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闇の救済者戦争⑭~死することは死んでも赦さぬ

#ダークセイヴァー #闇の救済者戦争 #不死の紋章

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●永遠に訪れぬ黄昏
 いつから竜は身を起こしていたのだろう。
 悪趣味な領主が新たな家畜を従えてから。月光の城が攻め落とされてから。
 世界が闇に閉ざされてから?
 ああ、気が遠くなりそうだ――。

 虚ろな思考は結実せぬ。考える脳など腐り果てているのだから、それも当然だ。
 いや、脳があったとて『紋章』のもたらす痛みの前では機能しまい。

 ――死にたくないって思った? オブリビオンなのに変だなあ。
 無邪気に燥ぐ誰かの耳障りな声が木霊する。
 魂人の如く、死ねない体に。その願いは叶い、死霊竜は不死の紋章を与えられた。
 壊れた体から噴き出す死の臭気が敵対者を腐らせ、腐肉を己が身体として取り込む。
 骨片を舞わせ、犠牲者の体を泥土もろとも取り込み、捕食する。
 元の体はどの程度残っているのだろう。自我はひと欠片も残っていまい。
 痛みと怨讐に従い、盲目的に手近な者を襲う怪物。肉体を奪い、次々と乗り移る不死なるもの。
 竜はもう、竜である事すら許されなかった。

 竜を突き動かすものは今や、当初の恨みですらない。
 終焉の慈悲を乞う知性すらも残されず、本体は肉体の奥深くに眠る不死の紋章のみ。
 夕暮れに動きを止め休むことも、骸の海に沈むことも許されぬ。
 この死した体の動く絡繰りを、誰かが破壊するまでは。

●不死の紋章
 不死の竜を斬れ、と仁藤・衣笠は端的に言った。
「不死と云うても、所詮は紛い物。骨の竜を動かす絡繰りを壊せば済む話よ」
 もっとも、それが易々とできない事は皆承知しているだろう。
 今回相手取る死霊竜は禁獣、デスギガスによって作り変えられた存在だ。
 数多の生命の骨を接ぎ合わせた肉体の中核、奥深くに隠された「不死の紋章」は、理性や自我と引き換えに文字通り不死の力を与えた。
 竜の肉体が滅びかければ周囲の生者の肉体を腐らせるガスを噴き出し、死した者の肉体を取り込み新たな竜を仕立て上げる。魔法陣からのブレスで呪われた者は、呪いによりまた竜の一部と化す。
 どこからどこまでが竜なのかも定かでないほどに、竜――いや、不死の紋章は宿主を変え、今まで動き続けてきた。

 強大な力と不死の代償に、目の前の者を無差別に襲い続ける紋章の呪い。通常ならば総がかりで一度倒せば済むところ、今回は死んでも即座に蘇る難敵だ。
 策を問われ、衣笠は「単純じゃ」と前置きして告げる。
「猟兵ならば呪いや腐敗の瘴気にも多少は対抗できよう。所詮、仕組みが判ればそれまでの事――死ぬまで殺せば佳い」
 策とも呼べぬ戦略。一部の者は耳を疑い、衣笠に再度言及を促した。だが男の告ぐ言葉は変わらず「死ぬまで殺せ」の一点張りだ。
「不死の紋章は殺せば即座に発動し、肉体を再構成する。じゃが、儂の見立てでは再生のたび肉体は変わる。紋章が露出するのも時間の問題、出たところを砕けば良い。一人一殺と言わん、好きなだけ殺し尽くせ」
 軽々しく言うが、忘れてはならぬのは死霊竜が本来何人もの猟兵でかかり、やっと討伐できる程の敵だということ。敵のユーベルコードへの対策を怠ってはそもそも勝ち目もない。
 衣笠はさらりと朝飯前のように言うが、それは目の前の猟兵が同じ土俵に立っている事を前提としていた。

 説明を終えた衣笠は、グリモアのゲートを開く。
「さて、この依頼。誰が請け負う?」
 衣笠の問いに歩み出る者が順次、転送の光に包まれる。そうして意識を飛ばした数秒の後、あなたの耳には死霊竜の哭く声が聞こえ始めていた。


晴海悠
 お世話になっております。晴海悠です。
 改造の果てに不死の操り人形と化した死霊竜。
 禁獣『デスギガス』の弱点を暴くには、彼らを倒さねばなりません。

 幾度殺しても立ち上がる敵を屠り続け、不死の紋章を壊してください。

◇依頼概要
 永遠に未完成なる死霊竜を完全なる死に導く。
 プレイングボーナス……敵を何度も殺し続け、「不死の紋章」を破壊する。

◇永遠に未完成なる死霊竜
 死霊術で蘇った不死の竜。生きとし生けるものを襲い、足りない肉を集める骨の獣、でした。現在は不死の紋章により原型がないほど肉体は変わり、竜とも呼べない合成獣と化しています。
 竜の体内には不死の紋章が隠され、幾度も殺し続けない限りは攻撃は届きません。
 竜は皆様が使用するユーベルコードの「POW/SPD/WIZ」の種別に呼応し、いずれかの攻撃を放ってきます。対策もあわせてお書き添え下さい。

◇諸注意
 一章のみの戦争シナリオとなります。
 採用数はシナリオ成功に必要な最小人数+若干名を予定し、先着順ではなく、以下基準のいずれかを満たした方から順に執筆します。
「不死の紋章を露出させるべく速攻を仕掛けた/個性的だった/技能やアイテム、ユーベルコードの活用方法が的確だった」
 プレイングに問題がなくとも締め切る場合もございます。あしからずご了承ください。

◇その他
 断章は設けません。プレイングはいつお送り頂いても大丈夫です!

 それでは、リプレイにてお会いしましょう。皆様のお越しをお待ちしています。
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第1章 ボス戦 『永遠に未完成なる死霊竜』

POW   :    全てを腐らせる死の瘴気
自身の【身体の隙間】から【肉が腐り落ちるガスのような瘴気】を放出し、戦場内全ての【生命活動】を無力化する。ただし1日にレベル秒以上使用すると死ぬ。
SPD   :    生ある者を串刺しにする身体の一部
レベルm半径内の敵全てを、幾何学模様を描き複雑に飛翔する、レベル×10本の【 飛膜の無い翼から放たれる無数の骨片】で包囲攻撃する。
WIZ   :    死竜の呪われた破壊光線
詠唱時間に応じて無限に威力が上昇する【魔法陣を竜の口元に展開させ、呪】属性の【ドラゴンブレス】を、レベル×5mの直線上に放つ。

イラスト:井渡

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はフィーナ・ステラガーデンです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

シキ・ジルモント
死ぬまで殺す、成程分かり易い
戦場に足を踏み入れてすぐ狼の姿に変身する
ユーベルコードで攻撃を仕掛ける
こちらが繰り出すのは咆哮、つまり音による攻撃となる

銃を構えて引き金を引くよりも、音での攻撃が一番速く敵に到達する筈だ
詠唱時間を与えずダメージを与えてブレスの強化を妨害したい

ブレスは竜の口元から真っ直ぐこちらを狙うだろうと予想
魔法陣の展開を注視し攻撃のタイミングを確認、軌道上から外れるように飛び退き回避する

復活も驚かず、何度でも咆哮で攻撃
不死の紋章が露出したら飛び掛かり噛み砕く為、攻撃の合間に距離を詰めておく

しかし敵とはいえ何度も殺すのは気分の良いものでは…
…いや、余計な事を考えている場合では無いな



 がらがらと骨の擦れ合う音が響く。動くものの姿は確かにあるのに、辺りには死の臭気が満ちていた。
 音を発する死霊竜は、獲物を探し彷徨を続けていたが、やがて何者かの到来に反応するようにがらり、とひと際大きく骨の関節を鳴らした。
「死ぬまで殺す。成程、分かり易い」
 現れた猟兵、寡黙な男はそれだけ呟くと、すぐさま地獄の底まで轟くような遠吠えをあげた。
 いや、男ではない。男のいた大地には既に、銀の毛並みの狼が四つ足を突き立てて威容を示している。狼に変じた者の正体はシキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)、見敵を見逃さぬガンナーにして、猛々しき人狼の者。

 力強く吼える声は大気を震わし、死霊竜の骨身を揺らがした。
 がらりと崩れる肉体にも構わず、死霊は反撃の魔法陣を即座に描く。死と腐敗に塗れた死霊には不似合いな、ステンドグラスのように精巧な陣が描かれ、そこから呪いのブレスが地をなめ尽くすように駆けた。
 紫の閃光に呑まれる寸前、狼は地を素早く蹴り、狩りに慣れた獣の足さばきで姿を晦ました。ブレスが止むより早く次の遠吠えが聞こえ、竜の肉体を構成する腐敗の呪力を削ぎ取っていく。
 決してブレスに飲まれず、つかず離れずの位置取りで竜の体力を削ぎ続ける銀狼。銃器よりも早く届き再装填も要らぬ音を武器として、狼は不死の紋章の力を奪うことに専念する。
(「敵とは言え、何度も殺すのは気分の良いものではないな……いや」)
 人としての善性は戦士の勘に遮られ、銀狼は本能に従い距離を詰める。不死の紋章が表出するにはまだ幾度も倒さねばならぬが、それまでに味方が打撃を受けないとも限らない。
 ならば――遠吠えの音波に竜が肉体の一部を持ち崩すのを見、シキはすぐさましゃれこうべの一つを咥えて持ち去った。再生を阻めば、後続の者も多少は楽になろう。
「ウゥ……ウォン」
 唸り声と共に顎いっぱいに力を加え、ばきりと骨を噛み砕く。死してなお眠れずにいた山羊の頭蓋が、ついぞ安息を得たように地に散らばった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

サーシャ・エーレンベルク
不死に不死を重ねた竜、ってところね。
不死になっても、自我もなく暴れまわるならその意味もないでしょうに。

周囲に漂う瘴気に触れたり吸ったりすれば一巻の終わり、それなら、全て冰らせるまで。
【凍冰戦域】を発動して、時間さえも停滞する凍結のオーラを纏う。死霊竜へ即ダッシュ、強化された竜騎兵サーベルの連撃を浴びせるわ。
周囲に漂う瘴気の流れを停滞させて触れないようにしながら、剣圧によってその瘴気を打ち払いながら戦いましょう。

生憎、あなたの仲間入りをするつもりはないの。獣人戦線で死んでいった仲間たちに顔向けできないしね。
……不死を得て、結局得るものもない。オブリビオンと言えど憐れね、本当に。



 化粧より早く、銃器の扱いとメンテナンスを覚えた。剣を取っては稽古に明け暮れ、少ない糧食で日々を生き抜く術を学んだ。
 そうして仕上がった少女の感性は冷ややかで、琥珀の瞳は眼前の死霊竜を見ても憐憫や畏怖の色に翳る事はない。
「不死に不死を重ねた竜ってところね……不死になっても、自我もなく暴れまわるなら意味もないでしょうに」
 言いながら、サーシャ・エーレンベルク(白き剣・f39904)の足は既に、己の仕掛けるのに適した方角へと回り込んでいた。死霊竜にまともな嗅覚が残っているとは思わないが、勝率を少しでも上げるなら瘴気の流入しにくい風上が定石だ。
(「触れたり吸ったりすれば一巻の終わり……それなら」)
 全て|冰《こお》らせるまで。白き狼の冴え冴えとした毛並みに似た白銀のオーラがサーシャを包み、周囲の大気をも巻き込んでいく。
 竜が気付き、こぽこぽと気泡まじりの唸り声をあげた。吸えば喉は焼けつき肉が爛れ、腕が腐り落ちる猛毒の瘴気を、サーシャは臆することなく掻い潜る。
 うら若き乙女の頬へ、瘴気の腕が愛撫するかのように間近に迫った。そのまま肉を腐らせ泥濘の死へ導くかに思われたが、劇毒の粒子は凍てつく大気の中に閉じ込められ、静かに空中に張り付いた。
「生憎、あなたの仲間入りをするつもりはないの。獣人戦線で死んでいった仲間たちに顔向けできないしね」
 身に及ぶ毒ガスを極低温の停滞にて阻み、更には白く輝く竜騎兵サーベルの剣圧で振り払う。いつかは銃弾や砲撃、白刃のもとに斃れる日が来るとしても、それはサーシャにとって異郷のこの地ではない。
 サーベルの連撃が竜の喉元に迫り、頸椎と思しき関節に死を刻んだ。即座に再生するがらくたの竜を顧みて、一度限りの言葉を投げかける。
「……不死を得て、結局得るものもない。オブリビオンと言えど憐れね、本当に」
 サーシャの見立て通り、不死の紋章が竜の望みを叶える事はない。たとえダークセイヴァーの命全てを取り込み勝者となっても、この竜の魂は何処にも行き着かぬ事は明白だった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

唯嗣・たから
POW
腐る肉も、ない。生命活動も、ない。この身体、とうの昔に死んでる。ある意味、竜さんとは仲間、だね。たからも、死霊、だもの。対策は、たから自身。

とにかく、腐敗勝負、しよ。UCで片っ端から、全部、全部、腐らせる。蘇っても、蘇っても、何度も何度も。腐って脆くなったところに、鉈で、切り込んで。切り込んで。肉薄にしていく。

…紋章発掘作業みたい、ってたから思ったけど。遊んでる余裕、流石に、ない。骨みたいな、とこは、流石に硬いし。そもそも、強いし!

ふっ飛ばされても、頑張る。正しく還すのが、鬼来迎の、お役目。まだまだ、たから、やるよ。敵に不運の呪詛かける。隠したい紋章、うっかりチラりしないかな…紋ちら。



 戦場への適性。死臭も瘴気も意に介さぬもの。単にそれだけを聞き、羨む事はあってはならない。
 現れた少女は如何な絡繰りでか、動く骨ばかりの身体で死霊竜の前に歩み出た。
「腐る肉も、ない。生命活動も、ない。この身体……とうの昔に死んでる」
 骨を砕く暴力ならいざ知らず。腐り落ちる肉がない以上、竜の瘴気は唯嗣・たから(忌来迎・f35900)の歩みを阻む事はできぬ。生命の範疇にすらないのならば、どうして死なす事ができよう。
「ある意味、竜さんとは仲間、だね。たからも死霊、だもの」
 スケルトン――死したる者の骨が、愛する者との絆により動き始める|骸骨人間《リビングデッド》。死者の再生、|反魂《はんごん》を願う無垢なる想いに銀の雨を一滴、悲しい奇跡を呼び覚ます。
 竜は言葉を解する様子もなく、腐敗の瘴気を放った。立ち込める紫の大気に猫耳のパーカーが触れ、溶けた耳がくしゃりと元気なくしな垂れた。それでもたからは怯む事なく、袖から出した手根骨の目立つ手首を敵へと向けた。
「とにかく、腐敗勝負……しよ?」
 骨の竜の足元から、地獄の門が開いたように蒼ざめた腕の数々が突き出した。狼に山羊、駱駝の頭骨、死霊竜の持つ珍しい骨の部位を、悪意に満ちた怨霊の腕が愛おしげに撫で回す。
 触れた先の骨はどす黒く変色し、瞬く間にぼろりと崩れていく――大陸に悪名高き刑を真似た、凌遅腐敗の刑。脆くなったところへ錆まみれの青龍刀の刃が渡され、二度と立ち上がれぬよう粉砕していく。
(「紋章発掘作業みたい……って思ったけど、遊んでる余裕、流石に、ない……!」)
 反撃を一切受けず済めば正にそうだろうが、接触を嫌って突っ込んでくる竜頭を躱しきれずに華奢な体躯が突き飛ばされる。
「っ……まだまだ、たから、やるよ」
 がらりと崩れる少女の体。骨の散らばる衝撃にも、痛みを感じない体が幸いした。すぐに立ち上がって呪詛のオーラを手繰り、敵の魂魄を引きずり下ろすべく霊圧をかける。
 |鬼来迎《きらいごう》――地獄めぐりを主題とした古典劇。その名を役目に冠したならば、導くは正しき輪廻への回帰。
「……紋章、うっかりチラりしないかな」
 一瞬お茶目な本音を覗かせるも、『紋ちら』までは未だ遠く。せめてと余す力を投じ、たからは竜の力を根こそぎ奪い去るのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ハート・ライドン
この世界の戦場を巡るたび
支配者どものやり方に嫌気が差します
自由を奪い、尊厳を奪い、命を奪い
死すらも奪っているというのですか

この際、竜のかつての行いは問いません。いえ、問えません
自我を失っているのはせめてもの救いでしょう
ここで朽ちていただきます

呪詛や瘴気を得手とする敵でしたね
【スペランツァ・トルナード】を発動し、出方を伺いましょう
敵は自我も理性も失った状態
感知不可能になれば
狙われる確率は下がるはずです

身を隠した状態のまま竜巻を操り攻撃
戦場に満ちた瘴気を、敵の放つ骨片を
そして、竜本体をも巻き込んでしまいましょう
竜自身の力を以て、竜の身体を削ります

残された偽りの命は、果たしてどれだけ削れるでしょうか



 軍服に身を包んでいても、心まで冷徹になりきれる者ばかりではない。銃を手にした原初の記憶が真新しいものであるほど、その願いは行いと裏腹に無垢なままだ。
 青鹿毛の艶やかな髪、白き心は風に揺れる。ハート・ライドン(Never Say Die・f39996)は竜の姿を認め、嫌悪でなく憐憫に表情を歪めた。
「……この世界の戦場を巡るたび、支配者どものやり方に嫌気が差します」
 ここに来るまで、既に別の戦場で戦い、あるいは様相を垣間見た。異形の身体部位を移植された少女竜。禁獣デスギガスの放つ夥しい災群。欠落や不都合な事実を隠す為ならば手段を問わず、中にはオブリビオンですら異形化したり、この竜のように在り方を歪められたりした者も少なくない。
「自由を奪い、尊厳を奪い、命を……死すらも奪っているというのですか」
 この際、竜が過去に犯した罪はどうでもよかった。今の死霊竜は紋章に動かされる傀儡、覚えてはいまい。せめて自我がないのが救いと言えた。

 骨の竜が、どこにあるかも定かでない喉で不気味に低い唸り声をあげた。腐臭が辺りに立ち込め、同時に肉体に不規則に継ぎ合わされた骨ばかりの翼から無数の小さな影が飛び出した。
「風はいつも、私と共に……ここで朽ちていただきます」
 駆け出す駿馬の走りは初速から勢いを得、同時に瓢風が巻き起こる。吹き上げる風は瞬く間にハートの全身を覆い、視覚や匂いで彼女の居所を知ることは叶わなくなった。
(「自我も理性も失ったならば、居場所を気取られなければ狙われにくいはず……」)
 ハートの読みは当たり、乱気流のただ中を骨片が的外れに突き刺していく。動く竜巻全体を敵と認識しているのか、降り注ぐ骨の欠片はハート自身を捉える事はない。
 骨の欠片を竜巻に巻き込み、瘴気すら纏う。そのまま返礼とばかりに叩きつければ、竜の攻撃をも利用した竜巻は骨の体を切り刻み、関節の弱い所から突き崩していく。
 すぐさま再生する異形の体。竜の頭部が持ち上がり、逆さのまま恨めしげにハートを睨みつける。
「偽りの命……少しは削れたでしょうか」
 死霊竜の様子から、残存する体力は見えてこない。だが、死滅と再生を繰り返すたび確実に紋章の破壊が近づいている事だけを感じ取り、ハートは後続に後を託すこととした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

夜刀神・鏡介
不死に仕組みがあるならそれを暴けばいい、真っ向から戦う必要はない……のだが、それが奴の肉体に隠されているとは
どうやら本当に、死ぬまで殺し続けるしかないようだ

神刀の封印を解除。緋色の神気を纏う事で身体能力を強化しつつ、緋い刀を空中に形成
陸の秘剣【緋洸閃】で、敵から放たれた骨片を叩き落とし
ついでに死霊竜にも一撃与えつつ、自分は直接斬り込んでいく
敵の呪い、瘴気の類は神刀が持つ浄化と破魔の力で打ち破り。まずは一度殺すべく攻撃だ

一度倒した後。復活して再度攻撃を仕掛けてくる前に、【緋洸閃】の刀を何本も敵の身体に突き刺しておく
継続してダメージを与えられる状態にしておけば、次以降が多少楽になるだろう



 敵の異常な姿を前にしても動じず、|具《つぶさ》に観察する瞳は、青年が戦い慣れた歴戦の者であることを窺わせた。事実、士官学校を出てからの彼は『実践』の場ばかりを渡り歩き、積み重ねた経験は既に年相応ではない。
(「不死に仕組みがあるならそれを暴けばいい。真っ向から戦う必要はない……のだが」)
 敵の状況を見た夜刀神・鏡介(道を探す者・f28122)は定石通り、弱点となる絡繰りを破壊する事を考えたが、グリモア猟兵から聞いた通り紋章は体内に隠され見えていない。どうやら本当に死ぬまで殺し続けるしかないようだ――諦観に溜息を一つ零し、二振り携える刀のうち無仭と銘打たれたものに手を遣った。これを抜き放つのは、真に斬るべきものと見定めた時だけだ。

 骨の翼が音を鳴らして羽ばたき、無数の鋭い骨の欠片が放たれた。生者を|磔《はりつけ》にすべく押し寄せる夥しい骨の槍、黙ってあれを受け入れるならば串刺しは免れないだろう。
 自身を貫かんとする骨の群れを黒の瞳は静かに見つめていたが、それらが程よいところに達したところで薄く窄まった。
「神刀解放。陸の秘剣――|緋洸閃《ひこうせん》」
 抜刀に伴い|緋色《あけいろ》の神気が溢れ、鍛え上げた鏡介の痩躯に纏わった。満ち溢れる神気は千の刃を生み出し、彼が命じずとも自動的に飛び交い骨の欠片を打ち落としはじめる。
 空間に断裂を及ぼす、緋色の波状攻撃。それらが骨片とぶつかり合う最中を低姿勢で潜り抜け、身に及ぶ瘴気や呪詛を神刀の加護で中和する。まずは竜に一度目の死を刻むべく刃を振り抜けば、死霊竜の首は面白いようにスパリと断ち切られた。
「そこだ……斬り穿て、千の刃」
 即座に復活するのを見越し、神気の刃を再生途中の竜の体に食い込ませる。刻まれた切創から呪詛を弱める浄化の力が染み入り、竜が疎ましげに首を振るのが見えた。
 効いている事を確かめ、更に追い打ちをと神刀を手に走り抜ける。
 鞭打ちの跡のように刻まれた緋色の断裂を、刀でなぞる。脆い骨は神刀を抵抗なく受け入れ、がらりと竜は身を持ち崩した。
 そのまま踏み込み、深く刻み込む再度の死。死霊竜の力が大きく減じたのを確かめ、鏡介は刀を手にして飛び退った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

神臣・薙人
この世界では死すら救いではないと
知ってはいましたが…
死ぬ事すら赦されないなら
せめてその呪いを壊しましょう

戦闘開始時点でヤドリギの織姫を使用
高速詠唱を使い
立て続けに植物の槍での攻撃を叩き込みます
破壊光線の詠唱が始まったら
口元を狙って妨害を試みます
うまく行かない場合は
魔法陣が展開された時点で
その直線上に立たないよう留意
横に跳び退く等してブレスの直撃を回避します
負傷時は生命の実で回復

植物の槍での攻撃で
他と違う反応を見せた場所があれば
そこを集中して攻撃
余裕があれば白燐蟲を呼び出し
他の箇所も同時に攻撃して
反応を探ります

紋章が露出した際は
槍と白燐蟲の両方で攻撃
相手が息絶えるまで
手を緩めるつもりはありません



 転生を導く桜の精となった今、歪められた命の在り様を見ることは耐え難い。
 傷に癒しを得て生まれ直せる影朧と違い、元より|邪《よこしま》で、更に深く魂の根底から改ざんされた存在。ダークセイヴァーの者どもには、幻朧桜の加護も及ぶまい。
「この世界では、死すら救いではないと知ってはいましたが……」
 緩く伏せた瞼の裏に、神臣・薙人(落花幻夢・f35429)は送られゆく影朧の穏やかな顔を浮かべる。傷つきながらも最後は満ち足りた顔で転生の路を選ぶ影朧、あれと同じ運命を辿らせてやれたらどんなに佳いか、と。

 呪詛に満ちた、虚ろな遠吠えが響き、骨の竜の顎がこちらを向いた。優しい『たられば』はこの世界には存在せず、あるのは死後も囚われる無間の地獄のみ。
「せめてその呪いを、壊しましょう」
 ブレスの魔法陣の出現を認め、薙人はヤドリギの織衣を纏った。自然界に紛れる深緑のローブ、それを構成する蔦の一部を手のように伸ばし、植物の槍を編み出した。
(「できるだけ速く……光線を喰らう前に」)
 植物の槍は破壊光を集める竜の顎に降り注ぎ、詠唱半ばの無防備な頭蓋を揺らがした。妨害は効いたか――効果の程を確かめるより先に、危険に敏い持ち前の感覚が退避を促した。
 竜の喉から直線上に伸びる、漆黒の大地を横に飛び退く。一拍の後に放たれた紫色のドラゴンブレスは、薙人の立っていた大地を舐め尽くして怨嗟の渦巻く焦土に変えた。
 二度目のブレスの体勢に入るより早く、薙人の植物の槍が降り注ぐ。体の脆い所を、紋章を隠した弱点を探るように突き入れられる槍は、飛龍の脊椎を穿った時の身じろぎを見逃さない。
(「……今のは」)
 転がった時の痛みを癒すのも忘れ、確信めいた予感に薙人は植物の槍を束ねた。螺旋状に編み上げた槍に|白燐蟲《びゃくりんちゅう》の加護を宿し、深々と背骨を突き崩すべく振り下ろす。
 竜の顎が天を仰ぎ、見当違いのブレスが空を焼いた。稚児の戯れに崩された積木のように、がらがらと骨の崩れる音が響く。
 再び組み上がる骨の竜。しかし再生の最中、一瞬垣間見えた不死の紋章の露出に、薙人は死霊竜の苦しみが後僅かである事を感じとった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シノギ・リンダリンダリンダ
死霊の、呪詛の、毒の、竜。あぁなるほど。お前は私なんですね
死霊を操り、数多の呪詛と毒をため込み、竜の呪いすら受けた、私と
同じ存在のよしみです。死ぬまで、殺して差し上げます


お前の瘴気と、私の呪詛、どちらが強いか勝負です
数多の呪われた財宝からの呪詛を浴び続けて体内にできた呪詛毒『Curse Of Tomb』
数多のオブリビオンを屠り、その呪詛を、恨みを、憎しみを受け続けて生まれた機関『Dead or Die』
そして己の持つ強い『呪詛』に、それらを持つ事で生まれる『呪詛、毒、狂気耐性』
それらを複合し、解放することでこの身の【生命活動】を誤認させる
私は生きながら死んでいる、死霊の大海賊です
瘴気自体もそれを上回る呪詛毒で防ぎます

それでは、【永久の幸せ】を発動
神経を過敏にする毒を、神経を鈍らせる毒を、その身を腐らせる毒を、その身を焼け爛れさせる毒を、五感を狂わせる呪詛を、思考を狂わせる呪詛を
数多の呪詛と毒の霧と、触手で、蹂躙する

安らかに死になさい
お前のその瘴気もまた、私の糧となる
これは永久の幸せですよ



 永く船舶に眠っていた人形は、何を思う。
 日頃戯れに悪態をつき、強欲のままに海原を駆けた。財宝を得ながらの航路に、いつしか物品ばかりではない宝が加わった。
 さりとて彼女の魂は少しも清らかではない。寧ろ、強欲の対価としてこんなにも汚れている。
「死霊の、呪詛の、毒の、竜……あぁなるほど」
 竜の構成要素の一つ一つを数え上げながら、ねっとり|睨《ね》めつける眼差しを敵へと注ぐ。それは憎き仇敵を見る時の目というより、あるいは――まるで。
「……お前は私なんですね」
 同類。死霊を操り、帆船に乗せて束ねる私と。数多の宝物から、オブリビオンから呪詛と毒を蓄える私と。骨身に染みこむ竜の呪いすら、|厭《いや》に似ていて親近感が湧く。
「同じ存在のよしみです。光栄に思いなさい……死ぬまで、殺して差し上げます」
 余所行きの顔、纏った仮初の人間性はなりを潜め、今の彼女は|幽霊船の船長《ゴーストキャプテン》。一種の愛情めいた心地よい敵意に、シノギ・リンダリンダリンダ(|強欲の溟海《グリードオーシャン》・f03214)の双眸が窄まった。

 肉体が腐れ落ちる死の瘴気が、骨の竜の全身至る所から放たれる。辺りに充満する気はミレナリィドールとて触れれば無事ではないが、あくまで普通の人形であればの話だ。
「お前の瘴気と、私の呪詛。どちらが強いか勝負です」
 紫の瘴気が人肌を模した体表に触れるも、シノギの身体からじわりと滲み出るのもまた呪詛。欲望のままに禁を犯し、蓄えた財宝の呪い。倒してきたオブリビオンの呪詛を束ね、凝り固めた生への渇望、憎しみ。
 この体は元より生きていない――生命である筈がないと誤認させる、致死量の呪詛毒。人の身なら耐えられぬ量の呪いを、人形の体は成程、貯め込むのに適していた。
「私は生きながら死んでいる、死霊の大海賊です。それしきの呪詛で止まるとでも?」
 いつの間にか、死霊竜の瘴気はシノギの霧と混ざり合っていた。どちらのものともつかぬ色濃い魔霧、それが視界を埋めている事に気付いてももう遅い。
「それでは……安らかに死になさい」
 ぱちりと指を鳴らした途端、死霊竜の意識は無数の情報の洪水に飲まれた。
 痛みが駆け巡る――痛覚がない。刺して、熱い、斬られる、臓腑がかき混ぜられ――竜にある筈もない痛覚の知らせに、意識も思考もどろりと溶ける。
「お前のその瘴気もまた、糧となる……私の中で、永久の幸せを噛みしめなさい」
 呪詛の霧の中に、ごとりと竜の頭部が力なく落ちた。露わになった不死の紋章ですら、呪詛の魔霧は取り囲んで食んでいく。

 長らく竜を突き動かしていた呪詛の縛りが抜け、魂が引き抜かれる。それを見た船長は満足気に収穫物を得て、回収する。
 竜に自我があったならば、今際に思っただろう。
 ああ、やはりこの世界は――死する事も赦されない。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2023年05月13日


挿絵イラスト