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やめなさい猟兵の皆さん! ~限界へのデスロード~

#キマイラフューチャー #【Q】 #戦後 #キング・ブレイン

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#キマイラフューチャー
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#【Q】
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#戦後
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#キング・ブレイン


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●ある猟兵の思いつき
 ある晴れた日の昼下がり、ゲームセンターへ続く道。
 しゃーっと勢いよく走ってく一般キマイラの皆さんを見て、ある猟兵が言った。
「そういやブレブレ閣下掴まってないわね」
 彼女のいうブレブレ閣下とはキマイラフューチャーを襲う猟書家、キング・ブレインのこと。
 善良なる悪の大首領として礼儀正しく怪人たちを操り、
 悪いことをしたりしなかったりするなんかキャラ濃いおっさんのことだ。

「逃げ足だけは速いからな」
 別の誰かが言い、何度追われても自転車で逃げ遂せるその足さばきに肩をすくめた。
 そこで最初の猟兵がふと、思いつきを口にする。
「どうせ逃げられるんだったら盛大にいやがらせ吹っかけちゃわない? 三連チャンくらいで」
 びっ、と。指を立てる口元には意地悪く、悪戯っぽい笑み。
「名案だ、乗ろう。倒せなくともしばらく筋肉痛ぐらいにはなるだろう」
 山羊の角を揺らしながら、別の誰かが首肯する。
「ぴっ! 皆さんを呼んでくればいいですかねっ。善は急げ、なのですよっ!」
 くるくる舞う鳥は翼を翻し颯爽と決めポーズ。たぶんこの子何も考えてない。
「そうと決まれば、作戦開始よ!」
「おー!」
 かくして、世にも無茶な悪戯大作戦が計画されたのでした。暇かな。

●世にも迷惑な大作戦
 その日、グリモアベースを訪れたリグは、開口一番こう告げる。
「キング・ブレインにちゃりんこレース挑むわよ! ……三連チャンで」
 最後の付けたしに「へ!?」と目を剥くそこのあなた、それが普通だからそのままでいて下さい。

「あのね、猟書家のキング・ブレインは知ってるわよね? なんか憎めないヒトだけど逃げ足速くて、何度も皆が逃げられてるっていう」
 多分一度見かけたら忘れないので、はじめてのアナタはこれから覚えればいいだろう。
 キング・ブレインは自転車レースをしてるとなぜか突然乱入してきて、レースが終わると逃げていく奇行を繰り返している。
 彼はテレポート機能を持つ「ブレイン・バイシクル1号」に乗っており、どんなに猟兵が追い詰めても超速度で次元を超えて逃げてしまうのだという。
「今の私たちじゃ、逃げ足の速さに太刀打ちできないわ。本当に捕まえてチョメチョメ、もとい何とかしたかったら、地道にキマイラフューチャーの事件を解決していくほかないと思うの」
 途中聞こえた単語はともかく、まったくもってその通りである。

「でもね、全速力で自転車を漕げばさすがに疲れはすると思うのね」
 なるほど、確かにそうだ。猟兵だって疲れ知らずではない、猟書家も同じように疲れはたまるかもしれない……で??
「だから、ね。三連続でチャリレース挑んで、ひーひー言わしちゃいましょ!」
 なんとこの人、嫌がらせのためだけに思いついた様子である。
 何言ってんの?? と常識的な反応する人とイェアアアア!! とボルテージ上がる人に分かれそうだが、以降残ってる皆さんは後者だと仮定して話を進める!

 レースのスタート地点はキマイラフューチャーの市街地。
 猟兵の皆にはまず自身にあったバイクを選んでもらい、それからレースに漕ぎ出す事になる。
「今回のコースはアップダウンの激しいエリアになるわ! 上り道は軽い自転車が有利だけど、下りは重さのある方が有利になるから一長一短ね。電動アシストは認めないから、そのつもりで!」
 レースが始まると、まずは猟兵だけで順位を競う形となるが、ある地点を境に大首領が乗り込んでくる。
「キング・ブレインはレースをやめると音速で帰っちゃうから、レースを続けながら戦う必要があるわ! 普段使ってるユーベルコードも自転車こぎながら使わなきゃいけないから、うまいこと手が、もとい足が空くよう工夫してみて!」
 ここまでしてもブレブレ閣下を倒すことは恐らくできないと予知されているが、猟兵達が奮闘すれば彼の太ももに全治一週間の筋肉痛を残すぐらいはできるかもしれない。
 ……え? 猟兵達の筋肉痛? 勘のいいガキは嫌いだよ。

 説明を終えたリグは、まだ何か問いたげなあなたたちをグリモアの転送で半ば強引に現地へ送り込む。
「いってらっしゃい! 肉離れには気を付けるのよー!」
 あ、とってもイイ笑顔。この人、マジで死力尽くさせる気だ……!


晴海悠
 Q.三連勝負しかけて何になるの?
 A.嫌がらせになる。あと私の腕が死ぬ。
 晴海悠でございます! コメディのターン。

◇何すればいいの?
 チャリ機漕ぎつつ全力で嫌がらせしろ。以上。

◇自転車選び
 以下の中からお選びください! 省略記号でも可。
 マウンテンバイク(MT):坂道得意
 ロードバイク(RB):平坦な道で稼げる
 ママチャリ(MM):母は強し(カゴも前後ある)
 変形自転車(MZ):だるま自転車など任意の形状。略称はマゾの略
 異種競技(IS):一輪車やセ●ウェイ的な何か。ただし電動部品は取り外されてる

◇一章
 猟兵の皆さんだけでチャリレースします! 上り道中心。
 電動アシストなどは使えませんが、ユーベルコードでの加速は認めます。やりすぎるとコースアウトします。
 なお、ここでのレースが白熱しないとそもそもブレブレ閣下が来ないので要注意。
 ライバルを蹴落とす系は大概自分に跳ね返るので、正々堂々ズルをしましょう。

◇二章
 お待ちかね、ブレブレ閣下のターン!
 下り道で手を抜かずデッドヒートを繰り広げろ。最後は必ず逃げるけど嫌がらせするなら今だっ。

◇特殊ペナルティ『筋肉痛』
 二章など、二度目以降のプレイングには猟兵であっても『筋肉痛』がのしかかります。
 これは私の同時運営する他の自転車シナリオ含めて、です。
 対策を考えない限り、参加回数に応じて自動的に成功段階が1段階ずつ下がります。「猟兵だから無敵」は通用しないのでヨロシク!

◇その他諸注意
 コメディですが、お色気方面など過度に振り切れるとコースアウト(プレイング不採用)となります。読む人の気持ちも考え、公序良俗にはお気をつけて!

 それでは、一足先にゴールでお待ちしてま~す! 晴海悠でした。
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第1章 冒険 『白熱の自転車レース!』

POW   :    力の限り漕ぎまくり、スタミナに任せて前を走る

SPD   :    前半は体力を温存し、ここぞのタイミングで一気に仕掛ける

WIZ   :    対戦相手を利用したコース取りを行い、風の抵抗を避ける

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

山吹・慧
なるほどッ! 筋肉痛とは盲点でした。
中々凄いアイディアだと思います。
これならキング・ブレインさんに一泡も二泡も
吹かせてやる事ができますよ、たぶん。
僕も自転車には普段から慣れ親しんでいるので
お手伝いしましょう。

自転車はママチャリにしましょう。
乗り慣れたタイプですから、
最も力を発揮できるでしょう。
ダサいとか言われても気にしません。

事前にコースの情報を仕入れて【学習力】で
憶えておきます。
レースは序盤は【エネルギー充填】する事で温存しましょう。
急カーブ等の注意箇所は【集中力】で対応。
最も登りの険しい箇所に来たら【リミッター解除】
して一気呵成に仕掛けます。

アドリブ等歓迎です。



 遠方にそびえる長大な上り道はデッドヒートの予感。キマイラフューチャーとはいえ季節は初夏、日中は陽炎のゆらめくコースは下手すれば熱中症まっしぐらだ。
 だが、それも長きに渡って肉体を鍛えた者には無用な心配。銀誓館学園の誇る拳士、山吹・慧(人間の玄武拳士・f35371)は暑さなど微塵も感じさせぬ笑顔で拳を握る。
「なるほどッ! 筋肉痛とは盲点でした。これならキング・ブレインさんに一泡も二泡も吹かせてやれそうですね」
 実際に倒すにはまだもうひと踏ん張りを要するものの、慧もこうした意趣返しには気乗りがする性質らしい。早速と日頃乗り慣れたママチャリを選び、サドルの位置を調整する。
「こういうのはやっぱり、慣れてる形式が最も力を発揮できますからね……ダサいとか言われても気にしません」
 ペダルの高さで膝にかかる負担も調整し、ブレーキの利きも確かめるぬかりのないチェック。
 なお、全国の主婦(夫)を代表して言うが、ママチャリはちっとも格好悪くはない。ハンドルも握りやすくコーナリングは容易、何より前後のカゴは日々の生活に欠かせないものなのだ。

   ◇    ◇    ◇

 事前にコースの下見を済ませた慧は、自慢の記憶力でアップダウンの地形を頭に叩き込んでいた。
「こういうのは配分が大事って聞きましたから」
 レース序盤、訪れる難所は地味に続く上り坂。カーブで距離を詰めることもできない純粋ストレートのアップヒルは、じわじわと太ももを痛めつけ、勝利への意欲を削ぐだろう。
 しかしレースに於いて、他の走者が速度を落とす箇所こそ勝負どころ。一度大きく距離を離せば相手の心を折ることもでき、順位に大きく差がつくだろう。
 だから序盤の慧は、スタートダッシュにも惑わされずエネルギーの温存に注力した。
 出だしを急いた者は必ず上り坂で息を切らす。実際のレースに差がつくのは地道な忍耐の要される場面だと、慧は経験上熟知していた。
 持ち前の集中力で連続カーブを乗り切り、いざ上り坂へ。
「ここが、粘りどころです……!」
 心臓破りの坂に、一般キマイラの走者たちが次々と脱落する。なおも追い縋るライバルを退け、慧は速度を緩めずペダルを漕ぐ。

 坂の頂点が次第に近づき、追い抜こうとする者の気が萎えるのを感じた。ここを乗り切れば後は楽と言い聞かせ、残るわずかな直線を登り切る。
 傾斜が緩み、漕ぐ太ももがずっと楽になった。自分が何位なのか、今は確かめようもない。それでも、前方に開ける下り坂の視界は、きっと悪い順位ではない事を予感させた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

青梅・仁
確かに三連チャリレースは嫌がらせになるよなあ。筋肉痛もヤバそうだけど呼吸器とかにもきそうで怖いわぁ。
よし、おじさんもノっちゃお!
問題は俺が乗れる自転車があるのかって話なんだがな!

高さ的にだるま自転車ならギリ尾を引き摺らずに済むかね。
尾でちょいちょいして漕げる訳がないから神気でこう……結構疲れるな。
……筋肉痛にはならねえけど、これ終わったら寝込む気がしてきたな?(今気づいた)(もう引けない)

だるま自転車って低速だとバランスとれねえのな……じゃあもう飛ばすしかねえな!?
コースアウトしてキング・ブレインに会う前に脱落なんてのはつまらんからな、どうにかコントロールしてブレブレな高笑いを待つとするか!



 猟兵達の振り絞るダメな悪知恵には、毎度感嘆の念を禁じ得ない。
 その猟兵陣営の中でもそこそこ年季の入った自負のある青梅・仁(鎮魂の龍・f31913)は、軽く腰の後ろをトントン叩きながら空を仰いだ。
「確かに三連チャリレースは嫌がらせになるよなぁ」
 筋肉痛はもちろんとして、横隔膜にまで来れば息も絶え絶えになりそうだ。最後に全力で駆けたことなど、何十年前かもわからないが、不格好に歩くブレブレ閣下を想像すれば疼く悪戯心が大人の自制心を上回る。
「よし、おじさんもノっちゃお! 問題は俺が乗れる自転車があるのかって話なんだがな!」
 そう、仁は龍神である手前、尾が長い。漕ぐ足がないのは当然だが、たとえ推力を得たとて自慢の龍尾をずるずる引きずるのは御免だ。
「高さ的にだるま自転車ならギリ引き摺らずに済むかね……尾でちょいちょいして漕ぐ、のは無理だから神気でこう……存外疲れるな」
 前輪のでかいだるま自転車に試乗してみれば、助走の間バランスを保つのはもちろん、飛ばすにはそれなりの力を注ぐ必要があった。何度もトライする様を「おいたん、がんがえー」と幼児たちに見守られ、補助輪をつけた気分に思わず涙がにじみかけた。
「……って。筋肉痛にはならねえけど、これ終わったら寝込むの確実だな??」
 なんで到着前にコースの説明を聞かなかったのか――青褪める仁の前には、それはもうどこまでも続く長い、アップヒルが待ち受けているのだった。テールランプが綺麗だね!

 どうにか練習を積み、迎えたレース本番。仁はスタートダッシュにやや遅れながらも助走をつけ、黒雲と共に神気を身に纏う。
「だあぁ、出遅れた! だるま自転車って低速だとバランスとれねえのな……じゃあもう飛ばすしかねえな!?」
 邪念を振り払うように強化魔法を施し、前方に風よけの結界を創り出す。後ろに噴き出す神気が大気中に散り、微細な粒子と反応してきらきらとダイアモンドダストのような軌跡を残した。
 初めこそ後れを取ったが、少し前を行く競争相手の背中がじりじりと近づいた。行ける。神気放出の配分が悩ましいが、今ここで出し惜しみできるほど己は器用でない。
 キング・ブレインに会う前に脱落なんてのはまっぴら御免だ。せめてその面を拝むまでは、レースに負けてなどいられない。
「どれ、どうにかコースアウトしてブレブレな高笑いを待つとするか! ……あ゛」
 何でだろう。何でそこ、言い間違えたんだろう。
 すべてを悟った顔のまま、仁はコーナーのガイド柵を乗り越え、「99」という数字に見えなくもない遥か頭上の雲を笑顔で仰いだ。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

雨倉・桜木
MM

…なんでぼくは此処にいるんだろうね?
ええい、仕方ない。やろう。来たからにはやるしかない。

カモン・キュウダイくん。前かごに乗って。
人参吊り下げられた馬戦法で行こう。目の前にはキュウダイ君、だ。

(飼い主を哀れむ愛猫の目※正しくはドン引きしている。特別意訳:お前馬鹿なの?)

こういうのはノったもの勝ちなんだよ。
ブレブレ閣下、筋肉痛起こすような身体してるのかい?ってところからツッコミ必要だからね、これ。どうみてもあれ骨…。

まあ、いい。猫砂5kg×4つをチャリで買い物しているぼくだ。
これくらいの坂なんのその。あ、キュウダイ君、向かい風の軌道ちょっとまげて軽くしておくれ。

(ギャグ方面アドリブ大歓迎です)



 髪に咲く、八重紅の桜の色づいた花びらがひとひら、大都会の風に舞った。
 グリモア猟兵の語る調子に任せ、ふんふんと聞き流していたはずの雨倉・桜木(花残華・f35324)は、キマイラフューチャーの路面を踏んでいる己に一瞬驚いた顔をした。
「……なんでぼくは此処にいるんだろうね?」
 口車に乗せられたのか、それとも魔が差したのか。どことなく後者な気もするが、いずれにせよここに来た以上は依頼を受けた事実に相違あるまい。
「ええい、仕方ない。やろう。来たからにはやるしかない」
 日常生活で鍛えた足腰はあるが、自転車レースにはそこまで馴染みがない。それならば己の得意な土俵に変えてしまおうと、桜木は使い慣れたママチャリを一台、選び取った。
「カモン・キュウダイくん。ささ、前かごに乗って」
 ベベンと三味線の|撥《バチ》を弾き、呼び出された一角化け猫は自慢の縞模様の尻尾を揺らして不機嫌そうに「みゃあ」と鳴いた。霊力の賜物か、額の角以外は毎度姿が変わるのだが、今回呼び出されたキュウダイは微妙に眉根を寄せたような表情をしていた。
「二人三脚、人参吊り下げられた馬戦法で行こう。目の前にはキュウダイ君、だ」
 桜木を振り返る愛猫は「にぃ」と短く鳴いた。猫好きが見ればわかるキュウダイの表情は、心なしか『お前馬鹿なの?』と哀れむような視線に思えた。

 レースが始まり、愛猫を前に乗せたママチャリはぐんぐん加速を得る。
 市街地を抜けるコーナーを抜け、レースは序盤の名所、アップヒルに差し掛かる。『ちー』したにおいを取る猫砂は結構重いが、あれを毎度四袋乗せて坂道を漕いだ、鍛えられた太腿はここぞとばかりにスラックスの下で膂力を発揮した。
「こういうのはノったもの勝ちなんだよ。大体ブレブレ閣下、筋肉痛起こすような身体してるのかい? ってところからツッコミ必要だからね、これ」
「にぃー」
 そうなの? とどうでも良さげに欠伸をする猫の瞳に、目まぐるしく移り変わる景色が映り込む。硝子のような瞳は最初流れる風景に見入っていたが、そのうち速さに順応したのか再び欠伸に目を閉じた。
 前方を行くライバルが姿勢を低めてカーブを曲がり、桜木のママチャリもカーブに差し掛かる。漕ぐ足を一旦止めてバンクの傾斜と同じ向きに傾いだ車体は、速度を落とす事なく迫るカーブを乗り切った。
「あ、キュウダイ君。向かい風の軌道、ちょっとまげて軽くしておくれ」
「みゃあ」
 屈折を司る化け猫の神通力は、向かい風どころかビルの合間を抜ける突風の勢いをぐにゃりと曲げた。予想外の方向から煽られ支点を失った看板が、桜木たちの前方へと音を立てて迫る。
「おわわわわ! ちょっ、曲げて、まげて!!」
 再びの風に煽られ、カワイイ怪人・(故)ラビットバニーの看板が桜木にぶつかる寸前、ぐにゃりと|拉《ひしゃ》げた。後続のレーサーが顎を強打し、「がふっ」と可哀想な呻きをあげて路上に転がる。
「キュウダイ君……そういうハプニング、求めてないから」
「にぃー」
 汗を拭きながら、桜木は愛猫に話しかける。後の桜木が語るには、化け猫はこうした方が撮れ高がどうだの、と申していたとか。

成功 🔵​🔵​🔴​

冬原・イロハ
アドリブ歓迎

自転車でぶいぶいひーひー言わせればいいのですね???
キックボード的なもので行ってみます

●REC
ブリキザメさんに動画撮影用の機器を装着して一緒にGO!(そこら辺で飛んでる応援要員
猟兵とブレブレさんの戦いを猟兵視点で生中継できたらなって思いました
楽しく見てくれるかしら?

るんるんと悪路走破しつつキックキックしながら、上りはたまにUCも使っちゃいましょう♪
私は! 風に! なる!!
寿命を削りますが、ヨシなのです
これはいのちかけた勝負!!
ブリキザメさん、撮れ高はどうですか?
迫力ある図は撮れてるかな

下りはブリキザメさんにくっついてもらいます
二人(一人と一体)でひとつ!
迫力ある下り映像を狙います



 藍の瞳がきょろきょろと頭上を見上げ、猟兵達の会話を耳にする。
「ええっと、自転車でぶいぶいひーひー言わせればいいのですね??」
 趣旨の理解が早い冬原・イロハ(戦場のお掃除ねこ・f10327)、やっちまえ! と言われたら秒でグーパンアッパー叩き込みそうだ! おっとりして見えるのにとるアクションがばっさりなあたり、脳筋解決メンバーとして定評があるとか。
 早速呼び出したブリキザメさんをお供に、ふよふよとてとてとキックボードの元へ向かう。目に留まった幼児用ボードの表面には鮮やかな南国のハイビスカスの柄、一足先に夏を感じられる気がしてこれにしようと決める。
「あ、そうだ。ブリキザメさん、これを持っててほしいのです」
「クシャー?」
 動画撮影用のアタッチメントをくるりとヒレに巻き付け、サメさん視点での撮影を依頼する。曰く、猟兵とブレブレさんとの戦いを生中継できたらキマイラ全土が湧くのではと思ったとか。
「楽しく見てくれるかしら?」
 小さなカメラに浮かぶ「●REC」の文字。伝え聞く情報から、閣下はデビチューブやらが有名な某世界出身の可能性が高い。チャリ勝負はもちろん、配信にも快く応じてくれるだろう。

 開始位置に立ったイロハは開幕直後、やや出遅れながらもキックボードを蹴り蹴りしてスタートダッシュを決める。
「るんたった~♪ ブリキザメさんと一緒なら、悪路もなんのその、です」
 途中路面が粗いところに差し掛かり、ガガガッと来る振動に「はわわ」と瞳が細かく縦揺れするも、何とか抜け切ればあとはしばらく滑らかロードが続く。
「……はっ。あの坂は、結構長そうですね?」
 このまま平坦な道が続けばいいが、遠くに見えるあれは連綿と続くアップヒル。なだらかな坂とはいえ長い坂道は体力を奪い、レーサーたちの心をくじきにかかるだろう。
「いいえ、私は戦場のお掃除ねこ。ここで怯んではいられませんね。私は! 風に! なる!!」
 ぶわわっと纏う烈風はイロハの背を押し、竜巻のような気流が坂の上へと小さな体を吸い上げる。単純な漕ぐ力だけなら敵わないところ、風を味方につけたイロハはライバルレーサーが驚きに目を剥く速度で坂を上る。
「この先の下りはブリキザメさんも一緒ですよ! 二人でひとつ、です!」
 怒涛の追い抜きっぷりでじわじわと順位を詰めるちっちゃな闘志に、生放送の画面上にはコメントと無数のいいねハートが飛び交っている。
 ところで、この技寿命を削るとのことだが、いいの? ここで削って?
「これはいのちをかけた勝負、勝てばヨシなのです!」
 いいんですって。猟兵、得てして寿命を削りがちである。

成功 🔵​🔵​🔴​

榎木・葵桜
【茜桜】
MZ:愛チャリな桜花車(達磨自転車)でいくよ!マゾじゃないよ!

やーだな、アカネちゃん、
先日のキャンプは美味しいもの三昧で幸せだったでしょ?(にっこにこ)
(キャンプではダイエット宣言を早々に翻しアカネちゃんを邪魔した張本人)
ここでのストレスは後でブレ様にぶつけちゃお★
減量+メリハリボディ養成頑張っていこー!

(※アカネちゃんを煽って後でブレ様嫌がらせに役立てるターン:予定)

コース上の走りは基本立ち漕ぎで力押しの全力疾走
上り坂は結構負荷かかるけど、ダイエット的にはありだよね!
傾斜で転ばないようにだけ注意して頑張るよ!
筋肉痛のことは後で考える!

…けど、けっこーきついよね、これ!


アカネ・リアーブル
【茜桜】
(おなかをぷにっ
確かに
先日のキャンプは至福の時でした
美味しいものたくさん甘いものたくさん
体重もたくさん…(号泣)
アカネはなんとしても水着コンテストまでには痩せるのです!

そこで自転車です
全身の有酸素運動で脚痩せ・お腹やせが叶う最高のダイエット法! 
夏までに痩せるならば最適なダイエット法
アカネズブートキャンプ開幕です!

重くした自転車での登坂に立漕ぎて走り息も絶え絶えに
葵桜様の応援を一身に受けても応える気力がなく
どうして、登り坂、ばかり、なん、ですか!
これが、噂、の、いろは坂…!
アカネ、は、が、んばり(登り坂にふしゅーと撃沈

…ブレ様覚悟をなさりませ?
このストレス、必ずぶつけて差し上げますね?



 キマイラフューチャーにも季節はあり、いまは初夏間近。熱されたアスファルトの照り返しに加え、大都会の人ごみに、じっとりと肌に纏わる熱気が一度、気温を上げたように感じた。
 暑い季節は嫌な事ばかりでなく、楽しいイベントも待ち受けている。たとえばそう、多くの人が水辺に遊ぶプールや海開き、水着コンテストとか。
「あ、水着……キャンプがもうちょっと、前ならよかったのに……」
 季節先取りで街角に並ぶきらびやかな水着を見て、アカネ・リアーブル(モフとダンスは世界を救う・f05355)は何か過ちを悔やむように目を伏せた。
「やーだな、アカネちゃん。あのキャンプは美味しいもの三昧で幸せだったでしょ?」
 桜花思わす薄紫の愛用車を押し、榎木・葵桜(桜舞・f06218)は空いたもう片方の手をアカネの背中に添える。件のキャンプには葵桜もいたが、脳裏に描く記憶は楽しいばかりで、アカネにそんな顔をさせるものだとは思えない。
「うう、ううぅ……確かに、先日のキャンプは至福の時でした」
 言い含められたように一度は頷き、アカネはアスリートアースでの楽しいひと時を思い返す。山の心地いい空気に美人のお姉さんの振る舞う手料理。楽しいだけで終われたらよかったのだが乙女心は複雑で、アカネは楽しさの『代償』をぷにりとつまんだ。
 だって、着物を着るときのタオルが最近あまりいらなくなって。お洋服を着た日にゃ、肌色の何かが『上に乗る』んですもの。
「美味しいものも甘いものもたくさん、体重も……たく……うああああん……!」
 さめざめと泣くアカネにさしもの葵桜も気の毒になり、励ますように背中を押して自転車置き場へと送り出す。
「ここでのストレスは後でブレ様にぶつけちゃお☆ ほら、逆に減量のチャンスだって捉えるんだよ。メリハリボディ養成、頑張っていこー!」
「うう……メリハリぃ……! アカネはなんとしても水着コンテストまでには痩せるのです!」
 二の腕、|背《せな》肉、お腹の肉。脂肪はどうしていってほしい所にいかないのか。
 いまは見事に平坦なだらかな体型だが、全身有酸素運動の自転車なら、きっと脚とお腹の両方に効く筈。意気込んだアカネはママチャリを選び、前後のカゴに負荷増量用の重りを次々と積み上げていった。

   ◇    ◇    ◇

 開幕を告げるスタートランプが順に灯り、いざ漕ぎ出した段階でアカネは思わず前につんのめりかけた。試乗こそしていたが、負荷がどの程度のものになるかは実際に乗ってみてわかるものだ。
「負けません……アカネズブートキャンプ、開幕です!」
「おー、アカネちゃんその意気だよ! ふぁいと、ふぁいと!」
 隣で笑う葵桜もだるま自転車でそれなりに漕ぎにくいはずだが、重りを足した自転車の比ではない。下り坂になれば勢いも出ようが、それまでの道のりが長く感じる。
 やがてコーナーを抜け、コースはいよいよ前半の山場、上り坂へと差し掛かる。
(「上り坂は結構負荷かかるけど、ダイエット的には全然ありだよね!」)
 立ち漕ぎで体重を乗せ、リズミカルに坂を上っていた葵桜は、ふと隣の速度がじりじり落ちてきたことに気づく。
「けっこうきついよね、これ……ってアカネちゃん!?」
「……ばはっ、ぶぇ……」
 乙女にあるまじき苦しげな呻き。先の長さを見るまいと路面に目を落とし、アカネは息も絶え絶えながらに言葉を紡ぐ。
「どうして、登り坂、ばかり、なん、です、か……!」
 うん。騙して悪いがこの坂、部位破壊(太腿と心臓)持ちでね。そこはあきらめてもらおう。
「これが、噂、の、いろは坂……!」
 だんだんと勢いが落ち、横に曲がろうとする車輪は既に言う事を聞かない。一度だけ坂の頂上を仰いだ瞳が、力なく緩む。
「アカネ、は、が、んばり……」
「アカネちゃん……!?」
 水分補給をする間もなかった所為だろう。全身が弛緩し、視界が歪む。戦いの中でも感じた事のない質量と重圧を伴う『絶望』に、アカネの世界はゆっくり閉ざされる。

 ――『m'aider』

 意識がどこかへ行きかけたせいか、歌声が聞こえた。落ち着いた響きの低い声が、アカネの全身に活力を注ぎ込む。
 地に伏すことを拒むように、足の裏が地面を捉え、再びの戦いへと奮い立たせる。前カゴに乗せていた水筒を手に取り、最低限の量のスポーツドリンクを口に含む。
「……まだ、まだです……!」
 だって、キング・ブレインの|面《つら》をまだ拝めてもいない。こんな目に逢うのも、きっと彼が大人しく捕まってくれないからだ。
「ブレ様、覚悟をなさりませ? この怨み、必ずぶつけて差し上げますね?」
「うん、アカネちゃんその意気だよ!」
 戦意を取り戻したアカネにエールを送り、葵桜もまた自転車の大きな前輪に体重をこめる。筋肉痛の心配には今は蓋をし、葵桜は歌を贈ってくれた誰かに心の内でそっと感謝を告げた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

バロメリアン・マルゴール
目的:自分だけでなく他参加者の体力も温存しつつ走る
実は:キマフー観光のついで
行動:後方を治癒する歌を歌いつつ走る
MM

オレは歌い手
だから前かごにマイクを置くのもまぁ、普通だろ?
後方かごに衝突対応用にクッションつけて…と

後ろについて聞いていきな――ユーベルコード!

自分の後方だけ治癒力を高める歌を歌い
その効果をわかりやすく光で見せることで
オレを先頭としたリタイア者の少ない団子集団を作り出すのが目的さ
歌い手のオレには後半戦に|聴衆《一般人の協力》が必須だからな

オレはバロメリアン
異世界の歌い手さ
覚えて拡散していってくれ
あ、ちなみにあの建物何?

無論、レースも白熱させるぜ
時折歌を切って全力で漕ぎ競り合うのさ



 その者は、もふもふであった。
 動物的な身体特徴を持つ者の多いキマイラフューチャーにあっても、蓄えた毛並みの質はステータスだ。街を流離いながら道行く者の羨望の眼差しを受け、バロメリアン・マルゴール(戦場の光・f39933)は珍しそうなものを物色していた。
「なるほど、このマイクカバーは良さそうだ。風を遮るのはもちろん、精密機械が壊れてしまっては困るんでな」
 羊柄の可愛らしいスポンジカバーを気に入り、バロメリアンは早速買い物かごに入れた。

 ポップな色使いに満ちた街の様相は鉄と錆色の故郷とは大きく異なるが、街頭に流れる楽曲から、歌がこの世界の人々にも大事だと知り親近感を覚える。
 自転車置き場へと足を運び、バロメリアンが選んだのはママチャリだった。
「オレは歌い手だからな。前かごにマイクを置くのもまぁ、普通だろ?」
 無線式マイクをスタンドごと丁寧に括りつけ、彼の姿を撮影に来たキマイラたちにサービスを振りまく。毛を掻き上げる仕草に沿って、春の花を思わす香りがふわりと舞った。
「オレはバロメリアン。異世界の歌い手さ。覚えて拡散していってくれ……あ、ちなみにあの建物何?」
「あれはコンサートホールです! いつかバロメリアンさんも歌いに来てください……!」
 丸いアイスクリームのような外観も、そう聞けば納得だ。あっという間になった女性キマイラへ、戦場駆ける歌い手はいつかな、と約束を交わした。

 スタート地点の沿道には既に、彼の姿を一目見ようとするファンが押しかけていた。
 戦場で鍛えた足腰にはそれなりの自信があるが、この日彼が成そうとする事はレースの他にもある。
「それじゃ行くぜ。レディ、セット……ゴー!」
 スタートダッシュは流石に他の者が勝り、バロメリアンの駆るママチャリは先頭集団を追う真ん中の集団に取り残された。
 次から次へ来るコーナーのたびに順位が変わり、レーサーたちはライバル走者を蹴落とそうと懸命にしのぎを削る。
(「勝つために相手の心を挫き、蹴落とす。競争の原理はここでも健在か……だが」)
 白熱は彼も望むところだが、それ以上の殺伐とした戦いは初めから望んでいない。むき出しの闘争心に覆い被せるよう、彼は坂道を漕ぎながら低いバリトンに喉を震わせる。

 ――『m'aider』

 隣を走るライバルが、予想だにしないパフォーマンスに目を見張る。
 バロメリアンの後ろにはきらきらと光の粒子が撒き散らされ、救難信号を打ち続けるもの全てを救う希望として注がれた。
「ユーベルコード、聞いた事はあるだろう? オレの後ろで聞いていきな!」
 リタイアを一人も出すまいとする気高き闘志に、沿道、画面向こうのギャラリーが湧いた。鳴りやまぬ拍手がコースを駆け巡り、勇気づけられた者の集団が彼の後に続く。
 一位ではない。レースの勝利にも未だ、順位的には程遠い。
 だが、それでも――今この瞬間は彼を、|英雄《ヒーロー》と呼んで差し支えはないだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​


●レース前半順位発表

 五位  冬原・イロハ
 七位  山吹・慧
 九位  雨倉・桜木
 十二位 バロメリアン・マルゴール
 十六位 榎木・葵桜
 十七位 アカネ・リアーブル

 ドベ  青梅・仁(綿雲型ドローンがコースへと戻している)


第2章 ボス戦 『猟書家『キング・ブレイン』』

POW   :    侵略蔵書「スーパー怪人大全集(全687巻)」
【スーパー怪人大全集の好きな巻】を使用する事で、【そこに載ってる怪人誰かの特徴ひとつ】を生やした、自身の身長の3倍の【スーパーキング・ブレイン】に変身する。
SPD   :    本棚をバーン!
【突然、背中のでかい本棚を投げつけること】で攻撃する。また、攻撃が命中した敵の【リアクションをよく見て身体特徴】を覚え、同じ敵に攻撃する際の命中力と威力を増強する。
WIZ   :    脳ビーム
詠唱時間に応じて無限に威力が上昇する【脳(かしこさを暴走させる)】属性の【ビーム】を、レベル×5mの直線上に放つ。

イラスト:屮方

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 無限に思えた長い坂を超え、猟兵たちはようやっと開けた視界に息をついた。
 これから迎えるはレース後半、|九十九《つづら》折りの峠道。
 上ったら下るだけと侮るなかれ。元は山岳地であった名残りのぐねぐね坂は、
 下手すればコースアウトの危険すら伴う。

 連続コーナーを超え、あるいはショートカットで乗り切ったなら、
 最後に待ち受けるのは恐ろしい傾斜の下り坂。
 速度を落とせば順位を抜かれ、出しすぎれば事故にもつながる。
 スピードとバランスの感覚が要求されるだろう。

 ぞっとする坂道の光景に喉がこくりと音を立てたが、
 その小さな音は甲高い笑い声にかき消された。
「ブーレブレブレ! 猟兵達よ、吾輩を差し置いて頭が高いぞ! あとお勤めご苦労様です!」
 後ろから聞こえる高速回転する車輪の音。間違いない。
 猟書家、キング・ブレインがやってきたのだ!

 レース最後尾から追い上げたキング・ブレインは分け隔てなく全員の隣につき、
 余裕綽々とした態度で挨拶回りをしていく。
 一通りお目通りがかなった所で、「あー、コホン」と彼は咳払いをした。
「今ので全員ですかな? ではこれより、レースを征服する!」
 有言実行、彼のブレイン・バイシクル1号は速度を増し、
 ぐんぐん猟兵達を追い抜こうとしていくではないか!

 忘れてはならない。この厄介な猟書家が野放しになっていたのは、
 彼のまたがるブレイン・バイシクル1号あってのこと。
 次元すらも越え逃げ遂せる|自転車《マシン》の力を奪うには、
 こちらが戦いながら何度も1位を奪取し、パワーを削がねばならぬのだ。

「カーッカッカ、ブレブレブレ! 汝らは黙って吾輩の圧勝を見届けよ!」
 速度を上げるブレイン・バイシクル1号の姿に、煽るキング・ブレインの言葉に、
 猟兵たちの目が火花を散らした。
 独走など許してはならない。調子に乗ったこの猟書家を必ずやとっちめ――。

 ――筋肉痛にしてやるのだ、と。
山吹・慧
「おや、閣下、お世話様です。
全然関係ないんですけど、後ろに恋人を乗せるなら
やっぱりママチャリですよね。あれって憧れますよね」
などと気を逸らしてみます。

筋肉痛は【気功法】で気を巡らせて
痛みを【吹き飛ばし】て対応。

そして【聖天覚醒】で真の姿を解放。
【リミッター解除】して閣下に食いつきます。
ママチャリを必死に漕ぐエンジェルという
シュールな絵面もまた一興。
でも撮らないで下さい。こんなのバズりませんから(汗)
下り坂の難所は光の翼で何とかしましょう。

閣下の脳ビームは自転車ごと飛翔していい感じに回避。
そのまま【乱れ撃ち】で光の【羽を飛ばす】攻撃を
仕掛けましょう。

だから撮らないで下さいってば!(困惑)


バロメリアン・マルゴール
目的:コースアウトさせ距離を稼ぐ
行動:歌で支援した人達と協力し仕掛ける

よろしく、ムッシュー・ブレイン
だが歌い手としちゃ「黙って」は無理だ

ここは――スリップストリームで挑むぜ
|m'aider《協力してくれ》
縦に連なりな!

この連携に勝てるかな?
オレを筆頭に1匹、2匹…

狙いは二つ
縦に連なって空気抵抗を弱め、列後方の他猟兵を加速する事と
競り合い加速したヤツとオレが眠って共にコースアウトする事さ

眠れば脳の暴走も無意味
眠気筋肉痛で鈍る加速は2番手の人にクッション押してもらいコース外へ
さ、同じデメリットを受けてもらうぜ
ドベから本気の併走と行こうじゃねぇか

あ、あとオススメの観光地も聞いていいかい、ムッシュー?


雨倉・桜木
ブレブレ閣下きたねぇ。本当に自転車レースしていると来るんだね、そういう都市伝説とかありそうじゃないかい?まぁ、いいか。

さて、坂道、ぼくは速度をゆるめることなく降りてやろうじゃあないか。キュウダイ君、ご褒美は…シャトーブリアンステーキだ。1キロ、いくかい?(100g2万くらい)

キュウダイ君の屈折でぼくの進路をコースアウトしないように調整しつつ。あ、勿論、ぼくもハンドリングするけども!同時にブレブレ閣下の進路をめちゃくちゃにしてもらおう。

ふふん、どんなに速度が速くても進路がめちゃくちゃなら進もうにも進めないよね!!財布にも足にもダメージあるけど構うものか、ヤケだヤケ!!

※アドリブ等ご自由に!!



 突如現れた怪人めいた猟書家に、沿道のキマイラたちから驚きの声が沸き起こる。
 だが丁寧に挨拶まわりなどする悪役らしからぬ行動に、キマイラたちの中には「おっちゃんもがんばれー!」などと敵を応援する者まで出始めた。
 このままでは拙い、敵の思う壺だ。そう感じた山吹・慧は、キング・ブレインを引き留めつつ気を逸らすために対話を試みた。
「おや、閣下、お世話様です。全然関係ないんですけど、後ろに恋人を乗せるならやっぱりママチャリですよね。あれって憧れますよね」
「然様、浪漫をわかっていらっしゃる。峠道を二人乗りで漕ぎながら青春の唄を歌うなど、吾輩想像するだけで胸がドキワク躍りますぞ!」
 そんな経験は恐らくないだろうに、キング・ブレインは味わう架空の青春気分に気を良くして漕ぐ速度を速めた。ただついていこうとするだけで肉体が悲鳴を上げそうだが、慧は肉体に功夫を巡らし、筋肉にたまった疲労物質を押し流す。
「ブレブレ閣下、来たねぇ。自転車レースをしていると本当に来るんだね、そういう都市伝説とかになってない?」
「ブレブレブレ、吾輩は既に生ける伝説も同然! あ、いや今のは言い過ぎとして、実際どこでも駆けつけていますからな!」
 会話に割って入る形で自転車を横付けする雨倉・桜木にも、猟書家はペースを乱されないばかりか、ますます意気が高揚している様子だ。
 やはり痛手を覚悟で実力行使に出るしかない。二人が覚悟したところへ、低いバリトンの声が響く。

 ――|m'aider《協力してくれ》

 振り向けば徐々に距離を詰めるバロメリアン・マルゴールが、縦に連なるようハンドサインを送っていた。意図を汲み取り、慧と桜木はバロメリアンの後ろにぴったりつける。
「よろしく、ムッシュー・ブレイン。だが歌い手としちゃ『黙って』は無理だ。それに、コンサート途中での入退場は演者には嫌われるぜ」
 言いながら彼の組んだフォーメーションはキング・ブレインを先頭とする風よけのフォーム。スリップストリームで風当たり面積を抑え、追い抜きの体力を温存しようというのだ。

「ブレブレ、でしょうなあ! では……そろそろ始めましょうぞ」
 先頭に押しやられたキング・ブレインが高笑いをした瞬間、これまで詠唱していた魔力が透明頭蓋骨より放たれ、紫色の妖しげな光線が一直線にコースを舐める。
「かしこくなあれ!!」
「どんなかけ声ですかーー!?」
 慧のツッコミも空しく、一部の猟兵は脳ビームを直に浴びた。咄嗟に真の姿を解放した慧は翼をはばたかせて空中に逃れたが、桜木はどうやら直撃してしまったらしい。
「うう……キュウダイ君……このレースを終えたら君にシャトーブリアンステーキ1キロくらい奢ろうと思っていたんだけど」
 ちりちりと視界に残るビームの残滓を振り払い、レースに戻ろうとした桜木は、かつてないほど脳が活性化しているのを感じていた。
「冷静に考えたらぼくにそんな支払い能力ナッシング! 下手すりゃ月給すら超えちゃってエンゲル係数もびっくりさ! どうしよキュウダイ君!?」
「……くぁ」
 かわいく欠伸した一角猫のキュウダイも、実はひそかにかしこさが暴走中。このレースを自身に利益なしと見た猫は早くも見切りをつけ始め、過ぎる風に心地よさそうにひげを揺らしながら前かごに香箱を組んだ。
「ええい、ヤケだヤケ! キュウダイ君がやる気を取り戻すまでぼく一人で頑張るぞ!」
 予想外の事態でユーベルコード不発の桜木を、他二人がカバーするようにスリップの中へと匿った。
「リミッター解除……僕の翼は伊達ではありませんよ」
 鬼気迫る表情でペダルを漕ぐ、慧の背中では一対の美しい天使の翼がはためく。連続コーナーではスリップストリームの効果も低下するところ、羽ばたきでダウンフォースを生み出し、仲間もろとも車輪を路面に押し付け安定化を図った。
 風に煽られながらも慧の横顔を収めようと、撮影用ドローンが複数機近づいてくる。どうやらママチャリを漕ぐ天使がキマイラ的に「バズる」と直感しての判断らしい。
「って、撮らないで下さい恥ずかしい! こんなのバズりませんから!」
 顔を隠す余裕もなく、慧はとっさにカメラから顔を背ける。前方から猟書家の「ブレブレブレ、シャイではいけませんぞ!」との声が響いてくるのが腹立たしい。
 やがて桜木のママチャリの前かごで眠っていたキュウダイが、つぶらな瞳で辺りを見回し、ドローンを捉える。飛び回る撮影用のドローンは格好のおもちゃに見えたらしく、キュウダイは不意に神通力を発揮した。
「わわ、どしたのキュウダイ君!? やる気なの、嬉しいけどやる気なの!?」
 闇雲に働く折り曲げの力は辺りの空間を歪め、ブレブレ閣下の足元ばかりか空中にも作用する。この効果範囲、むしろドローンを|奪《や》る気だー!?
「ぬうん、吾輩の進路がブレブレですぞー!?」
 キング・ブレインがそのようにのたまった瞬間、一角猫の放つ空いた餌缶が「誰がうまい事言えと」とばかりに閣下の後頭部に命中した。

   ◇    ◇    ◇

 コーナーを十個抜けても順位は変わらず、追い抜くチャンスは見えてこない。仕掛ける頃合いだと覚悟を決めたバロメリアンが、ちっ、ちっ、と振る指先に合わせて音を鳴らす。
「今はよくても、いつまでもこの連携に勝てるかな? ムッシューを筆頭に一匹、二匹……」
 三匹、四匹――それは羊を数える眠りのまじない。延々と終わらぬ穏やかな声が、バロメリアンと猟書家の副交感神経に作用する。
「三十六匹……さんじゅう、なな……」
「む、むう……謀りました、な……!」
 先頭二人が意識を失った瞬間、失速した車体が慧たちの自転車と接触した。衝突に備えたクッションが衝撃を吸収し、策士バロメリアンの車体は眠りに落ちてなお加速する。
「ね、ねえちょいと! そのままじゃコースアウトしちゃうって!」
「……いえ、それが狙いです! させてやりましょう」
 眠りに落ちるデメリットを共に享受し、二人の車体はコーナーを飛び出して宙を舞う。たとえ最後尾になっても、彼は猟書家を道連れにしようとの腹積もりだった。
「せめて打撃は与えておきましょう……光の翼よ!」
 無茶をした戦友へ、巻き返しを頑張れとエールを贈るように、慧の翼から無数の羽根のシャワーが放たれた。貫かれる痛みに起きたキング・ブレインは、コース外に落ちながら状況を把握した。
「ヌハハハハ、ブレブレブレ! それでこそ吾輩の好敵手、ゴール前でまた|見《まみ》えましょうぞ!」
 視界外に消える友と敵の姿を見送り、桜木はようやっと人心地ついたように息を吐く。
「……さて、ようやく邪魔者は消えたけど。一位争いは譲ることになりそうだね」
 太腿をさする動作からするに、デッドヒートが堪えたのだろう。完走モードへと切り替えた桜木のママチャリは徐々に速度を落とし、去りゆく慧の背中に手を振った。

 なおその頃、場外に弾き飛ばされ復帰中のバロメリアンとキング・ブレインはというと。
「あ、あとオススメの観光地も聞いていいかい、ムッシュー?」
「むう、そうですな……VRスポーツの楽しめる遊技場ですとか、あとはセレブの集う動画映えするナイトプールなどもいいですぞ!」
 他愛もない話をしながら、路面に降り立ってすぐさま挽回レースをしかけたのだとか。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

冬原・イロハ
こんにちは、キング・ブレインさん!

下り坂でのハンドルの制御に必死です
はわわ、しばらくはブリキザメさんにブレインさんを中継してもらいましょう
ブーツを使った空中浮遊や、UCを使って方向転換
道からはみださないように…っと
時々飛翔する☆に乗って筋肉痛をいなしたいと思っています

あっブレインさん、ここは動画映えを狙ってアクロバティックで対決しませんか?
ティンクルスターをたっっくさん召喚して、ジャンプしましょうジャンプ!
私も☆から☆へとジャンプ!
私たち! 流れ星! になれるかも!

空中機動や情報収集で、大きくコースから外れないように気を付けますね
滞空時に、ほんのちょっとだけ休憩の心地
残りの下り坂も頑張ります


青梅・仁
ひっでぇ目にあったわ(しわしわ)
なんで?今回俺一人で来てるのに。
ドローンが丁寧に運んでくれたのが救いだぜ……

運ばれてる間少しは休めたし、気を取り直して走るとすっか。
『リミッター解除』で全力で閣下に追いつこう。

よお、閣下!そろそろ疲れてんじゃねえか?おじさんはめっちゃ疲れた!帰って寝たい!
つーわけで、手っ取り早くお前さんに嫌がらせするぜ。
呪いの反動の前払いはとっくに済ませた。今日の俺は大人げないと言われようがふざけるって決めてんだわ。
UCを使い、全力の嫌がらせ(『呪詛』)
やべーよな、これ。俺も教わった時スペキャ顔になっ(噴き出す)

あっはははははは!!いつもの高笑いもそれじゃカッコつかんよなあ!



 キング・ブレインが再びレースに舞い戻った時、連続コーナーの途中には偶然最下位を脱した青梅・仁の姿があった。
「ひっでぇ目にあったわ……なんで? 今回俺一人で来てるのに」
 体中の水分が抜けきったようなしわくちゃ顔の仁は、既にレース一位を諦めつつあった。妙に既視感のある綿雲ドローンが優しく下ろしてくれたからまだいいものの、今から巻き返しができるかは正直危うい。
 せめて噂の大首領に一目、お目通り願ってからでないと気が済まぬと、普段抑えている神気を解放してペダルを漕ぐ。
「っし、仕方ねえ。気を取り直して、全力で走るとすっか」
「ブレブレブレ、その意気ですぞ!」
「な・ん・で・い・る……!!」
 人がやる気出した矢先にこれだよコンチクショウ! とことん努力の報われない性を自覚しつつも、仁は出会ったらぶつけてやろうと思ってた台詞を矢継ぎ早に吐き出す。
「よお閣下! そろそろ疲れてんじゃねぇか? おじ「なんの、吾輩まだまだいけますぞ!」さんはめっちゃ疲れた! 帰って寝たい!」
 しゃべる途中で被せ気味に言われたせいで仁が『ただ単に弱い人』みたくなって泣いているがまあご愛敬。若干ヤケクソになりながらガンガンガン、とだるま自転車のペダルを乱暴に尾ではたき、加速の止まらぬブレイン・バイシクル1号に追随する。

 ペース配分なんざクソくらえ、と前方にいた猟兵をごぼう抜きにする二人。前方にはいつの間にか上位だったはずの冬原・イロハの姿が見えはじめ、キックボードをあんよで蹴り蹴りするぷりちーがーるは二人の方を振り向いて手を振った。
「こんにちは、キング・ブレインさん……はわわっ」
 ゆっくり言葉を交わしたくとも、ここは連続カーブの下り坂。ハンドル制御を誤るとコース転落まっしぐらなだけに、中継はブリキザメさんに代わってもらった。
 コーナリングはハチドリのブーツで浮遊魔術を使って体を支え、スピードを落とさぬまま滑るように突っ切る。ガードレールすらも路面として扱うイロハの大胆な走行に、大首領閣下は大変およろこびの様子だった。
「ブレブレブレ! 汝、小さい身体ながらなかなかやりおるわい!」
「あっそうだブレインさん、ここは動画映えを狙ってアクロバティックで対決しませんか?」
「ヌハハ! 望むところよ!」
 イロハがパチンと指を鳴らすと同時、夜空に瞬くティンクルスターの群れがコースを並走しはじめた。クッションにもなる弾力性のある星に次から次へと飛び移り、イロハは流れるプールのようにコースを川下りする。
「ヌハハハハ、ブレブレブレ! いや、なかなかどうしてこれは愉快ですな!」
「ですね! 私たち、流れ星! ……になれるかも!」
 ひと時の休息(レース的にはチート)を満喫する二人だったが、後ろの仁(大人げない・f31913)にはなんだかそれが面白くなく。人を呪わば穴二つ、前準備もとうに済ませてある。元より嫌がらせしに来たのだから、躊躇う理由などどこにあろう。
「いいムードのとこ悪いが、今日の俺はなんと言われようがふざけるって決めてるんだわ。手っ取り早く嫌がらせするぜ……喰らいな、筋肉バカ戦闘狂娘直伝!!」
 かつて戦いで見せた事のない全力の、煩悩で塗りたくられた特大級の|煮凝《にこご》りのような呪いがキング・ブレインへと放たれた。哀れノーガードで背に受けた大首領閣下は、あろうことか鼻毛がマントのようにわさわさと伸びる大惨事に!
「ぬおおおお! これでは空気の綺麗な地方のローカルCMに出れてしまいますぞーー!!」
「キング・ブレインさんーーー!?」
「やべーよな、これ。俺も教わった時何言ってんだこいつ、って、変な顔に、なっ……ぶふうっ」
 半ばもつれて団子になりながら、一行は流れ星に乗ってコーナーになだれ込む。腹を抱えて笑いっぱなしの仁が必然的に外へ追いやられ、ぶつかり合うティンクルスターはコースに紛れる『異物』を排除しにかかる。
「あっはははははは! いつもの高笑いもそれじゃカッコつかんよなあハヒィッ!?」
「……尊い犠牲を、出してしまいました……」
 しゅん、と目を伏せながらも心のどこかで『必要な犠牲』と浮かんだのはさておいて。同じく沈痛な面持ちだった閣下(with鼻毛)と顔を見合わせたイロハは、「はっ、そういえば敵でした」と最後にペチンするのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

アカネ・リアーブル
【茜桜】
や…やっと登り坂が終わりました
もうブートキャンプはおしまいです
筋肉痛で足が動きません

葵桜様の歌に目を閉じ聞き入り
とても素晴らしい歌声です
先程も歌声に勇気づけられましたね
アカネは葵桜様達の歌声を一番にゴールにお届けいたします!

一位になるにはショートカットしかありません
指定UC発動
思い切り飛翔し空中ジャンプ!
翼でバランスを取りつつ九十九折を無視して直線に降ります
空中ジャンプしながらブレ様へ向けて|自転車アタック《ランスチャージ》!
アカネを苦しめた重りと位置エネルギーという名の怨み
ぶつけて差し上げます!
ブレ様又は飛んできた本棚を足場に再びジャンプ
九十九折を更に先行し一気にゴールを目指します!


榎木・葵桜
【茜桜】
お、ブレ様登場?
なんやかんやでかっこいーね?

ふふ、アカネちゃんもやる気だね!
うんうん、こっから頑張ったら巻き返せそうだよね?

それじゃ、私はその景気づけを!
私の分までブレ様にアタックよろしく!

さっきは歌い手さんの素敵な歌に勇気づけられたので、
私も歌で皆の筋肉痛を少しでも取り除くお手伝いするよ!
(指定UCの歌を、アカネちゃんを始め、できるだけ遠くに声が届くように歌う)

成功すれば御の字、ちょっとでも気晴らしになるといいな!
筋肉痛の回復度はわかんないけど、
早い人達の後ろについて、コースアウトしないように楽しんでゴール目指していくよ!

さ、相棒!最後まで一緒に頑張ろーね!(愛チャリに笑みを向け)



 部活動の青春を思わせる厳しい登り坂も、あまり長く続いては見飽きていっそ憎らしく映る。
 水面下に潜っていたスイマーが息継ぎをするように、アカネ・リアーブルは坂の頂上で「ぷはあっ」と短く息を吐き出した。
「や……やっと登り坂が終わりました。もうブートキャンプはおしまいです」
 偶然耳に届いた歌に支えられて懸命にここまで漕ぎ上がってきたが、猟兵といえどもここが限界だ。重さの増したペダルはこれ以上の上りには耐えられず、いまはパンパンに張った太腿とふくらはぎを|労《いたわ》りたい。
「ホントに登りきれた。やってみるもんだねー。……お、あれがブレ様?」
 遠くに見ゆる影を見て、榎木・葵桜は噂の怪人をひと目見ようと目を凝らす。
「颯爽と漕いでる姿はなんやかんやでかっこ……うーん、かっこいーかな?」
 向こうではトラブルがあったらしく、何かが『にょんっ』と飛び出している。わさわさと伸びるあれが何なのかは、詳しく知らない方が身のためだろう。

「ともあれ、ここまで頑張ったご褒美。私の歌、聞いてく?」
 答えを聞くより早く、葵桜は母より教わった歌を歌い出す。
 桜のように明るい髪色の母は、よく自分にこうして歌を聴かせてくれた。願いと祈りを籠めた歌は、幼き日より少女の根幹を形作る。
 日々注がれた、目に見えぬ愛情。両親から一字ずつ授けられた、大切な名。思春期を迎えて以降積極的に口にすることはなくなったが、葵桜にもそうしたものに支えられてきた自覚はあった。
 受け取ったものを、倍にして世間へ。感謝を口にするより、己にはこの方が合っている。広がる歌声は周囲に伝播し、坂道に疲弊しきった選手たちを勇気づけていく。

「……とても、素晴らしい歌声です」
 染み入るように目を細め、アカネが隣で笑顔を見せた。先の誰かの歌声にも窮地を救われ、ここに立っているのは己の力だけではない。
 彼、彼女らの優しさにどう応えるべきだろう。感謝の表し方に迷うほど、アカネは幼くもなければひねてもいなかった。
「決めました。アカネは葵桜様たちの歌声を、一番にゴールにお届けいたします!」
「ふふ、やる気だね。うんうん、こっから頑張ったら巻き返せそうだよね?」
 順位は移ろうもの。先頭集団がどこかで時間を無駄にしてくれれば、まだ順位奪還のめどは立つ。
「それじゃ、私は景気づけを。私の分までブレ様にアタックよろしく!」
「ええ。アカネ、思い切りいってきます……!」
 翼の助けを借りて空を駆り、高々と飛翔するアカネの背がしだいに遠のく。彼女の|吶喊《とっかん》を見送りながら、できるだけ遠くへ、できるだけ長く歌声の効力が届くよう喉を震わせる。
 自分もレースを諦めたわけではない。速い人たちのコース取りに倣い、車輪を唸らせてコーナーを鮮やかに曲がる。
「いっちゃった、か……。さ、相棒! 最後まで一緒に頑張ろーね!」
 完走の瞬間を心待ちにしつつ愛車へと呼びかければ、桜花車の明るい紫色の車体が答えを返すように陽光を照り返した。

   ◇    ◇    ◇

 突如生えた忌むべき装備品を覚悟と共に引き抜き、若干の涙目だったキング・ブレインは空から飛来する新たな刺客に振り向いた。
「アカネ、参ります……ブレ様、お覚悟を!」
「ぬぬ、空を飛ぶとはやりますな……!」
 九十九折の坂ならば、それを超える回数ジャンプで避けてしまえば済む。スカイダンサーの秘技をもって幾度も宙を跳ねたアカネは、見事悪の大首領のそばまで至ることが叶った。
 オラトリオの繊細な翼は今にも千切れそうに痛いが、最後の力を振り絞り、空のいっそう高みへと重りの乗ったママチャリを引き上げる。
 高所にある物体が持つ、位置エネルギー。蓄電にも使われるそれは侮れるものでなく、数kgの重りに乙女の秘密な体重を合わせた質量がキマイラフューチャーの重力加速度に従い大首領を襲う。
「自転車アターック!!」
「グハァッ……せめて交通安全は守りましょうぞーーっ!?」
 タイヤの轍を背中に刻まれ、キング・ブレインはコース外周へと大きくよろめいた。反撃とばかりに背負い書架を構えるが、その動きも予期していたアカネには見切られてしまう。
「汝がその気なら、吾輩とて……ぬぅんっ!?」
「もう怨みはぶつけたので用はありませんの!」
 大事なスーパー怪人大全集を収納した本棚は哀れ、アカネのママチャリの踏み台に! 怪人たちの首領を名乗る手前、とっさに拾い集めたキング・ブレインは、その性格の善良さが仇となった。
「ブレーン!! わ、吾輩のレースが……!」
 下顎が外れそうな勢いで顎を開く大首領に見向きもせず、アカネは軽々と坂を飛び越えてショートカットを試みた。ぱさぱさと羽ばたく小さな翼が、みるみるうちに遠のく。

 ちなみにさっきの一声はキング・ブレインなりのショッキングな効果音だったらしい。知らんけど。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​


●終着
 ここまでのデッドヒートを制し、最終コーナーを曲がってゴール前のストレートに現れたのは山吹・慧と冬原・イロハだった。
 他の者と大きく差が開いた現在、一位争いはどうやらこの二人に絞られそうだ。

 キックボードを蹴るイロハは流れ星も尽きたようで、再び風の力を借りている。
 懸命に追い上げてはいたものの、体格差をカバーしようとした疲れからかゴール目前で徐々に失速し始めた。
「あっ……ま、まだまだなのです……」
 そう紡いだ声にも張り合いはなく、レースは慧の独壇場かに思われた。
「このレース、いただきました……って撮らないで下さい!」
 沿道から焚かれるカメラのフラッシュに目を瞑りながらも、慧がゴールテープへと一気に駆けようとしていた時だった。

「まだ……まだ間に合いますのーーっ!」
 がしゃん、と何かが振り下ろされる音がして、横を振り向くと並び立つ位置にアカネ・リアーブルの姿があった。後半になってからのショートカットと質量を活かした追い上げで、順位を巻き返し慧に並ぶまでに至ったらしい。
「空から、ですって……!?」
「ぜ、はっ、……最後まで、あきらめませんっ」
 猟兵はこれだから侮れない――底知れぬポテンシャルに舌を巻きながらも、かつて銀誓館に所属していた慧は同時に言い知れぬ高揚を覚えた。
 抜きつ抜かれつ、決死の攻防。どちらが先にテープを引き千切り、輝かしい栄光を浴びるのか。
 ここまで来ればキング・ブレインなど関係ない、意地と意地のぶつかり合い。わっ、と沸く歓声がどこか遠くで聞こえた気がした。

 気付けば、終着を告げるピストルの音が鳴り終えていた。ゴールを突っ切った勢いをしばらく漕いでいなし、やがて大地に倒れ伏す。
 後ろから走ってきたイロハが何か笑顔で、興奮した声で話しかけているが聞き取れない。
 その声の意味を理解できた頃、二人は自分たちのつばぜり合いが『同着』という栄えある結果に終わったと知るのだった。

●レース最終順位発表

 一位T 山吹・慧
 一位T アカネ・リアーブル
 三位  冬原・イロハ
 七位  榎木・葵桜
 十位  雨倉・桜木
 十三位 バロメリアン・マルゴール

 ベッタ 青梅・仁(全てを悟った表情ながらも完走だけはした)

最終結果:成功

完成日:2023年06月03日


挿絵イラスト