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あなたと、一緒にいたい

#UDCアース

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#UDCアース


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●パーフェクト・ブルー
 夕暮れに二つの影が長く伸びていた。薄く見えるのは靄だろうか。漸く見つけた姿に、青年は息をつく。
「んでこんな面倒なとこ。もう家出もいいだろ。遊園地とか、子供じゃあるまいし」
「昔は、好きだったのに?」
 大人になるから当たり前だとでも言うの? と彼女は静かに問う。
「私が彼氏なんか作らなきゃ良かった? 同じ男だったら良かったの? そしたらずっと一緒にいられたの? ずっと、ずっと一緒だって言ったのに!」
「お前、何言って!? っだいたい先に……、いいか。双子だからってずっと一緒って訳にもいかな……」
 ない、と言う筈の声は揺れる黒髪の向こう、見つけた影に消える。
「ば、化け物……ッおい、ハルノ!」
 それは薄汚れた頭巾を被った何かだった。頭巾の下から細い足が見える。でもあれはもう『人』じゃない。『人』だったら、なんで頭巾の下から足以外のものが伸びて見える。あんなものを抱えていられる?
「ハル!」
 逃げろと叫んだ。だが双子の妹は静かに笑う。
「やっぱり私たちは一緒に戻れないんだね。子供のままだったら、あの子が連れてってくれたけど。それもダメだから、やっぱり私たちやり直さなきゃ」
 黄昏様、黄昏様。
 歌う様に妹は言う。黒髪を揺らし、あの頭巾の耳障りな歌声に笑みをこぼす。じゃらり、と重い鎖が音をたてる。頭巾の化け物は知らぬ間に数を増やしていた。殺される、とそう分かるのに、どうして片割れは微笑んでいるのだろう。あれを呼び寄せた筈の妹はどうしてーー。
「これでずっと一緒だよ。ハル」
「ハルノ!」
 最後に伸びた手。引き寄せるそれに妹は瞬く。強く抱きしめた兄の浮かべた苦痛に満ちた表情は何だったのか。そのどれも知れぬまま、二人を運んだ頭巾の異形ーー黄昏の信徒たちは告げる。
「全ては黄昏の救済のタメ」
「救済に至レ」
 その苦痛の先に。
 歌う様に告げ、振り下ろす鉄球が二人を打ち砕いた。元あった姿が、何か分からなくなる迄。

●貴方と、一緒にいたい
「双子とはいえ、ずっと一緒にはいられない。時の流れの前に、我々は影を落とすしか無い」
 伏せた瞳を開き、詩の一節をなぞる様に告げたのはダンピールの娘であった。
 男女の双子。仲の良かった二人は、思春期を迎えて少しずつ距離を置いていった。何れ、離別でなくとも、彼女の中に納得はいずれ訪れたかもしれない。
「少なくとも、彼女を嗾すものがいなければ、この惨劇は訪れなかったでしょう」
 そして既に、あの双子の結末には間に合わないのだとシノア・プサルトゥイーリ(ミルワの詩篇・f10214)は告げる。
「けれど、二人の悲鳴がひとつの道をつけた。彼女を唆したものが潜む邪神教団の拠点について、情報を得ることができたわ」
 場所は此処だと、シノアはと広げた地図の中、とある遊園地を指差す。
 最近人気のマスコットをメインキャラクターに開いたばかりの遊園地だ。未だ開発途中区画が残っており、その一角に、山あいの天然洞窟を利用した大型お化け屋敷として用意されている教会がある。そこが拠点となっている可能性が高いのだ。
「内部は迷路の様になっているけれど、案内板は工事をしていた時のものが残っているわ」
 辿れば一番広い空間ーー黄昏の礼拝堂へと辿り着くだろう。
「黄昏時に夕日が差し込んで美しく見える……というコンセプトがあったそうよ。事故が多くて工事が止まっていたそうだけれど」
 それ以前に、ひとつの問題があるのだとシノアは言った。
「此処の遊園地、迷子の話が多いそうなの」
 ひとりふたりではない。
 子供や赤子ばかりが行方不明になっているのだという。
「周りにいたひとが最後に聞いたのは、ぬいぐるみの話だそうよ。欲しいぬいぐるみがあるのだと、あの子が欲しいのだと」
 ある者は我儘かと思い、ある者は帰りにしましょうと笑った。
「そうしてほんの少し、視線を外したらーー最後」
 気がついたら園の外。時が過ぎてーーそうして、子供もいなくなっている。
「絡んでいるのは間違いなく邪神関連でしょう。遊園地の敷地内にある教団にいる何かが、子供や赤子を攫っている」
 行方不明者数だけで言えば、それこそ、警察が動き出しそうな数ではあるというのにーーあと一歩、と踏みとどまっているのは遊園地が開園したばかりであったからか。
「己の日々の為の事情であるのならば、迷子となった子たちにも日々を生きる事情があるでしょうに。彼らの方が、邪神教団と協力関係にあったり、信者がいるということはないわ」
 それはこの目に視えたから、とシノアは言う。
「今回、遊園地の管理会社はひどく協力的だそうよ」
 とうとう、子供がいなくなるだけではなく敷地内に大量の血痕が発見されたからだ。遺体はなく、だが残された端切れを見ればそれが『ひと』のものであったと分かる。
「双子の遺体は上がってはいないわ。見つかることも無いでしょう。双子の殺害に関わったのは『黄昏の信徒』と呼ばれる邪神『黄昏の救済』の眷属よ」
 要注意団体である『黄昏秘密倶楽部』が信奉する邪神の眷属。
「肉体と精神の苦痛を受けて死亡した信者や生贄に、儀式を経た布を被せる事で眷属化し生まれ変わらせると言われているわ」
 苦痛と精神の死を救済と信じているのだ。
「彼らが、遊園地の敷地の端、山あいの洞窟へと続く空間に潜んでいる。洞窟が見えれば姿を見せるでしょう」
 およそ隠れる気などなく、だがその奥へと進ませる気もない。
「ーー気分の良い、戦いには先ずならないでしょう。けれど、それでも構わないのであれば力を貸していただけるかしら」
 未だ行方不明の子供達を救う為に。
 これ以上の被害を出さない為に。
「ーーそれと、無事に全てが終われば遊園地で自由に遊ばせてくれるそうよ」
 それで何かを黙っておけと言うわけでもないだろう。だが、きぐるみのショーや多くの遊具は子供たちを無事に助けられれば、親が迎えに来るまでのほんの少しの慰めにはなるかもしれない。
「双子も、幼い頃には此処が約束の場所だったそうだから」
 観覧車の一番上。交わした約束は叶うと言う。
 ずっと一緒にいられたら、と交わした約束は、果たされたのか破れたのか。
「先ずは邪神教団の拠点、そのボスの撃破と子供達の救出を」
 手のひらに浮かぶ淡い光に、吐息で触れる。揺らめく光に武運を、とダンピールは告げた。


秋月諒
 秋月諒です。
 撃破後気分の良いシナリオになるかどうかは分かりません。
 がっつりバトルあり、重め、シリアスな雰囲気になるかと。

●各章について
 第一章:集団戦『黄昏の信徒』
 洞窟へと続く道すがら、工事の道具が置かれたままになっているひらけた空間にて集団戦となります。
 第二章:ボス戦(ボスの詳細は不明)
 礼拝堂エリアにて戦闘となります。行方不明になった子供たちが集められている可能性が高いです。20人ほどの行方不明だそうです。
 第三章:遊園地で穏やかな時間を。
 行方不明になった子供たちを救出できた場合、親族が迎えに来るまでの時間遊園地を貸し切りにしてくれるそうです。

 第三章のみ、募集期間を告知させていただきます。
 お手数ですがご確認いただけると幸いです。

●双子について
 既に死亡しています。
 ずっと同じでいたかったほうとずっと違うものになりたかった方。
 仲の良い双子でしたが、仲が良すぎるのでは、と言われたことを理由に兄の方がある理由で距離を取っていたそうです。詳細は不明。
 ハルノが泣いていれば何処でも分かる、が口癖だった兄。

 第三章のみ、お声がけがあればシノアが登場します。特になければ出てきません。

 救いを謳う先の戦場にて。
 皆さま、ご武運を。
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第1章 集団戦 『黄昏の信徒』

POW   :    堕ちる星の一撃
単純で重い【モーニングスター】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD   :    神による救済の歌声
自身に【邪神の寵愛による耳障りな歌声】をまとい、高速移動と【聞いた者の精神を掻き毟る甲高い悲鳴】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    黄昏への導き
戦場で死亡あるいは気絶中の対象を【自身と全く同じ『黄昏の信徒』】に変えて操る。戦闘力は落ちる。24時間後解除される。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●黄昏語り
 夕暮れを前に、陽の光が雲に遮られた。晴れた青の空が遠ざかりーーふいに、冷えた空気が肌に触れる。夜気ではない。冬の空気でもない。薄雲から帯の様に降り注ぐ光さえ隠されてしまえば、冷えた空気は白い靄となって姿を見せる。地面を這う様に揺らめき、やがて起き上がる様に舞い上がる。
 風のひとつも吹いていないというのに、確かにその奥に『何か』がいると猟兵たちは思った。目で捉えるのはあとひとつ距離が足りず、だがその靄の向こう、黒く影の様に見える何かが洞窟への入り口であることは確かだった。『何か』をーー彼らを黄昏の信徒たちをやり過ごし、中に至るのは無理だろう。
 あれを倒さなければたどり着けない。
 その事実に、猟兵たちが顔を上げれば濡れた地面が目に付く。黒く変じたそこに、じゃらり、と重い鎖が触れーー薄汚れた頭巾の黄昏の信徒たちが姿を見せた。
「全ては黄昏の救済のタメ」
「救済に至レ」
 その苦痛の先に。さすれば、さすれば永遠に共に。
「常しエニ至レルダロウ」
 さァさァ、さァ、と頭巾の異形が囁く声が靄の中、響いていた。
八坂・操
【SPD】

子供の消える遊園地で双子の無理心中!? 都市伝説の被害者染みた怪死も良い感じに恐怖を煽ってくるね♪ 操ちゃんそういうの大好きだよ☆

……しかし、その原因が邪神教団なんてのは、聊か陳腐が過ぎる。
黄昏の救済のため、常しえの救済に至るが故……大いに結構。教団内で毒虫を乗せた皿のように喰らい合うだけなら、誰も何も言うまい。
だが自己の救済の為、赤の他人に犠牲を強いた。許される事じゃあない。
「そうは思わない【狐狗狸さん】?」

『フェイント』を駆使し『カウンター』による貫手で確実に処理していく。
『敵を盾にする』事で被害を抑え、盾ごと『串刺し』『恐怖を与える』。
「苦痛なき死は、救済からは程遠いだろう」


ヴェル・ラルフ
他の猟兵との協力歓迎


…黄昏って、人の心を惑わすなにかがあるのかな。
僕は好きだけどね。曇ってしまって残念。

SPD
集団戦なら一気に燃やしてしまいたいな。

君たちに救済なんて無理じゃない?…僕だって、忘れさせてほしい気持ちがあるけど…
なんてつけこむ隙を見せながら[挑発]して周囲に集めてみよう。
成功してある程度集まってきたら、[早業]で[残像]を残し[ダッシュ]、視界から一時消えて見せよう。
背後をとるか、足元から、【残照回転脚】

うまく集まらなかったら近接に切り替えようかな。
[早業]を生かして薄暗さに乗じて[暗殺][傷口をえぐる]で地道に倒していこう。



 冷えた空気が足先に触れる。カツ、と乾いた土がヒールにあたり、足裏に硬い感触が返った。
「子供の消える遊園地で双子の無理心中!? 都市伝説の被害者染みた怪死も良い感じに恐怖を煽ってくるね♪ 操ちゃんそういうの大好きだよ☆」
 八坂・操(怪異・f04936)の声が、テンション高く響く。明るく響く声は性格からか、風に浮いた帽子をつい、と支えーー薄く、開いた唇からは先の声よりは幾分か低い音が落ちた。
「その原因が邪神教団なんてのは、聊か陳腐が過ぎる」
 カツン、と進める足を止めた。足首より先を飲み込む様にうごめく白い靄は遊園地に起きた事件に似合いであったか。乾いた土の向こう蠢く頭巾の集団が操に気がつく。意識を、一つ向けただけか。動き出す気配がまだ無いのは、奥へと続く道を守っている自覚があるからなのか。黄昏の使徒たちが頭巾の下から伸ばす『何か』で武具を引きずる。鎖に鉄球。モーニングスター。
(「黄昏の救済のため、常しえの救済に至るが故……大いに結構」)
 薄汚れた頭巾の下から覘く細い足の他、伸びた『何か』はタールの様に艶やかに、黒く滴る。だが、ただのタールであれば武具など持たずーーその武具が、鉄球が血に汚れているなどありえない。あれは使われたのだ。古い血では無い、まだ新しいのだろう。濡れた血にほんの僅か砂も付いている。
 教団内で毒虫を乗せた皿のように喰らい合うだけなら、誰も何も言うまい。
(「だが自己の救済の為、赤の他人に犠牲を強いた。許される事じゃあない」)
 ざぁあ、と風が吹いた。春を待つ風は靄を散らせずーーだが、頭巾たちが一体、また一体とこちらを向く。
「そうは思わない【狐狗狸さん】?」
 その視線を真正面から受け止め、操は問うた。瞬間、操の黒髪が揺れる。風も無いのに、さわさわと揺れーーざわめく。やがて女の影が変わる。ひとのそれから、狐のそれに。己を操らせる様にゆるり笑い、前にーー出た。
「こーん、こーん、こーん」
 瞬発。ゆらり、と揺れた体は獣のように蹴り出された。前に、踏み込めば接近に気がついた黄昏の信徒たちがじゃらりと鎖を揺らす。
「ーー今再ビ」
「再ビ全ては黄昏の救済のタメ」
 ぶん、と鉄球が振るわれた。細い腕のような何かが振るうにしてはーー早い。だが、その寸前で操は身を横に飛ばした。踏み込み、前に来るだろうと思い振り下ろされた鉄球は地面を叩き、爆砕の音に、ふ、と落ちた操の息だけが混じる。
「苦痛なき死は、救済からは程遠いだろう」
 砂塵舞う中、身を振った先から操は貫手による一撃を叩き込んだ。
「イ、ァア……ッ」
 ざ、と肉を割く音と緩い感触が手に返り、黄昏の信徒の体がびくりと震えた。深く、穿った手を抜き払えば、ぶん、と音が先に耳に届く。崩れ落ちた使徒を引きずり上げて盾に使えば、派手な破砕音が響いた。
「あれハ」
「あれではいけなイ。黄昏の救済ニハ」
 至れないとざわめいた黄昏の信徒が、ぶるり、と身を震わせーー。
「イ、ァアアアアア……!」
 声を、響かせた。
 キィイン、と高く歌う様に響くのは邪神の寵愛による歌声か。た、と地面を蹴ると高速移動と共に信徒は甲高い悲鳴を操へと叩きつける。
「ーー」
 空が震え、舞い上がった土が一瞬にして消す飛ぶ。使徒の悲鳴に操の白い肌が裂けた。
「狐狗狸さん、狐狗狸さん、どうぞおいでください」
 だが、声は落ちる。ひどく静かに。盾にした使徒を離し、操はゆらり、と地をーー蹴った。
「止めロ」
「止めるべきダ」
「アレでは黄昏の救済ヲ」
 ざわざわと声を響かせる使徒たちを前に、少年の声が落ちた。
「君たちに救済なんて無理じゃない? ……僕だって、忘れさせてほしい気持ちがあるけど……」
 それは、ほんの僅か揺らぎを残す声であった。揺れる声に、黄昏の使徒たちの視線がヴェル・ラルフ(茜に染まる・f05027)を向く。操の周囲から少し離れた団体がーーそのまま、彼女へと向かおうとしていた数体がヴェルを見ていた。
「ならバ、ナラバ黄昏の救済ヲ」
「救済に至レ」
「苦痛の先ニコソ」
 重なり響いた声と共に黄昏の使徒たちが集まってくる。薄汚れた頭巾と共に僅かに感じた腐臭は足元、触れる靄からかそれとも頭巾の奥からなのか。ヴェルを囲うようにやってきた使徒たちが一斉にモーニングスターを振り上げた。
「ーーっと」
 さすがに、数が多かったか。かけた言葉では見事挑発に成功しはしたが、全てを避けるのは難しいか。それとも、素早い踏み込みが無ければあの場でヴェルは潰されていた。だん、と叩きつけられる鉄球。舞い上がる砂塵より早く、残像を残して地をーー蹴る。
「救済ニ」
「救済ニ至……?」
 振る鉄球が残像を砕く。そう、それが残像であると気がついた時にはもう遅い。
「染まる緋、灰と化せ」
 熱が、生まれた。それは地獄の炎。
 足元から勢いよく蹴り上げれば、爆風が生じた。黄昏の使徒を灰と化す為の黒き煉獄の炎だ。
「イ、ァアア……!?」
「キィイイァアア……!」
 爆風に、黄昏の使徒が身を捩る。熱の中、消失した群の向こう、薄汚れた頭巾がーー来る。高速移動と共に、仮面の向こうから甲高い悲鳴が放たれた。
「キィイイイッァアアア……!」
 金属を引っ掻くかのような、甲高い悲鳴に意識が一瞬持ってゆかれる。だが、踏み込んできた一体を前に、少しばかり強引にヴェルは身を引いた。半身、逸らしただけではあったがーーその早業が無ければ続く鉄球は届いていた。
「挑発した分、だいぶ来てくれているみたいだし」
 うまく集まったのは事実。あの声によるダメージもゼロとは言えないが、まだ、体は動く。それに、声を上げた後だが敵の動きに鈍りが見える。
「多少、立っておくべきだけどーー行けるよ」
 動きの鈍い数体を他の猟兵たちにも告げて、ヴェルは息を吸う。手の甲、滑り落ちた血を今は置いて、拳を握る。足元、影はほんの淡く落ちていた。陽の光があまりに遠い。
「……黄昏って、人の心を惑わすなにかがあるのかな。僕は好きだけどね。曇ってしまって残念」
 落とす息ひとつ、ざわめく使徒たちに氷のごとき冷たさを向けヴェルは身を飛ばした。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

カーティス・コールリッジ
Stingrayは入り口でお留守番
大きすぎて入れないもの!

だから
だから、これは
正真正銘、おれの『ひとりきりの初陣』になる

"I call frontline."

バトル・インテリジェンスで能力値を底上げした後クイックドロウを主軸に攻撃
体力の低い個体、負傷度の高い個体を優先して狙い各個撃破を目指す
出来るだけ足を穿ち、相手の手数を減らせるようにゴーグルの精度を高め乍ら

無機質な仮面の虚ろな目と目が合った
嘗てひとだったもの
背筋を奔る痺れ
それは、今までに得たことのない

これが、……これが、『こわい』ということ?

ううん、だめだ
だいじょうぶ
おれはちゃんと、引き金をひける

――おれはそのために、うまれてきたんだから!


鮫島・冴香
■心境
子供を、守ってみせるわ。
双子の家族も、行方不明な子供の家族も
皆苦しんでいると思う
私は何も守れなかったから…
同じ想いはさせたくないの(夫とお腹の子を亡くしている)

■戦闘
熱線銃にて遠距離から攻撃を。
心を無にし、真剣な眼差しで敵を的の如く見定め
的確に銃を打ち込んで行く

もし敵に近づかれ&敵に攻撃されたら【第六感】を使用し
回避を試みる
「近づかないで」
UC【サイコキネシス】を使用し衝撃波と共に吹き飛ばし
即座に熱線銃で攻撃を【零距離射撃】

他の猟兵がいれば
「後ろは任せて」
連携を重視し、遠距離から射撃
また【サイコキネシス】で敵の動きを止めるために力を使う
「速やかに進みましょう」

※アドリブ、絡み大歓迎!



 愛機Stingrayは敷地の入り口に置いてきた。流石に大きすぎて入れないから留守番だ。だからそう、これは正真正銘カーティス・コールリッジ(CC・f00455)の『ひとりきりの初陣』だ。
「"I call frontline.」
 コードの発現により、カーティスの能力値が上がる。手にした銃と共に怪音が響く戦場へと飛び込んだ。上がる砂埃を一瞬で散らすのは先の爆風か。迷うことなく熱線銃を向ける。狙うのは体力の低い個体だ。負傷度の高い黄昏の使徒を狙い、打ち込めば薄汚れた頭巾に黒が滲む。ぐん、と黄昏の使徒の仮面がカーティスに向いた。じゃらりと、黒い手の様な何かが鉄球を持ち上げる。ぶん、と振るわれるそれよりも早く、少年は撃鉄をひいた。
「これで……!」
 狙うは、足。迷うことなく、黄昏の使徒の足を狙い打てば異形は踏鞴を踏む。身を倒すには後少し、足らないか。だが相手の動きは僅か、鈍った。このまま、と銃口を構えたカーティスの前、異形の頭巾がーー棚引いた。
「迎エ」
「黄昏への導きヲ」
 キィイイン、と甲高い悲鳴と共に、使徒の一体がカーティスへと向かいーー来る。銃撃で焼けた足は曲がったまま、タールめいた黒の腕で補強して来るのは敵の動きを潰し切るには不受分であったからか。だが、実際に減らされた手数を黄昏の使徒は認識している。苦痛を与えるための術を減らされたと。
「ーー」
 避けないと、とそう思うのに無機質な仮面の虚ろな目と目が合った。ひゅ、と落ちる息も無いまま茶色の瞳が見開かれる。
「救済ヲ」
「黄昏の救済ヲ」
 嘗てひとだったもの。ひとの足をしたそれ。頭巾に滲む黒い色。背筋を奔る痺れーーそれは、今までに得たことのない。
「これが、……これが、『こわい』ということ?」
 思わず、そんな声が出た。甲高く響く悲鳴に、銃口を構えた腕から血がし吹く。一瞬、ほんの一瞬反応が遅れた。反応は一瞬であるべきだと、射手である少年は分かっていたのに。
「……ッ」
 だが、振り下ろされる筈の鉄球は銃を構えた少年に届くより前にーー止まった。影が落ちる。一瞬。戸惑った使徒が声を零す。何故、と落ちた声に、埃めいた頭巾に少年は息を吸う。
「ううん、だめだ」
 言葉は自分に。止まった鉄球を見据え、その一瞬にーー永遠では無い時に少年は確かに応える。
「だいじょうぶ。おれはちゃんと、引き金をひける」
 息を吸う。震えた指先はこれで終わり。ゼロ距離で少年は熱線銃を黄昏の使徒へと向けた。
「――おれはそのために、うまれてきたんだから!」
 キュイン、と熱線が眼前の相手へと打ち出された。ぐらり、揺れた黄昏の使徒の仮面が砕ける。甲高い声を上げながら崩れ落ちた敵に息を吸い、た、と少年は間合いをとって背後へと声をかけた。
「ありがとう」
「いいえ。後ろは任せて」
 告げて、鮫島・冴香(Sexy Sniper・f13873)は息を吸った。この一撃、援護をした冴香に黄昏の使徒たちは気がついた。遠距離からの狙撃で敵の数を減らしてはいたが、流石にこれ以上は気付かれずに狙撃するのは難しい。
(「ーーけれど……」)
 前で戦っていたのは同じ猟兵。援護攻撃にシフトしない理由はない。それにあの8歳の少年を見た時、ふと思い出したのは敷地の外にあった行方不明の子供を探すポスター。それとーー冴香の失った子供と、夫のことだった。
(「子供を、守ってみせるわ」)
 双子の家族も、行方不明な子供の家族も皆苦しんでいると思う。
(「私は何も守れなかったから……同じ想いはさせたくないの」)
 今はまだ、子供達は行方不明なだけだ。助けられる。手が届く。永遠に失いはーーまだ、しない。
「全ては全ては黄昏の救済のタメ」
「至レ。救済に至レ」
「疾ク、疾く救済ニ……」
 その苦痛にこソ、と黄昏の使徒が吠えた。歪み響いた声と共に甲高い音がーー来る。その音波に、冴香は身を横に飛ばした。飛ぶように、勘で避けた先、地面を滑る体を指で止めて顔を上げた。
「近づかないで」
 放つ、声と共に向けた視線がまっすぐに黄昏の使徒を捉えていた。次の瞬間、頭巾の異形が浮く。見えないサイキックエナジーは高い精度を以って使徒を撃ったのだ。吹き飛んだ敵に、ぶらりと浮いた足の色彩に冴香は小さく息を飲む。休職中とはいえ刑事。その色には覚えがある。あれはーー……。
(「死者の色」)
 即座の向けた銃口は心の臓へと向けて。そこに、何もないことを感じながら冴香は葬送の一撃を放った。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ユノ・フィリーゼ
魂を分け合った双子
…思い合う心も、絆も
きっと何一つ変わってなんかいなかっただろうにね…

救済の形は人それぞれ
けれど"これ"を救済なんて絶対に認めないわ
分かち合う時間すら与えぬ侭、
彼等の未来を奪った偽りの黄昏に、終焉を
―これ以上、思い出の地を穢させたりしない

周囲の状況を予め確認
利用出来そうなモノや地形があれば有効的に活用
他の猟兵達がいれば協力して行動を

見切りや残像・衝撃波を利用しながら攻撃と回避に
響く信徒の声は胸に痛みを残すけど、
強く確りと前を見据え
盟約の歌を奏で鋼鳥の戯れを嗾ける

奇遇ね。私達も貴方達に救いをもたらしにきたの
…死は、救済と言うのでしょう?
私のお友達が黄昏へと導いてくれるわ…きっとね


クロード・ロラン
双子はどこで間違えたのかな
仲良く育ったなら、話し合えばわかり合えることもあっただろうに
救えないのは悔しい、俺の力は、人を救うためにあるのに
でも、まだ救える命があるなら……それは全力で助けにいくぜ!

声による攻撃は厄介だ、俺は耳がいい分塞いだ程度じゃ意味なさそうだし
信徒達に遭遇したら、早々に接近、先手を打って【咎力封じ】で攻撃の阻害を狙おう
猿轡で声を封じれれば僥倖、
そうでなければダメージ堪えて大鋏で喉を掻き切ってやる!
うるせえんだよ、お前らのソレは救済なんかじゃねぇ!
ここにやってきた時、子供達は家族と一緒で楽しかったに違いねぇ
それを攫って、家族と引き離して、その先にあるのが幸せのわけねぇだろ!


空廼・柩
黄昏の信徒、ねぇ
そうなると此処に居る奴等も――否、止めよう
こっちまで虚しくて死にたくなる前に終らせるぞ

眼鏡を外し、棺型の拷問具を構え
使用するのは【咎力封じ】
叶うならば複数を拘束し、火力抑制を試みる
業自体を制限出来たならば嬉しい限りだけれど贅沢は言わない
…ただでさえ五月蝿いんだ
公共の場では口をチャックされるのは当然だろう?

流石に悲鳴を防御するのは難しいだろうけれど
他猟兵へのモーニングスターの一撃は得物で庇う事も出来ると思うから
激痛には耐性もあるし何が何でも耐える
勿論、ただ防御するだけ終る訳がないだろう?
お返しとばかりにカウンターもお見舞いしてあげるよ

…救済なんて馬鹿げた事はやめて
もう眠ってしまえ



「黄昏の信徒、ねぇ」
 おぉおおおお、と獣の唸るような声が響く。足元、青白い靄を散らすように立ち回る猟兵たちを追うように黄昏の信徒たちが動く。高速移動による接近は、人のそれとも獣のそれとも違うーーだが、研究員である空廼・柩(からのひつぎ・f00796)からすれば幾分か見慣れたものだった。
 あれは、最早人でなく。だが、その事実はひとつの解を導き出す。
「そうなると此処に居る奴等も――否、止めよう
こっちまで虚しくて死にたくなる前に終らせるぞ」
 は、と息を落とす。野暮ったい眼鏡を外し、棺型の拷問具を構えれば、じゃらりと鎖が軋む。背に立てた棺の音に、柩の言葉にえぇ、とユノ・フィリーゼ(碧霄・f01409)は頷いた。
 黄昏の信徒。
 肉体と精神の苦痛を受けて死亡した信者や生贄に、儀式を経た布を被せる事で眷属化し生まれ変わらせると言うもの。
 細い足は戦場を素早く移動し、タールような黒い腕に似た何かはモーニングスターを振り回す。薄汚れた布の下ーー足首まである布の下から、手のような形で伸びるのだ。
「救済ヲ」
「黄昏の救済のタメ」
「救済ヲ受け入れロ。苦痛ヲ」
 今、ここに。と歌うように告げた黄昏の信徒たちがぶん、と鉄球を振り回した。なぎ払うように動く中、同じ信徒にぶつかろうが気にしないのか。
「魂を分け合った双子。……思い合う心も、絆も
きっと何一つ変わってなんかいなかっただろうにね……」
 救済の形は人それぞれ。けれど"これ"を救済なんて絶対に認めないわ。
 モーニングスターに残る古い血を、頭巾に残る跳ね返った色彩から目を逸らすことなくユノは告げた。
「分かち合う時間すら与えぬ侭、彼等の未来を奪った偽りの黄昏に、終焉を」
 ほっそりとした指先が剣の柄に触れる。竪琴に指をかけ、風に乗せて奏で歌う。
「―これ以上、思い出の地を穢させたりしない」
 終わりを、告げる為に。
「終焉ヲ、全てハ黄昏のタメ」
「黄昏の救済ヲ」
 黄昏の信徒たちが群れをなして来る。接近は飛ぶように、だが足音が遠い。靄が消したか、それともあの移動は二本の足など信じぬ方が良いのか。ぐん、と跳ねるように顔を上げ、振り上げられた鉄球にユノは足をひく。
「ーー」
 ほんの僅か、引く体が遅かったか。だが、続く真横の一体からの鉄球を見切ると、じく、と痛む足を無視してユノは前を見据えた。
「奇遇ね。私達も貴方達に救いをもたらしにきたの」
 奏でるは盟約の歌。異形の群れが吠える戦場に呼び出されたのは鋼鳥の群れ。日差しの届かぬ戦場に、鈍色の翼が光を零す。
「……死は、救済と言うのでしょう? 私のお友達が黄昏へと導いてくれるわ……きっとね」
 遊んで、おいで? とユノは告げる。その声音に、旋律に踊るように鋼鳥の群れが黄昏の信徒へと飛び込んだ。汚れた布を引き裂き、仮面を砕き切れば、傾ぐ一体の後ろから甲高い悲鳴が響き渡る。
「ーーいいえ」
 凡そ、耳にしたこともないその声は、胸に痛みを残すけれど。だが、少女は息を吸う。迫る敵がモーニングスターを振るう。一撃を振るう為ではない、あれはーー。
「防御の為」
 鋼鳥の群れを避けるようにして、高速に移動して来る敵にユノは銀の剣を立てる。真っ直ぐに敵を見据えればじゃらりと、視界を拘束具が踊った。
「……ただでさえ五月蝿いんだ。公共の場では口をチャックされるのは当然だろう?」
 柩だ。
 棺型の拷問具からこぼれのは拘束のロープ。数体、一気に拘束しきれば、転んだ拍子に一体が崩れ落ちる。
「救済ヲ」
「黄昏の救済ヲ」
 そこに寄るのは、倒れた頭巾を引きずろうとするのは彼らの言う救済の為か。戦場を満たす靄が、血の匂いを鈍くする。土に残っていた色さえ遠くする。
「ァアアアア……!」
 甲高い悲鳴が、柩の腕を割いた。滲む血より先に、熱を感じる。だが、痛みへの耐性はある。は、と息だけを吐いて飛び込んでくる信徒を見据えた。
「双子はどこで間違えたのかな」
 青白く、冷えた空気の中、人狼は行く。す、と短く吸った息ひとつ、飛び込んだ戦場からはもう遊園地は見えて来ない。
(「仲良く育ったなら、話し合えばわかり合えることもあっただろうに」)
 救えないのは悔しい、とクロード・ロラン(人狼の咎人殺し・f00390)は思う。
「俺の力は、人を救うためにあるのに」
 ぽつり、と落とした言葉。鼻先は血と鉄の匂いを拾い上げる。
「でも、まだ救える命があるなら……それは全力で助けにいくぜ!」
 行方不明の子供たち。彼らはまだ、救える可能性があるのだから。だからこそクロードは前にーー行く。接近に気がついた信徒がこちらを向くがーーだが、クロードの方が早い。一歩、足裏で地を捉えて、振るう鉄球より上に行く。
「救済ヲ。今こそ黄昏ノ……」
「こいつで……!」
 ひゅん、と放たれた拘束具が信徒の仮面を覆った。猿轡に放つ声を封じられ、続く筈の救済の言葉が濁る。
「救済ヲ、キュウ、サ……」
「うるせえんだよ、お前らのソレは救済なんかじゃねぇ! ここにやってきた時、子供達は家族と一緒で楽しかったに違いねぇ」
 それを、とクロードは言う。ふるふると毛が逆立つ。
「それを攫って、家族と引き離して、その先にあるのが幸せのわけねぇだろ!」
 きつく握る拳に、拘束されていた信徒がぐん、と身を持ち上げた。甲高い悲鳴の代わりに、高速移動で一気にぶつかるように来るつもりか。避けるには距離が近すぎるか。なら、と地面を蹴る。飛ぶように避けた先、追うように来たモーニングスターは、だが、分厚い棺に阻まれた。
「行けるだろう」
 ガウン、と重い音が響く。一瞬、火花が散る。一撃を受け止めた柩の短な言葉に、クロードは頷いてーー飛ぶ。人狼の跳躍。仰ぎ見た信徒たちをユノの鋼鳥が射抜く。その光を目の端に、柩は腕を引いた。返す一撃の為。滑り落ちた鉄球が青白い足のすぐそばに落ちる。
「……」
 そこに見えたのは、ほんの僅か残った個性か。赤いペディキュア。双子のそれでは無いだろう。他の誰かのーー何処かでこうなってしまった誰かの、人だった頃の証。
「……救済なんて馬鹿げた事はやめて。もう眠ってしまえ」
 その証に、終わりを告げるように一撃を叩き込んだ。
 なぜ全て、ここにいるものは同じ背丈なのか。
偶然か。それとも『そうやって』作り変えたのか。苦痛の果てに。黄昏を迎え救済の時を迎える為に。
「何故ダ」
「何故拒ム。黄昏の救済ヲ」
 空を揺らし、冷えた空気の中、黄昏の信徒達は戸惑いに似た声を零す。甲高い悲鳴は、猿轡に封じられた。動きを阻む拘束具に、飛び込む勢いを殺されればその動きも鈍る。絶対では無い。永遠でもなくーーだが、それだけの時間があれば猟兵達には十分だ。踊る鋼鳥たちが頭巾を引き裂き、黒い粉を零しながら黄昏の信徒達がその数を減らしていく。
「救済ヲ、黄昏の救済コソ」
「苦痛の先ニコソ……!」
 黄昏の救済があるというのに!
 対する信徒達の声だけが、戸惑いと淀みに満ちた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

雨糸・咲
綾さん(f01786)と

黒く濡れた跡――
凄惨な何かが行われたこと、だけでなく
その行為を自ら受け入れた人がいたということ
それがとても悲しくて悔しい

やりきれなさに言葉を失うけれど
隣に立つ綾さんの端然とした姿に気付いて

…駄目ですね
落ち着かないと

虚ろな姿は、見ていて辛い
彼等は救いを信じて苦痛に身を投じた人々…?
どうして、そんな不確かなものが信じられて
共に日々を過ごしたひとの心が信じられないの?
そんなもの…救済なんて、言わないで

綾さんと協力し
死角をカバーしつつ戦います

聞き耳と第六感で攻撃を回避
鉄球を振り上げる前に武器落としを

真白の杖、雪霞を白菊の花弁に変え
…どうか、あの人達を在るべき場所へ

※アドリブ歓迎


都槻・綾
f01982/咲さん

異形達を眺め渡し、全体の数を把握
此れ程の命が失われたのだと
悼む祈りは胸の裡に留めて

何を以て救済とするかは人其々とは言え
私なら――
苦しいのも痛いのも、嫌ですねぇ

視線は信徒から逸らさぬまま
傍らの少女へ
常と変わらぬ穏やかな声を向ける

ゆるり掲げし護符が合図

咲さんと死角を補い合い
第六感を研ぎ澄ませて見切り回避
オーラで自他防御
先制攻撃、範囲攻撃、二回攻撃を駆使し
極力長引かぬ終戦を目指す

死した後も斯様に苦痛なまま
貴方がたにとって「救済」は為されたのでしょうか
其れとも至る先は永遠の辛苦か

届かぬ想い、響かぬ声の代わりに手向ける金盞花の花筐
白菊に清められ黄昏色の航路を逝き
彼方の海へと還りなさい



 足首に触れる靄が少しずつ、薄くなってきていた。冷えた空気はそのままに、露わになった地面に黒く濡れた跡が雨糸・咲(希旻・f01982)の目に届く。その色彩に、周囲の土を濡らす黒がざかざかと動き回る信徒たちに散らされる。滲む程は新しくは無いのか。ほんの僅か、同じ色の染まった土がさえ消えていく。
「……っ」
 小さく、咲は息を詰める。
 黒く濡れた跡――凄惨な何かが行われたこと、だけでなくその行為を自ら受け入れた人がいたということ。それがとても悲しくて悔しい。
「何を以て救済とするかは人其々とは言え。私なら――苦しいのも痛いのも、嫌ですねぇ」
「ーー……」
 乱れかけた心に、都槻・綾(夜宵の森・f01786)の声が届いた。やり切れなさに言葉を失っていた咲の瞳に、隣に立つ綾の端然とした姿が映る。
「……駄目ですね。落ち着かないと」
 落とす言葉に、笑う声など無いままに。だが、代わりに信徒達の声がした。ざわめきは足を止めていたこちらにか。薄汚れた布を揺らし、歪んだ声が救済を紡ぐ。
「救済ヲ」
「全ては黄昏の救済のタメ」
「疾く、疾ク、疾ク。苦痛の先ニ……!」
 歪み、淀んだその声に仮面の奥に見える闇に咲は唇を引き結ぶ。
「彼等は救いを信じて苦痛に身を投じた人々……? どうして、そんな不確かなものが信じられて共に日々を過ごしたひとの心が信じられないの?」
 救済を、と彼らは言う。その言葉と共に重い鉄球を引きずり、ざり、ざりと地面を引っ掻きながら。その救済を齎したという『もの』についている色の意味を分からない訳では無い。
「そんなもの……救済なんて、言わないで」
 顔を上げる。胡桃色の静かな瞳は真っ直ぐに相手をーー虚ろな姿を見据えた。薄汚れた仮面が小さく震え、カタと音を零す。否、と声が滲む。ぶわり、と黄昏の信徒の殺気が膨れ上がった。
「咲さん」
 来る、と思う瞬間、常と変わらぬ穏やかな声がした。ゆるり、掲げられた護符が合図となる。ひゅん、と風を打つ音と共に鉄球が来た。なぎ払う一撃に咲は地面を蹴る。着地から、頬に感じた風に身を動かずにいたのは舞う綾の護符を見ていたからだ。迫る一打は符の衝撃に阻まれ、爆炎と共に体が浮けば一撃がずれる。
 ダン、と地面を叩く衝撃に、舞い上がった砂にあの色を見を、咲は今は見送る。振るう杖で踊らせる冷気が、綾を狙う黒い腕をーー払う。
「……」
 背に、肩口に。一瞬感じた冷えた空気は綾に寄り添う氷の精霊のものだろう。高い破砕の音を耳に、身を飛ばす。避ける方向は互いの影に。
軽くう言葉を交わすだけに、ヤドリガミ達は戦場に舞う。互いの死角を補い、交わす一打と共に綾は信徒達の数を確認した。あと、十数体、と言ったところか。数はまだあちらが上だがーーだが、随分とその数を減らしてはいる。靄が薄くなってきているのはその所為だろう。冷えた空気と戯れ、邪神の加護を宿す信徒たちは黄昏の救済、と口にする。
 その言葉の先、結末がこれということなのか。
 此れ程の命が失われたのだと悼む祈りは胸の裡に留め、狙うは極力長引かぬ終戦。
「死した後も斯様に苦痛なまま。貴方がたにとって「救済」は為されたのでしょうか」
 其れとも至る先は永遠の辛苦か。
 腕に、足に、散らし切れなかった一撃が残る。痛みと、これを言うのだろう。傷を受ければ、救済を告げる声は重なり響く。それこそが永遠に至るのだと、それだけが唯一の救いに至るのだというように。
「救済ヲ。苦痛の先にこそ、今」
「救済に至レ」
 今コソ、と告げる信徒がタールめいた腕を振り上げる。ぶん、と振り上がった鉄球はーーだが、弧を描くより先に落ちた。
「……」
 払う一撃は咲が。関節部を撃つように、武器を持つ黒い腕の方を払ったのだ。ガシャン、と派手な音をたててモーニングスターが地面に落ちる。鉄と血の匂いに息を吸う。
「……どうか、あの人達を在るべき場所へ」
 清めの花の香、と咲は呼ぶ。白菊の花を。真白の杖、雪霞を白菊の花弁に変えてーー届ける。
「黄昏の救済、ヲキュウサ……!?」
 届かぬ想い、響かぬ声の代わりに手向ける金盞花の花筐。舞う白菊の中、ぐらり、と信徒が崩れ落ちる。どさり、と重く響いた音にいち早く反応した信徒が布を引きずる。どこから出してきたのか分かりはしない。だがやろうとしていることだけは分かる。
「黄昏の救済ヲ」
 引き戻す気か。ーーだが、花の旅路は一人のものでは無い。
「いつか見た――未だ見ぬ花景の柩に眠れ」
「!?」
 綾の手にした符が花びらへと変わる。
「白菊に清められ黄昏色の航路を逝き、彼方の海へと還りなさい」
 それは花の葬送。送りの力。二人の紡ぐ送りの道行きに、ぐらりと信徒達が崩れ落ちる。膝を折りーーだが地に落ちるその間に、ざらりとした黒い砂に変わる。あの甲高い悲鳴もないままに、最後、落ちた仮面に、一筋、黒い何かが伝った。まるで、涙のように。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

榎木・葵桜
双子のお兄さんは、妹さんの事、兄妹の想いをこえて大好きだったんだと、思うな
勿論、どこまでも私の想像だけど

悲しいし、悔しい
『黄昏秘密倶楽部』や邪神さえいなかったら
この悲劇は起こらなかったと思うから

でも、まだ助けられるかもしれない子達が居るなら
嘆いてる暇なんてない
今できる事を、頑張るのみ!


【サモニング・ガイスト】で田中さん(霊)を召喚
田中さんには防御中心に、特にモーニングスターの一撃を出来る限り食い止めてもらうね
私は田中さんと背中合わせで、桜舞花での【衝撃波】で攻撃していくよ
万一攻撃くらっても【激痛耐性】で踏ん張るよ
攻撃は【戦闘知識】【第六感】で敵の動きを【情報収集】して、積極的に隙を狙っていくよ



 靄が薄くなる。蠢く頭巾達の姿がひどくよく見えた。揺れる布の向こう、見えてきたのが教会へと続く道だろう。
「救済ヲ」
「疾く疾く。黄昏の救済のタメ」
 その道を塞ぐように、信徒達が動いていた。振るう鉄球が地面を揺らす。衝撃が榎木・葵桜(桜舞・f06218)の足裏にまで伝わっていた。痛みは無い。その打撃の重さだけが伝わってくる。これを、受けたというひとのことも。
「双子のお兄さんは、妹さんの事、兄妹の想いをこえて大好きだったんだと、思うな」
 勿論、どこまでも私の想像だけど。
 呟いて葵桜は唇を引き結ぶ。答えを、きっとたった一つの答えを持っていたのは双子の兄だけだ。最後の最後、抱き寄せた理由も何もかも彼らが壊してしまった。
(「悲しいし、悔しい」)
 『黄昏秘密倶楽部』や邪神さえいなかったら、この悲劇は起こらなかったと思うから。
 双子の妹があそこまで思いつめることにはならなかった筈だ。
「でも」
 ひゅ、と葵桜は息を吸う。この先、辿り着ければまだ助けられるかもしれない子達が居るなら、嘆いてる暇なんてない。
「今できる事を、頑張るのみ!」
 救済を、と告げる信徒を前に、葵桜は声をーー上げた。
「田中さん」
 それは古代の戦士。
 葵桜により名を受けた田中は、少女よりも前に出た。一歩だけの前。その理由はただひとつ。
「ーー」
 ガウン、と落ちた一撃。モーニングスターを田中が受け止めたからだ。食い止めた一撃に、黄昏の信徒が声を零す。
「救済ヲ拒ムコトナド」
 低く、低く。呻くようなそれに葵桜は舞扇子を翻す。風を纏い、ひとさし舞うように空を撫でれば衝撃波が信徒を撃った。
「黄昏の救済コソ、救済コソ、ガ」
 ぐらり、身を揺らす。先に動きが鈍ったのはあの細い足ではなくモーニングスターを持つ手の方だ。あっちが本体ということだろうか。
(「それに……、大分弱くなってきてる?」)
 猟兵達の攻撃もあるだろう。だが、あの甲高い悲鳴は強力な超音波である以上に黄昏の信徒達の何かを削っているようだった。
「うん。このままいけば……」
 終わりを、告げられる。と少女は告げた。

成功 🔵​🔵​🔴​

八上・玖寂
如何に美しい夕焼けも、永遠に続きはしないもの。
その幼い願い事が愚かだったのかそうでないのかは、人生経験不足ゆえ僕には分かりませんが。
請け負った仕事はきちんとこなしましょう。

鋼糸に『万天を断つ無明の星』を使用後、『朽ちる憧憬に灰を撒け』で不可視の糸を張り巡らせ。
身動きも取れないまま死になさい。もう一度。
【2回攻撃】【暗殺】【罠使い】あたりを意識しつつ。

向こうの攻撃は【見切り】出来るよう挙動には気をつけて。
声を上げそうな個体を見つけられれば、糸で首絞めを試みるなど。

死は救済か?永遠は救済か?
……僕は、最期くらいは柔らかい布団の中で安らかに眠りたいんですが。
そうでないなら、願い下げですね。


閂・綮
◾️アドリブ歓迎

(信者や生贄を依代として産まれたものであるならば。その布の下に“ある”ものは、)
(…否。今更な、ことだ。)

好きなだけ悲鳴を上げろ。
それがお前達の、苦痛を知らしめる唯一の手段であるならば。余す事なく聞き届け一一
そして、潰えさせてみせよう。

此方にも譲れぬものがある故。
その武器は 一一 我がからくり「花翼」にて、叩き落させてもらおう。
その、脚も。
動きを追えぬなら、待つのみ。金糸の網にお前達がかかる瞬間を。

万が一、依頼同行者に「気絶」した者が居たならば。【産まれながらの光】で回復、また「かばう」、「救助活動」、「オーラ防御」を用いて支援にあたる。


ジナ・ラクスパー
皆様と油断なく連携を
子どもたちはきっとご家族のもとへお返しいたします

何の心も感情も感じられない敵の姿には背筋が冷え
でも目は逸らさず、侮られないように
星の一撃も救済の歌声も水弾と雨で押し返す
仲間と標的を合わせ確実に数を減らしながら
万一無防備に狙われる仲間があったなら、庇いに
誰の心も傀儡の糸には掛けさせません

…ふたり命を失った先の永遠が救いだと、思いつめた妹さん
互いを想って、傷つけまいとして…擦れ違って
でも生きてさえいたら
互いの思いを知る『いつか』は
たとえ胸が痛んでも、実りがなくても、本当の救いになり得た
…生きてさえ、いたら

やりきれなさは攻撃に込めて
死の先にとこしえを掲げるのなら、それは貴方がたに



 空の向こうが赤々と染まる。靄がゆっくりと、削られてゆけば空の色彩が帰ってくる。熱だけが遠かった。青白い靄に、冷えた空気だけは変わらず足先を冬に誘う。
「救済ヲ」
「全テは黄昏の救済のタメ」
「全テ、全テ苦痛の先ニ」
 黄昏の信徒達の声が響き、靄が蠢く。誘うように声は響きーーだが、じゃらりと重い鎖を振り上げ、鉄球を落とす。地面を揺らす衝撃に、地を蹴り、舞い上がれば追うように信徒の黒い腕が伸びた。捕まえるには足りず、だが叩き落とすためのモーニングスターが曲線を描く。蹴り上げて身を飛ばす猟兵が無事に着地したのを視界に、ジナ・ラクスパー(空色・f13458)は息を吸った。
 何の心も感情も感じられない敵の姿には背筋が冷えた。それでも、少女は目を背けない。金の瞳は知らぬふりをすることだけは選ばなかった。
「子どもたちはきっとご家族のもとへお返しいたします」
 言って、踏み込む。地を蹴り、ぐん、と前に出たのは振るう鉄球の軌道を見たからだ。落ちる一撃より前に、信徒の間合いへと飛び込む。真横から来る鉄球には手を向けた。ほっそりとした少女の手に信徒が笑うような音を零す。
「苦痛コソ……!?」
 だが、一撃は青き水に阻まれる。ジナの手の中、鉱石の花は杖へとその姿を変えていた。キュイン、と集束した力が水弾を受けた信徒のに青い花の雨を降らせる。降り注ぐ青にジナに視線を向けていた信徒がぐらり、身を揺らす。意識が揺らいだのか、鉄球は派手な軌道を描いて外れた。
「叶わヌ」
「あれハ救済に至ル為」
「黄昏の救済の為」
 苦痛こそ、と残る黄昏の信徒達が告げる。ざ、ざと、風に揺れるかのように距離をとり、だがその黒い腕で重い鉄球を振り回し。
「苦痛の先ニコソ」
「常しエニ至レルダロウ」
「ーー」
 それは、きっと彼女の耳にも届けられた言葉だったのだろう。双子の妹。この地に猟兵達が辿り着けた理由。
(「……ふたり命を失った先の永遠が救いだと、思いつめた妹さん。互いを想って、傷つけまいとして……擦れ違って」)
 でも生きてさえいたら、とジナは思う。そう生きてさえいたら、と。互いの思いを知る『いつか』はたとえ胸が痛んでも、実りがなくても、本当の救いになり得た。
「……生きてさえ、いたら」
 薄く開いた唇から声が落ちる。森の木々を揺らすように、救済を告げる声が重なり響く。
「苦痛の先ニコソ」
「死の先にとこしえを掲げるのなら」
 迫る一撃を水弾で弾き上げる。浮いた体に、その胴へ穿ち届けるためにジナは杖を掲げた。
「それは貴方がたに」
 青の雨が、信徒を濡らす。意識を奪い、崩れ落ちれば先の一撃で割れた地面が揺れた。破砕の一撃を躱しーーだが、傷一つない訳でもなく。痛みに足を止めることを選ばずに向かう少女を視界に、閂・綮(マヨヒガ・f04541)は息を吸う。癒しの術は幾分か覚えがある。生者であれば届くだろう。だがーー。
(「信者や生贄を依代として産まれたものであるならば。その布の下に“ある”ものは、」)
 あの青白い足は。その意味などーー……。
(「……否。今更な、ことだ」)
 考えずとも分かった。だが、そう、今更のことだ。二本の足以外に、そこからあの禍々しい黒い腕が見えている以上。あんなことで救済を告げる以上。
「至レ。至れ。全ては黄昏の救済ニ」
「苦痛コソーー……」
 救済に、と続く筈の言葉は、振り上げた筈の黒い腕が中空にて止まっていた。ギ、と軋む音が響く。
「レハ……!?」
「その武器は 一一 我がからくり「花翼」にて、叩き落させてもらおう」
 綮の目は黄昏の信徒の動きを捉えていたのだ。減った仲間に然程奴らが慌てなかったのは、その手にある布で増やす気でいたからだ。だがそれも捉えてしまえばできない。払う為の鉄球さえ動かない。
 幻想の鳥が踊る。絡め取った鎖がギチ、と音を立てーー欠け落ちる。黒い禍々しい腕が、ブチと音を立てた。
「このような、このようなモノナド」
 ぐらり、と信徒が身を揺らす。鉄球を持ち上げる為の鎖がこれ落ちた。
「ルァ、ァアアア……!」
 それは獣の咆哮か。それとも金属の削り合う音か。絶叫は怒りに濡れ、呼応するように残る信徒たちが叫ぶ。異形の咆哮に、だが綮は静かに告げた。
「好きなだけ悲鳴を上げろ。それがお前達の、苦痛を知らしめる唯一の手段であるならば」
 余す事なく聞き届け一一そして、潰えさせてみせよう。
「認めヌ」
「認められヌ」
「全テ、全ては黄昏の救済のタメに」
 ざわめきと共に響き渡る咆哮は怨嗟に濡れていた。飛び込む信徒の一撃を、ジナが受け止める。
「誰の心も傀儡の糸には掛けさせません」
 重く、落ちた鉄球さえ構えた杖と共に受け止め切ったパラディンに、信徒が陽炎のように身を揺らし距離を取る。
「全て、全ては栄えある黄昏の救済ニ……!?」
 筈だった。だが、信徒の体は道中で止まる。鉄球を受けて荒れた地面の上。踏鞴を踏むことこそ無いが、だが前にも後ろにもいけない。
「コレハ……!?」
 身を振るい、その身に引っかかったものに漸く黄昏の信徒は知る。それが暗器と言われるものであると。そして『其処』が張り巡らされた罠の一角であると。
「如何に美しい夕焼けも、永遠に続きはしないもの」
「……!」
 ぐん、と仮面ごと、信徒の顔がこちらを向く。成る程、と小さく息だけをつき、八上・玖寂(遮光・f00033)は黒の瞳を向けた。
「その幼い願い事が愚かだったのかそうでないのかは、人生経験不足ゆえ僕には分かりませんが。
請け負った仕事はきちんとこなしましょう」
 指先を軽く、ひく。仕掛けた罠の一角、飛び越えようとした信徒を絡め取ればやわい獲物のように崩れ落ちる。
「このようナことデ!? 黄昏の救済ニハ……!」
「身動きも取れないまま死になさい。もう一度」
 叫ぶ声が鋼糸に絡め取られる。残る二体が罠の領域外から吠えた。
「イ、ァアアアア……!」
 身を震わせるのはその身に邪神の寵愛を受けたからか。精神を掻き毟る甲高い悲鳴に、その声に、だが玖寂は眉ひとつ動かしはしない。ただ、向かい来る相手に、鋼糸を放つ。血に濡れた指先を構わず、すぐに振るったのは奥の一体を絡め取る為。
「救済ヲ、今コソ……ッ!?」
 ひゅん、と信徒の首に鋼糸が絡む。締め上げれば異形であれど、声が届くのが遅れる。一拍。だがそれだけあれば猟兵達にとっては十分だ。た、と地を蹴ったジナが綮が行く。邪神の寵愛を受け、その身さえも削り続けていた黄昏の信徒達の動きは最早鈍い。
「救済ヲ」
「ま、こそ、黄昏の救済、ヲ」
 振り下ろす筈の鉄球が、不可視の鋼糸に絡め取られーー割れる。張り巡らせた糸は、玖寂の絶対の空間だ。暗器を複製し、作り上げた空間。
「死は救済か? 永遠は救済か?」
 穏やかな口調のまま、玖寂は静かに告げる。
「……僕は、最期くらいは柔らかい布団の中で安らかに眠りたいんですが」
 指先を引く。キリ、と鋼糸が引き絞られる。
「このような、コ、ノ……!?」
「そうでないなら、願い下げですね」
 捉えた糸が、最後の一体の首を落とした。
 ごとり、とひどく重い音がした。ほんの僅か、他の信徒達とは形の違う仮面が次の瞬間には黒いどろりとした液体となって消える。
「ーーこれで」
 終わりか、と落とした声の先、綮はほんの一瞬、言葉を見失う。息を飲むことだけはしないまま、ヤドリガミたる男は靄の向こうに立つ信徒を見た。目が合えば次の瞬間、ぐらりと崩れ落ちる。だがその足が、二人分に見えたのは幻想かーーそれとも。
「……、あれが入口だろう」
 綮はゆっくりと消えていく靄の向こうを指差す。気がけば冷えた空気も無くなりーー奥へと続く、ぽっかりと開いた穴が猟兵達の前に見えていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​




第2章 ボス戦 『邪悪が宿ったモノ』

POW   :    人質
【一般人】を召喚し、自身を操らせる事で戦闘力が向上する。
SPD   :    幻影か実体か
質問と共に【回答者の見知った幻影】を放ち、命中した対象が真実を言えば解除、それ以外はダメージ。簡単な質問ほど威力上昇。
WIZ   :    六つ目の影
対象のユーベルコードの弱点を指摘し、実際に実証してみせると、【邪神の影】が出現してそれを180秒封じる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は宇冠・由です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●黄昏の礼拝堂
 薄暗い洞窟の中を進んでいく。自然の洞窟とはいえ、遊園地として利用しようとしていた形跡があっちこっちに残っていた。そう、残った侭なのだ。工事道具らしきものはそのままに、まるでーーそう。今さっきまで誰かが作業していたかのような環境がそこには残っていた。工事を続けなくなった理由には何があったのか。幾つか思い浮かぶことはあれど、これだと言う解は得られぬ侭、猟兵たちは小綺麗な案内板の示す先へと向かう。
『黄昏の礼拝堂』
 行き先の文字は幾つかの国の言葉で描かれていた。その横、永遠の道行きへ、と文字が踊る。花の紋様は遊園地の施設として準備を進めていた時の名残か。天井まである、高い扉は薄く開かれたままだった。閉め忘れた訳ではないのだろう。薄く開いたその幅は子供であれば問題なく通れるほどに。一歩、足を近づければ触れることもないままに扉はひとりでに開く。
「やぁ」
「やぁ、お客さんだ」
「新しいお客さんだ」
「お友達はいるかな」
「ともだちはいるかな」
 重なり響く声はどれも無邪気に夕日の差し込む礼拝堂に響いていた。帯のように差し込む黄昏の行く先に、子供たちの姿が見えた。一人は礼拝堂の椅子に腰掛けて、二人は壇上へと向かう階段に腰掛けて。残る子供たちは立ったまま猟兵たちを出迎える。
「黄昏さんはどうしたんだろう」
「黄昏さんはどうしたんだろう」
「お出かけかな」
「かくれんぼかな」
「どうだろう」
「どこだろう?」
 矢継ぎ早にかわされる言葉はどれも無邪気そうに、けれどだからこそ、行方不明になった子供たちが今『正気』ではないのだと猟兵たちにはよく分かる。行方不明となった全員が一角に集められていたのだ。何者かに意識を奪われた形で。
 静謐な空気を讃える筈の礼拝堂は、遊園地の一角に作られた『空間』とはいえ、あまりに異質な空気を帯びていたのだ。
「それナら探さなキャ!」
 それは、不意に姿を見せた。
 壇上の上、分厚い本に腰掛けるようにそれはーー可愛らしいアライグマのぬいぐるみはあった。何時姿を見せたのか分からない侭ーーだが、その声は、奇妙に揺れる声は可愛らしい色を見せたところで何処までも異質であった。
「探さなキャ、友達をもっト!」
 もっと、もっと。とアライグマのぬいぐるみは言う。すちゃ、とぬいぐるみが手を上げれば子供たちは、顔を見合わせて頷いた。
「そうだね探さなきゃ」
「探そう。さがそう。間に合わなかったあの子たちの分も」
「ふたりでひとつも、ひとりでふたつにもなれなかったひとたちの分も」
「あの人たちは子供じゃなかったから」
「こどもじゃなかったからいけないけれど」
「でも大人じゃなかったかわいそうなふたりでひとつ!」
 子供たちは告げる。矢継ぎ早な言葉に、息が足らなくなったのか一人がふらりと倒れる。となりの一人が言葉を引き継ぐ。
 猟兵たちの中に、子供であると思うものがいれば子供たちと、ぬいぐるみと目があっただろう。
 大人であると思うものがいれば、ぬいぐるみの向こう、淀む闇がよく見えただろう。
「みんなで向かうために」
「そうだヨ。みんナで辿り着クためニ。ずっとずっと永遠ニ楽しク、一緒ノためニ」
 さぁ、とあらいぐまのぬいぐるみが言う。ぐん、と勢いよく行方不明となっていた子供たちが一斉に猟兵たちを見た。
「友達を探そウ! モットモット!」
 あらいぐまのぬいぐるみの後ろが歪む。影ではない何かぬいぐるみに宿った邪神が無数の目を動かしーーにぃ、と笑った。
「そレカら邪魔者ハ皆殺シダ!」
カーティス・コールリッジ
自分を囮に人質の解放に尽力
おれはかれらの『なかま』になれる
ぬいぐるみの、子どもたちの注意を惹けるように、朗々と、声高らかに

きみは、みんなに永遠をくれるの?
おしえて
『さいはて』にはなにが待っているの

子どもがひとりでもおれの手を取ったなら
腕に取り付けたサウンドデバイスを出力状態に
Wishで狂気状態からの回復を狙う

ね、みんな
おとうさん、おかあさんがおうちで待ってるよ

永遠に黄昏時じゃいられない
このせかいには……のぼるおひさまがあるのだから

子どもたちが邪神を庇うなら強く手を引こう
邪神が子どもを盾にするなら割り込んで銃身で打ち据える

いまは、おやすみ
だいじょうぶだよ
目が覚めたら、こわいゆめは終わっているから



 笑う声が、響いていた。そうだね、と頷き合い、アライグマのぬいぐるみの言葉に子供達は頷き合う。口の動きは皆皆揃って。歌うように探さなきゃ、と殺さなきゃと繰り返す。
 それは正しく異常であった。
 邪神教団により“異常な光景”へと仕立てられたものだった。信者の姿はそこになく、ただヌイグルミと攫われた子供達の姿だけがある。
「探そう。探そう」
「みんなで向かうために」
「友達をもっと探さなきゃ!」
 無邪気にばかり響く声にカーティス・コールリッジは唇を引き結ぶ。自分はまだ8歳。かれらの『なかま』になれる。自分を囮とするように、カーティスはぬいぐるみと子供達の注意を惹きつけるように朗々と、高らかに声を上げた。
「きみは、みんなに永遠をくれるの?」
 その声に、壇上にいたヌイグルミが動きを止める。こてり、と少し後に首を傾ぐ。
「きみは永遠ニ興味ガあるのかなナ?」
 ほんとに? 本当かな? と子供達がざわつく。子供達の声は、カーティスの言葉に反応しているというよりはーーまだ、あのぬいぐるみの発する言葉を聞いてからの反応に近いのだろうか。瞬きも無いままに、猟兵たちへと視線を向けたまま子供達は繰り返す。
「友達かな」
「ともだちになれるかな」
「永遠って誰にきいたのかな?」
「黄昏さんかな?」
 一人はとん、と椅子を降り、一人は壇上へと続く段を降り、カーティスへと視線を向ける。全員では無いがーー数人の意識は惹きつけられたか。
「おしえて『さいはて』にはなにが待っているの」
「さいはてってなんだろう?」
 カーティスの言葉に、子供の一人が反応する。首を傾げた少年はーーだが、ぬいぐるみへと振り返る。
「みんなデ向かウのハ、常しエニ至ル場所ダヨ」
「常しえだね」
「みんなで行くんだ」
 言葉をなぞるように、子供達が歌う。常しえに、常しえに。重ねて三度響いた言葉と共に、とん、と少年がやってくる。
「みんナで向かうかラ。さァ君モ行こウ」
「ともだちになろう」
 ぬいぐるみの顔に合わせ、にっこりと笑った少年がカーティスに手を差し出す。向こうから握るにはもっと積極的な言葉が必要だったか。でもこの距離ならばその手をーー掴める。
「ね、みんな。おとうさん、おかあさんがおうちで待ってるよ」
 キュイン、と短い音と共にカーティスはサウンドデバイスを入れ、子守唄を響かせる。穏やかに柔く響く旋律に、真っ先に反応を見せたのはーーぬいぐるみの方だ。
「コレハーー……」
 小さく息を呑むような音。ぬいぐるみの周囲の空間が歪む。だが、カーティスは子供達に声を掛ける方を選ぶ。
「永遠に黄昏時じゃいられない。このせかいには……のぼるおひさまがあるのだから」
 子守唄は、子供達に残る小さな傷を癒してはいくがーーその意識を、回復させるには至らないか。
「だいじょうぶだよ」
「だいじょうぶ。みんなで行けば大丈夫だから」
 重ねるように子供達が言う。ひとり、またひとりと囲うように動くのはカーティスの動きを警戒したぬいぐるみの指示か。
「そう。大丈夫ダヨ! 黄昏ノ救済ハ訪れるノダカラ!」
 だからだから、そうダカラ。
 指揮棒を振るうようにぬいぐるみは手を振るって、ぴしり、とカーティスの腕を指差した。
「その機械壊してシマエバ邪魔な音ハ消えてナクナルネ!」
「ーー」
 それは、ただの言葉では無い。力を持った一撃。ひゅ、と外を切る短い音と共に何かがぬいぐるみの背後から打ち出された。ガ、と腕のサウンドデバイスにぶつかる。出力を切るように子供達が手を伸ばしてくる。
「……っデバイスを!」
 完全に破壊はされていない。だが、子守唄が弱まる。敵の攻撃だと、カーティスは顔を上げた。
「うんうん。そうだネ。音ハ消えてシマエルネ。それなラそれナラ」
 しゅたり、と立ち上がったぬいぐるみが両の手を広げてーー言った。
「六つ目の影よキタレ」
「ーー……っく」
 瞬間、子守唄が完全にーー止まった。封じられた、とカーティスは気がつく。唇を引き結びーーだが、この手は目の前の少年を放してはいない。子供達のうち、数人はカーティスが惹きつけている。ぬいぐるみの視線もだ。苦痛と精神の死を救済と告げていた集団と共に何かをしようとしていたぬいぐるみにとって、カーティスの使う回復の術も気を惹くには十分だったのだ。
(「これで、少しだけでも時間は稼げる」)
 肩口に残る痺れは、先の一撃か。血が落ちる感覚がある。ぱた、ぱたと落ちた赤は足先は濡らしたけれどーーあの子たちには届いてはいない。
「……」
 流れた血にも、殺戮を告げる声にも不思議そうに思わぬ彼らに、見開かれたままの瞳にせめてもの心でカーティスは告げた。
「いまは、おやすみ。だいじょうぶだよ。目が覚めたら、こわいゆめは終わっているから」
 みんなが、誰かを傷つけるようなことはーーきっと、無いから。

成功 🔵​🔵​🔴​

鮫島・冴香
行方不明の子供達が容易に見つかったのは安心したけれど…
厄介ね
(UC【オルタナティブ・ダブル】を使用し、もう一人の自分を出現させ)
子供達の確保、操られているとはいえ、安全な場所への非難を。
「私は、あのぬいぐるみを狙うわ」

■行動
分身は子供の元へ
「わかったわ、ともだちを探しましょう」
操られている子供達を戦域から逃すようにひとまず外へ誘導を

冴香自身はぬいぐるみへ。
出来る限り近づきフォースセイバーで攻撃を
「観念なさいっ」
熱線銃で【零距離射撃】し、周りへの被害を抑える
「救済ってなんなの?信じたらなんでも救われると言うの?」
己の境遇に重ね
「ふざけないで」
力いっぱいに刃と弾丸を

※アドリブ、絡み歓迎です!


八坂・操
【SPD】

ヒヒヒッ! 熱烈な歓迎ありがとー! うんうん、みーんな無事みたいだね♪ 操ちゃんも嬉しいよ☆
お友達を探してるって言うより、お友達が欲しいみたいだね♪ 操ちゃんも立候補しようかな? それじゃ……。
「お近付きの印にプレゼントだ☆」

子供達は操られてるだけみたいだし、なるべく被害が出ないよう動かないとね♪
『忍び足』で『目立たない』よう、ぬいぐるみの背後に移動するよ☆ 何せとっておきのサプライズプレゼントだからね!
「わぁ」
【匣】……恨み辛みを詰め込んだそれ。きっと気に入るだろう。
苦痛の末に救済へと至れるのなら、天国の扉に等しいだろうが……はてさて、至らなかった彼らの怨念がそれを許すかな?



「新しい友達もできたから」
「新しい友達も増えるから」
 楽しげな子供達の声が響いていた。歌うように友達と告げ、皆で向かうと囁き笑う。辿り着く為に、とぴょんと跳ねる姿はぬいぐるみを真似てか。
(「行方不明の子供達が容易に見つかったのは安心したけれど……厄介ね」)
 鮫島・冴香は唇を引き結ぶ。子供達は皆、あのヌイグルミの傍だ。何らかの方法で意識を奪われているのは確かだ。あのまま、ただ、声をかけた所でヌイグルミからは引き離せまい。
(「それに、あのヌイグルミが何をするか分からない」)
 わざわざ子供達を一箇所に集めていた。猟兵達が向かってくる事など、分かっていただろうに。こちらも併せて『何か』に使う気か。それとも、ぬいぐるみの言葉通り殺して終わりにするのか。意識を奪われているとはいえ、子供達の前で。
「探そウ! モットモット! 今よリモット!」
「そうだね。うん。探さなきゃ」
 冴香は短く息を吸う。まずは、子供達の確保だ。
「私は、あのぬいぐるみを狙うわ」
 告げた先、冴香の正面にもう一人の自分が現れる。ゆっくりと開かれた瞳と出会えば、冴香の分身は短く頷いた。操られている子供達を戦域から逃すように、ひとまず外への誘導をする為に向かう。駆け出すのでは無い。まっすぐに向かって、膝を折るようにして視線をあわせた。
「わかったわ、ともだちを探しましょう」
「? おねえさんもさがすの?」
「ぼくらの友達を」
 ぱちぱち、と瞬いたのは礼拝堂の椅子の傍に残っていた子供たちだった。友達を探す、という言葉に、子供達の意識が向く。手を取れば子供達は素直に従った。数人ではあるがー礼拝堂の中であれば戦域から距離を取らせるのは可能か。
「違うヨ! 大人ジャ見つケられ……」
「観念なさいっ」
 慌てた様子でぬいぐるみは声を上げるーーだが、それよりも早く懐へと冴香が踏み込んでいた。零距離からの射撃。周りへの被害を抑えるよう選んだ一撃だった。穿つ熱線に、ぬいぐるみの淡い毛が揺れーーその奥にある、黒い淀みが、揺れた。無数の目が一斉に冴香へと向く。深淵を覗くかのような感覚に、だが、刑事である冴香が足を止めることはなかった。ひゅん、と打ち出された闇に身を飛ばす。分厚い本の上、立ち上がったぬいぐるみが指揮棒を振るように黒い何かを放つ。ガウン、と一撃が椅子を砕けば、ばらばらと破片が礼拝堂に散った。からんからん、と転がる木片に、ふぅんへぇ、とぬいぐるみが明るく声を落とす。
「容赦ガ無いんだネ。邪魔者さン。君ノ中にあル、苦痛だっテーー……」
 その先を、紡がせる前に撃鉄を引く。間合いを詰めた分、一撃を受け止めるのは理解している。だがその分、救えるものがあるのならば冴香は動くことを選ぶ。
「救済ってなんなの? 信じたらなんでも救われると言うの?」
 同じ、刑事であった夫は殉職した。子供も奪われた。お腹の子を奪った快楽殺人者は未だ見つからないままーーただ、ただ冴香はその影を追っている。あの日、続く筈だった日常を奪ったものを。血濡れの日に得た想いが信じたら、何でも救われるというのか。
「ふざけないで」
 力一杯に銃弾を叩き込み、光の剣を向ける。なぎ払う一撃はぬいぐるみの後ろの闇を散らし、赤黒い瞳がざわざわと動く。
「あァ、あァ。大人ナ君ハ苦痛をえテいるんダネ! 君ガぼくたちノ友達だったラ、一緒に迎えるのニネ!」
 黄昏の救済ニ。苦痛の先に!
 歌うように告げて、ぬいぐるみはーーその後ろにある影はにぃ、と笑った。
「だからだから、これは君にプレゼントダ! ね
エ、何に見エル?」
「何を言って……!」
 歪む視界。ぬいぐるみの間合いへと、その直ぐ傍まで踏み込んでいた冴香にとって『それ』は目の前に現れた。人影。覚えのある足。銃を握る手がほんの一瞬、揺れたか。
 それは、冴香の見知った幻影であった。
「ーー」
 それは、声なき悲鳴であったか。息を飲むだけの音であったか。ほんの一瞬、止まった動きを狙うようにぬいぐるみがにこりと笑う。追撃を仕掛けるようにふんわりとした手が上がりーーだが、何かに気がついたように止まる。
「ーー!?」
 そこにいたのは、揺れる黒髪。目立たぬよう、足音を殺しぬいぐるみの真後ろへと回り込んでいた八坂・操だった。真っ白な頬に触れる黒髪が、操の片目を隠す。深く、深淵を覗く化のような漆黒の瞳が一度だけーー緩む。
「ヒヒヒッ! 熱烈な歓迎ありがとー! うんうん、みーんな無事みたいだね♪ 操ちゃんも嬉しいよ☆」
 お友達を探してるって言うより、お友達が欲しいみたいだね♪ 操ちゃんも立候補しようかな?
「それじゃ……」
 テンション高く声を零し、ゆるり踊る掌にコトリ、と落ちたのは匣。それが、次の瞬間ーー。
「わぁ」
 ぬいぐるみへと届けられた。
 コトリ、と音は軽く。だがぬいぐるみの足はそれに触れたーーその匣に触れてしまった。
「    」
 その瞬間、空間が震えた。衝撃が、ぬいぐるみの後ろにあった淀みへと伝わる。ざわつく瞳達の一つが、忙しなく動きーー沈む。獣の咆哮めいた声が礼拝堂に響きわたった。
 その匣こそ、恨み辛みを詰め込んだもの。
「レハ、コレハコレハコレハ!?」
「なんダ、何ダロウ!?」
「こんナこト。こんなモノが、何故ーー!?」
 ぬいぐるみに宿る、邪悪なもの達が動揺を見せる。何故と落ちた声はぬいぐるみから溢れたものだというのに、声が違う。淀むような色に可愛さなど無くーーだが、だからこそ操は笑みを浮かべずに告げた。
「苦痛の末に救済へと至れるのなら、天国の扉に等しいだろうが……はてさて、至らなかった彼らの怨念がそれを許すかな?」
 地面に残っていた真新しい滲み。
 二人の最後。
 ひゅん、と伸びた闇にゆらり、身を揺らすようにして避けて操は白い指先を伸ばす。貫手の構えを取る。
「そんなもノ、そんなもの、デ……!?」
 ふるり、とぬいぐるみが体を振るう。残った瞳をかき集めて、黒の淀みがずるり、せり出す。それは焦りか、戸惑いの発露か。
「邪魔者ヲ、あの異端のひとヲ止めないト!」
 我らの影ヨ、とぬいぐるみはーーその奥にあるものは告げた。淀む影に見えたのは、操の見知ったーー幻影だ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

榎木・葵桜
姫ちゃん(f06218)と

思う事はたくさん、でも
(振り払うように首を振り)
今は私が出来る事を、するんだ

姫ちゃんと連携
子供達の無力化と避難をするね

【サモニング・ガイスト】使用
田中さん(霊)には、子供達への対応をお願い
もし子供達が人質として操られて攻撃に利用されてしまったら
出来る限り受け止めながら捕まえてもらって、姫ちゃんに渡すね
姫ちゃんのユーベルコードで無力化してもらって、安全な場所へ避難させるよ

私は、できるだけ前に出て敵へ牽制仕掛けていくね
子供達が操られて利用されないように特に意識していくよ

敵からの攻撃は【戦闘知識】【見切り】【激痛耐性】で対応
隙が生じるなら「胡蝶楽刀」で【なぎ払い】していくよ


彩瑠・姫桜
あお(f06218)と

あおから要請があったから
私も微力ながら手伝わせてもらうわ

(あお、無理してないといいのだけど、と気遣うように見やり)

敵への攻撃は任せて、子供達への対応を優先するわね
子供達が正気でないなら、敵の攻撃に利用される可能性があるから
できるかぎり無力化して、安全な場所へ避難させるわ
礼拝堂の外か、内部の片隅に集めるかは、戦況によって判断するわね

子供達の無力化には【咎力封じ】使用
【手枷】【猿轡】を先に放って動きを封じて
【拘束ロープ】で可能な限り複数の子供達をまとめられるようにするわ
少し痛いかも知れないけれど…状況見て力加減は行うわね

敵が子供達に攻撃を仕掛けるようなら
【かばう】ようにするわ



 壇上で踊るぬいぐるみの毛がざわり、と揺れた。だめだよ、まだまだだめなんだ。と可愛らしい声が礼拝堂に響く。その声に、奥へと避難させられていた子供達が、ぱ、と顔を上げる。
「だめなんだって」
「まだだめなんだ」
「そウだよ! だってだっテ邪魔者は殺さなイトイケナインダカラ! 僕たチみんナで……!」
 さぁ、とぬいぐるみが言った瞬間、ばたばたとぬいぐるみの傍にいた子供達が向かってくる。
「わぁああ」
「ーーっ」
 向かってくるその姿が、ただただ無邪気なものであれば、きっとちょっとした鬼ごっこのようなものだったのだろう。だが、瞬きひとつ無いままに、それぞれに破片を手にして飛び込んでくる姿はあまりに痛々しかった。此処にたどり着けなかったと言われたという双子の片割れは、あのぬいぐるみに出会ってしまったとでも言うのだろうか。
「思う事はたくさん、でも」
 振り払うように首を振り、榎木・葵桜は、たん、と床を蹴った。
「今は私が出来る事を、するんだ」
 最初のひとり、飛び込んできた子供達を交わす。着地のそこで、田中さん、と葵桜は声を上げた。
「その子達を……!」
 頷いた田中さんが、一撃を受け止める。子供の振りかぶった拳だ。然程強くは無いーー筈だ。だが、その拳が鋭さを持って田中さんに届いたのを葵桜は見る。普通の子供が持つものでは先ず無い。それは明らかにストッパーを超えて、無理やり出させられている力だった。
「……ッ田中さん、出来る限り受け止めながら捕まえてね。ーー姫ちゃん、後は……」
「えぇ。分かっているわ」
 頷いて、彩瑠・姫桜(冬桜・f04489)は葵桜を見送る。たん、と二度目の踏み込みは跳躍を伴った。ぐん、と一気に間合いへと踏み込んでいく葵桜にぬいぐるみが両の手を上げる。接近を嫌うように、さぁ、と呼ぶのは子供達をだろう。
「鬼ごっコダヨ。捕まえテ、向かわなキャ!」
「向かわなきゃ」
「ーーいいえ」
 重ねて響いた言葉に、姫桜は否を叩きつける。田中さんが捕まえた子供達に、せめて痛く無いようにと咎力封じを解放しーーぬいぐるみへと踏み込んでいった葵桜を見遣る。
(「あお、無理してないといいのだけど」)
 金装飾の薙刀が、戦場を踊る。黄昏の道行きを払うように、薙ぐ一撃に追いかけるように闇が走った。至近であれば子供達では無く、己の闇を使うのか。引き剥がすように葵桜へと向かった子供を、田中さんがまた抱え込む。
「えぇ、こっちに……」
 また、一人を拘束したーーその時だった。
「だめだよ。向かわなきゃなんだ。そうじゃないと……」
 ばたばたと暴れる子供に、まったく、と壇上から声が落ちた。ぬいぐるみの声だ。明るく響くそれは、だが心底呆れたかのような色を見せーー言った。
「捕まえるルこともできないナンテ。いらない子ダネ!」
「……ぁ」
 瞬間、走ったのは闇であったか、漆黒の矢であったか。何であるかと考える前に、姫桜の体が動いていた。
「させない……!」
 庇うように手を伸ばす。ザン、と衝撃が腕を襲う。バタバタと落ちる血に、抱え込んでいた子供がふ、と意識を失う。
「姫ちゃん!」
「大丈夫」
 声だけが届いた。前を、ちゃんと前を向いている友人に小さく笑って姫桜は唇を引き結ぶ。痛みはあるがーーだが、動けない程じゃない。すぅ、と息を吸い、一先ず、意識を失ってしまった子を巻き込まない位置まで運ぶ。ぬいぐるみによる支配が何処までかかっているか分からない以上、礼拝堂の外まで連れ出すのは危険なようだ。なら、此処で守り続けるしかない。顔を上げれば、踊る闇と切り結ぶ葵桜の姿があった。
「ふぅン。本当ニ、ほんとニ邪魔者バカリダネ。これから先ニ、みんなデ向かうとこロだったのに!」
 歌うように、楽しげに。子供達を操りながらぬいぐるみは言う。その後ろの淀みから向けられる視線を感じながら、葵桜は息を吸う。払う足は舞うように。滲む血を、一撃を痛みを耐えるようにして顔を上げる。この身の役割は敵への牽制。金の光が差し込む戦場にて、二人の桜はーー踊る。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

雨糸・咲
綾さん(f01786)と

子供達の安全を第一に

かくれんぼの提案に合わせ
物陰や外へ誘います
同様に安全確保をして下さる方と連携を

大人には足りず、子供でもない自分
けれど
揺れ惑い
すれ違った双子の心が解らない
私が人ではないから?

想いは、一緒…そうですね
綾さんの笑みに頷き返し

聞き耳、第六感で周囲の動きを察知

操られた子供達が立ち塞がり
意思の疎通が難しいようなら
拘束や気絶させることも止む無し
勿論、傷付けない細心の注意をもって

攻撃を主とする方々の援けとなれるよう
補助的な動きを重視
邪神の捕縛を試みます

愛らしいぬいぐるみ
何故この子に邪なものが宿ってしまったのでしょう

ねぇ
もしかしてあなたも
「もっと一緒にいたかった」…?


都槻・綾
f01982/咲さん

最優先は子供の命

敢えて遊びへ誘うように明るく

かくれんぼしましょうか
私が鬼
皆は上手に隠れて下さいね

机下や堂外に潜んで貰えれば重畳
皆と協力し合い
オーラ防御で護り抜く

第六感で見切り
先制攻撃、高速詠唱を駆使し
七縛符で封じる敵技
子供達を盾にはさせません

ひとは生涯、成長途中
誰かと共に歩む中で心も育つ
道が分かれても過ごした日々は自身の礎
育んだ大切な想いはきっと
ずっと一緒です

咲さんに笑んで
縫い包みを見遣る

嘗ては誰かと共に在ったなら
離れるのは寂しかったでしょう

邪神に憑かれし根幹は悲哀か怒りか…軛から解放したい
光纏う鳥葬で影を啄み食らう

縫い包みが残れば拾い、撫で
子供達に
もう良いかい
と呼び掛けを


空廼・柩
子供達は無事か
…喜ばしい事だけれど、油断するには未だ早そうだ
邪魔者は皆殺し――ああ、それは大いに同意するよ
子供達に邪神…あんたは不要だ

邪神の注意を引き、行動を制限する事に注力
【咎力封じ】を用いて邪神本体を雁字搦めにする
業まで封じられれば御の字だけれど、流石に贅沢ばかりは言えないか
万一子供達が襲ってこようものならば拘束を試みる
…安心しなよ、間違えても殺す事はしない
罪なき子にそんな事をしたら処刑人の名折れだ
此方は勿論、子供達に邪神の魔の手が迫ったならば拷問具で受ける
その侭カウンターを叩き込む事も忘れない

見知った幻影ねぇ…
主任でも現れたら真実位普通に言いそうだけれど
まあ、早めに消してしまうのが先決か



●願いがひとつ、あったなら
 金色の光が差し込む礼拝堂にて、踊る闇の間に火花が散った。唇を引き結び、銃口を向ける猟兵の後ろ、踊る桜と少年の銃弾が子供達からぬいぐるみを遠ざける。後ろの闇でも、ぬいぐるみであっても攻撃をすれば『効いている』のは確かだ。だが、ダメージを受ければ当たり前のようにぬいぐるみは子供達を使ってくる。
「邪魔をする人は退かさなト! 殺さないト! みんなデ行けなクナッチャウヨ!」
 ほら、ほら、とぬいぐるみが分厚い本の上で踊る。一撃、重く響く怨念に黒い淀みに潜む目のひとつは潰れていた。だが、それでも残る目は蠢き、ぬいぐるみは動く。
「邪魔をする人はどかさないと!」
「邪魔をする人はころさないと!」
 なぞるように声を落とす子供達はぬいぐるみの傍にいた。ーーだが、全員では無い。既に何人かは、猟兵側で保護している。奪われた意識を完全に邪神から取り戻すには、あのぬいぐるみを倒し切らなければならないのだろう。
(「気絶さえしてしまえば、あちらの意のままとは行かないようですが」)
 さて、と都槻・綾は目を細める。先に仲間が受け止めた子供達は気絶したまま目を覚まさない。ーー恐らく、今のままでは目を覚ましたところで再びあのぬいぐるみの支配を受けてしまうのだろう。
 最優先は子供の命だ。
「かくれんぼしましょうか」
 遊びに誘うように明るく、綾は子供達に告げる。
「私が鬼。皆は上手に隠れて下さいね」
 子供らしい柔らかな手に、破片を持っていた子供達が、こてり、と首を傾げる。
「かくれんぼ?」
「鬼をするの? 遊んでくれるの?」
「大人とちがうの?」
 次々に声を上げる子供達に、焦ったようにぬいぐるみが腕を振り上げる。ぴょんぴょんと可愛らしく跳ねれば、子供達が足を止めた。
「違うヨ。そのひとたちは遊ぶんジャ……」
「ーーいいや」
 焦ったように、どこか精一杯気を惹くように声をあげたぬいぐるみにーーその奥にある者に空廼・柩は否を告げる。瞬間、壇上の黒いゆらぎの上に拘束具が落ちた。穿ち、射抜くような拘束ロープにぬいぐるみの後ろにあるものーー邪神の瞳がひとつ弾ける。
「ギァアアア!?」
 その声は、鳥の鳴き声に似ていた。甲高く響いた悲鳴に、残る瞳が一斉に柩を向く。ぴょん、と跳ねていたぬいぐるみがぱたりと動きを止める。
「あぁ、間違いなくそっちが本体だろ」
 口の中、言葉を一つ落とす。放つ手枷は食うを切りーーだが、全て掛からずとも邪神の注意はこちらに向いた。今のうちに、とそう声をかけずとも綾と雨糸・咲は動いている。かくれんぼと告げられた子供達は、礼拝堂の机の下にぱたぱたと隠れていく。あとはーー4人か。
「邪魔ヲ」
「冒涜者が邪魔ヲ」
 その声は、ぬいぐるみからでは無く背後にある闇から放たれていた。蠢く五つの瞳がひどくくぐもった声で告げる。怨嗟に満ちた声音は、だが同時に誘うような甘やかささえ見せる。
「邪魔者は皆殺し――ああ、それは大いに同意するよ」
 ぎし、ぎし、と回したロープが軋む。来るか、と顎をひき、だが邪神を真正面に見据えたまま柩は言った。
「子供達に邪神……あんたは不要だ」
 その言葉が、ひとつ合図となったかのようにぶわり、と闇が走った。無数の影が針のようにが垂れる。振り上げた腕、棺が一撃を受け止めーー散らしきれなかった分が腕を割く。痛みより先に感じた熱に、だが即座に顔を上げる。とん、とやけに軽い足音が聞こえたからだ。
「フヨウ! 不要ナド不要ナド!」
「我らが救済ヲ拒ムものナド」
 蠢く『目』たちが口々に告げる。怨嗟を帯びた言葉の先、それなラ、と妙に明るい声が響いた。
「もういらない子ダネ!」
「いらない子はいらないんだよ!」
「ーー」
 軽い足音の正体。真横から飛びかかって来た影に柩は手を振り上げた。ひゅん、と踊るのは拘束具。ロープは硝子の破片を握る子供をーー飛び込むようにして来た幼子を捉えていた。
「……安心しなよ、間違えても殺す事はしない。罪なき子にそんな事をしたら処刑人の名折れだ」
 空中にて捉えられたまま、ふ、と子供は意識を失う。破片に飛び散る場所に、このまま飛び込んできては怪我をしていただろう。あの動きは、子供の運動能力を超えている。
「動かされている、か」
「救イヘノ道筋ヲ拒ムのカ」
「ワレラの到達ヲ」
 歌うように響く声音に、息だけをつく。気を失っている少年を二人へと託せば、ぶわり、と影が再び揺れた。
「ナラバ君ハ至れルのカ」
「ーー……」
 影が、人の形を取ったのが咲の目に見えた。だが、一つ落とした息ひとつ、主任、と紡いだ柩が影を散らす。それが、果たして迷う事なき一撃だったのかは知れずーーだが、邪神は笑う。ぬいぐるみの可愛らしい声で、子供たちを誘うそれで。
「いらいないナンテ! いらなイなんて! ぼくらみんナで辿り着クンダ! やっぱり邪魔者ハそっチダケダよ!」
 たんたん、と分厚い本をぬいぐるみの足で叩いて。地団駄を踏むようにしたぬいぐるみが、ぱっと手を上げる。
「ねぇみんナ! ミンナ! 邪魔者ハいらなイヨネ」
「いらないね」
「いらないんだってー!」
 わぁわぁと残った子供達が声を上げる。かくれんぼで机や椅子の下に入った子供達の反応が無いのは、邪神の意識支配が薄らいでいるからだろう。一撃、一撃、叩き込めば彼らの声よりも自分たちの声の方がきっと、届いている。
『おねえちゃんもかくれんぼの鬼、するの?』
 最後にそう、咲に声をかけた子供はかくれんぼの椅子の下に入ったところで意識を失った。目を覚ますのはきっと、全てが終わってから。
 咲はひとつ、息を吸う。ぬいぐるみの後ろ、その奥にある何かが見えるようで見えない。双子の片割れは『あれ』が見えてしまったのだろうか。
「大人には足りず、子供でもない自分。けれど揺れ惑い、すれ違った双子の心が解らない」
 大切だったはずだ。きっと、そのどちらにとっても。それが何処から、崩れてしまったのだろうか。
「私が人ではないから?」
 ぽつり、と咲は声を落とす。ヤドリガミたる娘は、その起源があの双子とは違う。山葡萄の蔓で編まれた手提げ籠。大切な主も既に亡くーーただ、ひどく胸が軋むようなざわつくような思いがある。
「ひとは生涯、成長途中。誰かと共に歩む中で心も育つ」
 微笑んで告げる綾に視線を上げる。青磁色の瞳と出会えば、穏やかな声で綾は言った。
「道が分かれても過ごした日々は自身の礎。育んだ大切な想いはきっと、ずっと一緒です」
「想いは、一緒……そうですね」
 頷きを返し、咲は息を吸う。今は邪神の相手だ。残る子供達を取り戻す為にも、邪神の力を削ぐ必要がある。た、と静かに、床を蹴っていく仲間の姿を視界に咲は指先を伸ばす。分厚い本の上で跳ねるぬいぐるみへと。
「少しの間だけ……ね。良いでしょう?」
 両腕から葡萄の蔓を伸ばす。しゅるり、と伸びた蔓がぬいぐるみの後ろ、蠢く闇を絡め取る。
「邪魔ヲ。至るベキ黄昏ヲ」
「拒むノカ!」
 締め上げられや闇が、揺れた。ぶわり揺れた闇が勢いよく咲へと向かい打ち出されるその前に、護符が舞った。キン、と高く涼やかな音が礼拝堂に響き渡った。放たれる筈だった一撃が散ったのを、咲は見る。一拍、止まる邪神の動きを見逃しはしない。
「止めます」
 ひゅん、と手にした杖を掲げる。踊る冷気の後ろ、指先に構えた符を綾は放つ。
「嘗ては誰かと共に在ったなら、離れるのは寂しかったでしょう」
 邪神に憑かれし根幹は悲哀か怒りか……軛から解放したい、とそう綾は思う。ぎゅん、と勢いよく闇に潜む目がこちらを向いた。
「何故」
「何故何ヲ」
「何をシタ!?」
 さて、と涼やかに笑い、指先に、体に届く軋みに息だけを吐く。捕縛は成功。だが、解除のその時まで、これは身を削る技。
「だめだヨ。勝手ニぎゅっトされることナンテ違うんだかラ! これじゃァ、辿り着けないヨ!」
 黄昏に。苦痛の果てに。
 ぴょんぴょんと跳ねて暴れる姿は可愛らしいというのに、あの奥の闇が、二人の攻撃に淀み落ちた瞳の名残がーーひどく、良く無いものだと綾と咲に告げる。
「愛らしいぬいぐるみ。何故この子に邪なものが宿ってしまったのでしょう」
 ねぇもしかしてあなたも、と薄く唇を開く。
「『もっと一緒にいたかった』……?」
 なぞり落とした言葉に、ぬいぐるみの動きが一瞬、止まりーーケタケタと笑い声が響き渡る。ひゅ、と小さく咲は息を飲む。嘲笑めいた声はぬいぐるみの後ろにある『もの』から。
「全ては救済のタメ」
「救済に至ルタメ」
「残ルモノナド」
 にぃ、と笑う気配に、ヤドリガミたる二人が気がつく。それはきっと、二人のようにまだ形を得て起き上がるものでは無かったのだろうけれど。
「トウノムカシニクラッテシマッタヨ」
 あったかも知れない想いは、この邪神に喰い尽くされたのだと。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

八上・玖寂
……あれにありますかね、実体。こちらの攻撃が当たればいいんですが。
(溜息を零し、手元の獲物を握り直す)
(目の前にいる子供たちのことはわざと考えないようにしている)

【目立たない】【忍び足】で部屋の片隅を歩いて
子供を避けてぬいぐるみに近づき、
『朽ちる憧憬に灰を撒け』で増やした暗器で
ぬいぐるみから伸びる影を滅多撃ちにし。
手ごたえがなければまた片隅に引っ込み、観察して相手の【情報収集】に努めます。

僕の見知った影が現れたら?
……。
もし本物なのであれば、どうにかして避けなさいね、偲。
(影ごとぬいぐるみを撃ち抜き)


※絡み・アドリブ歓迎


閂・綮
◾️アドリブ歓迎

攫っただけではなく。
人質として、我らの攻撃を防ぐ盾としても使おうという算段か。

成る程、効果的だ。
反吐が出る。
…叶うならば、その目玉。
嘴で抉ってやったものを。

先ずは狂気に侵されている子らの意識を奪うことが、有効かつ最善なのだろう。
…だが、

子を笑わせるための玩具。
抱き上げるための我が腕。

この身の矜持は変えられん。
であるならば、我のすべきことは傷つけずに子らの自由を奪うこと。
糸を手足に巻きつかせ、邪神から引き離す。【破魔】【オーラ防御】を用いて、狂気に対抗できないか試みる。

…黄昏時にて、子らは。
暖かい手に引かれ帰るのだ。
永遠の道行きとやらには、お前ひとりで行くがいい。


ジナ・ラクスパー
ぬいぐるみを見据えても
悪意の影が私にはよく、見えなくて
溜息ひとつ
まだまだ子供だと自分でも思っていますけれど
見損なわないでくださいませ
甘いだけの言葉に絆されるほど、貴方に対して優しい気持ちになれないのです

強化は使い分け
子どもを盾にしたり力に使う動きがあれば
防御を高め盾を紡ぎ庇う
怪我なんて覚悟の上
届かず失くすことの方がずっと怖いから

懸念なければ攻撃強化
連携して隙なく包囲し、二回攻撃を駆使
あのお二人が可哀想なんて、その口で言わないで
助けられなくて悔しいと思うほど
倒す理由が隙間なく増えていく

永遠なんかじゃないけれど
悲しくて、寂しくて、でも時々とても幸せなこの世界へ
必ずお帰ししますから、待っていて



「さァ急がナキャ! 急いデ邪魔者ヲ消さないト!」
 ぴょんと跳ねたぬいぐるみと共に、その歪んだ声は礼拝堂に響き渡っていた。帯のように降り注ぐ淡い光が夕刻の訪れか。黄昏に、黄昏に、と重ねるように響く声はぬいぐるみのそれとは違い、ひどく歪んで響く。狂気だと、誰もがそれに気がついた。ひどく肌を騒つかせるのは、その声自体に何らかの効果があるからか。
「至ルタメニ」
「我らガ黄昏ニ」
 猟兵でなければ、その声を聞いただけで意識を奪い取られてしまっていただろう。残る子供達が、一緒になって声を上げる。
「たそがれに」
「黄昏に!」
 とん、とジャンプは三人一緒に。子供達の手には木の破片や硝子の破片が握られーーたん、と小さな段差を蹴ってこちらに向かってきた。飛ぶように前に。年頃の子供にしてはひどく俊敏な動きにその『無理』にジナ・ラクスパーは唇を引き結んだ。
「いそがなきゃ!」
「いいえ」
 纏う風と共に、飛び込んできた子供をジナは受け止めた。じわり、と滲む熱がある。ぱた、ぱたと血が落ちた。痛みに少女は声を零さない。ばたばたと、ただ暴れる少女を抱き寄せる。
 怪我なんて、覚悟の上だ。
「届かず失くすことの方がずっと怖いから」
 きつく握られた硝子の破片を、そっと少女の手から奪う。焦点の合わない瞳を、それでもじっと見る。少女へとしっかり、言葉を届けるように。
「永遠なんかじゃないけれど。悲しくて、寂しくて、でも時々とても幸せなこの世界へ。必ずお帰ししますから、待っていて」
 纏う風が、さわ、さわとジナの髪を揺らしていた。永遠ジャナイナンテ! と跳ねる声が耳につく。
「みんナで辿り着クためニ。ずっとずっと永遠ニ楽しク、一緒ノためナノニ!」
 だからホラ! とぬいぐるみが歌う。ぴん、と伸びた手が、もう一人の少年を読んだ。
「さぁ僕と一緒ニ」
「うん、いっしょに」
 ぬいぐるみは、自分をあの少年に操らせる気なのだろう。立ち尽くしたままの少女は、動き出す様子はない。だがーー。
「残る三人、か。簡単に手放す気はないだろうな」
 今はほんの僅か、奴の『気』が抜けているだけだ、と閂・綮は思う。
「攫っただけではなく。人質として、我らの攻撃を防ぐ盾としても使おうという算段か」
 成る程、効果的だ。
 反吐が出る、と綮は吐き捨てる。
 事実、奴は攻撃の手段としてまで子供達を使ってきている。
「……叶うならば、その目玉。嘴で抉ってやったものを」
「……とりあえずはあれにありますかね、実体。こちらの攻撃は当たるようですが」
 溜息を零し、八上・玖寂は手元の獲物を握り直す。目の前にいる子供達のことはわざと考えないようにしたままに、僕が、と声を落とす。
「後ろに回りましょう」
「では。私は前に」
 二人の言葉に、綮はゆっくりと顔をあげた。
「子らは、我が」
 幸い、三人以外は仲間の猟兵たちが確保してくれている。あの子たちは皆、無事だ。それならばーー……。
「片付けましょうか、あれを」
 玖寂が静かに告げーーとん、と軽い足音が響く。子供のそれ。ジャンプしたぬいぐるみの後ろ、どろり、と蕩けるように影が、闇がーー動き出した。
「行きます」
 短く告げ、た、とジナは前に出た。少年とぬいぐるみの腕の動きに合わせ、闇が飛ぶ。漆黒の針に椅子を蹴り上げ、伸ばす手の中、鉱石の花は槍へと変じる。
「そこダネ!」
「ーー」
 ぬいぐるみを見据えても、悪意の影が私にはよく、見えない。
「まだまだ子供だと自分でも思っていますけれど
見損なわないでくださいませ」
 溜息ひとつ、着地から一気に間合いへと踏み込む。
「甘いだけの言葉に絆されるほど、貴方に対して優しい気持ちになれないのです」
 穿つ、一撃は飛び込むように。追いかける闇に潜む目に向ける。突き刺した槍が、瞬間、飲まれるような感覚に足をひく。引き戻した手の中、鋒に火の強化を乗せる。
「捕まえるヨ。君は友達ニナレルカモシレナイ! あの可哀想な二つとは違ッテ!」
「あのお二人が可哀想なんて、その口で言わないで」
 ざわり、と胸を騒がせる思いにジナは唇を引き結ぶ。助けられなくて悔しいと思うほど、倒す理由が隙間なく増えていく。
「あぁ、ならバナレバ!」
「心を震わせるホドニ苦痛を抱クのナラバーー……!?」
 さぁ、と伸びた闇が、ひゅん、と放たれたナイフに穿たれる。一撃、続けて二撃。
「ナニ、ヲ……!? レ、ハァア!?」
「花でも咲かせてみましょうか」
 手の中、増やした暗器を玖寂はぬいぐるみから伸びる影へと叩き込む。闇が爆ぜ、そこでようやく、間近へと迫ってきていた暗殺者の姿を邪神は知る。せわしなく動く瞳が、甲高い鳥の鳴き声をあげながら玖寂へと闇を伸ばす。
「ーー」
 ナイフが如き鋭さを持つ闇を、放つ暗器で払う。真横から穿てば僅かに軌道が変わる。玖寂が避けるにはそれでーー十分だ。
「邪魔ヲ」
「邪魔者ダ。邪魔者ナド……!」
 ざわめく邪神の目が一つ、潰れる。ゆらり、と壇上で身を揺らしながら、だが、ぬいぐるみは立った。
「いらないヨ! だから、さぁホラ!」
「ーー」
 その呼びかけは子供達に向けてだろう。立ちすくんでいた少女が、ぬいぐるみの近くにいた少年達が動き出すのが綮の目に見える。あの子らの意識を奪うことが、有効かつ最善なのだろう。それは理解できる。
「……だが」
 子を笑わせるための玩具。
 抱き上げるための我が腕。
「この身の矜持は変えられん」
 綮の声は、低く落ちた。
 ならばすべきことはーーひとつだ。
「さぁ、いくんだね」
「うん、いかなきゃ」
「邪魔なひとは……、あれ?」
 踏み出すはずの足が、動かない。こてりと首を傾げた少女の横、少年たちの手が破片を掴めない。
「……」
 掴ませない。
 それは綮の操る糸だ。破魔の宿る糸が、淡い光の中に子供達を包む。
「あれ?」
「あ、れ……?」
「?」
 踏み出す足が止まる。今度こそ完全に。ただ、不思議そうに首をかしげる子供達に、ぬいぐるみは慌てるように声をあげた。
「違ウ、違うヨ。それは違ウ! 無垢な子ラに何ヲ……!」
「……何を、か」
 ふわり、ふわり、小さく揺れた子供達がふらり、と倒れる。腕の中、子供達を受け止めて綮は言った。
「……黄昏時にて、子らは。暖かい手に引かれ帰るのだ」
 違ウ、と邪神が叫ぶ。否の声は、子供達にか。暴れるように、腕を振り上げたぬいぐるみに玖寂が動く。
「今更、これ以上好きにさせるとでも」
「……ッ我らが道行きヲ阻むノナラバ!」
 ぶわり、と残った目がーー開く。瞬間、玖寂の前に影が立つ。
「……」
 ほんの小さな瞬きに邪神が笑う。サァ、と淀む声が耳に届きーーだが。
「もし本物なのであれば、どうにかして避けなさいね、偲」
 男は、撃鉄をひく。
 ガウン、と穿つ一撃が影へとーー邪神へと届いた。赤黒く光る瞳が撃ち抜かれればギヤァアア、と殺意に満ちた声が響く。
「永遠の道行きとやらには、お前ひとりで行くがいい」
 狂気に満ちた叫びを真正面から受け止めて、綮は告げる。怒りに満ちた邪神の声から、子供達を守るように光を紡ぎながら。
「至レ至ル、至るベキハ苦痛ノ、黄昏ノァアアアアアアアアァアア!」
 獣の咆哮に似た声をあげ、蠢く瞳を宿す闇を刃が切り裂き、鋼糸が散らす。逃れるように張った先、逃すことのない猟兵たちの一撃が届きぬいぐるみの背後にあった闇がーー邪神はどろり、と崩れ落ち、最後の目も消えた。

●至るべき夕暮れの時
 礼拝堂から外へと出れば、夕暮れが少し深まった程度の時間であった。ステンドグラスの所為か、それともあの空間だけ時間軸がずれていたように感じたのか。体感よりは時は進んでいなかったらしい。攫われた子供達は20人。無事に全員、救出することができた。細かな傷があるがーー全員、命に別状は無いようだ。傷の手当は、覚えのある猟兵たちが行なっている。もう少しすれば皆、目を覚ますだろう。
「……」
 邪神が姿を消すと、ぬいぐるみはくたり、と壇上に座り込んだ。いつの間にか、分厚い書物は姿を消し、古びたぬいぐるみに姿を変えたーー戻ったあらいぐまは言葉を発することも無いまま、淡い光に包まれる。最後のさいご、崩れ落ちる最後の瞬間に、子供達の方を見たようにみえたのはーー果たして偶然だったのか。確かめる方法など無いままに、猟兵たちは子供達の目覚めを待つ。
 おはよう、と告げる時を。かくれんぼは終わりだという時を。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​




第3章 日常 『楽しい遊園地』

POW   :    ジェットコースターに乗る

SPD   :    お化け屋敷やミラーハウスに入る

WIZ   :    メリーゴーランドや観覧車に乗る

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●微睡みの中で
 差し込む夕日に、園内へと続く道が淡く彩られていた。街中よりは少しばかり高い場所にある遊園地が、暗闇に包まれないのは色とりどりの様々な照明が猟兵たちと行方不明であった子供達を出迎えたからであった。
「ーーお帰りなさい。ありがとう、子供達を見つけてくれて」
 霧が晴れたのだとーーと、猟兵たちを出迎えたシノア・プサルトゥイーリは言った。
 行方不明であった子供達は全員、無事に救出された。僅かに残っていた傷も、猟兵たちによって癒されている。子供達の意識は、まだ何処かふわふわとしているようだった。
「あのねあのね。ぬいぐるみさんと一緒に、遊んでたんだよ」
「あらいぐまかな? くまさんかな? そんなかんじの!」
 夢の中で会ったのか、それとも現実であったのか。まだ少し分からずにーーただ、一つ明確に分かっているのは、子供達に礼拝堂での戦いについての記憶はなく、黄昏の信徒たちやあの邪神についての記憶も残っていないということだった。
 ぬいぐるみの後ろに潜むんでいたものが、何であったのか。影に潜むものであったのか、闇に巣食うものであったのか、その詳細は知れぬままーーだが、あのいっとき、黄昏を口にした『邪悪』は猟兵たちの手によって倒され、ぬいぐるみは崩れ落ちた。何一つ、残さないまま。
「子供達の記憶は、最初にこの遊園地に来た時で止まっているわ。今はまだ、どこか夢見心地で遊園地を楽しんでいる」
 もう少しすれば、子供達の家族が迎えにくるだろう、とシノアは告げた。そこできっと、彼らの意識は追いついてくるだろう、と。
「私は少し、遊園地の運営の方にお話をしてくるわ」
 報告の類は任せてくれて構わない、とダンピールは微笑む。この後に及んで言い逃れもないとは思うがーー報告は報告だと。
「双子の両親にも、連絡は必要でしょうしね」
 それに、子供には泣かれてしまった記憶しかないの、と小さく笑って、シノアは猟兵たちを見た。
「もし手が空いている方がいたら一緒に遊んでくれないかしら? せっかくの遊園地。あの子たちにとっては、まだ遊びに来たばかりだから」
 あまり礼拝堂に近づきすぎても何だから、と解放されているのは一部のエリアだが、様々なアトラクションが動いている。
 背の低い、子供でも乗れる可愛らしいジェットコースターに、大人用のジェットコースター。遊園地を一望できるのだ。
 お化け屋敷は未完成のままだが、中央のフラワーエリアを抜ければ、洋館型のミラーハウスに辿り着く。体が大きくなったり、小さくなったり。アライグマの勇者とキミは、大冒険を繰り広げるのだ。
 最後にあるのは観覧車。無くなってしまったメリーゴーランドの代わりに、今でも残る遊園地に残る巨大観覧車だ。街を望むほどの大きさに、頂上まで辿り着けば空の中だ。夕暮れの残る今であれば、夜の空と、夕日の両方に出会うことができるだろう。
「双子が約束を交わした場所。二つの魂が、今、何処にあるのかは分かり得ないことだけれどーーきっと」
 邪神からは解き放たれてあるだろうから。
 二人の思い出の場所だった遊園地を、子供達の大好きな場所である遊園地での時間を。少しばかりのお仕事と、少しばかり、仕事を終えた後の時間として。
「良い夕暮れを」
 わぁ、と後ろで声が上がる。子供達のために、きぐるみのショーが始まったのだろう。今にも他のアトラクションに行きたがっている子供達もいる。目が合えばきっと、一緒に行こうと笑うだろう。とっておきの、笑顔で。
八上・玖寂
まだ暮れ切っていませんでしたか、空。

……とりあえず一服したいですね。
遊園地の片隅で煙草を燻らせてます。
空と観覧車を見上げるように視線を揺らしつつ、静かに。

(日頃から慣れ親しんだ煙を吸い込むと、思考がクリアになっていく気がする)
(子供は元気だなとか、中々来ることのない場所だなとか、そんな思考に交じって、
件の双子はどうすればよかったのか、どちらが間違えたのか、といったことも頭を過ぎる)
(これは感傷だろうか?疲れているのか?礼拝堂で"彼女ごと"撃ったからか?『らしくない』)

沈む思考を振り払いつつ、空を見上げる。

……ああ、やっぱり綺麗ですね。落照の空。
もうすぐ夜が来る。


※アドリブ歓迎



●心の在り処
「まだ暮れ切っていませんでしたか、空」
 薄闇が遠い。空から帯のように夕暮れの光が差し込んでいた。淡く色づく遊園地は、客の数に対して妙に明るい。精一杯の電飾と、出迎えのスタッフたちの明るい声が、わぁわぁと賑わい出す子供達を出迎える。
「……」
 それは、ほんの一瞬、うつし世からは遠く見えた。薄く開いた唇は言の葉を作るより前に、息を落とす。
「……とりあえず一服したいですね」
 伊達眼鏡の奥、黒の瞳を細め八上・玖寂は息を吐く。紫煙が恋しかった訳でもなく、ただ、一つの区切りのようにそれを選んだ自分がいただけだ。古ぼけた看板に描かれた禁煙エリアを告げる看板を頼りに辿り着いた遊園地の片隅からは、巨大な観覧車が見えた。空へとかかる鋼の橋。空と観覧車を見上げるように視線を揺らす。
「……」
 ふぅ、と紫煙が揺れた。
 日頃から慣れ親しんだ煙を吸い込むと、思考がクリアになっていく気がする。子供は元気だなとか、中々来ることのない場所だなとか、そんな思考に交じって、件の双子はどうすればよかったのかーーどちらが間違えたのか、とそんなことさえ頭を過ぎった。
「ーー」
 悪態をつくことはなく、舌を打つこともないまま、玖寂は視線をあげる。目の端、捉えた喫煙所の看板には大人びたアライグマの絵があった。塗りつぶされた傍にあったのは、家族か、恋人か。
(「これは感傷だろうか? 疲れているのか?」)
 自分が? と玖寂は思う。感性が空っぽであることなど自分でも分かりきっているというのに。伏せた瞳の奥、ほんの僅かに残るのは最後の一瞬。礼拝堂にてあの邪神に向けた一撃。呼び起こされた幻影。
(「礼拝堂で"彼女ごと"撃ったからか?」)
 あの時、見えたのは確かに“彼女”だった。
『もし本物なのであれば、どうにかして避けなさいね、偲』
 幻は、どんな顔をしていただろうか。銃口を向けた自分に。薄く開いた唇は何をーー。
(「らしくない」)
 沈む思考を振り払いつつ、空を見上げる。
 さぁ、と吹き抜ける風が黒髪を揺らした。はた、はたと靡く衣をそのままに、玖寂は息を落とす。
「……ああ、やっぱり綺麗ですね。落照の空」
 もうすぐ夜が来る。

大成功 🔵​🔵​🔵​

都槻・綾
f01982/咲さん

走り行く子供達の背を
見慣れぬ巨大遊具の群れに感心し乍らのんびり追い
遅い遅いと手を引かれれば
咲さんと笑い合う

縫い包みの事は記憶の片隅に残っているのだと知り
切なく温かい思いがするのは
己が宿神だからか

子供達を見送った後
咲さんと共に観覧車へ
呟きを聞き逃さぬよう黙して相槌

全ては拾えずとも
至らなさが歯痒くても
無駄な事よと嘲笑われても
掬い上げたいと願うことを
想いは届くのだと人を信じることを
私は諦めずに居たい

小舟は宵へ漕ぎ出し
街並みは地上の星に変わり行く
宙に放り出される心地は寂しさを伴うけれど
独りではないから

彼女の手を包み込むように
ぽんぽんと撫で
感謝の微笑みを贈る

貴女が居てくれて、良かった


雨糸・咲
綾さん(f01786)と

見慣れない遊具に驚きながら
子供たちと遊びます
無邪気な様子に
怖い記憶が残っていなくて良かったと安堵

ひとしきり遊んだ後観覧車へ

見下ろせば
人の姿はあんなにも小さいけれど
その一人一人に命があり
心があって

綾さん、私ね
伸ばせる手があれば
言葉を紡ぐ声があれば
想いは届くと思っていたのです
本当は…そんなに簡単じゃないんですね

膝の上
自分の両掌を見つめる
零れ落ちてしまった、双子の命
消えたぬいぐるみ

全部は拾えない
解ってはいるのです
でも…

いつも涼やかなひとへ問う

あなたにも、ありますか?
至らないと歯痒く思うこと

温かい手に、声に
滲む視界を堪え情けなく笑って

ありがとう、ございます
…えぇ、私も



●言の葉
 オルゴールに似た音を鳴らしながら、電飾が華やかに道を彩る。足音が高く響くタイルは、向かう先へと道標だ。どんなに遊んだって足りないと、子供たちはぴょんぴょんと跳ねる。
「ねぇ、次はあっちに行こうよ!」
「ずるいずるい。あのねあのね、私、ミラーハウスに行ってみたいの」
 おっきくなったりちっちゃくなったりできるっていうの。と両手で示す少女に雨糸・咲は小さく瞬く。
「これくらいのから?」
「そう! これくらいからどーんって。お姉ちゃんみたいにおっきくなるの!」
 だからねだからね、と楽しげに話す少女たちの無邪気な様子に咲は安堵の息をつく。怖い記憶が残ってなくて、良かったと。見慣れぬ遊具に驚きながら、お姉ちゃんと差し出された手に小さく瞬いて、そう、と頷く。
「ほら、お兄さんも早く早く!」
 走り出した子供達の背を、巨大遊具の群れに感心しながらのんびりと追いかけていれば、そんな声は都槻・綾の耳い届いた。
「遅い遅いー!」
 ほら、と手を引かれれば綾は咲と目を合わせて笑い合う。園内で出会った二人と、子供たちは一緒に遊ぶともう決めてしまったようだ。二人にとっては見慣れぬ遊具へと手を引いて、ねぇもっと、と笑う子供達が小さく残ったあらいぐまのイラストを見ては、あんなぬいぐるみだったのだと声を上げる。
「……」
 縫い包みの事は記憶の片隅に残っているのだと知り、切なく温かい思いがするのは己が宿神だからか。
 あの時、邪神が返した言葉にはどれだけの意味があったのか。戦場での戯れに過ぎなかったのか、それともーー……。
「お兄さん?」
「いいえ」
 明確な答えなど、とうに失われたまま。夕闇に手を振る子供達が、こっちだと招く。ほら、と先に手を引かれた咲に懐いたように少女が何事か告げていた。一緒にあそこにいきたいと、おねだりの行き先はさてどこか。手をひき、招く子供達との時間は穏やかに過ぎーー終わる。親御の迎えを告げるスタッフたちへと後を任せて見送れば、幾分か、空いた観覧車へと綾と咲は向かっていた。子供達の迎えも一度には行えはしないのだろう。まだ数人、残った子供達が他の猟兵たちと遊んでいるその背に手を振り見送り、乗り込んだ観覧車はゆっくりと空を目指していた。
「……」
 窓の向こうを、咲は見る。見下ろせば人の姿はあんなにも小さいけれど、その一人一人に命があり心があってーー……。
「綾さん、私ね。伸ばせる手があれば、言葉を紡ぐ声があれば想いは届くと思っていたのです」
 ぽつり、ぽつりと言葉は零れ落ちる。雨のように、涙のように、吐息が手のひらに落ちる。
「本当は……そんなに簡単じゃないんですね」
 膝の上、自分の両掌を見つめる。
 零れ落ちてしまった、双子の命。
 消えたぬいぐるみ。
「全部は拾えない。解ってはいるのです。でも……」
 ヤドリガミの娘は顔を上げ、いつも涼やかなひとへ問う。
「あなたにも、ありますか? 至らないと歯痒く思うこと」
 胡桃色の静かな瞳に、その問いに黙して相槌を返していた男は薄く、唇を開いた。
「全ては拾えずとも、至らなさが歯痒くても。無駄な事よと嘲笑われても」
 夕焼けが咲の背に差し込んでいた。その穏やかな光に、穏やかな笑みを浮かべ綾は言った。
「掬い上げたいと願うことを想いは届くのだと人を信じることを私は諦めずに居たい」
 小舟は宵へ漕ぎ出し、街並みは地上の星に変わり行く。宙に放り出される心地は寂しさを伴うけれど独りではないから。
 彼女の手を包み込むように、ぽんぽんと撫で感謝の微笑みを贈る。
「貴女が居てくれて、良かった」
「ーー」
 咲の瞳がほんの少し、揺れる。涙の膜に、堪えるようにくしゃり、と少女は笑った。
「ありがとう、ございます。……えぇ、私も」
 観覧車が回る。遠く、見えた園内では子供達に教えてもらった遊具の前を駆けてゆく少女たちの姿が見えた。抱き上げたのは両親だろう。強く強く回る腕は、腕の中に大切な子供は確かに猟兵たちが守り抜いたーー命だ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

カーティス・コールリッジ
おれの周りは生まれたときから大人ばかり
覚えているのはラボの天井と水槽と、それから――

星海の民は平和を勝ち取ったのだと
しらせを受けたのはクルーが集まって昼食をとっている時だった

おれは怖かったんだ
戦うためだけに生み出されたおれは
このさきどうなってしまうのだろうと

でも、船のあり方は変わらなくて
おれは、あのちいさな船にいて良いんだって知った
いまはまだ、戦うことでしかみんなに恩返しが出来ないけれど
おれはただの『実験体』じゃなくていいんだって
それがとても、うれしかった

おれは同じ年頃の子どもをしらない
だから、子どもたちに一緒に遊んでもらうんだ
今度はほんとうの『ともだち』になりたくて

ね、おれもなかまに入れて!



●願い星
「ねぇ、あっちのジェットコースター乗って良いんだって!」
「ふぅん。でもでもわたしは、ミラーハウスの方が良いな!」
 手を取り駆け出す子たちは、友達なのだろうか。それとも、此処で気があったのか。ジャンケンで行き先を決める姿を、どこか遠くを見るようにカーティス・コールリッジは見ていた。自分と同じーーそう、同じ背丈くらいの「ひと」を。
「……」
 おれの周りは生まれたときから大人ばかり。覚えているのはラボの天井と水槽と、それから――。
 喉が、張り付くような嫌な感覚があった。は、と落とした息が、ほんの少し震えた。
 星海の民は平和を勝ち取ったのだとしらせを受けたのはクルーが集まって昼食をとっている時だった。
(「おれは怖かったんだ。戦うためだけに生み出されたおれはこのさきどうなってしまうのだろうと」)
 宇宙艇『Clunker』の乗組員兼パイロット。
 それが、カーティスの仕事でありーー存在意義でもあった。
 勝利の果てに、何が訪れるのか。
 戦争は終わったというのならーーと。けれど、船のあり方は変わらなかった。
(「おれは、あのちいさな船にいて良いんだって知った」)
 いまはまだ、戦うことでしかみんなに恩返しが出来ないけれど。おれはただの『実験体』じゃなくていいんだって。
「それがとても、うれしかった」
 唇からひとつ、声が落ちる。
 カーティスは息を吸う。言葉は、少し離れたそこで遊ぶ子どもたちに。一歩、二歩と近づいて。振り返った子にーーあの時、手を握った子に、笑ってカーティスは告げた。
「ね、おれもなかまに入れて!」
 今度はほんとうの『ともだち』になりたいから。
 飛び込んだ先、子供達は顔を見合わせてーーそうして、頷いた。
「うん、いいよ!」
 さぁ、今度は一緒に何処にいこう?

大成功 🔵​🔵​🔵​

空廼・柩
遊園地、ねぇ…
この年になって遊ぶって柄でもないし
きっと子供達も他の人が遊んでくれる、って
不意に視線が子供と合う
あれは確か硝子片持って襲ってきた子
満面の笑顔で遊びに誘われなんてしたら流石に断れないんだけれど
…はあ、仕方がないな
ほら行くよ、何処に遊びに行きたいの?

辿り着いたのは巨大な観覧車
子供と二人で乗っても何を話せば良いのか分らない
移りゆく空を眺めつつ子の会話に相槌を打つしか出来ない自分が情けない
…ただ、もしかすると
空の美しさ位は、語り合う事が出来るかもね
観覧車の最上部から眺める空は手を伸ばせば掴めてしまいそう

…え、何?
俺が笑顔になってるって?
う、五月蝿いな…俺だって綺麗な物を見たら笑顔になるよ



●夕暮れ時に出会うのは
「ねぇ、次はどこにいこう!?」
「どこがいい、かな?」
 わいわいと賑わう子供達を相手に、遊園地のマスコットらしき着ぐるみたちが手をあげる。こっちだと告げる為か、それとも転ばないようにと告げる為か。華やかな電飾に眼鏡の奥、空廼・柩は瞳を細めた。
「遊園地、ねぇ……この年になって遊ぶって柄でもないし。きっと子供達も他の人が遊んでくれる」
「……」
 他の人が遊んでくれるーー筈だった。
 不意に視線があったのは黒髪の子ども。目があったのにこちらが気がついたのが分かったのか、ぱぁっと瞳が輝く。ーー礼拝堂で見た時とはまるで違う表情で。
「おにいさん、おにいさんも遊ぼう?」
 あの時、硝子片を持って襲ってきた少女が柩の前に立つ。ぱたぱたとやってきて、あのね、とやわく落ちた声と共に紡がれたのは遊園地へのお誘い。
「いっぱいいっぱい遊べるとおもうの。だからね、いっしょにあそぼう?」
 断れないとは、このことだ。
「……はあ、仕方がないな。ほら行くよ、何処に遊びに行きたいの?」
「ありがとう、おにいさん。あのね、おっきなところ」
 おっきくてきれいで、たかいの。
 両の手で形をつくった少女に手を引かれるまま、辿り着いたのは巨大な観覧車であった。確かに、大きくて高い。
「わぁ……すごい、すごいたかい!」
 ゆっくりと上がっていくゴンドラに、少女が目を輝かせる。観覧車を見送るように、着ぐるみたちが手を振っていた。いってきます、と笑う少女の手に傷はない。硝子片を握った傷も、何ひとつ。
「みらーのおうちも、ぜんぶ小さくみえるんだ……わぁ!」
「あぁ」
 観覧車の椅子から、足を下ろすのが少しドキドキするとか。鳥よりも高いところにいるだとか。移りゆく空を眺めつつ、少女の会話に相槌を打つしかできない自分が情けない。
 ガタン、とゴンドラが揺れた。きゃ、と小さく落ちた少女の声は、だがすぐに、わぁああ、と感嘆に変わる。
「すごい、すごい……!」
「ーー」
 それは、観覧車の頂上から見えた夕暮れであった。どこまでも続く空を夕焼けが染めていく。きら、きらと輝いて見えるのはどうしてだろうか。手を伸ばせば掴めてしまそうな空に、柩は小さく息を飲む。
「おにいちゃん、たのしいね」
「……え、何?」
 にこにこと、笑う少女が自分のほっぺたに触れる。にこり、と笑って見せるのはーー柩もそうだ、ということか。
「俺が笑顔になってるって? う、五月蝿いな……俺だって綺麗な物を見たら笑顔になるよ」
「きれーなの、よかった」
 わたしもだいすき、と少女は笑う。よかった、と告げるのは笑顔になった柩にか。夕暮れ時、穏やかな時間がゆっくりと過ぎていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

閂・綮
◾️アドリブ歓迎

(見慣れない風貌。不思議な雰囲気に気圧され、遠巻きに眺めていた子ども達に転機が訪れた。)
(ひとり、男に駆け寄り抱擁をせがむ者がいた。それに快く応じる姿を見るや否や、子ども達は文字通り彼に体当たりをしたのである。)

報告、御苦労だった。シノア。
…その格好はどうしたか、と?

外套は遠慮なく掴まれたために皺が寄り。飾り紐は弛んで不恰好になってしまった。
挙句に、あちらで見世物が始まると聞いて駆けていってしまった。全く、剛胆なものよ。

…付け込み、唆し。命を奪ったのは確かにあの邪神であったのだろう。だが 一一

あの双子が袂を別つ、その発端となったのは。
誰の言葉であったのだろうな。

(日が、沈む。)



●宵
 凡そ、子供というのは勇気に溢れているのかもしれない。それは時として無謀と語られるものであり、時として『子供ゆえ』と謳われるものであったかもしれないがーー事実として、ひとり、長身の男をじっと眺めるばかりであった子供達の中から、ぱたぱたと駆け寄る少年がいたのだ。
「ねぇ」
 見慣れぬ風貌に臆することも無く、不思議な雰囲気に気圧される事も無いままに駆け寄ってきた子供が閂・綮を見上げる。
「なんだ?」
「うん。あのね、すごくおっきいから、ねぇ、抱っこ!」
 ぴょんぴょんと跳ねて、両の手を伸ばす子供は綮の背が高いからとねだっているのだろう。遠巻きに見ていた子供達が小さく、ざわつく。だが、ぴょんぴょんと跳ねる少年には関係の無いことなのだろう。
「だめ?」
「ーーいいや」
 快く応じて、両の腕で抱き上げれば、わぁっと少年は声を上げる。男の子、と言った方が言葉としては似合うのか。肩車をすれば遠巻きに見ていた子供達も声をあげた。
「わぁ……! 高い!」
「いいな、いいな! ねぇ僕も!」
「ねぇわたしも!」
 ぱたぱたと駆け寄って、体当たりするように抱きついてきた子供たちが手を伸ばす。ぴょんぴょんと跳ねる子供達も抱き上げて仕舞えば、あとはもうーー。

「報告、御苦労だった。シノア」
「ありがとう」
 報告を終えて園内へと戻ってきたシノアが小さく、瞬く。
「その姿は……?」
「あぁ、子供達がな」
 外套は遠慮なく掴まれたために皺が寄り。飾り紐は弛んで不恰好になってしまった。
「挙句に、あちらで見世物が始まると聞いて駆けていってしまった。全く、剛胆なものよ」
 やれやれと息をついた綮に、シノアは吐息を零すようにして笑った。
「人気者だったのね」
「見世物に負けたがな」
 軽く肩を竦めーーだが、オレンジの瞳は子供達の賑わいに柔い色を宿す。夕焼けに長く伸びた影は、やがて落とす息と共に揺れる。
「……付け込み、唆し。命を奪ったのは確かにあの邪神であったのだろう。だが ーー」
 視線を上げた。白い髪の向こう、零す吐息と共に瞳は小さく細められた。
「あの双子が袂を別つ、その発端となったのは。
誰の言葉であったのだろうな」
 それは別段、問いであったわけでも無いのかもしれない。紡ぎ落とした言葉は風に揺れ、だが言葉を交わし合う距離であれば届く。遠く、賑わいへと一度目をやったシノアは一度、小さく瞳を伏せた。
「ーー……、そうね」
 ゆっくりと瞳をひらけば、その赤は僅かに光を零す。
「この目に視えたのは事件への関わりで、あの二人の人生へ関わることはできなかった。ーーその上で、私が言えることといえばご両親から聞き及んだ話だけだけれど」
 例えば、先に家を出ようとしていたのは兄の方であったと。それを知った妹が、家出をしたのだと。最後の出かけの前、兄は「ハルノが泣いている」と言っていたのだと。
 だがそれは誰かの『言葉』を受けてからのことだ。起点が何であったのかは、こちら側では知れぬ儘。
「あの二人に正解はあったのか。そもそも、正解など……」
 僅か遠くを見て、いいえ、とシノアは息を落とした。
「私が語れる話では無かったわね」
 双子へと告げられた言葉は何ら悪意は無かったかもしれない。ほんの世間話のひとつであったのかもしれないーーだが、だからこそ、彼らの関係を揺るがす程に響いてしまったのかもしれない。
「……」
 子供達の迎えは、ゆっくりと進んでいるのだという。やがて黄昏時が終わりーー日が沈む頃には皆がこの地を去るだろう。夢のような時を過ごし家族の元へ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鮫島・冴香
【WIZ】
記憶に残っていないのね、良かった…。
夕暮れ時の遊園地もキラキラしていてきっと楽しいわ。
楽しい遊園地だけの記憶が残りますように。
…私も、一緒に?(戸惑い)
(子供に微笑みかけられたら)
私で良ければ、喜んで。

■交流
手を繋ぎ、はぐれないように。
どうしても。
自分に子が産まれていたら…と想像してしまうけれど。
小さな手の暖かみを感じながら
(そう思ってしまうのは、今、隣にいてくれるこの子に失礼ね)
軽く頭を降り、笑顔を見せ。
「さぁ、どこに行きたいかしら?」

夕暮れ時の観覧車。
見下ろす街並みと楽しそうな子供の顔。
「綺麗ね」
笑みが溢れる。
子供達に素敵な思い出が沢山増えますように。

※アドリブ、絡み大歓迎です!



●煌めきを重ねて
「わぁ……! じぇっとこーすたー!」
「お馬さんもあるの? きらきらの鏡もあるんだ!」
 他には何があるのだろう? と一人が首を傾げれば、遊園地のマスコットがやってくる。ぱたぱたと駆け寄る姿はみんな元気で鮫島・冴香は、ほっと、息をついた。
「記憶に残っていないのね、良かった……」
 夕暮れ時の遊園地はキラキラとしていて、きっと楽しいだろう。何時もだったら、もしかしたら帰っている時間。子供にとっては少しの夜更かしかもしれない。
「楽しい遊園地だけの記憶が残りますように」
 願うように、そっと紡げば、ぱたぱたと駆け寄る足音が耳に届いた。
「あら。迷子になってしまったの?」
 じ、と冴香を見上げてきた少年に、膝を折る。視線をあわせれば、ちがうよ、と少年は首を振った。
「ねぇ、いっしょにあそぼ?」
「……私も、一緒に?」
 戸惑う冴香に少年は微笑んだ。
「うん!」
「私で良ければ、喜んで」
 幼稚園の年長くらいだろうか。男の子、という言葉がまだよく似合う子供と、はぐれないように手を繋ぐ。あのね、と遊園地のあちこちを目指して歩き出しては、駆け出しそうになる子に思わず、笑みが溢れる。微笑ましい気分であるのは確かなのにーー胸の奧がほんの少し、軋む。
「……」
 自分に子供が産まれていたら……と、そう思ってしまう。けれど、つい、とひく手に。その暖かさを感じながら冴香は小さく頭を振った。
(「そう思ってしまうのは、今、隣にいてくれるこの子に失礼ね」)
 お姉さん? と振り返る子に、冴香は笑顔を見せた。
「さぁ、どこに行きたいかしら?」
「えっとね。観覧車! すごいおおきいんだよ!」
 手を引かれて、一緒になって少しだけ走り出す。よーいどんだね、と笑う子と一緒に辿り着いたのは夕暮れ時の観覧車。
「わぁあ……すごいたかいよ! いちばんたかい!」
「綺麗ね」
 見下ろす街並みと楽しそうな子供の顔。
 思わず、笑みが溢れた。
 子供達に素敵な思い出が沢山増えますように、と願うように冴香は微笑んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

八坂・操
【SPD】

子供が無事でハッピーエンド! イェーイ! という訳で、遊園地で遊び尽くしちゃおう♪ エンドクレジットと一緒に後日談が流れてるのとか、操ちゃん大好きなんだよね☆
行くのは勿論お化け屋敷♪ ホラーなものには目がない操ちゃん☆ あんな事があって行き難いだろうし、子供達は連れずにお一人様ご案なーい♪

生まれ出づる時と事切れる時は共に一瞬、然れどその過程は久年に等しい。
心は自身に、言葉は相手に。向けるべき方角を赤の他人に任せたが故の結果だった。彼らを諭す人間が居れば、また結末は違ったのだろうが……。
死んでからの医者話に興じる真似はしない。私に出来る事は、ただ手を合わせ、黙祷を捧げるだけだ。
「……」



●送り日の
「ねぇ、あっち。あっちも行こうよ!」
「えー、次はこっちだよ。ミラーハウス!」
 右に左に。夕暮れ時に、子供達は賑やかだ。迎えが来る時まで、夢見心地な子供達は遊園地での時間を楽しむのだろう。
「子供が無事でハッピーエンド! イェーイ! という訳で、遊園地で遊び尽くしちゃおう♪」
 ぱたぱたと軽い足音を耳に、とん、と八坂・操は階段を降りる。
「エンドクレジットと一緒に後日談が流れてるのとか、操ちゃん大好きなんだよね☆」
 ゆるり、と瞳は弧を描き、賑わいの中をするり、と抜けていく操に気がつく者はいない。目立たずに歩いていた所為か。向かう先はお化け屋敷だ。子供達は連れずに、一人で向かえばーーしん、と静まり返った空間が操を出迎えた。
「……」
 靄はなく、不自然に冷えた空気も無い。当初の開発予定通り、お化け屋敷としてあるのであれば似合いであっただろう。
 夕日の差し込む礼拝堂に、カツン、カツンと操の足音だけが響く。硝子片が散らばって、キラキラと光って見える。戦いの後が残る空間に『他の』気配は無い。
「生まれ出づる時と事切れる時は共に一瞬、然れどその過程は久年に等しい」
 心は自身に、言葉は相手に。向けるべき方角を赤の他人に任せたが故の結果だった。
「彼らを諭す人間が居れば、また結末は違ったのだろうが……」
 死んでからの医者話に興じる真似はしない。
 落とす息も無く、ただ瞳は真っ直ぐに二人の最後の場所へと向けられていた。
「……」
 私に出来る事は、ただ手を合わせ、黙祷を捧げるだけだ。
 伏せた瞳。合わせた手のひら。
 そこで漸く、風が吹いた。さぁあ、と操の黒髪を揺らし、風は行く。礼拝堂を通り抜け、外へと出ていくようなーー吹き抜ける、風が。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジナ・ラクスパー
幼い頃の思い出はずっと心を暖めていくもの
怖い記憶が後に残るものにならなくて本当によかった
でも、とびきり楽しい思い出にはまだ足りないから
私と一緒に遊びませんか?
目線を低く、手を差し出して

実は初めての遊園地
小さなジェットコースターに目を白黒させたり
閉じ込められそうな合わせ鏡に慌てたり
アライグマさんはこの勇者さんだったのですね!
記憶の片隅で、ぬいぐるみが頼もしいものであるように

観覧車から境界の色を望んで、あのお二方をつい思う
ずっと一緒にという望みをわかるには
何もかも足りないけれど
一緒に見つめたこの景色は
胸の底に煌めく、届かない宝物になっていたのでしょうかと
そう思うと少しだけ、灼けつく心地がするのです



●心に残るもの
「ねぇ、次はなにをしよう?」
「ジェットコースターだよ。どーんってはやいやつ! いろんな所が見えるんだよ!」
 びゅーんって早いのだと一人が言えば、だってまだだめなんだよ、と一人が眉を下げる。
「もうちょっと、おっきくならないとダメだって」
 残念そうに、けれどどこかそわそわとしながら、夕暮れ時の遊園地に子供達の賑やかな声が響く。
「……」
 それは、何処までも楽しげな声だった。礼拝堂で聞いたどれとも違う。楽しそうで、まだ何処か夢心地で。でも元気にぴょんぴょんと跳ねる。
「幼い頃の思い出はずっと心を暖めていくもの。怖い記憶が後に残るものにならなくて本当によかった」
 ほう、とジナ・ラクスパーは安堵の息をついた。差し込む夕日は変わらずとも、こんなにも見える景色が違う。あっちにいこう、でもこっちは? と賑やかな子供達に、ジナは、すぅ、と息を吸って、とん、と歩き出す。だってそう、とびきり楽しい思い出にはまだ足りないから。
「おねえさん?」
 あの時、ジナの元へと飛び込んできた少女が小さく首を傾げている。少しの驚きは、きっと声をかけられたからだろう。覚えていないから、少しだけ驚いて。それで良いのだけれど、ほんの少し胸の奥が軋む。苦しい訳でも、泣きたい訳でも無いままに、ふ、と吐息を零すようにエルフの娘は告げた。
「私と一緒に遊びませんか?」
 目線を低くして、手を差し出せば驚いていた少女は、ぱち、ぱちと瞬いて。ほんのりと頬を染めて、頷いた。
「うん!」
 そっと置かれた手に微笑んで、立ち上がればわぁっと周りから声が上がる。騎士さまみたいだと言ったのは少年だったか。賑わい出す子供達に誘われるがままーーさぁ、夕暮れ時の遊園地へと出発だ。
「これが、ジェットコースター、ですか?」
「そうなの。小さいけれどね、どびゅーんっていくんだから!」
 だからね。ほんの少しだけ怖いのだと小さく内緒話のように告げた少女に、ジナは秘密ですね、と頷く。それじゃぁ、それなら何処に行こう、と向かった先は大きな花の扉。ミラーハウスの洋館。
「アライグマさんはこの勇者さんだったのですね!」
「わぁあ、ゆうしゃさんだ!」
「だからあの道が分かったんだね」
 閉じ込められそうな合わせ鏡に慌てていれば、こっちだと道を示していたのはシルクハットのアライグマ。真摯なかれの姿は、あのときのぬいぐるみより少しだけ大人びていただろうか。記憶の片隅で、ぬいぐるみが頼もしいものであるように願うように、一緒になってミラーハウスの冒険を終える。実は、初めての遊園地だったのだ。見るのも、体験するのも何もかもが真新しくて心が踊る。こっち、と手を引く子供に笑って、最後にたどり着いたのは大きな観覧車だった。
「……」
 空の青に、夕焼けの赤。混じり合うようで一緒にはなれない。夕暮れが訪れれば空の青は消えていく。観覧車から境界の色を望んで、ジナは双子のことを思う。
(「ずっと一緒にという望みをわかるには何もかも足りないけれど」)
 頂上へとゴンドラが辿り着く。わぁ、と声をあげる子供たちのように、あの二人も声をあげたことがあったのだろうか。
(「一緒に見つめたこの景色は胸の底に煌めく、届かない宝物になっていたのでしょうか」)
 そう思うと少しだけーー灼けつく心地がした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

彩瑠・姫桜
あお(f06218)と

あおと一緒に、子供達と遊ぶわね
ちょっと、あお、子供達と一緒にはしゃぎすぎでしょ?!

最後はあおと二人で観覧車に乗るわね

(窓の景色を見つめたまま、こちらを見ない親友が、どんな表情をしているのかは
なんとなくわかる)

絆と呪いの境界線は、確かに曖昧よね
でも、そういうのって、気にしなくていいって、私は思うわ

私達は、生きているんだから変わり続けるわ、これからも
…でも、変わりながら、その時その時で、一緒に考えていけばいいんじゃないかしら

私にとっても、あおは大切な親友だしね
…あおが嫌だっていっても、私は離れないわよ、安心しなさい
(窓の外を見ながら泣いている親友の背中を撫でながらそう言って)


榎木・葵桜
姫ちゃん(f04489)と

子供達と一緒ならできるだけ賑やかに楽しく遊びたいな
観覧車だって、皆で乗っていろんな景色を賑やかに楽しめるもの
何回でも乗っちゃうよー

でも、最後は姫ちゃんと二人で観覧車に乗りたいな

ずっと一緒に、って、想いは、いつから呪いになっちゃうんだろうね
(窓から見える景色を、空を見つめながら、ぽつりと零し)

変わらないままでは居られなかったとしても、私は
大好きな人達と、ずっと一緒に居たいよ
(双子の兄妹が抱いた想いだって、最初はそんなシンプルなものだったはずなのに
どうしてこうなってしまったのだろう)

(答えなんてない呟きに対して応えて背を撫でる親友の手の暖かさに
いつしか声を上げて泣き始め)



●願い、思い
「すごい、ねぇすごい高かったよ!」
「ほんとに高かったねー。あのお山もすごかった」
「え? 見てない?」
 そうなの? と一人が首を傾げれば、コクリと頷いた一人がじっと、観覧車を見上げる。気になるのだろう。うう、と行きたそうな顔をする少年に「うんうん」と榎木・葵桜は明るく頷いた。
「もう一回、行ってみたいよね。何回でも乗っちゃうよー」
「ほんとに!? ありがとう、おねえちゃん」
 よーし一番乗りを目指して出発、と少年と手を繋いで駆け出した葵桜に「わたしも」ともう一人が駆け出していく。ぱたぱたと、走り出す三人は楽しげに。ゴンドラの扉をあけて、手を振っていた。
「姫ちゃんこっちこっち」
「ちょっと、あお、子供達と一緒にはしゃぎすぎでしょ?!」
 彩瑠・姫桜の言葉に、そうかなぁ? と葵桜は首を傾げる。真似っこするように、そうかなぁ、と子供達が一緒になって首を傾げれば、顔を見合わせて笑った。
「おねえちゃん、ねぇ、こっちこっち」
「じゃぁ、ぼくはおねえさんの隣がいいな」
 向かい合って席を取り合って、ぽすりと座る子供達にあるのは笑顔だ。破片を持って飛びかかってきた時とはまるで違う。
(「……うん」)
 出来るだけ賑やかに、楽しく子供達と遊びたいとそう、葵桜は思っていたのだ。ミラーハウスの冒険も一緒になって駆け抜けて。呆れたように息をつく姫桜に、こっちだよと笑って。親友はそんな葵桜の様子に気がついてか、いないでか、はしゃぎすぎだと息をつく。
「……」
 そうして最後、子供達を見送ってから葵桜は姫桜と一緒に観覧車に乗っていた。ゆっくりと上がっていくゴンドラ。空を目指す中で、夕暮れの色彩が青い空を染めていく。
「ずっと一緒に、って、想いは、いつから呪いになっちゃうんだろうね」
 窓から見える景色を、空を眺めながら葵桜はぽつり、と零した。どんな風に、どんな思いであの双子は此処からの空を眺めていたのだろう。
「変わらないままでは居られなかったとしても、私は大好きな人達と、ずっと一緒に居たいよ」
 声が、小さく震えた。胸が、ぎゅ、と痛い。
(「双子の兄妹が抱いた想いだって、最初はそんなシンプルなものだったはずなのに」)
 どうしてこうなってしまったのだろう。
 分からなくて、どうしたら良いかも分からなくて。天へと近づく景色の中、ただ、染まる空を見る。
「絆と呪いの境界線は、確かに曖昧よね」
 藍の瞳は、窓の向こうの景色をーー空を眺めたまま黒髪がその表情を隠していた。
 窓の景色を見つめたまま、こちらを見ない親友が、どんな表情をしているのかはなんとなくわかる。
「でも、そういうのって、気にしなくていいって、私は思うわ」
 ほんの小さく揺れた声。小さく、揺れた瞳に姫桜は吐息を零すようにして告げた。
「私達は、生きているんだから変わり続けるわ、これからも」
 でも、と姫桜は言った。
「……でも、変わりながら、その時その時で、一緒に考えていけばいいんじゃないかしら」
 正解のない問い。親友の呟きに、絶対の答えは無いのかもしれない。けれど、金の髪を揺らし姫桜は言った。
「私にとっても、あおは大切な親友だしね」
 そっと、背を撫でる。頬を伝う一筋の涙に、煌めくそれを拭うことはなく。けれど、背を撫でることはやめずに。
「……あおが嫌だっていっても、私は離れないわよ、安心しなさい」
「ーーっ」
 堪えきれなかった声が、落ちた。姫ちゃん、と葵桜は声を上げる。頷いてくれる親友をもう一度呼んで、そうして声を上げてーー泣いた。

●あなたの腕の中で
 日が沈む。1日が終わろうとしていく。黄昏時は過ぎ、やがて夜の空に星が瞬く。微睡みの中、時の影に留まり続けた子供達は親兄妹の腕の中、漸く意識を取り戻すのだろう。全員が無事に救出され、誰もが家に帰る。あの双子を除いて。
 願いを抱いた二人の約束は、果たして守られたのか。
 袂を別つ筈であった二人は、共に終わりの先へと向かえたのか。
 そこに明確な答えなど無くーー祈りと願い、憂と涙、惑いを抱いて猟兵たちは夜を迎えた遊園地を後にする。弔いの風が吹く地を、儘ならぬ思いを抱いたまま。
 誰にも知られず終わる筈だった二人が告げることとなった事件は、行方不明になった子供たち全員の救助という形で終わりを迎えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年03月12日


挿絵イラスト