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闇の救済者戦争⑲〜From．マッドネス

作者：ツヅキ

　『紋章』の生みの親にして五卿六眼《ごきょうろくがん》の一柱である『紋章つかい』は、さっきから興奮を隠しきれなかった。
　あからさまに浮かれているといってよい。
　なにしろ、あの猟兵が近くに来ているのだというのだから。
「猟兵か。正義を知る彼らなら喜んで紋章づくりの検体になってくれるに違いない。さっそく頼みに行かなければな！」

　――ダークセイヴァーにおいて、オブリビオンを強化する寄生虫『紋章』は数々の悲劇の発端となった。それが、とある男の研究であったと判明したのだ。
　彼の目的は『正しき意思の持ち主に紋章を渡し、英雄にする』こと。
　そのためなら非人道的な実験をも厭わず……いや、むしろ嬉々として繰り返して来たのだ。
　自分の正しさを疑わないゆえに、猟兵達は自分に賛同し、喜んで検体になってくれると心から信じ込んでいる――正真正銘の鬼畜。
　
「次の相手は悪気のない鬼畜、だそうだよ」
　仰木・弥鶴（人間の白燐蟲使い・f35356）は唇の端を微かに上げ、集まった猟兵に話を通した。
「『欠落』は健在だが、彼の能力は紋章作成に特化しているために無敵能力の類はないことがわかっている。制圧すればそのまま滅ぼせるだろう。『祈りの双子』が制圧されると撤退するから、一応覚えておいて。あとは彼が装着している紋章についてだね」

　創造主の躰には『番犬の紋章』『月の眼の紋章』『辺境伯の紋章』の３つが埋め込まれている。特に『月の眼の紋章』は｜画廊《ギャラリア》に捕らわれた人々を助け出すまでは彼らの生命力をエネルギー源として『６６倍』もの強化を得るのみならず、ユーベルコードに加えて棘の生えた鋭い鞭を放出する能力を与える。
「どれも本人の戦闘能力を強化する紋章だからね、順番に壊していかないことにはさすがに歯が立たない。『番犬の紋章』は喉元、『月の眼の紋章』は胸元、『辺境伯の紋章』は下腹部に装着されている。紋章は本人に力を与える一方で弱点ともなっている。『紋章つかい』の画廊は等身大の試験官の中で保存液に漬かり仮死状態となった人々だよ。これまでの戦いと同じく囚われた彼らを解放すれば強化は解除されていくはずだ」
　とはいえ、他の紋章によっても強化された相手と戦いながらそれを行うのは至難に過ぎる。

「さすが五卿六眼は伊達ではないというべきだろうね。行くも行かないも君たちの自由だよ。他戦場の制圧を待って退かせるという手もあるが、でも……せっかくの機会だからね。どうぞ、心のままに」

第1章 ボス戦 『五卿六眼『紋章つかい』』

POW   :    紋章正拳 【「番犬の紋章」を拳に装着しての正拳突き】が命中した部位に【紋章つかいの正義】を流し込み、部位を爆破、もしくはレベル秒間操作する（抵抗は可能）。 SPD   :    紋章連脚 【「不死の紋章」を脚裏に装着しての飛び蹴り】【「辺境伯の紋章」を膝に装着しての膝蹴り】【「殺戮者の紋章」を爪先に装着しての連蹴り】で攻撃し、ひとつでもダメージを与えれば再攻撃できる（何度でも可／対象変更も可）。 WIZ   :    紋章断罪翼 自身が装備する【「月の眼の紋章」を両翼に装着した漆黒の翼】から【細胞破壊光線】を放ち、レベルm半径内の敵全員にダメージと【肉体宝石化】の状態異常を与える。 イラスト：レインアルト 👑11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

　仮死から目覚めた彼らは視る。
　希望の青い鳥を。

　紫・藍（変革を歌い、終焉に笑え、愚か姫・f01052）を抱いて飛翔する青い鳥が戦場という名の研究室を我が物顔で飛び回る。
　研究に使う道具も、作りかけの紋章も、貴重な書物も。
　全部引っ繰り返して――一目散に逃げ回った。
「なぜだ、なぜ俺と戦わん！」
　『紋章つかい』は愕然と叫ぶ。
「猟兵とは英雄も同然の意思強きものではなかったのかー！！」
「その通りなのでっす！」
　まったく今更なことを言う相手に藍は｜魅力的なウインク《ファンサ》で応えた。即ち英雄ではなく藍ドル。正しさよりも楽しさを振り撒いて。
「さあ皆さん、目覚めの時なのでっすよー！」
「しまッ……」
　次々と人々を閉じ込めていた試験官が割れ、中を満たしていた保存液が流れ出す。咳き込み、自発呼吸を取り戻した者は驚いて辺りを見回した。
「こ、ここは……？」
「話は後なのでっす！　いまは急いで逃げましょう！」
「は、はい！」
「待て――」
　だが、藍はすぐに見抜いた。
　正拳突きの威力が弱まっているのを。これならきっと、さっきよりは余裕をもって躱せるだろう。幸運も藍に味方する。
「！」
　床に流れ出した保存液に足を取られた『紋章つかい』が体勢を崩した。伸ばした拳の先をすり抜けた藍は後続の猟兵に後を託す。
「好機なのでっす！　後はよろしくなのでっすよー！」

成功 🔵​🔵​🔴​

　――どうせ溺れるのなら、独りよがりな正義よりも深き眠りの淵で。

　世の中にはいるものである。
　志ばかりが高いわりに視野が狭く、独善で突っ走って周りに多大な迷惑をかけてもまるで自覚のない困った存在が。
「む――？」
　儀水・芽亜（共に見る希望の夢／『夢可有郷ザナドゥ』・f35644）は悪夢と呪詛を込めた炸裂弾を出会い頭に見舞ってやる。
　『紋章つかい』はよろめき、眠気を振り払うように呻いた。
「くッ、おのれー！」
　翼が開き、破壊光線を乱れ撃つが眠気のせいで目標が定まらない。
「さすが、多数の紋章で強化された状態では完全に眠らせるのは難しいですか。腐っても五卿六眼といったところですね。ならば――！」
　裁断鋏が閃き、切り取られた試験官が一斉に破裂して捕らわれていた人々が這うように逃げ出した。まずはこれで月の眼の紋章の強化が消失する。
「俺の実験体を、よくも！」
　紋章から迸る棘の鞭が裁断鋏に絡みつくが、さきほどまでの威力はなかった。無論、それでも相手はダークセイヴァーを支配する一柱である。簡単には振りほどけない。
　芽亜は鞭を絡みつかせたまま、強引に彼の喉元で輝く番犬の紋章を狙いにいった。
「！」
　虚を突かれ、反応が遅れた『紋章つかい』の首に一文字の傷が走る。
「もうひとつ」
　続けて下腹部に突き刺す鋏刃が辺境伯の紋章を貫いた。
「貴様、よくも！」
「まったく、こんな化け物と白兵戦なんてぞっとしませんね。大人しく死んでもらえませんか？」
「断る。俺の理想の英雄を作り出すまでは絶対に死なんぞ！」
　芽亜はため息をついた。
「なら、最後まで殺し合うまでです。その無根拠な自信ごと『Gemeinde』の錆にして差し上げましょう」

成功 🔵​🔵​🔴​

　――なんて匂い。
　大町・詩乃（阿斯訶備媛アシカビヒメ・f17458）は血と紋章が放つ魔力の交ざり合った腐臭に眉をひそめた。我が物顔で暴れる『紋章つかい』はこちらの気も知らず、独りよがりな勧誘を行う。
「さあ、俺の紋章を使ってみてくれ！」
「お断りします！」
　一瞬たりとも動きを止めず、自在に空中を駆け巡る詩乃を破壊光線が狙い撃った。直前に翼が開いたのを察知し、急旋回で直撃を免れる。
「……ッ」
　とっさに大型化した天耀鏡を掲げ、衝撃に息を呑んだ。反射された光線が紋章の保管庫を直撃して辺り一帯にそれをばら撒いた。
「いい動きだ。俺の紋章を使うに相応しい！」
　人の話を聞く気のない相手に対して、詩乃もこれ以上構うつもりはなかった。相手の興味が自分に向いているなら都合がいい――こうして、彼らを救出するのには。
「煌月舞照！」
　詩乃を中心とする戦場を、煌めく刃が乱舞する。瞬く間に試験官が砕け、中から人が転がり出た。まだ息がある。詩乃は舞うように飛びながら彼らを鼓舞した。
「逃げて下さい！　さあ、早く！」
「ほう、最初からこれを狙っていたのだな？　頭も悪くない。ますます俺の紋章の被験体になってほしくてたまらんぞ！」
「ぬ――！」
　駄目だ、ここで突っ込みを入れたらシリアスではいられなくなる。詩乃は堪え、口早に雷を喚ぶための祝詞を唱えた。
「招雷！」
「なにッ……」
　動きを止められたのは僅かな一瞬。
　だが、それで十分――！
　喉、下腹部の順に煌月の複製で切り裂き、最後の胸元にはとびきりの神罰を込めた刃を真っ直ぐに貫き通した。心臓にまで達する刃は衝撃波を伴い、相手の躰を背後の壁まで吹き飛ばす。

成功 🔵​🔵​🔴​

　――対人随伴型自編律ビーム兵器「ムーンフェイス」、起動。

「なにッ……」
　『紋章つかい』の眼前で、２４枚セットのカード型ドローンが室内に置かれた試験官の破壊活動を遂行したのである。
　あれはＡＩ制御だからシキ・ジルモント（人狼のガンナー・f09107）は自分のやるべきことに専念できる。即ち、｜攻撃の回避《・・・・・》だ。
　三つの紋章の強化を駆使した三連続の蹴りがひとつでも入れば、何度でも再攻撃が可能になるという代物。まったく反則だろうと思う。だが、わかっていれば対策もできる。シキが選んだユーベルコードはイクシードリミット――｜覚醒《めざ》めろ、人狼の獣性よ。
　
　牙を剥き、爪が伸び、脚力が増強される。
　獲物を探す瞳が獰猛な光を宿した。

「！？」　
　まさか自分の攻撃を見切られるとは思ってもいなかったのだろう。回避行動の妨害を狙って放たれた棘の鞭をかいくぐり、ひたすらに避け続ける。
「なぜ当たらん！？」
「どうした、動きが悪くなったな」
　理由は簡単、試験官に捕らわれていた人々が解放されたことで画廊の齎す強化が外れたのだ。シキはこの機を逃さず側面へ回り込み、蹴りを躱すと同時に相手の軸足を払った。
「しまッ……」
　足技にとって弱点は足そのものだ。
　体勢を崩したのが運の尽きで、床に組み伏せられた喉元が短剣によって貫かれる。反撃の膝蹴りは空振りに終わった。すでにシキは後転して距離を取っており、拳銃を抜いている。
　パンッと乾いた銃声がして敵の下腹部から血が飛び散った。
「あとは胸元」
　全て空になった試験官の残骸を背に、シキとドローンの一斉攻撃が放たれて。
　――｜直撃《ストライク》。

大成功 🔵​🔵​🔵​

　還ろう、おまえが望む場所へ。

　｜その道《ロード》はルドラ・ヴォルテクス（終末を破壊する剣“嵐闘雷武“・f25181）の異能によって渦巻の如くに顕現した。
「リミッター解除、限界突破！」
　｜画廊《ギャラリア》に囚われていた人々が次々に消えてゆく。攻撃ではなかったのだという事実に遅ればせながら気が付いた『紋章つかい』はしまったと呻いた。
「最初からそれが目的だったか！」
「無辜の民を巻き込むのは本意ではないからな。これで月の眼の紋章の強化は解かれた！」
　戦場を迸る破壊光線の射線からルドラが騎乗する｜戦単車《ヴィマナ》が紙一重で退避する。｜偽神兵器《チャンドラエクリプス》は盾となって主の身を護る一方、それ自体が武具として敵への突撃を敢行したのであった。
「ぬ……！！」
　こう見えて王道の戦いを好む『紋章使い』は、ルドラの攻撃を正面から受け止めるのを選んだ。
　激突と同時に｜エネルギーグレネード《ラプチャーズ》での追撃を入れる。目眩まし。次の攻撃が来ると考えていた『紋章つかい』は予想外の閃光に呻くはめになった。
「な、何も見えん！」
「奢ったな、五卿六眼の一柱よ」
　ルドラの狙いは相手の臍下に輝く紋章。
　拳を叩き込み、そのまま懐へ。
　続けざまに喉元へ肘を入れられた相手は息を詰まらせ、がくんと片膝が折れる。代わりに開いた両の翼が破壊光線を撃ち放す直前だった。
「悪いが、貴様の被検体になる気などさらさらない」
　戦場に吹き荒れる｜機構剣《タービュランス》の暴風にサイキックロードの嵐が乗れば、残る紋章ごとその身を浚い、激しい錐揉みへと巻き込んでずたぼろに。
「悔い改めろ、“嵐闘雷武”の齎す嵐の中でな」

成功 🔵​🔵​🔴​

　お願い、月よ力を貸して。

　どうやったら彼らを見捨てることができるだろうか。
　｜画廊《ギャラリア》、と彼らはそのコレクションを呼称した。立ち並ぶ試験管の中で悪夢を見ているのだろうか。皆、恐怖に歪んだ顔でぷかぷかと浮いている。
「いま助けてあげるからね。ッ――」
　ガラスの表面に手を触れようとした時、結界越しに留めきれなかった緩衝がロラン・ヒュッテンブレナー（人狼の電脳魔術士・f04258）に襲いかかる。
「俺の画廊に手を出すな！」
　何度も繰り出される『紋章つかい』攻撃を受け止める度、凍結した氷の破片と結界の破裂音が戦場に鳴り響いた。ロランは急いで超振動の魔術を発動、割れた試験管から人々を救い出す。
「急がなきゃなの」
　次の試験管の場所まで狼の瞬発力で跳んで。
「させん！」
　背後から降り注ぐ光線に対抗するロランの魔術回路が一斉に輝きを帯びてゆく。ありったけの術式を発動して耐えた。戦いが長引くほどに解析を得意とするロランが有利になるのは自明の理であったから。

　――攻撃を解析。
　――紋章を解析。
　――宝石化を解析。

　最も効果的かつ、最大限の一撃を。
「……うぉぉぉおおおおおおぉぉぉぉぉぉん！！」
「なッ――」
　満月の狼は、最強だ。
　その咆哮が破壊光線を相殺し、紋章に楔を打ち込む。超振動に震えた宝石のような紋章に罅が入った途端、パキッと音を立てて砕け散った。

成功 🔵​🔵​🔴​

　あなたは、咎人。

「なぜだ？」
　『紋章つかい』は納得できない様子で言った。
「俺は英雄を作り出すために紋章研究を続けているのだ。意思強き猟兵よ。英雄に最も近いお前たちならわかってもらえると思っていたのだが……」
「だから、この世界を弄んでも構わないというの？」
「弄ぶ？」
「そうよ。あなたの作った紋章が、ここで生きるみんなを苦しめていたわ。わたしはそれが許せないの」

　ゾーヤ・ヴィルコラカ（氷華纏いし人狼聖者・f29247）は十字架を握り締め、戦場全体を永久凍土へ変えるための祈りを捧げた。
「ふん、このような凍結攻撃など――」
　余裕の笑みを浮かべる『紋章つかい』はすぐに異変を悟る。試験管の表面が霜で曇ったと思った途端、一気に割れ砕けたのだ。
「俺の画廊が！」
「皆、大丈夫！？」
　囚われていた彼らを巻き込まないように、ゾーヤは結界で境界線を紡いだ。標的はただ一人。諸悪の根源を見据え、長剣を抜き払って走り出す。
「小癪な……！」
「くッ――」
　破壊光線が掠めた腕は宝石化をもたらして、石のように重い。
　それでも、剣は振るえる。
　刃を中心に輝く細雪が凍気を発して。

　――裁きの冬よ、来たれ。
　
「あなたはわたしの大切な故郷を、この世界をおもちゃにしたの」
　叩き割るように、ゾーヤは長剣を紋章めがけて叩きつけた。
「がッ――」
「そんなの、もうたくさん。骸の海に還る時間よ、紋章使い！」
　遂に全ての紋章を砕かれた『紋章つかい』の躰が崩れ落ちる。紋章によって強化されていた体はそれを失うことで一気に弱体化し、もはや形を保っていられなくなったのだろう。
「え……い、ゆう……――」
　そして戦場は静寂に包まれた。

成功 🔵​🔵​🔴​

最終結果：成功 完成日:2023年05月21日