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闇の救済者戦争⑤〜白翼の歌

#ダークセイヴァー #ダークセイヴァー上層 #闇の救済者戦争

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 かは、と魂人の一人が咳込むと、喉の奥から吐き出された白い羽毛が虚空に舞う。
 絞り出すような呻き。あまりの苦痛に痙攣する身体。元はオラトリオであった魂人達を襲ったその病は、彼等に劇的な変化を齎した。
 背中のみならず全身、ものによっては体内からも生え出した無数の翼は、苦痛を伴い彼等を使命に駆り立てる。
「――殺さなくては」
 殺さなくては。殺さなくては。羽毛に塞がれ自由にならない喉を震わせ、彼等は唱える。
 古くからその身に刻まれていた、使命の歌を。
「死ね、神殺しの獣よ」
 病によって狂った認知の為か、苦痛による逃避か、それともまた別の要因があるのか。理由ははっきりとはわからない。けれど、ただ一つの事実として。
 彼等の見ている幻覚が、目の前の猟兵の姿と重なった。

●常闇の森の天使たち
「いやあ、早速困ったことになったね」
 戦争は始まったばかり、毎度のことではあるけれど、オブシダン・ソード(黒耀石の剣・f00250)の示すこの戦場も、少々厄介なことになっているらしい。
 彼が指し示したのは常闇の森、無数の拷問器具が自生するというまあまあろくでもない場所だ。普通ならばそんなところ誰も入りたがらないだろうが、元オラトリオの魂人――その中でも『翼圧症』に汚染された者達が、既に多数侵入しているという。
「この奇病にかかった人は、身体から無数の翼が生えてくるという症状と同時に、何か幻覚も見ているらしくてね。僕達が通りかかると、『殺すべき敵』と認識して襲い掛かってくるみたいなんだ」
 人道的な理由はもとより、ここを突破したいというこちらの目的からしても、彼等を放っておくわけにはいかない、とオブシダンは言う。
「そこで、君達にはこの『翼圧症』に汚染された魂人達を、この森から救い出してもらいたいのさ」
 幻覚を見ている彼等には説得は通用しない。一旦戦闘不能に持ち込んで連れ帰るしか手はないのだが。
「魂人の特性については君達もよく知っているよね? できれば彼等に永劫回帰を使わせない形で場を収めて欲しいな」
 難しい話だけど、よろしく頼むよ。そう言って、オブシダンは一同を送り出した。


つじ
 どうも、つじです。
 当シナリオは『闇の救済者戦争』の内の一幕、一章構成の戦争シナリオになります。

●戦場
 無数の拷問器具が自生する常闇の森。
 戦闘開始時点では敵が罠にかかったりはしていませんが、時間の問題かもしれません。

●プレイングボーナス
 なるべく魂人に「永劫回帰」を使わせず、戦闘不能に追い込む。
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第1章 集団戦 『翼圧症患者』

POW   :    おぞましく伸びる翼
【全身から伸びる翼】が命中した敵を【さらに伸びる翼】で追撃する。また、敵のあらゆる攻撃を[さらに伸びる翼]で受け止め[全身から伸びる翼]で反撃する。
SPD   :    痛苦の叫び
【体内に生えた羽で塞がれた喉】から、詠唱時間に応じて範囲が拡大する、【肉体の羽毛化】の状態異常を与える【痛苦の叫び】を放つ。
WIZ   :    時空凍結翼
【全身に生える翼】から【オーロラのような光】を放ち、【時を凍らせる現象】により対象の動きを一時的に封じる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

夜刀神・鏡介
こんな状況で動かんとするとは。一体、何が彼らを突き動かすのか……

乱戦になると万が一が起こりかねない。できるだけ少数(理想は1人)ずつ相手にしたい所だが
遭遇したなら、神刀の封印を解除。神気によって身体能力を強化して相対

刀は防御の為にのみ利用。直接攻撃には使用しない
物理攻撃は刀で受け流し。浄化と破魔の力を込めた刃で光を切り裂く事で超常現象を無効化
防御しながら至近距離まで接近。神刀を手放しながら、𠘩の型【震打】
徒手空拳の一撃で麻痺させた上でもう一撃。確実に意識を落として戦闘不能にする

あんた達の目的は、俺達が果たしてみせるよ。意識が落ちてる以上は聞こえないだろうが、それでも伝えよう



●意志を継ぐ
 翼圧症、そう名付けられた奇病は、罹患者の全身を汚染し、徐々に作り替えていく。体表だろうが体内だろうが構うことなく、症状の出た個所は白い翼へと変わる。天使のそれを思わせる純白の羽根は、しかしその主に耐えがたい苦痛を齎すのだ。
 強制的に、そして急速に身体を歪められればそうもなろう、だがその激痛にも関わらず、魂人は倒すべき敵――少なくともそう認識した猟兵達を、赤く濁った瞳で睨みつけていた。
「こんな状況で動かんとするとは。一体、何が彼らを突き動かすのか……」
 夜刀神・鏡介(道を探す者・f28122)はそう呟くと鯉口を切り、神刀の封印を解除する。溢れ出す神気で自らを強化しつつ、迫り来る魂人を迎え撃った。
『神殺しの獣に、死を……!』
 苦痛に苛まれているとは思えない程に勢いよく飛び掛かってくる彼等を、鏡介は刃を返した刀でいなし、攻撃を捌いていく。とはいえこのまま乱戦になると思わぬ事故が起こりかねない、すれ違いざまに足を払うことで動きを阻害し、時間を稼ぎ、魂人の一人に狙いを定める。
 相対した彼が自らの身を掻き抱くのと同時に、全身の翼が虹色に揺らぐ光を放ち始める。それは時間さえも凍らせる魔性の光。それに対し、鏡介は停止した時間を切り裂くように神刀を振るい、一気にその間合いを詰めた。
「𠘩の型【震打】――!」
 刀をその手から離し、相手の懐に踏み込む。放たれるは徒手空拳の一撃、添えられた掌から、体重移動による不可視の衝撃が走った。
 魂人の全身が浮いて、翼の奥の芯をも揺るがすような一打に、自然と相手の足が止まる。
 そうなれば次の一撃を打ち込むのは容易い。膝を付いた魂人の意識を確実に落として、地に伏せさせる。
 徒手空拳の𠘩の型は、刀に比べて『殺さずに倒す』ことに向いている。命を奪わず、引いては魂人の永劫回帰を発動させず、鏡介は一人ずつ、翼圧症の罹患者達を戦闘不能に持ち込んでいった。
 この場を制圧し、倒した彼等が起き上がってこないのを確認しながら、鏡介は言う。
「あんた達の目的は、俺達が果たしてみせるよ」
 気を失った彼等には届いていないかもしれないが、それでも構わない。
 これは慰めの言葉ではなく、決意表明のようなものなのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

菱川・彌三八
つまり、死なねェ程度にぶちのめしゃ良いんだろ
殴ったら直ぐに駄目になりそうってンで、此処は水責めと行くか

大浪の壁で翼をいなす
若しくは翼に延々浪を追わせておく
其れで一筆

もう一筆は大津波
頭から爪の先迄まるっと水で飲み込んで留める
苦しかろうが、ちいと我慢しつくんな
水ん中は此れでも幾分穏やかなもんさ

危うくなる前に水を解く
然し立ち上がれなくなる迄、浪はけしかけさせてもらうぜ

序でと云う訳でもねェが、此の大浪は木々をも飲み込む
お前ェ等の叫びも、光も、分厚い水が受け止める
さぁさ、救われてェ奴から掛かってきな



●水責め
 神殺しの獣を殺せ。
 魂人達は苦痛の呻きを上げ続けながらもそう唱え、科された使命に従い、猟兵達を狙う。彼等を苛む翼圧症がどういうものなのか定かでないが、飽くまで彼等は無辜の民である。襲ってくる以上退ける必要があるにしても、いたずらに、記憶を代価とする永劫回帰を引き起こさせるわけには行かない。
 そんな中ではあるが、菱川・彌三八(彌栄・f12195)の状況認識は極めてシンプルなものだった。
「つまり、死なねェ程度にぶちのめしゃ良いんだろ?」
 言い方はアレだが間違ってはいない。となれば後は町の喧嘩と変わらないか。
 苦痛に足を震わせていた魂人が、焦点の合わない目でこちらを見るのがわかる。幻覚と、彌三八の姿を重ね合わせたのであろう彼は、言葉にならない声を上げて襲い掛かってくる。
「……つっても病人を殴るのはさすがにまずいか?」
 みしみしと音を立てて、魂人の腕から翼が伸びる。幾重にも枝分かれするように、多重に伸びいくそれを、構わず振り被る彼に、彌三八は絵筆で応じることにした。
 筆の穂先に従って墨が空中を彩り、春の高浪を描き出す。波濤の壁は向かい来る魂人にぶつかって、突進の勢いを相殺した。
「そら、お次はコイツだ」
 一瞬足の止まったそこへ、素早く描き出した大津波が襲い掛かり、周囲の魂人を巻き込み、呑み込んでいく。
「苦しかろうが、ちいと我慢しつくんな」
 頭の上から爪の先まで、まるまる水の中に捕らえて、水流でその動きを阻害する。
 無数の翼を生やした腕を、足を振るって前進を試みる魂人達だが、完全に水に浸ってしまった状況では、羽毛は重荷にしかならない。
「どうだ、水を掻くのは体力使うモンだろ?」
 拷問具で満ちた空間を走り回り、猟兵と殴り合うのに比べれば、この水中は如何にも穏やかなもの。文字通りある程度『泳がせて』から、水を引かせてやれば、巻き込んだ魂人達のほとんどは、疲労からぐったりと地面に倒れ込んだ。
「まだやるかい? ……あァ、説得は通じねぇんだったか」
 それでもなお立ち上がる骨のある者達へ、彌三八はさらに大浪をぶつけて翻弄する。
「さぁさ、救われてェ奴から掛かってきな」
 どんな攻撃も、この水で受け止めてやる。そう請け負って、彼は次々と魂人達を無力化していった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

紫・藍
藍ちゃんくんでっすよー!
思い出と引き換えな永劫回帰はしないにこしたことないのでっす!
藍ちゃんくんは魂人さん達の思い出もお護りするのでっす!
歌うのでっす!
青い鳥の歌を!
植え付けられた使命感を戦闘意欲を失わせる翼で相殺するのでっす!
歌は歌わされるものではないのでっす!
自身の心で歌うものなのでっす!
皆様方自身の歌を思い出していただく為にも今はお眠りいただくのでっす!
たとえ戦闘意欲を失わせれなくとも継続ダメージの分は攻撃でない以上反撃は飛んでこないかと!
向こうの攻撃にはオーラ防御で時間稼ぎなのでっす!
皆々様を戦闘不能に持ち込むまで存分に時間を稼いじゃうのでっす!
藍ちゃんくん耐久ライブなのでっすよー!



●常闇の森耐久ライブ
 光を通さぬ暗闇の森を、元オラトリオの魂人達が彷徨い歩く。時に全身を苛む苦しみに呻き、意図せず生えた白い翼を引きずりながら、彼等は使命の為に進み続ける。
『殺す、殺す……神殺しの獣を……』
 譫言のように繰り返されるのは、ただその言葉ばかり。
 そんな暗く沈んだ闇夜の光景に、ぱっと一輪の花が咲く。光を纏うような華やいだ雰囲気を連れて、紫・藍(変革を歌い、終焉に笑え、愚か姫・f01052)が名乗りを上げた。
「ここに居るのは神殺しの獣ではなく、藍ちゃんくんでっすよー!」
『ころ、してやる。殺してやる……!』
「あっ聞こえてない! けどそれも想定の内なのでっす!」
 こちらの声など聞きもせず、幻覚の中に居る彼等のために、藍はライブの構えに入る。
 両腕を、両翼を、そしてそこから枝分かれして伸びた歪な翼を広げ、襲い掛かる魂人からひらりと身を躱して。
「耐久ライブの始まりなのでっすよー!」
 元気よくそう宣言し、紡ぎ出すは幸運の象徴、翼を広げた青い鳥の歌。暗闇を照らすような色鮮やかな翼は、藍の歌声と共に魂人達を包み込む。それは伸び行く白、魂人を汚染する羽根を抑え、封じ込めるように、彼等の視界を青く染める。赤くぎらつき、濁った眼にも、それは輝いて見えただろうか。
 翼圧症によって引き起こされる戦闘意欲、それに抗う歌声により、無理矢理に翼を振り回していた魂人達歩みが止まる。
 歌とは歌わされるものではなく、自身の心で歌うもの。病によって引き起こされたものではなく、魂人達本来の意思を思い出せるように――藍の歌、藍の願いは症状の一部と拮抗していた。
 神殺しの獣を殺す、その衝動を封じ込められ、幻覚の中で彼等は惑う。そうして残ったものは、伸び行く翼の齎す苦痛のみ。
『ア、ぐぅ……』『くる、しい……』
 精神ではなく肉体を苛むそれまでは、抑える術がない。せめてこの歌が、苦しみに疲弊する心を少しでも癒してくれることを願って。
「今は、お眠りいただくのでっす!」
 限界まで歌を続ける。ここで封じ込め、戦わせないことが、永劫回帰による思い出の喪失を防ぐことになるのだから。
 その特性上、魂人達の思い出とは命と等価だ。それを護ると決めた彼の歌は、オーディエンスが満足し、膝を付くまで続けられた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

メアリー・ベスレム
ふぅん?
確かにメアリは獣で殺人鬼だけれど……残念、獣違いよ
ああ、それにしても殺しちゃダメだなんて!

……なんてワザとらしく怒っては見るけれど
こんな復讐にもならない殺し方、面白くもなんともない!
それにあなた達、運がいいわ
メアリ、最近|殺さない戦い方《プロレス》っていうものを覚えたの
まさかこんな形で使う事になるとは思わなかったけれど!

残念ながら観客がいないから
【パフォーマンス】は省略で
敵の攻撃から【軽業】【野生の勘】で身を躱し
【踏みつけ】【ジャンプ】も織り交ぜて
上を取ったら【重量攻撃】【尻喰らえ】!
自慢のお尻でぶっ飛ばす!

……もう! お尻がちくちくふわふわするったら!



●衝突事故
 拷問器具の自生する暗闇の森の中、苦痛に呻き、足をふらつかせていた魂人達が、メアリー・ベスレム(WONDERLAND L/REAPER・f24749)を前にして目を見開く。赤くぎらつく不気味なそれは、しかしどこか茫洋と濁って見えた。
『神殺しの獣を、殺さなくては……!』
「……ふぅん?」
 彼等が口々に唱える言葉に、メアリーは不思議そうに鼻を鳴らす。
「確かにメアリは獣で殺人鬼だけれど……残念、獣違いよ」
『殺す、ころして、やる……!』
 だから獣違いだってば。不満気にそう返してはみるが、やはり幻覚を見ている彼等に言葉は通じていないようで、メアリーは盛大に溜息を吐いた。
 殺さないように、という方針もさることながら、今回のケースはどうにも彼女に向いていない。熱い視線も、煮え滾る殺意も、その根元が幻覚による勘違いとなると『復讐』としてしっくりこないのだろう。
 殺してやると言われて殺し返してやっても、これでは面白くもなんともない。
「あなた達、運が良かったわね。メアリ、最近殺さない戦い方プロレスっていうものを覚えたの」
 こんなところで使う事になるとは思わなかったから、リングコスチュームの準備とかはしていないけれど。そんなことを言いながら、彼女は襲い来る魂人を迎え撃つ。
 軋むような音色と共に伸び行く翼、魂人を苦しませる歪んだ白が、凶器としてメアリーに向けられる。ただ振り回すのではない、伸び続ける成長を伴う歪な一撃を、メアリーは身を屈めてやり過ごした。
「パフォーマンスは省略するわね?」
 残念ながら観客はいない。軽口と共に、次なる一撃に合わせて軽やか跳躍、振り上げられた翼に足裏を付け、踏み台に代わりに彼女は舞う。
 魂人の頭上でくるりと一回転すると、メアリーはそのままお尻を向けて落下。見上げる彼へとヒップドロップの一撃を見舞った。
 柔らかな、けれど勢いの乗った一撃を受けた翼圧症患者は、吹っ飛ばされて森の中を転がる。眼を回し、昏倒した彼には、狙い通り目立った外傷は無いようだ。
 まさか|あの競技《プロレス》がこういう形で役に立つとは。妙な感心を覚えながら、メアリーは向かい来る彼等を順に打ち倒していった。
 流れは極めて順調、ではあるけれど。
「……もう! お尻がちくちくふわふわするったら!」
 問題らしい問題は、おそらくその一点だろうか。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シキ・ジルモント
先へ進む事も重要だが、この場の魂人も放置は出来ない
焦らず確実に救出を行うよう自分に言い聞かせつつ戦場へ

戦場では常に周囲を観察
拷問器具の位置を把握しておきたい
可能なら戦いながら拷問器具から引き離し、罠にかからないように注意する

ダメージを与え過ぎて永劫回帰を発動させせないため、今回は銃は使わない
肉弾戦を重視し狼獣人の姿に変身、更にユーベルコードを発動
増大した行動速度で相手が詠唱を終える前に接近し攻撃を叩き込む
攻撃方法は当て身等を選び、失神させる事で永劫回帰を使わせずに無力化を狙う

自身の防御は二の次で良い
多少強引にでも飛び込み攻撃に移る
魂人の苦痛を長引かせない為に、出来る限り早くここから連れ出したい



●響き渡る叫び
 ダークセイヴァー、この世界の在り方を思わせる、拷問器具の生る森へ、シキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)が足を踏み入れる。戦争を終わらせ、カタストロフを止めるためには速やかに敵陣へと歩を進めたいところだが。
『殺さ、なくては……』『……神殺しの獣、を……』
 そこかしこから響く声、そして苦鳴。やはりこの森を放置していくわけにはいかないだろう。
 落ち着け、焦るな。そう自らに言い聞かせながら、シキはその青い瞳で戦場をひと撫でする。こちらを認めた翼圧症の魂人達、そして木々や地面から自生する禍々しい拷問器具を捉えて。
「神殺しの獣、か。何を見ているのかわからんが……」
 罠のように配されたそれらを避け、シキは徒手にて当身を打ち込む。『永劫回帰』の力を持つ彼等の身体を慮り、銃は今回は不使用、ただその動きを止めるための攻撃だ。
 秘めたる獣性を解放し、速度を増した彼ならば、迫り来る魂人達の翼を捌くことなど容易い。しかしその内一人が飛び掛かろうとしたそこで、彼の行く手に拷問器具が口を開けているのに気付く。
『ころ、してや、る……!』
「――待て!」
 咄嗟にその拷問椅子を殴り飛ばし、魂人が突っ込むのを避ける。だがその代わりに、シキに縋り付くように飛び込んだ魂人は、あらんかぎりの叫び声を上げた。
『ぐ、ガ、アァ――――ッ!!!』
 内側に生えた翼でくぐもった声、力ずくで絞り出すような痛苦の叫びが耳朶を打つ。それと同時に、シキの全身に焼け、軋むような痛みが走り出した。肉体の羽毛化、それはまるで、翼圧症の症状を周囲にばら撒いているかのよう。さらに最悪なのは、その叫びに症状を悪化させ、周辺の魂人達も痛苦の叫びを上げ始めたことだ。
「チッ……!」
 耳を塞いでいる場合ではない、苦痛もダメージも棚上げにして、シキは素早く地を蹴った。
 目前の相手の鳩尾に一撃、そして迸る叫びを頼りに、周辺の魂人達の元へと飛び込み、連鎖する叫びを断ち切っていく。襲い来る痛みの中でも集中を切らさず、気絶させて意識だけを刈り取るように努め、その場を収めた。
 ようやく静寂の訪れたそこで、シキは慎重に、もう一度周囲を探る。体表、そして体内から抜け落ちた白い羽毛が降り積もり、にわかに光に照らされたようなそこで、倒れた人々はなおも苦痛に体を震わせている。
 意識がないだけ多少はマシだろう――せめてそう願いながら、彼は魂人達がさらなる罠にかからぬよう、森から連れ出していった。
 この事態を収めるためには、やはり原因を断つ必要があるのだと、戦う意思を一層強く固めて。

大成功 🔵​🔵​🔵​

矢来・夕立
面倒だな。首を落とすのと意識を落とすの、カンタンなのは前者なんですが。
まあ剣さんからのそういうオーダーなら聞きます。

幸いにして《闇に紛れる》には苦労しない一帯らしいんで、戦い自体は一方的にやれると思います。
汚染されているとは言え元はズブの素人でしょう。こちらは現職の忍者です。どうにかしますよ。

問題はこの生えてくる拷問器具ですが。いつもなら有効活用するんですがね。
…まるで敵にトン単位で塩を贈呈するようで気は進みませんが、式紙に守らせます。
【紙技・禍喰鳥】。《かばう》よう指示して魂人の壁にするほか、致命傷になりうる拷問器具に突っ込ませて無効化します。
例えばスイッチで発動する岩落としなんかですね。そういう一発限りのトラップであれば、先行して発動させておけばもう何も起こりません。…おそらくは。
無効化した傍から次々に生えてくるとかそんなことは無いと思いたいところです。

こうして見ると魂人の方々、「死なない」っていうか、幸福な記憶がある限り「死ねない」…って感じですね。オレはただの人間で良かったです。


ジェイ・バグショット
オラトリオを前に思い出すのは昔の記憶
共に育った聖者の少女が紛れていないか探す目的もある

お互いツイてなかったな
こんな世界に生まれちまって
お前がただのオブリビオンだったら
簡単な仕事だったろうに

そこらに拷問具があるこの森なら
俺にとっては最高の舞台と言える
傷付けずに無力化するのは骨が折れるが仕方ない

拘束特化型拷問具「従属のウュズミガ」を召喚
拘束具全てを命中させるより口枷で声の攻撃を封じることを優先

敵の俊敏さと空中の機動力を想定し、木や薄暗さを利用しながら鉄輪の拷問具「荊棘王ワポゼ」、または猟兵を囮にウュズミガの首輪と鎖で拘束し無力化を狙う

他との連携〇
自身の弱さは承知済み
永劫回帰に到るような無理はしない



●鉄と病と黒の森
 面倒だな。
 常闇の森を行く魂人達を見つけたところで、矢来・夕立(影・f14904)の発した第一声がそれだった。
 ターゲットのことを慮ればそれだけ手間が増すのは自明な話、首を落とすか意識を落とすか、その二択であれば前者の方が断然容易である。とはいえそれは相手が『普通』であればの話、今回のケースのように永劫回帰する魂人相手ではそれも怪しい。全体の方針も後者であるというのであれば、そちらの方に舵を切っても良いだろう。
 まあ、面倒なのはその通り。
 だが幸いにして辺りは暗闇、そこに紛れることに長けた夕立であれば立ち回りには余裕がある。逆に相手は汚染されているとは言え戦闘に関しては素人同然、暗闇に潜んだ忍者が相手では、戦い以前に発見することすら困難ではあるまいか。
「そうなると……邪魔なのはこいつらですかね」
 そう呟きながら、樹の上に隠されていた捕縛網を両断する。この森ではこういった狩猟罠や拷問具が、勝手に生えるというのだから恐れ入る。
 夕立としては、この手の道具は便利に使っていくのが常なのだが、今回は放置しておくと魂人が巻き込まれかねない状況だ。捕獲網やくくり罠ならいざしらず、トラバサミやアイアンメイデンなど物騒なものも多数見受けられる。
「敵に塩を送る、か」
 傷口に塩を塗り込む方なら進んでやりそうだが、とにかく。全く気の進まない様子で、夕立は周囲に式紙を放った。白と黒、折りたたまれた蝙蝠達は、主の指示に応じて翼を広げ、魂人達の方へと飛んでいく。
 苦し気な呻き声と、変形していく身体の軋む音色、ふらふらと歩む彼等が罠や拷問具に踏み込みそうになったところで、蝙蝠達はそちらへと先回り。自ら罠に飛び込み空撃ちさせることで、彼等に被害が及ばないように努める。
「トン単位で塩を贈呈しているような気がするんですが……」
 ガシャンガシャンと音を立て、吊られていた拷問器具が地面に落ち、アイアンメイデンが虚空を切り裂く。かなり大仰なことになっているが、認知の歪んだ幻覚の中に居る魂人達は、それに気付くこともないのだろう。
 若干不満点はあるが、周囲の危険もある程度は廃せた。後は奇襲を仕掛けて順番に仕留めていくだけ――。
「――いや、仕留めたらまずいんでしたね」
 首筋に手刀を入れるとか、あれほんとは結構危ないんですよね。しかも何かでたらめに生えた翼が邪魔。気絶させる方法を吟味している内に、訪れたもう一人の猟兵が、その言を引き継いだ。
「あれがただのオブリビオンだったら、簡単な仕事だったろうにな」
 とはいえ、ここまで場が整っていればやりようはある。こちらもこちらで、闇から浮かび上がったような黒ずくめの男、ジェイ・バグショット(幕引き・f01070)は、捉えた魂人に対して奇襲をかけた。
 拷問具を召喚し、初手は口枷。感染を広げかねない痛苦の叫びをそれで防ぎ、足枷で歩みを、手枷で抵抗をそれぞれ止める。五点一式となったそれは『従属のウュズミガ』、拘束に特化した彼の拷問具は、最後に鎖をかけることで、魂人を完全に無力化した。
 まずは一人、しかし攻撃を仕掛けた彼を、後続の魂人達が捉えている。
『殺さ、なくては。神殺しは、必ず……』
 足元に落ちていた捕縛網の残骸を引いて、先頭の魂人のバランスを崩す。このまま拘束にかかることも可能だろうが、さらに後ろの連中を処理しきれるかと言うと。
「……チッ」
 怪しいところだと判断して、ジェイは次の一手を打つ。
 召喚された別の拷問具、『荊棘王ワポゼ』が跳ねて、頭上の太枝を断ち切り、落とす。降ってきた枝は誰も居ない場所に落下し、それに一歩遅れて、その枝に乗っていた忍者が魂人の一人の前に着地した。
『神殺しの獣を、殺す……!』
 駆け出そうとした魂人の眼前に、夕立の放った蝙蝠が殺到し、視界を塞いでその一歩を躊躇わせる。
 次の瞬間、背後に回っていたジェイが口枷で叫び声を断ち切り、ベルトで両目を塞ぐ。再度の『ウュズミガ』、続く鎖が両手を、両足を絡め捕って。
「……今、オレのこと囮にしました?」
「気のせいじゃないか」
 両者の間でにこりともしないやりとりが交わされる中、最後の魂人が四肢を拘束され、戦闘不能状態で地面に転がった。

 少々思うところはあるが、首尾は上々と言っていい。拘束した彼等の様子を一瞥して、夕立は蝙蝠達を手元に戻す。
 自由を奪われた彼等は、それでもなお使命を唱え、翼圧症の苦痛に苛まれながらもがいていた。
「幸福な記憶がある限り『死ねない』というのも難儀なものですね」
 オレはただの人間で良かったです。そう続ける夕立にジェイは頷いて返す。
「そうだな……」
 こんな世界に生まれちまった連中は、揃って運がなかったのかもしれない。そう呟きながら、ジェイは倒れた魂人達の顔を確認して回る。
 その『ツイてない連中』の中には、彼自身と――それから、共に育った聖者の少女が居る。第四層で死んだ者は、第三層にて魂人として蘇っている。ならば。
「……ここには居ない、か」
 安堵するような、残念がるような、そんな声を最後に、ジェイは顔を上げた。
「さて、後はこいつらを連れ帰るだけだが」
「そうですね……」
 どっちが運ぶ? 言外で繰り広げられる微妙な攻防は、多分もうちょっと続くだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



 常闇に沈んだ森には、今なお苦しむ魂人達の声が響いている。
 だがその苦鳴も、猟兵達の手でやがて終わる時が来るだろう。

最終結果:成功

完成日:2023年05月02日


挿絵イラスト