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馨しき花

#ダークセイヴァー

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#ダークセイヴァー


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●馨しき花
 傍に、いる。
 その事実だけは確かだ。
 ああ、なんとおぞましき場所かと、最初は思ったのだ。
 人骨が転がり、あまつあえ腐りかけのものもいる。まだわずかに息をしていたものも、いたかもしれない。
 けれどこの花の馨りが、意識をとろかして。
 甘い、濃く、痺れそうな。脳髄を柔らかに包んでいく、マヒしていく。
 それでも考えることはできた。何もわからないわけではない。ただただ、至上の幸福に包まれて。
 それ以外がない。苦しいも、何も、ないのだ。
 ああ、あの方は与えてくださったのだ。
 この安寧を、幸福を。
 蕩けていく意識の中で、遠く遠く、かすかな、小さな、かすれた笑い声が聞こえた。
 良かったわね、と。
 ええ、貴方のおかげですと瞳を閉じる。なんという幸せだろうか。
 飢えて朽ちていくよりもマシだ。村の皆から弾かれて、迷惑だという視線を向けられる中で過ごすよりも、マシだ。幸せだ。
 それに苦しみを感じる事もなく、死んでいけるのだから。
 なぁ、そう思うだろう、片割れよ。先に死んだ――そこで笑っている、片割れよ。
 僕ももうすぐ、幸せなままにそこへ行く。
 ああ、けれど。もし叶うなら。
 僕らを救ってくれた神様のその尊顔を、もう一度。
 もう一度、ありがとうと――伝えたい。

●予知
 ああ、と。赤い毛並みの、妖狐――終夜・凛是(無二・f10319)は吐息零して。
 グリモアベースに集う猟兵達へとダークセイヴァーに行って欲しいのだと告げた。
「俺に視得たのは」
 どこかの森。その中の、廃城、その庭。
 咲き誇る大輪の花、朽ちた死体、骨、死にかけてる人。とても、幸せそうな顔で死んだ人。そうなろうとしている人、と。
 その幸せを、与えたオブリビオン。白い翼、赤い花。
 断片的に得た情報はそれだけだと、凛是は言う。
「多分、俺に視得たやつはもう助からないと、思う」
 人として、もう過ごせるかどうかといえば、そうではない。それほどに朽ちて、僅かな命を幸せに浸しているのだ。
 だからきっと、死ぬのが幸せと凛是は言う。いつ死んでもおかしくないようなそんな状態なのだから。それは暗に助けてやるなと、言っている。
「皆に出来る事は、この場所を見つけて、オブリビオンを見つけて、倒す事」
 俺が送ることができるのは廃城の前まで。その先は、好きにと凛是は言う。
「あんまり、気持ちのいいものはないと思うけど、それに耐えられるなら、うん」
 よろしくと、凛是は手の内のグリモアを光らせる。
 そして、それからと言葉続けるのだ。花の香には、気を付けてと。


志羽
 お目通しありがとうございます、志羽です。
 プレイング締め切りなどのタイミングはお手数ですがマスターページの【簡易連絡】をご確認ください。
 場合によってはプレイングをお返しする場合もあります。ご理解の上、ご参加ください。

●シナリオについて
 第一章:冒険(薔薇の檻)
 第二章:集団線(スケルトン)
 第三章:ボス戦(救済の代行者・プレアグレイス)
 以上の流れとなっております。

 第一章については、探索もですが心情などもあれば遠慮なくどうぞ。
 探索し、奥へと向かえば、そこにはオープニングにあるような、情景と出会うこともあるやもしれません。
 それから、甘い香りが。あなたの苦渋を取り除く様に、感じなくなるように。
 何かを、マヒさせるかもしれません。が、抗う事はもちろん、可能です。

 以上です。
 プレイングお待ちしております。
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第1章 冒険 『薔薇の檻』

POW   :    気合とパワーで追跡する

SPD   :    スピード重視で追跡する

WIZ   :    賢く効率的に追跡する

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●廃城の、朽ちているはずの庭に、精細な
 廃城の門は、開かれている。誰が入ってきても良いと言っているようだ。
 その中を、進んでいけば――ふわり、と。かすかに。
 あまい、あまいにおいが鼻をくすぐる。
 あまく、とろけて。あまく、しびれて。
 苦しいことを、わすれて、すべててばなして。
 幸せになっていいのだと、思わせるような。
 そんな、香りが。徐々に、強くなっていく。
 奥へ進めば、進むほどに。
 そして――廃城の、庭園へと導かれた。
 嘗ては華やかな場所だったのかもしれない。手入れされていたならば、きっと薔薇の迷路となっていたのだろう。
 しかし、今は荒れてその薔薇は好きに枝を伸ばしている。だが、花は見当たらない。葉も付いておらず、痩せ細った枝のみが絡み合っている。
 そしてその隙間から――向こう側も、みえるのだ。迷路のその先、ひとのようなものがいくつも倒れている。
 死体だ。
 いつ、朽ち果てたのか。骨がある。もうそれは助からぬ者達の成れの果て。
 命失い、その後に。そう、なりかけている者もいる。
 そして――生きているもの達もおそらく、探せばいるのだろう。かろうじて、生きているもの達が。
 ただそれが、どんな姿であるのかは。いきていると言えるものなのかは、わからない。
 迷路のような廃庭園に足を踏み入れた猟兵達がたゆたうあまい香りに崩されることは――最後には、きっとないのだろうけれど。
 わずかながらに、心は鈍るものもいるかもしれない。
 そんな、花のかおりが奥へと誘う。
アルノルト・ブルーメ
SPDで行動

その先に、敵が居るのであれば行こう
退くという選択肢はないから

花の芳香のような蜜のような……
あぁ、これは誘惑の香りだ

手放せば楽になれると誘うのは香りか
それとも君かい……?

最愛の妻の姿を視るかもしれないとは思っていたけれど

共に時間を過ごす事が叶わない事を
僅かばかり苦しいと
そう想った気持ちを見透かされたか

これは中々に魅惑だね
魅惑だけれど、立ち止まれない

だってそうだろう?
君が僕の元に残してくれたあの子が居る
あの子の為にも、『アレ』は倒さなければいけない

苦しいことを忘れた
その先の幸せに浸れない
忘れずに、それでも幸せだと思える瞬間が確かにあるから

補足
道中のなれの果てには僅かばかりの哀しみを抱く



●忘れず、誘われず
 その先に、敵が居るのであればとアルノルト・ブルーメ(暁闇の華・f05229)は廃園へと足を踏み入れた。
 退くという選択肢はないのだから。
 アルノルトはすぅ、と息を吸う。それと同時に僅かに、気になる香りが鼻をくすぐった。
「花の芳香のような蜜のような……」
 あぁ、これは。
 これは誘惑の香りだとアルノルトは思う。
「手放せば楽になれると誘うのは香りか――それとも君かい……?」
 ふと口許は笑みの形をとる。
 それは幻、気のせいだとわかってはいるのだが。
 最愛の、妻の姿が目の前に揺らめいている。
 けれどアルノルトはそちらへと足はむけない。
 共に時間を過ごす事が叶わない事を。僅かばかり苦しいと――そう、想った気持ちを。
「――見透かされたか」
 自嘲するような、物言いだった。
 けれどこれは、なかなかに魅惑。
 魅惑だけど――立ち止まれないとアルノルトは歩む。
「だってそうだろう?」
 そしてその幻とすれ違いざまに。
「君が僕の元に残してくれたあの子が居る。あの子の為にも、『アレ』は倒さなければいけない」
 苦しいことを忘れたその先の幸せに浸れる性分ではない。
 忘れずに、それでも幸せだと思える瞬間が確かにあるのだから。
 だから、惑わされずアルノルトは視界の端をちらりととらえた。
 死した者の姿――それに僅かばかりの悲しみを。

成功 🔵​🔵​🔴​

満月・双葉
【WIZ】カエルの大捜索を使い、効率的な捜索を行います。
地形の把握、情報収集を利用し、暗視、視力、聞き耳と五感をフル活用。
野生の勘、第六感も役に立つでしょうか………やってみましょう。
人間性が死んだらママみたいになるんでしょうね。
何にも感動せず冷めた瞳で全てを俯瞰してどこか退屈そうで………それが大切な相手でも。「大切」という感情ももう存在していないかもしれないね。
そうなる前に肉体ごと消えた方がいいかもしれない………なんて、そんな訳にいかない。
お姉ちゃんとの約束だもの。僕は生きて行かなければならない。それが約束した僕の義務だ。
自分自身を鼓舞し、捜索を行います。



●約束
 動くカエルのマスコットを召喚した満月・双葉(星のカケラ・f01681)は、庭園を見てきてと、五感を共有し向かわせる。
 枯れた茨の這う庭園は、いったいどんな場所なのか。
 持ちうる能力をもって、そのつくりをカエルのマスコットを通じて双葉は見ていく。
 得られるのは入り組んでいるというこの枯れた茨の迷路とそしていくつも骸があることだ。
 まだわずかに、生を繋いでいるものもいるようだが果たしてそれが、生きていると言えるものなのか。
「人間性が死んだらママみたいになるんでしょうね」
 何にも感動せず冷めた瞳で全てを俯瞰してどこか退屈そうで………それが大切な相手でも、だ。
 カエルのマスコットを通じて、まだ生を繋ぐものを見つめる。どうして生きているのかわからないほどに、やせ衰えているのにただ、微かに笑みを浮かべ幸せそうなのだ。
 その様に――『大切』という感情ももう存在していないかもしれないね、と。ぽつりと双葉は零した。
「そうなる前に肉体ごと消えた方がいいかもしれない………なんて、そんな訳にいかない」
 ふ、と双葉は息を吐く。
 お姉ちゃんとの約束だもの、と小さく呟いて。
「僕は生きて行かなければならない。それが約束した僕の義務だ」
 そして、続いたのは己へと向けた言葉。
 この場の空気に飲まれぬように己を鼓舞して、双葉もまた奥へと歩みを進める。

成功 🔵​🔵​🔴​

エンティ・シェア
オルタナティブ・ダブルでもうひとりの私を配置しておく
周囲を見て回って、入り口でも探してもらおうか
敵らしいものが居るなら応戦せずに帰っておいで

もうひとりが頑張っている間、私は折角だからあまい香りとやらを楽しもう
こんなにも幸せそうな顔が寄り集まっているんだ。きっと心地よく浸れるのだろう
生きている者の声にも耳を傾けてみようか
情報の一つでもあるかも知れないしね

それにしても、私の知る屍というやつとは随分違う。苦痛も後悔も無いようだ
甚だしいくらいの未練があったから、私は拾ったのだけれどね
はは、懐かしい話もたまには思い起こすものだね
もういいよ。十分だ

もうひとりと合流して探索再開だ
建物の方へ向かってみようか



●これは拾えぬもの
 もうひとりの私をエンティ・シェア(欠片・f00526)は呼び出す。
 周囲を見て回って、探してきてもらおうかと。
「敵らしいものが居るなら応戦せずに帰っておいで」
 行ってくる、とくるりと回って見せた自身を見送り。さて、とエンティは息を吸い込んだ。
 もうひとりが頑張っている間、折角だからあまい香りとやらを楽しもうと思って。
 あまい香りは心の何かを撫でていく。不安感を薙ぎ倒し、幸福感を煽り立てているのか。
 何とも言えない、不思議な香りだ。
「こんなにも幸せそうな顔が寄り集まっているんだ。きっと心地よく浸れるのだろう」
 ゆるりと歩きはじめ、エンティは互いに片寄せあった、人の成れの果てを見つける。
 それは茨によって一層固く抱きしめられすでに人と言えるものではない。
 それでも何故だが、幸せそうに見えるのだから不思議なものだ。
 生きている者を見つければ、その声にも耳を傾けようと思うが――どうにも見当らない。
「それにしても」
 私の知る屍というやつとは随分違う、とエンティは屍の傍へとしゃがみこむ。
「苦痛も後悔も無いようだ」
 うっすらと、ただれつつある口の端が上がっているように見える。
「甚だしいくらいの未練があったから、私は拾ったのだけれどね」
 それがまったくないのなら、拾えはしない。
 はは、とエンティは乾いた笑いを零す。
 懐かしい話もたまには思い起こすものだね、と瞳伏せ立ち上がる。
「もういいよ。十分だ」
 この香りに、何か絆されたか。これ以上はもういいと、振り払う。
「もうひとりは、あちらか」
 合流して探索を再開しようとエンティは足向ける。
 建物の方へ向かってみようかと目に見えるそれへと、向かっていく。

成功 🔵​🔵​🔴​

神宮時・蒼
…怪奇。…花は、在りませんのに、この、馨りは、何処から、漂って、くるの、でしょうか

【WIZ】
…まずは、馨りを、辿って、みましょうか
…馨りが、強い方に、きっと、元凶は、いるのかも、しれません、ね
自分の、第六感を、信じてみるのも、いいかも、しれません。
行き止まりならば、鎌で薙ぎ払いましょう

甘やかな、馨り…
身を、落としてしまえば、ボクも、幸せに、なれるの、でしょうか…
…穢れきった、この身に、そんなものが、あるとは、思いません、が。



●幸せは、あるのかと
 神宮時・蒼(終わらぬ雨・f03681)は周囲を見回し、ぽつりと言葉落とす。
「……怪奇」
 最初に零れた言葉は、心に浮かんだこと。
「……花は、在りませんのに、この、馨りは、何処から、漂って、くるの、でしょうか」
 その馨りを、蒼は辿っていく。
 枯れた茨の迷路はかすかに向こう側が見えるが、目に見えて明らかな変化はあまりない。
「……馨りが、強い方に、きっと、元凶は、いるのかも、しれません、ね」
 惹かれるままに、自分の第六感を信じて蒼は進んでいく。
 右へ、左へ。同じところも一度通ったかもしれない。
 それもわからぬほどに、同じような光景が一時続いていた。
 しかし――ぶわり、と。
 深く濃厚な、一層強い香りを感じる。それは行き止まりの向こう側だ。
「甘やかな、馨り……」
 この先、と蒼は茉莉花の花と蔦が絡んだ鎌をゆるりと、振る。
 不思議な色彩の、光虚ろう刃が棘を斬り裂けば、その先には――色があった。
 赤い、花だ。
 地を這うように咲くそれは、何かを――いや、この場にあるものならそれはひとつ。
 人の亡骸を抱く様に咲き誇っている。
 この馨りに惑わされたものの、慣れの果てなのだろう。
「身を、落としてしまえば、ボクも、幸せに、なれるの、でしょうか……」
 あんなふうに、幸せに。
 けれど、蒼はふるりと首をふる。
「……穢れきった、この身に、そんなものが」
 あるとは――思わないのだから。

成功 🔵​🔵​🔴​

リリウム・コルネリウス
wiz

探索:奥へ奥へと入る
踏みしめられた土、分け入られた枝、強くなる香りの方へ

現世を嘆くのであれば……甘い世界に溺れるのも一つの道、そうは思うのです
でも私に――与えられている命も時間も、私が自由にするなんておこがましいから
そんな私は甘い甘い庭園で亡くなった方々が赦されるよう、祈りを捧ぐ
存命なさっている方には、救助活動+生まれながらの光+応急処置で治癒
恐らく反発・反抗なさると思いますが、告げます
「あなたの為じゃない……私がそうしたいから」
弱者は強者の前にひれ伏すしかない――そうでしょう?
ねえ、私は間違っていないでしょう?
生きるも死ぬも、思い通りにはならない……そうでしょう?



●思い通りには
 奥へ、奥へとリリウム・コルネリウス(矛盾だらけの理想主義者・f03816)は進む。
 踏みしめられた土、分け入られた枝の間を進んで、強くなる馨りの方へ。
 その深い馨りの中へ足を向ければ、死した骸とリリウムは出会う。
「現世を嘆くのであれば……甘い世界に溺れるのも一つの道、そうは思うのです」
 でも、と。リリウムの胸の中には他の想いもめぐっている。
 でも私に――与えられている命も時間も、私が自由にするなんておこがましいから。
 ならば今ここで、骸へとリリウムが出来る事はこの甘い、甘さしかない庭園で亡くなったもの達へと赦されるよう、祈りを捧ぐ事。
 足を止め、その漆黒の瞳を閉じて祈るのだ。
 その祈りの果てに瞳を開けたのは、人の気配を感じたからだ。
 枯れた茨の間をくぐり向かった先――かつては噴水だったのだろうか。枯れた石のオブジェの足元に人が座りこんでいる。
 その人間は、まだわずかに息があった。幸せそうに笑みを零し、しかしその頬は痩せこけている。
 己が飢餓で果てようとしているのもわからないのだ。
 助けられるだろうかとリリウムは己の持てる力を奮う。
「あなたの為じゃない……私がそうしたいから」
 その光は――その人間が傷を負って絶えそうな場面であれば助けることができただろう。
 しかし、飢えは与えるその光では満たせない。この相手は助けられないという事実。
 弱者は強者の前にひれ伏すしかない――そうでしょう?
 ねえ、私は間違っていないでしょう?
 生きるも死ぬも、思い通りにはならない……そうでしょう?
 自らの内に問いかける。
 命の燈火消えそうな相手にも問いかけるが、答えは無い。

成功 🔵​🔵​🔴​

ジュマ・シュライク
WIZ
死が幸福。
それを頭から否定することはできない。
現実で、戦場で。取りこぼされてきたものを散々見てきた。
だからせめて哀れな子らへ花を手向けるために。

ゆっくり慎重に道を探しますわ。風景を楽しむように。
要は死臭を追えば良いのでしょう。
本当に美しいところですわね――美しすぎて、アタシには似合わないけれど。
花の馨に惑わぬように?
アタシの苦痛は常にアタシのもの。和らげる必要はなくってよ。

拾えなかったことを後悔しているからこそ、今がある。
呼び起せるのは過去の残滓で、失った『モノ』は戻らないけれど。

醒めた眼で見つめれば、白髏ばかりが目に付く。
――こちらの園の方が、アタシに似合いでしょうけれど。

アレンジ歓迎



●寄りそう場所
 死が幸福。
 それはジュマ・シュライク(多重人格者の死霊術士・f13211)にとって頭から否定することはできない。
 今まで、現実で、戦場で――取りこぼされてきたものを散々見てきたのだ。
 だからせめて哀れな子らへ花を手向けるためにジュマは歩み始めた。
 ゆっくり、慎重に道を探していく。枯れた茨に色はない。あったとしても、その行く先を導くものではないだろう。
 けれど、追えば良いものはわかる。
 すん、と鼻を鳴らし息を吸う。
 甘い馨り――それは死臭とも、思えるような。
「本当に美しいところですわね――美しすぎて、アタシには似合わないけれど」
 一人、言葉落とす。
「花の馨に惑わぬように?」
 けれど――それはまるで。
「アタシの苦痛は常にアタシのもの。和らげる必要はなくってよ」
 誰かと話をしているようでもあった。
 いったい誰と話しているのか、姿など見えないのに。一人でしゃべり続けているかのようにも見える。
 けれど、ジュマにはちゃんと話し相手が居るのだ。
 それはこの場に留まる死した者の霊か――それとも。
 その相手を知っているのは、ジュマだけだ。
「枯れた茨、枯れた命……」
 ここで散った命は。そして――ジュマが過去、拾えなかった命は。
 その事を後悔しているからこそ、今があるのだ。
 呼び起せるのは過去の残滓で、失った『モノ』は戻らないけれど――その残滓を拾う事は弔いにも、なるのだろう。
「白髏ばかりね」
 ジュマの金の瞳が庭園の上を滑る。一人であったり、寄り添っていたりと皆それぞれだ。
「――こちらの園の方が、アタシに似合いでしょうけれど」
 花が満ちる場所よりも死したものに寄りそう。
 ジュマは己の在り様を知っている。生まれてから死ぬまで変わらぬ、それを。

成功 🔵​🔵​🔴​

玖・珂
望んだ事であるならば
甘き夢が仮令与えられた死であろうとも
私は何も言うまい

だが、其の方がマシだと思わせる世界を作り上げたのは、誰か

花の馨りが濃い方へ
朽ちた命が多い方へ

出来るだけ嗅がぬ様にと袖で口元を塞げど
噎せ返る香りは肌に張り付く

甘き誘いは微酔に程遠く
疾うに塞がった筈の傷痕に紅い花を咲かせる
腹部を染め上げる血は酩酊がみせる幻か

あの時、皆と共に果てていれば
――、心の臓にも紅い花を

敬慕する腕へと伸ばした手が掴んだのは、薔薇の枝

ちくりとした感触に漏れる苦笑
確かにあの腕も枯れておったな
未だ眠る訳にはいかぬのだ、見つけ出すまでは

迷路の途中
もし未だ生ある者がいたならば
神様に会いたいのだと居場所を訊ねてみよう



●束の間の
 これが望んだ事であるならば、私は何も言うまいと玖・珂(モノトーン・f07438)は廃園へと足を踏み入れた。
 例え、甘き夢が仮令与えられた死であろうとも。
(「だが、其の方がマシだと思わせる世界を作り上げたのは、誰か」)
 それは今、問うてもわからぬことだ。
 珂は、今得られるものを追って、廃園を進んでいく。
 花の馨りが、濃い方へ。朽ちた命が、多い方へ。
 それは突然だった。一歩踏み込んだだけで噎せ返るような馨りが珂を襲う。
 出来るだけ嗅がぬようにと真っ白な袖を引き上げ、口元を塞ぐがそれは肌に張り付く。
 肌からしみいってくるような――そんな錯覚。
 けれど甘い馨りはじん、と何かを和らげ、解して。
 そして滲ませていく、心の内の何かを、僅かに。そして散らして、誤魔化すように幸せというものを与えてくる。
 微酔には程遠く。
 けれど、疾うに塞がった筈の傷痕に紅い花を咲かせる
 ああ、腹はと見れば赤い。その色は酩酊が見せる幻か。
 触れれば何もない。ああ、幻だ。
 けれど、ふと。
 あの時、皆と共に果てていれば――、心の臓にも紅い花を。
 己に伸ばされた腕がある。それは敬慕する腕だ。
 その伸ばされた腕を掴めば。
「っ……ああ」
 ちくり、と痛みが走る。惑わされたかと思わず零れた苦笑。その指の先にはぷくりと赤い玉が生まれていた。
 何と見間違えたか。再度、己を惑わせたものをみて珂は瞳細めた。
「確かにあの腕も枯れておったな」
 その腕に、知らず引き戻されたか。珂はふと息吐いて、先を見据えた。
「未だ眠る訳にはいかぬのだ、見つけ出すまでは」
 枯れた茨の道は開けているが、先はまだ見えず。
 珂は再び歩み始めた。
 もし未だ、生あるものがいたならば居場所を尋ねてみるかと思うのだが、僅かもその気配はない。
「神様に会いたいのだけれどね」
 さてどこにいるのだろうかと独り言ちる。

成功 🔵​🔵​🔴​

斎部・花虎
【POW】
――そうだな、嗚呼、そうだ
死は甘美で安寧だとも
おれは識っているんだ
……おれに全部を明け渡して、死の向こうへ笑って逝ったもうひとりを
どうしたって想い出す

狡いなと思う
だからそれを見過ごしてなどやらない
死ぬだけで辿り着ける倖いなど赦すものか
――引き摺り戻してやる

纏わり付く甘い香りを振り払う様に庭園を進む
途中、生きている者が居れば無理にでもここから放り出す心積もりで
心の揺れる誰かを見かけたら
頬を叩いてでも正気に戻そう

折れるな、揺れるな、しっかり立て
歩ける筈だ
歩けないならおれがおまえを負うてやる



●識って、いるから
 最初から、識っていた。
「――そうだな、嗚呼、そうだ」
 決して、それを忘れてはいなかった。
 死は甘美で安寧だとも、と斎部・花虎(ヤーアブルニー・f01877)は零す。
 おれは識っているんだ、と長い睫毛を振るわせて花虎は碧翠の眸を伏せる。
 どうしたって想い出す。
「……おれに全部を明け渡して、死の向こうへ笑って逝ったもうひとり」
 言葉にした。しかし名前は呼ばない。
 花虎の瞼の裏には今、その姿が見えていた。その姿をしばらく、見つめ。
 伏せられた眼は緩く開く。そして狡いな、と唇から零れた。
 だからそれを見過ごしてなどやらないと花虎は思う。
「死ぬだけで辿り着ける倖いなど赦すものか――引き摺り戻してやる」
 紡いだ言葉には、意志が宿る。
 花虎は歩みだす。庭園の中を進むその歩みは早い。
 纏わり付く甘い香りを振り払うように。
 生きているものがいれば――無理にでもここから放り出す心積もりだった。
 しかし出会うのは骸、骨ばかりだ。すでに果てている、もう助けられない。
 本当に、誰も、もう助けられないのか――そう、思った矢先だ。
 強い風が吹く。ひゅうと耳もとを駆ける音がする程に強い風だった。
 すると――うう、と呻く声が花虎の耳に届いたのだ。
 そちらに急いで向かえば、蹲った男がいる。いや、まだ少年と言った方が良い年頃だ。
 そこは甘く濃い香りがしない。先程の風が吹き飛ばしたのだろう。
 うめく傍へと膝をつく。正気を保てているのか、それとももうあの甘い香りに奪い尽くされかりそめの幸せの中でしか――生きれないのか。
 頬を叩いて、正気に戻れと紡ぐ。
「折れるな、揺れるな、しっかり立て」
 歩ける筈だ、歩けないならおれがおまえを負うてやると声をかけ続ける。
 折れるな、屈するなと――甘い香の無き場所で。
 しかし、それも束の間の事だったのだろう。
 ふわ、と再びその香りに満たされれば少年は落ち着いて――柔らかな、幸せそうな笑みを浮かべる。
 嗚呼、と花虎は零す。
 それは生きているとは言えない。掬い上げることができなかったのだと突きつけられるような心地だ。
 ゆらりと立ち上がる。
 この甘い香りの支配者に会わねばならぬと、その香を追って花虎も前へと進む。

成功 🔵​🔵​🔴​

鹿忍・由紀
WIZ
幸せに死ねて良かったね。
今まで苦しんできたのもあいつらのせいなんだってことさえ分からなくなってさ。
まあ、どうでもいいんだけど。
生きてる人の保護までが仕事なら面倒だったろうけど分かりやすい仕事で良かった。
さっさとオブリビオンに辿り着かなきゃね。

ユーベルコード追躡を先行させて様子を見ながら探索へ。
罠とかあれば外すけど甘い香りで釣るなら城自体に罠は必要なさそうだね。一応気をつけとく。
導かれる場所が庭園と決まってるなら足跡が沢山残されている道が正解かな。

ちょっとしたお守りみたいな石なんだけど、「破魔」で甘い香りに多少抗えないかな。
面倒くさいことは早く済ませちゃったほうが良い。

アドリブはご自由に。



●この甘い馨りこそ
 いつ、死んだのだろうか。
 まだ人の容を保っている骸へと鹿忍・由紀(余計者・f05760)は視線を向ける。
 僅かにも動きはしないそれは一体、どのように命を終えたのか。
「幸せに死ねて良かったね」
 骸の表情は穏やかだ。苦しみも何もなかったのだろうとわかる。
 それはきっとこの骸にとっては幸せな、救いだったのだろう。
「今まで苦しんできたのもあいつらのせいなんだってことさえ分からなくなってさ」
 そう由紀は紡ぐが、その次の瞬間には――まあ、どうでもいいんだけど、と踵を返す。
 結局は、すでに終わった命であり自分とは関わりの無かった人間だ。今、その骸を瞳に映しただけの、人間。
 生きてる人の保護までが仕事なら面倒だったろうけど分かりやすい仕事で良かったと思いながら。
 さっさとオブリビオンに辿り着かなきゃねと、影の黒猫を由紀は召喚する。
「遊んでおいで」
 そう言うと小さく尻尾を振って黒猫は先を駆けていく。
 歩みはゆるゆると。罠などあれば対処するつもりではあったが――なさそうだ。
 ただ、甘い馨りが漂っている。この馨りで人々を釣っているのなら罠は必要ないのだろう。この馨りこそが、そうとも言えるのだから。
 と、先を言っていた黒猫が戻ってくる。何か見つけたようで、ついて行けば――足跡がある。
 それは最近ついたのか、まだしっかりと辿れるものだ。
 足跡辿れば、ふわりと甘い馨りが深くなっていく。
 これは、と一瞬だけ黒猫の後追う足が止まる。
 由紀はふと、ポケットを探る。その中で指に触れる石。お守りのような石の持つ破魔の力で、この甘い馨りに多少抗えないだろうかと一度握りしめる。
 そして、立ち止まっていてもままならないなと再び歩み始めた。
 それを確認して黒猫もまた歩み始める。
「面倒くさいことは早く済ませちゃったほうが良い」
 進むたびに馨りが強くなる。それはまるで手招いているかのようだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ヴェルベット・ガーディアナ
…なんだろうこの香り頭がぼんやりするというか痺れたように思考がうまく纏まらない。麻酔とか毒みたいな感じ。出来るだけかがないように服の袖で鼻を塞ごう。

こんな中にいたらまともな考え方なんてきっと出来ない…遺体、遺体、遺体…あの人は生きてる!?【祈り】【優しさ】大丈夫ですか?とりあえず【生まれながらの光】を使おう。
ボクが生まれた時にはこの世界には希望はなかった。だから逃げ出したい気持ちは分かってしまうんだ。ボクは猟兵になったからうまく逃げ出すことができてしまった…だからこそ出来ることがしたい。希望になりたいなんておこがましいけど…そうありたいな…



●優しさ
 ふわりと、濃い花の馨が風に乗って運ばれてくる。
 この匂いは、と服の袖引き揚げてヴェルベット・ガーディアナ(人間の人形遣い・f02386)は鼻を手の甲を当ててふさぐ。
(「頭がぼんやりするというか痺れたように思考が、うまくまとまらない」)
 麻酔、毒――そんな気配を感じたのだから、出来るだけかがない方が良いだろうという判断は、正しい。
 こんな中にいたらまともな考え方なんてきっと出来ない。
 ヴェルベットはそう思いながら、歩みを進めていく。
 枯れた茨の中、時折、人のような輪郭を見つけて急ぎ近づく。
 けれど、すべて――遺体。
 ああ、と言葉が零れそうになる。誰も、もう助ける事ができないからだ。
 誰も助けられないのだろうかと思いながら、進んでいると、視界の端で何かが動いた。
 それはこの先を曲がったあたり、だろうか。隙間だらけの茨の重なりだったからこそ、だろう。
 ヴェルベットがそこへ急いで向かうと――人だ。倒れている。それは男だった。
「生きてる!? 大丈夫ですか?」
 まだ、微かに息はある。けれどその視線はどこかにとどまることなくふわふわとして。
 ただ幸せそうな顔でこと切れる寸前の命とヴェルベットは出会った。出会ってしまったのだ――そのままにはできない。
 助けられるか、助ける事が良い事なのかは、わからない。
 けれど癒しを持つ光に祈りと優しさを込めて注ぐ。
「ボクが生まれた時にはこの世界には希望はなかった」
 だから逃げ出したい気持ちは分かってしまうんだと、ぽつりと零す。
「ボクは猟兵になったからうまく逃げ出すことができてしまった……だからこそ出来ることがしたい」
 希望になりたいなんておこがましいけど……そうありたいな……と。
 か細い呟きにただその消えゆく命の者は一瞬、その我を取り戻す。
 そして、優しいなとか細く呟いてこと切れた。
 傷を負っているわけでもなく、体力を失う事で途切れようとしている命にまでは、その癒しの力は届かなかった。
 けれど、最後の際に男が自身を刹那、取り戻したのはヴェルベットの気持ちが、届いたからだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジャックジャレッド・ジャンセン
死が救済たり得るか否か
難き命題ではあるが、尠くも甘美な心地に耽溺させ生への執着を奪う行為は健全とは言えまい

【WIZ】
手を入れられぬ庭園の景観と云い
放置された骸の有様と云い
城主は随分と生命を軽んずる者らしい
探索の心遣りに嫌厭を囁き乍ら
香りのより強い方、新しい骸の有る方へ
或いは羽根や薔薇のひとひらを道標に

道中、息の有る者を見掛けても
助けを求められぬ限りは目を伏せてやる
然れど再び生を望むならば救助に努めよう
若しも永らえるに堪えぬ様相であるならば
其の旨伝え意思確認の上、私が手を汚そう

其れにしても、此の甘やかな香
不快だ
如何なる懊悩、如何なる痛苦も私のもの
誰にも懐柔叶わぬと教えてやろう


*アドリブ、連携歓迎



●不快と、断ず
 死が救済足り得るか否か――それは難き命題。
 しかし、とジャックジャレッド・ジャンセン(Lord Lament・f12377)は思う。
「尠くも甘美な心地に耽溺させ生への執着を奪う行為は健全とは言えまい」
 この香りは決して、ジャックジャレッドに受け入れられるものではなかった。
 歩を進めながら庭園の様相に紫色の瞳を向ける。
 手を入れられぬ、枯れた茨の迷路。そして、その足元で放置されたままの骸の数々。
「随分と生命を軽んずる者らしい」
 ジャックジャレッドが零した溜息は鋭く、一瞬強まった香りに僅かに表情が歪む。
「度も過ぎればというところか」
 強すぎる香りはかぐわしきものであったとしても良い気分になるものとは言えない。これはその最たるものだろう。
 だが、今はその香りの方へ向かうしかないのだ。
 その歩みを向ける途中――ふふ、と。
 小さな笑い声が聞こえた。どこから、と視線を向ければ枯れた茨へと身体を預けるものがいる。
 まだ、生きている。ジャックジャレッドはその傍へと歩み寄った。
 助けを求められたわけではない。再び生きようとしているとは思えない。
 何故ならもう、その半身は枯れた茨に取り込まれるように、失われているように見えるのだ。
 ただ、茨に半身喰われても幸せそうに笑って――よく、生きている。
 生気などとうに失われているのに今なお、命繋ぐその者に、ジャックジャレッドは一つ嘆息する。
 永らえるに堪えぬ、と。命を終わらせるか、それともこのままかと問う。
 けれどそれも、もうすでにわからない。何を問われたのか。
 与えられたまがい物の幸せに沈み切った者には、だ。
 己の意志で果てたいと言うのならば手も汚すことも厭わない。
 けれど、これは踏み入る領分ではないなとジャックジャレッドは再び歩み始めた。
「其れにしても、此の甘やかな香」
 不快だ、と一層強まるそれに眉根を寄せる。
 何もかも、奪って忘れさせて。そして幸せを与えてやろうと、透けて見える。
 お前にも与えてやろうと言うような香。
「如何なる懊悩、如何なる痛苦も私のもの――誰にも懐柔叶わぬと教えてやろう」
 甘やかな香はジャックジャレッドの心を挫くには、能わない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

葦野・詞波
迷路を抜けるのも骨が折れるが。
この有様では魅入られてもおかしくは無いな。
煙草を吸いながら行くとしよう。
正気さえ保てば、何れ抜けるだろうよ。

他人の結末など知った事ではないと
切って捨てるのは容易いが。
生きているのなら、探してやらねばなるまい。
どれだけ惨たらしくても、看取ってはやれる。

しかし、まるで鴉片――人を堕落させる為の代物だな。
自ら掴んだ幸せでもない、仮初の幸せに。
瞞着された結末が蔓延っていいものか。

人として、これ迄歩んで来たのだろう。
人としての尊厳は抱いて逝け。
幸せでも、不幸せでも。
尊厳を失ったら、人のまま終われないだろう。
これまでは何だった。無に帰すつもりか?

名を置いて逝け。憶えておこう。



●人として
 ふ、と紫煙を吐き出す。
 迷路を抜けるのも骨が折れるが、と葦野・詞波(赤頭巾・f09892)は再び紫煙くゆらせた。
 煙草の匂いは、この甘い香を遮ってくれる、慣れた香りだ。
 正気さえ保てば、何れ抜けるだろうよと。
 一歩ずつ、迷路を進む。進めば、骸が転がるのも嫌でも目に付く。
 他人の結末など知った事ではないと――切って捨てるのは容易い、が。
「生きているのなら、探してやらねばなるまい」
 それがたとえ死の間際で――どれだけ惨たらしくても、看取ってはやれると。己にまだ出来る事がある事を詞波は知っていた。
 進みながら、煙草の香りを打ち消すように甘い香りがふわりと漂うのに気付く。
 そちらかと足を向けつつ思うのはこの香のもたらすもの。これはあれに似ていると、思い当たるものがある。
「しかし、まるで鴉片――人を堕落させる為の代物だな」
 自ら掴んだ幸せでもない、仮初の幸せに。
 瞞着された結末が蔓延っていいものか、と詞波は煙を肺へと落とし、吐き出した。
 そして足を止める。
 ふふ、ふふ、と。零れるそれは吐息交じりなのだろう。
 ぼろぼろの服装だ。そしてやせ細ったその体躯。
 幸せな日々を過ごしていたとは到底思えない風体の、女だった。
「人として、これ迄歩んで来たのだろう。人としての尊厳は抱いて逝け」
 幸せでも、不幸せでも。
 尊厳を失ったら――人のまま終われないだろうと詞波は紡ぐ。
 その言葉は、届いているのだろうか。それはわからない。
「これまでは何だった。無に帰すつもりか?」
 ふぅ、と紫煙をこの場に満たす。すると花の香りが少し、薄れたような気がした。
 そして女が不規則に零していた笑いが止まったのだ。
「名を置いて逝け。憶えておこう」
 その問いにか細く、紡がれた名がある。
 しかしまた、濃い香りがすぐに広がってしまった。詞波はわずかしか持たんか、と呟いて再び薄く笑い零す女を置いて進む。
 ひととしてある、最後の瞬間を看取って。

大成功 🔵​🔵​🔵​

芥辺・有
廃城の門から立ち入ったなら、庭園を目指すようにして歩く。
伸び放題の枝だらけじゃ道もよくわからないな。
匂いの強まっている方、あるいは死体とかの多い方向に検討をつけて進んでいこうか。枝が邪魔なら、掻き分けて歩く。……迷路は苦手なんだ。

花の香りと、とろけるような幸福感に顔をしかめて、甘ったるい匂いをごまかすように煙草を取り出して火をつける。
……ただ与えられるだけの幸福など。

倒れている死体や、未だそうでないものは一瞥するだけで特になにも。
それが幸せだってんなら態々何かするわけもないさ。



●ただ与えられるだけは
「伸び放題の枝だらけじゃ道もよくわからないな」
 好き放題に手を伸ばす。そんな枝の様子を一瞥して芥辺・有(ストレイキャット・f00133)は歩みを進める。
 匂いの強まる方へ、そして躯の多い方を見つければそちらへ。
 入り組んだ茨は迷わせるように伸びて、有はひとつ息を吐いた。
 迷路は苦手なんだ、と。
 邪魔だと枝を掻き分けて、そして進んだ先に何があるかといえば、ぱっと開けた空間だ。綺麗に並んでいるオブジェはかつての名残なのだろうか。
 それも砕けて、朽ちているがその足元に――そこに寄り添う躯に有は瞳細めた。
 そして気付くのは、香り。深く、静かにこの場所に満ちている香りだった。
 花の甘い香りは蕩けるような幸福感をもたらすのだが、それは有の望むものではない。
 顔をしかめ、煙草を取り出し、火をつける。
 煙草の煙を纏えば、その甘い香りは有の周囲から立ち消えていく。
「……ただ与えられるだけの幸福など」
 それは有にとっては、喜んで受ける物ではないのだろう。
 倒れている躯、まだわずかに息のあるものの姿を見つけても、有は何も感じなかった。
 一瞥するだけで、特に何も心に走る者は無い。
 その姿が――彼等の選んだ、選び取った幸せというのなら態々何かするわけもない。
 何かをすべきでもないのだろうと有は思い、唯傍らを過ぎて行くだけだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

クロード・ロラン
庭園に踏み入れば、むせ返るほどの花の香りに顔しかめる
うー、このにおい、苦手……
こういう時は鼻が利くと厄介だな
香りに頭まで侵される前に、素早くここを突っ切ろう

小柄なのを活かし、細い道でも進み最短を目指す
薔薇に塞がれ進めなくなったら、大鋏で切り刻み道を開く
仲間が同じく困っているなら鋏揮うけど、あくまで先を急ぎたい
早くたどり着けば、それだけ助けられる人が増えるって信じたい

この退廃した世界で幸せに逝けるのは、ある意味救いなのかもしれない
でも、本当にそれでいいのか?
遺された人は、よかったねって言ってくれるか?
そうじゃない、真の救いってのは、もっとみんなが幸せじゃなきゃ
俺達猟兵は、そのためにあるんだから



●こたえ
 うー、と唸って。
 クロード・ロラン(人狼の咎人殺し・f00390)の耳はぺそんと下がった。
「このにおい、苦手……」
 人狼であるクロードには、このむせ返るほどの花の香りはきつく、顔は顰められる。
 すん、と鼻鳴らして自ら香りを嗅ぐのは憚られた。息を吸うだけで、もう香りを意識せざるを得ない。
「こういう時は鼻が利くと厄介だな」
 長居したくないとクロードの本能が言う。頭まで侵される前に、素早く突っ切ろうとクロードは駆けた。
 小柄なのを活かし、細い道でも通り抜け。
 先を塞ぐ枯れた茨の蔦は銀色に光る背丈ほどある大鋏で切り刻む。
 ふわ、と香る濃い香り。その香りに惑わされないと、その香りまでも切り刻むように。
 そして――前を遮るものが無くなる。
 開けた場所に出れば、そこは庭園の一角。朽ちかけたガゼポがあった。
 そこを覗き込めば――茨が人の容を為して枯れている。
 命を吸って咲いて。その、為れの果てだろう。
 どんな気持ちで逝ったのかはクロードにはわからない。けれどその、抜け殻のような形は寄り添っていた。
 この退廃した世界で――そんな、寄り添って。幸せ、だったのだろうか。
 きっとそうだったのだろう。
「幸せに逝けるのは、ある意味救いなのかもしれない」
 でも、本当にそれでいいのか? と少年は問いかける。
「遺された人は、よかったねって言ってくれるか?」
 その問いかけに、抜け殻の茨が何も答えることがないのはわかってる。
 そして答えが欲しいわけではない。
 クロードはもう、その心内にそれを持っているからだ。
「そうじゃない、真の救いってのは、もっとみんなが幸せじゃなきゃ」
 俺達猟兵は、そのためにあるんだから――そう言ってクロードは歩み始める。
 一人でも多く――救えるように。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ニケ・セアリチオ
凄惨で、寂寞に満ちた景色に
そして漂う甘い香りとの落差に
忠告を受けて尚、目眩を覚え

進まなければとの覚悟を支えに
緩慢でも歩み続けます

導べの鳩を空に放ち
探索範囲を広げましょう

……私が呑まれそうになったら
どうか、助けてくださいね

覚悟をしてはいても
息ある人を
素通りする事は、出来ずに

――そうね、そうだわ
見送りの彼も、仰られていましたね
幸せの在り方は、人それぞれに
きっと、私に彼らの幸せを侵す権利など、無いのでしょう

――だから
朽ちていく彼らを悼む、この心は
あるかも分からぬ輪廻の道、その行く先きに
せめて安寧があります様にと祈り合わせる手は
きっと、私のエゴなのです


己の無力を噛み締めて
それでも
私は歩いて往かなければ



●己の
 足元が揺れそうになる。目を背けたくなる――けれど、背けずその瞳に映す。
 凄惨で、寂寞に満ちた景色。
 そして漂う甘い香りとの落差に忠告を受けて尚、目眩を覚えニケ・セアリチオ(幸せのハト・f02710)は一度、瞳を伏せた。
「進まなければ……」
 覚悟を胸に、ニケはまず一歩踏み出した。
 ゆるゆると、少しずつ前へ前へ。
 は、と一つ息を吐いてニケは真っ白な鳩をそばへ。
 この世界の空に、その翼の色は眩しいほど良く映える。
「……私が呑まれそうになったら、どうか、助けてくださいね」
 空へ飛び立つ鳩を見つめ、ニケは再び歩み始める。
 枯れた茨の迷路に伏せる人――あの方は、もう事切れている。動きはしない。
 呼吸の音も何も聞こえない。そしてふわ、と鼻をくすぐる甘い、香り強まりニケを呼ぶ。
 その方向へ足を向け――立ち止まざるをえなかった。
 覚悟は勿論していた。けれど、息ある人の前を何も感じず、素通りすることはニケにはできなかったのだ。
 大丈夫、と問うのはおこがましく。
 けれど傍に。想うことは深く、そして複雑なものだ。
 薄く浮かべられた笑みは、幸せそうだ。その幸せは、甘い香りにすべて貰われていった上にある。
 ニケの傍に鳩が舞い戻り、首を傾げて見つめてくる。
「――そうね、そうだわ。見送りの彼も、仰られていましたね」
 幸せの在り方は、人それぞれに。
「きっと、私に彼らの幸せを侵す権利など、無いのでしょう」
 だから、と立ち上がる。それと共に鳩も空へと舞い上がった。
 朽ちていく彼らを悼む、この心はあるかも分からぬ輪廻の道、その行く先きに――せめて。
「せめて安寧があります様に……」
 ニケは祈り、その手を合わせ、瞳を伏せた。
 これはきっと、私のエゴなのですと、ニケは小さく零した。
 ああ、ここでは何もできないと、己の無力を噛み締める。
 それでも、歩まねばならない。
 ニケは歩いて往かなければと、鳩が導く先へと向かう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リオ・フェンブロー
WIZ
土と風、大地の香りに…花の香り、ですか
少し、酔いそうだ

木々の生え方から迷路を抜ける方向だけでも見れれば…
地形を利用し進みましょう

足跡や、枝葉の様子をよく見て追跡を
足元や、手を伸ばす程の高さなどよく見て
枝に血が付いていればそこから先を辿りましょうか

進むほどに甘い香りに意識が揺れる

皇帝は倒れた、戦争は終わった筈なのに心だけが追いつかない
賭ける筈だった己の命だけがぶら下がる
失った名を紡ぎかけ
止めてしまっていた足に軽く頭を振るう

荊を握り、痛みで意識を引き戻しましょう
そういえば、花も無いというのに甘い香りがするのですね

骸と出会えば膝を折り弔いを
なり損ないですが私も魔女。鎮魂の詩は知っているのですよ



●意義
 土と風。頬を撫でる風は冷たいのに変にまとわりつく。
 リオ・フェンブロー(鈍色の鷹・f14030)は花の香りを感じ、ふと息止める。
 少し、酔いそうなほどの香り。
 心の準備があればなんてことはないのだができれば、この香りをかわしたいというもの。
 リオは緩く結ぶ三つ編みを揺らしながら歩み始める。
 木々の生え方、枝葉の様子を見て、進む方向を定め。
 足音、それから手を伸ばすほどの高さ――血の痕などはないだろうかと沈む青の瞳を向ける。
 その眼を生かして今まで過ごしてきたリオにとってその目端の向け方は当たり前の事。
 進むほどに、甘い香りが濃く漂い誘いをかけてくる。
 意識は揺らされ――己の中で割り切れないものを揺り起こしていくのだ。
(「皇帝は倒れた、それで……いいじゃないですか」)
 戦争は終わった。終わったのだ。終わった筈なのに己の心はまだだという。
 この事実に心がまだ追いつかない。追いつこうとしていないのかもしれない。
 じわりじわりと、心の端が捕まりそうになる。何かを持っていかれそうな感覚に、己の何かが震えていた。
 賭ける筈だった己の命だけがぶら下がっているぞと、囁かれている。
 そして言葉にならぬ、吐息だけで――失った名を紡ぎかけ。己の足が止まった事に、軽く頭を振るう。
 リオは手を伸ばす。
 枯れた棘を持つその枝を握れば痛みが走るのはわかっていたこと。
 その痛みは鮮明で、リオの意識を引き戻す。
「そういえば、花も無いというのに甘い香りがするのですね」
 それは一体どこから、と香りのする方へと向かえば茨に抱かれた骸がある。
 いつ朽ち果てたのだろうか。その身はすでに骨だ。それに茨が離さぬというように絡みついている。
 その骸の前に膝を折り、リオは弔いを。
「なり損ないですが私も魔女。鎮魂の詩は知っているのですよ」
 だからその命を、今は慰めましょうと紡ぐ。この甘い香りに惑わされずあれるように。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ウトラ・ブルーメトレネ
どうして、しあわせそうなの?
「死」がこわくないの?
それは、なぜ?
ひとは「死」をおそれるものだよね?
たすけては、だめ?
死を招く災厄の獣として囚われていた娘の、純然たる疑問
甘く溶け逝く人に「なぜ」と問いたい根底に、本人も自覚しない怒りが

WIZ
ばらのおり、空からながめられるかな?
茨が頭上を覆っていないようなら、竜の翼で空へ
開けた視界を確保し、廃城の庭園を探す
空がダメなら、鼻をくんくん

あまいかおりは、すき
でもこの香りは、ふしぎ
どうせならお花もあればよかったのに
――あれ? お花もないのに、どうしてあまい香りがするのかな?

甘い香りに、見覚えのない男女(父母)の、恐怖に歪んだ顔が見えて気がして
……へんなの。



●ふしぎ
 虹色にうつろう髪をなびかせてウトラ・ブルーメトレネ(花迷竜・f14228)はほてほてと歩む。
 土の感触は湿っていて、裸足には少し冷たい。
 娘の行く手、視界の端に――もそりと動くものがあった。
 なにかしら? と首を傾げて向かう。
 それはまだどうにか生を繋いでいるもの。うっすらと笑みうかべて幸せそうだ。
 そっと触れることはしなかったけれど。ウトラにとってその、笑むものは気になる存在だった。
「どうして、しあわせそうなの?」
 しゃがみ込んで、尋ねるが答えはない。幸せそうな笑みが零れるだけだ。
 『死』がこわくないの?
 それは、なぜ?
 ひとは『死』をおそれるものだよね?
 たすけては、だめ?
 娘はなぜ、と尋ねるばかりだ。
 死を招く災厄の獣として囚われていた娘の、純然たる疑問。
 重ねられるそれは甘く溶け逝く人に『なぜ』と問う。その底に潜んでいるのは、娘も自覚せぬ怒りが潜んでいた。
 その怒りは――答えを返さないことへの怒りではないのだろう。
 何も、答えがない。やがてウトラの興味はなくなって立ち上がると共に視線は空へと向いた。
 空は真っ暗だ。灰を被ったような空は閉塞感しかない。
「ばらのおり、空からながめられるかな?」
 羽根を広げて、少しだけ上へ。
 すると――茨の迷路が途切れている方向がわかる。
 そしてそこには赤い色が見えた。きれいな色、と色彩乏しい場所だからこそ惹かれるものがある。
 あっちね、とウトラは地に軽くおり、すんと鼻を鳴らす。
 あまいかおり。あまいかおりは、すき。
 けれど――この、かおりは。
「ふしぎ。どうせならお花もあればよかったのに」
 そこであれ? とウトラは首を傾げた。
「お花もないのに、どうしてあまい香りがするのかな?」
 ふわ、と漂う。何かを鈍らせ、濁らせて誤魔化して。
 甘い香りがウトラに見せるのは、見覚えのない男女の姿。その、恐怖に歪んだ顔が、ふと過った気がした。
「……へんなの」
 知らない。どうしてそんな顔をするのか、誰なのかも。
 どうして、そんなものを見たのかも、ふしぎ。
「お花、あのあかいのがそうかしら?」
 きっといけば、わかるかなと娘は歩み始める。

大成功 🔵​🔵​🔵​

オズ・ケストナー
だめだと言われてもいきている人を探したい
たすけたいという気持ちで庭園へ

声や呼吸を頼りに探して
見つけたら呼びかけるね

よかったって思うけど
動かしたら壊れちゃう
倒れた人を今度こそ助けられるように勉強したから
なんとなくわかってしまう

息をしていても間に合わないなんて
どうしたらいいの
わからないから手を取る
まだあたたかい
まだいきてる

しぬのがしあわせなんてわからない
わからないよ…

※人形なので涙は出ません

花の香り
なぐめられているような気がして
目を閉じそうになる

掴んでいた人のぬくもりを思い出して
ちがう
忘れちゃいけない
つらいことだけ忘れるなんてむりだよ
わたしは全部覚えている
ぜんぶ、たいせつなわたしの記憶なんだから



●ぬくもり
 助けられるものはおそらくいない。
 けれど、たすけたいという気持ちでオズ・ケストナー(Ein Kinderspiel・f01136)はこの場にいた。
 声、呼吸――耳をすませば微かに聞こえたそれをオズは捕まえた。
 急いで、そちらへ向かって。
 横たわった人を見つける。やせ細った腕。まだ呼吸はしているがとぎれとぎれだ。
 もう一人、傍に居るがそちらはもう――動かない。時を終えている。
 そのもう一人へと、手を伸ばして、倒れていた、青年。
 よかった、生きていると――オズは傍へ向かい声をかけようとした。
 けれど、だ。
 動かしたら壊れちゃう、とまず思った。
 細いその手、その足。ここから動けるような状態でないのがわかる。
 そう、倒れた人を今度こそ――助けられるように。
 オズは勉強してきた。勉強したからこそ、なんとなくわかってしまった。
 助けられないという事を。
「息、を」
 かすかに僅かにしている。それでも間に合わないなんてどうしたらいいのか。
 わからぬままに、自然とその手をそっと、やさしく取る。
 まだ、あたたかい。まだ、いきてる。
 そのわずかな温もりにオズの心は切なさを、痛みを感じている。
 人であれば――その瞳から、涙が零れていたかもしれない。
 けれどオズの眼は乾いたままだ。
「しぬのがしあわせなんてわからない。わからないよ……」
 苦しみも何もないのだろう。
 息を引き取る、その瞬間までオズは傍にいた。
 彼はその瞬間、幸せそうな溜息を零して事切れたのだ。
 ぴくりとも動かなくなり、そして笑みを残したまま冷たくなっていく。
 ふわり、と花の香りが漂って。
 それに慰められているような気がして――オズは目を閉じそうになる。
 けれど、じんわりと指先に残る――人のぬくもりを、思い出して。
「ちがう」
 零れた言葉には強さがあった。忘れちゃいけないと、瞳にはちゃんと意志がある。
「つらいことだけ忘れるなんてむりだよ」
 わたしは全部覚えている。
 ぜんぶ、たいせつなわたしの記憶なんだから――それを手放すことは、してはいけない。
 そう、したくない。
 甘い香りを振り切って、オズは進む。
 誰かを、助けられるように。

大成功 🔵​🔵​🔵​

セリオス・アリス
アレクシス・ミラ◆f14882
と同行

枝を斬って道を開けばいいじゃねえか
面倒なことすんなぁ
文句を言うアレスに迷子になるんじゃねえぞ
とからかい手を繋ぐ

全く慎重っつーか
心配性なヤツだ
ずっとずっと…
10年俺が鳥籠に捕らわれ続けたせいで
10年コイツは俺を助けようとしてた訳だろ
その後も2年
生きてるかもわかんねえのに探し続けて…
一緒にいることはコイツの負担になるんじゃないか
いっそこのままはぐれれば…

手を離しかけ
握り返す力に視線を巡らせる

…大袈裟なヤツだな

態と呆れたように肩を竦める

胸にじわりと広がる暖かさに手を握り返す

俺もだ、アレス
さあ、さっさと先に行ってこのぬるい死を救いと呼ぶふざけたヤツをぶっとばそうぜ


アレクシス・ミラ
セリオス・アリス(f09573)と行動

死は救い、とはよく聞くが
理解できない…という訳ではない
僕はセリオスを救いたいが為に
10年戦った。2年旅した
その間…何度も死にかけた
それでも、僕は…

▼行動
人が通った跡があるんじゃないか?よく観察して…
…枝を斬ろうとしないでくれ…

思考が溶かされるような香り…マントで防げるか?
セリオス、気をつけて
…セリオス?
何処か様子がおかしい彼に焦り、彼の手を掴む
名前を、言葉を叫ぶ

…僕は、死の救いだけは望まなかった
生きることを選んだ。運命と戦うことを選んだ
だって、それは
君と未来を生きたいからだよ、セリオス

戻っ、た…?もう、手離さないでくれよ…!
…無論だ。征こう。運命を変えに!



●繋
 死は救い、とはよく聞く。それを理解できない…という訳ではない、とアレクシス・ミラ(夜明けの赤星・f14882)は、枯れた茨の枝を斬って進むセリオス・アリス(黒歌鳥・f09573)の背を見詰め思う。
 彼を、セリオスを救いたいが為にアレクシスは10年戦った。そして、2年旅した。
 その間――何度も死にかけた。死はアレクシスにとって決して遠いものではなかったのだ。
(「それでも、僕は……」)
 ぼんやりと、考えていると聞きなれた声が響く。
「面倒なことすんなぁ」
 雑に茨を切る。その様子にアレクシスはよく観察して、と紡ぐ。
「人が通った跡があるんじゃないか? ……枝を斬ろうとしないでくれ……」
 そんなアレクシスに迷子になるんじゃねえぞとからかいながら、セリオスはその手を取った。
 はぐれないように、ひっぱるように。
 全く慎重っつーか、心配性なヤツだ、とセリオスは口端を上げて笑い、アレクシスを見詰める。
 ずっとずっと……アレスは、と。
(「10年。10年だ……俺が鳥籠に捕らわれ続けたせいで」)
 10年コイツは俺を助けようとしてた訳だろ、とじっと見る。
(「その後も2年――生きてるかもわかんねえのに探し続けて……」)
 ふわ、と花の甘い香りがセリオスをくすぐる。
 己の気持ちが僅かに傾いだような気がした。
 一緒にいることはコイツの負担になるんじゃないか――いっそこのままはぐれれば……と。
 ぼんやりと、意識の輪郭が解けていく。
「セリオス、気をつけて……セリオス?」
 息を吸えば、甘い香りが包み込むように馨っていた。
 アレクシスは思考が溶かされるような香りにマントで防げるかと鼻を覆う。
 しかし名を呼んでも反応が薄い。それに繋がる手の力も緩んで――離れかける。
 けれど、ぐっとアレクシスはその手を握った。離さなかった。傍に居るのだから話してはいけないと、思ったのだ。
「……僕は、死の救いだけは望まなかった」
 生きることを選んだ。運命と戦うことを選んだ。
 だって、それは――君と未来を生きたいからだよ、セリオス、と。
 その気持ちを乗せて、セリオス! とアレクシスは再び名を呼ぶ。
 その力に引き戻されセリオスははっとして、視線を、巡らせた。
 互いに、瞬く。
 お互いの青い瞳に、互いの姿を映して。
 本当に短い時間の事だったのだ。それでも、長く感じた時間。
「戻っ、た……? もう、手離さないでくれよ……!」
「……大袈裟なヤツだな」
 態と呆れたように肩を竦め苦笑してみせる。けれどその心の内は、胸にじわりと広がる暖かさを感じていて。
 ぎゅっと、同じようにその手を握り返した。
「俺もだ、アレス」
 そして、小さくセリオスは零し、アレスと紡ぐ。
「さあ、さっさと先に行ってこのぬるい死を救いと呼ぶふざけたヤツをぶっとばそうぜ」
「……無論だ。征こう。運命を変えに!」
 死の間際に立って、越えてきて。
 今は二人だから――死ぬことなど、ない。
 一層、繋がりを強めて二人は進む。



 茨の迷路を踏破した先――そこは開けた場所。
 嘗てはそこで、人々が笑顔で過ごしていたのかもしれない。
 朽ちた屋敷の傍、ここもまた庭の一端ではあったのだろう。
 しかし今は――墓場だった。
 骸が重なり合う、墓場。それはすでに骨になったものばかりだ。
 そして弔うかのように――その上に、赤い花が咲いている。いや、苗床にされているのかもしれない。
 甘く、かぐわしく。重い香りをこれでもかというほどに、撒いて。
 そして一際高く、積み重なる骨の山がある。
 その上で赤い花を咲かせながら、深い香りを放ちながら――この場の主はただ、笑っていて。
 そしていらっしゃい、と猟兵達を歓迎した。
 あなたも、この香りに囚われて何もかも、捨てて、幸せになりにきたの? と。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『スケルトン』

POW   :    錆びた剣閃
【手に持った武器】が命中した対象を切断する。
SPD   :    バラバラ分解攻撃
自身が装備する【自分自身のパーツ(骨)】をレベル×1個複製し、念力で全てばらばらに操作する。
WIZ   :    骸骨の群れ
自身が戦闘で瀕死になると【新たに複数体のスケルトン】が召喚される。それは高い戦闘力を持ち、自身と同じ攻撃手段で戦う。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●骸の弔い、救いの主
 重なる骸の、骨の上で微笑んでいたのは大剣を持った少女だった。
 けれど猟兵達は知っている。それは救済の代行者・プレアグレイスという名の、オブリビオンである事を。
「救われに、いらっしゃったの? あら……違うのね」
 くすくすと笑み零しながら、プレアグレイス立ち上がる。
 彼女の元から赤い花が零れ落ちた。
 ぽとり、ぽとりと――咲き誇る花が歩くたびに零れる。
「この救済の楽園を壊しにきたのね? そんなの、許されないわ、許さないわ」
 そうでしょう? と彼女が囁くとかたかたと足元の骨たちが動き出す。
 がたがたと動いて、己の身体は何処にある、此処にあると拾い上げて繋いで、立ち上がる。
 骨となった屍たちが、猟兵達の前へと鈍い動きで立ちふさがる。
 プレアグレイスとの、間に。
「わたしも許さないけれど、先に朽ちた彼らが許さないわ。邪魔をしないで、幸せに死んで、いけるのだから」
 そう言って、笑う。醜悪に。
 彼女がいた骸の下にあったのだろう。重ねてあった錆びた武器を手に、骨となった骸たちは猟兵達へと向き直る。
 彼らは今、プレアグレイスに使われているのか。
 それとも、望んで動いているのか――それは、わからないのだが。
 殺して、仲間にしてしまえとプレアグレイスは紡ぐ。
 ゆるりと歪な動きで、骨の骸たちは動き出し猟兵達へと、その刃を向ける。
 骨の骸たちが阻む限り、プレアグレイスの首元へと刃付きつけることはままならない。
葦野・詞波
救われに来た?面白い事を言う。
世迷言を聞きにきた訳ではないのだが。
救いも、赦しも。
他人に求めたことは、一度も無い。

プレアグレイス。
私は私の意志で、生者と死者を弄ぶ魔窟を壊す。
お前の赦しなど、最初から要りはしない。

退け、屍。
悪いが、私は死者の嘆きを聞いてやれない。
死者と生者は、住む世界が違うのだから。
生者の未来を奪ってくれるな。
愚痴や嘆きは、いずれ聞いてやる。そう遠くはない。

接敵前に敵中に【槍投げ】。
【範囲攻撃】【衝撃波】で敵を崩す。
敵中に飛込んだ後
味方巻き込まぬよう【人狼咆哮】だ。
敵剣閃は【見切り】で対処。

瀕死の敵は厄介だ、高い威力の攻撃か
連携で畳み掛けて瀕死にせずに
葬って行く方が良いだろう。


エンティ・シェア
あぁ、わかりやすい。これは「僕」の仕事だ
彼らがどんな経緯でそうなって、どんな思いでこちらに刃を向けるのかなんて、僕には関係ありません
僕の仕事は、ただ、殺すことです

手数を増やすためにもうひとりを呼んでおきます
獣奏器を渡しておきますので適当に骨を殴っていなさい
攻撃は、当たらなくてもいい。半分囮になってくれれば役目は果たせている
それは、僕も同じ。他にも猟兵が居るのは把握してますので
彼らが動きやすいよう、せいぜい敵の邪魔をしてやりますよ

血が流れるなら好都合。誰のでもいい、糧にして僕は己の武器を振るいます
砕いてしまえればいいのだから、多少使い方に倣わずとも、構いませんよ
僕がしたいのは拷問じゃない。駆逐だ


神宮時・蒼
…悲観。…此れが、彼らにとっての、幸せ、だった、のでしょうか。
…なんて、問うても、返事は、ない、でしょうね。
…此れは、死への、冒涜、です。…許され、ません。
ならば、今度は、永遠の、お別れを…。

瀕死で新手を増やされると厄介です。なるだけ集中して各個撃破と望みたいところですね。全力魔法で一斉に焼き払ってしまえば、骨も残らないでしょうか…。
骨の攻撃は、鎌で薙ぎ払って対処しましょう。
近接されてしまったらば、鎌で打ち払います。

今度はどうか、どうか、幸せな未来を…。



 骨の骸は次々と起き上がる。その向こうに見えるプレアグレイスはただただ、微笑みを浮かべていた。
「救われに来た? 面白い事を言う」
 その姿を瞳に映し、詞波は吐き捨てるように紡ぐ。
「世迷言を聞きにきた訳ではないのだが。救いも、赦しも。他人に求めたことは、一度も無い」
 詞波はまっすぐ、迷いなく。己が前に立つべき敵を見定めていた。
「プレアグレイス――私は私の意志で、生者と死者を弄ぶ魔窟を壊す。お前の赦しなど、最初から要りはしない」
 一歩、踏み出す。
 その手に持った槍を詞波は骨の骸たちの前へと投げた。その衝撃を真正面から喰らって崩れる者もいる。
 その槍を再度掴んで敵の中へ踊るように飛び込み、身を沈めた。
 そして――すぅ、と息吸い込んで放った咆哮が戦場に響く。それにがらがらと音たて身を崩す骨の骸。
 しかし、その中で生き残ったものが己の身を増やし投げ放ってくる。
 それを詞波はかわし、さらに攻撃を畳みかけた。
 戦場の匂い染みついた槍を詞波は存分に振るいその骨を砕き、再び葬り去る。
 敵を倒せば良い――あぁ、わかりやすいとエンティは思う。
 これは『僕』の仕事だと。
 どんな経緯でここに来て、死して、そして骨の骸となって。
 今そこに心があるのかどうかわからないが――もしあるならば、どんな思いでこちらに刃を向けるのかなんて――エンティには関係ないこと。
「僕の仕事は、だた、殺すことです」
 はい、と傍らのもうひとりへと獣奏器――内部に鈴を仕込んだ杖を渡した。
「適当に骨を殴っていなさい」
 攻撃は当たらなくてもいい。囮になってくれれば役目は果たせるのだから。
「それは、僕も同じなんですけどね」
 敵が投げる骨をもうひとりが杖で砕く。その後ろを縫うように動いて、エンティは敵の気を引く。
 囮として気を引いた瞬間に――ほら、とその視線の先。
 機と見て他の猟兵が攻撃をかける。仲間達が戦いやすいようにと動いていたエンティとしては狙い通りだ。
 血が流れるならば、誰のでもいい、糧にして己の武器を振るえもする。
 が、骨ならば砕いてしまえばいい。使い方に倣わずとも、問題はない。
「僕がしたいのは拷問じゃない」
 駆逐だとエンティは紡いで。もう一人と共にとどめと、骨の骸を殴打する。
 骨の身は砕かれ鈍い音が響く。その音の響きは重く、蒼は瞳伏せた。
「……悲観。……此れが、彼らにとっての、幸せ、だった、のでしょうか」
 なんて、問うても返事がない事を蒼は知っている。
 骨となっても起き上がることになったもの達。
 それは蒼の目には、どう映っているのか。
「……此れは、死への、冒涜、です。……許され、ません」
 ならば、今度は。
「永遠の、お別れを……」
 それが蒼にできることで、骨の骸達のあるべき場所なのだから。
 瀕死になって新手を増やるのも厄介、と蒼は思う。
 なるべく攻撃を集中して各個撃破を。
「……全力魔法で、すべて」
 焼き払ってしまえば、骨も残らないのでは――とも思うのだが。
 今ここでそれをするのは仲間の猟兵達も多い。
 と、振り下ろされてくる錆びた色が見えて蒼は鎌で受け止め、そのまま薙ぎ払う。
 砕けていくくすんだ色の骨。その様を琥珀色の瞳に映して、蒼はその唇から言葉零す。
「今度はどうか、どうか、幸せな未来を……」
 祈るように呟かれた言葉。骨の骸達にその気持ちが届くかどうかは定かではないのだが、響きはとても優しかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アルノルト・ブルーメ
此処に来る道中……楽園など無かった気がするけどね
あったのは、悪趣味な誘惑くらいで

あぁ、今のこの状況も充分に悪趣味だけれどね?

何にせよ、アレを排除するには前哨戦が必要か

血統覚醒使用
骸達にはViperからの先制攻撃を仕掛け
なぎ払いで2回攻撃を

攻撃は基本、Viperを操って対応
こちらが負傷した場合は
その流血を用いてVictoriaを起動させて使用
対であるLienhardは骨相手では些か不服かもしれないね……

仲間の立ち位置や状況は出来るだけ掌握して
大きな被害が出ないよう
必要ならばViperで援護を行う

骸が彼女の言う『救済』を成された者なら
ここで、僕達がきちんと終わらせてあげるよ
だから、おやすみ


満月・双葉
さて、まずは効率重視で行きましょうか

他の猟兵との連係重視

戦場へ突入と同時に戦場の状態を把握

地形の利用で効率的にダッシュで動き回り虹色の残像で翻弄していく

有利と判断すれば空中戦で上からの攻撃も行う

お兄ちゃんの銃で上から攻撃すると共に、地上でもすぐ側の敵へのゼロ距離射撃も行う



本で殴りつける気絶攻撃

置物を投げつける投擲

大根による串刺しからの傷口を抉る2回攻撃



第六感や野生の勘も利用しつつ視力、暗視、聞き耳と全ての感覚をフル活用し見切る

見切れないものは盾受け、武器受け、オーラ防御などあらゆる手段で凌ぐ

ダメージは激痛体制で凌ぐ

また、敵を盾にして他の敵の攻撃を受けて同士討ちを起こさせ数を効率的に減らしていく


鹿忍・由紀
折角幸せに眠ってたところを再び起きてもらって悪いね。
後ろのやつを倒さなくちゃ俺たちも帰れないから、退いて。

一応プレアグレイスが援護してこないか警戒しつつ戦おう。
立ち位置は中衛~後衛あたりで視野を広めに確保。
とりあえず壁になってるスケルトン達をユーベルコード影雨で範囲攻撃。
一掃とまではいかなくても複数体削っていければ上々かな。
こちらに向かってくるスケルトンには影雨を集中させ攻撃兼バリケードとして使う。
それでも止まらないやつがいたら「見切り」で避けつつ「二回攻撃」でダガーによる斬撃を。
あーあ、そんなに向かって来られても、俺は幸せに殺すことなんて出来ないよ。と、面倒くさそうに呟いてみたり。



「此処に来る道中……楽園など無かった気がするけどね」
 あったのは、悪趣味な誘惑くらいで、とアルノルトは紡ぎ、あぁと緩く零す。
「今のこの状況も充分に悪趣味だけれどね?」
 何にせよ、アレを排除するには前哨戦が必要かとアルノルトはその緑色の瞳を真紅へと変える。
 ヴァンパイアの力を解き放ち軽く頑丈なワイヤーをしならせ振るう。横に薙ぐように払えば、複数の骨の骸を捕まえて払う。
 そこへ他方から、錆びた剣を振り下ろしてくる骨の骸。それはひゅっとアルノルトの身を削り、血を流させる。
 その血を一見ナイフのような戦闘用処刑道具に与え、起動する。
「骨相手では些か不服かもしれないね……」
 そしてそれと対になる異端の血を啜る呪われた黒刃の黒剣。血の通わぬ相手では得るものもない。
 その二つも古いながらアルノルトは骨の骸たちと対する。
 この骸が――あの元凶たるものの言う『救済』を成された者なら。
「ここで、僕達がきちんと終わらせてあげるよ。だから、おやすみ」
 紡いで、アルノルトは骨の骸たちを制す。そして他の仲間達は、と視線を巡らせた。
 すると双葉と目があって、その骨の骸たちの一部を請け負うと頷きあう。
 アルノルトはわざと、数体を其方へ零し双葉が対処を。
「さて、まずは効率重視で行きましょうか」
 双葉は走り込み、兄が昔使っていた銃を構え撃ち、本で殴りつけ、己の持ちうるもので双葉は攻撃を仕掛けていく。
 その攻撃で弱る骨の骸は新たに複数体、仲間を呼び起こす。
 地に落ちていた骨はカタカタと震えて集い、たとえその身を構成する者が足りずとも、立ち上がり双葉へと襲い掛かった。
 不意打ちのようなそれに攻撃を追うが痛みはなんとか堪えられる。
 死ぬほど痛い、という程もないのでまだ戦えると双方向から走ってきた敵を身を沈めてかわす。
 骨の骸は群れ為して。プレアグレイスへと近づけぬように守っている。
「折角幸せに眠ってたところを再び起きてもらって悪いね」
 ちらりと、由紀はプレアグレイスへと視線を向けた。何かしてくる――とは、今の所思えないが警戒もしておくべきかと。
「後ろのやつを倒さなくちゃ俺たちも帰れないから、退いて」
 そう言っても簡単にそうしてくれないこともわかってはいる。
 すぅ、とその手を上げれば己の影からぬるりと浮かび上がるものがある。
「貫け」
 その言葉と共に影から出でたダガーは、骨の骸達を容赦なく貫いていく。
 全てを一層、とまではいかなかったがそれでも十分だ。
 錆びた剣を持って近づく骨の骸。それに気付いた由紀ダガーを再び生み出し集中攻撃する。
 その攻撃で骨は砕け散って地に落ちる。
 骨の骸たちは己と同じものが砕かれても、自身もそうなるとは思っていないのだろう。
 その歩みに、攻撃に迷いなど無く攻撃をかけて来る。
「あーあ、そんなに向かって来られても、俺は幸せに殺すことなんて出来ないよ」
 どうしても仲間にしたいのかと由紀はふ、と息を吐く。面倒くさそうに呟いた言葉の意味を、骨の骸達は理解できない。
 ああ、なんだかちょっとかわいそうな、気もしないでもない。
 その幸せだけ抱いて、ずっと眠ってられたらよかったのにねと由紀は言って己の魔力で影より生み出したダガーを振るう。
 ダガーの刃は骨の骸達を貫き、そして砕いて再び地へと返す。
 今度こそ、ゆっくりとお眠りと。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

芥辺・有
……何にせよ、また眠ってもらう。それだけだ。

第六感で危ないと感じる攻撃のみを見切りつつ、多少の傷を負うことは構わない。
避けきれない、と感じた攻撃には手近な骨の首に蚦蛇を絡み付かせてひっつかむ。それをそのまま盾にして攻撃を避けよう。

攻撃手段は動くままに。
遠くにあるなら銃で撃ち込み、手近な奴には杭を振るう。囲まれれば蹴りと衝撃波で吹き飛ばそう。
奴等からの攻撃で血が流れていたなら、列列椿で視界の骨を穿ち、はらう。


ヴェルベット・ガーディアナ
死ねば今より楽だなんて考えなきゃいけない苦しさなんて理解なんかしてないくせに…そんな風に簡単に死に導く事は許さない。死んだ後の安寧をこんな風に踏みにじるのを許さない。
ごめんね…ボクは骸になった貴方達をもう一度殺す…。
【戦乙女の審判】乙女よどうか力を貸して。
ボクは【援護射撃】や【二回攻撃】で援護をするよ。
戦乙女が導くのは戦士の魂だけれど…もう一度確かな死を…


ジュマ・シュライク
哀れですわね。
死してなお何かを守らんと怒り狂うものども。
安らぎのために眠ったのではなくて?
心穏やかであれば、猛る必要などなくてよ。

後方に位置し、銀狼を召喚し戦わせる。
他の猟兵とも協力しましてよ。
距離は常に気を付けるけれど、接近を許したならば、仕方がないから人格を切り替えて戦いますわ。
急に戦闘スタイルが変われば、だまし討ちのようにもなるかしら。

アタシは人の形を残してやりたいと思うけれど。
シュライクは形など大切にしませんわよ。

アタシは死ではなく、死者を手繰るもの。
過去の残滓を掬うもの。

……奴がそないなら、自分は死を生み、死者を砕くもんやろな。
ずっと寝とった骨なんぞ、脆いわ。

アドリブ・アレンジ歓迎


リオ・フェンブロー
POW
先に朽ちた彼らが許さない、ですか
ならば、呼び出しも呼びかけもしないままに
眠らせておけば良かったのでは? レディ
(独り言のように息をつき

死者には弔いを
それこそ、生者の特権なのですから
それをー…貴方方が望むとも望まぬとも

射撃による援護を主体に
瀕死で止まるものを出さぬように破魔の銃弾にて狙い撃つ
援護射撃の他に、誘導弾であちらの意識を反らせれば幸い

敵の武器は銃弾で対応できなければ受ける
死ぬつもりはない
えぇ。今日はその日では無いのですから

スケルトンの群が減らない、数を落とす時は一斉発射にて
前にいる仲間には声をかけておきましょうか

全武装展開
死者を穿て、アンサラー 。次こそ永遠の眠りを

アレンジ歓迎



 骨の骸達を有の視線が撫でる。彼らに向ける気持ちは、と言えば深く憤るようなものは――有の心に、今はなかった。
 また動き出す必要など、ないだろうにと、そんな気持ちくらいしかない。
「……何にせよ、また眠ってもらう。それだけだ」
 多少の傷を負う事も厭わず。有は敵の攻撃を視界の端に捉えて蛇の尾を模った、黒い鎖状の武器飾りを躍らせた。
 それを近くにいた骨の骸の首に絡みつかせ、ひっかけて。そのまま引けば、錆びた剣の落ちる先の盾となる。
 己の身を盾とされた骨の骸は暴れ、有の元から離れようとしていた。
 逃がさない、と零して。己の血を代償とした杭を有は生み出す。
 その無数の赤い杭は敵へと突き刺さりその骨を砕いて倒していく。
 視界の中に映る骨たちは散って、砕けてもう元には戻らないのだ。
「ごめんね……ボクは骸になった貴方達をもう一度殺す……」
 ヴェルベットは目の前でカタカタと揺れる骨の骸達へと瞳伏せて告げる。
 そして傍らに戦乙女を召喚する。その手に槍をもち、それを振るえば骨の骸たちは弾けるように崩れていく。
「死ねば今より楽だなんて考えなきゃいけない苦しさなんて理解なんかしてないくせに……」
 ぽつりとヴェルベットは骨の骸の向こうに見えるプレアグレイスの姿に思わずと言ったように零した。
 そんな風に簡単に死に導く事は許さない。
 死んだ後の安寧をこんな風に踏みにじるのを許さない。
 ヴェルベットも護身用の、光の精霊と契約をした銃を振るう。ヴェルベットが二度撃っても、なお動いていた骨の骸を戦乙女の光の矢が射抜いた。
「戦乙女が導くのは戦士の魂だけれど……もう一度確かな死を……」
 矢に打ち抜かれた骨の骸は動きを止め、再びの眠りにつく。
 無理矢理起こされ、そしてまた再び眠りについていく。
 そんな骨の骸達の姿に哀れですわね、とジュマは錆びた剣の一撃を避けて一歩下がる。
「死してなお何かを守らんと怒り狂うものども。安らぎのために眠ったのではなくて?」
 心穏やかであれば、猛る必要などなくてよと、再び動き始めた者達に向ける言葉は優しい響きではあるはずなのに、そうではない。骨の骸達から少し距離を取って、ジュマは召喚する。
「穿て我が剣……意志無きしもべ」
 それは銀色の大狼だった。大狼はジュマの傍らに現れ、骨の骸へと飛びかかる。
 敵との距離には常に気を付けて接近を許さず距離をとるつもりだが――骨の骸、その数は多い。
 ふっと視界の端に迫る影が見える。
「アタシは人の形を残してやりたいと思うけれど。シュライクは形など大切にしませんわよ」
 アタシは死ではなく、死者を手繰るもの。過去の残滓を掬うもの――シュライクは、と問い掛けながらジュマはその身を明け渡す。
 振り下ろされる錆びた剣を、ジュマは――シュライクは足を振り上げて飛ばした。
「……奴がそないなら、自分は死を生み、死者を砕くもんやろな。ずっと寝とった骨なんぞ、脆い」
 柄の長いメイスを振れば、近づく次の手を砕く。その破片が近くの猟兵へと飛んで、悪いとシュライクは一言向けた。
 気にせずに、と――その猟兵、リオは答える。
 リオの瞳は死者には弔いを、と揺らめく。
 それこそ、生者の特権。それを――……貴方方が望むとも望まぬとも。
 言葉を持たぬ骨の骸達をここへ導いた者――プレアグレイスの方へ、リオは視線を向けた。
「先に朽ちた彼らが許さない、ですか」
 よく言う、と独り言のように言葉零れる。
「ならば、呼び出しも呼びかけもしないままに眠らせておけば良かったのでは? レディ」
 彼女に聞こえているとは思わない。独り言ちただけだ。
 嘆息交じりの言葉を落とし、リオは漆黒のアームドフォートを構える。
 近づいてきた骨の骸の攻撃を銃弾で払い、攻撃を受け流す。
 その攻撃を受けるつもりはない。死ぬつもりは、ないのだ。
「えぇ。今日はその日では無いのですから」
 このような所で、果てる命ではない。ここで使い尽くす命ではないとリオは思う。
 一斉射撃の構え。その気配にシュライクは銃弾の道を開ける。
「全武装展開――死者を穿て、アンサラー 。次こそ永遠の眠りを」
 放たれた銃弾に骨の骸達の姿が砕かれ、消えていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ジャックジャレッド・ジャンセン
蕩かし惑わせ葬り去ることが救済とは烏滸がましい
天上の地獄の如き虚ろな楽園に終止符を

血統覚醒を行使し能力強化
無尽蔵に増援を召喚されては厄介極まるが
瀕死に陥る瞬刻も無く確実に討ち果たせば何ら問題はあるまい
杖を以て相手を務め乍ら敵の挙動を観察
技術の有無に拘らず癖や調子に滲む個性を見極め捉えることは有為
無為に負傷を重ねぬよう攻撃を受け流し
隙を見出せば即座に反撃に転じよう
リザレクト・オブリビオンで呼び醒ました騎士と竜に命じ疾く容赦無く仕留めさせる

屍兵等も犠牲者と思えば只々哀れ
此度こそ静かに眠るが良い


*アドリブ、連携歓迎


オズ・ケストナー
プレアグレイスから零れ落ちる花が
人の血みたいでいやだなと思う
どれだけの人のいのちを吸ってきたのかと考えてしまうから

仲間…
それじゃあ、きみたちは
ここまでにたくさんみた人たちの、たどりついた姿なの

そんな姿になって、使われるのが救いだっていうの?
いいよ
ゆるされなくたっていい
わたしは、わたしの意思できみたちをここから引きはがすね
そんな「救い」は止めなきゃいけないって思うから

本当にしあわせを願うならあんなふうに笑わないよ

シュネーは少し休んでいて
最初から全力で
ガジェットショータイム
斧を振り回して【範囲攻撃】も
攻撃は【武器受け】で防ぐことを試みて
前へ前へすすむよ

ごめんね
仲間になるわけにはいかない
そこを通して


ニケ・セアリチオ
――!

歪に動く躯に息を呑む
死しても尚、安らぎを得られぬのだろうかと


朽ちていった彼らの気持ちは、私には推し量れない
しあわせそうに果てる様を、私が止められるべくもない
でも――でも、これは。ちがう。
行く末が『こう』なるだなんて。あまりにも。

湧き上がる感情が
かなしみなのか、いきどおりなのか
もしくは、それ以外の何かなのか
未熟な私には分からぬまま
ただ、杖を握る手には力が込められて

己が出来得る限りの、破魔の風を纏わせて
鳩の花を一面に咲かせましょう
ひとつたおして、ふたつたおして
みっつ、よっつ、いつつ
群れある限り、視界に在る限り
全てを、出し尽くすようにして



幸せを信じた心の先
『これ』は、認めてはならないものだ


玖・珂
救いも、誰の許しも要らぬ
己が矜持で持って此処に来たのだから

墓場に満ちる香りは一段と鼻に付く
長杖の羽雲を灰色の空へ掲げ全力魔法で起こすは細氷の風
花の香を氷晶に封じてしまおう

寒害よろしく骸に座す神様の花も凍ってしまえばいいのだが
そう都合良くはいかぬな

望もうと望まざるとも
朽ちた者達が立ち塞がるならば葬るのみ

敵に背後は晒さぬよう立ち回り
攻撃は杖や爪でいなすなど第六感も駆使して回避しよう

瀕死となり群れを召喚されては埒が明かぬ
ダメージの多い敵を優先して狙い
怪力をのせた長杖での打ち、突きの2回攻撃で砕いてゆくぞ
……すまぬな

願わくば囚われる事無く
安らかに眠っていて欲しいものだ


ウトラ・ブルーメトレネ
こたえは、もらえなかった
なのに。みつけたお花は、もっと分からないことを言うの
きゅうさいって、なぁに?
しあわせに、死んでいけるって、どういうこと?

募る苛立ちを自覚して、愛刀を抜く
骨の骸たちは、「かわいそう」な筈なのに「じゃま」と心が先走る
だってこの骨たちも、うーに答えてくれない
帰れないなら、戻れないなら、『敵』ならば。斬り捨てるだけ
じゃま、じゃま、邪魔!

【剣刃一閃】で敵を薙ぎ払い、赤い『花』を目指す
置き忘れた協調は、攻撃を喰らう痛みで思い出す
だめ、だめ
わたしは死にたくない
死は『こわいもの』
懸命に踵を返し、剣戟を頼りに他の猟兵の元へ
飛んでプレアグレイスの位置を再確認、突破しやすいルートを伝える


リリウム・コルネリウス
wiz

――一つ異なれば、私が彼女と同じ者になっていた。そんな気がします
でも私は、赦さない
「死に惹かれないと言う嘘は、つきません。紛れもなくそれは、私自身が感じた事」
……でも、私は私の信じる主の御心に従います
生死は主の権限であり、他者が判断するなどおこがましい

白百合の風で攻撃を
「死は甘美です。もう辛くない」
「救済のプレアグレイス……救い、それが死ですか?生死については、私達の越権行為では?」


斎部・花虎
【POW】
救済と云うには聊か無粋だ
…おれの手で、掬い上げる事は、叶わなかったが
ならばやれる事はひとつきり
――こんな事に遣われぬ様、再びの眠りを

破魔のちからは之にも効くだろうか
気休めだが、祈りの寄す処くらいにはなるだろうか

ブラッド・ガイストにて装備武器を強化の後、
甕星にて一体ずつ確実に仕留める
血を流す事など造作もないよ
…おまえたちはそれ以上に辛く苦しい想いを重ねているのだろ
相対するならば、それを負う覚悟など疾うに固めている

一閃、真正面から受け止めよう
向けられた武器を掴みに掛かる
動けるのならばおれが屠るし
そうでないのならば、他の猟兵に薙いで貰おう


アレクシス・ミラ
セリオス・アリス◆f09573と行動

…何故、戦おうとする。何故、安らかに眠らせない
…ああ。分かっている。…感情に飲まれるな…あれは、骸だ
仮に骸に魂が宿ってるとしても、彼らは戦う事を選んだ
ならば、此方も相手になろう
征こう、この死の連鎖を終わらせる!

敵の攻撃は剣で「武器受け」、滑らせるよう距離を縮め、斬る
【絶望の福音】で避け、隙が生まれたところで「カウンター」を狙い「怪力」で叩き斬る
全て躱してみせるとも
セリオスが攻撃されそうな時は庇い、絶望の福音で避ける
君はもう少し守りを覚えた方が…はあ、聞いていないな
…分かった。君が剣なら僕は盾となってみせよう
援護する。守りは任せてほしい
君は存分に戦ってくれ


セリオス・アリス
アドリブ歓迎
アレクシス・ミラ◆f14882
と同行

のまれるなよ、アレス
コイツ優しいからな…
大丈夫かと横目で表情を確かめ
よぉし、じゃあ
さっさと解放してやろうぜ

【青星の盟約】を歌い速度をあげ攻撃回数を増やす
『ダッシュ』で敵陣に飛び込み『2回攻撃』で両の腕を叩き折り胴体を蹴飛ばす
特に守りの姿勢は見せず
飛ぶ様に敵の間を駆け斬りつける
攻撃は『見切り』ギリギリで回避
…っと悪ぃ
アレスに庇われたら小言が飛んでくる前に『先制』しておこう
「頼りにしてるぜ♡」ってな
ふざけて言いはしたが
頼りにしてるのは本当だ
後ろを気にせず戦えるのは楽でいい
おらよ、これで終わりだッ!
風の『属性』を込めた斬撃の『衝撃波』でまとめて打ち砕く



「――!」
 歪に動く躯に、ニケは息を呑む。
 死しても尚、安らぎを得られぬのだろうか――眠ることなく起きて、動いて。
 彼らの気持ちは自分には推し量れないとニケは金色の瞳を伏せる。
 しあわせそうに果てる様を、私が止められるべくもない――でも。
「――でも、これは。ちがう」
 行く末が『こう』なるだなんて。あまりにも、と。
 その先の言葉をニケは飲み込んだ。
 湧き上がる感情は複雑な物だ。
 かなしみなのか、いきどおりなのか。もしくは、それ以外の何かなのか――それはまだ、ニケには分からぬままのもの。
 けれどぎゅっと、風を司る魔杖を握る手には力が込められている。
 この場で己のできうる限りの事を。
 破魔の風をひゅう、と躍らせて、纏わせて。
「――――咲いて!」
 ペリステリア・エラタの花弁を一面に。
 その花は、骨の骸に眠りをひとつ。ふたつ。
 みっつ、よっつ、いつつ、と。
 群れある限り、視界に在る限り破魔の風と共に舞い踊る。
 全てを出し尽くすようにして、ニケは己の力を紡ぐ。
 幸せを信じた心の先――『これ』は、認めてはならないものだと自身の内で紡がれる思いがある。
 ほとほとと、プレアグレイスの元から零れ落ちるあの赤い色。赤い、花。
 人の血みたいでいやだなとオズは思う。
 どれだけの人の命を吸ってきたのか――そう、考えてしまうからだ。
 仲間にすればいいとプレアグレイスは言っていた。
 それじゃあ、きみたちはとオズは問う。
「ここまでにたくさんみた人たちの、たどりついた姿なの」
 そんな姿になって、使われるのが救いだっていうの?
 オズはそんなの、ないと思う。これが救いだとは思えないのだ。
「いいよ。ゆるされなくたっていい」
 わたしは、とオズは揺れる瞳に強さを宿す。
「わたしの意思できみたちをここから引きはがすね。そんな『救い』は止めなきゃいけないって思うから」
 そう思うのは――プレアグレイスの表情を見たからだ。
「本当にしあわせを願うならあんなふうに笑わないよ」
 シュネーは少し休んでいて、とオズは紡いで身の丈ほどある斧を手にする。
 向かってくる骨の骸達へ、回転の速度を載せてまとめて吹き飛ばし、前へ前へと進む。
「ごめんね」
 心にある想いは、一体何なのだろうか。
 向かってくる骨の骸たちへとごめんねと零れていた。
「仲間になるわけにはいかない。そこを通して」
 プレアグレイスの元へ、いかなければいけないからとオズは紡ぐ。
 蕩かし惑わせ葬り去ることが救済とは烏滸がましいとジャックジャレッドは思うのだ。
 もう死した者達にとっては幸せなのかもしれないがそれでも――傍らから見れば到底そうは思えないのだから。
「天上の地獄の如き虚ろな楽園に終止符を」
 小さなつぶやきを零すと共にジャックジャレッドの瞳は紫から赤へとその様を変えていく。
 無尽蔵に増援を召喚されては厄介極まるが、とジャックジャレッドは呟く。
「瀕死に陥る瞬刻も無く確実に討ち果たせば何ら問題はあるまい」
 振り下ろされた錆びた剣。それを栄華の残骸を戴く重厚な杖でもって受け、薙ぎ払えばそのまま、骨の躯は朽ちて行く。
 無為に負傷をせぬ様に攻撃を受け流し。ジャックジャレッドはかわしたその次には即座に反撃を。
 少し、骨の躯たちと距離をとって召喚したのは死霊騎士と死霊蛇竜だ。
 呼び醒ました者達にジャックジャレッドは命じる。騎士と竜は容赦なく、その言葉を受けて攻撃を仕掛けていく。
「只々哀れな……此度こそ静かに眠るが良い」
 ジャックジャレッド自身は騎士と竜を操るために動けない。
 攻撃を受ければ二体は消えてしまうが、注力するのは正面だけでいい。
 その後ろで他の猟兵が戦っているからだ。
 救いも、誰の許しも要らぬ。
 珂が此処に立っているのは――己が矜持ゆえに。
 甘い香り。満ちる香りが一段と鼻につく。珂は一つ息を吐いて、その手を掲げた。
 すると空翔ける白い猛禽の姿した精霊が、求めに応じて白い長杖へと姿を変える。
 灰色の空へ掲げられた長杖。その力を貸して、全力魔法で珂が起こすは細氷の風だ。
 花の香を氷晶に封じてしまおうと、冷たき風が吹き荒れて、その甘い香りが薄れていく。
「寒害よろしく骸に座す神様の花も凍ってしまえばいいのだが、そう都合良くはいかぬな」
 その風を厭うたか。骨の骸達がぞろぞろと緩慢な動きで迫る。
 立ち塞がるならば珂がとるのはひとつ。葬るのみだ。
 その背を見せぬように珂は立ち回る。
 鐵の装甲はその両の手の五指を覆う。払えば、骨の上を走る傷跡。攻撃をその手の爪で、そして手にしている杖でいなして珂はかわし攻撃へと繋げる。
 半端に削り群れを呼ばれては埒が明かない。
 己が与えた傷の多い者を狙って、怪力乗せた長杖で打ち砕く。二度、つけばその褪せた骨は砕けて破片へと変わるのだ。
「……すまぬな」
 それが散る様を目に、願わくばと珂は思うのだ。
 願わくば――囚われる事無く。安らかに眠っていて欲しいものだと。
「……何故、戦おうとする。何故、安らかに眠らせない」
「のまれるなよ、アレス」
 アレクシスの心に湧き上がる想い。その強さを察して、セリオスは紡ぐ。
 コイツ優しいからな……と彼の性分をわかっているから、零れた言葉だった。
 セリオスが大丈夫かと横眼で表情を確かめると、アレクシスは瞳閉じて。
「……ああ。分かっている。……感情に飲まれるな……あれは、骸だ」
 仮に骸に魂が宿っているとしても、彼らは戦う事を選んだ。
 ならば、此方も相手になろうとアレクシスは朝空の瞳に強い光を宿し、前を向く。
 その様にセリオスは小さく笑って。
「よぉし、じゃあ――さっさと解放してやろうぜ」
「征こう、この死の連鎖を終わらせる!」
 頷いて、セリオスは歌う。
「星に願い、鳥は囀ずる。いと輝ける星よ、その煌めきを我が元に――さあ歌声に応えろ、力を貸せ!」
 己の速度を上げセリオスが走りこむ。守りの姿勢を見せず敵の間に飛ぶように間を駆け抜ける。
 その少し後をアレクシスが続く。少し先の未来を見て、骨の骸が己の骨を投げて来る映像を視る。
 それがセリオスの方へ向くとわかれば――彼の前へ。
 攻撃をアレクシスが弾いて、セリオスへと視線向ける。
 その視線受けてセリオスは。
「……っと悪ぃ。頼りにしてるぜ」
 小言が飛ぶ前に、先制だ。ふざけてはいるが、頼りにしているのは本当だ。
「君はもう少し守りを覚えた方が……はあ、聞いていないな」
 そしてアレクシスもそれをちゃんとわかっているのだ。
「……分かった。君が剣なら僕は盾となってみせよう」
 援護する、とアレクシスは紡ぐ。守りは任せてほしい、と。
「君は存分に戦ってくれ」
 その言葉に後ろを気にせず戦えるのは楽でいいと笑って、セリオスは手に剣を構えて振るう。
「おらよ、これで終わりだッ!」
 風の属性を込めた斬撃の衝撃波が走る。それは骨を砕いて走った。
 花虎もまた、救済と云うには聊か無粋だと思っていた。
「……おれの手で、掬い上げる事は、叶わなかったが」
 ならばやれる事はひとつきり――こんな事に遣われぬ様、再びの眠りを与えてやることだけだ。
 破魔のちからは効くだろうかと花虎は巡らせる。
 それは気休めだ。それでも、何もせぬよりは――祈りの寄す処くらいにはなるだろうかと花虎の、その心根が見える事。
 己が血を与えて、めざめを迎える。
 一体ずつ、確実に仕留めるという意志もって、甕星が抱く腕が振り落とされる。
 ひゅ、と鈍い色が視界の端に見えて、花虎は真正面からそれを掴んで止めた。
 もう動くことをやめていいのだと、振らねばならぬとの錆びた剣ごと掴み折る。
 そのまま、その拳を振るえば骨の骸は崩れていく。
 その感触と、音はやけに耳に残る。
 それでも揺るがず、花虎は続いて向かってきた骨の骸と対するのだ。
 ぬるりと、代償として流れる血の感覚。血を流す事など、造作もない。
「……おまえたちはそれ以上に辛く苦しい想いを重ねているのだろ」
 それがどのようなものだったかは知らぬが、此処に救いを求めるほどに酷いものだったのは想像できる。
 それを負う覚悟は――疾うに固めている。もうすでに、持っている。
 骨の骸達を眠らせるのはこの元凶を断たねばならぬ。
 その数も――大分、少なくなってきた。それでもまだ隔たる壁としてある。
 あの赤い色の元へ。
 こたえは、もらえなかった。
 なのに。
「きゅうさいって、なぁに?」
 みつけたお花――プレアグレイスは、ウトラには理解できぬ、わからぬことを紡いでいた。
「しあわせに、死んでいけるって、どういうこと?」
 わからない。
 それが何か、どうしてわからなくて――心にもやりと募るものがあるのか。それが、ウトラには分からなかった。
 そしてこれが苛立ちと気づいて、自覚して。
 あれは『わるいもの』なのだからと橙色の刀身を持つ愛刀を、ウトラは抜いた。
 ウトラの目の前に立ちふさがる骨の骸達は、『かわいそう』な筈なのに『じゃま』と心が先走る。
 そう感じるのは、もうこたえがないからだ。
 だって――この骨たちも、うーに答えてくれない。
 帰れないなら、戻れないなら、『敵』ならば。斬り捨てるだけとウトラは敵の中へと飛び込んだ。
「じゃま、じゃま、邪魔!」
 錆びた剣ごと、振り払う。剣の交わう固い音、手に響く衝撃も赤い『花』を目指すという意識の前では鈍くなる。
 けれど、敵から受ける痛みは別だった。
 骨の骸の剣がウトラの身に赤い一線を生み出した。それは痛みでもある。
 感じた痛みは、ウトラの心を引き戻す。
「だめ、だめ。わたしは死にたくない」
 前に前にと、近づくために向かっていた足が止まる。
 死は『こわいもの』と――ウトラは思い出して、踵を返す。
 ひとりでは、この先へはきっとたどり着けない。
 仲間達の剣戟を頼りに共に戦う猟兵達の元へとウトラは向かう。
 ふわりと飛んで、赤い色をウトラは視界の端に留めた。
 骨の骸達の向こう側、プレアグレイスはまだそこにいる。
 その知らせを受け取って、リリウムは漆黒の瞳を伏せる。
 プレアグレイスという、存在――一つ異なれば、私が彼女と同じ者になっていた。そんな気がします、と。
 でも私は、と。リリウムの唇は紡ぐ。赦さない、と。
「死に惹かれないと言う嘘は、つきません。紛れもなくそれは、私自身が感じた事」
 否定はしない。己がそう感じるという事実があるのだから。
「……でも、私は私の信じる主の御心に従います」
 生死は主の権限であり、他者が判断するなどおこがましい。
 だから、プレアグレイスは――決して赦してはいけないのだと。
 リリウムは静かに骨の骸達を見つめる。目の前の、これは赦しては良いものなのだろうか。
「死は甘美です。もう辛くない」
 それに浸ったもの達を、断じるのはきっと己ではない。
 だから一層、リリウムの心に沸き立つものがあるのだろう。
「救済のプレアグレイス……救い、それが死ですか? 生死については、私達の越権行為では?」
 その答えは、プレアグレイスと対せばきっと明らかになる。
 その姿はもう――すぐ先にあった。
 ふわり、と白百合の花弁を零して、踊らせて。
 骨の骸達へと、リリウムは再度眠りを与える。
 それは裁きではなく元の、あるべき場所へと還しているだけのこと。



 やがて骨の骸たちがすべて、眠りにつく。
 砕いて、散らして――骸の弔いは終わったのだ。
 大剣持ったこの場の主、プレアグレイスは己を守る者達が消えた事に、柔らかな笑みをその表情から消し去る。
 けれどそれは一瞬のことで、そこにはまた笑みが浮かんでいた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『救済の代行者・プレアグレイス』

POW   :    黒死天使
【漆黒の翼】に覚醒して【黒死天使】に変身し、戦闘能力が爆発的に増大する。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
SPD   :    鏡像の魔剣・反射
対象のユーベルコードを防御すると、それを【魔剣の刃に映しとり】、1度だけ借用できる。戦闘終了後解除される。
WIZ   :    鏡像の魔剣・投影
【魔剣の刃に姿が映った対象の偽物】が現れ、協力してくれる。それは、自身からレベルの二乗m半径の範囲を移動できる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はリーヴァルディ・カーライルです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●上っ面だけの救済
 折角、救われていたのにと。
 救済の代行者・プレアグレイスは呟く。甘い花の香りを纏って。
 邪魔をされるなら邪魔者を払えばいい。
 そしてまた救えばいいだけ。緩慢な、甘いしあわせの死を与えて。
 今までの苦しみを全て忘れて、失って。
 しあわせにしねる。わたしはそれをつくってあげる。与えてあげる。
 それは――本当の安寧ではないのだ。それぞれの想いを上書して与えるだけのもの、一方的に与えられるものだ。
 ここに来た者たちはそれを、享受して得たといえばそうなのだろう。
 己の意志で欲して、此処に来た。けれど、これは歪んでいるのだ。
 与えているのがオブリビオンなのだから、根本的に間違っているのだと猟兵達は知っている。
 けれど、プレアグレイスにとってはそんなことはどうでもいい。ただ己の作った世界を乱すものを許せないだけなのだろう。
 邪魔しないでくださる? とプレアグレイスは紡いで――猟兵たちの上を視線で撫でる。
 己の作る楽園は崩れないと思っている、その自信のままに。
 花に群がる羽虫は払わねばならぬというように。
アルノルト・ブルーメ
折角、か……
本当にそう思っているのだろうね
そうであるなら、哀れなものだ

邪魔、は君の方だよ
プレアグレイス

血統覚醒を継続して使用
先程の出血から継続起動状態のVictoriaとLienhardで先制攻撃
2回攻撃でなぎ払い

さて、お好みは串刺しかい?それとも……抉られたいかい?
Lienhardがね、君を……その血を欲しがるのでね

黒死天使と反射の攻撃はictoriaとLienhardでいなして、受け流し
投影は近くに居る仲間と分担して対処

本物はどっち?なんて野暮な事は言わないさ
動きも技のキレも違うのだから、判るよ

君はこの世界に不要だと理解したかい?
オブリビオン
そろそろ、終わりにしよう……
骸の海に還るといい


ヴェルベット・ガーディアナ
救済?そもそもこの世界から希望を幸せを奪ったのはお前たちじゃないか…!
ボクは知ってる。だから戦う。この世界にまた光が差すようにって。誰もが幸せを望める世界なるように。

シャルローザ…ボクと一緒に戦って!
踊るように【フェイント】
軽い攻撃は【見切り】や【オーラ防御】
危険な攻撃は【絶望の福音】で回避。
血色の薔薇に奇跡の蒼を。
【属性攻撃】氷で攻撃だよ。

アドリブ歓迎です。


リリウム・コルネリウス
wiz

死は主がご判断なさる、尊いもの
故に私達が勝手に判断し、行動するのは越権行為です
「主よ、御心のままに」
全ては主がご判断なさる
故に私は、御心のままに駒となって動くだけ
基本的に遠距離から攻撃
ジャッジメント・クルセイドは自身の体勢を持ち直す際、主に使用

彼女に問う
「プレアグレイスさん。……死が、あなたにとっての救いですか?」
……それが是であれば、プレアグレイスさんにとっては死は救済
ならば私は、彼女の意を汲んで”救い”ましょう、聖職者として
否であれば自身がされて嫌なことを他者に行っている、として排除する
「(――どちらであれ、結果は同じなのに。狡いな、私)」
でも私は、知りたいのです…何が救いであるのか


満月・双葉
先ずは地形の利用で戦場を把握し、死角からの攻撃を行います

攻撃は、第六感や野生の勘も用いて見切り、避けられないものは盾受けや武器受け、オーラ防御で防ぐ
ダメージは激耐性で耐えます

虹色の残像すら見せる早業と忍び足と目立たぬ動きで翻弄する
攻撃は多彩で悪質
桜姫でなぎ払い、吹き飛ばす2回攻撃
スナイパーですので銃で遠くから打てますし零距離射撃も得意です
大根で鎧砕きし更に傷口を抉ったり
馬の置物を投擲して気絶攻撃を放ったり
虹瞳で生命力を削り取る
そうした方が有利と判断すれば空中戦に打って出ます


冥界の女王の怒りで行動を制限したらお姉ちゃんを利用ですよ

他の猟兵との連携重視し、援護射撃も行います

アドリブ歓迎


鹿忍・由紀
自分が人々の救世主だとでも勘違いしてるのかな。
頼んでもない救済の押し付けをして、勝手に満足してるなんて迫害者以外のなんでもないね。
まあ、どちらにしてもオブリビオンだ。仕事をしようか。
この嫌な匂いにも、もう飽きちゃったしね。

【SPD】
周りの猟兵とペースを合わせながらまずは敵の出方を見る。
大剣よりは小回りきくから「二回攻撃」「逃げ足」あたりで攻撃と回避を繰り返して削っていく。
見極めが難しそうだけど、隙を狙って【絶影】で「傷口をえぐる」。
大きくない武器でも、抉られたら痛いだろ。
コピーされたら「見切り」「第六感」でガード出来るように対応しよう。
…真似されるって、良い気分はしないね。


エンティ・シェア
死ぬことを幸せだと思う者には、そうすればいい
しかし生きたいと思う者を惑わすのはいけない
君の誘惑は、甘すぎる

――などと文句を言っている同居人が居るわけですが、僕の知ったことではないですね
僕のやることは変わらない。こちらの手数を増やして、他の猟兵が動きやすいよう目眩ましになることだ
あちらの手数を増やすのもいけないですから、借用されないよう、もうひとりと挟撃のふりをして、攻撃するのは僕だけ

偽物はどの程度本物に似ているのでしょうね
わかりやすい偽物の特徴でもあれば、観察して指摘しましょう
僕は、相手が何であれ攻撃することに躊躇いはありません
躊躇う誰かが居るならば、気持ちが軽くなればいいとは、思います



 ずるずると引きずっていた大剣を構えたプレアグレイス。
 貴方方を救済してさしあげると言う。
 けれどその言葉は望むものでは、決してないのだ。
「救済? そもそもこの世界から希望を、幸せを奪ったのはお前立じゃないか……!」
「あら、そうなの? あなたもそうされたひと?」
 それなら私がゆるやかに、しあわせをあげるのにと、笑うプレアグレイス。
 その様はヴェルベットの気をひどく逆撫で、きゅっと拳握る力が強まる。
「……ボクは知ってる。だから戦う。この世界にまた光が差すようにって」
 誰もが幸せを望める世界になるように――そう願っているヴェルベットは長く美しい白髪に宝石のように青い瞳の、白いドレスを纏った少女人形と繋がる糸を繰る。
「シャルローザ……ボクと一緒に戦って!」
 傍らに、少女人形が立てばプレアグレイスは踊ってくださるのねと大剣を構え飛びかかる。
 その動きを――10秒先の未来を見たかのようにヴェルベットはかわす。その動きはプレアグレイスの刃に写し取られた。
 刃が返る。それをシャルローザが受け止め、一瞬の隙に紡いだのは。
「血色の薔薇に奇跡の蒼を」
 氷の、属性攻撃だった。護身用精霊銃であるアリアの弾丸に氷の力を乗せて放てば、その弾丸はプレアグレイスへと突き刺さる。
 その氷の刃を払いのけ、プレアグレイスはくるりと身を翻した。
「次のお相手は貴方かしら」
 その問い掛けにアルノルトはお望みとあらばと答えた。
「折角、か……本当にそう思っているのだろうね」
「ええ、折角救ってあげて、いたのに」
 その物言いに、哀れなものだとアルノルトは紡ぐ。
「邪魔、は君の方だよ。プレアグレイス」
 アルノルトの瞳の色が変わる。
 それは己の身の内で何かが変化している印だ。
「さて、お好みは串刺しかい? それとも……抉られたいかい?」
 真紅の瞳を向け、その手に持つVictoriaとLienhardを見せて。 
「Lienhardがね、君を……その血を欲しがるのでね」
 その問いにプレアグレイスはどちらも好みではないわと言ってその羽根を広げた。
 その色は漆黒に染まり、一足踏み込み大剣揮う。攻撃をアルノルトはいなそうとするものの、完全には抑えきれない。
 ひゅっと剣先がアルノルトの肌の上をかすめていく。
「君はこの世界に不要だと理解したかい? オブリビオン」
 その血を、己の武器に与えながら呟いて。
「そろそろ、終わりにしよう……骸の海に還るといい」
 アルノルトの一撃がプレアグレイスの翼の一部をかすめて持っていく。
 翼の一部が消えるがそれはすぐに元通りだ。
 その間に双葉は死角に回り込んで攻撃を仕掛けた。
 虹色の残像は翼の残していったものだろう。
 早業と忍び足。目立たぬ動きで近づいて本能する一撃を。
 赤黒い大鎌への変形機能を有する剣。多くの命を吸った呪剣。ある女が戦場で生きた証である桜姫を振るう。
 それを持って薙ぎ払った。
 しかしプレアグレイスは見切っていたのか、剣で受け止め捌いた。攻撃の軌道はそれてその刃は届かない。
 しかし双葉は銃を持ち出し零距離で打ち放っていた。それはプレアグレイスの身を貫いてその血を流させた。
 何をどうすれば有利になるか。
 それを考えながら双葉は攻撃を仕掛けている。
 その生命力を削り取るように攻撃するが、懐に入れば己も狙われる。
 その剣の刃に、双葉の姿を映してプレアグレイスは己の手を増やす。
「あなたの相手は自分の姿よ」
 それと戦っていてくださる? と嗤ったプレアグレイスは踵を返した。
 プレアグレイスは魔剣の刃に己を映し――そして影を生み出した。同じ顔が二つ。けれど一方は表情はない。
 その様にリリウムは指先を向けた。
 死は主がご判断なさる、尊いもの。
 故に私達が勝手に判断し、行動するのは越権行為です――と、視線を向けて。
「主よ、御心のままに」
 全ては主がご判断なさる。
 故に私は、御心のままに駒となって動くだけと、リリウムは天からの光を招く。
 それはプレアグレイスの影を消し去って、その視線をひきつける事となった。
「プレアグレイスさん。……死が、あなたにとっての救いですか?」
「私にとってはそうではないわ。彼らにはそうだったけれど」
 そう、望んでいたのだから導いてあげるのは優しさでしょうと言うレアグレイス。
 本当に? 本当にそうなのですかとリリウムは再度問う。
 同じように問うても、答えは同じだ。
 プレアグレイスにとってそれは優しく、正しい事。
 歪んでいると言うのに。
(「――どちらであれ、結果は同じなのに。狡いな、私」)
 プレアグレイスの行いは排除すべきもの。それは定め。
 でも、リリウムの心は本当に心のそこからそう思っているのかとざわついている。
 知りたい。リリウムは知りたいのだ――何が救いであるのかが。
 けれどその答えはどうやらここにはない。
 プレアグレイスの得ている答えは相容れないものなのだから。
 リリウムが招く光にプレアグレイスは再度貫かれるが、まだまだ損耗は浅い。
 自分が人々の救世主だとでも勘違いしてるのかな、とその振舞に、言葉に由紀は思うのだ。
 頼んでも無い救済の押し付けをして、勝手に満足してるなんて。
「迫害者以外のなんでもないね」
 なんにせよ、どちらにせよ相手はオブリビオンだ。
 仕事をしようかと歩みを向ける。
 鼻先をくすぐるこの甘い、嫌な臭いにも。
「もう飽きちゃったしね」
 速く、と行きも距離詰める。
 プレアグレイスが大きく振った剣をその身を小さくして一筋、上手にかわしてみせた。
 攻撃と回避のバランス崩さぬように距離を取って。
 刃が届くか届かぬかの距離。
 破魔のまじないが施されたダガーの切っ先が踊る。隙を狙って、傷口を抉るようにその先が踊った。
 まだそれは小さな傷。けれど刃がそれを広げていく。
 くるりと手の内でダガーを遊ばせて、逆手に持ち替えて構えた由紀。
「大きくない武器でも、抉られたら痛いだろ」
「そうね。でも僅かな痛みよ」
 再度攻撃の機を得て由紀は攻撃するが――もっと痛いのを返してあげるとプレアグレイスは剣を翻す。
 防御して、魔剣の刃にその技を映しとりすぐさま、同じように動きを返してきたのだ。
 ダガーよりも長い剣先。そのひらめきを見て由紀は咄嗟に身体を反らした。
「……真似されるって、良い気分はしないね」
 己の動きを見切って、そして察するように。深い傷とはならないがプレアグレイスの剣先は由紀を捉えていた。
 次の攻撃を、とプレアグレイスの剣が踊る、その間際に。
「死ぬことを幸せだと思う者には、そうすればいい」
 エンティの向けた言葉。その言葉に反応してかプレアグレイスの動きがぴたりと止まり、その意識が引き寄せられる。
「しかし生きたいと思う者を惑わすのはいけない。君の誘惑は、甘すぎる」
 じぃ、とプレアグレイスの視線がむく。それをうけてエンティは小さく笑い零した。
「――などと文句を言っている同居人が居るわけですが、僕の知ったことではないですね」
 それは己の中のもう一人が紡いだ言葉。エンティはそれを零したに過ぎないのだ。
 だから、エンティのやることは――変わらない。
 こちらの手数を増やして、他の猟兵達が動きやすいよう目くらましになること。
 そしてプレアグレイスの手数を増やすのもいけない。
 借用されないようにしましょうともうひとりの自分とともに挟撃をかけて。かけようとして、攻撃するのはエンティだけだ。
 するとその劇を受けながら、プレアグレイスは刃にエンティの姿を映して生み出す。
「おや。どの程度本物に似ているのかと思えば――それほど似てはいませんね」
 僕とは違うとエンティは言う。表情が写し取ったそのままに固まっているのだから、見分ける必要さえない。
 異質な、違和感しかないのだから。その、目の前の自身に似た者へとエンティは何の躊躇いもなく攻撃をかけた。
「一瞬も迷いがないのね。自分の姿なのに」
 その言葉にエンティは。僕は、相手が何であれ躊躇いはありませんと紡いだ。
 躊躇う誰かが居るならば、気持ちが軽くなればいいとは、思うけれど。
 それは自分には当てはまらない。まずその躊躇うという前提がないから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ジャックジャレッド・ジャンセン
甘やかな獄へと誘い不愍なる死を与う天使とは不遜極まる
遍く命運を己がものと振舞う驕傲を思えば
真に救済を要する者は其方自身と見えるな

噎せ返る様な香に難色を示しつつ血統覚醒
酔う程の芳香は花の姿を損う一因
其れを纏えば如何なる美貌も霞むだろう
私の邸の庭師を紹介してやろうか、等と
囁く繰言に毒を孕ませ呪詛を込めて

断絶はジャッジメント・クルセイドを以て
光の葬列など其方には大仰に過ぎようが
其方に魅入られ尽きた者達の導には成ろう
帰す果ては終ぞ知らぬが静かに眠るが良い

花園の露と散った者達の形見等有れば
叶う限り縁者の元へ帰れるよう手配を

*アドリブ、連携歓迎


玖・珂
先ずは、甘き香りで懐かしいものを見せてくれて有難う
と、礼を云うべきだろうか
お陰で此れからもよい夢がみられる

投影は少し面倒だ
出来るだけ魔剣に映り込まぬよう接敵
剣身に糸雨を絡ませ不完全な像となるよう図るぞ
偽物が出たなら黒爪を突き立て生命力を吸収するまで

お主らのような者……オブリビオンがいなければ
もっとしあわせになれるとは思わぬか?

プレアグレイスが零した花を手に取り黒い紋様を伸ばす
白炎が燈ったなら敵へ投げ返すぞ
例え斬られても落ちた花弁は他の花にも延焼するだろう
――朽ちていった者達への餞別に

思想は千種万様だが
その高慢さは受け入れがたいな

仲間と攻撃を重ね、黒爪を敵へと伸ばし
見せ掛けだけの花を摘み取ろう


リオ・フェンブロー
救われていた、ですか
レディ、それは支配者の与える仮初めに過ぎない

僅かに荒れた語気
支配者の押し付けに今までだって抗ってきた筈だ
だというのに、一瞬、考えてしまう
戦場で散っていった仲間が、相棒が幸せなー…

いや、彼らの死に何かを願う権利など無い
そこに送ったのは俺なのだから

他の猟兵たちと連携して
あちらが強化を使ってくれば氷の属性を乗せた砲撃を叩きつける
動きが鈍るか、一瞬でも時が作れれば良い
破魔の一撃を構え
スナイパーの矜持お見せ致しましょう

偽物諸共撃ち抜くよう一斉射撃を準備
アンサラーを構え魔法陣を展開する

唇には葬送の歌
魔女の歌
全力の魔法にて告げましょう

謳え、アンサラー 。その救済を穿て

*アドリブ歓迎


芥辺・有
救いね。幸せに死ねた奴もいたのかもしれないけど。
……で、それはお前の自己満足なんじゃないの。
邪魔するな、なんて無茶言わないでくれよ。お前を仕留めに来たんだから。

影人形を使用してプレアグレイスのもとへ素早く駆ける。
多少の傷を負う程度の攻撃は甘んじて受けよう。
第六感で危ないと感じた攻撃だけを見切るのに専念して、動きは止めず。
懐へ入り込めたなら思い切り蹴り上げる。
飛び散る血は炎として。視界を燃やし、動きの邪魔を出来るなら上等。
手に持つ杭を振るい。プレアグレイスに傷があるなら抉るように刺し穿とう。


アレクシス・ミラ
セリオス・アリス◆f09573と行動

戯れに命を惑わせ、救いと称して嬲り殺す…巫山戯るな。何が救いだ。何が与えてやるだ。…セリオスも惑わそうとして…
僕は、君を許しはしない
ああ。死した者達の為にも…終わらせよう

僕の【絶望の福音】をコピーされても、一度だけだ。ならば躱されてカウンターされる前にこちらも回避するまで

セリオスの偽物が現れたら「かばう」ように「オーラ防御」
所詮は偽物だな…すぐに分かったよ。こいつの相手は僕がする
僕が、友と偽物を見間違うと思ったか…なめないでもらおう!
セリオスの偽物なら恐らく攻撃重視だ
【絶望の福音】で回避、相手の勢いを利用した「カウンター」で斬る
この幻想を、運命を斬り払う!


セリオス・アリス
アレクシス・ミラ◆f14882
と同行

こんなふざけたエゴの押し付けに、誘惑に
少しでも揺らぎそうになったことが腹立つな
つい先刻の事を思い出し眉を寄せ
さっさと終わりにしてやろうぜ、アレス

歌を歌い身体強化したら先制攻撃だ
力を溜め【蒼牙の刃】を放つ
同時にダッシュで距離をつめ

…ッち!俺の顔でオブリビオンの味方してんじゃねえよ
つーか、やりづれえなァ

俺の偽物をアレスが相手してくれんなら俺はヤツ本人と存分に戦える
俺が相手でも手加減すんなよ!

まあ…確かに俺も見間違えねえな

炎の属性攻撃を剣に纏い斬りつける
もしアレスの絶望の福音と同じ事をしてくるなら
その上をいくだけだ
避けたその場所に
2回攻撃の2回目を刻み込んでやる!



「救いね。幸せに死ねた奴もいたのかもしれないけど」
 ふぅと紫煙吐いて、有は少し間を置く。
「……で、それはお前の自己満足なんじゃないの」
 邪魔するな、なんて無茶言わないでくれよ。有の言葉は、嘲りを含むようで。でも冷たくある。
「お前を仕留めに来たんだから」
 それは慣れ合うつもりなど無いという事だ。
「呼ばうな。煩い。……くれてやる」
 それは何の言語なのか。誰にも識別できはしない。ただただ笑っている、それだけが認識できる長躯の影を有はまとった。
 それによって有の動きは早くなり、プレアグレイスも定めにくくなる。
 多少の傷を負う程度の攻撃は甘んじて受けるつもり。危ないと感じた攻撃だけは、避けていく。
 動きは止めず、前へ。距離を詰めてその懐で思い切り、プレアグレイスを蹴り上げた。
 防ごうとした剣ごと、高く、高く。それと同時に、己の血を媒介として炎が巻き上がる。
 飛び散った血を燃やし、プレアグレイスの視界へと炎を撒いた。
 そして――その手の、夜が滴り落ちてきたかのような黒色の杭をプレアグレイスへと突き立てる。
 有は抉るように打ち立てて、引き抜いた。
 プレアグレイスの血と共にその花が零れていく。
 その姿を真似る。それもまた、気分の良いものではない。
 多様な想いが重なって、怒りをあらわにしているのはアレクシスだ。
「戯れに命を惑わせ、救いと称して嬲り殺す……巫山戯るな」
 何が救いだ。何が与えてやるだ、とアレクシスは言う。
 けれど、何よりも勘に触ったのは――ひとつ。
「……セリオスも惑わそうとして……」
 僕は、君を許しはしないと、アレクシスは強い言葉を放つ。
「こんなふざけたエゴの押し付けに、誘惑に少しでも揺らぎそうになったことが腹立つな」
 つい先刻の事を思い出し、セリオスは眉を寄せ、そして傍らのアレクシスへと視線を投げた。
「さっさと終わりにしてやろうぜ、アレス」
「ああ。死した者達の為にも……終わらせよう」
 盾として、先に前へでたのはセリオスだった。
 プレアグレイスに向ける刃渡りの長い剣がその髪、ひとふさを切り払った。
 いやだわと小さく呟きプレアグレイスも剣を横薙ぎに。その動きを、少し先を見て着たようにアレクシスは剣でいなして避けた。
 その様を己の剣に映しとってプレアグレイスは笑う。
 そして――次は貴方からとプレアグレイスはその刃をセリオスへと傾けた。
 その刃に映る己の姿。セリオスはその刃へと向けて風の魔力で強化された、青白い衝撃波を放った。
 プレアグレイスの剣はその衝撃を受けて揺らぐ。
 しかし――その傍らに、表情なきセリオスを生み出して手駒とする。
「……ッち! 俺の顔でオブリビオンの味方してんじゃねえよ」
 つーか、やりづれえなァとセリオスがぼやく。
 自分と同じ顔ではあるのに、同じではない。
 だがその偽物の前へとアレクシスが立ち、セリオスをかばうように動いた。
「所詮は偽物だな……すぐに分かったよ。こいつの相手は僕がする」
 それなら、俺はヤツ本人と存分に戦えるとセリオスは口の端あげて笑って、任せると。
「俺が相手でも手加減すんなよ! まあ……確かに俺も見間違えねえな」
 もちろんだと、アレクシスは頷いて、セリオスと同じ姿のものと対する。
「僕が、友と偽物を見間違うと思ったか……なめないでもらおう!」
 それはセリオスと同じように攻撃を仕掛けて来る。しかしそれを、アレクシスは回避した。そして、向かってくる偽物の勢いを利用して反撃する。
「この幻想を、運命を斬り払う!」
 閃いた刃が偽物を斬り裂いてかき消した。
 その間にセリオスはプレアグレイスの元へと詰めて。
 炎を、光纏う純白の剣へと纏わせて揮うが、それは先程の、アレクシスより借り受けたもので交わされた。
 しかし――その上をいくだけだ、とセリオスは思う。
 避けて、動く。その動き方がどうなるのかセリオスには分かった。
 それは共に戦ってきたアレクシスから借り受けた動きなのだから想像するに容易い。
 きっと、アレクシスならこう動く。だからこう動けば良いとセリオスの本能は何もせずとも言っているのだ。
 その刃はプレアグレイスの動く先に迷いなく突き刺さった。
 手応えと共に小さな呻き声が落ちた。
 傷は浅いと言っても腹を突かれれば思わず声も毀れてしまったのだろう。
「いやだ、もう。邪魔ばかり、邪魔ばかり」
 救ってあげていた。救われていたのに。
 そんな、傲慢たる呟きを耳にしてリオは青の瞳を一層、沈ませる。
「救われていた、ですか。レディ、それは支配者の与える仮初めに過ぎない」
 いつもは穏やかであるものが、崩れる。僅かに荒れた語気はリオの在り様故に。
 支配者の押し付けに今までだって抗ってきた筈だ。
 だというのに、一瞬――考えてしまう。考えてしまったのだ。
 戦場で散っていった仲間が、相棒が幸せな――……と、巡るものをリオは振り払った。
 いや、と。
 彼らの死に何かを願う権利など無い。そこに送ったのは――。
「――俺なのだから」
 構えて、氷の属性乗せた砲撃をプレアグレイスへと叩きつける。
 ぱきりと硬質な音がして、その足を留める。
 プレアグレイスは手に持つ剣にリオの姿を映しとって、傍らに。
 時間稼ぎだろう。氷から抜ける合間の繋だ。
 己と同じ姿の、しかし表情は一層乏しい存在。
 それごと、プレアグレイスを撃ち抜くようにその砲身をリオは向ける。
 その唇から零れるのは、葬送の歌。その歌は魔女の歌だ。
 魔法陣を展開し、狙い定めたところでリオは穏やかな視線をプレアグレイスへと向けた。
「謳え、アンサラー 。その救済を穿て」
 漆黒のアームドフォート。古き伝承にその名の祖を持つそれより放たれた砲撃に映しとられた姿も、そしてプレアグレイスも穿たれた。
 その衝撃にきゃああと、少女らしい高い声が響く。
 そんな、可愛らしい声も零すのかと、黒い男は瞳を細めた。
 甘やかな獄へと誘い不愍なる死を与う天使とは不遜極まる、と。ジャックジャレッドは鈍いため息を零す。
「遍く命運を己がものと振舞う驕傲を思えば真に救済を要する者は其方自身と見えるな」
 目の前に、まるで踊るように甘い香りと花を振りまくプレアグレイスを好ましいとは決して、思わないからだ。
 噎せ返るような香り――それはジャックジャレッドの眉間に深く皺刻むものだ。
 酔う程の咆哮は花の姿を損なう一因。
「其れを纏えば如何なる美貌も霞むだろう。私の邸の庭師を紹介してやろうか」
 等と、囁く繰言に毒を孕ませ、呪詛を込めてジャックジャレッドはプレアグレイスへと放つ。
 ゆっくりとした瞬きの後に、その瞳を真紅に染めながらだ。
「光の葬列など其方には大仰に過ぎようが――其方に魅入られ尽きた者達の導には成ろう」
 ジャックジャレッドの指先がプレアグレイスへと向けられた。
「帰す果ては終ぞ知らぬが静かに眠るが良い」
 光が、落ちる。プレアグレイスはそれをかわそうとしたが光の方が早い。その肩を貫く光のプレアグレイスはよろめきつつも剣の刃を向ける。
 ただ、斬るためではなくその姿を映すために。
 ジャックジャレッドは己の姿を見た。そしてプレアグレイスがその姿を映しとるのも。
 それに、深い溜息が落ちる。
 己の姿、そのままに見える。相手も同じように動くのだろう。
 プレアグレイスが距離を取るべく生み出した偽物へとジャックジャレッドは指先を向けた。
 花園の露と散った者達の形見を探してやる手伝いをするのならば歓迎しても良いのだが。
 そのようなことは無いのはわかっている。
 己の姿を映したものへと光を向けて、ジャックジャレッドはその姿を消し去った。
 ジャックジャレッドから距離を取ったプレアグレイスの前には、彼と対照的な色を纏った珂がいた。
 珂はゆるりと、腰を折る。
「先ずは、甘き香りで懐かしいものを見せてくれて有難う――と、礼を云うべきだろうか」
 お陰で此れからもよい夢がみられると珂は紡ぐ。
「それは良かったわね。幸せな気持ちにもなれるでしょう?」
 プレアグレイスの言葉に珂はそうだなと頷いた。
「確かに、そうだ。もう一つ、幸せになる方法があるのだが」
 聞いてくれるかと問えば、言ってみればよいとプレアグレイスは言う。
 促され珂はふと笑んで。
「お主らのような者……オブリビオンがいなければ、もっとしあわせになれるとは思わぬか?」
 プレアグレイスが零した花。足元に転がるそれを手に取り、珂は黒い紋様を伸ばす。
 ぼぅ、と白炎が燈ったところで、珂はそれをプレアグレイスへと投げ返した。
 プレアグレイスは咄嗟にそれを剣で払ったが炎は消えることは無い。
 その花弁はプレアグレイスが纏う花に、その香りの上を走りゆく。
「――朽ちていった者達への餞別に」
 きゃああと、可愛らしい悲鳴を上げてプレアグレイスは炎を切り払った。
 そして珂の姿を映しとるべく刃を向けたのだがそこへ移りこまぬよう珂は走る。そしてその剣に糸雨を絡ませれば、正しくその姿を映しとることはできない。
「思想は千種万様だがその高慢さは受け入れがたいな」
 その糸雨を払おうとするプレアグレイス。その糸雨で絡めて動き留めた珂は己の方へと引っ張り引き寄せた。
 見せ掛けだけの花を、摘み取ろう――黒爪をプレアグレイスへと伸ばす。
 触れた場所から樹枝状晶の黒い紋様が伸びて白炎の花を咲かせていく。
 プレアグレイスは己の色を黒く染め、そして力を増すことでその痛みに耐えて炎振り払った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ウトラ・ブルーメトレネ
このお花は、きらいって思ったの
うーとおなじ、あかいもの
この赤は、ひとをふこうにするもの
しあわせなんかじゃない
楽園なんかじゃない
ここは、とても、ひどいところ!

プレアグレイスの口を閉じさせようと【咎力封じ】の猿轡を反射で投じかけて、我に返る
また周囲が視得なくなっては、死に近付く
深呼吸し、『敵』を速やかに屠る事を最優先に
周囲の猟兵の動きに合わせ、咎力封じを発動。当てやすい物から、使用。防御されそうなのを第六感で悟ったら、空中戦で軌道を変える
おまえなんか、きえてしまえ
きらい、きらい、きらい!
心で念じて、睨みつける

事が無事に成れば、きっとすっきり――は、少ししなくて
残るわだかまりはやっぱり「ふしぎ」


オズ・ケストナー
じゃま、するよ
きみの楽園は、これでもうおしまい

シュネー、お願いっ
フェイントや時間稼ぎを使って
一気に詰め寄る
【ガジェットショータイム】
攻撃は武器受けしてひるまず突っ込んでいくね

どれだけ言葉をかさねても
きっときみにはわからないから
こうやって伝えるしかない
もうこれ以上、だれもしなせないよ
しあわせの死なんて信じないっ

わたしやシュネーの偽物があらわれても
にせものは、にせものだよ
きみのほうにいるなら、それはわたしじゃないってことだもの
おとうさんのにせものに斧を向けた時にくらべたら
ぜんぜん、痛くない

ここに来る前、微笑みながら冷たくなったひとを思い出して
いきて、しあわせになってほしかったな
次があったら、どうか


ニケ・セアリチオ
甘く香る天使さま
あなたの声も、匂いも、とても甘くて
眩んでしまいそうになる

今までに
辛いことが、なかったわけじゃないわ
苦しむ心を、いっそ取り出してしまえたらと
思わなかったとは言いません

でも、それでも私は
あれを幸せと甘受することだけは、出来ないの……!

彼女の示す幸せに異を唱える時点で
私たちは彼女にとっての羽虫となるのでしょうね
ええ、対話に訪れた訳ではありません
私のこれも、意地の一つ
己が良しと思うものを守るために
今一度杖を取りましょう

匂いも全て、吹き飛ばしましょう
魔杖で風の衝撃波を起こし攻撃を
回避には第六感と視力を駆使します

傷を負った方がいれば
治癒の鳩を送ります

あの躯を
これ以上増やしてはなりませんから


神宮時・蒼
…傲慢。…貴方の、その考えは、傲慢、と呼ぶに、相応しい、の、でしょう。
…確かに、そうかも、しれません。…死は、安寧、だと。
…けれど、死んでしまったら、其処で、終わりです。それこそ、安寧を、感じる、事も、出来ないまま。
間違いは、正さなければ、なりません。
かみさまごっこは、楽しかった、ですか?

なるべく魔剣に姿を映しとられないようにしましょう。
高速詠唱の全力魔法で、防御されないよう速攻を仕掛けましょう
其れこそ、写し取る暇も与えない位に。
偽物がいるのならば、そちらの討滅を優先に
数が多いと厄介、ですから。

それでは、おやすみなさい。


ジュマ・シュライク
死が救済であるという一面は認めていましてよ。
これ以上生きていくのが困難な行き止まりならば、本物の楽土へと送るからこそ。
偽りの楽園は消されるものでしてよ。

ただ、これだけの相手にアタシができることは少ない。
互いの間合いに注意し、遠くから銀狼を走らせることだけ。
その分プレアグレイスの動きに注意しますわ。
特に分身と本体について、見極めて注意を促す。
他の猟兵の助けになれれば幸い程度で。

近づかれたらシュライクが応戦。
人格変化によるだまし討ちついでに、毒のひとつも喰らわせてやろか。
ついでにほんの一瞬でも、意識飛ばせたら儲けもんってな。

そもそも――本当の楽園なんてこの世に存在しなくてよ。

アドリブ歓迎。


葦野・詞波
どれだけ苦しくとも。どれだけ悲しくとも。
誰もがそういう物を抱えて必死に生きている。
苦しかったことも、悲しかったことも。
無かったことには出来ないのだから。

近接戦闘を挑む
接近前に槍を投じて傷の一つでも負わせれば儲け物か

プレアグレイスが黒い翼の間は要注意か
攻撃よりも動きを注視しながら
どの程度のものか見極め、攻撃を見切り
味方と連携して攻撃を畳み掛けていくとしよう
狙うなら翼か

抱いた苦しみや悲しみは一つ一つ取ってみれば
決して良いものではないかもしれないが。
そのものまで上書きして否定したら、何のために
苦しみ、悲しんだのか、分からないだろう。

だからそれを、奪ってしまったことが。
お前の罪だ、プレアグレイス。


斎部・花虎
【POW】
おれも安寧が欲しかった
けれどそれを死に求めてはいけないんだ

之はおれのただの我儘
それは違うと叫んでぶつけたいだけの、ただの衝動
おまえが自分の世界を乱す者を赦さないのと同じ様に
おれたちもまた、おれたちの領分を犯す者を赦さないだけ

肌を虎の縞が這い、瞳孔が縦に窄まり猫の眸に
獣の如き姿だが、それがおれの本来ゆえに
――簡単に払われては困るんだ

……、嗚呼
きれいだな、おまえ
それがおまえのまことか
黒死天使の姿にはそんな風に眸を眇めて

胸の真ん中を穿ちにゆく
躊躇なく真っ直ぐに小刀を突き立てよう
――来て、来てくれ、闇御津羽!
縋る様にその名を呼ばう

優しい死を振りまくこの甘やかな存在を
おれはもう見ていたくはない



 傲慢、と。
 ぽつりと、蒼は紡いだ。
「……貴方の、その考えは、傲慢、と呼ぶに、相応しい、の、でしょう」
 プレアグレイスは傲慢と言われても別にかまわないと悠然と紡ぐ。
「けれど、幸せそうに死ねていたでしょう?」
「………確かに、そうかも、しれません。……死は、安寧、だと」
 けれど、だ。
 けれど、死んでしまったらと蒼は思う。
 そこへジュマが言葉を向けた。
「死が救済であるという一面は認めていましてよ」
 緩やかに紡がれた言葉にプレアグレイスは瞳細める。
 けれど、ジュマはプレアグレイスを肯定するわけではない。
「これ以上生きていくのが困難な行き止まりならば、本物の楽土へと送るからこそ。偽りの楽園は消されるものでしてよ」
 同じように思うものがいる。ジュマは蒼を、蒼はジュマをちらりと見た。
 蒼はこくりと、頷く。
「其処で、終わりです。それこそ、安寧を、感じる、事も、出来ないまま」
 だから、これは間違いだと蒼は思う。
 間違いは、正さなければ――ならない。
「かみさまごっこは、楽しかった、ですか?」
 でもそれも、終わりですと蒼は言って動く。
 その剣に姿を映しとられないように動きながら素早く詠唱を。
 蒼が放った全力の魔法。其れこそ、写し取る暇も与えないほどに、早く。
 偽物を生み出す間も無いように。
 数が多いと厄介、ですからと蒼は紡いだ。
「それでは、おやすみなさい」
 そう言って放った攻撃に、プレアグレイスは穿たれて眉顰める。
 そこへ喰らいつくように、ジュマの銀色の大狼が飛びつく。
 できることは少ないと、己のできることを知っているからこそジュマは動ける。
 距離を取って、プレアグレイスの動きに注意して。
 プレアグレイスは大狼を振り払い、ジュマへと迫る。
 一歩二歩、とそれを察して後ろに下がる――まずい、という表情から。
「っ!」
 口端を上げて、ついでだと紡いだのはシュライクの方だった。
 毒のひとつも喰らわせてやろうか、と繰り出す攻撃はプレアグレイスの虚を突いていた。
「そもそも――本当の楽園なんてこの世に存在しなくてよ」
 距離とれば、シュライクからジュマへと変わる。
 シュライクの、柄の長いメイスによる殴打はじんじんと、プレアグレイスの身の内に響く重さを持っていた。
 プレアグレイスは痛いと小さく苛立った声を零す。
「甘く香る天使さま」
 そこへニケが、呼びかけた。
「あなたの声も、匂いも、とても甘くて」
 眩んでしまいそうになる――金の瞳を少し、歪めて。
 ニケの表情は曇っていた。
「今までに、辛いことが、なかったわけじゃないわ。苦しむ心を、いっそ取り出してしまえたらと思わなかったとは言いません」
 でも、それでも。
 それでもニケは、この場所での行いを否定する。否定をしたい。
 認めてはいけないと、知っているのだ。
 与えられる幸せは、ひどく歪んでいるのだから。
「あれを幸せと甘受することだけは、出来ないの……!」
「そう……相容れないわね」
 プレアグレイスの示す幸せに異を唱える時点で、彼女にとっての羽虫となる。それはニケにとってもわかりきったこと。
「ええ、対話に訪れた訳ではありません」
 己が良しと思うものを守るために、ニケは今一度、その杖を取る。
 この、甘やかな匂いも全て、吹き飛ばしましょうとニケは魔杖を振るう。
 風の力――それは空を斬り裂く衝撃波となって駆け抜けた。
 プレアグレイスの纏う香りも、その花も吹き飛ばして。
「あの躯を、これ以上増やしてはなりませんから」
 その風と共に、ニケの召喚した白鳩も飛翔する。その嘴を、翼をもってプレアグレイスの身を打った。
 赤い色がひらりと、風に踊って――ポトリと落ちた。
「くろい? しろくないのね」
 でも、お花はあかいと、ウトラはプレアグレイスの姿に銀の瞳を瞬かせる。
 そしてその視線はぽとりと、目の前に落ちた赤い花へと向いた。
 赤い花。
 その花を――ウトラは。
「このお花は、きらいって思ったの」
 うーとおなじ、あかいもの、と近くに落ちていた花を、拾い上げて見つめる。そして、その指でちょんとつついた。
「この赤は、ひとをふこうにするもの」
 しあわせなんかじゃない、とウトラが紡げばプレアグレイスはいいえと緩やかに否定する。
「幸せよ。幸せに、死ねてるじゃない」
 しあわせなんかじゃない、楽園なんかじゃないとウトラは紡ぐ。
「ここは、とても、ひどいところ!」
「貴女は、そう思うのね。けれどこの香りに浸されれば」
 貴女も幸せになれるわよ、と続く言葉をウトラは塞ごうと――猿轡を投じかけて、踏み止まった。
 ひとつ、呼吸をして。
 周囲が視得なくなっては、死に近付く。
 深呼吸を、ひとつして。ウトラはきつい視線をプレアグレイスへと向けた。
 するとその傍らにオズも、立って。
「わたしも、じゃま、するよ」
 きみの楽園は、これでもうおしまい。
 そう言って、糸を繰る。オズの前に、雪のような白い髪と桜色の瞳のからくり人形が躍り出る。
「シュネー、お願いっ」
 フェイントで惑わし時間を稼ぐのは束の間。
 プレアグレイスへと向かってオズはその剣の動きにもひるまず突っ込んでいく。
 それに合わせ、ウトラも動いた。
 速やかに、屠る事を最優先として――その影からウトラがプレアグレイスの動きを封じるべく手枷、猿轡と拘束ロープを投げた。
 おまえなんか、きえてしまえ。
 きらい、きらい、きらい!
 心の中で幾重にもその想いを重ねるウトラ。投じたロープが剣に巻き付いて、攻撃が留まる。
 けれど、いくら攻撃を重ねてみても、だ。
 その心はすっきり――は、少しも、しなくて。
 きゅ、と胸の前で小さな手を、ウトラは握りこんだ。
 ココに何かある。それが何かは、わからない。
 それは『ふしぎ』としか言いようがないものだった。
 そのウトラの一瞬の惑いの間にオズは距離を詰めて、その手にガジェットを振り抜いた。
 どれだけ言葉をかさねてもきっときみにはわからないから。こうやって伝えるしかない。
 オズの攻撃を剣で受け止めるプレアグレイス。
「もうこれ以上、だれもしなせないよ。しあわせの死なんて信じないっ」
 その姿を剣に映しとりながらプレアグレイスは一歩下がる。刃に映ったのはオズとシュネーの姿だ。
 ゆらりと生じた己とシュネーの偽物を見て、オズは静かに紡ぐ。
「にせものは、にせものだよ」
 それは、わたしではない。シュネーでもない。
 わたしは、わたし。それは違う存在とオズは思うのだ。
「きみのほうにいるなら、それはわたしじゃないってことだもの」
 だから、倒せる。戸惑いはない。シュネーの姿には少しだけ、痛むものがあるけれど。でもそれもシュネーではないのだ。
「おとうさんのにせものに斧を向けた時にくらべたら――ぜんぜん、痛くない」
 大丈夫、と。自分に向けるようでもある。
 けれど強い意志で、オズはにせものを打ち砕く。
「あら、強いのね」
 惑いもしないのは面白くないわとプレアグレイスは言う。そう言いながらも嗤っている。
「――ここに来る前、微笑みながら冷たくなったひとが、いたよ」
「そうなの? 幸せに死ねたのでしょうね」
 その言葉に、そうだったのかもしれないと僅かに思う。
 けれど、オズはそれでよかったね、とは言えないのだ。
「わたしは、いきて、しあわせになってほしかったな」
 次があったら、どうか――その為にも、プレアグレイスをここに残してはいけないのだ。
 どれだけ苦しくとも。どれだけ悲しくとも――誰もがそういう物を抱えて必死に生きている。
 苦しかったことも、悲しかったことも――無かったことには出来ないのだから。
 ひゅ、と空を切って。プレアグレイスへと槍が投じられた。それを交わしたプレアグレイスは、投じた詞波の姿を捉えた。
 当たれば、傷の一つでも負わせれば儲け物。
 槍の一投は地を抉る。プレアグレイスはその羽根を黒く染め上げ、詞波へと対する。
 狙うなら、翼かと詞波が零せばそうだなと、聞こえた。
 おれも安寧が欲しかった、と花虎はぽつりと零して、詞波の隣を走り抜けた。
 けれどそれを死に求めてはいけないんだと、すでに答えを得て。
 肌を虎の縞が這い、瞳孔が縦に窄まり猫の眸へと変わる。
 獣の如き姿。それが花虎の、本来のもの。
 之はおれのただの我儘。
 それは違うと叫んでぶつけたいだけの、ただの衝動。
 花虎は抱いたものが何であるかわかった上で走っている。
「おまえが自分の世界を乱す者を赦さないのと同じ様におれたちもまた、おれたちの領分を犯す者を赦さないだけ」
 簡単に、払われては困るんだと――距離を詰めて。
 黒い黒い、翼が広がる。白かったはずのそれは、今や漆黒のもの。
「……、嗚呼。きれいだな、おまえ」
 それがおまえのまことか、と。眸を眇めて花虎は落とした。
 けれど、いくらそう思ったとしても穿つと、決めていた。
 その胸の真ん中へ、躊躇いなく真っすぐ小刀を突き立てる。突き立てようと、腕を伸ばす。
 それを、プレアグレイスは剣でいなそうと狙いから逸らす。
 しかし小刀を持つ手を咄嗟に変えて、その胸へと花虎は突き立てた。
「――来て、来てくれ、闇御津羽!」
 縋るように、花虎は呼んだ。その名に己の想いを全て込めて、呼んだのだ。
 影に囚えた獣がその声に応えてプレアグレイスへと飛びかかる。牙をたて、爪をたて。その身の標へと向かう。
 喰らわれてしまうと恐れ、ひっと喉奥を鳴る。そして細い悲鳴が聞こえた。
 花虎は碧翠の眸をそっと、伏せる。
 もう、見ていたくないのだ。
 優しい死を振りまくこの、甘やかな存在を――たとえすでに、命数尽きようとしていてもだ。
「抱いた苦しみや悲しみは一つ一つ取ってみれば決して良いものではないかもしれないが」
 そのものまで上書きして否定したら、何のために――苦しみ、悲しんだのか、分からないだろう、と。
 詞波は紡ぎ、再び槍を強く握る。
 亡骸の山より聖別されし、ひとりの竜騎士のための槍が、プレアグレイスへと向く。
 詞波の、想いをのせて。
「だからそれを、奪ってしまったことが」
 お前の罪だ、プレアグレイス――その言葉と共に放たれる槍。
 プレアグレイスは、驚くように瞬いていた。
 嘘、と零す。ここで終わるなどと思っていなかったものの、表情だった。
「刺し闢け」
 ただただ、単純で重い一撃を投げる――叩きつけると言った方が良い強さを持って。
 その一撃にプレアグレイスの身は砕かれて、地に落ちてさらさらと朽ちて、滅びて。
 今まで重ねた攻撃に体力を削られ、そして迎えた結末だ。
 花が散るように――最後に甘い香りを、その赤い花を撒き散らして消えていく。
 歪んだ救済を与え続けたものは滅んで、この場へと静寂が広がるのだ。
 けれどそれは一つ摘み取っただけのこと。まだこの世界の空は晴れぬのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年03月10日
宿敵 『救済の代行者・プレアグレイス』 を撃破!


挿絵イラスト