闇の救済者戦争⑬〜月光城の吸血妃城主
「お集まり頂きありがとうございます。闇の救済者戦争が開始されてから早一週間経ちましたが、Q魔術で発見されました月光城城塞群の中央部に『ケルベロス・フェノメノンの欠落』と思わしき反応が予知されました」
秋月・信子(|魔弾の射手《フリーシューター》・f00732)は手にしているバインダーに綴られた資料を読み上げながら、グリモアベースに集結した猟兵たちへ今回の派遣先となる月光城についての解説を淡々と行っていく。
「転送先の月光城ですが、周囲の月光城に護られている形となっているためかオブリビオンの反応は城主であるヴァンパイアのみと観測されてます。それ以外の兵力は予知されておらず、私たち猟兵の侵入を察知すれば禁獣ケルベロス・フェノメノンの秘匿された『欠落』に繋がると思わしき謎の通路……『魔空回廊』の存在が確認された月光城最深部を護りに立ち塞がると思われます」
敵は唯一人。その方に歴戦の猟兵たちは朝飯前の仕事だと楽観しだすが、その空気を払うかのように信子は深く深呼吸するとともに資料を読み上げていく。
「この城を護るのはただの|ヴァイパイア《オブリビオン》ではありません。この月光城はデスギガス災群に乗って現れた月光城であって、城主は『月の眼の紋章』と融合を果たしたことで途轍も無い力を有しています。どんな力かと言うと、紋章と魔空回廊の相乗効果回廊で城主が魔空回廊内に居る限り、戦闘能力が元の『660倍』となり……その力はデスギガス災群に乗って現れた城塞群の各々を治める第五の貴族を凌駕するどころか、オブリビオン・フォーミュラを匹敵するものなのです」
この信子の発言に楽観ムードであった猟兵たちの表情が曇り始めた。それほど強化されていれば下手なオブリビオン・フォーミュラよりも強力なのでは、と一同が訝しむ中で信子はバインダーに挟まれた資料を捲って解説を続ける。
「ですが、これには仕掛けがあることも予知でまるっと判明していますのでご安心ください。私は常に用意周到ですので、ちゃんと月光城の城主に対抗する手段も資料に纏めています。月光城の城主『吸血妃アルカーディア』ですが、彼女は極めて強大な力を持つヴァンパイアであります。しかし、強大であるが故にその力は普段封印されていまして、完全に発揮するためには大規模な儀式や特別な生贄を必要としなければなりません。大規模な儀式とは先程にお話した月の眼の紋章と魔空回廊を直結した相乗効果ですが、特別な生贄も魔空回廊内に『|人間画廊《ギャラリア》』の展示品として各地で攫ってきた人たちを展示品さながらに牢獄へ囚えているのです」
つまり、魔空回廊にぐるりと取り巻かれる形で絵画さながらに額縁の牢獄が誂えられており、その中に収容されている人間の生気を得て吸血妃は自らの封印された強大な力を遺憾なく発揮出来ている。ということは、月光城の魔空回廊にある牢獄から生贄として生かさず殺さずに生かされている彼らを解放するごとに彼女は次第に弱体化し、半分ほどの人々を解放すれば並のオブリビオン程度にまで力を落とすことになる。
「とは言え、無策に生贄となっている囚人を救い出そうとすれば、それを察知した城主が妨害を仕掛けてくるのは火を見るよりも明らかとなります。彼女の目を如何に掻い潜りながら、または紋章と回廊によって得た人外の力を如何に切り抜けるかが重要となるでしょう」
想像すれば想像するだけ骨の折れる話ではあるが、成功すれば得た欠落によって禁獣『ケルベロス・フェノメノン』との決戦を上手く運べれるかもしれない。そうとなれば、善は急げと意気込む猟兵たちを信子は見回し、彼らの決意に満ちた目を確認する。
「それでは、これから皆様を月光城砦群の中心部に佇む月光城へと転送致します。厳しい戦いとなりますが、ご無事にお戻りください……」
信子の影が四方八方へと伸びて内に宿るグリモアが輝くと周囲は白く染まる。猟兵たちは決戦の地となる偽りの月に照らされる月光城へと転送されるのであった。
ノーマッド
ドーモ、ノーマッドです。
長期連休も終わり何時もの平日となりましたが、皆様も平常運転に戻られたでしょうか。北国では早朝の気温は2~3度で日中は夏日の陽気と中々堪える激しい寒暖の差でありますが、皆様も休みの疲れで体調を崩されないようお気をつけくださいませ。
●戦場解説
シナリオ難易度は、『やや難』となります。
「【Q】月が導く第六層」の結果、発見された戦場です。
第五層の「月光城」は、外敵……おそらくは異端の神々と戦う為の城塞と思われますが、今やデスギガス災群に乗って現れたこの城塞群の各々を治める第五の貴族をも凌駕する「月光城の主達」は、その城塞群の中央に「ケルベロス・フェノメノンの欠落」を隠しています。この戦場を制圧すると、⑱禁獣『ケルベロス・フェノメノン』の欠落が判明した上、それを破壊して、禁獣の持つ「無敵能力」を無効化できます。月光城深部に「おそらく禁獣ケルベロス・フェノメノンの秘匿された『欠落』に繋がる」と思しき謎の通路、『魔空回廊』の存在が判明しました!
ですが、ここを守っているのは『月の眼の紋章』と融合したこの城の主自身です。紋章と魔空回廊の相乗効果により、なんと敵は「回廊内にいる限り、戦闘能力が元の『660倍』になる」という恩恵を受けています!
……ただし、この能力強化の源は、回廊にぐるりと取り巻かれる形で作られた|人間画廊《ギャラリア》に「展示品」として囚われている人間達の命です。強烈な攻撃を何とかして掻い潜り、囚われた人々を解放する度に敵の強化は失われていきます(全体の半分の人々を解放できれば、強化は完全に失われます)!
よってプレイングボーナスは、『|人間画廊《ギャラリア》に捕らわれた人々を救出する』となります。
どれだけの人数が囚われているかは、参加した人数でアドリブする形となりますのでご了承ください。
それでは皆様の熱いプレイングをお待ちします。
第1章 ボス戦
『吸血妃アルカーディア』
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POW : 不滅の血統
【自身が傷つけば傷つくほど、真の力】に覚醒して【吸血鬼としてより格の高い存在】に変身し、戦闘能力が爆発的に増大する。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
SPD : 吸血妃の力
【万物を断ち切る鉤爪】【あらゆる干渉を防ぐ結界】【敵対者の心を砕く強大な威圧感】で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。
WIZ : 封印術式解放
全身を【近づく者の命を奪う呪詛のオーラ】で覆い、自身の【為に行われた儀式の規模と捧げられた血の質】に比例した戦闘力増強と、最大でレベル×100km/hに達する飛翔能力を得る。
イラスト:オギナノ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠鏡繰・くるる」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
サク・ベルンカステル
「貴様らヴァンパイアに復讐する機会が訪れようとは、、、!」
憎しみと怒り、そして復讐の念に駆られUC魔血覚醒(POW)を使用する。
全身の闇の血が覚醒し体表を血刃や生態装甲で覆われた魔人へと変えていく。
絶叫をあげながら突撃をするも軽くあしらわれる。
だが、闇の種族に復讐を誓い憎むべき闇の血を用いて魔人と化した剣鬼は止まらない。
幾度となくあしらわれ全身から血を流しても不敵な笑みで立ち上がる。
自身を囮とし背の随行大剣に人々の捕らわれた額縁を破壊させていた。
「さぁ、いつまで余裕を見せていられるのかな?」
「これが……『|人間画廊《ギャラリア》』か」
もぬけの殻同然だった月光城の上層をよりも下に通じる通路を抜けたサク・ベルンカステル(幾本もの刃を背負いし剣鬼・f40103)が魔空回廊に飛び込めば、目に入ったのは額縁さながらの装飾が施された|牢獄《絵画》である。その中にはこの層から攫ってきたのであろう人々が虚ろな目で侵入者であるサクに視線が集中する。希望、絶望、哀れみ……数々の感情が彼に振り向かれる中、闇が広がる魔空回廊の奥から足音がコツコツとこちらに向かっていた。
『如何かしら? 私の|人間画廊《コレクション》は素晴らしいでしょう?』
仄かに燻っていた燭台の炎が彼女……この月光城の女城主『吸血妃アルカーディア』の屍蝋的にまで白い肌を闇に浮かばせる。一見するとにこやかな笑みを浮かべているアルカーディアではあったが、薄らと開かれた紅の瞳とサクの視線が合わさればゾクリと背筋に冷たいものが走る。上位存在への復讐の力を求め|魔剣士《猟兵》となり、名だたる|吸血鬼《オブリビオン》を概念さえ断ち斬る刃を持って戦場を潜り抜けたヴァンパイアハンターである彼に恐怖の感情が芽生えたのだ。
──今まで相手した吸血鬼が|屍鬼《グール》に思えるほど、途方もなく強い。
蛇に睨まれた蛙の気持ちはこの事だろうか。魅了の魔眼を仕掛けられたかのように指先すら動かすのもままならない中、沸々と湧き上がる吸血鬼への憎しみと怒りの感情が入り混じったユーベルコードが顕現する光がサクの瞳の奥底に灯る。
「貴様らヴァンパイアに復讐する機会が訪れようとは……!」
絞り出すように向けられたサクの言葉に、アルカーディアはあらあらと挑発的な視線を送る。その瞬間、金縛りにでも合っていたかのように動きがままならない身体に力が戻った。彼女は値踏みしていたのだ。この月光城の至宝たる『ケルベロス・フェノメノンの欠落』を奪いに来た猟兵とはどのような|強者《つわもの》なのかと。
『いいわねぇ……その叛逆心。ゾクゾクするわ。私に挑む権利を赦しましょう……けど、その自信も何時まで保てるかしら?』
アルカーディアがニィっと口角を吊り上げて細目を大きく見開かせる。瞳には月の眼の紋章が紅い夜の帳に昇っているかのように浮かんでおり、彼女の内に留まっていた魔力が開放されると衝撃波と化した空気の壁が魔空回廊内を揺らした。
「大口を叩けるのも、そこまでだ!」
全身の闇の血が遂に覚醒し、体表を血刃や生態装甲で覆われた剣鬼の如き魔人と化していくサク。ユーベルコード『魔血覚醒』によって、今や彼の頭には畏れや恐怖などの感情はなく、只々復讐の念に駆られるのみ。
そんな彼の姿を憐れむかのような視線を向けながら、吸血妃は微動だもせずくすくすと嘲笑っているだけである。|殺《ヤ》るなら今しかない。獣のような咆哮を唸らせ、魔人となったサクは斧に近い大剣と化した異端の血を啜る呪われた黒剣『漆黒ノ魂滅』を振り上げ、闇の血が齎す復讐の衝動に赴くまま月光城の主へと振り落とす。
『……この程度ですの? スローすぎて欠伸が出ちゃうわ』
確かに振り落としたはずだ。アルが表皮が変異した黒々しい装甲越しに我が目を疑うのは無理もないことだ──彼女、吸血妃アルカーディアはほっそりとした片手と指先で鈍く光る大剣を受け止めたのだから。
動揺の色を隠せないサクの腹部に衝撃が走る。記憶にあるのは空いている吸血妃の片手が軽く押し当てられたことだけだ。まだ本気を出さずに獲物をいたぶる遊び程度しか力を発揮していないのは明らかであるが、まさかここまでとは……!
石壁まで吹き飛ばされて身体を叩きつけられるが、闇の種族に復讐する誓いと憎むべき闇の血が与える賦活が全身に痛みが走るサクの身体を立ち上がらせ、再び大剣を振りかぶさせて疾走らせる。
『性懲りもない猪突猛進の猪騎士なのかしら? 救いもないお馬鹿さん……ねぇ!?』
アルカーディアは五指を鈎状に曲げさせると、そのまま空を斬って斬撃波を舞い起こした。それらは容赦なく漆黒の邪気を放つ鎧をやすやすと斬り裂き、その隙間から赤黒い鮮血の飛沫が吹き上がる。それでも尚、圧倒的な力の差を見せつけられてあしらわれ続けようがサクは果敢にアルカーディアへ向かい続ける。
『良いでしょう。最後はこの私の手で、直に葬って差し上げますわ……』
遂にその場から一歩も動かなかった吸血妃アルカーディアが、兜状の装甲が砕けて素顔の一部を覗かせるサクの首を刈り取ろうと跳んだ。だが、その瞬間……彼女は自身の身体に違和感を覚えた。本来出せるはずだった速さではないことをだ。
「……あなたが私を弄ぶのに集中していた間、随行大剣が額縁の牢獄を破壊させていたからな……!」
不敵な笑みを浮かべながら立ち上がるサクの言葉を受け、今までは紋章と魔空回廊から得られる無限なる力により勝ち誇り続けていたアルカーディアの表情が始めて曇った。何せそれらの力を得るための|触媒《生贄》は|人間画廊《ギャラリア》として収容された囚人たちから得られる生気だからだ。その一部が脱獄を果たして欠落した今、この力に慣れきっていた彼女の意識と得られる力に差異が生じて僅かな隙が生じる。
「さぁ、いつまで余裕を見せていられるのかな?」
一筋の剣閃が傲慢たる吸血妃の身体へと疾走り、鈍く重い斧剣の切っ先がアルカーディアの白き肌に食い込んで鮮血で彩らせる。まだ超強化の恩恵が残っているのか食い込んだ刃で与えた裂傷は瞬く間と修復されるが、彼女の目に焦りが浮かんでいたのは確かであった。
成功
🔵🔵🔴
ヤーガリ・セサル
野良吸血鬼としては、はあ、領主だの貴族だの所詮蓋を開けりゃ怪物なのに……といううんざりした気持ちになってばかりですよ、この世界に来てから。
ま、城攻めを真っ向からやるのは馬鹿の行いです。無辜の民を燃料にしているというのも癪ですからね。さっさと開放して城主殿の間抜け面でも見に行きましょうか。ええ、あたし怒ってます。こういうのは嫌いです。
「角持つ王の勇士達」。アルカーディアは完全に無視し、攻撃の対象から外します。強くなられちゃ癪ですから。
呼び出した精兵達に命令し、人間画廊の人々を開放。護衛にもつかせます。正直この人たちには最後まで生きていて欲しいです。今回の大いくさ、その為にも戦っているわけですし。
「野良吸血鬼としては、はあ、領主だの貴族だの所詮蓋を開けりゃ怪物なのに……といううんざりした気持ちになってばかりですよ、この世界に来てから」
|吸血鬼《オブリビオン》が支配する多層地下世界、ダークセイヴァー。ヤーガリ・セサル(鼠喰らい・f36474)も同じ吸血鬼であるが、彼の場合はアックス&ウィザーズが出自となっている電脳魔術士であり僧侶である。
従属種ヴァンパイアと化した彼は支配主である貴種ヴァンパイアに抗うために、忍耐と献身を司る『緋のターマイェン』と呼ばれる神の信仰を捨てて長き時に埋没された忘却故に零落した|中級悪魔《角持つ神》と契約を結ぶことでその支配から脱している。故に吸血鬼、その上位種である闇の種族らが圧政を敷くこの世界には辟易するものがあったのは確かだ。
「ま、城攻めを真っ向からやるのは馬鹿の行いです。無辜の民を燃料にしているというのも癪ですからね。さっさと開放して城主殿の間抜け面でも見に行きましょうか。ええ、あたし怒ってます。こういうのは嫌いです」
だが、このような泥を啜ってでも己の自我を保っていても、己が矜持までは手放しはしていない。吸血鬼の眷属なのか堕ちた角持つ神の使徒か、どっちつかずな屈折した元人間の思いは唯一つ。人間を唯の薪か藁としか見ていない傲慢な女吸血鬼である城主の足をすくわせることが出来れば、何とも滑稽なことか。
幸いにして彼女、吸血妃アルカーディアは先行した猟兵に気を取られて、こちらを驚異とは見てない。尤も、彼女の力の源となっている|人間画廊《ギャラリア》として額縁のような装飾が施されている牢獄に繋がれた哀れな囚人を解放してやろうとすれば、その限りではないのは自明の理である。
「強くなられちゃ癪ですから、ここは敢えて彼女を無視するのが得策でしょうね」
世界法則すらハッキングが可能である電脳魔術書『アンブリシアー』を開き、口から紡がれる異端なる祈りの言葉は、自身の守護悪魔を讃える言葉。ユーベルコードの煌めきがプログラム状の召喚コードとなって、通常であれば複雑な要素が絡んでくる召喚儀式を電脳空間内でエミュレートすることで召喚されるは獣頭持つバーヴクトの精兵たち。
「……我はいにしえの角笛を吹く。忘却の地より来たれ、|バーヴクトの勇士達《バーヴクツ・レギオン》」
召喚に応じた獣頭の異形なる戦士たちはこの世の物とは思えない獣声を喚き散らしながら、召喚者であるヤーガリの命に従い囚人たちの解放へと向かう。
「ヒッ……! 来るな、来るなッ!?」
だが、囚人たちからすればこのバーヴクトの精兵は、この世界のオブリビオンと重なってしまうの顔は恐怖によって引きつっている。それが功を奏したのか、吸血妃アルカーディアにとっては囚人たちが発狂でもしたのかと思ったのか、邪魔立てすることはされることはなかった。獣頭の精兵は唸り声を上げながら力任せに|牢屋《ギャラリー》を破壊すれば、死にもの狂いでその隙間から囚人たちは脱獄を果たしたのだ。
『くっ……!? また私の人間画廊が……ッ!!』
「ようやくお気づきになりましたか。本当であればもっと解放しておきたかったのでしたが……その鼻先を折れたことだけは叶いましたから結構でしたね」
売り言葉に買い言葉と怒りの色を目に宿した吸血妃が、鋼すら切り裂く鈎爪を伸ばしながら跳躍する。しかし、それは隊伍を整えた角持つ王の勇士たちが立ち塞がり、狂乱めいた叫びと獣の咆哮が入り交じる。それを尻目にしながら、護衛として僅かな手勢を引き連れたヤーガリは新たな『額縁』を破壊して着実に吸血妃の力を削ぐのであった。
成功
🔵🔵🔴
黒城・魅夜
同じ吸血種として挑みたくもなりますが
まずは生贄を解放しませんとね
まあ、己の力だけでは自信がなく
生贄がなければまともに戦えないという時点で
底が知れていますけれど
「53枚の死神札」にオーラを纏わせ範囲攻撃として投擲し
陽動として敵の目を誘惑しつつ
私自身は呪詛を満たした結界を展開しその闇に紛れて侵入
「鋼は魂に口づける」を軽く用いて生贄の人々の自我を取り戻していきます
相手の攻撃を見切りと第六感で回避しつつ
すれ違いざまに心眼による早業で牙を振るいかすり傷を付けましょう
ええ、かすり傷で十分
この場にどれだけのあなたの犠牲者がいると思うのです
その人々のすべての怨みと怒りと憎しみを
その身で受けてごらんなさい、ふふ
「同じ吸血種として挑みたくもなりますが、まずは生贄を解放しませんとね……。まあ、己の力だけでは自信がなく、生贄がなければまともに戦えないという時点で底が知れていますけれど」
吸血鬼とは他者の命を吸い上げ永遠の命がある一方、その代償として多種多様な制約が課せられてる完全にして不完全な不死者だ。吸血妃アルカーディアの吸血鬼としての力は絶大ではあるものの、その力を十二分に振るうには途方もない贄が必要とされる。当然ながら、この世界ダークセイヴァーはオブリビオンの手に落ちたことから、人間は家畜同然にオブリビオンに飼われる哀れな存在だ。とは言え、その資源にも限りがある。
そうなれば、オブリビオンはオブリビオン同士で『生贄』という名の資源の奪い合いにまで発展しかねないのだが、自身の在り方を理解しているアルカーディアが取った生存戦略……月の眼の紋章と魔空回廊を持ってして効率的にかつ生贄となる人間をできる限り生きながらさせる『|人間画廊《ギャラリア》』であった。
だが、黒城・魅夜(悪夢の滴・f03522)にとっては彼女の生存戦略その物は、吐き気を催す生き汚さとして唾棄すべきものである。希望という概念が自らを半人半魔のダンピールとして至らしめる魅夜においては、侮蔑にも値する行為において他ならない。
そんな思いを無意識に隠した彼女は慇懃無礼の言葉を吐き捨てながら、全てが|死神《ジョーカー》のみで構成されたトランプに黒々とした闇を纏わせると、無造作にそれを放り投げる。
『大口を叩いておきながら、それですの? ダンピール風情がよくもまぁ、子供だましで姑息な手を使いましてね!』
53枚のジョーカーに宿る怨念がそれぞれの意思を持って宙を飛び交い、アルカーディアへ鋭い切っ先となった縁を多方面から強襲する。しかし、幾ばくかの人間画廊から生贄として収容している囚人が仲間の猟兵の手により救出されていようとも、彼女の力は未だに健在であった。それもそのはずで、月の眼の紋章と魔空回廊の相乗効果で与えられる力の損失分を自らのユーベルコードで補っているのだからだ。
近づく者の命を奪う呪詛のオーラを纏った吸血妃の身体を通して、それらを人間画廊にも伝播すれば命の搾取を強めれば、囚人たちは悲痛な叫び声を上げながら只耐えるしかない。
(やはり、一筋縄では行きませんか……ですが)
売り言葉に買い言葉。言葉による口舌の応酬を交えながら、相手の力量を見定める小手先調べとして投じた死神のトランプが次々と破壊されていく様に思わずとして眉を細めてしまう。
結論からすれば、まだ吸血妃アルカーディアの力は未だに途方もないものだ。正面からぶつかり合えば生命の埒外たる|猟兵《悪霊》である自身の身がどうなるかも定かではない。しかし、これだけは分かった。虚ろな眼をしている囚人たちの悲痛な叫びに、微かではあるが一欠片ほどの希望がまだ健在であることを――。
「試して見る価値はありそうね」
自らの身体を呪詛に満ちた闇の結界と変え、アルカーディアの悪趣味さが滲み出る華美な装飾が施された鉄格子の隙間から難なくと人間画廊の内へと侵入する。闇が蠢いて再びヒトガタを形成し、魅夜として顕現した眼下に転がっていたのは見窄らしいボロを纏った若い女性であった。彼女は焦点が合わない虚ろな目でブツブツと人の名と思わしき言葉を壊れた機械のさながらに何度も繰り返し呟いていたが、おそらく家族か恋人かと引き裂かれた哀れな村娘と言ったところであろうか。
まだ吸血妃に感づかれていないことを手札との戦いで生じる剣戟に似た甲高い衝突音で確かめた魅夜は、碌な手入れもされずにシラミが集るボサボサとした髪を梳かすように投げで上げながらゆっくりと抱き起こす。そして、力なく項垂れている生きる屍同然である彼女へと、相手の魂に直接絡みつく鎖を軽く絡ませた。
「あ……ああっ!」
鋼が魂へと口づけをし、擦り減りきった彼女のへの心へ忘れて久しい暖かな感触が広がったことで魂が賦活される。虚ろだった目はみるみると生気を取り戻し、枯れたはずの涙が溢れた上がれば娘の頬に温もりが伝う。
『ぐっ!? ガァ……はッ! この吐き気は……ッ!!』
「思った通りね。ええ、そうよ。この子を通して、あなたのよく聞く特大の呪詛を送ってあげたわ……希望という毒をね?」
「辛」という漢字に「一」を足すと「幸せ」となり、その逆に「幸せ」に「一」を引けば「辛」という漢字となる。希望と絶望は表裏一体で、同じ吸血種としても魅夜とアルカーディアの在り方はそのどちらかを糧とするかで大きく異なっている。アルカーディアが求める概念は『深い絶望』。希望など持てない牢獄さながらの額縁に幽閉することで彼女は大きな力を得ているのであれば、その逆のことをすればどうなるかは結果の通り。
ましてや彼女と人間画廊は月の眼の紋章を介して互いに直結しあっているのであれば、魅夜が行った行為その物は水源に猛毒を流す行為以外の何物でもない。ましてや、鎖を介してユーベルコード『|怨讐の血涙よ解き放て無限の憎悪《ヴェンジェンス・イズ・マイン》』も彼女へと流し込んでいる。かすかに芽生えた希望が凄惨なる仕打ちを受けた怨みの強さにより膨れ上がり、心身を引き裂き続ける呪となり吸血妃の内から掻き乱しているのであれば尚更だ。
内から牢を破壊して娘を抱きかかえながら出てきた魅夜へ一矢報いるべく、アルカーディアは細めていた眼を大きく見開かせながら爪を振るう。
「この場にどれだけのあなたの犠牲者がいると思うのです。その人々のすべての怨みと怒りと憎しみをその身で受けてごらんなさい、ふふ……」
手元に戻ったジョーカーのトランプを指に挟み、まだ力なく項垂れている囚人の娘を片手で抱き直しながら魅夜は漆黒のドレスを翻す。先程までの速さでなければ見切るのは容易いこと。それに鋭い刃先も同然のトランプで傲慢な吸血鬼の頬を掠め、整った顔に一筋の傷さえ与えれば良い。
それだけでもアルカーディアの尊厳を踏みにじる行為に他ならず、悪夢を引き裂き希望を繋ぐ大いなる切っ掛けとなり得るのだから。
大成功
🔵🔵🔵
モリガン・フォーゲル
パフォーマンスとしてならこういう展示のされ方も楽しそうかも。まぁ、拘束されて命を削られるなんてのは楽しくないし許せないよね。
UC【スタチューパフォーマンス】使用
UCの効果で出来るだけ相手の認識から逃れつつ、捕らえられた人達を助けよう。
壊した額縁を直してしれっと被害者と入れ替わってみようかな。新しいパフォーマンスのパターンの参考になりそうだし、彫像よりはこの場に似合うから上手く行けばもっと気付かれにくくなるかも。
人々を助けたあとはUCのとおり奇襲で先制攻撃
相手UCを考えると長期戦は不利なのでこの先制攻撃で出来るだけ強い一撃を狙う。
「パフォーマンスとしてならこういう展示のされ方も楽しそうかもだけど……まぁ、拘束されて命を削られるなんてのは楽しくないし許せないよね」
仲間の猟兵が吸血妃アルカーディアへ決定的な反撃を行った際に生まれた隙を見て、モリガン・フォーゲル(131代目女神モリガン・f39591)が|光輝く神剣《クラウ・ソラス》をもってして額縁めいた牢屋を破壊した。
彼女は「ダーナ神族」とも呼ばれる、超古代より生きる北欧の神々が一柱としてケルト神話に伝わる女神モリガン……の131代目を自称する女神であり妖精だ。神々の視線からすれば、人間を絵画の世界さながらに着飾らせて額縁を模した牢に入れて鑑賞するという発想に興味を示せる。とは言え、信仰により生まれる力を糧としている善神からすれば、人間を拘束させてその命を吸い取って力を得る発想そのものは悪神や邪神の所業と言えよう。
だが、戦いの勝利を齎す一方で破壊と殺戮も司る|戦争の女神《モリガン》として、そしてかつて銀誓館学園との交流で得た外界の影響を受けてか故郷を出奔。フリッカージョーカーに弟子入りして、晴れて免許皆伝(?)した証でもある大道芸人魂が身体の奥底まで染み付いた彼女としては『おいしい』に尽きる。
「新しいパフォーマンスのパターンの参考になりそうだし、|彫像《スタチュー》になれば生贄判定は受けないかなぁ……あ、ヴァハ。この人を上の階までよろしくね」
長い牢獄生活の為か、脚の筋力が衰えていて救出した囚人は満足に歩けそうにもない。モリガン同様に女神ヴァハの力を受け継いだと自称する妖精の鴉『ヴァハ』が馬を擬人化したような亜人の姿を変え、囚人を抱きかかえるとサムズアップして走り去る。
さて、この音を聞いた吸血妃は更に力を奪われたことに怒り、こちらへと向かうのは時間の問題となった。即座にこの場を離れようとしても回廊内は口の字状になっていて、追いつかれてしまうのは火を見るよりも明らかだ。ともなれば、隠れてやり過ごせる場所となれば……。
「そうだよねぇ。そうするしかないよねぇ♪」
などと自分がこれから行う行為は正当な物だと自ら言い聞かせ、これから始まるイタズラに心を弾ませる悪童の笑みを浮かべた。
『次から次と……私の|人間画廊《力》を奪いおって!!』
程なくすると、苛立ちの色を隠さず声を荒らげさせながら月光城の城主たるアルカーディアがやってくる。今までの余裕ぶりはすっかり影を潜め、細められていた目も鋭い眼光を放ちながら周囲を睨みつける。だが、周囲はシンと静まり返っていて、陽気なモリガンの姿などは何処にも居ない。
『何処だ! 何処に隠れた!!』
人間絵画を彩る鮮やかながらも不気味な花瓶や壺を鉤爪で振り乱すことで生じる斬撃波で破壊しながら、つい先程に人間画廊を台無しにした犯人を見つけ出そうと躍起になる吸血妃。そんなの姿を『特等席』から眺めていたモリガンが、あまりの滑稽さに絶えきれず失笑してしまう。
『……人間画廊から聞き慣れない音が聞こえましたわね?』
(おっと! いけない、いけない……)
怖い吸血鬼がこちらを向けば、モリガンはお腹に力を入れて笑いを堪らえようとする。薄っすらと目を細めて様子を見れば、何やら訝しんだ様子で鉄格子越しにこちらを眺めているアルカーディアの姿が映る。
それもそうだろう、何せ眼の前で床に敷かれていた寝床用のボロ布を被りながら蹲っている囚人と記憶の中での囚人は不一致なのだから。
『ここの人間画廊に入れていた人間と顔が違うようだけ……まさか』
猟兵は何をしでかすか分かったものではない。念には念にと素顔を確かめるべく顔を隠しているボロ布を上げるように命令するが、ただただ蹲っているばかりである。遂には苛立ちが募って殺そうかと爪を伸ばすが、ここで殺してしまえば自分の手で自分の首を締めるものであるとアルカーディアは既のところで思いとどまる。
そうなればやることはひとつ。自ら人間画廊の牢へと入り、被っているボロ布を剥ぎ取るだけだ。
(……しめしめ、来たね)
重く軋んだ音ともに人間画廊の扉が開かれ、足音がこちらに向かって来て……眼の前で止まった。
──まだだ、動くのはまだ先だ。あの手が……このボロ布を剥がすまでは……。
『これは……風船?』
アルカーディアが面をくらうのも無理はなかった。何せ、そこにはモリガンはおろかヒトガタになるよう結び付けられた細長風船があっただけなのだから。
「………………………バァ! 驚いた!?」
『!? まさか……ッ!』
突如として背後から聞こえたモリガンの陽気な声に吸血妃が爪を振り払おうとするが、それよりも疾く機先を制した光輝く神剣の軌跡が彼女の腕を切り落とす。
「そう、そのまさかさ! それは囮の風船アートで、ぼくはユーベルコードで彫像に化けていただけ。いやぁ、こんな簡単に引っかかってくれるなんて思ってもいなかったよ!」
奇襲は面白いまでに成功したが、鮮血が噴き出す腕を抑えながら鬼のような形相でこちらを睨んでいるアルカーディアの後を考えれば、ここが潮時だろう。モリガンは開かれた人間画廊の扉へと跳ぶように出ると、その反動で扉を締めて鍵も駆ける。アルカーディアの罵声にも振り向くことなくモリガンはそのまま逃げるように走り、曲がり角付近で再び『スタチューパフォーマンス』により彫像さながらの前衛的なポージングで風景と一体化する。
(……そろそろヴァハが戻ってくる頃合いかな。次はどんなパフォーマンスでビックリさせようか……ワクワクしちゃうね!)
程なくすると、人間画廊の額縁を自ら破壊した吸血妃が切り落とされた腕を切断面に押し当てながら眼の前を通り過ぎていく。そんなご立腹な姿を尻目にしながら、モリガンは次なる人間画廊に囚われた囚人を解放に向かうのであった。
大成功
🔵🔵🔵
ロラン・ヒュッテンブレナー
・アドリブ歓迎
まさか月光城まで来てるなんて…
やっぱり人間画廊があるんだね
閉じ込められた人たちを助けなくちゃ!
さすがに吸血鬼の相手をしながらは難しいの
ここは月光、満月の魔力で満ちたお城
その月光を糧に、招集するの、音狼
UC発動
●響魔の音狼
破壊と殺戮衝動の塊
人狼の狂気が具現化した分身で城の豊富な満月の魔力を吸収して月光の槍を飛ばしながら爪牙を絡めて戦う
言動は狼そのもの
今の内に額縁に接触、魔力接続してハッキング
絵画という結界の術式の核を破壊するの
お待たせ!
ぼくも月光城の魔力を利用して、相手の結界と接続、性質を変化させて無力化を図るの
音狼、今!
足下を氷属性攻撃魔術で凍結させて、音狼の槍で攻撃なの!
「だいぶ弱くなったみたいだけど……それでにまだ、さすがに吸血鬼の相手をしながらは難しいの」
余裕の色が消え失せた吸血妃アルカーディアであるが、未だに激しい怒りとともに細身の身体から迸る膨大な魔力を前にするだけで消耗を禁じえない。
だが、ロラン・ヒュッテンブレナー(人狼の電脳魔術士・f04258)は勇気を振り絞り、彼女と相対する。それは人間画廊に囚われている人々を助けなければとの一心によるもので、ダークセイヴァーの解放と復興を願うひとりの猟兵としてでもあるからだ。
『次から次へと小賢しい小細工を……!』
万物を断ち切る鉤爪がロランの小さな体を引き裂かんと振り落とされるが、少し前よりも明らかに速さは落ちている。今も蝕み続ける人狼病がロランにもたらした獣の瞬発力をもってすれば躱すことは容易いが、吸血妃の爪は既にもぬけの殻となっている人間画廊の額縁として機能していた頑丈な鉄格子を神のように引き裂く前の力を未だに有している。
ましてや、魔空回廊内の人間画廊も半数以上残っているとは言え、数が少なくなったことで今までのようにアルカーディアの目を盗んでとはやり難くなっている。ともなれば、オブリビオン・フォーミュラを遥かに凌ぐ力が削がれて零落しつつある吸血鬼と直接対決するのが最も早く、最も確実な答えとなろう。
(ここは月光、満月の魔力で満ちたお城……。その月光を糧に、招集するの……響魔の音狼を!)
そして、ロランには確かな勝算があった。
この月光城に満ちた満月の魔力を糧にすれば、今の人間画廊で力を|増加《ブースト》しているアルカーディアとは大凡にして五分五分……とまでには行かないが、それに近い力は発揮できるはずだ。
アルカーディアの鉤爪から逃れたロランが、身体を低く身構えさせながら四つん這いとなって地上の先に照らされているであろう満月に向けて獣じみた遠吠えをあげる。そうすれば、月光城と互いに結びつけあっている手足を介して満月の魔力がロランへと伝播されれば、ユーベルコードの煌めきとともに何者かの影がアルカーディアに襲いかかる。
「うぉおおおおん!!」
『ちょこまかと数に任せて来ても、引き裂いてあげるだけよ!』
響魔の音狼が召喚に応じ、人狼の狂気が具現化したロランの分身が爪牙を剥き出して一斉に襲いかかった。個々の力はアルカーディアの周囲に張り巡らされた結界を破ることは叶わなく、彼女が鈎爪で引き裂けば為す術もなく露となって消えていくが、それでも狼ならではの統率力によって互いに連携しあえばイーブンとなろう。
それに加えて本体であるロランが魔術によって月光の槍を飛ばすなどの支援も絡めば、自ずとしてアルカーディアに僅かな隙が生じて人間画廊への突破口が視えてくる。
「おまたせ! ようやく人間画廊まで辿り着けたの、みんなもうちょっとだけ頑張ってなの!」
アルカーディアの猛攻を響魔の音狼たちが和らげたお陰で複数の囚人を収容した大部屋の画牢に辿り着くが、頑丈な鉄格子もまた月光城に満ちる満月の魔力によって容易く破壊できるものでもない。ひとり、またひとりとロランの生き写したちが鮮血とともに露と消えていく中、彼らの犠牲を無駄にしないために額縁に接触して意識を集中させる。
獣の断末魔が意識から遠のく中、ロランの脳裏に電脳魔術士ならではの回路図が浮かび上がってくる。それらをひとつひとつ走らせて繋ぎ合わせ、人間画廊からアルカーディアへと繋がる魔力の流れをハッキングする。最後の仕上げとして、これらを遡って絵画という結界の術式の核を破壊して即座に上書きすれば完了だ。
「音狼、今!」
「私の結界を破れない貴方たちがどう足掻こうと……え? な、なんですの!?」
人間画廊から吸血妃へ流れる魔力に仕掛けを施し、一時的とは言え彼女は弱体化した。そうならば、それを応用すれば月光城という膨大なリソースをもってすれば更に踏み込んだ改竄が出来るはずと睨んだロランの憶測は的中した。
人間画廊を経由して相手のユーベルコードである結界と接続し、性質を変化させることへの無力化。これはロランが唱えた氷属性攻撃魔術でアルカーディアの足元を凍りつかせたのが、何よりもの証明に他ならない。これに続けと残存する音狼が野性の衝動のままに咆哮を唸らせ、虚を突かれて脚を凍らされたことで動きを封じられたアルカーディアへと音狼の槍が突き立てられる。
『ぐぅううっ!? だが、忘れるな! 私には人間画廊があることを!!』
複数の槍に貫かれた吸血妃が傷口の再生を行えば、その元となる人間画廊に閉じ込められている人々の生命力が搾取され始める。
「ひ、卑怯なの! 持ち直される前に、みんなを解放しないとなの!」
ロランの背後では、悲痛な叫び声とともに助けを求めて鉄格子の隙間から腕を伸ばす囚人の姿がある。このままアルカーディアの再生能力を上回る攻撃を仕掛け続ければ骸の海へと送ることは叶おうが、そうすれば人間画廊に囚われた人々の命と引換えとなるのが明白だ。
苦渋の判断の末、彼は音狼らに命じて画牢の破壊を命じる。アルカーディアの再生力は人間画廊によって倍増された戦闘能力に比例するお陰か、開戦当初よりも再生する速度が明らかに低迷しているので時間の猶予はまだある。しかしながら、それは人間画廊に繋がれて贄にされた人々が少なくなればその分の負担がより重くのしかかることもあるので、迅速に行わねばならない。
自らの力の源が奪われるとは言え、それを盾にすることで生き汚く生存の道を選んだ非道なる吸血妃の嗤い声が浴びせられる中、人命を優先としたロランを非難できようか。過剰なまでに生命力を奪われ、疲弊して動くこともままならない囚人たちに肩を貸しながら、ロランはより吸血鬼に対する憎悪をより滾らせるのであった。
成功
🔵🔵🔴
榊・霊爾
660倍、か
それほど上乗せしなければならない程、相手も必死という事だろうね
「先触」で攻撃を掻い潜るしかないな
但し時間は...一分
一分でどれだけ開放できるか
相手の追撃は先触で全て先読みして回避し、時には【受け流し】、
回廊を【ダッシュ】で駆け抜け、生贄が囚われている額縁を白鶺鴒ですれ違い様【切断】する
鴉羽笠の効果を反転させ、あえて【存在感】を出し、解放した生贄に攻撃が向かない様にする
お前の相手は生贄じゃない、私だ
そうだ、私だけを見ていればいいのさ
その攻撃も全て先触で回避する
一分が過ぎるまでにな
...私ばかり相手にしていていいのかい?
時間が来たら小夜啼鳥による【不意打ち】の一撃を相手にくれてやるさ
メディア・フィール
SPD選択
プレイング改変・アドリブOK
他PCとの絡みOK
【闘龍衝破撃】でショックを与えて相手を一時停止させ、他の猟兵たちが人々を救出する間の足止めすることにとにかく専念します。敵は【吸血妃の力】のあらゆる干渉を防ぐ結界で当然防御してくるでしょうから、こちらもその「あらゆる干渉を防ぐ結界」の【限界突破】をする力比べになるでしょう。そこで勝てても押し負けても、時間を稼げれば良しとします。自分が勝つことが目的ではなく、仲間を勝たせることが目的です。
「あらゆる干渉を防ぐだって!? ならば、ボクの闘龍衝破撃は、その限界を打ち砕く!」
「ここまで時間を稼げれば! ボク『たち』の勝利だ!」(倒れながら)
「|人間画廊《ギャラリア》の半分近くを開放しても、相手のユーベルコード次第では強さは健在だが……元は660倍、か。それほど上乗せしなければならない程、相手も必死という事だろうね」
人間画廊、いや人間画牢とも言うべき忌々しい生贄システムを破壊してきたが、吸血妃アルカーディアは一時的にとは言え自らのユーベルコードで人間画廊で今も得られる力を未だに振るう。問題はその分、人間画廊に囚われている人々からの生命力を搾取する割合と負担が倍増している点であるが、ならばと榊・霊爾(あなたの隣の榊不動産・f31608)は結論を導き出す。
「『|先触《カッサンドラ》』をもってしての短期決戦に、ひとつ賭けるか……!」
悠長に戦っていては人間画廊に囚われている人々の命が危うい。そう結論付ければ腰に下げた三つの業物のひとつ、居合刀『白鶺鴒』に手を掛けて|意識《ユーベルコード》を集中させる。
『させませんわよ!』
自らの力の源であり人間画廊をこれ以上破壊させんと、再生を終えたアルカーディアがユーベルコード発現の現れであるドス黒いオーラに覆われる。そして、再び伸ばした鉤爪で霊爾の中性的な顔立ちをズタズタに引き裂かんと襲いかかろうとしたが、そうはさせまいとメディア・フィール(人間の|姫《おうじ》武闘勇者・f37585)が足止めを図ろうと拳を振るう。
「それはボクのセリフだ!!」
相手に触れることもままならぬ速さであるのは、先程までの戦いで判明している。ならばと、紺碧の瞳にユーベルコードの輝きを秘めた姫武闘勇者の無骨なガントレットを突き出せば、甲高い空気の破裂音とともにアルカーディアへと襲いかかるその名は『闘龍衝破撃』。不意を突かれる形であらゆる干渉を防ぐ結界を展開しきっていないアルカーディアの白い肌に空気の刃が無数の傷を奔らせた。
「……助かる」
思わぬ邪魔者の登場に吸血妃が苦虫を噛み潰したかのような鋭い視線でメディアを睨みつけるが、その僅かに見せた隙が命取りとなろうとは彼女自身思いもしなかっただろう。
制限時間は一分。たったの、僅かな一分だが、一分の中であっても数秒は非常に大きい時間だ。窮鼠猫を噛むともいうが、正しく後がなくなってなりふり構わなくなっているアルカーディアの機先を挫いた|勇敢な少女《メディア》に霊爾が一言礼を述べると、彼は一陣の風となって魔空回廊内に暴風を舞い起こす。
──ギャンギャンギャンギャンギャンギャンギャンギャン!
幾多にも重なる金属同士が激しくぶつかり合う剣戟の音が魔空回廊内に響き渡る。生贄が囚われている額縁を横切れば、背筋を伸ばした美しい姿勢の鳥の名にあやかった白銀の刃によって瞬く間に囚人たちが解放される。今までにない速度で自らの力が失われていく焦燥感に駆られたアルカーディアはこれ以上の狼藉をさせまいと霊爾を追撃せんとする……が、その爪先が狙うのは彼ではない。画牢から這い出ようとする囚人だ。人間画廊が破壊されれば、月の眼の紋章の力で彼らから生命力を搾取することが叶わぬのならば、その命を頂戴するまでというもの。
しかし、そうはさせまいと彼女の動きを防ぐべくメディアの拳が振るわれるのだ。
『おのれ! 私の邪魔をするな!!』
「これがあらゆる干渉を防ぐ力か……それなら、ボクの闘龍衝破撃は、その限界を打ち砕く!」
思わず気押される吸血妃の怒声に臆することなく、メディアは自らのユーベルコードを限界にまで引き出して小さき身体を軋ませて特大の闘龍衝破撃を繰り出す。アルカーディアの鉤爪は拳の衝撃波さえも切り裂くものであったが、急激に落ちる自らの力でその鮮やかさも落ちつつあって防戦せざるを得ない。
……そうしてタイムリミットの一分が経った。刃こぼれひとつも起きていない白鶺鴒を収め、踵を返しながら抜く業物は仕留めた地下連中の魂を吸った処刑人の大太刀『小夜啼鳥』。
「お前の相手は生贄でも彼女でもない、私だ」
鈴を転がすようでどこか挑発的な霊爾の声にアルカーディアの視線が映れば、彼が被っていた鴉羽笠が彼女の視界を遮るように投げられている。
『さては……その後ろに隠れているのね!!』
彼女の身体に残った力はまだ十二分とあり、鉤爪を振るった際に生じる斬撃波を起こすのは造作もないことだ。小賢しい真似など見え透いていると爪を振るい、白き三度笠は真っ二つに引き裂かれる……が、その後ろには霊爾の姿など何処にも居ない。
「何処を見ている。私は……ここだ!」
再び聞こえた声にもしやと目を見開いたアルカーディアが上空を見上げれば……本来は存在を消す力を持った鴉羽笠を反転させることにより敢えて存在感を見せたそれを囮とすることで跳び上がり、大太刀を振りかざした霊爾の姿がそこにあった。
──ザンッ!
アルカーディアがすべてを理解した時には、既に彼女の首は宙を舞っていた。だが、吸血鬼としての人外なる生命力によって、頭さえ残っていれば首と胴体が離れようとも爪を振るって一矢報いることは可能でもある。首から鮮血を噴き上げさせながらよたつく身体を動かそうと彼女が睨みつけようとした時……メディアによる闘龍衝破撃が彼女の首を弾けさえたことでそれも叶わずに胴体が塵となって骸の海へと還っていく。
「見たか! ボク『たち』の……勝利だ!」
すべての力を使い果たしたメディアがもんどりを打つように倒れ込む。深く息を吸いながら強敵を倒した実感と達成感を限界をとうに迎えた身体に味わいながらも、禁獣『ケルベロス・フェノメノン』の『欠落』をめぐる苛烈極まりない戦いに終止符が打たれたのであったのだ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵