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冬枯れの山の暴威

#アックス&ウィザーズ

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#アックス&ウィザーズ


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●異形の盗人
 葉のすっかり落ちた木立の間の道を行くと、探していたものが見つかった。手ひどく破壊された荷車だ。馬は当然のようにいないし、積み荷は根こそぎ奪い去られている。
「こりゃひでえ」
「とんでもねえ盗人がいるな。張りこんでとっつかまえるか?」
 辺境の地では物資を奪う盗人の罪は重い。特に食べ物は誰もの生命がかかっているからだ。頭に血が上った男たちが口々に言い合う中、一番年かさの男がぽつりと呟いた。
「……いや、これは冒険者に頼まにゃならねえ」
「はあ?」
 異口同音に振り返る男たちに、彼は拉げた荷車の端にある傷を指して見せる。
「見ろ、こりゃあ斧かなんかで切りつけた跡だ。おめえらが斧振ってこんななるか?」
 言っている意味が伝わると、男たちは全員が口を閉ざした。なにしろそんな痕跡が、元荷車のそこらじゅうについている。そして荷車は今、原形をとどめていない。
 斧を持ったとんでもない怪力の何かが、この辺りにはいるということなのだ。
「戻るぞ。引き受けてくれる冒険者を見つけねえと、あの村は飢えちまう」
 年かさの男に促され、いきりたっていた男たちはそそくさと方向を変えた。陽が暮れる前に町まで帰りつきたいところだ。
 この辺りに『何か』がいるとわかってしまった以上、もう誰もが一刻も早くここを立ち去りたいという気分になっていた。
 『何か』。すなわちモンスターである。

●人々の営みを守れ
 アックス&ウィザーズ世界での任務があるよと声をかけて回り、テス・ヘンドリクス(人間のクレリック・f04950)はひと息ついて話し始めた。
「えっとね、結論から言うとミノタウロスを倒して欲しいんだ」
 のっけから出た話がミノタウロス。結論から行きすぎる。
「去年野菜が不作だった山裾の村があってね。それで、商人に頼んで野菜を運んで来てもらうはずだったらしいんだけど……それが二連続で届かなかったって」
 ところがこれが、ただの盗難ではなかった。テスの予知によれば、荷車はミノタウロスによって襲われたのである。しかも野菜が届かないと村は飢える。
「間が悪いことに、今回の問題はミノタウロスだけじゃないんだよね。寒いもんでアウラウネが集団で南下してきていて、ちょうど村の近くの街道を占拠してるの」
 アルラウネは当地の冒険者には荷が重い。お得意の叫び声は猟兵すら危険に晒すのだ。以前は比較的人のいない地域に隠れ棲んでいたが、最近生息域が拡大しあちこちで被害が出始めている。
 つまりこのミッションは、アルラウネの集団を駆除した後、出現するミノタウロスを倒して村まで荷車をお届けすることで完遂となる。アルラウネに出遭うまでの間にちょっとしたトラブルはあるが、それらはオブリビオンとは無関係の瑣末事だ。
「そんなわけで、のんびり荷馬車の護衛をしてくれる人を募集だよ」
 のんびりも何も最終的にはミノタウロスが出るわけだが、それはおいといて猟兵の誰かが問いかけた。
「でもなんで野菜の荷車襲ってるんだ?」
「ベジタリアンだからだよ。ミノタウロスが」
 牛だもんそりゃそうだよねって顔でテスは応えたのだった。


六堂ぱるな
 はじめまして、もしくはこんにちは。
 六堂ぱるなと申します。
 拙文をご覧下さいましてありがとうございます。

●状況
 アックス&ウィザーズ世界での荷車護衛ミッションでございます。
 野菜を送り届けるのは山裾にある辺境の村で、皆さんはふもとの少し大きめの町から出発します。まずは枯れた木立の間を抜ける道を進み、野営地へ向かいます。

 途中ではオブリビオンではないごろつきが、道の途中で通行料をせしめようと因縁をつけてきたり、荷車の車輪が穴にハマったり、おつかいの途中に足を挫いた娘さんがいたりします。これらに対応しつつのんびり進んで下さい。

 シナリオのここだけ出たいな、といった部分のみの参戦も大歓迎でございます。
 皆さまのご参戦をお待ちしております。
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第1章 冒険 『積荷を護衛せよ!』

POW   :    護ればいいのだろう?直接護衛して何もかも吹っ飛ばせ!

SPD   :    障害は避ければいいのさ。周囲を探索して危険を避けよう!

WIZ   :    奴らの行動は読めている。対策を施して妨害を無力化せよ!

👑11
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

シャルロット・クリスティア
匡(f01612)さんと共に。

WIZ
二人である程度の距離を保ちつつ先行して森の中を偵察、無法者たちが待ち伏せしそうなところの目星をつけておきましょう。
隠れ身の外套も使って『目立たない』ように、馬車の進路を見やすく、見られにくいポイントの目星をつけます。
周囲の『地形を利用』し、手持ちのトラッピングツールとパラライズナイフを使って、誰かが待ち伏せに来たらロープが引かれてナイフが飛ぶように『罠』を作ります。

ただ、外套の魔力源が自分自身なので、ちょっと疲れるんですよね……。
先客がいた場合は、匡さんにお任せしますね。

……やりすぎないでくださいよ?積荷を守ればいいんです、お引き取り頂くだけで十分でしょう。


鳴宮・匡
◆アドリブ/連携OK
◆同行者:シャルロット(f00330)

【SPD】
シャルロットと組んで動くよ
先行して周囲の偵察を
【迷彩】【忍び足】も用い
木立や草陰に紛れて【目立たない】ように進行
透明化したシャルロットとは少し距離を取って
周囲地形・状況と彼女の動向を逐一把握できるような位置を心掛ける

向こうが罠を張っている間は、こちらも足を止めて周囲警戒
先客――ごろつきやら野盗やらがいれば、こっちで処理を受け持つ
ナイフを用いた近接戦闘で対応するよ
あまり大きな音を立ててもまずいだろうしな

ところで、こいつら殺していいのか?
……あ、ダメ?
その方が後腐れないと思うんだけど……まあいいか
逃げ帰れる程度には加減しておくよ


ユーフィ・バウム
やはり、生まれた世界のアックス&ウィザーズの
ミッションはやりがいがありますね!

護衛は、荷車にぴたりとついて務めます
何が現れようとどっかんどっかんの勢い、
POWで守らせていただきましょう

ごろつきが現れたらもし因縁をつけてきたら
迫力を見せつつ威圧して道を明けてもらいましょう
迫力はないかもしれませんが、
此方の実力が分かれば退いてくれますかね

実力行使でも構いませんが、オブビリオン以外は
無力化のみにします

荷車の車輪が穴にハマった場合は【力溜め】でうんしょと
持ち上げ脱出させましょう
こう見えても自然で培った肉体はパワーに溢れているのですよ!

仲間と協力して、のんびりしつつも安全第一に進みますね

【アドリブ歓迎】


レガルタ・シャトーモーグ
フォム(f06179)と同行

護衛任務か…、了解した
途中のごろつきは殺せばいいのか?

フォムが積荷の側にいるなら、俺は先行するとしよう
車輪のとられそうな凹凸があれば、迂回するように指示したり
大きな岩が邪魔なら【破壊工作】で破壊する
ごろつきっぽいのがいれば奇襲して【暗殺】…する程の奴でないのなら、首の皮一枚程切って脅かしてやればいいか
徹底抗戦の構えなら容赦はしない
相手の攻撃を【見切り】つつ鈴蘭の嵐で一掃するぞ

今度は足をくじいた娘だと…?
俺は知らんぞ…
…これでも塗ってさっさと帰れ
一応手持ちの応急薬を渡しておく


フォートナム・メイソン
※アドリブ、悪乗り大歓迎

レー君(f04534)と参加

お散歩するの?やったー!
しっかり守るから沢山遊んでね!

■行動
【メカニック】【戦闘知識】【武器改造】【早業】[ジャンクホース]でロボットを作る
自分とロボットの二人で積荷の左右に展開して出来る限り死角を無くす
道中は戦闘で【地形の利用】が出来そうな場所を探したり、逆に相手に利用されそうな地形があったら警戒を促す
敵の痕跡を見つけたら【追跡】し、可能なら先制攻撃を仕掛ける
作り出したロボットと連携しつつ囲まれないよう注意しながら【ダッシュ】で敵を撹乱する

※【野生の勘】【第六感】【見切り】が働いたら本能に従い行動する

ちゃんと守れたでしょ?褒めて褒めて!


リィン・エンペリウス
護衛任務かぁ。普段やらないことだし、わくわくするね。

護衛任務だけど、敵と合わないことが一番だよね。ボクはこの馬車の索敵としての目になろうか。
『千里鷹』でお友達のイチくんを呼び出して手伝ってもらうよ。
イチくんに【動物と話す】で荷馬車周辺を飛んでもらって、周囲警戒をしてもらうようお願いするよ。お礼は手持ちのジャーキーでいいかな?
イチくんの鷹の目で広い範囲を索敵出来るんじゃないかな。

ボクは荷馬車で待機してイチくんの報告をまったりと待とうか。同乗者と会話や、普段この道を使っている荷馬車の商人さんと話して【情報収集】もいいね。
イチくんが戻ってきたら教えてくれた情報を同行してくれているみんなに知らせるよ。


泉宮・瑠碧
護衛は構わないが…
力仕事は役に立てないので、主はそれ以外

破落戸は、つまりは金銭なのだろうが…
任せる者が居ない場合のみ弓で威嚇射撃
付近にモンスターが出現しているし、早く離れた方が良い
ただ、逃げた先で同じ事を繰り返してもな…
老後を考え、落ち着いた方が良いと思うぞ

車輪が穴に嵌まれば、皆と押す事なら出来るが…
そもそも嵌まらない様に気を付けておこう

足を挫いた者が居れば医術で
冷やしたり、布で固定などの応急手当をするが
帰るまでの道のりが辛そうなら優緑治癒で治そう
本当なら安静にしていた方が良いからな…
野営地までの時間に余裕があるなら、暫く付き添う
治ったとしても、暫くは安静を心掛けて
あまり負荷は掛けない様にな



●のどかなる旅路
 任務の起点となる町はそこそこに大きく、出発する荷馬車も猟兵たちが護衛を請け負ったものだけではなかった。市場近くの車寄せには冒険者たちが集まっている。
 わりあい込み合うその一角は風こそ冷たいが日差しは暖かく、リィン・エンペリウス(もふもふ大好きグルメ妖狐・f01308)は両手に尻尾を存分に伸ばして息をついた。
「護衛任務かぁ。普段やらないことだし、わくわくするね」
 猟兵の多くがオブリビオンとの戦いを主な活動としている現在、取っかかりとしてはわりあい平和な案件と言えないこともない。
「お散歩するの? やったー! しっかり守るから沢山遊んでね!」
 ぴょんぴょこ跳ねながら相棒のフォートナム・メイソン(ロケットわんこ・f06179)が主張するのを横目に、至って真顔でレガルタ・シャトーモーグ(屍魂の亡影・f04534)は依頼内容を確認した。
「了解した。途中のごろつきは殺せばいいのか?」
「実力行使でも構いませんが、オブリビオンでなければ無力化で良さそうですよ」
 すごく殺意高いレガルタの姿勢をいなしたユーフィ・バウム(セイヴァー・f14574)、この世界の生まれだけあって風景と至って馴染んでいる。
 力仕事となるとイマイチ自信がない泉宮・瑠碧(月白・f04280)としては、それ以外で役に立ちたいところだ。
「彼らの要求は、つまりは金銭なのだろうが……」
 瑠碧の言葉に頷いた鳴宮・匡(凪の海・f01612)と、シャルロット・クリスティア(マージガンナー・f00330)が、顔を揃えた仲間たちに提案した。
「俺たちが先行して、偵察しながら進もうと思うがどうだ?」
「ええ。無法者たちが待ち伏せしそうなところの目星をつけておきましょう」
 森に潜んで彼らを罠にかけようというわけだ。二人の申し出を聞いたリィンは、ついでに荷馬車の護衛を引き受けた他の冒険者に聞き込みをした結果も告げた。
「そうそう、どうもごろつきの他に盗賊も出没しているようだよ」
「そうなると、私たちは見るからに彼らの目を引きそうですね。お二人が抜ければ女性と見た目は子供ですから、充分に油断を誘えます」
 この世界で生まれ育ったユーフィが考えるに、狙われる確率はかなり高い。
「そもそも敵と正面から遭わないことが一番だよね――イチくん、偵察頼んだよ!」
 リィンが【千里鷹】を起動。小さなホイッスルに息を吹き込むと、一羽の鷹が姿を現した。彼女の話せる友達のひとりだ。お礼のジャーキーで頼みこむと、翼を広げてあっというまに空高く舞い上がる。
 一行は野営地へ向けて出発した。道の両側には木立があって見通しが悪い。人目が減るなりフォートナムが【ガジェット:ジャンクホース369】を発動させた。色々なジャンクパーツをメカっぽく組み上げ、2メートルもの巨躯に変身させる。
 フォートナムと『ジャンクホース369』で荷車の左右を、ユーフィと瑠碧で荷車の前に、レガルタが後尾について進んでいくと、荷車の上に陣取ったリィンがイチくんからの情報を受け取った。
「あー、噂のごろつきと盗賊が同時に近づいてきてるみたいだよ」
 一行は顔を見合わせた。イチくんによれば右翼からごろつきが、左翼からは盗賊が来ているらしい。数を把握するには降下せねばならないが、両方同時にはできない。
「じゃあ、右翼は任せてくれ」
 全く気負いのない様子で匡が動いた。シャルロットと共に木立の向こうへ紛れていく。

 隠密行動に慣れた匡は迷彩を駆使し、草陰に紛れて野生の獣のように静かに進んだ。隠れ身の外套で透明になっているシャルロットも楽ではない。外套の魔力源は自分自身なので疲労していく。
 お互いに距離を取りながら進んですぐに、ごろつきたちを発見した。事前に情報を集めるような真似はしておらず、街道沿いで獲物を待っているようだ。
(「少し手前の街道寄りのところに、罠を仕掛けたら良さそうですね」)
 地形の判断を元に森の中を少し戻り、シャルロットは罠の設置に取りかかった。その間の警戒は匡が引き受け、ほどなく終わる。と、二人の傍へこそこそした話し声が近づいてきた。ごろつきは二手に分かれて、荷車を挟み撃ちにするつもりらしい。
 せっかく設置した罠にかかられては困る。あまり大きな音を立ててもまずいだろうしな、とまで考えて、ふと匡は問いかけた。
「ところで、こいつら殺していいのか?」
「積荷を守ればいいんです、お引き取り頂くだけで十分でしょう」
「あ、ダメ? 殺した方が後腐れないと思うんだけど……まあいいか」
 シャルロットの応えに苦笑を浮かべた。その時にはもう、ごろつきの目の前にまで音もなく迫っている。驚愕に見開いた目を覗き込みながら残りを呟いた。
「逃げ帰れる程度には加減しておくよ」
 無害そうな風貌に見合わぬ膂力で振われたSchwarzer Teufelが、ごろつきのなまくら剣を易々と弾き飛ばす。がら空きの鳩尾にナイフの柄を叩きこみ足を払うと、男は顔面から地面に激突して動かなくなった。
「……やりすぎないでくださいよ?」
「て、てめえ!」
 物騒な物音にいささか心配顔になるシャルロットだが、もはや後の祭りだ。一瞬の出来事に目を剥いた隣の男へは胸板へ浅く切りつけて怯ませると、素早く懐へ踏み込み顎を肘で打ち上げる。脳震盪を起こしてぐらり傾く男のこめかみへ回し蹴りを叩きこむと、棒のように地面に倒れこんで気を失った。
 一丁上がりと二人を引きずって、シャルロットと匡が森の奥へ隠してまもなく。
「なんかヘンなのもいるが、あとは女とガキだけだぜ」
「ウィザードでもいんのか。だとしてもこの人数だ、カモだな」
 シャルロットの仕掛けたトラップの方へ、どやどやと無警戒に足音が近づいて行った。油断しきって罠にはまるで気付かない。地面すれすれに張られたロープに足を引っ掛け、先頭の男に仕掛けたパラライズナイフが突き刺さった。
「なんだぁ? こんな……」
 言葉も終わらぬうちにへなりと腰が抜ける。
「おい、どうした?!」
 彼の異常に気付いた残る二人も、それぞれで灌木の間に張られたロープに綺麗に引っかかった。かすかな音を立てて飛来するナイフが次々とごろつきたちに突き刺さる。塗りこまれた痺れ薬と刃に刻まれた停滞のルーンは、声をあげることすら許さなかった。

 一方、荷車ではリィンがごろつきたちの壊滅を確認していた。既に盗賊たちの数と位置は把握済み、気楽にカウントダウンを始める。
「あとは盗賊だけだよ。近づいてくる――3、2、1」
 ぴったりのタイミングで行く手の横の木立から、数人の男が姿を現した。
「よお姉ちゃん。素直に払うもんを払うか、荷物をよこせば――」
 口上が終わるより早く、フォートナムが『ジャンクホース369』と共に躍りかかっていた。目にも止まらぬ速さで迫りくる巨大なハンマーを振りかぶった少女と、彼らには全く馴染みのないロボットに、素直に叫びがあがる。
「わあああああ?!」
 反射的に男たちが跳びのいた目の前の地面に、ハンマーとロボットパンチが深々とめりこんだ。目も当てられない大混乱に乗じ、ユーフィも使い慣れた戦斧を手に切り込む。
「よこせばどうなると言うのです?」
「ぎゃああ、痛えええ!」
 凄まじい重量感を感じさせる風切り音をたてて斧が唸り、刃にひっかけられた男が悲鳴をあげた。たいした怪我ではないが、何しろ武器の見た目に迫力がありすぎる。
「な、なんだよこいつら――?」
 早くも後じさる男は背後にかすかな羽ばたきを聞いた。振り返った瞬間、首の皮一枚を裂いて刃がかすめていく。驚き過ぎて声が出ない男の前には、愛用のダガーを手にしたレガルタがいた。繊細に手加減されたのだと男がわかるはずもない。
「あぶねえだろこのガキ?!」
 反射的に振るわれた剣を難なく躱し、笑みを浮かべたレガルタの暗色のマントが翻る。
 閃いた刃光は千々に乱れ、小さな鈴蘭の花びらとなって嵐のように舞った。刃から生まれた花びらは男たちを呑み込み、嫌というほど細かな傷をつけて悲鳴をあげさせる。
 戦意が崩れた所へ瑠碧が頭上から矢を射かけた。命中させるつもりはなく、威嚇射撃であったが充分に効果はあったようだ。悲鳴をあげた男たちが、とうとう武器を放り出して手をあげる。
「気が済みましたか。用がないのならお引き取り下さい」
 あくまで柔和な笑顔のユーフィがえげつないほどの殺気で威圧すると、盗賊たちの心はぽっきり折れた。
 それじゃ、とかなんとか言いながら引き揚げようとするのへ瑠碧が声をかける。
「付近にモンスターが出現しているし、早く離れた方が良い」
「へ? あ、ああ」
「ただ、逃げた先で同じ事を繰り返してもな……老後を考え、少しは落ち着いた方が良いと思うぞ」
 彼女の真摯な言葉に男たちがぽかんとした顔を向けた。若くして過酷な経験をした彼女ならではの思いやりだったが、人の物を掠め取って生きている男たちには理解が難しかったことだろう。捨て台詞のひとつも残さず、彼らは這う這うの体で退散した。
「やはり、生まれた世界のミッションはやりがいがありますね!」
 達成感で清々しい笑顔になったユーフィが快哉を叫ぶと、ちょうど盗賊と入れ替わりにレガルタが森から戻ってきた。途端にフォートナムがぱあっと笑顔を向ける。
「ちゃんと守れたでしょ? 褒めて褒めて!」
「ああよくできた。だが仕事はまだ終わってないぞ」
 至って冷静に窘めるレガルタであった。続いて反対側の森の中から匡と戻ってきたシャルロットが笑顔を見せた。オブリビオンではない相手は力加減が気がかりなのだ。
「一番手間のかかるところは終わったようだな」
 道端で大の字で倒れている盗賊を眺めて、匡もとぼけた口調で笑った。

 完膚なきまでに盗賊とごろつきを懲らしめた一行はのんびりと進む。荷車のてっぺんに陣取ったリィンがイチくんで適宜行く先を偵察しながらの道行きは、以降は然したる問題も起きなかった。
 随分と土地が荒れて難路となっている部分があったぐらいだろうか。先行したレガルタが立ち塞がる大きな落石を破壊している間に、彼と瑠碧の提案どおりの凹凸が少ないルートで荷車を進めた。
 手ひどい穴こそなかったが、荷車が立ち往生をするたびにユーフィとフォートナム、彼女のロボットで持ち上げ、なんとか脱出させていく。
「自然で培った肉体はパワーに溢れているのですよ! ねえフォムさん!!」
「お散歩ぞっこーう!!」
 ユーフィが鍛えたボディを誇示すればフォートナムも無邪気にロボットと真似をした。チームバーバリアン絶好調、なんとか無事に難路を抜ける。
 そして丘を下ってみたら、道端に足を腫らした娘が座りこんでいた。彼女と重そうな背負い荷物を交互に見たレガルタが顔を引き攣らせる。
「今度は足をくじいた娘だと……? 俺は知らんぞ……」
「……よかったら、足を診せてくれないか」
 疲労困憊のレガルタに苦笑した瑠碧が娘の傍に屈みこんだ。骨には異常なさそうだが、ひどく捻っているようだ。布で固定して冷やしてやると幾分顔色が良くなった。
「本当なら安静にしていた方が良いからな……行き先は遠いのか?」
「いえ、この次の野営地なんです」
「うーん、まだちょっと距離があるかな」
 目的地は同じらしいが、イチくん情報で距離を把握済みのリィンが言うなら間違いない。瑠碧は【優緑治癒】を使うことにした。
「我が愛する森よ、木々よ、我が存在を依り代に、その恵みをこの場へ……」
 疲労感が襲ってくるが、急速に痛みが引いた娘は驚いたようだ。大事をとって荷車に乗せて野営地まで行くことにした。
 日暮れ前に野営地に着くと、娘は随分と恐縮した様子だった。シャルロットと匡の手を借りて馬車を下りた彼女に、終始付き添った瑠碧は別れ際にも念を押す。
「治ったとしても、暫くは安静を心掛けて。あまり負荷は掛けない様にな」
「ありがとうございます、お世話をかけました」
 笑顔で礼を言う娘の手元へ、突然レガルタがぽいと何かを放った。反射的に受け止めた娘が驚いた顔をするのを見ないようにぽそりと告げる。
「……まだ痛むようなら、これでも塗ってさっさと帰れ」
 応急薬だった。毒や薬を扱う彼ならではの気遣いに、娘がぱっと嬉しそうに微笑む。
「ありがとう」
「レー君やさしー!」
 フォートナムに無邪気に追い討ちをされ、いよいよ表情に困るレガルタであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『アルラウネ』

POW   :    ルナティック・クライ
【聞く者を狂わせるおぞましい叫び声 】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD   :    スクリーミング・レギオン
レベル×5体の、小型の戦闘用【マンドレイク(アルラウネの幼生) 】を召喚し戦わせる。程々の強さを持つが、一撃で消滅する。
WIZ   :    リパルシブ・シャウト
対象のユーベルコードに対し【それを吹き飛ばす程の大音声 】を放ち、相殺する。事前にそれを見ていれば成功率が上がる。
👑11
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種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●喚き叫ぶ魔物
 最近、野営地の先の街道は『狂気の街道』と呼ばれているらしい。
 もちろん理由はアルラウネだ。彼(女?)のモンスターは、以前はそうでもなかったのに最近は随分と攻撃的になっている。人が襲われるのも珍しくない。
 群生地となっているのは野営地から街道を半日ほど進んだ先で、北側の木立を薙ぎ倒してちょっとした広場を作り、今や十数株にもなっているという。動きまわるものだから雪も解けていて、行けば群生地は一目でわかるだろう。

 このままではこの街道の先の村や町は衰退を余儀なくされてしまう。
 現地の冒険者では敗走必至のオブリビオンたち、駆除は猟兵たちにかかっているのだ。
シャルロット・クリスティア
引き続き匡さん(f01612)と共に。

これはまた……派手に暴れていますね。
モンスターともなれば、更生に期待するわけにもいきませんし……致し方ありません。

数が多いならば、炎爆弾の『属性攻撃』でまとめて焼き掃います。
密集地点に発射。極力多くを巻き込むように。
無論、これだけで全滅は無理でしょうが……後は、各個撃破ですね。
残りは通常弾に切り替え、ノーマークの敵から一体ずつ確実に『スナイプ』して前衛の『援護』を。
連中は叫び声が厄介……遠距離武器を使える我々が要ですね。

……しかし、匡さんの動き、見事ですね……。
銃の連射力を差し引いても淀みが無い……っと、見てる場合ではないですね。私も負けてはいられません。


鳴宮・匡
◆アドリブ/連携OK
◆同行者:シャルロット(f00330)

さて、それじゃあ本業だな
……勿論、こっちは殺して構わないよな?

初速の速いアサルトライフルで応戦
シャルロットの炎爆弾の着弾を待って攻撃開始だ
浮足立ったところを制圧していくぜ
確実に数を減らすのにも
相手が態勢を整え直す前に出来るだけ始末したい
初動でどれくらいやれるかが勝負かな

以降は明らかな隙を見せたやつか
明確に攻撃動作を行う気配のある個体から優先
遠距離からの【援護射撃】で前衛を援護しつつ
殺れそうな相手は優先的に狙撃(【スナイパー】)していくよ

……随分精確な狙撃だな
狙撃の腕だけなら俺よりよほどいいぞ、あいつ
今度コツでも倣うかな……


ユーフィ・バウム
街道の平和は、私達にかかっているとなれば、
これは張り切るところですね
さぁ、折れぬ大樹が相手となりましょう。

アルラウネの叫びは厄介ですが、
巧く【見切り】、攻撃を受けないよう近付きます
もし避けられなくても、【オーラ防御】で耐え凌ぐ
私の身につける「抗魔」は魔力が織り込まれているので、
布地が小さく見えてもとっても頑丈なんですよ!

敵の叫びを凌ぎ近づけたら、【力溜め】からの
《トランスバスター》!
確実に1体1体倒して行きます

集団戦ですので、死角には注意。
背中等は仲間と互いに守りあうよう動けるといいですね

数は劣っても、質は私達のほうが遥かに上です!
焦らず、確実に敵数を減らしていきましょう

<アドリブ・連携歓迎>


フォートナム・メイソン
※アドリブ、悪乗り大歓迎

声聞いちゃうとダメなの?
ロボ君なら問題ないよ!やっちゃえ!

■行動
[ジャンクホース]のロボに敵本体の相手をさせる
仲間に敵の攻撃が及ぶ場合は遮蔽になる等、敵からの攻撃を庇わせる

此方はマンドレイクの相手をし数を減らす
【武器改造】【属性攻撃】でハンマーのブースターの熱を利用して炎を付与して攻撃
ある程度減ったら、本体の攻撃に参加
ロボが戦闘していた記録【戦闘知識】【メカニック】を利用し、叫び声の範囲を予測して範囲内に入らないよう注意する
隙を【見切り】、【力溜め】つつ【ダッシュ】で一気に距離を詰め攻撃、また離れるを繰り返す

※【野生の勘】【第六感】【見切り】が働いたら本能に従い行動する


レガルタ・シャトーモーグ
雑草退治、といったところか…
つまり声を出される前に殺ればいいんだな
了解した

先手必勝だ
射程に入り次第鈴蘭の嵐で一掃する
撃ち漏らしは飛針やワイヤーで各個撃破
突出しすぎないように注意しながら、1体ずつ確実に倒していく
敵の声には相殺効果があるらしいからな
鈴蘭の嵐は最初のみ使用として、地道に【暗殺】していくさ
ただし仲間が敵に囲まれてピンチとかなら、相殺覚悟で使用する
攻撃された場合は【オーラ防御】で障壁を作って音の伝導をカット

草食ミノタウロスはアルラウネを食べたりはしないのか
まぁ、不味そうではあるか…


リィン・エンペリウス
アルラウネかぁ、数の多いやっかいな敵だよね。
広場で拓けている場所にいるなら見通しが良くて敵の正確な数が分かりそうだね。

敵の群生地に近づく前にアララギの【楽器演奏】で周辺にいる動物を呼び、【動物と話す】でアルラウネがどれだけいるか、どのあたりに密集しているか【情報収集】をしようか。動物達もアルラウネには迷惑しているだろうし、有益な情報もありそう!
その情報を仲間のみんなに教えるよ。うまく奇襲をかけられればみんながケガをせずに済みそうだよね。

仲間が攻撃に出た後にアララギでロウくんを召喚して、仲間を後方からロウくんによる支援…咆哮?で援護攻撃するよ!

上手くいったらロウくんにもジャーキーをあげよう!


泉宮・瑠碧
植物の様な彼らは嫌いでは無いが
木立まで薙ぎ倒す事はなかろうに…

僕は主に精霊祈眼で属性攻撃
あと弓で援護射撃

出来る限り叫び声に対処

音とは振動で伝わるな
何も無ければ主は空気だ
風の精霊に願い
規模次第で範囲攻撃も使用し
可能な限り、風で空気の流れを制御して音を止める
発生する空気の波を止めたり
音より強い風の渦で包んだり

氷の精霊にも願い
制御した風に冷気を含ませもする
ただ
埒が明かないなら全力魔法で凍り付かせるぞ

他にも、第六感も使用し
息を吸う等の叫びの前兆行動に気付き次第に弓で射る
マンドレイクは撃った矢を分散させて範囲攻撃

自身への攻撃は
森の気や精霊の守護によるオーラ防御

終えれば彼らへ
どうか暖かい所で安らかに
と祈る



 好き勝手に移動するわ、刺激すれば叫ぶわとろくなことがないアルラウネとの戦いを前にして、ユーフィは今日も意気軒昂だった。
「街道の平和は、私達にかかっているとなれば、これは張り切るところですね」
「雑草退治、といったところか……つまり声を出される前に殺ればいいんだな。了解した」
 レガルタは例によって年に見合わぬ沈着冷静さで首肯し、フォートナムが不思議そうな声をあげる。
「声聞いちゃうとダメなの?」
「ああ、出来る限り叫び声に対処が必要だな」
 フォートナムに説明してやる瑠碧に続いて、シャルロットが匡に囁きかける。
「連中は叫び声が厄介……遠距離武器を使える我々が要ですね」
「初動でどれくらいやれるかが勝負だろうな」
 匡もその分析に否はなかった。態勢を整え直す前に出来るだけ始末したいところだ。
「アルラウネかぁ、数の多いやっかいな敵だよね。でも拓けた場所にいるなら、見通しがよくて正確な数が分かりそうだね」
 偵察を申し出たリィンが特殊な塗装を施したホイッスルを吹くと、まもなく鹿や兎が姿を現した。アルラウネについて聞いてみると、困ったような答えが返ってくる。
『ボクたちも怖くて近づかないよ。全部で十と八もいるし危ないもの』
 鹿は近づかなければ済むが、このあたりに巣穴がある兎はそうもいかないようだ。
『巣穴に穴をあけられて困ってるの。日中は陽のよく当たるところに移動して、みんなで日向ぼっこしてるみたい』
「じゃあ、今は街道の南側あたりにいるかな?」
 兎を撫でてやりながらリィンは首を傾げた。先に位置を把握できれば奇襲しやすい。
 得た情報を彼女から聞いた一行は、当たりをつけた場所まで慎重に進んでいった。両側に木立がある道をずっと辿っていくと、唐突に行く手が開けた場所が見えてくる。
 なるほど北側の木立は完全になくなって、陽光が街道に存分に落ちていた。想像以上に開けた場所は、ちょっと見ただけではアルラウネたちがどこにいるかはわかりづらい。
 北側へ寄ってやっと、南側の地面のあちこちで佇んでいたり、ぺたりと腰をおろしたりと思い思いに陽を浴びる彼女たちが見えた。
 しかしその引き換えに、北側にあった木立はものの見事になくなっている。
「植物の様な彼らは嫌いでは無いが、木立まで薙ぎ倒す事はなかろうに……」
 困惑気味に瑠碧が呟いた。根こそぎ倒された木は、植え直されたところでもう持ち直すことなく枯れるだろう。シャルロットも呆れたような声をこぼした。
「これはまた……派手に暴れていますね」
「さて、それじゃあ本業だな……勿論、こっちは殺して構わないよな?」
「モンスターともなれば、更生に期待するわけにもいきませんし……致し方ありません」
 匡に問われて首肯する。実際、積極的に人を襲う時点でとても見逃すことはできない。
 叫ばせないようにして、なるべく多くのアルラウネを初撃で仕留めるべく、一行は手順を取り決めた。

 のどかに陽にあたっていたアルラウネたちは、不意に飛んできた何かに対応できなかった。互いの距離が一番近いところへ撃ちこまれたそれは、地面に着弾するなり紅蓮の炎を吐きだして燃え上がる。
「無論、これだけで全滅は無理でしょうが……」
 シャルロットの懸念を払拭すべくレガルタが放ったのは、雪のように白い小さな花びら。その花弁の全てが鋭利な刃であるなど誰が想像しうるのか。身に隠し持つありとあらゆる刃を花と変えて敵を包む死の花舞。
「先手必勝だ」
 花の嵐が炎に巻かれたアルラウネたちに追い討ちをかける。
 シャルロットの【術式刻印弾・炎爆】とレガルタの【鈴蘭の嵐】による初手は、一度に七株ものアルラウネたちを焦がし切り刻んだ。次いで叫び声をあげる暇を与えぬよう、匡も狙撃に取りかかる。
「見えた。そこだな」
 RF-738Cは無傷のアルラウネの大きな葉を生やした頭部を正確に撃ち抜いた。
 愛用のバトルアックスを手に戦闘態勢を整えたユーフィも前衛として突出。
「さぁ、折れぬ大樹が相手となりましょう」
「声が聞こえてもロボ君なら問題ないよ! やっちゃえ!」
 フォートナムの声援を背に、彼女の【ガジェット:ジャンクホース369】もアルラウネたちへ向かって突進する。確実を期するため、共に炎に巻かれた個体を狙って前進。
 接近に気付いたアルラウネが身を震わせ、渾身の金切り声をあげた。【ルナティック・クライ】――猟兵すら狂気へ誘う無差別の凶音。その対応は瑠碧が担っていた。
「音とは振動で伝わるな。何も無ければ主は空気だ」
 【精霊祈眼】は彼女の願いを汲んだ精霊の力を行使するもの。巻き起こった轟々たる風がアルラウネの悲鳴を掻き乱して消していく。
 躊躇のない突進でアルラウネへ迫ったユーフィは、豊かに育った肉体を存分に活かした渾身の拳撃を叩きこんだ。
「行きますよぉっ! これが森の勇者の、一撃ですっ!」
 くの字に折れ曲がったアルラウネが勢い余って吹き飛ぶ。しかし別の個体があげた叫びを間近で受けて、一瞬ユーフィの身体も揺らいだ。『抗魔』の名を冠した、布面積がやたら小さいビキニアーマーとオーラの防御はどこまで保つだろう。
 ジャンクホース369も的確にアルラウネを捉えて殴り飛ばし、息の根を止めた。間近で放たれた狂気を呼ぶ叫び声は効果をなさなかったが、駆体は揺さぶられ蝕まれている。声を聞いてはいけないということをちゃんと覚えていたフォートナム自身も、『ウォードッグ001』を揮って一番近いアルラウネを叩き潰した。
 もちろんリィンも黙って見てはいなかった。愛用のアララギを吹き鳴らして呼ばわる。
「ロウくん! 出番だよ!」
 【賢狼召喚】によって召喚された狼は、リィンの意に従い轟くような咆哮をあげた。声には声、というわけではないが、同じく範囲攻撃の咆哮が三株のアルラウネを巻き込んで衝撃で震わせる。
 悲しげな表情を浮かべるアルラウネを目の当たりして、決意が鈍るほどレガルタの過去は軽くもなく。引き絞られたワイヤーに裂かれてアルラウネが一体引きちぎれた。

 アルラウネたちは大混乱に陥った。瞬く間に奇襲で半分近い仲間を失い、叫び声もいまいち通用していない。召喚した小さなマンドレイクたちを差し向けて、距離を取ろうと動き始める――が。
「焦らず、確実に敵数を減らしていきましょう!」
 前線を張るユーフィは何度か叫びを浴びながらも、なんとか重い傷には至らずにいた。バトルアックスでマンドレイクを散らして、叫ぶアルラウネに再び鋼のような拳撃を食らわせる。彼女の背中を預かるフォートナムは小さな口から声が漏れる暇を与えず、ブースターの放熱で赤く染まったハンマーを振りかぶり、炎の尾を引いて叩きつける。
 前衛たちにたかろうとするマンドレイクたちの真ん中で、ジャンクホース369が足を踏みならしパンチを振り回して捻り潰していく。
 彼女らが至近距離で狂気の叫びを浴びないよう、後方支援班の尽力も実を結んでいた。数で劣ろうとも、質は猟兵の方が遥かに上であるが故。
 リィンの喚び出したロウくんの咆哮が響く中、尚も叫びをあげようとするアルラウネたちの頭上から、瑠碧は精霊弓から射る水の矢の雨を降らせた。常ならば恵みの雨も、矢となった今は精霊の意を受けアルラウネの肉を裂く凶器と化した。
 乾いた音が響いてアルラウネが一株横ざまに吹っ飛んだ。手早く弾をこめたシャルロットの単発式ライフルによる狙撃だ。そのさまをちらりと見る匡は胸中舌をまく。
(「……随分精確な狙撃だな。狙撃の腕だけなら俺よりよほどいいぞ、あいつ」)
 今度コツでも倣うかな、などと考えながらスコープを覗き、今まさに叫ぼうとしている個体に狙いを定めてアサルトライフルの引鉄を絞る。
 少女にしか見えないオブリビオンの頭を撃ち抜いて次の獲物へ移る匡のぶれのない射撃を、シャルロットも驚きの目で眺めていた。
(「……しかし、匡さんの動き、見事ですね……。銃の連射力を差し引いても淀みが無い……っと」)
 気をとりなおして自らもアルラウネへ狙いを定める。負けてはいられない。
 片腕を踏み潰されたアルラウネが叫ぼうと口を開けた。が、前衛たちの陰から放たれたレガルタの飛針は彼らをすり抜け、オブリビオンの眉間に深々と突き立った。そのまま力なくぱたりと倒れ伏す横で、傷ついた別のアルラウネが叫びをあげようとする。
 それを視認していた瑠碧は弓をひく手を止め、胸の内で強く祈った。
(「どうか、力を貸して……この願いを聞き届けて」)
 吹く風が急速に冷たさを増し、肌を刺すように凍てつく。既に浴びせられた水の矢は氷の精霊によってアルラウネを冷気で蝕み、凍りつかせて息の根を止めた。
 残された最後の一株が瑠碧めがけて叫び声を叩きつけようと息を吸い込む、その一瞬を匡が見逃すはずもなく。スコープの中心にアルラウネの頭部を捉えて力むことなく引鉄は引かれ、放たれた弾は永遠にアルラウネを沈黙させたのだった。

 全てのアルラウネの沈黙を確認し、戦いの間とは別人のようにほわほわ笑顔でユーフィが仲間を振り返った。
「作戦成功ですね、お疲れさまです! 皆さん、お怪我はありませんか?」
 ユーフィの確認に誰もが首を横に振る。終わってみれば皆がかすり傷程度で、深刻な怪我をした者は皆無だった。これは作戦勝ちという事情もあるだろう。
「これで露払いは終わったって按配かな。あとはミノタウロスか」
「油断はなりませんけれど、ね」
 何事もなかったように笑う匡にシャルロットが頷きを返す。燃やされるわ衝撃に晒されるわと荒れた街道の一角で、ふとレガルタが眉を寄せた。
「しかし、草食ミノタウロスはアルラウネを食べたりはしないのか。……まぁ、不味そうではあるか……」
 自己完結してしまった言葉を聞いたフォートナムが首を傾げる。
「あれ食べられるの? 味見してみてもいい?」
「……いいかフォム、それはやめておけ」
「ロウくんお疲れさまー!」
 沈痛な面持ちで首を振るレガルタの隣で、リィンがロウくんにご褒美のジャーキーをあげていた。お座りしても彼女と頭の位置がそう変わらないロウくんが猛烈に尻尾を振り、嬉しそうにジャーキーをはぐはぐしている。
 意気あがる仲間たちの中にあって、瑠碧は一人、言葉もなく戦いの後を眺めていた。街道の行き来も可能になり、通行する人々の被害もなくなるのは間違いない朗報だ。
 人を傷つける術がある存在に生まれたことが、彼女たちの身の不運とも言える。
(「次はどうか暖かい所で安らかに暮らせますよう」)
 オブリビオンといえど、そう祈らずにいられない瑠碧だった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​




第3章 ボス戦 『ミノタウロス』

POW   :    マキ割りクラッシャー
単純で重い【大斧 】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD   :    暴れ牛の咆哮
【強烈な咆哮 】が命中した対象に対し、高威力高命中の【突進】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
WIZ   :    ベジタリアン・テンポラリーヒール
戦闘中に食べた【野菜 】の量と質に応じて【身体に出来た傷が塞がり、気分が高揚し】、戦闘力が増加する。戦闘終了後解除される。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はクロ・ネコノです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●街道に君臨せる牛怪
 アルラウネに占拠されていた街道を進み、一行はほどなく山の裾野へ到達した。この道の先、村へ至る途中で二度にわたって荷車は破壊され、積み荷は略奪されている。
 街道はもはや荷車が行き違うのも困難なほどに細くて、本当にこの先には小さな村があるだけなのだとよくわかった。
 道の両脇は木が密生して、冬で葉が落ちていなければもっと見通しが悪かっただろう。どこからミノタウロスが現れるのかはわかっていない。そもそも最近になるまで、ミノタウロスが生息していることすら知られていなかった。
 積み荷の野菜を奪われることがないよう、そして二度とこんな被害が起きないよう、猟兵たちにはミノタウロスの退治が望まれている。
シャルロット・クリスティア
引き続き匡さん(f01612)と。

これは……また、厄介な道ですね。奇襲を許したらひとたまりもない。
確実にこちらが先手を取らねば、危険です。

匡さんと死角を補いつつ警戒しながら進行。連絡は密に。
枯れ草や地響き、枝などの音等あれば、そちらに『視力』を凝らしつつ。

見つけてしまえば……後は先手必勝、『早業』で『スナイピング』です。
高速、高貫通力の雷『属性攻撃』、迅雷弾であれば、多少の障害物なら物ともせず届かせられます。
一撃必殺とは行かずとも、他の味方が戦闘態勢になるまでの『時間稼ぎ』は十分に行えるでしょう。
攻撃の手を極力休めず、相手を縫い付けるように。
『援護射撃』はお任せください。お早く戦闘態勢を。


鳴宮・匡
◆アドリブ/連携OK
◆同行者:シャルロット(f00330)

ま、気にするなよ
よほどうまく隠れてるんでなきゃ、捉えられない道理はない
奇襲を許すつもりはないさ

互いに声を掛け合い、死角を補いながら進行
【聞き耳】を立てて周囲の異音を捉える、
森の中に残った移動の痕跡を【追跡】するなど
敵の接近を早期察知するよう心掛ける
出来れば気付かれる前に察知して【先制攻撃】と行きたいな

発見時はシャルロットの狙撃に合わせ
こちらも【千篇万禍】で狙撃
腕か脚、或いは鼻先を狙う
幹や枝の間を縫って確実に当てていくよ

交戦時は出来るだけ近接は避け【援護射撃】に徹する
主には攻撃動作の阻害、移動妨害など
相手を自由に動かせないことに腐心


フォートナム・メイソン
■心情
ボクもご飯食べたいなー。
……牛さん、美味しい?

■行動
野菜で罠を作るの?[バットボムズ]も混ぜておくね!
敵が爆発に巻き込まれたら、木が密生してる所に入って【地形を利用】して視線を区切るよ
視界の悪い場所や敵が通りそうな場所に[バットボムズ]置いて敵が突っ込んできたら[バットボムズ]を起爆させるね

敵が追わないのなら、木々に隠れつつ、[バットボムズ]を投げて攻撃していくよ
敵に集中攻撃されないよう【ダッシュ】【地形の利用】【見切り】と常に移動し続けるよ
敵が野菜を食べようとしたら[バットボムズ]【怪力】を口に投げるね

※【野生の勘】【戦闘知識】【第六感】が働いたら本能に従い行動する


レガルタ・シャトーモーグ
奇襲されるのは御免だからな
【罠使い】でもやってみるか
野菜を置いて周囲に細いワイヤーを貼って鈴をつける
何箇所か罠を張って、あとは獲物がかかるまで【迷彩】で潜伏

牛が現れたら即座に攻撃に移る
あのでかい斧にふっとばされたら、ひとたまりも無いだろう
【見切り】回避を優先しながら、【毒使い】【鎧無視攻撃】で毒を塗った飛針を飛ばす
まずは相手の機動力を削ぐ
動けなくなれば、ただのデカブツだ
それにしても戦闘中に食事とは、随分と余裕だな
食ってる間に背後に回り込んで「背面強襲」を【二回攻撃】で【傷口を抉る】
奪った奴には相応の報いってやつだ
悪く思うなよ


ユーフィ・バウム
ミノタウロスの奇襲に警戒しましょう!
フォムさん達の罠作成に、出来るだけ協力しますね。
野菜はきっと守ってみせます。

敵が現れたら、
●真の姿「蒼き鷹」を解放!
《容姿:青髪のショート・青い瞳。肌の色は白く、
お嬢様口調に変化》

敵の大斧の一撃を【見切り】で致命の一撃を避け、
【オーラ防御】で受け止める
この姿はレスラーでもあるので。
どんな攻撃も受けきって、勝ちます!
仲間の攻撃にあわせ【力溜め】、攻撃を打ち込んで参ります

私達の連携で敵が追い込まれてきたなら、
敵の攻撃にあわせ、【ダッシュ】して懐に入り【捨て身の一撃】。
組み付いての《トランスバスター》!
豪快な投げ技で地面に叩き込んであげますわ!

※アドリブ・連携歓迎


泉宮・瑠碧
菜食主義は良いが…
栽培は出来ないだろうし、略奪になるか
糧を欲するのは同じだが、放置は出来ない…すまない

戦闘に荷車を巻き込まないでいたいが…
先に風鳥飛行で空から相手の位置を確認するか
動物と話すで鳥や動物達に大体の位置を訊いてみる

判明すれば
位置よりも手前で荷車を待機し
僕達で挑もう

僕は主に優緑治癒と弓の援護射撃

咆哮は恐らく怯むなりの隙で突進だろうから…
咆哮を受けた者が居たら突進に備えて足を狙う
動きが鈍れば対象が避ける隙もある様に

大斧は近くの仲間へ警告と
斧の柄を射ってバランスを崩す様に

荷車の以外に野菜があれば警戒はしておく
ミノタウロスが手を伸ばすなら、その手を射って妨害

自身への攻撃は見切りとオーラ防御


リィン・エンペリウス
牛だからベジタリアンが普通なのかもだけど、あの体を野菜で維持してるのはすごいよね。

体の大きいミノタウロスなら木にぶつかったり、枝を折ったり、落ち葉を踏んだり何かしら音をたてるはず。ボクは【聞き耳】で敵の襲来に備えようか。
もしくは何かが起こると思ったら【野生の勘】で対応するよ!

敵と戦闘になったらツキくんに強烈な一撃を放ってもらうために、みんなと協力して戦いながらミノタウロスに接近するよ。
敵の攻撃を【残像】と【見切り】で【地形の利用】をしながら回避するよ。
敵に大接近出来たらツキくんを召喚して、見た目から想像出来ない大威力の狐月パンチとボク自慢の包丁との【2回攻撃】で敵に大ダメージを与えるよ!



 見通しの悪い場所でどこから来るかわからない敵を迎撃するのは、骨が折れる。
 以前荷車が襲われた辺りに到達した一行は手分けして、まずミノタウロスの痕跡を探すことから始めた。敵の不意討ちだけは避けたいところだ。
「これは……また、厄介な道ですね。奇襲を許したらひとたまりもない。確実にこちらが先手を取らねば、危険です」
「ま、気にするなよ。よほどうまく隠れてるんでなきゃ、捉えられない道理はない。奇襲を許すつもりはないさ」
 硬い表情になったシャルロットの緊張を匡が笑ってほぐす。二人は互いの死角を補いながら先行し、森の中を移動した跡がないか偵察を開始した。
 荷車の傍らでは、瑠碧が通りすがった兎に話を聞いてみる。
『二本足で歩く大きな牛? いるよ、お腹すかせて時々暴れてる。今みたいな陽があたる時間は、この辺りを良く歩いてるよ』
「空腹か……気が立っていそうだな」
 巣までは知らないらしい。戦いに巻き込まれないよう早々に帰すと、瑠碧は【風鳥飛行】を起動し、3メートルにもなる巨大な鳥を召喚した。彼女の願いに応じて風が一時的に鳥の姿をとってものだ。
「では、空からも偵察してこよう。すぐ戻るよ」
「お気をつけて」
 ユーフィに頷いて寒空へと舞いあがる。周囲にはリィンが聞き耳をたてて、枝の折れる音や落ち葉を踏む音がしないか集中していた。
 さて、偵察組をただ待つわけにもいかない。そこでレガルタは罠を仕込んでいた。
「奇襲されるのは御免だからな」
 荷車を襲われないよう、少し離れた街道脇にユーフィが野菜を設置する間に、レガルタが辺りの数か所に鈴をつけたワイヤーを張る。あとは迷彩を使って荷車ごと潜伏し、ミノタウロスがかかるのを待つというわけだ。
「野菜で罠を作るの? じゃあ【バットボムズ】も混ぜておくね!」
 なかなかに物騒な策をフォートナムが提案した。如何せん彼女の爆弾はちょっと浮いてしまうが、そこは野菜の置き方でカモフラージュ。ちょっと高めに盛られた野菜を眺めて、リィンがしみじみと呟いた。
「牛だからベジタリアンが普通なのかもだけど、あの体を野菜で維持してるのはすごいよね」
 ご尤もな感想と言わざるを得ない。そして食の話になった途端、フォートナムのおなかがせつない感じでちょっと鳴った。
「ボクもご飯食べたいなー。……牛さん、美味しい?」
「フォム、オブリビオンは食えないぞ……多分」
 フォートナムだと本当に食べるかもしれないとか思うと、語尾に自信のなさがチラ見えするレガルタである。その時、鳥に乗った瑠碧が舞い降りてきた。
「ミノタウロスが接近してきている。先行している二人にも知らせておいたから、僕らは隠れたほうがいい」

 ミノタウロスは意外に静かに木立の間を歩いていた。遠目に見ても見上げるような巨躯は分厚い筋肉に鎧われている。シャルロットと匡は充分な距離を置いて敵を挟みこむように狙撃位置についた。
 まずは先制、動きを鈍らせるために狙いは同じ右の足。
「見えるならば、届きます。届くならば、当たります……!
「見えた。そこだな」
 二人の言葉と引鉄をひくタイミングはぴったり揃った。雷撃を撃ちこむような【術式刻印弾・迅雷】の一撃と、針の穴すら通す【千篇万禍】の弾丸が関節を撃ち抜く。ミノタウロスの苦痛の咆哮があがった。
 本能的に撃たれた方角はわかるらしく、二人のいる方角めがけて突進を始める。すぐさま二人が後退し、疾走するミノタウロスが街道に出る――と、牛の視界は広い。無造作に転がされた野菜が当然目に入った。
 空腹のままに近づく蹄がロープをひっかけ鈴が鳴ったが、構わず大きな手が野菜を掴んだ。途端に爆弾がミノタウロスの頭の位置まで浮き上がって爆発する。
「まだまだあるよ!」
 追い討ちにフォートナムの爆弾が次々と爆発した。野菜の間だけでなく、よろけた時に踏むだろう草むらや木の陰、あちこちに仕掛けておいた【バットボムズ】が連爆する。
 再び雄たけびがあがった。範囲を絞る必要もない咆哮はユーフィをとらえ、怒りにまかせたミノタウロスの斧の斬撃が少女を襲う。
 しかしユーフィも既に、真の姿を解放していた。青いショートの髪に青い瞳、打って変って白い肌の『蒼き鷹』。致命的ともいえる一撃を辛うじて見切り、オーラを賦活して受け止める。
「どんな攻撃も受けきって、勝ちます!」
 反撃のエルボーを腹に受けてミノタウロスが後じさると、木立にまぎれてリィンも近づき火狐印の調理包丁で背中を割る。反射的に振るわれた斧は木に食いこんでリィンを捉えることはできなかった。
「我が愛する森よ、木々よ、我が存在を依り代に、その恵みをこの場へ……」
 瑠碧は森へと呼びかけて、ユーフィの傷を出来る限り塞いでいく。疲れは急ぐだけ溜まっていくが、ミノタウロスと正面からやりあう彼女を守るにはこれしかない。
 斧を振り回して暴れるミノタウロスに、木立の合間からちかりと何か光ったかと思うと針が深々と突き立った。
「動けなくなれば、ただのデカブツだ」
 がくりと後ろ足が膝をついたのは、レガルタの放った飛針に毒が塗られていたからだ。
 足さえ動かなくなれば、こちらの攻撃を躱す術はなくなる。巨体といえど運の尽き。
「ツキくん! やっちゃえ~!」
 ホイッスルが鳴り響いて召喚されたツキくんがまっすぐに突進する。斧を振りかぶって迎え撃ったミノタウロスだったが、狐は鮮やかなステップで斬撃を躱して鳩尾あたりに激突した。その衝撃たるや、骨の折れる音が響いたほどだ。
 上体が泳いだ懐に次はリィン本人が踏み込んでいる。斧を返す暇も与えず、調理包丁はミノタウロスの腹を深々と薙いで跳び退った。
「どう? 意外と痛いでしょ!」
 意外どころか、ミノタウロスの巨大な蹄が地に跡を刻みながらたたらを踏んだ。動きが遅くなった一瞬を逃さず、匡はRF-738Cで心臓を狙って引鉄をひく。
 行動予測は『姿勢を戻してユーフィに向き直って斧で攻撃』、正面からぶつかれば彼女の不利は間違いない。その前に痛打を与えなければ。
 【千篇万禍】は一分のずれもなく心臓を穿つ――事実、ミノタウロスの心臓には風穴があいた。悲痛な鳴き声をあげ、よろけて尻もちをつく。
 すると生命の危険を感じたミノタウロスは攻撃の手を休め、手近に転がるキャベツを鷲掴みにして貪り食い始めた。二口ほどで食べきるとみるみる傷が塞がっていく。だが急場を凌いだに過ぎないようだ。
「驚きの生命力ですね……ここで終わりにしなくては!」
 呆れた顔のシャルロットも【術式刻印弾・迅雷】を起動した。高い貫通力を誇る超高速の術式弾が周囲に激しい放電を巻き起こしながら疾る。白昼とはいえ眩い雷光を迸らせた一発はミノタウロスの頭部を貫いた。
 が、ミノタウロスは執念のように口を動かすことをやめなかった。もはや攻撃の手は休め、回復に集中するつもりなのか。
「それにしても戦闘中に食事とは、随分と余裕だな」
 もう一玉口に運んでいる間に、レガルタは小柄な体躯を活かしてミノタウロスの背後へ回り込んでいた。ダガーがしたたかに背を抉る。
 痛みと怒りの咆哮をあげ、ミノタウロスが身をよじった。反射的に放たれた肘打ちを避けながらもう一撃、更に深く傷口を抉って傷口を広げる。次の瞬間振り返りざまに斧が振るわれ、紙一重でレガルタは羽ばたいて逃れた。
「これもあげるね!」
 その隙をついて死角から、フォートナムが【バットボムズ】の爆弾を投げつける。腹に命中した爆発で木を薙ぎ倒してミノタウロスが転がった。折れた木を支えに立ち上がるところへ、ユーフィがまっしぐらに走る。
 ふらつきながら斧を構えるミノタウロスへ、瑠碧は精霊弓を引き絞り水の矢を撃ちこんだ。動きを鈍らせられればユーフィに利する。狙いどおり、そして匡が狙いをつけて傷をつけ続けた足に矢を突き立てられ、ミノタウロスは姿勢が崩れた。
 狙いの逸れた斧が振り下ろされるのと、捨て身で懐へ飛び込んだユーフィが背後へ回りこむのは同時。
「これでフィニッシュとしましょうか!」
 決して大柄とは言えない少女が、片腕をかいくぐるように腹部を両腕でロック。次いでミノタウロスの首を両脚でロックすると渾身の力で一気に半回転、巨体は頭からまともに地面へ叩きつけられた。
 ミノタウロスの手から滑り落ちた斧の刃先が地面を抉る。ぐんにゃりと地面に崩れ落ちた二回りは大柄な体を押しのけ、ユーフィが息を弾ませて立ち上がった。
 体力を使いきったが、仕事は果たせたようだ。
「奪った奴には相応の報いってやつだ。悪く思うなよ」
 息をつきながらのレガルタの言葉に、もはやミノタウロスが応えることはなかった。

 ミノタウロスの退治をやり遂げた一行は、無事に村へ荷車を送り届けた。
 飢えが蔓延しつつあった寒村の人々に熱烈な歓迎を受けたのはもちろんのこと。街道の安全も取り戻したことで、付近の街の人々の感謝も集まったのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年03月05日


挿絵イラスト