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天空の覇者『アルギ』

#アックス&ウィザーズ

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#アックス&ウィザーズ


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●来客たち
「よぉしよし、今年も来やがったな」
 歓迎するように腕を広げる村の男に、巨鳥がピキィと高い声で鳴いて頭を寄せてきた。
 巨鳥は男よりもずっと大きい。人間の成人としては平均的な体つきのその男を、背中に乗せて軽々と飛べる程度の体躯と筋力を兼ね備えている。その大きさから威圧感もあるが、顔つきや仕草はどこか親しみやすさを感じさせる。白と紫が混ざった羽毛の模様は優美で、この村近辺では絵画の題材として取り扱われることもあった。
 男は巨鳥を抱き寄せて、頭と首の後ろをゆっくりと撫でる。巨鳥は気持ちよさげに目を細めてみせた。
 男の他にも巨鳥たちを相手している村人は多く、みな親しげに声をかけながら巨鳥たちと交流を図っていた。巨鳥たちもそれらを拒むことなく友好的な態度で応じている。
「やっぱり可愛いもんだなぁこいつら!」
「でも喧嘩するとおっかないんだぜぇ。前、盗賊に襲われたところをこいつらに助けられてさぁ。さすが“天空の覇者”……」
 一人の村人が感慨深げにそう答えようとしたところで、はたと何かに気付いたように空を見上げた。
「……なぁ、あのでかいのもこいつらの仲間か……?」
「うん?」
 他の村人もつられて空を見上げる。

 するとはるか彼方の曇天に、鳥のような影が。
 否、鳥にしては大きすぎる。まるで怪物のように巨大な黒い影が。
 灰色の雲に、広げた翼の輪郭をくっきりと主張させて、確かにそこに存在していた。

●力を合わせて
「その村にはね、ある時期になると巨大な鳥たちが産卵のためにやって来るのさ」
 彼らは“アルギ”と呼ばれているとグリモア猟兵、ベリンダ・レッドマンが語る。
 アルギは、その土地に伝わる古い言葉で“天空の覇者”を意味する。
 その村のそばには、天を貫かんとばかりに高くそびえる、巨大な樹木が生えているという。
 アルギたちは樹木の幹に開いている空洞をしばしの仮住まいとして産卵から子育てに励み、やがて子供たちが自ら飛べるようになるまで育てば、また別の土地へと旅立っていく。
「彼らはとっても賢くて人懐っこい鳥類でね。村のそばに住んでいる間は、そこの村人たちと協調して生活を送るんだ。狩りや害獣の駆除を手伝ったりしてるみたいで、それがその村の長年の習慣となっているみたいだよ」
 一方で村人たちはアルギたちへのお礼として、食事や巣の材料などを分け与えたりしている。
 持ちつ持たれつ、共存共栄の関係が古くから成立しているのである。
「まぁ、それは大変よいことなんだけどね……。どうも今回は、厄介な一匹狼が彼らの旅路に紛れ込んでしまったみたいで」
 狼というか、なんというか。
 巨大といわれるアルギたちよりもはるかに大きな有翼獣が、アルギたちを追って村のそばまで迫って来ているという。
「たぶん、機会を見計らってアルギたちを喰らう気だったんだろうね。それで後をつけていたら、鳥たち以外にもちょうど良さそうな“獲物”の集落をついでに見つけてしまった……」
 このままだと、アルギたちに加えて村人たちもその獣の餌食となってしまうだろう。
 獣が狩りに動く前に、こちらから先制攻撃に出る必要がある。

「といっても、その有翼獣は現在はるか彼方の空の上だ。きみたちの中に飛べる者がいるといってもごく一部、それに地上から飛んでいくと遠すぎるし、戦う前に体力を大きく消耗してしまうだろう……。
 ――さて、そこでだ!」
 注目を誘うようにびしっと指を立ててみせるベリンダ。
「まずは協力者を作るとしよう! 利害は一致している! アルギくんたちと仲良くなるんだ!」
 彼らの背に乗って飛んでいけば、有翼獣のもとまであっという間に辿り着くことができる。
 アルギたちは非常に賢い生き物だ。コミュニケーションをとって切に語り掛ければ、きっと快く猟兵たちの力になってくれるだろう。
 そして彼らは狩りを恐れない。おそらく有翼獣とは雲の上での戦闘になるが、そこでも頼もしい働きぶりを示してくれるはずだ。“天空の覇者”の名は伊達ではない。
 アルギたちと親しくなり、彼らの背に乗って雲の上へと飛んでいき、そして倒すべき脅威を力を合わせて粉砕する。これが今回のプランだと、ベリンダは最後に力強くまとめた。
「アルギくんたちとの絆がキーポイントになる! しっかり仲良くなって息の合ったコンビネーションで敵をやっつけてくれ! 武運を祈っているよ!」


大熔解
 大熔解(だいようかい)と申します。
 今回はアックス&ウィザーズからお届けいたします。

●第1章
 村人たちへの説明(アルギと一緒に戦うこと)はすでに済んでいるものとします。
 この章ではアルギたちと仲良くなることのみ注力いただけますと幸いです。
 話したり、触れあったり、遊んでみたり。実際に空を飛んでみたり。

●第2章
 アルギたちに乗って雲海の向こう、有翼獣のいる場所へと飛んでいきます。
 ここでも上手くアルギたちとコミュニケーションをとっていると、
 第3章の戦闘で有利に働くかもしれません。

●第3章
 アルギたちに乗ったまま、
 雲の上で巨大な有翼獣との戦闘になります。アルギたちより大きいです。
 ここからは、ご自身で空を飛べる方はアルギから降りてもOKです。

●アルギ
 すごく大きな鳥。
 人懐っこくてかわいい。でかい。しかもタフ。つよい。
 知能レベルはイルカと同じぐらいかそれ以上。
 もしかすると簡単な人間の言葉ぐらいは理解できているかもしれません。

●フラグメントについて
 POW,SPD,WIZの項目はあくまで「例示」となります。
 フラグメントに記載のない行動をしたほうがよいと判断された場合は、
 プレイングもそのように記載いただければと思います。

 🐣宜しくお願いいたします。
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第1章 冒険 『怪鳥たちと空の旅を』

POW   :    怪鳥と力比べ勝負

SPD   :    怪鳥とスピード勝負

WIZ   :    怪鳥と仲良くなり空を飛ぶ

👑11
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 転送後、村人たちに事情を説明して協力をとりつけた猟兵たち。
 そんな彼らを、アルギたちは遠くから物珍しそうに観察していた。
 敵意がなければアルギたちが逃げることはない。心を開けば、むしろ自ら進んで近寄ってくるだろう。
 先に控えている戦いのためにも、まずはアルギたちと親睦を深めねばならない。
 猟兵たちの異種交流チャレンジが始まる……!
雛菊・璃奈
WIZ

……かわいい…とっても、かわいい…。
わたし、あんまり感情を出せないんだけど、怯えられないかな…?
後、この子達(所持してる魔剣、妖刀等)も…。

怯えられたり避けられたりしないかな、と恐る恐る撫でて問題なさそうなら撫でながら軽く首元に抱きつく様にしてみたり…。
近くの村人にこの子達の好物とか聞いて取りに行って食べさせたり、ブラシで毛や羽を整えてあげたりと色々お世話。
普段は凛としてる璃奈に珍しく、仕事の事を半ば忘れて一緒に遊んでほんわかと仲良くなるのに勤しんでたり…。

羽毛がもふもふ…かわいいよ…

※アドリブ等歓迎


キララ・キララ
※アドリブ/細部変更歓迎

大きな鳥だー! アックス&ウィザーズならではよね、すごい! かわいい!
……この子たちが食べられちゃうと村の人だって食べられちゃうし、そうでなくたって困るし、きらちゃんもそんなのイヤよ。
うん、まずは仲良くしましょう!

▼メインの行動指針
SPD:スピード勝負!
【ダッシュ】4の出番ね! 追いかけっこは得意な方です! 負けませんよう!

▼その他
【動物と話す】2で「おつかれさま!いい勝負でした!」って言えるかしら。
もともと頭はすごくいいみたいなんだけど、動物さんには動物さんの言葉がいいのかもって思って。
気持ちだけでも通じるといいな。


田抜・ユウナ
フン。オブリビオン討伐のために、アルギたちと交流を深める必要がある。それだけ、よ。
……わあ、可愛い。

さておき
フライングディスクで遊んで心を通わす。
私がディスクを投げて、それをアルギがキャッチ。持って帰ってきたら、ご褒美にエサをあげる。

始めは上手くいかないかもね。
私もアルギも慣れてないし、何回も練習して呼吸をあわせていく。
成功したら、撫でくり回して褒めてやろう。
……撫で心地もステキだけど、それだけじゃないわね。羽毛の内、筋肉の付き方もすごい。飛びっぷりも見事だし、”覇者”と呼ばれるだけあるわね。


葦野・詞波
やれ、空も騒がしいことだ。
しかし手懐けろとは。軍馬の調教しか経験は無いのだが。
……まあいい、大空の覇者とはいえ生き物。
生物である以上、力関係をはっきりさせる事が早道だろう。

駿馬を探すなら目付きが悪い奴と相場は決まっている。
目付きの悪いそこのお前だ。来い。
狩りの腕で競うとしよう。
よもや天空の覇者が嫌とは言わんだろう。名が泣くぞ。
私に負ければお前は私の僕だ。私に勝ったらパートナーだ。
僕が嫌なら気張るといい。より大物を仕留めた方の勝ちだ。

【追跡】を使って狩りだ。奴の先を越す。
終わった後、目つきの悪いアルギが納得したなら
名をつけてやろう。……白いからシロか?
……気に食わないような顔をするな。


ヴォルフガング・ディーツェ
【WIZ】
【アドリブ・他参加者様との絡み歓迎】
天空の覇者か…いやはや、長生きはしてみるものだ。世の中には知らない素敵な事がたくさんあるねえ…!

常に笑顔で穏やかな物腰、相手の目を見て話す事を忘れずに
【動物と話す】力で言葉を聞き取れないか試しながら挨拶
オレはヴォルフガング。良ければキミの名前を教えてくれないかな、仲良くなりたいんだ

村の人から彼等が好む仕草やご飯、遊びを聞きながら実践
見た目もっふもふだけど羽はどんな手触りなんだろうなあ…特に触れ合いを重視したいかな

長旅の後なのかな、きっとアルギ達も疲れているだろうから労ってもあげたい
【医術】も活用してリラックスできる方法を探したり、治療も試みようかな


七篠・コガネ
わ!可愛いです!アルギと言うのです?仲良くなれるかな…
僕も体の半分は鳥だけど…機械の紛い物だし…

一緒に遊びます!まずは鳥が狩りをするように脚で川魚を取ってみます
鳥仲間アピールです!…僕なりの。
アルギおいでおいで〜。うちへおいでよアルギ
…あ、でも世界が違うから連れて行けませんね。残念…
花冠作ってあげますよ。最近作り方を教えてもらったのです
こうやって茎同士を編んで…ほら出来た!アルギの頭に乗せてあげるのです
喜んでくれるといいなぁ…

その後は一緒に空飛びますよ。僕だって飛べるのです!
『羽型ジェット』で飛んでるので、羽ばたいてる訳じゃないですけど…
…ふわふわ。きっと温かいんだろうなぁ…


アドリブ、絡み歓迎


壥・灰色
怪鳥と仲良くなるって言うと、何していいんだかわかんなくなるよね
原始的に考えるとなんかめしを喰わせるのがいいのかな……

そう思ったので森の中に潜っていく
いと(f00433)がアルギ達をうにゃうにゃなだめてるのを見ていいなあ、と思いながら森に

あの巨体を維持するんだから大量にめしが必要だろう
虫とか小動物とかを『壊鍵』の衝撃波で生け捕りにして、大量にうぞうぞと袋に詰めて持ち帰り、アルギ達を餌付けする

……?
いと。なに。
そんな隠れることなくない?

ほら、美味しそうに食べてる
かわいいよ。ほら

うぞうぞする袋をアルギ達に捧げながら楽しげ


赫・絲
すごいよかいちゃん(f00067)見て見てー! おっきいねー!

村の人が撫でてるのの見様見真似でアルギを撫でて毛づくろい
こうかなー、それともこっちかなー、どう、気持ちいい?
気持ちよさそうなトコを撫でながら、頬を擦り寄せてみたり抱きついてみたり
様子を見つつがんがんスキンシップ取ってくよー

もーかいちゃんどこ行ってたの?
あれ、その袋なに?

……ひっ!
虫!? 虫なの!? いやいーや答えなくていーやむしろ答えないで!!
アルギにしがみついて袋を決して見ないように
虫は嫌いなんだよー!

おいしそーならよかった! うん! あっ見せなくて大丈夫だから!
もう今すぐ背中に乗せて欲しいぐらい半泣きになりながらアルギをなでなで


ヌル・リリファ
【POW】

鳥さん。わたし人間じゃないから結構おもいけど大丈夫かな……?

お友達になるためにおはなしするよ。
「こんにちは。わたしはヌル。あなたたちと協力できたら嬉しいな。」って。賢いならまず挨拶したりちゃんとお話ししたほうがいいっておもうの。
もし触らせてくれそうだったら羽を撫でたいな。綺麗だもの

でも、力比べをしたほうがみとめてくれそうだったら「トリニティ・エンハンス」で強化して、やってみる。もしわたしのほうがつよかったとしても、絶対にけがはさせないようにするよ。
わたしの敵はもっとおおきいやつで、このこたちは敵じゃないものね。

難しめの言葉は漢字、簡単な言葉は平仮名でお願いします
アドリブなど歓迎です!


モノ・アストルム
おおー、すごく大きいな! すごい!

さて、仲良くなると言ったらまずは食事だろ
一緒に肉でも食べようぜ……って、肉食なのかな? 違うなら他の物にしよう
警戒されてるようなら、まずは俺が一口食べて毒とかは無いアピールをするぞ
「ほら、大丈夫だから。一緒にどうかな?」

軽く腹拵えが終わったら、触って良いか聞いてみよう
OKが出たらあちこち撫でてみる
撫でられたら気持ち良い所ってどこだろう。やっぱり嘴とか頭かな?
その辺りを特に重点的に撫でよう

撫でながら話もしてみよう
本当に大きくて格好良いなとか、まだ撫でようか? とか、俺も翼はあるけど思いっきり高くは飛べないんだとか
だから、お前が良ければ乗せてくれないかな……なんて


ヴィルジール・エグマリヌ
あまり動物と触れ合った事がないから
仲良くなれるか心配だな……
心を開いて貰えるよう頑張るよ

人に対峙する時と同じように
敬意を持って接しよう
先ずは基本の挨拶から
胸に手を当て腰を折り自己紹介

はじめまして、君達がアルギだね
私はヴィルジール、会えて嬉しいよ
体躯も立派だし翼の彩も美しいな……
ふふ、よく見ると優しい顔をしているね

ねえ、触れても構わないかい
アルギに尋ねて、拒否されなければ
そっと首回りや羽を撫でたい
力加減は大丈夫かな
寛いでくれると良いけれど

……それにしても、本当に可愛い鳥だ
その、良ければ色鉛筆で
スケッチもさせて欲しいな
賢い子達のようだし
途中経過や完成品を見せてあげたら
喜んだりしてくれるだろうか



●まずは触れあいから
「……かわいい……とっても、かわいい……」
 ある理由から巨鳥たちに近付きかねていた雛菊・璃奈に一羽のアルギがひょこひょこと脚を動かして近寄ってくる。足取りは軽快でも、その体躯と重量から趾をつけた土を雑草ごと抉りながら歩いている。
 野生の力に満ちた動作から威圧感も多少覚えたが、顔付きや仕草から感じる可愛らしさがそれを上回っていた。触れる手を出しかねている璃奈の瞳をじっと見ながら、首をこくりと横へ傾いでみせる。
 璃奈の懸念は、彼女の持つ魔剣や妖刀に反応して怯えられないかということ。だが、そのアルギには璃奈の武装を気にした様子は微塵も感じられなかった。璃奈の印象では、自身に対してのみ純粋な興味を抱いているように見てとれる。
 猟兵が戦う力を備えているのと同様に、彼らもまたその趾に狩りのための強力な“武器”を有している。肝要なのは武器の有無ではなく、対する者の心持ちということだろうか。
 安堵を覚えた璃奈は、恐る恐るながらもアルギの首元に手を伸ばしてみる。アルギは拒むような仕草は見せず、むしろ自分から璃奈のほうへと首を寄せていった。
 手が羽毛に触れる。やわらかい。巨体が持つ温かみが羽毛を通して璃奈の掌へと伝わってくる。
 軽く撫でてみせると、アルギはキュウと鳴いて気持ちよさそうに目を閉じた。璃奈の頬へと大きな顔を擦り寄せてくる。それを受けた璃奈は思い切って、ふかふかの羽毛を纏ったアルギの身体へと抱き付いていった。
「……もふもふ……」
 アルギは璃奈の背丈に合わせて首を下ろしたままそれを受け入れている。キュキュキュ、と嘴の奥から発せられた心地よさそうな鳴き声が、アルギの顔に触れている璃奈の耳に響いた。
 その後、璃奈はアルギをブラシで梳いたり、村人に聞いた好物の肉団子を与えたりして、より仲良くなっていったという。

「オレはヴォルフガング。良ければキミの名前を教えてくれないかな、仲良くなりたいんだ」
 アルギを見上げながらにこやかに話しかけるヴォルフガング・ディーツェ。真摯さをたたえたその眼差しは、まっすぐに巨鳥の琥珀色の目へと向けられている。
 敬意と礼節を以って接するヴォルフガングに、対するアルギはキュイーと長い鳴き声で応えてみせた。人狼の耳はその声の意味を完全に理解することはできなかったが、部分的に人間の言葉で噛み砕くことはできた。どうやらそのアルギはメスで、自分のことを“谷間に吹く強い風”と表現しているらしい。
「それがキミの名前ってことかな……? うん、とてもいい響きだね!」
 ヴォルフガングが破顔すると、アルギは嘴を上に向けキュイ! と高く鳴いてみせた。
 あらかじめ村人たちに聞いていた情報によれば、アルギたちは全身を密着させた触れ合いを好むらしい。どうも“生物の身体が放つ熱”を好んでそうしている傾向があるという。
 その教えに従って、ヴォルフガングは正面から抱き付きに行った。顔や腕を包む羽毛は上等なベッドのようにふかふかで、ヴォルフガングの身体に心地よい温もりが伝わっていく。
「わー……このまま眠れちゃいそうだなー……」
 やわらかさに包まれてまったりとした眠気が襲来しつつあったヴォルフガングだが、はっと顔を離して首を振る。触れ合いによるコミュニケーションも大切だが、長旅で疲れている彼女たちを労ってあげねば。
「ちょっと身体を診せてもらうね」
 ぽんぽんと軽く身体に触れることでアルギの触診を始める。首から始めて胴や翼へ。多少の擦り傷はあるが大きな外傷などは無いようだ。手持ちの軟膏を使って軽めの処置を行っておく。
 治療についてはそれで十分だと判断したヴォルフガングは、続いてマッサージでの慰労を試みる。手指でぐっと身体を押してまわり、アルギが心地よく感じる部位を探っていく。アルギの身体はやわらかく、人の身体にあるような凝りは存在しなかったが、背面の首から下あたりに触れられると気持ちよさそうにピュイーと高い鳴き声を漏らしていた。
「ここかな? 止めたくなったら言ってね」
 アルギの反応を見ながら力加減を調節する。しばらくそうしくていると、次第にアルギの目が細まっていく。片足立ちになり、頭を翼の間にもぞもぞと入れて静かになった。
「あっ……寝ちゃった」
 思わず微笑みがこぼれる。ヴォルフガングは手を止めると、そばにあった木陰に座り込んで、アルギが目を覚ますまでのんびりとその姿を眺めていた。
 
「はじめまして、君達がアルギだね。私はヴィルジール、会えて嬉しいよ」 
 胸に手を当て腰を折り、優雅に一礼してみせるヴィルジール・エグマリヌ。その礼の意味を知ってか知らずか、倣うように目前のアルギもゆっくりと首を上下させる。アルギ風の返礼に、ヴィルジールの口元に笑みが浮かんだ。
「応えてくれてありがとう。……ふふ、よく見ると優しい顔をしているね」
 こうべを垂れてヴィルジールに顔を近付けるアルギ。そうすると、顔を上げていた時はよく見えていなかった巨鳥の顔付きを正面から観察することができた。
 アルギは、UDCアースで言えば猛禽に似た雰囲気を持つ鳥類である。ヴィルジールのそれより何倍も大きい顔には、梟に似た愛嬌のある丸い目が備わっていた。
「ねえ、触れても構わないかい」
 尋ねながら、片手をそっとアルギの首へと伸ばす。アルギはそれを一瞥すると、またヴィルジールの目へと視線を戻してクゥ、と低く鳴いた。意味は解せなかったが、否定の色は感じられない。
 返事を了承と取って、ヴィルジールは首の羽毛へと触れる。やわらかく、指を通すとその密度が感覚として指から伝わってくる。触れている指先が温もりを持っていくのが分かった。どうやら彼らの纏う“衣”は高い保温能力を持っているらしい。
 繰り返し撫でて毛並みを整えていると、アルギは目を細めてヴィルジールの肩に首を委ねてくる。完全に体重を預けている訳ではなくとも、それでも巨躯ではあるために中々の重みがある。が、ヴィルジールは表情と仕草からアルギが心を許してくれているのだと分かり、肩の重みも気にはならなかった。
 一通り羽毛を梳かし終えると、ヴィルジールはアルギの首の後ろをぽんぽんと叩いた。それが一段落の合図と伝わったようで、アルギもゆっくりと首を上げていく。
「触れさせてくれてありがとう。それで……良ければ、その。君の姿をスケッチさせて欲しいな」
 アルギの容姿と愛らしさに感じ入るものがあったのか、そう申し出るヴィルジール。
 相手のアルギは小さく首を傾ぐ。どうやら正確に伝わってはいないようだったが、特に嫌がる様子もない。少しそのままでいてね、と手の動きで表現すると色鉛筆を取り出す。
(賢い子達のようだし……途中経過や完成品を見せてあげたら、喜んだりしてくれるだろうか)
 絵を見せた時の反応を想像して微笑みながら、距離をとって巨鳥の写生を始めるヴィルジール。アルギはそんなヴィルジールの様子を興味深そうに見つめている。
 アルギは言われた通り、絵が描き上がるまでじっとそこから動かなかった。

「こんにちは、わたしはヌル。あなたたちと協力できたら嬉しいな……わっ」
 ヌル・リリファが声をかけたのは他の個体に比べるととやや短毛で、小さな体躯のアルギだった。声に反応するなりのしのしと足早に距離を詰め、鼻先でヌルの顔を興味深そうに見つめてくる。
(好奇心旺盛で、ちょっとちいさい……おとなになったばかりの子なのかな?)
 まじまじと観察してくるアルギへの対応を少し考えて、ヌルは「触っていい?」と首へ手を伸ばしながら尋ねてみる。アルギはその手を一瞥するとキュ? と不思議そうな鳴き声を漏らした。意図は分からないが、嫌がっている様子には見えない。
 ヌルは白紫が混ざり合った羽毛をそっと撫でてみる。思った以上に柔らかく、手触りがいい。羽毛の間に指を通して梳いてみると、触れた場所からじんわりと心地よい温もりが伝わってきた。
「綺麗だね……それにあったかい」
 羽毛の感触に頬を綻ばせながら、ヌルはこのアルギは自分を乗せてくれるだろうか、と考えを巡らせる。
 彼らは人間に友好的な種族とのことだったが、力比べで強さを示したほうがすんなりと認めてくれるだろうか。その場合は自身のユーベルコード、『トリニティ・エンハンス』の三柱からなる魔力でそれを証明してみせるつもりだった。
 しかし、ヌルのその懸念は杞憂に終わる。
「! わっ……わわっ」
 アルギがヌルに背中を向け、後ろにぴょんと跳ねた。体当たりというには弱いが、ぼふっと羽毛に沈んだヌルはそのままアルギの背中に乗っている形となる。
 そしてキュウゥー! と高らかに鳴き声をあげると、両翼を広げて羽搏き始める。
「えっ……も、もう飛んじゃうの? わぁ……!」
 巨鳥の身体が宙に浮いた。大きな翼が空を叩いて、力強く空へと舞い上がっていく。ヌルを気遣ってか速度はそれほど出していないが、背中に触れているヌルにはアルギの持つ力の凄まじさがありありと伝わって来ていた。魔道蒸気文明が生み出した機械人形――ミレナリィドールであるヌルの身体は、同等の体躯を持つ人間の少女よりも重いはずだが、アルギの雄々しい動作に辛そうな色はまったく見られない。
 それどころか、ある種の喜びのような色さえ滲んでいると、ヌルは直感的に理解できた。
「そらを飛ぶのが楽しいのかな。それとも――」
 推定、成鳥となって間もないアルギ。
 彼にとってはヌルが、初めてできた人間の友達だったのかもしれない。

●いっしょに遊ぼう
「じゃあ、ここからあそこまで、ってことでいいかな?」
 キララ・キララは自身の足で引いた地面のラインを指し示した。それぞれ手前がスタートライン、彼方に見える線がゴールラインということらしい。
 触れ合いを経て仲良くなったアルギと、スピード勝負をしてより親睦を深めるという狙いだ。キララが声をかけたアルギはこくんと首を上下させる。まるで人が頷くような仕草だった。
「よーし! 追いかけっこは得意な方です! 負けませんよう!」
 小さな体躯に力を漲らせらてスタートダッシュの構えを取る。アルギは変わらず自然体のままで、ゴールラインのある方向へと眼差しを向けていた。
「よーい……どん!」
 合図するなり溜めた力を爆発させて“空中へ”駆け出すキララ。スカイダンサーとしての能力を活かした走法だ。同時に競争相手のアルギも大きく翼を広げて飛び立つ。翼から発せられた風がぶわん、とキララの頬を叩いた。
(すごい風圧――わっ、速い!)
 スカイダンサーとして一線で戦うキララの脚も常人からかけ離れた速力を見せていたが、アルギも負けてはいない。浮上に時間を要した初動ではキララに後れを取っていたが、風に乗って加速するとぐんと巻き返し距離を縮める。結果、ゴールラインは僅差でアルギが先に超え、勝利を手にした。
「はー、負けちゃった! おつかれさま! いい勝負でした!」
 負けはしたものの、朗らかにアルギを労うキララ。相手のアルギは少しだけ翼を広げると、キュイ、と小さく鳴いた。
 その仕草と声が意味するところは――
「“あなたもまた風のようだった”……かな? ふふふ、そう言ってくれるときらちゃんも嬉しい!」
 きららが破顔して巨鳥の胴に抱き付くと、アルギは心地よさそうに目を細めてキュウ、と鳴き声を返した。

 これはオブリビオン討伐のため。
 そう、猟兵として成すべきことを成すために必要なだけ。
 それだけなのだ。
「……わあ、可愛い……」
 そう思ってはいた田抜・ユウナだが、はやくはやくと急かすように嘴でつついてくるアルギの仕草が実に愛らしく、思わず本音が口に出てしまっていた。
 ユウナが用意したのはドッグスポーツにも使われるフライングディスクである。ユウナがディスクを投げ、放たれたディスクをアルギが取りに行って持って帰ってくる。上手くできたらご褒美。繰り返し遊ぶうちに親睦も深まっていくだろう、という試みだった。
「じゃ、行くわよ。――はい!」
 ディスクが曇天の空へと向けて高く投げ放たれる。アルギは両翼を広げて飛び立つと、ぎゅんと加速してあっという間にディスクへに追い付いた――が、追い越してしまった。加減が分からず速度を出し過ぎてしまったのである。
 戻ってきたディスクをもう一度同じ角度と力で投げ放つユウナ。一度目で要領を得たようで、以降はどうればよいかアルギも理解したようだった。ディスクに追いつく手前で上手く制動を利かせ、嘴でとらえようとする。
 二度目、三度目は惜しくも失敗に終わったが、四度目で試みは成功した。ディスクを正確にとらえて嘴にはさむと、ピィーと勝鬨のような長い鳴き声をあげながらユウナのもとへと戻ってくる。
「よしよし! えらいわね、ご褒美よ」
 ディスクを受け取ったユウナは首の羽毛を撫でながら、懐から取り出した肉団子を掌にのせて差し出した。村の人間から分けてもらったもので、アルギの好物という話だった。
 アルギはそれを認めるとすぐについばんでくる。野球ボールほどの大きさがあったが、アルギの大きな嘴には余裕で収まるサイズで、上を向いて嘴を小刻みに動かすとあっという間に呑み込んでしまった。
「いい食べっぷり。……撫で心地もステキだけど、それだけじゃないわね」
 羽毛のぬくもりを楽しみながら、ユウナはその下に隠された巨鳥の発達した筋肉についても吟味していた。弾力に富みつつもやわらかく、触れているだけで秘められた力が伝わってくる。ここから先ほどのディスク遊びの時のような瞬発力が生まれているのかと、ユウナは素直に感心していた。
「さすが“覇者”といったところかしら」
 にやりと微笑んで賛辞を贈ると、アルギは胸を張るように身体を反らせてピュイ! と鳴いてみせた。

 駿馬を探すなら目付きの悪い奴と相場は決まっている。
「そこのお前だ、来い」
 葦野・詞波が目をつけたのは、アルギの群れの中においても一際鋭い眼光を放つ個体だった。猛禽に似た姿形をしているアルギだが、その一羽は目付きに至るまで鷹のそれに近い。捕食者の誇りに満ちたハンターの目だと、詞波の直感が告げていた。
 そのアルギは詞波を値踏みするようにじっと見つめながら、ばさっと翼を羽搏かせてそばへと近寄ってくる。
「勝負だ。狩りの腕で競うとしよう。よもや天空の覇者が嫌とは言わんだろう?」
 名が泣くぞ、と煽るように攻撃的な笑みを浮かべる詞波。その手には槍の形へと姿を変えたドラゴンランスが握られている。それをアルギに見せつけるように肩に担いでみせた。
 親しくなるという目的からすれば逆効果にも思える接触だったが、これも詞波の策略の内だった。
 天空の覇者といえど、生き物であることには変わりない。厳しい大自然のルールの中で生きる獣である以上、力関係を明白にすることが円滑なコミュニケーションにも繋がるはずだ。
「私に負ければお前は私の僕、私に勝ったらパートナーだ」
 リスクを承知で賭けを申し出る詞波。槍の穂先で競争場所となる村近くの林を示した。
「僕が嫌なら気張るといい。より大物を仕留めた方の勝ちだ」
 口角を吊り上げる詞波。
 そのアルギが、語り掛ける人狼の言葉をすべて理解できていたのかは分からない。
 だが勝負を挑まれたことは悟ったのか、目付きをより鋭く尖らせて林のほうへと飛び立っていく。
 目論み通りに動いたことに笑みを深くした詞波は、軽快な足取りでアルギの後に続いた。
 
 結果として勝負は僅差だったが、詞波の勝利に終わった。
 両者が仕留めたのはどちらも猪に似た四足獣。常人であれば数人掛かりでも狩猟が難しい巨体の持ち主だ。仕留めた獲物の大きさはわずかだが、詞波が狩ったもののほうが上回っていた。
「こんなところか。もっと明確に力の差を示せれば最良だったが……まぁ、良しとしよう」
 地面に転がった二体の身体を確認して、詞波はそう呟いた。
 アルギはといえば、先ほど見せていた殺気はずいぶんと落ち着いている。威圧感は相変わらずだが、狩りの直前に比べると目の鋭さも和らいでいる――というか、覇気を失くしているように見えた。
「一丁前に落ち込んでいるのか? 可愛い奴だな。兎に角、私の勝ちだ」
 プライドの高い個体であったためか、負けたとはいえすぐさま従順になる様子は見せないアルギ。それでも事実は厳粛と受け入れたようで、クゥ、と鳴いて詞波に向けてこうべを垂れてみせた。
「ではそうだな、パートナーに名前が無いのも困る。私が名をつけてやろう。……白いからシロか?」
 少し考えた詞波の口から出てきたのはシンプルな名前。
 アルギは完全に詞波の言葉を理解している訳ではない。
 だが、安直な命名であるということは悟ったようだった。
「……気に食わないような顔をするな」
 じいっと鋭さを取り戻した目つきで睨めつけてくるアルギ。
 詞波がシロという名前を納得させるまで、暫しの時間を要したという。

 羽型のプラズマジェットから推進力を吐き出し、川面すれすれを飛行する七篠・コガネ。鳥に似た無骨な機械の脚が狙っているのは、コガネのセンサーが水中にとらえた魚影である。
 分厚い装甲を纏った脚部が俊敏に動き、飛行速度を保ったまま鉤爪が水中へと突き込まれる。川から出てきた次の瞬間には、太い趾に器用に挟まれた川魚の姿があった。
「ほうら、獲れましたよ~! アルギ!」
 コガネが朗らかに声をかけたのは、川辺の樹木にとまっていた一羽のアルギだ。他の個体に比べると一回り大きい。ミサゴさながらの華麗な魚獲りを行ってみせたのは、コガネなりの“鳥仲間”としてのアピールである。
 手土産の川魚をアルギの嘴に渡すと、あぐあぐと上を向いてそのまま丸呑みにしてみせた。そして礼を言うようにピィと鳴くと、今後はアルギが飛び立って川の方へと下りていく。
 コガネがアルギのいた樹上の枝でしばらく待っていると、コガネがしてみせたのと同じようにアルギが川魚を捕えて帰ってきた。人がそのまま食べないことは理解しているのか、あるいはコガネの口で丸呑みは難しいと思ったのか。口ではなく両手に渡そうとする。
「わあ、ありがとう! ……でも僕は食べられないから、これは後で村の人たちにあげておくね」
 にこやかに礼を述べるコガネに、アルギはキュッと短く鳴いて応じた。
「可愛いなぁアルギ……うちに来るといいのに。……あ、でも世界が違うから連れて行けませんね……」
 残念そうに呟くコガネ。
 一人と一羽はその後、川から離れた草原の方へと出る。そこにはシロツメクサに似た花々が群生しており、一面に広がる緑の中に白い花たちが宝石のように散りばめられていた。
「花冠作ってあげますよ! 最近作り方を教えてもらったのです」
 コガネは草原の上に降り立って花を摘むと、茎を器用に編んで冠の土台を作り上げていく。ほどなくして茎から分けておいた花を挿し終え、白と緑の花冠が完成した。
「ほら出来た! アルギ、ちょっと頭を下げてもらってもいいですか?」
 興味深そうにコガネの作業を観察していたアルギは、そう言われるとキュ? と不思議そうな鳴き声を漏らして、素直にこうべを垂れてみせた。花冠を頭にそっと頭にのせるコガネ。
 アルギは頭の上にものがある感覚が慣れないようで、ひょこひょこと頭を動かして被る位置を調整している。やがて落ち着いた位置を見出すと、そこで満足したようにキュッ! と高く鳴いてみせた。
 彼らに生まれ持った羽毛以外で自らの身体を彩る文化は無いが、それでもコガネから“懸命に作った何か”を贈られたということは理解したようだ。感謝の印なのか、コガネの頬に顔を擦り付けてくる。柔らかな羽毛がコガネの肌を撫でた。
「ふふふ、こちらこそ受け取ってくれてありがとう。じゃあアルギ、今度は一緒に空をお散歩しませんか?」
 言うなりジェットを噴射させて浮き上がるコガネ。花冠をのせたアルギは呼応するように両翼を広げる。
 一人と一羽はその後、しばしの空中散歩を楽しんだ。

●ご飯を食べよう
 村人にアルギの食事事情について尋ねていたモノ・アストルムは、近辺で獲れた兎の肉を分けてもらっていた。猛禽に似た特徴を持つ彼らは動物の肉、それも全身まるまる一匹食すことを好む。哺乳類以外に昆虫や川魚も食べるし、完全な肉食ではないため木の実などを食べることもある。だが、主に好むのは生き血が滴るような獲れたての獣肉ということだった。
 なるべく新鮮な肉を見繕ってもらったモノは、アルギの群れと村人たちが戯れている場所へと向かっていた。するとモノの持つ肉の存在に最初に気付いた一羽のアルギが、のしのしと歩いてモノのそばへと近付いてくる。
 じっと物欲しげに兎肉を見つめるアルギ。モノはアルギのほうへと持っている兎肉を差し出すと、逆側の手で自分用に持って来ていた干し肉を取り出して噛り付いた。自分の持つ食べ物に危険はない、というアピールである。
「うん、美味い。ほら、大丈夫だから。一緒にどうかな?」
 モノの振る舞いと笑顔を信用したのか、アルギが差し出された兎肉へと食らいついた。まるごと嘴の中に入れてごくん、と一呑みにすると、モノと目を合わせながらピュイと高い声で鳴いてみせた。
「お礼ってことかな。美味かったのならよかったよ。……なぁ、触ってみてもいいかな」
 手を差し出すモノ。アルギはモノの手を一瞥するとピッと短く鳴いた。モノにその声の意味は理解できなかったが、少なくとも拒否の色は感じられない。
 嘴にそっと触れて撫でてみる。それから横にスライドして、頭へ。気持ち良くなれるようにとゆっくりと撫でてみると、目を細めてピィーと長い音で鳴いた。ここは“当たり”ということらしい。
「嘴も本当に大きいなぁ……爪も、翼も。うん、すごく格好良い」
 アルギがリラックスできるよう撫で続けながら、巨鳥の威容について素直な感想を述べるモノ。
「――俺も翼はあるけど、思いっきり高くは飛べないんだ」
 ほら、と背中に生えている鶴の翼を示してみせた。じっとそこに視線を送るアルギ。
「だから、お前が良ければ乗せてくれないかな……なんて」
 両の手を大きな顔に添えて、じっと正面からアルギの瞳を見つめる。
 数秒その間が続いた後、アルギはわずかに羽搏くと、くるっと回ってモノの方へと背中を向けた。
「……いいのか?」
 キュイ、と鳴き声が返ってくる。
 モノはおそるおそる身体を預けながら、アルギの広い背中へと騎乗していった。

「すごいよかいちゃん! 見て見てー! おっきいねー!」
 アルギの大きな首に抱き付いて感触を楽しんでいる赫・絲。こうかな? こっちかな? と声を掛けながら反応を見て、気持ちの良さそうなところを探している。
「どう、気持ちいい?」
 嘴の下あたりがそのアルギのツボと見た絲は、そこを集中的に攻めてかかる。目を細めてクゥーと心地よさげに鳴くアルギ。どうやら当たりのようだ。その反応に満足しつつも、絲はさらなる反応を引き出そうとアタックを続ける。
「こいつたちと仲良くなるって、何すればいいのかな……」
 一方で、そんな一人と一羽のやり取りを羨ましげに眺めながら、壥・灰色は親睦を深める手段について思考を巡らせていた。
「やっぱりスキンシップじゃない? ほらほら、この子もこんなに気持ちよさそうだし!」
 わしわしと首の羽毛を揉む絲。さらに顔がとろけていくアルギ。確かに直接身体で触れ合うコミュニケーションはかなり効果的なようだ。しかし灰色はひとつ頭の中に閃きを覚えると、「ちょっと待ってて」と絲たちに言い残して森の方へと歩を進めていく。
「? 何しにいったんだろうねー?」
 手を動かし続けながらアルギに尋ねる絲。アルギは緩まない攻め手にそれどころではないようで、またもクゥーと心地よさげな鳴き声を漏らしていた。

「お待たせ」
 しばらく絲がアルギと戯れていると灰色が戻ってくる。その手には先ほどはなかった革袋が握られていた。
 革袋自体は村人たちに貸してもらったのだろう。……しかし。
 うぞうぞ。
 何やら、革袋が動いたような気がする。
「おかえりー! もー、かいちゃんどこ行ってたの? ……ってあれ、その袋なに?」
「ああ、これ?」
 灰色が袋の口を開いて中身を見せようとする。
 うぞうぞ。
 ふたたび袋が動く。そしてその様を絲の目はきっちりと捉えていた。
「ひっ! な、なにそれ!? 虫!? 虫なの!?」
「虫もいるけど他のもいるよ。大きいのだと」
「いやいーや答えなくていーやむしろ答えないで!!」
「……?」
 察した絲がアルギの背後へと回って羽毛に顔を埋める。意地でもそちらを見てたまるものか、という覚悟が滲んでいた。
「いと、なに。そんな隠れることなくない?」
「いいから、ほら! ごはんあげてみて!」
「うん」
 灰色が袋の中でうごめく何かを取り出してアルギの嘴の前に差し出す。きょと、と一瞬だけアルギはそれを見ると、すぐにぱくりとついばんで嘴の中に入れた。あぐあぐと呑み込むと、灰色の掌に残っている何かもついばみ始めた。夢中のようだ。
「ほら、美味しそうに食べてる。かわいいよ、ほら」
「おいしそーならよかった! うん! あっ見せなくて大丈夫だから!」
 何かを食べ尽くして灰色の掌が空になると、じっと革袋に視線を送るアルギ。灰色はわずかに唇に弧を描くと、袋の中からおかわりを取り出してふたたびアルギへと差し出した。ふたたび夢中についばみ始める。
「うう……もう今すぐにでも背中に乗せて欲しい……!」
「まだ食べてるから。もうちょっと待って」
「ううー……!」
 親睦を深めていくふたりをよそに、絲は半泣きになりながらアルギの背中にしがみついている。謎のごはんの恐怖をごまかすように、アルギのやわらかな羽毛をひたすらに撫で続けていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

荒谷・つかさ
【FH】
なるほど。天空の覇者と言われるのも納得の雄壮さね。
それでいて人懐っこくて友好的、か。
いいわね、こういう子達。

私と行くならどう足掻いても接近戦になるから、落ち着いてて体格の良い子がいいわね。

こんにちは。
もし良かったら、私と一緒に戦わない?

以前狩ったワイバーンの干し肉を手土産に話してみるわ。
受け入れてもらえたら、まずは一緒に食事。
その後は、遊びがてら連携の練習(飛び降りてから回収してもらうとか)も

その最中、皆集まってるので合流
自慢の流れね、なるほど。
じゃあ……この子、いい体格してるでしょ。
さっき軽く遊んできたけど、力も度胸もあるわ。
きっと将来、群れを率いるボスになるわよ。


ヘスティア・イクテュス
【FH】
この子達に乗って上に行くのよね
かわいい…その上強くて賢いなんて

わたしは空で射撃をするために安定して飛行できる子、目のいい子かしら?

空を飛んでる様を見て飛行の姿勢が安定してる子を捜してみるわ
その中から遠くから餌を見せて反応から目のいい子を

見つけたわ!ねぇ、お願い!わたしと一緒に戦ってくれないかしら?


協力してもらえるようになったら
皆のもとへ

うちの子だって負けてないわ!
キリっとした鷹のような目に安定した飛行姿勢
きっと銃を持てたら凄腕のスナイパーになるイケメンよ!


栗花落・澪
【FH】
さて…速そうな子いるかなぁ?
飛んでる様子を見て
速さ自慢っぽい子を翼で追いかけてみよう

ふふー、勝負しよ!勝負♪
【空中戦】で競争を挑み
勝ち負け関係無く楽しめればおっけー♪

すごい速いねぇ、びっくりしちゃった
敬意を込めて★飴瓶から魔法の飴を取り出し
食べやすいよう砕いてからプレゼント
ね、良ければ僕と一緒に戦ってくれないかな?
君と飛ぶのはすっごく楽しそう!

同じ空好きの仲間にも紹介したいな
皆のとこまで競争だよっ♪

アメリアさん達の元に2人で飛行ダッシュ
見て見て、この子すっごい早いんだよ!
こんなに本気で飛んだの久しぶり
この子ならきっと上手く連携してくれると思うんだ
後でもう一周しようね♪(撫でながら)


アメリア・イアハッター
【FH】

え?
ホントにこの子達に乗って空飛んでいいの?
うわぁー!
すっごく楽しみー!

もう我慢できない、私行ってくる!
皆、後で仲良くなった子を見せ合いっこしよーね!

・方針
私に似てそうな子、すなわち好奇心旺盛な、空を飛ぶことが好きそうな子を探して仲良くなる

・行動
楽しそうに空を飛んでる子がいればUCを使って挨拶しに行こう!
自分もぴょんぴょん飛ぶことで、空が好きなことを全身でアピールだ!
ねぇねぇ、私も空好きなんだ
君と一緒に飛んでみたいな!
一緒に色んな所へ行って、一緒に空でダンスしよう!

仲良くなれば皆に自慢!
見て見てこの子!
一緒に空飛ぶと、好きが伝わってきて、凄く楽しいんだよ!
目もキラキラしてて可愛いんだ!



●Fly High
「え? ホントにこの子達に乗って空飛んでいいの? うわぁー、すっごく楽しみー!」
 感極まったように声をあげたアメリア・イアハッターは、地上でくつろいでいるアルギたちをきらきらとした目で見つめている。巨鳥たちと共に空を飛べる、ということが大いに琴線に触れたようだ。
「なるほど。天空の覇者と言われるのも納得の雄壮さね」
 一方で、荒谷・つかさはアルギをその名たらしめる巨躯と逞しさに目を向けていた。
「それでいて人懐っこくて友好的、か。いいわね、こういう子達」
「この子達に乗って上に行くのよね。……かわいい。その上強くて賢いなんて」
 愛らしさと強さ両面に着目していたのはヘスティア・イクテュス。各々がそれぞれの目線で、パートナーとすべき一羽をどの個体とするか見定め始めていた。
「もう我慢できない、私行ってくる! 皆、後で仲良くなった子を見せ合いっこしよーね!」
「あっ、ちょっとアメリア!」
 たまらず駆け出していったアメリアをヘスティアが呼び止めるが、すでにアルギの群れの中へと入っていった後だった。
「ふう……じゃあ、わたしたちも行ってくる?」
「ええ、後で落ち合いましょう」
「さーて、速そうな子いるかなぁ?」
 残った三人もそれぞれのペースで、群れの中へと歩を進め始めた。

 背に純白の翼を備えたオラトリオの少年、栗花落・澪は、より早く飛べるかどうかを重要な評点としているようだった。 
「ねぇそこの君! 僕と勝負しよ、勝負!」
 澪が声を掛けたのは、空を舞っていたアルギのうちの一羽だ。地上で村人たちと憩うているアルギが多い一方で、仲間同士で戯れるように空中で飛翔している一群も存在していた。澪の目に留まったのは、その中でもひときわ迅く空を翔ていた個体である。止まったままだと声を聞いてくれそうにもないので、澪はアルギのそばに並んで飛びながら熱心に話しかけている。
 澪を一瞥するアルギ。すると提案を了承したのか、さらにぐんと加速して澪から距離を離していく。
「わあ、すっごく速い! 負けないよっ!」
 素直な賛辞を贈ると澪自身もまた飛ぶ勢いを増して、翼を広げたアルギの後を追っていった。

「こんにちは。もし良かったら、私と一緒に戦わない?」
 曇天の空で澪たちがハイスピードな競争を繰り広げている一方で、地上ではつかさが一羽のアルギに狙いを定めて声を掛けていた。
 そのアルギは他の個体に比べて一回り以上大きい。毛づやも良く、健康状態も優良であることが一目で分かる。
 アルギたちは個体差が大きく、無軌道に飛び回ったり、人間を見つけると目を輝かせて突っ込んでいくような忙しない個体も存在する。しかしこのアルギは先ほどから剥製のように動かず、周りの人間と仲間たちをひたすらじっと観察するように眺めていた。その落ち着いた佇まいがつかさの目に留まったのだ。
「お腹空いてたら、これ。良ければどうぞ」
 つかさが差し出したのは乾燥して熟成させた獣肉。その正体はワイバーンの干し肉である。無関心風に周囲を見るばかりだったアルギはそれに気付くと、つかさと目を合わせて小さく横に首を傾いだ。
 いいのか? ということだろうか。つかさは笑みを浮かべて頷いてみせた。

 きれいな軌道を描いてまっすぐに空を行くアルギにヘスティアは目を付けた。遠くに見える樹木の上に降り立ったのを見て、つかさから分けてもらった干し肉を掲げながら、アルギが向けている視線のほうへと歩いていってみせる。
「――気付いた!」
 目論み通りこちらに飛び立ったのを確認する。どうやら視力も良いらしい。
 樹上から飛び立ち、空を飛び、ヘスティアの手前に降り立つまでの動きも機械のように整っている。まるでドローンのように安定した離着陸動作だった。
「ねぇ、お願い! わたしと一緒に戦ってくれないかしら?」
 手土産の干し肉を与えると、ヘスティアは頭を下げて真摯に頼み込んだ。アルギは干し肉をあっという間に呑み込んでしまうと、キュウ、と鳴き声を漏らしてヘスティアの頬に顔を摺り寄せてくる。
「わわっ! ……いいの?」
 了承、ということだろうか。
 念押しでヘスティアが聞くと、ピュイ! と元気な答えが返ってきた。

 一回転、二回転。今度は円をより大きく描いて、三回転。
 まるで曲芸のように曇天の空を自在に舞うアルギの姿があった。ピュイーと高らかな鳴き声を辺りに響かせている。
 あの子は楽しんで飛んでいるのだと、アメリアの直感が確信を以って告げていた。スカイステッパーで軽やかに空を駆け上がると、あっという間にそのアルギのもとへ辿り着いてしまう。
 表情は読めないが、どこか驚いたようにアメリアに視線を向けるアルギ。アメリアは笑顔で応えると、とんと空を蹴って鮮やかな宙返りを披露してみせる。連続して三回。最後の一回は、目前のアルギが先ほどそうしたように大きく弧を描いてみせた。
「――ふふふ、どうかな!」
 朗らかに笑みを咲かせるアメリアに、アルギはピィーと長い鳴き声で応えて、今のアメリアを模倣するように弧を描いて飛行してみせた。アルギ風の返礼に、アメリアの笑顔が弾けた。
「ねぇねぇ、私も空が好きなんだ! 君と一緒に飛んでみたいな!
 一緒に色んな所へ行って、一緒に空でダンスしよう!」

 ・
 ・
 ・

 四者四様の邂逅を経た後、アメリア・つかさ・ヘスティアの三人がふたたび地上で集合していた。三人ともそれぞれ出会ったアルギの背に騎乗している。
「見てみてーこの子! 一緒に空を飛ぶと好きが伝わってきて、凄く楽しいんだよ! 目もキラキラしてて可愛いんだ~!」
 アメリアが華麗な変則飛行を見せていたパートナーを誇らしげに語ってみせる。喋りながらもアルギの頭をよしよしと撫で続けていた。クゥーと気持ちよさげな鳴き声がわずかに開いた嘴から零れている。
「この子もいい体格してるでしょ。さっき軽く遊んできたけど、力も度胸もあるわ。きっと将来、群れを率いるボスになるわよ」
 アメリアに負けじと、つかさもアルギの首を撫でながら自慢を返した。アルギとは意気投合した後に実戦を想定した練習を行っており、最初は不慣れだったものの、回数を重ねるにつれ着実に連携を完成させていったという。外見通りの体力の持ち主であり、インターバルの少ない練習の中でも疲れを見せることはなかった。
「うちの子だって負けてないわ! キリっとした鷹のような目に安定した飛行姿勢! きっと銃を持てたら凄腕のスナイパーになるイケメンよ!」
 ヘスティアが推す相棒は安定性と視力が売りのアルギである。実際に乗って空を飛んだ状態でも機械めいたバランス能力は損なわれておらず、ヘスティアも安心して身を任せることができていた。
「二人ともいい子を見つけたみたいだね~! あとはつゆりんかな?」
「アメリアさ~~~ん!」
「あら、噂をすれば。……わっ」
 ヘスティアが驚きの声を漏らす。翼を広げた澪と一羽のアルギが、もの凄いで三人のもとへと飛んできたのだ。ほぼ同時に地上に降り立つと、澪はアルギの頭を撫でながら三人に笑いかける。
「見て見て、この子すっごい速いんだよ! こんなに本気で飛んだの久しぶり~!」
 誇らしげに語りながら、澪は懐に入っていた小瓶から魔法の飴を取り出した。アルギが食べやすいよう粉々に砕いてそれを与えてみせる。
「ふふふ、つゆりんも頼もしい子を見つけたみたいだね!」
 祝福するように破顔するアメリア。
 四人とも準備は整ったようだ。
 空の上へと旅立つ時間までもう少し。
 四人はそれまでお喋りを続け、それぞれのパートナーの自慢話に花を咲かせていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

静海・終
【夜猫】
あぁ~もふもふ~お触りよろしいんでございましょうか!
食べるなんてもったいない!!
好んでいるかと言われれば好んでおりますよ!えぇ!
小さいのもよいですが大きいのも愛らしい…
お二人は嫌いです?嫌いじゃないですよね~知ってます~

めちゃくちゃ歓迎オーラを出しながらも向こうから近寄ってくるまで待機
近寄ってくれれば触っていいでしょかと尋ねてから
顔を埋めてもっふりもっふり、素敵でございますね、素晴らしい…
初対面ではございますが、お力を貸していただきたいのです
丁寧に撫で顔を寄せて笑い
穏やかなこの場所を共に守らせてほしいのです
貴方達の悲劇を殺して、壊しましょう


クレム・クラウベル
【夜猫】
これ程大きな鳥はあちらでは見たことがなかったな
……ルト、食べるなよ?
そんな事はしまいと分かっているが冗談交じりに念押し
そういえば終はこういうのも好きなのか?
いつかの山羊を愛でる姿を思い出し、ちらりと視線を

村人たちから道具を拝借してアルギたちの毛繕いを
目線を合わせ警戒させないように近づき、そろりと羽を撫でる
なるほど、これは猫とは違う方向でもふもふ……
ブラッシングの傍ら少しだけ豊かな毛並みも楽しむ
ああ、動物は嫌いじゃない
しかりと向き合えば応えてくれるあたたかな隣人だ
アルギ。お前たちのその翼を貸してくれるか?
語りかけながら羽根の一本一本を丁寧に梳きながら
それぞれ触れ合う二人の姿に目を細め


イェルクロルト・レイン
【夜猫】
随分でけえ鳥だなァ……
……あ? 食う訳ないだろ
ねめつける眼差しはいつもよりキツく
冗談、なんだろうけれど、大人げなく塩対応
触れ合うのはいい
喰うのは、いやだ

好きなの、こういうの
問いかけに首傾げ
思えば知らぬことばかり
まあ、興味ないといえばそれまでだけれど
ぬくいのは好きだ

頭と、それから首の後ろ
村の男がしてみせたようにアルギの躰を撫でやって
触れる熱が心地良くて、もふりと寄りかかるように
天空の覇者、なんだってな
言葉を理解しているかは分からないが、語り掛ける声はいつもより穏やかで
なあ、ちょっと遊んでくれよ
ねこと戯れるよに、分け隔てなく
じゃれる姿は犬のそれと大差ない



●夜猫
「随分でけえ鳥だなァ……」
「これ程大きな鳥は、あちらでは見たことがなかったな」
 目前にでんと構える一羽のアルギを見上げて、イェルクロルト・レインとクレム・クラウベルが感想を漏らし合う。
 そのアルギは他の鳥に比べれば小柄な部類だったが、二人からすれば十分過ぎるほどに巨大だった。
「ルト、食べるなよ?」
「……あ? 食う訳ないだろ」
 冗談交じりに掛けた言葉だったが、存外に強く赤毛の青年が噛みついた。前髪に隠れた眼が鈍く光る。
 彼らを喰らうというのは、イェルクロルトにとっては有り得ない選択だったらしい。
 たとえそれが冗談でも。
「喰うのは、いやだ」
 クレムもそれ以上は触れず、傍らのもう一人の連れへと目を向けた。
「あぁ~もふもふ~!! お触りよろしいんでございましょうか!!」
 ギアがローに入ったイェルクロルトとは打って変わって、ひたすらハイになった静海・終の姿がそこにあった。
「そうです、食べるなんてもったいない!! このようにふかふかなのに食べるなど……ああ……」
「終はこういうのも好きなのか?」
 過去にも似たようなことがあったと、クレムは思い返してそう尋ねる。その時は山羊だったが。
「好んでいるかと言われれば好んでおりますよ! えぇ! ああ、小さいのもよいですが大きいのも愛らしい……!」
 目前のアルギの向こう、背後を横切っていく一回り大きな個体を目で追いかけながら、陶然と終が息を吐いた。
「お二人は嫌いです? 嫌いじゃないですよね~~知ってます~~~」
「……嫌い……」
 自己完結して聞く気のない終はさておき、問いを投げられたイェルクロルトは首を傾げて考え込む。
 そんな様子を横でクレムが見ていた。
「……ぬくいのは好きだ」
「じゃあ、温まりに行くか」
 ぽんと人狼の青年の肩を押すクレム。
 イェルクロルトは「ん」と頷いてこたえると、アルギの群れの中へと気ままに歩を進めていった。
 
 目に見えて分かりやすい好意を表情と態度から発露しつつも、終はあくまで待ちの姿勢である。
 のしのしと近くを歩く大小さまざまのアルギを眺めながらひたすら待つ、待つ……。
 そうしていると、眠ってもいないのにまったく動かない終に興味を覚えたのか、さきほどの大柄のアルギが終の背後へとやって来ていた。
「……はっ!! 触ってもよろしいでしょうか!!」
 はっとして振り向き尋ねる終。きらきらと輝く青年の目をじっと見て、アルギはクゥ、と低い声を漏らした。
 拒否ではない。終は直感でそう感じ取った。
 ためらうことなく、ふっくら膨れた胸の羽毛へと顔を埋めにいく。左右に顔を転がして感触を満喫。ふかふかで、とてもあたたかい。
「素敵でございますね、素晴らしい……」
 夢中になっていたが、ふと当初の目的を思い出して顔を上げる。
「初対面ではございますが、お力を貸していただきたいのです。穏やかなこの場所を、共に守らせてほしいのです」
 首の羽毛を撫でながら、真摯に語り掛ける終。
 村人たちだけではない。あなたと、あなたの仲間たちも守らせてほしいと。
 アルギの琥珀色の眼が、終の赤い目をじっと見ている。
「貴方達の悲劇を殺して、壊しましょう」
 静かで確かな約束。
 アルギは終と目を合わせたまま、翼を雄々しく広げてキュイ! と高らかに鳴いてみせた。

 イェルクロルトは村の男を真似て、アルギの身体を撫でてみせる。
 頭と、首の後ろ。より心地よく感じる部位を探しながら。
 触れあっているうちに、自然とイェルクロルトの身体がアルギの巨体へともたれかかっていく。青年の痩せた身体をやわらなか羽毛がやさしく包み込んだ。
「天空の覇者、なんだってな」
 体重をほとんど預けても岩のように揺るぎないアルギ。嫌がる様子はまったく見せない。
 羽毛から伝わる温もりを肌で感じながら、常より穏やかな声でイェルクロルトは語り掛ける。
「なあ、ちょっと遊んでくれよ」
 姿勢を変えると、ふいにアルギの背中へと上り出す人狼の青年。
 その姿はまるで、友達と遊びたがっている無邪気な大型犬のようだ。
 アルギはきょとんと不思議そうにイェルクロルトの様子を見つめていたが、やがて青年が背中にすっぽり収まると、何かを決したように大きな翼を広げ、曇天の空へと舞い上がっていった。

「……おや。もう仲良くなったのか」
 早いな、とクレムは飛び上がったイェルクロルトの方を見ていた。終も背中を許してもらえたようで、騎乗して声を掛け合っている様子が遠目にも確認できた。
 クレムは村人たちから大きな豚毛のブラシを借りてきていた。警戒させないようそっと近寄ったアルギの羽毛にまずは手でそっと触れ、何回か撫でて緊張感を解いた後にブラシで本格的な手入れを始める。
「なるほど、これは猫とは違う方向でもふもふ……」
 もふもふ、ふわふわ。だが猫とは違った特有の“軽さ”があった。それでいて密度が高く、温かい。
 ブラシで梳いて毛並みを整えながら、残った逆側の手で豊かな感触を楽しんでいる。
 動物は嫌いではない。
 しかりと向き合えば応えてくれる、あたたかな隣人だ。
「――アルギ。お前たちのその翼を貸してくれるか?」
 問い掛けるクレム。巧みな手入れに恍惚と目を細めていたアルギは、青年へと顔を向けてじっと見つめてくる。
 そしてキュイ、と鳴いて応えてみせた。
「……イエス、ということでいいのだろうか」
 可笑しげに笑ってしまう。
 彼らの言葉は分からない。だが背中を許してくれたかは、後で乗ろうとしてみれば分かるだろう。
 今はしばらく、この時間を楽しんでおくとしよう――。

 ブラシを梳く先を背中へと変える。
 クレムが手入れを行ったアルギはその後、群れの中でもひときわ毛並みの良い個体として、村で話題になったという。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

キアン・ウロパラクト
【無貌の民】
なるほど、空飛んでるやつじゃ届かないもんな
一人じゃできない狩りってのも面白そうだ!

村人から貰った食料か、そこらの動物仕留めて肉を用意。
肉持ってアルギに近付いてく。
食いたそうなやつがいたら鬼ごっこでもして遊んでるかね。
アタシから肉を取れるような食い気のあるやつなら、
あの大物相手でも立ち回れるだろうさ。
でかいアイツ、墜として、食う!おーけー?
野生の感でなんとなく意思疎通だぜ!

あとは肉を半分こにして一緒に食ってるよ。
あれだ、同じ釜の飯ならぬ同じ骨の肉。
ギドとまいも飯食うみたいだし合流して、
みんなで飯食ったらもう仲間っつってもいいだろ!


花咲・まい
【無貌の民】
狩りですか、なんだか血が滾りますですね!
しからばその前に下準備をば。私も仲良くしてくれるアルギさんを探しますですよ!

怪鳥と言えど鳥なら雑食性かと思いますが、アルギさんはどうでしょうか。
私のおやつで良ければ、分けてさしあげますです。
餌付けというよりは、互いに歩み寄るための第一歩になったらよいですね。
そこから私に慣れてくれたようであれば、一緒に狩りをしてくれるようにお誘いもしちゃいましょう。
自分の天敵は、自分で振り払わなくては。私も協力しますです。
それに、なんたって狩りですよ! アルギさんもわくわくしませんですか?


ギド・スプートニク
【無貌の民】
アルギの群れをざっと眺め、気の合いそうな個体に目を付ける

よし、決めた
お前で良いだろう

力を貸せ、というつもりは無い
逆だ。私が力を貸してやる

仲間を喰われたのだろう?
これ以上、害獣如きに好き勝手を許す道理もあるまい

私の名はギド
お前の名は何という?
(名を感じ取るか、名付けるかする)

では頼むぞ、『』
この戦の間、我らは運命共同体だ

『』を連れ焚き木の近くへ
生肉を放ってやり、自分は串に刺した肉を焼く
キアンの言葉に頷いて
食事を共にすれば多少なり親睦も深まるだろう
おやつも構わぬのではないか?
彼らが好むかどうかまでは知らぬが、大事なのは気持ちであろう

狩りか、まい嬢も勇ましいようで何よりだ



●無貌の民
「――お? コレが気になるのか?」
 村人たちに分けてもらったおやつ兼手土産の鹿肉を持って歩いてると、さっそくじっと見つめてくるアルギがいた。
 キアン・ウロパラクトが肉を持つ手を右に動かす。顔が右に動く。
 左に動かす。左に動く。実に分かりやすい反応だった。
「そうかそうか……そんなに食いたいか……」
 うんうんとキアンは頷くと、
「なら、アタシから奪い取ってみるんだな!」
 挑発するように骨付き肉を突き付けて、突然びゅんと彼方へと走り去っていった。速い。
 そんなキアンの反応をどう見たのか、アルギはキュィイイと絶叫するように高い鳴き声をあげると、翼を大きく広げて飛び上がり、キアンの後を追いかけ始める。
「あっはっは! ――ってうわ、速いな!」
 距離をとって余裕を持たせたつもりのキアンだったが、すぐ背後からのピィーという鳴き声に考えを改める。
 弾けるような全力疾走。野生の力で飛ぶように駆ける。アルギも負けじと羽搏きを強めて加速した。
 そうして追いかけっこが始まってしばらく経ったころ。
「……おおっと!」
 彼我の距離を見るため振り返ったキアンの隙を見逃さず、アルギが急加速して鹿肉を掻っ攫っていった。
「よーしよーし、やるじゃないか! 合格だ!」
 キアンを通り越した先で着地して肉を啄んでいたアルギは、掛けられた言葉ににキュ? と声をあげて振り返る。
 はるか天空をびしっと指差すキアン。その指を今度は地面に。そして次は指をフォークのようなものに見立てて、食事する動作を表現する。
「でかいアイツ! 墜として、食う! おーけー!?」
 きょとんとするアルギ。
「おーけー!?」
 繰り返すキアン。
 果たして相棒候補を口説き落とせるのか。キアンの挑戦が始まった。

「よし、決めた。お前で良いだろう」
 たむろしていたアルギの群れを少し離れて眺めていたギド・スプートニクは、思い立ったように歩き出すと一羽のアルギの前に止まった。巨鳥の身体を彩る白と紫のうち、深く暗い紫が羽毛の大半を占めている、宵闇を鳥の形に切り取ったような個体だった。
 声を掛けられたアルギは、身体をわずかに傾いで疑念を表現する。
「力を貸せ、というつもりは無い。逆だ。私が力を貸してやる」
 透き渡った空色の瞳がアルギを射抜く。
 天上の魔物を討つために協力を取り付けまわっている猟兵たちだが、此度の戦いはアルギたちからしても十分に動機がある。
「これ以上、害獣如きに好き勝手を許す道理もあるまい。お前に戦う意思があるのなら、私と共に行こうではないか」
 ギドの手がアルギの首に軽く触れた。
「私の名はギド。お前の名は何という?」 
 視線を交わし合う“意志無き者の王”と“天空の覇者”。
 王たる者の名乗りに、翼を備えた天空の王はキュウ、と彼らの言葉で答えを返した。
 ギドはその言葉の意味を完全に噛み砕くことはできなかったが、猟兵としての第六感が近しい表現を頭の中に浮かび上がらせる。
「……“とばりを裂く波紋”か。お前が自分のことをそう表すのは分かった。だが、名前としては呼びにくいな」
 ふむ、と顎に指を添えて考えるギド。
「では私が名付けよう。“ヴォルナ”。お前が私と共にいる間は、そう呼ばせてもらう」
 宵色の羽毛を撫でながら、ギドがヴォルナに笑い掛ける。
「この戦の間、我らは運命共同体だ」

「おお、お二人ともお帰りなさいです!」
 焚火のそばで暖まりながら、花坂・まいが仲間たちを待っていた。
 その隣にはすでにパートナーとなったアルギの姿がある。まいの掌にのったスナック菓子をはぐはぐと啄んでいた。
「まい嬢が最初だったか。順調に見つけることができたようだな」
「このアルギさんが食いしん坊さんで助かりました! お菓子は友好の懸け橋ですね!」
 ギドの言葉にえっへんと胸を張るまい。
 掌の上が空になったので追加のスナック菓子をのせる。ふたたびはぐはぐとアルギが啄み始めた。まいの言う通り、なかなか食い意地が張っているようである。
「村の人たちのお話によれば、アルギさんたちはけっこう何でも食べちゃうらしいですね! 好きなものはお肉とのことですが、嫌いなものはあんまり無いらしいです!」
「成る程。キアン嬢、先ほど持っていた獣肉はまだ余っているだろうか」
「おーう、まだまだあるぜー。ほらよっ!」
 鹿肉のストックをギドへと投げ渡すキアン。アルギ用の他、自分が食べるために多めに持って来ていたのだ。
 ギドはヴォルナの方へ生肉を放ると、残った肉を串に刺して焼き始める。キアンも同じように相棒に肉を渡して、いそいそと自分のぶんの用意を始めた。
「あれだ、同じ釜の飯ならぬ同じ骨の肉。みんなでこれ食べたらもう仲間っつってもいいだろ!」
「うむ。食事を共にすれば多少なり親睦も深まるだろう」
 頷くギド。
 一方で、アルギにお菓子を与えていたまいが羨ましげに焼かれる肉串を見つめている。
「よっと。これはまいのぶんな!」
「わあ! ありがとうですよー!」
 まいの近くに肉串を刺すキアン。彼女の相棒へ生肉を渡すのも忘れない。両手を合わせてまいの目がきらきらと輝いた。
「やっぱり焼けるお肉はおいしそうですね~! 私のアルギさんもこっちの方がよかったでしょうか!」
「おやつも構わぬのではないか? 彼らが好むかどうかまでは知らぬが、大事なのは気持ちであろう」
 スナック菓子もずいぶんと旨そうに食べていた。ギドの言う通り、まいの気持ちは十分にアルギへと伝わっているだろう。
「ならよかったです! では私もがっつり食べて狩りに備えなければですね!」
「おっ、ずいぶんとやる気じゃねーか」
 頃合いと見たキアンがそばで焼いていた肉串を取る。焼けた肉の上を脂がつうと伝っていった。
「なんたって狩りですよ! 狩り! アルギさんもわくわくしませんですか?」
 声を掛けられたまいのアルギは、上を向いて肉をあぐあぐと一飲みにしたところだった。一瞬間を置いてから、翼を広げてピュイ! と高く鳴いて応えてみせる。
「狩りか。まい嬢も勇ましいようで何よりだ」
 自分の肉串の焼き加減を確認するギド。
 横を見ると、慎ましげな所作でヴォルナが生肉を食んでいる。まいのアルギとはずいぶん違うものだと、密やかに口元を綻ばせていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『雲海を越えて』

POW   :    木登りの要領で駆け登っていく

SPD   :    空を飛んだり太い枝を足場にして飛び登っていく

WIZ   :    自然や動物の力を借りたりして登っていく

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●空へ
 各々パートナーとなるアルギを見つけた猟兵たち。
 出発前の最終準備を行っていると、村人たちが荷物を抱えて声を掛けてきた。
「そいつらに乗ってれば大丈夫だろうけど、やっぱり“上”は冷えるからなぁ」
 その男が持っていたのは厚手の上着だ。猟兵たちのために家から持ってきたものらしい。
 猟兵たちの中から、乗っていれば大丈夫というのはどういうことか、という声があがる。
「アルギたちに触れてると不思議と温くなかったかい? そいつらはね、精霊様のご加護を受けてるんだよ」
 何でも彼らは生まれつき魔法的な力をその身に有しており、雲の上を飛んでいても身体がまったく冷えず、空気が薄くてもまったく息が切れることがないという。
 そしてその加護は、アルギが背中を許した者にも与えられるらしい。
「と言っても、乗ってるやつには程々って感じだけどな! 凍えない程度にゃマシになるってぐらいだ。だから寒いのがイヤなやつはこうして着込むってわけさ」
 別の村人が持ってきたのは大きな革製の道具だ。
「おれたちがアルギに乗る時に使ってる鞍だ。作りは雑だが、あるのと無いとじゃだいぶ違う」
 使うといい、と言って猟兵たちに渡してきた。
「アルギたちは、一度背中を許した人間は必ず大切にする。きみたちが無事に務めを終えられるよう、精一杯頑張ってくれるはずだ」
 村の顔役と見える壮年の男が、真摯な顔つきで猟兵たちを見つめてくる。
「おれたちも地上できみたちの無事を祈っている。アルギたちのこと、よろしく頼むよ」
雛菊・璃奈
村の人達から受け取った鞍を、アルギに着け心地を確認しながら装着。

わたしに力を貸してね…わたしと一緒に頑張ろう、と出発前に、首元をふわりと抱きしめてなでなですりすり…。

抱きしめ終えたら、背に乗って出発…。
アルギと一緒に大空に出て、背中に乗っての空の景色にとても楽しそうに。

「凄いね、アルギちゃん…速いし高い…とっても気持ち良い…。アルギちゃんと一緒に空飛べて、とっても嬉しいよ…!」

目的地に到着する間に、アルギに乗った状態での空中での戦い方やアルギに声かけして連携しての動きを確認したり、この件が終わった後、一緒に遊びに行きたいな、とアルギと【第六感】で会話しながら楽し気に進んでいく

※アドリブ歓迎


田抜・ユウナ
※アドリブ等、歓迎

上着は動きにくそうなのが気掛かりね。
ということで、寒さは異世界から薄手の手袋や冬用インナーを持ち込んで乗り切る。
鞍はありがたく借り受けよう。こういう道具は使い込まれた物の方が信頼できる。
村人に教わって自分の手でアルギに装着
「苦しくない? ……これくらいならどう?」とか話しかけながら、キツ過ぎず緩すぎず良い加減でベルトを締めていく。

飛び上がっても、すぐには上空に向かわず様子見
鞍の着け心地とか、騎乗中の姿勢とかをアルギと確認し合って、それから上昇開始よ。

道中は特に何もしない。アルギに身をゆだねて、騎乗の感覚に慣れることに集中する。


キララ・キララ
◆連携/改変/アドリブ歓迎
【SPD】
きららは太い枝を足場にして進むわ。防寒具をお借りするわね。
アルギの背中はあったかいけど、人を乗せたままだと通りづらいところがあるのかしら?

この子や他のアルギが気持ちよく飛べるようにサポートするね。
背中の上でも、枝を登ってる間でも、邪魔になりそうなものや現象を探しながら行く。こういうのって『見切り』の部分もあると思うのよね。ない?

んーと、とにかく大変そうなところをね、見つけ次第伝えるわね。
避けられないものはきららがユーベルコードでどけてあげる!
……叩いて壊せるものなら!

あなたはきららよりずっと速いんだもの、一緒ならだれにも負ける気がしないわ!がんばりましょう!


モノ・アストルム
高い! こんなに高く飛ぶのは初めてだ
目的地に着くまでは、アルギと会話しよう。フィーリングで理解を頑張るぞ


「乗せてくれて、本当にありがとう」
「それと、俺の名前は伝えてなかったよな。モノって言うんだ。お前は?」

話しながら、アルギの様子や景色を観察
村での話を聞くとアルギが疲れるって事はほぼなさそうだけど、それっぽい様子が見えたら、戦闘前に小休憩を挟みたい
村の近くにある大樹がどこまで伸びているか次第か
休憩の有無に関わらず、目的……村を襲う有翼獣を狩りに来たんだという事も伝えておく

無事に上の方まで来れたら自前の翼を、アルギの翼の見よう見まねで動かしてみる
高高度飛行の際のコツとかあれば、是非教えて欲しいな



●一組目
「――よいしょ……これで大丈夫かな?」
 背に載せた鞍を軽く掴んで揺さぶり、パートナーのアルギの顔を覗く璃奈。特に締め付けがきつそうな様子は見られない。
 近くでは、ユウナもまた空へ飛び立つための準備を終えようとしていた。アルギの胴に巻いた腹帯が緩すぎず、締めすぎずのちょうどいい塩梅を維持しているかを確かめる。
「苦しくない? ……これくらいならどう?」
 少し緩めてみせると、ほんのわずかに身体を反らせていたアルギの姿勢が自然体に戻った気がした。キュッ! と元気のいい返事も返ってくる。口元に笑みを浮かべてユウナは頷いてみせた。
「私はオーケー。そっちはどう?」
「うん、こっちも大丈夫。アルギちゃん、そろそろ出発だね。わたしに力を貸してね……」
 声を掛けたユウナに璃奈が応える。一緒に頑張ろうね、とパートナーのアルギにふわっと抱き付いた。撫でながら頬を摺り寄せていると温かみが肌にじんわりと伝わってくる。その温もりはそのまま、璃奈自身の活力へと変わっているような感覚を覚えた。
「おーい、そっちは終わったか!」
「ええ、滞りなく。それでは行きましょうか」
 すでに仕度を整えてアルギに騎乗していたモノの声に応えると、ユウナは持参した防寒用の手袋を装着する。アルギの背に載った鞍に両手を置くと、鞍から垂れた鐙に足を引っ掛け、よっと勢いをつけて騎乗した。
 璃奈やキララも出立の準備は済ませたようだった。各々が目を合わせて頷きあい、目指す天空へと顔を向ける。
「それじゃ、しゅっぱーつ!」
 キララの朗らかな号令に、アルギたちのピィィィーという高らかな鳴き声が重なって続いた。
 大きな翼を羽搏かせて曇天の空へと舞い上がっていく戦士たち。
 その姿を地上の村人たちが見送る。がんばれー! という無邪気な子供たちの声が、猟兵たちに耳に届いた。

 猟兵とアルギたちは順調に空へと翔け上がっていく。大きく緩やかな弧を描いて、村からは極力離れないように。
 四人のうち、キララとモノは巨大樹を軸としたコースで飛行している。そこからわずかに逸れて璃奈。ユウナは、三人からはいくらか低いところを遅れて飛行していた。
 ユウナが三人より下にいるのは、鞍の乗り心地や飛行中の姿勢などの調整を行うためだった。アルギに声を掛けながら身体を傾けたり、体重の掛け方を変えたりして、アルギと自身に負担がないかひとつずつ懸念を潰していく。
「……良さそうね。三人に追い付きましょうか。あなたも、何かあったら言ってね」
 優しく首を撫でてそう声をかけるユウナ。アルギは首の向きを変えずピュイッ! と鳴いて、先行する猟兵たちに追い付こうと羽搏く勢いを強めた。
 沈着に動作確認を済ませていたユウナ。一方で、空を飛ぶことに大きな感動を覚えている猟兵たちもいた。
「高い! こんなに高く飛ぶのは初めてだ!」
「凄いね、アルギちゃん……! 速いし高いし、とっても気持ち良い……!」
 自身の鶴翼で至ったことのない高みを翔けていることに興奮を覚えているモノ。璃奈もパートナーとともに風を切って飛ぶことを楽しんでいるようだった。通常ならば肌を刺すほど冷たいはずの空気が、アルギの背に乗ることで“涼やか”程度に感じられている。流れ行く空気が肌を撫でる感覚に苦はなく、むしろ爽快そのものだった。
「アルギちゃんと一緒に空飛べて、とっても嬉しいよ……!」
 ぎゅっとアルギへとしがみついている手の力が強まる。パートナーの高揚に呼応してか、アルギもまた昂ったようにピュイーと長い声を返してみせた。
「乗せてくれて、本当にありがとう。それと、俺の名前は伝えてなかったよな。モノって言うんだ。お前は?」
 感謝を伝えて、アルギの名前を問うモノ。騎乗するアルギはキュキュキュ、と鳴いて答えを返す。
 彼らの言葉が意味するところにもっとも近い人間の言葉を、モノが備える野生の勘が弾き出した。
「“長く続く雨”……で合ってるか?」
 キュウー、と肯定と思しき声が返ってくる。
「雨に思い入れがあるのかな。今日は降りそうで降ってないけど……」
 天を見上げる。曇天の空を覆う群雲にだんだんと近付いてきている。
 キララは足場に使えるようにと巨大樹のそばを飛んでいたが、騎乗するアルギはまだまだ元気なようだ。羽を休めるために樹木へ降りることがあるなら障害物を取り払うつもりだったが、今のところその必要は無いように思える。
 順調に飛行を続けるキララ。雲の上まであとどれぐらいかと、天を仰いだ時だった。
「――!!」
 上空の輝き。それが急速に落ちてくる“何か”だと悟ったキララは、一瞬で右腕を巨大なハツカネズミの頭に変えると、横殴りの“頭突き”で落ちてくる何かを空中に弾き飛ばした。
 煌めきを散らしながら砕け散るそれは――
「……氷……?」
 弾いた何かはすでにはるか下。正体を見定めることはできなかったが、一瞬とらえたその姿は大きな氷塊だったように思えた。人の形に戻した腕に残る冷えた感覚も、氷に触れたときのそれだとキララの勘が告げている。
 ふたたび天を見上げる。群雲の影に隠れて、何かが動いたような気がした。
「……嫌がらせかしら。上等じゃない、この子と一緒ならだれにも負ける気しないんだから!」
 目にもの見せてやりましょう、とパートナーのアルギを鼓舞するキララ。アルギもその声に応えてキュイ! と力強く応えた。
 さらに猟兵たちの飛行は続き、やがて高度は巨大樹の天辺を超える。アルギに疲れた様子があれば休憩を挟むつもりのモノだったが、溌剌とした羽搏きぶりを見るにその必要は無さそうだ。
「なぁアルギ。俺たちは雲の上にいる獣を倒しに行くんだ。あの村に住む人たちを助けるために」
 群雲の天蓋に、かなり近くまで迫りつつあった。
「戦うとき、俺が少しでも飛べたら有利に働くかもしれない。高いところを飛ぶのにコツとかってあるかな」
 突風を吐き出すようなパートナーの力強い羽搏きを真似て、モノも鶴翼を動かしてみる。モノとアルギの翼では大きさからしてかなりの違いがあるが、学べるところがあれば吸収したい気持ちがあった。
 しかし訊かれたアルギからは、クゥーと困ったような返答が聞こえてくる。
「うーん、やっぱり違う種族に教えるのは難しいか」
 産まれてしばらくは飛べないとはいえ、それでも時を経れば自然に空を舞い“覇者”と謳われるようになるのがアルギという生き物だ。彼らが鳥類でありながら人を乗せて飛べるのも、極寒から身を守る“加護”と同様に何らかの魔法的な力が働いている可能性が高い。
「仕組みが違う……か。でもありがとう、翼の動かし方は参考になった気がする」
 ぽんぽんと首の羽毛を叩くモノ。キュ! と活気を取り戻した返事が返ってきた。
 一方で璃奈はこの高みへと上ってくるまでの間、アルギと声掛けして戦闘中の連携について最後の調整を行っていた。今となっては以心伝心で右へ左へ、上へ下へ。自在にアルギの制動を行うことが可能になってきている。璃奈の持つ第六感とも呼べる勘の鋭さが、アルギとのコミュニケーションにおいて有効に働いた結果だった。
「うん、かんぺき……! 負ける気がしないね、アルギちゃん……!」
 上手く連携をこなせた後は褒めることを忘れない。喜気を滲ませてピィ! と返すアルギ。親睦も十分に深まっている。
 満を持して群雲の間近まで辿り着いた璃奈とアルギは、視界を遮るその雲の中へとためらいなく突入していった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

ヴィルジール・エグマリヌ
村の人たちが用意してくれた
防寒具や鞍を有り難く借りて
交友を深めたアルギと空の旅へ

巨鳥の背に乗り冒険なんて
お伽話のようで胸が踊るな
雲の上までどうぞ宜しく、アルギ

先ずは確り掴まりバランスを取って
慣れて来たらアルギに話し掛けたり
軽く撫でたりしながら信頼関係を築きたく
大人の男を乗せても軽やかに飛べるなんて
本当に逞しいのだね
君になら私の命も安心して預けられるよ

空から見下ろす長めも壮観だ
君たちはいつもこんな景色を眺めながら
旅をしているのかな
私も星々を見下ろしながら
船で宇宙を巡っているけれど
それとは違う趣があって羨ましい

君が居なければ
きっと見る事も無かった景色だ
ありがとう、アルギ
有翼獣退治も一緒に頑張ろうね


ヴォルフガング・ディーツェ
【WIZ】

谷間を駆ける風、強く自由なる君
君や君の仲間、村の人達…善良な魂達を脅かす敵があの雲の先にいる
俺はそいつを止めたい、危険に巻き込んでしまうけれど…力を貸して欲しいんだ

…有り難う、俺も君を支えるからね

防寒服と鞍も有り難く拝借するよ
お気遣い有り難う、必ず返しに来るからね!

道中は風の君と共に
俺は彼女の羽ばたきの邪魔になりそうな枝や障害物を鞭で払っていくよ
疲れが見えるようなら【調律・豊穣の神使】や持参の霊薬でサポートも忘れない
パートナー、だからね!

これが君が見ている風景…凄いや、雄大で、自由で…なんて綺麗なんだろう。世界は、こんなにも美しいものなんだね

絶対に、壊させやしない
必ず守ってみせるよ



●二組目
 ヴォルフガングの脳裏に出立時の村人たちとのやり取りが蘇る。
 ささやかな応援しか出来なくて申し訳ないが、猟兵とアルギたちの無事を心から祈っていると。騎乗して飛び立たんとするヴォルフガングに熱い声援を送ってくれていた。
「有り難う! 防寒着と鞍、必ず返しに来るからね!」
 そう最後に声をあげると、手を振って見送ってくれた子供たちが居たのを覚えている。
 守らねばならない。あの人たちも、アルギたちも。雲上で機を待つ有翼獣に喰らわれぬよう。
「谷間を翔ける風、強く自由なる君よ」
 風を切って空を飛びながら、騎乗している自らのアルギへと声を掛ける。
「俺は君達を守りたい。危険に巻き込んでしまうけれど……力を貸して欲しいんだ」
 切に訴えるヴォルフガングに、パートナーのアルギはキュイィー! と力強い返事を返した。任せろと言わんばかりの、まるで雄叫びのような声だった。
「……有り難う。俺も君を支えるからね」
 優しく微笑んでアルギの首を撫でるヴォルフガング。表情はアルギからは見えないが、声と触感だけで十分に彼の気持ちは伝わっただろう。
 ヴォルフガングから離れて少し後ろにヴィルジールが続いていた。飛び立った当初は飛行中のバランスを取ることに集中しており、やや出遅れていたが、次第にコツを掴んできたようだ。
「大人の男を乗せても軽やかに飛べるなんて……本当に逞しいのだね」
 練習中に動いたこともあり、体力の消耗を少し懸念していたが、それも杞憂のようだった。天高くそびえる巨大樹の半ばを通り越しても、いまだ騎乗するアルギに疲れは見えない。
「君になら、私の命も安心して預けられるよ。雲の上までどうぞ宜しく、アルギ」
 キュイッ! と頼もしい返事が返ってきた。背を許した騎乗者が信頼を言葉に表したことで気分が高揚したのか、羽搏く勢いを増して前を行くヴォルフガングのすぐ傍にまで追い付いてみせる。やっぱり凄いな、とヴィルジールの口からふたたび賛辞が零れた。
 やがて二騎のアルギは巨大樹の樹冠を越える。そこに辿り着けば群雲の天井へともう少しだ。アルギたちはどちらともなくそこで上昇を止め、ハチドリのようにホバリングして空中で一時停止してみせる。
「止まるのも自在なんだね」
 ヴィルジールが何度目かの称賛を送って、眼下の景色に目をやった。出発地点の村はすでに遥か下。点在している家屋は豆粒のように小さい。視線を巡らせれば、周辺に広がる森の切れ目まではっきりと見渡すことができた。日が出ていればもっと視界が澄んでいたかもしれないが、それでも十分すぎる眺望だった。
「壮観だな……」
「うん、本当に!」
 零れた言葉に、隣に並んだヴォルフガングから弾んだ声で反応が返ってきた。人狼の少年はきらきらと目を輝かせて、地平線の果てまで広がる雄大な光景を眺めている。
「これが、君達が見ている風景……凄いや。雄大で、自由で……なんて綺麗なんだろう」
 ほうとヴォルフガングの口から息が零れる。
「世界は、こんなにも美しいものなんだね」
「ああ。君たちは、いつもこんな景色を眺めながら旅をしているのかな」
 ヴィルジールが苦もなく羽搏きを続けるアルギへと声を掛ける。キュー! という元気な鳴き声は肯定の意味だろうか。
 彼もまた、遠大に広がる星の海を翔ける宙の航海者だ。アルギたちも知らないような異世界の眺望をいくつも知る身だが、眼前の見晴らしは記憶にある眺望のいずれとも違う趣がある。
「君が居なければ、きっと見る事も無かった景色だ。ありがとう、アルギ」
 有翼獣退治も一緒に頑張ろうね、と声を掛けるヴィルジール。キュイッ! と疲れ知らずの力強い返事が返ってくる。
「絶対に、壊させやしない。必ず守ってみせるよ」
 眼下にある集落もまた、視界に広がる美しい世界の一部だ。地上に住む彼ら、自由に空を舞うアルギたち。必ず守り通してみせると、ヴォルフガングが決意を新たに表情を引き締める。
 二騎が上昇を再開し、目指す空を覆う群雲へと迫っていった。
 決戦の場所まで、あと少し。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

葦野・詞波
WIZ
よし、行くぞシロ。
……自分で名付けて何だが慣れないな。
寒さは慣れている。心配してくれるな。

【騎乗】経験が多少は生きるだろうか。
流石に馬とは勝手が違うな。
ところでだ。
お前の背に乗って雲海の向こうを
目指すだけというのも味気ない。

少し連携の練習をしておくというのはどうだ、シロ。
私が敵に【槍投げ】をした後
その槍を回収して欲しい、という訳だ。
刺さっても外れてもな。
雲海の下に落ちていっては探すのも大変だ。

私が敵に飛びかかった後の回収も頼む。
私は飛べないからな、お前が拾ってくれなければ真っ逆様だ。
お前の俊敏さを信頼している。
パートナーだからな。遅れを取るなよ。
よく出来たなら頭と首の後ろを撫でてやろう。


七篠・コガネ
目的地は上…ですか。行こう!アルギ!…名前付けたいですね
んーとね…シロツメクサ…クローバー…そうだ!名前は「ヨツバ」です!
ヨツバと僕の羽を合わせてヨツバですよ!さ、行こう!ヨツバ!

ヨツバの背中を頼らせて欲しいですね
精霊様の加護なら…温感の無い僕でも温もりっていうの分かるかなぁ?
その分、寒さも分からないからその辺は平気ですよ
ヨツバに乗りながら僕も『羽型ジェット』や枝を蹴ったりして
飛ぶ勢いを足す手助けしますからね。一緒に飛んで行こう!

…ねぇ、ヨツバ。僕は…長いこと電子の檻の中にいたんだ
ヨツバは仲間がいっぱいいるんだね
天空の覇者。自由な姿がとてもよく似合ってるよ
……羨ましい、なぁ…


アドリブ、絡み歓迎


ヌル・リリファ
【WIZ】

お友達。……お友達ができたから。
寒いのは、平気だし。
アルギさんにのせてもらうよ。背中にのるの、たのしかったから。一緒にいくほうが素敵だから。アルギさんもそうおもってくれてるとうれしいな。

おそらをとびながら、おはなしするよ。背中をなでたりもする。ふわふわで、とっても素敵。

あなたはいつもこんな光景をみてるんだね。とってもたのしそう
まかせてね、絶対にあなたをまもって勝利してみせるから。あなたをたべさせたりしないから

……そういえば、お名前きいてなかったね。もしよければアイってよんでもいい?いまだけの愛称でもいいから

ひとりでたたかうことおおいから、こういうパートナーみたいなことにあこがれてたの



●三組目
「よし、狙いはあの辺りだ。いいか? ――行くぞ、シロ!」
 雲上への道すがら、槍の穂先で進路の先を示すと、詞波はそこに向けて得物の槍を高く投げ放った。弾丸めいて飛んでいく槍は詞波が示した位置を通り過ぎると、やがて重力に従って地表へ落ちて行こうとする。
 しかし“落ちて行こうとする”時点でシロが追い付いていた。詞波が槍を投げ放ったのと同時に急加速すると、あっという間に放物線の下り坂まで辿り着く。詞波は難なく槍の柄を掴み、得物の回収に成功した。
「そら、二投目!」
 休む間もなく次弾が放たれる。またもシロは問題とせず、先ほどと同様そつの無い動きで回収場所まで辿り着いた。
「よしよし、良いじゃないか。流石は私のパートナーといったところだな」
 ご褒美にと首の後ろを撫でてみせる詞波。シロはギャー! と何故か威嚇めいた返答を返した。プライドの高い彼は当然だ、とでも言っているのかもしれない。
「……たたかう練習、してるの?」
 詞波たちの近くを飛んでいたヌルとそのアルギが、シロたちに距離を寄せて声を掛けてきた。それぞれのアルギが大きな翼を羽搏いているためあまり近くには寄れず、会話するにも少々声を張る必要がある。詞波は問題なく聞き取れたようだった。
「ん? ああ、ただ背に乗って目的地に向かうだけというのも味気ないと思ってな。こうして道中の時間を有意義に使っている訳だ」
「そうなんだ」
「……ところで、寒くないのか?」
 詞波が指摘する。ヌルは上着を着込んでいる猟兵の面々に比べるといささか薄着に見えた。
「わたしは大丈夫。寒いのは、平気」
 ミレナリィドールであるところのヌルは寒冷に対して耐性を有している。そこまでヌル自身は喋らなかったが、詞波は言われずとも察したようだった。
「そうか、ならいい。私たちは連携の練習に戻るから、先に行かせてもらうぞ」
「うん、がんばってね」
「ありがとう。――よしシロ、私が飛び掛かっていった時の復習だ! しっかり回収するんだぞ!」
「えっ……わあ」
 ふいにシロの背に足をつけて屈む姿勢になった詞波は、ふたたび先ほどのように槍の穂先で位置を指定すると、そこに向かって全力で高く跳び立っていった。槍投げの時と同様にシロがぎゅんと急加速して追い付き、詞波が重力に引かれる前に回収してみせる。手際の良さを見るに、どうやらここに来るまでも何回か練習した動きのようだった。
「すごいなぁ……自分でとんでいっちゃった」
「うん、すごいですねー。色んな猟兵がいるんだなぁ」
「?」
 感心していたヌルのそばにやって来ていたのは、ヌルのアルギより一回り大きな個体に乗ったコガネだ。人間サイズの猟兵に比べるとかなり体躯が大きいコガネを乗せるアルギは、一目見るだけだと荷が勝ち過ぎているようにも思える。しかし、コガネの乗るアルギに特別疲弊した様子は見られない。
 その理由は、コガネが背中に備えた羽型のプラズマジェットにあった。コガネとアルギ、それぞれが飛行するための推進力をシェアし、独特の航行態勢を実現しているのだ。
「力をあわせて、とんでるんだね」
「ええ! ヨツバも十分頼もしいのですが、雲の上にいくまでは力を温存してもらおうと思って」
「? ヨツバ?」
「この子の名前です! 僕の羽と合わせて四つで、ヨツバ!」
 コガネがそう言うと、キュウ! と騎乗しているアルギから鳴き声があがる。彼もまた、自身の呼び名としてしっかり認識しているようだった。
「仲がいいんだね。……ねぇ、あなたはいま、さむくない?」
「うん? ――あはは、僕は大丈夫です! 温感が備わっていないので!」
 微笑んで応えるコガネ。同時に彼は、アルギの加護である温もりも感じることはできていなかった。
「そっか、ありがとう」
「いえいえ、こちらこそご心配ありがとうございます! それでは先に行きますね! 雲の上でお会いしましょう!」
 ヨツバの羽搏きが強まるのと同時、プラズマジェットの出力を高めるコガネ。他の猟兵を乗せたアルギと比べても一際抜きん出た速力を示しながら、群雲が覆う空へと翔け上がっていった。
「さっきのひとも、名前でよんでたね。シロ、って」
 残されたヌルは、自身のアルギの背中を撫でながら語り掛ける。
「……そういえば、お名前きいてなかったね。もしよければ、アイってよんでもいい?」
 いまだけの愛称でいいから、と続ける。アイと呼ばれたアルギは、キュウー! と高らかに鳴き声をあげてみせる。ヌルの耳に、それは肯定的な返事として届いた。ぱっと表情が明るくなる。
「ありがとう。ひとりでたたかうことおおいから、パートナーみたいなことにあこがれてたの」
 首の後ろを何度も撫でるヌル。今度はピィーと喜気を滲ませた返事が返ってくる。アイも与えられた呼称を喜んでいるのだと分かり、ヌルもさらに嬉しくなった。
 ふと、ヌルが眼下の景色を眺める。気づけば巨大樹の天辺をすでに通り越していた。地平線まで雄大に広がる大地がヌルの視界に飛び込んでくる。
「あなたはいつもこんな光景をみてるんだね。とってもたのしそう」
 キュッ! とアイから肯定と思しき鳴き声が返ってくる。
「まかせてね、絶対にあなたをまもって勝利してみせるから。あなたをたべさせたりしないから」
 真摯に誓いを立てるヌル。
 パートナーを守る決意を強く固めて、群雲の中へと上昇し、侵入していく。
 
 一方で、先行していたコガネはすでに雲の中にいた。視界が遮られた道程をひたすらに突き進んでいる。アルギの加護による恩恵か、コガネの外装にほとんど水滴が付着していない。
 雲に入ってからは黙していたコガネが、ふと口を開く。
「……ねぇ、ヨツバ。僕は……長いこと電子の檻の中にいたんだ」
 ヨツバは前を向いて飛翔するのみ。当然、コガネの表情を見ることはできない。
「ヨツバは仲間がいっぱいいるんだね。仲間たちと自由に空を翔ける姿が、とてもよく似合ってるよ」
 ごうごうを流れ行く空気。ヨツバの羽搏き。唸りをあげるプラズマジェット。
 音が彼らの周囲に乱舞する中で、覇気のないコガネの声がぽつりと零れる。
「……羨ましい、なぁ……」
 ヨツバは応えない。あえて応えなかったのかもしれない。
 今はただ雲海を突破せんと、懸命に翼で空を打つ動作を繰り返していた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

赫・絲
鞍と上着を借りて準備万端
ぬくぬくになったし、あとはでっかいののとこまで行くだけだね、かいちゃん(f00067)!
……ところで寒くないの?

普段こんな風に飛ぶコトないからなー、なんだか新鮮!
見える景色を楽しんでいたら、いつの間にかかいちゃんが遠くに
わ、早! こっちも負けないよー!
首の羽毛を揉みながら、追いかけちゃってー、とアルギに笑いかけ

途端に上がる速度と風を切る感覚に時折目を瞑り
いい子いい子とアルギを撫でながら
ぐるぐる回ってるかいちゃんには思わず拍手
よく落っこちないねすごいねー

『例の革袋』が出てきたらすかさず全力で目を逸し
何、何の話
あーあー、風の音で何も聞こえないなー


壥・灰色
いと(f00433)のアルギと並んで自分のアルギで飛ぶ
鞍は借り受けた。上着は……格闘戦で動きにくくなるのでなし
寒いね

敵に出会うまでは、遊覧飛行だ
今のうちに眼下を見て景色を確かめておくよ

そっちの子も速いな
このあと空中戦だろう、それなら少しぐらい早駆けして慣れておかないと
ほら、いい子だ
お前の速さを見せてくれ

アルギの背を押すようにして、もっと前へ前へ、高く速く
隣のいとを置いていくぐらいの勢いでアルギを駆る
曲芸飛行とかしてみておくれよ
ぐるぐる回っても怖がったりしないからさ

上手に出来たら革袋から出したおやつをあげよう
はいあーん
上手にごくんー
……いと、そんな目を逸らさなくてもいいと思うんだけどな



●四組目
「わー、ほんとだ! 風があんまり冷たくない!」
 村人たちから借りた革のジャケットを着込んだ絲が、長い黒髪を風になびかせて空を翔けている。ひんやりとした感覚はわずかにあるが、空気の冷たさや乾燥から肌が痛むこともなく、流れ行く空気の爽快感のみが絲の全身を包んでいる。
「平気?」
「うん、ぜんぜん大丈夫! 上着とアルギのおかげでぬくぬくだよ!」
 隣に並んで飛んでいる灰色が尋ねてくる。
「あとはでっかいののとこまで行くだけだね! ……ところでかいちゃん、寒くないの?」
「うん、寒いね」
 平然と答える灰色。表情と声は常と変わらないが、寒いらしい。
 灰色は村人たちから防寒着を借り受けていない。雲上で予想される格闘戦で不利になると踏み、あえて転送時の恰好のまま空の旅へと臨んだのだった。
「大丈夫ー? あんまり無理してるとかぜ引いちゃうよ?」
「身体動かしてれば温まってくるよ」
 事もなげに述べる灰色に、やや納得いかなそうな絲だったが、眼下の景色に目を向けるとすぐにそちらへ興味が移った。すでに飛び立った村落は遠く、地上からはずいぶんと背が高く見えた常緑樹たちが緑の絨毯のように広がっているのが見える。森の向こうには村からは見えなかった大きな川が流れていた。
 あっちはどうかな、あっちにあるのは何かな、なんて絲が空中遊覧を満喫していると、そばで飛んでいた灰色が居なくなっていることに気付く。視線を巡らせると、絲たちよりも高い位置へといつの間にか先行していた。
「わ、早! こっちも負けないよー!」
 騎乗しているアルギの首の羽毛を揉みながら追いかけちゃってー、と笑いかける。アルギはキュイッ! と元気よく返すと、羽搏きを強めて灰色たちに向かって加速していく。強まった風の勢いに絲は思わず薄目となった。
「あっちの子も速いな」
 振り返って様子を見ていた灰色が、迫って来る絲たちを見てそう呟く。
「負けてられないな。ほら、お前の速さも見せてくれ」
 アルギの背を押すように、首の羽毛をとんと叩いてみせた。騎乗者の求めにアルギはキュウー! と力強く応じると、こちらもぎゅんと加速して疾駆を始める。
 追いかける絲、逃れんとする灰色。双方ともアルギの速さは負けずとも劣らず、なかなか距離は縮まらない。
「……ちょっと遊んでみようか。ぐるっと回ったりとか、できる?」
 灰色の提案に、アルギから肯定と思しき短い鳴き声が返ってくる。さらに速度が増したのを肌で感じると、灰色は鞍に付いているグリップ代わりの鉄輪を両手で強く握り込んだ。魔術回路によって常人を遥かに凌駕した握力を発揮し、がっちりと姿勢を固定する。
 アルギが傾き、世界が裏返る。灰色の視界で空と大地が目まぐるしく駆け巡る。一度で終わらず二度、三度。
「わあ、よく落っこちないねー! すごいねー」
 上へ下へ、華麗な宙返り飛行を続ける灰色たちを目で追いかける絲。やがて何度目かの宙返りを終えて絲の隣に帰って来た灰色たちを、ぱちぱちと称賛の拍手で迎えた。
「うん、面白かった。上手だったよ、アルギ」
 ぽんぽんと首の羽毛を叩いて、灰色は持参していた革袋から“おやつ”を取り出した。
 瞬間、目を逸らす絲。革袋を視認した直後に首が動く。早業だった。
「はいあーん」
 ぽいっと手前に投げた“おやつ”を上を向いて器用にキャッチするアルギ。
「はいごくんー」
 あぐあぐと嘴を動かして呑み込む。
「はい、上手にできました」
 ふたたびぽんぽんと叩く灰色。アルギは嬉しげにキュイーと鳴いて応えた。
「……いと、そんな目を逸らさなくてもいいと思うんだけどな」
「何、何の話? あーあー、風の音で何も聞こえないなー」
 依然、首を明後日の方向に向けたまま戻そうとしない絲。
 灰色が革袋を戻したと明言するまで、絲が目を合わせることは無かったという。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

キアン・ウロパラクト
【無貌の民】
上着とか無くても、太陽に近付くんだから暖かくなるんじゃね?
…ならない?よく分かんねぇけどとりあえず持ってくか
あとは鞍も付けとく、アタシの手だと爪刺さりそうだし。

なぁなぁ、早く行こうぜー。
ジッとしてるだけでも腹減ってくし、オマエなんて動きっぱなしだもんなーとアルギの背中ぺしぺし。

おっ、競争か!良いんじゃねえの?
しっかし妨害ありっつっても遠くに届くようなの無いんだよな、弾を避けつつ一気に近付くしかないか。
いいか、アタシから肉取った時のしゅぴって感じだからな!
狙うなら相手の死角な腹下か太陽が背になるような位置から。
追い抜きざまに柔らかそうな道具で叩きにかかるよ。
(アレンジ歓迎)


花咲・まい
【無貌の民】
お空の上は寒いですから、万全の体制で挑みますです。
幸いアルギさんは人馴れしてますし、後は私が実際に背中に乗って感覚を掴むだけ!

なるほど、競争ですか!
習うより慣れろと申しますですからね。
私も自分なりの戦い方を探しますです。

ゴールまで一直線、と行きたいですがそうもいきませんですね。
妨害行為は【見切り】、アルギさんの士気を下げないようおやつで【鼓舞】しながら行きます。
こちらも妨害するなら…ううむ、門を開いて呪詛を飛ばすくらい、なら?
足止めには丁度良いでしょうか。

お空の上では私よりアルギさんが先輩ですからね。
しっかりゴールまで連れて行って下さいですよ!

*アドリブ、アレンジはご自由にどうぞ


ギド・スプートニク
【無貌の民】
戦闘の邪魔にならぬ程度に防寒具を着込んで出発

まずは空を旋回などしつつ感覚を掴む
この先、戦闘をする事になるのだ
場合によっては手綱など握ってはいられぬだろう

ただ飛ぶだけもつまらぬな
折角だ、慣らしも兼ねて早駆けと行こう
彼らの能力も知っておきたい
速度、持久力、旋回性能など把握しておいて損はない

ゴールはあの先に見える一本杉でどうだろう
戦闘の感覚も掴みたい、怪我をせぬ範囲で妨害も有りとしよう

では――、スタートだ

行くぞ、ヴァルナ
鞍を蹴って合図を送り
身体を低くしヴァルナに身体を密着

妨害手段は魔弾
相手の妨害は立体的な機動や急加速などで乗り切りつつ

不明点お任せ
アレンジ歓迎
素敵な空中レースをお願いします



●五組目
 飛び上がっていった後の空中にて。防寒着をがっちりと着込み、冬毛の生えた雀のように着脹れたまいは、前進・上昇・下降・旋回と一通りの動作確認を行っているギドとヴォルナを少し離れて眺めていた。
「どうです、ギドさん?」
「――悪くない。手の感覚と声だけで思った以上に動いてくれる」
 戻って来たギドが、上出来だとヴォルナの首を柔らかく撫でた。
 村人から借り受けたアルギたちの装具に轡と手綱は付いていない。人並の知能を有する彼らは、あの村においては人と同等の扱いを受ける。よって、彼らの自由を阻害する器具は作られていないのだ。
 その代わりにアルギたちへは、二つの手段で騎乗者の意思伝達を行う。声と、首への手触りだ。
 不可思議な加護を備えた彼らは、テレパシーにも近い共感能力を有している。騎乗者が羽毛に触れ、彼らに呼びかけるだけで思うままに飛んでみせることができるのだ。
「なぁなぁ、早く行こうぜー。ジッとしてるだけでも腹減ってくしー」
 ぐるんとその場で飛び回ってみせるキアンとアルギ。ギドを待っている間、彼女たちも練習を積んでいたようだ。
「オマエなんてこれから動きっぱなしだもんなー。あ、でもまいのおやつも食えるんだっけ?」
「ふふふ、はらぺこの時はおまかせあれ! ですよ!」
 バリエーション豊かな日替わりおやつの一部を両手に取り出してみせるまい。それを見てキュッ! とキアンのアルギが反応する。心なしか目が輝いたような気がした。
「ではでは、そろそろ出発ですかね?」
「そうだな。……しかし、ただ飛んで行くだけというのもつまらぬな」
 ギドが曇天の空を見上げる。空を埋める群雲の位置は高く、目指す場所まで辿り着くにはしばらく掛かるだろう。道中の時間をアルギたちの能力把握に使っておいても損はない。
「折角だ、慣らしも兼ねて早駆けと行こう。――あの巨大樹の頂に先に着いた者が勝ち、ではどうだ?」
 村のそばに聳える天を貫くような常緑樹を示した。むろん実際に空の果てまで伸びている訳ではなく、樹高は雲海に至る道程の半ばまでといったところだ。
「戦闘の感覚も掴みたい。怪我をせぬ範囲で妨害も有りとしよう」
「おっ、面白そうだな! 良いんじゃねぇの?」
「習うより慣れろと申しますですからね。私も飛びながら自分なりの戦い方を探しますです」
 二人とも異論は無いようだった。
 程なくして早駆け競争が幕を開ける。戦いの火蓋は、ヴォルナの雲を劈くような高い声によって切られた。
「スタートだ。行くぞ、ヴォルナ」
 ギドが姿勢を低く構え、ヴォルナに身体を密着させる。風の抵抗を減らし、ヴォルナが少しでも速く飛べるように。
 その手法が功を奏したのか、開始直後の一番手に踊り出たのはギドたちだった。後続の二人の妨害を気にしてか、巨大樹の陰へ回り込むようなコース取りで先頭を疾走していく。
「むむむっ、出遅れましたね……!」
「距離を取られると弱いんだよなぁ! 遠くに届くようなの無いんだよ!」
 まいは門を展開して呪詛の渦動を飛ばすが、巨大樹が邪魔となり上手く狙いを定めることができない。キアンは声をあげた通り妨害の手段がなく、現状は追い付くことに専念したようだ。ギドと同様、アルギにべったりと張り付いて一体化。その甲斐あって二番手につく。まいはキアンを妨害することも考えたが、足の引っ張り合いはギドの独走に繋がると判断し控えたようだ。
 巨大樹を軸としてぐるぐると、螺旋の軌道を描いて高みへと翔け上げっていく三人。レースも折り返しといったところで戦局が動く。長らく障害物となっていた巨大樹の幹が、抉れたように無くなっている部分があった。雷にでも当たって枝が落ちたのかもしれない。
 そこでキアンが動いた。アルギ! とパートナーを呼ぶと急加速してギドに食い付かんと飛び出していく。背後から迫る気配に気付いたギドは、迎撃に炎の雨をまきびしのようにばら撒いた。
「大丈夫だ、弾幕は薄い! 落ち着いて飛んでりゃ避けるのは難しくない!」
 キアンが声をあげる。彼女の言う通り、魔弾の密度は嫌がらせ程度のものだった。ギドはキアンに距離を詰められぬよう飛行にも注力しているため、片手間に放つことができた魔弾はこの程度が限界だったのだろう。
「いいか! 弾幕が切れたところでしゅぴっと行く! アタシから肉取った時のしゅぴって感じだ!」
 高みを翔けるヴォルナの腹を見据えてキアンが吠える。やがてレースは終盤、巨大樹の樹冠部分に辿り着く。密集する巨大な木の葉群にギドの注意が向くと、一瞬、弾幕が途切れた。
 すかさず、キアンのアルギが加速。肉奪りの際に発揮した驚異の瞬発力を再現する。キアンは両手に巨大なおたま――ただしおもちゃのようなプラスチック製――を召喚すると、寸前に迫ったギドを払い落とすようにスイングした。
「よいっしょぉぉぉぉ!!」
「ぐっ――!」
 ガードしたものの、バランスを崩すギド。
 ヴォルナが身体を傾けて支えたために落ちはしなかったが、速度は急激に失われる。
「いよっし、逆転だ!」
 先頭に躍り出るキアンたち。振り向いて立て直しに時間を要しているギドたちを確認した。これだけ距離が開けばゴールまで追い付かれることはないだろう。あとは木の葉の迷路にだけ気を付けて飛んでいけば、ゴールは目前だ。
 しかしそこでキアンは気付いた。
 まいがいない。
 ずっと遅れて後ろの方に? いや、そんなに距離は離れていなかったはずだ。
 だとしたら、どこに――。
「隙あり、です!」
「って、おわあああ!?」
 襲来する呪詛の渦。声がしたのは後ろではなく、横からだった。
 まいは樹冠の中に入った時点でギドたちとは別のコースを辿っていたのだ。木の葉を隠れ蓑にキアンの隙を伺い、絶好のタイミングで奇襲に打って出た。
 結果、キアンもギドと同様に速度を殺され、あっという間にまいに追い抜かれてしまう。
「漁夫の利というやつです! 悪く思わないでくださいですよー!」
「うおー、悔しい!!」
「能ある鷹は何とやら……か。やるではないか、まい嬢」
 こうして二人が失速した後はまいが独走。
 第一回早駆け競争の軍配は、花坂・まいに上がったのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

クレム・クラウベル
【夜猫】
凍えないだけでこの時期の空は相応に冷えるぞ
後で寒いと喚いても知らないからな
などと言いつつ、上着は自身のともう一枚余分を拝借
必要そうなら後で投げ渡そう

飛び方はこいつらが心得ているだろう
人を乗せて飛ぶのも慣れてそうだし
その辺りは信頼して任せるのが良いさ

余程の寝相でなければ
うたた寝くらいなら支えてくれるだろうさ
二人のやり取りに喉を鳴らして
なんだ、毛繕いか?
そのくらいなら良いが
何も難しい事はしてないぞ
梳かし残しがないように隅から隅まで丁寧に、それだけだ
アルギの首のあたりをわさわさと撫でて

名付け……は、あまり得意じゃないんだよな
呼ぶ名がなくとも信頼があれば応えてくれるだろう
そうだろう? アルギ


イェルクロルト・レイン
【夜猫】
凍えないんだろ?
アルギがあったかいなら、それでいい
そのぬくさが心地良いから
寒くなったら羽毛に埋もれつつ尻尾でなんとかしのいでみる
……くしゅん

クレムと終のアルギとも相性が良さそうなら
連れ立って飛ぶのが体力的にも良さそうな
風に乗って飛ぶんだろ、鳥って
こいつらもそうなのかは知らないけど
まあ、任せる
したいように、気にせず自由に飛ぶと良い

寝るわけないだろ
呆れたような声音で突き放し
終わったらご褒美でもあるといいか
クレム、おれのもやって
何事もめんどくさがり故に、む、と唸り
下手でも怒るなよ、なんて背を撫で

名なんていらない
おまえは自由に飛ぶのが似合ってる
今日このひとときだけ心通わせて
明日には、さよならだ


静海・終
【夜猫】
なるほど、暖かい理由はそれなのですね…
素敵な加護をお持ちですが一応上着は借りて行きましょう

あぁ、はしゃぐと体力を減らしてしまいますかね
少し飛び方の練習とどのくらい動けるかを確認した後は
目的地までのんびり向かいましょう
おや、クレムのアルギはつやつやしてますね
動物のお手入れ得意なのでございましょうか、今度コツを教えてください
ルトー、寝てもいいですが落ちないでくださいませね
流石に拾いに行くのは大変でございますよ

ふむ、一時の縁とは言え命を預ける相手です
今日だけでも名前をもらっていただけます?
青嵐、など、どうでしょうか、気に入ってくれると良いのですが…
ふふ、お二人も名をつけてみてはどうです?



●六組目
 くしゅん。
 風を切り空を翔け上がる三騎のアルギたち。空気が全身を撫でる音に混じって、ふいにくしゃみが聞こえた。
 両翼の二人が真ん中を見れば、もぞもぞとアルギの羽毛に密着を始めるイェルクロルトの姿があった。毛量に恵まれた尻尾をくるんと動かして腰に巻いている。寒いのだな、とクレムは青年の状態を察した。
「だから言ったろうに。凍えないだけでこの時期の空は相応に冷えるぞ」
「凍えないんだろ? アルギがあったかいなら、それでいい」
 答えつつもずるずると姿勢を低めていく。やがて両腕と上半身の殆どがアルギの豊かな羽毛に埋まり、抱き付いたまま飛んでいるような体勢となった。騎乗には不安定な姿勢にも見えるが、イェルクロルト本人はそれで落ち着いているようだ。クレムはあまりに堪えるようなら余分に持ってきた上着を投げ渡すつもりだったが、ひとまず保留する。
「しかし、示し合わせたように並んで飛んでくれていますねぇ」
 終が現状の飛行態勢に言及する。三人とも空の旅はアルギに任せて自由に飛んでもらっていたが、気付けばきれいに横一列に並んで飛行しているのだった。三人を知り合いと察して気遣ってくれたのかもしれない。
「飛びにくかったりはしないのでしょうか。縦に並んだ方がこう、風圧などが和らいだり……」
「まあ、飛び方はこいつらが心得ているだろう。人を乗せて飛ぶのも慣れてそうだし、その辺りは信頼して任せるのが良いさ」
「なるほどなるほど。……おや、クレムのアルギはつやつやしてますね」
 目敏く終がクレムのアルギへと目を向ける。入念に手入れが行われたクレムのアルギは、他の個体と比しても一際やわらかそうに仕上がっており、もふもふの毛並みに並々ならぬこだわりを持つ終は本能的に惹き付けられていた。
「動物のお手入れが得意なのでございましょうか。今度コツを教えてください」
「……クレム、おれのもやって。終わってからご褒美があると、こいつらも喜ぶ」
 ソファーに沈むようにもっふりとアルギに張り付いていたイェルクロルトも、顔を上げて反応する。
「なんだ、毛繕いか? そのくらいなら良いが、何も難しい事はしてないぞ。梳かし残しがないように隅から隅まで丁寧に、それだけだ」
 整えられたアルギの毛並みをわさわさと撫でる。キュー、と嬉しげな鳴き声が嘴の方から漏れた。
 事もなげに言うクレムに、む、とイェルクロルトが唸る。
「……下手でも怒るなよ」
 もそもそと自身のアルギの首を撫でる。こちらはククク、と嘴の奥から音が漏れた。猫が喉を鳴らすのに似てるな、とぼんやり感想を抱く。
 イェルクロルトの身体は依然、アルギの羽毛に沈んだままだ。くつろぐようなだらりと垂れた体勢が、すでに安定した騎乗スタイルとして馴染み切っているようだった。
「ルトー? 寝てもいいですが落ちないでくださいませね」
「寝るわけないだろ」
 見ようによってはそのまま寝息が聞こえてきてもおかしくない体勢だった。終が心配したのも無理からぬことだったが、イェルクロルトは呆れたような声音で突き放してくる。
「おやおや、ならばよろしいのですが。流石にここから拾いに行くのは大変でございますからねぇ」
 眼下を覗く。すでに飛び立った村落ははるか遠い。落ちれば一転まっさかさま、アルギが急行しても果たして間に合うかどうか。本当に彼らが命綱なのだな、と終は自身のアルギを撫でた。
「そういえば、他の猟兵がたの中には名前をつけられていた方もいましたね」
「うん、アルギのことか?」
「ええ。……ふむ、一時の縁とは言え命を預ける相手です。私も何か……」
 暫し考え込む終。ふと空を見上げると、そこには天蓋となって大地を覆う群雲がある。その先に広がる青い大気を想像すると、終はふたたび口を開いた。
「青嵐、などはどうでしょうか。今日だけの名前、気に入ってくれると良いのですが……」
 声を掛けながらアルギの様子を伺うと、キュイッ! と元気の良い返事が返ってきた。名前に込めた意味まで解したかは定かではないが、少なくともセイラン、という音の響きは好ましいものであったらしい。
「ふふ、ありがとうございます。お二人も名前をつけてみてはどうです?」
「名付けか……。あまり得意じゃないんだよな」
 クレムが自身のアルギの首をぽんぽんと叩く。
「呼ぶ名がなくとも、信頼があれば応えてくれるさ。そうだろう? アルギ」
 キュー! と同調と思しき鳴き声が返ってきた。
 一方で、イェルクロルトはアルギに抱き付いて黙したまま、反応を返さない。
(名なんていらない)
 彼らは天空の覇者。
 誰にも縛られることなく、思うままに生き、自由に空を翔ける。
 人が付ける名前など、余計な重荷だろう。
(おまえは自由に飛ぶのが似合ってる。今日このひとときだけ、心通わせて――)
 やわらかな羽毛をイェルクロルトの白い指が撫でる。
(明日には、さよならだ)
 天空への道程は半ば過ぎ。雲を越えるにはまだ遠い。
 今はしばらくこの温もりに浸っていようと、イェルクロルトは赤毛の髪をアルギの羽毛へと沈めた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

荒谷・つかさ
【FH】
なるほど、精霊の加護ね。
どうりで感覚が馴染む訳だわ。
(※つかさも五行の精霊の加護持ち)

「よろしく頼むわね、ラン(アルギにつけた仮の名)。頼らせてもらうわ」

アメリアの提案に乗り編隊を組む。
私は先頭、アメリアのフォローを受けつつ前衛を務める配置。

個別では、戦闘前の緊張を解すのにランとちょっとお話をするわ。
内容は、以前皆でワイバーンを狩った時のお話。
まあざっくりとだけれど、役割分担をしっかりして、きちんと連携して挑めば、強敵だって問題なく狩れる、っていう内容。
「そう、だから恐れる事は何も無いわ。貴方達と、私たちの力を合わせれば。必ず勝てるから」
そう話しながら、優しく撫でてあげるわね。


ヘスティア・イクテュス
【FH】
なるほど、聖霊様の…それでこんなに温かいのね

ええっと、じゃあ一時的にだけど貴方の名前はアエロで!
アエロよろしくね。


アメリアの提案に賛成。
登る時間を折角だから連携の練習に当てましょう

わたしは右後方、澪が左前方に見える最右後の位置
澪と組んでアメリアとつかさを援護する役割

ついでに澪の練習に付き合うわ
澪とノアの攻撃時に援護射撃。
そしてノアが回収して編隊に戻るまでの隙を無くすようもう一射

射撃に必要なのは安定性。特に空という足場のない不安定な場所ではね
今の一射で反動を覚えたかしら?
アエロの飛行、信頼しているわ(頭を撫でながら)


アメリア・イアハッター
【FH】

へぇ、精霊様の
わぁ本当だあったかい!
ふふ、改めてよろしくね

しっかりと厚着して鞍をつけ
さぁ、雲の向こうへと出発だ!

1人じゃなくて4人…ううん、4人と4匹で飛ぶのも楽しいね!
そうだ、この子達賢いし、折角だからこの登っている間に連携を深めるっていうのはどう?
その方法とは…ズバリ、フォーメーションよ!

飛行機の編隊飛行を模した陣形の練習を行いながら進む
陣形はフィンガー・フォー
戦闘になれば先頭と左、右と右後方がそれぞれペアを組む形
自分は左
先頭のつーちゃんをフォローする立ち位置で

やっぱりこの子達は賢いね
すぐ覚えちゃった!
いい子いい子、可愛いなぁ
さぁこの調子、4組全員で有翼獣退治と行きましょう!


栗花落・澪
【FH】
ふわぁぬくぬくだぁ…♪
なんか降りたくなくなりそう

一緒に頑張ろうね、ノア(皆アルギ呼びだと紛らわしいので一時的に付けた名前)

アメリアさんの反対、右位置のフォーメーションで飛行
移動が必要な際はノアの体を軽く叩いて方向指示

もしもの時のために、別行動と回収の練習も少しだけ
向こうに敵がいると仮定して
僕が一時的に飛び降り翼で正面に回るから
ノアは横から攻撃して気を引いて!
僕が魔法を打ったらノアは僕を回収して編隊に戻る!
うん、すごいや完璧♪
コレで何があっても対処出来そうだね

本番は即興作戦も大事になるかもだけど
信頼してるよ
背中から想いを伝えるようにそっとノアに寄り添い
それからブラッシングしてあげるね



●七組目
「よろしく頼むわね、ラン。頼らせてもらうわ」
「あれ? つかさ、アルギに名前つけたの?」
 四騎のアルギが地上を出発して間もない頃。自身のアルギを名前で呼ぶつかさにヘスティアが問い掛けた。
「ええ。みんな同じ『アルギ』だと紛らわしいでしょうから」
「僕の子は『ノア』だよ! 一緒に頑張ろうねー」
 やわらかな首の羽毛を撫でる澪。ふむ、とヘスティアは自身のアルギの後頭部を見て考え込む。
「ええっと……じゃあ一時的にだけど、貴方の名前は『アエロ』で! よろしくね、アエロ」
 キュ! と元気な返事が返ってきた。
 四騎のアルギはひとかたまりとなって空を翔け上がる。飛行ルートは村のそばに天高く聳える巨大樹とは逆方向、森の上空へと差し掛かっていた。寒いこの時季でも眼下に生える常緑樹たちは青々しく木の葉をつけている。風がざあっと吹けば、ざわざわとした葉擦れの音が辺り一帯から聞こえてきた。
「うーん、風が気持ちいいねー!」
 赤茶色の豊かな髪をなびかせて、アメリアが楽しげに仲間たちへ笑いかける。騎乗するアルギも上機嫌なようで、キュイーと歌うような声が嘴の奥から発せられた。
「風もすごいけど、この子たちの力もすごいわね……隣にいると風がぶわっと……」
 ヘスティアは水色の髪をかき上げて耳へと引っ掛ける。彼らの羽搏きで発せられる風圧で髪が乱れてしまうのだ。同様に髪の長いつかさと澪も同様で、タイミングを見ては手櫛で風になびく髪を整えている。アメリアはといえば、風で髪を乱されることも含めてアルギとの空の旅を楽しんでいるようだった。
「一人じゃなくて四人……ううん、四人と四匹で飛ぶのも楽しいね! ……あっ、そうだ!」
 閃いた、というように人差し指を立てるアメリア。
「この子たち賢いし、折角だからこの上っている間に連携を深めるっていうのはどう?」 
「構わないけれど、でも何するの?」
「ふっふっふ……その方法とは、ズバリ! フォーメーションよ!」
「ふぉーめーしょん?」
 澪がこてんと首を傾げた。

 アメリアが言うにはこうだ。アルギたちを飛行機に見立て、編隊飛行を模した陣形の練習を行いながら目的地へと進む。
 陣形はフィンガー・フォー。名前通り、四騎がそれぞれ親指を除いた四本指の位置で飛行する隊形だ。
 今回の面子では右手を例として、
 人差し指がアメリア。
 中指がつかさ。
 薬指が澪。
 小指がヘスティア、という隊形になる。
 この四騎は戦闘になった際は半分の二騎、つまり分隊に分かれることもできる。
 その場合は隣り合った者同士がペアとなる。上記の場合だとアメリアとつかさがペアA、澪とヘスティアがペアBだ。 
 ――以上、説明終わり。

「今のうちに練習しておけば、戦闘になった時もすっごく役に立つと思うんだよね!」
「いいじゃない。折角時間もあることだし、連携の練習に充てましょう」
 ヘスティアが頷く。さっそくフォーメーションの練習に移ることになった。
 まずはそれぞれアルギへ説明しながら所定の位置に移動しようとする。身振り手振りを交えながら伝えることで、アルギたちもアメリアたちがやろうとしていることを理解したようだ。徐々に上へと昇りながら場所を微調整し、やがてあらかじめ決めたフィンガー・フォーの隊形が完成する。
「わ、すごい! もうできちゃった!」
「じゃあ、実際に戦闘になった時の練習もやってみる?」
「そうだね! ペアに分かれて行動! 私はつーちゃんをフォローするから、前衛をお願い!」
「ん、わかった」
「わたしたちは……澪、どうする?」
「えっと、やってみたいことがあるんだけど、いいかな?」
 相談する澪とヘスティア。
 準備が整うと、架空の敵が前方にいるという想定で練習を行うことになった。アメリアの号令で編隊の各騎が加速する。
「つーちゃん、ゴー! そして散開!」
『了解!』
 三人の声が重なる。ペアAの二人がつかさを先頭として左へ、ペアBの二人が右へと進路をとる。斬り込み隊長のつかさが一撃を入れつつ、反撃を入れようとする敵への牽制をアメリアが行う。ペアBは魔法と銃撃で援護。もちろん本当に敵はいないため、それぞれ攻撃する“真似”を行うのみだ。
 ここまでは順調。そして、澪が“やってみたかったこと”を実行に移す。
「ノア! 打ち合わせ通りお願いね!」
 澪がオラトリオの翼を大きく広げ、ノアの背中から飛び立っていった。想定敵の正面に回り込んだタイミングで、ノアが大きな鉤爪を想定敵に向けて攻撃する――振りをしてくれる。騎乗者の意図を的確に汲んでくれたようだ。
 これで想定敵はノアへと注意が向いた。澪が魔法を撃ち込んで決定打を入れつつ、ノアへと戻る。その間はヘスティアが銃撃によってサポートしてくれる算段だ。澪に向かう可能性のある敵の攻撃を、的確な射撃で牽制していく。他の三人は攻撃する“振り”に留めていたが、ヘスティアは実際に発砲してみせた。騎乗するアエロに銃の反動を覚えさせるためだ。
 澪の回収完了。ヘスティアとも合流し、別行動を取っていたペアAのもとへと帰還する。
 そして編隊四人全員が揃ったところで、一連の流れは終了だ。委細特に問題なし、滞りなく終わったと言っていいだろう。
「完璧! みんなもすごいけど、やっぱりこの子たちは賢いね! すぐ覚えちゃった!」
「うん、すごいや。コレで何があっても対処出来そうだね」
 いい子いい子、可愛いなぁと自身のアルギをひたすらに撫でるアメリア。澪は本番は即興作戦になるかもだけど、と注意を添えつつもぴったりと寄り添ってみせる。
「信頼してるよ。終わったらブラッシングしてあげるからね」
 一方でヘスティアは、実践演習の振り返りをアエロとともに行っていた。
「射撃に必要なのは安定性。特に空という足場のない不安定な場所ではね。どう? さっきの一射で反動を覚えたかしら」
 ピュイ! と元気な返事。練習中、ヘスティア自身は問題になるほど大きなブレは感じなかった。冷静で安定性に優れたアエロのことだ。練習を経て、実践ではさらに洗練された動作で仕事をこなしてくれるだろう。
「わたしも信頼してるわよ、アエロ」
 ヘスティアは微笑みをたたえながら、アエロの頭をやさしく撫でてみせた。
「さぁこの調子! 四組全員で有翼獣退治といきましょう!」
 アメリアが仕切ると、ふたたび目的地に向かっての飛翔が再開される。

 その道中。フォーメーションでの飛行隊形を維持しながら、つかさがランに過去の経験について語り掛けていた。
 内容は、仲間たちと力を合わせてワイバーンを狩った時のこと。
 役割分担をしっかりとこなし、きちんと連携して挑むことで、猟兵ひとりの力を遥かに上回る強敵を順当に倒すことができた。
「そう、だから恐れる事は何も無いわ。貴方達と、私たちの力を合わせれば。必ず勝てるから」
 優しく首の羽毛を撫でるつかさ。
「私も信頼してる。頑張りましょうね、ラン」
 キュイッ! と力強い返事が、つかさの耳に届いた。 

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​




第3章 ボス戦 『氷雪の鷲獅子』

POW   :    極寒の風
【両翼】から【自身を中心に凍てつかせる風】を放ち、【耐性や対策のないものは氷結】により対象の動きを一時的に封じる。
SPD   :    爪による連撃
【飛翔してからの爪による攻撃】が命中した対象を切断する。
WIZ   :    凍てつく息吹
【氷の息吹】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を凍らせ】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は宇冠・由です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●氷天の覇者
 靄がかった視界が晴れる。雲海を抜ける。
 アルギとともに雲を突き抜ければ、そこに広がるのは晴れやかな青空だ。
 地上から見た灰色の曇天とは比べるべくもない、ひたすらに爽快な青。
 眼下には雲海。空の果てまで埋め尽くすような、綿雲の海。
 それ以外には何も無く、どこまでも続くような青と白の終わりに、それらを二分する天上の地平線が引かれていた。
 
 ここが決戦の地。
 村のそばまで迫っていたという有翼獣は、この雲海のどこかに潜んでいるという。
 果たしてどこにいるのか。猟兵たちが辺りを眺め、雲以外に動くものがないかと気配を探ろうとした時だった。

 雲が弾けた、ように見えた。
 綿雲が爆ぜた場所から出でたものは、大きな翼を羽搏かせて青い空に飛び出すと、嘴を上に向けて大きく咆哮する。
 まるで天上すべてに轟かせるように。その声は鳥のようにも、獅子のようにも思えた。

 ――猟兵たちの脳裏に、地上での村人たちの話が蘇る。

「アルギたちを喰らう翼を持った化け物、ねぇ……」

「……そんなの、あいつぐらいしか居ない気がするけどな。いやでも、あいつがここまで来るはずが……」

「いやなに、絶対に違うとは思うんだけどよ」

 その獣は鷲獅子とも呼ばれる。鷲の上半身と、獅子の下半身を持つ。
 何もかも凍り付くような寒い場所でしか生きられない代わりに、満足に動ける場所では無類の強さを誇るという。
 強大にして凶悪。前足の爪は鋼をも抉り、身に纏う氷の風は炎さえも凍らせる。
 かの魔獣にとっては、生きとし生けるものすべてが等しく“餌”に過ぎず。
 ――たとえ“天空の覇者”であっても、それは例外ではない。

 自由に空を翔けて生きるアルギたちの唯一の天敵とされる生物。
 それはアルギたちと同様に、この地に伝わる古い言葉を以ってこう呼ばれていた。

 “氷天の覇者”――『ディーゲン・バルアルギ』。

「ギャアァァァァァァァァァァァァァッッッッ!!!!!!」

 青い空を背にバルアルギが吠える。
 その体躯はアルギを超えてさらに大きい。巨大と言ってもいい。
 目視では正確な大きさは測りかねるが、おそらく全長は50メートルを下っていないだろう。魔法の素養がある者なら一目で分かるほどの氷の魔力を周囲に充満させている。
 ぎろりと鋭い眼光を向け、強烈な威圧感を猟兵たちに叩きつけてきた。

 雲上の決戦が始まる。
 ここでバルアルギに敗れれば、村もアルギたちもこの獣によって滅ぼされてしまうだろう。
 そうさせないためには、全力で倒すしかない。
 ――アルギたちと力を合わせて!
キララ・キララ
来た! さっきの氷、こいつのなんだわ!
あんなのぶつかってたら……想像するとこわい。
でもね、怖くて寒いのに、あったかくて勇気が出てくるの。
防寒具のおかげだけじゃないのよ。頼れる相棒がここにいるから!

厚い雲には厚い雲!【シルバーレイン】! 狙うのはバルアルギの眼です!

きららの攻撃ではきっと大きなダメージは与えられない。地道に削って、いやがられることをして……、
【空中戦】はね、ちょっとだけわかります。デコイ?回避盾?だっけ。

この子は“風みたいな”きららよりずっとずっと速いの。他のひと、他のアルギたちが戦いやすくなるよう、囮になりながらでも自由に、速く飛べるはず!

最後の最後、一緒に勝ちにいきましょう!


ヴィルジール・エグマリヌ
あれがバルアルギ、か
鷲のボディに獅子の脚
とても強そうだけれど
アルギも村の人達も守ってみせるよ

さあ、アルギ
君の力を貸しておくれ
私と君ならきっと大丈夫だ

信頼関係を築けた自信はあるから
動きはアルギに委ねよう
足りない私の技巧は操縦の知識でカバーを

戦闘時は宇宙で培った空中戦の心得を活かし
仲間がいれば連携を
敵の動きをM57越しに観察し
戦闘知識も用いて弱点を解析したいな

使用するのは眠れぬ夜の揺籃歌
見切られぬようバラバラな軌道で仕掛け
接近が叶った時は損傷部を剣で一撃
傷口を抉ってしまおう

爪の一撃は剣で武器受けしてガード
自身は兎も角、アルギの方は絶対に守りたい
一時の事とはいえこの子は
私の大事なパートナーだからね


雛菊・璃奈
回避はアルギちゃんに委ね、自身は攻撃と敵の攻撃の迎撃に専念…。

【フォックスファイア】を展開…。
【呪詛】を織り込んで強力な呪炎へと強化し、27の内、22を攻撃に使用…。敵の動きを【視力、第六感、見切り】で捕捉し、呪炎を敵を追い込む様に放つ…。
残り5は敵の攻撃の迎撃や防御、冷気を受けた際に咄嗟に溶かしたり温まったり等の用途で周囲に展開させておく…。

また、黒桜を使って呪力解放から【呪詛、衝撃波】を放っての攻撃やアルギちゃんとの連携で高高度からバルムンクで頭部に唐竹割りを撃ち込み、振り落とされたらアルギちゃんに拾って貰う等も狙う…。

「行こう…アルギちゃん、わたし達でアレを止めよう!」

※アドリブ等歓迎


七篠・コガネ
ここらでヨツバから降りて自分で飛びます
【空中戦】なら僕だって大得意ですから(内蔵武器を瞬時装着させて身構えつつ)
…ねぇ、ヨツバ…僕は昔…敵と味方の区別が出来なくなった事があったんだ…
それでも…一緒に戦ってくれる?

寒さは分からずとも、ダメージがない訳ではありません
極寒の風には『code-Nobody』からの【一斉発射】で【吹き飛ばし】ます
幾千度のプラズマ放熱で極力対抗しましょう!
ヨツバ!危険だけど奴の注意を引き付けておいて欲しいんだ
僕は背後から迫ってバルアルギの目に【ホークスビーク】を撃ち込みますから!

…ねぇ、ヨツバ…見ての通り人間じゃないんだ、僕
それでも…友達でいてくれる…?


アドリブ、絡み歓迎


赫・絲
かいちゃん(f00067)と

うん、見えてるよかいちゃん
ほんとおっきいねー
普段と変わらない口調ながらも、目線は鋭く

援護を、の声が届く頃には既にそのために動き出し
アルギ、かいちゃんを援護するよ
バルアルギの真下の方へ飛んで
正面からじゃ、さすがに捕えきれないからねー

かいちゃんが接近しやすくするために
下方からバルアルギの翼を狙って鋼糸を全て射出
命中せずとも構わない、もし捕えられたのならそれは嵐の道標

かいちゃんが突撃する直前、バルアルギが纏う氷の風を打ち払えるように
暴走しないよう鋼糸を目印に
全力を注ぎ込んだ焔の嵐を、バルアルギ目掛けて撃ち出す

焔すら凍て果てると言うのなら、それ以上で燃やし尽くすだけ


壥・灰色
絲(f00433)と
今までとは一転
真剣な語調

視えるか、絲
デカい

でも、呼吸をしている
羽ばたいている
実体があり、あそこに存在する
生きている

なら、殺せる

突っ込む
援護を任せた

アルギの背中に触れ撫でる
おれを乗せてやつの傍まで飛んでくれ
恐ろしいかもしれない、あいつは君だって喰らってしまうくらいに大きいから

けどおれを信じて、どうか飛んで
おれが、必ず護ってやる

絲の援護を受けながら後方へ拳から『衝撃』を放ち
アルギの加速をロケットの如く助け

交錯の間際、アルギの背から飛び
矢の如くグリフォンへと迫る

壊鍵、過剰装填
――くたばれ、鷲頭

真正面から最大の衝撃を装填した右腕で、敵の頭を打ち抜く

着地のことは考えない
アルギに任せる


田抜・ユウナ
図体がデカいほど、モーションが大きくなるのが道理!
《視力》で攻撃の初動を《見切り》、アルギに合図。余裕をもって爪による連撃を回避しながら上空へ。

敵の頭上を取ったら、
敵の挙動とか、仲間の邪魔にならないタイミングとか気にしつつ、《覚悟》を決めて空中へダイブ。
《早業》で【レプリカクラフト】
造るのはウォーハンマー
上限の21㎥いっぱい使って、ダンプトラックみたいな鉄鎚を作成。
「チェッッストォォォォオオオオオオオオ!!!」
と《捨て身の一撃》を打ち下ろす。
造りは荒いけど、一撃入れるくらいはできるでしょう。

自力の飛行能力はないので、攻撃後は為すすべなく落下
アルギが助けてくれたら「ナイスキャッチ」と感謝。


クレム・クラウベル
【夜猫】
お前一人でも飛べるのなら好きにすれば良いが
今日のところは我慢しておけ、ルト
信頼してアルギの力を借りると良い

近づくも離れるも基本はアルギに任せる
手動するよりは合わせる方が得手
アルギの動きに合わせて遠距離・近距離使い分ける
氷風には祈りの火を翳し
ルトの炎へ重ね火力の足しに
2人分は流石にそう容易く凍らせれまい

アルギが接近してる時はナイフで直接狙い
翼なり腹なりに一撃を加えよう
何度も言うが俺はアレの保護者でもなければ
躾けてどうにかなるなら、ああはなってない
下に終が回ってくれてるなら念の為は足りそうか
ならば無茶が通るよう場を整えるまで
空戦と言えど牽制は効くだろう
軌道邪魔する様に先読みして銃撃を


静海・終
【夜猫】
恐れる事などありませんよね
我々がいる…そして何より貴方達は天空の覇者
さあ、共に悲劇を殺して、壊しましょう

ふむ、攻撃を当てるのも避けるのも大変でございますねえ
青嵐に回り込むよう指示し飛べる範囲を狭めましょう
多少動きの制限にはなるでしょう
槍を携え騎乗するのはなかなかにらしいものですね
狙うのは翼、落として天空から追放しましょう
ルトが何か無茶をしそうであればフォローを
己のアルギから離れるようなことがあれば下にまわりこむなりで
万が一がないように備え
クレム、あれはもう少し無茶をしないようにできないんですか
文句をとばしながらもフォローを忘れずに


イェルクロルト・レイン
【夜猫】
自由に駆け回れないってのは面倒だな
常ならば、がむしゃらでも通用するものではあるが
二人を見やり、不愉快そうに鼻を鳴らして
協力、だなんてガラじゃあないがやるしかないか

炎をも凍らすという冷気、おれにも見せてくれよ
白き炎の熱量をあげる度、破裂しそうな程に高鳴る鼓動が生きている証
この炎は、そのものだ
あんたの生き様とおれのもの、どっちが勝るんだろうな

飛び移ったら振り落とされるだろうか
なあ、アルギ おれはあんたを信用していいんだな
できるなら、降り立ち一太刀首を狩り
できぬというなら、おまえの心に従おう
何があっても後はやってくれるだろ

何ものも恐れるな
アルギ、あんたの自由を守るんだろ


ヴォルフガング・ディーツェ
【SPD>POW】
漸くメインディッシュとご対面だね。生憎とソースは用意していないんだ、君の血潮で充分だろう?

また力を借りさせて貰う、風の君…!
【ハッキング】と持参品のトートで周囲気温を物理法則と魔力面の両面から操作し、相手の冷気に対抗
勿論、お借りした防寒具も着込んでいくよ

持参品のヘルメスや【戦闘知識】で相手の攻撃範囲や動作、弱点分析

鞭をしならせ弱点【属性攻撃】を載せた【2回攻撃】でヒットアンドウェイを繰り返し、隙を見出だしたら相手に一瞬【騎乗】し【緋の業】


攻撃し終えたら君の背に移ろう
無茶してごめんよ。でも、君が自由に飛ぶ姿をずっと見ていたいから
もう会えなくても、君は大事な友達だから守りたいんだ


ヌル・リリファ
【POW】

シールド、展開。
【盾受け】もつかってこっちにくる冷気をふせぐよ。アイごとまもれるくらいのおおきさにもできるから。
ひとりなら、もしいればあぶないひとを【かばう】こともできるとおもう。

それで、冷気がやんだら【カウンター】。
フルバースト・マキシマムで攻撃をするよ。さむいところでしかいきられないらしいし【属性攻撃】は炎かな。

顕現させた武装がおもくて負担だったら一時的にとびあがってねらう。アイは絶対うけとめてくれるから。

アルギさんをたべるくらいならおおきいでしょ?そんな相手なら多少足場がわるくてもはずさないよ。

絶対に、わたしの友達をころさせたりはしないから。

アレンジ、連携等歓迎です。


葦野・詞波
ずいぶんと大きなものだ。

シロ、良いな。練習の成果を見せる時だ。
奴に怯んだらその時点で負けだ。
天空の覇者の名に相応しい動きを見せてくれ。

シロを奴の背後に回り込ませて
その背に向けて【揺光】で槍を投じ
そのまま騎兵のようにチャージした後、離脱
一撃を見舞って離脱を繰り返す

風の流れはアルギに見極めさせるとしよう
迂闊にバルアルギの翼からの風に巻き込まれないよう
動いた方が良さそうか。特に正面は危険だろう。

隙があればバルアルギの瞳に目掛けて槍の一投
バルアルギが弱ってきたなら
羽毛の薄い所を探し、隙を窺って飛び掛り
一撃見舞ったら離脱
最後はシロを信じるしかないな。



●始まりの冬風
「視えるか、絲。デカい」
「うん、見えてるよかいちゃん。ほんとおっきいねー」
 吠えり猛った後、蒼天に座して眼下の猟兵たちを睨めつけているバルアルギを捉えて、灰色と絲が言葉を交わす。
 灰色の声に道中までの緩みは無い。油断なく容赦なく敵を叩き潰す戦士の眼光となって、標的を視線で射抜いている。絲の口調はおおよそ自然体だったが、細まった目の鋭さは灰色のそれとよく似ていた。
「でも、呼吸をしている。羽搏いている」
 距離はあるが、アルギたちをも圧倒する巨体の羽搏きによる音と風圧は二人にも届いていた。灰色の襟首から伸びた長い髪が後ろに流れ波立つ。
「実体があり、あそこに存在する。――生きている」
 眼前にある、当然の事実の確認。
 で、あるならば。
「なら、殺せる」
 生きている以上は、殺せる。
 ならば、何の問題も無いと。
 小さき霊長類たちに誇り見せつけてくるような威容をまったく意に介さず。
 単純な事実確認と計算を終えて、壥・灰色は決戦に臨む心構えを完成させた。
「漸くメインディッシュとご対面だね。生憎とソースは用意していないんだ。――君の血潮で充分だろう?」
 別位置から不適な笑みを浮かべてバルアルギの視線に向き合うヴォルフガング。長い前髪の隙間から見える眼光には、獲物を捕捉した狼の獣性が滲んでいた。
「さっきの氷、こいつのなんだわ……!」
 鷲獅子の纏う濃厚な氷の魔力、その象徴とも言える周囲に浮かぶ尖った氷塊を見て、キララが身体を震わせた。まず間違いなく、道中に降ってきた“氷のようなもの”はこの獣の仕業だろう。ひとつ落ちてきただけでも致命に至る脅威だったというのに、これから戦うとしたら一体いくつの氷塊が自分たちを襲うのか――そう考えると身も心も凍える思いだったが、不思議とキララの思考は恐怖に支配されていない。むしろ、胸の奥からあたたかく湧き出て来る勇気が、キララの戦意を奮い立たせていた。
 入念な防寒対策ゆえ――それだけではない。
 キュイイイイッ!! と威嚇するようにアルギが鳴く。
 キララには、頼れる相棒がついている。二人で一緒に戦えば、恐れるものなど何もないのだ!
「――!!」
 猟兵たちが身を固くする。バルアルギの両翼から発せられ、周囲をつむじ風のように舞っている氷の魔力が、徐々に広がり大きくなりつつある。襲撃の予感に回避体勢を整える猟兵たちの中で、ヴィルジールとヴォルフガングが訝しげな目付きで鷲獅子の動きを観察していた。
 そしてほぼ同時に、その表情が驚愕のものへと変わる。
「これは……ちょっと、広すぎというか……」
「いきなり全力か……!!」
 ヴィルジールのモノクル型電脳ゴーグル『M57』、およびヴォルフガングの魔道モノクル『ヘルメスの片眼鏡』が、それぞれ独自の演算ロジックでバルアルギの予想攻撃範囲を算出する。
 レンズに映し出された解析結果は、ともに超広大! 回避行動を取るだけでは間に合いそうにない……!
「冷気による広範囲攻撃が来る、遠ざかるだけでは避けられない! 防御手段のあるものは殿で盾を! 他のみんなは全力で後方へ!」
 ヴィルジールが声を張り上げて叫んだ。即断した猟兵たちがアルギと共に距離を取る中、最後尾にて鷲獅子を見据えながら遠ざかる者たちがいた。コガネ、ヌル、ヴォルフガング、クレムである。
 バルアルギの周囲に充満する氷の魔力は、視認できるほどに高密度な球形となっている。球の中ではごうごうと氷風が吹き荒れているのが見てとれ、それは徐々に風速を落としているのが猟兵たちからも確認できた。ゆっくりと、ゆっくりと。風が止まっていくのだ。
 やがて風が完全に停止すると、バルアルギが嘴を天上に向けて咆哮し――
 球が弾けた。 
 それは冷気の爆弾だった。この世すべての吹雪を集めて弾けさせたような、容赦のない氷の嵐。当然それは、逃げ行く猟兵たちに襲来する。
 風の中で舞い荒れる雹は、鷲獅子の敵を刺し貫く弾丸と化している。
 あれを受けてしまえば、甚大なダメージは避けられない……!

 ――しかし、無策で攻撃に晒される猟兵たちではない。

「させませんよ……!」
 相棒であるアルギ、ヨツバの背からコガネは離れていた。プラズマジェットで飛行しながら猟兵たちの最後尾へと構えている。その背中にはアームドフォート『code-Nobody』が翼状に展開されており、すでに氷風を迎え撃つための強力な熱エネルギーが充填されていた。
「改竄開始――さて、どこまで誤魔化せるかな……!」
 ヴォルフガングは魔帯『トートの叡帯』によって一帯の物理法則を改竄している。あの圧倒的な魔力を前にどこまで処理が追い付くかは分からないが、威力の軽減には繋がるはずだ。
「――祈りよ灯れ、祈りよ照らせ。灯火よ消えるなかれ。陽の射さぬ朝も、月無き夜も迷わぬように」
 神聖魔法の祈祷文を読み上げるクレム。最後尾にいるコガネの前面に、白い浄化の炎が壁の形を成しつつあった。
「シールド、展開……!」
 ヌルは自分とコガネのそれぞれ前に、腕輪型デバイス『アイギス』による円形のシールドを展開している。
 猟兵四人からなる四重の盾。
 それは後方へ逃れる仲間たちを迫り来る嵐から守る、急拵えの――しかし、最適最良の方法で用意された防御壁だった。

 嵐が猟兵たちに到達する。
 その直前にコガネの鋼の翼から、幾千度にも及ぶプラズマ熱が一斉放射された。

「――はー! ちょっとダメかと思ったよ! ヨツバ、大丈夫!?」 
 仲間たちに連れられ飛んでいたヨツバと合流し、無事を確かめ合うコガネ。
 嵐を乗り切った後、後方へ逃れていた仲間たちのもとへと四人が急ぎ合流する。コガネ以外の三人は、プラズマ熱による冷気の相殺と、ヴォルフガングの法則改竄が功を奏したか、冷気の影響は一切と言って無かった。最後尾で迎え撃っていたコガネの装甲には冷気によって霜が貼り付いていたが、ヌルとクレムの献身によって内部機関への影響は微々たるもので済んでいた。
 他の猟兵やアルギたちも四人の防御壁が冷気を塞き止めたため、ダメージは負っていない。
 しかし、安堵するにはまだ早い。
「――おやおや……不思議と向かってきませんねぇ」
「炎をも凍らす冷気、って話だったからな。まだ生きてるから驚いてるんじゃないか」
「そう容易く死んでたまるものか」
 上空に座して動かない鷲獅子を見ていた終とイェルクロルトの会話に、クレムがやや苦い顔で混じる。
 まだ先制攻撃を凌いだのみ。戦いは始まったばかりなのだ。
 真の攻防は、ここから始まる。
「――来るぞ!」
「速い、ね」
 遠く離れたバルアルギからバン、と強烈に空気を叩く音が聞こえてきた。両翼を羽搏かせ、こちらに迫って来ている。回避行動に備え、詞波と璃奈がそれぞれ手に持つ槍を構え直した。
「近距離で確実に仕留めに来る腹でしょうね。――さて、私達も行きましょうか」
 ユウナの言葉に合わせて、まとまっていた猟兵たちがバルアルギを迎え撃つため散開し、それぞれ行動を開始した。

●空中戦
 バルアルギの冷気を纏った突貫を回避した猟兵たち。しかし僅かに掠めた氷の突風は、生身の身体を持つ猟兵たちの肌を刺すような痛みで苛んだ。
 上空から一直線に突っ込んできたバルアルギは、その勢いのまま猟兵たちがいた雲海の下へと潜っていく。 
「――しかし、自由に駆け回れないってのは面倒だな」
 バルアルギが潜り、雲が大きく動いた跡を眺めてそう漏らすイェルクロルト。
 常の戦いであれば、己の足で地を踏みしめて立ち向かい、がむしゃらに挑むこともできる。
 だが、今の自身の足はアルギの翼だ。先ほどのような場面でも思うまま敵へと迫れないことに、イェルクロルトは不便を感じていた。
「お前一人でも飛べるのなら好きにすれば良いが。今日のところは我慢しておけ、ルト」
 クレムが忠言を向ける。己の身ひとつであれば無理をするのも自由だが、今日の戦いではそうもいかない。
「信頼してアルギの力を借りると良い」
「クレムの言う通りですよ、ルト。アルギにまで負担をかけてはなりません」
 終も同調して続く。イェルクロルトは二人が口うるさいとばかりに不愉快そうに鼻を鳴らすと、自身が騎乗するアルギの後頭部へと目を向ける。
「……協力、だなんてガラじゃあないが……やるしかないか」
 隈の残る目から不満が和らいだところで、バルアルギが雲海から浮上する。
「――!」
 今度は速度を抑えて、ゆっくりと現れた。ぎろぎろと視線を動かし、周囲で旋回するように飛んでいる猟兵たちを睨め付けている。
「ギャアァァァッッッ!!」
 轟く威嚇の声。遭遇時より抑えられているものの、それでもとんでもない声量だ。思わず耳を抑える猟兵もいた。
 やはり、巨大だ。間近で見るとその威容の凄まじさをはっきりと認識できる。ある程度の距離があるにも関わらず、視界にすべて収まらない体躯の大きさ。羽搏く翼の音と風圧、そして魔獣特有の殺気――すべてが規格外だ。
 しかし。
「恐れる事などありません。我々がいる……そして何より、貴方達は天空の覇者」
 まったく臆した風もなく、凛とした面持ちで終は青嵐の背を撫でて『涙』と銘打たれたドラゴンランスを構える。
「さあ――共に悲劇を殺して、壊しましょう」
 その言葉に応えるように、青嵐が高く声を響かせる。
 他の猟兵たちが騎乗するアルギも、鬨の声をあげるように呼応した。

「行くよ、アルギちゃん……!」
 荒れ狂う氷風を寸でのところで躱しつつ、鷲獅子へと迫る璃奈とアルギ。周囲に展開された呪炎・フォックスファイアによって、冷気が与える肉体への影響を低減している。
 やがて距離が縮まってくると、薙刀状の呪槍『黒桜』に展開した呪炎の大部分を纏わせた。呪詛を送り込んで炎を禍々しく膨らませると、穂先に集めた呪炎の球をバルアルギへと向けて撃ち放った。しかし鷲獅子は迫り来る火球を鋭い眼光で捉えると、羽搏きをより一層強めて氷風を吹き荒れさせる。結果、火球は着弾する前に氷風に呑まれて消滅した。
「……ちょっとでも距離があると、風が邪魔……もっと近くから……?」
 バルアルギの背後側へ通り過ぎながら璃奈がそう零す。
 中・遠距離からの攻撃は氷風にて相殺される。ならば、と近距離戦に打って出た終に、ヴィルジールとクレムが続いた。
「さあ、アルギ。君の力を貸しておくれ。私と君なら、きっと大丈夫だ」
 ヴィルジールは『眠れぬ夜の揺籃歌』にてアンティーク鋸を展開して処刑剣を抜刀。クレムも銀の短剣を抜く。終は馬上兵さながらに槍を水平に構え、バルアルギの背後へと回り込んでいく。
 先行した終と青嵐が突風を抜け鷲獅子へと迫る。『涙』の矛先が向くのはバルアルギの片翼だ。いかに巨大とて翼を羽搏かせることで空を飛ぶ生き物には違いない。そのひとつでも無くせば、天空から落ちて行くのは必然……!
 しかしひとつの誤算。バルアルギの周囲を吹き荒ぶ氷風は、その巨大な両翼から発せられている。
 つまり、攻撃のために近付けば近付くほど――
「ぐ――!」
 より高密度となった魔力が、加護を持つ青嵐の身体をも蝕んでいる。終は翼に最接近する前に急制動をかけると、影響が深刻化する前に進行方向を切り替えて、急速に離脱していく。先行する終たちの危機を悟ったクレムとヴィルジールも、そ
の後を追った。
「……いやはや、なるほど。近付けば近付くほど威力も跳ね上がるとは」
「翼は近距離も辛いか。厄介だな」
 クレムが神聖魔法の祈祷文を唱え、終と青嵐を淡い白炎で包み込む。霜が貼っていた二人の身体にやさしい熱が染み渡った。
「では翼以外かな?」
「ああ、背中を狙ってみるとしようか。終、いけるか?」
「問題なく。この程度で休んではいられません」
「……わたしも、行く」
 同様の攻撃を検討していたヌルも三人に合流する。ふたたび至近距離からの攻撃を狙って、アルギ四騎が発進した。クレムの白炎、それからヌルのシールドを有効活用して冷気の風を潜り抜け、今度はバルアルギの広い背中へと辿り着く。 
 各々のタイミングで攻撃を仕掛ける――が、ヴィルジールとクレムの斬撃は手応えがあまり無い。
「――固いな」
「届いてないかな、これは……!」
 というより、鷲獅子の魔力を備えた羽毛が固い上に分厚く、肉へと刃が到達している感覚が得られないのだ。ヴィルジールのアンティーク鋸もまた、同様の手応えだった。
 有効打を与えたと確信したのは、終とヌルだ。
「――先ほどのお返しですよ」
 “斬る”のではなく“突き込む”。冷気でかじかむ終の手に、ドラゴンランスの穂先が肉へ食い込んだ感触が伝わってくる。終は『涙』の先端に竜の力を集束させると、バルアルギの肉の内からそれを爆裂させる。槍が刺さった部分から血の花が咲き、バルアルギが悲鳴と思しき叫び声をあげた。
 ヌルは終の攻撃でバルアルギが怯んだ隙に、目に映る鷲獅子の背中すべてを目標として『フルバースト・マキシマム』による一斉射撃を試みた。サイキックエナジーにより炎の属性を持ったアームドフォートが砲火をあげ、赤熱の弾雨をバルアルギに叩き込んでいく。至近距離から撃ち放たれた砲弾は、氷風による防御も間に合わず、バルアルギの羽毛を無慈悲に焼いていった。
「――絶対に、わたしの友達をころさせたりはしないから」
「ギャアァァァァァァァァッ!!!!!」
 バルアルギの絶叫が響く。ダメージを与えているという確信はあったが、倒すにはまだ遠い。鷲獅子は背中を痛めつけた憎き敵に反撃しようと旋回し、ヌルら四騎へと狙いを定めようとしている。痛烈な氷風がやって来る前に、ヌルたちはバルアルギの間合いから離脱していった。
「ヨツバ! 危険だけど奴の注意を引き付けて欲しい! できるかな!?」
 コガネの要望にヨツバがピュイッ! と力強い返事を返した。コガネは頷いてみせると、バルアルギの背後へと回り込むためにプラズマジェットを吹かしていく。その後ろに詞波とシロが続いた。
「シロ、良いな。練習の成果を見せる時だ。奴に怯んだらその時点で負けだ」
 天空の覇者に相応しい動きを見せてくれ、と詞波がシロの背を撫でた。
 負傷したバルアルギの正面へとヨツバが辿り着く。騎乗者のいない一羽のアルギを捉えると、鷲獅子は羽虫を跳ね除けるような動作で前足を繰り出してくる。凶悪な鉤爪を何とか躱し、ギュイィィ!! と威嚇してみせるヨツバ。
 意図を汲んだ動きをこなしてくれているパートナーの存在をコガネの“恐竜の目”が認識する。パイルバンカー『Heartless Left』の使用準備を整えながら、コガネは遠くで奮戦するヨツバへと心中にて問いを投げ掛けていた。

 ねぇ、ヨツバ。
 僕は見ての通り、人間じゃないんだ。
 ねぇ、ヨツバ。
 僕は昔、敵と味方の区別が出来なくなった事があったんだ。

 それでも友達でいてくれる?
 それを知っても、一緒に戦ってくれるかな……?

「……どうした?」
「……ごめんなさい、大丈夫です。戦闘に集中しますね」
 横に並ぶウォーマシンの顔に浮かぶ悲しげな色に、思わず詞波が問い掛けていた。コガネは表情を引き締め直す。
 “羽虫”を仕留められないバルアルギが業を煮やし、翼に纏わせる冷気の密度を高めた。前足では難しいと踏み、氷風にて追い払う目論みだろう。
 ヨツバが危ない――しかしこれは、好機!
「行きましょう!」
「ああ。――行くぞ、シロ!」
 コガネが発進し、シロが翔け出すのと同時、詞波が槍を投げ放つ。
 それは、雲上へ至る道程でも何度か見た姿。
 ――しかし実戦においては、人狼の竜騎士が誇る能力のすべてがその投槍に発揮される。
 鷲獅子へと一直線に青い空を駆ける、真昼の流星。
 その名は、『揺光』。
「――ギャァァァァァッ!!!!」
 果たして流星は、ヌルの攻撃によって焼け焦げた鷲獅子の背中を深々と刺し貫いた。
 そしてそれで終わらず、続く二騎によって無慈悲な追撃が繰り出される。
「失礼しますよッ!」
「そら、遠慮なく喰らえ!」
 コガネの左腕に備わった、凶悪な杭による二撃目。
 詞波が手元に残ったもう一本の槍によって突貫し、三撃目。接近したついでに投げ放った槍を回収し、反撃される前にバルアルギのもとから離脱していった。
 もっとも、続けざまに背中を抉られた鷲獅子は、それどころではなかったようだが。
「……アァァァァッ!!! ガァァァァァァッ!!!!!」
 言いようのない怒りに駆られている、という風に見えた。
 天敵の存在しない自然界の覇者。ゆえに痛みに、劣勢に慣れていない。
 容易く蹴散らし喰らうべき“獲物”たちに、ここまで追い込まれるのは初めての経験なのだ。

●全開
「……みんな、いい感じに掻き回してくれてるね」
「うん」
 戦局を眺めていた灰色と絲が、頃合いと見て準備を整える。
 灰色の魔術回路『壊鍵』に破壊の魔力が充填され、絲のリール付きグローブ『朱』から伸びた鋼の糸が、優雅に空を踊り始める。
「そろそろ突っ込む。援護を任せた」
「ん!」
 援護を、という声が耳に届く前に絲は動き出していた。バルアルギの真下へと目掛けてぎゅんと滑り込んでいく。
「やつの傍まで飛んでくれ」
 残った灰色はアルギの背に触れて撫でると、優しく声を掛ける。
「恐ろしいかもしれない、あいつは君だって喰らってしまうくらいに大きいから」
 浅くない傷を負っても敵は“氷天の覇者”。
 アルギたちすら敵わない、唯一と言ってもいい彼らの天敵。
 だが、それでも。
「けどおれを信じて、どうか飛んで。おれが、必ず護ってやる」
 キュイイイ!! と勇ましい鳴き声。
 そして灰色とアルギは、バルアルギに向けて発進した。
 あの強大な怪物に、致命の一撃を喰らわせるために。
 
「!?!? ギャァァァァァッ!!!!」
 バルアルギの死角、下方より展開された絲の鋼糸。
 それは翼目掛けて放たれたものだったが、依然両翼の周囲に吹き荒ぶ氷風によって弾かれ、それらを捕えることは適わない。しかし、それでも問題は無かった。
「ちょっと捕まっててもらうねー」
 翼は捕えられなかった。しかし、わずかに前右足へと絡み付いた糸を足掛かりとして、前後ろの四足すべてに鋼の糸が巻き付いていく。翼は無事だが、足の動きを一時的に封じられたことで鷲獅子は大いに混乱したようだ。眼前に飛ぶ羽虫たちに構わず、不自由な足を解放させようと必死にばたつかせている。
 敵の動きが封じられた。その機を逃さず動くアルギが二騎。詞波とキララだ。
「きららが前に出て注意を引きます! その隙にお願い!」
「了解だ」
 キララがバルアルギの前に出る。視線を誘うように不規則な飛行を繰り返し、バルアルギを挑発する。その目的は先ほどのヨツバと同様に、陽動だ。不愉快そうに凶相を歪めた鷲獅子は、キララたちに向けて殺意の滲んだ咆哮をあげる。
(この子は、“風みたいな”きららよりずっとずっと速いの……!)
 それに怯まず、囮行動を続けるキララ。前足の利かないバルアルギは氷風にてキララたちを無力化しようとするが、まったく以ってキララたちの俊敏な舞に追い付くことができていない。
 キララに狙いを定め、排除せんと躍起になっているバルアルギ。視線はキララをひたすらに追いかけており、次にどこを向くかはキララを見ていれば分かる――詞波としては、何とも分かりやすい状態だった。
「周りが見えていないな。それでは容易に足元を掬われるぞ」
 詞波はふたたび『揺光』にて槍を投げ放った。流星が向かう先は、バルアルギの眼だ。キララの移動パターンを計算に入れて撃ち放たれた槍は、吸い込まれるようにバルアルギの左眼を刺し貫いていった。
「――ギャッ、アァァァァァァァッ!!!!」
 絶叫。しかしまだ終わらない。
 囮に動いていたキララが軌道を変え、バルアルギの頭上へと向けて飛んで行く。片目は潰れ、すでに左側は死角に等しい。モノトーンのアートスプレーにて“雨雲”を描いてみせると、ゴロゴロと鳴った雲の中から銀色の雨――否、“銀弾”の雨が真下のバルアルギの顔へと降り注いでいく。
 無慈悲な弾丸の豪雨は、負傷したバルアルギの片側の顔を入念に穿っていく。
「ガァァァァァァッッッ!!!!!」
 血まみれとなる鷲獅子の片顔。すでにそちらの視力は完全に失われたと言っていいだろう。
 だが、鷲獅子はまだ死なない。戦意も失われていない。残る片側の目に憤懣と憎悪を宿して、今すぐに羽虫どもを刻み殺さんと封じられた足を暴れさせている。
 怒気に影響されたか、両翼から発せられる冷気の嵐が膨らむ。初遭遇時の再現とばかりに。
 鋼糸の拘束が解けるのも、時間の問題といったところ――

「まだだよ」

 鋼糸を走る赤い輝き。
 それは一瞬で消えたかと思えば、次の瞬間には鷲獅子の全身を包む焔の嵐へと変わり、膨張しつつあった冷気の嵐を相殺した。

「まだ、かいちゃんが来てない」

 その焔を合図として、鷲獅子の真正面に位置取っていた灰色が“後方へ”拳を打ち放つ。
 魔術回路によって強化された拳から、圧縮された風の塊を放出し、灰色の乗るアルギをロケットのごとく急加速させる。
 あっという間にバルアルギに肉薄した灰色は、自身のアルギの背から躊躇いなく飛び立った。
 
 加速回路、起動。
 増幅回路、起動。
 ――壊鍵、過剰装填。

「――くたばれ、鷲頭」

 “破壊”に満たされた“悪魔の右腕”が、鷲獅子の咆哮を超える轟音を以って、バルアルギの頭を打ち貫いた。

●猛攻
「――固いな」
 鷲獅子の頭を最大出力で殴り飛ばした後、灰色はごく自然にその先にいた自身のアルギに着地すると、全身を包む焔が消失したバルアルギの様子を眺めていた。
 確かな手応えがあった。尋常のものなら粉砕を通り越して余りある威力を出せた確信があった。
 しかしそれでも――壊れていないとは。
 さすがに絶叫をあげる余裕すら無く、朦朧とした様子だった。
 が、両翼の羽搏きは止まっておらず、そこから発せられる氷風も消失する気配がない。
 ――つまり、生きている。
 さてどうしたものかと、追撃の算段を考えようとしていた時だった。
「――チェッッストォォォォオオオオオオオオ!!!」
 天上より叫び声とともに、バルアルギの頭上へと落ちてきたのはユウナだ。
 その手には巨大な――巨大過ぎるウォーハンマーが握られている。否、果たしてアレはハンマーと言うべきなのだろうか。握るというより、柱にしがみつくような形となっている太さの柄。ヘッド部分に至っては、まるでダンプトラックをそのまま取り付けたような馬鹿げた大きさの鉄槌だった。
 目撃している灰色の目に残像を映しながら、巨大ハンマーを抱えたユウナが向かう先は、今しがた灰色が抉ったばかりのバルアルギの頭だ。
 さすがに血が流れ重傷は避けられていないが、それでもまだ原形は留めている。
 ――そこに、ユウナによる無慈悲な鉄槌が打ち下ろされた。
 ごしゃり、という音を確認する。やはり体躯が大きいだけあって、骨が折れる音も豪快だった。
 巨大な嘴に罅が入るのも確認して、攻撃した勢いのまま落下していくユウナ。その姿が雲海に消える寸前で、彼女のパートナーであるアルギが間へと割り込み回収していった。
「ありがとう! ナイスキャッチ!」
 朗らかにパートナーへ礼を告げるユウナ。上昇し、攻撃を加えたバルアルギの様子を確認する――が。
「――ウソでしょ」
 氷風は依然として止んでいない!
 翼はほとんど止まりかけているというのに、バルアルギが落下する気配もない。おそらく両翼から発せられる魔力による氷風が、鷲獅子の巨体を浮遊させる作用をもたらしているのだろう。
 つまり、バルアルギが生きている限り、翼が止まってもあの巨体が地上へ落ちていくことは無い……!
 ――ならば!
「――心臓が止まるまで攻撃を続けるのみ、だね」
「うん、行こう……アルギちゃん、わたし達でアレを止めよう!」
 ヴィルジールの結論に璃奈が頷いた。先行して飛び立っていく璃奈たちに、ヴィルジール、ヴォルフガング、詞波が続く。
 璃奈はユウナと同様にバルアルギの頭上に飛び降り、魔剣『バルムンク』による唐竹割りで頭の傷へ斬り込んでいく。すでに赤い血で染まっていた片側の頭が、さらに深い赤色で染まった。
 ヴィルジール、ヴォルフガング、詞波は無防備なバルアルギの背中へと飛び移る。そこには、ヌルたちの攻撃によってすでに浅くない傷痕が刻まれている。
「今のうちに――ね」
 指を鳴らしたヴォルフガングの腕輪が、魔力を帯びた爪型の武装へと変貌する。それをバルアルギの肉に突き立てると、まるで掘削作業のような俊敏さで鷲獅子の傷を抉り始めた。他の二人も同様だ。
「さすがにダメージも入る、か」
 羽毛に防がれていたヴィルジールの処刑剣と鋸も、鷲獅子の肉を着実に抉っているようだった。
「でも油断は禁物だよ。まだ生きている以上、抵抗に動く可能性も――」
「――そろそろ頃合いのようだな!」
 詞波が二人に言うのと同時に地面が、否、バルアルギの身体が大きく揺れた。両翼の氷風が勢いを増すのも見て、三人はそれぞれのアルギへと跳び戻っていく。
「グッ……ガッ……………………ガァァァァァァァッッッッ!!!!」
 すでに半分は死んでいるような凶相で、朽ちかけの猛獣が吠える。背に乗り込んでいた憎たらしい三人を氷風にて凍てつかせようと、力を振り絞って両翼を羽搏かせていたが、寸でのところで三騎は氷風の吹く範囲から離脱していた。
「――良かった、君も無事か」
「無茶してごめんよ」
 安全圏に逃れた後、ヴィルジールとヴォルフガングがそれぞれのアルギを気遣う。
 今この時だけの関係とは言え、二人にとってはアルギは大事なパートナーなのだ。
「君が自由に飛ぶ姿を、ずっと見ていたいから。もう会えなくても、君は大事な友達だから守りたいんだ」
 だから無茶もしてしまう。すべては、彼らが自由に空を舞うために。
 一方で、頭や背中を主として深すぎる傷を負ってしまったバルアルギは、意識を取り戻すとふたたび猟兵たちへ氷風を繰り出そうとしている。
 回避行動に備える猟兵とアルギたちだが、その中である一騎の姿が消失していた。
「――なんだ。まだ元気なんだな」
 ヴィルジールたちが去った後、入れ替わるようにその背中に立っていたのはイェルクロルトだ。全身を包む白い炎で吹き荒れる冷気の風を凌いでいる。自身の血液から精製された『白い穢れの炎』と、クレムが加勢に与えた神聖魔法による『白い浄化の炎』からなる、二重の防御壁だった。
 相反する二つの力からなる白い炎はしかし、最初からそうであったかのように自然に融合され、迫り来る冷気をものともしない勢いで力を増幅させて燃え盛っている。
 外敵を滅さんと冷気が強まる。呼応するように、炎の熱量も上がる。
 そしてそれが繰り返されるごとに、イェルクロルトの鼓動も破裂しそうなほどに高鳴っていった。
「あんたの生き様とおれのもの、どっちが勝るんだろうな」
 イェルクロルトの言葉に滲む感情に、鷲獅子の本能は何を見たのか。
 外敵排除に向けられていた冷気は、全身を包む防御膜に変わる。同時に背中にいるイェルクロルトを振り落とさんと、大きくその身体を旋回させようとした。

 ――白い炎の太刀が、鷲獅子の首へと閃いた。

「――ああ、帰ってきたか」
「ええ、上手くアルギが回収してくれたようで」
 イェルクロルトの万一に備えてバルアルギの下にいた終が、クレムのもとへと戻って来ていた。
 炎の太刀で鷲獅子の首を焼いて手傷を負わせたイェルクロルトだが、勢いよく振り飛ばされて雲海へと落ちるところだった。そこへ彼のアルギが駆け付け、無事に回収していった形だ。
 もうすぐこちらに戻って来るだろうが、二人の表情には苦々しいものが浮かんでいる。
「クレム、あれはもう少し無茶をしないようにできないんですか」
「何度も言うが。俺はアレの保護者でもなければ、躾けてどうにかなるなら、ああはなってない」
 はあ、と溜息の音が重なった。

 半ば以上に砕かれ、斬り付けられた頭。
 焼け爛れ骨まで焦がされた首。
 背中に生まれた無数の穴、流れ出でる血。

 しかし、それでも。
 氷天の覇者は、いまだに力を失っていない。

 見る限りすでに瀕死の状態。このまま放っておいても死ぬかもしれないが、絶大な生命力ゆえ絶対はない。
 予知された悲劇を確実に打ち砕くには、鷲獅子の心臓を止める以外に他は無いのだ。

 決着の時は近い。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

アメリア・イアハッター
【FH】

ふわぁー!
絶景かなー!
空飛んでしかもこんな景色が見れるなんて、さいこー!

おっと、ごめんごめん
景色を楽しむのは後にして、まずはアイツを倒そう!

・方針
チーム全体で敵の翼を集中攻撃し、攻撃の起点の1つを潰す

・行動
練習した編隊飛行で敵へ接近
息を合わせて飛行し敵にそのまま突っ込むと見せかけ分離
援護を受けつつ「つかさ・アメリア」ペアで加速し敵へ接近

つかさが囮行動を開始した時に真下の雲海へと潜る
数秒後、つかさの戦う音が聞こえたら浮上
敵の背後か下を取り、後衛組が狙ったのと同じ方の翼に向けUC使用
つかさが離れるのと入れ替わるように、何発かを敵の顔付近で爆発させ隙を作る

空で騎乗した私は、けっこーやるよ!


ヘスティア・イクテュス
【FH】

すごい…綺麗…えぇ、なんていうか言葉で言い表せないわ。この感動…
そして出てきたわね…って思ってたより10倍位大きいんだけど…
いえ、でも大きいなら大きいで隙はある…皆で力を合わせて!

編隊飛行を組んで突撃
まずは前衛組が近づきやすいよう【援護射撃】
マイクロミサイルを逃げ場を封鎖するよう発射&ミスティルテインで射撃よ
行って!つかさ、アメリア!

つかさが正面、アメリアが死角に入ったのを確認したら澪と合わせて
翼に集中攻撃
ミスティルテインで顔を狙って、つかさの取り付く隙を!
澪!合わせて!!


栗花落・澪
【FH】

うわぁ…思ってたよりおっきいー
その分的が大きくて助かるね!

ノア
僕が魔法のために手を離してる間は
回避判断お願いね

基本は敵の攻撃を素早く回避しながら
炎の【全力魔法】主体での前衛補佐
狙いは翼

寒い場所じゃなきゃ生きられないんだって?
炎の暖かさを知らないなんて勿体ない
折角だし、この機会に覚えて行きなよ!

前衛に攻撃が集中しそうな場合や
敵が素早くて攻撃が当たりにくい場合
ノア!打ち合わせ通り行くよ!

ノアの背から降り
横か背後からの攻撃で気を引いてもらった隙に
【空中戦】で正面から顔面狙いで火球攻撃
熱の目潰しで回避力を低下させる

ヘスティアさんと合わせてUCによる翼への追尾攻撃

その他動き他メンバーに合わせる


荒谷・つかさ
【FH】

……中々に大物じゃない。面白くなってきたわ。
いくわよ、ラン。冷静に、且つ大胆に!

まず五芒星の陣をランの鞍に刻み【五行同期・精霊降臨術】を使用。
水行強化で水の精霊の力を纏い、冷気や氷結への耐性を得る(防御力強化)。
その後はバルアルギへと突撃よ。

当初の私達の役割は「囮」。
「属性攻撃」で風の刃を放ちながら敵の顔周辺を飛び回り続け、ヘイトを稼ぐ。
基本は回避だけど、避けきれないなら大剣の零式・改二で武器受け防御するわ。

アメリア達の攻撃が入ったら、ランから飛び降りてどさくさ紛れに奴の背に取りつくわよ。
狙うはその立派な翼。
「怪力」「グラップル」技能を活かして組み付き、根元から圧し折ってやるわ。



●編隊戦術
「ふわぁー! 絶景かなー! 空飛んでしかもこんな景色が見れるなんて、さいこー!」
「あっち? ……見つけた! アメリア、もう始まってるみたい!」
「おっと、ごめんごめん!」
 先に交戦していた猟兵たちとは離れた場所に出ていたアメリアたちは、戦闘準備を整えながら索敵を行っていた。四騎の中で最初に標的となる鷲獅子を捕捉したのは、ヘスティアが騎乗するアエロだ。彼女が見込んだ通りの優れた視力で、雲の山に隠れたバルアルギの後ろ頭を見つけてみせた。
「景色を楽しむのは後にして、まずはアイツを倒そう! 行くよ、みんな!」
 四本指の隊形を維持しながら加速、バルアルギへと向かっていく。距離が縮まるにつれ、遠くからでも大きく見えていた獣の体躯が、予想を超えて遥かに巨大であることに四人は気付く。
「うわぁ……思ってたよりおっきいー」
「本当に思ってたより10倍位大きいんだけど! ……でも、大きいなら大きいで隙はある!」
 衝撃を受けつつも、ヘスティアは可変型ビームライフル『ミスティルテイン』を長距離モードに変形させる。サイトで標的となる鷲獅子を照準し、飛行のブレが練習通り許容範囲内であることを確認した。
「……中々に大物じゃない。面白くなってきたわ」
 援護組の射程距離内に入る手前、つかさがアルギ一騎分編隊の前に出た。背中に担いだ出刃包丁のような大剣、『零式・改二』の柄に指を添えて手触りを確認した。抜く用意は万端だ。
「いくわよ、ラン。冷静に、且つ大胆に!」
 つかさがさらに速度を上げる。アメリアはその後ろについた。ヘスティアと澪は右へと逸れ、前衛組の援護射撃を開始する。
「行って! つかさ、アメリア!」
「ノア! 僕が手を放している間はお願いね!」
 ヘスティアが構えるライフルの長く伸びた銃身から、凝縮されたエネルギーが光線として連続で撃ち放たれる。澪も両手を広げると、それぞれの指の先から炎の属性を付与した魔法の花弁を無数に出現させ、それらを嵐のように鷲獅子の方へと向かわせていった。狙いは氷雪の風の発生源となっている鷲獅子の片翼だ。
 二人の攻撃は的確に目標へと向かっていったが、鷲獅子が翼を羽搏かせると凄まじい勢いで氷風が吹き荒れる。それが盾の役割を果たし、ビームと花嵐は翼へと辿り着く前に無力化されてしまった。
「狙いはいいけど、距離があると余裕を持って防がれるわね……!」
「でも撃てば撃つだけこっちに注意が向いて、二人が楽になるはず! 続けよう!」
 折れずに援護射撃を続けるヘスティアと澪。一方で前衛組は、鷲獅子の氷風が援護組の防御に使われている隙に順調に距離を詰めていた。つかさも射程圏内へと入り、大剣を構える。
「さあ、お前の相手は私よ! 来なさい!」
 刀身に五芒星の魔紋が浮いた『零式・改二』を、負傷した鷲獅子の顔目掛けて大きく振るう。すると精霊の加護を受けた剣から風の刃が飛び立ち、血に濡れた顔の羽毛を僅かに削り取っていく。死に瀕してもなお覇気を失わない鷲獅子の瞳が、ぎろりとつかさとランに向いた。上手く注意を引くことができたようだ。
 つかさはそれで終わらせず、鷲獅子の顔の周りを不規則に、挑発するように飛び始める。無論、隙を見て風の刃を飛ばすことも忘れない。
「ギャアァァァァァァァァ……ッッ!!」
 鬱陶しい“羽虫”が癇に障ったバルアルギは、巨大な嘴を開いてごうと氷雪の息吹を吐き出してくる。攻撃は予想できていたが、回避動作が追い付かず僅かにランの翼に掠ってしまう。しかし影響としては羽毛の表面がわずかに凍ったのみで、羽の中にまでダメージは与えられなかったようだ。
「大丈夫。これぐらいなら平気」
 その理由はつかさが得物の大剣と同様に、ランの鞍に刻んだ五芒星にある。水の加護を与えられた装備により、ランとつかさは冷気への耐性が増している。アルギ自身が持つ加護も手伝って、直撃でなければ冷気の風は問題とならないのだ。
 さて、捕捉できない“羽虫”にバルアルギが躍起になっている頃、ペアの片割れであるアメリアはどこに消えていたのか。「よし、上手く囮になってくれてる……! さすがつーちゃん!」
 答えは、バルアルギの下の雲海だ。つかさが囮行動を始めたのと同時に雲へと潜り、バルアルギの腹の下を通って向かい側に浮上。つかさが奮戦し注意を引いてくれたお陰で、バルアルギから気取られず背後を取ることができた。
 そして援護組が翼を狙ってくれているお陰で、背後は氷風の影響が少ない……!
「がら空きのところ悪いけど! ちょっと躍らせてもらうよ!」
 アメリアの掌から、彼女の赤い髪によく似た色のマジックミサイルが無数に撃ち放たれる。それらはそれぞれが躍るように不規則な軌道を描くと、援護組が狙っていた片翼へと次々に着弾していった。
「!?!? ギャアァァァァァァァッッッッ!!」
 予期せぬ痛苦に絶叫するバルアルギ。アメリア側にも氷風が若干残っていたために威力が低減され、完全な破壊へは至らなかったが、それでも有効打を与えることには成功したようだ。ダメージを受けた片翼の氷風が明らかに弱まっている。
「今! 澪、合わせて!」
「はい!」
 ヘスティアと澪もその機を逃さず集中攻撃を加える。ヘスティアは『ミスティルテイン』の稼働エネルギーを最大に。澪は燃える魔法の花弁をひとつに集めて火球を作り出し、それを弱った片翼へと撃ち放った。
「寒い場所じゃなきゃ生きられないんだって? 炎の暖かさを知らないなんて勿体ない!」
 着弾の寸前、指を弾く。
 ひとつにまとまっていた花弁が散弾のように撃ち出され、紺色の翼を斑に焼いていった。
「――折角だし、この機会に覚えて行きなよ!」
「ギャッ、アァァァァァァッ!!!!」
 絶叫をあげ、悶えるバルアルギ。躍起になって追いかけていた、つかさたちすら眼中に無くなるほどの激痛――ならば、その隙を見逃す手は無い。
 ランから飛び降り、鷲獅子の背にしがみつくつかさ。暴れるバルアルギから振り落とされないようにしっかりと握力を働かせる。動く山をクライミングするように手足を動かして向かう先は、アメリアたちが狙っていた傷ついた片翼だ。
 やがてその根元へと辿り着く。――やはり巨大というだけあって、大きい。羽毛が被っているために中身までは分からないが、ここを通る骨は丸太か、それ以上の大きさがあるのではないだろうか。
 弱ってはいるものの、全身を暴れさせているために翼も動いている。微力ではあるが冷気の風も残している上に、この巨体の膂力。抑えて骨を圧し折るのはそれこそ“骨”だろう。しかし辿り着いたからにはやるしかない。
 暴れる翼の根元を両腕でホールドし、その中にある固い感触を認識する。つかさが小さな体躯に似合わぬ剛力を全身に漲らせ、身体を捻り始めた。
「ふぅぅぅ……ッ!!」
 そして湧き出る力が頂点に達したタイミングで、全身の発条を総動員し、翼の支柱の一点へと“圧”をかける。
 
 ――ミ――シィィィィィ……ッッッッッ

 軋む鷲獅子の中の何か。確かな手応え。
 これは――いける。
 そうつかさが予感を得たところで、天地がひっくり返り、羽毛に触れていた両腕も滑って空へと放り出される。
「――ッ!!」
 暴れていたバルアルギの動きがさらに大きくなり、その反動でつかさが投げ出されてしまったのだ。
 重力に引かれて雲海に沈みかけるつかさだが、その直前でランが滑り込んで回収する。しかしバルアルギは見逃さない。前脚を振り上げ、巨大な鉤爪でランごとつかさを斬り捨てようとしてくる。
「ギャアァァァァァ!!! ――!?」
 そんな鷲獅子の眼前を横切る影があった。騎乗者のいない、一羽のアルギだ。
 目の前を通り過ぎてバルアルギの後ろに回り込む。ただそれだけ。バルアルギが目を奪われたのもただの一瞬だ。
 だが、それで十分。
「はーい、こっち向いて!」
「顔も暖めてあげる――!」
 バルアルギが視線を戻せば、眼前にいたのはアメリアと、ノアから離れ背中の翼で飛行している澪。
 二人の掌に集束した魔力の塊が、バルアルギの顔面へ無慈悲に炸裂した。
「ギャアァァァァァァァァァッッッ!!」
 間近であがる大音量の絶叫から逃げるように即時離脱するアメリアたち。ヘスティアとつかさの待つ編隊に戻る途中、澪がアメリアに声を掛けた。
「アメリアさんすごいね。僕はノアにお願いしたから、隙が出来るって分かったけど」
 咄嗟に澪の動きに合わせて連携攻撃を果たしたのは、アメリアのアドリブだった。
「ふふふ! 空で騎乗した私は、けっこーやるよ!」
 舌を巻く澪に、アメリアは朗らかな笑顔で応えてみせた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

ギド・スプートニク
【無貌の民】
ようやく御目見得か
ただ図体がデカいだけの魔物では無さそうだが…
行けるな、キアン、まい
そしてヴァルナよ

中距離では炎の魔法による弾幕にて敵の氷塊と打ち消し合い牽制
発生した水蒸気は仲間の奇襲を支援する目眩ましにもなろう

そしてこちらの本命はヴァルナとの連携攻撃

行け、ヴァルナよ
どちらが“餌”か、その身に知らしめてやれ

上空より突貫するヴァルナの爪が敵へと襲いかかるのと時間差で、
予め背から飛び降りていた私が妖刀にて敵を縦一閃に斬り付ける
その一太刀に渾身の魔力を篭めて

そのまま自由落下する身体はヴァルナの背へ

覇者は覇者でも、貴様は過去の覇者
であれば早々に退場を願おう


花咲・まい
【無貌の民】
ははあ、これは立派な巨鳥さんが来ましたですね。
あれが話に聞く氷天の覇者ですか。
しからば、ここからが正念場。気を引き締めて参りますです!

私もアルギさんと連携して、
隙を見て近寄り翼などを中心に斬りつけていきましょう。
これだけ大きな図体ですから、狙いを定めるのも難しくはないはずです。
ただ決定打には欠けますから、
キアンさんとギドさんが勝負に打って出たときに私は【悪鬼万来】を放ち、【呪詛】によって敵の動きを封じますです!

敵の冷たい攻撃はアルギさんにぎゅーっと抱き着いて、体を温めていきますですよ。
さあ、頑張りましょうアルギさん! あなたがいるから、私たちは戦えますです!


キアン・ウロパラクト
【無貌の民】
うっは、デケェじゃんか!あれの肉なんて食うのにどんぐらいかかんだろ!
アルギ、楽しみにしてろよ?あれ全部食うんだかんな!

自前のテーブルナイフを振り回して、敵に突っ込んでいく。
アルギと一緒なら冷たい風なんてへっちゃらさ!
ついでに飯のこと考えて痛みを忘れてくよ。
でかいのに近付いたらそのまま背中に飛び乗って
狙うは羽根の付け根、ナイフを突き刺して焼いてやるさ。
周囲は冷たくできるみたいだが、身体の中はどうかね?
獣の手と蜥蜴の脚、全力でしがみついてりゃこんがり焼き鳥出来上がりってな。
地面に落とせりゃダメージになりそうだし。

途中で落っこちたらアルギに拾ってもらう、手とか尻尾振ってアピールするよ。



●氷天に散る
「うっは、デケェじゃんか! あれの肉なんて食うのにどんぐらいかかんだろ!」
「ようやく御目見得か。ただ図体がデカいだけの魔物では無さそうだが……」
「しかしあと一押し、といったところのようですね!」
 交戦空域に入ったギド達がバルアルギの姿を捉えた。既に鷲獅子は半死半生、顔と背中は血だらけで首には大きな火傷。片翼の力も目に見えて弱っているのが分かる。
 しかし手負いの獣というのは恐ろしい。これまでの猟兵との交戦で体力は大幅に削られているはずだが、バルアルギは疲弊の色をまったく表に出していない。それどころか、これまでに受けた攻撃による怒りをすべて活力へと変えて、今も己の周囲に舞う“羽虫”達に凍える氷風を吹き散らしている。
「ギャアァァァァァァァッッ!!!!」
 依然衰えない、強烈な咆哮をあげながら。
 だがギド達に怯んだ様子はまったく見られない。
「行けるな。キアン、まい。――そしてヴォルナよ」
「はい! 気を引き締めて参りますです!」
「アルギ、楽しみにしてろよ? あれ全部食うんだかんな!」
 キュイッ! とヴォルナ、それからキアンのアルギからも返事が上がった。ギドは良しと頷くと、呪文を詠唱しながら指を伸ばした手で空中に丸を描く。するとその軌道に従って、ヴォルナの回りに輪を作るように巨大な火球がいくつも生み出されていった。
「露払いは私が務めよう。その後は好きに暴れるがいい」
 掌をバルアルギに向け短い呪文を一節。その言葉を引き金として、火球たちが連装ロケットのように次々と撃ち出される。まいとキアンは火球の後を追う形で飛んで行った。
 ギドが放った火球群は、先に戦った猟兵たちの攻撃がそうであったように、氷風の幕に遮られて鷲獅子の身体へ届く前に消失してしまう。――だが、ギドの狙いはバルアルギに火球を当てることではなかった。次々に火球を放ち、巨大な熱の塊を氷風にぶつける。そうすることで、鷲獅子にとって矛であり盾でもあった、氷風の冷気が段々と和らいでいく。
 加えて超高温の火球が風の中を飛ぶ氷塊に触れて蒸発することで、鷲獅子の視界を遮る大きな靄を作り上げていた。威力を低減された上に、狙いもつけられない。
 一方で、まいとキアンは靄の中を通過しバルアルギへと迫る。鷲獅子も敵が靄を抜けたことには気付いたが、やや反応が遅れた。その機を逃さず、飛んできた勢いのまま傷付いた片翼へと向かっていったのはまいだ。巴形薙刀『夜叉丸』を箒で掃くように構え、アルギが飛ぶ勢いのまま翼をざくりと斬り付けていった。
「ギャアァァァァァァ……ッ!!」
「まだまだですよー!」
 折り返しふたたび翼を狙う。先の戦いで翼が弱っていたこと、ギドの援護で氷風の威力が殺されていることもあって、バルアルギが万全の状態では接近が難しかった翼にも白兵戦を挑むことができていた。
 変わってキアンはより大胆に、アルギから飛び降りて鷲獅子の背中へと乗り込む。巨大なテーブルナイフに熱を滾らせて刃を赤く変えると、翼の付け根に斬り込んでいく。じゅう、と羽毛の下で肉が焼けて蒸気が上がった。
「ギャアァァーーーッッ!!」
「はっはぁ! 周囲は冷たくできるみたいだが、身体の中はどうかね?」
 派手に暴れて抵抗を見せるバルアルギだが、キアンも豹の両腕に蜥蜴の両足――野生の力漲る四肢で貼り付いて、羽毛から離れない。徐々にナイフを斬り進めて鷲獅子の肉の中から火傷を生んでいく。想像を絶する痛みだろう。
 二人に掻き回されてバルアルギの意識が乱される。健在の片翼に残された氷風の力はまいへの迎撃に向けられ、わずかな体力はキアンを振り落とすことに向けられていた。既に瀕死の状態、それ以外の対処に向ける力は存在しない。
 そう、たとえ敵がまだ残っていたとしても――。
「行け、ヴォルナよ。どちらが“餌”か、その身に知らしめてやれ」
 青い空を駆ける宵色の流星。
 疾走するヴォルナの爪が、鷲獅子に残っていた片目を抉りに行った。
「ギャ――……!」
 そうして、鷲獅子から完全に光が失われる。
 さらにまいが両手を合わせ、鷲獅子の真下から呪詛を呼ぶ『門』を作り出す。地獄へと続くような真っ黒い穴からおどろおどろしい思念が漏れ出し、最後の抵抗を見せるバルアルギの身体に“呪詛”が絡み付いて拘束していく。
 身体の動きは封じたが、それでも氷風は吹き荒れる。狙いをつけられず無差別に舞う冷気の嵐に耐えるため、まいはアルギへとぎゅっと抱き付いた。巨鳥の持つ加護、生命のぬくもりが、まいの小さな体躯に伝わっていく。
「もう一息です! 頑張りましょうアルギさん! あなたがいるから、私たちは戦えますです……!」
 キュイッ! と頼もしい返答。バルアルギの弱った冷気では、まいたちを凍えさせることは適わない。

 潰された両目。
 拘束された身体。
 もはや脅威とならない氷風。
 “氷天の覇者”が、猟兵たちに抗う術は既に無く。
 ――そして、最期の時が訪れた。

「! うおっと!」
 優れた知覚能力で状況を察したキアンが、しがみついていた鷲獅子の背中から飛び降り逃れて行く。
 雲海よりも遥か上、天から落ちて来る一つの影。
 それは、ヴォルナから飛び降りたギドだ。
 剣杖『玲瓏』の柄部分へと手を添えて、わずかに見せた刃から溢れ出さんばかりの魔力を得物に漲らせている。

「覇者は覇者でも、貴様は過去の覇者。――であれば、早々に退場を願おう」

 ギドが抜刀し、魔力の剣閃が走る。
 それは剣杖の刀身よりも遥かに長大な刃となって、鷲獅子の巨大な体躯を両断した。
「ギャ――――――ガ…………ッ」
 微かに開いた嘴から、呻き声が漏れた。羽搏いていた両翼は止まり、氷風も吹き止んでいく。
 ……いのちの気配が絶えたことを、その場にいた全員が確信した。
「さらばだ、バルアルギ」
 落下位置へと向かっていたヴォルナに回収されたギドが、朽ちた鷲獅子へと別れの言葉を紡いだ。

●肉のゆくえ
 さて、両断された鷲獅子の身体がどうなったのかと言えば。
「あーーーーーっ!!!」
 キアンが悲痛な叫びを上げる。何事かと二人が視線の先を見れば、宙に浮いていたバルアルギの遺骸が細かな氷雪に変わり、雲海に散り落ちていっているのだ。
「成る程。馬鹿げた大きさとは思っていたが、ただの獣ではなかったようだな」
 自然界に生まれ落ちた動物ではなく、もっと別の何か。
 もしかすると、この世界の神話に登場するような幻獣に近い生き物だったのかもしれない。
 兎も角バルアルギの身体は肉として残らず、その全てが氷雪へと変わり、雲海に撒かれて消えていく。
 ――が、それを良しとしない猟兵がひとり。
「くっそー!! 食べたかったのに!! あのデケェのをぜんぶぜんぶ……!!」
「腹が減っているのなら村で食わせてもらえば良かろう。確か肉団子が余っていたはずだ」
「そーいう問題じゃないんだよー!! なぁー食いたかったよなーアルギー!」
「うーん、私もちょっと食べてみたかったですねぇ……」
 同意を求めるキアンに、少し残念そうなまい。
 ギドはといえば、いつも通りの落ち着き払った様子でヴォルナの背中を撫で、パートナーの健闘を称えていた。

●そして
 巨大な鷲獅子による、悲劇の可能性は消滅した。
 天敵の消えたアルギたちは、地上に戻れば今まで通りに生活を送るだろう。
 人々と絆を育み、子供を育てて――
 そしていつの日かまた、空の彼方へと旅立っていく。

 猟兵たちと空の旅を共にした彼らとは、もう会うことはないのかもしれない。
 でも、頭が良くて人間が大好きなアルギたちは、きっと猟兵たちのことをずっと覚えている。

 もし、いつかもう一度会うことがあるのなら、元気な声でこう鳴いてくれるはずだ。
 大きな翼を広げて、嬉しさを表情に滲ませて。

 ――キュイッ!

 “天空の覇者”は空を舞う。
 いつの日も思うまま、自由に。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年03月14日


挿絵イラスト