闇の救済者戦争⑳~畏れよ世界、震撼せよ
●はじまりのフォーミュラ
二人の祈り子が、流るる鮮血の上に素足を晒した。
似通った容姿、人狼を思わす耳。
だが、彼女たちを仲睦まじい双子とは呼べぬ事情があった。
黒々とあいた虚ろな眼窩に滲む、昏き色。
双子の片方はまだ人狼の女性としての名残をとどめていたが、
もう一方の片割れは下半身の骨を晒し、異形の肉体のまま動いている。
この二人こそ、オブリビオン・フォーミュラ――祈りの双子。
ダークセイヴァーを真に支配する|五卿六眼《ごきょうろくがん》の一員にして、はじまりのフォーミュラ。
世界を鮮血濁流に沈めんとしている、この戦いを仕掛けた張本人だ。
「「……この鮮血の大地は、これまでこの世界で流された『全ての血液』……」」
「「……『腐敗の王』が生と死の循環を断った為、全てはここに蓄えられている……」」
重なる声が何を意味するのかを考えるより先に、双子の生贄魔術が巨大な影を呼び寄せる。
大地を揺らがして召喚される、闇の種族よりも強大な超常のモノ。
それらに喰われ踏み潰されるのと、双子の剣が腹を貫くのと、手をこまねいていてはどちらが早いか判ったものではない。
「「……ライトブリンガー、かつてあなた達と戦った時のように……」」
「「……わたしたちは死力をもって、六番目の猟兵と戦いましょう……」」
双子の声が、どこからともなく降り注ぐ。
今にもかき消えそうな言葉を最後に、鮮血の大地は超常存在の暴れる血煙に覆われていった。
●我らが祈り、聞き給え
その日、予知の光景を目にしたロジータは、震える喉をおさえながらこう告げた。
「祈りの双子……の、居場所がわかり、ました」
第二層、鮮血の大地。そこに座する支配者|五卿六眼《ごきょうろくがん》の一員にして、この戦いを指揮するフォーミュラだ。
ダークセイヴァーの下層全土を鮮血濁流に沈めようとする双子だが、フォーミュラは必ずしも強い者がなるとは限らぬらしい。だが、この双子に限っていえば余裕のなさが厄介だという。
「追い詰められて、いたのでしょう……ね。双子は、溢れる鮮血を贄として、次々と強大な影を呼び寄せる、ようです」
曰く、神話に眠る終末の巨人。神殺しの狼、武器を操る破壊神……宇宙に巣食う醜き触手、全盲にして白痴なるものまで。
ダークセイヴァー全土で流された血の集う、鮮血の大地が大規模魔術を可能とした。
世界の法則も無視して|喚《よ》ばれる数々の影は、祈りの双子に一時的に力を貸し猟兵達を蹂躙するだろう。
祈りの双子の持つユーベルコードに加え、甚大な被害をもたらす超常存在の召喚。
それに立ち向かう術をロジータは思いついてはいたが、決意が整うまでに時間を要したらしい。
「……あるい、は。私たちの側でも、同じことをしてしまうのも……不可能ではない、かもしれません」
溢れる鮮血を代償とし、通常では呼べない超常の存在を呼ぶ。
容易くできるものではないが、魔術や仙術、あるいはそれらに似た科学技術など素養のある者ならば試してみる価値はあるだろう。
ただし、儀式魔術の行使にはリスクがつき纏う。超常のモノとあっては尚更だ。
「くれぐれも、気を確かに……皆さまの側、が飲まれてしまっては、いけませんので」
一時的なものとはいえ、仮にも『白痴なるもの』などを呼べば正気ではいられまい。
最後まで成し遂げるには、並外れた胆力と覚悟がいるだろう。
必要なことは伝え終えたとみて、ロジータはグリモアの転送光を手に浮かべた。
蒼ざめた顔でおそるおそる話していた乙女も、最後にははにかむような笑みを浮かべ、皆の方を振り向く。
「きっと……並々ならぬ覚悟が、いるでしょう、けれど。これは……傷つけるためじゃなく、守る為の戦い、ですから」
引きつりそうな口元で、気丈な笑みを浮かべた。その笑みに、ある者はダークセイヴァーの民を思い出し、次にその笑顔が鮮血に飲まれる未来を想った。
実現させてはならぬ破滅の未来。この戦いの意義は、それを阻止することにある。
「いってらっしゃい、気を付けて……必ず、勝ってください……ねっ」
握るこぶしが強まる光の中に見え、続いてふわり、と桜の練り香の香りが漂った。
晴海悠
お世話になっております。晴海悠です。
第二層、鮮血の大地で待ち受ける瓜二つの影。
双子は無尽蔵の血を代償に、超常存在を次々と呼び寄せ戦います。
オブリビオン・フォーミュラ、祈りの双子。
生贄魔術を操る敵の首魁を、見事討ち果たしてください。
◇依頼概要
五卿六眼『祈りの双子』の打倒。
プレイングボーナス……周囲に溢れる鮮血を生贄として、超常存在に対抗しうる「恐るべき存在」を召喚する。
◇祈りの双子
はじまりのフォーミュラとも呼ばれる、最も古く最も弱きフォーミュラです。
生贄魔術を得意とする双子は特別強いわけではない代わり、第二層に溢れる膨大な鮮血――ダークセイヴァーに流れたすべての血を潤沢に使い、超常存在を呼ぶ儀式を遂行します。
双子は儀式で呼ぶ魔物に加え、皆様が使用するユーベルコードの「POW/SPD/WIZ」の種別に呼応し、いずれかの攻撃を放ってきます(複数使用時は同じ数だけ敵も使用します)。対策もあわせてお書き添え下さい。
◇鮮血の儀式
祈りの双子は生贄を捧げる祈りにより、様々な超常存在を呼び寄せます。この世界にまつわるものとも限らず、終末の巨人や破壊の神、触手を持つ白痴なるものなども呼ばれるでしょう。
巨体を掻い潜り戦うだけなら不利ですが、儀式の場は猟兵たちにも作用します。もし魔術や呪術、あるいはそれらと見分けのつかない科学技術などを持つ猟兵なら、本来召喚に適したジョブでなくとも膨大な鮮血を生け贄として、猟兵に付き従う「恐るべき存在」を召喚できるかもしれません。
どのような存在を呼ぶか、超常存在にどう行動させるかは、プレイングでご説明ください(ここに関してはお任せは非推奨とします)。
◇諸注意
一章のみの戦争シナリオとなります。
採用数はシナリオ成功に必要な最小人数+若干名を予定し、先着順ではなく、以下基準のいずれかを満たした方から順に執筆します。
「超常存在に関する記述が具体的だった/個性的だった/技能やアイテム、ユーベルコードの活用方法が的確だった」
プレイングに問題がなくとも締め切る場合もございます。あしからずご了承ください。
◇その他
断章は設けません。プレイングはいつお送り頂いても大丈夫です!
それでは、リプレイにてお会いしましょう。どうぞ、ご武運を。
第1章 ボス戦
『五卿六眼『祈りの双子』』
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POW : 化身の祈り
自身の【支配するダークセイヴァーに溢れる鮮血】を代償に、1〜12体の【血管獣】を召喚する。戦闘力は高いが、召喚数に応じた量の代償が必要。
SPD : 鮮血の祈り
あらゆる行動に成功する。ただし、自身の【支配するダークセイヴァーに溢れる鮮血】を困難さに応じた量だけ代償にできなければ失敗する。
WIZ : 双刃の祈り
自身の【支配するダークセイヴァーに溢れる鮮血】を代償に【血戦兵装】を創造する。[血戦兵装]の効果や威力は、代償により自身が負うリスクに比例する。
イラスト:ちゃろ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
鉄・弥生
赤い色は大好きだけど
この場所は全然好きじゃないな
沢山の人が犠牲になった証だもの
犠牲になった皆の苦しみ、悲しみ、怒り
…当然、受け止める覚悟できてるよね?
・召喚
タルタロス
ギリシャ神話の奈落の神であり
奈落そのもの
敵が何者を呼ぶかわからないけど
どれだけ強大な相手でも
全部呑み込んでしまえばいい
この世界で生きていた皆、力を貸して
囚獄の奈落へ
貴方達の仇を落とす為に
・戦闘
【天鼠の世界】発動
祈りの双子をコウモリ化
どれだけ強い兵装でも
元の姿を失えば使えないでしょ
翼はあげるけど、自由はあげないよ
溢れる鮮血に自ら飛び込んで溺れちゃえ
ふふ、私も一人で戦ってるわけじゃないの
この術は私の片割…ううん、やっぱり教えてあげない
双子の胸元から、流れる鮮血を糧とした血戦兵装が引き抜かれる。
すぐに塞がる傷跡から血は流れない。双子自身はあくまで支配者であり、屍山血河に混ざる気はないと見えた。
続いて血戦兵装が血の河に突き立てられ、鮮血の濁流が渦を巻く。やがて姿を現したのはガーゴイルの翼に強靭な顎、異なる生物の特徴が複雑に融合した異形――|亜神《デミゴッド》と呼ぶべきものだった。
「赤い色は好きだけど、この場所は全然好きじゃないな。沢山の人が犠牲になった証だもの」
鉄・弥生(鉄家次女・f35576)はその名に「鉄」の字こそ持っていたが、彼女が要する血は愛する者の数滴で事足りた。あたりに満ちる胸やけする程の鉄の悪臭、斯様なものは貴種の血統であろうと我慢できるものではない。
何より、弥生には心があった。骸の海に落ちた吸血鬼どもが持ち得ざる|熱《ほとぼ》り、嘆きに耳を傾け痛めるだけの、感性豊かな人並みの心だ。
「犠牲になった皆の苦しみ、悲しみ、怒り……当然、受け止める覚悟はできてるよね?」
内に渦巻く激情とは対極の冷ややかな声。魔弾の術式で呼びかけたモノは、大気を揺らがしてこちらへと『来る』。
ず……ん。第二層の大地を揺らす振動の後、空間そのものが変容する感覚を覚えた。錯覚ではない、今しがたここは地獄へと置き換わったのだ。形なき神にして青銅の門の奥にすべての魂を捕らうもの、名を|奈落の果て《タルタロス》。
亜神が未知なる敵へ向け牙を剥き、壁へと体当たりを見舞った。角が穿ち陥没させ、それでも巨大にすぎる奈落はわずかに揺らぐのみ。
亜神との戦いを呼び寄せた存在に任せ、弥生は双子へと敵意を向ける。
「この世界で生きていた皆、力を貸して。囚獄の奈落へ、貴方達の仇を落とす為に!」
叫びと共に煙が立ち込め、魔の煙は双子の姿を羽ばたく矮小なものへと変える。天鼠――蝙蝠となった双子は血戦兵装を取り落とし、キィキィと人の耳に聞こえない鳴き声を放った。
「翼はあげるけど、自由はあげないよ。溢れる鮮血に自ら飛び込んで溺れちゃえ」
双子は亜神に助けを求めるよう周囲を飛び交うが、亜神は次の瞬間巨大な影に引き潰された。連鎖する術式は奈落の縁か、百の手の巨人すらも呼び寄せたらしい。
「ふふ、私も一人で戦ってるわけじゃないの。この術は……ううん」
やっぱり教えてあげない――自らを守ってくれた誰かを思うように、目を伏せて。逃げ惑う一対の蝙蝠を撃ち落とすべく、弥生は雷の魔弾を放った。
大成功
🔵🔵🔵
クック・ルウ
目を覆いたくなるような光景だと思った
吸血鬼が人の血を啜り、異端の神々が跋扈していたのは、これが為だったのか
祈りの双子、お前がどのような覚悟であったとしても猟兵はお前を倒すだろう
これは決して許してはならないことだ
この血を、命を、軽々しく扱ってくれるな
私も魔法を嗜む者として、召喚の儀には覚えがある
溢れる血と零された涙に報いるために力を貸してくれ
いでよ、気高き魂を持つ白い巨犬よ
私はお前の武装となって戦おう!
液状の身体が変形し、召喚した巨犬の装備となるのが私の真の姿だ
戦いながら私達の力は共に高まり続ける
白銀の輝きで兵どもを打ち破り、巨犬の牙を敵へ届かせよう
猟兵達が上層に救いを求めたのは、あるいは天への憧れからだろう。地底ならば天があり、光射す大地や草木の芽吹く土壌があるのではと希望を抱いた。
だがどうだ。辿り着いた先の真実を映し、乳白色のマーブルの瞳がわなわなと揺れる。
目を覆いたくなる光景だと思った。巡らぬ生命。業に業を重ねる醜悪なる大地。吸血鬼が、異端の神々が跋扈する惨状……それが|単《ひとえ》に、流れる血をすべてこの地に集める為だとは。
「……祈りの双子。お前がどのような覚悟であったとしても、猟兵はお前を倒すだろう」
故郷の宇宙世界とは異なる地獄。クック・ルウ(水音・f04137)は討つべき敵に、死の宣告とばかり声の限りを叩きつける。
これは決して許してはならないことだ。悪徳の箱庭。世界丸ごと仕組まれた悲劇など、あらゆる悲劇が聞いて呆れる。
「「……怒り。それがあなたの根源……ならば、わたしたちはあなたを斃し、その恨み憎しみを糧としましょう……」」
世界の理を超え、祈りの双子は九尾の怪異を呼び寄せる。妖しげに狐火が揺れ、次いで雨が降り、稲の妻たる無数の閃光が空間を切り裂いていく。
「黙れ。この地を、命を……軽々しく扱ってくれるな」
何を言っても通じる相手ではない。そう断じ、クックは襟元の水籠を握って昔日の魚心へと願いをかける。
(「溢れる血と零された涙。クックは報いなければ。報いるために……力を貸してくれ」)
目元より、僅かに流れた塩の雫が足元の河に合流した。乙女の願いを聞き届け、白い巨犬が虚空を突き破り駆けつけた。
「気高き魂を持つ白い巨犬よ。私はお前の武装となって戦おう!」
ブラックタールの柔軟な体は、駆ける犬の四足に纏わり、急所を護る鎧とタール状の刃を形成した。賢しき九尾の炎が犬の関節を狙って押し寄せるが、黒いクックだった粘液は沸騰しながらもその悉くを防いでいく。
続いて、タールの高圧の刃が狐の尾を切り飛ばした。水でさえ圧をかければダイヤをも切削するのだ。粘性を伴う液体の刃を前に、狐の柔らかい肉体は面白いように千切れた。
決戦兵装を手にした双子は尚も進撃を阻む気概を見せたが、犬に宿る白銀の輝きがその気を萎えさせた。光の球となって駆ける犬は双子にとっても未知のもの、力を推し量るように双子は避けるか迎え撃つかで惑いを見せた。
その迷いこそが命取りだとは、戦士に言って聞かせる間でもなかろう。回避にも一寸遅れをとった双子を、巨犬の体躯が突き飛ばす。
やがて血の河をかき分け舞い戻る、愛らしくも頼もしい友へ。クックは鼻先を撫でてやることで、労いとした。
大成功
🔵🔵🔵
バレーナ・クレールドリュンヌ
【鮮血の生贄と恐るべき存在】
ユーベルコードで呼び出した2体の眷属の神、蛇神のメドゥサを呼び出しましょう。
【鮮血の闘争】
UCで呼び出した海月令嬢の湛える水に入り、血の祝福で障壁と刺胞の毒の強化、血蠍騎士に血の加護で装備に毒を宿らせ、護りを固める。
私は歌で、召喚したメドゥサを操り、溶血の毒で、超常存在を溶かしていき、血戦兵装のもとである血を、凝結の血で満たし、無制限の強化を止めましょう。
刺胞の毒で祈りの双子の動きを封じ、血蠍騎士の槍撃でその身を穿ち、メドゥサの血の毒で損害を与えていきましょう。
赤き血の冒涜はやがて終わる。
この歌が|海より来たるもの《オブリビオン》を還すRequiemになる事を。
檻の内側より眺めた外界は、煌びやかで刺激的で、けれど好ましくないものが沢山に見えた。
幼心に抱いた直感はある種、真実だったのであろう。
乙女の育った世界とダークセイヴァーの違いは、しばらくの命が保証されるか、明日の命も保証されないかに過ぎない。あるべき姿から遠く歪められた世界。目の前の赤い河は、バレーナ・クレールドリュンヌ(甘い揺蕩い・f06626)の目には、色を持つ哀しみが流れているかに見えた。
世界は斯くも、痛みと嘆きに満ちている。けれどそれを悲観するばかりの力無きものでは、今のバレーナは断じてない。
「赤き血の冒涜はやがて終わる……この歌をもって、終わらせましょう」
蜜のように甘く蕩ける声が、乙女の喉から零れ落ちる。幾重にも音の波が爆ぜ、あぶくを散らし、響き渡った後には二つの影が現れていた。
其は血蠍の騎士、深紅の甲冑を身に纏う、誇り高き守護の従者。其は海月の令嬢、海に揺蕩い死して尚刺す、気高き深淵の護り手。
噎せ返るような鮮血の河は更なるものの召喚、蠍と海月を産み落とした大いなる影へ手を伸ばすことを可能にした。大気を揺らがしごとりと転げ落ちる、巨大な頭……美しき女性の髪は蛇で編まれ、その睨みを受ければ石となり砕ける、神話に名高き蛇の神――メドゥサ。
怪物の女王に現れに、双子は対抗するように聖なるものを喚んだ。虚空を割って分け入るひとつの影、逞しき翼のペガススがこちらへと空を駆ける。
海月令嬢の湛える清浄な水に護られ、バレーナは血の祝福をふたりへ願った。蠍の騎士には毒の鎧を、海月の君には障壁と刺胞毒の強化を宿し、いかなる航路で敵が来ようとも迎え撃たんとする。
透いた歌声に、蛇の神は溶血の毒を撒き散らしながらペガサスを睨んだ。天馬の翼が削げ落ち、吸い込んだ肺腑は焼けただれ、聖なる輝きを宿した獣は裁きを届かせる前に地に落ちる。
「|海より来たるもの《オブリビオン》……心に唄持たぬあなたに、ひとつ唄を聴かせましょう」
血戦兵装を手に駆ける双子へ、海月の透いた触手がしゅるりと伸びる。触手は剣の斬撃を前に千切れたが、衝撃を加えたが最後、刺胞から毒針が突き出し、足の痺れた彼女たちは玻璃の腕の中に囚われていく。
歌い上げる鎮魂の祈りに乗せ、メドゥサの血の毒が降り注いだ。神経毒を擦り込まれた双子には、激痛をもたらす毒血を逃れる術もなかった。
大成功
🔵🔵🔵
バルタン・ノーヴェ
祈りの双子、ここが年貢の納め時デース!
この世界を血の海には沈めさせマセーン!
お覚悟を!
鮮血を生贄として現れる超常存在……銀の鍵の門を超えて来るような、輝く球体のモノ!
これは、流石にワタシだけでは相手にできマセーン……ゆえに、応戦するために対峙し得る存在を呼びマショー!
我輩の演算デバイスに接続! 丸い時間に対抗するべく、カモン! 角なる時間の猟犬群!
現れた、正気を削るような角張ったサムシング! ご協力してくれたら料理を捧げマース!
無事交渉に成功したら、ティンダロスの方々と一緒にヨグソトースへ合戦!
万能鍋とグレネードランチャーを構えてアタック!
血管獣も祈りの双子も巻き添えにして神話大戦であります!
凄惨極まる、鮮血の河。鬱屈とした気にさせる景色の中、場違いなほど明朗な声が響く。
「祈りの双子、ここが年貢の納め時デース!」
駆け付けたバルタン・ノーヴェ(雇われバトルサイボーグメイド・f30809)は自慢のサムライソードを振りかざし、敵の親玉たる双子へ宣戦布告をする。
「この世界を血の海には沈めさせマセーン……お覚悟を!」
「「……歴戦の猟兵よ……確かにわたしたちだけでは不利も事実、だが……」」
双子の手が鮮血の河の水を浚い、拾い上げた亡骸の心臓を天へと捧げる。瞬間、びしりと空間に亀裂が走り、眼前の光景が様変わりする。
視界が真っ二つにひび割れたかの如き、違和感――不快感。五感が、猟兵としての直感が、おぞましいものの招来が成されたことを告げていた。
「こ、これは……」
窮極の門を超えて来たる、人類が手に負えぬモノ。何処でもあり、何処でもない場所に潜む、外なる知性、全にして一の、銀の球体状が無数に連なるモノ。
知性体全ての脳髄を侵す念波が押し寄せ、視覚、聴覚、あらゆる器官の情報が歪みはじめる。
「ノー! 流石にワタシだけでは相手にできマセーン……ゆえに、応戦するニハ! 対峙し得る存在を呼びマショー!」
ぎりぎりの所で悪しき思念の波を躱し、頭部に埋めこまれた演算デバイスに意識を接続する。時空そのものである球体に抗うにあたり、バルタンの脳裏が描くのは――鋭角を追う猟犬。
「ワンワンショータイム! えげつないワンちゃんを呼びまショウネー!」
紫の霧、次いで吐き気を催す悪臭が立ち込め、岩陰、足元の角、百二十度より鋭い『あらゆる角』から獣が姿を現す。舌先から垂れ下がる注射器の如き針、目は腐敗に濁り、その姿はとても『犬』とは似つかぬ姿であった。
バルタンの振る舞う料理が気に召したかは判らぬが、とがった時間からの来訪者は解き放たれた悦びと積年の恨みと、身を悶えさせる飢えに堪らず餌を求めた。外なる存在もはじめ応戦したが追い立てられることを嫌い、徐々に気配が遠のいていく。
「「……己より強き者の威を借りる……わたしたちの家芸をも真似るとは……」」
残された双子は流石に手に余るとみて、接触を嫌った。双子は祈り、執拗なまでの追跡を辛くも逃げ遂せたが、彼女らの運もそこまでであった。
逃れ切ったところへグレネードランチャーが無情にも迫り、至近距離で爆ぜた。血の河に咲く爆炎の華は、硝煙や火葬の臭いよりもひどく鼻についた。
大成功
🔵🔵🔵
サク・ベルンカステル
恨むなら恨め、、、だがこの世界で流された数多の血よ、不条理を振り撒く化物共に復讐しようぞ!
UC剣鬼顕現を使用する
通常であれば体内の闇の血を暴走させて身に纏うUC
だが、今、この時であれば。
周囲に溢れる鮮血を生贄として体内の闇の血をより活性化させ生贄とした血も纏うことにより禍々しい左右三本の腕を持ち闇のオーラを纏う悪鬼羅刹のごとき剣鬼を呼び起こしその身に宿す
「倒ス、貴様ラ化物は一匹残ラズ倒ス!!!」
黒剣だけでなく増えた腕に随行大剣4本全てを握り血管獣及び双子に怒声をあげ突撃する。
負傷をしても周囲の鮮血を生贄に取り込むことで即座に装甲を修復し更には纏うオーラを強め被弾など気に止めずひたすらに斬り裂く
眼前を流れる河の水は、誰が流したものなのだろう。
あまりに多くの血と涙が流れた。いわれなき惨劇が悪徳と愉悦、手慰みのためだけに引き起こされた。それらが過去の出来事となった今では、血と哀しみの源流を辿ることは不可能だ。
「恨むなら恨め……だが」
どこか彼らに詫びるように目を伏せながらも、血を捧げてでも戦に勝たんとするサク・ベルンカステル(幾本もの刃を背負いし剣鬼・f40103)の決意は揺らがない。|今日日《きょうび》まで戦い続けた末の結実、遂に敵に一矢報いれるとあらば、血の主たちもこの扱いを受け入れよう。
高々と掲げた手の甲に、闇の烙印が紫色に輝き、黒々とした焔を纏う。
「この世界で流された数多の血よ、不条理を振りまく化物どもに復讐しようぞ!」
大気中に木霊する、去りにし者どもの怨嗟の叫び。続いてサクの数倍の体積に膨れ上がるエネルギーの爆動が、視界を魔の霧にて覆い尽くす。
「「……闇の種族を呼ぶのでなく……直接その身に下ろしたか……」」
警戒する双子が血管獣、続いて無尽蔵に増える影の亡者を呼び、サクの目論見を止めるべく向かわせる。次々と纏わりつくそれははじめ、男の動きを食い止めたかに見えたが、膨れ上がる闇の闘気が群がる亡者を吹き飛ばした。
『ヴルルルルル……』
闇の種族と半ば融合した、悪鬼の威容。鮮血と自身の魂の幾らかも生贄に捧げた神降ろしの儀は、本来人の力の及ぶ限界を超え、六腕携える異形の剣鬼を呼び起こした。
人ならざるものの唸り声を押し退け、内に健在の人の意思が明確な方向性を与える。手あたり次第に周囲の者を襲おうとした闇の種族の意識をねじ伏せ、束ねられた殺意の下に疾駆する。
『ゴガアァァ! 倒ス、貴様ラ化物は一匹残ラズ倒ス……!!』
黒剣の一振りに随行大剣の四振り、六本の腕は持ちうるすべての剣を握る事を可能とした。血管針を突き刺そうと迫る獣を撫で斬りにし、そのまま双子の元へと迫る。
怒声を撒き散らしながらの剣戟怒涛。個の殲滅力に優れたサクを前に、兵装でなく血管獣を選んだ時点で勝敗は決していたのだろう。
被弾してますます勢いに乗る魔人の進撃を止めるものは誰一人いない。逆袈裟に振り上げた剣が一回転して地を穿ち、勢い余って斬り飛ばした。大地ごと引き裂かれるような痛みの中に、双子の祈りは届くことなくかき消えた。
大成功
🔵🔵🔵
ウィルヘルム・スマラクトヴァルト
これだけの鮮血が、ダークセイヴァーで流されたと……。
それを贄にすると言えば嫌悪感を感じますが、考え方を変えましょう。
この鮮血を用いて、ダークセイヴァーでのこれ以上の流血を止める、と。
鮮血の主達も、生贄魔術に用いられるよりはマシでしょう。
「この大地を対価と為して、此処に出でよ。明けの明星!」
UCを発動して、魔王ルシファーを召喚します。
存分に暴れさせるための対価に、ここの鮮血を用います。
光の魔術と闇の魔術で、超常存在も血戦兵装も殲滅させましょう。
それが出来るだけの対価は、十分あるはずです。
その間に、私は緑の斧槍で祈りの双子を攻撃します。
【怪力】を乗せた【ランスチャージ】で、貫いてやりましょう!
足元を流れる河はひどく鉄の臭いがした。熱や炎の舞うたび、噎せ返るような臭いが立ち昇り、それでも河は干上がる事もない。それどころか、双子の、猟兵たちの傷ついて血を流すたびに、それは新たな一滴を流れに加えるのだ。
「これだけの鮮血が、ダークセイヴァーで流されたと言うのですか……」
美しき翠玉の騎士、ウィルヘルム・スマラクトヴァルト(緑の騎士・f15865)は己の信念とはかけ離れた世界のありさまに暫し瞑目した。
この世界に騎士道精神は育たなかったのだろうか。たとえ護る意思があったとして、護り切れぬほど敵は強大なのだとしたら、騎士にとってこれほど耐え難いことはない。
ウィルヘルムにとり、この血を贄とするには大いに抵抗があった。誰の犠牲も強いず立ち向かえたならと本心では思うも、既に双子は次なる生贄召喚として二振りの槍を持つ破壊神を呼び寄せた。
(「……考え方を変えましょう。この鮮血を用いて、ダークセイヴァーでのこれ以上の流血を止められるなら」)
血を流した主たちも、更なる悲劇は望むまい。そう言い聞かせ、守護者のエメラルドを高々と掲げる。
エメラルドは古来、ある者が王冠に用いたとの逸話がある。美しく、敏く、傲慢でもあったその者は神の怒りを買い、聖天から堕天へと身をやつした。魔に堕ちた後、大天使であった名は魔王として知られるところとなる。
光と闇の側面、双方を併せ持つ翼持つ者――その名は。
「かつて汝が冠を飾りし宝として、我は請い願う。この大地を対価と為して、此処に出でよ……明けの明星!」
現れた黒天使、魔王ルシファーは黒翼を羽ばたかせ、ウィルヘルムの前にゆっくりと降り立つ。
「……我を呼ぶ愚か者よ。人類ごときが使役できるとは思うておるまいな?」
「ええ……だから対価を用意しました。ここに流れる河、これだけあれば十分なはずです」
魔王は足元に流れるものを一瞥してふんと鼻を鳴らし、ひとまずは納得したように敵へと向き直る。
「人の子の所業としては悪業に塗れておるな。大方お主のした事ではなかろう……まあ良い。我に捧いだものは還らんぞ」
双子が血戦兵装を振り抜くと同時、破壊神がしびれを切らしたようにこちらへ向かうのが見えた。魔王はつまらなさそうにそれを見遣り、拳を開くだけの動作で光の柱を呼び立てた。
聖界の魔術が次々と注ぐ、その後には消滅光を除いて何も残らない。破壊神の槍の片方が光のピラーに飲まれ、続いて四本ある腕のうち二本が消し飛んだ。
破壊神はなおも鬼気迫る表情で襲い来るが、すぐに闇の炎に足元を囲まれ行き場を失くした。魔王を屠らんと果敢にも飛び込む、その身体が目の前でぼろ屑のように崩れ去る。
残された双子の血戦兵装が光の柱に飲まれて千切れ飛ぶ中、ウィルヘルムは魔王への感謝を告げ、ハルバードを掲げて肉薄する。
「往け、人の子よ。清濁併せ呑む者よ――我を呼び寄せたからには、勝利の美酒で贖って貰おう」
魔王の言葉を背に受け、エメラルドの騎士は駆け抜ける。双子の振り飛ばされる無様を見ながら、魔王はふん、と冷めた吐息を残して魔界へと去った。
大成功
🔵🔵🔵
ソフィア・アンバーロン
さぁ、こんな血の池大洪水はとっと終わらせちゃいましょうか
そんじゃぁ、先ずは召喚術と幸運でおいでませー!
あれ、ソニア(自分の星霊バルカン)
へーお師匠さんもいっしょなん…(見上げて)
え゛?!
何かすごいでかい(50m級)星霊バルカンだね
あの娘を倒して、この戦争を終わらせたいんだ手伝ってくれる?
他にもでかい(20mの)バルカンが2体出てきて…
あ、兄弟子とか姉弟子とか…
一緒に囲んで炎で結界を作って浄化してる
うわぁ…結界内の血が水になってるぅ…
鳴き声一つで空間の異常が一時的に正常になってるぅ…
結界を一時期解いて、神火をばらまいてるね
…外れた神火がすごい火柱になって、火柱跡が、浄化されて水になる……。
終焉を砕く力に目覚めて以降、赤にはやたらと縁があった。
血を吸い上げて都市に咲く大輪の薔薇、赤き願いを受けて輝くエリクシル。赤は時に情熱の色とされるが、人の欲望やどす黒い願い、そうしたものの末にももたらされる色らしい。
「さぁ、こんな血の池大洪水はとっとと終わらせちゃいましょう」
眼前の鬱屈とした眺めを笑い飛ばすように、ソフィア・アンバーロン(虚ろな入れ物・f38968)は努めて明るく声をはった。こんな凄惨な赤は御免だが、赤い色自体は別段嫌いでない。
やる気の赤、情熱の赤、そして自身の友たる星霊の色もまた、赤なのだから。
「それじゃあ、先ずは……ソニア、おいでませー!」
猫の姿の星霊、バルカンのソニアを呼び寄せれば、いつもは黒猫一匹のはずの召喚におまけがついてきた。
「あれ、ソニア。ひとりじゃないの? ……へー、お師匠さんもいっしょなん……え゛!?」
見上げた先に佇む黒い巨影……それは山岳の如き威容を誇る、黒猫で。
「何かすごいでかい星霊バルカンだね……ともかく、あの娘を倒してこの戦争を終わらせたいんだ。手伝ってくれる?」
猫の鳴き声をスローモーションにしたような間延びした声が轟き、巨大星霊バルカンの尻尾の炎が意欲を示すように煌々と燃えあがる。一体だけでは足らぬというのか、傍にこれまた巨大なバルカンが連鎖召喚され、すっかり召喚術が自分の手を離れたソフィアは呆気にとられた様子だ。
「あ、あれ、他にもでかいバルカンが2体も……え、兄弟子と姉弟子、なの??」
あわよくば合体して浄化の焔をと考えていたが、これだけ大きなバルカンだと流石に合体できそうもない。むしろ自分まで山のような姿になってしまったらどうしようと考え、ソフィアは思わずスカートの裾を押さえる。見えてしまったらちょっと嫌だ。
そうこうしてる間にも、愉快なバルカンズは自分たちの意思で動いていて。
「うわぁ、一緒に囲んで炎で結界を作って浄化してる……結界内の血が水になってくぅ……」
双子の呼び寄せた鮫っぽい何か(not星霊ジェナス)がじゅー、と焼かれて昇天し。
「鳴き声一つで空間の異常が正されてるぅ……」
一時的なものとはいえ、鮮血の河の底に正常な大地が一瞬見えたりして。
「……結界を一旦解いて、神火をばらまいてるね?」
ごうごう、めらめら、降り注ぐ火の色はアマツカグラの篝火のよう。
「外れた神火がすごい火柱になって、火柱の跡が……水に……」
たぶん、ここまでの本気が見られるのは後にも先にも今だけだろう。
ほとんど手を離れて暴走する炎の饗宴を見ながら、ソフィアは心に刻む。
星霊バルカン、おそるべし。怒らせたらヤだから今度、お魚をいっぱいあげよう、と。
大成功
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エルフィア・エルシュタッド
……鮮血を以て祈りを凶つモノと為す、か。
血を生命を供物とするモノならば、此方にも在る。
詠え、|黑き劍《nigra glavo》よ。
お前が好む血が、此処に在る!
血を啜り生命を喰らう劔よ、此の地に沈む無辜の血を喰らい、呼び水とせよ。
我等が祖に連なり従った「彼等」を此処に――!
顕現せしは、我が祖が乗騎し空を翔けたとされる、燃える毒を吐く凶つ竜。
その背を借りて、我等が父祖の伝承を再演といこうか。
旧き過去の残滓。その祖と汝等が名乗るのであれば、我等が汝等を在るべき所、骸の海へと送り還そう!
血管獣に対しては、凶つ竜の毒と、多重詠唱したUCの魔弾の拡散射法にて対処。一撃で倒せずとも、毒の蓄積による減衰で薙ぎ払う。
双子へ対しては、多重詠唱した魔弾の一点収束にて貫き穿つ。
其れでも決定打が与えられぬようであれば、竜の背から飛び降り、その勢いをも載せた黑き劍の斬撃を馳走しよう。
(外見こそ変化は見られないが、平素より好戦的――或いは血に飢えたように見える其の姿は、血統に秘められ封じられた真の姿なのかもしれない)
双子の祈りに怨嗟の咆哮が響き、捧げられた鮮血が血の管のたうつ獣を形作る。
元は血の通う生物であったものを吸い上げ、化生と変える邪法。魔術の心得がある者ならば多少は耐性もあろうが、さりとて彼女らの行いは到底看過できるものではない。
「……鮮血を以て、祈りを凶つモノと為す、か」
エルフィア・エルシュタッド(闇月の魔術剣士・f35658)は彼らの手口を非難することなく、自身の境遇に思い馳せるように目を閉じた。世に邪術の類は山ほどあり、血を、生命を供物とするモノならば、双子だけの専売特許ではない。
「詠え、黑き劍よ。お前が好む血が、此処に在る!」
代々家宝として伝わる、紅きルーン文字の刻まれた黒き剣。生命を啜り糧とする魔剣は、無辜の血を喰らって赤く脈動し、エルフィアの祖に連なるものを呼び寄せる。
大気が重く振動し、空間を揺らがす巨体が運ばれた。現れた漆黒の竜は|顎《あぎと》の中に燃え盛る毒の炎を湛え、生けるものすべてを嗤うように吐息を零した。
かつてエルフィアの祖先が跨り、空を駆けたとされる凶つ竜。川面をなめるように低空飛行しエルフィアを乗せた竜は、そのまま上空高々と飛翔し双子を見下ろせる高度に達した。
「「……天翔ける竜ならば、呼べるのはお前たちだけではないぞ……」」
双子の儀式が成就し、一対の|飛竜《ワイバーン》を空に|喚《よ》んだ。禍々しい気を放つ飛龍は小回りの利く体で邪竜へ次々とブレスを放つが、頑強な皮膚を持つ邪竜は意に介することもない。
「旧き過去の残滓。その祖と汝等が名乗るのであれば、我等が汝等を在るべき所、骸の海へと送り還そう!」
逸る心を隠さず叫ぶエルフィアは姿こそ平時と変わらぬが、早く敵の血を見たがる好戦的な性を露わにしていた。代々伝わる魔術の根源に則るならば、これこそが彼女の本性とも言えよう。
空駆けるワイバーン、次いで地に満ちる血管獣もろとも、凶竜のブレスが貫いた。高濃度の呪詛毒を吐く彼の竜のブレスは、吐息というより最早矛と形容するのが相応しい。
竜の背に跨り、エルフィアも併せて魔弾の詠唱を幾重にも重ねた。描かれた魔法陣の集束する先、束ねられた炎の魔弾が勢いよく駆け、双子の足元を紅蓮の炎血にて包む。
遠間から攻めるだけは飽いたとばかり、エルフィアは竜の背から飛び降りた。黒いコートの裾が翻るのも気にせず、「nigra glavo」と銘打たれた剣を大上段に構える。
「喰らえ、啜れ、黑き劍よ! この河の血を啜り尽くしても、お前は未だ飽き足らぬはずだ!」
降下の勢い乗せた斬撃は、敵の骨身を深々と斬り裂いた。サーベルで防ぐことも叶わぬままに、痩せた双子の体はくるくると宙を舞った。
大成功
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リコ・リスカード
魔術に可能性があるなら……やってみようか。
魔術、『プログラミング』『人造生命の創造』を掛け合わせながら血の中の意思に呼びかける。
ここで少しでも多くの血を消費して、こちら側に力を集めておきたい。
「キミ達はこのままで悔しくないの?少しは仕返しの時間が欲しいんじゃないかい?」
それだけこの世界に悲しみや憎しみを感じてきたのならば、最後の最期くらい暴れて少しでも笑って去った方がいいでしょう?
呼び出すのは巨大な影の虎。電脳魔術も宿したこの子に距離は関係ない。どこにいようが自分より大きい敵であろうが、衝動のまま噛み砕く。
簡単な攻撃じゃ止まらないよ。
双子はあらゆる行動に成功する。
でも代償は必要。血を多く消費しておけば「あらゆる」とは言い切れなくなるはず。
あっちが失敗するまで何度でも攻撃を仕掛けて、一撃当たったら続けて攻撃を叩き込む。
俺の攻撃だけで済むと思ってた?考えが足りないな。
本当にキミ達を赦さないのは誰かくらい理解しておくと良い。
虎に再度魔術を掛け、全力攻撃を支援する。
……少しは、気が晴れたかな。
心得のある者といわれ、自信をもって手を挙げられるほど魔術に精通しているわけではない。それでもリコ・リスカード(異星の死神・f39357)は、己の魔術に役割が持てるならと招集に応じ、双子の前へ降り立った。
「魔術に可能性があるなら……やってみようか」
リコにとって魔術の概念はプログラミングにも似ていた。機械的に組まれた、生命の術式。それらを弄ることは人の倫理でおいそれと許される事ではないが、今なら大義も赦すだろう。
血の中に湧き立つ、小さな生命のあぶく。まだ形をとって現れる未然の『生命』へと、リコは静かな声で呼びかける。
「キミ達はこのままで悔しくないの? 少しは仕返しの時間が欲しいんじゃないかい?」
あぶくが一度、返事をするように大きく跳ねた。それを「是」との返事と捉え、リコは電脳魔術の光を血の水面に走らせる。
「それだけこの世界に悲しみや憎しみを感じてきたのならば、最後の最期くらい暴れて少しでも笑って去った方がいいでしょう?」
薄く笑いを浮かべる姿は、必ずしも善意ではなかろう。だが、それでもあぶくは少しずつ大きさを増し、あてがわれたチャンスにありつこうとした。
「「……未知の魔術を操る猟兵よ……その身は矮躯ながら、やはり侮れぬ……」」
双子が呼び寄せる竜が翼をはためかせ、過ぎる巨体がリコたちのすぐ傍を掠めた。生まれかけたあぶくは消えてしまったかに見えたが、次の瞬間ぼこりと大きく膨れ、人より大きな球体が持ち上がる。
現れた巨大な影は、獰猛な肉食獣、いうなれば虎の形をしていた。呼び出された影の虎は腹に響く咆哮を轟かせ、自身よりはるか大きい筈の竜すらも警戒させた。
「キミ達はあらゆる行動に成功する。でも代償は必要だったね。こちらが血を多く消費すれば、やがて『あらゆる』とまでは言い切れなくなるはず――加えて」
言葉の続きは咆哮に飲まれ、虎の姿は声のみを残してかき消えた。次の瞬間、上空高くの竜の喉笛に虎が食らいつき、双子は驚愕に目を見開いた。
「血気盛んなのはもちろん、電脳魔術の虎だ。この子に距離は関係ないよ」
体を電子の海に潜らせ、次の瞬間には別の場所へ襲い掛かる虎。竜が高度という地の利を得ていても、これでは何の意味も為さなかった。
もはや竜が役立たぬと悟り、双子が剣を手に二方向へと散った。魔術の行使者を先に仕留めようとの魂胆が見え透いたそれを、リコは鼻で笑いながら迎え撃つ。
「俺を殺せば済むと思った? 考えが足りないな……本当にキミ達を赦さないのは誰かくらい、理解しておくと良い」
手に滾る魔術は双子でなく、その背にある虚空へと消えた。双子の操る双剣がリコを刎ね飛ばすと同時、魔術の加護を得た虎がそれ以上の勢いで双子の背中へと爪と牙を突き立てた。
リコは一回転した後に川面に突っ伏し、己の手足が動くのを確かめた。受け身が功を奏し、掠り傷で済んだらしい。
「……少しは、気が晴れたかな」
勝ち鬨のように咆哮をあげて走り去る虎が、彼の呟きに応えることはなかった。
大成功
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シリルーン・アーンスランド
全力で挑みます
「儀式ならわたくしにも覚えがございますゆえ」
呟き真の姿に
髪は長い藍
わたくしは『梯の子』
元は異界のモノを喚ぶ儀式を終えた刻に
命を喰らわれ微塵も残らぬはずの生き人形
優しい手で逃がされ銀誓館で幸を得たのです
無茶を背の君はお怒りあそばしましょう
黙って此方へ参りました故
不遜は承知ですが疾くと存じます
受傷も要しますからある程度攻撃は受けます
激痛も堪えてみせましょう
「嘗て奉じし異界のモノよ…」
忘れ得ぬ呪文も唱え
敢えて名は呼ばず不完全な出現を狙います
儀式の余波が程よく作用して
捧げられ損ねた生贄の声に応えてくれました…!
出現と同時にリベレイション詠唱
英霊の代わりにソレが宿りましたわ!
「成功、です…」
受傷と憑依の苦痛にも役目を忘れは致しませぬ
得た絶大な力を用い全力で長剣にて三閃!
このUCは此処が限界
後は
「さ、お戻りを」
暴れる異界のモノを追い返します
元より中途半端な顕現にて留まる事は不可能
まして今のわたくしは猟兵、命の埒外!
作戦勝ちでございますね
「貴女がたも、そろそろお時間ではございませぬか?」
傷を受け、祈りの双子が儀式を遂行できるのも精々これが最後だろう。
血管獣をけしかけて攪乱を任せ、双子は生贄魔術の詠唱に入る。
「生贄を捧ぐ儀式、ですか……儀式なら、わたくしにも覚えがございますゆえ」
戦場に降り立ったシリルーン・アーンスランド(最強笑顔の護り風・f35374)は、ブロンドから藍色に変わる美しいグラデーションの髪を風になびかせていた。
過去に思い馳せるように目を閉じた瞬間、二色の髪が先から順に藍へと染まる。それは銀誓館での日々でなく、かつて血統に囚われ血族の命ずるままに生きていた頃のシリルーンに近い姿だった。
梯の子。かつてそう呼ばれたシリルーンは、異界のモノを喚ぶ儀式に捧げられるのを待つばかりの生き人形であった。
召喚が終われば用済みの、ただ従順に頷く使い棄ての生贄。そのように育てられた彼女を逃し、学園に匿った者がいた。
学園での日々に自我は少しずつ息を吹き返し、やがて己の意思で歩み出せるようになった。誰が命ずるでもなく惹かれた相手と付き合い、結ばれ――いまや、シリルーンは母として自分の人生を生きている。
斯様な無茶をしたと知れば、絶えず背中合わせの彼は怒るだろうか。だが、今だからこそ大丈夫だと言えるし、正直頃合いだとも思う。だから、これから己の為すことは――勝利をもぎ取るついで、過去の清算をする以上のさしたる意味はない。
「嘗て奉じし異界のモノよ……」
幼少期より擦り込まれた通り、唇は忘れ得ぬ呪文を唱えた。敢えて奉ずるモノの名を唱えなかったのは、シリルーンの意地だ。完全なる現出を狙えば自我まで奪われかねない――この魂は、そんなモノにくれてやるほど安くはない。
どくん、と降霊の負荷に心臓が脈打ち、儀式の成就を確信する。即座に、
「……リベレイション!」
巡礼士に教わった英霊降ろしの術を唱え、英霊に代わって自らの中に不完全なソレが宿るのを感じる。
「成功、です……」
半端な顕現とはいえ、憑依の苦痛に身が千切れそうだ。構わず長剣を握り、勢いよく振れば、自身に向かってきていた血管獣が弾け飛ぶのが見えた。
残る余力を振り絞り、双子の元へと駆けて斬撃を見舞う。続く一閃は空間を断ち、双子を巻き込む旋風となった。
もう、この身体はあと一撃放つのに耐えるのがやっとだろう。だからシリルーンは気丈に微笑み、最後の力を振り絞る。
「貴女がたも、そろそろお時間ではございませぬか……?」
渾身の力を籠め放つ横薙ぎの一撃は、双子の胴体に真一文字の傷を刻んだ。そこから光の線が罅割れるように広がり、双子の上体と下半身の間に二度とは戻らぬ聖なる分断が刻まれる。
「「……やはり……わたしたちでは、無限の贄を以てしても、敵わぬか……」」
閃光の中にかき消え、爆風と粉塵が視界を埋め尽くす。
交戦のしばし後、力を使い果たしたシリルーンは仲間に抱き起され、そこで自分たち猟兵側の勝利を知らされるのだった。
大成功
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