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闇の救済者戦争⑩〜反転医療

#ダークセイヴァー #闇の救済者戦争

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●合わせ鏡の向こうから
 影の城からも遠く望める、白く輝かしい建造物、それはデスギガスによって第三層に送り込まれた『合わせ鏡の城』である。その名の通り、城の内壁は全て割れない鏡で作られており、踏み入る者を惑わせる迷宮になっているという。
「こういう厄介な場所こそ素早く制圧し、さっさと先へ進みたいところだな」
 とは言っても、そう容易くはいかないのが現実である。肩を竦めたヴィトレル・ラムビー(斧の狩猟者・f38902)は、一同に予知した内容を告げる。

「城内に踏み込むと……迎撃機構みたいなものか? 鏡の中から一体のオブリビオンが現われる」
 見たところはどこかの医療従事者……恐らくは第四層に居たオブリビオンだろう。しかしどういう訳か、鏡から現れたオブリビオンは完全な発狂状態となっており、すぐさま襲い掛かってくるのだという。
 理性というストッパーを失った彼は、自身の限界を超えた力で、執拗に、超強力な攻撃を連発してくる。さらにはその力に見合う異常なまでの頑丈さも有しており……。
「まともに相手をすればかなりの苦戦を強いられるだろう。強敵だ」
 ただ、撃破を狙う以外にもその場を切り抜ける道はあるのだと彼は言う。
 この敵は、「しばらく城内で暴れ回った後、また不意に鏡に吸い込まれるようにして消えてしまう」ことが、予知によって明らかになっている。原理も原因もわからないが、場合によっては無理に撃破を狙うより、ひたすら耐え凌いで敵が鏡に消えるのを待った方が得策という事もあるだろう。
 凄まじい膂力と、強力なウイルスを操る相手から、逃げ切るというのも決して楽な話ではないが……。

「方針は各自に任せる。任務を果たし、無事帰還してくれ」
 最後にそう告げて、ヴィトレルは一同を送り出した。

●Reversed
「――ああ、なんて酷い有様だ」

 ゆらり、と。鏡の中から現れた痩せぎすの男が、猟兵達に向き直る。
 嘆かわしい、痛ましい。青白い顔に、そんな悲し気な表情を浮かべて。

「どうしてこんなになるまで放っておいたんだい?」

 メス、鉗子、鋸、注射器。どこか禍々しい手術道具達を喚び出しながら、彼は言う。
 滴る血、鏡の間を揺らす足音、奇怪なウイルスにより、それら全てが掻き消えるまで、後一歩。

「すぐに、|治して《壊して》あげるからね」


つじ
 当シナリオは『闇の救済者戦争』の内の一幕、一章構成の戦争シナリオになります。

●プレイングボーナス
 敵の超強力な攻撃を耐え凌ぐ。

●『嘆きの医師』
 元はダークセイヴァー第四層の村医者だったようです。生前は優しく、穏やかな性格でしたが……。
 言動から、『治す』と『壊す』が反転している節があります。
 ユーベルコード全ての威力が激増しているほか、耐久力も極めて高い状態にあります。会話は成立しますが、話が通じているかは定かでなく、説得等に意味はありません。
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第1章 ボス戦 『嘆きの医師』

POW   :    大丈夫、怖くないよ
【注射】【手術道具】【拘束ロープ】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
SPD   :    君の未練を聴かせておくれ
【この世に未練を残した死者】の霊を召喚する。これは【精神汚染】や【毒】で攻撃する能力を持つ。
WIZ   :    ――今、楽にしてあげよう
自身と武装を【ウイルス】で覆い、視聴嗅覚での感知を不可能にする。また、[ウイルス]に触れた敵からは【生命力】を奪う。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はクラウン・メリーです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

レナータ・バルダーヌ
倒さずに制圧といってもいまいち安心感がない気がしますけど、それで済むに越したことはないですね。
わたしも攻撃よりは防御のほうが得意ですし。

敵が現れる前に【B.I.ライダー】を発動し、攻撃に備えておきます。
手術道具も、こういう使い方では拷問器具と変わらないですね。
攻撃には耐えますけど、そういう趣向にまでお付き合いする理由はありません。
敵が放つ道具などは、纏う炎の温度を上げて【焼却】します。
さらにサイキック【オーラによる防御】を重ねて、攻撃を凌ぎましょう。

わたし自身は敵が消えるまで待つつもりですけど、炎熱によるダメージは与えられると思います。
倒そうとする方がいれば、多少は足しになるかもしれません。



●溢れ出る熱
 四方、いや六方を鏡に囲まれた迷宮。視覚的にはまるで果ての見えないそこを、レナータ・バルダーヌ(護望天・f13031)は注意深く歩んでいく。ここに現れるオブリビオンは、超強力である代わりに一定時間で消えてしまうというが……。
「それって、制圧したと言えるんでしょうか……?」
 倒せていないのならまた出てきてしまうのでは? いや、出てくる原理が分からない以上、それは倒したとしても同じことか?
 いまいち安心感がないけれど、それで済むのなら越したことはないだろう。レナータがそう結論付けた頃、無限に続く合わせ鏡の光景の中に、その男が現われた。
 青白い顔色、落ち窪んだ眼窩の奥の瞳は、どこか茫洋として見えるが、それはしっかりとこちらの姿を捉えていた。
『また、患者が一人……』
 ごく自然な動きで引き抜かれる手術刀。遭遇に備えていた彼女は、素早くそれに応じる。
 『B.I.ライダー』、レナータの頭に巻いた包帯と、背中に残った傷痕、それぞれから噴き出した炎が、鎧となって全身を包み込んだ。
 眩い炎の輝きが鏡の間で乱反射し、迷宮の一角をその色に照らす。投擲された手術刀から咄嗟に身を躱したレナータだが、続けて放たれた拘束ロープがその上半身に絡みつく。強化されたオブリビオンの膂力を駆使し、きつく巻きつけられたそれは、両腕の自由と逃走の余地を奪い取るが。
「手術道具も、こういう使い方では拷問器具と変わらないですね」
 揺らめく炎が勢いを増し、燃え盛り、ロープを瞬時に焼き尽くした。
「そういう趣向にまでお付き合いするつもりは――」
 ない、と続けるその前に、オブリビオンは鋸を両手で振り下ろしている。炎の鎧、念動力、即座に展開した防御の上から、鋸の刃が襲い掛かる。禍々しいその牙は、レナータの掲げた腕に喰らい付いた。
 切開ではなく削り取り切断するのに向いたその刃は、付けた傷口を抉っていく。この近接距離では、レナータの纏った炎の影響も無視できないはずだが、腕の先から炎に焼かれながらも、オブリビオンは構うことなく鋸を押し付けてきている。
『大丈夫、怖くないよ』
「鏡見てから言っていただけます……?」
 躊躇がなく執拗、狂える医師の攻撃を耐え、レナータはサイキックによる防御を駆使して押し返す。やがて無理な使い方に糸鋸の刃が圧し折れ――。
 速やかに巨大な鋏に持ち変える敵に対し、レナータは傷付いた両腕を真っ直ぐに相手に向ける。傷口からの炎が身に纏っていたそれと合わさり、一挙に火勢を増した。
 迸る焔、そして与えられた苦痛を念動力に変えて、オブリビオンを吹き飛ばす。

 薄紫に輝くそれが行き過ぎて、目の眩むほどの光が収まった鏡の迷宮。無数に並ぶレナータの鏡像の合間に、先程まで居た医師の姿はなかった。
 消え去ったか、それとも別の『患者』へと向かったか、定かではないが。
「――耐久戦も楽じゃないですね」
 一時的に戻った静寂の中、レナータは溜息を吐いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

西院鬼・織久
仕掛けのある鏡は壊せない。敵は強力。それでも漸く闇の種族の首に手を掛けられるようになったのです。「欠落」の謎、必ず手に入れてみせましょう

我等が本望を果たせず退くしかなかった闇の種族
我等が悲願を果たすためにも、如何なる強敵も喰らってみせよう

【行動】SPD
敵の強力な攻撃を武器で受けてダメージを軽減し各耐性で堪える
ただ受けるだけでなく魔力吸収を行い、その魔力を禍魂に送り込み怨念の炎を強化しUCをより強力にするために利用する
敵の初撃を受けきったら五感+第六感と野生の勘を働かせ、敵の気配察知を行い体のダメージを無視した限界突破+UCで反撃
敵が再び鏡に消える前にダッシュ+串刺し



●怨念をくべて
 合わせ鏡の城と呼ばれるこの場所も、『闇の種族』の作品の一つなのだろう。仕掛けのあるはずの鏡はどうやっても割ることはできず、そこから湧く敵は大幅に強化されている。覆せぬ、力及ばぬ差の証明のような舞台ではあるが――それでも漸く、闇の種族の首に手を掛けられるところまで来た。存在のみが示され、未だ謎に包まれた『欠落』、それを明らかにするためにも、進まなくては。
 それにはまず、この幽鬼のように立つオブリビオンを退けなくてはならない。
 西院鬼・織久(西院鬼一門・f10350)の擁する『炎』が燃え上がる様に、オブリビオンは痛まし気に表情を曇らせた。
『痛いだろう。苦しいだろう。こんなに酷いものは初めて見るよ』
 狂った者の言動につき合うつもりは彼にはない。だが、皮肉なものだ、この炎を生み出す元となったのは、他ならぬ『闇の種族』どもなのだから。
 一門が悉く本望を果たせず、退くしかなかった闇の種族。その悲願を果たすためにも、ここで屈するわけにはいかないだろう。
『すぐに、切除してあげるからね』
 織久の瞳に宿る殺意など、こちらは気付いても居ないだろう。しかし癒しを口にした医師の展開したものは、怨念渦巻く死者達の霊。
 叶わぬ願いを抱いたまま果てた者達の声は、織久の精神を狂気へ落し、毒のように肉体をも蝕む。もはや呪詛としか言いようのないそれに身を浸し――それでもなお、赤の瞳が敵を射抜く。
「……全て喰らってやる。我等が炎の糧となれ」
 精神、肉体、その両方を襲う怨嗟の声、オブリビオン自身が強化されているためか、幾重にも響くその声は重く、強力だった。落ち行く意識、軋みを上げる身体。しかし織久はそれを受け入れ、耐えて、飲み込んでいく。彼の抱く炎は、それを薪として燃え上がるものなのだから。
 とどめとばかりに手術刀を構え、踏み込んできた医師に向け、彼はそれを解き放った。
「――焼き尽くす」
 深く切り裂かれ、織久の血が迷宮の鏡を濡らす。しかし同時に噴き上がった『怨讐の炎』が、辺りを禍々しい色で照らし出した。
 オブリビオンが炎に巻かれる、だが狂気に落ちたこの医師は、苦鳴も怯んだ様子も見られない。それでも、怨念に満ちた炎の色は、その視界を埋め尽くしているはず。
 こちらも自らの負傷を顧みず、血を撒き散らしながら駆け出した織久は、足の止まったオブリビオンを確実に貫いた。
 燃え上がった炎が揺らぎ、収まる。そこには、織久一人が立っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シキ・ジルモント
一人だけでも強敵だというのに死者の霊まで召喚とは面倒な
こんな世界だ、未練の残る死者には事欠かないだろうと、場に合わぬ同情が湧く
…この余計な思考も精神汚染の影響か

相手の手術道具の間合いに突っ込まず、中距離を保ち拳銃で攻撃
行き止まりに追い込まれないよう注意する

劣勢時は拳銃にエンチャント・アタッチメント【Type:I】を装着
ユーベルコードで医師と死者の霊、両方を攻撃して凍結による足止めをはかる
精神汚染はともかく、医師の攻撃と毒の方は距離を取れば被害を抑えられると予想
時間を稼ぎ、体勢を立て直して相手の攻勢に耐える

敵を前にして逃げるつもりこそ無いが
無闇に突っ込んで|治療《破壊》される訳にもいかないからな



●死者の声
 話通り、鏡の中から現れたか、それとも隠形を成すウイルスの効果が揺らいだか、シキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)の前に、突如そのオブリビオンが姿を現す。狂気を孕んだ瞳は射すくめるようにこちらに注がれ、恐らくは戦闘の痕か――酷い火傷を負った両腕には、手術刀が握られている。
『安心しなさい。君も、必ず|治して《壊して》みせるから』
 地の底から響くような低い声と同時に、オブリビオンの足元で影が揺らぐ。啜り泣き、嘆く、怨嗟の声を無数に纏う、そこには確実に『何か』が居た。
「……面倒だな」
 油断なく身構えながらシキが呟く。この医師一人だけでも厄介だと言うのに、召喚まで駆使するとは。聞こえる声からするに、恐らくは死者の霊か何かだろう。このダークセイヴァーという世界の特徴を思えば、未練の残る死者には事欠かないだろう。
 彼、いや彼等か? 暗がりに淀むその存在に気を取られていることを自覚し、シキは思考を切り替えるよう自らを戒める。戦いに集中しろ――けれどそんな言葉を、嘆きの声が上書きしていく。
 疑問、憤慨、羨望、不平、諦念、憎悪、絶望。死したる誰かの未練、凝縮されたその闇は、シキの精神を容易く同じ場所まで引き摺り込んだ。
 戦いに集中しろ。再度自分に言い聞かせ、シキは後方へと跳ぶ。強化された精神汚染の効果は絶大、それでもそこにうずくまっていては、次なる攻撃、そして身体の不調に応じることができなくなるだろう。相手の手術道具の間合いを避け、中距離へと引きながら、シキは拳銃を手に取った。
 袋小路に追い込まれる事だけは、避けなければいけない。追い縋るオブリビオンを牽制するべく引き金を引きながら、シキは鏡の迷宮を後退していく。把握している限りの道を、背中側で辿りながら――。
『怖がらなくてもいい、すぐに楽にしてあげよう』
 しかしながら、それも長くは続かない。強化されたオブリビオン、それも執拗にこちらを狙ってくる者を相手に、間合いを保ち続けるのは困難である。
 鋭い踏み込み、彼我の距離を一気に切り取るその一歩に対し、シキは咄嗟にエンチャント・アタッチメントを取り出し、拳銃へと装着した。
「近づくな。そこで止まれ」
 放たれるは氷の魔弾。先程までとは違い、魔力を纏った弾丸は、着弾と共に魔性の氷を撒き散らし、医師を、霊体をそこに縫い留める。氷漬けになった足が引き裂かれようとも、構わず前進しようとする医師にさらなる銃弾を浴びせつつ、シキは角を曲がり――。
 誰とも知れぬ怨嗟の声の合唱を最後に、敵の気配が消失したのを悟った。
「――凌いだ、か?」
 十分時間は稼げた、ということだろうか。慎重に周囲の様子を探りつつ、シキは迷宮の奥へと進んでいった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

菱川・彌三八
抑々奴等に理性なんてあったのか…否、あったか…
マ、関係ねェや

強いってェ云われると一度やりあってみたくなっちまうんだよなァ
透過でやり過ごすのが定石だろうが、夫れは野暮ってもんだろう
守るにしても、鳳凰がいっち手っ取り早ェや

奴が飛ばす物は素早い飛行でやり過ごす
背面から一発…と思ったが、相手の動きも速ェこと
下手に近付いても縄やらがあるし、八方鏡で如何にも天地が馬鹿んなるなァ厄介
だが、面白ェ

此の際一つ当たって威力が落ちるなァ仕方ねえ
此方も反転して一発くれえは当てたいところ
真、見目に反して頑丈でいけねえ
然し、其の分遊んでもらうゼ
生憎俺も、直ぐ壊れっちまう程柔じゃねェのさ

とは云え、何だ
中々しんどいな…



●どつき合い
「おめぇが例の『強敵』ってヤツかい」
 合わせ鏡の城に現れるという狂えるオブリビオン、医師の風体をしたその男を前にして、菱川・彌三八(彌栄・f12195)は笑みを浮かべる。青白く生気に乏しい表情に反して、そのオブリビオンはいくらか死闘を潜り抜けてきた痕を残している。焼けただれた両手や引き裂かれた脚部、一見すると痛々しいそれを意にも介さず、それはこちらを見据えていた。
『大丈夫ですよ、すぐに治して差し上げます』
「間に合ってんだよなァ」
 それよりまずは自分の傷をどうにかした方がいいんじゃねェの? そんな軽口の途中で、彌三八は鳳凰の刺青に宿る力を解き放つ。話を聞く様子もなく、オブリビオンが地を蹴ったためだ。踏み込みと共に投擲される巨大な注射器、冗談みたいな勢いで飛んでくるそれを、飛翔能力を駆使して躱す。
「なるほど、話が早ェや」
 そもそも彼等に理性なんてものがあったのか、いまいち印象が薄いが、『狂っている』のも悪くない。ここは透過でやり過ごすのが最適だろうが、彌三八が選んだのは大天狗ではなく鳳凰。強いと聞いては挑まずにいられない、この辺りもまた彼の性分だ。
 最大加速で投擲されるメスから身を躱し、鏡に囲まれた通路で螺旋を描くように飛ぶ。撹乱し、虚を突くような動きにも、オブリビオンは瞬時に応じてきた。割れない鏡の壁を蹴り、天井に足を乗せて身を捻り、背面を取ったはずの彌三八を正面から迎え撃つ。
 彌三八の拳がオブリビオンの頬を掠めて、反撃に振り下ろされた鋸もまた空を切った。駆け抜けるように距離を取った彌三八は、しかし間髪入れずに反転し、追撃にかかる。
 近付けば拘束具に捕まる危険はあるが、離れていてもわけのわからない勢いで刃物が飛んでくるのだから変わりはしない。迷宮の狭い空間を縦横無尽に駆けて、敵の隙を狙う。三次元的な機動に強化された敵も追い付いてくるため、八方の鏡に映された世界は天地すら曖昧になる。
「ハッ、面白ェ!」
 しかしこれではきりがない。意を決した彌三八は敵の放った拘束ロープに、あえて左腕を突き出した。
 絡みつくそれを逆に握りしめ、思い切り引く。それに応じた相手も床を踏みしめ、引き返す――そうして足の止まったそこに、瞬時に距離を詰めた彌三八は、その顔面に拳を叩き込むことに成功した。
「……チッ」
 手応えはあった。しかし仰け反った姿勢ながら、敵の目だけは変わらずこちらを見ている。
 見目に反して頑丈だ、と思った時には反撃の拳が彌三八を打つ。重い一撃ではある、が。
「生憎俺も、直ぐ壊れっちまう程柔じゃねェのさ」
 こちらも黙ってはいない。至近距離での応酬は続き、最後に彌三八が敵を蹴り飛ばした勢いで、拘束ロープが引き千切れる。撥ね飛ばされたオブリビオンの身体が通路の角の奥へと消えて。
「……あァ? もう時間切れかよ?」
 鏡に消えたか他所に向かったか、戻ってこない気配に、舌打ちをもう一つ。
「とは云え、何だ……中々しんどいな」
 構えを解いて、ようやく肩で息をする。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ダンド・スフィダンテ
やぁ、うん。
優しかった者がこうなってしまうと、やっぱり哀しいものだよな。

仕方ないんだけどさ、こんな世界だし。

両腕を広げて、よし
さぁ、来いよ。『殺してみせろ』

狂ってまで他人を心配してくれて、優しいよな。
こんなどうしようもない世界で人を救おうと躍起になれる人間なんて、中々居ないぞ?本当だとも。

ありがとうな。治そうとしてくれて。

でも、大丈夫。大丈夫だとも。

貴殿に聞こえていないとしても、貴殿が見えていないとしても、我々がこの世界の病原に抗ってみせるとも。

ごめんな。
貴殿の事だって助けたいのにさ……無力だよな、猟兵なのに。

……上手く笑えなくて、困るな……こういうのには、慣れた筈なのにな。



●未練
『君もまた、酷い状態だ』
「あぁ、そうだな」
『放っておけば手遅れになる。私に任せてくれないか』
「うん、まあちょっと考えさせてほしいけど」
『必ず君を、|治療して《破壊して》みせる』
「……」
 やはり、話は通じない。遭遇した医師と言葉を交わしてみたが、残念ながら、そう結論付けるしかなかった。
 ダンド・スフィダンテ(挑む七面鳥・f14230)は溜息を吐く。どうしようもなく、狂っている。こんな世界なのだから、そうなってしまうこともあるだろう。
 けれどそれでも、この狂ったオブリビオンの根幹に思いを馳せずにはいられないのだ。狂気に落ちる前、そして生前の在り方に。
 ――こんな風に『狂う』のは、全てを治したかった者だけだろう。それもまた憶測に過ぎないが、彼にとってはそれで十分。「よし」と頷いて、ダンドは両腕を広げて見せた。
「さぁ、来いよ。『殺してみせろ』」
 抱擁を誘うように、受け入れる意志を見せて、彼の治療を『誘導』する。
 間髪入れずに手術に取り掛かったオブリビオンは、裂かれた足で間合いに踏み込み、焼け爛れた五指で手術道具を握り締める。そして負傷を思わせぬ動きで、手にしたそれを振り下ろした。
『大丈夫、怖くないからね』
 メスに鉗子、切断用の鋸。それらが次々と降り注ぐが、この構えを取ったダンドには刃が立たない。それでもなお、狂える医師の治療は続く。
「ありがとうな。治そうとしてくれて」
 執拗なまでに繰り返されるそれは、ともすれば献身的にさえ見える。『治す』と『壊す』が反転しているのなら、彼はずっと他人を心配しているのだろう。少なくとも、ダンドはそう理解した。
「こんなどうしようもない世界で人を救おうと躍起になれる人間なんて、中々居ないぞ? 本当だとも」
 優しかった者がこうなってしまった――その事実は、どうしようもなく哀しいことだけれど。
 彼にはきっと聞こえていない、そして見えてもいないのだろう。それでも「大丈夫」とダンドは伝える。貴殿の代わりに我々が、この世界の病原に抗ってみせると。
 拘束ロープがダンドの身体を絡め捕り、注射針が突き立てられる。そうしてさらに手術刀を振るい、|手術を完遂《ユーベルコードを無効化》すれば治療は可能だと、オブリビオンは理解しているのか、その動きは止まらない。
 だが最後の一太刀を見舞う前に、限界を迎えたオブリビオンの体が崩れ始めた。猟兵達の蓄積させたダメージの成果。時間切れ。突き刺した刃はついにダンドの防御を抜けて、傷口に血を滲ませる。しかし、そこまで。
「ごめんな」
 崩れ、消えていく医師を見下ろしてダンドが言う。
 謝るなど筋違いに違いない。それでも、できれば貴殿のことも助けたかった。この世界にはありふれた悲劇、その一つ一つを掬い上げてやりたかった。
 けれどそれは叶わない。だから、せめて今できることをやるしかないのだろう。
 無理矢理浮かべた笑みは、ひどく不格好なものだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2023年05月05日


挿絵イラスト