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闇の救済者戦争⑬〜甘く儚く密やかなれ

#ダークセイヴァー #闇の救済者戦争 #月光城

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●お花は好きだけど、殺人花はノーサンキュー!
「みんな、戦争真っ只中だけど、無事ですか? 怪我してないですか? 心がヘニョってしてないですか?」
 フロリンダ・ジュルフェ(エルフのデモニスタ・f39056)は初めての大規模戦にちょっと変なテンションになっているようだ。
「月光城を知っていますよね。きっと私よりみんなの方が良く知っているますよね」
 そこが発見されてまだそれほど時間は経っていない。デスギガス災群に乗って現れたこの城塞群のはそれぞれ別の主人がその城を差配している。第五の貴族をも凌駕する『月光城の主達』の1体、それは『狂気に堕ちたクチナシの精霊』だ。花の精霊という無害そうな存在が何故このような狂気を得て月光城の城塞群の1つを手にしたのかはわからない。ただ、その城塞群の中央には『ケルベロス・フェノメノンの欠落』が隠されている。
「この城塞群を制圧できたら禁獣『ケルベロス・フェノメノン』の欠落が判明します。そして、それを破壊して、禁獣の持つ『無敵能力』を無効化することもできます」
 しかし城塞群の中央に到達するには『魔空回廊』を突破しなくてはならず、その回廊を守護しているのは城塞の主たる『狂気に堕ちたクチナシの精霊』だ。回廊の壁は天井にまで奔放に伸びるクチナシの木が乱雑に生えていて、季節外れなのに真っ白な花がむせかえるような香りを放って咲き乱れている。
「敵はこの精霊だけです。でも、『月の眼の紋章』と融合していて、この回廊にいる限り戦闘能力が元の660倍になっているんです」
 フロリンダはぼそっと無茶苦茶だよ、と愚痴る。
「でも、この能力強化の源は、回廊にぐるりと取り巻かれる形で作られた人間画廊ギャラリアに『展示品』として囚われている人間達の命なのです。もし、敵の強烈な攻撃を何とかしちゃって、どうにか囚われている人達を逃がせたら、逃げすたびに敵の強化は失われていきます」
 強い力には理由がものだ。そして、何もかもが完璧な敵はそうはいない。力の源泉が途絶えれば敵の強さは脅威ではない。人間達は老若男女、様々だがクチナシの香りで強制的に眠らされているようだ。まだ衰弱している人はいないがいずれ力を使い尽くされ死んでしまうかもしれない。
「私は戦争が良くわかってないです。でも、みんなが力を尽くしてくれたらきっと活路とか勝機とか、そういうのがあると思います。だから、力を貸してください。お願いします」
 フロリンダはぺこりと頭を下げた。


霧原澪
 戦争ですね、お元気ですか? マスターの霧原です。
 今回はとっても綺麗で儚げでお強い敵との戦いです。ギャラリーの人間を助けると敵が弱体化しますが、助けるためにも敵の攻撃をなんとかする方が有利です。猟兵の皆様の大活躍をお待ちしています。
 フロリンダは初めての戦争でちょっと変になっていますが、素敵な姿絵を頂きましたので、どうぞよろしくお願いします。
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第1章 ボス戦 『狂気に堕ちたクチナシの精霊』

POW   :    アナタの感情をわたしに食べさせて?
全身を【狂気を伝播する芳香】で覆い、自身が敵から受けた【希望や絶望といった強い感情】に比例した戦闘力増強と、生命力吸収能力を得る。
SPD   :    アナタの希望を絶望に染めるには何をすれば良いの?
対象への質問と共に、【対象の影】から【大鎌を手にした対象の影人形】を召喚する。満足な答えを得るまで、大鎌を手にした対象の影人形は対象を【クチナシの大鎌】で攻撃する。
WIZ   :    収穫の時間よ。感情ごとその命をいただきましょう。
【希望】の感情を与える事に成功した対象に、召喚した【自身の影人形】から、高命中力の【絶望を与える致命の一撃】を飛ばす。

イラスト:ゆりちかお

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠アウレリア・ウィスタリアです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

夜刀神・鏡介
無敵だの戦闘能力660倍とか、正直盛りすぎだろうと言いたいが……それをどうにか乗り越えていく必要があるのが、猟兵の辛いところだな

ともあれ、強化されているのが戦闘能力のみならば、正面からやりあう必要もないだろう
神刀の封印を解除して、合の型【澄心】を発動。視聴嗅覚による感知を回避するとともに気配を殺して、更に念の為、木の陰に隠れて敵をやり過ごし
敵がこちらに注意を払っていないタイミングを見計らって、静かに囚われている人を救い出していこう
下手にこの場で目覚めてもらうよりは、俺が背負うなりして回廊の外に連れ出す方がいいかな

戦闘力が元通りになったなら、正面から挑んでもどうにか勝機を見出だせるだろう



●ルールのその先へ
 歪な建造物が無造作に建ち並んでいる。それ自体が迷宮であるかのような城塞群の中に件の回廊があった。夜刀神・鏡介(道を探す者・f28122)尖塔の1つに支えもなく立っていた。わずかに空間を揺蕩う風が漆黒の髪を揺らし、満天の夜空のようにも冥き深淵のようにも見える瞳が攻略すべき一点を見つめる。この距離でもクチナシの強すぎる香りが微かに届いている。
「無敵だの戦闘能力660倍とか、正直盛りすぎだろうと言いたいが……それをどうにか乗り越えていく必要があるのが、猟兵の辛いところだな」
 これまでの幾百、幾千の戦場を思う。かなり無理ゲー的な場面もあったし、1つ間違えば自分も仲間も危険に晒す時もあった、かもしれない。それでも、戦場に必ず従わなくてはならないルールはない。あるように見えても、見えないところに違う道がある時もある。どちらの道を使ってもそれは使う者の選択だ。
「ともあれ、強化されているのが戦闘能力のみならば、正面からやりあう必要もないだろう」
 鏡介はそっと神刀の封印を解除した。
(「我が心は静にして無」)
 その瞬間、鏡介の姿は装備ごと周囲に溶けるように見えなくなる。

「だれ?」
 ねじくれた巨木となったクチナシに寄生されているかのような回廊に白い花が咲いている。その回廊の中心で緩慢な動きで振り返ると、長い黒髪と白いドレスの女……の姿をしたモノは言った。何かを見つめている。ゆっくりと、じっくりと移動し、それからふと、口角を釣り上げるような笑みを浮かべる。
「わたしの大切なアナタ達が足りないわ」
 笑っているのか泣いているのかわからない、サーカスの道化のような笑みで『展示品』の消えた人間画廊ギャラリアを見る。全ての『展示品』が消えたわけではないが、集中的に左手前から捕らえた人たちが消えている。
「変ね。だれもいないのに、だれもいなくなる? おかしい、おかしいわ」
 白いドレスの女、クチナシの精霊であったモノは急に体をのけぞって高笑いをする。
「返して! ねぇ、だれ? どこ? みんな、いやあああぁぁ〜!」
 クチナシの声はどんどん大きくなり、最後はもう絶叫になる。その全身は『狂気を伝播する芳香』で覆われ香りが放たれる。それと同時に周囲から無差別に生命力を吸収してゆく。まだ救出されていない『展示品』たちが苦悶の声をあげる。
「あとは頼む」
 救出した人達を背負いながら鏡介は他にあの回廊付近にいただろう猟兵へと後を託した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リリスフィア・スターライト
大変な状況だけれど、囚われている人達を助ける為、
ケルベロス・フェノメノンへと到達する為に頑張るよ
まずは人間画廊にされている人達の救助だけれど
強化されたクチナシの精霊に邪魔されないよう
エレクトロレギオンで足止めするね
機械である以上は感情を持たない存在だし、
時間は稼げるはずだよ
その間に私自身の手で捕まっている人達を助けるね
助けた後は戦いに巻き込まれる前に安全な場所まで逃げてもらうね
クチナシの精霊が狙いに気付いて救助した人達に
危害を加えようとするなら私自身が囮となって注意を引くよ
救出に成功して弱体化できたなら、
エレクトロレギオンと連携して一気に反撃に出るね

「ここからが反撃の時間だよ!」



「好き勝手はさせないよ!」
 リリスフィア・スターライト(プリズムジョーカー・f02074)の言葉と同時にクチナシの精霊は足止めされた。
「え?」
 叫んでいたクチナシの精霊が足元を見る。その足は小型の戦闘用『機械兵器』がわらわらと取り付き、ひしめき合ってクチナシの精霊を足止めしている。よくよく見れば、小さな局地戦がクチナシの精霊と『機械兵器』との間で繰り広げられているのがわかっただろう。
「……!」
 クチナシの精霊は無言でジタバタと足踏みするようにして機械兵器を振り払おうとする。一撃を喰らった兵器が一瞬で消えてゆくが、まだまだ残機は潤沢にある。
「よろしくね」
 リリスフィアは小さな味方達にエールを送ると、目的地に向かってひた走る。視界の中央、どんどん大きく見えてくるのはもう一つの奇怪な回廊、生きたまま『展示品』にされた人間達だ。
「到着! 逃げるよ」
 リリスフィアはぼんやりとしている人間達を強引にこちら側へと引っ張り出し、次々に救出してゆく。ギャラリーはどんどん殺風景になってゆく。
「捕まっていた人たちを助けたら、敵は弱くなるはず」
 人助けも出来て、敵を弱体化することもできるのだ。
「もう1人ぐらい……」
 リリスフィアが解放した人間は8人。
「チ、ちから、が、ない。なぜ? だれかが?」
 狂気に翻弄されるクチナシの精霊も自分の力が失われつつあるのを気がついたようだ。ゆらりと右を見て、それから左を見て、そして右奥を凝視する。
「見つかった」
 焦点の定まららないクチナシの精霊の目が、確かにリリスフィアと彼女の周りでぐったりとしている人間達を見つめている。
「攻撃は最大の防御、かもしれないよね」
 リリスフィアはクチナシの精霊へと走った。金色の髪が灯火のように輝き、軌跡を描く。
「許さな、い。侵入、者」
 か細い精霊の腕がリリスフィアへと伸びる。その一挙手だけで甘い香りがまとわりつく。しかし、腕はリリスフィアに届かない。機械兵器達が必死に精霊の足を留めている。
「……斬る」
 いつの間にか、その手には破邪の緋色に輝く剣が握られている。冷徹な響きと玲瓏な動き。そして、クチナシの右腕は肘のあたりでスパッと切られ、絶叫と樹液のようなものが回廊全体に迸る。
「ここからが反撃の時間だよ!」
 優しい青の瞳に強い意志の光があった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フォルク・リア
「花を見て居るだけなら奇麗だけど。
その精霊がここを守っているなら、
そう呑気にもしていられないな。」

真羅天掌を使用し隠蔽属性の霧を発生させて霧に隠れながら
敵との戦闘を避け人々を救出。
回廊内ではその内部構造を覚えて迷わない様にしつつ
人々を助けた後迅速に脱出できる様にする。
敵に見つかった場合も霧で目を晦ましながら
全力で逃げて物陰に隠れる等してやり過ごす。
また、敵を攪乱させるためにファントムレギオンの死霊
回廊内に放って囮とし敵を攪乱。

ある程度人々を救出して敵が弱体化した確信があれば
同じく霧に隠れ、位置を悟られない様に移動しながら
デモニックロッドから闇の魔弾を放ち攻撃。
攻撃後は直ぐに移動し隠れる。



 次々と囚われていた人間たちが『展示品』の状態から解放されてゆく。回廊と一体化した狂えるクチナシは猟兵を阻止しようとしているのだろうが、その動きには無駄が多いとフォルク・リア(黄泉への導・f05375)は思った。
「花は……香り高い白い花なら、奇麗だで済むけど。その精霊がここを守っているなら、そう呑気にもしていられないな」
 フォルクの決意とともにどこからともなく辺りが白くかすんでくる。
「なに? こんど、は、だれ?」
 足元をただ白い霧が漂うだけで狂ったクチナシの精霊は狼狽する。それでもまだ足元は機械兵器に拘束されていて自由に動けない。
「おかしい……力がきえて、誰が? 出て来い! 出て来いよぉおおおお!」
 クチナシの精霊が絶叫する。清楚な黒髪も白いドレスも、今や不出来なコスプレのようで全く似合っていないどころか痛々しい。
 しかし、フォルクは狂乱するかのようなクチナシの精霊にはかかわらず、身を隠したまま回廊やその周囲の様子を自分の足で歩いて確認していた。実際、この場所は初見の敵地だ。敵と接触する前に出来るだけ情報を得ておくことは定石といえば定石だ(もっとも、猟兵の戦いは常に定石を超えたところにあるとも言えるので、あえて定石どおりに動かないこともまた多いのだが)。
「頃合いかな」
 十分に敵を霧が隠したと判断すると、フォルクは『展示品』の人間たちを開放しはじめた。
「あぁ! また、また力が……」
 慟哭するクチナシの精霊の声が霧の向こうから聞こえてくるが、フォルクの位置は悟られていないはずだ。
「立てるかな。ここから脱出するよ」
 老人に手を貸し、幼児は担ぐ。
「た、助けて……」
「わかっているから。俺から離れないようにしてついてきて。大丈夫、脱出経路はもうわかっているから」
 助けられた人たちはぴとっと寄り添うようにフォルクの近くに集まってくる。
「どこ? ここ?」
 霧を掻き分けるようにしてクチナシの精霊がこちらを向く。
「伏せて」
 自分も姿勢を低くしながら、助けた人達は作り物のような草むらの影に隠す。
「俺が合図をしたら走るよ。いいね」
 返事も聞かずにフォルクはファントムレギオンの死霊を解き放つ。束の間の自由を得た死霊たちは回廊を飛び回り、結果としてクチナシの精霊の目を引き付ける。そして、フォルクはデモニックロッドから闇の魔弾を撃ち放った。
「逃げるよ!」
 魔弾を放つとフォルクは踵を返し、助けた人たちを誘導して回廊を戻った。

成功 🔵​🔵​🔴​

ミルナ・シャイン
ジゼル(f34967)と。

クチナシの花言葉は『とても幸せです』なのですけれど…どうにも悪趣味ですわね。

まあジゼル、危険ですわ!抑えならわたくしが…

…分かりましたわ、どうかお気をつけて!
【目立たない】【迷彩】を纏い、【救助活動】。
わたくしは深海人、地上ではもとから少し浮いて移動していますから物音を立てずに動き回るのはお手のものですわ。

救出が済んだらわたくしも参戦しますわ!ここからはおまかせくださいな。
指定UC発動、氷の百合はいかが?
生憎とわたくし絶望はしませんの、だってわたくしは『希望』の冒険者の娘ですもの!
お母様から絶望に負けない心の強さを学んでいますから、ちょっとやそっとじゃ挫けませんわ!


ジゼル・サンドル
ミルナ(f34969)と。

眠っている人は案外幸福な夢を見ているのかもしれないが…このままだと囚われている人達が危ないしわたし達も勝ち目がないからな。わたしが抑えてるからミルナは救出を頼めるか?
大丈夫だ、わたしには歌があるから。

指定UC発動、偉大なエンドブレイカーの先輩方の始祖たる人の歌を聴いてもらおうか。
わたしは争うのは好きじゃないんだ。
UC効果で戦闘行為の成功率は低下するはずだけど加えて【オーラ防御】で攻撃に備える。

ミルナが参戦してくれたらUCの歌を止め歌声を【音響弾】に変えて援護。
そうだな、わたし達二人ならどんなことだってできるはずだ。これはミルナがくれた希望だから誰にだって消せないさ。



●香りは消えた
 狂気にたゆたうクチナシの精霊は狼狽していた。
「なぜ? どうしてこんなに力が……ない、の?」
 白いドレスの裾も気にせず、足を踏み鳴らし両手を振る。しかし、満足には動けない。『展示品』たる人間達が解放されたことも大きいのかもしれない。クチナシの精霊が使える力は回廊と一体化していても驚くほどの弱体化されている。それもこれも、捉えられていた人間達を解放してきた猟兵たちの活躍の賜物だ。
「クチナシの花言葉は『とても幸せです』なのですけれど……どうにも悪趣味ですわね」
 光の加減によっては緑にも別の色合いが混じるようにも見える碧い髪を背へと払いながらミルナ・シャイン(トロピカルラグーン・f34969)が言う。狂乱するクチナシの精霊は戦う相手としては厄介に思える。まずは人間の解放か、と思いを巡らす。
「わたしが抑えてるからミルナは救出を頼めるか?」
 不意にそう言ったのはジゼル・サンドル(歌うサンドリヨン・f34967)だった。ふわふわとした綿菓子のような柔らかい、雲のような繭のような髪と明るい太陽をはめ込んだような煌めく瞳が印象的な少女だ。しかし、ジゼルの言葉はミルナにとっては驚きでしかない。
「まあジゼル、危険ですわ! 抑えならわたくしが……」
 ミルナが最後まで言う前にジゼルが声を被せてくる。
「大丈夫だ、わたしには歌があるから」
 それは決断と勇気が詰まった言葉で、到底ミルナにジゼルはは止められない。多分、止めてはいけないのだ。
「……分かりましたわ、どうかお気をつけて!」
 そのミルナの言葉が終わらないうちにジゼルは回廊へと飛び込んだ。その頃にはミルナも救出されていない『展示品』達へと走っている。
「だれ? 来ないで! 消えて!」
 クチナシの精霊が叫び、ブワッと回廊中に香りが立つ。そこここからクチナシの精霊と同じ形をした影が現れ、枯れ枝みたいな腕がジゼルへと伸びる。
「偉大なエンドブレイカーの先輩方の始祖たる人の歌を聴いてもらおうか。わたしは争うのは好きじゃないんだ」
 伸びやかに朗々と、ジゼルの歌声が回廊中に響き渡る。それは始まりの伝説に謳われる七勇者アウィンの歌だ。長い長い孤独と、気が遠くなるほどの戦いの果てをアウィンは知っていたのだろうか。歌が響くと、途端にクチナシの精霊が伸ばす腕はジゼルとは関係ない方へと動き出す。 
 歌いながら軽々とクチナシの攻撃を避け、立派に陽動として動いている間に、ミナルは音も立てずに移動し、まだ救出されていない『展示品』達を助け出していた。
「あ、ありが……」
 思わず礼を言いそうになる人達にミナルはそっと唇の前に人差し指を立て、沈黙を促す。
「わたくしは物音を立てずに動き回るのは得意ですが、皆様は違いますわよね。ですから、どうぞそっと、そーっとここを離れてくださいませ」
 助けられた人たちはコクンと頷き、ゆっくりと音を立てずに回廊を離れてゆく。
 それほどそうしてクチナシの攻撃を回避していたのか。その全てをかわすことはできずにどんどんジゼルは傷ついてゆく。それでもジゼルは動きを止めず歌も止めない。
「もう! うるさい! うるさい!」
 癇癪を起こしたかのようにクチナシが絶叫する……が、絶叫がプツンと途切れた。氷結の百合が花びらを散らし、鋭い攻撃がクチナシの顔を切り裂いていた。全く別種の絶叫が回廊を満たす。
「氷の百合に抱かれて眠れたら、よかったのに。でも、ここからはおまかせくださいな」
 クチナシの間合いに飛び込んで、氷の百合で攻撃をしたミナルが軽く床を蹴って後退し、ジゼルのすぐ隣に着地した。
「お待たせいたしました。ジゼル」
「まだまだ余裕だけど、助かった」
 淡く笑ったジゼルは歌を止める。
「絶望、絶望するの、よ!」
 ブワッと回廊中に香りが充満し、影のクチナシが出現する。
「生憎とわたくし絶望はしませんの、だってわたくしは『希望』の冒険者の娘ですもの! お母様から絶望に負けない心の強さを学んでいますから、ちょっとやそっとじゃ挫けませんわ!」
 ミナルは突撃してくる枝を華麗に避ける。氷のような刃を持つ武器で枝を払うと、その背後からジゼルが軽くジャンプしてクチナシへと跳ぶ。
「そうだな、わたし達二人ならどんなことだってできるはずだ。これはミルナがくれた希望だから誰にだって消せないさ」
 ジゼルの歌、それは治癒にも攻撃にも転用できる。今、その可憐なる唇から溢れるのは破邪の歌、空気の波動が奏る音の一撃だ。美しいインクルージョンのように空間に色なき髪が舞う。
「わたくしの凍える百合もジゼルと共に!」
 虚空を震わす音と氷の百合が狂ったクチナシの精霊に最後の一撃を見舞う。猟兵達の攻撃を受け続け、力の源たる人間を失ったクチナシの精霊はクタクタと斃れて、香りも消えた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2023年05月19日


挿絵イラスト