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蒼き原点の|神機滅奏《ラグナロク》

#クロムキャバリア #ノベル

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エクティア・クロンユナイールゥ




『緊急事態発生。緊急事態発生。職員は直ちに避難して下さい』

 所内に響き渡るけたたましいサイレン。無機質なアナウンス。慌ただしい人々の足音。
 クロムキャバリア某国にて設立されたとある研究所は今、突然の敵襲により混乱の渦中にあった。
 その中を落ち着いた足取りで歩むのは、蒼い髪とドレスが特徴的な1人の女性。

『この先です。急いで』
「分かっているわ」

 女性の名はエクティア・クロンユナイールゥ。
 科学と機械が生んだ超人、不死身の|蒼煌狼雷霆《ブラウ・ケラウノス》。蒼き原点。
 彼女がこの研究所を攻めた理由は、数日前に知らされたとある情報によるものだった。



「私達の戦闘データを元に、オブリビオンマシンを開発している研究員が?」
「はい。遺憾な事に」

 その日呼び出されたエクティアが研究所の職員から聞かされた内容は、いつもの訓練の話ではなかった。
 自分や"妹"のミオのデータを利用したキャバリア開発――それも危険なオブリビオンマシンの開発が、一部の研究員の手によって秘密裏に進められていたと言うのだ。

「開発理由は至極単純、『最強のキャバリアを造りたい』からだそうです。この情報を我々に伝えてくれた協力者は、良心の呵責に耐えられなかったようですが」

 搭乗者を狂気に陥らせて暴走する危険なオブリビオンマシンの研究開発など、倫理的に認められるものではない。
 遠からずの破滅と、それに伴う惨劇は目に見えていた。内部からのリークによって事実が明らかになったのは僥倖としか言いようがない。

「そして、この計画を主導する研究員は近い内に、自身が開発したキャバリア達の性能確認のため、実験体として貴女の"家族"と戦わせるつもりのようです」
「冗談ではありません」

 ここの施設で作り出された実験体達は、みなエクティアの妹や娘のようなものだ。
 それがオブリビオンマシンなどの開発のため危険に晒されるなど、許せるはずがない。

「ですがこれは好機です。あちらがこちらのサイボーグとの戦闘を望んでいるなら、訓練と称して近づける」
「それで私に話を伝えてきた訳ですね。この研究開発を徹底的に叩き潰すために」
「やってくれますか?」

 職員からの問いかけに、彼女が返す答えなどひとつしかなかった。
 こんな下らない企みに家族を巻き込む必要はない。邪なオブリビオンマシンは全て自分が破壊してみせよう。



「出て来たわね」

 エクティア、リークした研究員、協力者の研究員が水面下で綿密かつ慎重に計画を進めた結果、いつも通りの訓練を装ってエクティアが急襲を仕掛けるまで、敵は自分達の秘密が漏洩していると気付いていなかった。
 焦った研究員達は開発中だったオブリビオンマシンを全機投入してきたようだ。禍々しい外観をした異形のキャバリア部隊が彼女の前に立ちはだかる。

「大方これに時間稼ぎをさせて、研究データを持ち出し逃げるつもりなのでしょうけど」

 そちらはリーク元と協力者の研究員が始末する手筈になっている。
 何も知らない一般職員には危害を加えず、何も知らないまま邪な研究は闇に葬られる予定だ。
 エクティアの役目は、ここで研究の産物たるオブリビオンマシンを1機残らず撃破することだ。

『侵入者確認……排除する』

 敵オブリビオンマシンの数は三十機ほど。量産型をベースにした物だけでなく、最新鋭機のクロムキャバリアに相当する機体も確認できる。武装も最新のものを備えており、サイボーグ単騎で制圧するには荷が重い相手だろう。
 しかし、エクティアがこの任務を任されたのにも理由がある。本人のモチベーションの高さもあるが、それ以上に彼女こそが理論上は"家族"の中で最強――怪物の中の怪物だからだ。

「私の家族の障害になるものは、全て悪よ」

 落ち着いた優しげな口調でありながら、エクティアの言葉に敵に対する慈悲はない。
 どこまでも突き抜けた家族への愛が、魂と融合したエネルギー炉心「|蒼煌の魂《エクティア・ゼーレ》」の出力を無尽蔵に引き上げ、蒼く煌くオーラが全身を包み込む。

「機奏せよ、|鋼の世界に希望《ヒカリ》を灯せ。胸が軋み命が竦む、なんて皮肉な絶望だろう。願い求めた希望に救いは決して訪れず無数に轟く悪と神の進撃は止まらない。奇跡が無い限り止められない。ああそれでも決して私は諦めない。何故なら命を懸ける理由を知っているから。」

 朗々と詠唱を開始するエクティアに向かって、オブリビオンマシン軍団は攻撃を開始。ユーベルコードが起動する前に決着をつける気だ。"最強"に取り憑かれた研究員の狂気と執念が作り上げた傑作達は、いずれも並のキャバリアを凌駕する性能を誇る。
 しかしエクティアにはまだ及ばない。瞬間同時並列思考により全ての事象を演算し、最適解を導きだす「|蒼煌歯車《エクティア》」の前では、何もかもが盤上の駒だ。

「今こそ機械人形は新たなる蒼く煌めく星になる。さぁ、尊く愛しい家族の笑顔と明日の為に|蒼の運命《ブルーツリ・シグザール》を完遂しよう」

 スローモーションに映る世界の中で銃弾の雨を躱し、「|蒼煌ドレス《ブラースブリッツェン・クレイド》」の機能でレーザーやミサイルの威力を軽減する。
 踊るように戦場を駆けながら紡ぐ口上は戯曲のようでもあり。詠唱が進むにつれて身に纏う光も強くなっていく。

「礼賛せよ、|神機滅奏《ラグナロク》の幕開けよ! ウィッシング・スフィア・アレクトー!!」

 そして最後の一節を力を込めて唱えた瞬間、【|限界を越えて星に至る者《ウィッシング・スフィア・アレクトー》】は起動する。
 超新星爆発にも匹敵する蒼き輝きが戦場を照らし、オブリビオンマシンのセンサーが焼き付く。全ての者がエクティアの所在を見失った刹那の時間、彼女は反撃に移行する。

「消え去りなさい」
『――……!!』

 時速1万キロを超えるスピードで目標に接近し、オーラを纏った素手で機体を撫でるように触れる。
 それだけで敵は最初からそこにいなかったように、跡形もなく姿を消した。蒼煌の魂から引き出された星のオーラが、次元ごと対象を完全消滅させたのだ。

『対象の脅威レベルを更新』

 エクティアの真の力を把握したオブリビオンマシン軍団は、すぐさまそれに対抗する武装・戦術を編み出してくる。
 その性能はまさに機神と呼ぶに相応しく、エクティアも蒼煌歯車をフル回転させて回避と防御を判断し、弱点を探り当てる必要があった。当然、この戦い方は脳と炉心にかかる負荷が大きく、自壊のリスクを孕む。

「まだよ!! ふざけるな、あの子達の未来を奪うのか? 何があっても認めない。私は家族の為に生き家族の為に死んでいく!」

 だが、いくら身体が悲鳴を上げようが彼女は吼える。家族を護りたいという想いが何度でも限界を超えさせる。
 仮にここにいるのが本物の「神」だったとしても、今の彼女は止められないだろう。これは純然たる意志の怪物、ただの|機械《キャバリア》には決して辿り着けぬ領域。

「私は不死身の|蒼煌狼雷霆《ブラウ・ケラウノス》!! この程度で負けはしない! 決して勝利は譲らない、勝つのは私よ!!」

 気合い、根性、そして覚悟。蒼き家族愛を煌めく星のオーラに変えて、エクティアの閃光が敵を消し去る。
 時間にすれば僅か数十秒間の内に行われた死闘の果てに、悪しき研究から生まれたオブリビオンマシンは1機残らず葬り去られたのだった――。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2023年05月22日


挿絵イラスト