闇の救済者戦争⑲〜欠けた月を描く
力なき正義は無力。だが、意志無き力はただの悪だ。
意志の力だけが、人を『英雄』にする。
――それが五卿六眼『紋章つかい』の動機である。
正しき意志を持つ者に、相応しき力を与える、その行いこそが力を持つ己に出来る、もっとも正しき事に違いない。紋章とはそのために作られたものであり、実際に彼の能力自体も、紋章作成という方向に特化している。
しかし、『正義』の道はなおも険しい。
紋章は未だ研究不足であり、人は装着に耐えられない。ゆえに、今のところは強靭なオブリビオンに与えることでデータを集めている段階だ。
まあ、オブリビオンにも英雄は居るかもしれないし、居なくとも研究が完成した暁には、紋章を纏った真の英雄がそれを蹴散らしてくれるだろうから問題はない。
途上で生まれる被害者も、紋章作成の際に大量に使われる犠牲も、『紋章つかい』は厭わない。
だって、これは『正義』なのだから。
「なんと、猟兵が近くまで来ているのか?」
『紋章つかい』のその声は、驚愕というよりも喜びの色合いが強い。
「丁度良い! 正義を知る彼らは喜んで検体になってくれるだろう。頼みに行ってこよう」
●装着変身
「五卿六眼『紋章つかい』と戦う算段が付いた。いけるか?」
戦争も既に佳境、次々と五卿六眼との戦端が開かれていく中、『紋章つかい』への道もまた確立された。終局に向かうこの戦いの中で、飽くまで脇道のこちらでどこまでやれるかは未知数だが。
「紋章の厄介さはお前達も知るところだろう。ここで倒せるならそれに越したことはない……まあ、余裕のある者は手を貸してくれ」
居合わせた猟兵達に対し、ヴィトレル・ラムビー(斧の狩猟者・f38902)はそう言って協力を求めた。
行先は第二層、『紋章つかい』の意場所だ。紋章の実験場に使われているらしきその場所で、敵はこちらの到着を待ち構えている。
戦場に入れば敵は自らに複数の紋章を埋め込み、「装着変身」を発動してくる。装甲に覆われた異形の如き姿に変身し、戦いを挑んでくるだろう。
この場合、装甲に覆われて紋章の各個撃破は難しい。紋章のデメリットや負荷を受けずに使いこなす彼の実力は、シンプルに戦闘能力だけを見れば腐敗の王やライトブリンガーをも凌ぐレベルだ。
「我々ではまともにやっても勝ち目は薄い。搦め手ではなお無理だろう。ゆえに……こちらも同じ土俵に上ってやる必要がある」
それはつまり、『紋章を使う』ということだ。戦場には、その効果から失敗作とされた紋章がいくつも、無造作に放置されている。それを使ってこちらも「装着変身」し、その力を揮って戦うのだ。同等の力を以てすれば、こちらのユーベルコードも相手に届くはず。
とはいえ、こちらは紋章装着による負荷は避けられず、失敗作と判断されるだけのデメリットも抱え込むことになるだろう。奇しくも、失敗作の紋章の実験台を買って出る形か。
「恐らく、敵にしてみればそれも狙い通りなのだろう。気に食わんが、今取れる手の中ではこれが一番確実だ」
そう言って、ヴィトレルは不機嫌そうに鼻を鳴らした。
「まあ、一番の問題は、それがどういう力を持つ紋章なのか、我々には理解できない点だろうな」
恐らくは見覚えのある、辺境伯の紋章や殺戮者の紋章が失敗作扱いで放置されているとは考え辛い。そんな中で戦闘に耐えうる有効な紋章を選び取るのは難しい。祈るか運を高めるか、その手のユーベルコードによるアプローチも有効になるだろう。
「そうでなければ……この紋章を探してくれ」
言いつつ、彼はひとつの絵柄を提示してみせる。それは最近別の戦場――紋章の祭壇で発見された、失敗作として扱われていたもの。『欠けた月の紋章』だ。
装着者は耐久力を失うというデメリット受ける代わりに、『追い詰められるほどに力が増す』という特徴がある。
「これはこれで厄介だが……特徴が分かっている分、即興勝負を挑むよりはやりやすい者も居るだろう」
そこまで言って、溜息をひとつ。口の端を吊り上げて、好戦的な笑みを浮かべ、彼は言う。
「博打みたいな話をしていることはよく理解しているつもりだ。だからもう一度問おう」
いけるか?
つじ
当シナリオは『闇の救済者戦争』の内の一幕、一章構成の戦争シナリオになります。
●装着変身
昆虫型の紋章を身に付けることで、外骨格のような装甲が体を覆います。形状は様々ですが、希望があったらプレイングでどうぞ。全身型とか部分装着型とか色々ありそうです。
紋章つかいは「猟兵が失敗作の実験台になってくれている」と考えるので変身を待ってくれます。
●戦場
第二層。紋章の実験場のように使われていた場所。戦闘には不自由しないスペースがあり、失敗作とされた紋章がいくつも、無造作に置かれています。
紋章の効果を外見で判断することはできませんが、前情報により『欠けた月の紋章』だけは判別することが可能です。
●欠けた月の紋章
闇の救済者戦争⑮〜双星遊戯(https://tw6.jp/scenario/show?scenario_id=49485)
上記シナリオにて登場しました。装着者は受けるダメージが増加する代わりに、負傷に応じて力が増すという特徴を得られます。実は『精神的に追い詰められる』ことでも強化が得られるようです。
●プレイングボーナス
「装着変身」を行い、敵と同等のパワーアップを得る。
第1章 ボス戦
『五卿六眼『紋章つかい』』
|
POW : 紋章正拳
【「番犬の紋章」を拳に装着しての正拳突き】が命中した部位に【紋章つかいの正義】を流し込み、部位を爆破、もしくはレベル秒間操作する(抵抗は可能)。
SPD : 紋章連脚
【「不死の紋章」を脚裏に装着しての飛び蹴り】【「辺境伯の紋章」を膝に装着しての膝蹴り】【「殺戮者の紋章」を爪先に装着しての連蹴り】で攻撃し、ひとつでもダメージを与えれば再攻撃できる(何度でも可/対象変更も可)。
WIZ : 紋章断罪翼
自身が装備する【「月の眼の紋章」を両翼に装着した漆黒の翼】から【細胞破壊光線】を放ち、レベルm半径内の敵全員にダメージと【肉体宝石化】の状態異常を与える。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
|
種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
ハート・ライドン
ええ、よくわかりました
祭壇を潰しても惨劇は続くのでしょう
…この碌でなしを討たない限り
判別可能かつ仕様が既知の
『欠けた月の紋章』を使用
下がった耐久力で敵の攻撃を耐えきれるか
反撃する余力を残せるか
恐怖心が無いといえば嘘に――これは、もしや?
精神的に追い詰められることでも強化が得られる可能性に
恐怖を機に思い至ります
まさに博打になりますが
この身が動くうちに敵へ打撃を
【迅雷疾走】発動
あえて敵の攻撃を受け
感電ダメージを返します
ただの物理攻撃なら私は無傷
そうでなければ負傷こそしますが
代わりに与ダメージは上がるはず
物理攻撃を凌げたとて
敵が他の有効打を持つ可能性は拭えません
精神への重圧をそのままに戦闘続行します
●雷霆
デスギガスによって移された祭壇を潰し、制圧したことで、紋章の生産は終わった……と、思われたが。
「つまり、|この碌でなし《あなた》を討たない限り、紋章は生み出され続ける、というわけですね」
『その通り! 命ある限り俺は正義を成す。必ずだ』
溜息を滲ませるようなハート・ライドン(Never Say Die・f39996)の呟きに、五卿六眼『紋章つかい』は堂々と、高らかに応じた。
とはいえそれも道半ば、まだまだ紋章は完成には至らず。だが試行と研究を繰り返し、性能と精度の増した紋章は、いずれ全ての人々を救済するだろう。そう謳う彼に対し、ハートは戦場に無造作に置かれた『失敗作』のひとつを手に取った。
研究と試行は続く。つまり、惨劇は終わらない。正義を成すための必要な犠牲であると、この男は割り切っているのだろうが。
『おお、さすがは猟兵だ! 進んで研究に手を貸してくれるとは!』
「……今は、そういうことにしておきます」
身に付けたのは、『欠けた月の紋章』。黒く輝く甲殻状の鎧が、彼女の全身を覆っていく。厳めしく、けれどスマートなその装甲が身を包むと、全身の知覚が鋭敏になったような感覚に襲われる。痛覚さえも先鋭化され、力が漲るどころかこれではその逆――かつて戦った相手がそうであったように、この紋章は身体が万全な状況で装着しても、デメリットしか齎さない。
『では行くぞ。失敗作の感想を聞かせてくれ!』
身体に複数の紋章を埋め込み、装着変身を遂げた紋章つかいが一気に間合いを詰める。爪先に輝く『殺戮者の紋章』を見て取った時には、もはや遅かった。連打を狙った蹴りのたったひとつが、ハートを覆う装甲をたやすくひしゃげさせる。
終わった。これは致命傷になると本能が言う。だが、それに反して彼女の感じた衝撃は、予想よりも幾分軽いものだった。
「――これは、もしや?」
欠けた月が輝いている。恐怖と絶望、精神的な逆境に、紋章が反応を見せたのだ。
これならば、と希望を見出した瞬間光が鈍る、そんな厄介な代物を胸に、ハートはこれが最後の好機であると断じて踏み込んだ。
「風よりも、音よりも速く――」
紋章つかいの飛び蹴り、当たったら今度こそ終わりであろうそれに、自ら飛び込む。
『迅雷疾走』、接触の寸前に、彼女の身体が階梯0の形に、そして電撃へと変じる。形ある稲妻と化したその身体を、紋章つかいの蹴撃が摺り抜け――彼女は光の速さで駆け抜ける。
『――ああ、素晴らしいな!』
負傷と、ぎりぎりの状況に身を置く精神状態、それによって強化された電撃は、紋章つかいの守りさえも打ち貫いた。
大成功
🔵🔵🔵
シキ・ジルモント
博打でも構わない、躊躇いなく戦場へ向かう
欠けた月の紋章を探し装着
紋章を装着時は左半身を外骨格のような装甲が覆う
変身を待ってくれるとは律儀だ、協力のつもりは無いのだが
ユーベルコードで一撃離脱を狙う
敵の蹴りの範囲外から一気に接近し攻撃と同時に再度距離を取る
攻撃の瞬間は無防備に近くなるが、防御よりも攻撃を重視
紋章にも耐久力を失うというデメリットはあるが、追い詰められるほど力が増すなら好都合と言える
ダメージを受け追い詰められる事で紋章の特性を利用
装着変身によって強化された力と合わせて更に強化を試みる
さて、どちらが力尽きるのが先か
…自身の戦法で更に博打の様相となっているが、勝算があるだけ上等だと割り切る
●重なる月
なるほど、これは博打というしかない。紋章の根付きと同時に鋭敏化していく感覚に、シキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)はそんな感想を抱くいた。
紋章が宿ると同時に左半身を包む灰色の外骨格。甲虫のそれを思わせる装甲は、しかしその下の肉体に力を齎す気配がない。代わりに鋭敏化した知覚は、戦場の空気をびりびりと色濃く伝えてくる――万全の状況で身に付けた『欠けた月の紋章』は、デメリットばかりが目立つまさに失敗作だ。
「変身を待ってくれるとは、律儀だな」
『なに、紋章の研究はまだまだ先が長い。協力者はいつでも歓迎だぞ』
「そういうつもりは無いのだが……」
五卿六眼『紋章つかい』、余裕というか、どこかズレたその物言いに呆れつつも、シキは装甲に覆われた左半身を前に出す形で構えた。
複数の紋章を埋め込み、装着変身を遂げた紋章つかいの戦闘能力は他の五卿六眼を凌ぎ得るもの。その上、先頃に取った戦法――彼女の言葉を借りるなら、『一撃で|仕留める《ブチのめす》』という対策が、そのままこちらに刺さる状況だ。油断はできない。
『しかしわざわざその紋章を選ぶとは、物好きめ』
こちらとしてはありがたい限りだ、という敵の言葉は嫌味ではなく素の感想なのだろう。だが向かい来る蹴りの鋭さに、容赦は一切感じられなかった。
「――いくぞ」
放たれる膝蹴りに対し、シキはユーベルコードの力を解き放つ。『クレセント・ゲイル』、月の光を思わせる冴えた輝きと共に、速度を増した彼は敵の一撃を躱し、その横面に拳の一撃を叩き込んだ。
鎧のような外骨格同士がぶつかり、鈍い音色が響くものの、紋章つかいのそれを破るには至らない。深追いはせず、一撃離脱を試みるシキだが、敵はそれを追って連蹴りの姿勢に移った。
(「まずい、か?」)
紋章のみならずユーベルコードの効果も足して先鋭化した五感は、吹き抜ける風にさえも痛みを覚えるほど。その状況でもらった一撃は、脳を直接貫くような衝撃を齎した。
防御に回した左腕の装甲がひしゃげ、筋繊維が千切れ骨が砕ける、その一つ一つの感触を事細かに認識してしまい、全ての思考が止まりかける。が、暴走する感覚と飛びそうな意識をどうにか耐えて、繋ぎとめて、シキはそこに踏み止まった。
銀色に輝く仮面の下、青い瞳が紋章つかいを射抜き、手負いの獣が牙を剥く。
『ははは、良いぞ! 生き残ったな!!』
「――ああ。喜べ、実験は成功だ」
これが博打であるのなら、僅かな勝算を無理矢理に掴み取った形だろう。
三日月の光に欠けた月が重なって、外骨格のようなその装甲が、破損個所を繋ぐように蠢き、凶暴な軋みを上げる。この一瞬、シキの能力は紋章つかいのそれを凌駕するに至った。
紋章つかいの必殺の飛び蹴りに対し、シキは真正面から突っ込む。疾走の勢いのまま振り切られた左脚が、紋章つかいの装甲を蹴り砕き、貫いた。
成功
🔵🔵🔴
紫・藍
藍ちゃんくんでっすよー!
あやー、失敗作でっすかー。
紋章つかいさんが何を以て失敗としたのかは分かりまっせんがー。
猟兵では試してませんよね?
でしたら存外思いもしないシナジーが生まれるかもでっすよー?
というわけで藍ちゃんくん、紋章つかいさんとコラボレーションなのでっす!
ダークセイヴァーに光を!
人々に夢を、文化を!
変革せよ、なのでっす!
藍ちゃんくんの祈りと歌に反応した紋章とコラボ!
青い鳥の守護で幸運増し増し藍ちゃんくんでっすのでー!
いい感じになるのではないでっしょかー!
正拳は多重強化された身体能力で踊るようにかわしちゃいましょう!
藍ちゃんくんの幸運で勢いのまま体勢を崩して自滅してくれませんかねー!
●踊る翅の音色
「藍ちゃんくんでっすよー!」
ということで、いつもの名乗りと共に紫・藍(変革を歌い、終焉に笑え、愚か姫・f01052)が訪れたのは、五卿六眼『紋章つかい』の居る第二層。そこには使用者の居ないいくつもの紋章が、無造作に放置されていた。
「おやおや、これはー?」」
不思議そうに首を傾げる彼に対し、複数の紋章を身に宿すことで装着変身を遂げた紋章つかいが応じる。
『ああ、紋章を研究する過程において、どうしてもある程度の出来損ないは生まれてしまうからな』
「あやー、失敗作でっすかー」
生まれてすぐに選り分けられ、打ち捨てられた形のそれらを見下ろす。藍の目からは、『成功品』と何も変わらないように見えるのだが。
「紋章つかいさんが何を以て失敗としたのかは分かりまっせんがー……猟兵では試してませんよね?」
『もちろんだ! さすが、猟兵は話が早いな!』
思った以上の食い付きである。猟兵を実験台にしたがっている紋章つかいとはある意味利害が一致して、早々に藍と紋章つかいのコラボレーションが実現した。
――ダークセイヴァーに光を!
人々に夢を、文化を!
変革せよ、なのでっす!
『¡Aquí hay Ai!』、祈り歌う、藍のメロディが戦場に響き渡り、転がる紋章達をなぞる。歌と共に纏った『青い鳥の守護』に呼応し、一際強い輝きを放ったひとつを、藍はその手で拾い上げた。
「それでは、こちらの紋章とコラボレーション! でっすよー!!」
彼の背中に宿ったそれは、大きく輝くアゲハチョウのような翅を広げる。重力から解き放たれたように浮き上がるその姿に、紋章つかいは『ほう』と感心したような声を上げた。
『その紋章には、精神を過剰に高揚させる副作用があったはずだが』
被検体は落ち着きを失い、話も聞かずに倒れるまで歌って踊り続けたとかいう代物らしいが、藍の戦い方を加味すればただただテンションが上げやすくなっただけである。
結果的に紋章の力を呼び覚ました藍は、その飛行能力を試すように空中で一回転。
「それで、実験の続きはされないのでー?」
『良いだろう、さあ踊ってみせろ!』
紋章つかいが地を蹴る。床をへこませながら跳躍した彼の鋭い拳を、藍はその言葉通り、踊るようにして躱してみせた。
敵は黒翼を羽搏かせ、巧みそれを追い立てるが、色鮮やかな蝶の翅は、それに捕まることなく舞い続ける。
「いい感じなのでっす!」
『ははは、失敗作にこんな使い道があるとはな!』
思いもよらぬシナジー、相性の良さに紋章つかいが笑う。今度こそ捕えたとばかり振るった、番犬の紋章を宿した拳が宙を切り、その右腕を踏み台にして藍が空高く舞い上がる。
幸運の加護と紋章の力、それらを乗せたステップによって、紋章つかいはバランスを崩し、地へと叩きつけられた。
成功
🔵🔵🔴
烏護・ハル
『欠けた月の紋章』を探して装着。
意外と肉体派なのね。
私も『一応』心得はあるけど。
式神さん。
私に催眠かけて。『全然痛くない』って。
悶える暇も惜しいから。
とはいえ実際は痛打そのもの。
見切り、フェイントで捌ける物は捌く。
最短で隙を突かなきゃ。
ダメージは激痛耐性と呪詛耐性で凌ぎ切る。
……くっだらない。何が正義よ。
貴方のそれは、呪詛と何ら変わらない。
蝕むだけの毒そのものでしょうが……!
隙が見えたら動作を見切り、合わせるようにカウンター。
全力のUCの拳を放つ。
また式神さんに白い眼で見られるかな。
でも、今だけは面倒くさいとかそんなんじゃない。
ブッ飛ばしたい。
自分に酔って理屈捏ね回して、命を踏み躙るこいつを!
●|陰陽術《クロスカウンター》
五卿六眼『紋章つかい』。その名の通り、複数の紋章を取り出した彼は、それらを自らの身体に埋め込み、細い甲冑に包まれたような姿へと変貌を遂げた。武器の類は存在しない、その姿は明らかに徒手での格闘戦を想定しているようで。
「……研究者みたいなこと言ってた割に、意外と肉体派なのね?」
『それはこちらの台詞だが』
思わぬ返しに、烏護・ハル(妖狐の陰陽師・f03121)は「うーん」と眉根を寄せる。先程拾い上げた『欠けた月の紋章』……黄金に輝くそれは、ハルの体に宿ると同時に両腕を覆うガントレットへと変形していた。
最初からそのつもりではあったものの、|闘え《やれ》と言われているようなこの状況は、術師として複雑な部分もある。
頭を振って戦いに邪魔な感情を追いやってから、彼女は構える。
「一応、心得はあるのよ」
『ありがたい話だ、その方が良いデータが取れそうだからな!』
地を蹴る紋章つかい、それに合わせてフットワークを刻みながら、ハルは召喚した式神へと呼び掛けた。
「式神さん。私に催眠かけて!」
まじでやるの? という気配を滲ませながらも式神はそれに従う。催眠の内容はシンプルに、痛覚を麻痺させる類のものだ。この強敵を相手に格闘戦を挑む以上、痛みに悶えている暇などないのだから。
敵の腕で番犬の紋章が輝く。その一瞬の後に放たれた正拳を、ハルはガントレットに覆われた腕で払う。だが接触と同時に流し込まれたエネルギーが爆ぜて、その身を抉っていく。フェイントを交え、捌ける攻撃は捌き、ハルは敵と真っ向から打ち合っていた。
痛みは催眠術で一時忘れ、負傷にも関わらず放たれた反撃の拳が紋章つかいの装甲にヒビを入れる。
『良いぞ! 力無き民が英雄となり、吸血鬼を打ち倒すのが目に浮かぶようだ!』
「……くっだらない」
口の中に滲む血の味と共に、吐き捨てるようにハルは言った。。
「貴方のそれは、呪詛と何ら変わらない。蝕むだけの毒そのものでしょうが……!」
これ以上は食らうとまずいか、逸らした鼻先を掠めた拳を睨む。
『何故だ? 正しき意志を持つ者に力が与えられる――それこそが正しい世界の在り方だろう』
「あなたは、自分に酔ってるだけ」
そのために何人犠牲にした? 理屈を捏ね回し、命を踏み躙り続けるこの存在を、許す訳にはいかない。
紋章つかいの放つ正拳、それに狙いを定めていたハルは、『ブッ飛ばしてやる』という意思を込めてカウンターの一撃を放った。
腕が交差する形で、ハルの拳が紋章つかいに突き刺さる。
『おお……ッ!?』
脳を揺らす衝撃に負け、紋章つかいがその足元をフラつかせる。力負けこそしていないが、戦法で上回られた形か。それでも、彼は満足そうな笑みを浮かべる。
『紋章の力をここまで引き出すとは、英雄に相応し――』
「黙ってて!!」
体勢を崩したその顎を、ハルの拳が捉えた。
しっかりと地を踏みしめ、拳が高々と突き上げられる。紋章による装甲を叩き砕き、貫いて、飛び散るそれら破片と共に、紋章つかいが打ち上げられていった。
大成功
🔵🔵🔵
セシリー・アリッサム
意志が人を英雄に……ここにある形は、それを成す為の欠片なの?
落ちていた『蝶の紋章』を拾い上げ、顔の前に持ってくる
覚悟はできたわ
声と共に亀裂の様な跡が顔を走り
蒼い炎が全身を包む――
失敗、じゃない
あなたの好きにさせない為の、魂の反抗
だから……|私《セシリア》は変身する
全身の炎に被さって白銀の装甲が形作られる
炎は散っていった魂達を燃やして燃え盛り
強靭な青い防護服に、そして人狼の耳を出した白銀の|仮面《マスク》
口元を出したままそれを被る
刺激される生存本能と闘争本能――ええ、漲るわ
天狼覚醒、|舞い上がり《空中浮遊》敵の攻撃を避けて
焼却属性の全力魔法をシリウスの棺から放つ
これが皆の……祈りを込めた一撃よ!
●銀翼
――意志の力だけが、人を『英雄』にする。
五卿六眼『紋章つかい』はそう言った。ならば、ここにある形は、それを成す為の欠片なのか。セシリー・アリッサム(焼き焦がすもの・f19071)の見下ろしたそこには、無数の紋章が放置されていた。
失敗作、欠陥品、そう断じられたそれらひとつひとつさえも、成立の過程で多くの命が費やされている。
必要な犠牲だと彼は言うだろう。しかし、目的が崇高であるのなら、この非道は許されても良いのだろうか。無数の悲劇に、無数の惨劇。ダークセイヴァーにはありふれた出来事であろうとも――。
伸ばした指が、無数に放置された紋章の一つに触れる。蝶の形をしたそれを、セシリーは眼前に掲げた。
『ああ、それを選ぶのか。欠陥品の被検体は貴重だからな、簡単に壊れてくれるなよ?』
彼にとっては喜ばしいことなのだろう、明るく声を上げる紋章つかいを、セシリーは蝶の紋章を透かして睨む。それに呼応するように、彼女の顔に亀裂のような光が走り、蒼い炎が噴き出した。
『……駄目か。所詮は失敗作だな』
「失敗、じゃない」
紋章つかいの落胆の声に、炎に包まれながらアリッサムが応じる。
「あなたの好きにさせない為の、魂の反抗」
それを証明するように、蝶の紋章がその翼を広げる。全身の炎を覆うように白銀の装甲が形作られ、解き放たれた死者の声が炎を煽り立てる。蒼く燃え上がったそれは、やがて強靭な防護服を編み上げ彼女を包み、白銀の鎧がその上を飾った。最後に銀色に輝く|仮面《マスク》が顔の上半分を覆い隠し――。
「……ええ、漲るわ」
『天狼覚醒』、オラトリオのそれと同じ、白い翼を顕現させて、彼女は空へと舞い上がった。
『いいぞ、どこまでやれるか見せてくれ!』
こちらも複数の紋章を同時に埋め込み、紋章つかいが地を蹴る。一足飛びに加速した彼の拳は、空中にあってなお鋭く、咄嗟に身を捻ったセシリーの眼前を掠めた。
白翼を翻す彼女の後を、黒翼が悠々と追う。
紋章で強化されているという点では同じでも、使う紋章の質も数も、実力さえも開きがある以上互角とは程遠い。距離を取る事すらできぬまま、嬲るような攻撃は続いて。
『せっかくの『意志』も、力が伴わねばこの程度だな』
より研究を深めていかなくては。そう結論付けて、紋章つかいは両翼に宿る月の眼の紋章を輝かせる。迸る二条の光線、だがとどめのそれに対し、蝶の紋章が反応する。翅を広げるように、彼女の身体を離れた装甲が、光線に対する盾を成した。
「これは……」
細かに分解され、宝石となって崩れ落ちていく銀の蝶。紋章の作り出したその時間、その護りの中で、セシリーは杖を振りかざす。
「これが皆の……祈りを込めた一撃よ!」
シリウスの棺から、蒼い炎が噴き上がる。決死の覚悟で放たれたそれは、紋章による装甲ごと敵の身体を焼き尽くした。
成功
🔵🔵🔴
リグノア・ノイン
戦いには出遅れてしまいましたが
どうやら最終戦には間に合いそうです
「|Aus diesem Grund《だからこそ》.まずは露払いを」
戦況と情報は確認しておりましたので解ります
この方は何があっても、此処で倒すべきと
それに失敗作として放置されたこれらが
そしてそれに使われてきた命が
無念だと私に伝えてくるのです
「|Ja《肯定》.一緒に、戦いましょう」
【Waffe namens "Lignoa"】を使用し
軽装の上から昆虫型の紋章で全身骨格を身に纏い
これで同等の力と思われますが、後は全力で戦います
先程感じた無念を晴らすために、ただ全力で
「|Gott segne Sie《神のご加護を》.どうか、私にも力を」
元々私に理性という物はありません
ですが「心無きモノ」が引き上げる力と
この外骨格の影響なのでしょうか
心がとても高揚するのを感じます
見えない誰かに背を押されるように
踊るように前へ、切り結び、薙ぎ払い
目の前の敵を滅ぼすために
「|Verzeihung《失礼》.此方で、最後のダンスと致しましょう」
●心の無い兵器達
「戦いには出遅れてしまいましたが――」
長かったこの戦争も、決着の時は近い。第二層の一区画で待ち受ける五卿六眼『紋章つかい』、その撃破を期して、リグノア・ノイン(感情の渇望者・f09348)はそこに降り立つ。戦況と情報は出向く前に把握済み、だからこそこの敵を逃がすわけにはいかないと、彼女には理解できていた。
正義を謳いながら非道を為し、悲劇と惨劇を生み出し続ける魔性。倒すべき敵という認識もあるが、それに追加してこの舞台に、リグノアは呼び寄せられたような感慨を覚える。
辺りに散らばり、放置されているのは、使う者の居ない紋章達。無理矢理に集められ、儀式に命を搾り取られ、その末に失敗作として打ち捨てられる――そんな結末を前に、彼等は無念だと言っているような気がした。
それは錯覚か、それとも共感か。だがどちらにせよ、彼女は迷わなかった。
「|Ja《肯定》.一緒に、戦いましょう」
両腕の兵装を手放し、その代わりに甲虫のような、硬質な手応えのそれを拾い上げる。『彼等』に自意識があるのかはわからない。だが無為なる終わりから掬い上げられた紋章は、リグノアを歓迎するように光を放った。
胸元に置いた紋章から装甲が展開され、外骨格と化して軽装の上から彼女の全身を包む。リグノアのという名の兵器に、寄り添い、守るようなそれと共に。
「|Gott segne Sie《神のご加護を》.どうか、私にも力を」
祈りの言葉を口にする。赤い瞳が敵を見据える。無念さを訴えていた彼等を連れて、その心残りを晴らすためにも、リグノアは全力で前へと踏み込んだ。
『自ら実験に付き合ってくれるとは、さすがは猟兵だな!』
正義の行いと言うものを、よく理解しているようだ! そんなことを口走りながら、紋章つかいは自らも複数の紋章を用いてそれに応じる。リグノアのそれとは対照的に、黒に輝く甲殻に身を包んだ紋章つかいは、彼女の出鼻を挫くように飛び蹴りを放った。
『成功品』の紋章の与える力によるものか、鋭いその攻撃を、リグノアはステップを踏むように逸らし、大剣の刀身で受け流す。そのまま間合いを詰めて振るった刃を、しかし紋章つかいは掌打で弾き、凌いで見せる。
至近距離での交錯と離脱、ダンスのようなその展開の中で、ついに紋章つかいの連蹴りがリグノアを捉えた。
紋章による外骨格が砕かれ、彼女の顔が露になる。致命的ではないものの、衝撃で揺れる視界に、彼女は足元ふらつかせた。
『そろそろ限界か?』
呼気が熱を帯びているのを感じる。激しい戦闘に伴う排熱行為と断じることもできたが、それだけではないようにも思えた。
『彼等』の声は、今なお彼女の中で響いている。体と命を代償にして、生まれた兵器――その在り方は、ある意味ではよく似ていたかもしれない。そんな彼等の声は、そして嘆きの感情は、リグノアにしてみればとても見過ごせないものだった。
「――心が、とても高揚するのを感じます」
『ほう、その失敗作にはそんな副作用があるのか?』
心無きモノ、その刃は変わらず兵器として研ぎ澄まされている。いつもと違うのは、この胸元に響く高鳴りだろうか。
思考が赤く燃え上がり、見えない誰かに背を押されるように、その足は進む。踊るように、切り込むように。
「|Verzeihung《失礼》.此方で、最後のダンスと致しましょう」
相手の足を踏みつけにするような、虚を突く一歩。
その一瞬、敵の蹴撃を踏み台にするように跳ねて、彼女はくるりと回転する。それに伴い回る大剣が三日月のように弧を描き、装甲ごと紋章つかいを叩き切った。
成功
🔵🔵🔴
矢来・夕立
嵐さん/f38770
欠けた月の紋章、でしたっけ?
よくできてますよ。使うぶんには悪くない。自分を傷つける|術《じゅつ》とは殊更によく噛み合う。
【神業・影暗衣】
あれが正義を語るのならば、悪逆の痕跡で殺します。コレ(UC)やるといっぱい怨み言が聞こえるんですけど、それ全部聞かせてあげたいもんですね。怨嗟なんて到底理解できないおめでたい頭の持ち主みたいだけど。
ともあれ流れて止まらない血。身を蝕む毒。どちらも治す理由がありません。
麻痺を引いたら式紙任せですね。まあ問題ないハズです。
●強化2
何せ今回もマップ兵器の狂戦士がいるのでね。むしろ巻き込まれる方がいい。腕脚の一本や二本と引き換えに頭も刃も冴えることでしょう。存分に吹き荒れて頂いて結構です。
…と、言いました。言いましたが、精神にクるのは戦闘に障る。
あ~人選ミスった。取引先と組んでるのに背中の後ろの方が怖いっておかしいだろ。頭フラフラするし。
世界の危機に対して申し訳ないんですけど早めに殺して終わらせますね。じゃないとあの黒い嵐に潰されて死ぬので。
バルザック・グランベルク
矢来の小僧(f14904)
意思、正義、実に降らん。力は力、其処に意味を求めるなぞ愚の骨頂。
貴様の惰弱な仕掛けも思想も真なる暴威には無力であると知らしめてくれよう。
紋章とやらの力を利用するだけでは足りん。嵐の真髄を発揮するために我はUCで力を解放する。紋章と合わせもはやどのような容貌になるか見当もつかんが、なんでも構わん。やる事は嵐として在るが儘に暴れるだけなのだから。
紋章、UC共に傷を負えば強化されるのであれば、正面から潰し合うのみ。我が【呪縛】の仁、義、礼、智も【リミッター解除】し、意思なき暴威として荒れ狂うのみよ。貴様の力が正義を示すのであれば、我は其れを心身ともに塵芥にしてやるだけだ。
我が荒ばす暴風は敵味方の区別なく無差別に影響を及ぼすが、紋章の力の糧となるのであろう。であれば気にすることもあるまい。嵐の寵愛としてくれてやろう。
●英雄不在
五卿六眼『紋章つかい』は正義を謳う。強者がのさばり弱者が虐げられ、それを「世の理」と断じるのでは、余りに救いがないではないかと。
しかし、バルザック・グランベルク(嵐帝・f38770)はその発想自体を否定する。
「意志、正義、実に降らん。力は力、其処に意味を求めるなぞ愚の骨頂」
『ははは、無茶苦茶だな。だが力の有無で勝敗は決まるぞ?』
そこに在るだけで意味は生まれる。だからこそ紋章は、力は、正しき者に与えられるべきだと。自らを正しいと信じるがゆえに、高らかに語る『紋章つかい』のそれを、続けてバルザックは切って捨てた。
「惰弱な仕掛け、惰弱な思想だ」
そんなものは、真なる暴威には無力――そう知らしめてくれる。
巨人の視点、紋章つかいの遥か上から響く声音。それが通り過ぎるのを待ってから、矢来・夕立(影・f14904)が口を開いた。
「お話終わりました?」
では始めましょうか。先日戦ったそれ、『欠けた月の紋章』を一つバルザックに投げ渡し、彼自身もまた身に付ける。紋章の輝きと共に、甲虫の殻を思わせる滑らかな装甲が、鎧の如く全身を覆っていく。感触は硬いが、重くはない。けれど特段力が漲ると言った様子も見られない――それが『失敗作』とされた所以だと、彼はその身で実感した。
「まあ、でもよくできてますよ。使うぶんには悪くない」
『ほう、欠陥品に対して随分寛大だな』
「ええ、まあ」
何しろ、自分を傷つけるタイプ|術《じゅつ》とは殊更によく噛み合う。自らを覆う装甲、その隙間を指で探っていた夕立は、おもむろに自分の喉を掻っ捌いた。
『は?』
ドン引きされている。ごぼ、と湧き出た血の泡を吐き捨てながら、夕立はもう一人の方を指さした。
「まあ問題はあっちですよ」
そこでは、黒い嵐が膨張を始めている。紋章を宿したことによる武装、甲虫を思わせる装甲が広がっていくが、それでは足りぬと言わんばかりに、生物のように蠢く全身鎧がそれを呑み込む。
仁、義、礼、智。人を人足らしめる枷を外し、真の姿を晒した彼は、色の見える禍々しい風を纏い、暴虐の化身として顕現した。
彼の言を借りるのならば、そこに善も悪もないのだろうが。
『少なくとも正義らしくはないな?』
「それは同感ですがね」
紋章つかいの言葉に頷きながら、夕立が言う。彼の方にもまた、ユーベルコードによる副作用が生じていた。
「そちらの所業もよっぽどのようで」
流れ出る血は止まらない。だがそれと同時に聞こえる『悪逆の痕跡』は、正義を語る紋章つかいとは真逆の声を奏でていた。これまで一体何人殺してきたのか、そしてどれだけの悲劇を齎してきたのか。けれどそれも、この男は「必要な犠牲」の一言で片付けてしまうのだろう。ならばわざわざ追及するまでもない、言葉の代わりに刃で以て、夕立は紋章つかいに斬り付ける。
紋章によって強化された身体能力を生かした鋭い一振りは、しかし同じく複数の紋章で強化された紋章つかいには届かない。寸でのところで身を逸らした彼は、脚部の紋章を輝かせ、連蹴りでの反撃に出た。まともに喰らえばひとたまりもないであろうそれを、夕立は見切って躱し、刃を突き立てる隙を窺う。するとそこに、後方から凄まじい圧力が迫ってきた。
「……チッ」
『おっとォ!』
上空から振り下ろされた巨人の鎚、バルザックの一撃を、夕立と紋章つかいは逆方向に跳んで躱す。穿たれた床の破片と土煙が吹き荒れ、次の瞬間横薙ぎに振るわれたそれによって、二人はまとめて吹き飛ばされた。
「存分に吹き荒れて頂いて結構――とは言いましたけどね」
地面を何回か跳ねてから何とか体勢を整え、夕立が呻く。先の戦いからして敵味方を区別しないタイプだとはわかっていたが、まともに食らうとそうも言っていられない。幸いなのは、追撃が来る前にもう一人が嬉々としてそちらに向かってくれたことか。
『ははは、やるな! その紋章の実験台としては丁度良い!!』
黒翼を広げて空中で姿勢を整えた紋章つかいは、哄笑と共に荒れ狂う暴威に向かう。迫る黒風を素早く躱した彼は、そのまま嵐の中心に飛び込み、バルザックの胴に正拳の一撃を打ち込んだ。
輝く紋章が爆発を齎し、巨人の半身をその衝撃で吹き飛ばす。だが、嵐はそれさえも構わず、むしろ欠けた月の紋章によって力に変えて、振り下ろす一撃で紋章つかいを床にめり込ませた。
激しさを増す漆黒の風、接触するものを片端から叩き潰していくそれに、すぐさま身を起こした紋章つかいの拳が叩きつけられる。弾かれ行方を変えられた一撃が壁面を穿つが、当然それで終わることなく、鎚はそのまま大きく振り回される。力ずくの連打、嵐とは人智の及ばぬ災害、だがそれに抗し得るのが紋章だと証明するように、紋章つかいは一歩も退かぬ構えでそれに応戦していた。
「あ~……」
人選ミスったかな、という本音が、それを見ていた夕立の口から零れる。このまま戦うということは、ともすればあの間に挟まれることになるのか? いっそ観戦に回りたいが、止まらない血と怨嗟の声はきっとそれを許さないだろう。何よりも、紋章つかい側にまだ余裕があるのが気に食わない。
「取引先と組んでるのに、背中の後ろの方が怖いっておかしいだろ」
どうなってんだよ。溜息交じりの呟き、フラつく頭、だがそれに反し、彼の歩みはやけに確りとしている。死地にこそ力を発揮する『欠けた月の紋章』は、過去一番の輝きを放っていた。
全てを蹂躙せんと荒れ狂う嵐と、紋章の力を総動員してそれと拮抗する男、その両者の破壊的な応酬の合間を抜けて、影がその手を伸ばす。
紋章つかいがそれに気付いた時には、夕立の刃はその喉元に迫っていた。
『――なるほどな! あの失敗作にここまでのポテンシャルがあるとは!』
「そうですか。おめでとうございます」
死地に置いても出てくる言葉がそれなのか。呆れたように、シンプルに返す。
そして、そのおめでたい頭の根元を、真っ直ぐに斬り裂いた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
キラティア・アルティガル
外道が湧いておるの
不思議な事じゃ
同じ人語とて些かも言葉が繋がらぬ
慮外者とはこのような輩を指すのであろうの
なれば我は粛々と
「済まぬが頼むぞえ」
予知の者に見せられた紋章を選ぶぞ
丁度我は編み出したばかりのUCを有しておるゆえ
「おぬしが更に役立つ事請け合いじゃ!」
身体に装着すると見る間に生まれもつかぬ
異形の姿になりおおせたの
「まあどのような姿であれ…どのみち我は元々生まれもつかぬでな」
どのような顔をしておるかは分からぬが笑み
UC|魔死の大鎌《デスサイズ》の起動を行おう
技は発動の前後が無防備となる
故に危いやもしれぬが…
「その分おぬしの威力もいや増すであろう!上等じゃ!」
一応真の瀕死とならぬよう、ようよう気は付け居るが
最低でも一撃は受け
「終わりかや?」
どれ程血に塗れようと我が意は変わらぬ
「この狂うた世界に幾許かとて安寧が参るなら本望!」
「邪悪なる外道よ死に堕ちよ!」
叶わば二度目の攻撃も行いたやの
UCは難しくとも
もう幾度かは我が大鎌にて斬りこめるであろ
紋章には礼を
「お主のお陰でよう戦えた!大儀じゃ」
●三日月夜
五卿六眼『紋章つかい』、彼はその名の通り、このダークセイヴァーの戦いで見られた紋章の生みの親である。無数の命を犠牲にし、さまざまな悲劇を生み出してきたそれの主――ではあるのだが、紋章つかいの行動原理は『正義』だという。
意志ある者、正しき願いを持つ者に、それを果たす力を与えるために、紋章は存在している。ただ、これはその道半ば。真に正義を成すためには、犠牲を厭う訳にはいかないのだと。
「――なるほど、外道が湧いておるの」
彼の中の正道を語る紋章つかいに、キラティア・アルティガル(戦神の海より再び来る・f38926)が溜息で応じる。
これはこれで、何とも不思議な感覚である。同じ人語を扱っているというのに、この男の理屈はまったくもって理解が出来ない。慮外者とはこのような輩を指すのであろう。ならば、その理解に努めるのはただただ無為に終わるだけ。右から左へ聞き流して、キラティアは放置されていた紋章の一つを手に取った。
「済まぬが、頼むぞえ」
案内役の猟兵に提示されたものと同じ、『欠けた月の紋章』、失敗作として打ち捨てられていたそれは、キラティアの言葉に追うじるように、輝きを放つ。
こちらの方がよほど話が分かる、と彼女が感慨に浸る間に、紋章から展開された外骨格を思わせる装甲が、彼女の全身を覆っていく。滑らかな輝きを放ちながらも、どこか節くれだったシルエット、昆虫のような仮面、その姿はどこか禍々しく見えるだろう。
『やはり気に入らん造形だ』
「おぬし、見た目で失敗作とか判断しておったのか……?」
さすがにそんなことはあるまいが、これ以上妄言に付き合う気もないと頭を振る。
「まあどのような姿であれ……どのみち我は元々生まれもつかぬでな」
敵ではなく、身に付けた紋章を労わるようにそう口にして、キラティアは|魔死の大鎌《デスサイズ》を構えた。湧き出す『夜』、デモンの力が溢れ出し、彼女の周りを昏く染める。黒き闇の巡りが、紋章を纏った彼女に力を与えていくが。
『実験台に志願してくれるとは、やはり猟兵は話がわかるな!』
では、行くぞ。無防備なその姿勢を都合よく解釈し、紋章つかいもまた複数の紋章を纏い、キラティアへと向かう。耐久試験だと言わんばかりの力ずくの一撃、番犬の紋章と共に放たれた正拳突きが、まともに彼女に突き刺さった。
鋭い一撃はキラティアを覆う闇を突き抜け、紋章の装甲を穿つ。続く爆発がその全てを吹き飛ばし――。
「終わりかや?」
それでも、彼女はそこに立っていた。ぎりぎりのところで致命傷を避けたキラティアは、半ばまで粉砕された紋章と共に前へ出る。こうなることは初めからある程度予測は出来ていた。だからこそこの程度の負傷で、彼女が意志を曲げることはない。
「この狂うた世界に幾許かとて安寧が参るなら本望!」
吹き飛ばされたかのように見えた『夜』は、なおもそこに揺蕩っている。そして闇の帳を割るように、欠けた月が輝きを放つ。
新たに編み出した技、そして負傷に応じて力を増大させる紋章の相乗効果。
「今度はおぬしが、実験台になると良い」
三日月が煌めく。彼女の動きは紋章つかいの対応速度を上回り、死の刃がその腕を斬り飛ばした。
『素晴らしいぞ! ここまで紋章の力を引き出すとは――』
「――やかましいのう」
賞賛しながらも後方へ飛び、距離を取ろうとした紋章つかいだったが、その眼前には、既にキラティアが迫っている。
「邪悪なる外道よ、死に堕ちよ!」
旋回する刃は、今度こそ敵の首を刈り取った。
勢いのままに、キラティアが地面に膝を付く。零れる血、荒い呼吸、今の一太刀で決め切れなかったら、倒れていたのは彼女だっただろう。
けれど、そうはならなかった。かろうじて命を繋いだ装甲、そして力を与えてくれた紋章を見下ろして、笑みを浮かべる。
「お主のお陰でよう戦えた! 大儀じゃ」
月は輝き、夜は終わる。
この戦争の先にも光が待っているのだろうか。それは未だわからないが。
猟兵達は、立ち塞がる敵、五卿六眼を打ち倒した。
大成功
🔵🔵🔵