌った今の彼女は、抵抗する術もなく蹂躙されるだけだった。
「儚きものよ……。さあ、次は貴様の番……!?」
 続けて、亜矢に視線を向けた女王だが、果たして彼女の攻撃は、そこで止まった。
「そうは……行きませんよ……。恐怖に抗う術は……まだ、残っています……」
「貴様……自らの身体を傷つけることで、我の放った恐怖を打ち消したか」
 感心した様子で告げる、ルベルレギナ。鮮血の滴る脚の痛みに耐えながら、亜矢は全身に力が戻るのを感じつつ立ち上がり。
「……ふふ……どうした? 今ので終わりでは……あるまいな……」
 薙刀の柄を杖代わりにし、紅葉もまた立ち上がる。剣神の神霊を身に宿していたことが幸いし、紅葉は女王の恐るべき暴虐に耐え切ったのだ。
「なるほど……どうやら、我は貴様達を見縊っていたようだ。……いいだろう。竜の女王の名にかけて、我は全身全霊を以て、貴様達を迎え撃とうぞ!」
 再び響き渡る、凄まじい咆哮。猟兵達と竜の女王の戦いは、未だ始まったばかりである。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

西院鬼・織久
魔竜の噂を頼りに来てみれば
実に狩り甲斐がある
我等が怨念は底無しなれば
魔竜の血肉とて喰らい尽くそう

【戦闘】
【POW】
初手は「殺意の炎」を纏う闇焔による「なぎ払い」
手応えが硬いなら「鎧無視攻撃」「鎧砕き」の「二回攻撃」で足元を攻撃して動きを鈍らせる
鈍らないなら「影面」で足を拘束、爆発に合わせて「ダッシュ」
走る勢いを乗せ「串刺し」による「鎧砕き」
傷口を狙い武器に「影面」を伝わせ中で爆破する事で「傷口をえぐる」

戦場で常に五感と第六感を働かせ、敵のと戦況を把握
女王の奴隷は「殺意の炎」やなぎ払いの「範囲攻撃」に巻き込む
敵の攻撃は常に「カウンター」
狙いやすいのは回避か「武器受け」か「見切り」実行する


ビードット・ワイワイ
見たり見たり見たり、汝の破滅を見たり
驕りし考えどこからか。竜も吸血鬼も差はあらず
ただ屠られし対象なり。真に勝るというならば
挑んでみるがよかろうて。弱者を必要とせし段階で
既に弱者でありけりぞ。汝の破滅はここにあり

【世界知識】【戦闘知識】を用いてこの辺りにかつておりし
猟兵に敗れし吸血鬼の記録を参照せり
それをUCにて放出。真に勝るか試しけり
何度屠れど無駄であり。それは記録であるがゆえ幾度であろうと
復活せり。されど逃がすほど温厚であらず。挑むがよい戦うがよい

我は後方よりUCの恩恵にて高速移動【ダッシュ】しつつ
【誘導弾】を【一斉発射】し【援護射撃】兼【範囲攻撃】を行いて
【なぎ払い】けり



●抗えぬ枷
 あらゆる命の恐怖を食らい、己の糧とする紅き災い。
 竜の女王、ルベルレギナの持つ力は、血染めの災厄の二つ名に相応しいものだった。
「魔竜の噂を頼りに来てみれば、実に狩り甲斐がある」
 だが、そんな女王の間にあっても、西院鬼・織久(西院鬼一門・f10350)は何ら動ずる素振りを見せない。彼の中にある殺意と狂気が、それをさせているのだろうか。
「我等が怨念は底無しなれば、魔竜の血肉とて喰らい尽くそう」
「ほぅ……面白い。ならば、我はその無限の怨念ごと、貴様の血肉を糧にしてやろうぞ」
 もっとも、竜の女王を自称するだけあり、ルベルレギナもまた織久を前に怯む素振りさえ見せなかった。数多の悲鳴、数多の絶望を食らいて力を蓄えた彼女にとっては、地獄の様も狂える叫びも、血肉湧き踊る戦いの前菜に過ぎないということか。
「見たり見たり見たり、汝の破滅を見たり」
 あくまで傲慢な態度を崩さぬ竜の女王に、宣告するのはビードット・ワイワイ(根源的破滅招来者・f02622)。
 いったい、その驕りはどこから来るのかと。竜も吸血鬼も、所詮は過去の産物に過ぎない。猟兵に狩られ、屠られし対象であることに大差は無い。それだけ言って、記録された過去の嵌めつより、数多の吸血鬼の姿を放出する。
「真に勝るというならば、挑んでみるがよかろうて。弱者を必要とせし段階で、既に弱者でありけりぞ。汝の破滅はここにあり」
「言うではないか、機械風情が。ならば……貴様達の力を以て、この我に破滅とやらを体感させてみるがいい!!」
 女王が静かに立ち上がる。次に来るのは、爪か、牙か。出方と間合いを計る猟兵達だったが、果たして繰り出されたのは鋭い爪牙ではなく強靭なる尾の一撃だった。
「……下らぬ。いかに幻影を映し出そうと、その程度で我を惑わそうなどとは、片腹痛い」
 弾き飛ばされた岩塊が降り注ぎ、ビードットの展開した吸血鬼の記録達を次々に潰して行く。だが、それでも諦めることなく、ビードットもまた過去の残滓を新たにロードして繰り出し続け。
「女王に付き従う奴隷か。だが……敵の糧となろう者に、我らは一切の慈悲を持たぬ」
 殺意の炎を纏った一撃で、傍らに侍る奴隷諸共、織久はルベルレギナの足元を薙ぎ払う。
「……っ! ひぃぃぃっ!」
「あぁ……熱い……熱ぃぃ……」
 逆らう術も意思も持たぬ奴隷達は、瞬く間に焔に包まれ、灰燼と化した。それだけでなく、更なる一撃をルベルレギナの前足に食い込ませると、そのまま傷口に焔を流し、織久は容赦なく爆破してみせたが。
「……やるではないか、狂える戦士よ。だが、我の武器は、その身に宿した爪牙だけではないぞ?」
 甲殻が弾け飛び、脚の肉を剥き出しにされながらも、ルベルレギナは笑っていた。見れば、ビードットの繰り出した吸血鬼の記録は既に数を取り戻していたが、その光景にさえも、竜の女王は何ら驚く素振りさえ見せず。
「ほぅ……この一瞬で、再び兵を立て直したか。だが、我の前では悪足掻きに過ぎぬ」
「何度屠れど無駄であり。それは記録であるがゆえ幾度であろうと復活せり。されど逃がすほど温厚であらず。挑むがよい戦うがよい」
「笑止! そのような者どもを相手にせずとも、動く術を失おうとも……我の視界にある限り、貴様達にあるのは絶望のみよ!」
 大きく息を吸い込んで、ルベルレギナが高々と吠える。響き渡る咆哮は凄まじい衝撃を生み、織久は咄嗟に衝撃を殺さんと武器を構えて踏み止まったが。
「……馬鹿な。我等が……恐怖を覚えている……だと……?」
 己の意思に反し、武器を握る手が震えていることに気付いた時には遅かった。同じくビードットもまた、本来であれば持つことさえなかった感情が、己に刻まれた命令を上書きするかの如く、自らの中枢を侵食しているのを感じていた。
「どうだ、恐ろしかろう? それが、『恐怖』という感情よ。修羅として戦いの中に生きる者や、心を持たぬはずの機械には、なかなか新鮮なものであろう?」
 勝ち誇った様子で、ルベルレギナが二人へと告げる。女王の視界にある中で、女王の咆哮を耳にした者は、誰しもが恐怖の感情を付与されてしまうのだ。恐れを忘れた戦士であろうと、生まれながらにして恐怖の感情を持たぬ機械であろうと、それは等しく同じこと。
 このまま立ち尽くしていれば、次は無い。覚悟を決め、一気呵成に攻める織久とビードットだったが、しかし彼らの攻撃が、ルベルレギナの急所に届くことは決してない。
「……なん……だと……?」
「……かくして滅ぶは……我だったというのか……」
 封印を解かれた紅き衣。魔竜の身体を覆う布が、いつしか巨大な爪牙に変わっていた。織久とビードットの生命力を糧に姿を変えたそれは、彼らの胸板や脇腹を、情け容赦なく貫いた。
「ふふふ……皮肉なものよのう、機械の兵よ。なまじ、自立して動くための意思など持つことがなければ、我の叫びも通らなかったかも知れぬが……まったく、救い難いものよ。そして……」
 胸の装甲を大きく削られたビードットに苦笑しつつも、、ルベルレギナは同じく脇腹を押さえている織久へと顔を向け。
「狂える戦士よ。どれほどの者かと期待していたが……所詮は、力で押すだけの戦いしか知らぬ者か」
 こちらの鱗を穿ち、足を砕いたところまでは誉めてやろう。だが、どれほど強い力を持ち、どれほど優れた技を繰り出そうとも、こちらの視界に入り声を耳にした時点で、勝負にさえならぬのだと女王は告げた。
「興醒めだ……。真の強者とは、力のみで君臨するに非ず! 時に敵の心さえも操り、感情さえも授けることができると知れ!!」
 再び降り注ぐ紅き爪牙。ゆっくりと、しかし着実に迫るそれを避けることは容易に見えたが、今のビードットや織久には、避けるための力も術もなかった。
 敵を殺すために、わざわざ動く必要は無い。視界に捉えられたが最後、咆哮を耳にしただけで、強制的に感情を植え付けられる。一度、その術中に嵌ってしまえば最後、待っているのは命を吸われ、脱け殻のようにされた身体を蹂躙される未来のみ。
 血と肉と、そして錆びついた鋼の臭いが辺りに漂う。女王が見せる絶望の中、希望への活路は、未だ見えない。

苦戦 🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

アヴァロマリア・イーシュヴァリエ
※真の姿は宝石の翼を生やし、眩いオーロラを纏う神々しい異形

怖くないわ。あなたなんか、怖くない。
だって、許せないもの。沢山の人を傷付けて、貪って……絶対に、許さない。

「祈り」で心を満たせば、怖さなんて感じない。
UCで変化した体にオーラ防御の壁を纏えば、どんな攻撃だって耐えてみせるわ。
奴隷にされた人達を召喚するなら、食べられる前に誘導弾で狙い撃って動きを止めて、念動力で引っ張って助ける。
今のマリアの力なら、きっと出来るはずよ。これ以上誰も犠牲になんてさせない。

聖者の光は誰かを癒やすための、世界を救うためのものだけど……今はあなたをやっつけるために、『光あれ』


護堂・結城
恐怖せよ?…笑わせるな
この世界で戦うと決めた日に覚悟は済ませてる

理不尽に流される涙がやむ、その時まで
外道は殺すべし

【POW】

咆哮で恐怖を与え、恐怖を覚えたら爪牙、か
先のを見るにわかっても抗うのは辛そうならば、出る前に邪魔するしかねぇ
攻撃の出初めを見切り、先の先をとる先制攻撃
お供流の吹雪と共に衝撃波をのせた歌唱でカウンターだ

輪唱に切り替え『雪見九尾の心歌凍魂』を発動
全力魔法・属性攻撃・範囲攻撃・生命力吸収を載せて衝撃波を放つ
ルベルレギナを狙うと同時に氷牙の斬馬刀にも氷炎を纏わせ
怪力と破魔を込めた一閃で首を狙う

「この手に救いがなくとも貴様等外道が撒く絶望を狩り尽くす」
「…微塵と化して地獄に墜ちろ」


紬雁・紅葉
…確かに、強い…
羅刹紋を顕わに壮絶に笑みつつ


貴様ら泥蛇が弱者を蹂躙する如く
我ら羅刹は強者を打倒するが性!

「抜く」にに相応しい相手と認めようぞ!

天羽々斬を鞘祓い、十握刃を展開

狙いは逆鱗…喉元
破魔を宿したUCを以て薙ぎ払う
奴隷は範囲ごと吹き飛ばし払う
咆哮は気機を見切ってオーラ防御や武器受けなど併用しUCカウンターで相殺狙い

仲間はかばい援護射撃

恐怖恐怖と唱える女帝
恐怖を凌ぐ心を知らず
恐怖を知り尚立ち向かう
人、則ち「勇気」と言う

敵の動きが止まったら力を溜めてとどめの一撃
貴様如き!我が"宿命"に及ばぬ!
滅び去れぃ!!

釼を振って鞘に収め
これにて終いの次第


※アドリブ、緊急連携、とっさの絡み、大歓迎です※



●恐れ祓う力
 洞窟内に溢れ返る血の臭い。それはルベルレギナの攻撃によって傷を負った猟兵達のものだけでなく。
「うぅ……あぁぁぁ……」
「痛い……痛い……よぉ……」
 呼び出される度に、爆炎と衝撃で吹き飛ばされ続けた奴隷達。だが、今でこそルベルレギナの哀れな糧でしかない彼らも、元はといえば、攫われた村の人々だ。
「ふふふ……我に糧を食らわせぬため、非情に徹して奴隷を殺すか。その心意気だけは、見事と言えようが……我にとっては、奴隷の状態など些細なこと。贄として食らえれば、それでよい」
 血に塗れ、動くことさえできなくなった奴隷を、ルベルレギナは咥えて飲み込んだ。足を砕かれても立っていられるのは、彼女が自分の足下に倒れている奴隷を食らっているからに他ならず。
「さて……そろそろ、貴様達との遊びにも飽きて来たわ。無駄な抵抗は止め、我の前に全てを捧げよ」
 ルベルレギナの視界が、再び猟兵達を捉える。このまま正面から戦えば、咆哮を受けた瞬間に敗北が決まる。そう、分かっているはずだったが、しかしアヴァロマリア・イーシュヴァリエ(救世の極光・f13378)は退くことなく、女王の前に立ちはだかった。
「怖くないわ。あなたなんか、怖くない。だって、許せないもの。沢山の人を傷付けて、貪って……絶対に、許さない」
「ほぅ……言うではないか、女子よ。ならば、そのか細き腕で、我の首を狩ってみせよ」
 こいつは弱い。小柄な少女であるアヴァロマリアを見て、ルベルレギナは、そう判断したのだろう。
 女王の余裕は未だ消えず、全ての生殺与奪は彼女の手の内にある。しかし、ここで負けることは許されない。たとえ、勝ち目の薄い戦いであったとしても、それで諦めることは村の人々の信頼を裏切るのと同じことだ。
「恐怖せよ? ……笑わせるな。この世界で戦うと決めた日に覚悟は済ませてる」
 人々の植えた美しい花が、新しく生まれた尊い命が、どれだけ理不尽に吹き飛ばされようと、それでも最後まで抗い続ける。今から、その覚悟を見せてやろうと、護堂・結城(雪見九尾・f00944)また前に出て。
「……確かに、強い……。が、貴様ら泥蛇が弱者を蹂躙する如く、我ら羅刹は強者を打倒するが性! 『抜く』に相応しい相手と認めようぞ!」
 傷を負った身体を押して、紬雁・紅葉(剣樹の貴女・f03588)もまた羅刹紋を顕わに、壮絶に笑みつつ立ち上がった。
(「とはいえ、このまま戦っても勝機はねぇ。咆哮で恐怖を与え、恐怖を覚えたら爪牙……。だったら、出る前に邪魔するしかねぇ」)
 まともにやっても、抗う前に心が折られる。ならば、先に仕掛ける以外にないと踏み出す結城だったが、それよりも速く紅葉が動いた。
「勾玉にて気を廻し、剣音にて貫く! ……ェエイッ!!」
 接近と共に、繰り出されるは破魔の力を宿した衝撃波。地形さえも破壊する圧倒的な威力の前に、ルベルレギナだけでなく、その傍にいた奴隷達も吹き飛んで行く。
「ひっ……ぁぁぁぁっ!」
 いずれ、食われる宿命にあるのであれば、一撃で逝かせてやるもまた、せめてもの慈悲。糧を失い、これ以上の強化を見込めなくなったことで、ルベルレギナは憤怒に満ちた瞳にて猟兵達を睨みつけるが。
「その叫びは……響かせねぇぜ!」
 お供の小竜と共に結城が衝撃波を繰り出して、ルベルレギナの顔面に叩き付けた。
「……グッ! おのれ……小童が味な真似を!」
「まだよ! これ以上は、やらせない!」
 尾の一撃で結城を薙ぎ払わんとする竜の女王へ、続けてアヴァロマリアの誘導弾が迫る。だが、それはルベルレギナの喉元を掠めこそすれど、しかし傷つけることなく別の場所に着弾し。
「う……あぁ……」
「……さあ、もう大丈夫よ」
 気が付くと、未だ恐怖に怯えたままの、自分と同じくらいの小さな少女を、アヴァロマリアが抱き止めていた。
「ク……クククッ……フハハハハッ!!」
 戦いの最中、唐突に竜の女王が高笑いを始めた。一瞬、何事かと思い、その場にいる者達の視線が女王へと向けられる。だが、それらには一切の興味を示さず、ルベルレギナの視線は、アヴァロマリアと彼女が助けた少女だけに向けられていた。
「愚かなり、輝ける少女よ! あのまま我の喉元を屠っていれば、少しは勝機も得られたであろうに……貴様は千載一遇の機を、愚かにも、そこにいる矮小な奴隷を救うために使ったというのか?」
「ええ、そうよ。確かに、マリアの力じゃ、全員を助けるのは難しいわ。でも……それでも、目の前に助けられる人がいるのに、それを見捨ててあなたに勝っても、それじゃ誰も救われない!」
 嘲笑する竜の女王に、アヴァロマリアは毅然と答える。確かに、戦いに勝つことだけを考えるのであれば、奴隷を攻撃して無力化してしまった方が合理的だ。
 しかし、アヴァロマリアにはそれができなかった。そればかりか、攻撃の機械を捨ててまで、彼女は奴隷とされた者を助けることを優先した。恐怖を糧に力を増す魔竜の女王には、その行動の意図が分からなかったのだろう。
「下らぬ……実に下らぬ偽善よ。たとえ、この瞬間に救い出したところで、我を倒せねば全ては無意味なり!」
「無意味……いいえ、そんなことないわ! 目の前にいる一人も救えない人が、他のたくさんの人を救えるはずがない! 大勢のために、誰かに犠牲を強いるなんて……そんなやり方、マリアは絶対に認めない!」
 大のために小を犠牲にする。それを許さず、目の前の一人を救おうとする行動を、偽善と呼ぶ者もいるだろう。
 しかし、綺麗事だけで全てを救うことはできずとも、その綺麗事さえ貫けないのであれば、誰も救うことなどできはしない。それを知っているからこそ、アヴァロマリアは躊躇わない。
「ならば、その心……我の咆哮で蹂躙してやろうぞ」
 再び轟く女王の叫び。それを耳にしたが最後、機械や神さえも恐怖する。が、そんな咆哮の直撃を受けたにも関わらず、幼子の盾となり立ちはだかるアヴァロマリアの心は折れなかった。
「貴様……心に壁を張り、我の恐怖を退けるというのか? おのれ……小賢しい真似をしてくれる」
 歯噛みする、ルベルレギナ。確かに、アヴァロマリアには、大剣を振るう力もなければ、強大な魔術を操る術もない。
 だが、光輝く真の姿に覚醒し、光のエネルギー体へと変じた上で、心にオーラの壁を纏えばどうだろうか。心を強く持つだけで駄目なら、その心を光の幕で覆い、耐えるまで。
「う……あ、あれは……」
 洞窟内に満ち溢れる光に照らされて、傷付き、倒れていた他の猟兵達もまた目を覚ました。
「聖者の光は誰かを癒やすための、世界を救うためのものだけど……今は、あなたをやっつけるために! ……『光あれ』」
 全身を更に輝かせ、アヴァロマリアは自身の身体より無数の光線を発射する。このまま戦い続ければ、いずれ心の壁も剥がされてしまう。だからこそ、ここで一気に決めねばならない。
「クッ……な、なんだ、これは……。まさか……我が恐れているというのか? このような小娘如きを……竜の女王である、このルベルレギナが!?」
 その身を光に貫かれ、ここに来てルベルレギナが初めて後退した。
 数多の贄を食らいて力を増し、吸血鬼さえも超える存在となった竜の女王。人語を解すまでに進化を遂げ、根源的な恐怖を司り、時に豪傑の心さえも容易く圧し折って来た彼女は、しかし今、たった一人の少女を前に、骸の海へと帰される恐怖を感じている。
 圧倒的な力を持つ女王の、最大にして唯一の弱点。それは、恐怖を与えることができなければ、次の攻撃に繋げないこと。問答無用で命を奪い、獲物を嬲り殺す紅き爪牙も、相手が恐怖を抱いていなければ、発現させることができないのだ。
「許さぬぞ、小娘! ならば、その心の壁諸共に、我の全力で粉砕してくれる!」
 再び咆哮を放たんと、ルベルレギナが口を開く。次の一撃を受ければ、さしものオーラの壁でさえ、脆くも粉砕されてしまうことだろう。
 もっとも、放たれた咆哮が聖なる光を穿つことは決してない。ルベルレギナの視線からアヴァロマリアを庇うようにして、立ちはだかったのは紅葉だった。彼女もまた、心にオーラの障壁を纏わせ、辛うじて恐怖の叫びに耐えていた。
 ルベルレギナの咆哮は、視界に入った全ての者に、問答無用で効果を示す。しかし、視界にさえ入っていなければ、心を砕く恐るべき咆哮も、所詮は単なる雄叫びに過ぎない。
「恐怖、恐怖と唱える女帝、恐怖を凌ぐ心を知らず。恐怖を知り尚立ち向かう……人、則ち『勇気』と言う」
「勇気、だと……? そのようなものが、我の恐怖を超えるというのか!?」
 紅葉の言葉に驚愕するルベルレギナへは、もはや掛ける言葉もなし。互いに頷き、最後の一撃を決めるべく、紅葉と結城が大地を蹴る。
「貴様如き! 我が"宿命"に及ばぬ! 滅び去れぃ!!」
「この手に救いがなくとも、貴様等外道が撒く絶望を狩り尽くす……。微塵と化して地獄に墜ちろ」
 破魔の力を纏った紅葉の釼が、氷炎を纏った結城の斬馬刀が、それぞれにルベルレギナの喉下へと迫る。狙うは急所、ただ一点。避ける間もなく貫かれ、女王の断末魔が響き渡り。
「ギィィィエェェェェッ!!」
 これが痛みだ。これが恐怖だ。最後に、それら全てを知って逝け。
 噴き出す鮮血に染められて、竜の女王が崩れ落ちた。騎竜を操り、人々に恐怖を与えて食らい尽くし、悪逆の限りを尽くしたルベルレギナ。数多の血に染まったその巨体が、見事に狩られた瞬間だった。

●少しでも、救えるだけでも
 戦いの終わった洞窟内は、先程までの様子と打って変わって静まり返っていた。
 生き延びた奴隷達に手当てを施し、猟兵達は外へと出る。いつしか空は暗く染まり、辺りには闇が広がっていた。
「ごめんなさい……。約束したのに……マリアは、皆を助けられなかった……」
 その瞳に涙を湛え、アヴァロマリアは自身が助けた少女に告げた。もっとも、少女は何も言わずにアヴァロマリアの手を取ると、光を失った瞳で静かに見つめて来るだけだった。
 ルベルレギナの与えた恐怖。それによって、少女は言葉を失っていた。この先、彼女が言葉を取り戻す日が来るかどうか。それは誰にも分からないが、しかしひとつだけ言えることがある。
 この闇に閉ざされたダークセイヴァーにおいて、命とは希望、そのものだ。それはどんな種類の、どんな形のものであっても変わりなく、目の前の少女とて同じこと。
 彼女が再び、言葉を取り戻したときに、笑顔で過ごせる世界を作ること。そのために、今は戦い続けねばならないと、猟兵達は改めて心に決めた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年03月08日


挿絵イラスト