闇の救済者戦争⑬~飾られた人間たち
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男も。
女も。
老いも。
若きも。
美しく鳥籠の中に飾ってしまえば、皆わたくしの|こどもたち《・・・・・》。
ああ、この回廊の先には通す訳にはいかない。
わたくしは其の為に此処にいる。
子どもたちを解放させるわけにもいかない。
だってわたくしの、大事な子どもたちだから。
「たすけて……!!」
「いたい、いたい……!」
「……」
「ああ……!! この力があれば、わたくしはずっと、子どもたちと一緒!!」
もう、引き裂かれなくて済む!
もう、喪わなくて済む!
もう、……あの悲しみを、味わわずに済む!
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「ケルベロス・フェノメノン……というのがいたな?」
ヴィズ・フレアイデア(ニガヨモギ・f28146)は何かを考えるように片目をつぶって。
「あれは今のところ“無敵”。なのだが、其の無敵を打破する手段が見つかった。場所はデスギガス災群の“上”、元は第五層にあった月光城だ」
此処を制圧できればケルベロス・フェノメノンの“欠落”が判明した上、其れを破壊して「無敵能力」を無効化できる、という。
――だが、と魔女は言葉を濁した。
「当然護り手がいるのだ。欠落に繋がる“魔空回廊”、其処には“月の眼の紋章”と融合した城の主がいる。……其の主というのが厄介でね。“回廊内にいる限り、戦闘能力は『660倍』”だ」
流石の猟兵でも、一撃で戦闘不能になるかもしれない。
そうならないように、とヴィズは青く長い爪を備えた指を一本立てる。
「回廊に取り巻かれる形で作られたギャラリアがある。|人間画廊《ギャラリア》には――展示品として、人間たちが生きたまま飾られているんだ。彼らが城の主の力を引き出す源となっている。助け出せば敵は徐々に弱体化する、そうすれば勝ちの目も見えて来るという訳だ」
半分も助ければ強化値はゼロになるのではないかな、とざっくり計算してヴィズはいう。
白磁の門がぎりり、と照準を定める。ゆっくりと開く扉、其の先には城がある。
「|人間画廊《ギャラリア》の人間を助けるか、敵への攻撃を優先するか、其れとも両方を取るかはお前達に任せる。――当然リスクは伴って来るが、其れはどの選択肢を選んでも同じだ。敵は弱体化したくない、|以外の感情で《・・・・・・》人間の救出を阻止してくるからな。どれが安全とも言えん。……だが、此処を抜けなければケルベロス・フェノメノンは斃せない。……巧くやれよ、猟兵」
今回はあたしの便利アイテムはないけど、お前達なら何だって出来る、そうだろう?
――そういって、魔女は笑った。
key
こんにちは、keyです。
子を護る母は恐ろしい、というお話。
●目的
「“鳥籠の君”を撃破せよ」
●概要
デスギガス災群と共に現れた、本来なら第五層にある“月光城”です。
回廊がぐるりと存在し、其の内側に|人間画廊《ギャラリア》が存在する感じの構造をしています。
|人間画廊《ギャラリア》には老若男女様々な人間が四肢を囚われ、“作品”として飾られています。
この月光城の主は“月の眼の紋章”と融合しており、更に謎の存在“魔空回廊”との相乗効果によって、「回廊内にいる限り、戦闘能力が『660倍』」です。
ですが、此処の主を撃破して戦場を制圧できれば、ケルベロス・フェノメノンの欠落を破壊し、「無敵能力」を無効化出来ます!
●プレイングボーナス!
「|人間画廊《ギャラリア》に捕らわれた人々を救出する」
月光城の主は「回廊内にいる限り超強化されている状態」ですが、其の力の源は|人間画廊《ギャラリア》に囚われた人間たちの命です。
彼らを助け出し解放すれば、其れだけ敵は弱体化します。
助け出す事に注力するか、敵への攻撃に注力するか、其れとも両方をこなしてみせるかは猟兵にお任せします。
(このシナリオでは大体5名ほど助け出せれば強化は無効化されるという事にします)
●プレイング受付
受付、〆切はタグ・マスターページにて適宜お知らせ致します。
●注意事項(宜しければマスターページも併せてご覧下さい)
迷子防止のため、同行者様がいればその方のお名前(ID)、或いは合言葉を添えて下さい。
また、アドリブが多くなる傾向になります。
知らない人と共闘する事なども在り得ますので、ソロ希望の方はプレイング冒頭に「🌼」を添えて頂けると助かります。
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此処まで読んで下さりありがとうございました。
皆様のプレイングをお待ちしております。
第1章 ボス戦
『鳥籠の君』
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POW : わたくし達は、ただ静かに暮らしていたいだけ
【彼女自身の心の裡】から、対象の【親子の絆を引き裂く者を排除したい】という願いを叶える【純銀製のレイピア】を創造する。[純銀製のレイピア]をうまく使わないと願いは叶わない。
SPD : ずっとずっと、幸せに暮らしましょうね
【子供と永久に共に在りたい】という願いを【彼女が「わたくしの子」と呼ぶ者達】に呼びかけ、「賛同人数÷願いの荒唐無稽さ」の度合いに応じた範囲で実現する。
WIZ : たとえ、死がわたくし達を引き裂いても
自身が【“子供”を奪われるという恐怖心】を感じると、レベル×1体の【過去に彼女の元で死んでいった子供たちの霊】が召喚される。過去に彼女の元で死んでいった子供たちの霊は“子供”を奪われるという恐怖心を与えた対象を追跡し、攻撃する。
イラスト:棘ナツ
👑11
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠ジャスパー・ドゥルジー」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
ヴェルンド・ラスリス
※アドリブ共闘歓迎
子を守る母か…
それが真の親子であれば俺も、躊躇っただろう。
鳥籠に閉じ込めるだけが愛じゃないって教えてやろう!
とはいえ、あの強化能力は無視できない。
ならば、人命救助、及び妨害が優先だな。
UC『炎颯』を発動。囚われている人間の拘束を狙い撃ちし、破壊してみよう。そのまま弾丸を操り、攻撃に移行。
当たってもダメージが期待できないのなら、意識を逸らすような使い方。目や耳元などにまとわりつくように操作し、意識を削いで、救助者の逃げる時間を稼いでみせよう
●本当であったなら
其れが真の親子であったなら。
子を護る母の思いを知る故にヴェルンド・ラスリス(獄炎の復讐鬼・f35125)は其の意思の刃に躊躇いを宿らせたかもしれない。
だが、そうではないのだ。
鳥籠に閉じ込められた者は子どもに限らず、老いて最早助けを呼べぬものもいる。
そんなものは愛とは呼ばない。
そんなものは庇護とはよばない。
「鳥籠に閉じ込めるだけが愛じゃないんだよ!」
ヴェルンドは素早く回廊を駆け抜けると、鳥籠へと弾丸を放つ。
――炎楓。そう名付けられた魔弾は踊り、ばちん! と鳥籠の鍵を外す。
「させないわ……! わたくしの子どもたち! いま母が助けてあげる!」
|例え殺してでも《・・・・・・・》護って見せる。
狂気を孕んだ母が手に握るのは、純銀製のレイピア。ヴェルンドへと一直線に向かって来る其の速さは、矢張りと言うべきか、淑女というより一人の戦士であった。
「逃げろ!」
「で、でも」
「良いから!!」
ヴェルンドは解放された一人へと声をかけると、魔弾を母へ向かって躍らせる。
黒い茨の弾丸は、獄炎を纏って淑女の周囲を舞い其の動きを妨害する。淑女は思わず立ち止まる、……成る程。あくまで強化されているのは膂力や脚力といった“力”だけで、判断力は其の埒外って訳だ!
「ああ、やめて! やめて! いかないで、わたくしの子!」
「違う……! あいつはお前の子じゃない!」
「じゃあ、わたくしの子はどうなったっていうのです! ああ……!!」
――ヴェルンドは口をつぐんだ。
きっと死んだんだろうなんて、言うのは簡単だったのだ。だけれども、……其れは何故か、突き付けてはいけない残酷すぎる刃に思えて。
だからヴェルンドは言葉の刃の代わりに、弾丸で淑女の腕を貫いたのだった。
大成功
🔵🔵🔵
シキ・ジルモント
回廊内の人間の救助に注力
物音を立てないよう注意しつつ、周囲に敵の居ない隙を狙って救助
気付かれる前に出来るだけ多く解放し、安全な場所まで逃がしたい
“こどもたち”を失いたくない想いは理解出来なくもない
家族を失う悲しみも身に覚えがあるが、囚われた者を置いていくつもりは無い
それに、当の彼らがそれを望むとも思わない
敵に発見されたら拳銃にエンチャントアタッチメント【Type:I】を装着、ユーベルコードで攻撃
倒す為ではなく凍結で移動力の低下を狙い、囚われた者と共にその場を離れる隙を作りたい
途中で追い付かれたら体を張って敵を食い止め退路を守る
戦闘能力の強化された相手だが、引き付けて時間稼ぎくらいは望めるか…?
堺・晃
境遇には些か同情できなくも無いですが
随分と横暴なことで
まともにやり合うつもりはありません
念のため【激痛耐性】と【オーラ防御】を纏いつつ
【咎人殺しの檻】を張り巡らせ
動きの妨害と猛毒による【継続ダメージ】での動き阻害
ハンドガンによる銃撃での牽制と
召喚したアイアンメイデンを壁にする事による動き阻害&棘の一斉発射による串刺し
これらをあくまで接近阻止のために使い分けながら
【暗殺】技術を応用した龍狼剣での素早い【なぎ払い】で
人々の拘束を的確に切断、解放していく
僕、元々サポート特化なんですよねぇ
癒す事も出来なければ破壊力が高いわけでも無い
貴方のお相手をするには些か役不足でしょうが
搦め手は得意ですよ
●
足音を立てぬように。
シキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)は歩き回る“母”の隙をついて、回廊へと忍び込んだ。
鳥籠の中の人間に、人差し指を立てて音を立てぬように指示すると。素早く鳥籠の鍵を開けていく。
「開きそうですか」
共に来た堺・晃(元龍狼師団師団長・f10769)が問う。
「少し時間がかかる。稼げるか?」
「ええ、出来ますとも」
晃は其の白皙の顔で頷くと、回廊内にワイヤーを張り巡らせる。
――咎人殺しの檻。猛毒を纏ったワイヤーは的確に“母”を探し、捉えたらしく……回廊のひとかどできゃあ、と悲鳴が上がった。
「覚えました。暫くは足止めが出来る筈です」
ぶちん!! ぶちん!!
“母”というものは全くもって恐ろしい。ワイヤーを抜けようとして苛立ったのだろう。強化された膂力で引き千切っている。だが晃は其処に重ねて檻を放つ。敵を覚えたワイヤーはより強固に、より広範囲に配置されて“母”の行動を妨害する。
かちゃり。
そうしてシキは着実に、囚われた人間たちを助けていく。最初は老人だ。彼は衰弱している、担いでいかなければならないだろう。
「ああ! わたくしの子どもたち……!」
しかし強くなった“母”は、執念で其処へ来たのだ。
「其の子はお寝坊さんなのよ、起こさないで! ベッドに寝かせてちょうだい!」
「ベッド? ベッドというには随分と武骨すぎやしませんか」
「全くだ」
言いながら、シキは晃と視線をかわす。
即ち、“先に行く”の意だ。何より優先すべきは囚われた人間の救出。此処でシキも交戦すれば老人の安全は保障できない。
――“子”を失いたくない想いは理解出来なくもない。
――家族を失うと言う事は、凄まじい心の痛みを生む。
だが、とシキは振り返らずに進みながら思う。囚われたものを置いて行くつもりも、|猟兵《こちら》側にはないのだと。
何より、彼らが囚われる事を望んでいないのなら。
「どうして、どうしてわたくしから子を奪うのです」
「貴方に言って理解されるとは思っていません。ので、話すだけ無駄だと思いますよ。まあ、境遇には聊か同情できなくもないですが……いかんせん、やり方が横暴過ぎましたね」
一方で足止め役を担った晃はハンドガンを抜き、銃弾を容赦なく“母”へ向けて放つ。
「わたくしは、ただ子と一緒にいたいだけなのです! 子と静かに暮らしたいと望むのは、そんなに横暴ですか!」
「そもそもがおかしいんですよ。彼らは貴方の子|ではない《・・・・》んですから」
アイアンメイデンを、レイピアを振るう“母”からの盾にする。ばかん、と其のおぞましい胴が開くと、棘が放たれて。
「……!!」
“母”を幾本もの棘が刺し貫いた。
「生憎、僕はサポート特化なんです。癒す事も出来ないし、破壊力が高い訳でもないんですが……足止めくらいは出来るでしょう」
大成功
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蛇塚・レモン
これが正真正銘のモンスターペアレントっ!
囚われの人々も助けなきゃ……っ!
ってことで、あたいは攻撃と救助の手数の共立するねっ
……うん、だったらこのUCだっ!
あたいは『強欲』に進むよっ!
660倍の威力を一度だけでいいから防御するっ!
あたいの持てる技能の粋を尽くして、滅んだ故郷の村の子供達を召喚
彼らと一緒に霊力の超多重オーラ結界を生成!
当然結界は一瞬で破壊されるけど……あたいが五体満足なら防御成功っ!
強欲のUC発動!
660倍の敵のUCを更に9倍に強化した状態で蛇神様が行使
蛇神様もかつて愛した故郷の子供達の霊を守るから行使可能なはず!
5940倍の威力で敵を押し留めながら救助を進めていくねっ!
御梅乃・藍斗
アドリブ、連携OK
子供を閉じ込めて自由も許さないなんてのは、まっとうな母親じゃないですよ
そんな歪んだ愛情で犠牲になる人を増やすわけにはいかない
半端なことをしていたら何も達成できなそうだ、僕は救出に注力します
刀で拘束具を断ち、人々を助け出しましょう
【救助活動】【奉仕】でできる限り安全に画廊から出られるように
敵の攻撃が来れば指定UCで弾きます、【受け流し】で精度を高めたいですね
万一にも助ける人達が狙われるようなら【かばう】を
貴女がどうして子供に執心するかは知りませんが
もしも本当の子供がいたなら――その子は「おかあさん」のこんな狂った姿なんて、見たくないんじゃないでしょうか
ロラン・ヒュッテンブレナー
・アドリブ連携歓迎
・救出重視
人間回廊、何度来てもいやな所なの
城主の趣味で囚われてる人たちを助けなくちゃ
最初は観察なの
結界を多重に張って、狼の脚力を活かして距離を取りながら様子をみるね
この人、まさか、人間画廊の人たちを母性でこんな風にしてるの?
それじゃ、救出に行く人を集中的に狙ってくるかも?
それを利用するしかないね
囚われた人たちの元へ素早く移動、鳥籠に触れたら魔力接続、ハッキング
同時に結界に魔力供給して強化
鳥籠の組成を破壊するのが先か、結界が破られるのが先か…っ
く、少し間に合わない…
でも、その|霊《子》たちのことも、鳥籠も、分析は終わってるよ
UC発動
月光城の月光を吸収して、強く響け、ぼくの声!
ヘルガ・リープフラウ
※アドリブ連携歓迎
恐らくこの女性は、過去に自分の実子を失って狂気に陥り
捕らえた人質を「我が子」と思い込んでいるのでしょう
それでも無辜の人々を犠牲にして良い理由にはならないわ
序盤は極力敵に見つからないよう注意して移動し、人質の解放を優先
見つかったら子供たちの霊に心惑わされぬよう覚悟を決め狂気耐性で抵抗
歌うはレクイエム【恐るべき御稜威の王】
響かせるのは「子供として」彼女の犠牲になった人々の嘆き声
聞こえるでしょう
「我が子」からの反抗の声が
溺愛に飲み込まれる恐怖に怯える声が
母はいずれ子の巣立ちを見守るもの
自由を奪い束縛するのは、本当の母の愛じゃない
「浄罪の懐剣」を突き立て
狂気と妄執からの解放を
●「母のあるべき」とは
――子どもを閉じ込めて自由も許さない。
――そんなのは、まっとうな母親じゃない。
御梅乃・藍斗(虚ノ扉・f39274)は最初から、人命を救出すると決めていた。
共に来たロラン・ヒュッテンブレナー(人狼の電脳魔術士・f04258)が結界を張る。其れに“母”が気付いてくるまでの間に、藍斗は鎖と拘束具を刀で断ち切り、人々を立ち上がらせる。
「もう大丈夫ですよ」
「僕たちの後ろに……!」
「ありがとうございます、……ありがとうございます……!」
「ああ、……どうして……」
駆け付けた“母”の表情は、悲嘆に暮れていた。まるで藍斗とロランが悪役であるかのように、さめざめと悲哀に泣いている。
「どうして……わたくしはただ、子と一緒にいたい、一緒に平穏にくらしていたい、其れだけなのに……何故です、何故貴方がたは奪うのです」
此方へ帰っていらっしゃい。
“母”の悲しい呼びかけに、“子”は応える筈もなく。
藍斗が庇うように前に出て、言った。
「貴方がどうして子どもに執心するかは知りません。ですが、……貴方の本当の子どもがいたとして、其の子は……“おかあさん”のこんな姿なんて、見たくないんじゃないでしょうか」
「……こんな、姿……?」
「そうです。罪もない人々を閉じ込めて、拘束している……そんな姿、きっと誰も見たくない」
「……違う、わたくしは……違う……!! いや!! わたくしから子どもたちを奪わないで!!」
“母”は恐怖した。
子を奪われる恐怖。成長して巣立つのではなく、ただ無碍に奪われるだけの恐怖。其の恐怖に呼応して、子どもたちの霊が現れる。無邪気に歩き回ってロランの結界を叩く力は、しかし子どもらしくなく強い。
「……!」
けれど、使役者であるロランは気付いた。
力が弱い。思っているよりずっと。……つまり、既に人質解放は始まっていた!
「これなら、いけるの……!」
「いけるねっ!」
ば、と舞うように現れたのは蛇塚・レモン(白き蛇神憑きのシャーマンクイーン・f05152)とヘルガ・リープフラウ(雪割草の聖歌姫・f03378)であった。
二人が見ているのはただ一人、“母”のみ。
「攻撃と救助の両立っ、しようと思ったけど……攻撃に全振りして良いっぽいねっ! なら……!!」
たたた、とレモンが駆け上がるのは、ロランの張った結界の|上《・》!
子どもたちが叩く其の結界の上に――レモンの総力を結集して、霊力の超多重オーラ結界を生成する!
『きゃは』
|結界の内側から《・・・・・・・》笑ったのは、かつてレモンが暮らしていた、今はもう滅び去ってしまった故郷の村の子どもたち。
『あはは……!』
戯れるように笑う子どもたち。そうして“母”が召喚した子どもたちの霊に結界は打ち砕かれる。が、レモンはにやりと笑ってみせた。
「……弱ったといっても、やっぱり直ぐにやられちゃうかっ! でも、これで上出来! 蛇神様!」
レモンを護る白蛇の神が、己の村の子を護るために“母”を狙う。
ヘルガもまた結界を回り込むように、レモンたちの苛烈な攻防に紛れて“母”に近付いていた。
「――主よ……」
そうしてある程度“母”との距離が縮まったところで、ヘルガは歌を奏でる。其れは鎮魂歌。これまで犠牲になってきた“子どもたち”の魂を鎮め、其の嘆きを“母”の耳元に投げかける。
「あぁ……っ!」
「聴こえるでしょう、“我が子”からの反抗の声が。溺愛に呑み込まれる恐怖におびえる声が」
「こんな冷たくて暗い所に閉じ込めるなんて、優しさじゃないの。本当のお母さんだって、きっと子どもにはこんな事しないの!」
月光城の月の魔力が、ロランへと集まって行く。其れはまるで隈取のようにロランの顔を彩り、狼のような容貌へと変え、
――響く!
ヘルガのレクイエムに載るかのように、ロランの遠吠えが!
『――あ』
レモンの子どもたちと戦っていた“母”の子たちが、ロランの遠吠えによって打ち消されていく。一人、また一人……静かなレクイエムを聞きながら、“母”を振り返る事なく天へと旅立っていく。
其れを“母”は、はらはらと涙を流しながら見詰めていた。
「どうして、……わたくしの、子どもたち」
「見守って差し上げて下さいな」
気付けば、ヘルガは“母”の傍に居た。
優しく差し出されるのは“浄罪の懐剣”。まるで聖女が赦しを与えるように――其の優しい刃は、母の胸元を貫いて。
駆け寄って来るのは、レモンの村の子どもたち。其の間に、レモンと藍斗は囚われた人間たちの救助を進めていく。
笑っている。
子どもたちが、笑っている。
どうして、こんなに幸せそうに……わたくしの“子どもたち”は、……一度も、笑ってくれなかった。いつだって、諦めたような顔を……
ゆっくりと“母”は崩れ落ち、青黒い塵へと変わっていく。ヘルガは己も片目から涙を流しながら、其れを見守っていた。
子を失う母の悲しみを、微細まで理解出来る訳ではない。けれど、寄り添う事は出来るから――
「……終わったの?」
「……。ええ、」
「何だか、悲しい人だったの」
「悲しかったのでしょう。きっと、そう、何もかもを失ったかのように、悲しかったのでしょうね……」
ヘルガは静かに、青黒い塵を見ていた。
其れはひゅうと吹かれて、まるで届かない子たちへと手を伸ばすかのように、天へと舞って、散った。
大成功
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