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妹大好き怪人の策謀

#キマイラフューチャー

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#キマイラフューチャー


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 ――あなたを愛しています。
 キマイラの男はそんな意味を込めて、彼女に薔薇の花束を贈った。
 ――このメダカブス。今すぐ生け簀に帰れ。
 キマイラの女はそんな意味と受けて、彼氏を病院のベッドに送った。

 そして病床にて。
 男は『おらの妹かわいすぐる!』なる経典(ライトノベル)を読み、真理に触れた。
「あんな女より妹の方が可愛い! 妹好き! 妹ラブ!」
 むちゃくちゃな話だ。
 しかし風が吹けば桶屋が儲かると言うし、事実は小説より奇なりとも言う。
 破局を迎えた男が、妹に対する過剰な愛情に目覚めてしまったのは紛れもない事実だ。

 もっとも、男には妹などいないのだが。

●悲劇の原因は
「――もちろん、怪人です」
 グリモア猟兵の一人“テュティエティス・イルニスティア”は、一同を見回して言った。
「キマイラフューチャーの一角で局地的に発生していた花言葉ブームが、とある怪人の策略によって歪められてしまったのです」
 このままでは、多くのキマイラカップルが不毛な争いを起こしてしまう。
「まずは喧嘩を仲裁。然る後に怪人を捜索、始末しましょう」
 テュティエティスは訴えかけるように語ると、さらに説明を続ける。

 猟兵たちのテレポート先は、キマイラフューチャーに数多ある都市の一つ。
「街中を探せば、言い争っているカップルが何組か見つかるはずです。まずはどうにかして、彼らを宥めましょう」
 キマイラフューチャーの住人にとって猟兵はヒーローであるから、そう小難しいことをしなくても話は聞いてもらえるはずだ。

 無事に喧嘩の仲裁が出来たなら、悪辣な怪人を探すわけだが……。
「その怪人とは、このような姿をしているようです」
 テュティエティスは予知に基づいた自作の手配書を取り出してみせる。
 そこにはアニメキャラが表示されたタブレット端末を頭部とし、分かりやすくも激しい『妹萌』なる主張が大きく刻まれたTシャツに、ハートマークを散りばめた法被を着込んだ、無駄にガタイのいい敵役が描かれていた。
「この“妹が大好きな怪人・マイホゥ”なるオブリビオンは、妹にしか興味が持てない若者を増やすべく活動しているようです。カップルを仲違いさせたのも、傷心の彼らを――マイホゥが言うところの“妹萌え”に導くためでしょう」
 それにしても些か雑な企みだと言わざるを得ないが、予知にかかった以上、怪人の策謀は未来を終わらせるに十分な可能性を有しているのだろう。
「花言葉の改ざんだけでなく、新たな企てを実行に移すかもしれません。発見前にさらなる事件が起きたとしても、落ち着いて対処しましょう」
 そう呼びかけて説明を終え、テュティエティスはテレポートの準備を始めた。


天枷由良
●第1章の補足
 キマイラが持っている花の種類、カップルの風貌、喧嘩のシチュエーションなど、人物と状況に関してはプレイングで指定してくださって構いません。
『君を愛す』という花言葉だと教えてあげたいので、赤いアネモネを持ったカップルの仲裁に入ります……などというような形でご自由にどうぞ。
 ただオープニング冒頭に登場したカップルだけは仲裁も救済もできません。あしからず。

 ご参加お待ちしております。
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第1章 冒険 『幸せの花言葉』

POW   :    本当の花言葉を教える

SPD   :    花言葉以外の流行を作り出す

WIZ   :    でたらめな噂の根源を探る

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●喧嘩はやめて、争わないで
 転移を終えた猟兵たちの耳に、早速怒鳴り声が飛び込んでくる。
 ふと目を向ければ、何かの花を握った男が今にも殴りかかろうとしていた。
 こんなやり取りが街のあちこちで見つかるのだろう。
 急いで止めなければ、病院送りになる者が出てしまうかもしれない――!
有澤・頼
「うわぁ…怪人のせいで街中喧嘩してるカップルだらけだよ…」
愛情が深いからこその怒りが大きいってことなんだけど…

1組のキマイラのカップルに近づくよ。お互いに気が立っているから2人の話しを聞きつつ落ち着くよう言うね。男性が持っている花は紫色のチューリップ。彼女にはこの花の本来の花言葉は「不滅の愛」ということを伝えるよ。つまり、彼はあなたのことを本気で愛しているということなんだ。と「言いくるめ」て納得くしてもらうよ。

それにしても、喧嘩してるカップル多すぎだよ…



●不滅の愛
 有澤・頼(面影を探す者・f02198)は嘆息した。
 うわぁ、と。うわぁと声に出してしまった。
 だって、あっちからもこっちからも怒声罵声誹謗中傷が聞こえるのだからしょうがない。この街にはそれだけ愛を育んでいるキマイラが多かったのだという証明であるのかもしれないが、しかし深い愛情が激しい怒りに転じて、そこかしこから洪水の如く溢れ出ている状況は頼の心すらも辟易させる。
 それでも、彼女がうんざりしたような顔を見せたのは一瞬であった。
「どうにかしなくっちゃ」
 喚くキマイラたちは皆、悪逆無道な怪人に騙されているのだ。
 そんな人々を放っておくことなどできない。生来の性格が幸いしたのか災いしたのか、ともかく頼は自ら進んで、火中へと飛び込んでいく。

 程なく見つけた獅子っぽいのと女豹っぽいのとは、今にも互いの首筋を食い千切らんばかりの勢いで口角泡を飛ばしていた。
 よっぽど気が立っているらしい。おまけに毛も尾も逆立っている。
 選択を誤れば火に油、駆け馬に鞭、獅子に鰭――は、ちょっと意味が違うか。
 ともかく、慎重に臨んで損はあるまい。
 罵り合う二人を止める最初の呼びかけにこそ声を張ったものの、駆け寄っていく頼は努めて穏やかさを保ちつつ、二の句を「少し落ち着こうよ」との切り出しでもって始めてみた。
「うるせぇ! 関係ねぇヤツは引っ込んでろ!」
「そうよ! なんなのよアンタ!」
 にべもない。というか取り付く島もない。髭ならあるけれど。
 やむなく、頼は早々に伝家の宝刀を抜く。
 とはいっても、腰に下げたサムライブレイドではない。
 この場にて必殺足り得る武器は、頼が猟兵であるという事実だ。
 それを伝えただけで獅子と女豹はトーンダウンして、非礼を詫びながら素直に事情聴取へと応じてくれた。

 それから暫くの後。
「酷いと思わない? いきなり“行き遅れすぎて腐った女”だなんて」
「……ええ?」
 女豹の口から出た言葉に、頼は再び嘆息する。
 争いの源、獅子男の手から受け取った“紫のチューリップ”の花言葉が、まさかそんなに侮蔑的なものであるわけがない。
「この花に与えられた意味は『不滅の愛』のはずだよ」
「――! ほら! ほらー! な! だから言っただろ!?」
 猟兵という絶大な支援者を得て、獅子男が鬼の首を取ったように捲し立てた。
「オレはっ! オレはお前へのプレゼントだからちゃんと! ちゃんと調べたんだ! それなのに――!」
「はいはい、落ち着いて落ち着いて」
 興奮のあまり口論再開となっては目も当てられない。
 獅子男を宥めつつ、頼は澄んだ緑色の瞳でしっかりと女豹を見据えて言葉を継ぐ。
「見ての通り、彼はあなたのことを本気で愛しているんだ。それはチューリップの意味と一緒に、私が保証するよ」
「……そう」
 何を根拠に――と、他の世界なら一蹴されてしまうのかもしれないが。
 此処はキマイラフューチャー。怪人をやっつけるめちゃくちゃカッコいいヒーローな猟兵の言葉は、ただそれだけで言いくるめるのに十分な重みを持つ。
「あなたがそういうなら、きっと私が間違っていたのよね。ごめんなさい。酷いことを言ってしまって」
「いや……分かってもらえたならいいんだ。それに、オレも反省すべきではある」
 獅子男は大仰に頷くと、女豹の手を握りしめた。
「やはり流行になど乗らず、愛は男らしく己の口から伝えるべきだったのだ」
「……あなた」

「……あー、えっと。じゃああの、私そろそろ行くね?」
 穏便な解決に至ったはいいが、このままでは火傷しそうだ。
 頼は片手を上げ、そろりと二人から離れていく。
 その背中には、まるで遠吠えのような感謝が届けられたが――。
(「ありがたいけど、それよりも……」)
 まだまだ、怪人の罠に嵌められた被害者はあちこちにいるらしい。
 路地を一本曲がるなり聞こえた新たな諍いに、頼は三度嘆くのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

影守・吾聞
『』:技能

妹って日記を読んだら召喚される
クリーチャーってイメージしか無いんだけど…
まあ、ゲーマー的なネタは置いといて
ほっといたらろくでもないことになるに違いないし
怪人の企み、どうにかしないとね

※wiz
とはいえ…俺、花言葉には詳しくないんだけど
(きょろきょろ)
あ、あのカップルが持ってる花なら分かる!

ねー、お兄さんお姉さん。喧嘩は止めなよ!
…え?ナズナの花言葉は
「あなたに私のすべてを捧げます」だよ
父さんが母さんに贈った花だって思い出話聴いたから
俺、よく覚えてるよ

それにしても、そんなひどい花言葉
いったい誰から聴いたの?
『コミュ力』も駆使して『情報収集』だ
怪人に繋がる情報、何か掴めるかな?



 それは小さく幼くあどけなく。
 二つ結びの緑髪を揺らしながら、無邪気に呼びかけてくる。

「お兄ちゃん!」

「お兄ちゃん!」

「お兄ちゃんー」「お兄ちゃん♪」「お兄ちゃ~ん」「お兄ちゃん!」
「お兄ちゃん♪」「お兄ちゃん!」「お兄ちゃんー」「お兄ちゃ~ん」

●あなたに私のすべてを捧げます
「――うわぁ!?」
 影守・吾聞(先を読む獣・f00374)が我に返ると、そこはクリーチャーの館――ではなく、馴染み深いキマイラフューチャーの一角であった。
「あれ……?」
 なんだか、悪い夢を見ていたような気がする。
 大切な時間を根こそぎ奪われていくような、とても悪い夢を。
「……寝不足だったりするのかな」
 ゲーマーであり、学生であり、そして猟兵である吾聞は近頃の生活をふと振り返り、それから頬を軽く叩きつつ本来の目的を思い出す。
 呆けている場合ではないのだ。
 怪人に陥れられた同胞たちを、早く助けなければ。

 とはいえ、吾聞には少しばかり不安があった。
(「花言葉……って、どんなのがあったっけ?」)
 今週の“爆撃!キマイラステイション”でレビューされていたゲームタイトルならポンッと出てくるけれど、誰が言い出したのかも定かでない、花々に与えられたメッセージなんて中々思い浮かばない。
 困った。調べれば分かることなのだろうが……。
「そうも言ってられない、よね」
 思案と捜索を並行していた吾聞の目には、既に仲裁すべきキマイラ二人の姿が映っていた。
 羊らしき立派な角を生やした大柄な青年が、兎耳を伸ばした女性にとてつもない勢いでスタンピングをブチかまされている。まずい。止めないと羊のお兄さんが、しぬ。
 けれども、花言葉が不明なまま説得に臨むのは――。

「……あ!」
 僅かな逡巡の後。
 吾聞はバイオレンスな光景の中に揺れる可憐な花を目に留める。
 それが数少ない心当たりであったことは僥倖というほかない。
「ねー、お兄さんお姉さん。喧嘩は止めなよー!」
 勝算ありと見るやいなや、吾聞は急ぎ介入を試みた。

 そして。
「――えっ?」
 兎娘の言葉に、吾聞は耳を疑う。
「……ごめん、もう一回言ってもらってもいいかな?」
「だから! この人は私のことを『断崖絶壁不毛地帯』だって言うのよ!!」
 それも、こんなものを使って! 
 憤激する彼女から眼前に突きつけられたのは、白くて小さな、四片の花弁の連なり。
「これ、ナズナだよね?」
「そうよナズナよ! 荒れた土地でも生える別名ぺんぺん草よ! ……誰が荒れ地よ!! 誰が断崖絶壁よ!! 悪かったわねすとーんのつるーんのぺんぺんぺたーんで!! あたしだってもっと肥沃で実り豊かな大地になりたかったわよ!!」
「いや、誰もそんなこと思ってないから……」
 どうどう。
 再び足元の――まだ解放されていない牡羊へと繰り出されかけた蹴技を防ぎつつ。
「おかしいな。ナズナの花言葉は『あなたに私のすべてを捧げます』だよ?」
 吾聞は真実を伝える。
 途端、兎娘は石のように固まった。

「俺の父さんが、母さんに贈った花なんだって。だからよく覚えてるんだ」
 サンドバッグにされていたとは思えないほどケロリとしている羊と、顔を覆ったまま縮こまっている兎に挟まれつつ、吾聞は両親の思い出話を語っていた。
 それを聞いた当時の事を思えば、心は穏やかに、そして少しこそばゆくなる。
「素敵なご両親だねぇ」
「うん。ありがとう」
 のんびりとした感想を述べる羊に、はにかみつつ礼を返す。
 一方で、兎はまだ小さくなって震えている。
 年下の猟兵に勘違いを指摘されたばかりか、その猟兵に向かって自らの身体的コンプレックスを大瀑布の如くだばだばと垂れ流したのだから、無理もない。
 しかしまあ、猟兵のちからってすげー! という具合で。
 既に問題は解決したはずだ。もう二人の仲を心配する必要はないだろう。
 後は大らかな羊に任せて立ち去ってもいいのだが。
「ところでさ」
 友人と取り留めもない話をするような口ぶりで、吾聞は兎娘の方に尋ねる。
「あのひどい花言葉は一体誰から聞いたの?」
「……」
 兎娘は視線を合わせようとせず、けれども懐から取り出した小さな端末を操作して、何かのWebサイトを見せてくれた。

『カレも☆カノジョも☆これで☆イチコロ はーと♡ふるふる♡ふらわー♡わあど』

「うわぁ……」
 ヒドいセンスだ。
 原色の電飾みたいなのが明滅しながら左右に動いている。
 あ、これ作ったのモテないヤツだな? という雰囲気が、ひしひしと伝わってくる。兎娘もよくこれ信じたな、とさえ思う。
 おまけに画面をスクロールしていけば、運営者:マイホゥと馬鹿正直に書いてあるところが独り言呟く系SNSへとリンクしていた。
 怖いもの見たさ半分、情報収集半分。
 ぽちり。
「……うわぁ」
 そこに溢れていたのは妹という概念への愛。
 一番最新の投稿は、なにやらベッドの上でライトノベルを読み耽るキマイラの写真と「また一人お兄ちゃんにしちゃった♡」とかいうものだった。
 目に毒だ。これといって重要そうな情報も見当たらない。
 吾聞はそっと端末を返そうとして――。
「……あれ?」
 ぴこん、という音を聞き、手を止める。
 そして自動的に更新された画面には、こんな言葉が記されていた。

『なんでコンコンしても妹は出てこねーんだよ!!!』

大成功 🔵​🔵​🔵​

二條・心春
自分の目的のためだけにカップルを別れさせるなんて、許せませんね。

では、彼らに本当の花言葉を伝えましょう。まずは彼らの間に立って、「コミュ力」を使って話しかけます。
落ち着いてください、花に暴力は似合いませんよ。私も一応猟兵です、何かあったのですか?
花言葉、ですか。この花は…コチョウランですね。「あなたを愛しています」とか、「清純」が花言葉ですよ。結婚式の花にも使われるとか。
「情報収集」したことを彼らに伝えて誤解を解きます。花言葉は恋愛の駆け引きのために生まれたそうですよ?相手を貶すだけの頭悪い言葉では、駆け引きなんて無理ですよね。
いつかお二人も結婚式でこの花を使えると良いですね。応援してますよ。



●清純
 許せない。
 怪人への怒りを胸に抱き、二條・心春(弱さを強さに・f11004)は街中を駆けていた。
 土地勘はないが、足取りに迷いもない。心春の耳には、怪人の策略によって好意を反転させたキマイラの叫び声が、絶えず届いている。
 それを辿っていけば、争い合うカップルを見つけ出すのは容易いことだった。
「あの――!」
 殴り合いの喧嘩を遮るべく、しかし礼節は損なわないように。
 声掛けた心春の姿を、二つの鋭い眼差しが射抜く。
 どうやら男女ともに狼種の特徴が色濃いキマイラであるらしい。プライベートなやり取りを阻んだ少女に対する態度はすこぶる威圧的で、微かに覗いた牙の向こうからは唸り声が漏れ聞こえてくる。
 けれども、心春は後退りなどせず。
 むしろ二人の間に割り入って。
「落ち着いてください、花に暴力は似合いませんよ」
 努めて穏やかな表情と声音で語りつつ、自らが猟兵の端くれであることを明かし、諍いの理由を問い質す。

「この花は……コチョウランですね」
 伝え聞いていた通り、偽りの花言葉を発端として争っていたという二人から束ねられたそれを受け取ると、心春は慈しむように眺めてから、鼻先へと運んでみる。
 匂いは殆どない。どうやらUDCアースにあるものと同じで、香りでなく花弁の美しさを楽しむ種のようだ。
 再び顔から遠ざけて眺めれば、なるほど確かに。
 穢れから最もかけ離れた真白。可憐なピンク。二色で紡がれた花束には称賛を送るしかない。
「とても綺麗じゃないですか。この花に、あなたの言うような意味はありませんよ」
「でも……!」
 狼女の方が、自らの知識と猟兵の言葉とに挟まれて、切ない顔を見せる。
「その花を贈るのは『お前が死ぬのを待ちわびている』ってことだって……」
「そんなつもりでやるわきゃねーだろー……」
 狼男はボヤきながら頭を掻いた。
 既に何度となく同じやり取りを繰り返していたのだろう。仲裁人の前でまた声を荒らげる元気は残っていないようで、そんな男に心配無用との目配せをしてから、心春は記憶の中にある辞典をぱらぱらと捲った。
(「確か、コチョウランは……ああ」)
 そういえば、UDCアースでは喪中のはがきにも使われるのだったか。
 だから死亡宣告じみた花言葉に改ざんされたのか? ――いやいや、まさか。
「この花の、本当の意味ですが」
 余計な思考を彼方へと追いやって、心春は狼女へと真剣な眼差しを送る。
「白いほうが『清純』で、ピンクは『あなたを愛しています』です。それを交えることで――きっと『清らかで美しいあなたを心から愛しています』と、そう伝えたかったのでは?」
「そう!」
 ご明察! とばかりに男が手を打ち鳴らす。
 一方で女は目をしばたたかせると、微笑む心春が返してきた花束を受け取りつつも、どうしていいものかと途方に暮れる。

「そもそも、花言葉とは恋愛の駆け引きをするために生まれたそうですよ?」
 男の想いを証明する側から、女の心を慰める立場へと移って心春は語った。
「相手を貶すだけの頭の悪い言葉をもたせてしまったら、恋の駆け引きなんて無理ですよね?」
「……そう、ね」
 猟兵の言葉に抗う材料もなく、女は頷く。
 表情はとてつもなく暗い。自身の誤った知識から醜態を晒した事と、それに彼を巻き込んでしまったのを随分と悔いているようだ。
 そんな彼女を励ますべく、心春はコチョウランについての知識をもう一つ囁いた。
「私の故郷では結婚のお祝いにも贈ったりするんですよ。いつかお二人も、この素敵な花を、素敵な誓いの式で使えたらいいですね。応援してますよ」
「ばっ、ばっかやろうオマエ、結婚とかそういうのはだな……」
 慌てた狼男が何を言い出すかと思いきや、彼は顔を赤くしたまま「まずご両親にちゃんと挨拶をしてからだな……」などと呟き始める。
 その姿がいかにも、コチョウランが示す“清純”であるかのようで。
 程なく笑いだした女と一緒に、心春も優しい笑顔を浮かべるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

パーヴォ・シニネン
※イルカ、鯨等の海洋生物を模したマスクが子供の肉体に憑依

POW

おお、これはなんという悲劇…
我輩こーゆー色恋沙汰はあんまり得意ではないのだが
未来ある二人が別れるのは放っておけないな、相棒(肉体に話しかけ

今にも殴り合いになりそうな二人に割り込みストーーーップ!
おお、その青く愛らしい花はまさしくブルースター!
花言葉は「幸福な愛」ではないか

ん、我輩達ってば猟兵だよ?
猟兵は君達に真実しか話さないだろう?
相棒も、お嬢さんによく似合う花だと言っている
贈った彼はとても素晴らしいチョイスをしたものだなぁ

この花が似合う君達は花言葉の通り、幸福な愛を貫けるはずだ
我輩達は君達を応援しているよ(ぱちぱちと拍手する子供



●幸福な愛
 パーヴォ・シニネン(波偲沫・f14183)はヒーローマスクである。
 意志を持ち、言葉を話す、空飛ぶマスクである。
 数多の世界に住まう数多の種族のなかでも、特に異質なこの生命体は、心通わせた者に被さることで自らの真価を発揮する。
 故にマスク一枚限りでふらふらと過ごしているよりも、何処かの誰かと一体になっている方が多く。
 パーヴォもまた、キマイラフューチャーでは少々珍しい影がある子供の顔に取り憑いて――手近なところをコンコンすると出てきたサンドイッチを片手に街中を歩いていた。
(「美味いか、相棒」)
 顔を覆う、クジラ類を模したマスクからの問いに、一時のパートナーとなった子供は頷く。
 ならばよし、とパーヴォも唸る。
 空腹は悪であり、悲劇であり、絶望だ――と、飢餓には縁のないこの世界で其処まで大袈裟なことは言わずとも、これから一働きする上で肉体に適度適切適当な栄養補給をさせておく意義は大いにある。
 未来へと進むにはエネルギーが必要なのだ。

 かくして、二人は“てくてく”と“もぐもぐ”を繰り返していたのだが。
 ふんわりもっちりとした食感のパンが一欠片も残らず相棒の腹に収まった頃だ。何本か向こうの路地から大きな声が聞こえたかと思いきや、何かが破れたか倒れたか、とかく激しい音が耳に飛び込んできたのは。
(「急ぐぞ、相棒!」)
 パーヴォの呼びかけに子供はまた首を振って、両手両足を全力で動かす。
 それは小さく短いと侮るなかれ。確かに子供の形ではあるが、しかし今はヒーローマスク・パーヴォのものでもあるのだ。
 二人で一つの猟兵はすれ違う人々をひらりひらりと華麗に避けつつ、瞬く間に現場へと迫っていく。
 ――食べてすぐに走らないとか言わない。お腹痛くなるとか言わない。
 緊急事態だ。

 それからすぐに発見した二人組は、片方が馬面で片方が鹿面。
 圧が凄い。あれに挟まれたらサンドイッチの具の気持ちになれるかもしれない。
 ……などと言っている場合でもなさそうだ。二人は殴り合いとまではいかずとも、組み合い揉み合いには及んだ後らしく、傍らには電飾の看板が倒れたりしていた。
(「……我輩、こーゆー色恋沙汰はあんまり得意ではないのだが」)
 目前の二人が争う理由をふと思い返して、パーヴォは僅かな躊躇いを見せる。
 その言い草は単にヒーローマスクという種族に拠るところなのか。或いは子供にばかり憑いているからなのか。定かでないが、しかし真ではあるのだろう。
 そして。
(「未来ある二人の危機は放っておけないな、相棒」)
 たとえ不得手な状況であろうと、力を尽くそうという決意もまた、真である。
 それを感じ取ったかのように、パーヴォに全てを預ける肉体からは頼もしいGOサインが送られた。

「ストーーーーップ!!!」
 体格からして力では敵わないと断じたパーヴォは、叫びながら二人の間へと割り込む。
 右に馬面。左に鹿面。……ええと、鹿の方が男だ。
 そして男の手には、少しばかり傷んでしまった小さな花。
「おお、その青く愛らしい花はまさしくブルースター! 『幸福な愛』という花言葉を持つ、ブルースター!!」
 殊更大きな声を上げつつ、花を指差す。
 当然、男からは抗議というか。簡潔に「何だお前!」という台詞が飛ぶ。
 やや遅れて、女の方からも同じ意味の言葉が吐き出された。
「何だお前って……我輩達ってば、猟兵だよ?」
 見て分からんのかいな、とでも言わんばかりに軽く正体を明かすパーヴォ。
 途端、鹿と馬は今まで争っていたことを忘れてしまったかのように目を輝かせて、なんと握手を求めてきた。
 キマイラフューチャーにおける猟兵人気の凄まじさには、感謝するほかない。

 此処で示す“猟兵”という身分は、それだけの意味がある。
 小さなヒーローから真面目に話を聞こうという態度の表れか、路上に正座した二人から事情を伺えば――馬女の方はブルースターを『お前と俺じゃ釣り合わない』という、離別を迫る花だと信じていた。
「さっきも言った通り、その花に込められたのは『幸福な愛』という意味だ」
 改めて諭しつつ、パーヴォはこれが猟兵の言葉であると念を押す。
「猟兵は、君達に真実しか話さないだろう?」
「……そうだなぁ。猟兵が嘘を言うはずないよな」
「じゃあ、私が騙されていたってことなのね」
 なんとまあ素直なことか。大掛かりな策を用いずとも済むのは楽でいい。
「相棒も、お嬢さんによく似合う花だと言っている。贈った彼はとても素晴らしいチョイスをしたものだなぁ」
 苦労せず解決したからか、パーヴォはうんうんと大仰に唸りつつ語り。
「この花が似合う君達は花言葉の通り、幸福な愛を貫けるはずだ」
 我輩達は、君達を応援しているよ。
 説得をそう締めくくると、身体の主に任せるがまま、ぱちぱちと手を叩く。
 そうして猟兵に祝われるという事態がよほど嬉しかったのか、鹿と馬は抱き合ったままぐるぐると回って、歓喜の声を上げた。というか嘶いた。
 随分と調子のいい二人だ――とは、パーヴォは心の中で、相棒と共に思うだけにしておくのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『コンコン機械の故障を直せ!』

POW   :    斜め45度チョップ!機械は殴れば直るって聞いたぞ!

SPD   :    機械を分解して故障している箇所を探そう!

WIZ   :    最近この機械の近くで不審者を見なかった?聞き込み調査で原因解明だ!

👑11
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 猟兵たちの尽力によって、キマイラカップルは皆、元鞘に戻った。
 しかし、時を同じくして新たな事件が起こる。
 いつものようにあちこちをコンコンしていたキマイラたちが、突如一斉に悲鳴を上げたのだ。
 駆けつけてみれば、彼らは口々にこう語る。

 ――なんか変なやつが来て、コンコンする機械をドンドンしていった。
 その後から、誰かがコンコンする度に、その人が一番キライなものばかり出るようになった、と。

 キマイラフューチャーでは、都市の適切な場所を適切なタイミングでコンコンコンすると、何故だか食べ物やら衣服やら、道具やらが出てくるものだ。
 そしてこの都市では、その機構の多くが郵便ポストのような作りで路上に生えているらしい。
 それが不調に陥ったままでは、遠からずキマイラたちの生活にも影響が及ぶだろう。
 変なやつ、が怪人マイホゥであることは疑う余地もないが、まずは困り果てたキマイラたちのために、機械を直してあげよう。
 ……なに、機械いじりなどしたことがないと躊躇う必要はない。
 猟兵ならなんとかなる――!
影守・吾聞
『』:技能
【】:UC

うわぁ…(独り言呟く系SNSの投稿思い返してドン引き)
コンコンしても妹が出ないからって、八つ当たりかぁ
ないわー

※SPD
コンコンする機械をドンドンしたら変化があったんだよね?
それじゃ…
【某配管工の真似】で上から機械を踏みつけてみよっと!
踏みつける位置とタイミングの把握は『野生の勘』で何とかする!

町のどこに機械が置いてあるのかは
キマイラ達に話を聴いて『情報収集』しよう
効率よく順番に回って修理していくよー

…え、分解?
ゲームのハードとかパソコンならともかく
俺、コンコン機械の仕組みとかよくわかんないし



『なんでコンコンしても妹は出てこねーんだよ!!!』

「うわぁ……」
 独り言呟く系SNSで見た文字列が、頭の中で反響する。
 吾聞は項垂れ、息を吐き、そして小さく「ないわー……」と呟いた。
 八つ当たりだ。これはきっと八つ当たりなのだ。
 マイホゥってやつは、自分が負けたらコントローラー投げたりモニター壊したりするタイプなんだ。多分。

 そんな怪人の分析はともかくとして。
 コンコンコンすると色んなものがガチャっとポンしてくるシステムの、この世界における重要さは誰に言われずともキマイラの吾聞ならよく知るところ。
 狼狽える同胞の為にも早く直してあげたいものだ。

 ――しかし!
 利用頻度と理解度が比例するとは限らない!
 それを使えばどうなるかは分かっても、何故そうなるかなど分かりゃしない!
 まだ家庭用ゲーム機とか携帯ゲーム機とかアーケードゲーム筐体とかゲーミングPCとかなら――え、どれも似たようなもの?
 ともかくだ! そういったものなら分解して分析して修理をするのもやぶさかではなかったけれども!
 コンコンする機械の仕組みなんてわっかりゃーしないよ!
 じゃあどうする!
 決まっている!
 わからないなら、あとは勘だ! 勘!

 それくらいの勢いで以て、吾聞はコンコンする機械の上によじ登り。
 身体を半分ほど縁からはみ出した状態で、片腕を高々と掲げながら元気いっぱいに吼えた!
「ヒア、ウィ、ゴー!!」
 そして跳んだ! ブロック何個分かなら越えられそうな勢いで、跳んだ!
 真上に! 寸分違わず、真上に!
 それから落ちた! 真下に落ちた!
 つまり踏みつけたのだ! 機械を! ドッスンと! それはもう、ドッスンと! 違いますバッタンじゃないです!
 或いはダンダンと! ドンドンして壊れたのだから、対抗してダンダンと! 違いますワンワンじゃないです!
 何にせよ精密機器の故障にあるまじき対応である!
 でもそれで直っちゃったんだよなぁ。うん。

「やっぱ猟兵ってすっげー!」
 同胞の活躍にキマイラたちが賛辞を送る。
 それに笑顔で応えつつ、吾聞はこのステージを攻略するべくさらなる情報を求める。
 要するに、機械の設置された場所だ。マップとオブジェクトの把握は効率的なプレイに欠かせないのだ。

「……よし、じゃあまずはあっちからだね!」
 脳内ルート設定を終えて、吾聞は走り出す。
 勢い余ってまた高々と跳び上がれば、彼を送り出したキマイラたちは声援の代わりに「イヤッフー!」と叫んだのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

有澤・頼
「花言葉の問題が解決したら今度は機械だって!?」
なんなんだ一体…でも、生活に影響を与える程のものだからね。困っている彼ら彼女たちの為にも頑張らなきゃ。

【SPD】
故障をしているということならきっと部品に異常があるはずなんだよね。工具を使ってバラして見てみよう。壊れている部品があったらそれと新品のを取り替えて直していこうかな。

「次から次へと問題が発生するな。やれやれ…」
それにしても、機械を壊してあの怪人は何をしたいんだ…?



「花言葉の問題が解決したら今度は機械だって!?」
 頼のそんな反応は、物語を進める上で百点満点と言えよう。
 ……だってほら、ピンチはピンチらしく、事件は事件らしく。
 驚きをもって迎えられないと。

「それにしても、一体どういうことなの……?」
 壊れた機械と慌てふためくキマイラを前に、頼は思案する。
 妹萌えの同胞を増やす上で、果たしてコンコンする機械を壊す必要があったのだろうか。
 むしろ生活に不可欠なこのシステムすら破綻した状況では、妹萌えとか言ってられないんじゃないだろうか。
 分からない。
 マイホゥが何故このような暴挙に出たのか、てんで分からない。
 それとも、この事件は頼の考えも及ばぬほどの高度な策略なのだろうか。

「……まあ、それはそれとして」
 キマイラフューチャーの住人たちの為に、コンコンする機械を直してあげなければならない。
 それは故障したが、全壊したわけではない。
 ということは、内部に異常が起きているはずだ。部品の破損、劣化、接触不良。そうしたものはのっぺりとした箱型の外観を眺めているだけでは調べようもない。
「ちょっと開いてみようかな」
 そう呟く頃には工具を用意して、頼はコンコンする機械の背面の、あーここにマイナスドライバー突っ込んだら何だか開きそう、な部分を抉っていた。
 支点力点作用点。てこの原理ってやつはキマイラフューチャーでも変わらない。存外、力を込めずともそこは開く。
 そして中には――ドンドンされたせいでダメージを負った小さなおじさんが!
 なんて事があるはずもなく。そこにはみっちりとよく分からないものが詰まっていた。
 電子部品だということは理解できるが、さて、どれが何をする何の部品であるのか。
 完全に分析、判別するのは難しい――が。
「……これ、絶対に壊れてるよね」
 誰がどう見てもそう言いたくなるような、真っ二つに割れたチップとも基盤とも呼べるものを手に頼は唸る。
 それが刺さっていたであろう箇所には不自然な空白もあった。

 あとは頭脳でなく肉体を労働させる番だ。
 その部品が何であるのかは結局のところ不明だが、此処はキマイラフューチャー。
 いい意味でモノに溢れた世界。そんな世界でコンコンしても手に入らないモノが欲しくなった時、キマイラたちは揃って同じ行動をとる。
 つまり――。
「あの、なんかこういう部品って置いてないかな?」
 頼が飛び込んだのは、近くにあった商店。
 機械の部品から奇怪な一品まで何でもござれのその店で、どうにかこうにか新品のそれと思しき部品を手に入れるのが一番の困難であったが。
 有象無象の山からそれを掘り出した頼は、取って返すと壊れた機械にセットオン。
 ついでにコンコン、ガチャッとポン。
「直っ……た?」
 一瞬判断に迷ったものの、出てきたそれは頼の一番キライなものでなし。
 ということは、直ったのだ。
 目的を達成した割には、なんともふわっとした感覚だが。
 ひとまず蓋をして、頼の修理作業は一段落。

 しかし、まだ一台直しただけ。
 1ブロックも離れていないところから、こっちも直してくれとキマイラの声がする。
「次から次へと……」
 やれやれ。一つ息を吐きながら、頼は次の作業へと向かった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

二條・心春
【POW】
機械を使うのには慣れていますが、直すのは難しいかな。(持っているタブレット端末を見て)いえ、私にもできることを思いつきました。
…再起動しましょう。

えーと、電源ボタンは…見当たりませんね。なら仕方ありません、強制的に電源を落としましょう。「第六感」を頼りに機械の急所を叩きます。機械を壊してしまったらいけませんから。必要なところだけ叩きます。
その後は機械を起動させないといけませんね。あれ?どうしましょう?…仕方ありません、再度叩いて起動させましょう。必要であれば槍に雷属性を付与して、電気を流してみましょう。
…さ、さすが別世界の機械です。再起動の仕方も全然違いますね!(冷や汗)



 機械の扱いには通じていると自負するが、だからこそ迂闊に「直せます!」などとは言えない。
 困り果てるキマイラと、壊れた機械の傍らで、神妙な面持ちの心春はどうするべきか思案しつつ、ふと手持ちのタブレット端末に目を落とす。

「……あ」

 故郷、UDCアースの組織より支給された道具。
 キマイラフューチャーにおいても変わらず起動している文明の利器。
 それが心春の脳裏に、再起動、という単語を思い出させた。
 電子機器のマニュアルを開けば、大体はこう書いてあるものだ。
 おかしいかな? と思ったら電源を入れ直してください、と。

 かくして心春は、再起動を行うべくコンコンする機械を検める。
 電源――見当たらない。電線――見当たらない。
 それに類する諸々のプラグやらなんやら――見当たらない。
 いきなり暗礁に乗り上げた。
 この、長方形に棒が一本生えただけの機械。
 一体全体どうやって動いているのだろうか。

 しかし挫けてはいられない。
 電源ボタンが見つからないというなら、強制的に電源を落とせばいい。
 ではどうやって落とすか。……なに、難しいことではない。
「ていっ!!」
 手刀一閃。右斜め四十七度角から繰り出された一撃が、機械の角を叩く。
 これぞUDCアースに伝わる秘技、ずばり“叩いて直す”である。
 一説に拠れば老若男女問わず口伝で受け継がれるというこの手法、心春が何時何処で学んだかも定かでないが、しかし緊張から正しい角度より二度ばかりブレても効果はあったらしい。
 機械は二度三度大きく揺れて、爆発音じみたものを響かせてから一転、沈黙する。
 それからは幾らコンコンコンしても、何も出てこない。
 何も出てこないということは、つまり電源が切れた、ということだ。
 一歩前進。あとは電源を入れ直すだけ。

 だが、しかし。
「……あ」
 心春、此処で気付く。
 わからないのはOFFにする方法だけではなかった。
 ONにする方法だって分かりゃしない。
 だって、電源っぽいボタンとか見つからなかったんだから……!
(「ど、どうしましょう……?」)
 顔にこそ出さなかったものの、心春、焦る。
 仕方ない。彼女は猟兵だが、まだ十六歳の少女でもある。
 キマイラたちのプレッシャーを浴びれば、心中慌ただしくもなる。
 だからと言って混乱したわけではないが。
 心春は再び腕を振り上げ、機械を何度か叩いた。
 結果は――芳しくなかった。

(「ど、どうしましょう……!?」)
 そろそろ焦燥が隠し通せるかも怪しくなってきて、心春は背筋に冷たい汗が流れるのを感じた。
 ヒーローたる猟兵が、キマイラフューチャーの基幹システムたるコンコンコンしてガチャッとポンの機械を、たった一台と言えど破壊してしまったとなれば。
 問題、問題、大問題。猟兵への信頼は失墜し、キマイラたちの期待は反感へと変わり、なんやかんやで世界の危機が――というのは妄想空想であるが、しかし心春が何とも居心地の悪い思いをすることに違いはない。
「直った?」「壊れた?」「……壊した?」
「だ、大丈夫ですよ! もうすぐ直りますから!」
 ああ、迂闊なことを言ってしまった。
 もう後には引けない。いや、とっくに戻れないところまで来ていたけれども。
(「……こうなったら」)
 心春は決意する。
 これは自棄ではない。繰り返す、これは自棄ではない。

「――てぇい!!」
 渾身の力で以て、心春はそれを振り下ろした。
 少女の腕より遥かに恐ろしい、ドラゴンランス。
 その切っ先に纏わせた雷光に一縷の望みを掛けた。
 爆ぜろスパーク、弾けろマシーン――あ、弾けてはダメだ。動けマシーン。
 ともかく、この一撃がショック療法的な感じで作用することを、期待した。

 ――結果は。
「ありがとー、猟兵さん!!」
 まだ槍を手にしたままの心春に向けて、キマイラがお礼を述べながら機械をコンコンする。
 そこから出てきたのは、彼の好物であるらしい。
 つまり、機械は直ったのだ。
 ならば過程など気にすることはない。大事なのは結果である。
(「……さ、さすが別世界の機械。なかなか強敵でしたね!」)
 再起動出来たことに心底安堵しつつ、心春は胸中で呟き、汗を拭うのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

パーヴォ・シニネン
ふぅむ
相棒、君はこの世界に慣れていないな?
だがコンコンが素晴らしい技術なのはよくわかったと思う
(さっきコンコンして出た肉を食べつつ頷く肉体
これがおかしくなると?
…そう、皆がとっても困る
では早速、直してあげようではないか

といっても我輩も相棒も機械とか全然わかんないよネー!
なぁに我輩のパワーがあれば問題なし
さぁ遠慮なくがつーんとやっていこう!ドスッと!手刀を!ゴスッと!グーで!

…相棒、手は痛くないか?
よしよしその調子だ、手刀もグーパンもだめならキックだキック
今の君は最高にかっこいいゾー必殺技もキメていこう

無事に直れば住民達はこの子に感謝する
自己肯定感を育てるのは大事だよ

※褒めて伸ばす教育方針



「――ふぅむ」
 此度の相棒を少々案じつつ、パーヴォは唸る。
 彼の前にもまた、壊れた機械が一つ。
 そして困り顔のキマイラが数人。

(「相棒」)
 呼びかけながら動かす片手には、香ばしい匂いを漂わせる肉が少々。
 まだ温かなそれを口に運ばせて、咀嚼して、溢れる肉汁の一滴までもたっぷりと味わわせてから、問う。
(「素晴らしい技術だな?」)
 小さな身体はこくこくと首を振った。
 理解を得られた事に、パーヴォも心中で頷く。
(「では、この機械がおかしくなると?」)
 まるで幼児教育をするかの如き新たな問いかけ。
 それに、相棒は僅かな間を置いてから、こう答える。

 ――こまる!

(「そう、皆がとっても困ってしまうな?」)
 ちゃんとキマイラたちの気持ちが考えられて、えらい!
 今度は胸中で拍手を贈りつつ、続けて。
(「では早速、我輩たちの力で直してあげようではないか!」)
 パーヴォは意気込み、呼びかけた。

 ……が、しかし!
「機械とか全然わっかんないよネー!!」
 とりあえず箱状の装置を撫で回しながら、海棲生物を模したマスクはあっけらかんと言った。
 これで取り憑いた先がエンジニアだったらまだしも、相棒は子供。やはりキマイラフューチャーの奇妙奇天烈な装置についての知識など持っているはずがない。
 それでも、二人には危機感や焦燥などはなく。
「なぁに、我輩のぱぅわーがあれば問題なし!」
 どーんと! がつーんと! 臆せず遠慮せずやっていこうではないか!
 わははと笑い声さえ上げながらそう語れば、パーヴォの相棒は機械に向かって、片腕を大きく振りかぶった。

 それは子供の、小さく細い腕である。
 鋼鉄の箱へと叩きつけるには些かどころでなく頼りない。
 いくら猟兵といえどもと、見守るキマイラの中には案ずるような声を出す者も居た。
 杞憂、といえば杞憂であるのだが。しかし彼らの気持ちは、パーヴォにも分からなくはない。
(「相棒、痛くはないか?」)
 一応、尋ねておく。

 ――だいじょうぶ!

 返事は、とても力強かった。
 何も精神的、つまり“やる気”の面だけでそうなったのではない。先程食べた肉が身体の炉心とも呼ぶべきところに行き着いて、全身の細胞一つ一つを極限まで漲らせているのだ。
(「よしよし、ではこの調子でドカンとバコンとガツンといこう!」)
 指示と鼓舞を織り交ぜて言えば、そこからはもう二人の独擅場。
 右斜めから手刀を、正面からグーパンチを、意外性たっぷりに鋭いローキックを。
 かと思えば左で抉るようなボディブローを、さらにリズミカルなワンツーパンチを。
(「いいぞーいいぞーかっこいいゾー!」)
 パーヴォが心のリングサイドから声援を贈れば、極めつけに右ストレートが炸裂。
 途端、機械はエンジン音のような響きを洩らしながら震え、程なくまた無音の中に沈んだ。

 それを以て修理が完了したと確信し、パーヴォはキマイラにコンコンコンしてみるよう呼びかける。
 不安が半分、猟兵への信用が半分。やや複雑な表情のそれは、自身のキライな一品が出ないように祈りつつもそっと、機械をノックして――。
「……あ、これ好きなやつだ!」
 ぽろんと出てきたものに、そんな声を上げた。

 となれば、その場に溢れるのは猟兵への賛辞である。
 ありがとう、ありがとうと口々に言いながら求められる握手に、相棒は一つ一つ丁寧に応えていく。いや、パーヴォがそうさせたというべきか。
 ともかく褒めて伸ばす方針のヒーローマスクは、我が子を誇る親のような気持ちで、キマイラたちからの称賛を噛みしめるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『妹が大好きな怪人・マイホゥ』

POW   :    妹の願いを叶えぬ兄などいない!お兄ちゃん頑張るぞ
【妄想の元気系妹の激励 】【妄想の清楚系妹の声援】【妄想のツンデレ系妹の罵倒(?)】で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。
SPD   :    妹の何が良いかだと?これを見れば良さがわかるぞ
レベル×5本の【妹 】属性の【動画を再生するモニター付ドローン】を放つ。
WIZ   :    どんな妹が好みだい?言わなくてもわかっているさ
【頭部のタブレットPC 】から【対象が考える理想の妹の幻影】を放ち、【実体化した幻の妹とのふれあい】により対象の動きを一時的に封じる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はフィン・スターニスです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 猟兵たちの尽力によって、コンコンコンする機械は無事に修復された。
 街の混乱も収まり、すっかり平和になってめでたしめでたし。

「――なんてことだ!」

 そうは問屋が卸さない。
 この事件の元凶を捜索すべく集った猟兵の前に、その元凶が自ら姿を現して叫ぶ。

「貴様ら、オレの崇高な作戦を邪魔しおってからに……!」

 ちょっと高い所で吼えたそれこそ、怪人マイホゥ。
 屈強な肉体に、二次元美少女が映し出されたタブレット端末の頭という、ミスマッチも甚だしい姿のオブリビオンは、ストレスから激しい動悸でも起こしたのか胸を押さえて呻き――そして。

 挫けちゃダメだよ! お兄ちゃん!(裏声)
 お兄様なら出来ると信じていますわ(裏声)
 負けたら許さないわよ! バカ兄!(裏声)

 ……と、常軌を逸した妄想妹との触れ合い一人芝居を経て立ち直ると、猟兵たちへの敵意を剥き出しにして声を荒らげる。

「妹たちとの理想郷を作るためにも! お兄ちゃん、頑張るんじゃあ!!」

 かくして決戦の火蓋が切られた――!


 ……それにしてもまあ、喧しくも虚しい怪人である。
 所詮は妄想空想幻想にしか過ぎない妹と触れ合うことで正気を保っているらしき彼が、現実で“お兄ちゃん扱い”されたら、一体どうなってしまうのやら。
影守・吾聞
『』:技能
【】:UC

…突っ込むのも面倒だからスルーで(ドン引き)

で、飛んでくるドローン、どれくらいだろ
たぶん100以上?
ざっと画面を流し見て『情報収集』
映る妹の性格や容姿のパターンをピックアップして

【バトルキャラクターズ】発動
多種多様なタイプの妹『属性攻撃』だ!

マイホゥ、ほら見てごらん
君は20云人の妹のお兄ちゃんなんだよ

ってな感じでけしかけた妹キャラ軍団に
怪人が気を取られてる間にドローンをお片付け
その間は怪人にいい妄想(ゆめ)見せといてあげるよ

でも、最後は現実にご案内
包丁持ったヤンデレ妹ちゃん、お願いするね
さくっと怪人をひと突きしたのを合図に
召喚したキャラを全員返す

ごめんね。全部『釣り』でした



 もはや声すら出ない。
 怪人の奇行に、吾聞は顔を引きつらせるばかりだったが。
「貴様、妹の何が良いのか分からん、という顔をしているな!」
 ずびしと此方を指差す彼には、そう見えたらしい。
 まるで災害の如き怪人マイホゥは両手をわきわきとさせると――その屈強な肉体を武器に攻めてくるかと思いきや、天に向かって指鳴らし、叫んだ。

「カモン! マイシスターズ!」

 途端、空から現れたのはおびただしい数のモニター付きドローン。
 百、いや二百は下らないか。ともかく尋常ならざる数のそれは、猟兵たちを緩やかに包囲する。
 そして映し出すのは――勿論、古今東西ありとあらゆる妹の姿。
「これは……!?」
「フハハハ! どうだ、お兄ちゃんの自慢の妹たちだぞ! カワイイだろう!!」
 戸惑う吾聞の声を聞いて、マイホゥは勝ち誇る。
「ああ、皆まで言わんでよろしい! 妹はカワイイ、とにかくカワイイ! そんなカワイイ妹の魅力をこれから貴様らにたぁっぷりと叩き込んでやろう! そうして今日から貴様らも、お兄ちゃんになるのだぁ!!!」

「……」
 うるさい。
 あと長い。台詞が。
 吾聞は苛立ちすら覚えつつ、しかし慌てず騒がず、ドローンの動向に気を配る。
 そこから一方的に発信される情報は怪人同様に喧しいが、所詮はただの映像。たとえばミサイルだとかビームだとかを吐き出して、物理的に此方を傷つける手段は持っていない様子。
 であれば、何も焦ることはない。
 怪人が言うところの“カワイイ妹たち”は頭が痛くならない程度に流し見て、それをわざわざひけらかしたことの愚かさを、たっぷりと突いてやればいい。

「――マイホゥ、見てごらん!」
 ドローン展開から暫しの間を置いて、吾聞が叫ぶやいなや“それ”は現れた。
 或いは、モニターから飛び出してきたとでも言うべきか。
 少なくともマイホゥは、そう感じていてもおかしくない。
「あ……あ……ああ……!」
 動揺が肉体だけでなく、顔面液晶の二次元美少女までも乱れさせる。
 突如として混乱状態に陥ったマイホゥの、その指が示す先から来たのは――!

『お兄ちゃん!』『お兄ちゃま!』『あにぃ!』『お兄様!』
『おにいたま!』『兄上様!』『にいさま!』『アニキ!』
『兄くん!』『兄君さま!』『兄チャマ!』『兄や!』(以下略)

 様々に呼びかけながら駆け寄る、様々な妹属性のバトルキャラクターたち。
 総勢二十余名。額に1と刻印されている彼女らが全て仮初の存在であることは明らかだが、しかし決して越えられないはずの境界を越えてきたとしか思えない見た目のそれらは、マイホゥにとって真実以外の何物でもない。

「……おぉ、おぉぉぉ!! お兄ちゃんだよおおおおおおお!!!」
「そうだ! 君は彼女たちのお兄ちゃんなんだよ!」
 スキンシップを始めたマイホゥを吾聞は煽る。
 お兄ちゃんなんだよ! とか自分で言っておきながら馬鹿らしくて仕方がないが、全ては怪人退治のため。
「妹より大事なものなんてないよね、マイホゥ! いや、お兄ちゃん!」
「おおおおお! そうだとも!」
 返事は力強くも上の空。
 妹と戯れるマイホゥの頭からは、崇高な作戦とやらも猟兵の存在もすっかり抜け落ちてしまったらしい。
 今のうちだ。吾聞は鬱陶しいドローンを一つずつ、敵に気取られないよう丁寧に片付けていく。

 それが一段落するまでには少々の時間を要したが、たとえ一昼夜を費やしたところで、猟兵にも街にも住人にも危機は及ばなかっただろう。
 妹の園完成以後、マイホゥはその中に籠もるばかりで何を仕掛けてこようともしなかった。
 ともすれば彼自身も、突然現れたそれが夢であると分かっているのかもしれない。
 しかし夢だろうと作り物だろうと、唯一絶対の妹である限り、マイホゥには愛でる以外の選択肢などありはしない。
 自らカワイイカワイイと見せびらかした映像から妹萌の趣味嗜好を吾聞にバッチリと収集され、それを元にした妹をぶつけられた時点で、彼は詰んでしまったのだ。

 だが、これで終わりというわけにもいかない。
 オブリビオンは猟兵に葬られるが運命。
 吾聞とて、いつまでも怪人を心地よい妄想(ゆめ)のなかに閉じ込めておくつもりはない。夢は醒めるものだ。

 そのきっかけすらも怪人の理想たる形をしていたのは、温情なのか悪意なのか。
 ともかく、戦場を再び戦場へと戻したのもまた、妹。

『お兄ちゃん……』
「ん? どうした――」
 朗らかに応えようとしたマイホゥの動きが止まる。
『その娘たち誰? どうしてお兄ちゃんと一緒にいるの……?』
 明らかに毛色の違うその妹は、囁くくらいの声で言いながらふらりふらりと近づいていく。
 そして他の妹を突き飛ばし、払い除け。
 “お兄ちゃん”の静止をも振り切って、片手の凶器を閃かせた。

「……ぐ、あ……」
 マイホゥが膝をつく。
 それと同時に、妹軍団も煙のように消える。
「あ、あれ……? 妹は……? オレの理想のシスター・プリンシプルな世界は……どこ……? ここ……?」
「ごめんね。そんなもの、はじめから何処にもないよ」
 いとも容易く“釣れた”怪人に、吾聞は誂いと哀れみを綯い交ぜにして言った。
 それを茫然自失で聞くマイホゥの心には、包丁の一刺し以上に深い傷が残った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

有澤・頼
「な、なんだかちょっと…うん…」
ある意味すごい敵に遭遇しちゃったな…

ともかく、敵を倒そうか。その妹とやらがある意味厄介だから「咎力封じ」で封じてしまおうかな?彼のやる気を削ぐ為にも仕方ないよね。あとはスパッと斬ってしまおう。攻撃に対しては「見切り」「残像」で避けるよ。

「これで落ち着いてもらえばいいんだけど…」
恐るべし妹への愛。それがキマイラフューチャー中を巻き込んだ事件になるとはね…やれやれ。



 妹萌Tシャツを赤い血で染めたまま、ショックから立ち直れずにいる敵を眺めて。
 あれ? もしかして終わった? と淡い期待を抱いて。
「……なにくそ! 妹に刺されるなんて我々の業界ではご褒美じゃあい!」
 そう叫びながら立ち上がった怪人が、再びドローンをばらまいたのを見て。
 頼は思わず呟く。
「な、なんだかちょっと……うん……」
 ある意味、すごい敵に遭遇しちゃったな、と。

 しかし何であれ、怪人であるからには倒さねばならない。
 倒す、ということはアレと向き合わねばならない。
 頼は刀を手に、マイホゥを見据える。スパッと。スパッと一太刀で終わらせてしまおうと意気込み、狙いを定める。
 その真剣な眼差しを、怪人はまた誤解した。
「貴様も妹の魅力が分からんようだな!」
 いいえ違います。
 そう訂正する暇さえ与えず、マイホゥはドローンの幾つかを差し向けてくる。
「妹に萌えられるならお兄ちゃんでなくお姉ちゃんでも構わん! さぁ、お姉ちゃんの気持ちになるのだ! ……いや待て、お姉ちゃんで妹というのも……有りか? 有りだな。よし、マイホゥお兄ちゃんことオレの妹にして姉になるのだ!」
「ごめん、さっぱり意味がわからない」
 端から真面目に取り合う気もないが、その戯言も何処かで切らなければ延々と続きそうで。
 頼はまず言葉で断じてから、刃を閃かす前に、ありったけの拘束具を宙に放つ。
 手枷、猿轡、縄――それらが全て絡みつけば、もはやマイホゥに抗う手段などあるまい。
(「これで落ち着いてもらえばいいんだけど……」)
 半ば祈るような気持ちで、頼は緊縛系三種の神器の行方を見守った。
 ……が。
「なんのっ!」
 頭部がモニターのマイホゥにとって、猿轡はさして意味を成さない。
 ぺちんと当たって巻き付きかけたそれを力ずくで解き、そしてマイホゥは――マイホゥは。
「ごはぁっ!?」
 手足を封じようとする枷や縄には何の対処も出来ず、体制を崩すと満足な受け身も取れないままに顔から地面へと激突した。
「おのれ……動けないお兄ちゃんに……一体何を……」
「……えーっと」
 まずお前の妹になった覚えはない。そこだけは念押ししておきたい。
 漂うモニター付きドローンを避けながら否定の言葉を浴びせつつ、頼はふらつきながらも立ち上がったマイホゥへと近づいていく。
 いまいち脅威を感じにくい敵ではあるが、しかし恐るべしは妹への尋常ならざる愛だ。
 これの及ぼす影響が、キマイラフューチャーの一画のみに留まることを願って。
 一閃。
 振るった刃は首こそ刎ねなかったものの、怪人の信念が刻まれた衣服ごと、身体をバッサリ、スパッと裂いた。

成功 🔵​🔵​🔴​

パーヴォ・シニネン
うーん我輩、趣味は人それぞれだと思うんだけど
君の崇高な作戦の致命的な弱点を言ってもいいだろうか

その理想郷を作るには
むしろ君と同好の志を増やすとライバルが増えて邪魔では?
あっ供給を増やしたい、ふむ、なるほど

だがしかし、君は大事なことに気付いていないね
そう、我輩が君の妹だということに…!※【変装】

ということでかわいい妹が食事中なので待ってほしい(【大食い】でもりもり焼き鳥を食べる
よし、準備万端だな相棒
【怪力】でお兄ちゃんをぶちのめそう

おっと
危ない時は我輩の美声が輝くとも!

お兄ちゃんってばあたしのこと忘れちゃったの?
かわいい妹を攻撃するの?(裏声

勿論変装フル活用
しっかり倒してこの街の食を楽しまねば



「我輩、趣味は人それぞれだと思うが」
 がっつり斬り伏せられた怪人に歩み寄り、パーヴォは語る。
「君の崇高な作戦の、その致命的な弱点を言ってもいいだろうか?」
「……くくく、なんだ、聞くだけ聞いてやろうじゃないか」
 そう、台詞ばかりは強気な雰囲気の怪人であるが、しかし蹲ったままで此方に顔を向ける事すらしないあたり、相当なダメージを受けているようだ。
 正直、ちゃんと話を聞いているのかも怪しい。とはいえ回復を待つ義理も理由もないので、パーヴォは淡々と滾々と、上から疑問を浴びせる。
「君が言うところの理想郷とやらを作るには、むしろ同好の士を増やすとライバルも増えて厄介では?」
「……くくく、なんだ、そんなことか」
 なぜだかホッとしたように呟き、怪人は言葉を継いだ。
「確かに、妹たちにとってたった一人のお兄ちゃんでありたいという欲望がないわけではない。――だが、しかし! オレが作りたいのはオレと妹だけの楽園ではない! お兄ちゃんと妹だけの理想郷だ!」
「ほう」
「旧人類が築いた文化である『妹萌え』を広めることで彼らの優生を示すと共に、お兄ちゃんと妹……つまりはどれほど仲睦まじくとも一線を越えられぬ関係のみで世界を埋め尽くす! その先に待つのは、平和だが生産も発展もない未来だろう!
 ……まぁ、ざっくばらんに言ってしまえば正常な恋愛が育めずに少子化から人口減少待ったなしだよネ! ってことだ!」
「……ああ、そういう」
 形と振る舞いに翻弄されてしまうが、やはりオブリビオン。
 最終的な狙いが世界滅亡であることに変わりはないらしい。
 旧人類云々といい、思った以上にマイホゥは怪人だったようだ。
 もっとも、それを今更実感した所で、何がどうなるわけでもなさそうだが。

「君の考えはよく分かった」
 自分から尋ねた手前、パーヴォは一応そう言っておく。
「だがしかし、君は大事なことに気付いていないね。……いい加減、此方を見たまえ」
「何……?」
 疑問形で応じつつも、促されるままマイホゥは顔を上げる。
 そして暫く硬直し、呟く。
「……い、もう、と……?」
「そう。我輩は、君の妹だ!」
 どどん。
 そんな太鼓の音でも聞こえそうなほど自信たっぷりに、言い放ったパーヴォは未だ変わらず子供の顔に取り憑いていたが――その子供はマイホゥと猟兵仲間がすったもんだしている間に一工夫施されて、いっぱしの“妹”となっていた。
 それだけでも怪人を混乱させるには十分だが、さらにマイホゥを戸惑わせたのは忽然と現れた妹が両手いっぱいに焼き鳥を持っていたこと。
「我輩は、今からこれを食べる。なので少し待っていてほしい」
「え……あ……うん」
 妹からそう頼まれては従うほかない。
 マイホゥは顔面モニターの美少女でも困惑を示しつつ、鶏肉を貪るパーヴォに「よく噛んで食べるんだよ」と至極穏やかな声音で言った。

 それから暫く、戦場には停滞が訪れた。
 仮面付きの妹が焼き鳥をもりもりと食べる様を、顔面モニターのお兄ちゃんが見守っている。
 奇妙極まりない。
 しかしマイホゥにとっては、これすら理想郷の一端なのかもしれない。

 が、停滞による平穏は他ならぬ妹自身によって崩される。
「――よし」
 食事を終えたパーヴォは、綺麗に拭った片手を握りしめ。
 振りかぶって。
 思いっきり。
 怪人の顔面モニターをぶん殴った。

「☆&○□▲▽!?」
 悲鳴代わりの耳障りなノイズが響く。
 一方的に打ち出された停戦協定の一方的な破棄に、文字通り面食らったマイホゥは、それでもまだ骸の海に還ろうとはせずファイティングポーズを取る。
 しかし。
「お兄ちゃんってば、あたしのこと忘れちゃったの!?」
 いざ攻撃しようとした相手は、この場に再び争いを巻き起こした元凶たる手を胸元に運んで身を捩り、悲痛な叫びを上げた。
「妹を……かわいい妹を、攻撃するの?」
「あ……ああ……いや……」
 その変装、その裏声を可愛いと評すべきかはさておき。
 自称でも妹だという妹が、その妹という概念を全面に押し出してきた時。
 マイホゥから攻撃という選択肢は失われる。
 彼は彼である限り、妹を傷つけることは出来ない。
 たとえ、妹からどれほど傷つけられても。

 故に。
 焼き鳥を摂取したことで、フードファイターとしての戦闘力を増強させたパーヴォ(妹)からの無慈悲な殴打に、マイホゥは再び蹲りながら耐えるしかなかった。
 その最中、彼の耳に聞こえるのは妄想シスターズの激励と声援と罵倒。

 負けちゃダメだよ! お兄ちゃん!(裏声)
 お兄様なら耐えられるはずですわ!(裏声)
 バカ兄! 何でニヤついてるのよ!(裏声)

「……へへ、へへへ。これも我々の業界ではご褒美……へへ」
(「うーん。なんというかこう、業の深い怪人だな」)
 ダメージの増大に伴い、より乱れていくマイホゥの戯言を聞き流しつつ、パーヴォは相棒の力を借りてしこたまパンチを浴びせ続けるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

二條・心春
ず、ずいぶん賑やかな人ですね…。

なるほど、妹がいると彼は弱体化?するんですね。じゃあ私が妹をやってみようかな。
兄さん、私達妹を大切に想う気持ち、しっかり伝わってきましたよ。私もすごく嬉しいです。「コミュ力」を使って優しく話しかけて、敵の気を引きましょう。
相手が油断したら、ウコバクさんに炎で攻撃してもらいます。精密機械は熱に弱いでしょうから、良く効くはずですよね。余裕があったら私も槍に雷属性を付与して攻撃に加わりましょう。…ですが、妹達のためなら他の人を不幸にしても構わないというのはいけません。そんな兄さんにはお仕置きが必要ですね?



 もはや大勢は決した。誰もがそう思った。
 しかし、マイホゥは妄想シスターズの応援を頼りに殴打の嵐を乗り越える。
 そして再び立ち上がると、明後日の方向目掛けて吼えた。

「妹の(物理的に)激しい愛情表現をしこたま浴びれるなんて幸せだなぁ!!」

(「ず、ずいぶん賑やかな人ですね……」)
 何度叩きのめしても立ち上がり、その度にやたらと騒ぐ怪人の姿。
 そこから純粋な恐怖とは違うものを感じ取り、心春は苦笑を浮かべる。
 だが、その気圧され気味な様子とは裏腹に。
 彼女は喧しい怪人を冷静に分析し、対抗策を練り上げていた。
 その策の、第一手として。
 心春は苦笑を微笑に変えると、こう言い放つのだ。

「――兄さん」

 途端、妹大好き怪人は顔面モニターから垂れ流していた騒音を止める。
 当然である。兄さんなどと呼びかけてくる存在は妹以外になく、妹の口から紡がれる一音一句を自らの言葉で遮るなど兄としてあってはならないこと。
 頭の天辺から足の爪先まで、細胞レベルで刻まれた宿命とも呼べる性質に従い、マイホゥは思考するよりも早く身体を制御したのだ。
 ……だが、本能で動けるのも其処まで。
 二次元でもなく変装でもなく、リアルガチで平凡な十六歳の少女だからこそ醸し出される心春の妹系オーラは、マイホゥを何とも呆気なく堕としてしまった。
「兄さん?」
「あ、ああ……あああ……」
 小首を傾げた心春を指差し、小刻みに揺れながらも、怪人は動かない。
 動けない、と言うべきか。重心はかたつむりほどの速度で後ろに傾きつつあるというのに、足裏と地面を接着されてしまったかのようなその“お兄ちゃん”へと、心春は躊躇せず近づいていく。
 そして程なく、二者の間は30cmあるかどうかという程にまで狭まった。
 ごく一般的に、そこまでの接近を許せるのは非常に親しい者だけとされている。まして怪人と猟兵は世界の存亡を賭けて争う間柄なのだから、腕の一振りで首を刎ねられるほどにまで踏み込まれるなど避けるべき状況のはずだ。
 しかし怪人マイホゥは石像の如く固まったままで。心春も怖気づく素振りなど見せず、ぐっと距離を詰めるとついにはお兄ちゃんの震える手を取った。
 これも相手を選ばないコミュニケーション能力の為せる技なのか。すっかり自らのペースに持ち込んだ心春はモニター越しにお兄ちゃんの瞳を見据え、努めて優しい声色で語りかける。
「兄さん。兄さんが私たち妹を大切に想う気持ち。しっかり伝わってきましたよ」
「あ、ああ……あああ……」
「私も、その、すごく嬉しいです」
「あ、ああ……あああ……っ!!」
 罪に意識に苛まれる者が赦された瞬間、とでも言うか。
 マイホゥから漏れ出る音は、何とも切ない喜びに満ちていた。
 また簡単に騙されて、などと彼を責めてはいけない。血の縁などなくとも、相手が猟兵だと分かっていても、しかしマイホゥの渇望するそれが、其処には確かに有ったのだろう。
「よかった……本当によかった……ッ!!」
 己の歩んできた道は間違いでなかった。
 そんな確信を言葉の端々に滲ませて、怪人マイホゥは心春の手を握り返す。

 瞬間、空気が変わった。
 心解す暖かな南風から、凍てつく厳しい北風に。それまでは優しさに満ちていた心春の眼差しも、その名前から感じられる雰囲気とは真逆の極寒じみた鋭さで以てマイホゥを射抜く。
「兄さんの気持ちは本当に嬉しかったです。……ですが、妹達のためなら他の人を不幸にしても構わないというのはいけません」
「あ、ああ……あああ……」
「そんな兄さんには――お仕置きが必要、ですね?」
「お、お仕置きィ……ッ!?」
 お前いまちょっと喜んだだろ。
 そう、猟兵が心の中でツッコんだことなど知る由もなく。
 パッと手を払い除けた心春はタブレット端末を取り、お兄ちゃんに向けて愛の鞭、もといユーベルコードを放つ。
「さあ、燃やしちゃってください! ウコバクさん!」
「う、ウコバク!? 誰だそいつは、お兄ちゃんそんなヤツ知らなああああっっついいいいい!!」
 まだ兄妹ごっこを続けたがる怪人へと、容赦なく浴びせられたのは油と炎。
 それを操るは、人を模した姿の悪魔・ウコバク。
 此方も全身を炎で形作るウコバクは、顔がモニター=精密機器であるならば熱に弱いだろうと、そう断じた使役者の命に従って敵をひたすらに炙る。
 効果は抜群。ただでさえ無防備状態だった上に、延焼鎮火も思うがままの炎に囚われては為す術もない。
 叫びながら幾度も身を捩っていたマイホゥは、その場に倒れると駄々をこねる子供のように激しく転げ回る。
 そこへ、心春は追い打ちとばかりに槍を振り下ろした。
 コンコンコンする機械も直した、あの槍だ。
 ということは当然ながら、穂先に稲妻を纏わせてある。
「あばばばばばばばば!」
 僅かに食い込んだ刃から駆け抜ける凄まじい衝撃。
 それが全身をくまなく焦がしたところで、何かが切れるような、或いは弾けるような音と共に、マイホゥの身体は抗う力を失った。

「……兄さん」
 策とはいえ、何度かそう呼んだせいだろうか。
 炎も槍も収めた心春は、ぽつりと呟く。
 まさかそれが聞こえていたわけではあるまいが――動かぬ怪人の、殆ど砂嵐状態だったモニターに薄っすら浮かんでいた二次元美少女は、満足そうな笑みを浮かべて。
 その姿が完全に消滅すると共に、マイホゥそのものの肉体も消え失せるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年03月16日


挿絵イラスト