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ヤジュル・ヴェーダは煩慮を好転させるか

#クロムキャバリア #ノベル #ビバ・テルメ

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ソフィア・エルネイジェ
ソフィアが温泉に入ってぶつくさ独り言してるノベルをお願いします!

アドリブ・改変歓迎です。
困難・不明な点の解釈はお任せします。

●場所
シナリオ『アタルヴァ・ヴェーダは祈りの果てか』後のビバ・テルメの温泉でお願いします。

●つまりどう言う事だってばよ?
依頼完了後、折角なのでソフィアは温泉に入ってから帰る事にしました。
温泉に浸かりながら先ほどの戦いを思い返します。
ソフィアはあれほどの強敵と剣を交えたのは久し振りでした。
とても良い戦いが出来たと満足していました。
きっとインドラも満足しているでしょう。
「神機の名を冠していたからには、やはりあれも機械神の一柱だったのでしょうか?」
強敵と戦った身体に温泉が沁みます。
探し人のクィンタブルが思ったよりも早く見付けられたのも良い事でした。
「まさか雪原で相見えたシーヴァスリーの将だったとは思いもよりませんでしたけれど」
ソフィアは人探しは不得手な方だと思っていたからです。
実際に探し人のメサイアは数年以上見付けられていません。

「ナイアルテ様にお手紙を預けた以上、時間の問題だとは思いますが……」
とは言え手紙を読んだメサイアが本当に帰ってくる保証もありません。
昔からとんでもない事ばかりしてきた妹だったので、常識が通じない事はよく理解していたのです。
魔術学園で実習中に傷害事件を起こした事以外にも色々な騒動を起こしてきました。
その度にソフィアはメサイアを捕まえてお尻を引っ叩きました。
黒竜教会のベアトリクス修道院長も同じように引っ叩いていたと聞いています。
そして極め付けは此度のヴリトラ無断持ち出しの国外脱走です。
「ですが……愚かな妹だからこそ、愛する事が出来たのですよ……」
よくも悪くもメサイアは常に直線的でした。
政争の只中に居たソフィアにとって、ある意味では心から信頼出来る姉妹のひとりだったのです。

しかしメサイアの奇行と頭の悪さは周辺国でも(特に武装解除事件が)有名です。
なので何度か上がった政略結婚の話しも名前を出した瞬間に受取拒否されてきました。
それを憐れんだソフィアは、自分が団長を務める聖竜騎士団にメサイアの席を用意していました。
戴冠式を終えて正式な王族として臣民に認められ、正式なヴリトラの継承者となったら共に祖国の為に力を振るって貰おうと考えていました。
メサイアはその矢先に脱走してしまったのです。

「私も猟兵となった今、悪を討たねばならない気持ちはよく解りますが、せめて戴冠式を終えるまで我慢してくれたら……」
思わず溜息が漏れてしまいます。
思い返していたらだんだん腹が立ってきたので、メサイアを捕まえたら思いっきりお尻を引っ叩いてやろうと心に決めました。

大体こんなイメージでお願いします!
こうでなきゃダメなんて事はありませんので自由自在に書いて頂ければ幸いです。
もし回想や話し相手等でナイアルテさんが出演出来そうな流れであれば出演して頂いても全然OKです。
その際の文字数配分等は気にしないでください。
ソフィアの文字数が少なくなっても全く問題ありませんので演出重視でお願いします。

●聖竜騎士団とは?
エルネイジェ王家直轄の独立部隊です。
規模は小さいです。
王族や親戚、特別に親しい間柄の者で構成されています。
インドラの継承者が団長を務める慣習となっています。

●戴冠式とは?
王族専用の成人式のようなものです。
戴冠式で国民に王として認めてもらうと正式な王族となります。
その際にインドラやヴリトラ等といった王家に伝わるキャバリアを継承していた場合、正式な継承者として自由に扱う権限が与えられます。
メサイアはこの戴冠式を終える前に国を飛び出してしまいました。
ソフィアは既に終えています。



●戦塵ぬぐいて
 小国家『ビバ・テルメ』は言うまでもなく温泉国家である。
 湯煙が立ち込める温泉街。
 天然の要害に囲まれた恵まれた立地。
 獣が水場を中立地帯にするように小国家の体をなしていながら『ビバ・テルメ』もまたそうなりつつあったのだ。 
 だがしかし、獣すら不文律を守るというのに小国家『第三帝国シーヴァスリー』は前哨基地を打ち立て、虎視眈々とこの小国家を狙っていたのだ。
 オブリビオンマシンによって狂気に落ちたのではない。
 彼等はオブリビオンマシンの思想に染められているのだ。元より思想が歪んでいれば、オブリビオンマシンなくとも彼等は他国を侵略するだろう。

 他より優れたるを求める。
 それは人間であれば当然の希求であろう。誰もが咎めることのできぬ欲求であった。
 けれど。
「ふぅ……」
 そう、けれど、と思う。
 ソフィア・エルネイジェ(聖竜皇女・f40112)は『第三帝国シーヴァスリー』の前哨基地にてキャバリアの全てがオブリビオンマシンへと変貌するという事件を片付け、温泉に身を浸す。
 戦いの疲れは心地よいものである。
 勝利を得たのならば特別なものであったことだろう。だが、それ以上にソフィアは満足していたのだ。
 あれほどの強敵と槍を交えること。
 得難いことであると彼女は考えていた。きっと己の乗騎たる『インドラ』もまた満足しているように思える。
 強敵との戦いは恐れるものではなく、望むものであった。

 強者との戦いこそがソフィアにとっては武勲を立てるために必要なものである。
 そして、強者の存在はいたずらに戦乱を呼び込むものであることもまた彼女は承知していた。
「神機の名を冠していたからには、やはりあれも機械神の一柱だったのでしょうか?」
 己の乗騎『インドラ』がそうである。
『エルネイジェ王国』の至宝。
 守りの要にして柱。それが『インドラ』である。
 そして、ソフィアは思う。あの男。あの『エース』。まさか『ビバ・テルメ』に至る前に戦闘を繰り広げたキャバリア部隊を率いていた将その人であるとは思いもしなかった。

 グリモア猟兵であるナイアルテに手紙を託した流れでオブリビオンマシンが引き起こす事件を解決するために奔走したのだが、自分でも意外だった。
 どうにも自分には人探しの才能がないように思っていたからだ。
 これまで長きに渡って自身の妹であるメサイアを捜索しているのだが、数年かかって得られた手がかりは、妹が各地で奇行に走っているということと猟兵に覚醒しているということだけだ。
「まったくもって、ほんとうに……」
「何処にいらっしゃるのでしょうね。メサイアさんは、その、突拍子もないことをされますが、いつも事件を解決に導いてくださっていますので……」
 共に温泉に浸かっているグリモア猟兵ナイアルテが申し訳無さそうに頭を垂れる。
 彼女が悪いわけではない。
 グリモアベースにメサイアの姿が見えていない、と云うだけの話なのだ。

 そもそもこれは己の、『エルネイジェ王国』の問題。
 彼女が申し訳なく思う必要はないのだとソフィアはたしなめる。せっかくの温泉なのに気を使わせてしまったとソフィアは、彼女の礼を制する。
「いえ、こればかりは時間の問題でありましょう。ええ、それに……」
「それに?」
「手紙を読んだからといってあの子が本当に帰ってくる保証は何処にもありませんもの」
 ナイアルテは、えぇ……と困惑している。
 それもそうだろう。
 家族が探していて、戻っておいでと言っているのだから戻ってくるのが普通なのではないかと思ったのだ。けれど、それは一般的なことであって、『エルネイジェ王国』の事情とは異なるものであったのかもしれない。

 そもそも、何故、妹メサイアが出奔したのか。
 答えは簡単である。
 オブリビオンマシンをぶっ飛ばすためである。人を救わなければならないと彼女自身が思ったからだ。
 その意志は尊重できるものである。
 けれど、昔からそうなのだ。一直線的過ぎる。視野狭窄も甚だしい。きっとメサイアは今もどこかでオブリビオンマシンをしばき倒しているだろう。
 容易に想像できる。
 彼女の直線的な意志と『ヴリトラ』の破壊の意志が重なればどうなるかなんて、言わずとも知れる。
「確かに我が妹は、常識が通じないところがあります」
 ソフィアは湯気立ち上る湯船にて息を吐き出す。

 ともすれば、妹は王族として失格であると咎められることもあるだろう。
 あまりにも奔放。あまりにも豪胆。
 豪放磊落を絵に描いたような、愚直よりも愚かな妹であると言える。だからこそ、と思う。
 彼女が昔からあれやこれやと事件を起こす度にお尻をぺんぺんしていたことを。
 鮮明に思い出せる。
「あの、ソフィアさん……?」
 遠き過去を思い出してソフィアはいつのまにかトリップしていたようである。温泉の効能とは凄まじいものであると思わずにはいられない。
 心の中にある澱が湯の暖かさに溶け、過去の記憶の蓋が開いたのかもしれない。
 これがリラクゼーション。
 いや、違う。なんかこれムカムカしてきた。

「そもそもあの子にどれだけ手を焼いたことか……!」
 魔術学園での傷害事件は皮切りに過ぎなかったのだ。
 同級生の男子生徒の腕をチェストでへし折ったのもそうだし、盗賊を誤チェストしてしまたり、貴族の不正を暴くために不正以上の騒動を引き起こしたり、まあ、なんていうか、上げればキリがない。
 其の度に尻叩きをしてきたのだが、メサイアは更生するどころかより一層、意固地になっているようにも思えた。
 けれど、それをどこかソフィアは好ましく思っていたのだ。
「ですが……」
 けれど、どうしても看過できぬことがある。

 機械神『ヴリトラ』の国外への持ち出しである。
 本来であれば、戴冠式まで待てば国民に王として認められ、正式な王族へと昇格し、正当なる後継者として『ヴリトラ』を用いて自由に国外を歩むことができたのだ。
 今回の手紙もそうだ。
 ナイアルテに託した手紙には戴冠式に出るようにとしたためている。
 それは当然、国外に出奔したという事実を許す、ということでもあったのだ。そもそもソフィアは己が団長を務める聖竜騎士団に彼女の席を開けていた。
「なのに……!」
「あわわわ……」
 ソフィアのムカムカは頂点に達しようとしていた。

 そう、八方手を尽くして、あれこれ世話を焼いていたというのに、メサイアときたら待ちきれずに暴走した挙げ句に飛び出して、止める騎士団すらもぶっ飛ばして国外へと逃亡したのだ。
 いや、メサイアには逃亡、という自覚さえないだろう。
「わかっているのです。私も猟兵となった今、悪を討たねばならない気持はよくわかります」
 世界の悲鳴に応える猟兵。
 覚醒したからこそ、この衝動にメサイアは己の意志と生来の性根が合わさって飛び出してしまったのだろう。
 愚直だと思う。
 けれど、その愚直さこそがメサイアの愛すべきところである。
「……愚かな妹だと思われますか。けれど、だからこそ私はあの子を愛する事ができたのですよ……」
 湯船から立ち上がる。

 彼女は遠くを見やる。
 それは何処かに居るであろうメサイアを思うものであったことだろう。
「心中お察し致します」
「いえ、そのお心遣いだけで充分です」
 メサイアは愚かだったが、けれど心から信頼できる姉妹の一人であった。良くも悪くも一直線。それはともすれば裏表のない心であると言えるだろう。 
 それを信じ切ることができなくて、何が王であろうか。
 そこに血族としての愛しさがある。
 例え、世界の全ての人間から妹が愚かだと見放されるのだとしても。

 それでもソフィアはメサイアを捨て置くことなどできない。
 ナイアルテと脱衣所で分かれてから、温泉で温まった湯気立つ体をソフィアは冷ますように浴衣に着替えて『ビバ・テルメ』の街並みを見やる。
 良い街だと思う。
 穏やかだ。戦乱の世界であるとはとても思えない光景が広がっている。元々この小国家は共和国であったという。
 王や帝をおかぬ民より選出された長を頂く国。
 であればこそ、なのかもしれない。今は四人の『神機の申し子』によって運営されているようである。
 王威を持って政を為す自身の国とは異なるがゆえに事情はわからない。
 けれど、それでもこれまた国の一つの在り方だとソフィアは思うだろう。

「……これは。ソフィア姫」
「あら、『クィンタブル』様。ごきげんよう。あなたも温泉に?」
 目の前にいたのは元『第三帝国シーヴァスリー』の『エース』、『クィンタブル』であった。
 彼はソフィアの前で膝をついて頭を垂れる。
 確かに己は王族であるから、そう振る舞われるのはわかる。だが、ここではそうではないのだ。立場はわかっているが、己は一人の猟兵なのだ。
「面をお上げになって」
「そうは参りません。雪原での非礼、無礼。お詫びしようもなく」
「そもそもあなたは私の敵として相まみえ、生き延びたのです。そして、此度の事件においても手を貸してくださいました。それで罷免とはいきませんか?」
 ソフィアは恭しく跪く『クィンタブル』の肩に手を置く。
 生命を狙っていた相手に対しての寛大なる処遇。その度量は王たる者としての器そのものであったことだろう。

「それにもうあなたは『第三帝国シーヴァスリー』の将ではなく、ただの『クィンタブル』様。ならば、私に槍を向けた将はすでに亡く。一人の『エース』として生きるべきなのです」
「忝なく。ならば、私は必ずやあなたのために槍を取りましょう」
 笑むソフィアの瞳には王威が満ちている。
 生まれながらにして王道を歩むことが運命づけられた者。
 その輝きをもって彼女は道を照らす。これが王たる者の宿命。いつか、この光が妹を照らす日もあるだろう。
 あの軛たる呪いを負う妹を。
 そう願えばこそ、ソフィアは王としてではなく、姉として――。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2023年05月03日


挿絵イラスト