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闇の救済者戦争⑮〜まんじゅう怖かったり怖くなかったり

#ダークセイヴァー #闇の救済者戦争 #第五の貴族

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「あたし、子供の頃、ピーマン苦手だったなあ……今もあんまり得意じゃないんだけど」

 なんか唐突にしみじみ語りだしたグリモア猟兵、ユメカ・ドリーミィを、グリモアベースに集まった猟兵たちは何言ってんだこいつという顔で見つめる。

「ああごめん、誰にも苦手なものはあるよねって話。……で、ダークセイヴァーの戦争の話なんだけど、『紋章の祭壇』って呼ばれる場所にたどり付いたの。みんなも、ダクセのこれまでの依頼で『紋章』と呼ばれる敵のアイテムに遭遇したことがあるかと思うけど」
 紋章。それは敵に異様なまでの強大な力を与える恐るべきものだ。今回の予知は、ついにその『紋章』を作り出していた場所に到達したことを示している。ここを攻略しておくことは敵軍の力を大きく脆弱化させることにつながり、今後の戦いの展開上においても重要な分岐点となるだろう。
「ただ、さすがに『紋章』を作り出していた場所の管理者だけあって、ここを護るオブリビオンもまた『紋章』を装備しているの。それも、めっちゃ強力な効果をもったものを。──その効果は」
 ユメカは、一瞬言葉を切って、ふわふわ揺れるシャボン玉の向こうから猟兵たちを見つめなおした。

「『細けえことはいいんだよとにかく勝つ』効果」

 雑!
 何その雑な効果!
 おいおい、とツッコミに回る猟兵たちに、ユメカは、うわーん、と半泣きになって伝える。

「だってしょうがないじゃない、そういう効果なんだから! だから、普通じゃ、いくらみんなが熟練の猟兵でもこいつには勝てないわ。でもね、さすがにそんな雑な強化に対しては、厳しい使用条件、いってみれば大きな「弱点」が付いているみたいなの。だから、そこを突けばいいのよ。で、その「弱点」なんだけど」
 ユメカは、ふう、と肩で息をついて言葉を続けた。

「戦うたびに毎回違った「弱点」になるの。そしてその「弱点」は、自動的に相手と──つまり、『猟兵と同じもの』になるし、それを乗り越えないと効果を発揮しないんだって」

 どゆこと? と首を捻る猟兵たちに、ユメカは説明を始めた。

「それで冒頭の話につながるわけなの。例えば、もしあたしとオブリビオンが戦ったとして……あたしとそのオブリビオンの前には山盛りのピーマンが突然現れることでしょう」

 ……なんて?

「あたしはピーマンが苦手だから、自動的にオブリビオンもピーマンが苦手になるの。それがあたしと相手の「共通する弱点」になるのよ。そして、それを克服しないと敵は『紋章』を使えない。つまりピーマン食べ競争であたしの方が速く食べられれば、『紋章』を撃ち砕くことができるわ!」

 ……なんだそれ。

「だってしょうがないじゃない、そういう効果なんだから! ええとつまりまとめると、こういうことよ」

 猟兵たちそれぞれの弱点=苦手なものが、自動的に相手も苦手になる。それを早く克服した方が有利になるのだ。

 「苦手なもの」は、何も食べ物に限らない。
 たとえば「数学が苦手」な猟兵の場合、猟兵とオブリビオンの前には山のように積まれた数学の問題集が現れ、それを早く解いた方が勝ちとなるだろう。
 あるいは、「ジェットコースターが苦手」な猟兵の場合、オブリビオンと一緒に超スゴイジェットコースターに乗ることになり、先にギブアップしたほうが負けだ。

 ……でもそれって、下手に強敵と戦うより大変だよね。

「みんながどんな弱点を持っているかわからないけど、でもきっとみんななら乗り越えられるって信じてるわ!」
 他人事のように明るい笑顔でユメカはうんざり顔の猟兵を送り出すのだった。
「え、だってあたしがピーマン食べるんじゃないし!」


天樹
 こんにちは、天樹です。
 このシナリオは戦争シナリオです。一章で完結し、戦争全体に影響を及ぼします。

 お読みいただいたように、雑……こほん、ライトなシナリオですのでお気軽にご参加ください。いや『紋章の祭壇』の破壊自体は重大な局面だと思うのですけれどね、うん。

 プレイングボーナスは『紋章の弱点を突くこと』で、本シナリオの場合、それは「猟兵たち自身の弱点、すなわち苦手なものを克服すること」となります。
 みなさんは『何が弱点、苦手なのか』『それをどう克服するか』を記載していただければと思います。
 「弱点や苦手なもの」は食べ物や勉強やスポーツなど、何でも構いません。ネタ寄りになりそうな気もしますが、もちろんシリアス展開でも問題ありません(あるのかな)。
 ではご参加を心よりお待ちいたします。
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第1章 ボス戦 『吸血姫エレーネ』

POW   :    夜天の鬼
【その身に備わった圧倒的な怪力】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
SPD   :    紅血の姫
自身の【白肌を飾る血紋】が輝く間、【優雅に舞い切り裂く四肢と翼】の攻撃回数が9倍になる。ただし、味方を1回も攻撃しないと寿命が減る。
WIZ   :    不死の王
自身の【内に溜め込んだ血と命か、下僕達のそれ】を代償に、【蝙蝠や魔犬等の眷属の群】を戦わせる。それは代償に比例した戦闘力を持ち、【不浄の力を纏った爪や牙】で戦う。

イラスト:らいらい

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠ハイドランジア・ムーンライズです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


「ふふん。どうやらついに、この祭壇の場所に感づいたようね、猟兵。でも笑止千万!」

 ほーほほほ、と祭壇の管理者であるオブリビオン、『吸血姫エレーネ』は、手の甲を口の片側に寄せつつ高笑いを示す。彼女の胸には妖しい光を放つ複雑な印紋──『紋章』が輝いていた。
「この『細けえことはいいんだよとにかく勝つ』紋章の前にはまさに鎧袖一触、どんな敵であろうと問題ではないわ。まさに絶対無敵! ゆえに、いくらでも掛かってくるがいいわ、千客万来!」
 しかし、そこまで自信満々だったエレーネは、ふと柳眉をひそめる。

「……でも、なぜかしら。奇妙奇天烈、妙に悪い予感がするのは。例えば──アツアツのおでんを口に押し込まれたりしそうな気がするのは。……いいえ、きっと気のせいね。杞人天憂!」

 以上フラグでした。

 なお、『紋章』さえ無効化すれば、戦闘自体は特に問題なく解決できるだろう。ゆえに猟兵たちは、弱点克服勝負の方に技能やアイテム、ユーベルコードを重視しても構わない。たとえば、ピーマンの例で言えば、『ユーベルコードでエレーネのピーマンだけをもっと苦くしてしまう』などだ。
 ずるいって?
 いや先に『紋章』とかいうインチキしてきたのは敵なんだから問題ない!
試作機・庚
…可哀想な目に合いそうな子が出てきたデスね…けど私どっちかって言うとハピエン主義で可哀想なのは【苦手】なんデスけ…ど…?(【相手を可哀想な事態にする】で設定完了通知)
…不憫な。(顔を覆い)

なんかこの時点で不憫で可哀想なのでクリアしてる気もするんデスけど…念には念を入れて可哀想な目に合わせるデスよ
えっ?苦手なんじゃないかって?苦手デスけど仕事は仕事なので…。(容赦なく災害やらマッチョやらでもみくちゃの濡れ鼠にしていく)
【庚に対して行う行為はピンク行為含むNGなしでおまかせ】

直接戦闘は…えっ?特に指定しなくても勝てるんデスか!?
不憫レベルが高いデスね本当にこの子…カワイソ…



「ほーっほっほっほ! 暴虎馮河! 無敵のこの私に挑むとは無謀な猟兵が現れたわね!」
「……もう露骨に可哀想な目に合いそうな子が出てきたデスね……」

 高笑いしながら現れた吸血姫エレーネを一目見て、試作機・庚(過去を裏切った者・f30104)はしみじみと吐息を漏らす。
 そう、エレーネこそは、高飛車! 調子こき! 頭悪そう! わからせられ系美少女! そしてトンチキ系シナリオ! どこをどう切り取っても可哀そうなこと以外にはなりようがないのだ!
「けど私、どっちかって言うとハピエン主義で、可哀想なのは|苦手《・・》なんデスけ……ど……?」
 おお、庚がうっかりだかワザとだかこぼしてしまったその一言が、まさに二人の運命を決定づけてしまった。
『苦手』そのキーワードに、エレーネの身に刻まれた『紋章』が反応する!
 ぼん! と往年のコント番組における場面転換のような煙が上がったかと思うと……。

「きょ、驚天動地!? なんなのよこれーっ!?」
「おー。こうきたデスか……」
 庚とエレーネは、グラグラと揺れる不安定な丸木橋にまたがっていたではないか。その眼下にはドロドロに濁った泥の池! そして二人の中間には、鍋の蓋が一枚、そして鈍く光る重金属でできたと思しき巨大なハリセンが置いてある!
「これはつまり……あれデスね」
 庚は考え深そうにうんうんと頷き、この恐るべき戦場が何なのかを解き明かす。

「そう、シバいてドツいてじゃんけんポン!」

「何それ!?」
「何って当然、じゃんけんして勝った方がこのハリセンで相手をドツき、負けた方が素早く防御するゲームデスが? 今回の場合、さらに泥の池に叩き落されるおまけもついているデスね。ああ、なんて可哀想なんデス……バッドエンドとてもヨクナイ……でも、その『苦手』を乗り越えないとデス……」
 己の胸を抱きしめ、苦悩と悲しみの中にも勇気をもって運命を乗り越えようとする庚の美しい瞳がキラキラと輝く。決して妙にノッているとかいうことはない。たぶん。
「理解不能!? わけわかんないことを当然扱いしないでくれるかしら!? だいたい、自分が有利であるかのようなその余裕は何なのよ! 傍若無人!」
「フッ、聞きたいデスか、そのわけを……」
 庚はニヤリと笑みを浮かべ、パンと両手を胸の前で打ち合わせた。そう、あたかも拳法の達人の拱手礼のごとくに!

「我がサイバー要塞拳! その実態は、五体のサイバー|要塞《フォートレス》化を旨とするデス!」
「なんて!?」
「レーザーブレードによる受打訓練はビームウィップの殴打へ変化し、キャバリアによる腹部通過を経て、ついには最新鋭|超電磁砲《レールガン》の炸裂により死に至るのデス!」
「死んでるじゃない!?」
「おっと失礼、それにて完成するのデス!」
「いやそれ負けフラグじゃないの!?」
「……同じ|防御職《タンク》として、彼には多少情が湧くデスからね……まあとにかく、そんな感じで私は防御が得意! よって、可哀想デスが、この勝負も貰ったといえるのデス!」

 ふふん、と胸を張る庚に、エレーネはギギギと歯噛みして喚き散らす。
「疑心暗鬼! そんなのやって見なきゃわかんないわ! こうなれば、即断即決! 行くわよ……シバいて!」
「ドツいて!」
「「じゃんけんポン!」」

 ポン……ポン……ポン……とエコーが掛かったかような、極限にまで鈍化した時間が流れる。
 庚が出した手は……パー。そして、エレーネが出した手は……おお、なんたることか……チョキだ!

「大願成就! 勝ったわ! ──くっ、これが『可哀想』という感情なのね……だけど、それを乗り越えてみせる!」
 エレーネは胸の奥に芽生えた初めての気持ちに戸惑いつつ、必要以上に勢い込んでハリセンを取ろうとした。たった今聞かされた庚の防御力自慢が頭にあったのだ。そのため、思い切り力を籠めようとし……そして……よろけた!
 そう、前述の通り、ハリセンの素材は重金属! 見た目の想定をはるかに上回る重さだったのだ! 無駄に力み過ぎてしまったがゆえに、重さに振り回されたエレーネは、あわわわと丸太の上でジタバタ! そしてその瞬間、庚の目がきらりと光る!

「今デス! 『|神風招来《ディザスター・レポート》』!!!」

 庚のユーベルコードによって瞬時に巻き起こった大嵐は、エレーネが広げたハリセンにまともに吹き付け、ただでさえ崩れた吸血姫の姿勢をさらに危うくする!
 そこにとどめとばかりに──庚の投げた鍋の蓋が、すこーんとエレーネの顔面を直撃した!
 重く大きな金属製ハリセンよりも、軽い鍋の蓋の方が、速い動きに対応できたのだ。これにより、エレーネの最後の最後のバランスが遂に崩壊した……!
「ズル……あんた、防御側でしょぉぉぉぉ……!!!!!」
 長い叫びを後に引きながら泥んこの池に落下していくエレーネを上から見下ろし、庚はふわりと髪をかきあげた。
「もちろん防御側デス。だから問題ないのデス。攻撃は最大の防御、というデスからね」
「インチキー!!!! 全然可哀想じゃなかったー!!!!!」
 
 どぼん、と泥の池に高い水柱が上がる。その哀れな末路に、庚は胸を痛めながらつぶやくのだった。

「不憫レベルが高いデスね本当にこの子……カワイソ……。ん、でも、考えてみれば、あの子のバッドエンドは世界にとってはハッピーエンドデス? なーんだ、なら問題ないデスね!」

大成功 🔵​🔵​🔵​

栗花落・澪


…え…??

牛乳早飲みしろってことですか
いやまぁ普段から出されたら飲むけど(残すの申し訳ないし)
牛乳のがぶ飲みはおなか壊すやつだと思います責任取れるのか紋章製作者

ガンバリマス

心臓弱い分無理はできないとはいえ
普段から【歌唱】で肺活量は鍛えてるから
思いっきり息吸って準備したら
息止めたまま一気飲みします

正直牛乳は味変すれば余裕だし
加工品はむしろ好きなんだけど
克服って事ならそのままを飲むべきだろうし

具合悪くなりそうな時はさりげなく【指定UC】で回復
お腹壊すくらいなら疲れる方がマシ…
あくまで上辺は平然と
全部飲み切ってやろうじゃん

無事に勝ったら氷魔法を乗せた【属性攻撃】で凍結攻撃
もー暫くいらない
牛乳キライ



「え………え………??」

 栗花落・澪(泡沫の花・f03165)は、目の前でどたぷんと揺れる白い地獄に思わず目を戦慄かせた。
 おお、そこはまるで大海原。大雪原かとも見まごうほどの純白に輝く、滔々たる大河。
 そう。それは──ミルクであった。数え切れない量の、巨大なる缶になみなみと満たされた、牛乳の大群であった。

「こ、これ、全部飲めっていうんじゃ……ないよね?」

 ひくひくと痙攣する口元で、澪は確認する。
 然り、澪の弱点は──牛乳であった。
 飲むとどうしてもお腹ぐるぐるのぴーになってしまうのである。

「お、おーほほほ! 戦々恐々! さ、さすがにこれ全部飲めはないわ! ってかそれは死ぬわ! ただ、もし勝負がつかず引き分けだった場合は、いくらでも無限に延長戦ができるということよ──牛乳早飲み競争のね!」

 澪に対峙して立つ吸血姫エレーネも、無理して高飛車を装って入るものの、もう明らかに顔色が真っ青のガクブル状態であった。『紋章』の効果によって澪の弱点、すなわち「牛乳飲んだら速攻お腹ぐるぐるぴー属性」を共有してしまっているのである。

「うわぁ……なんでそんな頭悪い勝負を始めちゃったんですか……」
「いやあなたのせいでしょうが猟兵! あなたが牛乳苦手なんて言うから『紋章』が反応しちゃったのよ! というか、いい年して牛乳苦手って何! おかげで私まで大変な目に遭うじゃない! 迷惑千万!」
「しょ、しょうがないじゃないですか、それは個人の体質なんだし! ……っていうか、これだけの牛乳ポンと用意できる能力の方がデタラメですよねその紋章。無敵効果よりも」
「ふん、しかしこの勝負、既に私の勝利は見えたようなものね、余裕綽々!」
 エレーネは憤りの中にもどこか勝算があるようにニヤリと笑みを浮かべて見せた。

「なぜなら私は吸血鬼! 血を吸うことには慣れているのよ。そして、乳と血の成分は本来同じもの! よって牛乳の早飲みは吸血鬼に分があるということよ! 頭脳明晰!」
「あっ、お乳と血が近いってのは聞いたことあります……意外に頭いいんですね」
「そうでしょうもっと褒めなさい! いや意外って何!?」
 エレーネのツッコミを澪は普通にスルーし、不思議そうに可憐な首を捻る。

「でも、吸血鬼さんが得意なのは、人の血を飲むことですよね。牛乳は牛さんのお乳ですよ。関係なくないですか? それとも、吸血鬼さんじゃなく、実は牛血鬼さんだったんですか?」
「ええい誰が上手いことを言えと! ぐちぐち言ってないで始めるわよ、勝負開始!」
 強引に開始を宣言したエレーネに、やむを得ず澪も承諾の意を表さざるを得ない。
「うう……お腹壊したら責任取ってもらいますよ紋章制作者。仕方ありません……ガンバリマス」

 かくして澪とエレーネの前には一瓶の牛乳が用意された。二人は静かに呼吸を整えながらタイミングを見計らい、そして──同時に瓶を手にした!
(僕は心臓が弱いし、あまり無理はできません……でも歌で鍛えてますし、肺活量には自信あります! つまり強引にではなく、ペースを守ってコンスタントに飲み干していきましょう!)
(戦いが長引けばお腹ぐるぐるのぴーになって不利ね! ここは一気呵成! 多少無理やりにでもハイテンポで飲み干すのが勝機と見たわ! 神算鬼謀!)

 奇しくも、澪とエレーネの心中に期す作戦は全くの正反対となった。果たしてどちらが勝利を掴むのか!
 あーっと、しかし、やはり無理やりにでもがばがばと胃の中に牛乳を流し込んでいくエレーネの方が若干有利か! 吸血鬼故に「飲む」ことに長けている、と言ったのもあながち見当外れではないようだ。
 澪もユーベルコードで自己回復しつつ、順調に飲み続けていくが、それでもやはりエレーネの牛乳瓶の方が減りが早い! 苦しいか澪! これは澪苦しいか!
 エレーネも自分の方が有利に展開していることを察したようだった。余裕を持ち始めたエレーネは、にやり、と相手の姿を確認しようとし……
 
 そして次の瞬間、盛大に牛乳を噴き出した。

「え、どうしたんですか? 大丈夫ですか?」
 心優しい澪は思わず飲むのを一休みし、相手を案じる。しかしエレーネの方はそれどころではなかった。

「だ、大丈夫なの? はこっちのセリフよ……つまりその、せ、せ、青少年の健全な育成的ななんか的に大丈夫なのあなたは!」

「はい?」
 きょとん、と首をかしげる澪。相手は何を言っているのだろう。
 澪はただ単に、絶対的美少年たるその可憐な顔にやや苦しそうな表情を浮かべ、必死に両手で瓶を捧げ持ちつつ、んぐ、んぐ、と籠ったような熱い吐息を漏らしながら硬い瓶を唇に当て、懸命に飲み干そうとしつつも、ほんの少しだけ白い牛乳が唇の端から零れて滴り落ちたりしていただけではないか。いったい何がエレーネにそれほど衝撃を与えたというのか、またどこに健全な青少年育成的に問題があるというのか。いやない(反語)。

「お、大ありでしょうがー!!」
 首筋まで真っ赤になりながらエレーネはわめき散らす。結構ウブだなこの子。
「よくわかりませんが……とにかく、僕はもう全部飲んじゃいましたよ」
「えっ嘘」
 本当。
 ということでエレーネが一人でジタバタしている間にペースを護った澪はきっちり牛乳を飲みほしたのだった。澪の勝利である!
「じゃあ、攻撃します。えい凍結攻撃」
「ちょ、ま……!」
 無造作に放った澪の攻撃は、おお、何たる無情か。周囲一面に満たされた牛乳を丸ごと巻き込み、エレーネを牛乳でできた白い氷の中にぴっちりと閉じ込めたのだった。

(いやああああ! せめて普通の氷にしてえええ! 牛乳の中は嫌ああああ!!!!)

「ああうん、それは嫌でしょうね……僕でも嫌です。牛乳キライ」
 敗北者の運命に悲哀を感じる澪のつぶやきが、ただ虚しく響いて消えていくのだった……。

大成功 🔵​🔵​🔵​

スピーリ・ウルプタス
弱点で責めてもとい攻めていただけると(良い姿勢

はてさて私の弱点とは
火であぶっていただけるのか、水に浸して下さるのか(ワクワク

(幻覚なりモブなり、温もり溢れる優しい手つきでひたすらに本人&本体を撫でられる。だけ)
?????
あの、もっと強く、強烈にしてくださって構いません、よ?
撫でるだけは疲れませんか、私を椅子にしたりリフレッシュ代わりに踏みつけていただいたりしてくださっても、いいんですよ??

…っっぐ!(満たされない局地で呼吸困難)
だ…ダイさまー!!(SOSもといUC
(蛇に雁字搦めにしてもらって、やっとひとごこち)
フゥ…かつてないほどの危機でしたね…
(雁字搦めの状態のまま真顔。攻撃は蛇君に丸投げ)



「なるほど、話は大体わかりました。つまりこうですね、こうして、弱いところをたっぷり責めてもらえると!」
「言語道断!? ちょっと待ちなさい猟兵! あなた何わけのわからないこと言ってるの!?」
「ああ失礼、間違えました……攻めてもらえると!」
「異口同音!! 同じよー!?」

 読者諸氏にはどうか心を落ち着けて次なる光景を想起していただきたい。すなわち、言い合っている二人、つまりは猟兵とヴァンパイアが、共に並んでミノムシのように縛り上げられ、上空からぶーらぶーらと釣り下がっているというナニコレな光景を。
 しかし、その猟兵がスピーリ・ウルプタス(柔和なヤドリ変態ガミ・f29171)であるとわかればすべての疑問は氷解するはずだ。つまり、彼はそういうアレなナニなのだから。

「猟兵! あなたが変なこと言うから『紋章』がうっかり同期しちゃったじゃないの! 私をあなたの特殊性癖に巻き込むんじゃないわよ-!」
「と言いましても、これも勝負なので仕方がないのです。ああ仕方がない。まったく仕方がない。それはもう仕方がない。さあ心を決めて、たっぷりと責められるのを楽し……いや悦び……こほん、苦難を乗り越えましょう!」

 どっからでもばっちこーい! と言わんばかりに瞳を煌めかせ、表情を輝かせて、スピーリは新たなる一手を嘱望する! 果たして無情の業火で焙られるのか、それとも残忍なる水攻めであろうか!
 ああ、しかし。ワクワクテカテカしながら『紋章』が呼び出す次なる攻め手を待っていたスピーリの身に降りかかったものは……。
 柔らかい花の香りと穏やかな風の流れの中に優雅に可憐に舞い踊る妖精たちが、慈愛深く慈悲深い手つきで、そっと自分たちを撫でていく。……ただそれだけのことであった。

「あ、あれ? ……あの、それだけですか? あの、ほら、苦難を乗り越えないといけないんですよね? もっと! もっとこう、激しくダイナミックで荒々しくビシバシと行きましょう! 遠慮なさらずに! ほら、苦・難! 苦・難!」
 ほらほら、好き勝手出来ますよ? 何されても思うがままですよ? 完全に無防備なことこの上ありませんよ? ……とばかりに自分の身をゆすり、これでもかとアピールするスピーリ。それはもう必死の面持ちである。
「ちょっと余計なこと言わないでよこのド変態猟兵!? あなたが変なこと言うと私にまで同じ災難が降りかかるのよ!? ちょっと聞いてるのそこの変な猟兵!」
 隣でムキーっと食って掛かるエレーネを、スピーリは眉をしかめてハイハイと適当にいなす。
「あー、今忙しいので少しご遠慮ください。 いえもちろん言葉責めもいいものですので、あとでたっぷりとお願いしますから、今は順番でお願いいたします、順番で」
「く、空前絶後……こいつ無敵なの……?」
 世の中の広さを思い知り呆然とするエレーネはさておいて、スピーリは必死で『紋章』に訴える。
「撫でるだけは疲れませんか、私を椅子にしたりリフレッシュ代わりに踏みつけていただいたりしてくださっても、いいんですよ??」

 ああ、だがその訴えは届かない。
 だが、よく考えればそれはそうである、『弱点や苦手なこと』を顕現し乗り越えさせようとするのが『紋章』なのだ。スピーリにとって最も『苦手なこと』は……『いじめられないこと』であるのだから!

「ぐふっ、こ、このままでは体調が! せ、責めを、もっと責めを! 我に責めを与えたまえ!」
 とうとう呼吸困難を起こし、ひくひくと痙攣さえし始めたスピーリを、隣のエレーネはドン引きの表情で見つめざるを得ない。

「うわナニコレ……っていうか、同じ目に遭ってる私は今のままで十分責められてるし辱められてるんだけど!」

「はっ!」
 そのエレーネの言葉に、スピーリは目覚めたように我を取り戻した。
「い、今なんと!?」
「何ともなにも、普通はこんな状況に置かれただけで十分酷い目だって思うもんなのよ! 多事多難!」
「そ、そうだったのですね!」

 その時スピーリに電流走る。彼の総身に衝撃のように新たな世界が知覚され、一瞬にしてはるか遠くまで地平線が広がったかのような感覚が襲った。

「……『責め』とは即ち心。心の持ち方により、今この状況が責められていると感じることさえできれば、それはいかなるものも責めとなるのですね。どんな状況であっても、心の持ちよう次第でそれは責めになるのだと……いいことを教えていただきました……!」

「いや何を妙な事悟ってる気になってるの!?」
「あなたのおかげで私はこの苦難を、このかつてない危機を乗り越えることができました。ダイ様、私は新たなステージに進むことができましたよ」
 うんうんよかったね、と優しくスピーリを見つめる大蛇に、スピーリは深い瞳で語り掛ける。それはあたかも世界の真理に到達した覚醒者のごとき穏やかなまなざし、悟道の境地に達した高僧のように静かな佇まいだった。
「っていや大蛇!? いつの間に!? 驚天動地!?」
「いやもう自給自足で責めてもらおうかなと思って召喚を……しかし、もう私は大丈夫です。ではダイ様、あとはよろしく」
「よろしくって何!? 理解不能―!!!!」
 大蛇にビシバシとぶちのめされていくエレーネを尻目に、新たな境地に浸っているスピーリなのだった。

「でもまあ心は心として、あとでやっぱりダイ様に直接ちょっと絞めてもらいましょう」

 ……ほんとに悟ったのかな。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アスカ・ユークレース
ここだけの話、実はスイーツが苦手なんですよね

とか言ってたら目の前に沢山のスイーツ出現
……ああ、怖い!こんな怖いもの……早く食べて無くしてしまわないと!

瞬間思考力で味の組み合わせやペース配分を計算、どんどん食べ進めていきましょう

いちごショート!生クリームたっぷりで苦手だわ!
マカロンはサクッとフワッと融けちゃいそう、これも苦手ね
(苦手苦手と言いつつ終始ニコニコ笑顔)

完食したところで、はいUC。

……苦手なのは本当ですよ?だって、美味しすぎて、食べ過ぎたら太っちゃうじゃないですか
そういうことじゃない?ではそうですね……この辺で濃いめの一杯のお茶が苦手ですね

アドリブ絡み歓迎



「ここだけの話、実は私、スイーツが苦手なんですよねー」

 アスカ・ユークレース(電子の射手・f03928)のどこからどう見ても棒読みだろそれ的な台詞が響く。これ以上ないほどわざとらしく。
 しかし、眼前に対峙するヴァンパイア、吸血姫エレーネはそれをと咎めだてしなかった。そればかりか、ニヤリと笑って、エレーネは続いたのだ。
「ほーっほっほ、猟兵にしては珍しくまともな相手が現れたようね。実はー、私もー、スイーツが苦手なのよー。それはもうすごく苦手なのよー、呉越同舟―」
 棒読みの二乗である。だが、本来は敵である猟兵とオブリビオン、その二人の美少女は、お互いにうんうんと同意したように頷きあったのだ。
 そりゃもう誰でもわかるくらいに彼女たちの狙いは明らかであるが、おお、何たることか、この場には誰もツッコミがいない!

「「じゃあ、せーの……『私たちが苦手なのはスイーツです』!」」

 声を揃えてアスカとエレーネは唱和する。それと同時、『紋章』がぺかーっと輝きを放ち、ぼん! と煙が立ちあがった。次の瞬間、その煙が晴れたところには……。

「「きゃーっ♪」」

 アスカとエレーネは互いに手を取り合ってぴょんぴょんと飛び上がり、歓喜する。
 おお、彼女たちの目の間に広がっていたのは、目も綾な色とりどりのケーキ、ケーキ、ケーキの山! 鼻をくすぐる香しい甘い匂いが周囲に満ち溢れ、たっぷりとしたクリームとバター、ミルクにバニラエッセンス、シュガーにフルーツなどが混然一体となった絶妙なるハーモニーを奏でる麗しのパラダイス! これぞすべての乙女にとってのドリームオブドリームス、ケーキバイキングの世界だ!

「こんな怖いもの……早く食べて無くしてしまわないとー。試練だから仕方ないですねー」
「まったくよー、これも戦いですものねー。やむを得ないわー、初志貫徹ー」

 キャッキャ言いながらアスカとエレーネが席に着き、それぞれケーキを手当たり次第に頬張っていこうとした時……しかし。彼女たちは、眼前に設置された謎の装置にふと気づいた。
「ん……ヴァンパイアさん、なんですかこれ?」
「疑心暗鬼? これ、私が仕切っているわけではなくて、『紋章』の力だから……?」
 不思議そうに顔を見合わせたアスカとエレーネであったが、その疑念は二人がそっとケーキの皿に手を伸ばした時に解消した。

『チョコレートケーキ:450Kcal/100g』

 ちーん、というSEと共に、装置にそんな文字が映し出されたのである!
「はうっ! こ、これは、もしかして……?」
 アスカは一瞬前まで浮かべていた笑顔を一転して引きつらせながら、今度は別のケーキに手を伸ばしてみる。と、装置に映し出された文字が変わった!

『ショートケーキ:310Kcal/100g』

「ぐふううっ!?」
「あばばーっ!?」
 おお、アスカとエレーネはもんどりうって七転八倒! そう、この装置は、二人が食べようとするケーキのカロリーをいちいちデカデカと表示する、悪魔のごときマシンだったのだ!

「ちょっとヴァンパイアさん! これ酷くないですか!? こんなの見せられながらケーキなんて美味しく食べられませんよ!」
「周章狼狽! だから私も知らないんだってば! 『紋章』が勝手にやってることなんだから!」

 試練なんだからそう簡単に乗り越えられると思ったかー、と言わんばかりに装置はケーキのカロリーを見せつける。そう、ケーキの天から降り募る甘露のごとき美味の裏に潜む恐るべき毒牙、それはカロリー! 乙女にとっての不倶戴天の天敵であった!
「うう……でも、仕方ありません……こ、こんな数字、別に目をつむって食べればいいんです! あー美味しいなあ! 甘いなあ!」
「そ、そうよね、気にしなければいいんだわ! 猪突猛進! 美味美味!」
 アスカとエレーネはそれぞれ、無理に笑顔を張りつかせながら、ケーキを口に運ぼうとする。だがそのたびに、カロリーを示すSEがけたたましく鳴り響き、それでも強引に目を瞑って食べようとすれば、今度はなんと……。
『ピピー、モンブラン:430キロカロリーデス・オニギリ約2・7個分デス・デブリマス』
 音声ガイダンスまで始めたのだ!

「ああああ、す、隙がないですこのマシン! どこまでいやがらせ特化なんですかー!」
「だ、ダメだわ、このままではとてもケーキが食べられない……絶体絶命!」
 二人の少女はがっくりと肩を落とす。このまま二人は試練を乗り越えられずに終わってしまうのか!
 いや、そんなことはなかった!

「……要するに、この|目の前の苦難を乗り越えること《・・・・・・・・・・・・・・》が試練なんですよね」
「ええ、そのとおりね」
 きらーん、と目を妖しく光らせたアスカとエレーネは頷きあうと、颯爽と風をはらんで立ち上がった!

「こうなれば射つだけです! 『コメットストライクゥゥゥッ』!!」
「我が眷属ども、掛かりなさい!『不死の王』っ!!」

 二人は同時に己のユーベルコードを全力全開に撃ち放った! そのターゲットは本来の宿敵たるお互い同士ではなく……カロリー表示マシーンだ!
「なんぴとたりとも私のケーキを邪魔するものは許しません!」
「乙女のスイーツタイムに無粋な現実を持ち込む報いを受けるがいいわ!」
 それはあたかも猟兵とオブリビオンによる禁断の合体必殺技だ! 乙女の怒りをまともに受けたカロリー表示マシンは、一瞬のうちに粉々に粉砕されたのであった。そう、これもまた、一種の「苦難を乗り越える」形式には違いないのだから!

「フッ、猟兵。見事だったわ。むしゃむしゃ。でも、紋章が砕かれてしまっては私の負けね。はむはむ」
「ヴァンパイアさんこそ素晴らしい戦いぶりでした。ぱくぱく。私、この戦いのことを忘れません。ごっくん」
 二人は改めてケーキに思い切り舌鼓を打ちながら、互いの健闘をたたえ合うのだった。

 ──もちろん後日、体重計の上で悲鳴が響くことになるのはいうまでもない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

エドゥアルト・ルーデル
拙者の弱点は美少女でござる

普段我慢してるんだが本当は見境なくYESタッチ!したいんだよね
じゃあどう克服する?一度美少女を摂取して落ち着くしかあるまい!丁度いるだろ、目の前に素敵な美少女がヨ!prprさせろ!

HUGっと!していいでござるか剥ぐっと!していいでござるか?
デュフフ…今拙者の方がパワーで圧倒しただろう?大人と子供の相撲のようになァ
銀髪赤目ロリ吸血鬼とか…拙者の心はもうビンビンなんだよ!心が高ぶると無限にパワーが上がるんでござる!

まあエレーネchangは目の前に拙者しかいないから弱点の克服しようがないが…
という訳で…もう逃げられないゾ❤

お前それでいいのかって?細けぇことはいいんだよ!



「拙者の弱点は美少女でござる」
 エドゥアルト・ルーデル(黒髭・f10354)さん、虚偽申告はNGです。

「いや待って欲しいでござるよ地の文氏! 別に嘘なんかついてねーですぞ? だってほら、普段は拙者、紳士でござろう?」
 紳士とは一体。
「なんで一生懸命我慢してるんでござるが、ほんとはいけないことだけど……ダメなことだけど……実は美少女に見境なくYESタッチ! したいんだよね!」
 臆面もなくヘンタイぶりを露呈するんじゃあないッ! 見よ、吸血姫エレーネがドン引きしている!

「え、ちょっと……その対象、私じゃないわよね!? 意馬心猿!」
「デュフフフ……銀髪赤目ロリ吸血鬼とか……拙者の心はもうビンビンなんだよ!」
「いやあああ来ないでええ! っていうか全然苦手を克服しようとしてないじゃないの!」
 怯え、竦み、実力を発揮できないまま追い詰められそうなエレーネの疑問はもっともである。むしろエドゥアルトは自分の煩悩にそのまま従っているだけでは?

「ふっふっふ。条件は苦手を克服する事であって、我慢することではねーでござるからな。どうやって克服すればいいかってーと、簡単でござる、思う存分やりたいことをやれば、苦手意識も発散できようって話よ!」
 それずるくないかなぁ!? でもまあ一理あるかも?
 さらに加えて、エドゥアルトには恐るべきユーベルコードがある。『自身のハジケる気持ちの為に敢えて不利な行動をすると、身体能力が増大する』──その名も|Pop Man《ハジケマン》だ!
 今こそエドゥアルトは社会的規範とか倫理的問題とか青少年のなんかとかそいうもののために抑えていた気持ちを爆発させ、エレーネに怪盗ダイブしようとする! その身体能力は圧倒的に増大! おお、このままではエレーネがピンチで危ない!

「くっ、私だって猟兵のその弱点──『美少女をHUGしたい気持ちを抑えるのが苦手』という弱点を共有しているのよ、つまり、私だって気持ちをハジケさせれば互角! 竜攘虎搏!」
「でもエレーネchangは目の前に拙者しかいないから弱点の克服しようがないでござるよね……もう逃げられないゾ❤」
 その通り、エレーネには煩悩の向かう先であるべき美少女がいない!このままでは弱点を克服できないのでは!?
 しかし、エレーネはその可憐な唇に不敵な笑みを浮かべる。

「甘いわ猟兵! なぜならここに……私自身がいるのよ!」
 
 ババーン! と衝撃的なSEが鳴り響き稲光が閃く! おお、まさにそれは盲点! エレーネは迫りくる黒い影、エドゥアルトの魔手が及ぶ寸前に……自分自身を抱きしめたのだ! 
 そう、エレーネはまさに美少女。ゆえに、彼女が自分で自分を抱きしめても何の問題もないのだ。
 これにより、『美少女を抱きしめたい気持ちを押さえつけず発散する』という条件をクリア! 試練を乗り越えたことにより……『紋章』の無敵効果が発動した!

「ほーっほっほっほ! ここまでにいろんな猟兵と戦ってきたけど、『紋章』が発動できたのは初めてよ! これで私は無敵、私の勝ちよ! 完全勝利!」

 紋章の効果は「細けえことはいいんだよとにかく勝つ」というトンデモだ。
 ついに発動してしまった紋章のその効果を前にしては、おそらくオブリビオン最強と言われたオウガ・オリジンや、最初の戦争に出すレベルの敵じゃねえよと言われたあの銀河皇帝などと言った、名だたるオブリビオンたちにも匹敵するやもしれぬ。エドゥアルト、危うしか!

「はぁー……ツマンネ」

 だが、エドゥアルトはどうしたことか、深く失意のため息をついて、立ち止まってしまったではないか。相手の強さに戦意を喪失したというのか? いや違う。エドゥアルトはそんなシリアスな男ではないし、何よりも、彼のこの態度は、それよりももっと根源的にして本質的な失望によるものだ。

「意味不明? どうしたというの猟兵! 降参するつもりかしら!?」
 エレーネの声が響く。
 |野太くドスの利いた迫力ある低音で《・・・・・・・・・・・・・・・・》。
「……え?」
 そう、その声に今はじめて、エレーネ自信が気付く。
 自分自身の体の変調に。
 先ほどから見える景色が妙に高い。身長が伸びているというのか。具体的には……3mほどに。
 慌てて自分の体を見回すエレーネは、そこに……筋肉モリモリマッチョウーマンと化したパワーオブパワーゴリラの自分の姿を見たのだ! そう、これこそが『紋章』の無敵効果であった!

「え、えええ!? 驚天動地!? 無敵効果ってこうなることだったの!?」
 愕然とするエレーネ。そう、鋼の肉体を輝かせるマッスルボディと、それに見合ったいかつくごつく猛々しい外見を手にしたセレーネは、ルッキズム的に配慮して婉曲表現させていただくとしても、ちょっとこう、いわゆる美少女の範疇にはもはや入らぬ!

「くっ、まさかこんな姿に。でも、この無敵のパゥワを手にした以上は、猟兵、あなたなんか一ひねりよ! 鎧袖一触!」
「ほほう、なんで無敵になったんでござるか?」
「なんでって、見てたでしょ! 私が自分の弱点を克服したからよ!」
「ほうほう、どんな弱点でござるか?」
「馬鹿にしてるの!? だから! 美少女を抱きしめることという弱点を……あれ?」
「ほほう、どーこーに、『美少女』がいるんでござるかなぁ?」

 おお、なんたるパラドクスめいた自己矛盾か!
 エレーネは『紋章』の効果によりマッチョゴリラと変じた。しかし、それは彼女が「美少女」であるという条件を捨て去ることとなり、大前提が崩壊してしまったのだ!
「あれこれおかしくね?」と紋章が戸惑っているかのような光の点滅がピカピカとともり、やがて、しゅん……とその輝きが消え失せ、エレーネの体も元に戻ってしまったのだ。

「えっちょっと紋章しっかりしなさい!? あの髭男の口車に乗せられちゃだめよ!? 紋章―!?」
「デュフフフ。やっぱこっちの姿の方でござるよなー。じゃ、いただきまーす!」
「うっきゃああああ!?」

大成功 🔵​🔵​🔵​

瀬河・辰巳
苦手なもの……情けないけど、井戸の中は本当に無理なんだよな。子供の頃に村人に殴られて枯れ井戸に落とされ、燃やされたから、もはやトラウマというか……え?井戸の中で悲鳴を上げて膝を付かなければ勝ち?はい?
とりあえずフェーくんを杖にしてこっそり持っておき、入ったら猫の姿に変えて必殺・猫吸いで落ち着く。まあ、たぶん心が折れそうになったら軽い猫パンチやキック励ましてくれるでしょ。
少しだけ時間が経ったらUCを発動。敵をトラウマで発狂させて心をバキバキに砕いてやろう。
せこい?村人達だって俺を騙して殺そうとしたんだから、アイツらよりは全然マシだよ。…何か思い出したら腹立ってきた。敵の井戸に炎ぶち込むか。



「うう……情けないけど、井戸の中は本当に無理なんだよな……」

 瀬河・辰巳(宵闇に還る者・f05619)は、己の中に泥のように淀んでいつまでも横たわり、のたうち回り続ける漆黒の記憶に、思わず胸を抑えた。
 井戸。それは辰巳が間近に迫る死と憎悪をその身の芯に至るまで実感させられ、絶望と悲哀を骨の髄まで刻み込まれた場所に他ならない。
 既に色あせたセピアの過去が怨嗟と嘲笑の声をあげる──。

「……まさか、また同じ体験をすることになろうとはね……くっそ、体の震えが止まらない……」
 辰巳は周囲を囲む冷えた石積みの無機質な肌触りと、乾いた腐臭に顔を歪ませた。すべてがあの日のままの再現だ。思い出したくもない、けれど思い出すまでもない。なぜなら、忘れられないからだ。忘れさせぬと記憶が苛むからだ。
 その過去の完全再現を為しうるほど、『紋章』の効果は絶大だというのか。

 ──それは辰巳がまだ幼い頃。|半吸血鬼《ダンピール》である辰巳は、その地の由来の故に人々の呪いをその小さな体一身に受けていた。
 村人たちが必ずしも邪悪だったわけではあるまい。|吸血鬼《ヴァンパイア》は紛れもなく人類と相容れぬ不倶戴天の仇敵にして災厄の温床、実際ヴァンパイアによって被害を受けたものも数限りなくいるはずだ。
 ゆえに村人は辰巳に対してそのやり切れぬ憤懣のすべてを剥き出しにした。たとえ辰巳自身に何の落ち度がなかったとしても。
 
「宝物が落ちてるよ。あの井戸の底に」
 そんな他愛もない一言によって誘い出された幼い日の辰巳を誰が責められるだろう。嬉しかったのだ、普段自分をいじめていた彼らが優しい言葉を懸けてくれたことが。……それが罠だと知るまでは。

 気が付けば辰巳は、鈍い頬の痛みと共に、井戸の底に転がっていた。
 水の枯れた井戸であったのは良かったのだろうか。確かに、溺れずに済んだかもしれない、けれど、その代わりに、ぬめる油が振り撒かれ、燃え上る芝草がいくつも降り注いできたのではあったが。
 貧しい村にあって、油は高価で貴重なものであったろうに、わざわざそれを俺のために使ったのかと、微かにでも苦笑する余裕ができたのは、相当後年のことだった……。

「……で、それを乗り越えるのが試練ってわけか。悲鳴をあげたり膝を屈したりせずに。……俺一人だけなら無理だったかもしれないな」

 青ざめた顔のまま、しかし辰巳は小さく息をついて無理にでも心を落ち着けようとする。その手の中には、ほんのりと温かみが伝わってきていた。彼の手に持つ杖の「体温」が。

「でも今は君が一緒だもんね、フェーくん」

 杖が細く|鳴いた《・・・》。にゃー、と声を上げ、杖はひょいと翻転して猫の形を取る。
 辰巳の友の一人、フェーくんは、大丈夫? と案じるような瞳で辰巳を見上げた。その真摯で純粋な、まっすぐな瞳に、辰巳のささくれた心が多少潤う。
「ありがとね、フェーくん」
 辰巳はフェーくんを抱き上げ、きゅっとその毛皮に顔を埋めた。暖かさと柔らかさ、そして何よりも、自分を案じ労わってくれる愛情。いずれも、あの日の自分には持ち合わせがなかったものだ。
 だから、耐えられる、今なら、耐えられる。動物たちとの絆がある限り、辰巳は打ちひしがれていた過去のありようと同じには決してならない。

「……でも、あっちの方はどうなんだろうな」

 辰巳の唇に苦笑めいた笑みが浮かぶ。
 自分がこの境遇に陥っているということは、『紋章』の持ち主である吸血姫もまた同様の目に遭っているということだ。それが『紋章』の効果なのだから。
 だが、吸血姫には、自分にとってのフェーくんのような友はいるのだろうか。

 ……そう考えた時。
 遠くから、犬が吠えるような声がした。井戸の外側だろうか? いや、何か籠っている声だ。まるで、井戸の中にでもいるかのような……。
 そう、『もう一つの井戸』の中にでもいるような声だ。
「吸血姫か。そして、あの声は……」
 辰巳は耳を澄ます。
 犬の声は、どこか甘えるような、そして戯れるような声音だった。
 予知はどうだったか、と辰巳は想起する。吸血姫の能力、その予知は、確か……。

「──『蝙蝠や魔犬の眷属を操る力』か」

 辰巳は少々意外に感じた。魔犬と思しきあの声は、確かに……主と、少なくともある程度は良好な関係を築いている動物のものだと感じられたからだ。

「……俺と同じか。吸血姫も、おそらく自分の眷属の魔犬を呼び出して……、迫りくるトラウマに必死で耐えてるってわけか」
 吸血姫がこれまで、どのような罪業を重ねてきたのか、辰巳は詳しくは知らない。オブリビオンであるのだ、おそらくその手を汚していないということはあるまい。
 だが、少なくとも動物に──眷属に関しては、ある程度の良い関係を持っている。動物に対してだけは。
 その事実は、辰巳の心を僅かに温めていた。自分と同じ、動物好きだと知ったことで。

 辰巳はフェーくんに小さく頷いて見せると、静かに意識を集中し、ユーベルコードを発動した。
 やがて、遠くの井戸の中で、小さな悲鳴が響く。
 それは、吸血姫の敗北を意味する声。
 だが、破滅的というほどではなく、あくまでも、ある程度の衝撃と苦痛によるという程度の声だった。

「……少しだけ、威力を加減してあげたよ。これでよかったかな、フェーくん」
 『紋章』の過去構築が急速に消え失せ、現実世界に戻っていくことを感じ取りながら、辰巳はフェーくんに語り掛ける。
「トラウマを増幅させて発狂させてやろうかとも思ったけど……同じ動物好きのようだったからね、今回だけは。……それに、犬が可哀想だしね」

 にゃー、と満足そうに鳴いて、フェーくんは優しく辰巳にぺちんとパンチするのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ダーティ・ゲイズコレクター
私はダーティ!ダーティ・ゲイズコレクター!
凶悪で極悪で劣悪で最悪な魔王ダーティとは私のことです!

そんな私の弱点は目立ってしまう事!困りました!どうしましょう!
(目の前に出現するイタズラ用アイテム)

…そうですね、私は悪事を成就させるのが苦手です
ですが私は36年間悪魔をやってきたんです!
一日の長は私にあります!覚悟してください!

(黒板消しおとし、ブーブークッション、パッチンガムを敵に仕掛けるが全て失敗する)
やっぱり私はダメダメ悪魔なんだぁ…もうおしまいだぁ…
(UC【害悪!穢憐人形魔叶令】が勝手に発動)
「どうして諦めるんだ!?100回失敗しても101回目に成功するかもしれないんだ!1%でも可能性があるなら挑戦し続けるのがデビルキングだろうが!」
…はっ!そうでした!ありがとう私そっくりの知らない人!
ここは心を落ち着かせて{暗黒キャラメル}で次の悪事を…
えっ?はい!とっても甘いお菓子ですよ!
何と一粒食べれば悪事が閃く魔法のお菓子です!
もしよかったら一粒どうぞ!
(間違って激辛のキャラメルを敵に渡す)



「こんにちは、オブリビオン相談室です。……って、何この茶番! 意味不明!」
 吸血姫エレーネはイラついたように目の前の机をバンバンと叩く。
「すみません、私のために……」
「まったくよ! 『紋章』の効果のためとはいえ、頭痛くなるわ! 気息奄々!」
 エレーネは一通りわめくと、ふうと長い息を付き、仕方がないとばかりに黒革のチェアに座りなおす。
「……まあでもやるしかないわね。……えー、本日はどうされましたか?」

「私はダーティ! ダーティ・ゲイズコレクター! 凶悪で極悪で劣悪で最悪な魔王ダーティとは私のことです!」

 エレーネの向かい側に座るダーティ・ゲイズコレクター(Look at me・f31927)はぐいと胸を張って快活に答える。
「名前じゃなく! あなたに何の悩みがあるかって聞いてるの!」
「おおこれは失敬。実は、私の悩み……そう、私の弱点であり、苦手なことはですね……」

 ダーティは眉をしかめ、深刻そうな表情を浮かべて、訴えるように言葉を継いだ。

「目立ってしまう事なのです! 困りました! どうしましょう!」

「……まあそりゃ目立つでしょうね」
 エレーネは面白くなさそうな顔で頬杖を付きつつ、視線をやや落とす。そこに映るのは、ダーティの圧倒的なまでの迫力を醸し出す双丘! どたぷんという擬音さえ生ぬるいと思えるほどの、いわば乳の暴力! ドメスティック|パイ《・・》オレンスとでも言うべきバストの超重爆だ!
 引き換え、エレーネ自信の胸は、まあその、大平原とは言えないまでも、なかなか謙虚で慎ましくつるりんとしており、まあそっちの方が好きな人もいるから大丈夫だよ気にすんな! 的な感じである。
「よっけいなお世話よ! で、何で目立つと良くないのよ。あなたの『弱点』は、私も『紋章』の効果で共有しちゃってるんだけど、なんでこれが弱点なのかよくわかんないから、克服しようがないのよ! 理解不能!」

 そう、現在展開されている戦いは、どちらが先に苦手を克服するかというバトルである。しかし、ダーティ本人もその苦手の克服法がわからないし、ましてやそれを無理やり共有させられた吸血姫エレーネは一層わかるはずがない。
 ということで、戦う前に、二人でまずその苦手問題について相談しようということになったのである。

「まあ、目立つのはいいんですよ。私、魔王になるべき存在ですからね。『王』とは威厳と威圧と迫力と存在感を示すもの! ゆえに、目立つのは必須条件とも言えます!」
「じゃあ問題じゃないじゃない?」

「ですが、私はただの王ではなく、『魔王』になるべきものなのです。魔王とは悪いことをするもの! そして、悪いこととはこっそりやるもの! つまり、目立ってしまうと悪いことができないので魔王になれないのです! ほら困った!」
「……わかったような、わかんないような……曖昧模糊」

 エレーネはむむ、と唇を尖らせ、首を捻った。
「逆に目立つことで効果がある悪事もあるんじゃない? 詐欺とか、インチキ宗教とか」
「そ、そういうのはダメです! 人に迷惑を掛けるじゃないですか!」
「あれぇ!?」
 さあますますわけわかんなくなってきたぞ! だってダーティは価値観がトンチキなデビルキングワールドの住民だから! しかしエレーネも自分の『紋章』の効果を発揮するために一生懸命にならざるを得ない!
「めんどくさ! じゃあ、そうね……目立つことを逆に利用するのよ。つまり、あなた自身が目立って囮になることで、仕掛けた悪事の罠の存在を隠す! これはどう!? 頭脳明晰!」
「おお、良さそうな気が!」

 ダーティはさっそく常に持ち歩くイタズラ108つ道具の中からいくつかのアイテムを選び出す。
「まずは黒板消しです! 戸口に挟んで……そして私が囮になり目立つことで黒板消しに気づかせないようにする! 確かにこれは行けそうですね!」
「試しに私の眷属が引っかかるかどうかね。試行錯誤!」

 エレーネがユーベルコードで呼び出した「眷属」である魔犬が煙と共に現れる。戸口を挟んだ向こう側にはダーティ、そして戸口には黒板消し。さあうまくいくか!
「わんちゃん、さあこっちにきてください! 美味しいおやつがありますよ! わんこまっしぐらなやつですよ! さあ! さあさあ! さああ!」
「……くぅーん」
 おお、だがなんとしたことか! 魔犬はあからさまにダーティの呼び声を怪しみ、うろうろした挙句、入ってくることなく、尻尾を巻いて逃げてしまったではないか! 失敗だ!
「え、なんでですかぁ!?」
「……そりゃ、あんだけ露骨に目ぇギラギラさせて、何かあるぞと言わんばかりの雰囲気を全身から醸し出していれば、誰でも変だって思うわよ……当然至極」
 エレーネはがっくりと落胆するダーティを呆れた顔で見やった。

「……分かったわ。あなたの悪事が失敗するのは、別にあなたが目立つからじゃなく……あなた自身がドジだからよ。問題解決」
「そんな実も蓋もないぃぃ!?」

 だが現実の世界は厳しく悲しい。そのあとも繰り返されたダーティの実験は、ブーブークッションもパッチンガムも、すべて同様の理由で失敗に終わったのである。つまり、ダーティがあまりにもわかりやすく「イタズラしますよ」という態度が現れてしまうという素直すぎる性格のために。

「やっぱり私はダメダメ悪魔なんだぁ……もうおしまいだぁ……」
 がくりと肩を落とし、よよと泣き崩れるダーティ。おお、彼女の輝ける栄光の魔王への道は、志半ばのこんなところで終わってしまうというのか。

「ばかぁつ!」

 ぱちーん! と、その時音が響いた! 突如現れた謎の人影が、思い切りほっぺたをひっぱたいたのである!
 ……エレーネの!
「私ぃ!?」

 怒るとかより先にまずびっくりして固まっているエレーネをよそに、人影はダーティに寄り添った。その姿はよく見ればダーティにそっくりである。これぞダーティのユーベルコード、『害悪! |穢憐人形魔叶令《アイレイニンギョウマキョウレイ》』によって召喚された自動人形であったのだ。
「私の本体を叩くのはなんかイヤだったので、手近にあったちょうどよさげなほっぺたを叩かせてもらった! そんなことより! どうして諦めるんだ!」
 自動人形の熱い言葉がダーティに切々と語り掛ける。傍らで、ちょっと何わけわかんないこと言ってるの!? と喚くエレーネがいるが、気にしない!

「もし100回失敗しても101回目に成功するかもしれないんだ! 仮に1%でも可能性があるなら挑戦し続けるのがデビルキングだろうが!」
「はっ!!!!」
 
 自動人形の燃えるような魂が、今、ダーティに燃え移り、再びその志に太陽のような眩い光を取り戻させた! そう、決して挫けず己の極限を超えて新たな世界に挑戦し続ける、その心こそが──魔王なのだと。そして、生まれてから36年にも渡って成功失敗を問わずイタズラを仕掛け続けてきたダーティの不屈の精神には、まさにその資格があると!

「ありがとう、私そっくりの知らない人!」
 ダーティは大きな瞳に浮かんだ涙を拭き、晴れ晴れとした笑顔を浮かべる。
「なぁに、私は君の分身、つまり私の言葉は、本来君の中にもともとあったことなのさ。私はそれを気づかせただけ。最初から覚悟は君の中にあったんだよ」
 自動人形はぽんぽんとダーティの肩を叩き、静かに消えていく。

「わかりました。私の苦手、『目立ちすぎるので悪事ができない』の試練に対する答えは──『でも頑張る』だったのです!」
「いやそれでいいの!?」

 思わずツッコむエレーネにも、ダーティは優しいまなざしを向けた。
「オブリビオンさんも、お手伝いありがとうございました。これからは敵同士になりますが、その前にこれまでのお礼を何かしないとですね……えーと……あ、ありました、美味しいキャラメル! 良かったらどうぞ!」
 ごそごそと荷物を探って取り出した一粒のキャラメルを、エレーネは肩を竦ませながら受け取る。
「敵にお礼って……ほんとに魔王候補なのかしらね。まあいいわ、これを食べたら改めて対決を……」

 ぼん。
 と、エレーネの口の中で火山が爆発した……かのような激烈な衝撃が走り回った。
「ぐわあああああ!!!???」
 思い切りひっくり返り、苦悶と激痛にのたうち回るエレーネに、ダーティは慌てて手元を確認する。

「あ……ごめんなさい、これ、超絶エクセレントビッグバン激辛デスキャラメルでした!」
「ぐ、ぐああ……|意識しない悪事《ドジ》こそが最も強いというの……恐ろしい子……がくり」

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2023年05月15日


挿絵イラスト