闇の救済者戦争②〜心無き夜
●狂える夜に沈む心
――答えは未だ得られず。
心とは――感情とは――思考とは――。
其れ等が人を人と定義するのであれば或いは――。
理解不能理解不能理解不能理解不能理解不能理解不能。
理解不能理解不能理解不能理解不能理解不能理解不能。
理解不能理解不能理解不能理解不能理解不能理解不能。
――貴方の躰は本当に貴方の物?
――貴方の心は本当に貴方の物?
――貴方は一体、何者ですか?
●グリモアベース
猟兵たちがグリモアベースを訪れると、星凪・ルイナ(空想図書館司書補佐・f40157)は椅子に座り一人で読書に耽っていた。彼女は猟兵たちに気が付くと本を閉じ、猟兵らに視線を向ける。
「早速だけど、ダークセイヴァーで発生した【闇の救済者戦争】については知ってるよね」
「鮮血の洪水を阻止する為にも私達は先へ進まないと行けない。だけど、その為にもまず侵蝕迷宮城の中でも最大規模の書庫城を攻略する必要があるの。邪悪な魔術知識の書とかいうのが納められていて凄く気になる所――だけど、今回の目的はそれじゃなくて、とある敵の討伐」
椅子から立ち上がり、暫く思案するように目を伏せ、そして言葉を続ける。
「対象の名前はフラーウム。何かの要因で【心】が欠落したと言われている。心や感情に対して干渉する能力を持っているから彼女を相手にするのなら決して自分を見失ってはいけない。そして【躰が違えど思考――心が同じなら同一性は認められるか】······っていうのを探求するために魂人たちに実験を繰り返しているらしいの。その彼女は今、狂気に冒され強大な力と破壊衝動に支配された状態でこの書庫城の中を徘徊しているんだって。尤も、感情の無い彼女にとってはそんなの関係ないのかもしれないけど、そんなのが心の探求に固執するなんて皮肉だね。――心が無いからこそ、固執するのかもだけど」
そこでルイナはくるりと身体を反転させ、猟兵たちに背を向けた状態で転移の準備を始める。
「あまり猶予は無いようだし、手短に纏めるよ。転移先は書庫城の廊下。目的はフラーウムの撃破。強力な相手だけど付け入る隙はある。それは彼女自身に残った良心や後悔に対して働きかける事。そうすれば狂気を抑えて力を弱められる。感情――心を失った彼女にそんなものがあるなんて思えないけど、もしかすると心を探求するその行為に何かあるのかもね」
言葉が途切れると同時に転移の準備が整い、ルイナは猟兵たちを振り返り澄ました表情を見せる。
「躰が違っても、心が違っても、君は君だから何も心配する必要なんて無い――なんてね。それじゃ、頑張ってね」
鏡花
今回、初めて戦争シナリオに挑戦させて頂く鏡花です。戦争イベントに相応しいリプレイを返せるよう頑張らせて頂きます!
●シナリオ方針
戦争シナリオという性質上、早めにリプレイを返させて頂きたいと思います。思うだけかもしれません。
●シナリオ目標
フラーウムの攻撃に耐え、彼女を撃破する事です。
●戦闘場所
書庫城の廊下となっておりますが広さは十分あり戦闘に支障はありません。また、光源に関しても無数にある燭台が明るく照らしている為、問題はありません!シャンデリアやカーペットなど廊下にありそうな物を戦闘に利用して頂くのも自由です。
●プレイングボーナス
オープニングの通り、フラーウムに僅かに残っていると想定される【良心や後悔に働きかける】行動によりプレイングボーナスを得る事が出来ます。心、感情が無い相手に無謀とも思えますが付け入る隙は必ずあります。空っぽの心を埋めてあげましょう!
せっかくのイベントですので思いっきり楽しんでいきましょう。
では皆さんのプレイングをお待ちしております!
第1章 ボス戦
『フラーウム』
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POW : (先制UC)悪魔擬きの天使の問い
【自身の鍵から戦場全体を包むモザイク】を放ち、命中した敵を【"大切なもの"を欠落させるモザイク】に包み継続ダメージを与える。自身が【傷や死を厭わず、敵へ問いを投げつつ観察】していると威力アップ。
SPD : (先制UC)心を喰らう者
自身の【鍵や胸元に広がるモザイク】から【自身と同じ様に"心"を欠損させるモザイク】を放出し、戦場内全ての【敵の"心"、幸福な記憶、大切なもの】を無力化する。ただし1日にレベル秒以上使用すると死ぬ。
WIZ : (先制UC)「あなたの考えを教えてください」
戦場内に「ルール:【議論「テセウスの船」(攻撃行為禁止)】」を宣言し、違反者を【大切なものを奪い消失させるモザイクの坩堝】に閉じ込める。敵味方に公平なルールなら威力強化。
イラスト:廉真なち
👑11
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「スキアファール・イリャルギ」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
フロース・ウェスペルティリオ
心は魂に宿るのか、記憶に宿るのか、身体に宿るのか、なのかな?
同一性は、観測時期と同一割合と連続性によると思うのだけどねぇ。
ふむ。同一性……君は誰かに会いたいのかな? でも、会っても「同一」か分からないから確認手段を探してるのかな?
君は、その手段を手にしたとして、最初の「同一を証明したい誰か」を覚えているのかな? 思い出せるかい?
同一の存在という事で、ナノさんとりあえずちょろちょろ。ウチと同じかもしれないし、違うのかもしれない。どっちだろうねぇ。
ウチから攻撃をする気はないよ。
あちらが攻撃してきたら、液状になって躱すくらいかなぁ。
面白そうなお話が聞けると良いんだけど、どうだろうねぇ?
天井に吊り下げられた古めかしく絢爛なシャンデリア。壁に備え付けられ妖しく揺れる蝋燭の灯り。それらが映し出すのは鮮血のような赤いカーペットが敷かれた巨大な廊下。其処に2つの影があった。黒衣に身を包んだブラックタールのフロース・ウェスペルティリオ(|花蝙蝠《バットフラワー》・f00244)、そして胸にモザイクを抱いたフラーウムだ。
「被験者が自ら来てくれるとは探しに行く手間が省けましたね」
「そんなつもりはないんだけどねぇ……此処は1つ、お話しようじゃないか」
フロースの表情は顔を覆う布で見えず、また、フラーウムの表情は異常なまでに乏しく、お互いの表情は窺い知れない。そんな2人は戦闘を行う訳でも無くただ静かに対面している――否、既にこれはフラーウムの術中だ。だが、フロースはそれを承知の上でこうして彼女と向かい合っている。
「躰が違えど思考――心が同じなら同一性は認められるか否か――謂わば、人を定義としたテセウスの船。貴方の考えを教えてください」
淡々とフロースに問いかける抑揚の無い言葉。彼は顎を手で撫でながら思考を巡らせる。
「心は魂に宿るのか、記憶に宿るのか、身体に宿るのか、なのかな? 同一性は、観測時期と同一割合と連続性によると思うのだけどねぇ」
「そうかもしれませんね。しかし、記憶も身体も不安定な存在である以上、その観測結果に確実性は得られません。なにより、サンプルが足りていません。もっと……もっと試行回数を重ねなければ……」
フラーウムはその虚ろな瞳をフロースに向け、玩具を弄るようにその手の巨大な鍵を撫でる。言葉とは裏腹にその行為はどこか幼稚なようにも思われた。彼女自身が彼女のルールによって縛られていなければ直ぐにでも彼女はフロースに襲い掛かった事だろう。――否、彼女の魔の手が今、この瞬間にフロースに伸ばされないとも言い切れなかった。しかし、フロースはその状況を理解してなお、正面から彼女と向かい合う。
ふいにフロースの魔力が胎動すると彼の周りに1回り……いや、それ以上に小さなフロースそっくりの分身がわらわらと現れた。ちょろちょろと歩き回る分身達を眼下に収め、フロースは言葉を零す。
「この子たちはウチと同じかもしれないし、違うのかもしれない。どっちだろうねぇ……」
「それらの定義には躰と心の関連性を検証する必要があります。――実験を。実験をしなければ」
乏しい表情のまま、ゆらりとフラーウムはフロースに向かって歩き出す。狂気に冒されているのが要因だろうか、理知的な彼女にしては衝動的な行動に見える。
そんな彼女にフロースは1つの違和感を覚えた。感情の無い彼女に敢えてそれを定義すれば焦っているように見える。
「同一性……君は誰かに会いたいのかな?」
フラーウムは止まらない。
「でも、会っても同一か分からないから確認手段を探しているのかな」
フラーウムはその足を早める。
「君はその手段を手にしたとして、最初の「同一を証明したい誰か」を覚えているのかな」
空虚な瞳をフロースに向けたままフラーウムは立ち止まる。
「思い出せるかい?」
「わたしは――」
彼女の表情は何1つとして変わらない。だが、フロースがその言葉を投げ掛けた時。明らかにこの場を包む雰囲気が変わった。硝子片を散りばめたような刺々しい雰囲気は確かに和らいだ。その後にはフロースとフラーウム、2人の視線が交差する静かな空間が佇んでいる。
大成功
🔵🔵🔵
仰木・弥鶴
先制での攻撃行為禁止、ね
それじゃお話しようか
せっかくだから敵味方に公平なルールでお願いしたいね
UCで作り出した青い花のクッションを自分と相手の分、2つ用意して席を勧める
俺が見たところ、君は心をとても大切なものだと考えているみたいだ
心と幸福、大切なものを同列に扱うUCの設定を見てもそう
躰ではなく心の同一性にこだわっている点からもそれは間違いない
だが、俺の考えを述べさせてもらえば
同一性を担保するのは躰でも心でもない、『名前』だと思う
だからテセウスの船はそう呼ばれる限りは同一のもの
ゆえに君も『フラーウム』以外の何者でもない
心を欠落しようがオブリビオンの躰となろうがね
フラーウム、優しそうでいい名前だね
フラーウム、彼女の空虚な瞳が仰木・弥鶴(人間の白燐蟲使い・f35356)をじっと見つめている。何も映さない底の抜けたようなそれを見ていると、どこまでも落ちてしまいそうな感覚に陥る。
仰木は敢えて、そんなフラーウムと対話をする事を選んだ。そうするべきだと思ったから――。
「それじゃお話しようか」
「……実験を進めないといけないのですが、いいでしょう。参考程度にお聞きします」
「それはどうも」
|Blue anemone《ブルー・アネモネ》
仰木が言葉を溢せば青い花を模した2つのクッションが現れる。
「せっかくの機会なんだ。腰を据えて話をしようじゃないか。――どうぞ」
仰木は紳士然とフラーウムに青い花の席を勧める。彼女は特に感慨もなくその席へとストンと腰を落としちょこんと座る。それは先ほどの態度からするとやけに幼稚過ぎる行動に思えた。その様子を気に止めつつ仰木自身も席に着き彼女を見据えた。
「俺が見たところ、君は心をとても大切なものと考えているみたいだ」
「理解出来ません。心とはわたしにとって最も遠いもの。実験に置ける観察要素でしかありません」
「いいや、違うさ」
鬱蒼とした大廊下にフラーウムの反論を遮る仰木の声が響く。それでもなお、身じろぎ1つしない彼女の代わりに蝋燭の灯が静かに揺れた。
「心と幸福、大切なものを同列に扱う君の能力を見てもそう。躰ではなく心の同一性にこだわっている点からも間違いない」
「それらには一切の因果関係は認められません。時間の無駄でしたね。せめて良い実験体になることを――」
「なら、最後に1つだけ言わせてくれ」
対話を早々に否定し、立ち上がろうとするフラーウム。しかし、そんな彼女から眼を逸らす事なく、向かい合い続ける仰木の力強い言葉を受けフラーウムは立ち上がるのを止め、虚無の瞳を再度仰木に向ける。
「手短にどうぞ」
「ああ、ありがとう。――俺の考えを述べさせてもらえば同一性を担保するのは躰でも心でもない、『名前』だと思う。だからテセウスの船はそう呼ばれる限りは同一のもの」
不意にフラーウムの瞳が細められたような気がした。それを敢えて定義するなら動揺だったのかもしれない。しかし、彼女の欠落はそれを否定する。だが、彼女に変化がなくとも周囲を渦巻く狂気――それらの環境に変化が起きたのは紛れもない事実だ。
「ゆえに君も『フラーウム』以外の何者でもない。心を欠落しようがオブリビオンの躰となろうがね」
「わたしは――」
「フラーウム、優しそうでいい名前だね」
仰木・弥鶴、彼の言葉は全て本物だ。偽りなどない本心からの言葉。心無き者の心に訴えかけるなど常識から逸脱した行為だ。だからこそ――だからこそ、それは届くのかもしれない。
――フラーウムの瞳が微かに揺れた
大成功
🔵🔵🔵
フラーウム・ティラメイト
♪と🐓
おや…これが以前ライズサンが私と間違えたオブリビオンですか、う〜ん似てますか?
『ケーww』
ライズサンをからかうオベイ
まずは先制UCを防ぎましょう
相手のモザイクが放たれたら視力よく見てモザイクの動きを確認します
回避するために推力移動しながら因果断絶属性の呪殺弾を早撃ちしてモザイクを消し去る
防ぎきったら
指定UCを発動して姿を変えた後UCあなたの考えを教えてくださいを発動
椅子に座り私は彼女に問いかける
テセウスの船の解答ですが…
心は環境や環境で変わります。大切なのは己を持つこと
変わらない人、物は存在しませんよ心も躰も魂も…貴女の心もね
本当は分かっているのでしょう?
自分の実験も無意味だと言う事も
ソラウ・エクステリア
♪と🐓
これは…前に戦った(https://tw6.jp/scenario/show?scenario_id=45359)オブリビオンのフラーウムさん!
『ぐはっ』
ライズサンが何故かダメージを受けた
『…来るわよ!』
エミリアーノは敵がモザイクを放って来たのでクイックドロウの要領で次元属性音響弾を放ってモザイクを消滅させるか貫通無効化属性の結界術で防御しながら推力移動で敵の攻撃を回避する
『貴女は今まで壊した魂人の事をどう思っているの?!』
『…フラーウム』
エミリアーノとライズサンが敵に問いかける
前は答える事が出来なかったけど…はっきり言うよ!
同一性なんて本人しか分からないだから君が聞いても意味ないよ!
静かに、胸のモザイクを見つめ佇むフラーウム。彼女が纏っていた狂気は依然と比べ大分弱まり、どこか哀愁すら感じさせる程だ。
「これは……前に戦ったオブリビオンのフラーウムさん!」
「おや……これが以前ライズサンが私と間違えたオブリビオンですか? う~ん、似てますかね」
そう首を傾げるのはフラーウム・ティラメイト(因果獣と因果を喰らう者『オベイ』を宿す探究者・f38982)。なんの因果か此処に二人のフラーウムが出会った。そんな彼女と共にいるのはソラウ・エクステリア(歌姫の時空騎士と時空龍の協奏曲・f38698)。ソウラの傍らに立つライズサンはオブリビオンであるフラーウムを目にしてまるで心臓を一突にされたかのような鈍い痛みを胸に抱く。彼女は以前にも相対し、煩悶の末に打ち倒した相手。尤も、その時の彼女と今の彼女は同一の存在では無いのだろうが、変わらぬその姿はライズサンを苦しめるに十分だった。
「フラーウム……また会っちまうとはな……」
「ケーww」
「ぐはっ……分かってる。ちゃんと戦うさ」
なんとか耐えていたライズサンだがからかうようなオベイの声に思わぬダメージを食らう。
「……貴女たちもわたしの邪魔をするつもりですか。時間が足りません。排除します」
オブリビオンのフラーウムは虚ろな瞳で二人にむけ、その手の大きな鍵をゆっくりと構える。
カチリ
空っぽの溪谷の底に小石が転がり落ちるような寂しい音が大廊下に響いたかと思えばその鍵の先端からモザイクが溢れだし、空間を侵食するかのようにフラーウムとソウラに狙いを定める。その強襲に気が付いたソウラは秘められたその力を解放し天命時空龍エミリアーノへと変身する。
『……来るわよ!』
エミリアーノとフラーウムはほぼ同時に地面を蹴り付けて加速し、襲い掛かるモザイクを回避する。モザイクの波状攻撃の狭間を縫うようにエミリアーノが反撃に転じれば軽やか、そして精巧な動作で精密射撃を繰り出す。放たれた音響弾はまるで次元にすら干渉するようにゆらぎを引き起こしモザイクを飲み込んでいった。
――モザイクは更に増殖する。オブリビオンのフラーウムに植え付けられた圧倒的な力は全てを埋めつくそうとモザイクを生み出していく。まさに絶体絶命――。
「私の事をお忘れなく。好きなようにはさせませんよ」
だが、フラーウムが動く。彼女はモザイクの動きを見切ってその体を滑り込ますと呪殺弾を撃ち込む。――それはモザイクだ。もう1人のフラーウムと同じモザイク。それをフラーウム・ティラメイトは操っている。それはモザイクの波状攻撃を因果を絶つかのように消滅せしめた。
「力を……失い過ぎましたか……どうやら限界のようですね……」
力なくオブリビオンのフラーウムの腕が降ろされ、カランと音を立てて鍵が床を転がった。
その様子を見たフラーウムが静かに彼女に問いかける。
「テセウスの船の解答ですが……心は環境で代わります。大切なのは己を持つこと」
「心など……そんなものに意味など……問題は定義を不変のものとして同一性を保つ事――」
フラーウムの言葉をもう一人のフラーウムが遮る。
「変わらない人、ものは存在しませんよ。心も躰も魂も……貴女の心もね」
「ありえません――わたしの心など――」
その躰はふらつき、今にも倒れそうだ。本当はその躰はとうに限界だったのだろう。今の今まで狂気だけが彼女の支えとなっていた。しかし、その支えが猟兵たちにより絆され、本来の彼女が姿を現したのかもしれない。
「本当は分かっているのでしょう。自分の実験も無意味だと言う事に」
「違う……決してそんな事は……わたしは――」
抑揚のない筈のその声は悲鳴だったのかもしれない。
心のない筈の彼女はずっと願っていたのかもしれない。
「理解不能理解不能理解不能理解不能」
明らかに動揺する彼女の躰は震えていた。その胸にぽっかりと空いたモザイクから、新たにモザイクが溢れようとしていた。
「探求の為……実験を進めねば……いかなる犠牲を払おうと立ち止まっている時間など……」
『もう止めて……!貴女は今まで壊した魂人の事をどう思っているの?!』
「関係ありません……この命題の探求は全てにおいて優先されるべきものです」
エミリアーノの悲痛な問い掛けに歯牙にもかけない物言いを返す彼女の暴走は止まらない。そんな彼女の様子を見ていたライズサンがおもむろに口を開く。
「……フラーウム。もういいんだ。本当は辛いんだろう? 終わりにしよう」
目の前にいるオブリビオンの彼女は、ライズサンが知る彼女とは同一の存在ではないのかもしれない。しかし、ライズサンの目に映った苦しそうな彼女の姿はきっと本物だ。だからこそ決着を付けなければならない。
「ソウラ、フラーウム。終わらせよう。彼女を止めるには今しかない」
ライズサンの言葉に元の姿に戻ったソウラとフラーウムはコクリと頷く。
「もう少し議論を重ねてみたかったですが、タイムリミットというやつですね」
「うん。終わりにしよう――前は答える事が出来なかったけど…はっきり言うよ!同一性なんて本人しか分からないだから君が聞いても意味ないよ!もうこんな実験する必要なんかないんだ!」
ソウラ、フラーウム。両者の攻撃がオブリビオンであるフラーウムの躰を貫く。
「これまで……ですか……わたしは……」
ぐらりと彼女の躰が揺れて、後ろへと倒れていく。その最中、彼女の瞳に映るのはソウラ、ライズサン、そしてフラーウムだ。崩れて落ちていく中、自然と彼女の腕はフラーウムに向かって伸ばされる。相変わらず無表情な彼女から、その意図は分からない。だが、どことなく手を伸ばしたその姿はどこか寂しそうにも――羨ましそうにも見えた。
「心――これが――わたしの――」
きらりと何かが輝き、彼女の姿は霧散して消失する。後に残されたのはがらんどうとした大廊下と、猟兵たちが心無きオブリビオンに打ち勝ったという事実のみだ。ふいに廊下を通り抜けた風が――どこか泣いているようにも聞こえた。
大成功
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