闇の救済者戦争⑮〜憤怒の魔竜
●予知:紋章の祭壇にて。
夜と闇に覆われたダークセイヴァーの大地。
第五の貴族の中でも限られた者だけが運用を許されていた、第五層に存在する生体実験室。
ここで作り出される「紋章」は、ヴァンパイアたちに大いなる力と異形の攻撃手段を与えているのだ。
その一角、荒れ果てた荒野に残るかつて施設があったと思われる廃墟。
そこに鎮座する祭壇に、オブリビオンが一人立っていた。
「………………」
憤激魔竜『イラース』。
憤怒を司る異端の神の眷属になってしまったドラゴン。
世界や神、あらゆる存在への怒りに支配され、憤怒の感情しか残っていない第五の貴族。
怒りの感情しか残されていない自分自身への憤りすらも強大な炎に変えて、憤怒の感情を放ち続ける怒りの化身。
「…………燃えろ」
おびただしい犠牲を経て作り出した紋章を身に宿したイラースは、ただただ怒りを炎に変えて、辺り一帯を焼き払う。
廃墟の中にはイラースの元で働いていたオブリビオンたちの残骸が、灰塵と化して転がっている。
全てを焼き尽くす炎は留まるところを知らず、延々と荒野を燃やし続けていく。
「……燃えろ。燃えろ、燃えろ! 燃えろっっっ!!」
憤怒を燃やす以外のすべてを失った魔竜が、ダークセイヴァーの大地を焦がしていく。
その身に宿した紋章が輝く限り、決して消えることのない炎が広がっていく。
●招集:灼熱の伝播を食い止めろ!
「ハーイ、エブリワン! 次なる強敵が予知されマシタ!」
闇の救済者戦争の最中、バルタン・ノーヴェが新たな予知を発見したと猟兵たちに招集をかける。
プロジェクターに映し出されるのは、異形であり漆黒のドラゴン。
石造りの祭壇の上で身動きすることなく佇み、ただただ炎を撒き散らすだけのオブリビオンが写されていた。
「今度のターゲットは、憤激魔竜『イラース』!
第五の貴族としてここで活動していたようデスガ、憤怒の感情しか残されていないオブリビオンであるため全てを燃やし始めてしまったようデース!
『紋章』の力も相まって、放置すれば延々とダークセイヴァーの大地が焼畑農業されてしまいマスネ!」
積極的に動き出す様子はないが、イラースが放つ炎の範囲は徐々に広がっているらしい。
本来ならば射程が定められているはずのユーベルコードが効果範囲を広げている理由は、イラースの有する紋章にあるという。
「イラースのボディに装備されている紋章は、膨張の紋章!
シンプルに、力の規模が広がり大きくなっていくという厄介なものでありマース!
その力は、だいたい分速二乗のペースで広がっていくようであります!」
ここで軽く数字の話をしよう。
分速二乗で広がるということは、仮にユーベルコードの開始時の影響範囲が100mだった場合、一分後には10kmに、二分後には10万km、三分後にはまともに数えられない規模になる。
猶予を与えれば与えるほど、無差別に焼き尽す炎が広まっていくことになる。
「なので、早急な対処をお願いしマース!
転移した段階では発動直後なので、速攻で炎が広がる前に撃破すれば被害は抑えられマース!
また、この紋章には弱点があり、怒りを抑えるような力……優しさや浄化、落ち着かせるような効果をイラースに浴びせることで機能が一時的に停止するとのことであります!」
膨張の紋章は、憤怒に支配されたイラースの感情に呼応しているのだろう。
イラースを宥め、あるいや癒すことができれば紋章の力を抑えることができる。
その隙に燃え盛る炎を突破してイラースを撃破すれば、事態は解決することができる。
「戦わずに勝つ、というのは難しいかもしれマセンガ……怒りに支配されたイラースを解放することができれば、彼もきっと救われるデショー!
細かな方法はお任せしマース! 皆様、よろしくお願いしマース!」
そして、バルタンはグリモアを起動して祭壇近くの荒野までのゲートを用意する。
至近距離に出て炎の中で戦うか、遠距離に出て炎の外から戦うか、猟兵たちの裁量に合わせて出現位置は調整される。
無差別な憤怒を振りまく魔竜を撃破するために、猟兵たちは足を踏み出した。
リバーソン
こんにちは。リバーソンです。
マスターとして皆様に喜んでいただけるよう、つとめさせていただきます。
今回のシナリオは一章構成です。ダークセイヴァーの戦争シナリオとなります。
見通しのいい荒野の中、祭壇に立つ憤激魔竜『イラース』を鎮圧することが目的です。
イラースは常時全てを焼き尽くす炎のユーベルコード《燃えろ》を行使し続けているため、炎への対策や超遠距離からの攻撃手段が必要と思われます。
また、イラースの紋章の「弱点」を突かない限り、イラースを撃破できても周辺一帯に甚大な被害をもたらすことになります。ご注意ください。
プレイングボーナスは、『紋章の「弱点」を突いて戦う』ことです。
オープニング公開後の断章はなく、公開後すぐにプレイング受付開始となります。
プレイングの受付期間はタグにてお知らせいたします。
皆様、よろしくお願いいたします。
第1章 ボス戦
『憤激魔竜イラース』
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POW : 燃えろ
【レベルの二乗m半径内全てを焼き尽くす炎】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD : 燃えろ
【レベルの二乗m半径内全てを焼き尽くす炎】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ : 燃えろ
【レベルの二乗m半径内全てを焼き尽くす炎】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
イラスト:FMI
👑11
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「須藤・莉亜」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
エインセル・ティアシュピス
【アドリブ連携歓迎】
ダークセイヴァーはつらいことばっかしで、
にんげんさんもオブリビオンもつらそうなおかおばっかし。
たたかわなきゃいけないけど、たすけてあげたいにゃーん。
【式神使い】でにゃんげいざーをよぶよ!
【多重詠唱】で【属性攻撃】と【結界術】をまぜておみずのバリアをつくるの!
それをにゃんげいざーにかけて、まもってもらいながら(【かばう】)
ドラゴンさんのとこまでつれてってもらうよ。
それで【浄化】と【破魔】のちからをこめて【指定UC】でおはなしするの!
ねえねえドラゴンさん、なにがそんなにつらいの?
ぼくでよかったらおはなしきくよ!
ずっとおこりっぱなしだとつかれちゃうから、やすんでほしいにゃーん。
夜刀神・鏡介
オブリビオンなんて大体碌でもないことばかりやってくる連中だが、それにしても周辺一帯を丸ごと焼き尽くすなんて冗談じゃない
神刀の封印を解除して、廻・参の秘剣【紫電閃】を発動
紫紺の神気によって全能力を大きく上昇
代償として約2分の制限時間が生まれるが、今回は短期決戦を決めなければ碌な事にならないし
ついでに、相手の炎に耐えながら戦える時間もそう長くないから、実質的には影響なし……ということで
斬撃波で炎を切り裂いて、イラースの元へ一気に接近
正直、こういうのは流儀じゃないけれど、強化した能力に任せた力押し
一太刀振るうと共に炎を切り裂くことで直接焼かれる事だけは避けつつ、制限時間ギリギリまで斬り続けよう
メンカル・プルモーサ
……二乗は良くないよ二乗は…気軽に使うとあっという間に世界を覆いつくすからね…
…対処としては炎の対策と落ち着かせる方法と…それじゃ…さっさと倒すか…いやほんとに
…まずは【竜屠る英雄の詩】を発動……そのうえで術式組紐【アリアドネ】を周囲に張り巡らせて結界を張って炎を防ぐとしよう…
…そして復元浄化術式【ハラエド】を付与した医療製薬術式【ノーデンス】で鎮静薬を調合…あたりに散布することでイラースの精神を一時的に落ち着かせるとしようか…
…炎の勢いが止まったなら竜殺しの力を宿した黎明剣【アウローラ】から魔力の刃を伸ばしてでイラースを斬ってしまうよ…
御形・菘
【邪神組】
農業であれば、後には作物が実るのであろうがな
無計画に燃やすと大惨事! ストップ無責任!
妾は当然、左腕の届く至近でバトるに決まっておる
だが今回使う技は、覇気やオーラをぶつけての強制的なクールダウンだ
はっはっは、普段は皆のテンションをアゲる方に活用するが、もちろん逆にサゲる技術だってある!
妾はデキるからのう!
お陰でオーラを炎の防御に回せんが、此度のバトルには、撮影するだけでなくバトルを手伝ってくれる天地が、後方から支援してくれておる!
はーっはっはっは! お主の怒りの炎程度で、妾と天地の絆を、妾の身を! 燃やし切れると思わんことだ!
さあ、盛大にボコられてブッ飛んで、もっと頭を冷やすがよい!
アイズ・グナファリ
【邪神組】
紋章の力とはなんて不条理極まりない
これほど強力であれば、生産のためにどれだけの犠牲も許容できると
ふん、そんな感性の者たちなど理解したくもない
出現は敵から二、三百mほど離れた位置へ
意識がこちらに向かないようにトランスペアレンシーの光学迷彩を起動
射撃を当てるには少々つらい距離だが、主様の撮影を行うカメラとしてであれば普段の通り、あまりにもイージーな距離だ
私の視線が、応援が届く限り、主様は絶対的に最強だ
本当はそもそも怪我をさせたくないのだが
そして私も、戦闘の邪魔をしない程度にデータ弾を撃ってダメージを与えていこう
イラース、お前の憤怒の炎は、素晴らしいバトル映像となって記録に残るよ
雪華・風月
【風花】
敵とはいえ、憤怒の感情しか残っていないというのは憐憫の情を覚えますね…
では澪さん、哀れな竜に救済を
澪さんの魔法で炎の勢いを弱めた上で
背の柳緑花紅…|妖刀の力《火炎耐性》にて炎への耐性を!
その怒りを『浄化』しますと刃邪剣正…雪解雫を『投擲』し
イラースの憤怒を断ち、沈めます!
紋章の機能が停止した一瞬で澪さんの鳥の炎を背に纏わせて羽ばたくのに合わせて『ダッシュ』し近寄り
突き刺さった雪解雫を抜きます
そして上空へ飛び上がり、鳥の炎を纏った雪解雫にてその体を|唐竹割り《【切断】【切り込み】【焼却】》
栗花落・澪
【風花】
そうだね…優しさに反応するって事は
少なくとも感じる心は残ってる筈なのに
翼の【空中戦】で距離を取りつつ
炎の勢いを殺すように【高速詠唱】で水魔法の【属性攻撃、範囲攻撃】
水の魔力を織り込んだ【オーラ防御】で炎から身を護り
同じ炎だけど、この子達はただの炎とは違うから
少しくらい効き目があればいいけど
【浄化と祝福】を発動し
その身に宿す【破魔】の力で【浄化】
もしほんの少しでも止まってくれたなら
更にイラースさんを思いやり労わる【優しさ】を乗せた【歌唱】に【催眠術】を乗せて更に止まってくれたら
一部の鳥は風月さんの飛行、攻撃補佐のため手伝わせ
残りの鳥達による一斉攻撃
風月さんとの合わせ技で撃破狙い
兎乃・零時
アドリブ歓迎
…憤怒、怒りの力か
だったら俺様がやる事は単純だ
怒りも、何もかも、しっかり|消化《昇華》させてやる!
行くぜ夢想、俺様の全部をもって、イラースをぶっ倒す!
時間の勝負なんだ、出し惜しみは無しで行く!
全身に|全属性付与《フルエンチャント》で強化しつつ、UC!!
リミッター解除×呪詛耐性×魔力溜め×封印を解く×限界突破
桜魔の力は呪であり祝、故にその怒りもまた転じて変える、それだけの力はある!
夢想も、眠る夢であり願う夢、つまる所は想いの力
―――他の奴らもいるんだ、やれない事は無い、そうだろう!?
全てを焼き尽くすというなら、神櫻の花弁を舞わせて広範囲に広げ其の炎を抑え妨害しつつ防げば他の皆も俺様も無事!
例えお前が何であれ、今の俺様は神力も魔力も呪力も、遍く全てを束ねた状態
故に俺様は最強最高の魔術師なんだ、不可能なんざ、此の手には無いッ!
此の一撃に全てを注ぐ
唸れ櫻刀……イラースその怒り、お前の紋章の支配、全て切り裂くッ!
―――運命斬り拓く力を、此処に示せッ!
全てを込めた魔の一撃を叩きこむ…ッ!
●怒りの劫火に挑む者たち。
「燃えろ……燃えろ……!」
荒野にある祭壇にて、憤激魔竜『イラース』が自身の周囲すべてを焼き尽くす炎を放つ。
数十、あるいは百数メートル以内に存在するすべてのものを無差別に攻撃する高威力の炎が、『膨張の紋章』により加速度的に範囲を広げていこうとする。
そこへ、憤怒の灼熱による被害を食い止めるために猟兵たちが駆け付ける。
「ダークセイヴァーはつらいことばっかしで、にんげんさんもオブリビオンもつらそうなおかおばっかし。
たたかわなきゃいけないけど、たすけてあげたいにゃーん」
そう訴えるのは、羽根の生えた子猫の姿をした生命の守護神霊。
エインセル・ティアシュピス(生命育む白羽の猫・f29333)だ。
子猫らしく純真無垢で人懐こい性格のエインセルは、怒り狂うイリースを見て助けたいと思っている。
とはいえ、まずは無力化しないことには救うこともできないだろう。
「敵とはいえ、憤怒の感情しか残っていないというのは憐憫の情を覚えますね……」
「そうだね……優しさに反応するって事は少なくとも感じる心は残ってる筈なのに」
帝都桜學府に所属している學徒兵、雪華・風月(若輩侍少女・f22820)と、各地の戦場で大いに活躍しているオラトリオの猟兵、栗花落・澪(泡沫の花・f03165)は、眼前に佇むイラースを憐れみ、解放しようと意志を固めていた。
「オブリビオンなんて大体碌でもないことばかりやってくる連中だが、それにしても周辺一帯を丸ごと焼き尽くすなんて冗談じゃない」
「……二乗は良くないよ二乗は……気軽に使うとあっという間に世界を覆いつくすからね……」
サクラミラージュ出身の剣豪である夜刀神・鏡介(道を探す者・f28122)と、各世界の技術・魔法に類するものを研究・分析して身に着けてきたメンカル・プルモーサ(トリニティ・ウィッチ・f08301)は、強力なユーベルコードを発揮するイラースを食い止めるべく毅然として武器を構えている。
「農業であれば、後には作物が実るのであろうがな。
無計画に燃やすと大惨事! ストップ無責任!」
「……あれ。菘、燃えてない……?」「そうだが……大丈夫、そうだな?」
そして颯爽と最前線へ降り立ったのは、真の蛇神にして邪神たる動画配信者、御形・菘(邪神様のお通りだ・f12350)。
菘が出現した場所は、他の猟兵たちよりも先んじたイラースの前だ。
菘の『左腕』が届く至近距離で、《燃えろ》とばかりに憤怒の炎で燃えていた。
だが、その身が炎に焼かれようと、菘が燃え尽きる様子は一向に無い。
「紋章の力とはなんて不条理極まりない。
これほど強力であれば、生産のためにどれだけの犠牲も許容できると。
ふん、そんな感性の者たちなど理解したくもない」
その理由は、菘から遠く離れた位置にいる人型の分体を得たカメラドローン『天地通眼』。
菘に拾われ、撮影担当の相棒として各地を転戦してきたアイズ・グナファリ(天地通眼・f39200)のユーベルコード、《せなかをおす(セナカヲオス)》による支援によるものだ。
応援の祈りが命中した対象を治療する《背中を押す》力が燃え続ける菘を癒し続けているため、菘は元気に健在なのである。
更に、固い絆で繋がっている菘とアイズの双方の攻撃力を大きく増加する効果も持つ。
その祈りは、確かに通じているのだ。
「私の視線が、応援が届く限り、主様は絶対的に最強だ。
本当はそもそも怪我をさせたくないのだが」
「はーっはっはっは! 心配するな。天地はしっかりと妾たちの活躍を写しておくといい!」
「はい。主様。頑張れ」
イラースの標的にならないように、アイズは周囲環境をハッキングして光学迷彩を展開する機能を持つマント『トランスペアレンシー』を起動して目立たないように控えつつ、しっかりとカメラとしての役目を果たすべく撮影を開始する。
「……憤怒、怒りの力か」
最後に現れた、アクアマリンのクリスタリアン、最強の魔術師に憧れて研鑽を続ける若きウィザード。
兎乃・零時(|其は断崖を《遥か高みを》駆けあがるもの・f00283)もまた、怒りを放出させるイラースを倒すために駆け付けた。
その身体は、気力に溢れている。
「だったら俺様たちがやる事は単純だ。
怒りも、何もかも、しっかり|消化《昇華》させてやる!」
「にゃーん!」
八名の猟兵たちが各々の想いを胸に抱え、憤怒の魔竜に対峙する。
●魔を破り、浄め、まもる。
「まずは、護らないとね」
「ぼくもおみずのバリアをつくるの!」
澪は翼を広げて空中へ身を躍らせて炎から距離を取り、エインセルは優しき意思を持つロボット『鋼鉄猫帝ニャンゲイザー』を呼び出して守ってもらっている。
自身の安全を確保した二人は仲間たちを守るため、炎の勢いを殺すように水魔法を高速詠唱で展開する。
高度に組まれた水の魔力を織り込んだオーラが戦場に立つ猟兵たちを包み込み、炎に耐えられるように保護していく。
徐々に広がる炎に焼かれることなく、猟兵たちはイラースに向かって行く。
「鳥たちよ、どうかあの人を導いてあげて」
上空の澪が披露したのは、139個の多種多様な鳥の姿を模した飛翔する破魔の炎。
《浄化と祝福(ピュリフィカシオン・エト・ベネディクション)》だ。
「同じ炎だけど、この子達はただの炎とは違うから。少しくらい効き目があればいいけど」
「……燃えろ……」
イラースを浄化するべく放ったユーベルコードの鳥たちが、その身に宿る破魔の力でほんの少しでも膨張を食い止めようと怒りを緩ませる。
そして澪はイラースを思いやり、労わる優しさを乗せた歌を唱える。
激しい憤怒に包まれていたイラースが、すべてを焼き尽くす炎の膨張が、一瞬止まる。
その瞬間を見計らったように、炎の中にいる邪神が声を上げた。
●妾が燃えるドラゴンをボコってみた。
「はーっはっはっは! 温い、温いのう!」
「燃えろ」
イラースの足元で菘が笑みを浮かべながら、とびっきりのオーラをぶつける。
全身に纏わりつく灼熱の炎の痛みなど気にもせず、仲間たちのオーラ防御とパートナーの治療を頼りに強引に最前列に居座り続けて、菘は最高のパフォーマンスを見せつけるべく、ポーズを決める。
「妾が自在に変えて震わせてやろう、貴様の魂の温度をな!」
発現するのは、《極寒から灼熱まで(テンション・モチベーション・アジテーション)》。
菘の視界内に展開及び拡散した闘気やオーラの類に触れた対象のやる気や行動意欲を奪ったり、逆に与えたりできるユーベルコードだ。
至近距離で菘のオーラをぶつけられたイラースは、強制的にクールダウンさせられる。
弱点を突かれたことでイラースの怒りの感情が奪われ、膨張の紋章の機能が一時的に停止する。
「……!」
「はっはっは、妾のオーラに直触れしたら影響を受けるに決まっておる!
普段は皆のテンションをアゲる方に活用するが、もちろん逆にサゲる技術だってある!
妾はデキるからのう! 北風などよりよほど冷え込むであろう!」
「……燃えろ、燃えろ!」
それでも、至近距離では全てを焼き尽くすイラースの炎が依然として猛威を振るう。
それでも、菘は怯まない。高らかに笑い声を上げ、堂々と『左腕』を振り上げる。
怒りを抑えられたイラースが前脚を上げる前に、菘が激しく殴打を開始する。
絶望を粉砕し、希望を掴み取る『神殺し』の『左腕』が、イラースの巨体を激しく殴り続ける。
「主様。頑張れ」
「はーっはっはっは! お主の怒りの炎程度で、妾と天地の絆を、妾の身を! 燃やし切れると思わんことだ!」
「燃えろ……燃えろ……!」
アイズは菘のかっこいい活躍を余すことなく撮影し続けている。
アイズの応援を受けてとても盛り上がっている菘の雄姿を写しながら、戦闘の邪魔にならない程度にデータ弾を撃って支援する。
イラースの後脚部を狙撃して、体勢を崩すことで絶好の一撃を叩き込む機会を生み出す。
「さあ、盛大にボコられてブッ飛んで、もっと頭を冷やすがよい!」
「イラース、お前の憤怒の炎は、素晴らしいバトル映像となって記録に残るよ」
「燃えっ、ろぉぉぉ!!」
菘の盛大なアッパーカットがイラースの顎を砕き、強烈な先制ダメージを叩き込むことに成功する。
菘が全力の攻撃でイラースを足止めしたところへ、刀剣を携えた仲間たちが一気に駆け付ける。
●繚乱する刀剣。
菘が華々しくイラースの注意を引いている間に、鏡介とメンカルが接近する。
一時停止した膨張の紋章がダメージを受けたイラースの憤怒に呼応して再起動する中、二人は即興で連携攻撃を繰り出して行く。
「神刀解放。須臾に輝け、紫紺の霆――廻・参の秘剣【紫電閃】」
鏡介が森羅万象の悉くを斬る神刀『無仭』の封印を解除して、《廻・参の秘剣【紫電閃】(カイ・サンノヒケン・シデンセン)》を発動する。
鏡介はその身に紫紺の神気を纏い、素早い走力でイラースに迫る。
限界以上に思考や身体能力を一時的に増強し全ての能力を6倍にするこのユーベルコードは、行使してから約二分後に、一分間の昏睡状態に陥るリスクがある。
それまでに決着を付けなければ、碌なことにはならない。
「水のオーラとメンカルの結界のおかげで熱には耐えられるが、今回は短期決戦。長くかけるつもりはない」
「厄討つ譚歌よ、応じよ、宿れ。汝は鏖殺、汝は屠龍。魔女が望むは災厄断ち切る英傑の業」
そしてメンカルは、朗々とした詠唱を高速で完了させつつ、使用者の意の侭に伸び動き魔力を込めると頑丈になる術式組紐『アリアドネ』を周囲に張り巡らせて炎から自分たちの身を守る結界を形成している。
熱に耐え忍びながら発動するのは、《竜屠る英雄の詩(ドラゴンスレイヤーズ・バラッド)》。
自身の装備武器に竜にまつわるものを殺す竜殺しの概念術式を搭載し、破壊力を増加するユーベルコードである。
「……対処としては炎の対策と落ち着かせる方法と……」
メンカルは濃紺の刀身を持つ術式制御用の黎明剣『アウローラ』に竜殺しの力を宿し、そして汚染や穢れ、毒、呪詛、汚れ、侵食等を浄化して、対象を正常な状態へ戻す浄化復元術式『ハラエド』を付与した医療製薬術式『ノーデンス』を奔らせる。
対象を診断してそれに合った薬を作る術式により、イラースの精神に適合する鎮静薬を精製して周囲に散布する。
再び怒りを鎮められたイラースが瞳のない顔をメンカルに向けるが、その巨躯が動く前に鏡介とメンカルが接近する。
「……それじゃ……さっさと倒すか……いやほんとに」
「正直、こういうのは流儀じゃないけれど」
炎の勢いが止まった瞬間を逃さず、鏡介が『無仭』を振い斬撃波を飛ばして炎を切り裂いた。
イラースの元まで開かれた道を一気に駆け抜け、そのすぐ後ろに続いたメンカルが『アウローラ』から魔力の刃を伸ばす。
鏡介とメンカルの斬撃が同時にイラースの胴体を斬りつける。
深々と刻まれた二筋の傷跡から黒いモノが流れ出て、すぐさま燃え上がる炎によって蒸発していく。
「……!! 燃、え、ろ……!!」
「っと、やっぱり痛みで怒りが沸き上がるのか。でも、効いている」
「……多少は仕方ない……それでも、攻撃を続けるのが大事……」
イラースの脇を駆け抜け、すぐさま反転して再度斬撃を叩き込む鏡介とメンカル。
膨張していく炎の中、強化した能力と竜殺しの力でイラースを圧倒していく最中、戦場に櫻の花びらが舞い始める。
●桜花風月火鳥乱舞。
菘、鏡介、メンカルを相手に正面から対峙しているイラース。
イラースの背面から迫る二人の猟兵、風月と零時がいた。
「行きましょう。哀れな竜に救済を」
「ああ、行くぜ! さあ、夢想。俺様の全部をもって、イラースをぶっ倒す!」
零時の呼び掛けに『夢想』は承諾の意を送る。
全身に魔術による|全属性付与《フルエンチャント》した零時が、リミッターを解除したことによる限界を超えたユーベルコードを起動する。
後の事を考慮しない、文字通りの|全力全開《オーバーロード》だ。
「呪い転じて祝い為す、友に授かり我が縁。
試練果たして鳴り響け、世界に通ず我が夢想。
纏い踊りて神降ろせ、この地は此れより我が神界ッ!」
《|龍櫻樹鎮羽織螺界皇《桜魔呪術式・極式》(リュウオウジュシンハオラカイオウ)》。
それは、零時の全身に|桜魔呪術《桜魔の書》と|夢想の力《夢想の魔導書》、|自然の術式《エルスタル・ヴォベの魔術書》という三つの魔の力を宿し、安定させた三目の化身。
戦場内全ての敵の行動を禍津神の厄災、龍櫻、夢想など、零時が借り受けた数多の力で妨害するユーベルコードだ。
神櫻の花弁が戦場に舞い散り、水のオーラと共にイラースの燃える炎の拡大を妨げる。
「時間の勝負なんだ、出し惜しみは無しで行く!」
桜魔の力は呪であり祝、故にその怒りもまた転じて喜び変える、それだけの力は有している。
そして夢想も、眠る夢であり願う夢、つまる所は想いの力。
零時の放つ魔力が、神櫻の花弁が、イラースの憤怒を抑制しようと広がっていく。
「―――それに、他の奴らもいるんだ。やれない事は無い、そうだろう!?」
「ええ、みんなの力を合わせれば……必ず成し遂げられます!」
零時の後ろを走る風月は、背にある赤い柄の妖刀『柳緑花紅』の鞘が持つ火炎耐性により灼熱の劫火による延焼を抑えている。
風月は退魔刀『雪解雫』を抜刀して、そして逆手に握り、霊力を籠めて思い切り投擲する。
「その怒りを浄化します。正義の一閃にて……悪しき心を断つ!」
《刃邪剣正(ハジャケンショウ)》。
霊力を籠めた『雪解雫』による一撃で対象の肉体を傷つけずに歪んだ心のみを攻撃するユーベルコードは、斬撃だけで発揮する訳でない。
投げられた『雪解雫』がイラースの首元に突き刺さり、その心を……憤怒の感情を断ち、鎮める。
イラースの身に宿る膨張の紋章は度重なる弱点を受けてなお健在だが、その機能はまたもや一時停止する。
炎の拡張が、止まる。
「……!!」
「零時さん、今です!」
「例えお前が何であれ、今の俺様は神力も魔力も呪力も、遍く全てを束ねた状態。
故に俺様は最強最高の魔術師なんだ、不可能なんざ、此の手には無いッ!」
桜魔呪術で形成された櫻刀を握り、零時は憤怒の炎を纏うイラースの元へと踏み込んで、全てを込めた魔の一撃をその背に叩きこむ。
「此の一撃に全てを注ぐ。
唸れ櫻刀……イラースその怒り、お前の紋章の支配、全て切り裂くッ!
―――運命斬り拓く力を、此処に示せッ!」
「……! 燃、お……おおおおおお!!」
身体を覆う外套の如き大きな翼が切り裂かれ、イラースは初めて《燃えろ》ではない叫び声を上げた。
憤怒の感情に支配されていたイラースが漏らした、怒り以外の想い。
その内容を吟味する猶予はなく、その瞬間に風月と澪が合わせて動く。
「―――行くよ、風月さん」
「―――はい、決めます!」
澪が鳥たちの動きを変える。
イラースを浄化する優しさから、風月の攻撃を補佐するための援護に回す。
『雪解雫』により紋章の機能が停止している間に、風月は集まった澪の炎の鳥を背に纏わせ、滑空すると同時に大地を蹴って飛び上がる。
そのまま滑空してイラースの首元へと足をかけ、『雪解雫』を抜き放って頭上へと高く飛び上がり、頭からつま先まで唐竹割りを決める。
「せぇいっ!!」
《浄化と祝福》の炎と《刃邪剣正》の霊力を籠めた一撃が、イラースを真っ二つに切り裂いた。
●ぐっすり眠れぬ貴方に捧ぐ。
真っ二つに両断されたイラースは、確かに致命傷だ。
もはや生き延びることは適わない。
「やったか?」「……まだ……」
「……も……」
それでも油断することなく『無仭』を構える鏡介の言葉に、メンカルが小さく応える。
イラースがその口から、言葉を漏らす。
「……も……え、ろっ……」
「そんな、まだ戦うというの?」「なら、今度こそ……!」
驚く澪と風月の前で、すべてを焼き尽くす炎の膨張が再起動する。
それは『紋章』がまだ残っており、イラースが死に切らずに蠢いていることを意味している。
炎が拡大する前に猟兵たちが一斉攻撃を加えようとするその時、燃える炎を超えてエインセルがイラースに飛び掛かる。
「にゃーん!」
「エインセル……!」
水のバリアと神櫻の花弁、そして『ニャンゲイザー』にかばってもらっていたエインセルには傷はなく、死に体のイラースへ向けてユーベルコードを放つ。
それはトドメを刺すためのものではなく……対話のための力。
《安眠誘う子猫の囁き(エニュプニオン・フウィスパー)》だ。
「ねえねえドラゴンさん、なにがそんなにつらいの?」
「……も、えろ……」
「ぼくでよかったらおはなしきくよ!
ずっとおこりっぱなしだとつかれちゃうから、やすんでほしいにゃーん」
「……もえて、くれ……」
相手に元気になって欲しい気持ちと思いやりの心を籠めた、労いや労り等の優しい言葉による一撃。
相手の肉体を傷つけず、対象の顕在意識と不眠の原因、蓄積している疲労のみを攻撃するユーベルコード。
肉体は死に、しかし憤怒に支配された精神だけが残っているイラースに与えるには、最適のユーベルコードであろう。
「……われを……もやしてくれ……われは……もう……もやし、たくない……」
「にゃーん、ドラゴンさん、いっぱいがんばったんだね。
でもつかれたらちゃんとおやすみしようね」
エインセルの優しさが、イラースの精神だけを攻撃する。
オブリビオンとして、憤怒を司る異端の神に支配されていたイラースの、自分自身への憤りが払しょくされていく。
すべてを焼き尽くす炎は、イラースだけを焼くことのなかった炎が、沈静する。
膨張の紋章は癒やされたイラースから憤怒の感情を得ることができなくなり、その機能を停止する。
イラースの肉体が崩れ落ち、イラースの命も潰え、そしてイラースの魂は解放された。
憤怒の魔竜は、猟兵たちの活躍により苦しみから開放され、永眠に就いたのだった。
危機的状況を乗り越え、戦いに勝利した猟兵たちが安堵の息を吐き、互いの健闘を称え合う。
誰かがいなければ、この戦果はなかっただろう。
周囲一帯を炎の海に包むことを防いだ猟兵たちは、無事に帰還していくのだった。
「うむ! 最後のシーンは妾の活躍ではなかったが、綺麗にまとまったのではないか?」
「大丈夫。しっかり記録してる、主様」
なお、戦いの一部始終を撮影した邪神組の菘とアイズは、この映像により動画の視聴者が数万人増えることになるのだった。
可愛いもまた正義なのである。
成功
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