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闇の救済者戦争⑨〜眩く輝き、そして蝕む

#ダークセイヴァー #闇の救済者戦争

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●無粋な花言葉は捨て置いて
 彼岸花は凛と背を伸ばし、赤々とその花を広げる。
 マリーゴールドは綻ぶように花開き、オレンジ色の花びらをいっぱいに広げる。
 フクジュソウは地面に近く、しかし黄色のその花を鮮やかに。
 黒い百合は艶やかに、顔をこちらに向けている。

 なんと見目麗しい花畑だろうか。
 大きく息を吸えば清々しい空気と豊かな花の香りが肺に満ちる。

 その花園に足を踏み入れれば、嗚呼懐かしい。幸福なあの時の記憶が目の前に映る。
 天国と見まごうその光景。

 その光景が、歪む、歪む。

 花の形に擬態した蜘蛛の巣。
 捉えられた蝶は、まだその地獄に気づかない。

●鈴蘭を胸に抱いて
 「まるで幸福な記憶を陵辱するような…酷い」

 アンリ・ボードリエ(幸福な王子・f29255)は眉を顰め、口元に手を当てる。

 あたたかな光を放つ美しい花々に囲まれた、まるで天国を思わせる花園。
 しかしそれは、“現実改変ユーベルコード”によって生み出された偽りの楽園。

 一歩踏み入れれば、たちまち花々の中から猟兵の“幸せな記憶”の幻が浮かび上がり、その花園の中に閉じ込められる。
 そして幻の中の幸せな記憶の光景は、次第に歪み始め“醜悪でおぞましい、トラウマのような光景”へ変じる。

 幸せな記憶を地獄のような様相へ。
 あるいはトラウマを刺激する様な悪辣な空間へ。

「…皆様が元々の「幸せな記憶」を強く想い続けることができれば、きっとこの幻を打ち破ることができると思います。」

 ボクはそう信じています。
 真っ直ぐ猟兵たちを見据えてアンリはそう言葉を発した。

「どうか幸福な幻に溺れないで。貴方を傷つける邪悪な幻に負けないで。」

 グリモアが輝く。


ミヒツ・ウランバナ
 オープニングをご覧いただき有難うございます。
 ダークセイヴァーの戦争なので2本目も湧いて出てきました。
 ミヒツ・ウランバナと申します。

 今回もシリアス心情多めなシナリオをお送りいたします。

 プレイングボーナス:「幸せな記憶」の侵食に抗う。

 それでは皆様の素敵なプレイングをお待ちしております。
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第1章 冒険 『追想を穢す花園』

POW   :    気合いでおぞましい光景に耐え抜く。

SPD   :    大切な品物を触媒に、自身の記憶を確かめる。

WIZ   :    魔法的な防護で精神侵食を和らげる。

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

雪・兼光
…これは

オレンジ色のマリーゴールドは「予言」
フクジュソウの花言葉は「幸せを招く・永久の幸福」
黒い百合は「恋」と「呪い」

だったな。
全部、アンタが教えてくれたんだよな

(現れたオブリビオンになる前の宿敵『花の魔法使いだったもの(熊木絵師の宿敵)』)

そうだろ?

『一緒に行動するつもりなら、コレぐらいは覚えてほしいもの』って言葉もあの時のまんまだな。

おい、花が臓物や肉になっていってる
…どの動物の肉でどの調理法が美味しいとか

肉より果物のアンタが生肉を噛みちぎってそんな、薬中の笑顔で俺を見ないでくれよ

(髪飾りを握り、狂気体制も利用)

…大丈夫
これはオブリビオンになる前のアイツの記憶、身体を奪われたあとじゃない



●教えられた花言葉は

「…これは」
雪・兼光(ブラスターガンナー・f14765)は短くつぶやくと、満開の花の中その場にしゃがみ込む。
辺り一面に咲いた彼岸花。マリーゴールド。フクジュソウ。そして、黒い百合。

「彼岸花の花言葉は『情熱』。オレンジ色のマリーゴールドは『予言』。フクジュソウの花言葉は『幸せを招く・永久の幸福』。黒い百合は『恋』と『呪い』…だったな。」

教えられた時のことを思い出すように、一つ一つ声に出してそう呟く。

自らの背後に現れた人物にそう言葉を放つように。

「よく覚えているじゃない」
「…全部、アンタが教えてくれたんだよな」
「一緒に行動するつもりなら、コレぐらいは覚えてほしいもの」

振り返れば、白と黒の毛並みの“花の魔法使い”がニコリと微笑んでそこに立っている。

あの時の記憶と、今の情景が頭の中で重なる。

『一緒に行動するつもりなら、コレぐらいは覚えてほしいもの』

その言葉も、あの時のまんまだ。

「そう。彼岸花の花言葉は『諦め』。マリーゴールドの花言葉は『絶望』と『悲しみ』。フクジュソウの花言葉は『悲しき思い出』。黒い百合の花言葉は『呪い』と『復讐』よ。」
「…おい。アンタから教わった花言葉と違うじゃねぇか」

何か様子がおかしい。

花の魔法使いはこちらに視線を合わせ、呪い、呪い、と何度も繰り返している。
あの時と同じ笑顔のままで。

それにたじろいて一歩後退すると、ぐじゅり、花畑には似つかわしくない感触が足元から伝わる。

そこには血色に染まった黒い百合の花。
いや、百合の花だったもの。

周囲の花の輪郭がぐずぐずと溶けていく。

見渡す限りの赤黒の花畑。
もう花畑とすら呼べないかもしれえない。

「おい、花が臓物や肉になっていってる」
「ああ。これは兎の肉。こっちは猫の。これは犬の肉。」

花の魔法使いはそう兼光に教えるように呟くと、まるで花を愛でるかのように臓物を弄び、花を摘むように“それ”をつまみ上げ、躊躇うことなく自らの口へ運んだ。

ぐちゃり。ぐちゃり。

肉を喰らう音が兼光の耳に響く。

「煮るのも焼くのも美味しいけど、やっぱり生の肉が一番美味しいねぇ」

そう言って微笑む彼女の口元の白い毛に赤黒い液体が滴る。
瞳孔は開き、まるで野生の獣のようだ。
肉を試しに食べた時には『あんまり味しないんだねぇ〜。』と言っていた彼女が、まるで別人だ。

「肉より果物のアンタが生肉を噛みちぎってそんな、薬中の笑顔で俺を見ないでくれよ」

懐の髪飾りを握りしめる。
三月一三日。彼女と缶チューハイを酌み交わしている時の思い出。

そうだ。彼女は肉よりも果物が好きな酒飲みパンダ。
…大丈夫。
これはオブリビオンになる前のアイツの記憶、身体を奪われたあとじゃない

自分の中でそう言い聞かせる。

悪夢のような幻は狂気に耐えようとする兼光に追い打ちをかけようと、手づかみで肉を貪り食う花の魔法使いを彼の間近で見せてくる。

「一緒に食べようよぉ〜」

まるで酒を勧めるかのように、肉をこちらに押し付ける。

兼光はより一層髪飾りを握りしめる。
大丈夫、大丈夫と自分に言い聞かせながら。

気がつけば、そこには花の魔法使いも、肉塊と化した花畑もなかった。
いつものダークセイヴァーの光景が眼前に広がっていた。
どうやら幸せな記憶も、それを歪めるトラウマのような光景にも兼光は耐えることができたようだ。

ふと、足元を見ると、花がいくつか撒き散らされたかのように転がっていた。

幻想の花畑にはなかったヒペリカムとネリネの花がそこにはあった。

「花言葉は…アイツ、なんて言ってたっけ」

二つの花を拾い上げると、髪飾りと交互にじっと見つめた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

御梅乃・藍斗
幸福にいつまでも浸っていられたら
そのまま死ぬことができたなら、きっと幸せなのでしょう

けれど、僕にそんな安寧は相応しくない
自分で自分の|家族《しあわせ》を葬ってしまった罪人には

幼い頃、剣道の試合を控えた時に父がくれたお守りを握りしめる
温かく見守っていてくれた母と兄と姉を思う
この胸の奥が温かくなる記憶こそが僕の幸福
そしてそれは、「壊れる」までを含めて――僕の現実です

偽りの花をUCで切り裂いて
【覚悟】【狂気耐性】で踏み止まってみせましょう
死んで、狂って楽になる道など捨てました
生き延びて罪を贖うことこそ本願
こんな幻ごとき、罰にもなりはしない



●贖罪と鎮魂

ダークセイヴァーに咲き続けるこの花畑のように、永遠に色鮮やかならどれだけ幸せだろう。

幸福にいつまでも浸っていられたら。
そしてそのまま死ぬことができたなら、きっとそれは幸せなのだろう。

(けれど、僕にそんな安寧は相応しくない。自分で自分の|家族《しあわせ》を葬ってしまった罪人には。)

御梅乃・藍斗(虚ノ扉・f39274)は一人、周りの花には目もくれずそう思う。

花畑の“現実改変ユーベルコード”が発動する。
幸せな光景が、彼の眼前に広がる。

ああ、これは剣道の試合だ。
懐かしい光景だ。

まだ試合は始まっていないようで、母と兄と姉がそれぞれ暖かい眼差しでこちらを見つめ、応援の言葉をかけてくれる。

「頑張って」「全力を出し切るのよ」

自分は……父がくれたお守りを握りしめている。

今の藍斗と同じように。

そのお守りに書かれた文字は“必勝祈願”

古い神社まで、藍斗のためにわざわざ買いに行って願をかけてくれたのだった。

じわり、胸の中が暖かくなる。
この胸の奥が温かくなる記憶こそが藍斗の幸福。

そしてそれは、「壊れる」までを含めて――藍斗の現実だ。

“現実改変ユーベルコード”でそんな幸福な幻覚が、歪む、歪む。
幸福な記憶の中にいる藍斗が持つ竹刀が、いつの間にか刀に変わっている。
そうして藍斗は、試合相手の元ではなく彼に暖かな声援を送る家族の元へ向かい──刀を振るった。
母を、兄を、姉を、家族全員を次々にその刃で切り裂いていく。

鮮血がほとばしる。

もう助からないであろう致命傷を受けた家族は藍斗へと視線を向ける。

どうして?そう言わんばかりの視線を、母は、兄は、姉は“今の”藍斗に向ける。
困惑と悲哀に満ちた視線を。

“|剣刃一閃《ケンジンイッセン》”

藍斗は強くお守りを握り直すと三翼刀で偽りの花園に咲く彼岸花を、マリーゴールドを、フクジュソウを、そして黒い百合を切り裂く。

色とりどりの花びらが、宙を舞う。
まるで花が悲鳴を上げているようだ。

花畑は彼に抗い、何度も、何度も、彼が家族に手をかけるシーンを再生した。
何度も、何度も、家族は自分に切り殺され、悲しげな眼をこちらに向ける。

しかし、彼はその光景に動じることはなく、また一輪、花を切り捨てた。

「死んで、狂って楽になる道など捨てました」

誰に言い聞かせるでもなく、彼はそう呟き、刃を花に突き立てる。

彼の咎は家族を喪い帰る場所を失ったこと。
生き延びて罪を贖うことこそ本願。

存在意義の在処に悩む時もある。
だが、罪の意識に苦しみながらもそれでも今を生きる意味は、贖罪と鎮魂。

だから彼にとってこんな幻ごとき、罰にもなりはしない。
家族を葬ってしまった現実を生きること、それ自体が彼にとっての罰であり、本懐であるから。

“現実改変ユーベルコード”が散ってゆく。花びらと共に、風に流されて散っていく。

彼の幸せな幻影が──家族との思い出が目の前から消えてゆく。
彼はその思い出が一切見えなくなるまで、かき消えるまで剣を奮い続けた。

気がつけば、そこはダークセイヴァーの一角だった。
幻の花畑も、幸せだった記憶の再現も、もうそこにはない。

三翼刀を納刀すると彼は、再び古びたお守りを取り出し、じっと眺めた。
“必勝祈願”
確かな想いのこもった父から、家族からの贈り物だ。
そして再び今は亡き家族へと思いをはせると、お守りを大切にしまい、花畑の跡を一瞥することも無くその場を去った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

蛇塚・レモン
うんっ! この花園を全部燃やそっかっ!

初手UC発動!
天空に出現する終焉の雷を放つ大光輪が高速回転を始めると、
花園へ滅びの雷霆があちらこちらに降り注いですべてを塵に変えてゆく!

虚構の『|幸せな記憶《いまこのとき》』を『|過去の記憶《トラウマ》』が蝕むならば
そんなものはぶっ壊すに限るよねっ?
不幸な過去なんてノーセンキュー!
あたいは自分の幸せのために故郷を捨てたし、
何ならそれが原因で故郷は灰になって滅んだんだけどっ?
でもそのおかげで
大切な仲間達や大好きな人がいる今に至れたからっ!

というかさ……
人の記憶を覗き見して、あまつさえ歪ませるなんてサイテーっ!
もう怒ったよっ!

これが、友情パワーの上乗せだぁっ!



●|幸せな記憶《いまこのとき》と友情の力

見渡す限りの、花、花、花。
甘く誘うような香り。

蛇塚・レモン(白き蛇神憑きのシャーマンクイーン・f05152)はそんな華美な花園に降り立って一言。

「うんっ! この花園を全部燃やそっかっ!」

清々しいほどの声量でそう言い放つ。

“ |異界権能再現術式・天崩大嵐《オーソリティコード・ヘヴンリィカタストロフ》”

花園が幸福な記憶を見せる前に、それを歪にしてしまう前に彼女は全力のユーベルコードを放った。

偽物の青空を塗りつぶすように眩くひかる金色の輪が現れる。
高速で旋回する全てを塵と化す終焉の雷を放つ大光輪だ。

雲一つないのに雷鳴がごろつき始める。

「虚構の『|幸せな記憶《いまこのとき》』を『|過去の記憶《トラウマ》』が蝕むならばそんなものはぶっ壊すに限るよねっ?不幸な過去なんてノーセンキュー!」

虚構の花園の“現実改変ユーベルコード”が映し出したのは現在の自分だった。

そう、彼女にとって今が一番幸福なのだ。
人柱になるはずだった呪われし一族の娘だった頃のレモンはもうそこにはいない。

それならば、と虚構の花園は彼女に|過去の記憶《トラウマ》を見せつける。

懐かしき故郷。

その光景に大光輪から雷撃が放たれる。
レモン自らユーベルコードでその光景を焼き払ってみせた。

灰と化していく故郷の景色。まるであの時の再現のようだ。

「あたいは自分の幸せのために故郷を捨てたし、何ならそれが原因で故郷は灰になって滅んだんだけどっ?」

花畑は何もわかってはいない。

「そのおかげで大切な仲間達や大好きな人がいる今に至れたからっ!」

そうしてでもつかみたい|幸福《今》があったのだ。
二百を超える猟兵仲間。頼りがいのある農園の人々。勾玉に宿る最強の絆を持った妹のライム。そしてかけがえのない愛しい人。

そんな幸福な|記憶《今》がトラウマに蝕まれてたまるものか。

雷火は止まらない。百雷というのが正しいだろう。
彼女の故郷を焼き払い、再び現れた花園。

「というかさ……人の記憶を覗き見して、あまつさえ歪ませるなんてサイテーっ!もう怒ったよっ!」

彼女は頬を膨らませ、花畑を睨みつける。ゴロゴロと雷が音を鳴らして唸る。
花の種類なんて、花言葉なんて関係ない。そこにあるのは自らの、猟兵たちの記憶を盗み見て自分勝手に改悪した“悪意を持つ領域”に過ぎない。

許せない。許せるはずがない!

彼女は神楽を舞う。雷を操るように。
万雷がこの花園へ降り注ぐように祈りを込めながら。

トラウマを、今というかけがえのないもので乗り越えてしまっているレモンを相手に、その領域はもはや花園であり続けるしかなかった。

彼岸花が、マリーゴールドが、フクジュソウが、そして黒い百合が雷に撃たれ燃えていく。

「これが、友情パワーの上乗せだぁっ!」

人一倍大きな雷光が辺りを包み込み、地面を揺らすほどの迅雷が轟く。
極めて強大な焼却攻撃に対して、花という存在はあまりにも無力だった。
逃げることも、防ぐこともできない。

あまつさえ旭日の黄金竜神の力を持つ少女の力だ。
そんな存在がさらに“友情”という力を持って自らに襲いかかるのだ。

逃げたとて、防いだとて、到底叶う相手ではない。

花びらを散らす余裕すらなく花達は、じりりとその身を焼かれて灰と化し、無惨にも風にそよがれて吹き飛んでいった。

「これがあたい達の友情パワーだよっ!」

花はそれに対して何も言い返すことはしない。
もうどこにも花なんて存在しないからだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ロラン・ヒュッテンブレナー
花園なの…
この暗くて苦しい、愛おしいぼくの故郷
この幻を、いつか自分の手で現実にするの

●幸せな記憶
それは普段の何気ない日常
封じられた魔導書庫に集まる仲間たち
共に過ごす日々

●浸食
彼らが、ぼくにも各々にも殺意を向けて襲いかかる

ぼくが暴走した?
いや、|その時《・・・》は殺意じゃなかった
それに、仲間たちが戦って?
だめ、違う、これは現実じゃない
でも思い出せない…、みんなと過ごした日々…

魔導書「子狼の軌跡」が開かれる
そこに閉じられた写真を見る
あの日々はそこにある

そうだね、ここに、あったね
UC発動、隔離結界、施錠!
結界内を空間から切り取って影響を防ぐの
ぼくの大事な記憶は、これ以上好きにさせないの



●大切な場所だから幻みたいで

爽やかな風が吹いている。
風に吹かれて、花が心地よさそうに揺れている。
すうっと息を吸えば甘い花の香りが鼻腔をくすぐる。

「花園なの…」

ロラン・ヒュッテンブレナー(人狼の電脳魔術士・f04258)は現実とは思えないようなそんな光景に心を震わせる。

歩き出せばさくりとみずみずしい草の感触がある。
しゃがみ込みマリーゴールドに触れれば、花びらの柔らかさが指に伝わる。

「この暗くて苦しい、愛おしいぼくの故郷…この幻を、いつか自分の手で現実にするの」

ロランは知っていた。これが現実ではなく幻の風景だということを。
“現実改変ユーベルコード”によって生み出された偽りの楽園。
それがこの美しい花畑の正体だ。

だからこそ、いつか本当にこの景色が幻ではなく現実のものとなってほしいと思う。
ロランはそう思うだけではなく、必ず自らの手によって現実のものにすると強く心に誓った。

不意に強い風が吹くとともに、目の前の景色が溶けるように歪む。

花畑が溶け出して現れた風景は──ロランの普段の何気ない日常風景だった。

封じられた魔導書庫

アルダワ魔法学園の迷宮の一つにして、彼が団長を勤める旅団だ。
二十四人もの仲間がいつも通り読書に耽ったり、談笑に花を咲かせたりしている。

(みんなと共に過ごす日々…これがぼくの幸せな記憶)

その光景はあまりにも普段通りで、思わず誰かに声をかけてしまいそうになる。

しかし、その瞬間──けたたましいアラートの音が魔道書庫内に鳴り響く。

大切な団員のみんなが“殺意”を持ってロランに襲いかかる。

嗚呼、これは──あの時と似ている。
ぼくが暴走した?
いや、|その時《・・・》は殺意じゃなかった。

「それに…どうしてみんなが戦っているの」

戦いに巻き込まれ傷つけられていく魔道書庫。
戦いの衝撃で本がバラバラと宙を舞い、切り裂かれ、踏みつけられる。
各々が各々に向かって“殺意”を向けて戦っている。

「だめ、違う、これは現実じゃない」

だけど、目の前の光景はあまりにもリアルで、現実的で、ロランの脳を揺さぶる。

「でも思い出せない…、みんなと過ごした日々…」

何が現実で何が幻なのだろう。
今までみんなと過ごした日々も、もしかしたら幻?
本当はみんな、お互いのことを殺したいくらい嫌っていたの?

ロランが泣き出しそうな声を上げた時、一冊の魔導書が開かれた。

“魔導書「子狼の軌跡」”

そこにはロランが実際に体験した出来事が写真化して保存してある。

クリスマスにはみんなでパーティをして、夏にはみんなでビーチで遊んで、一緒に花火を見たこともあった。
普段だって模擬戦をしたり、みんなで魔導書を整理したり…そんな素敵な思い出でいっぱいだ。

あの日々はそこにあった。
幻じゃない。確かにそこにあった。

「そうだね、ここに、あったね」

写真を一枚一枚眺めて、ロランは微笑む。

そのまま幸せな記録を辿っていたいけど──今は目の前の光景を止めないと。

ユーベルコード発動
“|秘伝・隔離結界【Zona assoluta】《ヒュッテンブレナーシキヒデン・ゼッタイリョウイキ》”

「隔離結界、施錠!」

結界内を空間から切り取って影響を防ぐ。
幻の風景とはいえ、みんなが争い合っているのは嫌だ。

「ぼくの大事な記憶は、これ以上好きにさせないの!」

そう言い放つと一瞬にして偽りの花園の中にロランの魔力が満ちて、悪意ある幻が、花畑が消えていく。

それほど強い思いだったのだ。

花畑が消え去ると、そこはいつものダークセイヴァーの光景。
暗くて苦しい、愛おしいロランの故郷

「…みんなに会いたい気分なの」

今日は少し急いで帰ろう。あの場所に。
みんなが待っている、封じられた魔導書庫に。

大成功 🔵​🔵​🔵​

栗花落・澪
見た目はこんなに綺麗な花畑なのにね

檻から助け出してくれた
美味しいもの、綺麗な景色……沢山の事を教えてくれた
僕に救いの手を差し伸べた人は、みんな殺されたから…
愛する事も愛される事も、怖かったのに
怯えなくても大丈夫なんだと、理解させてくれた

そんな彼だから
どんな些細な日常風景でも、彼と紡いだ記憶だから
目の前で壊されたら辛い気持ちはある、けど

左手薬指の指輪をそっと撫でる

約束してくれたから
僕を逃さないって
1人では死なないし死なせないって
最後の瞬間まで、ずっと側にいてくれるって

彼は約束は守る人だから
どんなに酷い光景でも
僕は彼を信じるよ

本当は約束が欲しかっただけで
実際の最期がどうなるかなんて、わからないけど



●約束

偽りの青空。偽りの花園。

偽りの太陽の光を浴びてその花びらを優々と広げるオレンジ色のマリーゴールドの色は、栗花落・澪(泡沫の花・f03165)の頭部に咲く金蓮花とよく似ていた。

「見た目はこんなに綺麗な花畑なのにね」

澪はしゃがみ込み足元に咲くマリーゴールドの花を愛ながら、少し悲しげに呟く。

今見ている楽園を思わせるような光景は全て“現実改変ユーベルコード”により作られた幻なのだと、グリモア猟兵は言っていた。
そして、これから“何”が起こるのかについても。

覚悟はしている。
おそらく、自分を檻の中から助けてくれた“彼”との記憶だろうと。

愛する事も、愛される事も怖かった。
澪に救いの手を差し伸べた人は、みんな殺されたから。

そんな澪に彼は美味しいものを共に食べたり、綺麗な景色を一緒に見たり、沢山の事を教えてくれた。

愛することにも、愛されることにも、怯えなくていいことを教えてくれた。

そんな彼だから。どんな些細な日常風景でも、彼と紡いだ記憶だから。
目の前で壊されたら辛い気持ちはある、けど───

花畑がその姿を変えてゆく。
花びらが風に流され、散る、散る。
散った花びらは澪の視界を覆い尽くし、次にその琥珀色の瞳が映したのは───暖かな暖炉が懐かしいログハウスの風景だった。

(ここって…僕と宗田が両思いになった、あの…)

素敵なドレスにファーを纏って。
僕からのプレゼントは、甘いものが苦手な宗田のために腕によりをかけてケーキを作ったっけ。
そして、宗田からは手作りの簪と、嘘みたいな告白の言葉。

(懐かしいな…)

郷愁に浸る澪の手を彼が引いて、椅子に座らせる。
そうだ、髪が濡れていたから、乾かすんだった。

あの時の記憶の完全な再現だ。
髪を梳かれて、手際よくまとめられて、髪の毛を彼の手作りの簪でまとめられる。

(この後、なんで“柴崎”君が?って僕が聞いて、それで──)

しかし、彼の口から出た言葉は記憶のそれと違っていた。

「俺、お前の他に好きな奴がいる。そもそも、お前のことなんて好きでもなんでもない。むしろ大嫌いだ。」

そう言って澪のことを彼は見下す。
澪が見た事もないような、氷のように冷たい目をして。

「ぁ……」

言葉が出ない。澪の瞳が揺れる。
覚悟していたはずなのに、彼の言葉の一つ一つが心に突き刺さって辛い。
胸の奥が、抉られたように激しく痛む。

冷たい目をした彼を見たくない。
澪が視線を逸らし、下を向くとそこにあったのは…左手薬指の指輪だ。

そうだ、彼は、宗田は約束してくれた。

“僕を逃さないって。1人では死なないし死なせないって。最後の瞬間まで、ずっと側にいてくれるって”

薬をそっと、縁取るように撫でる。
なぜかじわりと、暖かいように感じる。

(彼は約束は守る人だから。どんなに酷い光景でも…)

「僕は彼を信じるよ」

左手を胸に当てて目を閉じる。
すると、ログハウスの木の匂いも、暖炉の優しい熱も、冷たい視線も、感じなくなっていく。

次に目を開けた時、澪の目の前にはもうログハウスも花畑もなく、薄い闇で包まれたダークセイヴァーの朽ちた森の中に澪はいた。

「終わったんだ…」

あの光景が、やっぱり刹那の幻だったことに安堵し胸を撫で下ろす。
そうして、自分を守ってくれた“約束”が込められた指輪を月明かりに照らして見る。

(本当は約束が欲しかっただけで…実際の最期がどうなるかなんて、わからないけど)

だけど…やっぱり最期の瞬間に彼が隣にいたら、それはすごく幸せなことだな。

戦火に包まれたダークセイヴァー。1人でも多くの心を救うために澪は戦う。

果たして彼の最期は──

大成功 🔵​🔵​🔵​

ゾーヤ・ヴィルコラカ
 この世界にこんな明るいところがあったなんて。いえ、これは幻ってわかってるけど、それでも光を見られるなんて思いもしなかったから。

 目の前に広がるのは大切な人達の笑顔。村の子供たち、依頼で出会った人たち、旅団のみんな。あれは転んだ子に手当てをしてあげた時、そしてあっちはボルシチを初めてご馳走した時? ふふっ、なんだか懐かしいわね。みんな素敵な笑顔……っ!

 なんで、みんな悲しそうな、怒ったような顔になってるの……?  わたし、何もできないどころか、不幸にしてしまったのかしら。
 恐ろしくて身体が震えてしまう。〈落ち着き〉を取り戻すために目を閉じ深呼吸、〈勇気〉を出すために聖痕に触れ、魔力を確かめる。大丈夫、わたしはここに居る。次はしっかり目の前の光景を見つめる。誰もわたしの問いには答えない。

 そうよね、これは希望を失わせる為の幻だもの。みんなの笑顔は、大切なわたしの思い出よ。絶望になんて奪わせないんだから。

(WIZで挑戦/アドリブ等々大歓迎です)



●あたたかくて、つめたくて

風に吹かれて、さわさわと草花が音を立てて揺らいでいる。
暖かな日差しがゾーヤ・ヴィルコラカ(氷華纏いし人狼聖者・f29247)の頬を撫でるように照らし、花畑にぼんやりと彼女の形の影を落とす。

「この世界にこんな明るいところがあったなんて。」

眩い光を放つ太陽に手を翳し、目を細める。
指の隙間から溢れる太陽光がこんなに美しいのだなんて。

「…いえ、これは幻ってわかってるけど」

それでも光を見られるなんて思いもしなかったから。
この常闇に支配された世界、ダークセイヴァーで。

じわり、と霞のように何かが花畑に浮き立つ。
それは人の形を取り、ゾーヤにとって見知った人物が花畑に出現した。

村の子供たち、依頼で出会った人たち、旅団のみんな。
花畑の中でみんなニコニコと笑顔を浮かべている。

「お姉ちゃんありがとう!」

声のする方を振り返れば、見覚えのある子供。

「この子は…転んだ時に手当てしてあげた子ね!」

そうだ。この子は砂利道で転んでしまった子。
赤く血の滲む膝を、化膿しないように流水で洗い包帯をあてて手当してあげたのだった。
大粒の涙を流しながら手当てを受けていた顔が、手当が進むにつれて徐々に笑顔に変わっていく様子を見て、自然とゾーヤの胸は暖かくなったのだった。

「そしてあっちはボルシチを初めてご馳走した時?」

ボルシチはゾーヤの得意料理。木の器に注がれた深紅色のスープは出来立てのようで白い湯気が立っている。
ほかほかと温かなボルシチを旅団のみんなが匙で掬い、口に運ぶ。
“美味しい”と口に出して言う者。一口含んで微かに微笑む者。一心不乱にボルシチをがっつく者。

反応は人それぞれだが、みんなゾーヤお手製のボルシチを食べて笑顔を浮かべている。

「ふふっ、なんだか懐かしいわね。みんな素敵な笑顔……っ!」

花畑の中に広がる笑顔。
みんなの笑顔につられてゾーヤも笑みを漏らす。

しかし、その光景は一瞬にして崩れる。

耳をつんざく、泣き叫ぶ声。
ゾーヤは驚き肩を跳ねさせて、急いでそちらを振り返る。

手当してあげた子供が苦痛に顔を歪め泣いている。
真っ白だったはずの包帯は真っ赤に濡れてポタポタと血が滴っている。

「どうしたの?一体何があったの」

包帯を取って傷の具合を確認しようと手を伸ばせば、その手をはたかれた。

呆然とするゾーヤに子供はぎろりと泣き腫らした瞳を向ける。
まるで“お前のせいだ”と言わんばかりの鋭い眼光で。

びちゃびちゃ、水の跳ねる音が聞こえる。
振り向けば、ゾーヤが丹精込めて作ったボルシチを、器をひっくり返し、器を投げ捨て、地面に流し捨てている。
時間をかけて煮込まれたじゃがいもが、人参が、花畑に転がる。
赤いスープは土と混ざって泥になってしまった。

ゾーヤがこちらを見ていると気づけば、ひとり、またひとりと匙や器、まだ中身の入った“ソレ”を彼女目掛けて投げつける。

眉間に皺をよせ、力一杯食器を投げつけるものがいれば、“期待はずれ”と言わんばかりの表情で悲しげにほとんどその場に打ち捨てるように放り投げる者もいる。

「なんで、みんな悲しそうな、怒ったような顔になってるの……?」

その問いには誰も答えない。
皆ただ悲しそうに、腹立たしげにゾーヤを睨みつけるだけだった。

(わたし、何もできないどころか、不幸にしてしまったのかしら。)

先ほどまであんなに綺麗な花畑だったのに。
先ほどまであんなにみんな幸せそうだったのに。

こうなったのは誰のせい?
ゾーヤが手当てをしたから。
ゾーヤが料理を振る舞ったから。

(…全部わたしのせいなのかしら)

睨みつける視線がそれを肯定しているように感じさせる。
血の気が引き、指先が冷たくなる。
みんなを傷つけてしまったと言う事実が恐ろしくて、恐ろしくて、体が震える。

気がつけば呼吸が浅くなっていた。
落ち着きを取り戻すためにゾーヤは目を閉じる。
真っ暗だ。花畑も、睨みつける仲間たちも瞼の裏には存在しない。

目の前の光景と向き合うために、勇気を出すために、そっと、指先が聖痕に触れる。
心臓が拍動して血液が流れるように、確かに聖痕からは自身の魔力が溢れている。

大丈夫、わたしはここに居る。

再び目をあければやはりそこには花畑と、こちらに怒りと悲しみを向ける人々が存在する。

“なんで、みんな悲しそうな、怒ったような顔になってるの……?”

ゾーヤの問いには誰も未だ答えない。

「そうよね、これは希望を失わせる為の幻だもの。みんなの笑顔は、大切なわたしの思い出よ。絶望になんて奪わせないんだから。」

彼女は結界術をこの“花畑”に展開する。
彼岸花が、マリーゴールドが、根本から氷に包まれていく。
花たちがみるみるうちに彼女の氷に包まれていく。

まるで精巧なプリザーブドフラワーの花園だ。

冷気が吹き始める。彼女の結界術で、花畑が吹雪に包まれていく。

さようなら太陽。
名残惜しそうにもう一度だけ空を仰ぐも既に太陽は凍てつき、視線を元に戻せば幻の花畑も、幻の仲間たちもかき消えるほどの無慈悲な冬が到来していた。

吹雪が風を鳴らし吹き荒ぶ。
幻はかき消えてそこはダークセイヴァーの当たり障りない光景に戻っていた。
その光景を見て彼女は安心したように笑い、けれど少し悲しげに双眸を伏せるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

グラディス・プロトワン
★アドリブ歓迎

これは吸収機構の実戦テストの時の…?

敵機体は無数にいるが、俺からすればバイキング会場のようなものだ
次々に襲い掛かってくる敵を喰らっていく
何もせずとも食事の方から飛び込んできてくれる
俺はそれを味わうだけで良い

どれだけの敵を喰らったのだろうか
俺の足元には行動不能になった敵達が倒れている
食休みでもするかと腰を下ろすと、何かに掴まれた感覚があった
まだ動ける敵がいたのかと戦闘態勢を取るが…

俺を掴んでいたのは倒した敵ではなく無数の俺の機体だった
どれもボロボロで打ち捨てられていたような風貌で、まるで機械のゾンビのように俺に群がってくる

身動きの取れない俺を待っていたのは…
今まで喰らったものを吐き出せと言わんばかりに一斉に起動された吸収機構だ

どうして…さっきまで俺が喰らう側だったのに
いや…喰らっているのは確かに俺だ
ボロボロだった機体達の姿が変わっていく

俺と全く同じ姿になりつつあるそれらを見て、想い直す
グラディス・プロトワンは…喰らうのは俺だ!

この悪夢を終わらせようと自身の吸収機構を起動させる



●真の“プロトワン”

彼岸花が、マリーゴールドが、フクジュソウが、黒い百合が風に煽られて揺れる。
グラディス・プロトワン(黒の機甲騎士・f16655)がズシンと花畑に降り立つとその衝撃波により一層その花をしならせた。

花畑はいつの間にグラディスの過去を読み取ったのだろう。
降り立つ衝撃によりしなった花のそれに煽られ捲れるように、|幻想《過去》が展開していく。

そこは見覚えのある研究開発施設だった。
複数人の研究員や技術者がグラディスの周りを取り囲み“E.Dシステム”の整備や最終チェックを行っている。

“E.Dシステム”
それは補給が困難な僻地でも活動できるように“試験的に”開発されたエネルギー吸収機構だ。
しかし、E.Dシステムは実験的な機構であった上に、敵機だけでなく味方の機体のエネルギーまでも奪うように吸収してしまった。故に開発は中止され、彼は“プロトワン”となったのだ。

しかし、E.Dシステムが開発段階ということが意味することは───

「これは吸収機構の実戦テストの時の…?」

機体に繋がる無数の太いケーブル。
“ソレ”を通じて|機体《自分》が調整されていく感覚が機体の中を巡っていく。

開発者達は何かを少しの間話し合い、一様に頷くと全員格納庫の中を出ていった。

彼らが出ていきしばらくすると格納庫上部のスピーカーから無機質な声のアナウンスが流れた。

「システム、オールグリーン。E.Dシステム、実践テストを開始します。」

プシュ、と音を立てて機体につながるケーブルが一斉に取り外された。
地鳴りをあげながら、格納庫の巨大な扉が開かれる。

自身の過去の再現だ。向かうべき場所はわかっている。
調整直後だからだろうか、身体が軽い。どこまでも飛んでいけそうだ。
それに、程よく“空腹”だ。苛立ちが胃の底から湧いて出るような、そんな感覚だ。

荒野のような僻地にグラディスは降り立つ。
前方から良質なエネルギーが、どれほどの数だろうか、数えることも難しい程の“敵機”が迫ってくるのを感知する。
これから待ちに待った“食事”の時間だというのに、いや、“待ちに待ったのだから”だろうか、腹の虫の機嫌がいっそう悪くなる。

敵機を目視する。ここから先はもはや彼にとってはバイキングと言って過言はないだろう。
相手の武器が何か確認するよりも早く、吸収機構を展開し敵機のエネルギーを“喰らって”いく。
蛍光色に光るエネルギーが敵機より放出され、渦を巻くように吸収機構に取り込まれていく。
腹の中が満ちていく快感。身体中をエネルギーが満たしていく感覚。
それは歓喜に似た感覚だった。

すっかりエネルギーを吸い取られた敵機が、まるで羽虫のようにふらふらと地面に墜落する。
もちろん、一機だけで満足するような腹を持ち合わせているわけじゃない。
喜ばしいことに残っている敵機は視界を埋め尽くさんばかりの量だ。

敵機の振るうビームサーベルを避け、肩を掴みその機体を拘束する。
E.Dシステムにより至近距離で生命力を吸収された敵はものの数秒でガクリと膝をつき、肩を離してやれば重力に従って地に伏せた。

次々に襲い掛かってくる敵を喰らっていくグラディス。
何もせずとも食事の方から飛び込んできてくれるのだからグラディスはそれをたまに避け、去なし、そして味わうだけで良い。

───どれほどの時間が経っただろうか。
彼の足元には行動不能になった敵達が倒れている。
山のように積み重なったそれらの数を数える気にはとてもなれない。

「さて…食休みにでもするか」

襲いくる敵機の姿はもはや無く、悠々とグラディスは足元の既に動かなくなった機体の側面に腰をかけた。
その時だった。グラディスの脚を何者かがガシリと掴む。
まだ動ける敵がいたのか。急いで戦闘態勢をとり、脚をつかむ腕を振り払おうとするが、そこにいたのは真っ黒な装甲に赤い目をした──己自身だった。

その風貌はまるで機械のゾンビだった。
片腕は無く千切られたようにコードだけが揺れていた。赤い瞳は片目が潰れ、内部の構造が丸見えになっている。黒だった装甲は所々赤茶の錆びに侵食され、動くたびに軋んだ音を発している。
一機だけではない。次は肩を、腕を、腰を掴まれる。
肩を掴んだ己は顔がなく、腕を掴んだ己は腰から下がねじ切られ、腰を掴むそれはもはや腕だけだった。
気がつけば打ち倒したはずの敵機が、全て朽ちた己自身に変わっていた。

「離せ…!離せっ!」

全身を拘束されたグラディスに聞き馴染みのある起動音が響く。
吸収機構E.Dシステム。それが一斉に起動された音だ。

“今まで喰らったものを吐き出せ”

そう言わんばかりにエネルギーが吸い取られていく。
グラディスの身体からエネルギーが、生命力が抜けていく。

大きく咆哮し、身体を動かそうとするも力強く全身を拘束されほんの少しも身体を動かすことを許されなかった。

(どうして…さっきまで俺が喰らう側だったのに。いや…喰らっているのは確かに俺だ)

機体が朽ちかけゾンビのようだったグラディス達の身体が、エネルギーを吸収したおかげかその身体が徐々に再生していく。
拘束する力も、エネルギー吸収機構の出力もだんだんと強くなっていく。

(まるで本物の俺のようだな)

生命力が枯れていき薄れゆく意識の中、グラディスは思考する。

(まるで本物の…いや、違う)

彼の赤い目が、他の機体よりも更に赤く、燃えるように赤く輝く

「グラディス・プロトワンは…喰らうのは俺だ!」

グラディスはその身体をエネルギー超吸収モードへと変形させる。
移動速度と反応速度を犠牲にしたその姿はエネルギー吸収力と吸収効果範囲に優れており、彼の中に残った生命力を吸収機構を一気に集中させる。

偽物のグラディス達のエネルギーの全てを一瞬にして喰らっていく。
朽ちていくように、砂と化していくように偽物のグラディスはかき消えていく。

それを超えて彼に幻覚を見せる花畑のエネルギーを喰らう。荒野だった視界が花畑に戻り、彼岸花が、マリーゴールドが、フクジュソウが、黒い百合がグラディスに生命力を喰らわれ枯れていく。

最後にそこに残ったのは本物のグラディス、ただ一人だけだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2023年06月02日


挿絵イラスト