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【サポート優先】イルカの楽園

作者：絵琥れあ

　これはサポート参加者を優先的に採用するシナリオです（通常参加者を採用する場合もあります）。

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「戦争の途中で済まないが、シルバーレインで事件だ！」
　どうした。
「まぁ、今のところ実害は出ていないのですけれどもね。ただ、放っておくと持ち主が衰弱してしまいますし、もしかしたら今後、一般の方も特殊空間から出られず衰弱死……ということにもなりかねませんので、手の空いている方がいらっしゃったらお力をお借りしたい次第で」
　成程メガリス絡みだな？　と問えば、虹目・カイ（虹に歪む自己・f36455）はこくりと頷いた。
「鎌倉に住む女子中学生の｜青海《あおみ》・リオン様。ある日彼女は、海岸を散歩中に漂着していた古い竪琴を拾いました。お察しの通り、その竪琴こそメガリス『アリオンの竪琴』だったのです」
　いるか座の逸話はご存知ですかと、カイは猟兵たちに問う。
　嘗てギリシャに、アリオンという音楽師がいた。
　彼はかのオルフェウスにも並ぶと謳われた竪琴の名手として知られ、ある時シチリアで開かれた音楽祭で見事に優勝を果たす。
　しかしその帰りの船、優勝賞金に目が眩んだ船乗りたちは、アリオンに剣を向けると入水を迫った。
　アリオンは覚悟を決め、最後に一曲奏でると、海へと身を投げる。
　これで一安心と船乗りたちがその場を離れた頃――演奏に聴き惚れたイルカたちが、アリオンを背に乗せて救ったのだ。
「因みにその後、船乗りたちはちゃんと捕らえられて処罰を受けましたよ」
　これが神話時代の｜勧善懲悪《ざまぁ》か。
「ま、それは兎も角。この竪琴がそのメガリスだと言うのですね」
　今回はそれを回収せよという話であるらしい。
　しかし、当然そこには乗り越えるべき、メガリスによる奇妙な事件があるだろう。
「勿論でございます。青海様に自覚はございませんが、彼女は休日に竪琴を拾った海へ赴き、そこで竪琴の弦を弾くのが習慣となりました。その結果、彼女の半径25m以内に接近すると、イルカの泳ぐ地中海の海に投げ出されます」
　えっ。
「正確には、それに似た環境の海が再現された特殊空間に放り込まれるってことですね。脱出方法はイルカを満足させること。神話の通りに音楽を奏でたり、お喋りをしたり一緒に遊んだり……方法は問いません。因みに呼吸は出来ますのでご安心ください」
　そういう問題ではなくない？
「海開き前に発覚してよかったです。青海様も極力人気のないところで竪琴に触れているようですし。生来余り人と群れない性質なのでしょう。ただ、物分かりのいい方でもあるようですので、竪琴が危険なものだと説明すれば、皆様に渡してくださるでしょう」
　本人よりイルカの方が厄介なのか。いや、イルカにも悪気はないのは解るけど。
「ただ、やはり名残惜しい気持ちはあるようですから。折角ですし思い出作りに、青海様と遊んで差し上げるのは如何でしょう。メガリス効果で青海様周辺の本物の海も、海開き前でも安心の水温とイルカに恵まれておりますので、問題なく泳げますしね」
　何でもアリだなその竪琴。

第1章 冒険 『巡り巡る世界』

POW   :    空間内で暴れ回っておびき寄せる SPD   :    敢えてスタート地点に戻ってみる WIZ   :    弱ったフリをして誘い出す 👑7 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

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「イルカさんは飴ちゃんは食べられますの？」
『キュイッ』
　少なくともここのイルカは大丈夫らしい。
　ふよふよと青の世界を漂う納花・ピンチン（ブギーモンスターの勇者・f31878）が寄ってきたイルカに飴を与えると、イルカはキュッキュと喜んで踊り始めた。
「お口に合ったなら何よりですわ」
『キュ』
「アタシたちは、青海は……こほん、青海さんに竪琴を譲って貰いに来たんですわ」
『キュウゥ……』
「気持ちは解ります。でも、遊んでくれる人が弱っていく姿を見るのも、イルカさんは辛いのではありませんか」
『キュウ』
　会話が成立してる……？
「解っていただけたのならよかったですわ。青海さんのところに案内して貰えます？」
『キュッ！』
　ピンチンがそう言って頼むと、イルカは姿勢を低くした。背中に乗るよう促している様子。
「ほな、よろしくお願いしますわ〜！」
『キューイー！』
　イルカはピンチンを背に乗せて、悠々と泳いでいく。目指すは竪琴を持つリオンの元に。
　……え、ピンチンの言葉にお嬢様口調じゃないのが混じってたって？
　キットキノセイダヨ。

成功 🔵​🔵​🔴​

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「｜この世界《シルバーレイン》の星座の逸話……ですか」
　歌、星、物語――その全てを好むシャルファ・ルイエ（謳う小鳥・f04245）は、いるか座の逸話に興味を持った。
　そしてここは、恐らくはその逸話を元に創り出された世界。神話の時代の海の世界。
　楽しげに歌うイルカへと、飛ぶように泳ぎ近づいて。キュ？　と首を傾げられれば、微笑みを浮かべて。
「素敵な歌ですね。一緒に歌ってもいいですか？」
『キュウ！』
　歌と音楽を愛するイルカに否やもなく。
　可愛らしいイルカの鳴き声と、美しいシャルファの歌声が、青の世界に響くハーモニーを生んだ。
　それを聴きつけた他のイルカも集まってきて、キュッキュと歌い出し。神話の海を舞台に始まる大合唱。
　やがて歌が終われば、イルカたちが胸びれを手の代わりに鳴らして拍手喝采。
「ありがとうございます、とても楽しいひと時でした……あっ」
『キュッ？』
「よかったら、あなたたちとアリオンさんのこと、詳しく教えて貰えませんか？」
　グリモア猟兵に詳しく聞く時間はなかったから。
　いいよ！　と一匹のイルカが元気よく鳴いて、自分たちのルーツに纏わる音楽師の話をしてくれた。
　シャルファは暫し、その話に聞き入っていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

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　とぷん、と。
　青に投げ出された酒井森・興和（朱纏・f37018）の身体が本能的に一瞬、強張る。
（「……ふむ」）
　けれどすぐに、グリモア猟兵の言葉を思い出した。
（「息が出来るならあんまり怖くない……はず」）
　試しに、慎重に息を吐いてみる。それから、短く吸って……問題のないことをその身で認めた。
（「ふぅ……海の中は溺れて以来だよ。こうして、落ち着いてみ見るのは初めてだ」）
　本物の海は、まだ少し遠慮したいところではあるけれど。
　これなら、活動に支障はなさそうだ。
（「しかしこの特殊空間……メガリスにしてはまだ穏やかなんだろうけど、いずれ犠牲が出るかもしれないか……」）
　溺死はせずとも、空間を出る方法が解らず衰弱してしまう人が出る可能性があるのであれば、放っておくわけにも行かない。
　それに興和は、今の持ち主であるという少女のことが少し気になった。
（「中学女子ならうちの子と同じ年頃か」）
　興和には娘――養女がいる。今は銀誓館学園生時代に縁を結んだシャーマンズゴーストと共に、山の庵を守ってくれている。
（「元気かねえ。メールを送ってくれるけど読めてないし、返事してないし」）
　最早読むのが怖い域ですらある。
　そんなことを考えていると、丸く潤んだ瞳と目が合った。
「やあ」
『キュ？』
　声をかけてもイルカは逃げることなく、寧ろ興味深そうに首を傾げて興和を見つめている。
「僕は地上の者だけど海中の縦横無尽な広さはすごいね。些か心細かったから君たちと会えてホッとしたよ」
『キュッキュイ〜』
　頼りにされている、と思ったのか嬉しそうに尾びれをぱたぱたさせるイルカである。
　気づけば周囲に他のイルカたちも集まってきて、その
流線型の姿で悠々と泳ぐ姿に暫し魅入る。
「っ、と」
『キュワ』
　沈みそうになれば、そうならないよう背で押してくれるものもいる。その知性の高さに興和は思わず感心した。
（「賢いし、気の良い生き物だ。青海さんが度々彼らに会うのも解るねえ」）
　助けてくれたイルカを一撫でしつつ、そうだ当初の目的を、と。
　最初に出会ったイルカに、話を切り出す。
「最近君たちとよく会う人間の娘がいないかい？　少し話が合ってね」
　案内して頂けるかな……？　と問えば。
　それならこっち、と言わんばかりに泳ぎ出す。時折興和を振り返り、ゆっくりと。
　身体を貸してくれるイルカの支えを得て、興和もその脚を動かした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

第2章 日常 『正の残留思念が留まる場所』

POW   :    体力の続く限り堪能する SPD   :    計画的に楽しみ尽くす WIZ   :    フィーリングに従って遊び倒す 👑5 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

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　――ざばり、と。
　水から上がる感覚がある。足は砂浜に着いていて、身体の水が滴り落ちると、不思議と髪も肌も服も濡れてはいなかった。
　イルカたちの姿も傍らにはなく。代わりに、波打ち際から少し離れたところから、聞き覚えのある鳴き声の合唱が。
　そして、波が僅かに届かないところに、猟兵たちに背を向ける形で座る存在があった。
　白い服の少女。手にはその腕に収まる竪琴。
　彼女がリオンで、その竪琴がメガリスだろう。
　奏でる音色はお世辞にも曲とは言えなかったが、一音一音がとても綺麗だった。それを補完するような形で、イルカたちは歌っているのだと気づいた。
　リオンは猟兵たちの気配に気づくと、弦を弾くのをやめて振り返る。すると海面から、どうしたの？　と言いたげなイルカたちの顔が覗いた。
　その竪琴は、どうあっても回収せねばならないものだ。
　だが、竪琴を手放す彼女のために思い出を作るくらいは、きっと許されるだろう。


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　少女の姿を認めて、酒井森・興和（朱纏・f37018）は静かにひとつ思案した。
（「年頃の娘に寂しい場所で話し掛けると不審がられないだろうか」）
　なんて、そんな風に考えられる程度には、己も人間慣れしたのだと興和は思うことにした。
「……あの」
「え、」
　悠長にぼんやりしていると、リオンとイルカたちの視線が、全て自分に注がれていることを自覚する。
「ぇ～、と」
　思わず、僅か狼狽える心を何とか抑えて。
「邪魔して申し訳ない娘さん……いや、青海さんだね？」
「え、ええ、はい。私の名前は青海ですが……」
　浮世離れした空気を纏った少女だが、瞳に宿る光は理知的に感じられた。
「故あってその竪琴の様な異質な物を回収しに来た、酒井森というよ」
　リオンが視線を落とした先に、その竪琴はある。
「気付いているね？　鳴らせばいつでもイルカを呼ぶ、その竪琴は並の物じゃない」
　そして俄には信じ難いだろうと伏せたが、本人やイルカたちの害意の有無に拘らず、人々に危害を与える側面をも持ち合わせているのだ。
「関わる人を不幸にし、いずれは持ち主も破滅させる、と言う類いの神器なのだよ。……今は音を聞いた人を海のど真ん中に放り込む程度だがね」
　言ってみて、それでも十分に危険だなと興和は改めて思った。呼吸が出来ることを考慮に入れてもだ。
「率直に言って、手放して日常に戻って欲しい」
「………………」
　リオンは、黙って話を聞いていた。
　その様子を、イルカたちが首を傾げて見守っていたが。
「正直、私の理解を超えた話ではありますが……出鱈目を言っているわけでは、ないのでしょうね。それにイルカの件に関しては、反論の余地がありませんし」
　解りました、と。
　立ち上がろうとするリオンを、制するように。
「でも、」
　彼女を見つめる興和の目は穏やかで優しく――まさに、子を持つ父親のそれと何ら変わりなく。
「今日一日はあなたに預けよう」
　イルカ達も青海さんを慕っているし、と。
　告げれば、リオンの表情が安堵したように和らいだ。
　理性的に応じようとしても、別れは寂しかったのだろう。
「ありがとう、ございます」

　――そうして娘は再び、竪琴を奏で始めた。
　合わせて歌うイルカたちの嬉しそうな姿にふと、興和もひとつ、思い出したように声を上げ。
（「僕も海とイルカの写真を娘に送っておこう」）
　遅くなってしまった返事だけれど。
　元気でやっていると、伝えるために。

大成功 🔵​🔵​🔵​

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　かの太陽神アポロンは、芸術の神でもあり。とりわけ竪琴を得意としていたと言う。
　そしてこの旧き太陽神――日留部・由穏（暁天緋転・f16866）もまた、芸術を愛するものであった。
「こんにちは」
　穏やかな微笑みと共に、竪琴を奏でるリオンへと声をかける。
　由穏を振り返り、ぱちりと瞬きひとつした彼女へと。　
「初めまして、由穏と申します。私もその竪琴を回収する手伝いに来た者ですが……」
「ああ、これを」
　竪琴と最後の別れを惜しむ時間を得たリオンの表情も、また穏やかだった。少しでも悔いを残さないようにと、この時間を大切に奏でているのだろう。
「私も一緒に歌ってもいいですか？」
「えっ、……いえ、あの。嫌というわけではないのですが。その……お世辞にも演奏とは言えない自覚は……」
　ここに来てリオンが僅かに頬を染めた。申し出に躊躇いなく頷ける腕前ではないことを恥じているらしい。
　けれど、由穏は意に介した様子もなく、緩く頭を振った。
「イルカたちが、楽しそうに歌っているでしょう？　だから私も、仲間に入れて欲しいなって。そう思ったんです」
　ただ、それだけのことなんですよ、と。
　にこり、笑みを深めればリオンは、はにかみながらも頷いて。
　暫し、鎌倉の海には竪琴の音と、それに合わせて歌う一人とイルカたちの合唱が、響いていた。

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　かくして。
　メガリス『アリオンの竪琴』は猟兵たちにより、無事に銀誓館学園へと届けられた。
　そして今、奏でる者のいなくなった竪琴は歌うことをやめ、静かに夢を見る。
　イルカの泳ぐ、楽園の夢を。

成功 🔵​🔵​🔴​

最終結果：成功 完成日:2023年05月18日