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食物文化研究同好会~不思議な|縁《えにし》のはじまり~

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一ノ瀬・帝



知花・飛鳥



水鳥川・大地



源・全




 食物文化研究同好会。去年新設されたばかりの、部員たった二名の弱小同好会。
 部・同好会のやたら多いこの高校においては、存在すら知らない生徒も多いことだろう。そんな通称『食研』への思わぬ入部希望者に、当の一ノ瀬・帝も知花・飛鳥も、しばらく瞬きも忘れて目を丸くしていた。
 そして自分たちを迎え入れてくれる筈だった上級生たちがこの調子なので、新入生である源・全も呆気にとられて一言も話せなくなっていた。
(「あ、れ……やっぱり訪問しちゃまずかったのかな……?」)
 沈黙を破ったのは全と同じ一年生、クラスメイトの水鳥川・大地だった。
「あの、俺らここに入部しようと思ってるんスけど」
(「いやいやいや決めてない! まだ決めてない!!」)
 慌てて首を横に振ろうとする全だが。
「ホンマ!?!?」
 飛鳥があまりにも目を輝かせて身を乗り出してくるので、違いますとストレートには云えなくなった。
「えっ……と、はい、ちょっと興味があるかなって……」
 まだ入るとは一言も云っていない。でも飛鳥はそんな事は気にも留めず、優しそうな垂れ目をますます細めるのだった。
「よかったなあミカ、とうとううちも後輩が出来るんやって。なんか一気に同好会らしくなってきたなあ」
「そうだな」
 帝の手を取ってぶんぶんと上下させる。されるがままの帝は内心、「飛鳥が嬉しそうでよかった」が九割、「二人きりの時間が減ってしまうのが少しだけ寂しい」が一割といったところだった。
 そんな想いに今日も気づかない飛鳥は「ミカも嬉しいねんなあ」と上機嫌で後輩たちに向き直る。
「まずは自己紹介と行こか。俺は知花飛鳥。花を知るに、飛鳥時代の飛鳥。んでこっちが……」
「一ノ瀬帝」
 大きく身振り手振りを交えながら名乗る飛鳥に、ぺこりと小さく会釈をする帝。
(「絵に描いたような正反対コンビだなあ……っていうかこれが陽キャ……!」)
 クラスメイト達より更に純度の高い陽キャオーラに、思わず眩しくも無いのに目を細めてしまう全だった。
「一ノ瀬先輩のミカドって、皇帝のミカドって字っスか?」
「そうだけど?」
「おお……!」
 大地は大地で全にはよく分からない圧倒のされ方をしている。
(「やっぱりヤンキーってテッペンとかそういうの好きなもん……?」)
 硬派なヤンキーというものの漠然としたイメージを思い浮かべる全だった。漫画やゲームの知識だから実際にどうかまでは知らないが。
「格好ええよなあ」と、何故か帝本人ではなく飛鳥が自慢げに胸を張った。「まあ俺はミカって呼んでんねんけど」
「……俺としては大仰すぎて少し恥ずかしいんだけどな」
「そんな事ないっス、似合ってるっス」
 大地の言葉に帝は眼鏡を押し上げた。
「……そうか?」
「お、嬉しそうやんミカ」
(「え、ヤンキーもコミュ力高……!」)
 ちょっとびっくりする全であった。てっきり仲間の輪とかそういうのとは無縁のタイプだと思っていたのに。
「そんでもって、お二人さんの名前は?」
「え、あ、源全です」
 声を上擦らせながらも全は名乗った。それから、飛鳥の名乗りを思い出して付け加える。
「ミナモトはそのまんま、源頼朝のミナモトで、ゼンは全部の全、です」
「おおー、ってことはフルネーム二文字かぁ。なんか憧れるなあ、潔いっちゅーか」
「そ、そうです、か……?」
 陽キャって何でも褒めてくれる。眩しすぎて軽いめまいがした。
「俺は水鳥川大地っス、水と、鳥と、川に、大地」
「そっちは風流な名前やなぁ」
「飛鳥、風流なんて言葉知ってたんだな……」
「ええー! 流石にそれは俺の事見くびりすぎとちゃうん?」
 わいのわいのと盛り上がる先輩二人は随分と仲が良さそうだ。一年間一緒に同好会をやっているだけで、ここまで仲良くなるものなんだろうかと全は不思議に思った。
「ま、それはともかく宜しゅうな、全、大地!」
(「ノータイムで名前呼びだ! 陽キャ本当凄すぎる……!」)
 ちらりと大地の方を見れば、彼も少し驚いたように目を瞬かせていた。こっちは全とはまた少し違った意味で、気軽に下の名前を呼ばれるような機会があまりないのかもしれない。
「は、はい……!」
「っス」
「まあ、二人とも座ってくれ」未だしゃちこばった様子の後輩たちへと、帝が視線の向きで椅子を示した。「ずっと立ち話も何だし」
「せやった、ミカ気が効くなあ」
「あ、じゃあ、お言葉に甘えて……」
 がちがちに緊張したままの全は、椅子を引く時にうっかり勢い余って自分の脚にぶつけてしまった。
「あたっ」
「大丈夫か?」
「あ、だ、大丈夫、です」
 帝が声をかけてくれたが、痛いというよりも恥ずかしくて俯いてしまう。
 椅子に腰かけてからも先輩たちを直視できず、長い前髪で自分の顔を隠すようにして机の木目模様を見つめていると、その視線の中にカラフルなパッケージが飛び込んできた。
 食べきりサイズのポテトスナック。差し出してきたのは帝だった。
「これでも食べるといい」
「え、あ、いいんですか?」
「いっぱいあるからな。二人しかいないのに飛鳥がやたら買い込んでくるから」
「……ありがとうございます」
「水鳥川も」
「あざっス」
 大地は早速受け取った袋を開けている。
(「……一ノ瀬先輩、無表情でちょっと何考えてるか分りづらいけど、悪い人じゃなさそう」)
 ひょっとしたら全が緊張しているのを察してフォローしてくれたのかもしれない。
 お礼を言っても眉一つ動かないのは、正直やっぱり怖いけれど。
(「顔も綺麗系っていうか……とにかく緊張するビジュアルだよなあ」)
 女の子はこういう端正な顔立ちの人が好きなのかもしれないが、全としては「イケメンこわい」に尽きる。
 ともあれ、折角だしともらったお菓子の袋を開けてスナックをつまんでみた。小気味よい歯ごたえと適度な塩味が、少しだけ緊張を和らげてくれるようだった。
 ぱんぱん、と飛鳥が注目を集めるように手を叩く。
「はい、じゃあみんな座ったとこで、記念すべき新入部員さんの面接開始~」
「え」
 いやだからまだ決めたわけじゃ、なんて全の心のツッコミは、陰キャゆえの声に出すまでのタイムラグのせいで飛鳥には届かなかった。
「じゃあまずは大地に質問! そのパーカーどこで買うたん?」
 ……パーカー?
 思わずお菓子を食べる手を止める全。
 視線を上げれば当の大地も目を丸くして面食らっていた。
 帝だけが表情を変えていなかった。いつもの事といわんばかりに。
「は?? い、いや、これは学校近くのしま●らで売ってた安物スけど……」
「し●むらでそんなイケてるパーカー売っとん!? 今度チェックしに行かな!」
(「す、すごい……不良相手にもぐいぐい行ってる……!」)
 今日何度目かもわからない衝撃を受ける全であった。
(「っていうかその質問、全く部活関係なくない!?」)
そう、つまりこれは面接とは名ばかりの――
(「ただの雑談だ!」)
 やっぱり陽キャすごい。そしてそんな陽キャに全はひとつ気づかされる。
(「知花先輩もすごいけど、ヤン……じゃなかった水鳥川くんも、案外悪い人じゃないのかも……?」)
 顔は怖いけど。目つきも悪いけど。
 先輩とこうして話していると、ちょっと不愛想なだけの普通の生徒という感じだ。



「あ、大地ってピアス開けとるんやな! 格好ええなぁ~」
 すっかり大地のファッションセンスを気に入ったらしい飛鳥が声を弾ませる。
「俺も開けてみよっかな!」
「駄目だ」
「なんで!?」
 今まで黙って二人の話を聞いていた帝がいきなり割り込んできた。
「お前痛いの苦手だろ」
 昔はしょっちゅう転んで泣いてたし、なんて小声で付け加えれば、飛鳥がむっと頬を膨らませた。
「い、今は人並みやし!」
「とにかく駄目だ」
 好きな格好をすればいいとは思う。それこそしま●らの安物パーカーだろうと、頑張ってバイトして買った憧れの店の服だろうと。多少奇抜だろうと似合っていなかろうと、飛鳥が喜んで着ているのなら水を差すつもりはない。でも飛鳥の身体が傷物になるのはだけは許せない。面倒見の良さと過保護さは紙一重なのである。
(「……それにしても、見た目よりも悪い奴じゃなさそうで安心したな」)
 下級生の片方、いかにも不良然とした大地を見た時は、正直なところ帝は少し警戒したものだったけれど。
 しかし飛鳥は昔から人を見る目がある。本人は自覚をしていなさそうだが、外見に捉われず人の本質を見抜くような天性の才を持っている。そんな飛鳥が最初からぐいぐい話しかけているのだから、彼を警戒する必要はなさそうだ。
 誰にでもオープンに気さくに振る舞うようになった今でも、飛鳥が少し距離を置いたり、必要以上に関わろうとしない人というものはいる。そういった相手は、表面上は人が好さそうに見えても、後から底意地の悪さが判明したりするのだ。
 だからこそ大きな喧嘩やトラブルを起こすことなく、傍目にはより一層「誰にでも積極的ですぐに友達になれる距離感バグった陽キャ」というふうに映るのだろうが。
 となれば気になるのはもう一人、引っ込み思案そうな全のほうだ。勿論彼に対しても飛鳥はフレンドリーに接しているが、帝が気になっているのは別の事だった。
(「何となく、誰かさんを思い出すんだよな」)
 いっつも不安そうな顔で、帝の後ろにくっついてきた誰かさんを。
 今もちょっとうつむきがちに、帝が渡したおやつをぽりぽりと食べている。飛鳥と大地の会話に時々目を丸くしたりしているから、話に興味が無いわけではなさそうなのだが、いまいち会話に入るタイミングがつかめないような様子だ。
「……源は」
「へっ!?」
 声をかけてみると、それがとても予想外だったというように身体を跳ねさせた。
「あ、す、すみません」
「いや。源は、何か好きな事とかあるのか? 趣味とか」
「おお~せやなあ、全の事も色々知りたいなあ」
 飛鳥と、それから大地も無言で全に目を向ける。
「お、俺ですか……そ、そうだなぁ……」
 全はたっぷり五秒は視線をさまよわせていた。注目を浴びるのも慣れていなさそうだ。
 それからようやく意を決したように、云った。
「な、なに云っても、笑わないですか……?」
「勿論」
「その、家でゲームとか、よく、やってます」
「へえ~どういうやつ!? モンスター狩るやつ? フィールド塗るやつ??」
 有名なゲームを飛鳥は口にした。全はなんだかくすぐったそうに縮こまりながら「その辺も一応、一通りは……」と呟いている。それらの有名ゲームも遊んではいるが、本当に得意なものは別にありそうだと帝は感じた。それとなく好きなゲームを訊いてみようかと思ったが、飛鳥の方が先に口を開いた。
「なあなあ、じゃああのモンスターどう倒せばええとかわかる? あのでっかい牙が欲しいのにどないしてもやられてしまうねん」
「牙のやつ……武器は何使ってます?」
「太刀!」
「それなら……」
 なんだかんだ話が盛り上がっているようなので、全の一番得意なゲームの話はまた今度でも良さそうだと帝は思った。思ってから、自分の考えに少し驚いた。
(「また今度だって?」)
 すっかり全たちがこの部活に来ることを決定事項のようにとらえている自分に気づいて、少し可笑しくなる。どうやら自分もすっかり飛鳥のペースに踊らされているようだ。今に始まった事ではないが。
「えっと……先に角を落とすと防御力が落ちてダメージは稼ぎやすいんですが、その後でモンスターが本気を出して強くなっちゃうんですよ」
「ああ、そういう事なん!? 道理で後半やたら強いと思ったんよ!」
「そ、そうなんです。だから角が欲しい場合以外は、時間かけてちまちま攻撃した方がいいかな、と」
 恥ずかしそうにつっかえつっかえながら、全の説明はポイントを捉えていてわかりやすい。
 そしてそれを飛鳥が手放しに褒めるものだから、全はなんだか眩しそうに眼を細めていた。
 わかるよ、と帝は共感する。
 飛鳥は、眩しい。昔から、ずっと。



「逆に二人から何か質問とかあるー?」
「質問スか」
 飛鳥の言葉に大地は考え込む。急に訊かれると案外思いつかないものだ。
 話し始めたのは意外にも全からだった。
「えーと……それじゃあ、ここは具体的にどういった活動をするんですか? 例えば研究内容を論文にまとめてどこかで発表したりとか……?」
 全の顔には「そうだったら嫌だなあ」が滲み出ていた。それは正直大地もだった。勉強は得意な方じゃない。というよりもはっきりと苦手だった。授業と宿題だけでも憂鬱なのに、部活でまで論文なんて書かされたらたまったものではない。
 悩む後輩二人に、当の飛鳥はあっけらかんと答えた。
「別に何も無いで?」
(「無いの!?」)
「無いんスか?」
 自分の心の声と大地の声がぴったり被って、思わず大地を凝視してしまう全だった。
「……何だ?」
「いいいいや、何でもないです、何でも……でも何もないって事は、ここで先輩たちは何をしてるんですか?」
「去年はこーやってミカと二人で駄弁ったり、おやつ食べたりしとったで」
 要するに、本当に何もしていないようだった。
「ラーメンの研究とかするんスか」
「あ~~、お菓子ばっか食うてたからその発想はなかったわ!」
 な、うん、と頷き合う飛鳥と帝。
「よし、今度皆で食いに行くかラーメン! 大地、お勧めの店とか知っとる?」
「醤油ラーメンでよければ、学校から近くて替え玉が安いとこあるっスよ」
「くぅ~~即戦力! なんて頼もしい新入部員なんや!」
 早速盛り上がる二人。帝がこっそり全に訊いてくれた。
「源も、ラーメン好きか?」
「はい。あ、でも店で食べる事ってあんま無いかも……」
 どちらかというと、ゲームで一息つきたくなったタイミングで手軽に食べられるカップ麺を愛用している全だった。
「じゃあ丁度良い機会かもな」
帝が納得したように頷く。
「……はあ」
 飛鳥みたいにぐいぐい来るタイプではないものの、帝も二人が入部するのを決定事項として扱っているようだった。
(「やっぱり、一ノ瀬先輩はちょっと掴みどころがないな……悪い人じゃないんだろうけど」)
 全は知る由もないが、すっかり飛鳥にほだされた帝も帝で「もしここで後輩たちが断るような事があったら飛鳥が悲しむだろう」と、彼なりに後輩たちを繋ぎ止めようと気を利かせているのだったりもするのだった。



 結局その後も質問攻めにあった二人は、おみやげと称して大量におやつを持たされて帰路に就いたのだった。
「よし、じゃあミカも、二人も、また明日な!」
 そんな、とびきりのスマイルに見送られて。
 そしてその翌日。

「あ、み、水鳥川くん、おはよう」
「……おう」
 大地が教室の席につくなり、後ろに座っていた全が話しかけてきた。
 最初に話しかけた時にはこっちを見ただけでおどおどしていたくらいだから少しばかり驚いたが、それきり会話は続かなかった。
 全は入部するのだろうか。訊いてみたかったが、向こうが同じ事を訊こうとして迷っている気配を感じてなんとなく云いだせなかった。
 そして放課後。
 トイレに行ってから部室に向かうと、昨日と同じようにドアの前に全が立っていた。
「あ、源」
 声をかけるとやっぱり雷に打たれたかのように身体を大きく跳ねさせる。まったくもっていちいち大袈裟なやつだ。
「水鳥川くん……」
「お前もやっぱり今日も来たんだな」
「いやあ、その……」
 居心地が悪そうに頬を搔きながらも、最初に出逢った時よりは随分とスムーズに全は話し始めた。
「あの純真無垢な笑顔で「また明日」なんて言われたら、行かなきゃいけないような気持になるというか……無下にしようものならものすごく良心が痛むというか」
「……分かる」
 大地の返答に、全は驚きと納得を同時に感じていた。
 彼のようなタイプは、他人の事になんてとらわれず自分を貫けるのだと想い込んでいたから、意外というのもあったけれど。
 昨日先輩と話している時の大地は、見た目こそ怖いがむしろ協調性のある、いわゆる空気が読めるタイプのようにも思えたから。
(「なんか、みんな、……変わった人だなあ。三人しかいないのに」)
 でも、そんな三人とおやつを食べて駄弁ったり、ラーメンを食べに行ったりという未来を想像したら、ちょっといいな、と思えたのもまた事実であり。
 そしてそれは大地も同じだった。距離感のやたら近い先輩と無表情の先輩に驚きはしたものの、何だかんだ居心地の良さを感じていた。
 彼らは大地を見た目だけで判断せず、一人の人間として分け隔てなく接してくれる。それが居心地の良さの理由だと、大地自身ははっきりとは気づいていないかもしれないが。
「でも、入るって決めたのに何でまたこんなとこで突っ立ってんだ」
「それは……その、心の準備が」
「あ゛?」
 これは大地としては気軽に「何だって?」と聞き返したくらいのニュアンスであるが、全からしたらとても怖かった。いわゆるメンチを切られたという状態でしかなかった。
「ごごごごめんなさい!」
「何でいちいち謝るんだ。そんな事より入部届は書いたんだろ、さっさと行こーぜ」
「ちょっ待っ……あーっ!」
 昨日と全く同じパターンで強引に扉が開かれる。
 こうして、四人になった新星『食研』が誕生したのである。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2023年05月16日


挿絵イラスト