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猟書家決戦~『セイメイ』を弄ぶ男、再び~

#サムライエンパイア #戦後 #クルセイダー #安倍晴明 #上杉謙信

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「ふむ……?」

 サムライエンパイア世界の各地を転々と飛来する、『魔空原城』。
 その最奥にある荘厳なる礼拝堂の壇上で、金の髪を持つ細身の男が小さく唸る。
 男の名は、『クルセイダー』。この世界を侵しオブリビオン・フォーミュラへと至ろうと企む、『猟書家』である。

「もう死にましたか。誇り高きグレイズモンキーに連なる者と聞きましたが、取るに足らぬ最期でありましたな」

 だが今、その男は逝った。己の身を依り代に強力な魔軍将と呼ばれる将の力を宿す秘術『超・魔軍転生』を用いた結果、宿した将にその自我を喰い潰されたのだ。
 そう。この男は最早、『クルセイダー』と呼ばれる男では無い。
 今のこの男を表わす、その名は──。

「この私、『安倍晴明』の憑装を試み、エンパイア転覆を導かんとした蛮勇は見事でございましたよ、クルセイダー」

 ──陰陽師『安倍晴明』が自我を乗っ取った、『晴明クルセイダー』と呼ぶべきだろう。
 |元の肉体の持ち主《クルセイダー》の行いを嘲笑うかのように言葉を零し、『晴明クルセイダー』がくつくつと嗤う。
 かつて、全てに飽いながらも織田信長に従い、猟兵達の前に敗れた陰陽師『安倍晴明』。だが今の彼の眼に浮かぶ光に、かつての諦観の色は薄い。クルセイダーに語った通り、今の彼は興が乗っているのだ。

「この肉体とユーベルコードにて、これより私がその望みを叶えてご覧に入れましょう」

 美しき空間に響く、邪悪なる|意思《ねがい》。
 その企みが牙を剥く時が、刻一刻と近づこうとしていた。



「お集まり頂きまして、ありがとうございます」

 グリモアベースに集まる猟兵達を迎え入れる、艶やかに輝く銀の長髪。
 いつもは柔らかな微笑みと共に猟兵達を迎えるグリモア猟兵、ヴィクトリア・アイニッヒ(陽光の信徒・f00408)の表情は、固く引き締まっていた。
 ヴィクトリアのその表情を見れば、集まる猟兵達は皆思うだろう。今回は決して簡単な話などでは無い、と。

「今回皆さんに赴いて頂きますのは、サムライエンパイア世界。猟書家『クルセイダー』が籠もる、『魔空原城』です」

 そして続いたヴィクトリアの言葉を聞けば、その考えは間違いではないと確信を得るだろう。
 『クルセイダー』。そして『魔空原城』。エンパイア世界を狙う|猟書家の首魁《オウガ・フォーミュラ》と、その彼の居城である。
 エンパイア世界の各地を飛来する『魔空原城』は、首塚の一族の力によりその存在を地上に引きずり下ろされているのだという。
 ……そう。つまり、エンパイア世界を狙う猟書家との決戦の時が訪れたのだ。

「ですが、事はそう簡単にはいきません。皆さんもご存知の事と思いますが……今の『クルセイダー』は、その存在を変質させてしまっているからです」

 だがヴィクトリアが言う通り、その決戦は一筋縄ではいかない物となった。
 多くの猟兵が予兆にて視た様に、今や『クルセイダー』は彼であって彼で無い存在へと成り果ててた。魔軍将が一人、陰陽師『安倍晴明』にその自我を乗っ取られてしまったのだ。
 そして『晴明クルセイダー』へと変じた彼は、本来『クルセイダー』が持つ秘術『超・魔軍転生』を晴明の尖兵である『生殖型ゾンビ』へと用い……『魔軍将ゾンビ』と呼ぶべき存在を作り上げたのだ。

「『晴明クルセイダー』は、その『魔軍将ゾンビ』の量産を企図しています。今を逃せばその企みは容易く成され……」

 その後の事は考えたくもないと語る様に、ヴィクトリアの表情が歪む。猟兵達の頭にも、最悪の光景が浮かぶ事だろう。
 ……そんな未来を、許してはならない。この機会に、『晴明クルセイダー』を討ち、その企みを完全に潰さねばならないのだ。
 猟兵達の戦意が高まるのを感じ、ヴィクトリアの表情が頼もしげに緩む。

「『魔空原城』には『晴明クルセイダー』と『魔軍将ゾンビ』の他、『島原一揆軍』と称される軍勢がいます」

 現地に降り立った猟兵達が最初に相手をする事になるのは、その『島原一揆軍』に属する軍勢だ。
 異常な信仰心を拠所とし、更に晴明によって密かにゾンビ化処置も施されている彼らは、簡単には倒れない。
 彼らを突破する為には、無慈悲かつ完膚なき殲滅が必要となるだろう。

「その軍勢を突破出来れば、一揆軍の将である『魔軍将ゾンビ』、そして最奥の『晴明クルセイダー』との決戦となります」

 『魔軍将ゾンビ』は、かつてエンパイアウォーで死闘を演じた『魔軍将』そのものだ。
 今回相手となる敵がどの魔軍将かは、ヴィクトリアには見通せなかった。だがクルセイダーを乗っ取った『陰陽師』、『Q』により討たれた『甲斐の虎』、ドクター・オロチに持ち逃げされた『百面鬼』が相手となる事は無いはず。つまり相手となるのは、『大帝剣』『大災厄』『軍神』の三人に絞られるだろう。
 幸いな事に、まだ量産体制は整っていないようで。今回相手をするのは、その内の一体だけとなるが……いずれも負けず劣らずの難敵だ。
 心して挑み突破して。城の最奥に待つ|『晴明クルセイダー』《命弄ぶ邪悪》を、討ちとるのだ。

「難敵が待ち受ける戦いとなります。ですが、皆さんならば……」

 どうか、御力をお貸し下さい。
 深く、丁寧に礼をして。ヴィクトリアは猟兵達を戦地へと送り出すのだった。


月城祐一
 『闇の救済者戦争』の最中ですが、どうも放っておけない事態に。
 どうも、そしてご無沙汰しております。月城祐一です。
 このタイミングでコイツが来るとか聞いてないよぉ!?

 さて、今回はサムライエンパイアでの猟書家決戦依頼。
 猟書家『クルセイダー』を乗っ取った『安倍晴明』との決戦となります。
 以下、補足となります。

 第一章は、集団戦。敵は『落武者』の軍勢です。
 過去の戦で無惨に散った雑兵達が、オブリビオンとして蘇った敵となります。

 OPでも触れられている通り、今回の敵は篤い信仰心と晴明によるゾンビ化処置の影響で非常にタフとなっています。
 手足を吹き飛ばされようが動き続けるので、無慈悲に、そして完膚なきまでに殲滅する必要があります。
 この軍勢を殲滅する事が出来れば、『魔空原城』への道が啓ける事となります。

 第二章はボス戦。『魔軍将ゾンビ』として復活した『魔軍将』との戦いです。
 登場する魔軍将は、現時点では不明です。
 どの敵が出てきても、強敵には代わりはありません。心してお挑み下さい。
 この敵を突破出来れば、第三章は『晴明クルセイダー』との決戦となります。

 戦国の世にて遂に始まる、猟書家との決戦。
 真なる泰平の世へと至る為、『セイメイ』を弄ぶ男を打倒せよ。
 皆様の熱いプレイング、お待ちしております!
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第1章 集団戦 『落武者』

POW   :    無情なる無念
自身に【すでに倒された他の落武者達の怨念】をまとい、高速移動と【斬撃による衝撃波】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
SPD   :    欠落の決意
【武器や肉弾戦】による素早い一撃を放つ。また、【首や四肢が欠落する】等で身軽になれば、更に加速する。
WIZ   :    妄執の猛撃
【持っている武器】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。

イラスト:麻風

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。




 猟兵達が、戦場となる地に降り立つ。
 その眼前に建つは、『魔空原城』。猟書家『クルセイダー』が居城とした、空を往く魔城である。
 その魔城は今、首塚の一族の呪詛の鎖により地上に引きずり下ろされた。
 後は城へと踏み込み、首魁を討ち取るのみであるのだが。
 
 ──開門せよぉぉぉ!!!
 
 そんな猟兵達を迎え撃つ様に、轟く怒号。そして城の大手門が開かれ、軍勢が飛び出す。
 掲げられた軍旗に描かれているのは、『九曜紋』に『上杉笹』、そして『毘』の一文字。
 まさか、あの一軍を率いる将は──!
 
 ──オオオオオオオッッッ!!!
 
 何にせよ、まずはこの軍勢を討ち果たさねばならない。
 鯨波の声をあげながら突っ込んでくる無数の雑兵に向けて、猟兵達が戦意を高める。
 エンパイア世界の未来を占う猟書家決戦。その第一幕が、開こうとしていた。
備傘・剱
全く…
死地での命がけなんて、酒の肴話にもならないな
早々に、御退場願おう

とはいえ、これだけの軍団を相手にするのも、中々、大変なもんだ…
ならば、大軍には大軍をってな
片っ端から、衝撃波と誘導弾と呪殺弾と斬撃波で弾幕を貼りつつ、フォトンガントレットで殴って、倒していくが、死体がある程度、溜まったのなら
傀儡子、発動!
そして、そうやって新たに増えた死体にも、傀儡子を使って、此方の手勢を増やしていくぞ

そっちの手勢が増えるほど、こっちの勢力もまた、増すってな
敵将にとって、これほど嫌なこともないだろうが、これも戦争の習わしって奴だな

さぁ、やり合おうぜ!
どっちが先に尽きるか、勝負だな

アドリブ、絡み、好きにしてくれ





 鯨波の声をあげ、突っ込んでくる無数の雑兵。その勢いたるや、まさに津波の如くである。

「……チッ」

 そんな敵の勢いを感じ、備傘・剱(|絶路《ゼロ》・f01759)が舌を打つ。
 敵の勢いに、臆したのでは無い。ただ只管に、面倒であると感じたのだ。
 突っ込んでくる敵兵は、例外なくその瞳から理性の色を喪っているように剱には見えた。理性が無いという事は、死への恐怖も無いという事。つまりは、死兵であるという事である。
 そんな敵を向こうに回した戦いなど、酒の肴にもなりはしない。面倒以外の、何だというのか。

「早々に、ご退場願おうか──!」

 故に、出し惜しみはしない。速攻で片を付けて、敵の首魁を討ち取るのみ。
 膨らみ爆ぜる、剱の闘気。生じた圧が衝撃に変わり、押し寄せる敵勢に襲い掛かる。
 剱が放った衝撃波は、当然ただの風圧などでは無い。呪殺と斬撃の力も乗せられており、その風を浴びた敵の肉を斬り裂き骨をも冒すのだ。

「おおおおおおおッッッ!」

 剱の行動は、それだけに留まらない。吹き抜ける闘気に乗るように、地を蹴り駆けて敵の戦列へ躍り掛れば。

 ──轟ッ!!

 空気が爆ぜる様な音と共に拳を振り抜き、敵の頭を一撃で砕く。
 幾らタフで簡単には斃れないと言われようが、運動中枢を司る脳を喪ってしまいさえすれば関係ない。何とも容赦の無い事ではあるが、敵の性質を考えれば仕方がない事だろう。事実、剱に頭を砕かれた敵兵の身体はそのまま力を失い崩れて落ちたのだから。
 ……こんな光景を眼前で見せつけられれば、常人ならば間違いなく怯む。精神力の弱いものならばそれだけで戦意を喪い、我先に逃げ出す事だろう。
 だが、しかし──。

『キィェェエエエイ!!!』

 敵兵は一向に怯む事無く、飛び込んできた剱に向けて殺到する。
 繰り出される無数の刀槍。そのどれもが、剱の命を狙う必殺の意思に満ちた物ばかりである。
 見れば、その武器の担い手はその誰もが剱の闘気を受けたのか、大小様々に負傷していた。
 だがその眼はみな例外なく狂気に輝き、己の命に頓着していない事が明白である。

(やはり、死兵か──!)

 その狂気の姿に、己が先程抱いた感覚は間違いでは無かったと確信を得つつ。再び闘気を爆ぜさせ、襲い来る刃を弾き飛ばし、再び拳を振るい敵の命を刈り取り──。

 ………

 ……

 …

 そんな流れが、都合数度。
 既に剱が討ち倒した敵兵の数は両の手で数え切れぬ数を超え、彼の周囲には物言わぬ躯と化した敵兵が散乱する程になっていた。
 まさに一騎当千と言った奮闘を見せる剱であるが、その姿を見ても敵の戦意に陰りは無い。

「──っと。流石にこれだけの軍団を相手にし続けるのは、中々、大変なもんだな」

 今もまた、刃を向けて来た敵兵を殴り飛ばして。剱が一つ、息をつく。
 生命の埒外とも呼ばれる一騎当千の存在とは言え、多勢に無勢の状況は流石に苦しいのは事実である。
 やはり大軍には大軍で以て相手をするのが、成道ではあるだろう。

「と言う訳で、ここからは同じ土俵でやってやるよ」

 その為の|異能《ユーベルコード》も、剱にはある。

「──天の繰糸、地の舞台。舞うは現世の道化なり、ってな!」

 剱の身体から放たれた闘気の波動が、異能の力を呼び起こす。
 その異能は、【|傀儡子《リアルブレイドワーカー》】と呼ばれる業だ。本来であれば、戦場で斃れ戦闘不能となった対象を操る異能である。
 だが今回、剱は緊急時に仲間を救う為のその異能を、応用しようと考えた。
 即ち、斃れ伏した敵兵を手駒と変える為に。

 ──オォ……オオオオ!

 その狙いは、見事に的を得る。
 剱の異能の波動を受けて、周囲に倒れ伏していた者達がゆらりと起き上がる。そうして武器を構えて、押し寄せる敵へとその武器を振り上げたのだ。
 ……操り人形と化したその中には、剱によって頭を砕かれた者もいるが。その体をコントロールしているのは剱であるから、頭など無くとも問題は無い。

(そっちの手勢が増える程、こっちの手勢もまた増す、ってな)

 敵の長所である物量。それを己の手札と変えて、有効に活用する。
 敵将にとっては嫌らしい事この上無いだろうが……戦争というは畢竟、敵の嫌がる事をするという事に尽きるものだ。
 これも戦の習わしって事で、飲み込んで貰うとしよう。

「さぁ、やり合おうぜ。どっちが先に尽きるか、勝負だな──!」

 吠える剱の闘志がまた瞬き、新たな傀儡を支配下に置く。
 決戦の第一幕は、激しい乱戦によって幕を上げたのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アネット・レインフォール
▼静
やれやれ…まだ修行中だったんだが、な
こうも騒がしいと鍛錬にも支障が出てしまう(苦笑

邪魔者は一掃して親玉を…と行きたい所だが
敵の拠点では何が起こるか分からない

加えて――ここは戦場だ

時には大胆な動きも必要だが
今はある程度の罠はあると覚悟して臨むべきか

▼動
霽刀を手に改めて初心に返ろう。
敵の初期動作を見極めつつ最低限の動きで回避し
カウンターの居合で急所の切断を

建物や物陰等の地形を利用しフェイントを混ぜた高速移動で
敵を分断しつつ確実に仕留めていく

折を見て冷静に戦場を分析。

UCは攻撃の見切り・やり過ごす事に使用するが
魔軍将や猟書家の反応や位置の探索にも活用。
城、と言うからには隠し通路がありそうだが…





 至る所で刀槍の白刃が煌めき、奇声じみた雄叫びが轟く。
 戦場は、激しい乱戦と成り果てていた。

『オオオオオオォォォォォッッ!!』

 今もまた、轟く咆哮が空気を震わす。左腕を喪った落武者の一人が、眼前に立つ猟兵に向けて放った雄叫びだ。
 落武者は残った右腕に抜き身の刀を上段に構え、勢いのままに両断しようとその刀を振り下ろす。

 ──スッ……。

 だがその剛剣が斬ったのは、空気のみ。狙った猟兵の骨身どころか、髪の一筋すらも捉えない。
 猟兵には、視えていた。
 己を狙う殺気も、踏み込みの疾さも、振り上げられた刃の剣筋も。その全てが、視えていたのだ。
 で、あれば。回避する事は赤子の手をひねるよりも容易い事である。
 そして、全てが視えているのであれば。

「フッ──!」

 『後の先』を取る事もまた、容易い事だ。
 鋭く吹き出た呼気と共に猟兵が振るった白刃が、落武者の首を捉え──その首を、鮮やかに刎ねる。
 どう、と崩れ落ちる落武者の身体。流石に首を刎ねられてはどうしようもないのか、斃れたその身体が動き出す様子は無い。

「……やれやれ。まだ修行中だったんだがな、な」

 そんな落武者の様子に一瞥した猟兵──アネット・レインフォール(剣の異邦人・f01254)の口から漏れたのは、苦笑いだ。
 言葉の通り、ここ最近のアネットは鍛錬を積み直していた。だがそんなアネットを、世間は放って置いてはくれなかったのだ。
 ……こうも騒がしいと、鍛錬にも支障が出てしまう。であれば、この騒がしい事象を少しでも鎮めなくてはならぬだろう。

(とは言え、だ)

 愛刀を振るい血を振り落としつつ、アネットは思う。
 事態を鎮めるなら、元凶を叩くのが一番手っ取り早くはある。今回の場合で言えば、親玉……『晴明クルセイダー』なる男がそうだろう。
 だが、その肝心の相手は|眼の前の城《『魔空原城』》の最奥に居るのだという。
 つまり、地の利は敵にある。親玉を一息にという行動は、リスクが高すぎる行動であるだろう。
 戦場という場所は、何が起きるか判らぬ地。必要とあらばリスクを負う事に恐れは無いが、今この段階であればあまりリスクを負いすぎる様な行動は控え、堅実な動きを心掛けるべきだろう。

「そうと決まれば、初心に返るか」

 そうして指針を定めれば、アネットの動きに迷いは無い。
 細く、だが深く、長く息を吸う。腹の下、丹田を意識するように呼吸を巡らす。そうして呼吸を練り上げれば、呼吸は闘気へと変わり、膨れ上がり、漏れ出て周囲の空気を満たしていく。

 ──無式、俯瞰ノ眼。

 アネットは、剣士である。数多の鍛錬と実戦を超え、その武を積み上げてきた武人である。
 この異能は、そんな彼が積み上げた鍛錬の末に身に付けた異能の一つ。自身の周囲の事象を把握し予測する異能である。
 その有効範囲は、自身を中心点とした半径およそ17000m。
 それだけの距離を感知出来るのであれば、この戦場で起きる事の全てを把握する事も不可能では無い。

 ──戦況は、徐々にこちらに傾きつつある。
 ──城内からの増援は、無い。隠し通路の類なども無さそうだ。
 ──城の最奥に、一際強い気配を感じる。この悍ましさ、これが例の猟書家か。
 ──その気配とほぼ同等の気配が。今、大手門から──!

「──あの男は!」

 その男を、アネットは知っている。
 絶対の一に近い将。十二の刀を携え戦場を駆ける、『毘沙門天の化身』。
 その男の名は──軍神『上杉謙信』。
 戦国の世にて最強の将としても挙げられる男が、そこにいた。

「そうか。この後で俺達が相手をするのは、奴か」

 かつて相見え、討ち破った男。そんな男が、『魔軍将ゾンビ』として再び猟兵達の前に立ち塞がったのだ。

 ──ザッ!

 軍神が、軍配代わりに刃を振るう。その動きに従う様に、落武者達が動き出し、更に苛烈に猟兵達へと押し寄せる。
 ……どうやらあの男との再戦を迎えるには、やはりこの押し寄せる武者達を殲滅せねばならぬようだ。

「ならば、是非も無し!」

 奇声を上げて突っ込んでくる武者を一人、二人と。後の先を取り、鮮やかに斬り伏せる。
 その剣の冴えは、迫り来る強敵との戦いの予感に増々冴え渡るのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

月隠・望月
わたしの生まれたこのサムライエンパイアに、オブリビオンをのさばらせるわけにはいかない。過去が今を害することは防がねばならない。絶対に。

この落武者のオブリビオン、随分と打たれ強いと聞いた。不用意に刀で斬らないほうがよさそう。
であれば、【雷遁・霹靂の圏】を使って、敵が動けなくなるまで雷で攻撃し続けよう。
ただ、この術は敵味方を区別することができない。味方を巻き込まないよう、ユーベルコードを使う際は攻撃圏内に味方がいないことを確認しよう。

通常、雷に撃たれている間は身動きが取れないものだが……異常なまでの敵の信仰心は侮れない。いつ敵が攻撃してきても受けられるよう、無銘刀を構えておこう(【武器受け】)





 地に縛り付けられた『魔空原城』。その大手門から姿を見せた敵将、『魔軍将ゾンビ』と化した軍神の指揮を受け、武者達の攻めの苛烈さが増す。
 ……もし、もしもだ。今回の戦いにこのまま敗北し、『晴明クルセイダー』と化した猟書家の企みが果たされたとしよう。量産化された『魔軍将ゾンビ』によりこの攻めの勢いはエンパイア全土を瞬く間に覆い尽くし、蹂躙せしめる事だろう。

「──そんな事は、させない」

 頭に過ぎる最悪の結末を、月隠・望月(天稟の環・f04188)が断じるように呟く。
 望月は、このサムライエンパイアという世界で生を受けた羅刹である。感情の起伏こそ薄いが、家族への情は人並み以上である。
 そんな彼女であるから、故郷の危機を黙って見過ごす事など出来はしない。猟兵としての使命感以上に、この世界で生きる一人の羅刹として、この戦いに負ける訳にはいかないと。その戦意の高さは、並々ならぬ物があった。

(とは言え、だ)

 しかし高まる戦意とは裏腹に、望月の頭は冷静であった。
 思い返すのは、既に戦線に飛び出し乱戦を演じた同輩の戦いぶりだ。
 事前に聞いていた通り、敵の軍勢を構築する落武者のオブリビオン達の打たれ強さは相当なものだ。四肢を吹き飛ばされ、胴を貫かれてもお構いなしに、その手の武器をこちらへ叩きつけようと行動を止めぬ程である。

(これは、不用意に刀で斬らない方がよさそう)

 そんな敵の様子に、白兵戦という選択肢を望月は捨てる。
 では、どうするべきか。

「ここは、纏めて薙ぎ倒すとしよう」

 その答えを、望月は思考する事無く選び取った。
 腰に帯びた無銘の刀を抜き、構える。
 狙うのは、乱戦となった一帯を回避しこちらへ向かいつつある一群。
 その動きは、疾い。見れば負傷兵を再編したのか、身体の何処かを喪っている兵が大半である。
 本来であれば、そんな兵は戦いに耐えられる物ではないのだが……それを躊躇なく戦線に送り込んでくるとは。落武者達の狂気の程と、軍神の統率力の高さが窺えようと言うものだ。
 だが、あの乱戦地帯を迂回するという事はあの一群の中に同輩は居ないという事でもある。
 望月にとってその事実は、吉報と言えるものであった。

「すぅ──」

 深呼吸。高まる集中力。体を巡る戦意が練り上げられた闘気と変わり、膨れ上がって滲み出る。
 すると、どうした事だろうか。滲み出た闘気は、次第にバチリと音を立てて鳴る紫電へと変わる。

「《雷》、《領域》──」

 望月が為そうとしているのは、いわゆる『遁術』と呼ばれる術である。
 遁術とは、忍術の中でも特に攻撃を目的としないもの。敵から姿を隠したり、逃げたりする際に用いる術である。望月が今から使おうとしている【|雷遁・霹靂の圏《ライトン・ヘキレキノケン》】も、本来であればその遁術の基本から外れるものでは無い。

 ──だがその『遁術』も、|ユーベルコード《超常の術》の域に進化させれば話は別だ。

 音を立てる紫電の、その勢いが増していく。望月のその身へ、大上段に構えた刀へ、纏わり付いていく。
 そうして纏わり付いた、その力を。

「──悉く、撃ち滅ぼす」

 一息に、撃ち放つ。
 瞬間、轟く轟音。そして戦場が真白く染まる。
 望月が刃を振り下ろした、その刹那。刃に滞留していた稲妻が、敵勢に向けて撃ち放たれたのだ。
 有効射程は、百メートル弱。本来の稲妻という現象を考えれば、その射程は随分と短く思えるだろう。
 だがそれもそのはず。この術は、『対オブリビオン用に破壊力を高めた術』である。射程と引き換えに破壊力を得た、と言っても良いだろう。
 その破壊力の程は──その稲妻に呑まれた者が、一人の例外もなくその猛烈な|破壊力《エネルギー》を受けて炭化してしまった程である。

「……ふぅ」

 そんな圧倒的な光景を前にして、呼吸を整える望月。だが、その表情に緩みはない。
 敵軍の数は、まだ多い。異常なまでの信仰心は、人を容易く死兵へと変えてしまうからだ。
 ……そう。惨劇に斃れた同胞の躯を踏み越えてこちらに押し寄せつつある敵の後続の様に。

(過去が今を害する事は、防がねばならない。絶対に)

 自身が油断をすれば、猟兵としての使命を果たせない。護るべき者を、護れない。それだけは、譲ってはならぬのだ。
 次々に押し寄せる敵勢に向けて、放たれる望月の稲妻は止まらない。
 それは、彼女の誇り高さを示すかのように苛烈であった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

メディア・フィール
WIZ選択
プレイング改変・アドリブOK
他PCとの絡みOK

【なぎ払い】と【2回攻撃】を駆使して、戦場を切り裂くように走り抜けながら、その両側の軍勢を薙ぎ倒します。
一般兵とはいえ簡単には倒れないとのことで、ユーベルコードを適宜組み合わせて、確実に殲滅することを旨とします。

「信仰心のために戦う軍勢……やりにくい相手だな……」
「悪いけど、倒れてもらうよ! ボクは行かなくちゃならないんだ!」
「まだ辿り着けないけど、あの一軍からものすごい気迫を感じる……!
距離があるのにここまで気迫が伝わってくるみたいだ……。
そう、まるで具象化した神のような……」
「はぁ、はぁ、さ、さすがに疲れた……」(首筋の汗をぬぐう)



「やぁぁぁぁあああッッ!!」

 怒号と剣戟、爆音が渦巻く戦場に響く、裂帛の気勢。甲高い少女の声が轟くその度に、武者が一人、二人と薙ぎ倒され、吹き飛ばされて地に伏せる。

「はぁ、はぁ……!」

 肩で息をする少女が、首筋に流れる汗を拭う。
 少女の名は、メディア・フィール(人間の|姫《おうじ》武闘勇者・f37585)。己の肉体を武器とする拳闘家である。
 メディアは今、乱戦となった戦場の中心にいた。敵の軍列を切り裂き分断する事で、味方の優位を作り出そうと考えたのだ。
 その目論見は、最初の内は上手くいった。【|闘龍衝波撃《トウリュウショウハゲキ》】を軸に手数を活かし、押し寄せる敵兵を薙ぎ倒す事も出来ていた。
 だが──。

(信仰心のために戦う軍勢、やりにくい相手だな……!)

 その勢いは、弱まりつつあった。
 信仰心を糧に戦う敵兵は、非常に打たれ強かった。しかも一部の兵は、猟書家から『ゾンビ化処置』を施されているというおまけ付きである。
 その打たれ強さ足るや、一度二度と倒されても、完全に動けなくなるまで立ち上がり向かってくる程。あまつさえ、四肢をもがれようとも戦意が折れぬ程である。
 そんな相手を向こうに回せば、活力溢れるメディアであっても疲弊を覚えるのは当然の事であった。

(あと、もう少しのはずなんだけど──!)

 しかし肉体の疲弊は覚えていても、メディアの精神は折れてはいなかった。
 メディアの眼が睨むのは、この敵軍の壁を超えた向こう側。今も『魔空原城』の大手門付近に控える一隊である。
 メディアは感じていた。あの辺りから感じる、圧倒的な存在感を。並み居る雑兵とは格が違う、歴戦の気配を。
 恐らくは、この存在こそがこの軍の将。グリモア猟兵が語っていた、『魔軍将ゾンビ』と呼ばれる存在なのだろう。
 だがその存在感は、まるで戦の神という存在を具象化したかの如くでは無いか……。

 ──このエンパイア世界出身では無いメディアは、識らない。
 ──そこにいる男は、かつて戦国の世に於いて『軍神』と呼ばれていた事を。
 ──メディアはただ、その存在感だけで、その男の特質を感じ取ってみせたのだ。
 ──その感性の鋭さの、なんと見事な事だろうか。

 |閑話休題《話を戻そう》。
 メディアは今、確かに敵の将の位置を掴んでいる。その事実を理解しているから、疲弊はあっても心は折れていなかった。
 だが、しかしだ。敵の本陣に近づけば近づく程、敵将に中てられたのか。武者達のその抵抗も、激しさを増すのは当然の事である。

『キェェェェェェイ!!!』
『エ゛ェェェイメ゛ェェンッッ!!』

 まさに今、メディアに向けて敵兵がその刀槍を向けて突き出してきたように。
 裂帛のその気勢は、並の者が受ければ一瞬で魂を震わせてしまうだろう。そうして対応が遅れ、そのまま刀槍の餌食となってしまう事だろう。

「邪魔だぁっ!!」

 だが、それはあくまで並の者が相手であればという話。
 かつてならばいざ知らず。今のメディアは、様々な経験を積み上げた立派な猟兵だ。この程度の修羅場に怯えるような事は無い。
 突き出された槍の穂先を手甲で叩いて逸し、刀が振り下ろされるより疾くその懐へと飛び込んで。

「闘龍、衝波撃ッ!!」

 拳から生じた衝撃波を、直接武者へと叩き込む。
 激しい衝撃波に、吹き飛ぶ武者達。立ち上がってくる様子は無い。どうやら今の一撃は、敵の体の内部を破壊したようである。

「悪いけど、ボクは行かなくちゃいけないんだ!」

 そんな敵を一瞥し、身構えるメディア。
 その体は肩で息をする程に消耗してはいたが……その眼は確かに、進むべき道を睨み続けていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

秋月・信子
●POW

開門された魔空原城から溢れ出てくるこの臭いは…死臭ですね
話通りだと魔将から雑兵まで全てが|生ける屍《ゾンビ》…過去から滲み出たオブリビオンも同じ物ですから恐れることはありませんが、|心臓《コア》を撃ち抜いても襲ってくるのなら厄介なものです

とは言え、頭を弾けさせるのも抵抗がありますから…マン・ストッピングパワーに優れたホローポイント弾を更に強化させる概念の【呪詛】を込めた魔弾を撃ち与えて神経伝達の遮断を図ります
それでも尚、怨念を纏って立ち上がるのであればアサルトバニーの機動性で斬撃波を躱し、【カウンター】に『浄化の魔弾』を撃ち込んで無情なる無念をクルセイダー…いえ、晴明から解放させます





(この臭いは……死臭、ですね)

 乱戦の最中、秋月・信子(|魔弾の射手《フリーシューター》・f00732)が眉を顰める。
 信子が感じたのは、生命活動を終えた肉体が劣化し腐敗していく際に生じる臭い。いわゆる、死臭と呼ばれる臭いであった。
 その臭いは、眼前の敵兵や大手門に控える敵本陣のみならず、地に縛り付けられた『魔空原城』からも溢れ漂っている様に信子には感じられた。
 ……敵軍は、将から雑兵に至るまでが|生ける屍《ゾンビ》。であれば、その本拠であったあの城からも同じ気配が漂うのは道理だろう。

(その事を、恐れる事はありませんが……)

 信子とて、経験を積んできた歴戦の猟兵の一人である。過去にはもっと悲惨な状況下での戦いだって経験済みだ。
 故に今日のこの戦場に怯みを覚えるような事は無いが……。

(今回の敵は、とにかく厄介です、ねっ!)

 |心臓《コア》を撃ち抜いても怯まず襲いかかってくるという今回の敵の厄介さには、流石に辟易とした様子であった。
 ……とは言え、そんな相手との戦いとなる事を聞いて準備を怠る様な信子では。今回の為に、それなりの準備を信子はしてきていた。
 その最たる物が、使用する銃弾である。
 信子は、|銃射手《ガンナー》として類まれな才覚を持つ猟兵だ。特に拳銃の扱いに優れ、過去にもその武器で多くの戦いを乗り越えてきていた。
 そんな彼女が今回用意してきたのは、ホローポイント弾と呼ばれる銃弾だ。
 この銃弾の特徴は、マン・ストッピングパワーに優れる事。弾頭部に凹レンズの様なくぼみを持たせた特殊な形状をしており、命中時にそのくぼみが変形・拡張する事で対象により多くの運動エネルギー──即ちダメージを与える効果を持つ、対人・対動物を念頭に置いた弾丸である。

『キィェエエエエエ──!』

 ──タタンッ!

 そんな弾丸が装填された拳銃を、気勢をあげながら突っ込んできた敵兵に向けて放つ。
 胴丸鎧を避ける様にダブルタップで放たれた弾丸は、敵の太腿を見事に撃ち抜き──内部でその運動エネルギーを放出させ、体内組織を搔き乱す。
 その衝撃に、刃を掲げたままどうっと前のめりに敵は崩れ落ちる。
 立ち上がる素振りは、ない。激しく全身を痙攣させるのみである。

「ふぅ……」

 用意した準備がしっかりと効果を発揮した事を認めて、信子の口から安堵の息が零れ出る。
 信子が用意したホローポイント弾は、今回の戦いの為に用意した特別製であった。神経伝達を遮断し身動きを封じる、呪詛の概念が込められていたのだ。
 いくら打たれ強く簡単には斃れぬ敵だとは言え、身体を動かす為には脳からの指令が伝わらなければ動けない。その為、他の猟兵は首を刎ねるなどして敵の動きを封じていた。
 信子も、その事は理解していた。だが流石に頭を弾け飛ばすのには抵抗があったが……この弾丸を用いる事で、頭を弾けさせずとも相手の神経伝達を遮断させて動きを封じる事が出来るのだ。
 自身の扱う武器の知識と、人体に関する造詣。勉強家でもある信子だからこそ導き出せた答えと言えるだろう。

『ぐぅ、ぅうグ、オオオオ……!』

 しかし、その安堵も束の間。響いた呻き声に、信子の表情が変わる。
 その呻きの発生源は、倒れ込んだ武者。神経伝達を遮断されているはずなのに、刀を杖に立ち上がろうとしているでは無いか。
 ……見ればその身には、強烈な負の情念が纏わり付いている様に見える。どうやら倒された同胞達の怨念を纏う事で、無理やり身体を動かしているようである。

(なんて、酷い……)

 そんな敵の姿に、信子が抱いたのは憐憫であった。
 戦場で無念の死を遂げ、オブリビオンとして復活を遂げてなお、『晴明クルセイダー』の手駒として酷使される。
 その様の、何と残酷な事か。

(その無念、開放しなければ)

 憐れみの念を覚えた信子が、拳銃の弾倉を取り替える。
 新たに装填した弾丸は、【|浄化の魔弾《バーガティブ・ショット》】。穢れを浄化する力を籠めた、魔弾である。
 そうして銃口を、今度は敵の胴体へと向けて指向して。

 ──タンッ!

 響いたのは、一発のみ。
 言葉なき祈りと共に、撃ち放たれたその銃弾は、胴丸鎧に触れると弾かれる事無く光に変わり。

 ──どうっ……!

 そのまま武者の胴体を、撃ち貫く。
 重い音を立て、再び崩れ落ちる落武者の身体。
 今度は痙攣する様子すら見られない。その死に顔もどこか安らかな様にすら信子には見えた。
 どうやら今度こそ、完全に討ち倒す事が出来たようである。

(死者の無念、魂を、こんな風に弄ぶなんて)

 そんな武者の姿に、信子の胸に宿るのは義憤。クルセイダー……いや、その身を乗っ取った安倍晴明への怒りだ。
 生者の未来、そして死者の安息。|生命《セイメイ》を弄ぶ男。
 その男を護る最大の壁との戦いの時は、すぐそこに迫っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『軍神『上杉謙信』』

POW   :    毘沙門刀連斬
【12本の『毘沙門刀』】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD   :    毘沙門刀車懸かり
対象の攻撃を軽減する【回転する12本の『毘沙門刀』】に変身しつつ、【敵の弱点に応じた属性の『毘沙門刀』】で攻撃する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    毘沙門刀天変地異
「属性」と「自然現象」を合成した現象を発動する。氷の津波、炎の竜巻など。制御が難しく暴走しやすい。

イラスト:色

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。




 『魔空原城』より出撃した、無数の落武者達。
 『島原一揆軍』を構築するその軍勢を、猟兵達はそれぞれの手段を用いて駆逐し、突破し……遂に、大手門の敵本陣へと辿り着く。

『──来たか』

 そこに居たのは、一人の偉丈夫だった。
 白布を纏った男だ。細身の体躯から滲む存在感は強烈で、相対するだけで消耗してしまいそうだ。

『流石は、グリモアの予知を得た者達ということか。なれば、私も一切の油断はすまい』

 淡々と語る男の周囲には、浮かび上がる十二の刃。漂うその刀は、それぞれに違う属性の力を持つ毘沙門刀。
 間違いない、この男は──かつてエンパイアウォーで猛威を振るった『魔軍将』が一人、『軍神』上杉謙信だ。

 ──我が武には、毘沙門天の加護ぞある!

 『魔軍将ゾンビ』として蘇った身ではあるが、その力と理性はかつてと同格。決して油断をして勝てる相手ではないだろう。
 |猟書家の首魁《オウガ・フォーミュラ》へと至る前の、最大の障壁。
 戦国最強の将との幕が、切って落とされた。

 ====================

●第ニ章、補足

 第ニ章はボス戦。
 『魔軍将ゾンビ』として復活した、『軍神』上杉謙信との決戦です。

 断章中の描写にある通り、その能力や理性は以前と同格の、強敵です。
 参考までに、エンパイアウォー時の『軍神』戦は ↓ こちら ↓ になります。
( https://tw6.jp/scenario/show?scenario_id=12870 )
 読まずにご参加頂いても問題はありませんが、戦い方のヒントなどになるかもしれません。

 先制攻撃能力などの特殊な能力はありませんが、その戦闘力は強力の一言。かつてと同じく、『純粋に強い』敵となります。
 とは言え、猟兵達もかつてと比べれば経験を大きく積み上げています。
 かつてとは違うのだ、という所を毘沙門天の化身にお示し下さい。

 戦場は、『魔空原城』の大手門前。一揆軍の本陣内での戦いです。
 障害物等は特に無いため、戦闘に支障を来す様な事は無いでしょう。

 猟兵達の前に立ち塞がるは、『軍神』上杉謙信。
 戦国の世において最強の名に最も近いその男を、猟兵達は超えられるか。
 皆様の熱いプレイング、お待ちしております!

 ====================
メディア・フィール
POW選択
プレイング改変・アドリブOK
他PCとの絡みOK

魔軍将ゾンビとはいえ、相手は伝説の武人なので真正面から立ち向かいます。とてもかなわず敗れるでしょうが、それでも敵の消耗に一役買うことぐらいはできるでしょう。

「拙い知識で申し訳ないが、聞けば伝説の武人とお聞きする! ぜひ、尋常に勝負願いたい!」
慣れない口調で勝負を申し込む。
しかし、この軍神、純粋に強いのだ。
ユーベルコードではなく、ただ純粋にあらゆる実力で上回ってくる。
「けど、ボクだって竜の、暗黒竜の力を制する猟兵だ!」
その制御された暗黒邪炎が軍神を攻撃しつつ、竜の力を抑え込む。龍殺しの力ではないが、それは軍神の力を削ぐ役には立った。





 上杉不識庵謙信。かつて戦国の世にて、越後国を領した戦国大名である。
 領国に因む『越後の龍』。生涯に渡り信仰を続けた仏神に因む『毘沙門天の化身』。度重なる諸侯の声に応え続けた事に因む『義将』……その異名は、あまりにも多い。
 ではその枚挙に暇が無い異名の中でも、彼の名を飾る異名の最たる物はなんだろうか。
 多くの人に尋ねれば、答えの多くは重なるだろう。

 ──『軍神』。

 記録に残る生涯七十余の戦に於いて、彼が明確に敗れたとされるのは二度のみ。その軍才武才は、|時の天下人《織田信長》や|隣国の好敵手《武田信玄》からも讃えられた程である。
 それ程の男だ。『軍神』と崇められるのも、当然の事であろう。

「上杉謙信公。聞けば貴方は、伝説の武人とお聞きする! ぜひ、尋常に勝負願いたい!」

 そんな青史に名を刻んだ武人に対し、真っ向勝負を望み出たのはメディア・フィール(人間の|姫《おうじ》武闘勇者・f37585)だ。

(この男、純粋に強い!)

 武闘家であるメディアである。その眼で相対する者を見れば、そのものがどれだけの武を積み上げてきた存在なのかはよく分かる。
 そんなメディアの眼から見て、眼の前に立つ軍神のその強さはまさに別格。|異能《ユーベルコード》の力に頼らずとも、ありとあらゆる面で今の自分の実力を上回っているのは明白だ。

(だからこそ、挑み甲斐があるんだ!)

 そんな相手だからこそ、真っ向から挑みたい。今の自分の実力を底まで出し切り、高みにある存在に示したい。
 圧倒的強者に対し、臆せずに。メディアの眼には、力強い光があった。

『その意気や良し。来るが良い、娘よ』

 そんなメディアの挑戦に対し、軍神の口の端が僅かに緩み──構えを取る。
 その構えは、一見すれば弛緩したように見える構えだ。周囲に浮かぶ毘沙門刀も、素人目に見ればただ浮いているだけにしか視えぬだろう。
 だが。

(隙きが、無い──!)

 メディアには、判る。その構えも、浮かぶ刀も、その全てに隙が無い事を。むしろその構えと向き合うだけで、向けられる圧が更に強まっている様な錯覚すら覚える程である。
 軍神は、語っていた。一切の油断もするまい、と。どうやらその言葉の通り、猟兵達を最大の脅威と捉えて相対しているようである。
 どうする? どう戦う? メディアの頭に、迷いが浮かび……。

 ──いいや、迷うな!

 直後、その迷いを断ち切る。
 そうだ。相手が格上な事など判っていた。この力が通じない可能性だって、判っていた。それでも挑むと、そう決めたじゃないか。
 怯えるな! 迷うな! やるべき事は唯ひとつ!

「ボクだって竜の、暗黒竜の力を制する猟兵だ!」

 この身に宿したその力を、全力で叩きつける。それだけだ!
 覚悟を決めたメディアの身から、膨れ上がる闘気。
 それは、漆黒に燃える暗黒の炎。正義の心で制御する、闇の力であった。
 練り上げるその力を、拳に纏わせて──。

「|【邪竜黒炎拳】《ジャリュウコクエンケン》──!」

 その拳を鋭く突き出せば、炎が空気を裂いて撃ち放たれる。
 放たれた炎は、軍神へと一直線に伸びていく。
 その姿はまるで、竜が獲物を喰らわんと|顎門《あぎと》を開く様子そのものだ。

『竜、か。何とも面映ゆい物があるが……』

 だがその様子を見て、軍神に焦りは無い。むしろどこか気恥ずかしそうなくらいである。
 先にも触れた通り、彼の異名の一つは『越後の龍』。つまり龍という存在も、彼を示す一つの要素である。
 そんな力で、メディアは彼に挑んだのだ。その様子に軍神が何とも言えない気持ちになったのも、致し方ないと言えるだろう。

『死なんと欲すれば生き、生きんと欲すれば必ず死するものなり』

 とは言え、その評定はほんの一瞬のこと。
 まるで軍配を振るうかの如く、軍神がその右に握る黒刀を掲げれば──応えるように、滞空する十の刀が動き出す。
 渦を巻く様に動く刀のその様子を、もし往時の上杉家を識る者が見ればこう思うだろう。
 まるで上杉家の軍法の真髄、『車懸り』の陣立てでは無いか、と。

『──参る!』

 【毘沙門刀車懸り】、そう名付けるべき構えをとって、軍神が迫り来る炎の竜とぶつかり合う。
 瞬間、爆ぜる発光。吹きすさぶ旋風が、陣幕や床几を薙ぎ倒す。その凄まじさ足るや、目も開けていられない程だ。
 このぶつかり合いは、どうなったのか──。

「うあっ!?」

 直後に響いた悲鳴で、その結末は明らかとなる。
 響いたのは、甲高い少女のもの。即ち、メディアの悲鳴だ。
 地に膝をつき蹲るメディアの全身には、大小様々な刀傷が刻まれていた。そしてそんな彼女の背後には、威風堂々と軍神がその姿を示していた。
 その光景を見れば、理解できるだろう。メディアの炎は軍神に突破され、その身を斬り刻まれたのだ、と。
 メディアの、完敗。傍目から見れば、そう見えるだろう。
 だが──。

『見事な覚悟であったぞ、娘よ』

 当の軍神自身が、それを否定する。
 見れば、軍神がその身に纏う毘沙門刀の内の三振りに、罅が生じている事が判るだろう。
 罅が入ったのは、『水』と『氷』、そして『光』。つまり『暗黒』の『炎』と相対する属性刀であった。
 更によく見れば。軍神が纏う白布も、その至る所が熱に焼け焦げている様子である。
 つまり、メディアはただやられた訳ではない。その力は限定的ながら軍神に届き、傷を刻む事に成功したのだ。

『その覚悟に免じ、追い打ちはしまい。一度、退くが良い』

 だが、メディア自身が深い傷を負ったこともまた事実ではある。
 軍神の情けを受け、ふらつきながらその場を退くメディア。
 そんな彼女を、軍神は微笑ましげな眼で見送っていた事に、メディアは終ぞ気付くことはなかった。

成功 🔵​🔵​🔴​

備傘・剱
潔い相手だと思ってたが、案外、しつこい奴だったんだな
本物かどうか、まずは手合わせ、だな

相手の攻撃をオーラ防御と結界術とフォトンガントレットで捌いて致命傷を避けつつ、式神を使って、相手のかく乱をするぞ
そして、一瞬でも隙が生まれたら、念動力で動きを封じ、麒麟閃を叩き込んでやる
避けられても、そのまま、戦闘力を上乗せした鎧砕きを乗せた二回攻撃を叩き込んで、手傷を負わせる

全く、こんな形でもう一度、戦いたくなかったもんだな…
出来れば、正々堂々、試合って形で手合わせを願いたかったが、なぁ

敵同士とはいえ、美味い酒が飲める相手だと、思ってたんだよ、こいつとは、な

アドリブ、絡み、好きにしてくれ





 傷を負い、一度退く少女猟兵。その姿を、軍神が見送る。
 どこまでも武人然とした、まるで絵巻物にでも描かれる様なその光景に……備傘・剱(|絶路《ゼロ》・f01759)は確信を得る。

 ──ああ、こいつは上杉謙信なのだ、と。

 剱は、エンパイアウォーと呼ばれたかつての大戦の折に、この軍神と対峙していた。
 その際の戦績は、毘沙門刀の一本を奪うも、大きな負傷を負わされての痛み分けであった。
 その事を、恨みはしていない。命を賭けて死合う以上、怪我を負わされる事など当たり前なのだから。
 むしろ剱が軍神に覚えたのは、親しみだ。敵同士であるとは言え、旨い酒が飲める相手であろうと。
 剱はそう、思っていたくらいである。

(全く。こんな形でもう一度、戦いたくはなかったもんだな)

 叶うのならば、今度は試合という形で。只々、己の腕のみを競い合う、正々堂々とした手合わせを願いたかった。
 重ねて。剱は、そう思っていたのだ。

「──潔い相手だと思ってたが。案外、しつこい奴だったんだな」

 だが、その思いが果たされる事は無い。
 軍神は『晴明クルセイダー』の手により『魔軍将ゾンビ』として蘇り、再び猟兵達の前に立ち塞がったのだ。
 胸に浮かぶ、寂寥に似た念。その念に蓋をするように。軍神を蔑するように、立ち振る舞う。

『……言い訳はせぬ。今、此処で起きている事のみが事実である故、な』

 そんな剱の言葉を、軍神は甘んじて受け入れる。
 軍神とて、此度の戦いは本意では無いはずだ。生殖型ゾンビなどという存在に押し込められ、手駒として扱われる様な扱いなど、軍神からすれば業腹も良いところであろう。
 だがそれでも、かつて『またやりたいものだ』と告げた男に対して言い訳の一つもしないその態度は、やはり高潔な武人としての彼の気質故であろうか。
 ……ともあれ、こうなってはもう言葉を交わす事に意味は無い。

「往くぞ──」
『──応』

 ならば、後は干戈を交えるのみ。
 身構える剱に応えるように、軍神も構える。
 睨み合う二人。高まる緊迫感に、周囲の空気が歪み──。

『──オオオォッ!!!』

 先の先を取るように動いたのは、軍神だった。
 裂帛の気合と共に放たれる、毘沙門刀の数々。複数の属性が重ねられ混じり合う、局地的な天変地異と評すべき猛攻が剱を襲う。

「ハァッ──!!!」

 だがその悉くを、剱は凌ぐ。
 時に身を覆う闘気で刃を弾き、時に結界で襲い来る自然現象を阻む。また時には召喚した式神を以て、毘沙門刀を振るう軍新本人をすら狙ってみせる。

「卑怯とは、言わんよな!」
『応とも。使える手立ては全て使ってこその、|武人《いくさびと》なれば!』

 交錯する闘志が弾け、また再び巻き起こる天変地異が剱を襲う。
 ……そうして干戈を交えること、幾度か。
 遂に、その瞬間が訪れる。

 ──ピキッ……!

『──むっ!?』

 生じる金属の破断音。瞬間、軍神の表情が歪む。
 軍神の眼が睨むのは、自身の毘沙門刀。その十二あるその内の、『水』と『氷』、そして『光』の属性を帯びた物だ。
 ……それらは、先程撤退した少女猟兵が傷を負わせた刀達。剱の粘り強い守りによってその傷は更に深まり、遂に今破断の時を迎えたのだ。

(好機……!)

 その隙を見過ごす程、剱は甘くない。

「来たれ、麒麟! 我が身に宿りて、疾走せよ!」

 ほんの僅かに薄くなった天変地異を縫うように吼える。その咆哮で闘気が唸り、紫電と変わる。
 バチリバチリと迸る、紫電のその猛りが命じるままに地を疾駆し、軍神の懐へと潜り込む。
 そうしてそのまま、軍神が手に携える白黒二刀を構えるよりも疾く──。

「汝を妨げるもの、一切無し!」

 後ろ回し蹴りにて、その胴の中心を穿つ!

 ──轟ッ!!!

 響く炸裂音。空気を切り裂く様なそれは、剱の後ろ回し蹴りの重みがどれほどのものかを知らしめるようだ。
 この業こそ、|【麒麟閃】《ライジングスラスター》。|異能《ユーベルコード》の域にまで達した、剱の鍛錬の証である。

『がっ、ぐぅ──!』

 軍神の口から、苦悶が漏れる。
 見れば、軍神のその胴は大きく抉れていた。鎧をも容易く砕く蹴りの重みに、肉体が耐え切れなかったのだ。
 だが──。

 ──ぐちゅ、ぐちゃ……。

 直後、抉り取られたその部位の肉が蠢いて。結びつき、その傷口を塞いでいくでは無いか!
 これは、一体……!?

『……どうやらこの体は、『陰陽師』の手により弄られているようだ』

 その答えをいち早く察したのは、当の本人である軍神だった。
 そう。今の軍神は『魔軍将ゾンビ』。『晴明クルセイダー』の手により造られた存在だ。
 そのベースとなる肉体は、彼が生み出した『生殖型ゾンビ』である。
 つまり、今の軍神の身体には。先程戦った落武者達と同じ様な処置が、晴明の手により施されているのだ。
 ……その事実を今識ったか。『軍神』のその表情には強い嫌悪の色があった。

「チィッ……」

 そしてその表情を見て、剱の口から舌打ちが漏れ出る。
 『軍神』上杉謙信。その魂を弄ぶような悪意に、明確な怒りを抱いたのだ。
 そしてその怒りを抱いたまま……改めて、剱が構えを取る。

「ならば、その小細工ごと、消し飛ばすまでだ」

 この高潔なる武人の魂を解き放つ為には、完膚無きまでにその存在を消し去るしか手段は無い。
 剱のその戦意は他の猟兵達へと伝播して……戦いは一層、激しいものへとなっていく。

成功 🔵​🔵​🔴​

サンディ・ノックス
覚えてる
このヒトのことは覚えている

当時はまだ未熟だった俺だけどこのヒトの強さに惹かれた
正面からぶつかって戦ったけれど当然倒すことは叶わなかった
そんな俺の傷を癒し認めてくれた謙信さん
その器の大きさに感服したしとても嬉しかったことを覚えてる

あの時と同じように一番使い慣れた武器と技で勝負を挑む
見てほしい、俺の成長を

あのヒトが攻撃回数を活かして戦うならば
俺は命中率を重視して確実に12本の刀をいなし
命中率を重視するなら俺は攻撃力を高めて押しきろう

この戦いで動けなくなることは致命的だから
攻撃を受け流してダメージを受けないよう立ち回る
攻撃を加えるチャンスは一度と思え
僅かな隙を突き、ありったけの力を込めて斬る





 猟兵達の猛攻を、軍神は単身凌ぎ、捌く。
 その姿はまさに、かつての戦いのそれと瓜二つだ。

(ああ、覚えている通りだ。あの時の、|上杉謙信《このヒト》のままだ)

 そんな『軍神』のその姿を、サンディ・ノックス(調和する白と黒・f03274)が見ていた。
 サンディもまた、かつての戦いで『軍神』と刃を交えた猟兵の一人である。
 『魔軍将ゾンビ』などという存在に貶められてもなお、高潔であり、何よりも圧倒的なその武。一つの極みを体現するかのようなその姿は、当時のサンディが憧れを覚えた、あの時の『軍神』上杉謙信のままであった。

(あの時は、当然倒す事は叶わなかった)

 当時のサンディは、未熟であった。防御を捨てて真正面から挑み、深い傷を追わせた物の致命の傷を負わされた。
 今、サンディがこうして生きていられるのは、上杉謙信がサンディを認めてくれたからだ。『薬』の力持つ毘沙門刀にて自身の傷を癒やした後、サンディの傷すらも癒やしてくれたのだ。
 その強さと、敵であれ認めた者の傷を癒やす器の大きさ。サンディでなくとも感服しようというものである。
 ……あの恩がありながら、こうして武器を向けようとしている。
 それは、不誠実な事だろうか。

(いいや、そんな事は無いはずだ)

 もしそう尋ねられたのならば、サンディは否と返すだろう。むしろ、この状況であるならば戦うことこそが恩返しであるとすら答えるだろう。何故ならば、上杉謙信は今、『魔軍将ゾンビ』と言う枷に囚われ使役されている状態だ。ならば今の彼を討ち倒し、その魂の自由を取り戻す事こそが、『軍神』の誇りを護り、恩を返す事に繋がるはずだからだ。
 それに、何より……。

(彼に、見てほしいんだ。俺の成長を)

 あの時の未熟だった自分とは違うのだ、と。恩を掛けてくれた彼に、『殺しに来い』とそう言ってくれた彼に。この刃を届ける事こそが、最高の恩返しとなるはずだ、と。
 サンディは、そう思うのだ。

「──さぁ、宴の時間だよ」

 瞬間、サンディの身体から膨れ上がる|闘気《殺意》。
 深く濃い漆黒の闇の様なソレは、彼が宿した昏い魂の奔流だ。
 彼の力の在り様を示すその力の奔流を感じて、『軍神』がその眼を向けて──その口元を綻ばせる。

『──待ち侘びたぞ』

 『軍神』は、美しく笑んでいた。かつての戦いで見せた笑みと、同じ様に。どうやら彼もまた、サンディを覚えていたようである。
 交錯する、サンディと『軍神』の視線。
 言葉は、要らない。こうして戰場でまた巡り会えたのならば、為すべき事は唯一つなのだから。
 そう、為すべき事は──あの日の、続きだ。

『来るが良い、猟兵』
「言われずとも!」

 黒剣を抜き放ち、サンディが駆ける。
 気づけば、サンディの身を覆う漆黒の闇はその姿を変え、漆黒の全身鎧へと変じていた。まさに、あの時の死闘の再現である。
 だが、違う所を挙げるとするならば……。

『くっ……!』

 サンディの踏み込みの疾さが、あの時とは桁違いに増している事だろうか。
 疾風の如き疾さのサンディの踏み込みに舌を打つ軍神が、毘沙門刀を展開し陣を敷く。車懸りの手数で以て、その素早さを殺そうと目論んだのだ。
 絶え間なく襲い来る、毘沙門刀の連撃。
 かつてのサンディでは凌ぎ切れず、破れかぶれの一打を選ばざるを得なかったその猛攻を前にして。

「ハァッ!」

 今のサンディは、一撃一撃を的確に受けて、流していく。

(視える。謙信さんの攻撃が、視える──!)

 疾風の如く襲い来る『風』も、熱を帯びた『火』も、何よりも硬い『土』も。『樹』も、『薬』も、『毒』も、『闇』も。その全ての剣筋が、纏う属性の動きも。
 文字通りの全てが、サンディには視えていたのだ。
 ……攻撃には、打って出ない。視えているとは言え、無理に攻め急げばその焦りを確実に突かれる。
 一巡、二巡、三巡……受け流す事、幾度。全てを見極めながら、サンディはその時を待ち続けて──。

(ッ、いまっ!)

 ──唐突に、その時が来た。巡る毘沙門刀の車懸りに、乱れが生じたのだ。
 サンディとの戦いが始まる以前に、『軍神』はその毘沙門刀の内の三振りを喪っていた。その事が、車懸りの陣形に僅かなズレを齎し、僅かな隙を生じさせたのだ。

「おおおおッ!」

 轟く咆哮と共に、生じた隙間にその身を捩じ込む。
 目を見開く『軍神』。そんな彼に向けて、黒剣を大上段へと構えて。

 ──斬ッ!

 その剱を、振り下ろす。
 振り下ろされたその黒刃は、『軍神』の右鎖骨から左脇腹に掛けての線を一直線に断ち切る。

『ご、ふっ……!』

 直後、『軍神』が喀血する。今の斬撃で、臓腑を傷つけられたのだろう。
 しかし彼がサンディを見るその眼に、負の色は無かった。

『見事だ、猟兵』

 むしろその言葉の通り。サンディの成長を称え寿ぐような、喜色に輝いていた。
 だが──。

『しかし、まだ私は斃せぬようだな』

 続くその言葉も、また事実であった。
 見ればサンディが刻んだその傷口が、先程と同じ様に徐々に塞がっているのが目に入るだろう。どうやら『晴明クルセイダー』が施した仕掛けは、まだその力を維持し続けているようである。

『相済まぬが、今暫し付き合ってもらうぞ、猟兵達よ……!』

 ゆらり。身体を揺らして、『軍神』が再び身構える。
 だがその姿から感じる威圧感は……明らかに、弱まりを見せつつあった。

成功 🔵​🔵​🔴​

アネット・レインフォール
▼静
…軍神、再びか

奴と俺のスタイルは良く似ている
問題は懐に飛び込み一撃を与える方法か

だが…半端な一撃では決定打に欠ける
六連舞や九天一仭は強力だが届く前に遮られるだろう

さて――

▼動
念動力で武器を刀にぶつけ牽制と陽動
早業で間合いを詰め、霽刀でカウンターの貫通攻撃を試す

当時のままなら有効打と成り得る筈だが…軍神の名は伊達ではないか
いっそ鍛錬の経験とか聞いてみるか
参考や共感できる点があるかもしれん(苦笑

…ずっと考えていた
手数を増やす事には限界がある…少なくとも、今はまだ。
では、どうするか?

解:己自身を武器とするのさ

UCの数体で刀の足止めさせ残りは全て居合で本体を狙う
…未だ理想形には至ってはいないが、な


月隠・望月
エンパイアウォーでの上杉謙信がいかに強敵であったかは聞き及んでいる。厳しい戦いになるだろうが、勝たなければこの世界は守れない。

敵が扱うのは12本の刀、であれば単純だが数には数。【百剣写刃】で無銘刀を複製して操り、攻防に使おう。
敵が刀に変身するのであれば、その刀を破壊すれば攻撃が通るはず。生中な攻撃ではダメだ、無銘刀が壊れるくらいの威力で何度も同じ箇所に攻撃し続けよう。刀が足りなくなればまた複製すればいい。

敵の攻撃は【結界術】で強化した無銘刀で防ぎたい(【武器受け】)。火剋金、わたしが金属の刀を使う以上、弱点は火属性。そこをついてくるとも限らないが、無銘刀に【火炎耐性】を付与して備えておこう。





 幾度その身に致命の傷を刻まれようとも、呪いの如き力でその傷を無かった事とする。
 純粋に強いと評される『軍神』上杉謙信に、その様な能力を加えるとは。『晴明クルセイダー』の、何と悪辣な事だろうか。

(半端な一撃では、決定打に欠けるか)

 しかしその事実を理由に、臆する者など猟兵にはいないだろう。
 事実、アネットは既に己の頭の内でこの事態を打破する為の方策を打ち出そうとしていた。

(つまりは、とにかくデカいのを叩き込めば良いわけだ)

 その方策とは、単純明快。『相手の回復力を上回る強力な一撃を叩き込む』という、実にシンプルなものであった。
 だが、しかし。

(六連舞や九天一仭……ダメだな、届く前に遮られるか)

 言うは易しという言葉の通り。そのプランを実現させるのは中々に難しい事も、アネットは理解していた。
 アネットの頭の中では、鬼札と言うべき業を放つ瞬間に、|逆撃《カウンター》を受ける絵面が視えていた。
 強烈な一撃というのは、放つ前の溜め、放った後の反動など、総じてリスクが付き物だ。そのリスクの瞬間を、軍神の毘沙門刀が貫く未来がアネットには視えたのだ。アネットと軍神はその戦闘スタイルが非常に似ているが故、その未来視の確度は非常に高かった。
 しかし、そうなるとどうするべきか。
 アネットとしては、分の悪い勝負は嫌いではない。だが、この戦いはあくまで前哨戦。この後に本番が控えている以上、後先考えない行動は出来る限り控えたい所である。

「軍神、再びか……」

 さて、どうするべきか。思案を巡らすアネットが我知らずに零したその呟きを、望月が耳にする。
 かつてのエンパイア・ウォーにおいて、望月は上杉謙信と交戦はしていない。だが彼がどれほどの難敵であったかは、望月も当然聞き及んではいた。
 そんな話に聞いていた存在が、今こうして目の前にいる。それも厄介極まる能力を|身に付けて《植え付けられて》、だ。厳しい戦いになるだろう事は、明白だ。
 だが──。

(勝たなければ、この世界は守れない)

 そうだ。どんな難敵が相手であろうと、戦わなければ。そして勝利を収めなければ、この世界は守れないのだ。
 故に、望月は動く。帯びる無銘の刀を引き抜き構えて──。

「刃圏、拡大」

 鍵となるその言葉を呟けば、爆発的に膨れ上がる闘気がある物体を作り出す。
 それは、刀だ。望月がその手に握る、刀だ。
 無銘のその刀が、数えること百余り。望月の周囲に侍るように浮かび上がって。

「【|百剣写刃《ハンドレッド・ブレイド》】、切り刻む」

 一斉に、軍神へ向けて襲い掛かる!
 戦闘に関する類期な才覚を持つ望月は、直感していた。軍神のその弱点は、彼が振るう毘沙門刀にあると。
 軍神が振るう|異能《ユーベルコード》は、その多くが毘沙門刀の力に由来する物である。
 ならば、その毘沙門刀を破壊する事が出来たのならば。相手の力を幾らかは減じ、攻撃を通し易くする事が適うのではないか、と。望月は、そう考えたのだ。

『成る程、数には数。物量で毘沙門刀を封じに来たか。道理ではある』

 そんな望月の直感に基づく行動に、軍神は得心したように頷く。
 ……そう、頷いていた。慌てる事無く、受け入れるかのように、だ。
 その態度は、つまり。

『だが、その程度では──我が毘沙門刀は、砕けはせぬ!』

 その程度であれば対応出来るという、軍神の余裕の表れである。
 咆哮一閃、軍神が残る毘沙門刀をその身に纏わせ、刃の嵐に躍り出る。
 望月の刀は、名刀だ。銘こそ無いが、質実剛健という言葉が形になったかのような、剛剣である。
 だが、名刀ではあるがあくまでも普通の刀である。結界で強化しある程度の耐性を付与してはいるものの、残念な事に魔刀魔剣の類などの域には届くものでは無い。空気を切り裂く剛剣達は、剣身一体と化した軍神が誇る多種多彩な属性剣の前に、燃え落ち、腐り、溶け、取り込まれ、分解させられ……次々とその数を減らしていく。
 しかし──。

「──まだだ。刃圏、拡大……!」

 望月は、諦めない。
 百が駄目なら、二百を。二百が駄目なら、三百を。
 諦める事無く。絶やすこと無く。創り続けては、毘沙門刀へと撃ち放つ。

『諦めぬか。ならば何度でも、打ち砕くのみ!』

 だがやはり、その刃は軍神には届かない。
 百も、二百も、三百も。その全てが、軍神の毘沙門刀に阻まれる。
 無数に響く、甲高い破断音。砕けた剛剣の鋼が、淡雪の如く舞い散り消える。

(──そうか、分身か)

 散り行く鋼。その姿が目に写った瞬間、アネットに天啓が過る。
 そうだ、手数だ。今回の鍵となるのは、まさにそれだ。
 では、その手数をどう増やすか。望月の様に、武器を複製し増やそうか。
 ……いいや。それも悪くはないが、アネットが導き出したのは別の解だ。

 ──己自身を、武器とするのさ。

 それは、武器を振るう己自身を増やす事。
 数多の分身体で一斉に挑みかかれば、毘沙門刀の足止めも、軍神本体への攻撃も、能うはず。

「往くぞ」

 爆発的に膨れ上がるアネットの闘気。空気を震わすそれが、無数のヒトガタを……アネットの姿をした、影法師へと変じていく。
 未だアネットが思い描く理想形には至らぬこの業ではあるが、それでも創られたその数は、実に655。本体と併せて656体のアネット達が軍神を囲む様に並ぶ姿は、壮観である。
 そんなアネット達が、一斉に腰に帯びる愛刀へと手を伸ばし──。

「「「「「「|絶技・雷刃千仭戟《ぜつぎ・らいじんせんにんげき》」」」」」」

 ──同時に、抜剣する。
 瞬間、ふわりと空気が靡き……その直後、巻き起こる無数の居合斬りが軍神を襲う!

『なんと──オオオォォッッッ!!!』

 四方八方から押し寄せる、鎌鼬の如き斬撃の数々。
 その圧倒的な光景に、さしもの軍神も驚愕を覚えたか。カッと目を見開き、雄叫びをあげて……身に帯びる毘沙門刀が作る渦の回転数を明らかに早め、迎撃を図る。
 再び鳴り響く、鋼が打ち合う金属音。その打ち合いは、五分五分か……。

『くっ、ぅ──!』

 いいや、違う。
 軍神のその表情は、明らかに歪んでいた。その理由は、彼が纏う毘沙門刀にあった。
 どんな名刀とて、使えば消耗していく事は避けられない。
 軍神の毘沙門刀は魔刀魔剣の類ではあるが、それでも刀である事に代わりはない。数百度に渡って望月の剛剣と打ち合い続けた毘沙門刀には、僅かながらも着実なダメージが蓄積し続けて……そこにアネットが放った、鮮烈な居合が襲いかかったのだ。

 ──バキッ、ィ……!

 そしてアネットが放ったその居合が、決定打となって。遂に軍神の護りに、綻びが生じる!

『毘沙門刀が──ぐあっ!?』

 崩壊する『毘沙門刀車懸り』の陣。攻防一体のその障壁が破られた事で、新たに創られた望月の剛剣が、魔剣を砕いたアネットの斬撃が、軍神のその身に傷を刻む。
 がくり、と膝を付く軍神。その傷の治りは……先程と比べれば、明らかに遅い!

『……どうやら、そろそろ限界のようだ』

 幾ら驚異的な回復能力を付与されたとしても、短期間でこれだけ傷を負わされ続ければその能力も追い付かぬのか。
 その事実を軍神自身も把握しているようで。自身の限界を、彼は包み隠さず白日に晒す。
 軍神を超えるまで、あとひと押し。
 その瞬間は、すぐそこまで迫っていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

秋月・信子
●SPD

見覚えのある軍旗、魔軍将と成り果てても喪っていない気高さ
忘れる事はありません
あれは四年前の夏に対峙した軍神…上杉謙信

あの頃は考えれる限りの策を弄してようやく勝てた強敵…でしたが、|この装備であれば互角の戦いは可能なはずです
迫り来る毘沙門刀をアサルトバニーで増幅された身体能力で躱し、躱しきれない物はハンドガンで迎撃
平行線を辿る中で謙信が放ったUCを『ピブリオテーク・クルーエル』で今まで読んだ歴史書と照らし合わせれば…恐らくアレは有名な「三太刀七太刀」かその元となった物

そうであるのなら避けることなく影を伸ばして軍配状に結束させた影の盾で受け止てみせ、無防備となった核へ銀の弾丸を撃ち込みます





 猟兵と軍神の決戦は、苛烈という言葉そのものであった。
 その余波を受け、林立する軍旗が倒れ、陣幕が薙ぎ倒されて……その存在を、無へと返していく。

(ああ……)

 儚く消えていくそれらを見て、信子が小さく息を吐く。
 いや、より正確に言えば信子が見ていたのは軍旗や陣幕などでは無い。
 彼女が見ていたのは、それらに描かれていた家紋。『九曜紋』に『上杉笹』、そして『毘』の一字。
 そんな『軍神』上杉謙信に所縁のある家紋が儚く消えゆく様を、信子は見ていたのだ。

 ──『軍神』上杉謙信。

 消え行く家紋と、軍神のその姿が、信子には重なって視えてならなかった。
 『魔軍将』としてかつての戦いで見せた気高さ。圧倒的な、その戦闘力。それらは『魔軍将ゾンビ』に貶められた今も、健在であった。
 だが、しかしだ。かつてと今とでは、状況が違う。
 |あの戦い《エンパイア・ウォー》からはもう、4年が経っている。そしてその4年分、猟兵達は数多の危機を乗り越え、成長を果たしてきたのだ。
 その積み重ねが今、こうして結実しようとしているのだ。

『そうか。グリモアの加護を得ただけでは無い。|現在《いま》より|未来《あす》を積み重ねた結果が、その強さか』

 そしてその事実を、軍神も受け入れる。
 半ばから折れた白黒の双太刀を杖代わりに、立ち上がる軍神。その姿は満身創痍で、戦うことなど到底出来ぬように余人には思えるだろう。
 だが。

『だからと言って、簡単に負ける訳にはいかぬ』

 軍神のその戦意は、萎えてはいなかった。
 繰り返しとなるが、この戦いは彼にとって本意では無いはずだ。『晴明クルセイダー』の手駒のように扱われる事など、業腹以外の何物でもないだろう。
 だが、それでも。彼が猟兵達と相対するのを放棄しないのは……それが過去に囚われたオブリビオンとしての宿命であるのと、何よりも武人としての本能がそうさせるのだろう。

『毘沙門天よ、我に加護を──!』

 その宿命と本能が命じるままに、軍神が地を駆け信子に迫る。
 振り上げられる白黒の太刀。十二を数えた毘沙門刀の内、軍神がその手に握る事を選んだその二振りが、信子の身体を刻まんと振り下ろされて──。

「ハッ!」

 その斬撃は、ただ虚しく空を裂くのみ。
 大きく後方に跳躍して斬撃を躱した信子は、|強化スーツ《アサルトバニー》を身に纏っていた。四年間の経験と、最新技術を組み合わせれば……例え軍神のその身が万全の状態であったとしても、躱す事は難しくは無かっただろう。

「やぁ──ッ!」

 そうして後ろに飛び退きざまに、構えた拳銃を発砲する。
 放つ弾丸は先程の戦いでも見せた、不浄を祓う銀の弾丸。生殖型ゾンビという依代を核としている今の軍神には、その弾丸は致命傷となるだろう。

『ぐぅっ──!』

 しかし、流石は軍神と称えるべきか。その事を直感したように、軍神が太刀を振るって弾丸を切り払う。
 切り払われて、銀の魔弾が地に落ちる。パラパラと、軽い金属音がその場に響く。

(あれ?)

 だがその瞬間、信子が何か違和感を覚える。
 今放った弾丸は、一発のみ。だがそれにしては、切り払われた弾丸らしきものが地に落ちた時に、響いた音が多かった気がする。

(これは、一体……)

 軍神のその姿を睨みながら、頭の内でその違和感を探る。
 思い出すのは、かつて読んだ書籍の数々。多くの書に親しんだ、かつての日々を思い出す。
 そして、そんなかつての日々が。ひとつの答えを、導き出す。

(──まさか、『|三太刀七太刀《みたちななたち》』?)

 信子が導いたのは、一つの逸話であった。
 三太刀七太刀。それは、かの『川中島の戦い』で生まれた伝説である。
 乱戦となった合戦の最中、上杉謙信は旗本数騎のみを引き連れて武田軍本陣を奇襲。本陣にて構えていた武田信玄を、三度切り付けたのだ。
 だが、流石は『甲斐の虎』と謳われた武田信玄。突然の奇襲にも動じず、信玄は手に携えた鉄製の軍配を振るい応戦し、辛くもその場を切り抜けたのである。
 後に調べてみると、信玄の軍配には、七箇所の刀傷が残されていたのだという。謙信が太刀を振るったのは三度であったのに、だ。
 ……これこそが、後の世に『三太刀七太刀』として伝わる逸話である。
 
(たった一振りで、弾丸を細切れにする。あの逸話が事実なら、出来るはず……!)

 そしてその逸話に気付けば、自ずと先程の違和感の答えも出るだろう。つまり軍神は、一振りで複数回の斬撃を放って弾丸を細切れにしてみせたのだ。
 ……しかし、相手の種は見破ったが。それをどう、活かすべきか。

(ここは、過去の歴史に倣いましょう)

 心に決めて、信子の構えが変わる。
 回避を重視した軽やかなステップワークは止まり、その場に根を張るようなずっしりとした構えだ。
 それはつまり……相手の攻撃を受ける事を態度に示す、護りの構えである。

『我が太刀を、真っ向から受けるか。面白い』

 そしてその構えの意味が、軍神に判らぬはずが無い。
 信子の覚悟を称える様に、その口の端を一瞬緩めると。

『──参る!』

 次の瞬間、その表情は死生を超越した無に至る。
 迫る軍神。獲物を狙う隼の如き鋭き眼のまま、再びその手の双太刀が振るわれて──。

「──影よ! 軍神の誇りを、受け止めなさい!」

 瞬間、響く信子の声。そしてその声に応じる様に、彼女の影が姿を変えて……軍神の太刀を、受け止める!

『軍配、だと……ッ!』

 鋼が打ち合う甲高い音に、軍神の眼が見開かれる。
 そう、軍配だ。信子の影が変じたのは、軍配の形を取った影の盾であったのだ。
 ……その光景は、まさに先にも触れた『川中島の戦い』の再現の如き光景。『上杉謙信』という存在を語る上で外す事は出来ないその光景に、軍神も思わずと言った様子で動きを止めて。

「謙信公、お覚悟──!」

 その僅かな隙が、致命傷となった。
 響いたのは、一発の銃声だった。
 信子が構えた拳銃から銀の魔弾が放たれて。無防備を晒す軍神のその胸を、撃ち貫いたのだ。

『ぐぁっ──!!』

 小口径の拳銃弾とは言え、その衝撃は凄まじい。
 軍神の身体が弾かれる様に宙を舞い、そのまま地へと打ち付けられる。
 そして──。

『良くぞ、討ち倒してくれた……』

 遂にその身体の限界を迎えたか、軍神のその身体が少しずつ塵と化して消えていく。
 軍神のその表情は、どこか嬉しげであった。望まぬ形に押し込められての戦いから開放された事、それはそれとして強敵と死合う事が出来た事に、満足を覚えたのだろう。

『礼代わりに、一つ。城の最奥、礼拝堂とやらに『奴』はいる。だが、奴は……いや。『奴ら』は、手強いぞ』

 ──努々、気をつける事だ。
 そしてその言葉を最後に、『軍神』上杉謙信が消えた。
 その最後の瞬間まで、まさに威風堂々。『軍神』の二つ名に恥じぬ、戦いぶりであった。

成功 🔵​🔵​🔴​




第3章 ボス戦 『憑装猟書家『晴明クルセイダー』』

POW   :    十字槍「人間無骨」
【十字型の槍】が命中した対象に対し、高威力高命中の【体内の骨を溶かす光線】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD   :    憑装侵略蔵書「ぱらいそ預言書」
【預言書に書かれた未来の記述を読むことで】対象の攻撃を予想し、回避する。
WIZ   :    『魔軍転生』秀吉装
レベル×5体の、小型の戦闘用【豊臣秀吉(フェンフェンだけで意思疎通可)】を召喚し戦わせる。程々の強さを持つが、一撃で消滅する。

イラスト:kawa

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。




 島原一揆軍、そしてその軍勢を指揮していた『魔軍将ゾンビ』を討ち倒し、猟兵達が遂に『魔空原城』へと突入する。
 だが、警戒心を全開に張り巡らせた猟兵達を嘲笑うかのように。城は大した規模では無く、目立った仕掛けも特に無い。そんな無防備ぶりに、踏み込んだ猟兵達は拍子を抜かれた程である。

 だが、よくよく考えてみればその理由も判る。
 本来この城は、エンパイア世界各地の空を常に移動し続ける城である。つまり敵が城内に侵入すること自体が、まず不可能に近く……故に、護りの備えの必要性が薄いのだろう。
 とは言え、今回はその事が猟兵達の有利に働く。一行は無人の野を往くが如く、城内を突き進み──。

『ふむ、もう参られましたか』

 遂に、その場所へと辿り着く。
 そこは、美しく荘厳な聖堂。西洋の宗教観を感じさせる内装が施された、礼拝堂であった。
 その、最奥。設えられた祭壇に、その男はいた。

『『軍神』も、存外脆い。もう少し粘るかと思いましたが、期待外れでございましたな』

 金の髪の、細身の男だ。十字形の槍と分厚い書を、その手に携えている。
 男の名は、『クルセイダー』。エンパイア世界を侵略する、|猟書家の首魁《オウガ・フォーミュラ》である。
 だが、この男は死人である。その精神は飲み込まれ、肉体を他者に奪われた肉人形である。
 そんな、今のこの男を表わすに最も相応しきその名は……。

『まぁ、良いでしょう。所詮は『魔軍将ゾンビ』の初期ロット、データ取り程度にしか使えぬ身であります故』

 『晴明クルセイダー』と呼ぶのが、最も相応しかろうか。
 そう、いま『クルセイダー』の身体に宿るのは、『安倍晴明』なのだ。『魔軍将』の内の一人にして、『陰陽師』の二つ名を持ち、かつての戦いに於いて奥羽と山陰に地獄絵図を描いた、あの男なのだ。
 ……この男は、ここで討たねばならない。もし取り逃がしてしまえば、あの戦いで垣間見た地獄がたちまちエンパイア世界全土を覆うことになるだろう。
 そんな未来だけは、赦してはならないのだ。

『さてさて、折角興が湧いてきた所なのです。猟兵達には、疾くお帰り頂かねば……』

 悠然と、だがその傲慢さを隠すこと無く、『晴明クルセイダー』が猟兵達へと向き直る。
 その身体に猟兵達は、『二体分のオブリビオンの力』を感じ取るのだった。

 ====================

●第三章、補足

 第三章はボス戦。
 猟書家『クルセイダー』の成れの果て、『晴明クルセイダー』との決戦です。

 断章中の描写にある通り、『クルセイダー』の肉体を『安倍晴明』の精神が乗っ取った敵です。元の『クルセイダー』の精神は……既にこの世の存在では無いと考えてよいでしょう。
 そんな『晴明クルセイダー』ですが、彼はクルセイダーの肉体と霊体の晴明による「2回攻撃(1回の行動につき合計2回、フラグメントのユーベルコードを好きな組み合わせで使用できます)」を行います。
 一度に二度放たれる敵のユーベルコードに、どう対抗するか。その筋を見出さねば、勝利は難しいでしょう。
(有効な対抗策となるプレイングには、ボーナスが与えられます)

 戦場は、『魔空原城』最奥の『ぱらいそ礼拝堂』。
 荘厳かつ美しき内装をしていますが、『魔空原城』の城郭規模に比例する様にその広さはそれ程でもありません。
 また、整然と並ぶ長椅子が設置されており、その辺りが障壁となるかもしれません。
 立ち回りをどうするべきか、というのも今回のポイントになるでしょう。

 城の最奥に佇む、|猟書家の首魁《オウガ・フォーミュラ》。
 世界に恐怖と混沌を齎す邪悪なる存在を、猟兵達は打ち倒せるか。
 皆様の熱いプレイング、お待ちしております!

 ====================
メディア・フィール
POW選択
プレイング改変・アドリブOK
他PCとの絡みOK

【2回攻撃】で【竜闘死連撃】(4回攻撃)を放ち、合計8回攻撃で、手数で晴明を圧倒しようとします。一撃一撃はフォーミュラの清明には劣りますが、手数だけなら上回った攻撃は、それなりに鬱陶しく無視できないものになるでしょう。

「不思議だ……。この男、強いはずなのに……」
たしかに晴明は強敵である。陰陽の極意を極め、手数も多く、強力無比の名攻撃を放ってくる。
「けど……軍神のような|風格《オーラ》はない」
けっして舐めてかかれる相手ではない。しかし、あらゆる能力が神域に達していた軍神に比べれば、技は強力だが『ただの』魔軍将である。そう思えてしまう。





 悠然と。だが傲慢さを隠さぬ、|猟書家の首魁《オウガ・フォーミュラ》。
 その肉体を乗っ取った存在を識る猟兵達が、その不快さに対する嫌悪を滲ませながらも警戒を緩めずにそれぞれに構える。

(不思議だ。この男、強いはずなのに……)

 そんな中で、どこか腑に落ちない物を感じていたのはメディアであった。

(強いは強い、はず。けれど、軍神のような|風格《オーラ》は無い……?)

 その理由は、|『クルセイダー』《『安倍晴明』》から受ける威圧感の薄さであった。
 確かに、強敵ではある。それは判る。
 けれど、彼からは……『軍神』の如き武芸の極地に至った者が持つ、覇気とも言うべき|風格《オーラ》を感じ取れないのだ。
 故に、メディアから見れば。

「『軍神』を、期待外れと言ったな? ボクからすれば、お前こそ期待外れにしか見えないよ!」

 彼の方こそ、『魔軍将』なる肩書を持つだけのほんの僅かに手強い敵にしか見えなかった。
 勇気と戦意を滾らせる様に身構えるメディア。その小柄ならも勇ましき姿に対して。

『──ふむ。勇ましきは良きことですが……『勇猛』と『蛮勇』を、履き違えていると見えますな』

 |『クルセイダー』《安倍晴明》の態度は、まさに柳に風の如く。
 いいや、それどころかメディアのその姿勢を嘲るかのようであった。

「なにをっ!」

 そんな敵の挑発的な態度に、メディアの戦意の炎が更に高ぶる。
 そうして昂ぶったその熱が命じるままに、膨れ上がる闘気がその身を包み。

「そうまで言うなら、受けてみろ!」

 前後左右の小刻みなステップを踏んで、メディアが駆ける。
 幻惑する様なそのステップで、相手との距離を一息に詰めて必殺の連撃を叩き込む。|【竜闘死連撃】《リュウトウシレンゲキ》の構えである。
 だが、今回はその更に上を行くものだ。纏う闘気を質量を持つ残像の如く形にして、自身の拳と重ねる様に追撃させようと考えたのだ。

(奴の身体から感じる二つの力。それぞれ、個別に力を振るうと見た!)

 猪突猛進なきらいのあるメディアであるが、その実態はそうでは無い。冷静に相手を見極め、その時々で最適な一手を組み立てるなど、実はメディアの戦闘に対するセンスは相当なものがある。
 今回のこれも、そのセンスが生み出したアドリブだ。|『クルセイダー』《安倍晴明》が二種の力を同時に振るう(つまり、手数を武器とする)タイプの敵であると即座に見抜き、この行動を見出したのだ。

(通常の死連撃は、四連撃。そこに同種の拳を重ねて追撃させれば、更に四連撃! 合計八連撃の手数で、圧倒する!)

 名付けるのであれば、|『竜闘死連撃・双爪』《リュウトウシレンゲキ・ソウガ》と。そう名付けるべき、業である。
 これを即席で生み出し実行に移す、メディアの戦闘センスの凄まじさときたら!
 さぁ、敵はもう目前。最後に足を踏み込んで、敵の身体を叩くのみ!

「往くぞッ! 竜闘──『フェンフェーン!』──なっ!?」

 だが、その必殺の拳が|『クルセイダー』《安倍晴明》を叩くことは、無かった。
 拳を放ったその瞬間、突如割り込んできた黒い影にその拳を遮られたのだ。

『『『フェーン……!』』』

 気付けば、メディアと|『クルセイダー』《安倍晴明》を遮る様に、それらは居た。
 影が形を作った様な黒い毛玉のその正体は、オブリビオンである。
 名を『豊臣秀吉』。エンパイアウォーの際、『大帝剣』と共に猟兵達を苦しめた、秘されし『魔軍将』である。
 『クルセイダー』という男は、秀吉と何らかの縁がある男であったようで。その縁を利用した|『クルセイダー』《安倍晴明》が、魔軍転生で彼を喚び出し、憑装したのだ。

『竜闘死連撃、と申しましたか。四連撃に、更に四連撃を重ねる。手数を増やすという意味合いならば、その発想は実に見事でございますが──』

 ──冷静さに欠ければ、それも無意味となりましょうな。
 圧倒的な数の『秀吉』に護られながら、|『クルセイダー』《安倍晴明》が嘯く。
 気付けば、彼が手に携える書物が開かれていた。
 その書物の名は、『ぱらいそ預言書』。その名の通り、未来に起きる事が記された書物である。
 まさかその書物の力で、|『クルセイダー』《安倍晴明》はメディアの動きを察知していたのか。
 そうであれば、この余裕綽々な態度も頷ける……!

『さて、不発ではありますが見事な発想でございました。その礼に、真なる手数というものをお見せしましょう』

 その余裕を崩さぬままに、|『クルセイダー』《安倍晴明》が命を下せば……無数の秀吉の群れが、メディアに向けて襲い掛かる。
 これでは最早、|『クルセイダー』《安倍晴明》をどうこうなどと言ってはいられない。自身の身を守るだけで手一杯となるだろう
 口惜しさに表情を歪ませながら、メディアは襲い来る黒い津波へその拳を振るい、抗い始めた。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

向坂・要
こりゃまた懐かしい顔が性懲りも無く
しつこいお人は嫌われますぜ?

UCで幻(蜃気楼)を生み出す毒の蝶の群れを呼び出し己の幻を複製。【範囲攻撃】【毒使い】
周囲の長椅子などや幻に紛れ【目立たない】ように【見切り】【第六感】も利用して敵の攻撃、特に初撃の回避に努め、隙をみて【暗殺】【カウンター】で攻撃
また幻を攻撃した相手には内包していた毒で【属性攻撃】も狙う。
まぁ、味方への庇いも含めて多少喰らうかもしれませんが【覚悟】はできてますし、本体が無事ならなんとやら、ってね。

一度に二発とは随分と豪勢ですが見た目だけ整えても中身が共なわねぇとみっともねぇだけですぜ





 |『クルセイダー』《安倍晴明》の影から、無数に湧き出る黒き毛玉。
 礼拝堂を埋め尽くすが如く群れ出るその物量は、まさに圧倒的の一言だ。
 だが──。

「ほいっ、とぉ!」

 落ち着いて向き合えば、対処は能う。
 喚び出された秀吉の戦闘力は、本来のソレとは雲泥だ。特に耐久力の脆さは、顕著である。
 事実、飛び掛かってきた秀吉の爪撃に対して長椅子を盾として躱した向坂・要(黄昏通り雨・f08973)が、反撃にと振るった剣の様に。
 一撃でもその身に入れることが出来れば、霞のように消えていくくらいである。

(とはいえ、この数は厄介ですねぇ)

 だが、胸中で要がボヤく様に。耐久力が脆かろうと、この物量攻撃は厄介以外の何物でも無い。

「──全く、しつこいお方は嫌われますぜ!?」

 そんな嫌らしい手を使う、性懲りもなく現れた懐かしい顔へ向けて。長椅子の影に身を隠しながらの要が抗議を上げる。

『何を言うかと思えば。戦とは|畢竟《ひっきょう》、相手の嫌がることをする事こそが本質でございましょう?』

 その声に対する|『クルセイダー』《安倍晴明》の反応はにべもない。
 だが、しかし。その声色の底に隠された猟兵達を軽んじる傲慢さを、要は確かに、感じていた。

(全く、性格が悪いったら……)

 要は、かつての戦いで『安倍晴明』と相対していた。それ故、奴の性格の悪さはよくよく識る所である。
 だが、それにしたって。今回の奴の質の悪さは、前回よりも酷くはなかろうか。興が乗っただのなんだと言っていたが、やる気一つでここまで変わるものなのだろうか。

(しかし、どうしたもんですかねぇ)

 とはいえ、愚痴ってばかりもいられない。まずはこの状況を打開する術を、考えねばなるまい。
 猟兵達が苦戦を強いられているその原因は、|『クルセイダー』《安倍晴明》が喚び出す『豊臣秀吉』という手数にある。
 で、あるならば。その原因を取り除けば、最悪でも状況を五分には持っていけるだろう。
 しかし、その為の手段は。幻の様に湧き出る『秀吉』を、どうするべきか──。

(──ん? 幻?)

 瞬間、要の頭に天啓が過る。
 幻。そうか、幻か。
 数には、数を。幻には、幻を。
 このやり方ならば、イケるか──?

「一か八か。やってみる価値はありますかねぃ!」

 そうと決まれば、あとは動くのみ。
 己の内に宿る魔力を膨れ上がらせながら、立ち上がる要。
 瞬間、その身から放出される魔力が輝き瞬き──無数の毒持つ蝶の嵐を創り出す。

『……ほう?』

 その光景に、ほんの僅かに|『クルセイダー』《安倍晴明》が眉を動かす。
 幻想的な光景に心を動かされた訳では無い。
 彼が興味を惹かれたのは……無数の蝶の羽撃きが生み出す鱗粉が、要の幻像を創り出したからである。
 刃を振るう要の幻像が、秀吉の幻像とぶつかり合う。
 その戦況は、五分五分……いや、要の幻像が斃れる度、周囲に毒鱗粉が巻かれて秀吉の身を冒す事を考えると、やや優勢と言えるだろうか。

『毒を用いて、質量のある幻を創るとは。中々の手並みでございますな』

 しかし、|『クルセイダー』《安倍晴明》の反応はそれだけだ。僅かの動揺も、引き出せない。
 預言書を開いた彼は、既に識っているのだ。この幻像のぶつけ合いは、本命では無いと。
 そう、本命となる攻撃は──。

「──ハァッ!!」

 長椅子と乱戦の間を縫うように迫った、要自身による白兵攻撃であるのだから。
 一陣の風と化した要が、毒を滴らせる武器を構えて迫る。
 あと5メートル、3メートル、1メートル……。

『残念ながら、それも『識る』ところでありますれば……』

 武器を突き入れる、その瞬間。要が聞いたのは、|『クルセイダー』《安倍晴明》のその声。

 ──ズ、ンッ……!

 そしてほぼ同時に感じたのは、己の胴体を冷たい何かが貫く感触。
 奇襲を感知した|『クルセイダー』《安倍晴明》の槍が、要の身体を貫いたのだ。

『決死の覚悟は見事。ですが、残念でございましたな……?』

 臓腑を傷つけられ、血反吐を吐く要。崩れ落ちそうになる膝を支える為か、己を貫く槍を掴んで支えとする。
 そんな彼を見下す|『クルセイダー』《安倍晴明》だが……僅かな間を置いて、その表情が曇る。
 おかしい。致命傷を負わせたはず。なのにこの男から、力が抜ける気配が無い。
 何よりも、この男の|『業』《カルマ》が、流れてこない……!

「くっ、くく……!」

 困惑する|『クルセイダー』《安倍晴明》の気配を感じ、要は嗤う。
 要は確かに、致命傷を負った。この身体は、もう暫くすればその存在を無に返すだろう。
 だが、それが要の死と繋がる訳では無いのだ。

『──そうか! 貴様、ヤドリガミでありましたか! えぇい、離しなさい……!』

 その事実に|『クルセイダー』《安倍晴明》がいち早く辿り着く。
 そう、要の生まれは人狼やら妖狐やらと勘違いされる事が多いが、違う。
 彼のルーツは、『ヤドリガミ』。
 ヤドリガミは、長く在る器物に魂を宿す種族だ。その最大の特徴は、『身体が損傷しても本体が無事であれば再生出来る』というモノである。
 つまり極論を言えば。この戦いで今の身体が消し飛ばされたとしても、本体さえ無事ならば向坂・要という猟兵の生死には影響は及ばないのだ。
 ……そう。要の狙いは、コレだ。
 あくまでも、毒の幻像は牽制役。本命は己の身体すら捨て駒にして相手を抑え込んでの──。

「掴まえました、ぜ……ッ!」

 ──毒の一刺し。それこそが、要の狙いだったのだ。
 振るわれた要の刃が、|『クルセイダー』《安倍晴明》の身体に傷をつける。
 負傷のせいか、振るわれたその一撃の重みは非常に軽かったが……。

『ぐっ、おおおぉぉ……ッ!』

 宿る毒が|『クルセイダー』《安倍晴明》の身を瞬時に冒し、蝕んでいく。

「一度に二発とは豪華ですが、中身が伴わねぇとみっともねぇだけですぜ」

 今のようにね、と。
 悶え苦しむ|『クルセイダー』《安倍晴明》のその姿を認めながら。最後にそう言い捨てて、要のその身が崩壊する。今の肉体が、遂に限界を迎えたのだ。
 己の特性を十全に理解する智慧。そして負傷を顧みない覚悟。
 向坂・要という猟兵の戦いぶりが、|『クルセイダー』《安倍晴明》のその悪意を上回った瞬間であった。

成功 🔵​🔵​🔴​

アネット・レインフォール
▼静
あれが件の晴明か。
…憑依という状態は存外、厄介な代物だ。
逃亡の兆しは感じないが対策を兼ねた動きは必要だろう

目には目を…いや。
毒を以って毒を制す、が正しいか。

…武器なら何でも扱える点が武人の特性の1つだ。
例えそれが機械や生物であっても変わらない、と俺は思う。
そして、それは人であったとしても同様だ

持って3分。それ以上は…危いな(主に俺が

『――賛成多数。彼の文明侵略を実行する』

▼動
刀剣を念動力で操作。
刀身で槍・光線を受流しカウンターの要領で敵へ返却を。
予測し辛いよう跳弾するフェイントも行う

―死者の槍一本如きでは我に届かんよ

折を見てUCでドラゴンテイマーを憑依。
黒竜は包囲・捨て駒に利用し群れで蹂躙する事で
逃亡と預言者対策を兼ねる。
必要なら会議も実施しよう

―預言書とは興味深い。私が与するに相応しい

異変を感じたら咄嗟の一撃で己を殴るか理性で抑えUC解除。
偶然、手にしたこの能力…運用には問題がありそうだ。
晴明の二の舞は洒落にならないしな

・UC中
姿含め一人称・口調はテイマー寄りに変化
敵味方の区別なし





(あれが、件の『晴明』か)

 激しい戦いの最中、アネットはじっとその男の様子を……猟書家『クルセイダー』に宿る、『安倍晴明』を観察するように眺めていた。
 かつての戦いで、アネットが安倍晴明と対峙する事は無かった。だが数ある報告などで、その厄介さ、悪辣さは聞き及んでいた。
 もし、ここで奴を取り逃してしまえば……想像したくもない事が現実になる事は、間違いないだろう。

(幸い、今の所は逃亡の兆しは感じないが……)

 今の『クルセイダー』は、『安倍晴明』の魂に乗っ取られた状態だ。もし戦況不利ともなれば、『クルセイダー』という肉体を捨てて『安倍晴明』という魂だけで逃亡を図る、という可能性は否定できない。
 二体分の力を振るうというだけでなく、そういった意味でも憑依というのは厄介な代物であるのだ。

(さて。そうなると、どうするべきか)

 逃さずに、討つ。それは規定事項だ。その為に最大限の警戒を取るのも、確定事項だ。
 その上で、今アネットの頭を悩ませているのは……どうやって、戦うべきか、だ。
 霊体と戦う、という経験は過去に何度も経験済みではある。自身の力が、そういった相手にも通じるのは実戦証明済みである。
 だが、相手は『安倍晴明』。魔軍将の一角に数えられる、得体と底の知れない実力者である。
 そんな相手と相対するのであれば。こちらも、それ相応の覚悟を示さねばならぬだろう。

(目には目を……いや。毒を以て毒を制す、が正しいか)

 幸いなことについ最近、奴に通じそうな手段をアネットは会得していた。
 アネットは、武人である。武器と呼べる物であるならば、何であろうと十全に扱う事が出来るのが、武人としての嗜みであるとアネットは思う。
 ……例えそれが、機械や生物であっても。そして、『ヒト』であったとして、だ。

 ──ドクン。

 心の臓が不意に跳ねる。アネットの静かな決意に、闘気が捻れて変質を始めたからだ。
 これより先、アネットは一時的ではあるが、『己が己である事を捨てる』。|『クルセイダー』《猟書家の首魁》と同じく、他者の力をその身に下ろすのだ。
 勿論、その力は両刃である事をアネットは承知している。
 持って、3分。それ以上に身を委ねれば……奴の二の舞いとなるだろう。
 だが、それでも。一人の猟兵として、世界に危機を齎す悍ましき敵を討つ為ならば。

 ──賛成多数。
 ──彼の文明侵略を実行する。

 |【外式】敵対的文明侵略《ジョブチェンジ・ドラゴンテイマー》。
 呪われしこの力を行使する事に、戸惑いは無い。

『ぐっ、ぅ……むぅ!?』

 そんなアネットの変貌に、受けた毒の解毒に苦悶の声を上げていた|『クルセイダー』《安倍晴明》が気づく。

『その力……まさかドラゴンテイマー! 猟兵がその力を振るうなど、気を違えたか……!』

 |『クルセイダー』《安倍晴明》の眼には、何とも言えぬ感情が浮かんでいた。
 その感情を表わすとするならば……それ程付き合いのない、だが能力は良く見知った同僚を見るような、と言った所だろうか?

(そう言えば、『ドラゴンテイマー』も『安倍晴明』も、『持ち帰る』だのなんだのと……)

 そんな|『クルセイダー』《安倍晴明》の眼を見て、薄くなりかけたアネットの自我にそんな疑問が過るが……。

 ──そんな事は、どうでも良い。

 その疑問は、アネットの身体を動かさんとする『より強力な意思』の前に流れて消える。
 アネットの身体を動かすその『意思』が、言葉と共に腕を振るう。
 気付けばその腕には、鮮血の如き赤い刃が握られていた。その刃が空を切り裂く度に、空気中の無機物が侵食・変換されて……貪欲な黒竜が、その身を顕す。

『この様な事、『預言書』には……ええい! |『グレイズモンキー』《豊臣秀吉》よ!』

 その異質で圧倒的な存在感を前に、然しもの『陰陽師』の精神も怖気を感じたか。再び無数の『豊臣秀吉』を召喚し、黒竜への抑えに回す。
 そして自らは。その手の十文字槍を構え、アネットへ向けて突き入れる。

『肉体は、脆弱な猟兵のもの。その力に圧され、身動きも自由には取れぬでしょう!』
 
 見れば槍の穂先には、怪しい光が宿っている。
 恐らくは、強力なユーベルコードの力をそこに凝縮させているのだ。そして可能な限りゼロ距離で放つ事で、確実に命中させようと目論んだのだろう。
 |『クルセイダー』《安倍晴明》が採った戦術は、概ね間違いでは無いと言っていいだろう。
 事実、今のアネットはその自我をより強力な『意思』に圧されている。創り出した黒竜は厄介だが、秀吉を抑えに置いて本体を叩けばそれで良いのだから。
 だが、一つ。|『クルセイダー』《安倍晴明》の側に、誤算があったとするならば。

 ──その程度か、|白の屍王《ノーライフキング》よ。

 自身に迫りくる殺意を、本能のレベルで反応出来る程に。アネットの武芸者としての鍛錬が、積み上げられていた事だろうか。
 甲高く響くその音は、赤の剣が十文字槍を弾いたその音だ。

 ──死者の槍一本如きでは、我に届かんよ。

『なっ、ぐぅ──!』

 驚愕に目を見開く|『クルセイダー』《安倍晴明》に向けて、アネットの身体を通して『意思』が告げて、更に一太刀。
 再び湧き出た黒竜の顎門を逃れる様に、|『クルセイダー』《安倍晴明》が大きく距離を取る。
 ……気付けば既に、周囲は黒竜が完全に圧していた。

『今の交錯で仕留めきれなかったのが、我が敗因となりますか……』

 最早逃れる事も出来ぬ。その状況に、|『クルセイダー』《安倍晴明》は己の敗北を導き出す。
 随分と、潔いその態度だが……それは、『安倍晴明』が殊勝な人間であるからでは無い。
 彼は、識っているのだ。この場で滅びる事になるのは、あくまで『クルセイダー』という存在である事を。『安倍晴明』である自分は……また『躯の海』に戻り、暗躍する機会があるのだろうと言うことを。
 だが、そんな彼に向けて。

 ──『預言書』とは、興味深い。我が与するに相応しい。

 アネットを操る『意思』が斟酌をする事は無い。『意思』には、自身の目的があったのだ。
 それは、『クルセイダー』が持つ『預言書』。未来を記し、報せる、その書である。
 その力の性質は、何かに似てはいないだろうか。
 『意思』は、その力こそを欲しており……それ故に、アネットの喚び声に答えたのだ。

 ──さあ、その書を我に──ッ!?

 だが、その目的は果たされなかった。
 言葉を途中で詰まらせたアネットの口の端から、鮮血が溢れる。『意思』の目論見を察知したアネットが、僅かに残った理性で己の口の中を噛み破ったのだ。
 激しい痛みは、薄れかけた自我を取り戻す定番である。アネットもその定番に漏れず、自傷をする事でなんとか身体の制御を取り戻してみせたのだ。

「……流石に、運用には問題がありそうだな」

 消え行く『意思』、そして黒竜の群れ。あと数秒、奴の好きにさせていたら……|『クルセイダー』《目の前の男》の二の舞いは避け得なかっただろう。
 その残滓を振り払うように頭を振って、アネットが呟く。
 異質な力を振るう事で、既に身体はボロボロだ。これ以上の戦闘は、不可能だろう。

「──命拾いをしたな、お互いに」

 一言呟き、アネットが後退する。
 一人残された|『クルセイダー』《安倍晴明》は、自らを置いてけぼりとした急展開に唖然とする他に、何も出来なかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

月隠・望月
強敵だ。が、勝たなければ。わたしはそのためにここにいる。

【百剣写刃】で複製した無銘刀を攻防に使う。戦場には長椅子が多くあるが、複製した刀を足場にすれば多少は動きやすいだろう
敵のUCのうち1つは防御寄り。敵の攻撃は槍での攻撃と召喚術のうち片方か両方
刀の十数本は自身の周りに展開し、槍の攻撃に備える。攻撃を受けきれずとも、少しでも槍を止められれば【見切り】躱すこともできるだろう
秀吉の大量召喚には【斬撃波】での範囲攻撃で対処したい

敵が預言書を読んで攻撃を回避するのであれば、読ませなければどうだろう。刀に光を反射させて敵の目を眩ませ、その隙に攻撃するとか
敵が攻撃に2回UCを使えば、気にする必要はないが





『……くっ、くく……!』

 礼拝堂に、引きつった様な嗤い声が響く。
 窮地からの命拾い。唐突なその展開に、唖然としていた|『クルセイダー』《安倍晴明》の声だ。

『馬鹿な事を。刺せる止めも刺さずとは。余裕のつもりでございますか……!』

 ……いや、よくよく聞けば。彼の声は、震えていた。
 その声に含まれていたのは、怒りだ。負けを認めさせて置きながらも、止めを刺さずに離脱した先の猟兵の行動は、|『クルセイダー』《安倍晴明》のその自尊心を痛く傷つけたようである。
 その怒りの度合いは、凄まじい。漏れ出る怒気は明らかに周囲の温度を下げ、望月の背筋も粟立つかのようだ。

(……強敵だ)

 それだけの殺気を放てる相手だ。先程相対した『軍神』と並ぶほどの強者であると見ても良いだろう。
 つまり、今回の戦いも苦戦は必至。少しでも気を緩めれば、何も出来ずに敗北ともなりかねない。

 ──だが。だからこそ、勝たなければ。

 しかしその状況が、却って望月の戦意を昂らせる。
 もし、負けてしまえば。望月の愛する『全て』は、戦火に呑まれて灰と消えることになりかねない。
 目の前の難敵を討ち倒し、この世界を、そして愛する郷里を護る。
 望月は、その為にここに居るのだ。

「──刃圏、拡大」

 高ぶる戦意。その熱を形にするかのように、望月が呟く。
 その鍵となる言葉で発現する異能は、【|百剣写刃《ハンドレッド・ブレイド》】。先程の『軍神』との戦いでも見せた、あの異能だ。
 宙に浮かぶ、百を超える無銘の剛剣。その、威圧的な光景を前に──。

『その程度の数打ちで、この私を討てるとでも? 馬鹿にしてくれまするな!』

 怒りに燃える|『クルセイダー』《安倍晴明》は、動じない。
 むしろ、よりその怒りを増したかのように激高して。

『その無謀、後悔すると良いでしょう!』

 ──やれい、|『グレイズモンキー』《豊臣秀吉》どもよ!
 十文字槍を掲げると、気勢一喝。影より『豊臣秀吉』の群れが湧き出て、望月を狙う。
 四方から襲い来る黒の影。その密度は、這い出る隙間も無いほどだ。
 そうしてそのまま、黒の魔の手が望月の身体を──。

「ハッ──!」

 ──捉える事は、無かった。
 跳躍一番、望月の身体が宙を舞えば。浮かぶ剛剣がその足場となって、彼女の動きを補助していくではないか!
 そう。先の戦いと違い、今回望月が数多の剣を複製した目的の一つが、コレだ。
 礼拝堂という環境には、整然と並ぶ長椅子がある。それは遮蔽物の変わりとはなるが、回避となると障害となりかねないものである。
 その事を憂慮した望月は、幾つかの計を案じた。
 その内の一つ目が、複製した剣を宙に浮かべ、足場の代わりとすることだった。
 その結果望月は、天井が高い礼拝堂の特徴もあって擬似的な三次元機動を発揮する事が出来るようになったのだ。

『『『フェッ!? フェーン……!』』』

 刀を踏み渡る望月。その自由自在な立体起動を相手としては、『秀吉』の物量も効果は半減だ。困惑し、そして悔しげに、『秀吉』達が唸り項垂れる。

『何を愚図愚図と……えぇい!』

 そんな『秀吉』達の様子に業を煮やしたか、苛立ちも露わに|『クルセイダー』《安倍晴明》がその手を動かす。
 その指先が触れたのは、『ぱらいそ預言書』。望月のその動きを予知から読み取り、『秀吉』に指示を下そうと考えたのだ。
 ……だが、しかし。預言書の頁を手繰る|『クルセイダー』《安倍晴明》は、気付かなかった。
 それこそが、望月が狙った計略の二つ目であったとも知らずに。

『──ぐっ!?』

 突如、戦場に光が瞬いた。
 目を焼くようなその光が……|『クルセイダー』《安倍晴明》の眼の一点を狙い撃つ!

『な、何が……!?』

 狼狽する|『クルセイダー』《安倍晴明》。そんな敵の様子に、望月が小さく頷く。
 これこそが、望月が狙った計略の二つ目。
 荘厳かつ美しき礼拝堂。その美しさを強調する為に、多くの光が取り込まれる様な設計をされている室内であった。
 望月は、そこに目をつけた。取り込まれる光を刀によって反射、収束させて、|『クルセイダー』《安倍晴明》が預言書を開くその瞬間を狙って眼を射抜いたのだ。
 ……|『クルセイダー』《安倍晴明》が、最も頼りとするのは『ぱらいそ預言書』。その事実を読み切り、逆手に取った。望月の勘の、何と冴えたことか!

『ば、馬鹿な! 力比べならばともかく、この様な小手先で遅れをとるなど……!』

 目を眩ませた|『クルセイダー』《安倍晴明》は、最早完全に望月の姿を見失っていた。指示を下すべき司令塔がそうなっては、動くべき駒である『秀吉』もどうすればよいかと困惑するばかりである。
 ──勝負を決めるならば、今!

「猟書家『|『クルセイダー』。そして陰陽師『安倍晴明』──」

 とんっ、と。軽やかな音を立てて、足場としていた刃から望月が跳ぶ。
 そうしてそのまま落下しなに、楽団の指揮を執るように腕を振るえば。

 ──ズガガガガガッ!!!!

 足場となっていた刃の群れが、凄まじい音を立てて地へと落ちる。
 剛剣、と称される望月の無銘刀だ。その重みは、かなりのもの。重力の力も相まって、その衝撃は凄まじく。

『『『フェーンッ!?』』』

 地に這いずる黒き影が、たった一度の掃射で掃討される程である。
 だが、望月の攻撃は、それだけでは終わらない。
 重力に引かれて落下する望月が、複製品でない無銘刀を引き抜いて──。

「──覚悟!」

 銀閃、一閃。|『クルセイダー』《安倍晴明》のその身体を、斬りつけた。
 視力を喪っていた|『クルセイダー』《安倍晴明》は、防御の姿勢を取ることすらもままならない。
 左の鎖骨から右の脇下までを剛剣で断ち切られて──赤黒い血が、礼拝堂へと吹き上がる。

『がっ、ぁ……!?』

 呻き、ゆらゆらとふらつく|『クルセイダー』《安倍晴明》。
 今の一撃は、相当に重かったと見える。
 ……あと僅か、押し込める事が出来れば。勝敗を決する事が出来るだろう。
 『セイメイ』を弄ぶ邪悪な男との決着の時は、刻一刻と迫っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

備傘・剱
往生際の悪い悪霊の典型だな…
骸の海に叩き戻した方が世の為だな

二つの能力を使うのならば、最も警戒すべきは、十字槍と予言書だな
だが、予想できるのが攻撃ならば、何とかなる、かもな

まずは、オーラ防御を全面展開し、十字槍がふれた瞬間、念動力で敵の腕を縛り、式神を展開しながら、フォトンガントレットを展開して、槍に沿うようにダッシュで急接近
秀吉が来たら、呪殺弾、衝撃波、誘導弾、ブレス攻撃、斬撃波を展開して弾幕りつつ、接近

接近出来たら、自分ごと、結界術で敵を閉じ込め、超接近状態で黒魔弾発動
自分も傷つけるが、敵も一緒に巻き込んで致命的一撃を叩き込む

予想していても、よけられない攻撃ってのは、あるもんだからな





 猟兵達の猛攻を受け、最早|『クルセイダー』《安倍晴明》は死に体と評して良い状態であった。
 しかし、それでも……未だ、その存在を維持したままである。

「全く、往生際の悪い悪霊の典型だな……」

 そんな|『クルセイダー』《安倍晴明》の姿を揶揄する様に、剱が言う。
 彼の言葉には、二つの意味が籠められていた。
 一つは、今目の前の状況。ここまで追い込まれながらも、なお倒れぬいう生き汚さを罵る物。
 そして、もう一つは……『クルセイダー』を乗っ取った、『安倍晴明』という存在の性根の悪さに対する嫌悪感である。
 只でさえ、その悪意で容易く地獄絵図を描くような手合である。この世に生かして、一厘の得にもなりはしない。
 故に……疾く、躯の海へと叩き返した方が世のためであろう。
 とは言え、だ。

(……まぁ、簡単な相手では無いからな)

 かつての戦いで、『安倍晴明』が厄介な相手であることは判っている。そんな男が、『クルセイダー』を乗っ取り更に厄介な力を身につけたのが、目の前の『晴明クルセイダー』とでも言うべき男である。
 そんな男を、完膚無きまでに叩き潰すには……こちらも、それ相応の覚悟を固める必要があるだろう。

(──しょうがない。やってやるか)

 そしてそんな覚悟を、剱は躊躇なく決められる男であった。

「往くぞ、死に損ない──!」

 そしてそうと決めれば、剱の動きに迷いは無い。纏う闘気を全力で展開し、正面突破の構えを見せる。

『ぐっ、ぅ──!』

 そんな剱の突撃に対し、|『クルセイダー』《安倍晴明》の動きは鈍い。負傷は重く、十字槍を支えとしてなんとか立っている様な状態である。つまり、迎撃に槍は使えない。
 で、あるならば。奴が採る手段は、二つ。

『特攻、とは……えぇい、|『グレイズモンキー』《秀吉》達よ! 壁となるのです!』

 『預言書』による予知と、『秀吉』による人海戦術。この二つである。
 未だ完全には戻らぬ視力で何とか預言書を読み解いた|『クルセイダー』《安倍晴明》が、叫ぶ。その影から、幾度目か判らぬ『秀吉』の群れが姿を見せて──。

「邪魔だ!」

 直後、剱が振るう腕から放たれた弾幕によって、悲鳴を上げる暇すら無く薙ぎ倒される。
 先にも触れたが、|『クルセイダー』《安倍晴明》が憑装する『秀吉』の耐久力は、極端に低い。一撃でも攻撃を浴びれば、たちまち崩れ落ちる程である。
 そんな相手に対し、『弾幕による対処』という手段は実に効果的であった。普段なら牽制にしか使えぬ威力のそれも、事今回に限れば確実に相手の数を削れるのだから。
 そして、相手の数を削れるという事は。

「フっ──!」

 狙うべき目標への……|『クルセイダー』《安倍晴明》への道が、容易く開けるという事である。
 まるで花道の様に拓けた、一本の道。その先へ立つ|『クルセイダー』《安倍晴明》に向けて、呼気も鋭く剱が駆ける。
 僅かに残る『秀吉』達が遮ろうとするよりも、疾く。一息の間に、|『クルセイダー』《安倍晴明》の懐へと飛び込むと。

「結界、展開!」

 己と|『クルセイダー』《安倍晴明》のみを内に取り込む様に、結界術を発動させる。

『愚かな! このようなことをして、気が狂ったとしか思えませぬ!』

 その光景に、|『クルセイダー』《安倍晴明》が叫ぶ。
 予知を見た彼は、識っているのだ。剱がこの状況から、何をするのかを。
 そんな|『クルセイダー』《安倍晴明》に対して、剱が反応を返す事は無い。
 普段の剱は、人間臭く、非情になりきれない男である。
 だが、だからこそ。命のやり取りという場面に於いては、誰よりも真摯である。かつて『軍神』と戦いを通して心を通わせた事が、その証左だ。
 では今、命のやり取りをしているこの|『クルセイダー』《安倍晴明》という存在とも心を通わせる事が出来るかと問われれば……答えは、否だ。
 |『クルセイダー』《安倍晴明》という男は、誰よりも『命』という物を軽んじている。生殖型ゾンビ等という禁忌の存在を創り出し、死者の『魂』すらも弄ぶ男である。
 自信の愉悦の為に、|『命/魂』《セイメイ》を弄ぶ様なこの男に。掛ける言葉など、剱には無いのだ。

「漆黒の魔弾は、いかな物も退ける──」

 故に、今。やる事は一つ。
 当初の目標の通り、この『死に損ないの悪霊』を、さっさと躯の海に叩き返す事だけだ。

「──罠も、敵も、死の運命さえも!」

 その意思の下、練り上げられた力が爆ぜる。
 解き放たれたその力の名は、|【黒魔弾】《ルイン》。高速かつ高火力の、漆黒の魔弾である。
 結界内という密閉された空間の中で放たれたその術は、その威力を外界に逃す事無くその破壊力を遺憾なく発揮し──。

『「──ッッッッ!!」』

 ──剱と|『クルセイダー』《安倍晴明》。二人の身を、諸共に灼いていく。
 結界を、そして礼拝堂を。揺らし轟く、二人の雄叫び。
 だがその雄叫びは、片や決死の。そしてもう一方は、断末魔のソレである。
 どちらがどちらの雄叫びであるかは……記せずとも、察せられるだろう。

(──俺は、ここまでだが)

 とは言え、流石に生命の埒外とは言え定命の存在である身では、この様な特攻の負担は大きすぎた。次第次第に、剱の意識と視界が薄れていく。
 だが、それでも。

(それでも、俺たちの、勝ちだ──!)

 意識が途絶え、グリモア猟兵の手による強制送還が為される、その瞬間。
 遂に崩壊を始めた|『クルセイダー』《安倍晴明》の身体を見て、剱は獰猛な笑みを浮かべて──その身体が、光に消えた。
 予知をも超える、勇壮さ。剱のその振舞いは、武人としての一つの極地と称えるべきそれであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

サンディ・ノックス
俺は魂を喰う
喰われた魂は消滅してその存在は完全に消えてしまう
そんなことをずっと繰り返してきたけれど何故だろうね
消された魂は猟書家という敵なのに無性に腹が立つんだよ

真の姿解放
金の瞳の赤い竜人と化す

どうやらこちらの動きを読んでくるようだけど
俺はUC黒化装甲を使う
負傷を受けるほど強力な戦闘能力を得られるUC
俺に攻撃をすればこのUCの効果で動きを読もうと躱しきれないほどの攻撃速度で攻め立てることができるようになるはずだ
攻撃しなければ黒剣でずっと攻撃され続けられるわけだけど…どうする?
お前はどちらを選ぶ?

強力な攻撃はUCを活かすためにあえて受けるけど
足止め攻撃は魔力を高めてオーラを展開し強引に突っ切ろう


秋月・信子
●POW

─アレは本当に安倍晴明なのか?
依然に不確かですが、はっきりと分かってるのは…

『相変わらず反吐が出るすかし野郎ね』
私の|影《本心》が代弁する通り、四年前の夏と変わらない

手に持つ侵略蔵書は【武器落とし】を
豊臣秀吉とされる獣の群れには手榴弾の【衝撃波】を
ふたつのUCは対処出来きますが、残りのひとつは人間の骨など無いも同然と銘された十字槍

…無事では済みませんよね
『無理なら変わるわよ?四年前のスコアは増えて私の勝ちになるけど』
なら、譲りません
こう見えて私は負けず嫌いですから

槍が貫く瞬間に『怪奇影女』で部位を影化
体の再構築の際に影に隠したゲヴェーアを突きつけ発射
悪しき魂を今度こそ…|撃《討》ちます





 恐れを知らぬ獅子の如く、邪悪に牙を突き立てた猟兵が、光に溶ける。
 瞬間、構築された結界が弾け、礼拝堂に魔力を帯びた旋風が吹き荒れる。

(っ──!)

 押し寄せる、猛烈な風。その暴威から眼を守らんと手を翳しかけた瞬間、信子は見た。
 崩壊を始めた|『クルセイダー』《安倍晴明》のその身体に、怪しく輝く青い炎が宿るその光景を。

『くっ、くくく……!』

 その青く輝く炎の中で、『クルセイダー』が……いや、『安倍晴明』の魂のみが、嗤う。

『見事、実に見事。こうも容易く、クルセイダーの身体を滅ぼすとは。此度も私の負け、でございますな』

 ですが、と。晴明が言葉を繋ぐ。

『滅びるは、肉体のみ。私の魂は、『躯の海』へと戻るだけ……』

 肉体は朽ちれども、魂は不滅。オブリビオンとは、そういう存在である。宿命を持つ者が禍根を絶たねば、真の意味でオブリビオンを滅ぼしたとは言えないのだ。
 その理屈に従えば、晴明の言い分は正しい。|『クルセイダー』《乗っ取った肉体》のみが滅び、その魂は『躯の海』へと戻るだけなのだ。
 ……『生殖型ゾンビ』をより発展させた、『魔軍将ゾンビ』という結果をその魂に刻んで。

『冷静に考えてみれば、『勝負に負けて試合に勝つ』とはまさにこの事。此度の結果、しっかりと『持ち帰らせて』頂きましょう』

 響く晴明の嗤い声。その嫌らしい嗤い声が響く度に、クルセイダーの身体から吹き出る炎の勢いが増す。
 恐らくその炎は、クルセイダーの魂の残滓だ。晴明はその残滓を燃料とする事で憑依した肉体を燃やし尽くし、己の魂を削る事無く『躯の海』への帰還を図ろうとしているのだ。

 ──相変わらず、反吐が出るスカシ野郎ね。

 その目論見にいち早く気付いたのは、信子の影。彼女が『姉』とも慕う、力の根源である存在だった。

「ええ。全くです」

 そんな姉が抱いた嫌悪と全く同じ嫌悪を、信子も抱く。
 四年前の夏。晴明と対峙した信子は、『この男は本当に安倍晴明であるのか』と疑念を抱いていた。
 その疑念は、未だ晴れない。あの当時使っていた|鎖鋸《チェインソー》と良い、人を人とも思わぬ傲岸不遜さと良い、青史にその名を刻む偉大な陰陽師とは到底思えなかったからだ。

 ──でも、もうそんな疑問はどうでもいいわ。とっととブチのめしましょ?

 『姉』の意思に、小さく頷く。
 もうこの場で、抱くその疑問を解き明かそうとは思わない。それよりも為すべきは……|影《本心》がそう言うように、有無を言わさず撃ち倒して、その目論見を叩き潰す事なのだから。

「──巫山戯るなよ、|安倍晴明《オマエ》……」

 そんな信子と同じ……いや、信子以上に強い嫌悪を抱いたのは、サンディであった。
 サンディは、黒騎士である。殺した敵の魂を喰らい、啜る、呪われし力の担い手である。
 その力を、今更忌もうとは思わない。外法の類と知りながらも、これまでずっと繰り返し、続けてきた力なのだから。

「お前は、死者の魂を何だと思っているんだ」

 そんなサンディの力と似たような力を、|目の前の男《安倍晴明》も操っている。
 無論、丸きり同じ力では無い。魂を喰らうサンディと、弄ぶ晴明とでは、その方向性は明確に別物だ。
 だが、それでも。『魂に関わる』という意味では、サンディと晴明は同類ではある。

「無性に腹が立つんだよ、お前は──!」

 だからこそ、サンディは晴明を赦せない。
 サンディの眼には、青い炎に焚べられる魂が視えていた。苦痛に喘ぎ、解放を願う慟哭が聞こえていた。
 その魂は、恐らくは本来討つべき猟書家のそれであるのだろうけれど……そんな事は、関係ない。

 ──ゴウッ!!

 再び、礼拝堂を強い風が吹き抜ける。
 だが信子は、今度の風には嫌悪感を抱かなかった。
 その風を生み出したのが、悪辣なる者に対する怒りに燃える同輩……金の瞳の赤い竜人と化した、サンディであると知るからだ。
 信子とサンディが、それぞれに手にする拳銃を、漆黒の刃を構え、晴明へと向き直る。
 そんな二人の姿を見やり、『ふむ』と小さく晴明が唸る。

『肉体が尽きるまで、あと少しなのですが。斯くなる上は、致し方有りませぬな』

 そしてその言葉の直後。礼拝堂の各所から……いや、『魔空原城』全域から、怨霊が燃え上がる『クルセイダー』の身体へと集まって、喪ったその肉体を補完する。

『雑兵共の魂では、元の通りとはいきませぬが……時間稼ぎには、なりましょう」
「いいや、時間稼ぎなどさせるものか!」

 燃え上がる|『クルセイダー』《安倍晴明》の肉体に向けて、気迫を顕わにサンディが駆ける。
 その動きは、一直線だ。
 怒りに燃えて、冷静さを喪っている……という訳ではない。むしろサンディの頭は、怒りと反比例するかのように冴えわたっていたくらいである。
 今優先するべきは、とにかく早さ。一秒でも早く、晴明本体の魂を討つ事にある。
 その為には、迂遠な回避などは不必要。妨害などは、真正面から強引に押し切るべきだ。

『何とも勇ましき事。ですが、この預言書の前には──』

 そんなサンディの猛進を止めるべく、|『クルセイダー』《安倍晴明》が選んだのはやはり『ぱらいそ預言書』。
 未来を見通すその書に、何が記されているか。|『クルセイダー』《安倍晴明》がその頁を手繰ろうとした、その瞬間だった。

 ──ッパン!

 空気が爆ぜる様な、軽い音。

『ぐっ──!?』

 そして、その音が響いた直後。|『クルセイダー』《安倍晴明》の口から苦痛が漏れる。
 見れば、預言書が燃えていた。
 その炎の色は、白。『クルセイダー』の身体を蝕む青い炎とは、別種の炎である。

「その侵略蔵書は、読ませません……!」

 その炎を放ったのは、信子であった。
 厳密に言えば、信子が放ったのは炎ではない。拳銃弾に装填された、浄化の魔弾である。
 預言書に籠められた悪しき力。そして集まる怨霊の念。それらを魔弾が浄化し、白き炎として顕現したのだ。

『おのれ……! ですが、まだ|『グレイズモンキー』《豊臣秀吉》どもを壁とすれば!』

 燃え上がり、消えていく預言書。その炎を憎々しげに見つめる|『クルセイダー』《安倍晴明》であったが、足掻くのを止めようとはしない。幾度目かの『秀吉』を喚び出し、壁としようと企んだのだ。
 だが──。

「それも、読めています。やぁっ!」

 その動きも、信子にはお見通しであった。
 携行した何かを取り出し、安全装置を解除。そのまま秀吉達が密集した壁へと投げつければ。

 ──ドンッ!!

 轟く爆音。そして吹き抜ける衝撃波が、壁を創る影を穿ち、崩す!
 信子が投じたのは、いわゆる手榴弾だ。
 『秀吉』の防御力が著しく低いのは、既に触れられている通り。信子はその相手の特性を知り、手榴弾の衝撃波による掃討を企図し……その狙いが、見事にハマったのだ。
 そして、その二つの障害が無力化されたという事は。

「おおおおッッッ!!」

 サンディの突撃を遮る物が、何も無くなったという事である。
 空気を震わす雄叫びが響く。

『何度も、肝心な所で役目を果たせぬサルめが……えぇい!』

 そんな雄叫びを受け、|『クルセイダー』《安倍晴明》が構えたのは十字槍。
 その穂先の輝きに、信子の頭に過るのはその槍の由来。

(『人間無骨』。人の骨など無いも同然、という意味の銘でしたね)

 織田家臣にして『鬼武蔵』とも呼ばれた|戦国武将《森長可》が用いたその槍は、一度の合戦で27の首級を挙げる程の切れ味を示す名槍として知られている。
 晴明が振るうそれが、本物なのかは定かではないが……その由来の通りの力を発揮するのであれば、マトモに受ければ無事では済まないだろう。

(私達……いえ。私には、それを潜り抜けられる手段もありますけど……)

 そんな槍を持つ|『クルセイダー』《安倍晴明》に対して、当初信子は自身が矢面に立つつもりであった。
 だがその方針は、引っ込めた。サンディが信子よりも僅かに早く、行動を起こしたからだ。
 真正面からの強行突破を図るという事は、勝算が合ってのことだろう。ならば自分はその補助をと信子は考え、預言書と『秀吉』を打ち崩す事を優先したのだ。

 ──ともあれ、これで4年前のからのスコアは私が上回りましたね?
 ──本命じゃないんだからノーカンよ、ノーカン!

 ……まぁ|その裏《心の内》で、『姉』とのそんなやり取りがあったりもしたのだが。
 大人しそうな顔をして、存外負けず嫌いな所のある信子であった。

(ああ。その槍が強力なことくらいは、判っているよ)

 さて、そんな信子達を他所に。サンディが、身構えた|『クルセイダー』《安倍晴明》のその槍を見て不敵に嗤う。
 天下の名槍であるその槍は、ユーベルコードの力も相まって更に強烈な存在となっていた。その威力は、文字通りの必殺の一撃を齎す物であるだろう。

(けれど今の俺は、『負傷を受ける程に強力な戦闘力を得る』状態だ)

 だが、その槍の特性は今のサンディにとっては好都合であった。
 真の姿を晒すサンディは、抱く悪意を魔力に変じ構築した|【黒化装甲】《コッカソウコウ》を纏っていた。
 この装甲を纏った状態で受けた傷は、サンディ自身の戦闘力を高める起爆剤へと変わる。
 ……もし、信子による預言書への狙撃が失敗していれば。その特性は、晴明の識る所となった事だろう。そしてそうなれば、十字槍による反撃という選択を躊躇させる事にも繋がった事だろう。
 だが、現実はそうでは無い。信子の狙撃は成功し、サンディの特性は相手の識る所では無い。

(さぁ、来い──!)

 十字槍の穂先が振り翳されて、煌めく。
 その光景を、突撃の足を止めぬまま視界の端で収めて。サンディが、覚悟を決めれば──。

 ──ズ、ンッ……!

 次の瞬間に感じたのは、冷たい何かが身体を貫く感触。そして全身を焼く様な、猛烈な熱量であった。サンディの腹を槍が貫き、その全身を光線が灼いたのだ。
 サンディの意識が白に染まり、身体は衝撃に硬直する。

『くっ、くく……素晴らしい。なんと熱く、そして練り上げられた|『業』《カルマ》をお持ちなのでありましょう!』

 その感触と、サンディから流れ込む何かを感じて|『クルセイダー』《安倍晴明》の表情が狂気に歪む。
 神経を逆なでする様な、聞くに堪えない雑言が礼拝堂に響く。

(──嗚呼、五月蝿いな……!)

 その雑音は、サンディの耳にも届いていた。
 そう。サンディの意識は一瞬白く染まったが、完全に消えはしていなかったのだ。
 想定以上に強烈な一撃に、意識を保つ事すらやっとの状態ではあるけれど……それでも、動くことが出来るのだ。
 そして、動くことが出来るのならば。負傷により強化された戦闘力を発揮する事も、適うのだ。

 ──ググッ……!

 自らを貫く槍の柄を、片腕で掴む。
 そしてそのまま……生じる力の限り、全力で握り潰す!

 ──バキィッ!!

 響く甲高い音。槍の柄が、あっさりと粉砕されたのだ。

『──なっ!?』

 |『クルセイダー』《安倍晴明》の狂気の表情が、一瞬で驚愕に染まる。
 そんな彼に頓着すること無く、サンディがその手の剣を振り上げて。

 ──斬ッ!

 徐ろに、|『クルセイダー』《安倍晴明》の胴を斬りつけた。
 全身の力を連動させぬ、手の力だけで振るった、不格好な斬撃だ。通常であれば、大した威力にもならぬ斬撃である。

『がぁぁぁぁっ!?』

 だが、重い負傷によりその能力を著しく向上させたサンディが放つ一撃だ。その斬撃の凄まじさは、筆舌に尽くしがたい物がある。
 事実、その斬撃を受けた|『クルセイダー』《安倍晴明》の胴は斜め一字に大きく切り裂かれ……その身体の中央の、『核』が剥き出しとなる。

(これは……)

 その『核』は、本来であれば『クルセイダー』と呼ばれた存在のものである。
 だが今、その『核』は寄生する『晴明』に蝕まれ……言葉にするのも憚られる様な、悍ましき形へと変質していた。

(なんて穢らわしい、『魂』なんだ……!)

 そんな『核』を目前にしながら、遂に限界を迎えたサンディの身体が崩れ落ちる。やはり十字槍の一撃は、彼の限界を超える一撃であったのだ。
 だが、崩れ落ちるサンディの表情は晴れやかだ。己の役割を果たせたという、満足げなそれであった。
 何故ならば、共に挑む『心正しきヒト』が。この穢らわしき存在を、祓ってくれると信じていたからだ。

「──|形象、開始《イメージ・スタート》」

 グリモア猟兵による強制帰還の処置を受け、光に消えるサンディ。彼が最後にこの地で聞いたのは、そんな『心正しきヒト』の力ある言葉であった。

(なんて、悍ましい『魂』……!)

 『晴明』に蝕まれた『核』を見た信子は、奇しくもサンディと同じ思いを抱いていた。
 あまりにも悍ましく、そして禍々しい『核』。悪しきその『魂』を撃ち抜く事は、並大抵の力では難しいだろう。

 ──だが、その為の力を信子は持っている。

 信子が己の影に手を翳すと、応えるように飛び出る長い影。
 随分と古い型の自動小銃だ。骨董品、と呼んでも差し支えは無いだろう。
 だが、見る人が見れば判るはずだ。その銃には、並々ならぬ力が宿っている事を。

(あの時手に入れた、この銃なら!)

 それは、かつての戦いで手に入れた銃。魂の叫びに呼応する様に現れた、『はじまりの猟兵』が用いた銃である。
 『はじまりの猟兵』。そして魂から湧き出た『m'aider』という語句。この銃に関しては、様々な謎が付き纏う。その謎が解き明かされる事は、無いのかもしれない。
 だが、それらは今は気にしない。
 今、必要なのは──悪しきあの魂を、今度こそ|撃《討》ち取る事のみ!

「『主よ。悪意を祓う力を、此処に!』」

 信子をこの地に送り込んだグリモア猟兵。陽光の信徒の聖句と共に、引き金を引く。
 瞬間、飾紐が瞬いて。その内に籠められた聖気が、放たれた魔を祓う銃弾へと重なって。邪悪を灼く二重の力が籠められた、概念弾へと進化を遂げる。
 その、概念弾の力があれば──!

 ──バスッ!!

 悪しく歪んだ『核』を撃ち抜く事は、難しくはない。

『オォ、ォッ──!?』

 齎された聖なる力に、全身を覆う悪しき炎が祓われる。
 それは同時に、|『クルセイダー』《死した猟書家》の肉体の終わりを告げる晩鐘であり、|『安倍晴明』《セイメイを弄ぶ男》の目論見が阻止された事を示す福音でもあった。

『おのれぇ……! あと一歩で、全てを『持ち帰れた』ものを!』

 ──この恨み、何れ必ずや……!
 崩壊していく肉体と魂。その今際で、晴明が嘆き……その存在を、無へと還す。
 |『クルセイダー』《猟書化の首魁》を乗っ取り再臨した『安倍晴明』は、再び躯の海へと放逐されたのだ。

(けれど……)

 だが、グリモア猟兵でもある信子には判る。『安倍晴明』という存在は、完全に滅びた訳ではないと。何れ再び蘇り、その悪意を剥き出しとするのだろうと。
 時折現れる、只のオブリビオンとは明らかに違う者達。『安倍晴明』もまた、その一人であろう。
 彼らは一体、何者なのか。今回の戦いは、多くの猟兵達が抱くその疑問を、更に深める事にもなったのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2023年05月27日


挿絵イラスト