闇の救済者戦争⑬〜一人でも多く、一人でも健やかに~
「まぁ要するに、月光城に居るめっちゃ強くなってる敵から、なんとかして人質達を解放、それから凹殴りにする。って感じの依頼だな」
そう要約する金髪の男……ダンド・スフィダンテは、困った顔をしていた。
「こう言うと簡単そうなんだけど、敵の強さは色々あって660倍になってるんだ」
なんだよ660倍って。書く方もどう表現したら良いのか掴めてないよ。
「で、その強化を解除するのに必須なのが、人質……|人間画廊《ギャラリア》に展示品として囚われている人間達、の解放だ」
簡易的な回廊の地図。その周辺にぐるりと取り巻かれる形で作られているその場所が、|人間画廊《ギャラリア》らしい。
「凡そ96人が囚われているから……その半分の48人を助けられれば、強化は完全に解除されて普通に戦える様になる筈だ」
言いながら、苦笑する。
「オブリビオンが善人思考らしくて、人間を無暗に傷つけたりはしないし……オブリビオンを倒せればどの道解放出来る者達だからな。残った者の事を過度に心配する必要は、無いぞ」
本当はケルベロス・フェノメノンの欠落についてとか、なんでそんなに強化されてるのか、とか触れるべきかもしれないが、情報量が多くなるので他のシナリを参考にしてほしい。このMSは情報の整理が苦手なのだ。
「そうそう、今回の敵は厄介な上に救出もあるから、一人二回ぐらいUC使う事になると思うぞ!」
よろしくな!サムズアップで見送られた猟兵は今、全体的に淡く光る月光城の回廊に立っていた。
KS
こんにちは!KSです!
これは戦争シナリオなので一章で終わるシナリオとなっております。
難易度がやや難しいとなっているので、しっかり怪我をしたり苦戦してしまったりするかもしれません。
が!
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プレイングボーナス:人間画廊ギャラリアに捕らわれた人々を救出する。
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こちらをやって頂くことで判定を振りなおしたり、プラスしたりをKSが出来ますので、気軽にご参加ください。
また今回のシナリオではUCを2つ持って来る事が出来ますので、プレイングで追加の1つをご指定ください。指定が無ければ同じものを2度使った事にします。
敵のUCの参照は(ユーベルコードを指定しない)▼の所で選んだ物となります。
KSがUC1つで書ける気がしなかった為の措置なので、PLの皆様におかれましては余り期待はせずお待ちください。
以上となります!よろしくお願いしまーす!
第1章 ボス戦
『善人ジョナサン・ランバート・オルソレグ』
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POW : これでも昔はやんちゃをしていてね。
【拳闘を主とした総合格闘技】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD : 前途ある君達を断ちたくはないのだよ。
【杖に仕込まれた剣】が命中した対象を切断する。
WIZ : 君もまた、救われるべき未来なのだ。
自身が【哀れみ】を感じると、レベル×1体の【自身に殺害された者達】が召喚される。自身に殺害された者達は哀れみを与えた対象を追跡し、攻撃する。
イラスト:のはずく
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠バオ・バーンソリッド」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
作品扱いされている人間達だが、ただ腕と足が額縁に繋がる鎖と枷に囚われているだけで、目を引く非道は行われていない。
ただ順番に、殺されるのを待たされているだけの様だ。
オブリビオンが書いて立てたらしい看板には、タイトルがひとつ『救われるべき村人』と。
気の強い男、挫けない女、若い者より先に殺されようと震える足で立つ老人、母と父の間で気丈に泣く事を耐える子供。善人、と言って良いだろう瞳を持つ者たち。
もしかしたらオブリビオン……ジョナサン・ランバート・オルソレグが支援をしていた村の民なのかもしれない。
一人の男の首を、ジョナサンは握っていた。
優しい音で、ゆっくりと。幼子に言い聞かせる様にオブリビオンが語る。
そう信じて疑わない声で。
「大丈夫。生きる意志が強ければ、君もオブリビオンとして復活出来るのだからね。」
ミシミシと音が響き、村人は悲鳴すら上げられずに震えている。
「大丈夫だとも。君なら家族を守る為に、立ち上がれるさ。君もまた、前途ある若者であり、救われるべき未来なのだから。」
大切な者を守ろうとした男の首がへし折れるその直前、君たちは現れた。
フォルク・リア
「人を捕えて利用して善人思考とは
歪んでいるにも程があると言う感じだが。
利用させて貰う分には有益だ。」
城内では敵に発見されない様に物陰などに隠れながら移動し
物音等敵の気配に注意。救出前には交戦を避ける。
囚われている人たちを捜索し発見次第
香夜胡蝶乱舞を発動して救出する。
「助けに来たよ。その蝶に触れれてくれれば外に送り届けられる。」
救出した人は戦闘に巻き込まれない様に蝶ごと城の外へ移動させる。
敵との戦いでは冥府への誘い【鎖焼散花】を使用。
召喚された者には【除霊】【破魔】の効果を持たせた攻撃を行って祓い
敵には黒鎖を放って動きを止めたところで
蒼炎で攻撃しつつ鳳仙花の花びらで生命を奪う連続攻撃を行う。
シシトル・ウィッシュハーバー
※アドリブ・連携歓迎
――ダメだ!それはやっちゃいけない!
UC【星願の手印】で解放の印を結んで、一瞬でも手を離させる!
その隙に【念動力・運搬・オーラ防御・封印を解く】を駆使し、理力の手で可能な限り村人を回収・解放を目指すよ!
防御の【結界術】に使った〔ドリームキャッチャー〕が千切れる間に、敵の夢…心を覗き見る
ボクは心の守り人
その歪んでしまった善き心も無下にはできない
だから止めるよ
相手を想う心があるのなら、同じ心で、なんとしても!
【指定UC】を使用して仲間や村人に呼びかける!
みんな!どうか応えてほしい!
あの敵、いや人の想いの先に、ボクたちは進むんだって!
応えてくれた分の導牛となって――さあ、いくよ!
九十九・静香
※連携・アドリブ歓迎
ふむ、二度使えるというのは利点ですわね
我が筋肉にかけて必ず人々は救出して見せましょう
披露の型を使用し全身の筋肉を強化
真っ向から勝負を挑みますわ
強大な攻撃はグラップルの動きでできるだけ回避
召喚すればするほど我が筋肉は視線を受けてさらに強化!
そして筋肉オーラで敵の注目はどうしても私に向く
こちらに視線を引き付けた隙にもう1つのUC『九十九家筋肉給仕隊、出動!』を発動
筋肉メイド隊112人を密かにギャラリア近くに召喚
団体行動や救助行動が得意な者たちですから人々の救出を任せますわ
鎖?
筋肉なら素手でブチッですが?
敵が弱体化したならば力溜めした怪力の拳で召喚された敵ごと本体に必殺拳ですわ!
ヘルガ・リープフラウ
愛を与える
望みを叶える
死の苦痛から解放する
オブリビオンはいつもそう言って人の心を弄び、命を踏み躙る
悍ましいほどの欺瞞
これが愛だというのなら相当に狂っているわ
祈りを込めて歌う【涙の日】
自由を縛る鎖と枷を破壊し、
囚われ心身ともに疲弊したた人質に癒しと救済を
奴に殺された嘗ての犠牲者たちが迫り来る
惑わされないで
彼らはオブリビオン、敵が作り出した幻、過去の亡霊
成すべきは甘い同情ではなく呪縛の終焉
攻撃を見切り回避し
心を強く持って犠牲者たちの悲哀に満ちた慟哭を狂気耐性で堪えながら
今再び歌う【涙の日】
犠牲者たちには鎮魂と共に浄化を
そして彼らをこんな姿にした『偽善者』には神罰を
在るべき場所へと還れ
栗花落・澪
自身に【オーラ防御】を纏い
適度な【空中戦】と地上戦の切り替えも駆使して攻撃回避を主体
【浄化と祝福】及び【紅色鎌鼬】発動
【破魔】の炎で作られた鳥達は敵にしか害を及ぼさない
だからおじさま及び召喚された者達に対する【浄化】、延焼攻撃と牽制
救出妨害の阻害及び
一部の鳥は人々の拘束除去に使用
鎌はまぁそんなに広くないだろうし
動きに制限が出ない程度に量産、浮遊させ
遠隔操作でまとめて【なぎ払い】、攻撃や人々の拘束切断
一か所に密集させることで攻撃を防ぐ壁にする等臨機応変に使用
壊されても量産しなおせるし
もしも倒す機会が作れたのなら
全部まとめて突っ込ませます
肉体的な力は無いけど魔法は得意なんだ
ごめんね、おじさま
村崎・ゆかり
イクシア・レイブラント(f37891)と
第二UC:式神十二天将召喚儀
邪魔させてもらうわよ、おじさん。
召喚儀で召喚した式神十二天将とイクシアと自分に摩利支天九字護身法を付与。そっちが660倍の戦闘力強化ならこっちは1380レベルの防御力アップよ。
獣型に折った幽世千代紙を大型獣の式神とし、大量に袖口からこぼしていく。
あなたは確かに力を得ている。でも対多数の戦い方じゃない。そこをつかせてもらうわ。
獣型式神を「集団戦術」で十二天将に指揮させ、「陽動」とする。
ほら、よそ見してると式神の怒濤に飲み込まれるわよ。
イクシア、救助活動に必要なら、あたしの式を使っていいよ。
強化が全部剥がれたら、どうやって戦うの?
イクシア・レイブラント
村崎・ゆかり(f01658)と。
第2UC:サイバーツール
わかった。ゆかりさんも油断しないでね。
ゆかりさんにドローンを1機追従させ[撮影、情報収集]。戦場の情報は常に把握しておく。
[推力移動、空中機動]を適度に使い素早く救助活動。UC【サイバーツール】で展開した運搬用ガジェットとゆかりさんの式(大型動物)で救助者を脱出させる。
あとは状況次第。
救助完了前にゆかりさんの防備が破られたり、負傷したなら、抱きかかえて撤退。
救助完了後も継続して戦えるようなら、前に出ていっしょに戦う。格闘技をシールドビットで阻害し、リーチで勝る大型フォースブレイドで[鎧防御無視、なぎ払い]。一方的な善意もここで終わりよ。
新山・陽
かつては今よりも、もう少しマトモだったのかもしれない貴方
己のみで醸す狭い善意の言葉は、妄言と何が違うのでしょう
尊厳を傷めつけられ続けた彼ら人質の目を見れば、私は行動あるのみです
救出に関しては、UC【当然の行為】を発動して人質を背に【かばう】ことで確保し【ダッシュ】や【逃げ足】を使って救出を試みます
敵による【君もまた、救われるべき未来なのだ】の攻撃に対しては、UC【凍えた液鋼】を操り対処を試みます
救われるべきは村人。加えて私は、人質のみなさんが今の貴方から救われることで、かつての貴方の尊厳も損なわれないのだと信じたいのです
ロラン・ヒュッテンブレナー
・アドリブ絡み歓迎
なんて人数が囚われてるの…
今まで来た中でも一番ひどい人間画廊なの…
一人でも多く救出するの!
召喚された者たちに氷属性攻撃魔術で牽制、一瞬でも凍らせてその隙に狼の脚力としっぽを使った身のこなしで囚われてる人たちに近寄るの
接近できたらUCシスター・ネットワーク発動
おねえちゃん、この拘束を解析して解除するの、手伝って!
結界を多重展開して割られる度に張り直してなんとか耐えるの
今助けるの!
救出しながら結界のダメージから相手の力を解析
月光城に充満する月の魔力を吸収して溜め込んでおくの
隙が見えたら、相手の魔力や召喚物、人々への拘束にも浸食する雄叫びを響かせるの
UC発動
『うおおおおぉぉぉん!』
最初に動いたのは少し大きなリスの様な姿形をした猟兵シシトル・ウィッシュハーバーだった。
「ダメだ!それはやっちゃいけない!」
願う様に結ばれた印は解放の属性を付与されオブリビオン、ジョナサン・ランバート・オルソレグへと放たれる。
驚いた顔をしたジョナサンの手は意志とは別に村人を離し、呼吸器官が解放された男はゲホゲホとせき込みながら倒れ込む。
「君たちは……」
猟兵、という言葉よりも先にマッスルポーズを決めて居る存在が目に入った。
九十九・静香(つくも・しずか)である。
猟兵?えっ、なんかめっちゃマッスルな人、えっ、具体的に言うとサイド・トライセップスを決めているムッキムキな女の子が……えっ?
無論他の猟兵はスルーしている。どうして?誰かツッコミとか入れないんですか?
オブリビオン、ジョナサンはちょっと眉間の辺りを揉んだ。
すっごい見なきゃいけない気がしてくるオーラがあの筋肉にはある。サイドチェストに変わった。
「……なるほど。素晴らしい筋肉をしているね。」
ジョナサンは思った。とりあえず目が離せなくなるのは困るからあの女子から|救おう《殺そう》、と。
老人が、一歩踏み込んだ。
それだけで充分な距離が有った筈のその場所に、オブリビオンは現れた。
拳が少女に向かう。避けようとしたが、間に合う筈が無い。
鈍く、何かが壊れる音がする。
しかしその音を上げていたのは、村崎・ゆかりのオーラで作られた1380レベルの防壁だった。
「邪魔させてもらうわよ、おじさん」
通常の敵であれば破れるはずの無いオーラ防御が、しかし半分近く今の一撃で吹き飛んだ。
なるほど、これが660倍されたオブリビオンの力なのだろう。
間髪入れず次の拳が襲い来る。
猟兵にその速さを捉えられるかと言われれば、無理だ。
そもそも通常のオブリビオンでさえ5人以上の猟兵の力があって倒せるというのに、その力が何百と上がっている化け物に、どうしてそんな一個人の力が通じるものか。
解っている。
解っているとも。
それでも村崎・ゆかりは立つのだ。
ここでこのオブリビオンを足止め出来れば、それだけ共に来たイクシアと召喚している式神が、囚われている人々を救えるのだから。
しかし思ったよりもオーラが吹き飛んでいる。このままではあと2発、耐えられるか危うい。
そんな時、栗花落・澪(つゆり・れい)の紅い鎌が何十とゆかりのオーラとオブリビオンの拳との間に、無理やり捻じ込まれ粉々になっていく。
初撃の時程、オーラは削られていない。
これなら
「ごめんね、おじさま。こういう魔法は慣れてない?」
次々と現れる澪の澄んだ美しい鎌とゆかりのオーラ防御との二重防壁で稼げる時間は数十秒。
しかしその数十秒の間は、静香、ゆかり、澪の三人にだけ集中が向いている。
その僅かだが、猟兵にとって短くはない数十秒が、人質を解放する事に専念出来る時間だ。
さぁ、始めよう。
新山・陽(にいやま・よう)は首を掴まれていた男性を背に隠し、じりじりと移動していた。
最もオブリビオンに近い場所に居たその人を安全な場所まで移動させるには、この方法が一番だったからだ。
見つかれば恐らく死ぬ。いや、猟兵である自分は死なず大怪我で済むかもしれないが、村人はそうはいかないだろう。
だからこそ慎重に、行動しなくてはならない。
しかし目の前には別の村人が、その行く先を邪魔する様に立ちはだかった。
何故、と問おうとして口を噤む。
これは敵のユーベルコードが自動的に発動されたからだろう。次から次へと溢れ出ている。
冷気を纏う鋼球を周囲に展開させはしたが、陽はそれを使う事を躊躇った。
オブリビオンが呼び出した者とは言え同じ村人に見える誰かを破壊するのを、自身の背後に庇っている男に見せるのは彼のトラウマになりかねない。
ぎゅっと口を結び彼らの攻撃に耐えようとした陽の目の前で、温かな光が満ちた。
「主よ。」
ヘルガ・リープフラウによって紡がれる鎮魂歌が、光と共に亡霊達を包む。
「御身が流せし清き憐れみの涙が」
光、光だ。|暗がり《ダークセイヴァー》で生きて来た者達にとって、目にする事は叶わなかった希望だ。
「この地上より諸々の罪穢れを濯ぎ」
亡霊が何かを言った気がする。
「善き人々に恵みの慈雨をもたらさんことを……」
しかし亡霊の言葉は届く前に、光に飲み込まれて消えた。
ヘルガは強く握った拳をさらに強く握る。
その言葉は悲哀だったかもしれない。あるいは、
最後に視えた僅かに上がった口角が、見間違いで無かったのなら。
ヘルガは睨むように前を向く。
狂気に対する耐性を総動員して、両の足で回廊を踏み仁王に立つ。
呪縛を断つべき者達はまだ、数え切れぬ程に居るのだ。
光の届かない位置では、亡霊達に押し流されない様、必死に囚われている村人へと近付く小さな人狼の姿が在った。
ロラン・ヒュッテンブレナーは鎖で繋がれた人々を見て奥歯を強く噛む。
「なんて人数……一人でも多く救出するの!」
なんとか一人の村人の枷へと手を乗せる。
「おねえちゃん、この拘束を解析して解除するの、手伝って!」
強く願う。すると鈍色の髪を持ったAIキャラクターがわらわらと枷や鎖の上に現れ分析、適格な解除方法の提案をする為に解析を開始する。
しかしこれには十秒以上の時間が掛かる。
その時間を稼ぐため、ロランは何度も何枚でも結果を張る。
「ううぅぅっ!」
物量に負けて結界が破れる。そこに再度結界を張る。破られる。張る。壊れる。張り直す。割れる。張る。
『ロラン、解析が終わったよ!』
「!ありがとうおねえちゃん!」
イクシア・レイブラントはドローンから送られる情報を高速処理しながら、ゆかりの式神達と共に村人の枷を破壊、運搬用ガジェットとゆかりの用意した大型動物の姿をした式へと救助者を乗せていく。
今は被害を抑えてくれている面々が居るからいいが、この後までは分からない。グリモア猟兵は気にしすぎるなと言っていたが、一人でも多く、外へと送るべきだろう。
「我々もお嬢様と筋肉の為、しっかりと働きましょうとも!!」
ガッシャンゴッシャンと音を立て九十九家筋肉給仕隊が村人の鎖を引き千切り、助け出した人々をお姫様抱っこで外へと全力ダッシュで送り届けていくのを背に、フォルク・リアは謳う。
「その翅に虚ろなる瞬きを宿せし夢幻の蝶」
指揮でもするように小さく動かした指先に、一匹の翡翠色の蝶が止まる。
「その燐光に触れし者を常夜へ導け」
お行き、と押し出せばその蝶は群れとなり、光で、あるいは力で、枷を解かれた者達の所へと羽搏いて行く。
「蝶に触れてくれれば外に送り届けられる。さぁ、その手を伸ばすんだ。」
静かに、なぜか耳へと届く声が村人達へと広がっていく。
鎖、枷の解除、そしていざ搬送を、となった時
「まって!」
そこへストップを掛けたのは、猟兵であるシシトルだった。
シシトルは今自らの手で結界を張り、見えない手で村人の|枷《封印》を解いて回っていた。
シシトルの結界を亡者達がガンガンと叩く。
オブリビオンの攻撃を防いでいる面々が耐えられるのも、あと僅かだ。
けれどシシトルは選んだ。彼のドリームキャッチャーが少しずつ原型から離れて行く。
「ごめんよ!でもボクは心の守り人として、こうしなきゃいけないんだ!」
見えたのだ。あのオブリビオンの心は今、この先の未来へと進む村人を憂いている。
弱いままで生きて行くしかない人間達を、ただ純粋に心配し、だから力を与えようとした。
間違っている。
今オブリビオンがやっている事は間違いで、その善意だって間違いで、けれど相手を想う心は、確かに、確かにあの|オブリビオン《人類の敵》にも在ったのだ。
「みんな!どうか応えてほしい!」
30cm程しかない小さな身体で、精いっぱいの声を張る。
「ボクたちは進むんだって!」
村人に願う。仲間に願う。
届いて欲しい。いや、届けるのだ!ボクが!
一人でも多く、一人でも健やかにこの先を生きて欲しいと願った、善人だった者へと!
「どんな困難が待ち受けていたって!今のままでも、弱いままでも!それでも精いっぱい進んで行くんだって!」
もう一度、精いっぱい声を張り上げる。
「どうか、応えて!」
オブリビオンの注目が、シシトルへと向く。
ドリームキャッチャーとともに結界が砕けたその瞬間、白い猛牛の群れがシシトルを乗せて津波の様に駆け出していた。
轟々と足音が回廊に響く。
それは猟兵よりもずっと弱く、ダークセイヴァーでは生きて行くのすら難しい者達の、それでも確かに宿る意志を乗せて走り亡者を、オブリビオンを後退させる。
その隙にオーラ防御が切れたゆかりを、マッハ10.6の速度で近付いたイクシア・レイブラントが抱えて下がる。
「ゆかりさん、無茶はしないで」
「ごめん。でも上手く行ったみたいね」
シシトルへの応えを返した村人達も、白い牛が現れたのと同時にすでに外へと向かわせている。
まだ助け切れていない者も居るが、オブリビオンの強化解除は圧倒的に進んだ。
これなら敵との戦闘と並行して救助する事も可能だろう。
「ありがとう、ゆかりさん」
「どういたしまして」
ぱちり、ウィンクをひとつ返して、ゆかりは息を整える。戦いはまだこれからだ。
「指先辿る影の鎖は――」
黒鎖がオブリビオンとその周辺から湧き出る亡霊達を捕縛し、除霊と破魔を込めた蒼い炎がそれに次ぎ、黒い鳳仙花の花弁はオブリビオンにだけ降り注ぐ。
フォルク・リアは解放された村人を送り届ける為蝶の群れを途切れさせる訳にはいかない。使用者の思い通りに動く群れは、そう思考していなければ動かないに繋がるだろう。故に今出来る事は手数の多いコードでの足止めだ。
「人を捕らえて利用して善人思考とは、歪んでいるにも程があると言う感じだが」
けれど確かに、あのオブリビオンは村人ごと猟兵を一気に殺そうとはしなかった。
亡者が行う事も殺傷というより妨害だ。
「利用させて貰う分には有益だったな。」
今回防御系のユーベルコードを発動出来なかったフォルクにとって、そういった行動は有難かった。
結果今もこうしてオブリビオンの妨害をしながら何人もの村人を蝶へと避難させ、外へと移動させ続けられているのだ。
もちろん、敵の攻撃を集中的に受けてくれた猟兵が居たというのも大きいが。
「愛を与える、望みを叶える」
ヘルガ・リープフラウは祈る様に白く美しいその手を胸の前で握る。
「死の苦痛から解放する」
そして強く、強く老人のオブリビオン、善人ジョナサン・ランバート・オルソレグを睨みつけた。
「オブリビオンはいつもそう言って人の心を弄び、命を踏み躙る」
父親が殺されそうになっていた時の、子供の顔をあの老人は見ただろうか。
父が生きている事に安堵し言葉が出ない嗚咽を漏らす子供の声を、あの偽善者は聞いたのだろうか。
「悍ましいほどの欺瞞……これが愛だというのなら相当に狂っているわ」
死は、死でしかない。
オブリビオンになる事は、救いではない。
けれどそれすら、成ってしまった者には解らないのか。
「Lacrimosa dies illa,」
ヘルガは歌う。
「qua resurget ex favilla」
光が今再び回廊に広がり、動きを止められているオブリビオンに裁きの光を与え
「judicandus homo reus:」
未だ囚われている村人には救済を与えていく。
「Huic ergo parce Deus.ーーー」
許したまえ、どうか赦したまえ。
願わくば、死が唯一救いとなった者にもどうか、慈悲があらん事を。
鳥が、飛び立つ。
栗花落・澪が炎の鳥達が群れを成し飛ぶ。
救済の光で脆くなった村人の枷を外す為に半数が行き、もう半数は亡者の浄化へと羽搏く。
度重なる鎌の増殖は魔力こそ消耗しなかったが、少しでも遅れれば命取りとなる攻防がじくじくと脳への疲労として蓄積されている。
それでも澪は鳥達を動かす。ああ、頭が痛い。酸欠かもしれないな。なんて少し他人事の様に思いながら。
がむしゃらに、一人でも多くを助ける為に手を、頭を、動かす。女の子みたいな見た目だとしても、男の意地で両の足をしっかりと踏みしめて。
最後の一人を解放してようやく、息を吐く。
ふらつく頭を気合で固定し敵に向けて放つ為鳥を、鎌を、一つに集め放とうとする。
しかし、強化が解除されたとしてもオブリビオン。そう容易くは殺されない。
光を、黒い花弁を掻き分け、切り裂き動く姿は、疲労し狙いが定め難い今となってはこの一撃が届くか危うい。
歯嚙みする澪の横に、新山・陽が立った。
「私が敵の動きを止めます。」
減ってしまった冷気を纏う鋼球は、しかしそれでも200を超える。
それらが一気にジョナサン・ランバート・オルソレグへと突進し、次々と弾けその身体を凍らせていく。
呻く様な音が老人の口から零れ、動きが止まる。
「今です!」
「ありがとうお姉さん!」
太陽に程近い焔が、オブリビオンへと放たれた。
間近で大型の爆弾が爆ぜた様な衝撃が、猟兵達に襲い掛かる。
未だ外へと向かっている途中だった蝶を守る様に九十九家筋肉給仕隊がピラミッドを作り、爆風と炎に耐えきっていたのは今シリアスなので省略するがそんな熱い場面が有った事は心に留めて置いて欲しい。ありがとう筋肉。
焔が晴れた先に居たのは、ボロボロになった|オブリビオン《偽善者》だ。
小さく咳き込み、しかし杖を構え直す。
戦意は未だ衰えていない。
老人の影から過去に殺した者達が尚も現れようとしたその時
「うぉぉぉおおおおおおぉぉぉぉぉぉん!!」
壁を振るわせる狼の遠吠えが、その影と亡霊を搔き消した。
それはロラン・ヒュッテンブレナーが自身の人狼病と加速と精神の安定を代償に放った超常を貪る人狼の咆哮だった。
彼は村人達を解放しながら結界への攻撃を分析し、そこから相手の魔力、能力を解析していた。
そして確実にオブリビオンを仕留める為、月光城の月の魔力を溜め続けていたのだ。
狼の姿になった人狼は、四つ足を踏みしめ威嚇する。
ジョナサン・ランバート・オルソレグの影が在った場所には、今は月の光が揺蕩っていた。
「馬鹿な……」
動揺を口にしたオブリビオンが咄嗟に手を掛け引き抜いた刃を、イクシアの光の盾が阻害する。
「おじさん、対多数の戦いって得意?」
言いながらゆかりは手を挙げる。
すると後退してから今までの間袖口から溢し続けていた幽世千代紙で作られた獣型の式神が、十二天将と共に立ち上がりオブリビオンの四方を囲むではないか。
自立する式神が従属する式神を率い、隊となる。
数の暴力は最も単純で、そして強い。
ここもっと格好良く描写したかったんだけどもKS情報の整理が苦手なのでなんかめっちゃ格好いいシーンを脳内で補っておいて欲しい。ちょっと整理しなきゃいけない情報が多くて……ごめんな……。
「イクシア、動きは止めたよ」
「ありがとう、ゆかりさん」
坦々と返したイクシアの手には人一人分の大きさに近い光の剣が輝いていた。
式神共々、となるのはご容赦願いたい。
動きを止められていたオブリビオンは、ガードすら出来ず薙ぎ払われる。
猟兵達の勝利だった。
「さて」
と誰が言ったかは分からないが
「外で待ってる村の人達も、フォローしないとだね」
そう言った誰かに続いて、|猟兵達《勝者》は回廊を後にする。
一人、残った者が居た。
新山・陽だ。
陽は今にも崩れて消えそうな老人へと語る。
「救われるべき村人は、救われました。」
先へ進むと、村人は意志を持って頷いた。
確かに、光を見た。
希望を見た者達の瞳の輝きを、過去の貴方は誰よりも望んでいたのではないでしょうか。
「私は……」
本当にそうかは分からないけれど
「皆さんが今の貴方から救われることで、かつての貴方の尊厳も損なわれないのだと、信じたいのです。」
老人は何も語らない。もう、何も見えていないし、聞こえていないかもしれない。
だからこれはただの独り言だ。
しかし
「きっと、彼の想いは守られたよ」
シシトルは頷いた。
心を見ることが出来たシシトルは、それに頷く事が出来たから。
老人だった灰が、流れて消える。
海へ帰ったのか、出来れば解放されていれば良いのだけれど。
外へ出た陽とシシトルはビックリした。
何故なら、なんでか村人達が筋トレしていたからだ。
「そうですわ!筋肉はすべてを解決しますのよ!」
スクワット!セイ!スクワット!
九十九・静香の動きに合わせて、村人達が頑張って筋トレをしている。
他の猟兵曰く、出てきたら既にこうなっていたんだそうな。
「何もしないままでは何も出来ません!けれど筋肉はそんな我々を支え、次なる道を示してくれますわ!」
セイ!ラスト10回!正しいフォームで!
「負けてはいけませんわ!信じれば必ずやり遂げる事が出来ますの!ですから皆さん、どうか諦めずについてきてください!」
うおぉぉぉお!!
村人達の熱い声が暗いダークセイヴァー世界に響く。
まぁでも確かに、こんな世界なら筋肉が有って損をする事は無い。
正しいフォームで簡単に出来る筋力トレーニングは、案外あのオブリビオンが求めていた物に最も近い善なる答え……だったのかもしれない。
|ちゃかぽこちゃかぽこ《めでたしめでたし》
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(おまけ)
「えっ、俺が蝶で村まで届けるのか?」
耳を疑うフォルク・リアにどこかから声が届く。
筋トレの疲労で動けなくなった村人を安全に送り届けるのに、最適な人材でしたし……村人達にも「なんかいい匂いがしてすごい落ち着く空間だった!」「私あんなに綺麗な月初めて見たの!」「ちょうちょきれい!」と大人気なユーベルコードだったので……あの、無理にとは言わないんですけども、出来ればその、お願いしたくてですね……。
|この声《地の文》どっから聞こえるんだろう。フォルクはちょっとだけ思ったが、深淵を無駄に覗くのも野暮なので考えない事にした。
「……まぁ、いいだろう。辿り着いた村で、何か新しい術のヒントが有るかもしれないな。」
やったーーー!!!いい人だーーーー!!!ありがとうございますやったーーーーー!!
と、そんな事もありましたとさ。
おしまい!!
大成功
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