ディル・ウェッジウイッター
猟兵となって様々な世界を渡るようになってから、お茶は星の数ほどあるという事を痛感しております
世界を渡れば見たことが無いお茶ばかり…
ティーソムリエたるもの全ての世界のお茶をいただきたいのですが私の身は一つ。定命の人間の生きる時間で成すには時間が足りない事は承知しております
ですので、数多の世界を見てきたあなたのお力をお借りしようかと
よろしければあなたの郷里の、もしくは今まで見聞きしてきたお茶の話についてお聞かせ願えませんか?
●このノベルについて
個人企画です。過去に何回かほぼ同じリクエストをしています
お茶やお茶会に関係するノベルを書いてください
各世界のお茶事情はもちろん、グリモア猟兵さんの思い出のお茶(会)でも、言い伝えでも、MSさんが考えたお茶でも、お茶とお茶会にまつわればどんなお話でも構いません
世界はシルバーレインにしていますが他の世界の話でも問題ありません
PCとグリモア猟兵さんとの交流する形でもレポート形式でもグリモア猟兵さんが口述する形でもなんでもOK
PCが出ない形式でも問題ありません
文字数は多めに用意しておりますが、短くても大丈夫です
●PCについて
人当たりが良く穏やか、時折茶目っ気をみせるティーソムリエ。ちょっとしたことでは動じない。マイペースともいう
紅茶が大好き
●NG
PCの恋愛描写、性描写、公序良俗に反するもの
以上、よろしくお願いします
案内されたのは、中国南東部に存在する屋敷だった。
今はまだ熟してはいないが、中庭の木には桃の実が成り、鏡のような池には薄桃の睡蓮が涼しげに綻んでいる。
ディル・ウェッジウイッター(人間のティーソムリエ・f37834)は、銀誓館学園の|先輩《OB》であるらしい――らしい、というのは本人にその自覚、もとい記憶がないからなのだが――陸・慧に案内され、渡り廊下を歩いていた。
「……本当によろしいのですか?」
「ええ、尤も淹れるのは私ではなく、弟ですが。それでも、私も世話になっている山立様のご学友と話したら、本人も是非と言っていましたから」
そう。今日は、慧の弟がほぼ趣味同然の副業で開発したという紅茶を振る舞って貰う話になっていた。
ディル自身は今まで慧と直接の接点はなかったが、彼の友人であり、慧にとっての後輩である山立・亨次が、ディルがこうして時折様々なお茶を求めて各地を巡っていること、よかったら慧の弟が開発したという紅茶を飲ませてやって欲しいと話をしていたようだった。
面倒見のいい男であるとは認識していたが、そこまでお節介を焼いてくるのも珍しいなとディルは思いつつ。
(「まぁ、慧さんと弟さんがそこまで仰っていただけるのであれば、お言葉に甘えましょう」)
その代わりと言っては何だが、お茶菓子はディルの方で用意させて貰った。この兄弟の口に合うといいのだが。
「ディル様ですね、お待ちしておりました」
慧の弟の部屋に通されると、慧によく似た、しかし彼よりやや細身で柔らかい雰囲気の青年が出迎えてくれた。弟と言う割に慧より年上のようだが、慧は運命の糸症候群に罹患しているという事実は知っていた――でなければ『|先輩《OB》』にはなり得ない――ので、然程驚くことではなかった。
「お招きいただきありがとうございます。こちら、つまらないものですが」
「こちらこそ、ご丁寧にありがとうございます」
手土産のお茶菓子を渡すと、早速テーブルに案内された。慧と共に席に着くと、早速慧の弟――昭と名乗った――がお茶の準備を始める。
「ディル様は、蜂蜜紅茶を召し上がられたことは?」
「ええ、何度か口にしたことがあります」
そこはティーソムリエたるディルのこと。勿論、この世界で味わえる紅茶は、少なくともメジャーなところは網羅出来ている筈だ。
尤も、彼はまだ若く、世界を渡ればまだ見ぬお茶が存在することもまた、身を以て実感している。だからこそこうして、銀誓館に在籍してからも、猟兵として覚醒し活動を始めてからも、世界のお茶を巡る旅を続けているのだから。
「では、桃の花から採れた蜂蜜を口にしたことは?」
「桃の花……ですか」
そもそも。
桃の花の蜂蜜自体、ないことはないらしいが、養蜂による採取が安定しないためか、取り扱いが少ないとディルは記憶していた。
「もしかして、昭さんが開発したお茶と言うのは……」
「ええ、桃の花の蜂蜜紅茶です」
その言葉と同時に出されたのは、優しくも華やかな甘さがほのかに香る琥珀色の紅茶だった。手土産のドライフルーツ入りパウンドケーキもスライスされて、テーブルに並ぶ。
蜂蜜紅茶自体は特別希少というものではないが、使われている蜂蜜が多く流通していないのだから、これはなかなかレアなのではないだろうか。
さて、肝心の味の方はと言うと。
「今まで味わった蜂蜜紅茶の中では、甘みが少し強めですね。かと言ってクセが強いわけでもなく飲みやすい」
「お口に合いましたか? それなら何よりです」
「ロイヤルミルクティーにしても、また違った味わいを楽しめそうですね」
「それなら幾つか持ち帰られますか? サンプルでよろしければ、ご用意しますよ」
昭のその申し出はありがたかった。なのでディルは三回分のサンプルを彼から受け取った、のだが。
「おや、これは……」
一回分だけ、色の違う箱が。
「そちらはこの蜂蜜紅茶をベースにした、玫瑰花茶になります。桃も|玫瑰花《ハマナス》も同じバラ科ですから、合うかと思ってこちらも試してみたのです。よろしければ、こちらもお淹れしますよ」
「何だかここまでしていただくと却って申し訳ないですが。ティーソムリエとしては、お茶と聞けば心惹かれてしまう性質で。いただいてもよろしいでしょうか」
「ええ、そこまで仰っていただけるのなら、私としても生産者冥利に尽きるというもの」
笑顔でそう答える昭の言葉は、確かに本心からのものだろうと感じ取れ。
もしかするとこの人物とは、お茶を通して世代を超えた友人にもなれるのかも知れないと、ディルはひとつの予感を得るのだった。
これはお茶と、お茶を究めんと奔走する少年の。
お茶が結んだひとつの絆の物語。
成功
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