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「かわいい、いとしい、私のお人形さん」
いずこかに通じる回廊のただ中で、吸血鬼は愉しげに語りかける。
柱に。
床に。
壁に。
糸で絡めたマリオネットは、これまでに集めたお気に入りの人間達だ。
「私と一緒にお出迎えしましょう、新しいお仲間を……きっときっと、ここに来るから」
犠牲者が増えると言うことは、飽いたモノから棄てるという事と同義だ。
向けられる絶望の眼差しは、吸血鬼に届かない。
どうか、どうか自分が選ばれませんように、と。
祈りながら、物言わぬ人形としての役割を懸命に果たす他にない。
「楽しみね。まだ、猟兵というお人形さんは、捕まえたことがないんだもの」
吸血鬼であり月光城の主の一つ。アリシア・ローズは、期待に胸を膨らませて、そこにいる。
欲しかった玩具を貰える前の子供のように無邪気に、悪辣な想いを抱えて。
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「禁獣である、ケルベロス・フェノメノンの欠落がある、と思わしき場所へと通じる、かもしれない道を見つけたよ」
グリモアベースで肆陸・ミサキ(黒白を弁ぜず・f00415)はそんな曖昧な言葉で説明を始めた。
戦争の最中で賑わう中、静かに口を開く。
「デスギガス災群に乗って現れた、月光城の集合城塞は、中心点から外へ広がる様に設立されている。その中心こそ、欠落がある場所ってわけだ」
各月光城の深部には、どこかへと通じる魔空回廊という道がある。
そこは城主自らが守りについている、どうみても要所と言うべき場所だ。
そこを突破し、欠落へ至る道の確保が今回の目的になる。
「でも、城主は月の眼の紋章と融合しているだけではなく、さらに特別な強化を得ているんだ」
それが、人間画廊と言う名の、城主の趣味だ。
捕まえた人間たちを人形として飾り付け、愛で、玩び、そして棄てる。
「その結果、回廊の中に居る限り、ソイツは元の力を660倍に強化している。でも逆に言えば、それは前提条件をクリアしていなければ発揮されない効果ってことでもあるね」
囚われの人々を人形から人へ戻し、解放することで、吸血鬼の強化は減り続け、やがては完全に無くなる。
「つまり、殺せる相手になるってことだ。まあ言うほど簡単な事じゃないのは、今さらだしわかってるよね」
それでも、勝つためにはやるしかないと言うこともまた、わかっている。
「だから、お願い。みんなを解放して、あの吸血鬼を倒してきて」
グリモアが導く先へ、ミサキは指を指した。
ぴょんぴょん跳び鯉丸
戦争シナリオです。
全1章で構成されております。
今回のシナリオでは、超強化された吸血鬼、アリシア・ローズとの戦闘になります。
月の眼の紋章と人間画廊の影響で、強さが660倍になっているため、通常の方法では不利になっています。
また、アリシアは捕らえた人々を所有物と考えているので、奪おうとすると執着から、苛烈な攻撃を加えるでしょう。
プレイングボーナス:人間画廊に捕らわれた人々を救出する。
それではよろしくお願いいたします。
第1章 ボス戦
『アリシア・ローズ』
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POW : 薔薇色のロンド
レベルm半径内に【血液から変じた薔薇の花弁】を放ち、命中した敵から【自身に向いた敵意・殺意と共に生命力】を奪う。範囲内が暗闇なら威力3倍。
SPD : 硝子色のラメント/ベル・カント
戦場全体に【薔薇咲く硝子の庭園】を発生させる。レベル分後まで、敵は【悲哀や絶望の記憶を増幅する雨】の攻撃を、味方は【硝子の小鳥による囀り】の回復を受け続ける。
WIZ : 白金色のドルチェ
【過去・現在の自分=アリシアの行いに疑問】の感情を与える事に成功した対象に、召喚した【人形楽士団の幽霊】から、高命中力の【甘く響き魂囚える旋律】を飛ばす。
イラスト:白
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠リオネル・エコーズ」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
サク・ベルンカステル
「ヴァンパイアに復讐をする為にも捕らわれた人々を救うのが先決か、、、」
滾る復讐心を抑え唇をかみながらそう呟くと走り出す。
突如、視界に薔薇の花びらが舞う。明らかに尋常ではない花びらを黒剣や随行大剣での【武器受け】やオーラ防御で凌ぐ。
命中し敵意や殺意を奪われようと、ヴァンパイアへの怒りと復讐の誓いは尽きることなく沸き上がり立ち上がる。
人々を捕らえるマリオネットの糸はUC赫血黒刃で無数の刃を生み出し断ち斬る。
薔薇の花びらごときで私の意思が折れるのが先か貴様が弱体化するのが先か我慢比べといこうか
ロラン・ヒュッテンブレナー
・アドリブ歓迎
月光城に人間画廊、それに城主まで…
奥には大事なものがあるってお話だけど、囚われてる人たちを助けないと!
ここは人形?
解呪は難しくなさそうだけど、戻したらどうやって守る?
結界を多重に張って狼の脚力で走って距離を取りながら観察と考察なの
(囚われの人を救う=執着と言う形で一致する)
人形立ちを結界で包んで一気に浄化、すぐに吸血鬼に仕掛けて囮になるしかないね
実行なの!
あ、がぁ…っ、何この音…
(救った後はアリシア討伐に意識がシフトしたので疑問が生まれる)
ぐ、でも、ここで負けるわけにはいかないの!
幽霊も、魔人も、過去へと還すために、破邪結界、飛翔なの!
UC発動
破邪結界が効いてる内に逃がさないと…
シノギ・リンダリンダリンダ
あははは。面白い事を言うのですね
猟兵はお前のモノ?
違います。|猟兵《仲間たち》は、私の|猟兵《お宝》です
【傲慢の左腕】を起動
660倍の攻撃に耐える方法。それは、負傷してもその度に負傷を回復する事
さらに回復すればするほど呪詛の蛇腹刃の数は増え、長さは伸び、捕らえられている人を救うために動かせます
画廊全体を見渡せますか?何十何百何千の蛇腹刃の行き先を見る事ができますか?
ほら、大事なお宝は、ちゃんと見ていないと。こうやって略奪されますよ?
攻撃が過酷になろうと戦法は変えない
ある程度解放したら反撃
蛇腹刃に傷の治りが遅くなる呪詛を混ぜつつ四方八方から襲い掛かる
この程度の強欲で、私の前に出ないでくださいな?
仰木・弥鶴
【迷彩】で画廊に囚われた人間の中に溶け込んでひっそりとUC
白燐蟲を【蟲使い】で操り対象の棲家へ転移させる
すぐに気づかれるだろうけど案内するのは俺ではなく蟲たちだ
人々が消えて残る俺の姿を見つけられる頃にはかなり弱体化も進むだろう
君も元いた場所へ帰ったら?
所有物を奪われて怒っている相手に敢えて尋ねながらUC
拒否すれば即座にダメージ
プラスでピンマイクを通した通常の音声攻撃も加えて可能な限りのダメージを与える
敵の攻撃に対しては理解を示して対処
君の行いに疑問は抱かない
他者を自分だけの『|人形《もの》』みたいに扱うのは
とても気持ちのよいことだと俺も知っているから
楽しい日々はもう終わりだよ、アリシア・ローズ
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敵がいる。
直線的な回廊のただ中、悠然と立つソイツは、サクにとって屠るべき忌まわしい吸血鬼だ。
「――ッ」
逸る心を、唇の噛み締めで堪える。
まだ。
まだダメだ。
捕らわれた人々を救うのが先決だ……。
心の中で唱え、自制する。
今はまだ、奴に刃は届かない。それに、周りに見える人々は巻き込まれただけの被害者だ。
きっと、自分と同じように。
「ふふ、素敵な表情……ああだめよ、もっと良く見せて?」
堅くなる顔を見たアリシアが、嬉しそうに口端を歪めて言った。
その無邪気な笑顔は、自分が愛でる人形への狂った愛情なのだろう。
「ふざけるな……!?」
涌き出る怒りに、大剣を握る手に力が籠る。正眼に構え、距離を詰めるべく重心を前に倒したその時、
「――ぁ?」
不意に、あらゆる熱が冷めていくのを感じた。
目の前の吸血鬼は、倒すべき相手のはずなのに、それを成そうとする為の燃料が何もないかのような、空虚感だ。
それなのに。
「さあ、おいで、私のお人形さん」
だと、しても。
「綺麗に、可愛く、飾り付けてあげるから……っ!?」
サクは刃を振り抜いた。
首を断つ一撃だ。
しかし強化されたアリシアの肌には傷一つ付かず、微動だにしない。
だが、失わせたはずの心が、これだけの爆発力を見せたことに彼女は驚嘆する。
「この怒りも、俺の誓いも、尽きることはない……これ以上、俺から奪えると思うな!」
続けて、身体から漆黒の刃を無数に産み出し、アリシアを拒絶するように周囲へ吐き出した。
「無駄な足掻きを……いえ、まさか、お前は!」
それはアリシアを狙っていない。
サクの狙いは、人々を捉える絡み付いた糸を切ることだ。
その事に気付いたアリシアは憤慨の表情を見せ、刹那の肉薄を果たすと、
「私のモノよ!」
武器で受けるサクを殴り吹き飛ばした。
●
先陣を切ったサクの後ろ、ロランは距離を取って観察と考察に徹していた。
アリシアを強者足らしめているのは、周りにいる『お人形』という存在だ。
糸に絡め取られ、生気を失ったような様子はまるで、呪いのようにも見える。
「でも、解呪は難しくなさそう……だけど」
解放と同時に、彼らを逃がす事を考えなければならない。
もしくは、守るための手段が必要だ、と。
そう思い、息を整える。
「ぐっ」
見る先、サクが吹き飛ばされるのが解る。
「ヒュッテンブレナー式破邪結界!」
即座に展開するのは、邪を滅する光の結界だった。
拡がっていく光に照らされた人々の糸を融かし、一気に解放を狙う。
と、アリシアの矛先は当然の様にロランへと向いていく。
「予想通りに来た……!」
人々を人形と呼び、独占的な執着を見せるアリシアならば、それを奪おうとする存在を見逃すことはしないはず。
考え通りの行動を誘発することに成功したロランだが、
「どうして……どうして私のモノを奪おうとするの!?」
「え」
悲痛な叫びだ――そう、聞こえてしまった。
まるで、被害者に責め立てられる加害者の気分だと思ってしまった瞬間、自分の行動が、彼女の行動が正しいのか。
本当に間違っているのは、どちらなのか。
そういう疑問が沸き上がってくるのを止められない。
「ぐ、あ……この、音……!」
アリシアの召喚した人形楽士団が奏でる音に、ロランの身体は自制と理性を狂わされてしまう。
その隙を逃さず迫るアリシアは、ロランの鼻先へと白い手を伸ばし、醜く歪んだ笑みを浮かべて。
「!?」
とてつもない圧力に吹き飛ばされた。
●
「あははは。面白い事を言うのですね」
それは、異形の黒い腕だった。
「お前のモノ? ここの人達が?」
押し込み、引き摺り、吸血鬼を張り倒す。
「猟兵がお前のモノ?」
と、それはやがて、ピタリと止まる。
同時に、黒い腕は引き裂かれたような傷を追わされ、だらりと落ちた。
だがその腕の持ち主である、シノギはなんら問題は無いと表情すら変えず、面白いと言いながら無表情に。
「違います」
言う。
「|猟兵《仲間たち》は、私の|猟兵《お宝》です」
「は……!?」
そして黒い腕は再生と同時に、蛇腹刃を生やしてうねりをあげた。
螺旋の様に動いてアリシアへ迫るそれは、一瞬、彼女を怯ませる。が、しかしそれだけだ。
「そんなもので、私を――?」
それだけなのだと思い、力任せに引きちぎり、腕を叩き折って、そうして知ったのだ。
「増え……!?」
壊す度、傷つける度、その損壊は修復され、刃は増えていくという事実に。
しかもそれらの狙いは、アリシアを殺すために使われるのではない。
「おま、お前も私のお人形たちを奪うつもりか!」
「勿論、海賊が略奪せずになにをしましょうか。ほら、大事なお宝はちゃんと見ていないと」
止めようと傷付ける程に増えていく刃は、もはやパニックに陥りかけたアリシアには対処の難しい数となっていた。
目で追う先々で、糸から解放された人々は緩慢な動きではあるが逃走の始めようとしている。
それを理解したアリシアの行動は速い。
「まだよ」
もう一度繋げ直せばいい、という結論だ。
「まだ、遠くには離れられないもの」
逃げたと言わないのは、彼女なりのこだわりなのだろうが、ともかく。
「私の側からいなくなるなんて、そんなこと、ないわよね……?」
祈るような言葉を吐きながら、蛇腹刃から這い出た彼女の目に映るのは、
「うん、あるよ」
悠然と立つ、見知らぬ男からの、死刑宣告だった。
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時は、少し戻る。
戦闘を開始する猟兵達の動きの中で、たった一人、静かに行動をしていたのが弥鶴だった。
捕らわれた人達の中に違和感少なく混じり、静かに救出作業を進めていく。
ユーベルコードの転移で飛ばして行くが、その為には一度糸から解放しなければ送れない状態だ。
「意志すらも雁字搦め、か」
拒否反応は本意ではない筈だ。その辺り、人形という役割を与えられた弊害なのだろうと、そう思う。
故に、理解する。
「なら、俺の役割はこれだ」
サクの刃で解放された人々を、ロランの光で解放された人々を、シノギの蛇腹で解放された人々を。
片っ端から転移させていく。
アリシアは解放させる行動を追い掛けるばかりで、脱出手段があるとは思ってなかったのだろう。
実際、弥鶴が居なければ守りながらの戦闘行為が続いていた筈だ。
「でももう、みんな帰してしまうよ」
それは改めて突きつける死刑宣告だ。
「君も、元居た場所へ帰ったら? なんなら、送ってあげる」
「ふざけないでッ!?」
弥鶴の申し出を断ると、それだけでアリシアの身体は軋むように痛む。
「どうして、どうして私から全てを奪うの、全部全部、私のモノなのに!!」
強化効果の減衰を感じて青ざめる吸血鬼は、涙ながらに腕を振り乱して叫ぶ。
思わず、そんなわけないだろう、と、相手の言動に対して疑惑に似た感情を抱かせる慟哭だ。
「うん、わかるよ。他者を自分だけの|人形《もの》みたいに扱うのは、とても気持ちの良いことだものね」
だから、弥鶴は理解を示す。実際、その心地よさを彼は知っているのだから。
「だったらどうして――!」
「それはね、さっきから言っているじゃないか」
弥鶴は、アリシアから二歩、いや三歩程下がる。
「お前のモノじゃないからだ」
「!?」
そして答えたのは、サクだった。
横合いからの特攻は、振り抜いた大剣の一撃。先ほど歯牙にも掛けなかった刃は、掲げたアリシアの腕を斬り飛ばし、返す軌跡で身体を斬り裂く。
「そん、な」
たじろぎ、後退る身体を、蛇腹刃が逃さぬように囲み、更にその前後を、破邪の光が檻と為す。
徐々に狭まる死の包囲網に、吸血鬼は何も出来ない。
「ここには初めから、あなたのモノなんて何一つ、無かったんです」
ただ、突き付けられる真実に絶望して、
「その程度の強欲で、私の前に出ないでくださいな」
終わりの時を看取られるだけだ。
「楽しい時間は終わりだよ、アリシア・ローズ」
断末魔すら許さずに、人を玩んだ吸血鬼は、消滅した。
大成功
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