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夕空のアレグリア

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知花・飛鳥




 暖かい午後の陽だまりの中、通学路から逸れて近所の商店街へと向かう知花・飛鳥(コミュ強関西弁男子・f40233)の頬に、柔らかな春風が触れた。桜の花弁を連れて、ふわりと薄ピンク色の髪をさらう。
(もう春やなぁ……)
 ほんの少し前まではまだ肌寒かったのに、気づけば寝起きに朝冷えを感じることもなくなった。とはいえ、暑さが増すのは意外とあっという間だ。春も、春の味覚を愉しめる期間も、思いのほか短い。
(となると、今日はやっぱ花見団子……んーでも桜ソフトもええなぁ……)
 それ以外にも、幼いころから馴染みの商店街には、この時期ならではの甘味が幾つもある。
 うぐいす餡とこし餡の贅沢二層鯛焼きに、ストロベリーチョコのさく&ふわドーナツ。桜餅はもちろん外せないし、コンビニスイーツだって侮れない。
 そんな豪華絢爛な甘味がぎゅっと詰まった商店街――まさに飛鳥にとっては天国とも言えるその入口のアーチを、少年は弾む足取りで潜っていった。

 ✧   ✧   ✧

「マグロマグロらっしゃいらっしゃい安いよ安いよーって、おぉ、あっちゃん今帰りか」
「せや。おっちゃんも気張りすぎんと、適度に休みや?」
「苺もさくらんぼも1パック200円! あるだけよあるだけー! ――あら飛鳥くん、おかえりー」
「ただいまーおばちゃん。……確かに200円は安いな」
「どう? お買い得よ?」
「……う。なら、苺買うてくわ」
 魚屋の店主にひらひらと手を振った後、隣の果物屋のおかみさんから早速苺を受け取る。
(ええ艶やなぁ……絶対美味しいやつやん。家に練乳あったはずやし、掛けて食べよ)
 味を思い描いただけで、垂れ目気味の眦が益々下がる。そうして誰が見ても幸せそうな笑顔が絶えない飛鳥だからこそ、すれ違う馴染みの面々が|方々《ほうぼう》から声をかける。
「飛鳥ちゃん、こんにちは」
「おぉ、佐伯さんやん! こんにちはー。ポチも元気かー?」
「バウ!!」
 すかさずしゃがんで、嬉しそうに尻尾を振るポチの頭を「よーしよしよしよし」とわしゃわしゃ撫でれば、飛びつかんとしたポチを慌てて飼い主が制する。
「駄目よ、お洋服汚れちゃう」
「あははは元気やなー。ってか、なんか前見た時より更に大きくなってへん!?」
「ゴールデンレトリバーだもの。大きくなるのなんてあっという間よ?」
「そうなん!? なら、この先もっと大きくなるんかー」
 そのうち俺、追い越されるんちゃう? なんて言う飛鳥に、女性もくすくすとつられて笑って。他愛もない話をして別れた先に見えた、行きつけのケーキ屋の前でつい足が止まる。
 ケーキ――なんと魅惑の甘味だろう。
 匂いが香ってくるわけでもないのに、文字だけでこうも人を引きつけてしまうのだから。
 けれど、今は月末間近。お小遣いの残高的にも厳しいからと、心を鬼にして一歩踏み出そうとした瞬間、顔見知りの店員に見つかった。いそいそとカウンターの奥から出てこようとしているのを知りながら立ち去るわけにも行かず、飛鳥は苦笑を浮かべながら店先で出迎える。
「あっちゃん、今日から並べてる新作ケーキがあるんだけど、どう?」
「こ、今月は財布がちょいピンチやから、慎重に使いたいんやけど……」
「今ならおまけでオランジェットもつけちゃうわよ!」
「ぐぐぐ……ほんま、おねーさんには敵わんわ。よっしゃ1つちょーだい!」

 ✧   ✧   ✧

 その後も、
「今日も飛鳥くん来ると思って、最後の1個取っておいたんだよ。どうだ?」
 とニカッと豪快に笑う鯛焼き屋さんから贅沢二層鯛焼きを買って、
「これ、良ければ持ってって。個数間違って注文入っちゃって……自分で食べても良いんだけど、折角なら甘いもの好きな人に、って思って」
 と困り顔の和菓子屋さんから桜餅3個入りのパックを受け取って。
 最終的には、右腕から苺の入ったビニール袋を下げ、右手にはケーキの箱を、左手には鯛焼きと桜餅の入った紙袋という出で立ちをショーウィンドウ越しに見れば、
「っはははは、なんやこれ」
 飛鳥自身からも、思わず笑み声が洩れる。
「ははは! あっちゃん今日もすごい戦果だな!」
「せや! 大漁やろ?」
「転ばないように気をつけてね」
「おおきに! またなー!」
「はーい、またねー!」

 買い物も甘いものも好きな自分にとって、商店街が身近にあることも嬉しいけれど。
 またね――そう言ってもらえる場所の、人の存在が、何よりも嬉しい。
(ふふ、なんやぎょうさんもろてしもたし、来月のお小遣い入ったらまた買うてこよ)
 そんな幸せ心地に寄り添うように流れたのは、17時を告げるチャイムの旋律だった。
「もうこんな時間なん!? はよ帰らんと……!」
 そう心は急いても、今の身では勿論、走ることは叶わなくて。
「ま、しゃーない。のんびり行こか」
 もうひとつ苦笑を零した飛鳥は、暮れ泥む空の下、賑やかな商店街を背に、家へと続く道をぶらり歩き始めた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2023年05月06日


挿絵イラスト