17
悲鳴があやす、不死者の夜長

#ダークセイヴァー

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#ダークセイヴァー


0




●ハンティング・ナイト
「ああああああああああああああやめろやめ、やめぇげっ」
「ひいいっ、いやだ、いやだようっ、おかあさぁああっ  」
「いだい、いだいいいいいいいっ!! やだやだやだやだ、しにたくな、」
「俺のッ! 俺の脚ッ!! あしいいいいいいいいい!!!」
「なんでええええっ、なんでっ、なんで、こんなあああ!!!」

 けものが群れて、村を襲った。
 群れの真ん中に、一人の女がいた。
 その女は飽いていた。いい加減、自分の領地を生かさず殺さず維持するのにも、普通に血を呑むのにも。沢山の家臣を従えて、自室で享楽に耽るのも。
 何もかもに飽いていた。

 ――なんで?

「お莫迦さんね。夜が長くて、退屈だからに決まっているじゃないの」

 女は蕩けるように笑った。
 ああ、けものはいい!
 けものはいつも人間を本能のままに、本能のままにかじりついて引き裂いてくれる!
 そこにはいつも新鮮な驚きがある。個体ごとにある微かな殺し方の差、見れば見るほどにそれは克明に見えてくる! はらわたから食う者もいれば、喉笛から食う者もいる。最も好みなのはいたぶるように投げ上げたり、あからさまに遊ぶような行動を取るけものだ! あとでまたご褒美をあげよう、私の血を分けてあげよう!

 最初の内はこの遊びもすぐに飽きるかと思ったが、これならばきっと今暫くは楽しめそうだ。だって上がる悲鳴も反応も、それぞれの人間ごとに違うのだから。しかも、沢山の死を同時に見られる!
 自分で殺すのは簡単だが、早く済みすぎるし、加減をするのも面倒だし、そもそも腕を振るわずとも死んでいくのが見られるのなら、効率的でいいではないか。

 事切れた若い男の首を拾い、血を摘まみ食いしながら、女吸血鬼は陶然と笑った。
 さあ、この村を蹂躙しよう。一から十まで、男も女も、地下に掘られた穴倉までも掘り返して。
 大丈夫。掘り返すのは、すべてけものがやってくれるから。

●狩られる側に回るのは
「今回の事件はダークセイヴァーで起きる。皆は狩りをした事がある?」
 壥・灰色(ゴーストノート・f00067)の話は、質問から始まった。
 答えは猟兵によりまちまちだったが、それを一通り聞き終えてから、彼は静かにルービックキューブ状のグリモアを回し始める。
「答えは色々だろうけど、狩りを行うのにもいくつか目的みたいなものがある。日々の糧を賄うためは当然。或いは、自分たちの生活を守るため、というのが目的なこともある。……そして、娯楽を目的として狩りをすることも。スポーツハンティングとか、君たちも聴いたことがないかな。UDCアースでは割とポピュラーな概念だ」
 灰色は言葉を切り、視線を上げる。
「或いはダークセイヴァーでもこの手の遊びは流行っているのかも知れない。今回の問題は、狩りの対象が人間であることだ。このままきみたちが行かなければ、村が一つ地図から消える。――ちょうど、死者を悼む献花祭の前夜らしくてね、他村からも人が集まっている最中のこの村に狙いを絞ったみたいだ」
 人を悼むために集まった人々を的にする。卑劣な発想だ、と少年は断じる。
「転送地点――戦場は村外れ、門の外。相手はタチの悪い女吸血鬼。奴は獣に自分の血を与え、狩りの道具とした。それによって方々の村を襲っている。――今からきみたちには、こいつが村を襲撃するのを阻止し、獣を一匹残らず潰し、女吸血鬼を撃滅して貰いたい」
 灰色は揃えたルービックキューブを浮かべる。“門”が開く。
 向こう側には、ダークセイヴァーの陰鬱な空が見えた。
「今から行けば襲撃開始直前に割り込める。村側に獣を通してしまうと面倒そうだ。残さず撃滅する策を何らか講じていくといいだろう。あとは……女吸血鬼は魅了の魔眼、高い身体能力、吸血蝙蝠の召喚能力を有する。格別に強力なはずだ。油断せず対策を講じて事に当たってくれ」
 説明を終え、灰色は硬い表情のまま、しかし決然と言った。

「狩られるのがどっちか、奴に思い知らせてやれ。きみたちになら、それが出来るはずだ」



 煙です。

 OP情報がおおよそ全てです。
 この理不尽を打破して下さいませ。お願い致します。

 今回の描写範囲は『無理なく(一日に三~五名様のお返し)』となります。
 期限一杯までは書くつもりでおりますので、お気軽にどうぞ。

 戦闘終了後は「献花祭」となります。
 花の咲かぬこの世界で、造花を作り死者に捧ぐ祭りのようです。
 また断章で様子の描写を行いますので、判断の上ふるってご参加ください。

 それでは、よき冒険を。
 プレイングをお待ちしております。
339




第1章 集団戦 『暗闇の獣』

POW   :    魔獣の一撃
単純で重い【血塗られた爪】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD   :    暗闇の咆哮
【血に餓えた叫び】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ   :    見えざる狩猟者
自身と自身の装備、【自身と接触している】対象1体が透明になる。ただし解除するまで毎秒疲労する。物音や体温は消せない。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●剣華を捧ぐ、この村へ
 夜闇に紛れ、黒い獣が目を光らせる。
 森から寄せる敵の群。その数は、まるで森をそのまま持ってきたかのようだ。

 猟兵達はそれぞれの意図を持って布陣した。攻め込むもの、村を守るよう立つもの、その動きは様々であったが――
 たった一つ共通していることがある。
「こんな悲劇はすっぱり根元から、刈り取ってやらないとな。そうだろ?」
 ――そう。
 この悲劇を断ちに、この場に来たということだ。
石動・劒

畜生相手は嫌いじゃないが好きでもない
余程大きな獲物でなけりゃ、名誉なくしてただ生死を分ける戦いになっちまう
スリルだけは、あるんだけどな

剣魂一擲、切り伏せる
第六感で気配を察知し、なぎ払いの2回攻撃だ
鋭い切れ味で、敵の鎧の如き肉体でさえも切って捨てて見せようじゃねえか
狙うは喉、肺ーー発声器官。猿叫よりうるさいとあっちゃかなわねえしな
敵の攻撃を見切って残像で回避。

そういえば、狩った数を成績とするルールもあるんだってな
俺も今まで人斬りの方はそれなりに繰り返してきちゃいたが、
獣狩りはロクに数えちゃいなかった
どれ、今宵一夜にて。俺の成績の程を計ってみようか
だから、ああ。来いよ畜生。次の輪廻に乗せてやる。



 抜刀。『一刀霊断』の銘もつ刀を夜闇に閃かせ、石動・劒(剣華常刀・f06408)は前進する。切った張ったをするのは彼の生きる道そのもの、戦こそを楽しみ生きる劒であったが、獣との争いには名誉も何も無い。獣には誇りも言葉もない。あるのはひりつくような生の実感、スリルだけだ。
 ならばただただ、斬って斬って断ち続けるのみ。
「『剣魂一擲』。いざ参る」
 ドン、と音を立てて劒は加速。草履が踏んだ痩せた叢が爆ぜ、土が捲れ返る。
 しいいっと鋭い歯擦音。叩き潰そうと振り上げられた獣の腕が銀閃一過、振り上げられた勢いのままにぽおんと空を飛ぶ。
「ゴオオオオオオオアアアアアアッ?!?」
「首一つ」
 刀を翻す。返す一刀で放つは喉を狙った突き。後頭部に向け刀が突き出て、ごびゅうううぶぶ、と空気が通り血の泡が刀を濡らす。
 一呼吸の間に二閃。劒はその字が如く、刀を使用した戦の名手である。
 次の個体が左手側より飛びかかる。大上段からの爪の振り下ろし。左脚で地を蹴り放し、ターンするように身を裁いて回避。身を巻く如く回すその勢いをそのまま剣先に乗せる。強靱な魔獣の肉体すら、刃筋を立てて繰り出された一刀の前にはただの肉だ。
「首二つ」
 今度は絶叫を上げる間もない。
 水面に浮いた葉が如き回避から、繰り出されるは爆ぜる火の如き剣閃。首が飛び、重い音を立てて落ちる。噴血した胴側が地を滑り、草を薙いで倒した。
 残心を取り、足を止めた周囲の獣のそれぞれに剣気を向けながら、劒は口元を歪めて言紡ぐ。
「遊興で狩りをするときには、狩った数を成績にする決め事もあるんだってな。俺も今まで人斬りの方はそれなりに繰り返してきちゃいたが、獣狩りはロクに数えちゃいなかった」
 『一刀霊断』の鋭い剣先を上げ、正眼に構える。
 相対すれば攻め倦ねる、隙のない構えだ。しかして出る言葉は飄々と。決して熱には踊らされずに、この冷たい月の光る夜、畜生共を六道地獄に落とすのみ。
 劒は刃が如く眼を細め、謳った。
「どれ、お前らが興じてた狩りに倣って――今宵一夜にて、俺の成績の程を計ってみようか。来いよ畜生ども。俺の刀が欲しい奴から、次の輪廻に乗せてやる」

成功 🔵​🔵​🔴​

ヘンリエッタ・モリアーティ
【WIZ】
惨いことを……!!
この世界では、ほんとうに嫌気がさすほど……身勝手な気持ちを考えさせられるわね。

獣にはケダモノがお似合いよ!
【魔犬の襲撃】でバスカヴィルを呼び出し、彼にも協力願うわ。
――餌の時間よ、食い散らせッ!!

私は、【ワトソン】を腰からワイヤー状に伸ばして
【ロープワーク】と【怪力】で、……獣の首を沢山落としてみせましょう。
飛び散る血に、欲が出てしまうけど……堪えないと。

狩るのは、楽しいわ。
生命を感じる。流れる血潮も、慟哭も、逃げ惑う様だって、見ているのは楽しい。
わかって(共感して)しまうの。「そういう私」も居る。
――私も、獣だから。

でも、だからこそ、――『許せない』!!



●ハウンド・ドッグ
 一体何人を殺すつもりだったというのか。その、手前勝手な享楽のために!
「惨いことを……!!」
 ダークセイヴァーという世界は、圧政を敷かれ喘ぐ民という、本来的に救われない構造をしている。ここに来るたびに、ヘンリエッタ・モリアーティ(獣の夢・f07026)は支配階級の身勝手さ、傲慢さ、驕慢さを考えずにはいられない。嫌気がさすほどに。
 敵は次々と走り寄る。方々で猟兵が戦闘を開始している。
 三体の獣が襲い来る前に飛び出し、ヘンリエッタは己に宿るUDC『ワトソン』を喚んだ。
「獣にはケダモノがお似合いよ! 食い荒らせ、“バスカヴィル”!! 餌の時間よ!」 ヘンリエッタが名を叫ぶなり、ワトソンから分岐するかのように魔犬が姿を現した。
 降り立った魔犬は彼女の視線を追うように敵に視線を向け、ブラック・ドッグは信に応えるが如く走り出す。バスカヴィルが飛びかかり、一体の獣にのし掛かって首を噛み裂く。残り二体は足を止めず、ヘンリエッタへ突撃。
 ヘンリエッタはワトソンをワイヤーのように伸ばし、指に絡めてひゅるりと振った。
「狩るのは、楽しいわね。知っているわ。生命を感じる。流れる血潮も、慟哭も、逃げ惑う様だって、見ているのは楽しい。わかってしまうの。『そういう私』も、実際に居るから」
 ――私も、獣だから。
 まるで懺悔をするように彼女は呟く。そう、決してヘンリエッタも清廉潔白な聖人ではない。彼女の中には複数の人格があり、その全てが個々の思想を持つ。その中には犯罪者に共感するための人格もある。潔白な正義の使徒ではいられないのは、知っている。
 しかし、それを邪悪とであると認めることが出来る、ヘンリエッタだからこそ。
「――でも、だからこそ、――『許せない』!!」
 吼え、彼女は駆け出した。
 今や至近に迫った獣、立て続けに振り下ろされるその爪を身を低めて掻い潜り、ワイヤーの如く伸べたワトソンを獣の腕に、首に瞬時に絡みつかせ。
 速度を殺さぬままに駆け抜け、全力でワイヤーを張る。鋭利に伸べられたワイヤーが獣らの首に食い込み、そのまま鋭断。
 ブツ切りになり、ぼとぼと、ばらばらと落ちるかつて獣だった肉塊を背に、ヘンリエッタはバスカヴィルを伴って前線を駆け抜ける。
 迸る血の誘惑を、己が獣の衝動を抑えながら。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リーヴァルディ・カーライル
…ん。退屈だから…か。
なら私がお前の退屈しのぎに付き合ってあげる。
狩りなら私も得意だから、きっと満足してもらえると思う。
…ただし。私が狩るのは吸血鬼だけど、ね?

事前に防具を改造して目立たないよう変装し気配を遮断。
【影絵の兵団】を応用し影兵を小出しで召喚。
影兵の一体に誘惑の呪祖を施し存在感を増した後、
獣が隠れているであろう場所に向かわせる。

…狩りというより、釣りね。

獣が影兵を攻撃したら、怪力を瞬発力に変えて接近
敵の行動を第六感を頼りに見切り、生命力を吸収する大鎌をなぎ払った後、
影兵達で追撃して傷口を抉る2回攻撃で仕留める。

…一匹ずつ、確実に仕留める。もうこれ以上、誰一人奪わせはしない…。



●ケモノガリ
 ――そんなに退屈なら、私がお前の退屈凌ぎに付き合ってあげる。
 狩りなら私も得意だから、きっと満足して貰えると思うわ。
 ただし。
 私が狩るのは、吸血鬼だけどね。

「狩るのは私。狩られるのはあなた」
 闇が囁いた。
 リーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)である。夜闇に紛れる黒い衣が彼女の身体を覆っている。『影絵の兵団』を使用し、彼女は影絵の兵士を数体召喚。呪詛によりその存在感を増した影絵の兵士らは、村の程近くにある木立に駆けていく。
 狩人としてのリーヴァルディの嗅覚は、生臭い血の匂いを木立の間に捉えていた。影絵の兵士が駆け、藪を掻き分け木立に無遠慮に分け入る。
 反射的な反撃、一体の影兵が砕かれるが、織り込み済みだ。最初の影兵は囮に過ぎない。
「釣れたわね」
 リーヴァルディは即座に影絵の兵士を追って複数体召喚、突撃させながらその後ろを駆ける。藪の中で戦闘を展開する影兵にあぶり出されたように、次々と獣たちが藪を飛び出してくる。
 リーヴァルディは大鎌――『グリムリーパー』を翻して、浮き足だった獣数体の元へ迫る。一体が影兵らとリーヴァルディの接近に気付き腕を振り上げるが、遅い。
 リーヴァルディは振り上げた腕の下を潜る如く駆け抜け、鎌の刃をガラ空きの胴に掛けて掻き寄せる。音もなくふたつに裂ける獣の巨体。それが地に落ちる前に、旋風の如く翻ったグリムリーパーの刃先が、二体目の腕を飛ばした。
「ゴオアアアッ?!」
「煩いわね」
 その口を塞げ、とばかり手を差し向ければ、十数体からなる影兵が飛びかかり、劒で、槍で、獣の巨体を貫いて傷口を抉る。喉に刃が届けば、耳障りな悲鳴も聞こえなくなった。
「……、」
 ぴく、とリーヴァルディの眉が跳ねる。
 彼女は満月を照り返すグリムリーパーの刃を今一度回旋。自分の真後ろを斬り上げるように振るう。何も無い場所に血線、縦一筋。断面がずるり、と現れ、どう、と何かが地面に倒れた。
「姿は消せても、匂いは消えないのよ。来世の教訓になさい」
 言い捨てる彼女の背で、真っ二つになり倒れた獣が姿を現した。まるで、死んだことに今気付いたように。
 熟練の狩人を前にして、視覚の欺瞞などないも同然である。
 リーヴァルディは藪の中に、今一度影兵を差し向ける。
「もうこれ以上、誰一人奪わせはしない……」
 祈るが如き言葉は、しかし決意に満ちていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

セリオス・アリス
◎大歓迎

吸血鬼っつーのはどいつもこいつも趣味が悪くなるようにできてんのか?

残さず殲滅する策は…
全部ぶっ潰す以外に思い付かねえな
ならそういうのが得意なヤツが何かする時間を稼ぐ為に
先に大暴れしてやりますか…っと

歌で身体強化して『先制攻撃』
靴に風の魔力を送り
正面から『ダッシュ』で距離を詰めて直前で高く『跳ぶ』相手の後ろをとったら『2回攻撃』おまけに蹴りも叩き込んで転がせそうなら転がそう
さぁ、次はどいつだ!?
大きな声で『存在感』をだし獣の注意を引く
『第六感』を駆使して『見切り』
踊るように優雅に
どこか獣のように
ギリギリの所で剣をふるって戦う

遊びは終わりにしようぜッ!
敵が纏まったら【蒼ノ星鳥】をブチ込もう


ヨハン・グレイン


曇天も枯れ野も、この世界の空気は個人的には嫌いではないのですけどね。
血の匂いと悲鳴は厭わしい――し、
それを楽しむ輩には吐き気がする。

人助けは性に合わないが、獣狩りと思えば、まぁ。
こちらも楽しもうか。

近距離戦は不得手ですので、基本は距離を保ちながら。
【蠢闇黒】の黒光石から闇を解いて、絡めとるように【呪詛】を。

周囲への警戒を怠らず。懐には入られたくないですから。
不可視の敵が居ようとも【蠢く混沌】で刈り取れるよう、
常に敵影を探しましょうか。
隠れるなんて随分と可愛らしいじゃないか。

狩り殺められる気分はどうかな。
俺は楽しいよ。お前達もそうだったのだろう?
絶望しながら死ねよ。



●闇を刻む焔
 地面に落ちるは猟兵の影、二つ。月が微かに照らす闇夜の中を、駆け来る獣らに向けて疾る。
「吸血鬼っつーのはどいつもこいつも趣味が悪くなるようにできてんのか? 人を狩って喜ぶような連中は、ここで全部ぶっ潰さねえとな」
 セリオス・アリス(黒歌鳥・f09573)の言葉に頷くのはヨハン・グレイン(闇揺・f05367)。
「曇天も枯れ野も、この世界の荒涼とした空気は個人的には嫌いではないのですけどね。けれど、そこに血の匂いと悲鳴が混じるなら話は別です。厭わしいし、それを楽しむ輩には吐き気がする」
 ヨハンが索敵を、セリオスがアタッカーを担当するツーマンセルである。
 セリオスはヨハンの言葉に弾むように頷き、白剣『青星』を抜き払う。
「気が合うな。それじゃ一つ、大暴れと行こうか」
「はい。……人助けは正直、柄でもないですが。獣狩りを始めましょう」
 ヨハンが足を止め、セリオスが疾る速度のままに突っ込む。戦端が開かれた。
「絡め」
 ヨハンは指に嵌めた銀の指輪を一撫で。嵌まっている黒光りする石は、闇を凝らせ固めたものだ。ヨハンが解き放つなり、溢れた闇が月光を食うようにして膨れ、伸びる。次々と伸びた闇が縄のように絡みつき、獣たちの動きを阻害する。
 前方、視認した敵数五。ヨハンの闇が捕らえた獣が三。
 その隙を逃すセリオスではない。
「さあ歌声に応えろ、力を貸せ!」
 朗々と歌い上げながら踵で地を蹴る。魔導蒸気機械内蔵ブーツ『エールスーリエ』が彼の魔力を食い、足下で旋風を巻き起こす。その風に乗り、セリオスは高く跳んだ。
 跳躍は鋭い。敵からすれば、突如視界から喪失したかにすら見えるだろう。脚にヨハンの闇が絡み、動きの止まった敵の脳天を剣先で貫き、死骸を蹴り飛ばして次の敵の進路を阻む。
 踏鞴を踏んで停止する獣。月に照らされ地に落ちた影から、不意に黒刃が浮かび上がる。闇を操るのはヨハンの得手。獣の影から浮かぶは彼が操る闇、『蠢く混沌』。
 ヨハンは指揮するように手を振るった。同時に黒刃が獣の屈強な後ろ脚を引き裂いた。
「ゴアアアッ?!」
「煩いな。吼えるな、駄犬」
 もんどり打って倒れ込む魔獣の首に、断頭刃の如く黒刃が振り下ろされ、一撃にて断ち切る。ごろりと転がる首に、降るは冷徹な声。
「狩り殺められる気分はどうかな。俺は楽しいよ。お前達もそうだったのだろう? それとも畜生にはそんな感慨すらないか? ――どっちにしても構わないさ。俺がすることは何も変わらない。絶望しながら死ねよ」
 ヨハンは侮蔑を籠めた声を発しつつ、なおも蠢闇黒による縄の如き闇を広範囲に伸ばす。
 彼が警戒するのは、不可視の敵だ。透明化して接敵されるとうまくない。
 視界全てを常に警戒。透明になっていても、常にこうして闇を全方位に放ち続けていれば、必然的に回避挙動を取る必要が出る。その時に出る音、凹む叢は、いかに姿を消していても誤魔化せるものではない。
「見える敵の他に……二体います。あと五体」
「透明な奴がいるんだな……捕らえられるか? 纏めてくれれば、俺が一気に薙ぎ払える!」
「やってみます」
 セリオスの言葉にヨハンはより集中を深め、拘束した獣の影から引きずり出した黒闇をも交え、透明化した獣の足跡を追い攻撃を繰り出す。
 見えぬ敵との戦闘を演じるヨハンをよそに、セリオスは今だ拘束されていないもう一体の獣に向き直る。
「次はお前みたいだな。いいぜ、掛かってこい!」
 大きな声を上げるのはこの戦場でより敵の注意を引きつけるために他ならない。果たして唸った黒獣は、四肢で地面の土を抉り立てながら迫ってくる。
 爪が振るわれるのをギリギリの位置で回避。顎を逸らし、剣で流し、横に転がって跳ね飛んで。まるで踊るように優雅に、すれすれの回避を繰り返す。
 苛立ったような大振りの一撃が来た瞬間、セリオスは素早く身を翻しながら剣を振るい、獣の目元を引き裂く。地の底から湧き上がるような太い獣の悲鳴。
「――つかまえた。隠れるなんて、随分と可愛らしいことをするじゃないか。――ほら。出てこいよ」
 時を同じくしてヨハンが、透明化した敵を黒刃で斬り付け、その落ちる血を目印にするという手段で敵の居場所を特定、蠢闇黒の闇にて拘束する。ヨハンは蠢闇黒の闇を収縮、敵の体勢を崩し引きずり、一所に纏める。闇揺の術は、ただただ静かで素早い。
「これでどうですか」
「完璧だ! ――さあ、遊びは終わりにしようぜ! 焼き焦がせ、蒼焔の星!」
 セリオスはヨハンの手腕に口笛を吹きながら、剣を構える。なぞった刀身に纏い付くは蒼き焔。振りかぶった剣が蒼く蒼く燃え上がる。
 振り下ろすと同時に放たれる蒼炎。炎は巨鳥を形取り、声無き咆哮を上げながら五体の獣を押し包む。生きたまま焼かれる獣たちの、凄まじい悲鳴が響き渡る。
 蒼炎が地に獣の影を色濃く落とし、
「穿て」
 死神の如きヨハンの宣告と共に、影から生まれた螺旋の槍が、獣の喉笛を食い千切った。頽れ、燃え落ちる獣をよそにヨハンは外套を翻し、セリオスは剣を再び構えなおす。
「まだいけるか?」
「問題なく。続けましょう」
 今再び。
 二人の戦鬼が地を駆ける。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

三千院・操
◎◎◎◎◎
――いいねぇ。悲鳴は嫌いじゃない。
でも雑魚の悲鳴を聞いてもちょっと物足りないんだよね。どうせなら、あの女の悲鳴が聞きたいなぁ! きひひ!
けど、その前にしなきゃいけないことがあるよね!
おまえらは邪魔なんだよ犬っころ。骸の海に沈んでな。

『光を愛せぬ者』を使うよ。
なぁ、何人殺してきたんだ? 何人の血を啜ってきた?
耳を澄まして鼻を利かせろ。分からないならそのまま死ね。(恐怖を与える)
ほーら! おまえたちを恨んでるやつらがこんなにいっぱい!

さぁ、吠え癖のある駄犬には首輪をつけよう!
声を出せば出すほど喉が灼く呪詛を重ねれば、首には茨の輪!
ほら魅せてよ! 無様に這いつくばってのたうち回れ!



●カース・バインド
 三千院・操(ネクロフォーミュラ・f12510)の精神性は、おそらくは善とは言いがたいものだ。その数六万という魔導書型のUDC、総体名『ゼファー・ラグエル』をその身の内に取り込み、三千院家の一族全ての才覚をその身に得た時から、彼の精神は破綻している。
「いいねぇ。悲鳴は嫌いじゃない。でも雑魚の悲鳴を聞いてもちょっと物足りないんだよね。どうせなら、あの女の悲鳴が聞きたいなぁ! きひひ!」
 嗤う、嗤う。彼が好むのは強者の苦鳴だ。雑魚の呻きではない。浮き立つような台詞を口にした直後、フッと表情から笑みを消し、彼は襲い来る獣らと相対した。
 そう。あの女の悲鳴を聞きに行くのなら、やるべきことが先にある。
「おまえらは邪魔なんだよ犬っころ。骸の海に沈んでな」
 烙印の如く手の甲に描かれた呪紋――ヘキサグラムが血の色に光る。放たれるは秒間二十五発の呪詛。向けた手から呪弾が連射され、走る獣らに突き刺さる。
「ガッ!!」
「ゴォアッ……!?」
 数体が転倒。また数体が喉を押さえながら地を滑り、藻掻く。
「なぁ、今まで一体何人殺してきたんだ? 何人の血を啜ってきた? 数えてみろよ、ワン公。耳を澄まして鼻を利かせろ。分からないならそのまま死ね」
 着弾した操の呪詛は、今までの犠牲者の怨念を形にしたように、まるで有刺鉄線の如き茨の輪と化す。着弾位置に芽吹いた呪詛の茨が環を成して、獣たちを苛むのだ。
「今まで仕返しされたことがないと解んなかったかー? ほーら! おまえたちを恨んでるやつらがこんなにいっぱい!」
 怨念と死霊を操るネクロマンサーたる操は、操る術の陰惨さを感じさせない明るい口調で言った。犬畜生に口が利けるわけもない。殺して食った数を覚えているわけもない。
 だから、それは。
 ただ死ねと言っているのと同じ事だ。
「――ッゴォォァ、」
「はいお静かにー」
 放たれる呪弾。首に突き立ち、伸長した茨が空気の通り道を、声帯を破壊する。
「……! ……!!」
「さぁ、吠え癖のある駄犬には首輪をつけよう! お前らの悲鳴じゃ物足りないって言っただろ? だからせめてさあ、苦しむザマを魅せてよ! 無様に這いつくばってのたうち回れ!」
 首に脚に腕に次から次へと、呪詛の茨が芽吹き巻く。声を上げようとすればするほどに喉に食い込み焼け付く茨。
 噴血して苦痛にのたうつ獣らの中央で、操の哄笑だけが耳に鮮やかであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アロンソ・ピノ
ごうつくばりの快楽主義とは、獣未満だべ。
膾に切って狩ってやるだ。
POWで行く。ユーベルコードは範囲と射程に優れた春の型での鞭剣による斬撃だ。
村に入られないよう、なぎ払いと範囲攻撃、先制攻撃と二回攻撃で遠間から斬って落とす。
闘い方としては抜刀する度に変形する武器(武器改造)での居合だ。
ただオレの武器は一度変形させて、鞘に入らないなら一度刀身を折らないと再度居合が使えないので指でバキボキ折りながら(怪力)戦ってる。
あと、第六感で感知して村に入りそうな個体が居たら最優先でそいつを狙う。一匹足りとも通してたまるか。
――春夏秋冬流、参る。


玄崎・供露
……ッッッとに、クソくだんねぇことしかしねェのな手前ら。良いぜ畜生。手前らの望んだ狩りの始まりだ

【誘惑】【誘き寄せ】【だまし討ち】技能を使う。鮮血淋漓発動。その辺の木の棒で軽く手足に傷をつけて出血させて、さも藪の中を必死で逃げてきたように見せかけ、半人半鬼の血の匂いで獣を惹き付ける。

惹き付けて惹き付けて、襲いに来るのを迎え撃つ。ユーベルコード発動。出来る限り回数使って最終的にミンチにしてやる。反撃には【激痛耐性】で……刻印の励起で発生した魔力を血に混ぜてるんで見かけより頑丈だから、耐える

※アドリブ、連携など大歓迎です。



●銀嵐縫う、悪魔の瞳
 聞けば村人を殺すのは娯楽のため。ただの娯楽、ただの消費。生きるためですらそうして害することを承服しかねるのに、よりにもよってただ遊ぶだけとは。
「……ッッッとに、クソくだんねぇことしかしねェのな手前ら。良いぜ畜生。手前らの望んだ狩りの始まりだ」
 玄崎・供露(テクノマンサー・f05850)が嫌悪も露わに呟く横で、同意するように頷くのはアロンソ・ピノ(一花咲かせに・f07826)。
「全くだ。許す気も逃がす気もねえ。始めようぜ。一匹残らず膾切りだ」
 アロンソは赤鞘の刀を持ち上げる。隣に人がいるためか、彼の言葉からは訛りが抜け落ちる。声には獣未満の快楽主義、断つべしとの義憤が燃えていた。
 二人よりかなり前方に、数体の群れが見える。
「俺が引きつける。後詰めを頼むぜ」
「任せとけ。合図するからちゃんと身を屈めろよ」
 刀の鞘を叩くアロンソ。飛び道具の類は彼の手にはない。一刀でいかなる援護を行うものか不明だが、小気味好い、自信に満ちた返事だ。
 供露は頷くと、拾った枯れ枝で手足を自傷し、血を流しながら駆けた。少女と見紛う細面に、怯えたような表情を張り付け、敵の群れへとひた走る。
 血の匂いに敏感な獣たちは、すぐに供露の存在を検知し、方向を変える。獣たちからしてみれば、線も細く柔らかそうな供露が一人で走る様子など、カモが葱を背負って向かってくるようなものだったろう。半人半鬼の特別な血の匂い、というのもそれを手伝ったやも知れぬ。
 ……ああ、でも、忘れてはならないのだ。
 うまい話には裏がある。安易に飛びついてはならない。
 接敵。先頭の獣が飛びかかってきた瞬間、供露は怯えの仮面を振り捨てて、合わせるように跳んだ。
「抱かれて潰れろ」
 ぐん、と供露は腕を繰り出す。開いた掌を敵の眼前でぐ、と握った。その瞬間、圧縮される空間。供露のユーベルコード、見えざる悪魔の腕――『空間の腕』が発動し、全方向から獣の身体を圧搾したのだ。骨が粉砕し、折れ、身体から飛び出し、まるで絞られた雑巾のように血が飛沫く。
 生きて着地したのは当然のように供露のみ。獣は、即死だ。
「残念だったな、ただの餌じゃなくてよ」
 供露は凶暴に、鮫の如く笑った。マスクの下で鋭く尖った牙を剥く。先頭の獣の凄惨な末路に、思わずと言った風に踏み止まる獣ら。
「屈め! やるぞ!」
 横合いからアロンソの声。供露が打ち合わせ通りに身を屈めれば、遠間から獣を狙うは「伸び」「撓る」斬撃であった。
 その勢いは春一番もかくや。春嵐を思わせる程に暴れ狂う銀の刀身、その銘を『瞬化襲刀』。その異形の刀は、抜刀のたび使用者の意を汲み取って変形する。
 うねり伸びた刀身は、先に行けば行くほどにそのスピードを上げる。宙で一度撓り、先端が引っ切りなしに音速を超えて、衝撃波が弾けて荒れ狂う。その剣舞に巻き込まれた三体は、あっという間に身体を、文字通り膾に切り裂かれ、首を刎ね飛ばされて果てた。
「――春夏秋冬流、春の型、壱の太刀――『春風』」
 春夏秋冬流。この異形の剣を扱い、数々の戦況に適応させる家伝の剣術にして、アロンソが旅をする理由となった流派である。
 刀身を巻いた血糊を振り飛ばしながら、アロンソは異形に変形した刀を引き戻す。刀身を手挟み指でへし折り畳み、今一度鞘へ戻す。一度変形させた後は無理矢理にでも鞘に戻さなければ、瞬化襲刀は再変形および再度の居合いが出来ない。
 人間離れした屈強な指の力がなければ扱えぬ、ピーキーで特殊な剣だ。
 折りたたんだ刀を鞘に叩き込みながら、アロンソが問う。
「残り二体、もう一発要るか?」
「いや――しまっとけ。もう終わった」
 供露が呟きながら跳ね起きる。アロンソの攻撃を屈むどころか伏せて避けながら、彼は斬嵐から逃れた二体を見つめていた。
 そう。時間にして十秒ほど。見つめ続けていた。
「悪魔の指からは逃げられねえよ」
 ぴっ、と二体の獣の前足から後ろ足に掛け、白い線が走る。その軌跡を追うように血が迸った。
 十秒間。必要な時間はそれだけだ。敵がいる場所に、空間の断裂を発生させる。断裂に巻き込まれれば、当然の如く肉は裂け、分かたれる。まるで悪魔の指がそこをなぞったかのように。
 ユーベルコード『空間の指』。近接格闘のみならず、効果範囲を「視線の届く範囲」とする供露と、高い攻撃力で一気に敵を薙ぎ払えるアロンソ。この組み合わせは極めて好相性かつ高攻撃力であった。
「お見事。いいところを持ってかれちまったな……っと、次が来るぜ。向こうだ」
「わかるのかよ?」
「勘だけどな。……村に入れさせるわけには行かねえ、行こうぜ」
 アロンソが走り出すのを、再び供露が追う。
 一匹たりとも村へは通さない。二人の固い意思は、烈火の如き攻撃力となって結実する。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

明日知・理


…すまない。
狩りの作法を知らなくてな。
――いや、
無作法であるのは、お互い様か。

◇戦闘
体力の低い者を優先的に庇う。
攻撃は出来る限り武器受けし、これも出来るならカウンターを。
もしくは武器で受け流し直撃を避ける。

此方が発動するユーベルコードは『氷雨』。
目立たないよう行動し、やがて気配を絶ち暗殺を試みる。
範囲攻撃も併用して一匹でも多くの獣を屠れるよう。
捨て身の一撃、怪力で肉も骨も断ち、
衝撃波も併せ、首を撥ね飛ばす。


(娯楽の為の狩りなど気分が悪い。
彼らが子どもさえも狙うのであれば、
静かな怒りと共に、一切の容赦もなく、斬り捨てる。)


リインルイン・ミュール
死んでしまったものは仕方ないで流しますが、まだ救えるんでしょう?
ならば当然そうしますトモ!

まずは剣を鞭状に変え、更にバウンドボディで剣を持ってる部位を伸ばして振り回す事で広範囲を引っ叩く
近付かれない限りは敵の範囲攻撃にかかりませんし、見えなくなった敵にも当たるかもですからネ

数が減ったら少し離れた敵へ、元に戻した剣を伸ばした身体の一部ごと投擲し攻撃
剣が刺さったら其方に高速縮み、勢い乗せてサイキック電流纏わせた両のガントレットでぶん殴る二回攻撃を
一度攻撃したらダッシュ或いは同様の方法で離脱、同じ敵にでも他の敵にでも向かいます
腕での反撃は単純な動きと予想、念動力で動きを阻害しつつ見切って避けまショウ



●雪風荒び、闇の舞う
 一体、何処にそれほどの数を隠していたのか。漆黒の獣は、倒せど倒せど村に押し寄せる。
 敵の首魁は今だ姿を現さず、あるいは今この瞬間にも獣は生み出され続けているのやも知れぬ。
 しかして、明日知・理(花影・f13813)の眼に絶望はない。一六才の若年に見合わぬ長身、引っ提げるは闇色纏いし妖剣。間近に迫る獣の腕を、ゆらり揺らめく柳葉が如く刀で流し受ける。
 金属質の爪が刀と軋り合い、耳障りな金属音が響く。
「……すまない。狩りの作法を知らなくてな――いや、或いは」
 振り下ろされた攻撃のエネルギーを殺さぬまま、理は攻撃を滑らせ、受け流した。運動エネルギーもそのままに獣の爪は地面を叩き、土礫を捲れ上がらせる。
「無作法であるのは、お互い様か」
 巻き上がる土礫が膝の高さに至る前。動きの止まった一瞬に花驟雨の一閃。ぱっくりと首が裂けて血が飛沫き、落ちる土塊と同じほどに獣の巨体が倒れ伏す。見事な後の先、カウンターである。
「無作法なんテものじゃないですネ! 人を狩って遊ぶなんてとんでもナイ! 死んでしまったものは仕方ないで流しますが、まだ救えるんでしょう? ならば当然そうしますトモ!」
 理の見事な斬撃を追い、華やいだ声が響く。リインルイン・ミュール(紡黒のケモノ・f03536)である。
 いつかは、たった二人だけしか救う事が出来なかった。或いはそれを見捨てる選択だってあったけれど、リインルインは助けるために駆けた。
 誰ソ彼ビルでの救出劇の時と同じ、助けられるものなら必ず助けるという意気軒昂たる声である。
 リインルインは液化金属で構築された不可思議な剣『真銀の尾』を鞭状に変化。己の身体を『バウンドボディ』により引き延ばし、握る鞭剣をその延長として振るう。
 結果、生まれるのは広範囲、無差別の鞭剣乱舞。遠距離から多数の獣を巻き込む斬撃だ。
 斬撃は見えている獣に留まらず、透明化している獣にも有効であった。何も無い場所から血が迸り、不快げな呻きが迸る。
「そこか」
 応じて動く理。ダークセイヴァーの無明の闇に、パーカーの雪色が薄らいで溶ける。視覚的な欺瞞ではない。それは、気配を断つ事による隠形である。噴き出し毛皮を濡らした血が、再び敵のユーベルコードの影響下となって消え失せてしまう前に――
 ああ、雪風荒ぶ! 衝撃波を纏う斬閃ひとつ!
 飄風の如く荒れた花驟雨の一撃が、透明化した獣の首を断つ。ぱあんと浮いた首が、宙で月を隠して影を落とす。その首が落ちる前に理は身体を廻し、手近な二体目を力任せに唐竹割り、一刀両断! 一刀風吹き、二刀は天雷が如く。
 二つに裂けた獣が地面に伏す。気配を断ち、高速移動することによって敵の認識の埒外に至り、その速力と怪力にて敵を断つ。ユーベルコード『氷雨』、理の必殺の一刀である。
「すごい刀ですネ、ワタシも負けませんよ!」
 真銀の尾を通常の長剣の形に戻し、リインルインもまた接敵する。浮き足だった敵の近くへ突き刺すなり、そこを取っかかりとして身体を縮める。バウンドボディの伸縮性を用いた高速移動だ。一瞬で敵の目の前に肉体を再構築しながら、剣を手放し捨て置いて、リインルインはそのまま、ガントレットを打ち鳴らして飛びかかる。
 サイキックブラストによる電流、スパーク! 帯電した拳がダークセイヴァーの闇を裂く!
 バウンドボディによるしなやかな肉体が、強靱な体幹の撥条によって撃ち出される。ボッ、と音を立てて繰り出された拳が獣の顔面を打ち抜いた。
 スナップから放たれるジャブ二発が牙をへし折り、顔面を歪め、腰の回転を入れて叩きつける三発目のストレートが、真正面から獣の鼻と牙を叩き潰し、顔面を破壊する。――そして放たれる電流! 最早悲鳴を上げることすら叶わず、獣はたっぷり二メートル吹き飛び仰臥した。二度と起き上がることはない。
 その拳打の嵐は、スタンガンを備えた鉄球を、高速・高サイクルで撃ち出しているようなものだ。凄まじい破壊力に、数体、獣たちが恐れるように後退る。
「ガアアッ!!」
「っとと!」
 横手から襲う次の獣が、振り降ろしの一撃を放つ。リインルインはまともに喰らえば深い傷を負いかねないそれの切っ先に視線を絞る。彼女は優秀なサイキッカーだ。テレキネシスで、その軌道をほんの僅かに遅らせ、喰らう前にステップ・イン。胴に機関銃の如き三連打。吹っ飛ぶ獣のその首を、三度風となった理の刀が狩り飛ばす。
「このまま敵が村に至れば――彼らは子供を殺すだろうか」
「するでしょうね。間違いなく。きっと、子供の悲鳴なんて大好物でショウ」
「ならば」
 一切の容赦を捨てる。何を憂うことも、後悔することもない。娯楽のための狩りなど、許せるものか。
 静かな怒りを放つ理にリインルインは頷いて、
「ええ。だからここで終わらせまショウ。狩りの標的になっていい人間なんて、きっと一人もいないのだかラ」
 真銀の尾を、地から引き抜いた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

シャルロット・クリスティア
防衛戦は本領です。お任せください。

一度村の門まで後退。トラップツールでロープと、楔を撒き菱代わりに敷設して罠とします。(ロープワーク、罠使い、地形の利用)
突破されなければいいだけですが、念のためですね。

あとはやることは単純です。目についた獣を片っ端から狙撃。
門からでも、迅雷弾ならば十分に届きます。
優先順位は、村に近づく敵>味方にマークされていない敵>攻撃態勢に入っている敵…くらいの感じでしょうか。
(スナイパー、時間稼ぎ、援護射撃、視力、早業)

突破などさせません。
私達がただ狩られるだけの存在だなどと思わないことですね……!


鹿忍・由紀
人間もオブリビオンも、暇だと碌なこと考えないね。
ヴァンパイアにとっては夕食の仕込みを工夫してみようくらいの感覚なんだろうけど。

門から侵入させなければ良いんだね。
俺はあんまり対集団との防衛戦が得意じゃないから他の猟兵と連携して攻撃しよう。ユーベルコードで支援射撃するよ。
門以外のとこから侵入を試みようとする獣がいても狙い落とせるし。
残念だね、今日は餌抜きだよ。

すり抜けて侵入されても困るし技能罠使いを利用して鋼糸でも張っておこうか。
門から入ってからの場所に張り巡らせておけば攻撃兼足止めになるだろう。
足止めされてるとこを叩けば戦いやすいし、罠があれば門外に人員割きやすくなるでしょ。

アドリブご自由に。


リュシカ・シュテーイン
悪質ぅ、悪辣ぅ……もはや何と呼ぶのでも構いませんぅ
……止めますよぉ、これ以上被害が広がってしまうぅ、前にぃ

村に侵入後はぁ、屋根でも塀でもぉ、出来る限り少しでも高い位置を探してぇ、登りましょうぅ
私の役割は敵の射程外からのぉ、援護と狙撃に専念させていただきますぅ
使用するのはぁ、獣の頭ほどであれば破裂させることが出来るほどの爆破魔力を籠めた宝石ですぅ

【スナイパー】【援護射撃】で皆さんを後ろから援護しながらぁ、敵が透明になった場合に他の方に声を掛けられるようぅ、【視力】を集中させ敵の監視も請け負いましょうぅ

……子にすら慈悲もかけず手に掛ける悪鬼羅刹
私は貴方がたを、決して許すわけにはいかないのですよ



●デストロイド・バラージ
 先行し、戦う猟兵らはよく動いた。視界に入る敵を撃滅しながら敵陣に浸透し、敵をよく滅ぼした。
 しかして、散兵として数体ずつが群れ、一斉に村へ寄せるのを、一気に撃滅できる攻撃規模を持つ者はいない。相対すれば必ず殺せたが、しかし必ずしも会敵して撃滅できるものばかりではない。猟兵らの苛烈な攻撃を縫い、村へと至ろうとするものも一体二体ではない。
 ――ならば、村の水際で戦うのが最適解ではないか?
 そう思われるかも知れない。勿論、それも解の一つだ。
 先に進んだ猟兵がそれをしなかったのには理由がある。

 銃声が響いた。四足で駆け抜ける獣の右肩部に着弾。体勢を崩し、殴られたように身を捩る獣が次の瞬間、血と脳漿を噴いて倒れる。
 射手がボルトハンドルを引き、即座に三発目の銃弾を装填する。

 ――防衛戦は本領です。お任せ下さい。

 シャルロット・クリスティア(マージガンナー・f00330)がそう謳ったからこそ、猟兵らは背を任せ前線での遊撃に全力を割くことが出来たのである。
 シャルロットが位置取るのは門近くの鐘楼。柵にライフルのハンドガードを乗せての依託射撃だ。
 彼女の指揮下で行われるのは『防衛戦』。到達する敵戦力を削ぎ取り、村の水際で食い止める戦闘。多くの場合、多対少数の戦闘が常となる。こうした場合に必要なのは罠、優秀な射手、そして最終的に減衰した敵戦力を叩く白兵。
 この場には全てが揃っていた。だからこそ、シャルロットは勝算を持ってこの策を採ったのである。
 彼女のライフルがまたも火を噴く。弾頭がバレルを通り、ライフリングが弾頭を食い締め、螺旋の回転を与える。弾頭と術式火薬が反応し、スパーク。銃弾が『エンハンスドライフル』のバレルを通り抜けること、そのものが魔術の詠唱となる。
 此度放つは電磁加速による超高初速での一弾。シャルロットが迅雷弾――『術式刻印弾・迅雷』と呼ぶ超高速の魔術弾頭だ。螺旋の電光を曳き、放たれた銃弾がまた一体の頭を貫く。
 ボルトハンドルを弾くように引き、指の股に挟んだ次弾を叩き込み、掌底でハンドルを叩き込んでボルトをロック。この暗闇の中を、事もあろうにアイアンサイト――ただの鉄の照星と照門で照準し、遠方の敵を貫きその数を減らしていく。
 射撃から再装填までの速度は、セミオート式の現代的な狙撃銃と比べてさえなお速い。しかも一発あたりの殺傷力は魔術を用いて強化されている分、言わずもがなである。
 優秀な狙撃手は、あらゆる壁に勝る防御力を持つ。シャルロットはその概念を体現した存在と言えた。
「よく当たるね。すごいな」
 放たれる銃弾は明るく輝き、射手以外からでもよく見える。鹿忍・由紀(余計者・f05760)は門の横手で、シャルロットの狙撃を見上げて呟いた。
「……じゃあ俺は援護かな。そろそろ来る頃だろうし」
 ぽつり、と呟く由紀。それとほぼ時を同じくして、近くの藪がガサガサリと音を立てる。飛び出す三体ばかりの獣。
 こうした攻略戦を行う場合、門を正面から狙うだけが戦術ではない。正面は最も強固に防衛される場合が殆どだからだ。ならば穴を突こうとするものは必ずいる。基本中の基本というか――獣ならば本能でやるぐらいの戦術だ。
 村を囲む柵の、脆くなった部分に向け獣たちは殺到する。しかし、
「ギッ」
「ガガウッ、ゴオッ!?」
 獣たちは唐突につんのめり、何も無い場所に引っかかって弾き返された。
 ――何も無い場所、というのは不正確だ。そこには、脚を貫く楔と、立ち木と看板の間に渡された、視認困難な極細のワイヤーがあった。この夜闇の中ではいかにしても、極細のワイヤーなど視認できない。
 それらはシャルロットと由紀により予め仕込まれていたもの。門の前後にも同質のトラップが組まれている。
 敵が弱いところを攻めてくるのを見越しての防衛策であった。獣は裏を掻けるが、裏の裏までは読めない。敵の戦術レベルを学習しつつ、由紀は口を開く。
「人間もオブリビオンも、暇だと碌なこと考えないね。ヴァンパイアにとっては夕食の仕込みを工夫してみようくらいの感覚なんだろうけど」
 無愛想かつ無表情に言いながら、由紀はダガーを抜いた。ダークセイヴァーの闇に浮かぶ幽玄の月光を照り返すその形を、由紀は魔力でなぞる。
 朧月夜に落ちる由紀の影から、まるで水面に浮かぶ泡沫の如く影刃が発生し浮かび上がる。十、二十、まだ増える。最早数えきれぬ。
「集団相手はそんなに得意じゃないけど、罠に掛かった手負いの連中なら話は別だ。――残念だね、今日は餌抜きだよ。おやすみ」
 驟雨の如く影の刃が降り注いだ。そのユーベルコードは名を『影雨』という。文字通り雨の如き影の刃が、罠に嵌まって藻掻く三体の獣を瞬く間に貫き、剣山のようにして滅殺する。
 由紀は泰然と歩き、視認すら困難な特殊ワイヤー『tears』で、今し方獣の前進を受けたトラップ部分を補強する。
「長丁場になりそうだな」
 呟く由紀の視界の隅を、不意に赤い流星が横切る。
 見上げた空に、赤々と燃える流星雨が見えた。

「悪質ぅ、悪辣ぅ……もはや何と呼ぶのでも構いません。……止めますよぉ、これ以上被害が広がってしまうぅ、前にぃ」
 間延びした口調ながらに、固い声で言うのはリュシカ・シュテーイン(StoneWitch・f00717)。由紀が見上げた流星雨の主である。二つある鐘楼の内、高い方を陣取ったのが彼女であった。
 ただの物見台、攻撃設備も何も無い。高さだけがあるその鐘楼が、リュシカ、そしてシャルロットが上った瞬間に強固なトーチカと化す。
 シャルロットの銃弾が敵を立て続けに貫く速射砲だとすれば、リュシカが放つそれは榴弾砲であった。
 リュシカ・シュテーインは『法石商』。ガラスペンであらゆる貴石、鉱石にルーンを書き込み、魔術的な効力を備えた『法石』を扱うエルフである。
 此度放たれるのは『爆破の法石』。強靱なゴムを張った巨大なスリングに番えた法石には、爆破のルーンがびっしりと書き連ねられている。
 一射。届く前に更に一射。また更に一射。
 空中、赫奕と燃え上がる法石が赤き流星の如く驀進する。走ってくる獣が頭部を叩き潰され――ちかり、と法石が赤く瞬き、周囲に爆炎を撒き散らす。
 赤く燃え上がった爆炎が、周囲の地形を照らす。赤く燃える炎が不自然に揺れる草むらを照らす。リュシカは敵の平均的な侵攻速度と、揺れた草むらの位置を即座に計算。
 ――この距離で、ただのスリングを用いて、石にて敵を射貫く技前。
 リュシカはただの法石商ではない。凄まじい視力を持つエルフにして、対象を射貫くスナイパーでもある。
 放った二の矢が、透明化した獣の頭をまたも射貫き、爆炎で吹き飛ばす。
「行かせませんよぉ。私たちががいる限りはぁ、絶対に村に入れさせません」
 狙撃手二名態勢は、遠距離から寄せる敵を凄まじい速射で減らすシャルロットと、より優れた視力と予測射撃能力を持つリュシカによる絶対防御の布陣である。
「……子にすら慈悲もかけず手に掛ける悪鬼羅刹。私は貴方がたを、決して許すわけにはいかないのですよ」
 ――常はやわらかな、ともすればおっとりしすぎと言われがちなリュシカの声が刃のように冷え尖る。冴える狙撃が、彼女の決意を表明している。
「はい」
 隣の鐘楼。声を聞いたか、シャルロットもまた頷いた。
 腿の弾丸が切れた。弾薬盒から掴みだした銃弾を直接銃に装填。ボルトハンドルをロック。
「その通りです。突破などさせません。私達がただ狩られるだけの存在だなどと思わないことですね……!」
 シャルロットは小柄な体躯に戦意を満たし、今一度遠方をポイント。
 放たれる小銃弾が、音速で無明の闇を裂いて飛ぶ!

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ジャガーノート・ジャック
(ザザッ)
Wilco.
第1ミッションの目標を敵性存在の殲滅と設定。
これより任務を開始する。

(ザザッ)
SPDを選択。
転送完了後可及的速やかに狙撃ポイントを見出し配置に着く。
(ダッシュ+早業+地形利用)

本機の第1ミッションにおける役割を友軍の撃ち漏らした個体の討伐・及び火線による支援と設定。
(援護射撃)

狙撃ポイントから『Paralyze Laser』を使用。
要援護者、もしくは村内に侵入を試みる個体を狙撃。
――サーモグラフィ・オン。透明になった程度で本機を欺けると思わない事だ。
(視力+情報収集)

本機の作戦概要は以上、実行に移る。
オーヴァ。
(ザザッ)


聖護院・カプラ
献花祭……人を追悼するいい行いを私情から蹂躙するオブリビオンの行い、到底赦せるものではありません。
暗闇の獣をここで食い止め、1匹たりとも通してはなりません。

『見えざる狩猟者』を使い村へ素通りされては困ります。
後光ユニットの出力を上げ辺りを照らし、『存在感』を全方位に向け放ちましょう。
私の『相殺』はユーベルコードを『存在感』で打ち消します。
透明化を解かれた暗闇の獣の始末は皆さんにお任せする事になりますが。

暗闇の獣が此方へ向かってきたら、そうですね。
技能も戦闘向けのユーベルコードもない私は……

私自身の体格と膂力で獣のお相手せざるを得ないでしょう。
加減ができませんので、そのおつもりで。


ジェイクス・ライアー

絶好の狩り日和だ。
ハンチング帽を持ってくるべきだったか。

【SPD】
門の防衛に注力する。
ここが文字通り最後の砦なのだから。
門の上から近づく獣どもを[早業][2回攻撃]で狙撃。
その手を休める事なく、感覚を研ぎ澄ます。
だが、数の暴力、敵の進行を完璧に防ぎきる事が出来ようか?

ああ、だが、
門が破られたとて。
門の内側に予め鋼糸を網のように張っておく。獲物が透けて見える、可視の要塞。
その牙に、怯える彼らが捕まることはない。

来るならば来い。
この門は死守する。



●ゲート・キーパー
 前述の通り――
 防衛戦に欠かせないものは後方支援火力、敵の虚を突く罠、そして最後に、白兵である。

 シャルロットらの狙撃を掻い潜ってなお肉薄する敵、或いは透明化したまま、まんまと村の前まで走り果せたものらの相手をするのは、三人の男だった。
「絶好の狩り日和だ。ハンチング帽を持ってくるべきだったか」
 眼を細めて呟くのは、ジェイクス・ライアー(素晴らしき哉・f00584)。門の上で傘型のショットガンにショットシェルを装填。威圧的な金属音が響き渡る。
 そして、門の下には二人――否、二機か。
「献花祭……人を追悼するいい行いを私情から蹂躙するオブリビオンの行い、到底赦せるものではありません。暗闇の獣をここで食い止め、一匹たりとも通してはなりません」
「Wilco. 第一ミッションの目標を敵性存在の殲滅と設定。これより任務を開始する」
 三メートル近いウォーマシンと、ジャガーの如き機械鎧の戦士が応じるように言葉を紡ぐ。どこかスピリチュアルな意匠のユニットを纏うウォーマシンは聖護院・カプラ(旧式のウォーマシン・f00436)、右腕の内蔵電磁レーザーガンの筒先を持ち上げる機械仕掛けの黒豹は、ジャガーノート・ジャック(OVERKILL・f02381)。
 彼ら三人が放つプレッシャーは、狙撃手二人の魔弾の嵐にも決して劣らぬ。
「では、手筈通りに行きましょう。お二人とも、攻撃はお任せしますよ」
「Roger.」
「いいだろう」
 カプラは二人の返事を待ったあと、後光ユニットを展開、その出力を最大に上げる。
 そこから放たれるのは光、そう――圧倒的な存在感の光である。救済ここにこそありとばかり、全方位に向けて放たれる、可視化された『存在感』……!
 ユーベルコード『相殺』。端的な名、端的な効果。しかして場に広がるは存在感に裏打ちされた無窮の光!
 流石のジェイクスとジャガーノートも、その時ばかりは一度目を細めた。ジェイクスはサングラスで、ジャガーノートはアイフィルターで対光防御を行う。
 すぐに光は収まり、あたりに暗闇が戻る。一見、カプラがただ光り輝いただけとも見えるであろう。しかし事実は異なる。
「姿を現したな」
「スキャンモード。対熱源反応スキャン結果との合致率、一〇〇%。敵、透明化のユーベルコードの無効化を確認」
 ショットガンの筒先を持ち上げるジェイクス。ジャガーノートが、サーモグラフィ・モードの視界と通常の視界の合致率を確認し、カプラの支援効果を検証・確認する。確認が出来ればすぐに通常の視界に戻す。リソースを照準と情報処理に充てる。
「私の存在感は遍くユーベルコードを打ち消すもの……当然と言えるでしょう。必要になったらまた放ちますので、差配戴けますか」
「Wilco. 敵戦力の進行平均速度より、現刻から四十五秒での再照射を提案する」
「承知しました。ではカウントを取りましょう」
 カプラの能力と現状を分析したジャガーノートが戦術案交換を行うのを眼科に見ながら、ジェイクスは門からゆっくりと脚を降ろす。中空を、まるで見えぬ階段を下るかの如く歩き降り、地に降り立つ。花道を行くように悠然と進んだ。サングラスを外し、ベストに引っかける。
「では始めよう、獣狩りを。用意はいいか?」
「Affirmative. 本機の第一ミッションの役割を、直接火砲支援及び討ち漏らしのフォローと定義する。幸運を、ジェイクス」
「幸運などという不確かなものより、君の銃を信じたいものだ」
 ジェイクスは滑らかに返すと、肉食獣の如く駆けた。とん、と地面を蹴り、駆け来た獣に飛びかかる。ショットガンの銃口で荒々しく敵を衝くなり、トリガー。
 銃声が響き、首から上が吹き飛ぶ。その反動を逃さず空中で身を捻り一転、続けざまに襲い来た個体の顔面を暗殺シューズの爪先で蹴りつける。飛び出したナイフが獣の目元を薙いだ。
「ギッ?!」
 ――ザザッ、
「動きを止めたな」
 ジャガーノートがその隙を逃さない。電磁レーザーガンの射線を獣に重ねて引き金を引く。発された熱線が一瞬で獣を捉える。集中したレーザーの熱量が獣の表皮を焼き切り、後ろへと突き抜ける。身体に穴を開けて倒れ伏す獣。
「いい腕だ」
 ジェイクスは地面に降り立ち、次の敵に向け跳ねた。
 飛びかかるには、やや距離が足りないかに見える。獣は歩幅を調整し、ジェイクスの着地予想点で爪を振りかぶり構えるが――
 ジェイクスは宙で、ピタリと静止した。
「ギャウッ……!?」
 予想を覆され、一瞬凍えたように固まるその隙を、ジャガーノートが逃すわけがない。閃光が走り、圧倒的な熱量で獣の身体をレーザーが焼き貫く。どう、と重い音を立てて転がる獣の死体。もう何をも聞くこと叶わぬ獣に、手向けるようにジェイクスは言う。
「わからないか、お前達には。ここが狩り場だということが」
 目を凝らしたならば、彼の足下に張られたワイヤーを視認できたものがいたかも知れない。
 村付近の立ち木には既にワイヤーが張り巡らされている。ジェイクスはその仔細な場所を記憶し、蜘蛛が如く糸を飛び渡る空間戦闘を可能としている。空間戦闘を行うメリットは二つ。敵からのダメージリスクを低減しつつ囮として敵を引き寄せられること。そして――ジャガーノートによる直接火砲支援の射線が、中空にいるジェイクスには当たらず、地を這う敵には当たることだ。
 ZAPZAPZAPZAPZAP!!
 出力を上げた電磁レーザーガンが周囲を薙ぎ払う! レーザーに巻き込まれた獣は、あるものは撃ち抜かれあるものは薙がれて二つに分かたれ、その破壊力を前に次々と死んでいく。
「カウント・フォーティ。スキャンモードオン、敵反応予備探知――……カプラ! 十字方向、敵二体!」
 引き続いてのユーベルコード発動の必要があるかを調査したジャガーノートがアラートを発する。
「なんと――」
 カプラは即座にユーベルコードを発動。今再び、光が戦場を包み込む。透明化を破られつつも、涎を散らして獣が二体、カプラへ向けて襲いかかる!
 ――が。
 骨が拉げ潰れ砕けて、一体目の獣が地面にめり込んだ。
 カプラが腕をぷらぷらと振る。
 そう、なるほど確かに。聖護院・カプラには、特殊な技能も、戦闘用のユーベルコードもない。
 ――しかし――しかしだ。鋼で出来たその体躯、実に二メートル七十センチ。
「私を狙うとは、考えたものですが……致し方ありませんね。加減ができませんので、そのおつもりで」
 何故気付きもしなかったのか。その体躯とウェイトだけで、カプラは既に充分な脅威たり得ると言うことを。
 竦むように足を止めたもう一体は、すぐさまジャガーノートが放つレーザーに撃ち抜かれ地面に伏す。
「すまない。敵侵攻速度を再評価する」
「構いません。推し通るつもりであれば、見ての通り私にも用意があります」
 カプラは前を向き直り、後光ユニットにエネルギーを再充填。
 ジャガーノートもそれに倣い、敵戦力を再評価、レーザーガンの再チャージを進める。
 前方、散弾銃の三連射。鋼糸の糸に棲む瀟洒なる蜘蛛が、ショットシェルを再装填し、顎髭を撫でる。
 己一人ならば或いは、村の中の罠に頼ることとなったかも知れぬ。
 ――しかして、この布陣ならば。

「来るならば来い。この門は死守する」

 傲然と放つ言葉には、確かな自信が沿うていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アルノルト・クラヴリー
弔いの席に新たな屍の山を築こうとはな、畏れ入る
命に添う心も無いのに、列席は遠慮願おう
お前達も弔ってやるから、さっさと道を開けろ

門を背に、後背の村を守ることが絶対条件
基本は竜騎士の槍での立ち回り

真っ直ぐな攻撃は槍の柄で受け止め防ごう

深く息吸う動作には、瞬間に槍の竜槍状態を解除
咆哮が放たれる前に、幼竜フィーを向かわせて【白の息吹】
冷気のブレスで一時的でも攻撃阻害を試みる

敵影が透化した時も、主に仲間の死角になる空間を中心に【白の息吹】
部分的にでも凍結させれば輪郭くらいは解るだろう

フィーが離れる間はルーンソードで戦闘対応

此処は日常にすら悲鳴が溢れる、仄暗い世界だ
せめて弔いの祈りくらい、人々の望む様にと


蓮花寺・ねも
ひとやけものの営みの範疇であるなら、ぼくが口を出す筋でもないがね。
オブリビオンが相手であるなら話は別だ。

襲撃の前に干渉できるなら上々。
ぼくは直接攻撃には然程向かない。
けものたちが村へ入らないよう対応しよう。

周囲の喧噪に惑わされず、不自然な空白の空間や物音に注意を。
けものを見つける都度【サイキックブラスト】で動きを縫い留める。
殲滅の助けになるよう、一匹でも多く足留めしていく。
敵の動きの方が速いようなら、近場の物を念動力で動かして壁にしよう。
悪いとも思わんが、ここは通さんよ。

狩りに興じる輩など、掃いて捨てるほど居るのだろうさ。
ぼくはそれを知っている。
……けれど、いま走らない理由にはならないな。



●紫電一閃、竜槍一条
 門からやや外れた、村の周囲。視界の通らない藪周辺を目掛け、二人の猟兵が走る。
「ひとやけものの営みの範疇であるなら、ぼくが口を出す筋でもないがね。オブリビオンが相手であるなら話は別だ」
 帽子を押さえ、蓮花寺・ねも(廃棄軌道・f01773)は呟く。桃色の髪が風に靡いた。
 例えば人が、獣が、糧を得るために何かを狩るとするのなら、それは生きるために必要なことだ。口を出すことではないし、口を出した時点でそれはどちらかの都合に肩入れをしたエゴに過ぎない。
 ――では、オブリビオンが人を狩るのは摂理か?
 否だ。少なくとも、ねもはそう感じるからこの夜を走る。
「同感だ。――骸の海から泡沫の如く浮かんだ過去風情が、弔いの席に新たな屍の山を築こうとはな、畏れ入る」
 応じるのはアルノルト・クラヴリー(華烈・f12400)。彼もまた、この悲劇を止めに参じた猟兵の一人である。怜悧な翠眼に銀髪の貴人といった風情だ。
 二人が向かうのは先に別の猟兵――由紀がワイヤーによる防御を固めたのとは逆方向だ。
 敵主力はほぼ正面に流れている。悪知恵の働く一部が、狙撃の射線が通らない藪や獣道を突っ切って走ってくることを想定しての守りである。
 果たして、その予想は的中する。絶対数こそ少ないが、数体の獣が藪を飛び出した。
「――命に、悲しみに添う心もないのなら、列席はご遠慮願おうか」
 村は今、かつて葬送したもの達への弔花を捧ぐその前夜。無粋な侵略者に花を踏み躙らせる訳には行かぬ。間一髪で柵と獣らの間に滑り込み、アルノルトとねもは素早く構えを取った。
 ねもは冷静に敵をカウント。四体。一度に相手にするには、数が多い。
「まずは動きを止めよう。一気に来られるのはよくない」
「いいだろう」
 頷くアルノルトの横で、ねもの藍色の瞳がゆらりと曳光した。周囲の砂利、木枝、朽ちた建材などが前触れもなく浮かび上がる。腕を振ると同時に、それらは飛礫となって敵に降り注いだ。ねもの念動力による牽制攻撃である。
「ギャウッ?!」
「グゥウウゥ、ガアァッ!!」
 広範囲を、飛礫の嵐が吹き荒れる。飛ばしたものはあくまでその場にあり合わせのものだ。――攻撃に致命の威力はなかったが、しかし、それでいい。敵は一瞬たじろぎ、足を止めた。それで充分、ねもの狙いは達成されている。
 不自然な飛礫の跳ね返り、空間の空白が可視化される。透明化した敵が二体存在。
「フィー! そこだ、吼えろ!」
 隙を逃さず、アルノルトが手の竜槍へ命じる。槍は即座に形を変え、現れるは幼竜『フィー』。愛らしい口を開けば、しかして凍気が吹き荒れた。放たれた純白のブレスが空間の空白――透明化した獣に絡みつき、その毛皮に霜を纏わせ、動きを封じる。
「いい目印だ。これなら――当てない方が難しい」
 ねもは集中も新たに、深く呼吸する。周囲の空気がざわめき、張り詰める。
 ばち、ばちりと紫電が跳ねる音。ねもの白い指先で放電現象が起き、大気が弾ける。突き出すように差し向けた手から高圧電流が迸った。空気と闇を切り裂いて、ねもの両手から溢れた雷が前の二体を撃つ。
 差し向けた指先はまるで雷神めいて、一度に五体の敵を放電で撃ち貫いた。
「ギャギッッ」
「ギィ……!!」
 その威力は凄まじい。瞬く間に四肢の運動機能を喪失して倒れ伏す獣達。それを飛び越えて参ずる最後の一体は、他の個体よりも体躯が大きい。
 アルノルト目掛け大上段から振り下ろされる、鉄槌めいた一撃。
「正直すぎるな」
 真っ直ぐな打撃だ。
 故、対処も容易である。アルノルトはフィーを槍に再び転じ、左手柄側、右穂先側。両手で持ち掲げ、槍の柄でまず打撃を止める。すぐさま槍を傾がせ受け流す。獣の爪が槍の柄を滑った。
 透かした獣の打撃が地面を打ち、土塊が吹き上がる。
「止めないとあれば仕方ない。――邪魔だ。お前達も弔ってやるから、さっさと道を開けろ」
 アルノルトが飛び退き射線を空けるなり、再びねもの掌から雷光が迸る。『サイキックブラスト』による高圧電流が駆け抜け、獣を貫いた。
「ゴッ……ガアアア!」
「逃がさない。……悪いとも思わんが、ここは通さんよ」
 ねもはサイキックエナジーを振り絞り、電流の出力を上げた。一瞬では止められぬのならば、止まるまで流し続けてやればよい。――敵を貫く刃は既に構えられている。
 荒れ狂う雷嵐、吼え猛る獣。飛び退いたアルノルトは地を這うように姿勢を低める。それは疾走の予備姿勢だ。獣は暴れ、ねもの電流を振り切ろうと前肢を振り回し藻掻く。
 アルノルトは迷いなく、放たれた矢の如く前進した。膝の撥条を解放し、腰の回転と両腕の動きをぴったりと合わせて突きを繰り出す。ねものサイキックブラストの煌めきを照り返した竜槍が閃き、獣の喉を貫き通した。
「グ、ガッ……」
 迸る血泡を口から飛ばしつつ、獣はぐらりと後ろに傾ぎ、どうと倒れ伏す。
 アルノルトは槍から血を払い、未だ痺れて藻掻く他の獣へ向き直った。
「此処は日常にすら悲鳴が溢れる、仄暗い世界だ。……弔いの祈りくらいは、守り抜いてみせる」
「ああ。……そうだね。狩りに興じる輩など、掃いて捨てるほど居るのだろう。この薄暗がりの世界には。知っているさ」
 ――けれどそれは、いま走らない理由にはならない。

 麻痺した獣に止めを刺し、二人は次なる敵に備え、構えを改めるのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

アレクシス・アルトマイア
夜が退屈だと言うのなら
狩られる側にして差し上げましょう

害を為すなら、害を為される覚悟をもって
平穏を乱すならば、平穏を乱されるのが道理でしょう
さあ、戦いを始めましょう

従者の時間短縮術でピンチの方の加勢をしたり
大技の為の隙をつくって差し上げたり致します
もちろん、一人でも十全に戦えますよ

門の前にこっそり鋼糸を張り巡らせておいて抜けようとするけものを捕らえましょう
切れ味は鋭くしておくので、そのまま切断できたら楽なのですけれど
鋼糸に、二丁拳銃に、無数のダガーで戦いましょう

一応、襲撃を止める気はないかと訊ねておきたいところですが
残念ですね、言葉も意思も、通じないようです
禍根の無いよう徹底的に狩り尽くします


葦野・詞波

娯楽のための狩猟か。不思議なものだ。
狩るからには、狩られることもある。
そういうものだと思っていたのだが。

何、娯楽のための狩りを。命を賭けない狩りを。
狩りと呼びたくないというのは、私個人の問題だ。
なら、命を賭けた狩りのやり方を教えてやるだけだ。

敵の狩りの目を村人から私に向けるために
味方を巻き込まないように注意して
敵中に飛び込んだら【人狼咆哮】。始まりの合図だ。
私を狩るか。私に狩られるか。
狩られたくなければ、見事狩ってみせろ。

後は獣との単純な力比べだ。
槍で【串刺し】にしていくとしよう。
軽傷は承知の上だ、重傷さえ避ければ良い。

人間の狩りの強みは連携だからな。
味方とも連携はしていく。


夷洞・みさき
いつもの事だけど。この世界は相変わらず趣味が悪いね。
飽きるまで放っておくわけにもいかないし、まずは、飼い犬達を躾ないとね。

【WIZ】
【UC地形変化】透明になったところで、空は飛べないだろうし、海水と潮風が君達の場所を教えてくれるね。

獣の恐怖を煽り、車輪で攻撃。
村への経路を確認し、そちらに向かう獣を警戒、最優先に潰す。
こういった獣を躾けるのはやっぱり【恐怖】を与えながら【踏みつけ】た方がいいかな。

村に行かないのなら、巣に帰るのはどうでもいいよ。
飼い主が迎えてくれるか知らないけれど。

犬が人を襲う光景ばかりだと飽きるよね。
だから、犬が襲われる光景を楽しむと良いよ。

次は…誰になるのかな。


ユア・アラマート
狩りか。覚えがあるよ。私の場合は純粋に糧とするためのそれだったな
とはいえ。今だってやっているのは狩りと変わらない
獣が相手かオブリビオンが相手か、それくらいの違いだ
では、始めるとしよう

影の閃赤で残像を召喚。【ダッシュ】で加速を上げて高速で動き回ることで敵の視線を撹乱して攻撃の的を絞らせない
攻撃が当たれば痛いが、それなら最初から当たらなければいい
ついでに、無差別というのなら私の残像に釣られた他の個体も範囲にいれば攻撃を喰らうだろう
手が足りないんだ、少しは自分達でも片付けていけ

打ち漏らしは一匹の例外も出ないよう、逃さず間合いに捕らえて喉を引き裂く
大人しく眠れ。血肉が欲しいなら自分の物で我慢するんだね



●踊れ、海神の淵で
 村を防衛する猟兵達は、盤石の態勢で攻め寄せる獣たちを討ち滅ぼす。
 遊撃する猟兵らもまた、散兵となった獣らを各個撃破し、その攻勢を弱めていく。
 そして――止めとも言えたのがその四名の存在であった。

「娯楽のための狩猟か。不思議なものだ。狩るからには、狩られることもある。そういうものだと思っていたのだが」
 わからない、と言いたげに首を振る女は葦野・詞波(赤頭巾・f09892)。わからない――というよりは、認めたくないのだろう。娯楽のための狩り、命を賭けない狩り。そんなものを、狩りとは呼びたくない。
「そういうものだよ、純粋に糧を得るための狩りはね。奴らの在り方が歪んでいるだけさ。――始めるとしよう。オブリビオン狩りだ」
 詞波の言葉に頷き、彼女に同調するのはユア・アラマート(ブルームケージ・f00261)。二本のダガーを引き抜き、構えを取る。
 図ったようなタイミングで、敵の一団が森から駆け出てくる。
「やっぱりあそこが出所か。頼むよ、ミサキ、コトバ」
「わかった。……まったく、いつもの事だけど。この世界は相変わらず趣味が悪いね。――溺れさせてあげよう、飼い犬達。躾の時間だ」
 ユアに頷いて、詞波に続き、夷洞・みさき(海に沈んだ六つと一人・f04147)が進み出る。みさきはそのままユーベルコードを発動。ず……、と周囲に呪詛含む水気が立ち上る。じわり、じわり、周囲の地面から、この内陸の平野にあるはずもない匂いが立ち上る。
 それは、潮風の匂い。海水の匂いだった。満ち出す水気を感じつつ、詞波は深く息を吸いながら先駆けする。味方から距離を取り、間近に迫った敵の群れ目掛け、裂帛の気合を叩きつけた。雷鳴のように轟く人狼の咆哮は、獣たちへの宣戦布告である。まともに受けた数体が三半規管を揺らされたように転けまろぶ。
 獣たちの敵意が、完全に詞波達を向く。
「さあ、彼方より響け、此方へと至れ、光差さぬ水底に揺蕩う幽かな呪いよ……我は祭祀と成りて、その咎を禊落とそう」
 それを確認して、みさきは詠唱を結んだ。水気が結実し、淀んだ海水を成す。ざぶりとくるぶしまでを包む程にせり上げる海水。
 詞波が叫びにより敵の注意を引き寄せ、みさきが地形を支配する。――この二名は直接戦闘も行えるが、それに加えて更に風の魔術にて地形のハンデを覆せるユアに――
 もう一人。
「夜が退屈だと言うのなら、狩られる側にして差し上げましょう。害を為すなら、害を為される覚悟をもってこそ。平穏を乱すならば、平穏を乱されるのが道理でしょう?」
 ぱしゃり、ぱしゃり、水を蹴散らしてロングスカートの少女が進み出る。レースの目隠しで眼を隠した、ミステリアスな風貌の、銀髪の少女だ。
 閃かすように打ち振った両手の先には、一体いつ抜いたものか二丁の拳銃、フィア&スクリームが光っている。
「さあ、戦いを始めましょう。私の弾丸と貴方たちの爪、速いのはどちらでしょうね?」
 アレクシス・アルトマイア(夜天煌路・f02039)は、答えの出ている問いかけをして、銃の安全装置を弾いた。セフティ・オフ、ロック・オン。
 クロスさせた二挺の銃が、銃火いう名のと恐怖を叫ぶ。マズル・フラッシュが閃き、獣の一体が出来の悪いブギを踊って吹き飛ぶように倒れた。殆ど魔法めいた照準と連射。雷光めいたクイックドロウとラピッドファイアは、手数に於いて全く獣を寄せ付けない。
 戦端が開かれる。
「さて、捕まえてご覧」
 銃火が瞬き、敵を照らし上げる中、次に動いたのはユアだ。姿がぶれたかと思えば、彼女の周りに四人の分け身が現れる。分け身は皆ユア本人と同じ動きでダガーを廻し逆手に持ち替え、同じ詠唱を重ねて風を纏う。それはユーベルコード『影の閃赤』による、質量を伴う残像だ。
「――おまえ達には無理だろうがな」
 皮肉るように笑うと、ユアは舞うように飛んだ。爪先が水を撥ねる。その一歩一歩はまるで飛び石が水面を跳ねるようだ。
 ユアはそのまま残像を伴い、詞波の横を抜け敵の渦中に躍り込んだ。
「ガアアアッ!!」
 吠え声を上げ横振りに獣の前肢が振るわれる。本体さえ当たらなければダメージはない。残像が爪に貫かれ一つ霧散するが、ユアは間髪身を屈めて打撃を潜り抜ける。残像を突き抜けた爪が横合いにいた獣を切り裂いた。
「ギャウッ?!」
「おやおや、気を付けて腕を振らないとな。横のお友達に当たってしまうぞ」
 シニカルに笑うユアの狙いは、まさにそこにある。密集した敵集団の渦中、至近距離を駆け抜けながら攻撃を回避し、敵が同士討ちするように仕向けつつ、また自らも刃を閃かせ敵を切り裂く。先陣を切る撹乱役だ。
 敵一体が身を仰け反らせすうう、と息を吸うところを見逃さず、ユアは跳躍。その喉をダガーで掻っ捌き、咆哮を迸る血泡に変えながら、ユアは残像を伴って駆け抜ける。浮き足立つ獣ら。
「こっちを見ろ、獣共」
 凜とした声。弾かれるように向き直る獣たち目掛け、ドラゴンランスを携えた詞波が突っ込んだ。
「野生を忘れて血に堕ちたか。命を賭けた狩りのやり方を、思い出させてやる」
 水を蹴立てて助走した加速力を活かして放たれる全力での突撃(チャージ)。重い槍の穂先が一体の獣を串刺しにする。貫いた獣を横に振り捨てる。
「――さあ! 私を狩るか。私に狩られるか。狩られたくなければ、見事狩ってみせろ!」
 吼える詞波の苛烈さは、最早獣以上だ。気圧されながらに一体の獣が詞波に襲いかかる。突き出される爪を回避。ドラゴンランスの間合いには近すぎる。詞波はそのまま踏み込んで、握り固めた左拳を獣の胴に叩き込んだ。
「……ガッ?!」
 踏鞴を踏み、獣が一瞬動きを止めたかと思えば、その延髄にユアのダガーが突き立つ。飛び退く詞波。
 よろめき、ばしゃりと派手に水を散らして倒れる獣の上で、残り二体となっていたユアの残像が再び四体に分かれた。本体の動きを追い、「彼女ら」は妖しく笑う。
 流石の獣たちでも、これだけの多勢で挑みながら翻弄されるのは相性の悪さと悟る。獣らは意思疎通するように吼えて、ユーベルコードによって姿を消し――駆け出した。
『足下の水を蹴散らして』。
「残念。透明になったところで、空は飛べないだろうし、海水と潮風が君達の場所を教えてくれるね」
 みさきである。無情なる声の直後、アレクシスが放つ無数の銃弾が跳ねる水の上を的確に射貫いていく。援護射撃に長ける彼女は、このような密集した敵集団との戦闘でさえ、その機動力を奪う位置を的確に狙撃することができる。
 獣らは次々と吠え声を上げ、呻き、転倒して水を散らした。透明化が解除され、藻掻き転げ回る姿が露わになる。
「一応、襲撃を止める気はないかと訊ねておきたいところですが――残念ですね。獣相手じゃ、言葉も意思も通じません。ならせめて」
 アレクシスは常と変わらぬ口調で言い、フィア&スクリームをリロード。
 ――ずらり。
 リロードの金属音の間に、闇を固めたかのような漆黒の短剣が、アレクシスを取り巻くように浮かび上がる。
「禍根の無いよう徹底的に狩り尽くします」
 降り注ぐ、黒き無数のダガー。その影を宙に焼き付けるは再三吹き荒れるバレット・ストーム。次々と銃弾が、ダガーが獣らに突き刺さる。倒れるものもいれば、踏み止まったところを詞波に貫かれ、ユアに切り裂かれるものもいる。
 獣らの絶叫をバックに、フラッシュを焚くように闇を払う銃火の間を、みさきは悠然と歩いて行く。
 逃げようとする獣に興味はない。村に向かわないのなら放置しても構わないが、どうせ他の三名が許すまい。縦しんば逃げ帰れたとて、彼らの飼い主がそれを許すとも思えない。捨て置く。
 なおも這いずり村に向かおうとするもの、怯懦の声を上げながらも立ち上がろうとする獣たちを、呪詛を帯びた水気で蝕みつつ、みさきは『七咎潰しの大車輪』を手も触れず転がす。みさきの意に添うように、車輪はぬかるみに轍を残し進む。
「残念だったね、狩りが出来なくて。でもさ、君たちも犬が人を襲う光景ばかりだと飽きるよね。だからさ、今日は犬が襲われる光景を楽しむと良いよ」
 にこりともせずに言うと、みさきは大車輪を躊躇なく奔らせた。
 進路にいる獣たちが、身の毛のよだつような今際の叫びを上げる。轢殺、轢殺、轢殺。淀んだ潮風に生臭い血潮が混じり、荒涼としたダークセイヴァーの平野を更に陰惨に彩る。
 地形を支配し、四人が完全に連携しての戦闘は、結果を見れば蹂躙の一言であった。
 みさきはぴしゃりと海水を蹴立て、前方、獣らの出所であった森の奥に目を向ける。

「――さて。次は、誰になるのかな」

 言葉は『出てこい』と、ほぼ同義であった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『ヴァンパイア・レディ』

POW   :    肉体変化
対象の攻撃を軽減する【魔力で出来た霧状の肉体】に変身しつつ、【時折実体化しては、鋭く伸ばした爪や牙】で攻撃する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
SPD   :    魅了の魔眼
【魅了の魔力を込めた視線を放つ事】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【瞬時に篭絡し、同士討ちをさせる事】で攻撃する。
WIZ   :    闇夜の眷属
レベル×5体の、小型の戦闘用【の『眷属』、吸血コウモリ達】を召喚し戦わせる。程々の強さを持つが、一撃で消滅する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はアルル・アークライトです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●Vampire hunt.
 放たれた威圧の声に応えるのは、森の奥から滲み出す黒色の霧だ。黒霧は渦を巻き、ひとりの女の姿を形取る。
「とんだ邪魔が入ったものね。退屈は嫌いだけれど、私、物事が予定通りに進まないのはもっと嫌いよ」
 夜目に鮮やかな金髪。豊満な肢体を黒い外套で覆ったその女こそが、この事件の首謀者たる女吸血鬼に相違あるまい。獣達が残らず狩られてなお、吸血鬼の態度から余裕が消えることはない。グリモア猟兵が語ったとおりの強敵であることが伺える。
「邪魔してくれた分の対価は血で贖って貰わないといけないわ」
 赤い舌で唇をなぞると、吸血姫は爪に魔力を通わせ、踊らせるよう手を振ってみせる。赤く光を曳き、鋭く空の裂ける音。
「精々無様に踊るのね。生まれてきたことを後悔するまで、虐めてあげるわ」
ユア・アラマート
群れの長がお出ましのようだな。それじゃあ、私達と遊んでもらおうか
弱者を甚振って悦べる程度の安い頭では、少しばかり刺激の強い遊びになるだろうけどね

まずは【ダッシュ】で戦場を軽く流すよ。今回の目的は撹乱と言うよりは、敵の気を此方に引き寄せる事にある
放っておいたって襲いかかっては来るだろうが、【誘惑】も取り入れてコウモリたちを一匹でも多く、他の味方に向けられた分も含めて誘き寄せよう

欲しいのは、あの女から私を隠すための「壁」
そのためには少しくらい血も分けてやろう
吸血鬼の視界から私の姿が消えるか、曖昧になった所で【属性攻撃】と【全力魔法】
刹無の風杭でコウモリたちを蹴散らして、そのまま親玉へとぶつけてやる



●ストライク・エア
「ようやくお出ましか。それじゃあ、私たちと遊んでもらおう」
 ユア・アラマート(ブルームケージ・f00261)が風を纏わせたダガーの刃先を吸血姫に向ける。
 相対して感ぜられるプレッシャーを歯牙にもかけず、彼女はからかうように口にした。
「もっとも――弱者を甚振って悦べる程度の安い頭には、少しばかり刺激の強い遊びになるだろうけどね」
「あら、活きがいいのね。どこまでその減らず口が叩けるかしら。私、楽しみだわ」
「こっちの台詞だ。私を捉えられるか?」
 ユアは即座に前へ踏み込んだ。風の魔術を纏い、足下で爆ぜる旋風に乗って高速で移動する。単純な特攻に見えたかもしれないが、彼女が先陣を切る狙いは、まずは敵の攻撃を、意識を自分に引き付けることだ。吸血姫はユアの挑発に余裕ぶった笑みで応え、手を閃かせる。闇が凝り、数えるのもおっくうになるほどの大量の黒い蝙蝠が生み出される。それも一瞬にしてだ。
「食事の時間よ。きっと家畜どもの血よりはマシな味がするわ、喜びなさいな」
 森が騒めくかのような羽音が響いた。群れた吸血蝙蝠が吸血姫の号令一下、猟兵らの血を喰らわんと迫る。
 ――数が多い。しかし、好都合だ。
 ユアはあえて方向転換を普段より遅く行い、敵に追尾する隙を与える。動きに迷いがある風に見せれば、何も考えぬものはそこに食いつくと知っている。惑うように足を縺れさせ群れを迂回しようとするユアに、果たして吸血蝙蝠は群がるように飛び寄った。
 ダガーで数匹を斬り薙ぎ落とすが焼け石に水。悲鳴もなくユアは殺到する蝙蝠の群れに呑まれ、闇色の羽音の中に消える。
「まず一匹かしら。存外早かったわね、口を利けなくなるのが」
 吸血姫は嘲笑い、他の猟兵らに向き直ろうとして――弾かれたように蝙蝠の群れに視線を戻した。
「――少しくらいはくれてやったが、その分だけでも高くつくぞ。私の血は」
 赤く赤く、月下美人の光が揺れる。そして、猛然と轟く破裂音!
 二百を超すかに思われた無数の蝙蝠たちが爆ぜる爆ぜる、全力で放たれたのは、風を杭の形に固め、着弾と同時に炸裂させる魔術――ユーベルコード『刹無』である!
 まったくの不意打ちにヴァンパイア・レディの回避が一拍遅れた。吹き散らされる闇の内側で、翡翠の目が笑う。
「釣りはいらない。持って行け」
 さらに放たれる風杭が、吸血姫の体を捉え炸裂! 身体にいくつもの風穴を穿つ!
「ふ、ふふ、面白いわ……! 少しは骨があるようね、貴女」
 空いた風穴から溢れる血霧で再び肉体を織り上げながら笑う女に、ユアは流れる血を拭いながら艶然と笑う。
「まだまだこんなものじゃあないさ。続けよう。差し当たっては、その余裕が顔から消えるまでな」

成功 🔵​🔵​🔴​

アレクシス・アルトマイア
まったくもう。けものさんの躾が終わったかと思えば、次は我儘お嬢様の躾ですか?
従者使いが荒いと思いますよっ

……ですが、その期待に応えてこその、従者というもの
十全にお仕事をやり遂げてみせましょう。

魅了の魔眼ですか……怖いですねぇ
目を合わせるなんて、とてもとても。
……はっ、この可愛い目隠しをアピールするチャンスなのでは?

【従者の礼儀指導】で不躾な蝙蝠さんを撃ち落として

【宵の華】でお嬢様の退屈を紛らわせに参りましょう。

援護射撃に、二回攻撃に、暗殺に。
フルパフォーマンスで戦いましょう。
……実は私、だいぶ怒っていますから。
容赦は無しで、殲滅いたします。



●Bullet Ballet.
 猟兵達は包囲戦を仕掛けた。吸血姫は楽しげに高らかに笑いながら、己が姿を霧と化し、縦横無尽に飛び回って格闘戦で応じる。
「まったくもう。けものさんの躾が終わったかと思えば、次は我儘お嬢様の躾ですか? 従者使いが荒いと思いますよっ」
 アレクシス・アルトマイア(夜天煌路・f02039)もまた、最前線で戦っていた身である。動いたのはユアのほぼ次だ。跳ね上げたフィア&スクリームの銃口が“お嬢様”――吸血姫を睨む。
「ですが、その期待に応えてこその従者というもの。十全にお仕事をやり遂げてみせましょう」
 銃声。二挺拳銃、フィア&スクリームが高サイクルで火を噴く。夜目に鮮やかな銃火が咲くが、銃弾は吸血姫まで届かない。呼び出す蝙蝠が盾となって銃弾を防ぐ。
 ――それでいい。その分、攻撃に転じる蝙蝠が減る。
 蝙蝠を連射で撃ち落としながら、アレクシスは羚羊のように跳ね、距離を詰めていく。
「あら、いいのかしら? その武器は遠間で使うもののように見えるけれど?」
「それは今からの躾でわかることですよ、お嬢様。きっと夜の退屈の慰めになります」
 打てば響くとはまさにこのこと、敏腕従者は密度を増す蝙蝠を最低限撃ち落としながら接近。
「そんなに近づかれると見つめてしまうわ。その可愛らしい目隠しを取る気はなくて?」
「お褒めに与り恐悦至極ですっ。けれどお嬢様と『目を合わせる』なんてとてもとても――」
 雷轟めいた銃声!
 右手のスクリームを後ろに振り切りながら発砲、その強烈な反動で加速!
「畏れ多くて」
 その逆の手には既に黒塗りのナイフが握られている。
「……!」
 魅了の魔眼は無効。対策済みだ。吸血姫は爪に紅い魔力を宿し、間近に迫ったアレクシス目掛け薙ぎ払いを仕掛ける。
 スクリームがまたも銃火を叫んだ。反動でもう半歩前へ出て袈裟懸けの薙ぎ払いを辛うじて潜る。追撃の次打を牽制しもう一発発砲、反動で身体を廻し振るったばかりの敵の腕を薙ぐ。
「ッ」
「お嬢様。まだ申し上げていませんでしたけれど」
 一撃目は右腕。ナイフを逆手に持ち上げ、両脚を突き、裂きながら抜けて、振り上げた刃で左手首を刈る。
「――実は私。だいぶ怒っているのです」
 吸血姫が頽れ倒れる前に、アレクシスは容赦なくスクリームをダブルタップ。
 二発の銃弾を受け踏鞴を踏む吸血姫の前で、アレクシスは反動を活かしてバレエのように回転し、けれど銃弾のような速度で跳ぶ。
 
 首を断ち切るコースで放たれる黒刃の一閃――『宵の華』が、吸血姫の喉を裂いた。

成功 🔵​🔵​🔴​

レイラ・エインズワース

鳴宮・匡サン(f01612)と

予定通り過ぎるノモ、退屈じゃナイ?
貴女と会うのハ初めてだケド、
ヴァンパイアッテあんまり好きじゃないんダ
だから、全力で相手するヨ

謡うように朗々と【高速詠唱】で紡ぐのは冥府の槍の魔法
敵の放つ蝙蝠を串刺しにシテ、数を減らしていくヨ
敵が霧に変わったラ、進行方向に槍を落として、冥府の焔を燃え上がらせテ
その霧ゴト、蒸発させちゃうカラ
進行方向を制限シテ、鳴宮サンの方へ誘導
至近弾への布石を打つヨ
鳴宮サンの一撃に合わせテ、今度は【全力】の魔力とかつての犠牲者の【呪詛】を籠めて収束させて槍を放つヨ
杭の代わりに槍なんてどうカナ!
ホラ、冥府に戻る時間ダヨっ

アドリブ・絡み歓迎ダヨ


鳴宮・匡

◆レイラ(f00284)と

吸血蝙蝠の数が多いうちは撃ち落とすことに専念
耐久力は高くなさそうだ
一射一殺を心掛けるよ

相手が霧化した場合は下手に撃たず
霧の行方を見失わないよう目を凝らし
相手の動きを追う
牽制と誘導は、レイラを信じて任せるよ
どちらを狙ってくるかわからないからな
離れすぎないようにしておくぜ

霧の姿は捉えにくくても
攻撃の瞬間は実体化せざるを得ない
加えて、得物が爪や牙なら、ある程度距離は詰めて来るはず
……だから狙うのはその一瞬
至近距離で実体化した瞬間を狙って【終幕の雨】を叩き込む

好きなだけ命を摘んできたんだろ
……なら、奪い返されるのが道理だぜ
世の中、ずれた帳尻はどこかで合うようにできてるんだ



●バレット・スピア・オーケストラ
 なんの痛痒も感じていないかのように、吸血姫は散らした血と患部を紅き霧と換え、再び凝結させて己の肉体を取り戻す。まるで不死身を謳うかのような女の前に、新たに立つのは二人の猟兵。
「予定通り過ぎるノモ、退屈じゃナイ?」
「多少はサプライズがあった方が、人生楽しいもんだぜ」
 レイラ・エインズワース(幻燈リアニメイター・f00284)と鳴宮・匡(凪の海・f01612)のツーマンセルである。
「予定通りに行かない遊興に価値はないわよ。だって、そんなの、ただ苛々とするだけじゃなくて?」
 吸血姫の言葉には傲慢が滲む。自分が世界の中心だと言うかのような語調だ。女の周りに再び蝙蝠が召喚され、キイキイと軋むような高音が羽音と共に空気をざわめかせる。
「この世の全ては私の退屈を紛らわすためにあるのよ。私が劇を見たいと言ったら、幕が上がらなくちゃ嘘でしょう?」
「――劇?」
 匡が眉を跳ね上げる。レイラは言葉の続きを待つように沈黙。
「そう、劇よ。一つの村を獣が蹂躙して、喚く村人が演じる即興劇! 腕を薙がれ脚を?がれ芋虫のように這いつくばり血と糞尿を撒き散らして、台詞も全部その場のアドリブで発される劇よ! 私はそれを、一等近くで見る予定だったの。貴方たちさえいなければね」
 陶然とした声で、その光景に焦がれるように女は言った。匡の目が据わり、レイラの顔から表情が抜け落ちる。
「――貴女と会うのハ初めてだケド、確信したヨ。私、ヴァンパイアッテあんまり好きじゃないんダ。……全力で相手するヨ。これハ冥府より出でし呪いの槍。燃えるはかつて貴女が吹き消しタ、数多の人々の命の光。もっと生きたかっタという呪詛」
 高速詠唱。余剰魔力が風を起こし、髪がふわりと広がる。圧縮された音韻詠唱が繋がり、レイラの周りに紫の鬼火を纏う無数の槍が召喚される。謳ったとおりの『冥府の槍』が、無数にレイラの周りを取り巻いた。
「幕なら今、上げてあげル。演目は『吸血姫狩り』」
「ふふ、ふふふ! 人間如きが傲慢に! 面白いわ、やってみせなさい!」
 無数の吸血蝙蝠が放たれた。レイラもまた槍を放つ。蝙蝠のサイズはかなり大きく、止めを刺すならば一体に槍二本は欲しい。真正面からぶつけたのでは押し負ける。しかし、レイラは一人ではなかった。
 脇を固める男が、無明の水底に似た蒼を瞳に湛え、銃口を上げる。
「観劇も演劇も趣味じゃないんだけどな。――こいつを放っておくのは、もっと趣味じゃない」
 匡はセレクターをフルオートにセット。跳ね上げた銃口で蝙蝠を狙い、指切りバースト。機械のように正確に四発ずつの銃弾を、大蝙蝠に向けて叩き込む。耳障りな羽音、断末魔の叫び。
 次から次へと召喚される蝙蝠を飛槍と銃撃が蹂躙する。射線が開けた瞬間に、匡は即座に前進した。襲い来る蝙蝠を抜いたナイフで切り裂きながら進み、残弾を吸血姫に向けて叩き込む。
 嘲笑うように吸血姫は己の肉体を霧と化し、銃弾を避けて夜闇に紛れる。
「レイラ!」
 匡は相棒を呼んだ。予想通りだ。自分に攻撃が当たる段になれば、相手は必ず霧になってそれを避ける。霧化なんて便利な能力があるのなら自分だってそうするだろう。想像は容易だった。
「ウン」
 言葉も短くレイラは頷き、息を吸い再度の詠唱。再び紫炎の槍が召喚される。吸血蝙蝠の群れを突き刺し掃討しながら、十数本が霧の進路を阻むように地に突き立った。
「うっかり触れたら、その霧ゴト、蒸発させちゃうカラ」
 言いながら再詠唱、高く掲げた杖を地に突く。
 瞬間、葬列が如く、無数の炎の槍が霧と化した吸血姫の周囲に突き出す! 空に逃げようとする霧を上からも槍が狙う。冥府の槍を用いた進路限定。逃れるように霧はただ一方向開けた方向に逃げる。
 ――その先には匡がいた。霧を真っ直ぐに睨む。マガジンを再装填。チャージング・ボルトを引き、初弾をチェンバーに叩き込む。命を食い破るために作られた五・五六ミリメートルの牙が、銃身の底で目を覚ます。
「来いよ」
 槍が敵を追い立てる。紅い霧が飛び来る。眼前に迫り――だが、固まらず、匡を抜けるように吹き抜ける。
 ――しかし、匡は少しも動じなかった。霧になれるアドバンテージがあるのだ。真正面で実体に戻り、真正面から攻撃してやる理由がないではないか。少し想像すれば解ることだ。
 匡はアサルトライフルの銃口を曲芸めいて、肩越しに背中に向けた。背後で凝り固まる殺意。そして狼狽え息を呑む気配、
 連なる銃声!
 毎秒一六発の五・五六ミリメートル小銃弾が、吸血姫の身体の一点に突き刺さり、威力のあまりにその身体を再び霧として吹き散らす!
「劇か。お前にはその程度の認識だったんだろうな。確かに命なんて軽い、戦場の風に吹かれりゃ転がって散るもんさ。――けどな。そいつはお前だって例外じゃないんだぜ」
 ボルトストップ。マガジンを再び入れ替えながら、匡は歌うように言った。
「今まで好きなだけ命を摘んできたんだろ? ……なら、奪い返されるのが道理だぜ。奪えば奪われる。世の中、ずれた帳尻はどこかで合うようにできてるんだ」
 凪の海から浮く言葉は、闇の中に散った朱霧を射竦めるように響いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヘンリエッタ・モリアーティ
【WIZ】
……生まれてきたことを後悔、ねぇ。「もうしてる」わよ!!
ロープワークでワトソンでワイヤーアクションの要領
一度蝙蝠を躱さないと!
……そのあとはだまし討ちよ
トリガーピースを飲んでヘイゼルに交代するわ!!

……きひ、きししし!!
なァにが狩りだァ、おい
このダボがァ!
――いけね……周りの猟兵と上手くやって、効率よくやんねェとかァ……
じゃァ、【悪徳教授の名誉助手】で拘束すっかね!俺ァ、【レジスター】でブン殴ってやンよォ!
なァに、フツーに使ってりゃただの「怪力で首へし折るためのアパッチ・リボルバー」だぜ!

「殺し」は「殺し」だろうがッ!!!美化してんじゃねェ!
冷酷無比無慈悲理不尽にくたばれ!!!!


鹿忍・由紀
退屈しのぎになればなんでもいいわけじゃないんだね。
全部計画通りだとそれこれ退屈だと思うんだけど。
たまにはこういうのも楽しいかもしれないよ。

【WIZ】
吸血コウモリ達を片付けつつ、ヴァンパイアの隙を狙ってユーベルコード磔で動きを止めよう。
「見切り」「カウンター」あたりでヴァンパイアからの攻撃を避けたあたりが狙いやすいかな。
これで霧になることも出来ないよ。
「二回攻撃」で斬撃を与えて「武器落とし」で爪を折ったり出来きたら。
他の猟兵とも連携してついでにダメージを叩き込んでもらえたらもっと良い。

アドリブ、連携ご自由に。



●静止、そして
 匡の銃撃に意表を衝かれたか、朱霧は拡散して距離を取り、再び吸血姫の姿を織り上げる。
「……今のには少し驚かされたわ。ただの血袋かと思っていたけど、認識を改める必要がありそうね」
 再び蝙蝠を侍らせながら言う吸血姫目掛け、地面を蹴って接近する影一つ。
「……生まれてきたことを後悔なんて言うけどね――こちとら、『もうしてる』のよ。そんな絶望!!」
 ヘンリエッタ・モリアーティ(獣の夢・f07026)である。
 獣を狩り続け前進し、前線に参じた彼女は、速力を殺さぬまま吸血姫へと突撃する。
「ふうん? 生まれてきたことを後悔しながらなぜ生きているの?」
「理由なんてありすぎて説明できやしないわ。それに少なくとも、あんたに聞かせてやることじゃない」
 ヘンリエッタの言葉を嘲笑うように、吸血蝙蝠の群れが羽音を立てて迫り来る。
 胸中に渦巻くものを言葉にせぬまま、UDC『ワトソン』をワイヤー状にし、前方に放つ。木に絡め、急激に収縮。急速に木に引きつけられるように動き、吸血蝙蝠の群れから身を躱す。
 即座に転進、自分を狙って吶喊してくる蝙蝠達を、今度は地面にワトソンを撃ち込んで、木を蹴って加速を付けながら潜り抜ける。着地するなりカプセル状の錠剤を、口に放り込んだ。――瞳の煌めきが狂気を帯びる。
「きし……キシシシしシッ、きひひひッ! なァにが狩りだァおい、このダボがァ! 人間皆殺しにするのを鑑賞してお楽しみってかァ? 反吐が出ンぜェ!!」
 ヘンリエッタ・モリアーティは多重人格者。カプセル状のトリガーピースを呑むことで主導権を渡した人格は、『ヘイゼル』。戦闘に特化した人格。
 哄笑と共に襲いかかるヘイゼル。『レジスター』を拳に嵌め、それにより打ち掛かる。打撃は敵の顔面を捉えかけるが、ぼひゅ、と身を霧に転じてそれを回避、吸血姫はヘイゼルの身体をすり抜ける。
「野蛮ね――獣のよう」
「さっきあんたが放ってたケダモノのお祭りより、大分人間的だと思うけどね」
 横合いから声。銀のダガーを抜き、気怠げに言うのは鹿忍・由紀(余計者・f05760)。
「夜が退屈な割に、俺たちの相手は面倒かい? 時々は計画外作業もないと、それこそ退屈だと思うんだけどな」
「群れる雑種の相手を退屈と言わないでなんて言えばいいのかわからないわ。抵抗も過ぎれば不快と知りなさい。……楽しませるつもりがあるのなら、せめて血反吐をぶちまけて呻きなさいな」
 吸血姫は続けて打ち掛かるヘイゼルの攻撃をその爪で受け弾き、膂力任せに突き飛ばして距離を稼ぐ。即座に霧化、由紀の横手で実体化して爪を振りかざした。
「悪いけど――お断りだ」
 ダガーが爪と軋り合う。火花を散らし、打ち合いが始まった。至近で振り下ろされる爪を由紀のダガーが受け弾く。
 由紀は腕を蛇のように撓らせての刺突を繰り出す。女はそれを爪で流し、首筋を薙ぐように貫手を打つ。由紀は間髪、顎を逸らして回避。バック転しながらの蹴り上げを放つが、スウェーされ不発。
 着地と同時に再び距離を詰め、逆手に持ち替えたダガーを斬り付けるように放つ。地面を踏みしめた吸血姫の迎撃。魔力を固め強化した爪が、ダガーをアッパー気味に打ち、天高く撥ね飛ばす。
 勝利を確信しぬらりとした笑みを浮かべる女。相対する由紀は、しかし涼しい顔で眼を細めた。
 ――地に落ちた彼の影から、黒刃が浮く。
 刹那に満たぬ間に影で複製したダガーを両手に取り、由紀は駆け抜けた。
 驚愕の表情を浮かべながら防御姿勢を取る吸血姫の紅き爪。狙いはそこだ。影の刃を連続して叩きつけ、へし折れれば即座に新しい刃を、次、次、次々に!
「小賢しい真似を!」
「小賢しくもなるさ。こちとら普通の人間だ。死なないためなら、意外と色々考えるのさ」
 女に涼やかに返し、由紀は渾身の力を絞る。
 強靱に練り上げた影の刃二本。全力で踏み込みながら爪へ叩きつける。魔力によって練り上げられた吸血姫の爪が砕けた。衝撃に圧されて、ヒールで地面を削りながら吸血姫は後退する。
 女は即座に己の身体を霧と化そうとして、
「……?!」
 それが果たせないことに気付き、息を呑んだ。
「――俺の眼は、あんたの世界を固定する」
 由紀の目は、いつしか青白く曳光していた。ユーベルコード『磔』が発言し、空間を固定。牢獄の如く敵の動きを封じる。
 ダガーによるラッシュは布石に過ぎない。彼は最初からこの瞬間を狙っていたのだ。
 ……そして!
「オイオイ、こいつァお誂え向きだなァ!」
 狂人の声が謳う!
 固定され霧化を許されなくなった吸血姫の脚に、複数の触手が絡みつく!
 ワイヤーアクションの如く、それを縮めながら迫り来るはヘンリエッタ――ヘイゼル!
「気に入らねェんだよ、『殺し』は『殺し』だろうが! 美化してんじゃねェ! ああ殺す、ブッ殺す! 冷酷無比無慈悲理不尽にくたばりやがれェ!!」
 握り固めた拳、光るアパッチ・リボルバー。
 美姫の顔を刃で抉り立て、ナックルダスターが打ち据える!

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ティオレンシア・シーディア


あたし、この世界での仕事は初めてなんだけど。
最初の相手があなたでよかったわぁ。
…わざわざ討ち取りやすいとこにノコノコ出てきてくれる相手なんて、そうはいないものねぇ。ホント、ありがたいわぁ。

霧の状態じゃ攻撃が通りにくい、か。
なら、実体化したとこに〇カウンターねぇ。
〇第六感も活用して攻撃を〇見切って●封殺の〇先制射撃を合わせるわぁ。
眷属の群れは●鏖殺の〇範囲攻撃でまとめて撃ち落としちゃいましょ。
問題は魔眼だけど…。
もう見られた瞬間に〇クイックドロウから早撃ちで撃ち返すぐらいしか思いつかないわねぇ。

…ま、ああ言ったけど油断なんてできるわけないのよねぇ。
最期まできっちり詰め切りましょ。


ジャガーノート・ジャック
(ザザッ)
ターゲットを視認。
これより第2ミッション:敵性オブリビオンの撃破を開始。

(ザザッ)
SPDを選択。
視認されると同士討ちに持ち込まれるのか――銀河帝国皇帝と似た能力だ。厄介極まりない。

ステルス機能を活性化。
(目立たない+迷彩)
敵から視認されるのを避けつつ
『Craft: Bomb』により"閃光弾"を一機生成。

敵の目を眩ませ視力を奪い、友軍をサポート(援護射撃)。

攻撃としては"グレネード"を生成。
ランチャーとして改造した右腕より複数弾を射出し敵を爆破する。
(武器改造+スナイパー+二回攻撃+一斉発射)

本機の作戦概要は以上、実行に移る。
オーヴァ。
(ザザッ)



●Bullet Parade.
 ――ザザッ、ターゲット確認。
 ――ザッ、これよりミッション・フェーズⅡ:敵性オブリビオンの撃破を開始する。
 ステルス迷彩を起動。
 夜を駆ける機械仕掛けの黒豹が、電荷を帯びる音と共に夜闇に溶けた。
 影すら落とさず彼は走る。

 由紀とヘイゼルの連携の前に、吸血姫は横殴りに吹っ飛ばされて地面の泥濘を転がった。固定された空間から逃れるなり即座に霧化からの再構成、爪に紅い魔力を点し、吸血姫は再び地に降り立つ。
「群れての小細工が得意なようね。一度や二度なら許すけれど、そろそろ度し難くてよ」
「別に許しなんて請うつもりがないわぁ。勘違いして貰っちゃ困るわねぇ」
 月下、黒金が月に照らされて光る。回転する漆黒の銃は黒曜石の名を冠した、ワンオフ・メイドのリボルバー。
 華麗なるガンスピンを経て腰元で止め、撃鉄を弾き上げるのはティオレンシア・シーディア(イエロー・パロット・f04145)。
「あたし達はあなたを狩りに来たのよ。あなたが村人をそうする予定だったようにね。――この世界初の相手があなたでよかったわぁ」
 ティオレンシアは紅い瞳を薄笑みの間に光らせつつ、続ける。
「わざわざ討ち取りやすいとこにのこのこ出てきてくれる相手なんて、そうはいないものねぇ。ホント、ありがたいわぁ」
「人間風情が本当に私を討ち取れるとでも思っているとしたら、それは幸せな夢だこと――夢を見ているだけなら哀れと笑えたものを、武器を向けるから始末の悪い鼠ね」
 吸血姫は指先に魔力を集中させ、爪を延長するように固定。レーザー・ブレードめいて越しの先に光の刃が生まれる。
「殺してあげるわ」
 またも闇が凝り、吸血蝙蝠の群れが生まれる。しかも今度は、ティオレンシアの周りを直接取り囲むように召喚された。殺到する蝙蝠の群れを、ティオレンシアは即座にリボルバーを発砲して一角を崩し、転がるように包囲を抜けて横っ飛びに駆ける。
 追いかけてくる蝙蝠の群れ目掛け、鉄風雷火の連射を決め打ち払う。リロードの間を見せぬほどの早業。
 しかし、蝙蝠の数が多い。このままでは近づくこともままならないどころか、徐々に圧されていく。
(ああは言ったけど自信満々なだけのことはあるわねぇ。油断なんてできやしないわ)
 敵の力量も相当なものだ。他の猟兵からの攻撃をあしらいつつも、ティオレンシア目掛け蝙蝠を放ち続け、スタミナを切らす様子もない。
 何か、強力な援護があれば――とティオレンシアが周囲を伺った瞬間、目の前に迫った蝙蝠達が爆炎と炸裂する破片によって薙ぎ飛ばされた。
「……グレネード?」
 ダイレクトカノンサポート
  直 接 火 砲 支 援 。射手を探してティオレンシアは眼を走らせるが、発見に至らない。
 グレネードが雨と降り注ぐ。連射される擲弾は蝙蝠達を的確に駆逐し、爆破していく。
『敵対象を射程内に捉えた。これより威力火砲支援を行う。接近戦を行うものは接近を一時中止、退避せよ。――Three, Two, One,』
 ノイズ混じりの電子音声による勧告。特徴的な声は誰のものか明らかだ――任務説明時にも異彩を放っていたあの黒豹、ジャガーノート・ジャック(OVERKILL・f02381)である!
 察した数名の猟兵が、カウントダウンが開始するなり即座に後方に跳んだ。身構えた吸血姫の元に降り注ぐのは、火線を曳いて唸る榴弾の雨だ。
『Impact now.』
 爆発、爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発爆発!
 泥濘と土塊が捲れ上がり、戦場映画さながらに炸裂するグレネード・レイン。上がる土柱と火薬の匂いの中を、吸血姫は霧と化してすり抜け、再び結実して横に走る。
「薄汚い花火を使うのね、もっと華やかにできないのかしら!」
『泥と火に塗れて争う戦場に、華やかさなどあるものか』
 グレネードを放つ独特の発射音。そして砲火が、ステルス迷彩で視覚欺瞞を行うジャガーノートの姿を暗闇に浮かび上がらせる。
「どんなからくりかは知らないけれど、上手に隠れたものじゃない。引き裂いて中身を見せて貰おうかしら」
『機密事項だ。遠慮願おう』
 朱霧に身を転じ、すぐさま姿を消したジャガーノートを追走しようとする吸血姫。グレネードによる爆風でその進路を遮りながら、ジャガーノートは冷静にそのスピード、そして霧化の持続時間を計測する。
「解っていないのね――決めるのは貴方じゃない。私よ!」
 時折、吸血姫は声を発する。無限に霧になっていられる訳ではない。攻撃をするときには霧から戻る必要があるのは勿論、こうしてこちらへ接近を図るときにも時折実体に戻る瞬間がある。ジャガーノートはその間隔を計測し、グレネードランチャーの内部に次弾を生成した。
 照準。発射。
 果たして、爆風を抜けた吸血姫が己の実体を晒した瞬間――その前方に榴弾が着弾する。その瞬間、撒き散らされるのは一〇〇万カンデラを超える閃光、そして炸裂音だ。
「――!?」
 スタングレネードによる知覚損傷。
 爆風、破片は即座に霧化すればダメージを抑えられるだろう。しかし、見当識に対するダメージは、そもそも『霧化する』と言う判断すら奪い去る。ジャガーノートの狙いは、初めからそれだ。よろめく吸血姫の横合いで、撃鉄が起きる。
 火砲支援の必要性とその意図をいち早く察し、気配を消して射程内に吸血姫を押さえていたティオレンシアである。
「――いい腕ねぇ、感謝するわぁ」
 オブシディアンが、足を止めた吸血姫の隙を穿った。
 それは、魔術めいた連射。リロード込みで秒間二三発の.四五ロングコルト弾が、嵐の如く吸血姫を穿つ!

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ミーユイ・ロッソカステル


……吸血鬼、か。
おまえから見れば、私は醜い混ざりもの、といった所?
えぇ、いいわ。無様に踊るのはどちらか――教えてあげる。


暗闇の世界なら、日傘の必要もなく。愛用のそれは、傘を閉じて
精神を集中させて、脳裏に浮かび上がる譜面その中から
「夜との闘い 第3番」を選び取り、紡ぐ

敵のユーベルコードにより放たれた多数の眷属は、当然のように私を狙い
そして、あの吸血鬼自身も……半分は人間である私に侮辱され、挑発を受ければ不快でしょう
条件は満たされる……眷属とあいつごと、焼き払ってあげるわ

……あら、先ほどまで夜闇の中を我が物顔で闊歩していたというのに。
夜に牙を剥かれるのは、初めてだった?
それはそれは……無様な事。


明日知・理

◇戦闘
体力の低い者を優先的に庇う。
攻撃は出来る限り武器受けし、これも出来るならカウンターを。
もしくは武器で受け流し直撃を避ける。

此方が発動するユーベルコードは『buddy』。
目立たない行動を常に心掛け、死角からの捨て身の一撃と暗殺を駆使する。
赤い眼の大きな黒犬を模したUDC が俺の体を覆って一つになり
この犬の大きな口で葬送の一助とする。


(…俺にも、吸血鬼の血が流れている。
どんな奴だか顔さえ知らないけれど、
もしこんな奴、だとしたら。
"違う"と根拠の無い否定を心の内で繰り返して、
少しだけ欠いた冷静さの代わりに、
剥く怪犬の牙に殺意を一層込める。)



●星光赫奕と、貫くは牙
 知覚損傷から立ち直れば吸血姫はすぐさま後ろに飛び下がる。その間に、一瞬で傷を修復。紅い瞳の奥に怒りを燃やしながら、爪に再び燃えるが如き紅い魔力を点す。
「雑種如きにここまで好き勝手にされるとはね――」
「雑種、ね。……吸血鬼。おまえから見れば、私は醜い混ざりもの、といった所?」
 泥濘む地の不浄を寄せ付けぬドレスに身を包んだ美貌の女が、桃色から鮮紅に移り変わる美しい髪をさらりと揺らしながら唱う。ミーユイ・ロッソカステル(眠れる紅月の死徒・f00401)である。
 愛用の日傘は今日は閉じていた。ミーユイが生まれたこの世界の空は、彼女の白い膚を焼くことはない。
「あら、自覚があるのね。高貴な血に家畜の血を混ぜるだなんて、どこの三下がしたことだか」
 答えは嘲り笑うようなもの。ミーユイは侮蔑に声を荒げることも激昂することもなく――ただ、氷のように冷たく澄ました声音で返した。
「そう――えぇ、いいわ。おまえは無様に踊れと言ったけれど。――これから不細工なステップを踏むのがどちらになるのか解っているのかしら?」
 脳裏に思い描いたスコアから、この舞台に相応しい曲を選び取りながら、ミーユイは形のよい唇を嘲りに歪める。
「散々、銃で撃たれ魔術で穿たれてまだ上位者の顔をしているのね、おまえは。滑稽だわ」
 ミーユイは挑発の言葉を投げ、白い喉を震わせて歌を奏でる。吸血姫がそのあからさまな挑発を受け、敵意を持たぬ訳がない。
「群れなければ何も出来ない人間風情が、よくもいけしゃあしゃあと……!」
 腕を打ち振れば夜が凝り、すぐさま複数の吸血蝙蝠が召喚、投射される。まさに弾丸の如くミーユイへ向けて驀進する。
 しかして、それを阻む影。ミーユイと吸血姫の間に割り込むなり抜刀、月光すら弾くような剣閃を四重五重に振り重ね、放たれた吸血蝙蝠を斬り散らし、乱入者は刀を正眼に構え直す。明日知・理(花影・f13813)である。
 ミーユイの歌が、夜闇を裂くが如く朗々と響き渡る。
「何かと思えば――混ざりものがもう一匹? 引っ込んでいなさいな、今から私はその女を縊るのよ。それとも一秒でも早く死にたい?」
「否。お前に一撃くれてやりたいだけだ。――あの獣共を放って、村を、子供を殺そうとしたお前にな」
 挑発めいた吸血姫の言葉に応じることはない。理の言葉は真っ直ぐで、手に持ったその刀のように鋭い。
「俺は、お前を許さない。来い」
「許すも許さないもないわ……死にたいって事で構わないわね? じゃあ、」
 再びの霧化。紅い風が吹き、理の左前に殺気が凝り固まる。
「死になさい」
 振り下ろされる、魔力で延長された爪! 花驟雨を翳して振り下ろしの一撃を弾き、流し、隙を見ての突き返しで喉を狙うが、再びの霧化による回避。背中に感じる風の動き、刀を即座に肩越しに回して受け太刀。魔力の燐と火花が散る。
 理は身体を廻し、その勢いを殺さず胴打ちの一閃を繰り出す。爪で受けつつ後ろに飛び下がる吸血姫。女が割れた爪から流れる血を舐れば、傷は跡形も無く消え失せる。
 ――姿形は美しい。しかし、その在り方は醜悪の一言だ。罪もない村人を遊びの為に戮殺するなどと。
 理の身体にもまた、吸血鬼の血が流れている。自分の血に流れるその忌血の源流がどこなのかも解らない。もしかしたらその血の持ち主は、こんな――人の死を玩具にするような、忌まわしき化物なのかも知れない。
 ――違う! 絶対に、違う!
 理は根拠も持たぬまま、浮かんだ考えを振り払うが如くに前進した。一息で一、二、三打。打ち込みの速さは冴えに冴える。しかし吸血姫はそれをも受け弾き、冷静さを欠いた理の横腹に神速で爪を振るった。
 紅き曳光、辛うじて受け太刀するも理はそのまま横合いへ吹き飛ばされ、転がる。
「お馬鹿さん。女と向き合うときは、その女の事だけ考えておくものよ」
 吸血姫は転がって受け身を取る理を嗤いながら、まずはとばかりにミーユイの方へ向かおうとして――

 聴け この叫びを
 見よ この光を 
 星の輝きは 全てあなたの敵である

 歌が結ばれ、空に瞬く星の光が、ぎりりと尖る瞬間を見た。

「……!」

 理が稼いだ時間が、ミーユイの歌を完成させたのだ。
 紡がれるは『夜との闘い 第3番』。敵意を抱きし敵に、瞬く星から全てを焼き滅ぼす光熱を下す歌である。
 星の光は、文字通り、まさに光の速さで注ぎ、吸血姫を貫いた。
「ああああああアアアッ!!!!」
 叫び。身を焼きされる女が喉を絞るように叫ぶ。焼かれる苦悶は、撃たれるものよりも貫かれるものよりも強く、一瞬だけ吸血姫の判断を奪う。
 その隙に向け、跳ね起きた理が駆けた。
「――『Thys』!!」
 全身を覆う影、その身に宿したUDCが理の身体を覆う。一瞬にして理を核に成されるのは、闇に溶けるかのような、巨大な黒犬。眼を紅く輝かせ、四肢で地を駆ける。
 ――殺意に濡れて光るあぎとが、吸血姫の片腕を食い千切った。
 駆け抜けるバーゲスト。その後ろで、なおも天から熱線が注ぎ、吸血姫を焼き焦がす。 ミーユイは熱と苦悶に叫び喘ぐ女を見て、せせら笑うように言った。
「……あら、先ほどまで夜闇の中を我が物顔で闊歩していたというのに。夜に牙を剥かれるのは、初めてだった?」
 それに応えることすらままならず、吸血姫は遮二無二己の身体を霧と換え、再び光の射程範囲外へ逃れる。
 ――答えを聞いたようなものだ。ミーユイは、侮蔑に眼を細めて嗤った。
「それはそれは……無様な事」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

葦野・詞波

「生まれてきたことを後悔する」か。
良く吼えた。ああ、知っている。
この吼え方は――負け犬の吼え方だ。先の獣同様の。
私の踊りはいささか激しい。ついてこれるか、娘。

先手を打つ。踊りはリードを取った者勝ちだ。
絶え間なく突きを見舞ってやろう。
魔眼や爪牙には【見切り】だ。
美人とのスキンシップは好きだが、あいにく性根が趣味ではない。
その卑しい眼を潰す。
煩い蝙蝠がお出ましなら【揺光】。邪魔だ。

退屈だったんだろう。なら、これからは退屈せずに済む。
何せ、自分の血の味と。死の感覚を一度に味わえるのだから。
欲張りセットというやつだ。
――三途川を渡る船賃に持っていけ、娘。
お前にとって、最期の退屈しない感覚だ。



●双槍、雲霞を穿つ
「こんなに聞き苦しく吼え猛るケダモノどもの相手は、久しぶりだわ。不快が過ぎるわね」
 苦々しさの残る声。霧が集まり、また吸血姫は同じ姿を取る。
 周囲の猟兵らが構えを新たにする中、葦野・詞波(赤頭巾・f09892)はうっそりと言う。
「――『生まれてきたことを後悔する』か。お前こそよく吼えた、娘。ああ、知っている。この吼え方は――負け犬の吼え方だ。先の獣同様の」
 吸血姫の表情が不快げに歪む。獣と、畜生と罵った相手に負け犬と字返されれば自明であろう。
「言わせておけば――その小汚い頭巾ごと握り潰して、その頭から脳漿をひり出してやろうかしら」
「できるものならやってみろ。私の踊りはいささか激しい。ついてこれるか?」
 詞波は泥濘んだ地面を踏み抜き、土礫を巻き上げながら突撃した。先手を取る。
 嵐の如き二槍の突き。振るわれる爪の赤い軌道から身を躱し、右手の槍で払い除けて左手の槍を打ち込む。攻撃と防御が同時に行われる。
 紅い魔力で強化された吸血姫の爪が全てを膾に刻む旋風ならば、詞波の槍はそれすら縫う驟雨だ。爪と槍がぶつかる音とは到底思えぬ金属音を上げ、二者の攻撃が軋り合う。
「その卑しい目を潰してやる」
「卑しいですって、この私の魔眼が? ――言うに事欠いて、豚が、私に? ああ――今すぐに絞り尽くして殺してやるわ!」
 攻撃の速度が上がる。徐々に詞波は圧されて下がる。
 敵の目に、完全な敵意と怒り。今は詞波のことしか見えていない――
 そう判断できたとき、詞波は後ろに弾けるように跳び下がった。
 十数メートルを離し、クラウチング・スタートの態勢で止まる。或いはそれは、傷つき膝を突いたようにも見えたろうか。
「喰らい尽くせ、肉片も残すな!」
 吸血姫は怒り心頭のままに、虚空から吸血蝙蝠を呼び出し、嵐の如く詞波へ向けて放つ。
 ――その瞬間、
「退屈だったんだろう。なら、これからは退屈せずに済む。何せ、自分の血の味と。死の感覚を一度に味わえるのだから」
 再び、詞波は地を蹴った。空中で身を弓なりに反らせ、身体の撥条をフルに活かし、眼下へ向けて右手の槍を流星の如く投げつける。星が如く墜ちる槍が、吸血蝙蝠の群れを一撃で削り――しかし、蝙蝠全てを薙ぎ払う前に光失せ止まる。吸血姫の哄笑。
「それで終わり? この通り私には傷一つ――」
 嘲笑う如く宙の詞波を見た女の表情が、強張る。
 詞波は投げた勢いのまま宙返り。左手の槍は既に右手の中。
「欲張りセットというやつだ。――三途川を渡る船賃に持っていけ、娘。お前にとって、最期の退屈しない感覚だ」
 電撃的な弐槍投擲。
 寄せ集めた蝙蝠達の壁を貫いて、今度こそ、竜騎槍が吸血姫の胸を貫いた。

成功 🔵​🔵​🔴​

セリオス・アリス

お前に払ってやる血なんざ生憎持ち合わせてねえんでな
自分の血で満足してろよ

『ダッシュ』で斬りかかるが
チッ…!めんどくせぇ回避の仕方をしやがる
苦し紛れに霧に炎の『属性攻撃』をのせた斬撃による『衝撃波』を放ち
少しでもダメージを狙う

ちまちまと攻撃してたんじゃ埒があかねえ
一か八かでやってみるか
あえて隙を作り『挑発』敵の攻撃を『誘う』
『見切り』避けるかわりに左腕で攻撃を受ける
ッ…!てぇなぁ…!
思わず痛みに呻く、が
意地だけで持ち堪える
はっ…こうやって、噛みついてる間はお前も実体って訳だ…!
実体があるなら殴れる
『全力魔法』をのせた【星球撃】を相手の腹に叩き込んでやる!

…で、誰を虐めるってぇ?


ヨハン・グレイン


邪魔を嫌うのならちょうどいいですね。
嫌うことを徹底的にしてやりたいですから。
流そうとした血に見合うほどの無残な最期を与えてやろう。

基本は距離を取り中距離戦を
影より出ずる者で黒刃を周囲に展開し、眷属の動きを止めましょう。
蠢闇黒から闇を這わせ、底冷えるような黒い呪詛を、絡めて、堕として。
ああ、可哀想に。あまりに脆い。なんのために生まれてきたのかわからないな。

懐に入られるなら、今回ばかりは好都合。
至近距離からの黒刃で確実に刺し穿つ。

多少の流血は覚悟の上。
足止めが叶えば上々、後は近接戦の得意な者に任せましょう。

無様に踊れよ吸血姫。
血を振り撒くのがお似合いだ。



●ダンス・マカブル
 胸を詞波の槍で貫かれ、吸血姫は押しピンで留められた虫のように地に縫い止められた。
 刹那の後、吸血姫は魔力の霧となって霧散し己の身体を再構成する。その身体には傷は一切残っていないが、表情には未だ色濃い怒りが刻まれていた。
「豚、がっ……よくもよくも、忌々しい鉄杭を私の胸に……!」
「ふうん、そうか。『不死身に見えるが』、そうではない」
 線の細い、黒髪の小柄な少年が呟いた。膚は白く、瞳は藍に、そしてその他全てを黒で覆った少年だ。闇と混ざって溶けてしまいそうな彼――ヨハン・グレイン(闇揺・f05367)は、吸血姫とは対照的に冷静であった。
「邪魔されるのが嫌い、胸を貫かれるのが嫌い。治ったようには見えるが、力そのものは削れていると見た。でなければ厭う理由がないからな。違うか?」
「それが本当だとして、答える理由があるとでも言うのかしら、この愚図!」
 怒りに任せるように再び闇を固め、蝙蝠を作り出す女。その数は尋常ではない。黒き渦のように羽音を立てて飛ぶ蝙蝠を前に、ヨハンは眼鏡のブリッジを揃えた二指で押し上げた。
 その指に、光る指輪。嵌まった『蠢闇黒』が、今一度月の光さえ呑む闇を湛えて膨れ上がる。
「言う気がないなら確かめるまでだ。お前の厭がるだろうことを、徹底的に押し付けてな」
 地に落ちたヨハンの影から、影で出来た無数の黒刃が浮かび上がる。それに、蠢闇黒から伸びた縄めいた闇が絡み、持ち上げ、無数の飛刀を作り上げる。蠢闇黒が撓れば先端の黒刃が呪詛を纏って敵を断つ、対多戦闘に向いたコンビネーションだ。
「援護します。武運を」
「任せとけ」
 ヨハンに応え、横に並び立っていた細面の男が踏み出す。中性的な顔立ちに反し、唱うような声は紛れもなく男のもの。力と芯のある声。
「――悪いが、血吸い虫に食わせてやる血なんざ生憎持ち合わせてねえんでな。自分の血で満足してろよ」
 囀るは黒歌鳥。セリオス・アリス(黒歌鳥・f09573)である。
「枯れ果てろッ!!!」
 金切り声に近い叫びを上げ、吸血姫は全方位へ、渦を巻くが如く無数の蝙蝠を展開した。範囲に撒かれた猟兵らが各々の回避行動を取る中、攻撃に移るのはヨハンとセリオスのみだ。
 セリオスは『エールスーリエ』に魔力を突っ込み、風を巻き起こして駆ける。純白の刀身を持つ剣で進路上の蝙蝠を斬り払いながら進む。無論それだけでは、蝙蝠達の数の前に血を吸われるだけに過ぎなかったろうが――後ろにはヨハンがいる。
「流そうとした血に見合うほどの無残な最期を与えてやろう。――ああ、可哀想に。あまりに脆い。これではなんのために生まれてきたのかわからないな」
 蠢闇黒の闇が撓るたび、複数匹の蝙蝠が切り裂かれ、耳障りな悲鳴を上げて墜ちる。ヨハンが作ったスペースへ、エールスーリエによるショートダッシュで駆け込み、切り込むセリオス。
 獣らを駆逐するために戦場を共にした二人は、即興にもかかわらず完璧な協奏を演ずる。
「喰らいやがれ!」
 吸血姫の傍は台風の目だ。分厚い蝙蝠のカーテンを抜け、突撃の勢いのままにセリオスは剣を振り下ろした。
「それで本気なのかしら、遅すぎるわね!」
 しかして剣は空を切る。己の姿を霧霞と変えて攻撃を回避するなり、吸血姫はセリオスの背後で再び実態を成し、紅い爪を振るった。
「チッ……! 面倒くせぇ!」
 踵を軸にターン、爪と剣で打ち合い、弾く。
 飛び退きながら、セリオスは一瞬で詠唱を成し、剣を紅蓮の炎で覆った。
「燃えろォ!」
 振るった剣から放つ衝撃波に、炎を乗せる。爆炎が発生し吸血姫を襲うが、しかしそれとて霧化により回避される。セリオスは着地しながらヨハンを伺うが、ヨハンもまた己に差し向けられた攻撃に対する防御に力を割いている。
(……埒があかねえ。一か八か、やってみるか)
 それは危険な賭けだったが――誰ソ彼ビルでも同じようなことをしたのだ。今更躊躇などない。
「ちょこまか逃げ回りやがって、そんなに俺の剣が怖いかよ!」
「卑賤の人間風情が、言葉を選べッ!」
 霧化した吸血姫がまたも結実し、セリオスの左側から襲いかかる。爪が閃き、セリオスの左手から剣が宙高く弾かれた。
「!」
 弾かれた剣が地に落ちる前に吸血姫の牙がぬらりと月光に光る。セリオスは左腕を上げ、首筋を庇う。
 焼けるような痛みと酩酊感が、腕の芯を貫いた。
「ッ……!」
 血潮が漏れ出て、吸血姫の喉へ流れ込んでいく。凄まじい速度だ。このまま十数秒と放置すれば干上がってしまう。喉を鳴らし血を呑む女の前で、しかしセリオスは、青ざめかけた頬を不敵に笑みに歪めた。

 攻撃されているということは、つまり。こちらからも攻撃ができるということだ。

「はっ……こうやって噛みついてる間はお前も実体って訳だ!」
 ばちり、魔力爆ぜ、右の拳に光が集う。目を見開いた吸血姫の牙が引きかけるのを許さず口元に左腕を押しつけながら、踏み込んで腹に打撃を叩きつける!
「がはっ……ぁッ?!」
 インパクトで肉が弾けるほどの高威力の打撃。歪んだ女のシルエットが空に浮き、
「ああ、そうそう、それが見たかった。――そうら、無様に踊れよ吸血姫。血を振りまいて踊り狂え。お前に似合いの結末だ」
 そこへ、ヨハンが放った闇刃が襲いかかった。蠢闇黒が鞭の如くうねり撓り、先端の刃が音速を超えて叩き込まれる。吸血姫はまたも霧化してその責め苦から逃れるが、手応えはあった。ヨハンは能力の連続行使に息を弾ませながら、闇を引いた。
 地に再び姿を現した吸血姫もまた、肩で息をしている。
 墜ちてきた純白の剣――『青星』のグリップを右手で受け止めて構え直しながら、セリオスは皮肉っぽく笑った。

「――で? 誰を虐めるって?」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リーヴァルディ・カーライル
…ん。こんな平原に海を作り出すなんて…。
相変わらず、猟兵のやる事は派手。
…だけど、これは利用できる…かな?

事前に防具を改造して第六感を強化する魔力を付与
暗視と【吸血鬼狩りの業】を駆使して敵の攻撃を見切り
大鎌を怪力任せになぎ払い武器で受ける

【限定解放・血の教義】を二重発動(2回攻撃)
呪海を利用した“闇属性”の“渦潮”を起こし敵を呑み込み、
呪詛をかき集め巨大な”闇の結晶”の中に敵を拘束。

…ああ、ごめんなさい。
お前の望み通り踊ってあげたくても、
相手がその様では踊れないわ、吸血鬼。

その後、魔力を溜めた呪壊弾を結晶に撃ち、自壊の呪いを伝播。
傷口を抉るように結晶が敵の生命力を吸収して存在感を喰らう。


夷洞・みさき
吸血鬼ならせめて血は見世物じゃなくて、全部、飲んでもらいたい所だけどね。零れた分も。
まぁ、オブリビオンだから、その前に海に還ってもらうけど。

さぁ、同胞達、此処に咎人が現れた。

君が人を苛み血を求めるのが業ならば、僕等も己の業で君を潰し落とそう。

【WIZ】
数は多いから、こっちも人数を用意するよ。蝙蝠の相手は同胞と冷気による空間攻撃に任せて、僕は本体を狙おう。

手足の一二本切れるくらいの【激痛】なら耐えられるし、そのまま車輪で殴りつけよう。

ほら、飼い主に相手をしてもらうと良いよ。
車輪で殴りつける際には、こびり付いた獣の【呪詛】を上乗せする。

残念だけど、痛みで僕を踊らせるには、君、独りじゃ足りないかな。



●呪い渦を成し、不死者すら食む
「ここまで虚仮にされたのは初めてよ――屈辱だわ」
 セリオスらの連携攻撃を受け、吸血姫は余裕を欠いたかに見えた。散った己が魔力を喘ぐように呼吸で取り入れ、再び自らの身体に回す。
「観劇の邪魔のみならず、私に血を流させた罪……高くついてよ」
 手前勝手な理屈を捏ねる吸血姫を前に、口を開くのは夷洞・みさき(海に沈んだ六つと一人・f04147)。進み出るなり、獣を屠ったときと同じユーベルコードを起動する。呪気を帯びた海水が足下ににじみ出る。場違いな潮騒、淀んだ海の臭気。
「吸血鬼ならせめて血は見世物じゃなくて、全部、飲んでもらいたい所だけどね。零れた分も。まぁ――」
 みさきは転がる車輪を従え、こともなげに言う。
「オブリビオンだから、その前に海に還ってもらうんだけど」
「やれるものならやってご覧なさい。この首、そう安くはなくてよ……!」
 吸血姫は外套を翻し、再び雲霞の如く蝙蝠を招来する。羽撃く羽音は先程よりも強く、まるで大気がざわめくようだ。
「安いも、高いも、どうでもいいことだよ。――さぁ、同胞達、此処に咎人が現れた。この海神の潮流にて咎を濯ごう」
 ――ああ、呪色に淀んだその浅い海の底より、呪いを、恨みを、羨望を謳う声が響く。ずるりと水面を揺らして現れる、六体の咎人殺しの霊。
「君が人を苛み血を求めるのが業ならば、僕等も己の業で君を潰し落とそう」
 言葉は冷たく、無関心だ。興味はただ、起こしたその業と咎だけにある。
 みさきは無温の目を向けた。それは、そう、底の見えぬ海溝を覗いたような、冷たい瞳。
 怖気を催したとばかりに、飛び退きながら吸血姫は無数の蝙蝠を差し向ける。
 きいきい、ぎいぎいと声を撒き散らしながら飛び来る蝙蝠らを、みさきの『同胞』らが迎え撃った。噛みつこうとする蝙蝠らを、『同胞』達は手で掴み、引き裂いて殺し、或いは呪詛によりその血液を、心音さえも、凍えさせて仕留めていく。数の優位は依然吸血姫にあるが、しかしてそれとて完全優位というわけではない。攻撃の密度は確かに薄らいでいる。
 六体の咎人殺しの霊に大量に群がる蝙蝠の隙間を、水を蹴立てて走る影がある。
「こんな平原に海を作り出すなんて……。相変わらず、猟兵のやる事は派手」
 リーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)だ。
「……折角だし……使わせてもらう、けどね」
 ひゅひゅん、と風を切る音を立て、リーヴァルディは大鎌を回旋。数体の蝙蝠を斬り裂き落としながら、細身に似つかわしくない怪力で鎌を取り回し、先んじて吸血姫のもとへ飛び込んだ。飛び込むなり横一閃の薙ぎ払いを掛ける。
「遅いわ!」
 しかし大振りな一撃を吸血姫は即座に霧に転じて回避、振るった鎌の裏に回って爪を突き出した。リーヴァルディは振るった鎌の勢いを殺さずもう一転。まるで切っ先で渦を描くがごとくに首を薙ぎ払いに掛かる。
 しかし、熟達したヴァンパイア・ハンターであるリーヴァルディは攻撃を予測していた。彼女の家系はその家系を懸け、吸血鬼を殺し続けてきた一族である。リーヴァルディもまた年若い少女ながらに、その戦闘術、吸血鬼の行動予測にかけては一流であった。
 死の舞踏が始まった。竜巻の如く鎌の刃を振るうリーヴァルディ、それに旋風の如く身を廻しながら応じる吸血姫。余人が間に入れば膾に刻まれたであろう、狂気すら感じる攻防戦。魔爪と鎌刃が重なるその火花すら、二つの凶渦に巻き込まれる。
 打ち合いは合わせて十六合、均衡を崩したのはリーヴァルディであった。
「――じゃ、借りるね」
 回転の速力のあまり、彼女の脚から呪海の水が渦となって巻き上がる。淀んだ水はリーヴァルディの鎌に纏い付き、吸血鬼のオドを帯びて漆黒に染まった。
「……?!」
 まさか、足下の潮水までもが武器になるとは、その場の誰もが思いもしまい。飛び退こうとした吸血姫を逃さず、リーヴァルディは巻き上げた水を闇の渦潮として放つ。
 大渦を巻き、呪海が瀑布として押し寄せ、吸血姫を呑む。高速詠唱、闇の渦に含まれる呪詛――『生きたい』『ここは寒い』『お前を恨む』『生あるものを羨む』――それら全てを結晶化し、吸血姫を捉える。
 声すら発せず、結晶化も侭ならぬ。それはいかばかりの屈辱か。しかしリーヴァルディは『知ったことではない』とばかりに小さく息をついた。
「ああ、ごめんなさい。……お前の望み通り踊ってあげたくても、相手がその様では踊れないわ、吸血鬼」
 吸血鬼狩人はローブの下からマスケット銃――Kresnikを引き抜いた。装填する弾丸は『呪壊弾』。オブリビオンの自壊を招く呪詛を帯びた魔弾――
 結晶化した闇にそれが撃ち込まれると同時に、吸血蝙蝠の群れを突き破ってみさきが吶喊した。高速回転する車輪が帯びるは、幾体も幾体も轢殺した獣の呪詛である。呪海に洗われ、車輪にこびりついた血は落ちても、業は決して落ちることはない。
「ほら、会いたいって、飼い主さん。『なんでまだそこにいるの』……『こっちにおいでよ』……って。聞こえる?」
 訥々と言いながら、みさきは己の腕力を加え、全力で車輪を放った。地に轍を刻みながら七咎潰しの大車輪が駆ける。
 闇に取り込めた敵を呪壊弾が呪詛により蝕み――着弾の攻撃でヒビ割れた闇を、大車輪が轢砕した。
 逃れるように、砕けた闇の結晶から紅い霧が舞う。
「――残念だけど、痛みで僕を踊らせるには、君、独りじゃ足りないかな」
 六体の同胞を従え、みさきは冷たく――ただ事実を告げるように言った。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

三千院・操
いいねぇ。あぁ、いい強さだ。
きひひ、おまえみたいな奴ほど無様に嬲りたくなる!
さぁ泣き叫べ、命を乞え! そうして無残に枯れ落ちな!
収奪しろ――『不正なる管理人』!

召喚した悪魔の腕で乱打したり握りつぶしたりするよ! 悪魔の腕が命中すればするほど、相手の力はおれのものになる!
眷属達は破砕の呪詛を纏わせた【The Healer】でなぎ払って吹き飛ばして、魅了の魔眼は【葬送曲】で眷属達をまとめ上げて盾にして防ごうかな!

きひひ! 奪う側から奪われる側になった気分はどう?
よかったら聞かせてよ! その喉で、その声で!
領主だったらわかるだろ? これは恐怖劇なんだ。主役はおまえ!

精々愉しませてよ。なぁ?


六波・サリカ

出てきましたね、悪の親玉。
その歪んだ性癖に付き合う程、堕落していません。
ダンスの相手が欲しいなら、私のレールガンと踊ればいい。
正義を執行します。

今回は超遠距離からの砲撃で戦います。
魅了の魔眼対策としてなるべく味方から遠い位置について、電磁加速砲を発動。
召喚した制圧式に右手で触れて電力を送り込み、照覧式の【視力】技能でしっかりと狙いを定めて発射。
照覧式での【情報収集】で弾着観測を行った後、【2回攻撃】で追撃を。
もし射線上の闇夜の眷属が居れば纏めて落とせますし一石二鳥ですね…鳥ではなく蝙蝠ですが。
魅了の魔眼がこちらに放たれた場合、絶縁式と【破魔】の技能で対抗します。



●カース・アンド・ライトニング
 ヨハンの推測は、大凡当を得ていたのだろう。

 薄らいだ霧が凝り固まり、再び形を成したとき、吸血姫の表情からは最早余裕は消え失せていた。荒げた息は生を渇望するかのようだ。もう動く心臓もない癖に。
「――!!」
 吸血姫は何事か、叫んだように見受けられた。
 彼女と相対しているのは、毛先にかけ朱色にグラデーションが掛かった灰髪が夜目に鮮やかな猟兵。オーバーアクションで語る猟兵に、吸血姫が反駁しているような構図だ。
 ――彼らとの相対距離、約四〇〇メートル。
「人を殺すこと。それを単なる観劇だと言い捨てる放埒。悪の親玉と言うに相応しいですね」
 そこは、その場のどの猟兵よりも遠い位置。
 あの吸血姫の魅了の魔眼さえ届かぬほどの遠方で、一人の少女――猟兵が声を紡ぐ。誰にも聞こえることのない、或いはそれは決意表明か。
「ダンスの相手が欲しいなら、このレールガンと踊ればいい」
 空中に浮かび上がるワイヤーフレーム。軋み打ち鳴る金属音と共にテクスチャが貼られる。それは最新鋭の『式神』。彼女が扱うのは陰陽術と先端テクノロジーのハイブリッドだ。
 少女は、四半秒と置かず完成した“それ”――『制圧式』、電磁加速砲のグリップを手に取った。右掌から強大な電力を送り込み、個人が持つにはオーバースペック過ぎるようなレールガンを起動。
『照覧式』による着弾シミュレーション。動きさえ止まっていれば、その命中率は九八パーセント――動いていても六四パーセントを確保。
「――エネルギー充填率、百パーセント。正義を執行します」
 六波・サリカ(六道使い・f01259)は、その金の瞳を魔眼が如く煌めかせ呟いた。

「いいねぇ、ああ、いい強さだ。あれだけいいようにやられてもそうやって健気に身体を作り直して! どこまで行ったら底を突くんだろ! 何度殺せば泣き喚くんだろ! 頑丈だし何度も何度も嬲りたくなるよね、きひひひひひひひっ!」
 哄笑は、まさしく『思わず』と言った風にこぼれ落ちた。この陰鬱なダークセイヴァーの空気に囲まれて尚、その笑いは底抜けに明るく、だからこそ狂気に満ちて響いた。――こんな薄暗い、真っ暗な場所で、どうしてそのように笑えるのだ?
 或いはそれは、吸血姫らと同質の……それ以上の狂気なのではないか?
「こ、の、……ケダモノが……!」
 荒れた息も絶え絶えと言う風に噛みついて掛かる吸血姫の声すら、その戯笑が掻き消す。
 笑いの主は三千院・操(ネクロフォーミュラ・f12510)。幾重もの狂気を内包した死霊術士である。
「ケダモノだって! ケダモノ! おれはそれでも見境なしに村人殺したりしないよ、おまえのほうがよっぽどケダモノじゃない? あぁーーー反論は聞いてないよめんどくさい!」
 操は腕を突き上げるようにして、呪詛を練り上げる。数万冊の魔導書を内包する彼は、呪いを繋ごうと思うだけでこの世に表出できる。狂気と似た『才能』。
「さぁ泣き叫べ、命を乞え! そうして無残に枯れ落ちな! 収奪しろ――『不正なる管理人』!」
 呼ばわる操の声に応じ、練り上げた呪詛が形を持つ。召喚されるは、『悪魔の腕』――或いは『腕だけの悪魔』。一対の腕が、長く黒い爪で空気を掻き毟る。
「っく、食い散らせッ!!」
 吸血姫の叫び。それは或いは、救いを求めるようでもあった。事ここに至り、彼女は悟りつつあった。此度の相手は異常であると。闇より出でた蝙蝠達が果敢に操に向けて飛ぶ。
 ――ああ、遠い記憶だ。過去、勇士が立ち向かってきたことはあった。人の間で持て囃され、無双の英傑であると謳われたもの達が剣を掲げた事は、確かにあったのだ。その全てを、吸血姫は殺してきた。
 だからこそ、今日もそれと同じに踏みにじれると、そう思っていたのに!
「きひひっ! ねぇねぇねえ、奪う側から奪われる側になった気分はどう? よかったら聞かせてよ! その喉で、その声で! 領主だったらわかるだろ? これは恐怖劇なんだ。主役はおまえ! さぁ――見せろよ、聞かせろよ、無様な表情を! 悲鳴をさぁ!」
 主なき二本の悪魔の腕が、蝙蝠の群を薙ぎ払い、握り潰し、歩む操と同じ速度で近づいてくる!
 それをなんと評すればいい、その畏れを!
「このッ……!」
 この狂気を御せるならば、或いは。この狂った男さえ味方に付けたならば、この敵勢を抑えることが出来るのではないか。そう着想した吸血姫は、蝙蝠のコントロールを手放し、命を失って乱舞する蝙蝠の群の狭間から操を睨み――

 真横から、弾丸に抉り飛ばされ、地面に叩きつけられて滑った。右腕と、喉の前半分がない。喘鳴が削れた喉から出る。
「……、……?!」

 その戦場から最も遠い場所で、サリカは左膝を地に預け膝立ちとなった吸血姫目掛け、第三射をロック・オン。
 レールガンから射出される秒速五キロメートルの弾丸が、複数の蝙蝠と吸血姫の肉体を削り取ったのだ。腕を持ち上げ口を叫ぶように開く女へ向け、容赦なく三発目の弾丸が紫電を散らす。
 ――ただ一人、集中し、長い時間をかけ放たれた亜高速の弾頭が、吸血姫の左腕をもぎ取り――

 蹂躙を歓迎するは操の絶笑。
 彼が喚んだ悪魔の両腕が、最早言葉を発することも叶わぬ哀れな女を叩き潰し、紅い染みへと変えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​


●ラスト・ダンス・アンダー・ザ・スターリー・スカイ
 操の一撃で地面に伸びた赤い染み。そこから、びりり、と痺れるような殺気と共に赤き霧が立ち上る。
 空中に描かれる無数の赤き爪による斬閃。実体化と霧化がシームレスかつ高速に行われ、まるで爪による攻撃のみが舞っているかのようだ。
 その嵐のごとき攻勢より、辛うじて身を躱したもの、手傷を負いながらも飛び下がるもの、それは様々であったが――
 猟兵らは悟る。
 もはやこの吸血姫は矜持も誇りも何もかもを捨て、ただ敵を殺すためだけに爪を振るいだしたのだと。
 皮肉にも、それは彼女が放った獣の在り方とよく似ていた。圧倒的で凄絶な暴力。殺すために殺す、殺戮の権化。

 しかして猟兵たちが、それを恐れることはない。

 敵の前へ飛び出す、四つの影。この戦いを終わらせるために、彼らは構えを取る。
蓮花寺・ねも

ぼくも退屈はきらいだけれど、
おまえのように未来を喰い潰す輩はもっと嫌いだ。
奇遇で簡単な話だ。
どちらかかが消えれば、事足りる。

軽口を叩きながらも油断はしない。
お前は此処で確実に滅ぼす。
理不尽な暴力が何時までも通ると思うなよ。

眷属の多さは厄介だけれども、脆いのは幸いだな。
数に惑わされず、要所を念動力で撃ち落としていく。
全てを斃す必要はないんだ。
アレまでの射線が付けばそれでいい。
ぼくへのダメージも倒れる程でなければ捨て置いて良い。
指さえ動けば、事足りる。

――落ちろ、【星の雨】

周囲の動きをよく見て、皆とも連携を取るように。
目的を同じくするひとたちだ。誰かの刃が届けば良い。
何度でも道を開けるとしよう。


アロンソ・ピノ
「てめえが今一番無様なんだがな、これ以上無様晒したら大変だぞ?生まれたことを後悔するくらいだ。」
POW判定で行く。
ユーベルコードは一撃でブチ抜く夏の型だ。
なぎ払い、先制攻撃と二回攻撃で先の先を取ってとにかく先手を奪い攻撃する。
あとは前述の通り、闘い方は納める度に武器を変形(武器改造)する居合だが…夏の型の利点は居合に拘らなくて良い点だ。刀か敵が壊れるまで鉄球付きの剣で殴りつけて(鎧砕き、鎧無視)壊れたら納めてまた抜けば良いからな。
とにかく腕力で蹂躙する。何かあったら第六感と残像、見切りでカバーだ。

――春夏秋冬流、参る。


アルノルト・クラヴリー
立場ある者がこれだけ放縦に振る舞うからには
反逆される覚悟も、持ち合わせているのだろうな?
なぁ圧制者、俺を幻滅させてくれるなよ

基本は竜騎士の槍での立ち回り
フィーが離れる間はルーンソード
接敵し、物理攻撃は武器で受け払い
魅了には呪詛耐性で抗おう
万一には、フィーに噛み付いてでも俺を止める様予め指示しておく
多少の無理は覚悟の上だ、俺は仲間へ手は出さん

吸血蝙蝠召喚や霧化には即座に竜槍状態解除
至近からフィーの【白の息吹】
蝙蝠には特に範囲広げ、戦場に散らばる前に片を付ける
霧は単純に、実体を氷結させるより霧を氷霧とする方が安易だ
実体化に不便も伴うだろう
幼竜と甘く見たか?
あらゆる戦に対応してこその竜と竜騎士だ


ジェイクス・ライアー

この馬鹿げた狩猟遊びも、貴様を倒して終いにしよう。

▼戦闘方針/負傷描写歓迎
戦場に立つ限り試され続けるのは[覚悟]だ。恐怖を克服する覚悟が、貴様にはあるか?
持ち得るものは全て利用する。武器も、この身体の肉片一片までも。
弾丸は撃ち尽くした。私にあるのはこの身1つ。
[忍び足]で近づき食らわすは不意打ち。[敵を盾にし]、[見切り]、やり過ごす。
攻撃を食らってもいい…[痛みに耐える]覚悟は決めている。さぁ近づいてこい。[おびき寄せ]た後に待つのはヴァンパイアの[串刺し]だ。

さあ、お嬢さん。死神とのダンスを最期まで楽しもうじゃないか。



「立場ある者がこれだけ放縦に振る舞うからには、反逆される覚悟もまた持ち合わせているのだろうな?」
 アルノルト・クラヴリー(華烈・f12400)の問いかけに返る言葉はない。射程内に踏み込んだ彼を迎え撃つのは紅色の爪の連撃であった。
 一打、二打、三打。爪の一撃は獣のそれとは比べものにならない重さだ。あの細い体を魔力で強化し、速度で軽さを補い、これほどまでの打撃を行ってくる。アルノルトは槍を回し、爪を受け弾く。受け流し隙を作ることさえ困難だ。
「必ず、必ず殺すわ。絶対に一人も残さない……私に楯突く劣等種など、皆血反吐を吐いてのたうち回ればいい!」
 霧と実体の狭間ともいえる状態で空中に残影する吸血姫は、目を余さずすべて深紅に染め、己が力すべてを賭して襲い来る。アルノルトは恫喝の言葉を、しかし涼しげに受け流した。
「澄ました仮面の下の醜さまでお決まりか。なぁ圧制者、あまり俺を幻滅させてくれるなよ」
 苛烈な攻撃に痺れる手も、一歩受け間違えれば容易く命が飛ぶこの状況にも、恐れることなく。ただ、鋭く。繰り出す一槍の冴えがごとく、アルノルトは言葉を投げつける。
「――君主を舐めるな。お前の放埒は見るに余る」
 厳しくも、優しく、平等に、佳く人を治める――かつてアルノルトが受けた全ての教えが、この吸血姫を否定していた。
「豚がこの私に説教をするなんて、殺してはらわたを火にくべても飽き足らないわ!!」
 断じるアルノルトに、ヒステリックな叫びと共に爪が叩きつけられた。
 アルノルトが槍で受け、弾く横にもう一つ突出する影。
 その攻撃は、全く唐突かつ突然だった。鋭く繰り出される銀閃は、蹴りによるもの。
「ッ、邪魔をぉ!!」
「するとも。いい加減、この馬鹿げた狩猟遊びも、貴様を倒して終いとせねば」
 吸血姫の爪と爪先のナイフが弾け合い、火花が飛び散った。攻撃の主はジェイクス・ライアー(素晴らしき哉・f00584)である。
「戦場に立つ限り試され続けるのは覚悟だ。恐怖を克服する覚悟が、貴様にはあるか?」
「恐怖は与えるものよ――私が受け取るものではないわ!」
 横薙ぎのジェイクスの蹴りを霧化して擦り抜け、吸血姫は実体を残したままの上半身を捻って貫手を放つ。首を傾げるように避けるジェイクス。爪が頬を裂くが致命的な負傷ではない。
 飛び退き、ジェイクスは指輪から鋼糸を放つ。射出した鋼糸を、アルノルト目掛け振るわれる爪目掛けて掛ける。鋼糸は鋭く、強靱だ。巻き付き引けばそれだけで身を裂く程に。
 吸血姫は切断を恐れたかのようにワイヤーの巻かれた腕を霧に変える。アルノルトがその隙を突き、腰の回転を入れた突きの一撃を叩き込む。霧化が間に合わず、身体に突き立つ竜槍!
「がっ……!」
 すぐさま槍を受けた肩口を霧化し、アルノルトから飛び退く吸血姫。ジェイクスは頬の血を親指で拭い、眼を細めて嘯く。
「痛みが怖いか。だからそうして霧になり逃れるのだな。耐える覚悟もなく恐怖から逃げるだけの存在が、人の生死を遊興とするなどとんだ皮肉だ」
 ジェイクスは既に無手。ショットガンは弾丸尽きものの役に立たぬ。在るのは白刃持つ仕込み靴、ワイヤー内蔵型の指輪。ベルトのバックルに内蔵された白刃。
 たったそれだけ。けれど彼にはもう一つ。
 そのような惰弱な存在に負けぬという、鋼の如き覚悟がある。
 バックルからナイフを引き抜き、ジェイクスは構えを改める。
「さあ、踊ろう、お嬢さん」
 瀟洒なる死神は、歌うように言う。同時に疾駆。
 アルノルトと共に畳みかけるような連続攻撃。槍が、ナイフが、暗殺靴が、吸血姫の諸手の爪撃と拮抗する。
「飲み尽くせ……喰らい尽くせ、蝙蝠共! 我が血に狂い暴虐を成せ!」
 吼える吸血姫。無数の吸血蝙蝠が今一度召喚され、彼女の身体から立ち上る霧を帯び、その翼牙が紅く染まる。
 アルノルトとジェイクスは視線を交わし、即座に飛び退いた。戦士としての勘が退避を選ばせる。
 巻き起こる、紅き竜巻。恐らくは死力を尽くして召喚された蝙蝠が吸血姫の血霧を纏い、その翼と牙に彼女の魔力を帯びて飛び回る。無策で正面から挑むなど、裸でミキサーに飛び込むようなものだ。
「――そうだね。ぼくも退屈はきらいだよ」
 密やかな声。そっと、痩せた土と草の上で跳ねる囁き。
 空を裂き荒れ狂う蝙蝠の竜巻を前に、蓮花寺・ねも(廃棄軌道・f01773)が呟く。
「だけどね、おまえのように未来を喰い潰す輩はもっと嫌いだ。奇遇で簡単な話だ――どちらかかが消えれば、事足りる」
「なら!! 貴様が、消えろォッ!!」
 吸血姫の、絹を引き裂くが如き叫びが鳴り渡る。全方位に向かい、紅き竜巻の範囲が広がっていく。それを真正面から見つめ、ねもは藍色の瞳を比喩抜きに煌めかせた。
 空間が歪む。ねもの持つ念動力が、嵐の如く飛び回る蝙蝠の動きを緩める。
 ――それも、一箇所だけ!
「お前は此処で確実に滅ぼす。理不尽な暴力が何時までも通ると思うなよ。――止まれ、止まれ、止まれ」
 暗示するようにねもは繰り返す。強まった念動力が蝙蝠達の翼の動きを縛る。吸血姫を取り巻き大量に廻る蝙蝠は、少々撃ち落としたところで焼け石に水だ。ならば、一角の動きを遅くして激突を誘えばいい。
 ねもの狙いは的確であった。蝙蝠同士が衝突し、身を裂き合い、竜巻の如きその陣に綻びが生じる。
「劣等種がよくも無様に足掻いてくれるッ……!」
 狂い出す陣に悪態を突く吸血姫。すぐさま散開を命じようとするその機先を制する声が一つ。
「今一番無様なのはてめえだ。これ以上無様を晒したら大変だぞ? 生まれたことを後悔することになるぜ」
 次いで、鞘走りの音。
 互いにぶつかり縺れ、態勢を立て直そうとする蝙蝠達に向け放たれたのは、鞭の如く撓り伸び、敵を引き裂く異形の剣。春夏秋冬流・春の型――壱の太刀『春風』。
 蝙蝠達の隙に乗じた白刃が、一気呵成と十数匹を切り裂き陣に穴を開ける!
 引き戻した異形の剣をへし折りながら鞘に押し込むのは、アロンソ・ピノ(一花咲かせに・f07826)である。
 彼の剣は家伝の宝剣『瞬化襲刀』。鞘から抜くたびに千変万化と形を変ずる、彼の剣術『春夏秋冬流』に必須の剣だ。
「――春夏秋冬流、参る」
 若草色の瞳を刃が如く尖らせて、アロンソは開けた穴目掛け縮地。
 今一度瞬化襲刀を引き抜き、振りかぶる。
「なッ――」
 吸血姫さえもが驚きの声を漏らした。抜いた刀の先端には、どう考えても鞘には収まらぬ巨大な鉄球があった。重さのあまりに細い刀身が撓むほどの鉄塊である。
 春が終われば、夏が来る。
 これぞ、春夏秋冬流・夏の型、壱の太刀『夏月』!
 全力の一閃である。裂帛の気合と共に振り下ろされた刀が、戦槌が如く、振るった軌道上の蝙蝠を残らず叩き潰す!
 吸血姫は最早言葉すらなく飛び退き、辛うじて刃から逃れる。地を打つ花月の一撃が土を巻き上げ、飛礫となって周囲の蝙蝠に襲いかかった。きいきい、ぎいい、と耳障りな叫びが舞う。
 衝撃のあまりに、甲高い音を立ててへし折れる刀を即座に納刀。飛礫に惑う蝙蝠らの前でアロンソは今一度鯉口を切る!
 今一度荒れるは『春風』、吸血蝙蝠達を斬り裂き打ち落とし、鞭剣の白刃が暴れ狂う!
「こ、っんな、出鱈目なッ」
 蹂躙すべく放った、赤嵐が如き蝙蝠達は、今やアロンソの放つ銀嵐の前に裂かれ落つ。
 吸血姫自身をも巻き込もうと『春風』の切っ先が撓った瞬間、恐れるように彼女はその身体を霧に変えんとし、
「フィー!」
 氷竜の吐息が、それを阻んだ。
 アルノルトが投げ放った竜槍『フィー』が本来の形、幼竜としての形を取り戻す。近距離から残った蝙蝠諸共、輝く白い息吹を吹き付けたのだ。
 フィーを幼竜と侮る者がいたとすれば、その吐息の威力を知らぬものであろう。
 猛吹雪が現出したが如く、吸血姫の周囲が瞬く間に凍結する!
「……ッ!!」
 息を詰める吸血姫に向け、アルノルトは矢の如く愛竜に続き、突撃した。
 抜剣。
 ルーンの刻まれた刀身を冴え冴えと煌めかせ、弛まず鍛えた練達の一刀を振るう。凍った吸血姫の左腕が宙に舞い飛ぶ。
「こいつも持っていけ!!」
 動きの鈍った吸血姫目掛け、刀を納めたアロンソが再びの抜刀! 腰の回転を籠めて再び薙ぎ払う『夏月』の一撃が、吸血姫の右腕へ真っ向から叩きつけられ、粉砕!
「ああああああああああああああっ!!?」
 ヒビ割れたガラスのような声を立てる吸血姫。噴き出す血は最早霧ともならぬ。即座に凝固し、血で腕を模すのが精一杯だ。
「豚、……卑賤の豚共、がッ、」
 血腕を振り上げた吸血姫の動きが軋むように止まった。驚愕の表情。
「レディ。言葉は品格を表すものだ。慎むといい」
 紳士は――ジェイクス・ライアーは、詩を唄うように言った。音もなく、暗殺技術の粋を尽くして放たれた鋼糸が、吸血姫の身体を縛り付けている。
「死神とのダンスを最期まで楽しもうじゃないか。――そら、もうすぐそこまで来ている」
 ジェイクスが顎で示す先。
 白く、細い指先を天に向ける少女が、吸血姫を見つめていた。

「――落ちろ、『星の雨』」

 ねもは、天を示した指先を真っ直ぐに振り下ろし、ぴたりと吸血姫を指し示した。
 その瞬間、廃棄軌道より落ち来るは、彼女が喚んだとおりの『星の雨』。
 天空のそのまた上から降る無数の衛星片。忘れ去られたホシノカケラ。
 着弾、着弾、着弾、爆ぜる土柱、吸血姫の絶叫。
 それら全てを流星雨が呑み込み――

 アルノルトがフィーを指先に止まらせ、アロンソが刀を納め。
 ジェイクスがワイヤーを巻き取り、ねもが帽子の鍔を引く。

 土煙が晴れれば、そこにはもう、何もいない。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『闇を彩る花飾り』

POW   :    粘土で花飾りを作る

SPD   :    折り紙で花飾りを作る

WIZ   :    布で花飾りを作る

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●献花を捧ぐ、この村へ
 猟兵らの活躍により、戦の音は止まり、村に平穏と静寂が訪れる。
 夜半、悲劇は回避された。それを村長へ告げると、彼は涙を流しながら何度も頭を下げた。突如現れた異邦人の言葉は、けれども凄絶な戦闘の痕からすぐに事実と判断された。
 ささやかながら、心の籠もったもてなしを受け、一夜が明ける。
 来ないはずだった、朝が来る。猟兵達が救った朝だ。

 中央広場。
「祭りと名前がついている割に――随分静かなものだな」
 一人の猟兵が呟いた。彼の言葉通り、町は浮き立つような雰囲気では決してなかった。ただ、優しく、そしてどこか物悲しい空気が漂っている。村の中央に立てられた献花台に、人々が思い思いの作り物の花を捧げていく。天然の花は時期が限られるし、このダークセイヴァーの気候では何より希少なのだろう。
 木で組まれた櫓のような献花台は、色とりどりの造花で彩られ、色彩の薄いダークセイヴァーではなかなか見ないほどに千紫万紅、鮮やかであった。
 献花台を囲む人々の様子もまたそれぞれだ。涙する者も、薄く笑って過去を懐かしむ様子の者も、あるいは悲しみを忘れたくて、ワインを片手に声を交わす者も。
 悲しみと向き合う方法は、決して一つではないのだろう。それこそ、人の数だけ存在する。
 祭りを眺める猟兵らに、一つ、声がかかった。
「その……猟兵、様方も、もしよろしければ、花を捧げていかれてはいかがでしょうか」
 村長の娘である。手の籠の中には、造花の材料があった。
「捧げる花は、何でも構わないんです。この中にあるもので作っても、そうしなくても。祈って、あの献花台に捧げ、最後に焚き上げることで――もう手渡すことのできない誰かに、想いと花を届けられる。そういう伝承があるんです」
 年の頃、一六・七といったところだろうか。過酷な世界で生きる少女は、籠と反対の手に、紙で作られた造花の束を携えている。
「私は……お母さんに、これを捧げるつもりです。もしかしたら、こんな作り物の花を捧げるなんて、ただの自己満足でしかないのかもしれないけれど。……私が救われるだけなのかもしれないけれど」
 けれど、言えない言葉を抱えたまま、想いを募らせるよりずっといい。
 少女は言葉を結び、いかがですか、と首をかしげる。その表情は、年齢不相応に大人びて見えた。

 君達は、花を捧いでもそうせずともよい。
 ワインや蜂蜜入りの果物ジュース、ベーコンとチーズをを乗せたパンなどの軽食程度なら屋台で提供されている。思い思いの時を過ごすといいだろう。
 危機は、君達によって救われたのだから。
ヘンリエッタ・モリアーティ
【WIZ】
……じゃあ、私は布をいただこうかしら。お嬢さん
簡易医療具の中に糸も針もあるし、ひとつひとつ縫い合わせて花にでもしようかと
この世界が、この世界である限り彼らは救われるのかしら
きっと、救われるのでしょうね
人間には抗う力と知恵がある
常に吸血鬼も魔獣も相手に、掻い潜って生きていくのでしょう
人間の可能性も、まだまだ未知数だから――そうよね、「わたしたち」

……ああ、夢中になってたわ。結構な量を作っちゃった……

穏やかな眠りを与えらえれるなら、「大罪人」としてはいい償いになるかもしれない
――模範囚なんて言われちゃうかもね、監獄なら
おやすみなさい、安らかに。
どうか、また生まれてくる未来ではお元気で。



●優しき咎人たち
「……じゃあ、私は布をいただこうかしら。お嬢さん」
 柔和な表情と穏やかな声でまず応じたのはヘンリエッタ・モリアーティ(獣の夢・f07026)。村長の娘はその言葉に嬉しそうに応じると、籠を探って色とりどりの布を取り出す。
「はい、どうぞ! あちらに作業台がありますからお使いください。余った布は置いておいてくださって構いませんから!」
「ありがとう」
 ヘンリエッタは布を受け取り、作業台へ一人歩いた。数人の先客が黙々と作業をする横に滑り込み、医療キットの折りたたみケースから糸と針を取り出す。
 糸を針に通し、布を切り――半ば自動的に作業しながら、彼女は黙考する。
 この救いのない世界。今回は確かに間に合った。だが、この次、その次は? わからない。保証はない。いつもいつでも、誰も死なせずに済むことが出来るわけではないだろう。
(この世界は、救われるのかしら)
 微かな疑いが心に浮く。誰も答えられるはずのない問い。闇に閉ざされたこの世界の行く末など――
「ねぇママ! 見て!」
「あら、上手に出来たわね。とっても綺麗なお花!」
「おばあちゃん、喜んでくれるかなあ」
「きっと喜んでくれるさ。どれ、パパにも見せてくれないか?」
「いいよお!」
 沈思しつつ手を動かすヘンリエッタの意識に割り込んだ、明るい声。視線を滑らせればそこには三人の家族がいた。子は賢明に、恐らくは故人であろう祖母に捧げる花を折り、父と母がそれを見守っていた。
 こんな暗い世界でも。人は、生きている。
(――そうね。きっと、救われるのでしょうね)
 人間には抗う力も、知恵も、この闇の中で笑う強さもある。きっと、苦難を掻い潜り生きていける。人間の可能性はまだまだ未知数だ。
 ――そうよね、『わたしたち』。
 心の内側に問いかけると、細波のごとく肯定が連なる中、一人が笑った。
 ――超えられねェ理不尽は、俺達がブッ壊せばいい。違うか?

「そうね」
 気づけば、ヘンリエッタの手元には沢山の花がある。立体的に布を縫い合わせた、可憐な造花だ。添え付けの竹籠に花を詰め、ヘンリエッタは席を立つ。
「――模範囚なんて言われちゃうかもね、監獄なら」
 薄く笑う。けれど、いいだろう。
 過去の大罪をすべて濯げるとは思っていないけれど、誰かに穏やかな眠りを与えられるならば、少しは償いになるだろうから。

 ヘンリエッタは献花台へ歩む。そうして、花を捧げて祈るのだ。
 ――おやすみなさい。どうか安らかに。いつかまた生まれてくる未来で、息災でありますように。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ミーユイ・ロッソカステル
他の世界を知った上で、故郷であった世界を訪れるのは、何度目になるかしら。
……陽の少ないこの世界では、花すら貴重だから。こういった、造花を使う文化が残りやすい、というのはとてもよく知っている。
そんな事を思いながら、布を折って花を形作って。

縁者が居た、という訳ではないけれど。
吸血姫の、ひとつの支配が終わったのだもの。手向けの花くらいは。


祈りながら、戦いが決着した一つの世界のことを思う。
もしかしたら、闇に閉ざされたこの空の向こう、そのどこかかもしれない世界……星々の世界。
あの空のように、大きな戦いがダークセイヴァーでも近々起こるのだとしたら。
……案外、私も目を背けてはいられないかも、しれないわね。



●この世界の行く末に
 ミーユイ・ロッソカステル(眠れる紅月の死徒・f00401)は、このダークセイヴァーを故郷とする猟兵である。幾度も世界を旅し、ほかの世界に衝撃を受けてから訪れる故郷は、朝だというのに日も差さず光乏しい曇天を掲げている。
「何回目になるかしらね。こうして帰ってくるのは」
 ――それでも、故郷だ。
 想いが何もないわけはない。この乏しい日の光も、人々の服装も、何もかもが目になじんだものだ。ミーユイは日傘を畳み、作業台についた。ダークセイヴァーの日光は彼女の肌を焼くことはない。
 縁者こそ特になけれど――言うなれば同胞らが、殺戮から救われて、何でもない日常を過ごしている。ただそれだけで花を手向ける理由になろう。
 ミーユイは作業台の堅い椅子に腰を下ろすと、手元に赤系の布を何枚か並べ、裁断した。
 陽が少ないこの地では、花すら貴重だ。ミーユイはよく知っている。人々はそれでも、美しいものを死者に捧げたがり、贋物の花を作り愛でる。こうした文化は、各地に見られるポピュラーなものだ。
 故にミーユイが布を造花に仕立てるのは極めて早かった。手慣れた様子で花を一つ一つ折りあげていく。
 折りながら、思うのは銀河帝国との死闘のことだ。実に一月に及ぼうかという激闘の日々。それは解放軍にしてみれば、長い戦いの中のほんの一ページに過ぎなかったのかもしれないが――長い戦いだった。
 あの星々と、光を飲む黒い宇宙で漂う人々の世界は、激闘の果てに救われた。ミーユイもまた数々の戦いで、解放軍を助け転戦していた。記憶に新しい『戦争』であった。
 オブリビオン・フォーミュラ、銀河皇帝、リスアット・スターゲイザー。
 あのような強大なオブリビオンがこのダークセイヴァーにも在るとするのなら、いつかこの世界でもあのような大きな争いが起きるかもしれない。
 ――その時が来たとするのなら、彼女の生まれた地もまた戦火に包まれるのだろう。
「……案外、私も目を背けてはいられないかも、しれないわね」
 ミーユイは呟きながら、出来上がった花と花の間を赤い糸で繋いでいく。離れぬように、燃え落ちるそのときまで共にあれと言う様に。
 出来上がるのは赤い造花のリース。それを手に、彼女は席を立ち、歩き出す。
 いつか向き合うべき時が来るということだけは確かだけれど、その時が来たらどうすればいいのか。
 眠たげで物憂げな瞳を、いつもよりほんの少し細めて、ミーユイは歩く。
 答えは見当たらなかった。……少なくとも、今はまだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

三千院・操
◎◎◎◎◎
悲しみと向き合う、ね。
おれは向き合う悲しみなんてものは存在しないから? 単純に楽しませてもらおっかな!

せっかくだし、折り紙で花を作ってみるよ!
わかってるって、繋姉ちゃん。こういうのは、こうやって折るんでしょ?
はいできた! かんぺきー! おれってば才能あるぅー!

せっかくだし、いっぱい作っていっぱい献花しちゃお!

向き合う悲しみなんていうものは存在しない。
そんなもの、とうの昔に虚実にしたのだから。
家族も死んだし友達も死んだけれど、そんなものは全部嘘っぱちだ。

だから──『誰も死んでない』。

少なくとも三千院操という人物の中では、彼らは全員生きている。
これが、操にとっての死霊術だ。



●死を偽るは
「悲しみと向き合う、ね。おれには向き合う悲しみなんてものは存在しないし?」
 三千院・操(ネクロフォーミュラ・f12510)は色とりどりの紙束を受け取り、ぱらり、扇のように広げ、ぱたぱたと自身を扇いで見せながら屈託なく言う。
「ま、単純に楽しませてもらおっかな!」
 折り紙なんていつぶりだろー、と陽気に呟きながら操は足取り軽く空いた作業台へ歩く。折しもほかに誰も居ない作業台に沢山の色紙を並べ、操は花を折りだす。藤色、桜色、赤に黄色。紫。
「わかってるって、繋姉ちゃん。こういうのは、こうやって折るんでしょ?」
 ――そうよ。操。きちんと出来て、偉いわね。
「へへっ」
 操は屈託なく、賛辞を受け止めるように笑った。テキパキと手を動かすと、瞬く間に色紙が花の形に整っていく。出来上がった花を手に乗せて白い歯を見せる。
「かんたんかんたん、ほーら、できた! かんぺきー! おれってばやっぱ才能あるぅー!」
 彼の言葉を聞き咎める者はいなかったが、もし居たとするなら一体誰と話しているのか訝しんだことだろう。
 彼の隣には、誰もいない。
「よーし、せっかくだし、この調子でいっぱい作っていっぱい献花しちゃお! きっとその方がたくさんたくさん、キレイに燃えるだろうしね!」
 無邪気に無邪気に、操は花を折り続ける。彼の手元に咲き乱れる、七彩鮮やかな造花たち。
 ――特に何に捧げるわけでもない。だって、三千院・操には向き合う悲しみなんてものは存在しないのだ。そんなものは、とうの昔に虚構に付した。初めからなかったのだ。なかったことにした。
 だから、ない。悲しみなど。

         みんな死んだ。
         父も、母も、
         友達も、
         繋姉ちゃんも。

「この花もきっと、キレイに火が点くだろうなあ。端の方からメラメラメラってさあ――」
 操は楽しげに花を折る。美しく整った花。折った当人はこんなにも壊れているのに。
 ああ、操の中では今も、死したもの達が、彼らの『才能』が生きている。彼は死霊術師。それが彼の扱う死霊術。

         死んだのはなかったことにした。
         なかったことにしたのだから、みんな生きている。
         あんなのは、なにもかも、全部嘘っぱちだ。
         だから、『誰も死んでない』。
         俺には悲しむべきことなんて、
         一つたりとてありはしないんだ。

 操は楽しげに花を折る。
 宛先もなく、夜にくべられて炎となるだけの、ただそれだけの花束を。

大成功 🔵​🔵​🔵​

明日知・理
◎●
【SPD】

子どもたちがいたなら。
彼らの姿を見て、無意識に息をそっと吐く。
――護れた。
安堵に力が抜けてへたり込みそうになるのを何とか耐える。心臓がばくばくと煩い。
献花の誘いに頷きかけて、止まる。
…此度の奴ではない。けれど俺にも、吸血鬼の血が流れている。
この世界の、そして彼らの敵なのであろう"鬼"の血が。
そして、かつて俺が護れなかった血の繋がらない弟妹たちの姿が頭に甦る。
…献花する資格なんぞ俺には無いのではないか?
指先が冷たい。吐く息が震える。
…迷った末に、紙でたった一つだけ花を折る。
それは酷く不器用で、不恰好なものだった。



●届かぬ声と一輪華
 静かな広場には、子供連れもやはり目立った。分別のつかない年齢の少年少女の華やぐ声を、親が窘める牧歌的な光景。――昨日、ともすれば失われてしまう所だった小さな命。
 明日知・理(花影・f13813)はそれを見て、膝から力が抜けかけるのを何とか堪えた。表には出さずに済んだだろう。誰も、怪訝な顔で自分を見たりはしていない。
 心臓が煩い。戦い抜いた一夜は、無駄ではなかったのだと今更実感が込み上げてくる。
 ――今度は、護れた。
 何かを失う者はいなかったのだ。この戦いで。
「……猟兵様? どうかされましたか?」
 同じ年頃の少女が下から覗き込むように理の視界に収まる。
 十六才としては理の身長は非凡であった。少女は首が痛くなるほどに見上げなくては、間近の彼と視線を交わせない。
「ああ――いや。大丈夫だ。何でもない」
 頭を振ってみせる。問題ない、と返しながら。まさか安堵のあまり膝を付きかけていたなどと言うわけにも行くまい。それよりも献花を――と言葉を継ぎかけて、理はまた動きを止めた。
 ――あの女吸血鬼のものではなけれど。この俺の身体にも、吸血鬼の血が流れている。この世界の、そして彼らの敵なのであろう“鬼”の血が。
 この世界には、ありふれたことなのだろう。人が享楽のために当然のように殺され、売られ、虐げられる。その全てとは言わぬにせよ、多くに吸血鬼が関わっている。
 理は自分の手を見下ろした。過去がフラッシュバックする。汚れてなどいないはずの手が真っ赤な血に染まって見えた。目の前の少女に、救えなかった妹の、もう二度とは動かぬ苦悶の表情が重なる。いくつも転がる骸、血に塗れた床――
 ああ――俺には、献花する資格なんぞないのではないか?
「猟兵様!」
 呼ばわる声に、理は再び沈思より引き戻された。
「あの、やっぱりご無理をなされているのではないですか……? 顔色が優れませんもの」
「心配要らない。少し、思い出していただけだ。昔の、事を」
 理は深く呼吸をして、震える息をなだめながら、少女に努めて冷静な声で言った。
「……それよりも、紙を一枚、くれないか」

 冷たい指先で、理は紙を摘まむ。捧ぐ資格があるかないか、あるのだとしても救えなかったあの子らになんと言って捧げばいい? 
 迷って、迷って、悩み抜いて、理はたった一輪だけ花を折った。
 それは不器用で不格好で……彼の苦悩と懊悩をそのまま示しているかのような形をしていた。

 ――献花台にそれが咲いたかどうかは、ただ彼だけが知っている。

大成功 🔵​🔵​🔵​

セリオス・アリス

ヨハン◆f05367と

献花ねえ
生者の為の祭りだっていうならなおの事
柄じゃねえっつーか…

この世界じゃ死は珍しくねえし
それに…てめぇで死体にした相手へ祈る程傲慢でもねえ
スルーして帰ろうと思ったが
訊ねてくるその目の青を見て気が変わった

あー…一人だけ
母さんに
花…好きだったからな

それだけ告げて口を閉じる
ヨハンの申し出に一瞬キョトンと
ああ、喜ぶよ
くつくつと喉を鳴らし
…最期まで心配かけっぱなしだったからな
言ってやってくれ

上手いかどうかは置いて丁寧に花を作る
色は青がいい
綺麗な星空を
俺の眼を
とても好きだと言っていたから

一応祭りだ
ごめんよりもありとうを込めて
この想いがもし届くとしたら
確かに、救われるのは俺の方だ


ヨハン・グレイン


セリオスさん/f09573 と

献花、か
弔いも手向けも、死者へ向けているようで
実際は生者のためのもの――かもしれませんね

さて。生憎俺は祖父母に至るまで健在でして
生涯の別れを味わった事がないのですよね
あなたは誰か、花を捧げる相手はいますか?

――、
下手な共感は出来ない。この人にしか無い経験を、
推し量る事も出来ない。だから言葉は掛けられず、
そうですか、と一言のみ

……俺からも花を捧げていいですか
あなたがとても頼りになりましたよ、とか
そんな言葉を籠めておきましょう

いいですね。青い色、星空の色か
あなたからだと直ぐに分かってもらえそうだ
倣うように青を選び、花を象り

届くといいですね
そう、想うくらいはいいだろう



●ほしぞらをあなたへ
「……なんか結局最後まで一緒に歩いてんなあ、お前と」
「そうですね。……でも大過なく事を終えることも出来ましたし、悪くなかったと思いますよ。実際、頼もしかったですしね」
 人々が思い思いに祈りを捧げ、花を折り紡ぐ中を、男と少年が並び歩く。
「献花、か。あの娘は自己満足という言い方をしましたが――弔いも手向けも、死者へ向けているようで、実際は生者のためのものなのかもしれませんね」
 ヨハン・グレイン(闇揺・f05367)は祭りの意義を説明してくれた村長の娘のことを思い出しながら洞察を一つ。言葉に応じ、長身の男――セリオス・アリス(黒歌鳥・f09573)は頬を掻く。
「柄じゃねえんだよ、俺は、こういうの。お前が言うみたいに、生きてる奴の為だって言うなら尚更だ」
 揺れる腰の剣の柄に手を置きながら、セリオスは献花台を一瞥。
 献花台に花を掛けに行く、幾人もの村人。村外から来ているものも、中には仕立てのいい服を着たものもいる。ああした立場の人間が、この村に来るだけの価値がある、と言うことなのだろう。
 セリオスは白い息を浮かべる。
「この世界じゃ死は珍しくねえしな。……それに、てめぇで死体にした相手へ祈る程傲慢でもねえ」
 祈りなど不要だとばかりに言うセリオスの言葉に、ヨハンは薄らと眼を細める。
「そう、ですか。――捧げたいと思う相手は、いませんか?」
 足を止めたのはヨハンが先だ。セリオスもまた応じるように、一拍遅れて足を止める。横手には、ご自由にお使い下さいとばかりに材料の詰まった籠。
 籠を一瞥してからセリオスに視線を戻すと、ヨハンは続ける。
「生憎俺は祖父母に至るまで健在でして、生涯の別れを味わった事がないんです。――ですから、セリオスさんが無用なのでしたらもう後は帰るばかりというところで」
 気遣いを伴う問いかけに、セリオスはああ――と小さく返事をして、ダークセイヴァーの曇天を見上げた。
「……そうだな。いるとするなら、一人だけ。母さんに」
「――そうですか」
 セリオスは続けることなく、沈黙する。
 ヨハンもまた同じだ。下手な共感も、当て推量の同情も、セリオスは求めないだろう。ヨハンは聡い少年だった。多弁にならず、無駄なことも余計なことも言わない。
 ただ、セリオスが次に口を開くのを待っている。
「――花が、好きなひとだった」
 時間にすれば十秒もあるまい。僅かな沈黙の後にセリオスは言うと、頭を掻いて籠に歩む。
「柄じゃねえとは言ったけどよ。……俺だって、もし届くなら届けてやりたいとは思うさ。母さんはもうどこにもいやしねえ、歌ったって届かねえ場所にいる――それでも」
 セリオスは言いながら、籠の中の色紙を漁って一枚。青い、青い星の夜空の色をした紙を摘まみ出す。
「……だから、一枚だけ。折って、祈っていく。先に帰っていいぜ――って、」
 振り向いて声をかけるつもりだったセリオスの横に屈み込む気配。当然のようにヨハンだ。目を丸くするセリオスに、ちら、と掠めるように視線を寄せる。
「……あなたがそうするなら。俺からも花を捧げていいですか? あなたがとても頼りになりましたよ、なんてことくらいしかまだ、俺には言えませんが。そんな言葉を籠めておきますよ」
 無愛想な少年が見せた温かい感情。
 溶かされるようにセリオスの瞠目が細まる。喉を慣らすように笑い、ありがとよ、と一声。
「……ああ、喜ぶよ。きっと。最期まで心配かけっぱなしだったからな――言ってやってくれ。元気にやってるよってさ。俺からも、届くように祈るから」
 ひらり、ひらり、とセリオスは色紙を振る。
「色はこれがいい。――綺麗な星空を――俺の瞳の青を。とても好きだと言っていたから」
 なるほど、セリオスが示した色紙は彼の瞳の色を写し取ったかのような見事な青だ。ヨハンは頷いて、紙束の中から同じ色を探して、そっと摘まみ出す。
「いいですね。――青い色、星空の色か。あなたからだと直ぐに分かってもらえそうだ」
「そうだろ? よし、じゃあ折るとするか!」
「はい」
 セリオスが立ち上がり、席を探して歩いて行くのを、ヨハンはゆっくりと追いかける。
 暫時の後、出来上がる花は二輪。ちょっとだけ形の崩れた――けれど懸命に折ったのだと伝わるような花と、きっちりと几帳面に折り上げられた花。
 互いの花の出来について言葉を交わしながら、二人は献花台へ歩みを進めた。
 セリオスは、ヨハンと共に花を献花台に捧げて僅かだけ、目を閉じる。
 ――ああ、ヨハンの言った通りかも知れない。この想いがもし届いたとしたなら――確かに、救われるのは俺の方だろう。
 もう届かないありがとうを籠めて、セリオスは瞑目のままに天を仰いだ。

「届くといいですね」
「――ああ」

 目を閉じ祈るセリオスの言葉を代弁するように、ヨハンは呟いた。
 そう祈るくらいは許されることだろう。この、昏く悲しい世界でも。――きっと。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ユア・アラマート
私は昔、ダークセイヴァーでオブリビオンに飼われていた。あの人に反旗を翻そうとして、無残に殺されていった人達を知っている
名前も知らないし、顔だってまともに覚えてはいない。それにもうずっと昔の話だ。でも、弔えるのはもう私しかいない

折り紙で小さな花を作って、献花台の隅にそっと捧げる
同じ世界とは言え、こんなに離れた場所からの祈りが果たして届くかどうか
いや、届かないほうがいいか。さっさと次の輪廻に入ってくれてるほうがいい
どうか安らかに。どうかその眠りに痛みがないように
そしてどうか、どうか。今だ尽きぬ苦しみを抱いて彷徨っているのなら、そんなものは私に押し付けて
敵は討つさ。でなければ、私も先に行けないからね



●いつかいた檻の中から
 その昔のことだ。ずっと昔のこと。
 まだ、ユア・アラマート(ブルームケージ・f00261)が、飼い殺しの狐だった頃の話だ。
 ユアは、オブリビオンに囚われていた来歴を持つ。此度の女吸血姫のごとく人々を虐げるオブリビオンの元で、彼女は沢山の死を見た。圧政を見た。地獄を見た。
 飼い主に反旗を翻そうとして、無残に死んでいった沢山の人々がいたことを、覚えている。
 一人一人の顔を覚えてはいない。名前さえ知らない、けれど反旗を翻そうと立ち上がった勇気ある人々のことを、ユアは覚えている。
 ユアは、折り紙で小さな花を折る。祈りを込めて一度折り、願いを込めて二つ折り。
 かつて力もなく、小さな体を苦痛と絶望で埋めて、あの殺戮を見つめるしかなかった頃のことを思い出す。首から左腕を絡みつくように埋める、月下美人の刺青が疼く。

 ああ、死んでいった彼らを弔える者は、もう私しか居なくなってしまった。

 囚われていたあの頃と同じ世界、ダークセイヴァーだとはいえ、こんなに離れた場所からの祈りが果たして届くものだろうか――そこまで考えて、ユアは苦笑がちに笑った。
 今更の祈りなんて、届かない方がいいかもしれない。祈りが届くっていうことは、きっと輪廻の輪に未だ入れていないということだろうと思うから。
 ただ、どうか安らかに、と願う。あの日圧政によって潰されたあなたたちのことを、まだ忘れずに覚えている狐がここにいる。
 あなたたちが未だ尽きぬ苦しみを抱え、暗い縁を彷徨っているとするのなら。どうかそんなものは、生者の私に押しつけて、先に進んでほしい。
 あなたたちは確かに終わってしまった。無残に殺されて、失意のまま鏖殺されてしまった。
 ――けれど、その先にはきっとまた始まりがある。次の生が待っていると思うから。
 そのくらいの救いを求めたって、罰は当たらないはずだ。もしもそれすら許されないというのなら、本当に救われないではないか――
 ユアは、押しつけた指先に願いを込めながらまた紙を折り線で線分する。
 出来上がった沢山の造花を、ユアはまとめて籠に入れた。色とりどりのバスケットブーケだ。
「――大丈夫。忘れない。忘れるものか。敵は討つさ。いつか、必ず」
 そうしなければ、私とて前に進めないのだから。
 席を立ち、彼女は献花台に歩いた。何人居たか、数え切れもしなかったから、だから沢山折ったつもりだ。
 燃えて煙となったこの花が、想いと共に彼らに届いたらいい。

 あなたたちの未練は、きっと私が果たすから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジェイクス・ライアー
終わったと、戦いの緊張を解き救えた人々の顔を見て回る。皆が誰かを想い花を捧げている。
頬の傷もそのままに、人々の輪から離れた場所で一人物思う。

黄色い造花用の布から切り出した、小さな一枚の花弁。
向日葵。
多くはない思い出の中で夏の日差しの中に見た、戦友たちと恩師の笑顔。青春と呼んで良かった日々の一瞬を思わせる、その花弁をそれ以上切り出すことが出来ない。
君を、お前を、貴方を。私が殺した。
捧げられるというのか。私に彼ら誰一人にもこの花を贈る権利などありはしない。
花弁を風に乗せ、別れを告げる。
贖罪を続けるしかない。

温かな灯に背を向け、私のいるべき場所へと還ろう。



●花では濯げぬ罪を背に
 もう、戦いの緊張を保つこともない。肩の力を抜き、彼は、祭りの中を風と共に歩いていた。人々は皆、一様に安堵し、無事にこの祭りを迎えられたことを心の底から喜んでいるようだった。
 皆が誰かを想い、献花している。様々な、尊い人の想いが行き交っている。
 人の、営みであった。
 ジェイクス・ライアー(素晴らしき哉・f00584)はそれを見て安堵したように頷き、頬の傷もそのままに人の輪から離れた一角へ向けて歩く。誰にも話しかけられない、話しかける必要もない位置を選んで、一人物思う。
 幾人かの猟兵らが、献花台へと向かい、おのおのの花を飾り付けるのが見えた。
「花を捧ぐ――か」
 ジェイクスはスーツのポケットから小さな布片を取り出した。それは鮮やかな黄色の布から切り出された、小さな造花の花弁であった。
 向日葵。今はもう記憶にも遠い、夏の日差しの中に咲いていた花。
 決して多くはない思い出の中で、照りつける眩しい陽光の下、笑う戦友達と恩師の顔が脳裏に焼き付いている。自分にもかつて確かに存在した、青春と呼べた日々のそばに咲いていた花――
 その花弁を、それ以上切り出すことが出来なかった。
 捧ぐとするならばそれ以外に考えられなかった花なのに、罪の重さと思い出の尊さが、鎖のように鋏を縛っていた。
 ジェイクスは目を閉じる。闇の中に浮かぶのはかつての日々、そして、

 ――ああ、ああ、
 君を、お前を、貴方を。
 私が、殺した。

 ――今更捧げられるというのか。花を? どの顔で? どんな言葉を以て? 許されるはずもない、許されていいはずがない。よしんば許されるとして――私には、彼らの誰一人にもこの花を贈る権利などありはしない。
 ジェイクスは作りさしの部品に過ぎぬ、たった一枚の花弁を風に乗せた。不意に一陣吹いた狂い風が、花弁を攫って空へ迎える。
 贖罪を続けるしかない。
 たとえその末に救済がなかろうとも。その末に許されることがなかろうとも。
 歩き続ける他にないのだ。

 もはや伝えるべき相手は天上。言葉は届かず、故に男が何かを語ることはなかった。
 ジェイクスは目を伏せて立ち上がり、傘型の散弾銃を手に、祭りに背を向けた。
 暖かい灯を後に。彼は、彼の居るべき場所へと還っていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アレクシス・アルトマイア

たくさんの、色とりどりの折り紙を用意して、
綺麗なお花を捧げましょう
いろんなお花の折り方を教えてもらって、こちらも教えて。

まだ、この世界は闇に覆われているけれど

今、貴方たちを思う子らが、未来で心から笑えるように
苦しめられた人々が、安らかに眠れるように
祈りを捧げて、誓いましょう

いつか、そう遠くない未来。
世界を包むこの闇を、えいっ、とまるごと剥がしてしまいます

ですから、今は安らかに。

そんな想いを捧げて、
そうしてその後は、屋台のお手伝いでも致しましょうか。
私も皆さんを労いたく思いますから。



●いつか、帳にさよならを
「えっと、こうでしょうか?」
「ちがうよ、お姉ちゃん。ここはねー、こうするの!」
「あら、そちらに折るんですねっ。覚えました!」
 作業台に色とりどりの紙を広げ、子供達と戯れるように作業をするのはアレクシス・アルトマイア(夜天煌路・f02039)である。
「花を折る折り方にも色々あるんですねえ。紙一枚でこんなに沢山の花が作れるなんて」
「でもお姉ちゃんの折り方、わたしたちも知らなかったから! ねえ、この折り方みんなに教えてもいい?」
「もちろんですよっ。このお祭りに使っていいのでしたら、いくらでも!」
 アレクシスは笑って応じ、子供達の願いを快諾しながら、目隠しの下で目を細めた。
 小さな子供達。年齢はまだ七、八歳というところだろう。それが、沢山の花の作り方を覚えている。それは、死したる誰かを弔うためではないのか。少しでも多くの花で、故人を悼むためではないのだろうか。
 この世界は決して優しくはない。無慈悲に命を奪い去っていく災厄に満ちていると言ってもいい。アレクシスは、その現状をこそ憎む。
 今はまだ、この世界は闇に覆われているけれど――いつの日か。

 ――そう、遠くない未来に、私たちが、世界を包むこの闇を、えいっ、とまるごと剥がしてしまいますから。

 花を捧げ、もう居ない人々を想う子らが、未来で心から笑えるように。
 苦しめられ虐げられ、この世を去った人々が、何の憂いもなく眠れるように。
 きっといつかそうしてみせる。アレクシスは、手元に咲いた色とりどりの造花に誓い、祈る。
 だから、どうか安らかにと。
「お姉ちゃん、手が止まってるよ!」
 手を止めたアレクシスを揺り動かす子供達。彼らの屈託のなさは、アレクシスの内心に関係なく発揮される。
「はっ。私としたことが! 失礼しました!」
 アレクシスはおどけた調子で傍らの少女に返し、アレクシスは再び花を折り始めた。
 それから暫し。籠いっぱいに込めた造花の束を、少女らと共に献花台に捧げ、アレクシスは手をふりふり少女らに礼を述べて別れる。
「さて――それでは」
 次の仕事にかかるとしましょう、とばかりにアレクシスは袖をまくる。忙しそうにベーコンやチーズを炙る露店の裏手へ歩き――彼女は店主に、唐突な提案をする。
「お忙しそうですね。もしかして、お手伝いがご入り用では?」
 優秀な従者は口元を明るい笑みに染めて、屈託なく店主に言うのであった。

 彼女が手伝いに回った店は大層繁盛し――猟兵らの語らう声が絶えなかったとか。

大成功 🔵​🔵​🔵​

葦野・詞波


そういえば、生まれてこの方。
故人に花を捧げたことは無かったか。
もっとも、私の場合は捧げるべき墓も無かったが。

生者から死者へ言葉が届くことはないし
その逆もまた然りだが
誰かを偲び、思うことくらいは自由だ
自己満足でも、救われたいだけでも。
それで前に進めるのなら、死者もさぞ本望だろう。

白いつくりものを一本手にとって捧げ
献花台の端に花以外を供えて良いものなら
買い求めたワインのひとつでも

あとは隅で一服だ。
中には、好きな者もいただろう。
紫煙だけでは侘しいかもしれないが。



●紫煙、彼方に至れ
 葦野・詞波(赤頭巾・f09892)は、手にした白い、飾り気のない造花を見つめて、今更のように思い出す。生まれてこの方、花など手向けたことがない。
 捧げる習慣が、文化がなかった。彼女のいた場所には、供えるべき墓もなかった。
 死という境界で別たれてしまえば、そこを越えて届く言葉などない。生者から死者へも、その逆も然りだ。彼方と此方には越えられない深く広い溝がある。詞波はそれを何ら疑いはしなかった。
 けれど、それと同時に彼女はこの祭りを否定することもない。
 生者が誰かを偲び、悼み、想いを募らせるのは自由だろう、と思う。それが自己満足だろうと、喩え自身が救われたいからそうするだけだろうと。それで前に進めるのであれば、物言わぬ死者も本望だろう。
 詞波は花を携え献花台に向かう途中で、ふと目についた露店でワインを買い求めた。
「毎度。ここで飲んでいくかい、姉ちゃん」
「いや、呑むのは私じゃない」
「土産かなんかにするのかい?」
「――そうだな。土産と言えば、そういうことになるだろう」
 目を瞬く店主をよそに、詞波は両手で包めるほどの小さな樽ワインを吊り紐で提げて献花台へ進んだ。周りで花を献花台に設えている人々の仕草を見様見真似で、持っていた白い花を捧げる。数秒の黙祷。
 目を開き周囲に視線を向けた。献花台で忙しげに働く男性を捕まえる。
「済まない。少しいいか?」
「はい? これは猟兵様、どうされましたか?」
「よかったら、これも供えてくれないか。花ではないし、故人の全てが喜ぶようなものでもないが。……火にくべて天に届けても、生きている者で呑んでも構わない」
「――ああ」
 詞波が差し出した小樽を受け取り、男は悼むような――けれど、嬉しそうな顔をした。
「ありがとうございます。……親父や友達が、きっと喜ぶと思います。皆、酒が大好きだったもので。その、なんと御礼をしたものやら」
「構わない。好きでやったことだ。賑やかしになれば、それでいい」
 詞波は見返りを求めず、深く頭を下げる青年にあっさりとした言葉を返して、献花台の前を離れた。
 隅へ寄る。
 風下、適当な木に寄り掛かって詞波は煙草に火を点けた。
 タール8mg、ニコチン0.5mgの甘い煙が、喉を焦がして肺を擽る。慣れた感覚。
 深く深く吸い込んで、天まで届けと吐き出した。上る煙は瞬く間に風に紛れて失せるが――
 きっと、この烟を好んだ者もいただろう。
 そんな誰かにの慰めになればいいと少しだけ思った。紫煙だけでは侘しいかも知れないが。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リーヴァルディ・カーライル


…ん。もう手渡すことができない誰かに…。
…そう。なら花を一ついただいて行くね?

…献花台に花を捧げ静かに物思いにふける。
この花が、もう逢うことの無い二人の女性に届くように…と。

…私は貴女達に救われた。護られた。導いてもらった…。

この力の使い方も、この誓いの意味も、貴女達から教わったもの…。

…だから待っていて。
今度は私が、貴女達を代行者の呪縛から救ってみせる…。

彼女達が護りたかった世界を、人々を、破滅させたりなんかしない。
この世界の夜と闇を祓い、人類を解放する…。
それが私の誓いだから…。

…ん。たまにはこういうのも悪くない。
自分の想いを再確認できる…。
それじゃあ、私は一足先に次の依頼に向かうね?


夷洞・みさき
自己満足、ね。いいんじゃないかな。造花だけの献花なんて、この世界らしいしね。

【SPD】
僕は折り紙で花でも作っていようかな。あぁ、気に入ったのなら持って行っていいよ。僕の送る相手は遠くにいないからね。
生きている人ならは罪人善人問わず、求めらたら作って渡してゆく。

君達が忘れない限り、その誰か、は君達を苛んだりしないだろうしね。

花を作りつつ、折り紙で犬をいくつかと、赤い紙でお雛様を折る。
一区切りついたら、喧騒から離れて戦場跡へ

僕から贈られても不本意だろうけどね。
でも、禊は終えたし、海の中で皆と仲良くすると良いよ。



●狩人は去った。海神の詩に眠れ
 自己満足かも知れないと、ただ自分が救われたいが為かも知れないと――そう呟いた村長の娘に、夷洞・みさき(海に沈んだ六つと一人・f04147)は薄く笑み、あっけらかんと言ったものだ。
「自己満足、ね。いいんじゃないかな。造花だけの献花なんて、この世界らしいしね」
 漠とした肯定。直截なそれが幾許かの救いになったか、村長の娘もまた「はい」と可憐に頷いたのだった。

 それが、数十分前のことだ。
 みさきは、村長の娘から分けて貰った紙を使って花を折っていく。いくつも、いくつも。長い爪をした手で器用に紙を畳み造花を作り上げる。いつしか丁寧に折られた彼女の花を愛でる人々が周りに集い出す。
「あぁ、気に入ったのなら持っていっていいよ。僕の送る相手は遠くにいないからね」
 当の本人はギャラリーの視線もどこ吹く風、涼やかに花を折り続けて行く。手のおぼつかない老人や、まだ紙を折れない子供達がこぞって花を受け取る中、みさきの前にまた一つ影が落ちる。視線を上げたみさきは、おや、と眉を上げる。
「いただいてもいい?」
 言うのは昨夜、連携して戦場を駆けた猟兵の一人――リーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)である。
「もちろん。昨晩はどうも。君も献花をするのかい?」
「ええ。……もう手渡すことができない誰かに、届くって事だったから」
 リーヴァルディはみさきの手元に並んだ造花の中から、二つだけ摘まみとる。
「欲がないね。もっと持っていっても構わないけど」
「……いいのよ。二人に一つずつ、言葉と一緒に届けばそれで充分」
 ありがとう、とリーヴァルディは背を向け、歩いて行く。
「届くといいね」
 独り言ちるみさきの声は、風に攫われるほど小さく。献花台に脚を向け、小さくなっていくリーヴァルディの背中を見送る。

 リーヴァルディは献花台に至ると、たった二つだけ受け取った赤い造花を献花台に留めた。祈るはただ一つ。この花が、もう逢うことのない二人の女性に届くように、とだけ。
 目を閉じ、手を組み、ただ静かに物思う。
 記憶を辿るまでもなく、脳裏に克明に描くことができる二つの顔に宛てて、リーヴァルディは祈った。
 かつて、リーヴァルディは彼女らに救われ、守られた。今でこそ熟練の技を持ち、独立独歩で吸血鬼を狩る狩人であるリーヴァルディにも、そうした時分があったのだ。導かれ、力の使い方を教わり。そして、誓いの意味を教わった。
 目を開く。捧げた花が風に揺れるのを見る。
 そう。過去の話だ。彼女らとはもう、二度と会うことは叶わない。
「……待っていて。あの時、二人が私を救けて、生かしてくれたように。今度は私が、貴女達を代行者の呪縛から救ってみせる……」
 リーヴァルディは目深く被ったフードの下で、決意を告げるように厳かに囁く。
「貴女達が護りたかった世界を、人々を、破滅させたりなんかしない。この世界の夜と闇を祓い、いつか必ず人類を解放する……それが私の誓いだから」
 口に出し、音にして紡げば、決意が新たになる気がした。もしかしたら二人にも聞こえているかも知れないと思えば、なおのこと背筋が伸びる。
「見ていてね」
 リーヴァルディは呟くと、献花台に背を向けた。
 自分の思いを再確認するためには、悪くない仕儀だったように思う。足を止めた価値があったと思うほどには。
 少女は祭りの外れまで歩くと、ピッ、と人差し指の膚を親指の爪で裂き、宙に魔法陣を描き――

 ひゅう、と強い風が吹いて人々の髪を風が嬲った。
 風が止んだときには、リーヴァルディの姿はもうどこにもなく。それに気付くものも、またいなかった。――ただ、みさき一人を除いては。

「あまり急ぎすぎて、足を取られないといいけど」
 ――呟いてから、自分がすべき心配でもないか、とみさきは肩を竦めた。彼女もまた、席を立つ。手元に残っているのは、赤い女雛と犬がいくつか。そして、手向けの花が少し。
 みさきはゆっくりとした足取りで祭りをあとにし、戦闘痕生々しい村外れを抜け、街道を暫し歩く。
 彼女が向かったのは昨夜の激闘の舞台、森の前の草原だ。いくつものクレーター、白く固まった塩、ワイヤー――は、敷設した者が朝方に取り外していたか。
 今も戦いの痕の残る戦場跡にそっと屈み、みさきは女雛と犬と、造花を供えた。
「――まあ、僕から贈られても不本意だろうけどね。でも、禊は終えたし、海の中で皆と仲良くすると良いよ」
 ただ海へ還り、安らかに眠れと――みさきは謳う。
 風で女雛が揺れた。

 ――それが、たった一つだけ捧げられた、あの吸血姫への祈りの話。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アルノルト・クラヴリー
異なる世界の空だ、届くかどうかは解らんが
祈りたい命なら、俺にも

造花を前に、肩に乗る今の相棒へ問い掛ける
フィー、お前の母さんに似合いそうな花はどれだ?
相棒によく似た、でも眼差しの強い竜だった

献花台に花を捧げる
俺は祈るだけでいいから、……フィー、行ってこい
花なんて、――俺から貰おうなどとあいつが思う筈もないさ

闘いに猛る心で、夢中になって駆けた日に、
俺を守って消えた命の灯を、俺は絶対に忘れない
そしてあいつが遺した小さな命に、
俺が今どれだけ救われているのかも

焚き上げに上る思いを追い駆け空を舞うフィーを見上げて
胸中には、感謝と、詫びと
――こんな風に俺が今も思うと知れたら、あいつは怒るだろうか
なぁ、フィー



●今はもう彼方の君へ
 祈りは、世界を越えるのだろうか。空を越えて届くのだろうか。
 哲学めいた問いの答えを、アルノルト・クラヴリー(華烈・f12400)は持たない。考えても詮無いことではあった。例え届くと保証されたところで――或いは届かないと言われたところで、それを確かめる方法などどこにもない。
 祈りたい命が、一つある。それだけが、アルノルトの中で唯一確かなことだった。
 
 沢山の花が、作業台に残されている。それを見下ろして、アルノルトは肩に乗った相棒に問いかけた。
「フィー、お前の母さんに似合いそうな花はどれだ?」
 呼ばわる名。返事をするような鳴き声一つ、彼の肩から軽やかに幼竜『フィー』が飛び、作業台の上に降り立つ。アルノルトの竜槍にして、彼の無二の相棒。
 ――そして、嘗ての相棒の遺児。
 ちまちまと歩いて、花をすんすんと嗅ぐフィーの姿は、サイズを除けば嘗ての相棒と瓜二つだ。
「ああ……でもあいつの方が、眼差しが鋭かったかな」
 独り言ちるアルノルトの眼前、机上に、フィーが咥えた花をぱさり、と落とす。
「フィー!」
 これ! とでも言いたげに鳴く相棒の頭を、指の腹であやすように撫で、アルノルトは身を屈めてそっと言葉を紡ぐ。
「行ってこい、フィー。これはな、お前が、お前の母さんに渡すんだ」
 アルノルトは花を手に取り、フィーに咥えさせ、献花台を示した。
「俺は、ここで祈っているから」
「フィ……」
 つぶらな瞳でアルノルトを見上げ、相棒が動くつもりがないと察したのか、フィーは翼をはためかせて飛び、献花台へと向かう。
「そう――花なんて、――俺から貰おうなどとあいつが思う筈もない」
 その後ろ姿に、聞こえてしまわぬように呟く。今は握るべき槍もなく、アルノルトは空の掌に爪を立てる。

 彼女が喪われたのは、俺の所為だ。

 ――いつか、闘いに猛る心で、夢中になって駆けた日。俺を守って消えた命の灯を、俺は絶対に忘れない。そしてあいつが遺した小さな命に、俺が今どれだけ救われているのかも――終生忘れはするまい。忘れてはならない。
 献花台の最も高い段に、フィーが花を据えるのが見えた。声高く鳴く相棒を、眼を細めて見上げる。

 アルノルトは、献花台からふわりと舞い上がり、空を羽撃き飛び来るフィーを見詰めた。
 胸中に去来するのは、感謝と、詫びと、悔悟と……渦を巻く想い。
 ――こんな風に俺が今も思うと知れたら、あいつは怒るだろうか。なぁ、フィー。

 問いかけは胸の中に仕舞ったままで。
 アルノルトは、相棒の止まり木を設えるように高く右手を挙げた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

レイラ・エインズワース
鳴宮・匡サン(f01612)と

手向ける造花を作りつつ、作り方を教えてあげようカナ

死者としゃべるコトはできないケド
こうして送るのは、今を生きるヒトのためにもなるんだカラ
コレをひとつの区切り、次に向かうきっかけに、なるんダヨ
ナンテネ、死んじゃったヒトにもサ、きっと通じてるヨ
向こうは未練がなくなるヨウニ
こっちは後悔に溺れないヨウニ
そのために、こうして花をささげて、言葉をかけて、焚き上げて送るんダヨ
……で、今の間はなァに
例外、あったんじゃナイ?
マ、いいケド

もし、もしできたラ、この焔で焚き上げてあげたいナ
迷わず逝けるように、残ったヒトが前を向けるように
例えそれが自己満足だとしてモ

アドリブ・絡み歓迎ダヨ


鳴宮・匡

◆レイラ(f00284)と

レイラに造花の作り方を教えて貰いながら
献花台に花を捧げる

……誰かの死を悼むってどういう感じなんだ?
今まではずっと殺す側だったから
他人の死に特別な感慨を抱いたことが
(――あったのかも知れないけど)
(思い浮かべた姿は、胸の奥に沈めるから)
……ないんだ
だから、訊いてみたくて

送り火は、送られる者と、送る者と
両方の為に灯される……ってこと、なのかな

例外、……か

なあ、レイラ
送る側が区切りを望んでいなくても
送られる側に、迷わず逝ってほしいって願うのは
間違って、ないかな

……いや、なんでもないよ

さ、送ってやろうぜ
少なくともこれが前を向くためのものなら
それは、悪いことじゃないと思うから



●天まで届け、煙る渇仰
 猟兵らが思い思いの造花を作る中、作業台の一角で小柄な少女と長身の青年が造花を作っている。
 青年は前衛芸術のような折り紙と、傍らに置かれた見本の紙花を見比べながら難しい顔をした。
「……これ、どっち側に折るんだ?」
「鳴宮サン、それ三手前ぐらいから間違えてるヨ」
「嘘だろ」
「嘘だろっテ言いたいノ、私の方だヨ……」
 レイラ・エインズワース(幻燈リアニメイター・f00284)と鳴宮・匡(凪の海・f01612)である。
 こほん、と咳払いをして、レイラが新しい紙を二枚取り出す。
「もう一回最初からやってみヨ。大丈夫、鳴宮サンがいつもしてることよりずっと簡単だカラ」
「俺にはあっちの方がずっと簡単なんだけどな……まあ、いいか。で、どっち側に折るんだっけ?」
「今構えたのと反対方向にダヨ」
「嘘だろ……」
 今度はレイラもフォローの言葉なく、指導を開始。一手一手指摘していけば、徐々にスムーズになっていく。匡とレイラはそうして、沢山の花を折った。
 レイラの言うとおり、匡には元々卓抜したコンバットスキルがある。その中には爆発物に対する処理などの精密作業だって含まれているのだ。一度コツを掴んでしまえば、それこそ何のことはない。最後にはレイラも驚くような速度で花が折り上がるようになる。
 けれどそうして花が作れるようになっても、匡には解らないことがあった。

 暫しして、二人は献花台に向かった。
 竹籠一杯に満たした色とりどりの造花を、梯子を登って献花台の三段目に乗せると、匡はトンと梯子を蹴って猫のような身のこなしで音もなく地面に降り立った。
 続く奉納客の邪魔にならないように脇に避け、匡は沢山の造花が捧げられた献花台を見上げる。上まで見上げれば軽く六メートルは高さがあろう。最上段まで届くように梯子が掛けられ、上の段にまで一杯の花が乗せられるようになっている。
「なあ、レイラ」
「ン?」
「……誰かの死を悼むってどういう感じなんだ?」
 鳴宮・匡は戦場傭兵。その人生は、常に死と硝煙と血の匂いと共にあった。
「俺は今まで、ずっと殺す側だった。他人の死に特別な感慨を抱いたことが、」
          ……ああ、でもただ一つだけ、
          あれが、そうだったのかも知れないけれど。
          脳裏を掠めるいつかいた貴女を、
          胸の裡のそのまた奥に沈めて。
「……ないんだ」
 昨日まで隣にいた者が今日はいないのが当たり前の世界で、死に感慨を抱くなど、それは己の心を殺すのと同じ事だ。一つ一つの死に動揺しないように、いつか、彼は誰かの死に震える情動を殺した。だから、匡には解らない。点される送り火の意味が。捧げられる弔花の意味が。
「だから訊いてみたくてさ。送り火は、送られる者と、送る者と……両方の為に灯されるもの、なのかな」
 もたらされた問いに、レイラは暫く考えるように眼を細めて、杖を地面についた。
「どうだろうネ。死者としゃべるコトはできないケド、こうして葬送るのは、今を生きるヒトのためにもなるんだカラ。コレをひとつの区切りにして、次に向かうきっかけに、なるんダヨ」
 弔いとは生者のためのものだ、とする言葉。レイラが言う言葉に、「そうか、」と、静かに呟く匡。
 その姿はいつもと同じ――なのにどうしようもなく頼りなく見えて。レイラは浅く息をつき、続けた。
「……ナンテネ。死んじゃったヒトにもサ、きっと通じてるヨ。向こうは未練がなくなるヨウニ。こっちは後悔に溺れないヨウニ。そのために、こうして花をささげて、言葉をかけて、焚き上げて葬送るんダヨ」
 その言葉は真実にはほど遠いのかも知れない。だけど真実は神様にしか解らないだろうから、どうだっていいのだ。今、この論が匡の慰めになれば。
「それより鳴宮サン。今、ちょっと考えたデショ。例外――あったんじゃナイ?」
 少しだけ拗ねた風にレイラは言いながら、「マ、いいケド」と視線を外す。
「例外、……か」
 レイラの言葉は真っ直ぐに匡の胸に刺さる。彼女が自分を慮って返事をくれているのがよく解った。だから、つい口から漏れるように言葉がこぼれ落ちる。
「送る側が区切りを望んでいなくても、送られる側に、迷わず逝ってほしいって願うのは、間違って、ないかな」
 区切りは付けられず、燻る想いはあれど、ただ迷わず次の生へ向かって欲しい――そんな、迷うような思いの吐露。何でもない、と匡がそれを打ち消そうとする前に、レイラが匡の前に立つ。下から覗き込むように、赤い双眸が青年を映した。
「死者を想う気持ちに、間違いなんてないヨ」
 幾多の死を見送り、それらを幻灯にて再演する少女は、こぼれ落ちる匡の独言を優しく掬い上げて彼を向き直った。
「もう少ししたラ――この献花台が花で一杯になったラ。この焔で焚き上げるヨ。村長さんにお願いしてみル。迷わず逝けるように、残ったヒトが前を向けるように」
 ――そして、貴男の想いが届くように。
「――ありがとう」
 匡は眼を細めて、笑った。彼女の優しさに救われた気がした。
「その時は、ああ、送ってやろうぜ。隣で見てるよ」

 ――少なくともこれが前を向くためのものなら、それは、悪いことじゃないと思うから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

比良坂・美鶴
ああ、これが
この村の祭りなのね

…そうね
中々こういう時間は取れないでしょうし
折角だから"先輩"へ
献花していきましょうか

白い布を頂いて
村の人たちに教わりつつ花飾りを作るわ
…ん、こうした方が綺麗かしら?

うまく出来たら
献花台に花を手向けましょう

アナタを喪ってどれくらい経ったかしらね
アタシを生かすために逝った先輩
どうしようもなく優しかったアナタ

今でも後悔の方が大きいわ
アナタを喪わずに済んだんじゃないかって
それでも
ずっと下を向いては居られないから
とりあえずは前を向いているけれど
たまに後ろを見たくもなるのよ

…なんかしんみりしちゃったわ
でもこうやって
故人を想える時間は大切にしないとね

……じゃあ、またね



●涙花は白く
「ああ……これが、この村の祭りなのね」
 比良坂・美鶴(葬列・f01746)は、広場をぐるりと見回した。
 見れば猟兵らも幾人か交わり、布や花の造花を作っている。
 彼らにも、捧ぐ先があるのだろう。笑顔で花を作るあの猟兵にも、静かな表情で花籠を捧げたあの猟兵にも、たった一輪ずつの花を捧げた二人組の猟兵にも――きっと、それぞれの別れと、悲しみがあったのだろうと思う。
 美鶴は静謐な死の香りを纏った男だった。本職は葬儀社の屍化粧師。その出自が故、死の臭いには人一倍に敏感である。
 ――そうね。なかなかこういう時間は取れないでしょうし……折角だから“先輩”へ献花していきましょうか。
 決めると美鶴は白の布を籠から数枚取り、作業台にいた村人に声をかけた。
「失礼、花の作り方を教えて戴けませんか」
「はい? ――はいぃ!」
 振り向いた女性は二十歳前頃、美鶴の白皙の美貌はよく効果を発揮したようだった。振り向いての誰何、二言目は二つ返事である。
 ……初心なのねえ、とは内心。美鶴は年齢相応の『男』の演技を崩さず、女性の教えに従って布に糸を通しだす。

 暫時の後に花は完成した。
 紙筒で茎を付け、束ね、納得のいく出来になった小さな花束を手に、美鶴は席を立つ。「ありがとうございます」
「は、はい、お助けできていたら! うれしいです!」
 女性に礼を伸べ、美鶴は背を向け歩き出した。背中に暫く女性の視線を感じていたが、美鶴はそれをやんわりと意識から閉め出し、献花台へ向かう。
 梯子を登り、献花台の三段目。まだ隙間のあるあたりに小さな造花のブーケを滑り込ませ、美鶴は静かに梯子を下りる。
 地面に戻れば、もう花束は手の届かないほど高くにあった。
 逝ってしまったあのヒトを見るみたいだった。
 ――嘗て、自分を生かすためにその命を擲った先輩がいた。どうしようもなく、優しい人だった。
「アナタを喪ってどれくらい経ったかしらね。――今だって後悔してるわ、アナタを喪わずに済む方法があったんじゃないかって」
 誰にも聞かれぬ独言は、平素の語調だ。内面に湛えた女性としての言葉。
「それでも……ずっと下を向いては居られないから。とりあえずは前を向いているけれど、」
 いまさら視界が滲んだりはしない。ただ、こんな空気に煽られて、少しだけ泣きたい気持ちになっただけ。
「たまに後ろを見たくもなるのよ」
 瞳を閉じて過去を想う。
 悲しいけれど、でも、優しい時間だ。時にはこうした時間を過ごすのも、大切なことだろう。
 暫しして、美鶴は目を開き、もう一瞥だけ花束に目をくれると、踵を返した。
「……じゃあ、またね、先輩」

 返事をするよう彼の後ろで、白の造花が風に揺れた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

六波・サリカ
涙を流すことも叶わぬこの身ですが、
過酷なるこの現世で散った名も知らぬ人へ花を捧げます。
折り紙で造られた花に、小さな折り鶴を添えて。

ここに居る人々を幽世へ誘うにはまだ早い。
新たなる脅威が襲い掛かるならば、何度でも私たちが立ち塞がりましょう。
だからあなた達も安心してください。

花を捧げ終わったら気持ちを切り替えて飲み物や食べ物を頂きます。
ジンジャーエールが無いのは残念ですが、たまには果物ジュースも良いですね。
このベーコンチーズパンは質素ながら美味しいのでおかわりを。
それからもうひとつ、ベーコンマシマシのものを頼んでおきます。
多くの猟兵を転送したハイイロにも手土産に持って帰ってあげましょう。



●正義の使者は物思う
 六波・サリカ(六道使い・f01259)は嘗て喪った身体の一部を、機械で補って生き永らえた来歴を持つ少女だ。右腕も、その瞳も、陰陽術とテクノロジーにより作られた人工物である。
 故に彼女は涙を持たない。悲しくとも、流してやりたくとも、その頬を濡らす雫は帰らない。
 けれど、落涙すること叶わぬ身であれ、彼女には人を想う心が、優しさがあった。腕も瞳も金属で出来ているとしても、心は熱を持つ、人のものだ。
「おねーちゃんすごーい! とっても早く折れるのね!」
「すげー! さっきまでミィより全然遅かったのに!」
「照覧式の学習能力を甘く見てはいけませんよ。折紙の攻略程度造作もありません」
「なにそれー!」
「よくわかんねーけどすげー!」
 作業台にて子供達と戯れながら、サリカは次々と花を折る。色とりどり、大小様々な花を。はしゃぐ子供達の相手をしながら、彼女は折った花の横に、小さな折り鶴を添える。この過酷な世界で散った、名も知らぬ誰かのために。
 自分を取り囲みはしゃぐ数名の子供達を見ながら、サリカは思う。
 ――ここにいる人々を、幽世に誘うにはまだ早い。新たなる脅威が襲いかかるならば、そのたび何度でも、何十度だって立ち塞がってみせよう、と。
 彼女は決して表情豊かではないため誤解されがちだが――その心の奥には、正しくないことを、悪を許せぬ正義の心が燃えている。
 やがて折り終えた花を籠に詰め、サリカは籠を持ち上げる。
「折り方を教えて下さってありがとうございました。おかげで、沢山の花が出来ました」「ううん! おねえちゃんも、素敵な鳥さんの折り方を教えてくれてありがとう!」
「また遊んでね!」
 はしゃぐ子供達に別れを告げ、サリカは献花台へ足を向ける。沢山の花の間に自分の花籠を滑り込ませ、彼女は祈る。
 きっと、この世を去った人々は、家族が――或いは自分の係累がいつか脅威に晒されるかも知れないと、無念に思っていることだろう。
 サリカは、それに大丈夫だと伝えたかった。だって、自分がいる。――猟兵がいる。
有りっ丈の折鶴と花に籠めて、その祈りを天井に届けたかった。
 ――必ず護ります。だから、あなた達も安心してください。
 祈りを終えると、さて、とばかりにサリカは露店の方に歩いていく。
 質素ながらに美味そうなベーコンとチーズのパンや、トマトソースとチーズをくるんで焼いたパンなどの看板が見えていたのだ。腹ごしらえをしてから帰るのも、悪くはないだろう。
 ――ああ、それと。此度の大量転送を支えた灰色にも。パン一つくらいの土産があっていいだろう。
 サリカは心なしか浮いた足取りで、まずは一軒目の露店の主に声をかけるのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

高坂・透
数年前に養子に来た義妹の高坂・晴と

増加の材料を受け取って献花のための花を作る
……けど、なかなか上手くいかないなぁ
昔、亡くした妹の「明」の好きだった白いバラを作りたいのに

なんとか作った花束を手にふと義妹を見ると、母さんが贈ったワンピースの飾りを取って作った花束を持つ明……あれ、明じゃなくて、晴か
いいのかい?と一応聞くけど、きっと考えあってのことだろう
黙って隣に並んで献花台へ僕の花束と並べて置く

小さかった明
通り魔に殺されてしまった可哀そうな僕の妹
ごめんね、助けられなくて、ごめん

しばらく祈った後に隣に立つ少女に声をかける
「さあ、帰ろうか、明」
……明じゃないって?そうだっけ、ああ、そうだったね
ごめんね


高坂・晴
義兄の透兄さんと一緒に
私の会ったことの無い義姉妹、明にお花を手向けに来ました

あの子に贈られるはずだった、花飾りのたくさん咲いたワンピース
あの子によく似ていると言われるこの容姿

このお洋服はきっとあなたのほうがよく似合うわ
あなたのお部屋にぴったりな、綺麗な白緑色だもの
だからね、私が家にくる前から持っていたブローチとリボンと、ワンピースの花飾りを少しだけ交換して、小さいけど花束にしたのよ
これをくれた義母さんもあなたに着てほしかったのだろうと思うし、私たちは姉妹になったんですからお揃いもいいですよね

ああ、透兄さんはまた私とあなたを見間違えて
これでは明も心配でしょう
私は、晴です



●オルタナティブ・デイライト
「そこを折って、針を通す。ちょっと回して次はそこに針を打つ……」
 高坂・透(白薔薇とパラドクス・f09810)は作業台に広げた布を相手に難しい顔をする。
「なかなか難しいね、造花を作るのも」
 白い薔薇を作るために、薄く白い布を幾枚も重ねて、針と糸と格闘しながらぼやく。すぐにうまくは行かない。何度も針を刺す場所を見失い、歪になってしまう花を難しい顔で眺める。
「ああ――また失敗した。明に笑われちゃうな、こんなんじゃ」
 もういない妹の名を呼ぶ。白い薔薇が好きだった妹の名前を。
 彼の妹、『明』は、通り魔に殺されてしまった。もうずっと前のことだ。
 助けられなかったことを、透は未だに悔い続けている。悔悟は手枷となり足枷となり、彼のことを縛り続けている。
「そうですね。でも、きっと頑張って作ったものなら、明も喜ぶから。頑張って、透兄さん」
 傍らに座ってその様子を眺めるのは、高坂・晴(薄紅の薔薇・f14214)。並び立てば年の離れた兄妹といった風情だったが、彼らの間に血縁はない。
「ああ、頑張るよ。ありがとう、晴」
 眠たげだけれどはっきりと返事をする透に、晴は眼を細める。
 高坂家に養子として引き取られた出所不明の少女。高坂・晴を一言で説明すればそうなる。――そして、もう一つ。特徴的だったのは、その容姿だった。
 彼女の姿は、もういない少女、明に酷似しているのだそうだ。晴は明に会った事がない。だから人伝に聞かされただけなのだが、義母も義兄――透も、時折薄皮を一枚隔てて自分を見ていると、晴は思う。そんな気がするのだ。
 もうここにはいない誰かを見ているような目で、二人は自分を見る。その度に彼女は、『私は晴です』と繰り返す。
 晴は顎を引き、自らの着衣を見下ろす。今が着ている華やかな花飾りを設えたワンピースもまた、明に贈られるはずだったものだ。
 造花作りに没頭する透の横で、晴は小さな鋏を手にし、自らもまた『花束』の準備を始める。
 死者に語りかける声は届かない。届かないけれど、晴は心の内側で密やかに呟いた。
 ――明。このお洋服は、きっとあなたの方がよく似合うわ。あなたのお部屋にぴったりな、綺麗な白緑色だもの。だからね、全部は返せないけれど、せめて『これ』だけでもあなたに届けたい。この服をくれた義母さんもあなたに着て欲しかったのだろうと思うし――私たちは『姉妹』になったのだから。
 ――だから、お揃いもいいですよね。
 明は、どんな少女だったのだろう。生きていたら、仲良く出来ただろうか。何もかもがifの話だけれど、晴は密やかに心の中でもういない少女に声を向けながら、静かに作業を進める。

 時間は瞬く間に流れ、苦心しながらも透はようやく花束を完成させた。歪な花を廃し、綺麗に出来た花だけを連ねた、唯一無二の造花の束だ。
「合格点かな、このくらいやれば……晴、出来たかい?」
 問いながら横に目を向ける。花に飾られたワンピースに身を包むのは彼の義妹。……ああ、その姿が一瞬、ほんとうの妹に被る。明、と呼びかけてしまうのをすんでの所で堪えたが、透は一拍後にその格好に違和感を覚えた。
「そんな花――ついてたっけ?」
 晴は眼を細めて、手にした小さなブーケを透に見せた。
 そこで初めて悟る。晴が作った花束には、彼女の服――明のものだったワンピースから摘んだ花が使われている。空いたワンピースの空隙には、晴自身の私物から取った花飾りが使われたのだろう。違和感を覚えたのはそのためだった。
「……いいのかい?」
「お揃いのものがあってもいいでしょう? 私たちは、姉妹なんですから」
 行きましょう、と促し、晴は献花の列へ向けて歩く。透もまた、頷きを一つ返してそのあとに続いた。
 順はすぐに回ってくる。晴が供えた花束のすぐ横に、透もまた花束を供えた。
 祈りを捧げる。痛かっただろう、苦しかっただろう、怖かっただろう――守ってあげられなくて、ごめん。せめてこの花が届きますように。この想いが届きますように。
 返事など、当然のようにないが、それでも構わなかった。祈らずにはいられなかった。一心不乱に作った造花の束に、思いの丈を乗せて祈る。
 一時のあと、目を開く。
 傍らに目をやれば、――ああ、祈りを捧いでいた彼女が、目の前にいた。
 亡くしてしまったものが。もういないはずの少女が。
「さあ、帰ろうか。明」
 合わせた手を解き、少女はほんの少し寂しそうに目を伏せると、真っ直ぐに透に目を向けた。
「私は晴です。……透兄さん。明が、心配しますよ」
 言葉を紡ぐなり、促すように彼女は歩き出す。
「ああ――そうだったっけ、……そうだったね。……ごめん」
 透は首を振り、その後ろに続きながら、もう一度だけ献花台に目をやった。

 ……ただ一度だけ。
 向き直れば、もう振り返らなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ティオレンシア・シーディア


送り火ってわけねぇ。いい風習だと思うわぁ。
あたしも作ろうかしらねぇ。折り紙少し分けてちょうだい?
色は…あk、いえ、黒がいいわねぇ。
作ったことないしちょっと不格好かもだけど。

自己満足で上等じゃないかしらねぇ。
今はもういない人を想うのは、今を生きる人の特権よぉ?
あなたが救われるなら、それで十分だと思うわぁ。


…あの子、何色が好きだったかしら。
ああそうそう、赤だった。
あの子の綺麗な真紅の髪。母親譲りだって笑ってたっけ。
…赤は、嫌い。
襲ってきた龍の鱗の色。
全部焼き尽くした炎の色。
…アタシの目の前で引き裂かれた…あの子の、血の色。

はぁ…ヤなことまで思い出しちゃったわねぇ。



●クリムゾン・メモリー
「自己満足で上等じゃないかしらねぇ。今はもういない人を想うのは、今を生きる人の特権よぉ?」
 それの何が悪いのか、と、彼女は村長の娘に言った。
 だって、もういない人間は救えないのだ。仮に想いが届いたからとて、死者が棺桶から立ち上がるわけでもあるまい。
「あなたが救われるなら、それで十分だと思うわぁ」
 それは、彼女なりの気遣いだったのだろう。優しげな笑みを受けて、ありがとうございます、と少女は女に返したのだった。

 眺めた献花台は、もう花で埋め尽くされていた。
「送り火ってわけねぇ。いい風習だと思うわぁ」
 吸血姫狩りに貢献したクイック・ドロウの名手ことティオレンシア・シーディア(イエロー・パロット・f04145)もまた、祭りの空気に身を浸している。
「お説教垂れちゃったし、あたしも一輪作っていこうかしらねぇ。作ったことないし、ちょっと不格好かもだけど」
 籠の中に入っていた色紙の束を取り、どれにしようかと物色する。染料の乏しさ故か、あまり色数は多くなかったが、それでも基本的な色は揃っていた。その中から選ぶ。
 ――色は、そう、
 めくる内に鮮やかな赤色の紙に突き当たる。視界が揺れる。
 ああ、こんなにも、死者の記憶に近い祭りをしているから。
 思い出してしまう。もういないあの子のことを。
 赤い赤い、美しい真紅の髪。母親譲りと笑っていた。赤色が好きだった。受け継いだものと同じ色をしているから、好きだと。
 傾国の美貌。自分が救った少女。そして自分が救えなかった少女。
 ティオレンシアは、痛みを堪えるように紙束を置いた。ばらりと崩れる紙束の中から、自分の髪と同じ色の紙を抜き取る。
 ……黒がいい。
 赤の記憶から逃れるように、紙を折る。いかなる敵をも恐れずに、黒曜石の名を持つリボルバーを操り、電瞬迅雷のクイックドロウで敵を穿つ――無敵のガンスリンガーたる彼女が、今はただのひとりの女のように指先を震わせた。
 赤は、嫌いだ。
 そうだ――彼女のことが嫌いなのではなくて。
 彼女との離別を囲んでいた、あの赤色が嫌いだ。
 彼女と過ごした街を襲った、龍の鱗の赤が嫌いだ。
 全てを灼き尽くした慈悲なき紅蓮の炎の色が嫌いだ。

 ――アタシの目の前で引き裂かれた、あの子の真っ赤な血の色が嫌いだ。

「……ヤなこと思い出しちゃったわねぇ」
 ティオレンシアは苦く呟くと、想像通り、綺麗には折れなかった黒い造花を取り、立ち上がる。黒き造花は鉄の色。彼女が手にした、六連装の鋼と同じ色だ。
 ――花を捧げよう。あの子の許へ。
 自己満足で上等だ。思い出した赤色は、酷く苦しい記憶だけれど。
 彼女と過ごした日々は、何にも代えがたい日々だったから。

 ティオレンシアは献花台へ足を向ける。
 迷いなく、ただ真っ直ぐに。

大成功 🔵​🔵​🔵​

蓮花寺・ねも

そんな届け方もあるんだな。
穏やかで良い伝承だね。
ぼくもひとつ、賑やかそう。

花も想いも、手渡したいひとは居ないんだ。
預かり物は多いけれど、
ぼくの物を届ける先はそこじゃない。

だからこれは、いつかどこかで失くした感傷。
名前が付く前の欠片。

ぼくの幸福。
あなたの幸福。
苦しみを和らげるもの。
あなたと一緒だったなら、

――只の花言葉だよ。言葉遊びだ。

宛てのない言葉と紅紫の細い花片をかさねて出来るのは、ちいさな野の花。
一輪だけでいい。
思い出なんて、そんなに沢山持ち合わせていないんだ。
てのひらに隠れるほどの花を、献花台の隅に置く。

空へと溶けていく、いろとりどりの想いを見送ろう。
ぼくはそれを憶えていく。
忘れない。



●想いの色
 故人へ思いを届けるやり方、というのは、古今東西色々とあるけれど――この村のやり方は、蓮花寺・ねも(廃棄軌道・f01773)には新鮮なやり方だった。
「そんな届け方もあるんだな――穏やかで良い伝承だね。ぼくもひとつ、賑やかそう」
 賑やかそう、という言葉の通り、彼女には花と想いを宛てる誰かはいない。ただ、この祭りを華やがせるうちの一輪を紡ぐだけである。
 花も想いも、手渡したいひとはいない。預かり物は多くあれど、この花が届く先とは、届け先が違う。
 ――だからこれは、いつかどこかで失くした感傷に、名前がつく前の感情の欠片に過ぎない。
(ぼくの幸福。
 あなたの幸福。
 苦しみを和らげるもの。
 あなたと一緒だったなら――)
 ただの花言葉。ただの言葉遊び。
 ねもは口元に、微かな笑みを浮かべ。鮮やかな色の双眸を手元の布片に注ぐ。
 小さく、細かく刻んだ赤紫の布片を、土台に糊で留めていく。手間はかかるけれど、かかるくらいでちょうどいい。どうせ、一輪きりしか作るつもりもなかった。これにかこつけて花束を作るほどに、思い出が沢山あるわけでもない。
 暫時の格闘の後に彼女の手元で咲くのは、一輪の蓮華草の花だった。可憐な野の花。見た目通りの健気な花言葉。
「……花言葉というのを、最初に考えたのは誰だったのだろうね」
 これこそ言葉遊びの極致というものだろう。野に咲く花が、人の幸福を、苦しみからの救済を考えるはずもあるまい。
 けれど、それを笑うつもりもねもにはなかった。そうして想いを仮託することで救われる者達も、きっと沢山いたのだろうから。
 出来上がった造花は、ちいさなねものてのひらに隠れてしまうほど。壊れてしまわないようにそっと手でくるんで、ねもは席を立つ。
 静かに歩いて、造花でいっぱいになった献花台の隅に、ねもは小さな花を捧げた。
 一段目、二段目、見上げて三段目……
 六段あった献花台を、ぎっしりと埋めるほどの量の造花が咲き誇る。この一つ一つに、人々の思いが詰まっているのだろう。
 ねもはゆったりとした歩調で献花台を離れ、視界にいちどきにすべてが入るほどの距離をとると、献花台に視線を注いだ。
 まだもう少し時間はあるだろうけれど、見送っていこう、と決めた。

 空へと溶けていくであろう、色とりどりの花と想い。
 憶えていよう、と思うのだ。
 きっと忘れずに。

 夕刻、村長の合図の元、猟兵の一人が献花台に炎を点した。乗せられた炎が、様々な想いを乗せた造花達を舐め、灰のひとひらとして火の粉と共に風に舞わせる。
 ――届くだろうか。
 ああ、届くといい。
 君の大切な人に。いつかいた人に。
 ありがとうも、ごめんなさいも。
 またねも、さようならも。
 白い献花台が、崩れ落ちて炎の中に臥しても。
 きっと想いは消えやしないから。

 燃える炎に乗ってそらへ飛ぶ、目には見えない想いの色。
 猟兵達は、思いを馳せるがごとくに見上げ、静かに見送っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年03月11日


挿絵イラスト