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メサイア・シークエル

#クロムキャバリア #ノベル #エルネイジェ王国

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#ノベル
#エルネイジェ王国


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メサイア・エルネイジェ
メサイアが初めてヴリトラに乗った時のノベルをお願いします!
『プリクエル・メサイア』の後編の扱いでお願いします。

アドリブ・改変歓迎です。
困難・不明な点の解釈はお任せします。

●つまりどういう事だってばよ?
黒竜教会には今日も新しい朝が来ました。
修道女達はいつものように中庭でチェストを始めます。
勿論メサイアも一緒です。
ですがこの日は少し様子が変でした。
遥か東の果てから灰色の煙がいくつも立ち昇っています。
時折爆発音のようなものも聞こえます。
それだけではありません。
エルネイジェ王国軍のキャバリア部隊が西から東へと次々に移動して行きます。
「本日は騒がしいですわねぇ?お祭りでも始まりますの?わたくしお祭り大好きですわ〜!」
メサイアと違って他の修道女達は皆不安そうな様子です。
するとシスター・ベアトリクスがやってきました。
「朝のチェストは中断します。皆さんは教会の中に戻るように」
メサイアは尋ねます。
「どうしてですの?」
「東の国境線にバーラントが侵攻してきたのです」
ベアトリクスの表情はいつになく真剣でした。
修道女達は言われた通りに教会へと戻って行きます。
「国境での小競り合いは常ですが、今回は少し様子が違うようです。姫も早く教会にお戻りを」
メサイアもベアトリクスに連れられて教会へと戻って行きました。

黒竜教会に戻った修道女達は静かにお祈りしています。
しかしメサイアは退屈も我慢も苦手でした。
「お暇過ぎて死んでしまいますわ〜!」
すると突然教会の扉が激しく叩かれました。
扉の向こうからは助けを求める声が聞こえます。
扉を開けると、そこに立っていたのは傷だらけのエルネイジェの市民達でした。
「一体何があったのですか?」
ベアトリクスは尋ねます。
すると市民は隣国バーラントの亜人部隊に村を襲撃されたと答えました。
どうやら国境線を突破した亜人部隊の一部が内地へ侵攻してきたようなのです。
話している内にも同じように逃れてきた市民達が次々に教会へ駆け込んできました。
教会内はあっという間に避難民だらけになってしまいました。
ベアトリクスは修道女達に手当てを命じます。
すると地平の彼方から人の群れのようなものが近付いてきました。
それはただの人の群れではなく、ゴブリンやオークといった亜人の群れでした。
修道女達は扉を固く閉ざします。
皆が息を潜めていると、暫くして扉に何かが激しく衝突する音が響きました。
亜人部隊が教会の扉を破ろうとしているのです。
「避難民の皆様とメサイア皇女は教会の奥へ!姉妹達!武器を取りなさい!」
ベアトリクスが命じます。
そして遂に扉は破られてしまいます。
壊された扉から雪崩れ込んだゴブリンやオークの群れが修道女達に襲い掛かります。

ですが亜人部隊はひとつ勘違いを犯していました。
ヴリトラ教の修道女はか弱い乙女などではなかったのです。
修道女達は日々のチェストで鍛えたチェストで亜人達をチェストして行きます。
「おチェストですわ〜!ぶち撒けたボルシチみてぇにして差し上げますわ〜!」
そこには避難した筈のメサイアの姿もありました。
ベアトリクスは怒ります。
「お戻りください!お尻ぺんぺんですよ!」
しかしメサイアは言うことを聞きません。
「王家の者こそ率先して戦うべきなのですわ〜!武勲無き王に玉座無しとお姉様が仰っておりましたわ〜!」
そして皆の奮戦で亜人達は撃退されました。
ですが修道女達にも多くの負傷者が出てしまいました。

そんな時に不気味な地鳴りが聞こえてきます。
外を見ると、なんとトロールやオーガといったキャバリア並みの体格を持つ亜人の集団が教会へと向かってきていたのです。
「やべぇですわ!」
流石にこの光景にはメサイアも顔面蒼白です。
キャバリアでもあれば話しは別ですが、今の黒竜教会の戦力ではあの敵の群れを止める事は出来そうにありません。
「メサイア皇女をお連れして逃げなさい」
最早これまでと悟ったベアトリクスは、同じくメサイアの護衛を仰せつかっている修道女に命じます。
しかしメサイアはいつの間にか消えていました。

「ヴリちゃ〜ん!起きてくださいまし〜!」
脱走したメサイアが向かった先はヴリトラが眠っている神殿でした。
ヴリトラなら巨大な亜人種達もやっつけられると思ったのです。
「ヴリちゃんが起きてくれないと皆様トロールのおやつにされてしまいますわよ〜!」
ぺちぺち叩きますがヴリトラは全く反応しません。
「むきー!」
短気なメサイアはブチギレてしまいました。
「ネボスケさんですわね!王笏ハンマー!」
メサイアはヴリトラの頭を全力でチェストしました。
するとヴリトラはあっさり目を覚ましました。
「ヴリちゃん!このままでは危険が危ないのですわ〜!」
ヴリトラは事情を察したのかコクピットを開きます。
「わたくしにお乗りになりなさいと?やりましたわ〜!ヴリちゃんがわたくしをお選びになられましたわ〜!」
メサイアは大喜びで乗り込みます。
しかしここで気付きました。
「わたくしおキャバリアの動かし方なんてわかりませんわ〜!」
ヴリトラはこう言いました。
「なんですヴリちゃん?適当にそれっぽくガチャガチャ動かせと?」
メサイアは言われた通りにしてみました。
するとヴリトラはメサイアの思った通りに動き始めたのです。
「動かせますわ〜!今日からわたくしおキャバリアデビューですわ〜!」
メサイアはヴリトラを神殿から出撃させます。
大きな亜人達は教会の正門前まで迫ってきていました。
「ヴリちゃんおジャンプ!」
ヴリトラはトロールの一体に飛び掛かります。
「ヴリちゃんおキック!ヴリちゃんおパンチ!」
メサイアの思う通りにヴリトラは暴れ回ります。
ですが多勢に無勢に変わりはありません。
「あん!痛い!」
トロールに背後から激しく殴打されたヴリトラは倒れ込んでしまいました。
そこへ他のオーガ達が更に攻撃を加えます。
「いってぇですわね!おこー!」
メサイアは激怒しました。
ヴリトラも激怒しました。
殴られながらも強引に反撃し、敵を次々に屠っていきます。
そしていつの間にか周囲は静かになっていました。
「あらー?終わりですの?」
すると教会の中からベアトリクスと修道女達が出てきました。
「皆様〜!わたくしとヴリちゃんがお助けしましたのよ〜!いぇい!」
ヴリトラから降りたメサイアは皆にピースします。
「ヴリトラ様は、やはり姫をお選びに……」
ベアトリクス達は遂に目覚めたヴリトラに平伏します。
メサイアはそんな事よりも念願のキャバリアを手に入れたことで頭がいっぱいでした。

大体こんなイメージでお願いします!
あくまで大体ですので必ずしも沿ってなければダメなんて事はありませんので思うがままに書いて頂ければ幸いです。

以下は参考資料として扱ってください。

●バーラントとは?
アーレス大陸中央を支配する国家連合体です。
軍事力と経済力共に大陸内最強です。
周辺諸国をひたすら侵略し続けています。
エルネイジェ王国とは古代魔法帝国時代から戦争状態にあると言われています。
百年程前にエルネイジェはバーラントとの戦争に大敗を喫して多くの領地を失いました。

●亜人部隊とは?
バーラント軍が運用する制圧部隊の俗称です。
ゴブリンやオーク、トロールにオーガなどと言った所謂亜人種が部隊構成員の大多数を占めています。
殆どが地底の出身らしいです。
主に敵国の戦意を削ぐ為の非人道的な蹂躙行為を目的として投入されます。
安くて大量に用意できる使い捨ての戦力です。
バーラントの悪名と恐怖の象徴となっています。

●ヴリトラに自我があるなら自分で動けばいいのでは?
動けなくはないのですが、エルネイジェの血を引く者が乗っていないと弱体化してしまいます。
これはメサイアのご先祖様によって掛けられた呪いによるものです。

●ヴリトラは何故メサイアを選んだの?
性格の相性と気分です。



●如何にしてと問うのならば
 今日と変わらぬ明日があると信じることができるのは幸いである。
 確かに毎日毎日日の出よりも早く飛び起きて棒杭をガンガンとチェストする(この場合、猿叫と共に棒切を叩きつけることを言う)ことはルーティンのような、いつもと変わらぬ風景であったことだろう。
 黒竜教会の中庭で行われるそれは常なることであった。
 修道女たちは皆、チェストに勤しむ。
 一心不乱に。一意専心に。

 修道女の身であれど、『エルネイジェ王国』は末端に至るまで精強であるべし。
 まさにそう呼ばれるのに値する光景である。
 魔術学園での傷害事件を機に牢屋にぶち込まれついでに修道院へと叩き込まれたメサイア・エルネイジェ(放浪皇女・f34656)もまた同じようにチェストするのである。
 チェストする、という単語が普通に通じる辺りが『エルネイジェ王国』の怖いところである。蛮族もびっくりである。
「はぁ~今日もチェストに精が出ますわ~! チェスト! チェスト! おチェスト! 鉄だろうが鋼だろうが、物理でぶん殴れば凹むってものですわ~!!」
 物騒な物言いである。
 これが修道女であると言って良いのだろうか。要らぬ風評被害がシスター界隈に走りそうである。

「はれ?」
 猿叫の如きチェストの合間にメサイアは首を傾げる。
 なんだかチェストの声と棒杭を打ち据える音に紛れて、いつもの朝とは異なる音が聞こえてくるのだ。
 胸騒ぎがする。
 きょろきょろとメサイアは周囲を落ち着き無く見回す。落ち着きが無いのはいつものことであったけれど、これはおかしいと周囲の修道女たちも彼女に釣られるようにチェストの腕を止める。
「あれは……えっと、あっちは南でしたっけ、北でしたっけ?」
「あの方角は東です」
「そうでしたわ! わたくしとしたことがうっかりさん! そんなことより! あちらになんか煙が立ち上ってはおりませんこと?」
 メサイアの視力は無駄によかった。
 どこかの部族もびっくりの視力の良さ。メサイア・アイは千里眼。

「ほら! 爆発音も聞こえてきましてよ!」
「確かに……」
 メサイアはその瞳にキャバリアの巻き上げる粉塵を認める。|あっち《西》から|こっち《東》へ。
 次々に移動している。
 明らかに緊急を要するような動きであったことをメサイアは理解する。
「お祭りでもはじまりますの? きっとそうですわ~! わたくしお祭り大好きですわ~!」
 メサイアの言葉は呑気そのものであった。
 けれど、他の修道女たちは違う。明らかにあれはそんなポジティブな意味での光景ではない。メサイアだけがあの光景を見て心を踊らせていた。
 お祭りだと認識しているからではない。
 本能的にあれが戦いの気配をはらんでいると理解しているから、だ。

「朝のチェストはちゅうだんします。皆さんは教会の中に戻るように」
 そんな風に胸踊らせるメサイアの元に修道女長の『シスター・ベアトリクス』がやってくる。周囲を見回し、不安募る様子の修道女たちを落ち着かせるように言葉を紡ぐ。
 だが、メサイアはこんな時でも空気を読まない。
 むしろ、ワクワクしているのなんで、と『シスター・ベアトリクス』は思った。なんか目が爛々としている。
 明らかに一人だけ浮いているのだ。
 わかっている。メサイア姫だからってことは。だが、『シスター・ベアトリクス』は、だからといって事態が好転することはないことを長年の経験から理解していた。

「よろしいですか。教会の中であるのならば、『ヴリトラ』様のご加護があります。何も恐れることはありません。さあ、教会の中へ」
「どうしてですの?」
 メサイアの瞳がまっすぐに『シスター・ベアトリクス』に突き刺さる。
 真っ直ぐな瞳だった。
 理由を説明しなければ、此処から動くことはないと言外に言うようにメサイアは『シスター・ベアトリクス』の修道女とは思えぬ筋骨隆々たる体躯を見上げていた。

「……東の国境線に『バートラント』が侵攻してきたのです」
 観念したように彼女が告げると、修道女たちが一斉に声をあげる。悲鳴と不安に満ちた声だった。
 彼女たちを動揺させまいとしてのことだったが、しかしメサイア姫を動かすためには偽りは逆効果。故にこうするしかなかったのだ。
『バートラント』――それはアーレス大陸を支配する国家連合体である。
 大陸内最強と呼ばれる軍事力。そして経済力は周辺小国家をひたすらに侵略し、戦火を撒き散らす。
『エルネイジェ王国』もまた、『バートラント』の標的の一つである。
 百年前においては大敗を喫したこともある。
 だが、百年経っても未だ『バートラント』が『エルネイジェ王国』を滅ぼしきれぬ事実は偽ることのできぬことであった。

「敵の部隊……亜人部隊の一部が国境線を越え、ここにも至ろうとしています。此処も戦火に飲まれるかもしれません。ですから――」
 その言葉は最後まで続かなかった。
 彼女の背後から悲鳴が聞こえてくる。助けを求める声。
 メサイアは見ただろう。
 教会に走ってくる者達の姿を。
「お市民の方々ですわ~! お祈りでしたら礼拝堂へ~! こっちですわよ~!」
 メサイアはしかし、そんな様子を察することなく手を振る。
 あまりにも緊張感がないメサイアの口元を覆って『シスター・ベアトリクス』は駆けてきた市民たちへと尋ねる。
 いや、尋ねなくてもよかったのかもしれない。
 わかっていたことだ。

「はぁ……はぁ……た、助けてくれ! や、やつらが!」
「わかっております。『バートラント』の亜人部隊ですね」
「や、やつらものすごい数と勢いで……! キャバリア部隊が今も!」
 其の言葉に緊張感が走る。
 一人呑気なのはメサイアだけであった。次から次へと教会へと駆け込んでくる人々。其の数はあっという間に膨れ上がっていく。
 確かに教会は逃げ込むには良い場所であったかもしれない。
 不可侵たる聖域。
 敵に理性あるものが、神を奉じる者がいるのならば、おいそれ手を出すことなどで気はしない場所だ。

 けれど、対する敵は亜人である。
「備えを。けが人や子供、女性は奥へ」
 即座に『シスター・ベアトリクス』たちは指示を飛ばす。教会の扉を硬く閉じ、息をひそめる。
 やり過ごすことができればいい。
 そんな風に人々の不安と恐怖があっという間に教会を包んでいく――。

●応えなければならない
 衝突する音が響き渡る。
 鈍い音。断続的に続く音は、徐々に大きくなっていくし、扉がきしむ音を響かせ続けている。
 嫌な音だった。
『シスター・ベアトリクス』は、しかし修道女たちと共に扉の前に居並ぶ。
 扉は城壁ではない。
 いずれ破られるであろう。
 だがしかし、此処には最後の壁がある。城壁なくとも己たちがいる。己たちこそが市民を守る最後の城壁。
 この日のために自分たちは肉体を鍛え上げたのだ。
「避難民の皆様とメサイア姫は教会の奥へ! 姉妹たち! 武器を取りなさい!」
 その言葉と共に扉が拉げ、その奥から『バートラント』の亜人たちの顔が覗く。
 ぎょろりとした瞳。
 その瞳が細められる。彼等は見たのだ。教会の閉ざされた扉の奥に居並ぶ修道女たちの姿を。

 オンナ。

 下卑た笑みが溢れるのを隠そうともしない亜人たちが扉をこじ開け、溢れるようにして飛び出す。
 我先に。獲物を求めるように。
 か弱き修道女たちなどただの慰みものでしかない。奪い、犯し、殺す。戦いの常である。そうすることが人間性の欠片もないことであることは言うまでもないが、しかし、彼等は亜人。教義もなければ理性もない。
 あるのは獣性の如き本能のみ。

 だが、彼等は一つ誤ちを犯していることに気が付かなかった。
「おチェストですわ~!」
 猿叫と共に叩き込まれる鈍器が柔肌に襲いかからんとしていた亜人の頭部を拉げさせる。飛び散るは、とても言葉にしてはいけない、なんかモザイクという名のフィルターがかかりそうな塊であった。
 そう、亜人たちは誤ちを犯した。
 彼等がただの修道女と見誤ったのは、この『エルネイジェ王国』のただの追放系皇女にして脳筋姫メサイアであったのだ。
「どうして教会の奥へ行っていないのですか!?」
「ぶちまけたボルシチみてぇですわねぇ! 次はどこのどなたでして? わたくし、料理がお上手でしてよ~!」
「なんでそうなるのです!? 姫様!」
『シスター・ベアトリクス』は戦いの最中であったが、叫んでいた。
 他の修道女たちも同じ気持ちであったけれど、しかし、扉から次々と飛びかかる亜人達の脳天を唐竹割りにするのに忙しかった。

「お尻ペンペンですよ!」
 思わずいつもの癖が出てしまった。亜人達は、『え』という顔をしたが、それが隙だった。あっという間に彼等の頭はもう二度とそんな顔ができなくなるほどに拉げてしまっていた。
 そんな地獄のような光景の中、メサイアは、あっかんべー! といつものお転婆姫らしい顔で『シスター・ベアトリクス』へと告げるのだ。
「王家の者こそ率先して戦うべきなのですわ~! 武勲無き王に玉座なしとお姉様がおっしゃっておりましたわ~!」
 血塗れのハンマーを勢いよく振り回し、亜人の血とあれそれを払ってメサイアは告げる。
 確かに尤もである。
 彼女の言葉は『エルネイジェ王国』の律そのもの。
 しかし、彼女の身を守るためにこそ『シスター・ベアトリクス』はこうして修道女となったのだ。その任務は今も続いている。守らねばならない。

 けれど。
「御身を大事になさってください。あなた様は!」
「聞く耳持たねぇですわ! これは王家に生まれしものの定め! 戦いの中にこそ、気高くあらねば、チェストできませんことよ~!」
 あ、それ! と『シスター・ベアトリクス』の心配をよそにメサイアは次々と亜人たちをチェストしていく。
 あまりにも凄まじい戦いぶり。
 多くの修道女たちが傷を追う中、メサイアだけが体を亜人の血だけで汚す。
 苛烈な戦いぶり。
 戦神という者がいるのだとすれば、彼女のことを言うのだと『シスター・ベアトリクス』は思う。

 先頭に立つ者。

 かつて、百年前の戦争に折、多くの『エース』が生まれた。 
 いずれもが先陣を切る者たちであった。
 アーレス大陸だけではない。このクロムキャバリア世界において、常に先陣を切る者にこそ、力が宿るというように彼等は戦い抜いて生きた。
 その輝かしい光の如き戦歴。その一端を今、『シスター・ベアトリクス』はメサイアに見たのだ。
「……ッ!」
 だが、それでも終わりは訪れる。
 限界を超えて耐えてきた教会の守り。
 されど、その守りは消耗し、いずれ破られるだろう。ただの亜人たちだけならばまだ持ちこたえられた。

「ん? この地鳴りはなんですの? なんかどすんどすん言ってますわね?」
 メサイアは破壊された扉の向こうを見やる。
 そこにあったのは土煙を上げながら進軍する巨大なトロールやオーガと言ったキャバリア並の亜人たちの姿があった。
「やっべぇですわ~! なんかでっかいの来てますことよ~!?」
 裸眼で其れを確認したメサイアの隣で『シスター・ベアトリクス』は双眼鏡を片手に頬に汗が流れるのを感じた。
 あれは亜人の中でも巨躯を誇る者達。
 キャバリアがあるのならば対抗することもできよう。
 しかし、ここにはキャバリアはない。
 如何に戦闘修道女たる己達でも、あの巨大な亜人たちを相手取ることはできない。止めようのない絶望が襲いかかってくるのを感じ、『シスター・ベアトリクス』は側近の修道女に告げる。
「メサイア皇女殿下をお連れして逃げなさい」
「……ハッ!」
 其の言葉に修道女たちが涙を湛えながら頷く。
 もはや趨勢は決した。

 ここは暴力が蹂躙するだろう。
 その惨禍に己の仕えるべきメサイアを巻き込むわけにはいかない。
「年をとるものではないな、まったく。真にお仕えすべき方を見出したというのに……運命というのは残酷なものだ。ままらない」
 メサイア姫、と最後の別れを告げようとした『シスター・ベアトリクス』は彼女の姿を見やる……いや、いないな。
 あれ、いない? 側近の修道女たちもキョロキョロした。
 シリアスな、それでいて最後の別れというシーンにしてはぞんざいな空気が流れ始める。
「……姫?」
 いない。全然居ない。
 ていうか、さっきまで居たよね!? 居たよね!? と修道女たちが慌てふためく。
「姫――!?」

●暴竜
「ヴリちゃ~ん! 起きてくださいまし~!」
 修道女たちが慌てふためいている頃、メサイアは黒竜教会の聖堂に祀られる一騎の機竜野元へと走っていた。
 息を切らす。
 常日頃から鍛錬しているから、走った程度では息を切らさぬメサイアは、しかし息を切らして駆け込んでいた。
 恐ろしいからではない。
 喪われてしまうものがあるかもしれないと思ったからだ。身を走る怖気。奪われるという怒り。
 それが身を焦がしていくように、彼女の肺から空気という空気を喪わせていた。

「ヴリちゃん! ヴリちゃんが起きてくれないと皆様トロールのおやつにされてしまいますわよ~!」
 だから、と黒き装甲をメサイアは叩く。
 起きて! お目覚めになってと叩き続ける。
 だが、反応はない。わかっていたことだ。いつもいつもそうやっても全然起きない。起きてって自分が言っているのにまーったく起きないのだ。
 メサイア姫は足し算もちょっとあやしい。
 
 だが。
 自分の感情というものをかけ合わせることはできた。
 喪うかもしれないとい怒りと起きぬ『ヴリトラ』への怒り。
 其の二つの怒りを足した時、炸裂するのは怒髪天を衝く激怒。
「むきー! ねぼすけさんですわね! 王笏ハンマー!」
 メサイアの渾身の一撃が『ヴリトラ』の頭部を打ち据える。
 ものすごい音がした。
 装甲が凹んでいないのが奇跡的なくらいの音であった。其の瞬間、今までのあれやそれはなんだったのかと思うほどあっさりと黒き暴竜たる『ヴリトラ』のアイセンサーが赤く煌めく。

「起きまして!? ヴリちゃん! このままでは皆様の危険が危ないのですわ~!」
 何その頭痛が痛いみたいな。
 だが、『ヴリトラ』は理解したようである。いや、察したと言えるだろう。
 コクピットハッチが開き、メサイアの前に示す。
「わたくしにお乗りになりなさいと?」
 信じることは大切なことだ。わかっている。信じていればいつか叶う。メサイアは無根拠にもそう思っていたのだ。
 常に。
 片時も欠かすこと無く。
 その自信を胸に生きてきたのだ。
 其の結実が今目の前にある。
「あ、でもわたくしおキャバリアの動かし方なんて習ってきませんでしたわ~! え、どうすれば? あ、な~るほどですわ~! なんかそれっぽくレバガチャですわね! レバニラ食べたく成ってきましたわ~!」
 お腹が空いてはどうにもならない。
 いや、違う。そういうことじゃないと『シスター・ベアトリクス』がいたのなら突っ込んでいたが、いない。
 そう、つまり誰もメサイアを止めることができないのである。

「今日からわたくしおキャバリアデビューでしてよ~!」
 一気に神殿から飛び出す『ヴリトラ』。
 目の前には体高5mの亜人……オーガやトロール。初めて『ヴリトラ』を動かすメサイアにとって、それは初めての経験。
 己の五体以外での戦いの経験はないのだ。誰にだって初めてはある。メサイア姫だって最初から上手くできたわけではない。
 オーガの殴打の一撃が『ヴリトラ』を襲う。
 衝撃に揺れ、頭を打ち据えるメサイア。だが、この程度で意識を喪うことはない。なんのためにこれまでチェストしてきたのか!

「いってぇですわね! おこー!」
 怒りが満ちていく。
 そう、怒り。怒りこそが原動力。戦いを前にして怒りは力へと変わる。そして、前述したが、怒りと怒りを足すとどうなるかをメサイアは知っている。
 自分の怒り。
『ヴリトラ』の怒り。
 すでに激怒へと至る感情を二つ足すのならば、大激怒へと至るのだ。
 咆哮する『ヴリトラ』の尾――『テイルスマッシャー』の一撃が巨大亜人たちを容易く吹き飛ばす。
 だが、それだけでは終わらない。
 大地をけって飛び、そのまま脚部の鉤爪を持って胴を引き裂くように打ち込み、さらに口腔に光が湛えられる。

 そう、それは滅びの光。
 あらゆる敵を滅ぼす、御伽噺に語られる『ヴリトラ』の光。
 その光を前にして残るは破滅しかない。
「ヴリちゃん! 暴力! 何事も暴力ですわ~!」
 己たちに歯向かう者全てに破滅を。
 其れに同意するように『ヴリトラ』が咆哮する。其の放たれる光は神話に謳われる光と正しく同義。

 其の光を見上げ『シスター・ベアトリクス』たちは平服するしかなかった。
 己たちが奉じる機械神。
 破滅の暴竜『ヴリトラ』。
 破壊の権化たる様をもって敵を討ち果たす姿。
「『ヴリトラ』様は、やはり姫をお選びに……」
 彼女は知る。
 同時に納得もしていた。
 あの時見た王威。其れは正しくメサイアの資質。
 そして、呪いの軛たる運命。
 破壊齎す『ヴリトラ』の咆哮は、世界に何を齎すのか。
「やりましたわ~! わたくしとヴリちゃんが皆さまをお助けいたしましたのよ~! いぇい!」
 彼女を待つ運命は過酷そのもの。
 されど、メサイアは敵を滅ぼし、満面の笑顔で『シスター・ベアトリクス』へと応えるように勝利のVサインを向けるのだった――。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2023年05月02日


挿絵イラスト