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闇の救済者戦争⑬〜『欠落』の守護者は殺意660倍

作者：七転 十五起

　――グリモアベース。
　ダークセイヴァー世界で勃発中の『闇の救済者戦争』で、新たな動きがあった。
　それは、禁獣『ケルベロス・フェノメノン』の欠落のヒントが月光城に眠っていると予知されたのだ。
「もともと第五層の『月光城』は、外敵……おそらくは異端の神々と戦う為の城塞だと考えられてるよ。でもねっ？　今は、デスギガス災群に乗って現れたこの城塞群の各々を治める、第五の貴族をも凌駕する『月光城の主達』が、その城塞群の中央に『ケルベロス・フェノメノンの欠落』を隠しているっぽいっ！」
　そう語るのはグリモア猟兵の蛇塚・レモン（白き蛇神憑きのシャーマンクイーン・f05152）だ。
　禁獣そのものは、弱点である『欠落』を切り離して別の場所に隠匿するから『無敵』なのだ。
　故に『欠落』を破壊すれば、禁獣『ケルベロス・フェノメノン』の殺害が実現可能となる！
「そのためにも、みんなには月光城の深部に存在する謎の通路……『魔空回廊』へ向かってもらいたいんだよっ！　その先の奥に『欠落』が隠されれてるっぽいからねっ！　でも、問題がいくつかあってね……っ？」
　急にレモンの表情が陰る。
　この様子はかなりまずい状況のようだ。
「まず、この『魔空回廊』で待ち構えているのは月光城の城主本人で超強いっ！　そんな城主が『月の眼の紋章』と融合してパワーアップ中！　しかも、城主は『魔空回廊』の中では超絶強化されちゃうっ！」
　ってことは、どういうことだってばよ？
「みんなには、660倍に強化された月光城の城主と戦って討伐してもらわなきゃならないんだよ……っ！」
　勝てるか、ンなもんッ!?
　やめだやめだ、と解散しそうになる猟兵達をレモンが必死に引き留める。
「ちょ、ちょっと待ってよ～っ！　ちゃんと対策も予知してるからっ！　実はこの『魔空回廊』には捕らわれた人間たちが美術品のように『展示』されててねっ？　城主はそれを『｜人間画廊《ギャラリア》』と呼んで、彼らから吸い上げた命で強化してるよっ！」
　……つまり、展示品扱いされてる人間達を救出すれば、城主は弱体化する？
　そうなればただのオブリビオンと変わらず、猟兵が殺せるって事？
「そのとおりだよっ！　なので660倍パワーの城主の攻撃を掻い潜って、｜人間《展示品》を救出して弱体化を試みつつ城主へダメージを蓄積させれば勝てるって話だよっ！　確認できた『展示』されてる人数は11人だから、半数以上救出できれば城主の強化バフは消失するっぽいっ！」
　なんともエグい難易度の任務だが、人間の命を糧に好き勝手しているなら懲らしめなくては！
「この任務が合成功すれば、戦争も猟兵側へ大きく傾くのは間違いないよっ！　だからみんな、頑張ってっ！」
　レモンはグリモアを輝かせて、猟兵達を月光城の『魔空回廊』へ転送してゆく。

　果たして、660倍の月光城の城主を撃破し、禁獣の『欠落』を発見・破壊できるのだろうか？

第1章 ボス戦 『完全なる世界を望むもの『シシリー』』

POW   :    近づいていいって誰が言ったの？ 【瞬間的に超強化する自信の腕や足】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。 SPD   :    避けていいって誰が言ったの？ 単純で重い【血の大鎌】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。 WIZ   :    逃げていいって誰が言ったの？ 【超音波と衝撃波】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。 イラスト：善治郎 👑11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

　――月光城・『魔空回廊』。
　ここに城主こと完全なる世界を望むもの『シシリー』が『展示物』達を眺めてうっとりと佇む。
「ああ、キレイ……！　その命であたしをもっと強くして？　もっと苦しんで？　あはは！」
　完全なる世界のために、外の神々を駆逐すべく立てた月光城。
　その地下に広がるこの『｜人間画廊《ギャラリア》』から力を吸い上げるシシリーの力が660倍に増幅された。
「あたしの求める完全なる世界！　すべての者があたしに跪いて、その姿を禁獣様に拝見していただくの！　その甘美な称賛を一身に受ける……嗚呼！　想像しただけでゾクゾクしちゃう！」
　展示された人間達を引っ叩いて苦痛を与えながら、シシリーはけらけらと嗤う。
　そんな中、猟兵達が次々と転送されてくる。
　侵入者に気が付いたシシリーは、異物を前に殺意をみなぎらせる。

「ちょっと、この回廊に近づいていいって誰が言ったの？　殺すわよ？」

　睨まれただけで口から内臓が覇気出そうなほどにおぞましい威圧感を放つシシリー！
　猟兵達は660倍の殺意と戦闘力を前に、目的を果たせるのだろうか……？






　猟兵達が『魔空回廊』に転送された瞬間、凄まじい殺気が全身に突き刺さる感覚に苛まれた。
　この『魔空回廊』を含む月光城の主である完全なる世界を望むもの『シシリー』である。
「なにさっきから黙ってあたしを睨んでるの？　気に食わないわ！　絶対殺してやる！」
　シシリーは自分の血液で大鎌を創造すると、すかさず猟兵達へ襲い掛かる！
「うおおっ!?　660倍に強化されてるとか、まともに相手してたら命が幾つあっても足りないぜ!!」
　朱塗りの鬼面こと神代・凶津（謎の仮面と旅する巫女・f11808）は、相棒の神代・桜の肉体を操って超人的な死体能力を発揮してどうにか初撃を回避した。
　だが回避したことで直撃地点の石畳が爆散して、クレーターめいたすり鉢状の窪みが一瞬で出来上がっていた。
「避けていいって誰が言ったの？」
　一撃で殺せなかった事が不満そうなシシリーが神代コンビを睨む。
「……間一髪、でしたね」
　桜もその長い黒髪の毛先が僅かに刈りこまれたのを目の当たりにして肝を冷やしている。
　凄まじい膂力から俊敏な所作で振り抜かれれる鮮血の大鎌の切れ味は、まともに喰らったら成人女性の肉はおろか骨と内蔵すら容易に斬り裂くだろう。さらに言えば回避が出来ても、その余波で身体が吹き飛びかねない！
　この斬撃に、その場に居合わせた四王天・燦（月夜の翼ルナ・ウォーカー・f04448）が即座に対応する。
「それじゃあ結界術行きますよー。んで、この結界障壁を組み合わせて、お前を覆って時間を稼がせてもらうぜ。ついでにその障壁、光を遮断するから中は真っ暗だ」
　ドーム型遮光結界にすっぽり覆い尽くされたシシリーが、喚きながらガンガンと大鎌で内側から暴れている。
「ちょっと！　何も見えないじゃない！　こんな脆弱な結界、すぐに壊してやるわ！」
　その言葉通り、内側から数発殴られただけで亀裂が入り始める。長くは持たない！
「おい、今のうちに『｜人間画廊《ギャラリア》』に展示されてる人たちを救い出すぞ」
　燦が真っ先に走り出し、自分の好みの女の子を発見すると強引に魔法の小箱である『夢匣』パンプキンの箱庭世界の中へ押し込んだ。
「きゃあっ！　吸い込まれる～！」
「急ぎなので乱暴なのはマジすまん！　でも中は食事も寝床もある快適空間だ、すこし中で休んでてくれ！」
　女の子はあっさりと小箱の中へと収納され、燦の懐へ小箱は押し込まれる。
　これでまず１名救出完了だ。
「さて、まだまだ救出しなくちゃだけど……その前に展示された人たちを守るのが先かな？」
　燦は『展示品』にされている人々を背にして身構えた。たとえ相手が燦好みの美少女でなくとも、命を守る事は最優先しなくてはならない。
　その視線の先には、結界障壁を粉々に砕いて中から飛び出すシシリーの姿があった。
「ふん！　脆いわね、まだガラスの方が頑丈だったわ！　って何を勝手にあたしの『｜人間画廊《ギャラリア》』に近づいちゃってるわけ!?」
　猛然と燦へ駆け寄るシシリー。
　その間に、紅き鎧を纏う猟兵が割り込んだ。
「我は盾にして炎、そして悪を断つ剣なり！　纏うは｜女神《イヴ・ザ・プリマビスタ》の紅い霧！」
　レオンハルト・シャルラッハロート（不死鳥の天誓騎士・f38951）がユーベルコード『｜護りの紅い霧《クリムゾンヴェールオブイヴ・ザ・プリマビスタ》』を発動させ、シシリーの鮮血の大鎌を愛剣『熾炎』で弾き返した。
　鮮血の大鎌はレオンハルトの介入で粉砕！
「はぁ？　なによあんた？　近づいていいって誰が言ったの？」
　シシリーはレオンハルトとの間合いを更に詰め、超至近距離からワンインチパンチを押し込むように放った！
　鎧を貫通して突き刺さる衝撃が、レオンハルトの内臓を潰しにかかる！
「ぐはっ!?」
　660倍のユーベルコードが直撃！
　常人だったら内臓破裂で即死する威力をまともに喰らったレオンハルト。
　しかし、彼は不敵に笑みを湛え、眼前のシシリーへ言い放つ。
「くっ、やるな！　だが、これしきで我が騎士道は折れぬ！　熾炎の聖炎で焼かれるが良い！」
　なんとその場で耐え凌いだ上に、燃え盛る愛剣でシシリーへ斬りかかった！
　シシリーはこの斬撃を状況判断で蹴り技で軌道を逸らして訝しがる。
「あんた、何で生きてるのよ？　この『魔空回廊』の中じゃ、あたしは普段の660倍に強化されてるのに。さっきの一撃でどうしてミンチ肉にならないのよ？」
「死人が喚くな、耳障りだ！」
　レオンハルトはシシリーへ向かって猪突猛進、業火の斬撃をこれでもかと浴びせてゆく。
　それはレオンハルトの作戦であり、焦りであった。
（先程の一撃……無敵効果を持つボクのユーベルコードでさえ、凄まじい衝撃と痛覚を見舞ってしまった……！　正直、意識が飛ぶかと思った……！　まずい、このユーベルコードは死角から攻撃されると回避不能なうえに防御も適用されない！　この事実を悟られたら、ボクは間違いなく……死ぬ！）
　実際、レオンハルトとシシリーの実力差は歴然であった。
　660倍に強化されたシシリーは、レオンハルトの剣劇を児戯の如く片手で捌いてみせている。
「あー、鬱陶しい！　いつまでやる気なのこれ？　あんたじゃあたしを倒せっこないわ！」
「……ああ、悔しいがそれは認めざるを得ないようだな。我が無敵のユーベルコードを以てしても、貴様に手傷ひとつ負わせられないとは、非常に遺憾だ。だが、これでいい！　シュヴァルツェヴィント！　首尾はいいかい？」
　レオンハルトは相棒のグリフォンを呼びかけ、回廊に捕らわれた人々の救出に成功していた。
　漆黒のグリフォンが既に助けた人々を庇うように身構えている！
「どうだ、貴様の力の根源を奪ってやったぞ！　この人たちは返してもらう！」
「最初からそれが狙いだったのね！　ふざけんな、この野郎がーッ!!」
　怒りで我を失ったシシリーがレオンハルトを何度も殴打してくる。
　だがそれをレオンハルトは燃え盛るオーラを全力で放出し、生成した障壁と愛剣、そしてユーベルコードの無敵効果で凌ぎきる。
「貴様のような輩が取るような行動など、とうに識っている！　さあ、真っ向勝負だ！　掛かってくるがいい！」
「いい度胸よ！　そのイケメン顔を腐った残飯みたいに惨めな形に変えてあげるわ！」
　しかし次の瞬間、レオンハルトへ攻撃を仕掛けるシシリーは、不意に視界の傍らで何かが光った気がした。
　思わずその方向を向いてしまったシシリーが思わず感嘆の声を上げた。
「わあ……キレイ……！」
「こ、これは？」
　レオンハルトも目を見張った。
　回廊の闇の中を、いつの間にか数多の光放つ黄金蝶の群れが飛び交っているからだ。
「……式、召喚。【輝き黄金蝶】」
　桜の放った霊符から、次々と黄金蝶の式神が召喚されてゆく。
「おおー、これは絶景だねぇ」
　燦も思わず視線を黄金蝶が飛ぶ暗闇へ泳がせてしまう。
　凶津がドヤ顔に染まる。
「俺達には足止めにはぴったりの式神がいるぜ。頼むぜ相棒。この調子でじゃんじゃん出しちまえ」
「……勿論です」
　凄惨な戦闘が一変、幻想的な黄金の輝きに包まれる。
「そう、この手の輩に毎度お馴染みな黄金蝶。闇の濃いこの世界で使えばその効果660倍ッ！　……とはいかねぇが、確かに威力は上がるぜ。見ろよ、あの吸血鬼の嬢ちゃん、黄金蝶に釘付けだぜ！」
「あはっ！　なにこれ～！　素敵じゃない！」
　シシリーはまるで夢遊病患者めいて、ひたすら空中の黄金蝶に見惚れている。
「さあて、猟兵のお仲間さん達！　今のうちに要救助者を大量救出だ！　急げ急げ！」
「……敵の強化を削ぎましょう！」
　レオンハルトと燦は我に返ると、神代コンビと共にどんどん展示された人々を助けに回る。
「シュヴァルツェヴィント、みんなを乗せて出口へ向かって！」
　こうして救助された５人を乗せた漆黒のグリフォンが『魔空回廊』を無事に脱出してゆく。
「よっしゃ！　あとは……あいつだな！　一斉に仕掛けるぞ！」
　凶津の号令を合図に、猟兵達が一気にシシリーへ斬り込む。
「フェニックス、一緒に戦おう！」
　視覚外の攻撃に備えていたレオンハルトの不死鳥と共に、彼は大豪炎の一撃を放つ。
「流石の｜女の子大好き《アタシ》でもお前の行いは許容できん。つか、紋章や画廊に頼る時点で何が完全なのやら」
　燦は妖刀『神鳴』から迸る赤き稲妻と共に鋭い斬撃を繰り出し、更にシシリーの腕を取って強引に投げ技を懸けて石畳へ叩き付ける！
　そこへ飛び込んできた神代コンビの霊鋼の薙刀が振り下ろされた。
「悪趣味なコレクター趣味は、ここで終わらせてやるぜッ！」
　桜色の浄化霊力が、邪悪な吸血鬼の身体を焼き祓ってゆく。
「きゃあっ！　熱い熱い熱い！　なにしてくれるのよ！」
「そりゃこっちのセリフだ、シシリー」
　起き上がろうとするシシリーの顔を土足で燦が踏み付けて言い放つ。
　ヒドイ！
「お前の言動や『展示品』には愛がない。まるで皆無だ。だからこのまま背骨を圧し折っちゃる！」
「ぎゃあああぁぁっ!?」
　燦はシシリーの身体をあり得ない方向までゴキゴキと関節技で曲げてゆく！
「勢いを殺さず地面に叩きつけ！　曲がっちゃいけない向きに関節を曲げて！　急所に向けて一撃を叩き込む！　それがアタシのユーベルコード！　四王殺人剣『｜人体破壊術《サムライ・マーシャルアーツ》』だ！」
　強化度合いが削がれたシシリーにとって、慈悲のない体術コンボはかなりのダメージを被るのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

　ロラン・ヒュッテンブレナー（人狼の電脳魔術士・f04258）は幾度も月光城に足を運んでいる。
　その目的はただひとつ。
「人間画廊って、何度来ても嫌な場所なの。それに、人を展示品って……」
　魔空回廊に捕らわれ、城主の展示品兼供物になっている人々を救うためだ。
「きっと救い出してみせるの」
　そう決意を言葉にみなぎらせ、漆黒の大きな大きな狼耳をヒクヒクと動かして気配を探る。
　すると――。

『……くる、しい……』
『しにたく、ないよ……』
『たすけて……』

　展示されている人々の呻き声がロランの耳に入ってきた。

「あっちなの！」
　ダッシュで声が聞こえる方向へ走ってゆくロラン。
　しかしその途中、月光城の主である完全なる世界を望むもの『シシリー』が待ち受けていた。
「ここから先は通行止めよ。あんたも人間回廊から作品を盗もうとする泥棒ね！　殺してやるわ！」
　シシリーが身構える。
　ロランは事前情報で相手のユーベルコードの内容を把握している。
　故に、全身の筋肉を爆発的に稼働させるために大きく深呼吸した後、息を止めて弾丸のようにシシリーの傍らを走り抜けていった。
　無酸素運動による一時的な身体能力の向上にすべてを賭けて逃走開始！
「ちょっと！　逃げていいって誰が言ったの!?」
　シシリーの罵倒の直後、ロランの背に凄まじい轟音が鳴り響く。ユーベルコードで放たれた衝撃波に織り交じって超音波がロランの聴覚にダメージを与える。
（うるさいの……！　でも、このまま逃げればチャンスなの！）
　狼耳は超音波を敏感に拾うからこそ、シシリーの射程を完全に把握できる。
　そして無酸素運動によって一気に展示された人間達の元へ駆け寄ると、踵を返してシシリーと対峙する。
「チャンスは一度きり！　狼の咆吼よ、響け！　｜超常を貪る人狼の咆哮《ヴォイド・ハウリング》なの！」

　うぉぉぉおおおおおおぉぉぉぉぉぉん！

　ロランの顔に魔術文字が集中すると、その姿が狼へ変化！
　シシリーのユーベルコードをジャックして逆に吹き飛ばし、見事人々を救ったのだ！

大成功 🔵​🔵​🔵​

　小雉子・吉備（名も無き雉鶏精・f28322）とアメリ・ハーベスティア（キノコ好きの「よいこ」な地竜の末裔・f38550）のコンビは、早速『魔空回廊』にて月光城の主である完全なる世界を望むもの『シシリー』と対峙する。
「まだ猟兵が来るの？　次から次へと、本当に鬱陶しいわ！　殺してやる！」
　シシリーの金切り声に吉備が言葉を返す。
「その言葉はそのまま返すよう！　色んな意味で悪趣味で胸糞この上ないよね、『｜人間回廊《ギャラリア》』って！」
　その内心では、早く囚われの人達を助けなきゃいけないと焦っていた。
　また、スーパーよいこなアメリはシシリーに対して激しい怒りを言葉にして発露した。
「人の命と尊厳をそんな風に……貴女は救い様ない悪い子なのです。貴女の様な人に、これ以上好きにはさせないですっ！」
「やってみなさいよっ！　まだまだ『魔空回廊』は、あたしに力を与えてくれるわ！　これで死ね、猟兵！　この回廊から逃げていいって誰が言ったの!?」
　シシリーは大声を上げると、その声が超音波と衝撃波になって『魔空回廊』内を乱反射しながら猟兵達を狙う。
　その身に宿す紋章の力だけでも普段の10倍の強化が施されているのに、『人間回廊』から吸い上げた生命力で66倍にそれが跳ね上がっているのだ。しかも逃げ場の少ない回廊という戦場で、音響攻撃はかなり凶悪な手段だ！
「やばい、反響してる!?　これは見切れないね……！　アメリちゃん、防御を！」
　吉備は回廊内に響く超音波と衝撃波に耐えるべく、時の愚鈍「スロウフールハウル」と雉鶏精の羽針を前方に一斉乱射する。これらには吉備の重力魔法が施されており、放たれた大量の針が持つ｜時間遅延《ディレイ》効果と合わせて音と衝撃の伝わり方を極限まで鈍化させてみせる。
　しかしこれでは完全に防げたわけではない。
　アメリは吉備を守るべく、持てる技能をフル活用して巨大剣アンチファルを魔力で浮遊させて刃に飛び乗ると、キノコ氷型弾幕『アイスマッシュ』と雷茸型弾幕『トロンマッシュ』をシシリーへ向けてすかさず発射した。
「吉備ちゃん、乗ってくださいなのです！」
「アメリちゃん！」
　アンチファルを足で盾のように垂直に立てかけたアメリが、吉備の手を強引に引っ張る。
　すると、衝撃波がアンチファルを押し出し、２人を一気に後ろへ押し出していった。
　大剣が２人を衝撃波から守る大盾の代わりになったため、幸いにもダメージは軽微に留められた。
　対して、シシリーは音響魔法を追加されたキノコ弾幕によって超音波を相殺され、氷と雷の乱れ撃ちにその肌を｜爛《ただ》れさせていた。
「きゃあっ！　もう、痛いじゃないのよ！　待ちなさあぁぁ～いっ！」
　シシリーが吹っ飛んでいった猟兵達ヲ追い掛けようとは知ってゆくのだが、そこには吉備がばら撒いた重力魔法と時間遅延魔法が撒き散らされた空間が待ち受ける。結果、幾ら強化されたシシリーといえども、そこを通過するまでかなりの時間を要せねばならなかった。

　その間に吉備とアメリは『人間回廊』に捕らわれた人々を救出するべく動いていた。
　命を絞られた人々を展示スペースから引っ張り上げると、その弱った身体に２人はユーベルコードでちりゅおを施していた。
「ひいろちゃん、治癒と身体強化を施して……練り上げた金丹に値する練気の拳で。金丹拳舞『練功金石拳』っ！」
　吉備が相棒たる赤き炎猿のひいろの力をユーベルコードとして借り受ける。
　赤き毛皮はたちどころに黄金色に輝きだし、金色の拳の形の気を救助者へぶつけてゆく。
　一見、暴力にも見えるこのユーベルコードだが、喰らった人々はたちまち元気を取り戻してゆく。
「すごい！　力が溢れてくるぞ！」
「今なら走って逃げだせそうよ！」
「それは良かったよう！　ついでにキビとアメリちゃんも強化なんだよ！　ひいろちゃん、お願いっ！」
　ひいろが吉備とアメリも黄金拳の気でぶん殴れば、660倍とまではいかないが、かなりの強化を得ることが出来た。
「ありがとうなのです、ひいろちゃん。アメリも頑張るのです！」
　残るぐったりした人々達へ、アメリは霊芝に似た薬効の茸と餃子の大地の力の合成によって状態異常も癒す光を放つ霊芝餃子もどき結界を発生させる。
「レイシに似た薬効のキノコなら……たしか、スーパーよいこランドにもあった筈、これと餃子のパワーを合わせて……見よう見まねで放つのです！　｜霊芝餃薬乃陣《れいしぎょうやくのじん》なのです！」
　回廊の一画に漢方茸と餃子のパワーが満ち満ちた輝きが充満する結界が出現すると、衰弱していた人々もすっかり持ち直し、更に逃げ出す気力がどんどん湧き出してゆく。
「再行動バフを付与したので、今なら皆さんだけでも逃げ出せる筈なのです！」
「ありがとう！　ずっと悩まされてた腰の痛みまで取れたよ！　これで全力で走れる！」
「今なら遠く離れた故郷まで走って帰れそうだ！　恩に着るぞ！」
　救助された人々は、見違えたかのように元気溌剌となって自力で回廊を脱出して月光城からダッシュでにげていったのだった。
「あとは……シシリーちゃんだけだね！」
「アメリ達がたくさん救出したから、そろそろ強化が失われるはずなのです！」
　２人が顔を合わせて力強く頷いたその時、ようやくシシリーが追いついた。
　だが先程とは一変して、肩で息を切って酷く疲弊しているようだ。
「はぁ、はぁ……！　よくも、あたしの『展示物』を盗んだわね!?　許さないんだから！」
　もう一度、超音波と衝撃波を２人へ放たんと身構えたシシリー。
　しかし今度は明らかに動きが鈍っている！
　吉備はすかさず再度重力魔法を籠めたスロウフールハウルと雉鶏精の羽針をシシリーへ早撃ちすると、アメリが緋緋色金製の超万能調理器具型詠唱兵器ことオルハリンクの回転動力炉をスピンさせて威力をブースト！
「やってやるのです！　吉備ちゃん、合わせてくださいです！」
　石畳の床を蹴って、スローモーションのシシリーまで一気に間合いを詰めるアメリ。
　ならばと吉備は背中の翼を広げて飛翔すると、上空から一気に急降下して駄菓子武器の黒蜜かけキビダンゴアイスバーから超冷気斬撃を繰り出す。
「了解だよう！　ひいろちゃんと、なまりちゃんも！」
　相棒の赤猿と青き狛犬にも援護を呼びかければ、怒濤の４連撃×２回行動でシシリーを圧倒！
「きゃあぁぁあ～～……！」
　遅延空間の中で合計８連撃をその身に浴びたシシリーは、悲鳴も超スローのままゆっくりと吹っ飛んでいった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

　箒星・仄々（ケットシーのシンフォニア・f07689）とカシム・ディーン（小さな竜眼・f12217）は、弱体化した月光城の主こと完全なる世界を望むもの『シシリー』と対峙する。
「回廊を突破して禁獣さんの欠落を見つけ出しましょう。それに何より、命を己の道具としかみないシシリーさんの所業は悪辣です。『人間回廊』の残る皆さんを救出して、シシリーさんを骸の海へと還しますよ」
　正々堂々とシシリーへそう宣言する箒星。
　対してカシムと相棒のメルシーはいつもの通りであった。
「おいこら、おめーみたいな奴は知ってますよ？　メスガキって奴だな？」
「はぁ？」
　シシリーはなんだこいつと蔑む視線をカシムに投げ掛ける。
「つまり分からせだね、ご主人サマ☆」
「だから何よそれ？」
　メルシーの言葉に怪訝な表情を浮かべるシシリー。
　そんなカシムとメルシーのアホアホコンビは、この状況でもシシリーへ恥辱を与えることを主に考えていた。
「つまりだな……おめーを屈服させて泣かす！」
「きっと泣き顔もそそるぞ☆」
「うわ、ろくでもなかった！」
　自身の貞操の危機を感じたシシリーが思わず青ざめた。
　この反応に箒星が訝しがる。
「おや、強化されて敵なしとお聞きしましたが？　もしや、もう既に力の大半を失われてらっしゃるのでは？」
　これは事実だ。
　猟兵達の活躍で『人間回廊』に捕らわれた人間達は当初の半数以下。
　これでは『魔空回廊』による強化を得ることは最早困難だ。
「つっても、彼奴にはまだ紋章の力が残ってやがる。まずはメスガキのクソ強化をどうにかしねーとな」
　カシムはすかさず動き出す。
　自身とメルシーに光学迷彩魔術を施すと、カシムはメルシーへ告げた。
「僕は『人間回廊』へ向かいます。メルシーは彼奴と遊んでやれ」
「ラジャったよ！　シシリーちゃんと大鎌対決だぞ☆」
「あっさり負けんなよ？」
「大丈夫！　仄々君もいるし！」
　名指しされた箒星は、竪琴を構えてポロロン♪と爪弾いた。
「ええ、援護はお任せください」
　カシムは十分にシシリーを抑え込む戦力があると判断すると、光学迷彩魔術をまとったまま忍び足でシシリーの脇を素通りしてゆく。
（よし、このまま救出作業に当たりましょう！）
　ついでに高価そうな美術品が飾られているのを見かけると、カシムは手癖で懐へぽいぽいとくすねてゆくのであった。

　一方、シシリーと対峙する猟兵達。
「さあ、行きましょう！　喝采のファンファーレ！」
　箒星が竪琴を爪弾くと、音色が魔力を帯びて光の五線譜となってシシリーに激突！
「きゃあっ！　なによこれ！」
　実体化した五線譜で後ろへ吹っ飛ばされたシシリー。
「近づいていいって誰が言ったの？って言いたいところだけど、これじゃ私が近付けないわ！」
「回廊というだけあって廊下の幅はそれ程広大ではないですね。だから例えシシリーさんが660倍の戦闘能力だとしても、音は回廊全体に広がりますから。これを回避するのは容易ではありませんよ？」
　希望に満ち溢れたメロディーが回廊内を反響すると、跳弾のようにあちこちから五線譜がシシリーへ向かって突っ込んでくるのだ。
　シシリーの必殺ユーベルコードは超接近しなくては発動できないため、吹っ飛ばし効果を持つ箒星のユーベルコードとはメタ的に相性が悪い。
　しかも光学迷彩魔術を纏ってステルス攻撃を仕掛けてくるメルシーもいる。
「鬼ごっこだよ、シシリーちゃん！」
　魔砲カドゥケウスから念動光弾をシシリーの死角から発射しながら即移動することで、メルシーは自身の居場所を悟られない工夫を施す。
「痛っいわね！　どこにいるのよ!?」
　鮮血で生み出した大鎌をデタラメに振るうシシリーは、メルシーの居場所を掴めずに一方的に打ちのめされる。そして再び五線譜に激突して吹っ飛ばされてゆくのだ。
「旋律が秘めた炎水風の魔力で貴女にダメージを与えてゆきますよ～」
　箒星の指先が更に早くなり、曲調もアップテンポで情熱的なフラメンコ風に代わる。
　小刻みなアルペジオから繰り出される五線譜の弾幕は、シシリーの全身を四方八方から打ちのめしていった。

　その五線譜は反響し、やがて『人間回廊』まで到達する。
　すると、展示されていた人達を救出していたカシムの身体ごと、展示品の人達が一斉に五線譜に激突して後ろへ吹っ飛んだ！
「うおおおおおっ？　これは仄々のユーベルコードか？」
　反響した音が小さかったせいか、吹っ飛んだ者達に怪我はない。
　しかも吹っ飛んだ先に待ち受けていた壁は五線譜のクッションで受け止め、全員が怪我をしないように配慮されていたのだ。
「仄々のやつ、ここまで読んでいたとはな……？　僕も負けていられませんね！　つかこれで『展示品』は全員か？　それはつまり……」
　カシムの顔が邪悪に染まる！
「おめーらはこの梯子を昇れ。そうすれば外に出られます。僕は……お楽しみターイムに突入です。メルシー！」
　魔力回路で繋がっているカシムとメルシーは、ある程度の距離感ならテレパス会話が可能だ。
「こっちは全員救出完了だ！　仄々にも礼を言ってくれ……！」
「お疲れ様だよご主人サマ！　えっとね、ご主人サマが仄々君にありがとう、だって！」
　メルシーの言葉で全てを理解した箒星。
　それはシシリーも同じだった。
「ち、力が……失われて……まさか、全員、救出したっていうの？　あの『人間回廊』の……！」
「もう観念してください、シシリーさん」
　箒星の弦を弾く音ひとつひとつが、今のシシリーにとっては榴弾のように重く凄まじい威力を誇る流れ弾だ。
　回廊の壁に叩き付けられ、低く呻くシシリーの四肢が、炎と氷の魔力で火傷と凍傷に苛まれてゆく。
「痛い痛い痛い！　や、やめて！」
「そうやって懇願した人々へ、貴女はどんな仕打ちをしたのですか？　赦されませんよ、その言葉は？」
　箒星が珍しく言葉に怒気をはらませる。
　その感情に呼応して、黒い体毛が紅青翠と七色に変化してゆく。
　オーバーロードによる真の姿が発露したのだ。
「さあ、これで最終楽章です！」
　奏でるのはシシリーへ送る鎮魂曲。
　音色は紅青翠と色鮮やかに変化しながら、シシリーへマシンガンの弾幕めいて立て続けに浴びせかけられる。
「ぎゃあああぁぁあぁぁぁっ！」
　悲鳴を上げるシシリーへ、更なる追撃が迫る。
「ご主人サマ、おそーい！」
「遅くなって悪かった！　じゃあ、そろそろ……」
「分からせタイムだぞ♥」
　カシムの短剣とメルシーの大鎌による、ユーベルコード超音速斬撃コンボが炸裂！
　これぞメルシー＆カシム『ロバーズランペイジ』だ！
「おいおい……避けていいって誰が言った？」
「逃げていいって誰が言ったかな♥」
「ひッ!?」
　シシリーが声を詰まらせる。
　その喉元へ、２人の刃が迫り――。

「「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラー!!」」

　超音速の連携がシシリーの骨肉をミキサーにかけたようにグチャグチャになるまで引き裂き、ものの数秒で蹂躙してみせたのだった。

　こうして、シシリーは倒れ、猟兵達は『魔空回廊』の先にある巨大な宝石を発見する。
　その名は『ヘリオライト』――『コギトエルゴスム』と呼ばれる絶対不壊の宝玉だ。
　しかし猟兵達はこれを容易く破壊してみせ、遂に禁獣『ケルベロス・フェノメノン』の弱点である『欠落』の破壊に成功したのであった！

＜了＞

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

最終結果：成功 完成日:2023年05月17日