闇の救済者戦争⑬〜灯よ、灯よ、夜に消えよ
●回廊、あるいは画廊
月光城。
月の満ち欠けに応じて輝きを増す城塞の深部には、外部から完全に秘された通路があった。
魔空回廊。
そう呼ばれる通路には窓一つなく、けれど十分に明るい。沢山の『照明』があるからだ。
「……ぁ」
「こ……ろ……」
『それ』は通路の両側に点々と、等間隔に直立した丸太に縛り付けられ、燃え盛る炎の薪とされている。
全身を焼け爛れさせながら、驚くべきことにまだ生きている。
声も出ないほど憔悴しながら、意識をはっきり保っている。
『それ』こそは照明にして作品。この人間画廊唯一の展示物――火炙りにされる人間達だった。
「うふふ」
広い回廊の中央に佇む紫の女性、輝く城の主。
ドランケルハイトの三姉妹、その長女が尾を揺らして微笑んでいた。
●簡単な、あるいは困難な問題
「桁がおかしいでしょ……!」
グリモアベースに集まった猟兵達を迎えたのは、頭を抱えるイデア・ファンタジア(空想の描き手・f04404)の姿だった。猟兵達の視線に気付いたイデアは首を振って向き直る。
「お疲れ様。皆はもう『欠落』については知ってるよね?」
ダークセイヴァーの支配者、『五卿六眼』を始めとする闇の種族達は己の身体部位を抉って物品化している。それらの総称が『欠落』だ。闇の種族が圧倒的な力を振るっていた絡繰であり、そしてそれは禁獣も同じらしい。
「『欠落』を壊さない限り禁獣は絶対に倒せないわ。だから戦う前に何とかしないといけない、のだけど……」
その『欠落』のある場所が問題なのだと、グリモア猟兵は予知した光景を語り始めるのだった。
「――ってことで、この回廊の先に『欠落』がありそうなのよ。でもここを守っている敵がめちゃくちゃ強化されててね? どれ位かって言うと……」
件の回廊にはどうやら、空間内の味方を10倍に強化する機能があるらしい。そして強化される対象は、万全の紋章を持つ月光城の主だ。
戦闘力を66倍に強化する『月の眼の紋章』と、戦闘力を10倍に強化する『魔空回廊』。この二つが組み合わさるとどうなるか、答えはとても簡単だ。
「660倍よ」
絶句する猟兵達が落ち着くのを待って、イデアは説明を続ける。
「解除方法が分かってるのがせめてもの救いね。この趣味の悪い画廊に捕らわれている人達を救い出せばいいわ。最低限、火を消して拘束を解いてあげれば大丈夫なはずよ」
火炙りにされ続けている彼らだが、魔術で保護されているため――より長く苦しめるためだろうが――命に別条はないらしい。全体の半数も救出すれば強化は失われるだろうとのことだ。
「でも、それでお終いとはならないのよね」
今回の敵、ソーンネリア・ドランケルハイトは陽の魔力を集めている。陽の魔力とは人の心のうち、安堵や希望といった前向きな感情から得られるものらしい。
「分かりやすく言うと、敵は捕らわれた人が救出される度に強くなるわ」
もちろん660倍の強化の方が厄介なので、救助しないという選択肢はない。ただ、救助した後も決して気を抜けないということだ。
「それと通路の明かりは人間松明だけだから、その辺も何か対策があるといいかも?」
やるべきことは明確で、けれどもとても難しい。緊張と共に猟兵達は転送されるのだった。
渡来あん
初めまして、あるいはお久しぶりです、渡来あんです。
以前戦った相手のお姉さんらしいですよ。
●説明
広々とした回廊で人々を救助しつつ敵と戦います。
要救助者は通路の両側に等間隔に配置されています。
敵は非常に強力なため、まずは何とかして攻撃を凌ぎながら救助を進める必要があるでしょう。
救助する度に敵は弱体化していきますが、他の戦場よりは緩やかなようです。
プレイングボーナス:人間画廊に捕らわれた人々を救出する。
本シナリオは『やや難』です。
判定はいつも通りですが、代わりに状況設定を難しくしています。
それでは、ご参加をお待ちしております。
第1章 ボス戦
『ソーンネリア・ドランケルハイト』
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POW : 陽鏡杖~ゾンネ・レンズ~
【陽の魔力光】を放ち、命中した敵を【燃料とした炎】に包み継続ダメージを与える。自身が【多くの陽の魔力を収集】していると威力アップ。
SPD : 陽光昇来~ゾンネン・アウフガング~
レベルm半径内に【陽の魔力の閃光】を放ち、命中した敵から【視力】を奪う。範囲内が暗闇なら威力3倍。
WIZ : 陽蝕竜~ソーンネリア~
【暗黒太陽の魔力】に覚醒して【万物の熱を奪い燃える暗黒炎を宿した陽蝕竜】に変身し、戦闘能力が爆発的に増大する。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
イラスト:ちびのしま
👑11
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠幻武・極」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
試作機・庚
魔空回廊とは懐かしいものが出てきたデスね…噂だけは聞いてたあの駄犬がいるってことはそういうことデスよね…
そういえば回廊は昔開閉に10分かかるとかデウスエクスが開くとか色々あったデスけど…別物っぽい気もするんデスよね…彼奴らが開いたって感じでもないデスし…
まぁいいか、やるしかないデスね
嫌な予感はするデスけどある意味挑発に乗って【グラビティチェイン】を放出して相手の行動と攻撃を無力化して自律稼働する辛、フィギュアと協力して2分以内に可能な限り人質を救出するデスよ
2分後には解除して直接戦闘になると思うデスが分が悪いデスから攻撃の発生時に一瞬だけとめる方法で隙を作ってなんとか対処したいところデスね
「魔空回廊とはまた懐かしいものが出てきたデスね。あの駄犬がいるってことはそういうことデスよね……」
詳細不明が代名詞、全てが謎のレプリカント。試作機・庚(過去を裏切った者・f30104)が口にしたのはある意味で彼女らしい、意味不明の言葉だった。
「んんーでも別物っぽい気も……開閉には条件があったはずデスし、彼奴らが開いたって感じでもないデスし……」
他の猟兵が問いただしたとしても彼女の言葉は理解できないだろう――いずれ■■■■が猟兵達を導くまでは。
「まぁいいか、やるしかないデスね」
そしてあっさりと庚の意識は戦闘へと切り替わる。
城主が立っているのは広い回廊の中央だ。それは猟兵という侵入者が現れた後も変わらない。
ならば端から救助していけば良いのかというとそれも違う。単純に、回廊のどこにいようと射程内だから動く必要がないだけなのだ。
「あなたも一緒に燃えてしまいなさい」
城主の姿が黒く染まり膨れ上がる。やがて姿を現した紫の竜は、ブレスを吹きつけようと大きく息を吸い――その口もろとも、全身を鎖で縛られた!
「グラビティ・チェイン。ユーベルコードとは似て非なる理、喰らうがいいデスよ!!」
『っ、これは……でも長持ちはしそうにないわね?』
660倍の戦闘力を容易く押さえ込んだのには驚いたが、所詮は時間稼ぎにすぎない。そう竜は挑発するが庚は相手にせず、要救助者へと駆け寄った。相手の言う通り2分しかもたないのだ、時間は1秒だって惜しい。
「しっかり、今助けるデスよ!」
まずは消火剤を撒いて鎮火を。拘束の解除は支援AIの『辛』――フィギュアサイズの小型オブリビオンマシンだ――に任せ、一人でも多くの人の苦しみを取り除いていく。
「(さて、この後はどうするデスかね……!)」
戦いは始まったばかり。月光城の主の余裕はまだまだ崩れそうにない。
大成功
🔵🔵🔵
夜刀神・鏡介
過剰な強化は身を滅ぼす……訳でもないのか
耐えきれずに自滅してくれれば楽だったのだが、そう甘い話もない訳だ
神刀の封印を解除して、黎の型【纏耀】を発動
神気を強く纏い、真の姿に変身して戦闘能力を大きく強化。とはいえ相手には遠く及ぶまいが
敵の魔力の源が聞いた通りなら、今は最大の力を発揮できない筈
大幅に強化されている以上は誤差程度かもしれないが、付け入る隙があるとすればそこだ
放たれた魔力を、浄化と破魔の神刀で断ち切る
一瞬でも動揺してくれれば御の字。その隙に炎と拘束を切り裂いて捕らわれた人々を助け出そう
救助によって相手の魔力が高まっても、一度見た技だ
タイミングをあわせて切り払い、奴にも直接斬撃を叩き込もう
「過剰な強化は身を滅ぼす……訳でもないのか」
耐えきれずに自滅してくれれば楽だったのだが。そう吐き捨てた夜刀神・鏡介(道を探す者・f28122)の言葉を拾ったのか、ソーンネリアは可笑しそうに笑った。
「あら、貴方の知る城主は伊達や酔狂でも務まるのね」
「……なら見せてみろ、お前の実力とやらを」
俺も出し惜しみはしない。そう言って刀を抜いた鏡介の髪から色が抜ける。瞳は燃えるように輝き、左腕が人ならざる|容《かたち》に変化する。
「幽冥を越えて暁へと至る。黎の型【纏耀】」
「うふふ……生意気!」
陽鏡杖が煌めいた。
放たれた魔力光が届くまでの間、刹那より短い一瞬。
極限の集中力で鏡介が思ったのは相手の力の源について。相手は未だ全力ではなく、それはある意味で本調子でないとも言える。
そこに付け入る隙があると鏡介は考える。後付けで強化されただけの力押しなど、どれほど圧倒的だろうと怯む必要はないと。
戦いで最も恐ろしいのは、積み上げた経験を元にした創意工夫なのだから。
神刀が光を断つ。
「……え、はぁっ!? 何それ!?」
「……出来た。これが、俺がいずれ至るべき境地……!」
刀身の鏡面を利用するだとか、光も結局は有限の速度だとか、小難しい理屈を抜きにして望む結果を引き寄せる御業――神器一体の境地。その前借りは代償を伴うが、使いどころを見誤る鏡介ではない。
人命救助は選ばれた者の責務だ。
「待っていてくれ、すぐに助ける」
あまりのことに敵が動揺した隙に回廊の端へと移動する。今の鏡介なら炎を斬ることも容易い、一振りで鎮火しもう一振りで拘束を壊す。
次々と人間達が解放されていく様子に正気に返ったのか、ソーンネリアが魔力を集めようと杖を振っている。けれどそれを見ても剣豪の心は凪いだまま。
もう一度放つというのなら、もう一度斬り捨ててみせるだけだ――。
大成功
🔵🔵🔵
ロラン・ヒュッテンブレナー
・アドリブ歓迎
人間画廊から人々を救出しても強化されるの?
それはかなり大変なの
でも、ここで退くわけにはいかないの
結界を多重展開して人間松明まで一気に狼の脚力で駆け抜けるの
その間にソーンネリアさん個人のにおいを狼の嗅覚で学習するの
松明の火を消す前に、一つ賭けをするの
「ごめんね、何も聞かず寝てて欲しいの」
UC発動
人間松明の人たちを眠らせて、氷属性魔術で拘束を凍結破砕と同時に火を消すね
眠っていれば、感情の動きは少ないはず
ソーンネリアさんの動きは動き始めまで匂いの変化で捉えて音でも索敵
夜目も利くからまだ戦えるの
竜には雷なの!
雷属性攻撃魔術で攻撃なの
倒せなくても、一撃与えられればなんとかなるの
「ごめんね、何も聞かず寝てて欲しいの」
故郷から連れ去られてどれほど経っただろうか。長いこと耐えがたい苦痛に襲われていた青年は、その声が自身へとかけられたものだと理解した直後、久しぶりの眠りに落ちていった。狼の優しげな遠吠えを聞いた気がすると、彼は後に語る。
直後、鋭い冷気が炎を霧散させた。青年を縛り付けていた縄が凍り付いて砕け散る。
声の主、冷気を操って青年を助けたのはロラン・ヒュッテンブレナー(人狼の電脳魔術士・f04258)だ。青年を横にした少年へと、今度は女が声をかける。
「余計なことをする子ね。助かったってぬか喜びする姿が傑作なのに」
「……ソーンネリアさんの思うようにはさせないの」
希望を感じるほどにダークセイヴァーを支配する闇もまた濃くなり、やがて絶望に落とされる――城主の悪辣な遊戯に対し、ロランは一歩も退かない姿勢を見せた。
明るかった回廊は今や薄暗い。背後の人間松明に照らされた女の影が長く伸びていて、まるで怪物のよう。やがて影は形を変え、女もろとも本物の怪物――竜となる。
放たれる漆黒のドラゴンブレス。黒炎は光を飲み込み、視覚を惑わしながら獲物を食らおうと迫り来る。
けれど人狼にとって視覚は人間ほど重要ではない。嗅覚と聴覚で攻撃を察知し、野性の脚力で駆けるロラン。余波を多重結界で防ぎながら、城主を射程に収めるべく前へ、前へ。
救出した数はまだ半分には届かない、けれどせめて一撃は入れてみせる。それは内気な少年が振り絞った勇気、そして意地だ。
脳内に浮かぶ幾つもの魔術、無数の選択肢から瞬時に最適解を選び取る。
「竜には雷なの! 苦しめられた人達の気持ちを知ってもらうの!」
薄暗い回廊を紫電が染め上げる。同時に響いた呻き声は、無辜の人々のものではなかった。
大成功
🔵🔵🔵
黒城・魅夜
660倍? 中途半端なこと
どうせならなぜ獣の数666倍にしないのです
言葉遊び?
寓意と象徴の概念を操ることこそ魔術の神髄
そこに至れぬなら所詮三流
オーラを結界により強化しプリズム状に展開
見切りと心眼で適切な角度を見極め敵の閃光を散らします
同時に早業で鎖を舞わせ衝撃波を発生
空間を歪め閃光の威力を弱めましょう
その程度、と侮りますか
しかし衝撃波の真意は炎を消し磔柱を破壊し生贄を救うこと
すみません、多少痛いでしょうが
皆さんの安堵による敵の強化を弱めるためです
生贄の人々すべての柱が宙に舞いあなたを貫き燃え上らせます
もがいてもあがいても柱は抜けず火も消えない
…ええ、それは私の見せた悪夢
命尽きるまで消えない悪夢
「660倍とは何とも中途半端なこと。なぜ666倍……獣の数字にしないのです」
66かける10は660。間違いなく正しく、しかし正しいだけだと黒城・魅夜(悪夢の滴・f03522)はそう切って捨てる。
「……何かと思えばただの言葉遊びじゃない。そんなの誤差よ、誤差」
「所詮三流ですか。寓意と象徴の概念を操ることこそ魔術の神髄だというのに」
数式なんて現実に縛られるようでは魔術とは言えない。この世ならざる魔の法を操る術、それが一流の魔術。実践しようと魅夜は鎖を振るってみせた。
直後、回廊の空気が大きく撓んだ。凄まじい衝撃波が発生し、人間松明の灯りを次々と消すばかりか磔柱さえ破壊していく。
ただの暴風ではない。その証拠に敵が咄嗟に放った閃光は途中であらぬ方向に曲がっていった。空間が歪んでいたからだ。
けれど相手もさる者、衝撃波が起きたのはあくまで魅夜と城主の間だけ。猟兵の技を容易く消滅させたソーンネリアは勝ち誇り――魅夜は冷ややかな眼差しを向ける。
「大口を叩いた割にこの程度かしら?」
「愚かですね。あなたの運命はたった今決したというのに……ええ、これでちょうど半分です」
その言葉にはっとするソーンネリア。そうだ、今、どこで何が起きた?
回廊の端から現れた魅夜と、回廊の中央に立ったまま一歩も動いていないソーンネリアの間で、全ての人間松明が破壊されたではないか。
「捕らわれていた方々は無事ですのでご心配なく。多少痛かったでしょうが……あなたを倒すためです」
「あ、悪夢だわ……!」
「私には誉め言葉ですね。ですが本当の悪夢はこれからですよ」
戦慄するソーンネリアに対し、破壊された磔柱が次々と浮かびあがっては襲いかかる。強化の切れた身で防ぎきれるはずもなく、丸太に貫かれた吸血鬼は燃え上がる。
それが魂が見ている悪夢だと、最後まで気付けるはずもなく。
そしてまた一つ城が落ち、悪徳は栄華を失っていく――。
大成功
🔵🔵🔵