闇の救済者戦争⑬~空の鳥籠
●うつろ
私はからっぽ。
穴あきガラ空き、がらんどう。
心は虚。あたたかい気持ちなんて一度も抱いたことはない。
臓は無く、鼓動も刻まれない。それなのに不安でたまらなくて、感じるのは渇きと飢えばかり。
だから、私は――この空ろを満たしてくれるものを探した。
だって、ずっと一緒にいてくれる人がいれば、私も『心』を知れるはずでしょう?
いつからか私は人間を城に導いて、鳥籠に飾って大切にしてあげるようにした。
けれども、どれだけ人を集めても足りない。毎日、毎日。ずっと人間を眺めているのに。
どうして?
嗚呼――誰か、私を満たして頂戴。
●からっぽの胸に
第五層にある月光城。
其処は外敵――おそらくは異端の神々と戦う為の城塞だ。
「けれども今は、城塞群の中央に『ケルベロス・フェノメノンの欠落』が隠されているみたい」
花嶌・禰々子(正義の導き手・f28231)は現状を語る。
ケルベロス・フェノメノンの欠落を破壊できれば、禁獣の持つ無敵能力を無効化できるだろう。月光城深部には欠落に繋がると思しき謎の通路、『魔空回廊』がある。
「でも、回廊には『月の眼の紋章』と融合した城の主――ヴェリオラがいるのよ」
敵は紋章と魔空回廊の相乗効果により、回廊内にいる限り、戦闘能力が元の『660倍』になるという恩恵を受けている。実質、ヴェリオラを倒して回廊を抜けることは不可能な状態だ。
しかし、何も手がないわけではない。
「この能力強化の源は判明しているわ。回廊にぐるりと取り巻かれる形で作られた|人間画廊《ギャラリア》に、展示品として囚われている人間達の命なの」
つまりは囚われの者達を解放すれば、ヴェリオラの強化は弱まる。
ヴェリオラは回廊をぐるぐると巡回しており、侵入者を見つけると強烈な攻撃を仕掛けてくる。或いは猟兵を新たな展示品として鳥籠に囚えようとしてくるはずだ。
「攻撃自体も強力だけど、厄介なのは鳥籠ね。囚われた人が中から攻撃してもびくともしないわ。外からの攻撃なら一撃でなんとかなるのだけど、中から出るには或る条件を満たす必要があるの」
脱出の条件とは――。
『心って何?』という、ヴェリオラの問いに答えること。
答えの成否は関係ないらしく、自分が考える心の在り方を答えれば、鳥籠の扉は一先ずひらく。
「でも一度答えれば終わりじゃないのよ。ヴェリオラは納得できる答えを得られるまで何度だって、猟兵を閉じ込めてこようとするの。心の在り方なんて人それぞれで答えがないし、きっとヴェリオラは満足しないわ」
また、ヴェリオラが手にした鍵も厄介だ。
それを使って触れられたくない過去や記憶をこじ開けてくるからだ。人によってはその場から動けなくなるほどのダメージを受けるだろう。
それらへの対処を延々と繰り返すよりも、此度における正攻法で倒す方向で動くのがいい。
先ずは攻撃を何とか掻い潜り、鳥籠を破壊して囚われた人々を解放する。そうして弱体化したヴェリオラを倒す。それが今回の戦いにおける流れだ。
「強化が削がれたヴェリオラならうまく倒せるはずよ。みんな、全力で頑張ってきてね!」
そして、禰々子は猟兵達に応援の眼差しを向けた。
どうか迷わずに進んで、勝利への道を掴んで。禰々子はそう願うと共に、転送陣をひらいた。
犬塚ひなこ
こちらは『闇の救済者戦争』のシナリオです。
魔空回廊に囚われた人々を助け、回廊を守るオブリビオンを倒しましょう。
●プレイングボーナス
『|人間画廊《ギャラリア》に捕らわれた人々を救出する』
戦場は月光城内の回廊。
回廊に吊り下げられる形で揺れている鳥籠の中には人間が囚われています。
人間たちは生きていますが、うつろな状態でぐったりしているので会話はあまりできません。
ヴェリオラは回廊をぐるぐると巡るように動いており、自分以外の人影を見つけると鳥籠に囚えようとしたり、トラウマを見せたりしてきます。
最初は普通に相対しても勝ち目はないため、攻撃を凌ぎつつ、回廊内に幾つもある鳥籠を破壊していってください。鳥籠は外側からならユーベルコードの一撃で破壊することが出来ます(破壊しても中の人は傷つかないのでご安心ください)
全体の半分の人々を解放できれば、ヴェリオラの強化は完全に失われます。
第1章 ボス戦
『ヴェリオラ』
|
POW : 嘘鳥の導き
【虚空から突き出す鉄杭】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を鉄杭が織り成す鳥籠で封鎖し】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
SPD : 狂わしき箱庭
戦場に、自分や仲間が取得した🔴と同数の【猟兵を捕らえる鳥籠】を召喚し、その【鳥籠につけた条件を満たさないと出られぬ錠】によって敵全員の戦闘力を減らす。
WIZ : 空ろ
自身が装備する【どこに合うか分からない黒い紐に繋がれた鍵】から【触れられたくない過去や記憶をこじ開ける力】を放ち、レベルm半径内の敵全員にダメージと【放心】の状態異常を与える。
イラスト:ち4
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「奇鳥・カイト」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
アリス・セカンドカラー
お任せプレ、汝が為したいように為すがよい。
|『あの子』《アリス・ロックハーツ》(装備アイテム参照)『いったい誰の許可を得て|記憶《そこ》に触れているの?』
放心したセカンドカラーに変りロックハーツが|顔を出す《降霊》。
心とは何、か。そんなものは意識の幻想性が生み出したバグに過ぎないわよ。まぁ、だからこそこんなにも愛おしいのだけど。
さて、次は貴女が囚われる番よ。|タイムフォールダウン、時間質量を圧縮し時を凍結させ一切合切の活動を禁じる《高速詠唱早業先制攻撃重量攻撃詰め込み凍結攻撃身体部位封じマヒ攻撃気絶攻撃禁呪封印術》。
さてこの程度で放心するとは帰ったらおしおきが必要ね。その前に手早く鳥籠を破壊よ
●人間画廊の戯れ
回廊を巡るオブリビオン、ヴェリオラ。
空ろな表情で心を求める彼女は、猟兵を見つけ出した。
「誰? ……ううん、誰でもいいわ」
ヴェリオラはアリス・セカンドカラー(不可思議な腐敗の|混沌魔術師《ケイオト》艶魔少女・f05202)に視線を向け、黒い紐に繋がれた鍵を手繰った。
その瞬間、触れられたくない過去や記憶をこじ開ける力が解き放たれた。
常人であるならば、其処で放心させられたまま終わりだっただろう。だが、アリスは特別だ。
同時に解き放たれたのは、|『あの子』《アリス・ロックハーツ》。
『いったい誰の許可を得て|記憶《そこ》に触れているの?』
放心したセカンドカラーに変わり、ロックハーツが顔を出すことになったのだ。
「……あなた、何者?」
対するヴェリオラは先程とは違う意味合いで、此方を誰かと聞いた。
どうやら異様な雰囲気を感じたらしく、警戒が感じ取れる。アリスは冷静に距離を取りながら、ヴェリオラが求めていたという問い掛けへの返答を紡ぎ始めた。
『心とは何、か。そんなものは意識の幻想性が生み出したバグに過ぎないわよ。まぁ、だからこそこんなにも愛おしいのだけど』
「バグ? よくわからない」
ヴェリオラが首を傾げたが、アリスはそれ以上を語るつもりはなかった。
何故なら、今から先程の反撃を見舞いに掛かるからだ。
『お話は終わり。次は貴女が囚われる番よ』
――タイムフォールダウン。
時間質量を圧縮し、時を凍結させていくアリスはヴェリオラに強い眼差しを向けた。それはひとときであれど、一切合切の活動を禁じる連続攻撃だ。
高速詠唱から早業。これ以上は動かせないと宣言するような先制攻撃。其処に重量を宿した攻撃を詰め込み、凍結の力を巡らせる。部位を封じ、麻痺を紬、気絶させる勢いの攻撃が更に続く。
禁呪を封印から解き、更には相手も封じるという圧倒的な勢いの攻勢だ。
「……!」
ヴェリオラは不利を感じたらしく回廊の曲がり角の奥へと消えた。されど今の目的はギャラリアと呼ばれる領域に吊り下げられている人間入りの鳥籠を壊すこと。
『さて、この程度で放心するとは――』
ロックハーツたるアリスは、セカンドカラーについて考える。この戦いを終えた後にするべきことはもう決まっていた。双眸を細めたアリスの口元は不敵に緩められている。
「帰ったらおしおきが必要ね」
その前に手早く鳥籠を破壊していくのみ。
あの子が語ったおしおきがどのようなものになっていくのかは、アリスのみが知ることだ。
大成功
🔵🔵🔵
マリアドール・シュシュ
【星鳥】◎
マリアは鳥籠の破壊を
カデル、あの子を止められる?
…なんて
聞くまでもなかったのよ(迷いなき信頼
使って、カデル(3体合体し渡す
…マリアも伴に(彼女の目尻へ華水晶(星屑)の願掛けを施す様になぞり、額こつん
もしもの時はすぐに駆けつけるわ
UC使用
119体召喚
3体合体させ背に乗り機動力UP
残りの一角獣で鳥籠破壊
皆、逃げて頂戴
焦らなくても大丈夫よ
敵へは竪琴で麻痺絡む旋律を高らかに奏でて足止め
敵の攻撃は一角獣で防御
心?…そう
あなたは知らないのね
恐怖で雁字搦めにしても
欲しい物は絶対に手に入らないわ
初めまして、と手を差し伸べるだけでいいの
お友達から始めましょう
ヴェリオラ
マリアはマリアドール
名前を呼んで
瀬名・カデル
【星鳥】◎
マリアと一緒に囚われた人たちを救出するよ
鳥籠の人達をマリアが救出、その間はボクがアーシェと一緒にヴェリオラの気を引くつもり
大丈夫だよ…!マリアのユニコーンが一緒にいてくれるからボクはとっても心強いんだ
心についての問は「自分の気持ち」って答えるよ
楽しかったり悲しかったり…色々とあるけど
…ヴェリオラは心を知りたくてこんな事をしたの?
でもね、ただ眺めてるだけじゃきっと心はわからないんだよ!
ボクたちとの触れ合いで何かわかってくれたらいいな
鳥籠に入れようとしてくるからユニコーンで逃げたり、攻撃が来るなら先に攻撃することで牽制するよ
祈りの花よ、咲き誇れ
ヴェリオラにボクの気持ちや祈りが届けばいいな
●尊き心と伸ばした手
魔空回廊に降り立った二人。
マリアドール・シュシュ(華と冥・f03102)と瀬名・カデル(無垢なる聖者・f14401)は周囲を見渡す。回廊には人間達が囚われた鳥籠が吊り下げられていた。
あの人々を助けなければ、この回廊にいるオブリビオンを止めることはできない。
「マリアは鳥籠を破壊するわ。カデル、あの子を止められる?」
「大丈夫だよ……!」
「……なんて、聞くまでもなかったのよ」
問いかけに対し、返ってきたのは力強い言葉。カデルへの迷いなき信頼がマリアドールの胸の裡に巡っており、二人の間で笑みが交わされた。
「使って、カデル」
「ありがとう。マリアのユニコーンが一緒にいてくれるからボクはとっても心強いんだ」
マリアドールは即座にユーベルコードを発動し、カデルに告げた。
カデルは回廊の気配を辿り、ヴェリオラがいる方向を見定める。先程にも語られた通り、今回の作戦は鳥籠の人達をマリアドールが救出していき、その間にカデルがアーシェと一緒に敵の気を引くというものだ。
「……マリアも伴に」
マリアドールは彼女の目尻へ華水晶――星屑の願掛けを施す様になぞり、額をこつんと合わせた。もしもの時はすぐに駆けつけると告げたマリアドールは更にユーベルコードを解き放っていく。
――可愛い可愛い一角獣さん、いらっしゃい。
召喚されたクリスタルユニコーンを合体させたマリアドールはその背に乗る。
そして、マリアドールは機動力を強化することで移動の難をなくし、残りの一角獣で鳥籠を破壊していった。
「皆、逃げて頂戴。焦らなくても大丈夫よ」
「う……」
「あ、ぁ……」
囚われていた人々はまともに受け答えが出来ないようだったが、まだ息はある。解放されたことに安堵している者もいるようだ。まずは救出が先だとして、マリアドールは次々と鳥籠を破壊した。
もし敵が訪れれば竪琴で麻痺の力を巡らせれば良い。旋律を高らかに奏でて足止めすれば、更に鳥籠を破壊できるはずだ。宝石の一角獣達も防御に回らせられるため、マリアドールに隙はない。
その間、カデルはヴェリオラと対峙していた。
「邪魔よ」
「……っ!」
ヴェリオラから放たれた攻撃は強化の力もあって激しいものだった。カデルは果敢に耐えながら、祈りを込めた薔薇から虹色に輝く光でヴェリオラに対抗する。
その際、相手から例の質問が投げかけられた。
「ねぇ、心ってなに?」
「それは……自分の気持ちだよ」
「よくわからないわ」
「楽しかったり悲しかったり……色々とあるけど、ヴェリオラは心を知りたくてこんな事をしたの?」
「そうよ」
攻防が巡る中、ヴェリオラとカデルは問答を重ねていく。しかし、ヴェリオラの物言いは要領を得ないものであり、カデルはその行為を否定した。
「でもね、ただ眺めてるだけじゃきっと心はわからないんだよ!」
「そうなの……?」
自分達との触れ合いで何かわかってくれたらいいと願い、カデルはヴェリオラを相手取り続ける。
其処へマリアドールが現れ、敵への返答を紡ぎ始めた。
「心? ……そう、あなたは知らないのね」
敵からの問いかけに対し、マリアドールはそっと頭を振る。
欲しい物が手にはいらないのはやり方が間違っているから。恐怖で雁字搦めにしても絶対に正解にはたどり着けない。そのように宣言したマリアドールは、カデルと共にヴェリオラに告げる。
「初めまして、と手を差し伸べるだけでいいの」
「そうだよ、それがお友達の始まりなんだ」
「手を?」
ヴェリオラが聞き返したことで、マリアドールとカデルは頷きを返す。
「お友達から始めましょう、ヴェリオラ。マリアはマリアドール」
「ボクはカデルだよ。この子はアーシェ」
「…………」
そういって手を差し伸べたマリアドール達に対し、ヴェリオラは無言のまま警戒を強めた。
「名前を呼んで」
「マリア、カデル……。あなた達は、敵。……私は此処を守らなきゃいけないから」
だが、その手が取られることはなかった。
何故ならヴェリオラにとって、二人は大事な鳥籠を壊して邪魔をする張本人。それに城主としての意識が強い今、ヴェリオラは猟兵を友達だと認めたくても認められないのだろう。
されど人々の救出は順調であり、戦いは続いていく。
「哀しいけれど――」
「そうだね、マリア。ボク達にできることをしよう」
頷き合う二人は更なる戦いへの覚悟を抱いた。この回廊の人々を助け出していくために。
心を知らぬ者に抱く、悲しみを乗り越えながら――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ヲルガ・ヨハ
◎
巡回する敵へ
からくり人形の影追わせおびき寄せ
ただ壊れるなと命じ
危うきは幽世蝶の月白のオーラ防御で凌ぐ
われは逆側の鳥籠へ宙游ぎ、ユーベルコードを叩き込む
其は目の前と"おまえ"
二つのいくさばを駆けるも同じ
綻びて"おまえ"が捕らわれるならば
捨て身の一撃で奪還を
鍵が抉じ開けるさきは、さて
桜獄に囚われ繰返し注がれた絶望か
渾沌氏の白き手が"おまえ"を砕く雪辱か
嗚呼、或いは、われさえもわからぬ――
【幻想香気】の術中へ誘い
"おまえ"の二回攻撃と
われが尾のなぎ払いを浴びせ
満たし、それが零れる前に終らせてやろう
さてな
われとて、われの心が解らぬ
全て忘れようとも魂が憶えている
では
満ちて、揺れる
この感情は、何なのだ?
●思いの在処
見つめる先を巡回しているのは此度の首魁、ヴェリオラ。
ヲルガ・ヨハ(片破星・f31777)は敵の様子を探りながら、からくり人形に行動を命じる。
――ただ、壊れるな。
その影を追わせることでヴェリオラをおびき寄せ、その間に鳥籠を壊していく作戦だ。もしからくり人形に危機が迫ろうとも、幽世蝶が織り成す月白の防陣がある。
どれほど敵が強くとも、凌ぐ気概を抱いたヲルガは魔空回廊の様子を見遣った。
揺れる鳥籠の内部ではぐったりした人々がいる。
この城の主であるヴェリオラが心を知るために集めたようだが――。
「詮無きことだ」
ヲルガはからくり人形が向かった方とは逆側へ進み、鳥籠に向かって宙を游ぐ。すぐさまユーベルコードを叩き込めば、鳥籠の扉がひらいた。
人間達は衰弱しているようだが、ありがとうございます、と礼を告げられる力は残っているようだ。
先ずは救出を成すべきだと判断したヲルガは次々と鳥籠を穿っていく。
其は目の前と“おまえ”。
二つのいくさばを駆けるも同じ状況の最中、ヲルガははたとする。
「どいて」
ヴェリオラの声が聞こえたことでヲルガは其方へと游いだ。綻びて“おまえ”が捕らわれると察したヲルガは、捨て身の一撃で奪還を試みる。その瞬間、鍵が抉じ開けられた。
桜獄に囚われ、繰返し注がれた絶望。
渾沌氏の白き手が“おまえ”を砕く雪辱。
(嗚呼、或いは)
われさえもわからぬ――あの日の痛みと使命の果て。
されどヲルガとて惑わされたままではない。幻想香気の術中へ誘うべく、からくり人形を遣わせたヲルガはヴェリオラに意識を向けた。
尾の薙ぎ払いを浴びせることで満たし、それが零れる前に終わらせてやると決めている。
そのとき、ヴェリオラが口をひらいた。
「――心って、何?」
「さてな」
ヴェリオラからの問いかけに対して、ヲルガは首を横に振って答えた。
「われとて、われの心が解らぬ」
されど、全て忘れようとも魂が憶えていることがある。その理由や答えを求めることが、今のヲルガが此処に居る意味なのかもしれない。
未だ戦いは続くと察したヲルガは身構え直し、更なる巡りへの思いを強くする。
そして、胸の内に在る気持ちを反芻していく。
(解らぬというのに……では、此処に満ちて、揺れる)
――この感情は、何なのだ?
ヲルガは逡巡しながらも、からくり人形と共に敵に立ち向かっていった。
大成功
🔵🔵🔵
ロラン・ヒュッテンブレナー
・アドリブ歓迎
ヴェリオラさんのにおいを狼の嗅覚で、足音を聴覚で拾って距離や向きを把握、生後10か月程度の子狼に変身して肉球で足音を消して、素早く鳥籠に取り付いて氷属性攻撃魔術で檻を凍らせて破砕、救出なの
!?見つかったの
鳥籠に囚われ
心?ぼくの心は、今、あなたの前に立ってるこの姿そのものなの
悩みも苦しみも、喜びも幸せも、今、ここにいるぼくを形作るものだから
そして、心を知ろうとするあなたに、全部見せてあげる
ぼくには隠す過去も記憶もないから
乗り越えたからこそぼくとしてここに立ってるの
鍵を受け入れる
と同時に魔力で接続
月光上に満ちる月の魔力を吸収、顔に集めて…
UC発動
心からの咆哮を上げるの
●咆哮に宿す心
辿るのは魔空回廊に残る香りの残滓。
ヴェリオラのにおいを察知したロラン・ヒュッテンブレナー(人狼の電脳魔術士・f04258)は辺りの気配と様子を探り、慎重に進んでいく。
(こっちなの)
狼の嗅覚で彼女の位置を、その足音を聴覚で拾い、ヴェリオラとの距離や向きを把握する。
反面、肉球で足音を消したロランは敵との距離をひらけていった。今回の狙いは近付くことではなく遠ざかること。先ずは何よりも先にこの領域の鳥籠を破壊することが大切だ。
(最初はあれを壊して……!)
敵に気取られぬように走ったロランは鳥籠に狙いを定める。
そして、素早く鳥籠に取り付いた少年は氷の魔術で檻を凍らせた。そのまま力を込めて破砕すれば、人を囚えていた鳥籠だけを壊すことが叶う。
「これで救出なの」
「ありがと、おにいちゃん……」
ロランが助けたのは彼よりも幼い少女だった。衰弱している様子が見受けられるが命に別条はない。
どういたしまして、と答えたロランは少女を物陰にそっと隠した。
しかし、物音を聞きつけたヴェリオラが回廊の曲がり角の向こうからやってくる。
「誰? 何をしているの?」
「!? 見つかったの」
刹那、ロランはヴェリオラが放った鳥籠に囚われた。
――心って何?
その際に問いかけられたのはヴェリオラが求めているという、心についての質問。
「心?」
「そう、心」
ロランがきょとんとするとヴェリオラは頷く。
少しだけ考え込んだロランはそっと口をひらき、心とは何か、ということを自分なりに話していく。
「ぼくの心は、今、あなたの前に立ってるこの姿そのものなの」
「……?」
「悩みも苦しみも、喜びも幸せも、今、ここにいるぼくを形作るものだから」
そして、心を知ろうとするあなたへ。
全部見せてあげる、と語った
「ぼくには隠す過去も記憶もないから、乗り越えたからこそぼくとしてここに立ってるの」
ロランは鍵を受け入れ――同時に魔力で接続した。
月光上に満ちる月の魔力を吸収、顔に集めていったロランは力を発動させる。
――うぉぉぉおおおおおおぉぉぉぉぉぉん!
心からの咆哮を上げたロランの心は今、前に進むことだけに向けられた。それによって周囲の鳥籠が次々と壊れていき、ヴェリオラの力を削ぐ。
高らかに咆えるロランの眼差しは強く、その瞳は乗り越えていくべき状況をしかと映していた。
大成功
🔵🔵🔵
杜鬼・カイト
◎
敵に見つからないように気をつけながら鳥籠を破壊していくよ。
【聞き耳】たてて敵の気配を察知したら、その場から離れるよ。
捕まったりするのはごめんだしね。
へまして捕まったら、敵の質問に答えて脱出を試みる。
『心って何?』だっけ。
…ってオレにそれを聞かれてもね。よくわからないよ。
だって、オレの本質はからっぽでがらんどう。
今のこの気持ちすら、自分の本当の心なのか、造られたものなのか自信がないんだ。まあ、もうどうでもいいんだけど。
キミは心がないのに不安なの?
そう。じゃあ、心はあるんだろうね。
……心があるから満たされないんだよ。残念だね。
鳥籠の扉が開いたら、UCを発動。攻撃して敵を怯ませつつ脱出
●からっぽの二人
優先すべきことは、敵に見つからないこと。
息をひそめた杜鬼・カイト(アイビーの蔦・f12063)は回廊の様子に気を付けながら、鳥籠を見上げる。
天上から吊り下げられている鳥籠の内部では、囚われた人々がぐったりした様子で倒れていた。しかし、命の危険が訪れているわけではないのが救いだ。
「もう少しだけ我慢してね」
カイトは小さな声で鳥籠の内部にいる少年に呼び掛けた。その際に聞き耳を立てたカイトは敵の気配を察知していく。近くに居すぎる場合は離れ、大丈夫だと判断した場合は一気に鳥籠を破壊する。
「これで大丈夫」
事が全て終わるまで大人しくしていて欲しいと告げたカイトは、次の鳥籠に向かっていった。
「捕まったりするのはごめんだしね」
そういってカイトは幾つもの鳥籠を破壊し、人々を救出していく。
だが、隠密行動に限界が訪れることも承知していた。予想通り、ヴェリオラがカイトの前に現れる。
「何をしているの」
勝手なことをしないで、というようにヴェリオラは鳥籠にカイトを囚えていく。
へましちゃったか、と呟いたカイトは鳥籠の檻を握った。しかし脱出方法がないというわけではない。
「――『心って何?』だっけ」
「ええ」
ヴェリオラが皆に問いかけているという質問を思い、カイトは軽く首を傾げた。その答えを紡げば鳥籠から出られるという手筈だ。
「……ってオレにそれを聞かれてもね。よくわからないよ」
「じゃあ、ずっと其処にいて」
「嫌だね。でも、オレの本質はからっぽでがらんどうなんだ。キミと同じなのかもね」
「同じ?」
「どうかな、それも曖昧だ。今のこの気持ちすら、自分の本当の心なのか、造られたものなのか自信がないんだ。まあ、もうどうでもいいんだけど」
だって心の中身がないから。
カイトが答えたことによって鳥籠の扉が開いた。これもまた答えに成り得る不思議さを抱きながら、カイトはヴェリオラとの距離を取る。
「キミは心がないのに不安なの?」
「…………」
「そう。じゃあ、心はあるんだろうね」
「――!」
カイトの言葉に頷きで反応したヴェリオラは、はっとした。
「……心があるから満たされないんだよ。残念だね」
其処に生まれた一瞬の隙を突き、カイトは瑠璃蝶草の力を身に纏う。既に捕らわれていた人々は助けていたので、後は他の仲間に任せて脱出するのみ。
じゃあね、と手を振ったカイト。一瞬後、其処にはヴェリオラしか残されていなかった。
大成功
🔵🔵🔵
フリル・インレアン
ふえ?心ですか?
それは……。
とりあえず、お菓子でも食べながら考えてみましょう。
心は私自身だと思いますけど、
でもそれだとわざわざ心なんて別の言葉が生まれる訳でもないですし、それに私達は建前とかで嘘をつくこともあります。
それは私自身に対しても偽るけど、それは心とは違いますね。
だとしたら、心とは嘘偽りのない自分自身の思いではないでしょうか?
ふええ、やっと鳥籠から出られました。
ところでアヒルさん、私が鳥籠の中に入って、お菓子の魔法を使いながら時間を稼いだんです。
ちゃんと、捕まっている人達は助け出してくれましたよね?
ふええ、まだ半分しか助けてないからもう1回鳥籠に入ってって、半分で十分ですよ。
●お菓子と心と救いの嘴
此処は月光城内の回廊、魔空の力が巡る場所。
その中には人間画廊と呼ばれる領域があり、天上から吊り下げられた鳥籠の中に人間が囚われている。
「ふえ?」
フリル・インレアン(大きな|帽子の物語《👒 🦆 》はまだ終わらない・f19557)は今、その鳥籠のひとつの内部に閉じ込められていた。
アヒルさんは鳥籠の外で溜息をついており、フリルの見事な捕まりっぷりにある意味で感心していた。
しかし、これは脱出方法があるものだ。
――心って何?
ヴェリオラが問うことに答えれば、扉はひらく。おそらく周囲に囚われている人々も何度も問いかけられたのだろうが、ヴェリオラにとっての答えは見つかっていない。それゆえに幾度も閉じ込められ、人々は抵抗する意思を失ってしまったのだろう。
「心ですか? それは……」
フリルは自分なりの答えを探すために考えを巡らせた。
アヒルさんもどのような返答になるのか、僅かに期待しているようだ。
「とりあえず、お菓子でも食べながら考えてみましょう」
「グワ! ……グワ」
思わずアヒルさんが突っ込もうとしたが、フリルが時を盗むお菓子の魔法を発動したと知って落ち着く。
その力によって、敵の行動速度を遅らせることができるからだ。
「心は私自身だと思いますけど、でもそれだとおかしいですね。わざわざ心なんて別の言葉が生まれる訳でもないですし、それに私達は建前とかで嘘をつくこともあります」
自分。そして、心。
それはまた別のものではないのかと考え、フリルはお菓子を口に放り込む。いつの間にかアヒルさんの姿が消えていたが、フリルは気にしていない。
「私自身に対しても偽るけど、それは心とは違いますね。だとしたら、きっと――心とは嘘偽りのない自分の思いではないでしょうか?」
次の瞬間、鳥籠の扉が軋んだ音を立ててひらいた。
「ふええ、鳥籠から出られました」
「グワ」
すると何処かに行っていたアヒルさんが姿を現す。フリルはアヒルさんを迎え、そっと問いかけた。
「ところでアヒルさん、上手くいきましたか?」
「グワ~!」
フリルの帽子の上に飛び乗ったアヒルさんは得意げだ。鳥籠の中に入っている間、お菓子の魔法を使いながら時間を稼いだ結果。アヒルさんはフリルの意図を察し、捕まっている人達を助け出していったというわけだ。
しかし――。
「グワッ! グワッ!」
「ふええ、まだ半分しか助けてないからもう一回鳥籠に入ってって、半分で十分ですよ」
目標は達成したが、アヒルさんはまだまだやる気らしい。
どうやら、此処に囚われた全ての人々を助けるまで、フリルたちの救出劇は続いていくようだ。
大成功
🔵🔵🔵
紫・藍
あやー、トラウマでっすかー。
そうでっすねー、子どもの頃のいじめは紫・藍にとってとても辛いものでっしたがー。
ただ、別に触れられたくない過去や記憶というわけではないんでっすよねー!
インタビューとかでも普通に答えて公開してますし!
あの傷も、あの辛さも、ここにいたるまでの全てを以って藍ちゃんくんでっすので!
お嬢さんもそうなのでっすよー?
その不安も乾きも飢えもお嬢さんの心なのでっす。
心とは温かいものだけではないのでっす!
ご納得はいただけないようでっすがー。
感じろというやつなのでっす!
過去とは足を止めるものではなく謳い上げるもの!
広範囲の歌で鳥籠を壊し皆々様をお救いしながら、うつろに歌を響かせるのでっす!
●心を謳う
件の魔空回廊にて。
この城の主として回廊を巡っていたヴェリオラ。彼女と対峙した紫・藍(変革を歌い、終焉に笑え、愚か姫・f01052)には、黒い鍵が向けられていた。
「あなたの空ろはなあに?」
黒い紐に繋がれた鍵が揺れ、藍の精神を揺らがせる。藍がはたとしたときにはヴェリオラの力が発動しており、過去や記憶が抉じ開けられていった。
「あやー、これは……」
トラウマでっすか、と呟いた藍の胸裏には過去の出来事が浮かんでいる。
それは幼い頃の傷。
明るく生きている今も辛かったと思えることばかりだ。
「そうでっすねー、子どもの頃のいじめは紫・藍にとって、とても辛いものでっしたがー」
しかし、藍はいつも通りだ。
過ぎ去ってしまった過去、それも事実であることをなかったことには出来ない。ただ――。
「別に触れられたくない過去や記憶というわけではないんでっすよねー! インタビューとかでも普通に答えて公開してますし!」
「そう、なの?」
強く宣言した藍に対し、ヴェリオラは戸惑ったような様子を見せた。頷いた藍は相手の攻撃など効かないと示している。何故なら、理由はたったひとつ。
「あの傷も、あの辛さも、ここにいたるまでの全てを以って藍ちゃんくんでっすので!」
「つよい……」
「お嬢さんもそうなのでっすよー?」
「私?」
ヴェリオラは藍の動じなさに警戒を抱いたようだが、次に続いた言葉に対して首を傾げた。その反応が悪くはないものだと感じた藍は自分なりの思いを伝えていく。
「その不安も乾きも飢えもお嬢さんの心なのでっす。心とは温かいものだけではないのでっす!」
「…………」
藍の言葉を聞いていたヴェリオラは無言になった。
「あやー、悩ませてしまったみたいでっす」
「うん……まだ、わからない」
「ご納得はいただけないようでっすがー。考えるよりも、感じろというやつなのでっす!」
身構えた藍はユーベルコードを巡らせてゆく。
過去とは足を止めるものではなく、謳い上げるもの。
回廊の領域に歌を広げた藍は周囲の鳥籠を壊していき、ヴェリオラの力を削っていく。囚われていた人々の救出を優先しながら藍は歌っていく。
「まだまだなのでっす! このうつろに歌を響かせるのでっす!」
その声は闇を払うが如く――。
何処までも明るく、美しく紡がれていった。
大成功
🔵🔵🔵
川巳・尖
忘れてる過去や記憶も、こじ開けられちゃうのかな
…期待しちゃダメ、やるべきことに集中しないとね
水妖夜行で回廊を飛びながら、閉じ込められてる人達を助けていこう
なるべく敵に見つからないようにしたいけど銃声は抑えられないし、遅かれ早かれバレるだろうね
厄介な能力は一旦離れて効果範囲から出たいけど、避けられるとは限らないよね
暗闇に呑まれて消えていく夢、最近は見ずに済んでるのに
感覚がなくなっていくのは正直怖いけど、これが記憶の中の話だってこと、本当に存在が消えるわけじゃないって意識すれば、身体は動かせるはず
鳥籠の破壊に集中して動き続ければ敵も弱体化するだろうし、耐え抜いたら思いきり反撃しちゃおう
●闇の彼方に置いてきたもの
記憶。
それは川巳・尖(御先・f39673)にとって、既に手放してしまったものだ。
聞いた話によると、この城の主として回廊を巡っているオブリビオン、ヴェリオラは記憶を開ける鍵を持っているらしい。尖は思い出せない過去について考えながら回廊を歩む。
「忘れてる過去や記憶も、こじ開けられちゃうのかな」
尖は過去より、今と未来を見つめてきた。
しかし、いざこういった機会を得たとき。忘れてしまったことにまったく思いを馳せないといえば嘘になってしまう。尖は自分の胸の内に期待感が芽生えていることに気が付いた。
「……期待しちゃダメ」
ふるふると頭を振った尖は気を取り直す。今はやるべきことに集中しないといけない。
そして、尖は周囲を見渡した。
吊り下げられている鳥籠には囚われている人々がいる。助けなきゃ、と言葉にした尖は水妖夜行の力を巡らせていった。敵対するもの全てを祟る悪霊へと変化した尖は回廊を飛び回る。
「大丈夫? 今助けるよ」
ヴェリオラとすぐに遭遇しないように気を付けながら、尖は鳥籠を壊していった。少年や少女、青年や女性。誰もが弱っていたが、即座に命を失うほどではなかった。
銃声が響く度に鳥籠がひらく。
だが、完全には抑えられない音を察知してヴェリオラがやってきた。
「やめて、私のギャラリアを壊さないで」
「遅かれ早かれバレるとは思っていたけど、もう来ちゃったね」
「もうやめて」
ヴェリオラの能力は厄介だ。一旦離れて効果範囲から出られればいいが、避けられるとは限らないこともよく分かっている。尖に放たれた力は一瞬でその身を包み込み、そして――。
空ろが呼び起こしたのは、暗闇に呑まれて消えていく夢。
(最近は見ずに済んでるのに)
感覚がなくなっていくのは正直を言えば怖い。けれど、これが記憶の中の話だということを理解していた。
――本当に存在が消えるわけじゃない。
そう意識すれば、身体は動かせる。尖はすぐに身を翻し、一気にヴェリオラから距離を取った。真正面から戦うのではなく、鳥籠を壊すことで弱体を狙うのが尖の目的だ。
一瞬、闇の中に浮かんだ何かの光景が気になった。
しかし、其処に気を取られてしまってはいけない。後で考えればいいのだとして尖は鳥籠の破壊に集中していく。こうして動き続ければ敵は確実に弱る。
(この攻撃を耐え抜いたら思いきり反撃して、それから――)
尖はそっと決意を抱いた。
囚われた人々をすべて救い、自分もまた前に進んでいくことを。
大成功
🔵🔵🔵
クロト・ラトキエ
声。足音。衣擦れ。光と影の揺らぎに、気配…
知覚する凡ゆるを用いて接近を察知、不意打ちは受けぬよう。
また、時を得られたなら、
視線や所作、攻撃に繋がる動きを見切り、以って一撃を躱したく。
フックを障害物に掛け宙に舞う等、往なし方は広く、複雑に。
煙に巻きつつ、より多く鳥籠を破壊してゆければと。
無論、バンバンやれば向こうも気付くでしょうから。
刃のみならず、遠方も鋼糸で斬るなど、音の出所を増やし惑わせるなども。
心ねぇ…。
…想うこと。
かけがえのないものを、裡に強く懐くこと。
たとえば、黒兎に扮して…っていや、これは言いませんけど。
愛なら幾らでも語りましょう。
けれど、恋は――
それに。
己の本質は、此方。
心。
貴女、疾うに知っているじゃないですか。
飢え、渇き。
不安。
己を満たさんとする、渇望
――欲。
空?
何を仰る。
あたたかさなど生易しい、凍える程の熱。
貴女に満ち満ちている、それこそが――
基本的には鳥籠の破壊に専念。
但しヴェリオラの弱体化が見て取れ、倒せると判断出来たならば、
UCも使い、他の猟兵とも連携を計り、打倒を
●冷たい心
声。足音。衣擦れ。
光と影の揺らぎ、それから気配そのもの。
魔空回廊に訪れたクロト・ラトキエ(TTX・f00472)は、周囲の様子を探っていた。人間画廊と呼ばれる悪趣味な領域には、オブリビオンのヴェリオラが彷徨っている。
知覚する凡ゆるを用いて接近を察知し、不意打ちは受けぬように立ち回ること。それがクロトの思いであり、此度の戦いにおいての狙いだ。
「ひとつ、ふたつ。それから――」
クロトは暫し、鳥籠の破壊に専念していった。
幾つもの鳥籠がクロトの拾弐式によって開けられていき、内部の人達を解放していく。人々は衰弱しているようだったが、命を失うまでのことはされていないようだ。
その生命がオブリビオンの力の源になっていたのならば、このような所業は許せない。
クロトは素早く回廊を駆け抜けながら鳥籠を壊し続けた。しかし、いずれヴェリオラと相対することも織り込み済みで動いている。
「また、嫌な人が現れたのね。もう壊さないで」
「そういうわけにはいきませんので」
ヴェリオラの言葉と敵意を受け止めたクロトは頭を振った。
時を得られたと察したクロトは視線や所作、攻撃に繋がる動きを見切るためにヴェリオラを見据える。クロトは一撃を躱すためにフックを障害物に掛け、宙に舞った。
「あ……待ちなさい」
「待てと言われて止まるなんてことはありませんよ、お嬢さん」
クロトは即座に曲がり角に身を晦ませた。その往なし方は広く、複雑に巡る。
敵を上手く煙に巻きつつ、より多く鳥籠を破壊していければ僥倖。無論、派手にやればやるこどにヴェリオラの追跡が深くなるのは当然のこと。
刃のみならず、遠方も鋼糸で斬る。そうすれば音の出所を増やし惑わせることも可能だ。
されど全てを躱すことは出来ず――猟兵を捕らえる鳥籠がクロトの周囲を包み込んだ。その際に問いかけられたのは、事前に聞いていたあの言葉だ。
――心って何?
「心ねぇ……」
クロトは敢えて鳥籠の中で腕を組んだ。
そのように問いかけられたクロトが想うこと。心の意味、在り処、そして存在。
かけがえのないものを、裡に強く懐くこと。
(たとえば、黒兎に扮して……っていや、これは流石に口にはしませんけど)
自分の裡に浮かんだ思いをそっと秘めたクロトは鳥籠の柵に触れた。このまま囚われている気はなく、一度くらいは問いに答えてもいいだろう。
「愛なら幾らでも語りましょう。けれど、恋は――」
それに。
己の本質は、此方。
語るまでもないとして、クロトはヴェリオラ自身を指さした。
「心」
「ええ、心」
「貴女、疾うに知っているじゃないですか」
「え?」
ヴェリオラが不思議そうに首を傾げたことでクロトは更に語ってゆく。
飢え、渇き。
そして、不安。
「己を満たさんとする、渇望。――欲。それが心ですよ」
「……違う。私はからっぽなの」
指摘したクロトに対して、ヴェリオラはふるふると首を横に振り、掌を強く握り締めた。だが、クロトはそれこそが心なのだと告げていった。
「空? 何を仰る」
「やめて、」
「あたたかさなど生易しい、凍える程の熱。貴女に満ち満ちている、それこそが――」
「やめてッ!!」
クロトが宣言していくことに対してヴェリオラは強い否定を示す。
鳥籠の扉は開いたが、此処からクロトへの攻撃が激しくなることは予想できた。
「私が知りたいのはこんなものじゃなくて、あったかいもの。満たされていないから、からっぽなの」
だから壊さないで。
教えて。誰か、教えて。
悲痛な思いと共に鳥籠の呪縛がクロトに向けられた。その攻撃を掻い潜りながら、クロトはヴェリオラとの距離を一気に離す。
苦しむ彼女を救ってやることは出来ない。
今のクロトに出来ることは惑わせ、揺らがせて撃破のタイミングをつくっていくこと。更なるヴェリオラの弱体化を狙うため、クロトは周囲の鳥籠を壊し尽くしていった。
打倒の時。それはきっと――間もなく訪れる。
大成功
🔵🔵🔵
朧・ユェー
【月光】◎
『心』とは何か?
そうですね、僕も空っぽの心でした
貴女の気持ちは良くわかります
でも、今は違う
あの場所を知り、皆が居て、この娘が居る
僕が作った料理を食べて笑い幸せな顔なる
それが僕の『心』を満たしてくれる
ルーシーちゃんの言う通り
鳥籠に入れて眺めて何も満たされる事は無い
それた他人の『心』貴女のでは無い
鳥籠の人達を助けましょう
彼女の手を取り、くるりと回ると
鳥籠の開けようとする
自分の家族がバラバラに
母は自分を父親の代わりに
アイツは俺の身体を器にしようと
大切な人を傷つける
娘が傷つけ居なくなる
いいえ、いいえ
そんな事はさせない
ルーシーちゃんの手が僕を元世界に戻す
そしてほっこりと温かい
そうこれが『心』が暖かくなる事
だからこそルーシーちゃんの『心』も暖かくなって欲しい
空っぽでは無いのだと
どんな子でもどんな事があったとしても
傍にいるから
頭をそっと撫でて
にこりと微笑む
嘘喰
そんな嫌な嘘の世界は喰べてしまいましょう
貴女も自分が行動しなさい
きっと見つかるはず
どうにもならないのも『心』だからこそ愛おしいものです
ルーシー・ブルーベル
【月光】◎
ゆぇパパのお料理はわたしにとっても心の栄養よ
一緒に居てくれるひとがいて
心を知ることが出来る
其の通りだわ
けれど鳥籠に入れて遠くから眺めてもだめよ
言葉を交わして触れあわなくちゃ
捕らわれた人達を助けましょう
手を繋ぎ回廊を駆け鳥籠を探すわ
あ、あれかな?
花弁を放って解放しましょう
もう大丈夫
でももう少しだけ隠れていてね
パパも見つけた?あっちね、行きましょう!
パパ!しっかりして
あなたの娘はね、パパの為なら強くなれるよ
パパを酷い目にあわせた人に負けない
パパに誰かを傷つけさせない
居なくならない!
だから大丈夫
鍵が過去をこじ開ける
『お父さま』と過ごした日
食べてしまった日
そう、わたし
本当は大人のひとに見下ろされるのが怖かった
手を繋ごうと
抱きしめようと手を伸ばすのも
ずっと怖かった
払われた昔を思い出すから
でもパパは違う
目線を合わせてくれて
手を繋いで頭を撫でてくれる
ほら、今も
あの館の皆だってそう
だから呆けてる場合じゃない
舞って青花
『心』は
わたしにとっては命そのもの
熱くて痛くていとおしい
どうにもならないものよ
●大切に想う心
――心って何?
それは漠然とした問いであり、明確な答えなど存在しないものだ。
朧・ユェー(零月ノ鬼・f06712)はその言葉を聞き、同じ言葉を口にしてみる。
「『心』とは何か?」
此度の敵、ヴェリオラに向けて首を傾げてみせたユェーは暫し考えた。そうして出した答えは、自分が辿ってきた過去を思い返して導いたものだ。
「そうですね、僕も空っぽの心でした。貴女の気持ちは良くわかります」
でも、今は違う。
嘗ての自分は凍えるほどに冷えきった心しか持っていなかった。然し、ああしてあの場所を知り、皆が居て、この娘――ルーシー・ブルーベル(ミオソティス・f11656)がいる。
そのことこそが、あたたかい心を知った切欠なのだと語るユェーは静かに笑った。
「僕が作った料理を食べて笑い、幸せな顔になる。それが僕の『心』を満たしてくれることです」
「ゆぇパパのお料理はわたしにとっても心の栄養よ」
ルーシーもユェーの言葉に頷き、おいしいものは幸せを運んでくれるのだと話す。もちろんそれだけではなく、心を豊かにしてくれることはたくさんある。
一緒に居てくれるひとがいて、心を知ることが出来る。
其の通りだわ、と言葉にしたルーシーはヴェリオラをまっすぐに見つめた。その背後には人間が囚われた大きな鳥籠が吊り下げられている。
「けれど鳥籠に入れて遠くから眺めてもだめよ」
「どうして?」
「言葉を交わして触れあわなくちゃ」
「何度も聞いたわ。心って何って。でも……」
「でも?」
ルーシーの言葉に応えたヴェリオラは首を横に振る。ユェーは何を言いたいのか問うために、ヴェリオラの様子を窺った。すると彼女は鳥籠の中の人間を示す。
「誰もちゃんとした答えをくれない。だからわからないの」
そういってヴェリオラは敵意を見せた。
ルーシーとユェーが鳥籠を壊す心算だと感じ取っているのだろう。刹那、黒い紐に繋がれた鍵の力が解き放たれていった。咄嗟に地を蹴ったユェーはルーシーを庇いながら攻撃を避ける。
そして、ヴェリオラに語りかけていく。
「ルーシーちゃんの言う通り、鳥籠に入れて眺めて何も満たされることはありません」
「…………」
「それに他人の心は、貴女自身の心ではない」
無言のヴェリオラに対し、はっきり言い切ったユェーはルーシーの手を取る。そのままくるりと踵を返したユェーは鳥籠を壊していくための行動に入った。
「鳥籠の人達を助けましょう」
「ええ、捕らわれた人達を助けましょう」
ルーシーもユェーの手を握り返し、回廊を駆けていく。既に他の猟兵が扉を開けた鳥籠も幾つかあり、救出が順調に進んでいることがわかった。上手くヴェリオラを撒いたルーシーは前方の籠を指差す。
「あ、あれかな?」
「そのようですね」
花弁を放ったルーシーに続き、ユェーも鳥籠を攻撃することで人々を解放した。
「う……」
「もう大丈夫。でももう少しだけ隠れていてね」
助けられた人は意識が朦朧としているようだが命に別状はなさそうだ。ちょっとだけ我慢して欲しいと告げたルーシーは、多くの人の解放を目指していく。
「あちらにもいますね」
「パパも見つけた? あっちね、行きましょう!」
ユェーも新たな鳥籠を発見しており、二人は先へと駆けていった。
だが、追ってきたヴェリオラが黙っていない。二人の姿を捉えたヴェリオラが宙に手を伸ばした。
「あなた達も空ろに囚われて」
其処から再び放たれたのは、触れられたくない過去や記憶をこじ開ける力。
鳥籠を開けようとしていたユェーは瞬く間に空ろの鍵に囚われた。
「……!」
その瞬間、ユェーの脳裏に様々な過去が巡っていく。
自分の家族がバラバラになる光景。母は自分を父親の代わりにしようとしていた。彼はユェーの身体を器にしようと企んでおり、大切な人を傷つける。
そして、娘が傷つけられて居なくなる予想がユェーの裡に広がっていた。
「いいえ、いいえ」
そんなことはさせない。
抗うユェーが苦しげに呻くと、ルーシーが声をかけた。
「パパ! しっかりして」
「ルーシーちゃん……」
「あなたの娘はね、パパの為なら強くなれるよ。パパを酷い目にあわせた人に負けないんだから!」
パパに誰かを傷つけさせない。
それに、絶対に居なくならない。
ルーシーは思いの丈を告げていき、ユェーの手を握った。
「だから大丈夫」
「そう、ですね……」
ルーシーの手の熱が、冷たい想像からユェーを現実に引き戻す。あたたかさを感じ取ったユェーは、これこそ心がほっこりすることなのだと実感した。
しかし、ヴェリオラは次にルーシーに狙いを定めている。
「次はあなた」
「きゃ……!」
ヴェリオラから放たれた鍵がルーシーの過去をこじ開けていった。
それはルーシーが『お父さま』と過ごした日のこと。同時に食べてしまった日でもある。
(――そう、わたしが)
本当は大人のひとに見下ろされるのが怖かった。手を繋ごうとするとき、抱きしめようと手を伸ばすときも、ずっとずっと怖かった。
その手を払われた昔を思い出すから。
「しっかりしてください、ルーシーちゃん」
其処へユェーが助け舟を出しにいく。決して空っぽでは無いのだと告げるために。どんな子でも、どんなことがあったとしても傍にいると示す。
彼はルーシーの頭をそっと撫で、にこりと微笑んだ。
「パパ……」
声を掛けられ、はっとしたルーシーはユェーを見上げる。目線を合わせてくれて、手を繋いで頭を撫でてくれる彼。ユェーのことは少しも怖くなどない。
(大丈夫。ほら、今も……あの館の皆だってそう)
だから呆けている場合ではない。
ルーシーは過去の幻想に打ち勝ち、ユェーと共に反撃に入っていく。
「舞って青花」
「そんな嫌なものばかりの、嘘の世界は喰べてしまいましょう」
――妖精花の舞。
――嘘喰。
ルーシーとユェー。重なったふたつの力はオブリビオンへと迫り、鍵の力を完全に振り払う一手となった。
そうして、ヴェリオラを見据えたユェーは凛と告げる。
「貴女も自分で行動しなさい。そうすればきっと見つかるはずです」
どうにもならないのも、心。
だからこそ愛おしいものなのだと告げたユェーは娘の手を握った。ルーシーも彼の言葉に頷きを返し、自分の思いを素直な言葉にしていく。
「心はね、わたしにとっては命そのものよ。熱くて痛くていとおしい――どうにもならないもの」
きっとみんな、同じ。
どうしようもできないからこそ迷って、戸惑ってしまう。
あなたの在り方もまた正解かもしれないと語ったルーシーは、静かに目を閉じた。
その瞬間、二人が狙った鳥籠が崩れ落ちていく。それによってヴェリオラの強化がなくなっていった。
心とは何か。
それは自分自身でしか見つけられない、唯一の感情のことだ。
その思いを抱きながら、ユェーとルーシーは月光城で巡りゆく終わりを見つめた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ヴァルダ・イシルドゥア
ディフさん(f05200)と
出来得る限り早く、然れど気取られぬよう
虚ろなる鳥籠を流星槍で貫き人々を助けます
再び捕らえられることがないように
入り口に控えさせた飛竜のアイナノアの背で覆い隠し守りましょう
直ぐに家族のもとへお連れします、もう少しだけ――
響いた解錠音を察知するよりも早く広がるのは
赤よりも昏く鈍いいろ
鉄錆と腐敗臭、饐えた脂と泥の混じったにおい
圧政があった
略奪があった
闇に閉ざされしこの世界で、戦火に巻き込まれた村が、あった
手を尽くしても腐り落ちた四肢を繋ぐ事が出来なかった
臓腑に空いた穴を塞ぐ事が出来なかった
その命を痛みなく眠らせる事でしか救えない人が、たくさん、いて
間に合わなくて、それでもわたしが、見送らなくては――
ああ、……いや、いや……!
膝をつき蹲る
それでも聞こえたのは
わたしの名を呼ぶ、あなたの声
今際の際、ありがとう、と笑った面影
ディフ、さん
抱き寄せる腕に頷き応える
心を今一度問われたならば
竜槍を構え、真っ直ぐにヴェリオラを見据え
この胸の奥深くから湧き続けるもの
――それが、愛です!
ディフ・クライン
ヴァルダ(f00048)と
足音も気配も隠し素早く慎重に
火と氷の細剣で鳥籠を壊し
周囲を警戒しよう
急ごう、そろそろ――
見つかるかもしれないと言い終えぬうち襲い来る敵影
互いに鍵を開かれたと知る
しまい込んだ心傷を暴かれる
母の息子の反魂の器として作られたこの身
そこに勝手に生まれた自我の己
生まれた瞬間否定された魂
災魔と化した兄に拒絶された日
最期まで己の死を願い息子の反魂だけを願った母
息が苦しい
胸が痛い
いつだって悲しくて苦しい
けれど
ヴァルダが泣いてる
支えると約束したんだ
この手で護りたい、誰より愛しい人なんだ
なら、こんな痛みも心傷も飲み込んで
笑え
オレは、最後に兄にそう願われたはずだ
ヴァルダ!
鳥籠も鍵も弾いて彼女をぐいと抱き寄せる
油断なく剣を構えながら
それでも貴女の見て柔く笑おう
貴女の悲しみの一端を知っているから
――悲しくて、悔しかったね
でも泣かないで
此処に居る。此処に居るよ
心は重石だ
重すぎて時々蹲ってしまうけれど
生きたいと己を世界に繋ぎ留める楔になる
重くて愛しい、大切なものだ
さあ、想いをくべて
貴女と共に
●愛という名の心
早く、速く、疾く。
囚われた人々を救うために回廊を駆けるのはヴァルダ・イシルドゥア(燈花・f00048)と、ディフ・クライン(雪月夜・f05200)の二人。
出来得る限り素早く、然れど気取られぬように動くヴァルダは周囲の気配を探る。
この魔空回廊を巡るオブリビオンに見つかったとき。それは此方が足止めされる状況と同義。ディフは足音も気配も隠し、慎重に鳥籠をひらいていく。
火と氷の細剣の一閃と流星槍の一撃が重なり、虚ろな鳥籠が破壊されていった。
「直ぐに家族のもとへお連れします、もう少しだけ――」
幼い子ども、青年、女性。ヴァルダは様々な人々を助け、再び捕らえられることがないように対策する。入り口に控えさせた飛竜のアイナノアの背で覆い隠し、彼らを守る狙いだ。
その間、ディフは周囲への警戒を行っていた。
隠密に動いていたとて、鳥籠に異変があればこの領域の主も気が付くはず。
「急ごう、そろそろ――」
見つかるかもしれない。ディフが言い終えぬうちに敵影が現れた。ヴェリオラは無表情のまま、黒い紐に繋がれた鍵を宙に掲げる。
「どうして、誰も彼も邪魔するの。みんな、空ろに呑まれてしまえばいいのよ」
その言葉がヴァルダとディフの耳に届いた瞬間。
互いに鍵を開かれたと知ったのは、目の前の光景がぐらりと揺れて歪んだからだ。
「――!」
声なき声をあげたヴァルダは目眩のような感覚を抱いていた。
響いた解錠の音。
それを察知するよりも早く広がったように感じたのは、赤よりも昏く鈍いいろ。ヴァルダは口許を押さえ、じわりと滲む奇妙な感覚に耐えた。
鉄錆の匂いに混じる腐敗臭。饐えた脂と泥の混じったにおい。
震えるほどの不快感と、心が抉られるような鈍い痛み。直接的に身体を引き裂かれているわけではないが、似たような嫌な心地がヴァルダを支配していく。
圧政があった。
略奪があった。
闇に閉ざされしこの世界で、戦火に巻き込まれた村が、あった。
苦しい。痛い。気持ちが悪い。
不快でしかない思いばかりがヴァルダを侵食し、身動きすら取れなくなる。あのとき、あの日。どれだけ手を尽くしても、腐り落ちた四肢を繋ぐことが出来なかった。
臓腑に空いた穴を塞ぎたくとも、赤黒い何かが零れ落ちる光景を見ていることしか出来なかった。
その命を痛みなく眠らせること。
そうすることでしか救えない人が、たくさん。
「間に合わなくて、それでもわたしが、見送らなくては――」
ヴァルダの裡に後悔と絶望が巡る。
救いたい。
救えない。
救わなくては。
けれども――見送られた彼らは本当にそれを望んでいた?
己のエゴを押し付け、懸命に生きようとした人々に無理矢理に終わりを与えただけではないのだろうか。
「ああ、……いや、いや……!」
考えれば考えるほどにヴァルダの胸は痛み、心が闇に閉ざされていく。
そして、ヴァルダは膝をついて蹲った。
同じくディフも鍵の魔力に囚われてしまっている。
奥底にしまい込んだ心傷を暴かれ、改めて思い出させられる。否応なしに巡る思いは苦しみ。
先ず見えたのは母の姿。
その息子の反魂の器として作られたのが、この身だ。ディフはただの器であり道具のひとつでしかなかった。だが、其処に勝手に生まれた自我。それが己であるとディフは自覚している。
生まれた瞬間、否定された魂。
生み落とされることを望んだわけでも、役目を果たしたくないと願ったわけでもない。それでもディフはディフとして、たしかに其処にいた。
続いて、災魔と化した兄に拒絶された日のことが浮かぶ。
最期まで己の死を願い、息子の反魂だけを願った母の様子がありありと思い起こされる。
「……、こんな、こと」
息が苦しい。
胸が痛くて、力任せに掻きむしりたくもなる。
普段は上手く隠して、秘めている思いだが、いつだって悲しくて苦しいまま。きっとこの感情と思いはいつまでも胸裏に残り続ける。消そうとしても簡単には消せないものだ。
けれど、今は――。
「……ヴァルダ」
彼女が泣いている声が聞こえる。自分の苦しみよりもヴァルダのことが大事だ。
支えると約束した。
痛みよりも、胸が軋むような後悔よりも、大切だと思うひとがいる。あの頃とは違うのだと自分を律し、ディフは拳を握りしめた。
この手で護りたい、誰より愛しい人だから。
それならば、こんな痛みも心傷も飲み込んで――ただ、笑え。
「オレは……」
最後に兄にそう願われたはずだ。
過去の全てを抱き、ディフは顔を上げた。見つめるのは過去ではなく、彼女が隣にいる現在。
「ヴァルダ!」
ディフは鳥籠も鍵も弾き、彼女を強く抱き寄せた。
自分の名を呼ぶ彼の声を耳にしたとき、ヴァルダの胸裏にこれまでとは違う光景が過る。
――ありがとう。
今際の際、そういって笑った面影を思い出した。苦痛ばかりではなかったのだと知っていたはずなのに、闇に覆い隠されていたことだ。思い起こす切欠となったのは彼の声。
「ディフ、さん」
抱き寄せる腕に頷き、ヴァルダはそっと応える。
ディフは油断なく剣を構えながら、彼女を見つめて柔く笑ってみせた。
貴女の悲しみの一端を知っているから、同じように背負いたい。そんな思いを込め、ディフはヴァルダに語りかけた。
「――悲しくて、悔しかったね」
でも泣かないで。
此処に居る。此処に居るよ。ひとりじゃない。
ディフの優しい眼差しに込められた意思を感じ取り、ヴァルダも立ち上がる。
すると、その様子を見ていたヴェリオラが二人に問いかけてきた。
「心って、何?」
心を今一度問われたことでヴァルダは竜槍を構え、真っ直ぐにヴェリオラを見据える。ディフも答えを告げるときだと感じ、そっと口をひらいた。
「心は重石だ」
「……重いの?」
「ああ。重すぎて時々蹲ってしまうけれど、生きたいと己を世界に繋ぎ留める楔になる」
重くて愛しい、大切なもの。
ディフの言葉を聞いたヴェリオラは首を傾げている。猟兵達の活躍によって既に鳥籠の力は失われており、ヴェリオラの力もかなり弱っているようだ。
ヴァルダは最期が近付いていることを察し、自分なりの返答をヴェリオラに贈る。
「この胸の奥深くから湧き続けるもの――それが、愛です!」
「やっぱり私には、何もわからないまま……」
かなり消耗してしまっていたのだろう、ヴェリオラは力なく膝を付き、深く俯いた。最後まで彼女が心を理解することはなかった。
だが、此処で引導を渡すことこそが猟兵の役目であり使命。
ヴァルダとディフは視線を重ね、其々の得物を構え直す。そして、二人は同時に地を蹴った。
さあ、想いをくべて。
あなたと、共に。
●静寂と終幕
そうして、月光城の主は倒れた。
魔空回廊の力は跡形もなくなり、奇妙な力の奔流も感じられなくなっている。
嘘鳥の導きは途絶え、狂わしき箱庭も消え去った。月光城に満ちる雰囲気は空ろなまま。しかし、この場所が穏やかな静寂に包まれたことだけは間違いなかった。
此処から続いていく道。闇の救済者戦争の行く末は、果たして――。
大成功
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