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闇の救済者戦争⑱〜剣魂一擲

#ダークセイヴァー #ダークセイヴァー上層 #闇の救済者戦争 #禁獣『ケルベロス・フェノメノン』

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#禁獣『ケルベロス・フェノメノン』


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●殲剣の理
 守るべきは、倒すべきは……未来は、過去は……善とは、悪とは……。
 もはや獣へと化した其れから答えを与えるものは全て喪われ……。

 ――我らが|惑星《ほし》には、何人たりとも近付かせぬ。
 ――例え其の者に悪心無くとも、熱き血潮の勇者であっても!
 ――悪となりて邪となりて、我らが惑星に到達する可能性のある者は、全て打ち砕く!

 成り、果てて……。
 獣へと化した其れは虚空に独り、底無しの怒り吼え、尽きぬ嘆きを哭き続ける。

 ――無論、貴様らもだ。六番目の猟兵達よ!
 ――いずれ、|『重力の鎖』《グラビティ・チェイン》は貴様らを導くだろう。
 ――ならばその前に、ここで殲滅してくれる!

●「誰が為に剣を振るおう?」
「ダークセイヴァー第三層・禁獣禁域に巣食う「究極禁獣」達の無敵は完全に剥がされたみたいだねー。さぁ今こそ討滅の好機。というわけでー。
 みんなには五卿六眼が一つ、『ケルベロス・フェノメノン』へ挑んでもらいたいんだ」
 ニコニコと笑みを浮かべて猟兵らを迎え入れたのは巳六・荊(枯涙骨・f14646)。
 かの禁獣は先だって『欠落』……謎の宝石コギトエルゴスム『ヘリオライト』を破壊されたことで無敵を解除されたと報告されている。

「とはいっても、敵は別に弱体化したワケでもなくって依然恐るべき生命力そなえた強敵のまま、本来なら倒せるはずのない相手。
 体長数百mにも及ぶ三つ首の巨体は圧倒的な強靭を誇り、無尽蔵の魔力と呪詛、ダークセイヴァー世界にはあり得ないオーバーテクノロジーな機械兵器、などなど、でたらめにてんこ盛りなワケでー。
 あの獣はまるで殲滅の意志そのものが自我を持って具現化したかのような……なにものかの為の『番犬』。
 その残像、残映……ただそれだけでさえ全てを壊しかねない|『現象』《フェノメノン》。
 だけど、そんなケルベロス・フェノメノンは己を滅ぼす兵器すらも自らの体内からもたらしてしまうんだ」

 無数の災い閉じ込めた箱の底に、たったひとつ、希望が残されていたかのように。
 謳うように笑った後にグリモア猟兵が告げた兵器の名は──|『小剣』《グラディウス》。
「ケルベロス・フェノメノンから攻撃が放たれるたびにその体内から一振りの光り輝く剣が零れ落ちてくる。それが|『小剣』《グラディウス》。
 兵器としては何の力も持たない、ちっぽけなその刃こそがキミたち猟兵に神殺しの力をもたらす大いなる助けとなってくれるハズ」
 荊の説明によれば、猟兵がその剣を手に闘うことでユーベルコード攻撃が飛躍的に増幅されて究極禁獣にすら通用する威力を発揮するらしい。
「で、戦場に落ちてきたり転がってたりする|『小剣』《グラディウス》を手にするまでの猛攻は……まー、各自なんとか乗り切ってちょうだい♪」
 謎の兵器の助力は心頼もしくはあるが、結局は、かの禁獣を倒す決め手は猟兵自身だ。
 絶たれた空焦がれる獣に|『光』《こたえ》を――送り出す声はあわやかに猟兵たちの背を押して。
 そして。
 廻り巡り、猟兵たちは|『重力の鎖』《グラビティ・チェイン》の一端へと触れようとしつつあった……。


銀條彦
 このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
 1フラグメントで完結し、「闇の救済者戦争」の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。

●プレイングボーナス
 今回は『|『小剣』《グラディウス》を拾い、ユーベルコードを増幅する』です。

 獲得した|『小剣』《グラディウス》は持ち帰り自由です。
 そして⑱禁獣『ケルベロス・フェノメノン』を制圧することで大量の|『小剣』《グラディウス》が残ると予知されています。
 これらは「どこかの世界」に繋がる力を秘めていますが先に⑰禁獣『デスギガス』が制圧されるとケルベロス・フェノメノンは何処かへと姿を消してしまうそうです。

 御武運を。
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第1章 ボス戦 『禁獣『ケルベロス・フェノメノン』』

POW   :    グラビティブレイク・フェノメノン
【自身の肉体または武装】に触れた対象の【肉体を地表にとどめている重力】を奪ったり、逆に与えたりできる。
SPD   :    インフェルノファクター・フェノメノン
命中した【機械兵器】の【弾丸や爆風】が【炎の如く燃え盛る『地獄』】に変形し、対象に突き刺さって抜けなくなる。
WIZ   :    サイコフォース・フェノメノン
着弾点からレベルm半径内を爆破する【呪詛と魔力の塊】を放つ。着弾後、範囲内に【消えざる『地獄』の炎】が現れ継続ダメージを与える。

イラスト:カツハシ

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

久遠寺・遥翔
アドリブ連携歓迎
イグニシオンに[騎乗]しての[空中戦]
無敵能力が失われたとはいえ未だ圧倒的な相手、小剣を回収するまでは敵の攻撃を誘発しつつ[残像]による回避に専念する
蓄積された[戦闘知識]と研ぎ澄まされた[心眼][第六感]で敵の機械兵器による攻撃や爆風を避けながら小剣の落下を[見切り]、右掌に回収だ

「よし、今度はこちらの番だ。翔べ、イグニシオン!」
ここからは小剣で増幅したUCで反撃
地獄をも焼き尽くす劫火、神をも断つ剣をさらに増幅し、その巨体を一刀両断する
「チェストォオォオォオ!」

回収できそうなら小剣はそのまま回収しよう



 究極禁獣の怨嗟満ちる戦場の空を揺るがし轟く爆発音。

 ――全て打ち砕く! 我らが|惑星《ほし》へ到らんとする全てを!!

 万物へと牙剥く『獣』の殺意がその巨体から数多の|機械兵器群《オーバーテクノロジー》を展開させたのだ。
「無敵能力が失われたとはいえ、その力は未だ圧倒的か……だがっ!!」
 雨嵐と降り注ぐ無数の弾頭を躱し『地獄』に染まる爆風を掻い潜り、
 鮮やかな軌跡とともに天翔けるは、猟兵駆る一騎の|最精鋭機《クロムキャバリア》。
「行くぜ相棒!」
 騎乗する久遠寺・遥翔(焔の機神イグニシオン/『黒鋼』の騎士・f01190)の闘志に呼応して噴き上がる黒焔が『イグニシオン』の躯体を加速させてゆく。
 しかしその敢然たる人機一体の飛翔ですらも赫々たるインフェルノファクター・フェノメノンの顎の前には儚く一呑み……と思われた、次の瞬間。

「よし、今度はこちらの番だ。翔べ、イグニシオン!」

 |現象《フェノメノン》の前に砕け散ったのは|焔機神《イグニシオン》の高速機動より生じた残像のみであったのだ。
 歴戦たる騎士があえて採った防戦はここまで。
 獄炎から零れ落ちた一筋の光片を彼の紅瞳は見逃さない。
 |白銀の翼《イグニシオン》は急降下と同時、掴み取った|『小剣』《グラディウス》を携えてさらに高く舞い上がる。
(これが小剣の力。確かに感じる……俺の裡でいっそう昂らんとする焔を!)
 其は『地獄』すら焼き尽くす劫火にして神をも断つ剣……。
 今こそ反撃の機と『機神太刀|"迦具土"《カグツチ》』がすらり抜き放たれると同時。
「――原初駆動(イグニッション)、レーヴァテイン!!」
 |焔機神《イグニシオン》を大上段の構えにと駆らせ、裂帛の気合いとともに振り下ろされた神殺しすら殺し得る絶技の名は|【厄災の枝、黄昏の剣】《ラグナブリンガー・レーヴァテイン》。
 三つ首の獣を己の間合いにと捉えた遥翔の叫びが再び戦場にと轟き渡る。

「チェストォオォオォオ!」

 眩いばかりの黄金の焔の奔流……迷いなき真っすぐな太刀筋に耐え切れず揺らぐ巨躯。機械爪を生やした前肢は、一刀の下、両断されて灰燼にと帰していた。
 遥か格上の敵相手であるが故にこそ、増幅された|その効果《ユーベルコード》は絶大であった。
 確かな手応えにほっと笑みもらした遥翔の眼前に、忽然と、一振りの小剣が出現する。
「なに!?」
 つい先まで|迦具土《カグツチ》と共にイグニシオンの掌中にと収まっていたはずのその輝きに青年が思わず手を伸ばせば、また彼に惹かれるようにその掌へとするりと収まり――。
「お前も、俺とともに闘いたいんだな……わかった」
 まるで安堵したかのようにひとたび光を失い眠りにとついた|『小剣』《グラディウス》。
 こうしてまた一振り、新たな|『剣』《ちから》得た若き騎士は|相棒《イグニシオン》とともに戦果を手に無事の帰還を果たしたのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

火狸・さつま
転がっている『小剣』見つけたなら
攻撃避けつつ拾いに走り
近くに無ければ
ふわやかな自慢のしっぽを揺らし
その尾の付け根の刻印、雷火を発動
黒き雷で其の巨体めがけ範囲攻撃

『小剣』手に入れるまでは
攻撃見切り避けるかオーラ防御
それでも喰らう攻撃は激痛耐性で耐えしのぎ
カウンター繰り出す

惑星、まもるため…戦てる、の?
どして全て排除…?
惑星がどんなトコか、分からない、から…
何とも言えない、けど
本当に、倒すべきは、戦うべきは、全てだたの、かな…?

零れ落ちてきた『小剣』を手にした瞬間
早業【粉砕】2回攻撃
攻撃避け、しのぎつつ
粉砕を何度だって繰り出す
どんな理由で戦てても
君はもう、俺達にとて、倒さなきゃ、だから



 広がるは果てなき地獄。
 唯ひとつの妄執に荒れ狂う禁獣から振り撒かれる咆哮も呪詛も、闘いの最中、激しさを増すばかり。

「惑星、まもるため……戦てる、の? どして、全て、排除……?」
 精悍な褐色肌の猟兵から思わず発せられた言葉はまるで、童のように幼くまっすぐで。
 圧倒的な巨体から叩きつけられる殺意の只中に在っても、火狸・さつま(タヌキツネ・f03797)はそう問い掛けずにはいられない。
 猟兵を殲滅し全てを打ち砕くと言い放つ強大な存在……で、あるにも関わらず。
 さつまの蒼眼に映るケルベロス・フェノメノンはまるで深く傷つき追い詰められた一匹の手負いの獣そのもので。独り哭くそれを彼はどうしても放ってはおけなかったのだ。

 ――貴様ら六番目の猟兵はやがて|『重力の鎖』《グラビティ・チェイン》に導かれてしまう! その前に……!

 雷鳴の如きその叫びが眼前のさつまの声に応えたのかそうではない只の呻きなのかすら定かでは無いまま、唐突に猛攻の火蓋は切られた。
 轟と、震える大気。振り翳された巨腕が有り得ぬ高重力をもって圧し潰さんと、獣尾の青年めがけて襲い掛かり……。
「――っ!」
 紙一重で直撃を躱し、なお、掠めた余波に打たれたさつまの全身はみしりと鈍く軋む。
 堅牢誇るオーラの護り纏えばこそ、その程度で済んだのであろう。
 冬毛の狸を思わせる、もっふり毛並みなご自慢の尻尾をふぁさあと揺らし――その付け根に秘められた刻印『雷火』から黒き迅雷が無数に爆ぜて、
 取り巻く重力場の一角を散らす。
(どんなトコかも、分からない……けど……こんなにも守りたいとねがう|惑星《ほし》……)
 持ち前の耐性で堪えてなお深く激痛が彼を襲えども……。
 勝機を、|『小剣』《グラディウス》を、見出す為の抗戦が巨敵を相手にしばし粘り強く続いたその後に。
 遂に。
「力、貸して…………」
 超重力と無重力とに猛り狂う戦場の片隅にまるで蹲るように光る、ちいさなその|輝き《グラディウス》がさつまの手にすくい上げられる。
 俄かに輝きが強まり……爆発的な力の高まりを感じ取ると同時。
 ふるり、勇む尻尾に帯びた|文様《ひかり》もまた眩き光芒と化してゆき……。

「本当に、倒すべきは、戦うべきは、全てだたの、かな……?」

 もうひとつ問いを零し、駆け出したさつまから繰り出された反撃の軌跡は、
 まるで夜闇照らして翔けるほうき星。
 ――砕け散れ、と。
 会心の膂力籠めて揮われた|『小剣』《ユーベルコード》が一閃、二閃。
 呪詛渦巻く禁獣の|心臓《むね》にまで達し|星屑《コナゴナ》の光散らして藻掻く獣を見届けながら、
 さつまの【粉砕】は繰り返し、何度でも。

「どんな理由で戦てても……君はもう、俺達にとて、倒さなきゃ、だから」
 その|番犬《ケルベロス》はもはや望みの全てを地獄へと焚べながら在るだけの|残滓《フェノメノン》なのだから。

成功 🔵​🔵​🔴​

シビラ・レーヴェンス
露(f19223)
私は露の援護をするため禁獣の脚を鈍らせる。
まずはパフォーマンスで身体機能上昇させ封印を解く。
次にリミッターを解除後に限界突破で全力魔法の高速詠唱を。
行使する魔術は【崩圧陣】。属性攻撃も加えておこうか。

禁獣の動きを鈍くしたら一か所に留まらずに移動しよう。
移動しながらこちらの力を増幅させる『小剣』を探す。
禁獣の攻撃は見切りに野生の勘と第六感でなんとか回避する。
『小剣』を手に入れたら全力で禁獣の動きを停めてみようか。
可能なら頭を垂れさせ地に伏せさせるか試すのも面白いが…。
困難だと判断した場合は無理はしない。現状でも十分なはず。

事前に露には私を護らずに禁獣に集中しろ…と言っておこう。
あの子は特に最近は私を心配することが多くなった気がする。
このままだと致命傷とまではいかないと思うが大怪我を負うはずだ。

戦闘中。ふと思いついたことがひとつ。
『小剣』を二本持った場合は効力が水増しされるのだろうか…?
興味本位で『小剣』を二本持ってみよう。
まあそれまでに禁獣の方が退散することになるかな。


神坂・露
レーちゃん(f14377)
禁獣に集中しろって言われたけどやっぱり心配だわ。
でもレーちゃんに言われたからする!褒められたいし!
頬ずりしたいし!…えー。頬はだめなの~。むぅ。

リミッター解除してから限界突破して【女皇の剣舞】ね。
継戦能力と継続ダメージ。ダッシュに足場習熟で準備完了よ♪
二本の愛剣で禁獣に突っ込むわ。普段の剣舞より速いんだから。
それからレーちゃんが補佐してくれるんだし絶対に大丈夫なの!

攪乱させながら四本の脚を中心に攻撃していくわね。
2回攻撃で同じところを斬ったりフェイントで移動方向変えたり。
ダンスするように円で動いたりすれば攻撃がやり難いかしら?
禁獣の攻撃は見切りと野生の勘と第六感で避けるわね~♪

そうそう。『小剣』を持つとユーベルコードの力が上がるんだっけ。
手に入れたら…手は塞がっちゃってるわね。うーん。どうしよう。
あ!グランドリオンを咥えて『小剣』を持てばいいんだわ♪
…ってやってみたけど途中で顎が疲れちゃったわ。むぅ。難しい…。
グランドリオンを鞘にしまって『小剣』と愛剣で戦うわ。



 長き銀髪をゆらゆらと揺らめかせ……少女がふたり、禁域にと降り立った。
 たとえそこが何処であろうと、如何なる戦場であろうとも……いつもの通りに、
 ふたりで進み往く。

「いいか露。私は禁獣の脚を鈍らせて援護するつもりだが……前で斬り結ぶ君はとにかく禁獣だけに集中するんだ」
 戦闘直前、シビラ・レーヴェンス(ちんちくりんダンピール・f14377)は幼い子供に言って聞かせるようにして……外見だけならば互いに幼い子供で間違いはないのだが……神坂・露(親友まっしぐら仔犬娘・f19223)に対して釘を刺しておこうとした。
「え~と? レーちゃんが補佐してくれるんだもの。
 もちろん全力でがんばってくるつもりだけど、どうしたの?」
 大好きなシビラからの言葉におっとり頷きつつも持ち前の勘の良さと長年のつきあいから彼女が今、自分の何らかの点について懸念を抱いていることだけは察した露はきょとんと首をかしげた。
 ダークセイヴァーに生きるみんなを滅亡の危機から救う戦いの最中、強大な敵1体。
 言われるまでもなく禁獣以外へよそ見する余地の無いシチュエーションなのだから。
「つまり、私を護ろうとはするなと言っている」
「え~!?」
 シビラの懸念。それは最近になって特にシビラを心配するあまり頻繁に見せるようになった自己犠牲的な行動傾向についてであった。
 露ならば致命傷となるような事態をそうそう招きはしない……と、信じる程には彼女の戦闘能力やここぞの機転等に多大な信頼を寄せるシビラではあったが。
 それでもやはり露が深い傷を負うような局面は可能なかぎり回避したい。
 ……彼女が、本体を別に持つヤドリガミであったとしても、である。
 その一方で、体を張ってでも己を庇おうとする露の無茶はいつだって理性も計算も越えた感情の発露であり、事前にいくら理屈を説こうとも無意味である事もシビラは見抜いている。為すべきは理の説得ではなく情における納得。
「私の強さを誰よりも熟知しているのは、露だろう?」
「!? ……そうね、そのとおりだわ! いつだってレーちゃんはすっごく強くてカッコいいんだもの!」
 にこりともせず付け加えられたそのたった一言でたちまち笑顔を取り戻した露は、
 シビラの目論見どおりにあっさりと承諾してくれた。
「そのかわりごほうびにおもいっきり褒めてね! 頬ずりもいっぱいさせてほしいわ♪」
 と、思いきや。どさくさにほんわか色々ぶっこんできた。
「前者はともかく後者は却下だ」
「えー、頬はだめなの~??」
 すげない即答に思わず露はむぅと唇を尖らせる。
 とはいえこのスキンシップと塩対応の応酬もすっかりいつもの光景なので、露の方でもそれ以上食い下がろうとはしなかった。
 頬以外もだとさらに念を押しておくべきかとなどと思案しつつ……迫る対ケルベロス・フェノメノンとの決戦についての最終確認をシビラは進めるのであった。

 かくして力強くともに進み往くふたりの少女達は、見境なしに牙剥く狂犬と成り果てた究極禁獣へと果敢に闘い挑む。
「ふむ、無尽蔵の|現象《フェノメノン》か。ならばこちらも全力だ」
 先に超克の先へと我を踏み入れたのはシビラだった。
 術式に制御されぬ、根源的な純魔力の塊とも呼べる巨敵に対抗すべく|魔術士《ウィザード》の少女は一時強化された肉体により高速の韻律を以って詠唱を廻らせ、幾重もの属性束ねた精緻な魔術領域を展開。

 ――全て打ち砕く! 我らが|惑星《ほし》を打ち砕く可能性の全てを!!

 眼前、とめどなく迸るその強大な魔力に反応したのだろう。三つ首のひとつ、枯れ骨の如き顎が咆哮ととも放たれた呪詛の砲弾は極限まで圧縮された『地獄』そのものの灼熱を孕み、大地もろともに少女を焼き尽くさんと爆散する。
 だが限界超えたシビラの金瞳は常以上に冴え冴えとその軌道を見切って直撃を躱し、
 喉まで焼く獄炎に、防護結界越し、炙られるがまま|【崩圧陣】《グラヴィオール》発動の高速詠唱をいっさいの淀みなく完成させた。
「――Poarta castelului, ridică-ți capul Deschide poarta eternă!」
 古びた魔道書から解き放たれた|魔術《ユーベルコード》は超重力の見えざる檻。
 いまだ『小剣』を持たぬ猟兵が浴びせたそれは超克の力乗せてなお巨獣の脚を抑えるには小さく……かろうじてごく僅かに、だがまちがいなく値千金の時間を稼いだ隙にシビラは駆け出した。そして、もうひとりの少女もまた同時に。
「準備完了よ♪」
 『地獄』も悪路も、なんのその。
 その両腕には|蒼月を思わせる曲剣《クレスケンスルーナ》と|赤き諸刃の短剣《グランドリオン》をそれぞれしっかと携えて。
 猛然とダッシュを続ける露もまたシビラとほぼ同タイミングで仮初の|肉体《うつわ》のリミッターを外しすでにオーバーロード状態である。
 いつも以上に軽い足取りは燃え崩れる大地をものともせず踏破し、極限まで研ぎ澄まされた感覚に身を任せれば全方位から襲う|業火の如き弾幕《 インフェルノファクター・フェノメノン》だって恐くはない。
 露はふと後ろを振り返りたい衝動を必死に堪え、光零れたと見えた方角だけを目指してまっしぐらに走り出していた。
 消えざる獄炎の只中でも支障なく、露が戦闘を継続できているのは超克の力故だけではなかった。
「普段の剣舞より速いしなによりレーちゃんが補佐してくれるんだもの!
 どんなにすごい機械兵器を持ってきたって、絶対に呪詛なんかにつかまらないわ!」
 今これほどに縦横に戦場を駆け回っていられるのは、シビラが都度たびたびタイミング良く|援護攻撃《ユーベルコード》を撃ち込んで良く禁獣の四肢を抑え、対地砲撃の精度を下げてくれているお陰であった。
「やっぱりレーちゃんは強くてカッコよくてだいすきだわ! だから……」
 そんなレーちゃんに前を託された自分が為すべきは心配なんかじゃなくって。
「前進あるのみよ!」
 ――カッコいいレーちゃんにふさわしい、カッコいい相棒として闘うべきよねと、少女は全開の笑顔で前を目指す。

 焼け滾る大地へと突き立つ|光《グラディウス》にまで辿り着くや素早く引き抜き、
 剣を扱う所作でその手にと握りしめるシビラ。
 それは長久の命の多くを知の探究と思索とに割き続けて来たダンピールをして不可思議と思わせる兵器であった。
 此れ単体のみでは白兵武器としての役割は果たせず……されどそれ一振りただ手にするだけで何の見返りもデメリットも無く、究極禁獣にすら抗するユーベルコード増幅効果を得られるという不可思議。未だ見ぬ世界への鍵たち。
「試してみるか。 ――頭を垂れ、地に伏せろ」
 |『小剣』《グラディウス》を天に掲げた幼き少女が不遜にそう言い放つと同時。
 剣の輝きは|魔術《ユーベルコード》に爆発的な増幅を引き起こし……戦場を見下ろす巨大な獣頭の一つをみしみしと軋ませながら熾り、拡散した|【崩圧陣】《グラヴィオール》。
 殴られるようにして無理矢理下げられた禁獣の頭部は、獣自らが『地獄』とせしめた大地へ激しい勢いで叩きつけられた。
「この兵器は、特に重力属性とは相性が良いようにも感じるが――ふむ」
 そういえばグラビティ・チェインなる未知の単語をこの獣は口にしていたなとシビラは思い起こしたが、分析も考察も、すべきは戦いの後。
 それよりも今の彼女は激戦のさなか、ふと閃いた思い付きを試したくて仕方がない様子であった。
「ふぇ、ふぇえひゃんふぉふぃふぉーひゅ~(え、レーちゃんも二刀流~)っ!?」
 銀の風とともに踊る円舞の脚運びで猛攻を掻い潜り、ケルベロス・フェノメノンの至近にまで迫った露もまた首尾よく|『小剣』《グラディウス》回収に成功していたが……双剣を装備した状態で新たに入手したこの剣を追加でどう構えるか悩んだ彼女は、三剣のうち最も小振りな|短剣《グランドリオン》を口に咥えての三刀流を試みてみた処だったのである。
 結局すぐに口の短剣は引っ込められて鞘に納まり、|繊月の片刃《クレスケンスルーナ》との二刀流で確実に|【女皇の剣舞】《ダンシング・クィーン》の剣技を打ち込む事にしたらしい。
「途中で顎が疲れちゃったわ。むぅ。難しい……」
「露………………いや、私も他人のことは言えないのかもしれないな」
 かくいうシビラは、露が驚きと共に語った(?)通り、なんと先の|『小剣』《グラディウス》とは別に、もう一振り別の|『小剣』《グラディウス》をちゃっかり確保して増幅効果の水増しを狙っていた。
 結論からいえば倍化というよりほぼニ連撃に近い状態ではあったが、続けざま別の頭部にまで浴びせた超重力はより強いダメージで敵の身動きすら封じた。
 が、ただでさえ全魔力を注ぎ続けながらの大立ち回りの後の連続発動。負荷もまた飛躍的に増大し、消耗はいよいよ加速するばかり。
「……もともと興味本位からの検証ではあったが、燃費は最悪というわけか」
 それでもシビラは魔力を振り絞って剣へと注ぎ、二つまで垂れさせた三つ首頭の最後の一つへ眩き|光の一撃《ユーベルコード》を喰らわせて――直後。
 彼女がかすかな笑みを浮かべたのは、|戦場舞う疾風《ダンシング・クィーン》がその勢いを遥かに増したことを肌で確かに感じ取ったから。
「銀風を……!!」
 すっかりひしゃげた漆黒の獣頭を踏み台代わり。
 風纏う鈍銀の円舞のラストは大跳躍から閃く、鮮やかな十文字斬り。

 ――この力……! やはり、全てだ!
 ――全てことごとくを打ち砕かねば我らが|惑星《ほし》は喪われてしまう!!

 いまだ超重力の縛めの中にある禁獣本体に代わって展開された機械兵器群は怒涛の全門発射で応じるも、すでに弩級の域にまで達した|『小剣』《グラディウス》を完全に封じることは能わず。
「帰ったらレーちゃんに思いっきり褒めてもらうの。
 そして、私からもレーちゃんをいっぱい褒めてあげるんだから!」
 ……ちなみにそのまま感極まって抱き着いて頬ずりまでしようとしてまたやっぱり引き剝がされることとなるのは後日の、別のお話。
 極限まで増幅された月の剣閃はいまや太陽すらも圧倒する輝きを放ち、露の意思のままに|呪詛に凝ったその番犬《ケルベロス・フェノメノン》が繰り出した数多の兵器ことごとくを薙ぎ払った。
 ダークセイヴァーではない何処か別の世界の機械たちは、そのまま無数の残骸と化して飛行機能を喪い、拡大止まぬ『地獄』へと降り注いで呑まれ、遂には完全沈黙へ。

 だがしかし。
 全機械武装を喪失してなおその究極禁獣が有する呪詛も魔力も尽きるを知らず。
 度重なる猟兵からの猛攻を呼び水に怨嗟の咆哮はいよいよ荒ぶり、高まるばかり。
 ――たとえ六番目の猟兵達が相手であっても! 因果も結果も何ひとつ変わらずとも!
 ――何人も何度でも……殲滅あるのみ……!!

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ヴィクトル・サリヴァン
うーん何とも理不尽な怒り…まだ何もしてないよね?俺達。
まあ今から倒すからそれで恨まれるのは仕方ないけども!

高速、多重詠唱で水の魔法を使用し水の壁を複数枚、俺とケルベロスの間に展開。
その際浄化のオーラを重ねて呪詛の影響を軽減しつつ長く耐えられるように補強。
その上で野生の勘を活かし水のオーラ纏いながら比較的安全そうな位置へと移動しつつ回避、そのまま地獄の炎に気をつけながら敵の真下に潜り込んで狙い定め難くしつつ落ちてそうな小剣の回収を狙う。
回収できたら全力でUC起動、雷属性と大嵐合成しつつ増幅して敵に叩きつける!

しかしここまでの物騒さ…言ってた惑星って相当キッツイ場所なのかな?

※アドリブ絡み等お任せ



 其は地獄。|禁じられし番犬《ケルベロス》から放たれる|呪詛と魔力《フェノメノン》とに侵された大地は憤怒を沁ませ、荒ぶるばかり。

 ――例え其の者に悪心無くとも、熱き血潮の勇者であっても!
 ――悪となりて邪となりて、我らが惑星に到達する可能性のある者は、全て打ち砕く!

「まだ俺達猟兵は何もしてない、ってのはキミの方だって百も承知で。
 それでもやっぱり、念のためってだけの為に猟兵を殲滅しようとしてるんだ?
 うーん、それはそれで何とも理不尽な怒り……」
 激戦続く戦場の中、遠近感の狂いそうな巨体を見上げてヴィクトル・サリヴァン(星見の術士・f06661)がため息まじりにボヤキを零す。
 円錐状の牙並ぶシャチの口は、続けて、水の精霊達へ高速詠唱で語り掛けて大量の清水を呼び寄せた。
 紡がれる詠唱によって、やわらかに宙を漂うその水すべてがみるみると対呪詛障壁にと形を変え、ヴィクトルの周囲へ幾重と展開されてゆく。
「ベタではあるけど炎に対抗するならやっぱり|水《コレ》かなってね」
 今回は強敵を相手に戦闘しながら探し物もこなさなければならないのだから、より長く行動継続できる手段こそが必須。
 剥き出しの荒野を……いまだ地獄化に曝されず残された数少ない地面を選んで進み続けているのもまた同様の理由からである。
 消えざる地獄化を終えた面積はすでに広大で、その中へ突入して未回収の|『小剣』《グラディウス》をあてどなく探し求めるよりは効率的にも分があると彼は考えたのだ。
 ぞくり――護りを固めて走るヴィクトルの背を走った寒気は三つ首から吐かれた|殺意の塊《ユーベルコード》飛来の先触れ。
 浮遊する水壁を引き連れたまま、どむりと宙へ、シャチのキマイラの体が跳ね躍る。
 そのすぐ鼻先で激突した呪詛は次々にヴィクトルの水壁を割り砕き、剥がして、その数を減らしてゆくも……浄化の力宿す水は霧散してなお獄炎の威を押し留めながら術者の身を護り続けようとしていてくれる。
「まぁでも今からキミを倒すから、それで恨まれるのは仕方ないけども!」
 あっけらかんとそう笑いながら、勘任せに駆け抜けたその先。
 劫火の裡からまた一振り、新たな|神殺しの刃《グラディウス》が生まれ落ちて猟兵の手にと握られた。
 掲げた光刃の輝きと集う精霊達に背中を押されるようにして巨獣の足下へと滑り込むやヴィクトルは|雷精霊と大嵐の合成《エレメンタル・ファンタジア》を発動し、増幅させてゆく。
 雷光の嵐が敵の三つ首の中で最も手近で、かつダメージ深い、骸骨を思わせる頭部へと奔って渦巻けば、よりあかくつよく燃え上がる世界。
 エレメンタルとサイコフォースという二つの|現象《ユーベルコード》が真っ向激突して鬩ぎ合い……やがて灼き刻むようにして、禁獣の首がまず一本、捩じ落とされていった。
 さしもの究極禁獣といえど堪らぬ様子で、残る二つ首両方の口から同時に苦悶の咆哮が鳴り響く。

 ――六番目の猟兵……ッ! 貴様らと言えども……!
 ――我らが|惑星《ほし》には……|故郷《ほし》には……近付けさせる訳に……ッ!!!

 完全に制御を離れた|雷嵐《ユーベルコード》の只中に在って禁獣はもはや満身創痍であった。
 それでもいっこうに衰える兆しも見えない憤怒。止まぬ殺意。
 |この番犬《ケルベロス》を捕らえて繋ぐ絶望は決して消えることは無い。
 深くそれを刻み込むほどの|地獄《なにか》が見知らぬ別世界でこれから起こるのか、
 既に起こってしまったのか。今のヴィクトルにとっては想像だにできないけれど。
「しかしそれにしても、ここまでの物騒さ……。
 言ってた惑星って相当キッツイ場所なのかな?」
 帰還の去り際、ふと零れた独り言はただ掻き消えてゆく。

成功 🔵​🔵​🔴​

深山・鴇
また随分と大きな獣だね
ここまで大きいと現象みたいなものなのか、それともこの敵自体が現象のようなものなのか…ま、どちらにせよ倒すしかないんだが

まずは攻撃を凌がないといけないのがまた、俺とは相性が悪いな!
今日は生憎とひとりでね…ああ、彼を呼ぼうか
おいで、ヤン坊君(UC使用)
すまないが、ちょっとばかり盾になっておくれよ
八岐大蛇、ヤン坊君に盾になって貰い、小剣が落ちたらダッシュで取得
よし、それじゃ小剣の力を拝見といこうか
ヤン坊君にケルベロスを拘束して貰ったら後は俺の出番だよ

山だろうが戦艦だろうが、斬って斬れぬものなしだ
黒耀と蛇之麁正を手に、ヤン坊君の身体を駆けあがって一気に攻める
その首、貰っていくよ



 果敢たる猟兵達の手で幾度と重ねて揮われた|『小剣』《グラディウス》の前に膨大な数誇る兵器群もその悉くを破壊され、いまや鋼の残骸と化して地の上にと積み重なる。
 ――あるいはそれらはすべてこの『現象』が護らんとする|惑星《ほし》で連綿と続いた歴史の中で造られ用いられて来たものたちなのだろうか。

「また随分と大きな獣だね」
 スクエアリムの眼鏡越し、昏き天を仰ぐ深山・鴇(黒花鳥・f22925)はいっそ呆れるように微笑みを深めた。
 三つ首のうち一つはひしゃげ、今一つは既に断ち斬られ……白光を出鱈目に撚り合わせたが如き一つ首のみ残すその巨獣の命脈は風前の灯、であるにもかかわらず。
 まるで星滅びようとする間際へと取り遺された超新星の如く、悍ましきその呪詛はいよいよ膨れあがってゆくばかり。
 これほどの巨体を誇り無尽蔵の|想念《ちから》宿す存在でありながら、一方で生の息吹を微塵とも感じさせないその有り様はなるほど『現象』と言い表す他あるまい。
「……ま、どちらにせよ倒すしかないんだが」
 其は、強大たる獣を界越えて映した残影か。それとも、元より、獣そのものすら試行の果てに生じた|一事象《フェノメノン》に過ぎないのか。
 敵の来歴にと想い馳せるよりも先に戦端は開かれる。

 ――………ッ! ……、…………!!

 猛る。
 叫ぶ。叫ぶ。
 荒ぶる。
 虚ろな眼が視るものは、過去か未来か。|現在《いま》は虚しく置き去りで。
 もはやなんの意味も紡がぬままに番犬の咆哮が……行き場のない絶叫が、
 ダークセイヴァーの、天へ地へ、見境なしに吐き散らされてゆく。
 やがてその矛先として|埒外《イェ―ガ―》たる鴇の気配を見出したケルベロス・フェノメノンの殺意は魔力塊として集束されてゆく。
「まずは攻撃を凌がないといけないのがまた、俺とは相性が悪いな!」
 剣豪として先の先や対の先を仕掛ける選択肢は、今回、端っから封じられている。
 まずはいったん敵に攻撃を許した上で更にそこから放たれる|『小剣』《グラディウス》を回収せねば反撃も覚束ないというのだから、いやはやこの闘い、厄介この上無い。
 されども迎え討つべきこの男は飄と涼やかな面持ちを保ったまま。
「ならば手数でと言いたい処だが、今日は生憎とひとりでね……ああ、彼を呼ぼうか」
 強大な魔力渦巻く呪詛塊が遂に鴇へと狙い定められ今まさに『地獄』の到来、
 かと思われたその寸前。
「おいで、ヤン坊君」
 見るからに仕立ての良いスーツに身を包んだ彼がにこやかに手招きすれば、たちまちに顕れ盾となって立ち塞がったものは蠢く巨影。
 凶神の寵児たる八頭八尾――愛称に比してあまりにギャップの有る八岐大蛇の威容が、爆ぜる獄炎の只中にと聳え立つ。
「すまないがそのまま、もうちょっとばかり盾になっておくれよ」
 軽く手を振った鴇からの|頼み事《ユーベルコード》は傍から聞けば無茶振りにも程があったが、加護とも呼べる域で防御や敵の抑止に長ける今の”ヤン坊君”であればこなせぬ|戦闘《しごと》では無い。
 承諾とばかり多頭の蛇首をゆらりともたげ百mをゆうに超す一尾一尾をそれぞれ巧みにくねらせながら燃え上がる『地獄』を頑と撥ね退ける。
 巨獣と巨蛇の互いに譲らぬ鬩ぎ合いはしばしそのまま繰り広げられ、ケルベロス・フェノメノンが至近からありったけの呪詛をぶつけて拘束を振りほどこうとすれば退かぬ八岐大蛇も負けじと牙突き立て無尽蔵な魔力すら散じる毒を流し込む。
 そんな天地揺るがす肉弾戦の、すぐ足下。
 光の尾を引いて、一筋、流れ落ちた小さな剣を鴇は見逃さなかった。
「よし、それじゃ|お前さん《グラディウス》の力を拝見といこうか」
 差し伸べた片腕へと|『小剣』《グラディウス》を捉えた鴇。
 その視線はふたたび地から天へ――輝き放ちながら増幅された力はさしあたっての|酒《ささ》の代わりの頭金にと傾け注がれ、八岐大蛇の胎へと呑まれてゆき……。
 膂力ますます増したその怪力は、今や一つ首と化し毀傷著しい獣身を完全に抑え込む。

「その首、貰っていくよ」

 武器の容は取れどもユーベルコード増幅装置に過ぎぬ小剣はその役目を終え、今、男の双腕が構えるは手に馴染む二振りの愛刀。
 宿す陰中の陽にと潤む『黒耀』、そして大神蛇の血に鍛えられし|『蛇之麁正』《オロチノアラマサ》。
 山だろうが戦艦だろうが斬って斬れぬものなしと疾駆に躍る黒髪を靡かせ、奮戦続けて脈打つ”ヤン坊君”の肌を足蹴もとい足掛かりに一気に駆け上がり――そして。
 走った刃筋に一拍遅れ、ずるり、斜めに巨獣の首が滑り落ちる。
 遺された山の如き亡骸も、生前自らが産み出した地獄の焔の中へゆっくり崩れ毀れて。
 ……かくてようやく、此の|『無敵』《コギトエルゴスム》失われし究極禁獣にも滅びの最期が訪れる。
 神にも蛇にも非ざる『現象』斬りはさしもの鴇にとっても初めてであったが、刀に伝う其の手応えは意外なほどに生命じみて湿った肉の感触であったという。

成功 🔵​🔵​🔴​



最終結果:成功

完成日:2023年06月12日


挿絵イラスト