闇の救済者戦争③〜空より軽い
墓場に、巨大な天秤が揺れている。
それは同時に噴水でもあり。まるで庭園を彩る花々のように並び立つ墓標に囲まれて、溢れんばかりの水を湛えていた。
皿の上には、それぞれに幾つかの棺桶が乗せられている。
皿の底が水面に触れるか触れないか、そこまで下がった左の皿には棺桶ひとつ。それより高らかに天へと掲げられた、右の皿には棺桶ふたつ。また、噴水の傍には棺桶みっつ、横たわっている。
棺桶は鎖で雁字搦めに縛られている上、魔術的な防護が掛かっているようで、どうあっても開きそうにない。その全ての棺桶から――否、墓標の下、土の中からも、か細い呻き声が聞こえてきて。
薄ら寒く響く、風鳴りのようだった。
●
「俺からしてみれば、こんなものは謎解きでもなんでもない。おちょくってるのさ、馬鹿真面目な挑戦者をな」
ハ、と。
開口一番、ユリエル・ミズハシ(ジキルの棘とハイドの誘惑・f36864)は皮肉げに嗤った。
「これを見れば解るさ。馬鹿げている。ダークセイヴァー第三層、闇の種族の管理する墓場の噴水に刻まれた、謎解きの文章だ」
ユリエルはタブレットを猟兵たちの前へと差し出す。
画面に映されたメモ帳アプリには、次のように入力されていた。
『天秤を等しく平らかにせよ。
さすれば墓は暴かれるであろう。
但し心せよ。誤れば大きく傾いた天秤は、酸の海へと沈むであろう。』
猟兵たちが読み終えた頃合いで、はーっとユリエルが溜息を吐いた。
「要は。天秤を釣り合わせろってことだ。上手いこと左右同じ重さに出来れば、棺桶の中の魂人は全員解放される。回数制限はない。その代わり、一回でもうっかり天秤を片側に大きく傾かせたが最後、その皿に乗っていた棺桶の中の奴らは酸で焼け死ぬし、墓場の棺桶も二度と開かれない」
回数制限はないが、一度失敗すれば終了。ばかりか、猟兵たちの手で、魂人たちを殺めることになる。
「この墓場にはな、死者なんて眠っちゃいないんだ。いるのは瀕死の重傷で、慈悲とは名ばかりの生き地獄に囚われた、魂人の戦士だけなんだよ」
つまり、彼らは生き埋めにされている。
傷も満足に癒せず、永劫回帰の力だけで生き永らえる彼らを、呼吸すらもままならぬ土の中で苦しめ続けるために。
「解るだろ? 『奴らの命は空より軽い』」
闇の種族にとって。
魂人とはその程度の、餌か有象無象か。そんなものに過ぎないという――、
「俺からのヒントだ。ま、言うまでもなかったか」
え、今のが?
「簡単な話だろ。最悪現地に行きゃ解る」
どうも答えを知っているような口ぶりである。
しかし同時にユリエルはこうも言っている。お前達ならこの程度の謎、解けるだろう? ――と。
絵琥れあ
お世話になっております、絵琥れあです。
多分秒殺。
戦争シナリオのため、今回は1章構成です。
第1章:冒険『謎掛けの墓標』
謎掛けに正しく答えることでプレイングボーナスが得られます……が。
今回は正解の方のみを採用させていただきます。
(万が一成功数が足りなければ、サポートの方々に追加ヒントという形で参戦していただきます)
なお、棺桶のそれぞれの重さは現地で調べると解ります。
但し努力が必ず報われるとは限りません。
断章なし、受付開始日はタグにてご連絡させていただきます。
(受付可能になったら受付中タグを追加し、その時点から受付開始とさせていただきます)
それでは、よろしくお願いいたします!
第1章 冒険
『謎掛けの墓標』
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POW : 思いつく限りの答えを並べる
SPD : 意地悪な謎掛けの引っ掛けを見抜く
WIZ : 論理的に答えを導く
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
ステラ・カガミ(サポート)
『よろしくね。』
人間のシンフォニア×サウンドソルジャー、18歳の女です。
普段の口調は「年相応の少女口調(あたし、~くん、~さん、なの、よ、なのね、なのよね?)」、偉い人には「丁寧(私、あなた、~さん、です、ます、でしょう、ですか?)」です。
踊り子兼歌姫なので歌ったり踊ったりすることが大好きです。
明るく好奇心旺盛な性格で、自慢の歌と踊りで旅費を稼ぎながら世界を回っています。
戦闘では歌や踊りを使っての援護に回ることが多く、ユーベルコードもそれに準じた使い方をします。
描写NGはありませんので、あらゆる用途で使って頂いて大丈夫です。
●
「天秤を釣り合わせろ、かぁ」
ふむふむ、とステラ・カガミ(踊り子兼歌姫・f14046)は噴水、それから棺桶を確認して。
「こういうのはまず、重さを確認するのが大事よね!」
しかし、よくよく考えてみれば。
実際に乗せて試すのは、急激に傾いてしまうリスクを考えると危険すぎる。何せ相手は――実際に相対しているわけではないとは言え――闇の種族。何を仕掛けているか解らない。
さて、どうしたものかとステラが棺桶のひとつに触れた時。
(「……あら?」)
何やら棺桶の側面に、重さを表すような数字と記号が書かれている。
(「……これ、謎解きとして成り立つのかしら?」)
ならば、側面のこの数字の和を左右で釣り合うように揃えればいいだけだ。乗せて確認する必要などない。
グリモア猟兵が言っていた、馬鹿げているとはこのことか。
そこまで考えてふと、違和感を覚える。
釣り合わないのだ。何度やっても、どの組み合わせを試しても。
これでは正解が存在しないではないか。まさか、正解のない問いかけをして、解く者が困惑する様を楽しんでいるとでも言うのか。
だとしたら、無駄足ではないか。解けなければそれは、謎でも何でもないではないか。
(「つまり、解く方法はある筈なのに」)
混乱する。
ふと、グリモア猟兵の言葉が頭をよぎった。
――おちょくってるのさ、馬鹿真面目な挑戦者をな。
――『奴らの命は空より軽い』。
「空より軽い……そら、………………あれ」
まさか。
あるひとつの可能性が、浮かんだ。
いや、だとしたら。本当に馬鹿にしている。だがもう、それしか考えられない。
その考えがどうか、正しいことを祈りながら、ステラは集まった仲間たちへと目を向けた。
成功
🔵🔵🔴
山梨・玄信
全く…忌々しい世界じゃな。
気軽に人の命をかけてくるとは…。
天秤を釣り合わせるだけでいいなら、ユーベルコードを使って天秤を押さえ込むという力技もあるんじゃが、それは「正解」にはならんのじゃろうな。
ふむ、バカ真面目な挑戦者をおちょくる…命は空より軽い…か。
空…から?
まさか、棺桶を全部下ろせば天秤は釣り合うという事か!
そもそも左右で皿の重さが違って釣り合わないとか言ったら、作った奴を張り倒すが。
問題は既に乗っている棺桶をどうやって下ろすかじゃが。
服を脱いでUCを発動。天秤の上の棺桶にロープをくくりつけ、一気に引っ張って下ろすぞ。
これでどうじゃ⁈
ディル・ウェッジウイッター
棺桶2つ乘っている右皿よりも1つ乘っている左皿の方が下に沈むというのも不思議ですね。左には大人、右には子供でも入っているのか
そして棺桶に数字は書いているがどんな組み合わせでも釣り合わない
その上で天秤を釣り合わせろ、ですか
……合っているか分かりませんが
【天秤の上にあるすべての棺桶を、噴水の傍へ移動し皿の上を空に】はどうでしょうか
謎解きの文章には棺桶をのせて天秤を等しく平らかとは言っていません
条件は満たしてはいるのでは?
…天秤が何も乗せてなくても片方に傾いていなければの話ではありますが
●
「全く……忌々しい世界じゃな。気軽に人の命をかけてくるとは……」
墓場、棺桶、酸の噴水。
そして聞こえる呻き声に、山梨・玄信(3-Eの迷宮主・f06912)は生命に対する冒涜を強く感じた。しかもこのような遊び感覚で消費されていく生命に、より闇の種族の傲慢さ加減が窺える。
しかし、その遊びに乗らねば救えぬと言うのならば、今は呑み込んでやろう。
(「天秤を釣り合わせるだけでいいなら、ユーベルコードを使って天秤を押さえ込むという力技もあるんじゃが、それは『正解』にはならんのじゃろうな」)
そもそも、ユーベルコードやそれに近い超常現象が謎解きに介入してしまえば、その時点で何でもアリになってしまう。流石に謎解きを謳う以上、そのような事態は想定されていないと信じたかった。
さて、改めて噴水へと目を遣れば、ディル・ウェッジウイッター(人間のティーソムリエ・f37834)が天秤の皿や、そこに乗った棺桶を詳しく調べていた。勿論、噴水の酸には触れないように注意を払いながら。
「棺桶2つ乘っている右皿よりも、1つ乘っている左皿の方が下に沈むというのも不思議ですね。左には大人、右には子供でも入っているのか……」
そう考えれば一応の説明はつかないこともない。
しかしそれ以前に、先に謎解きを始めていた仲間が突き止めたある事実が、ディルには引っかかっていた。
「そして棺桶に数字は書いているがどんな組み合わせでも釣り合わない。……その上で天秤を釣り合わせろ、ですか」
まさか猟兵も乗れだとか、その辺りにある棺桶以外のもので釣り合いを取らせろとでも言うのだろうか。いや、流石にそれは不確定要素が強すぎる。人の命がかかっている盤面で、そんな博打は打てない。
「彼らの命は空より軽い……でしたか。ふむ、空……『空』ですか」
「『空』か。空……」
その時、ふと。
ほぼ同時に二人の頭に、同じ考えがよぎる。
つまりこれは『言葉遊び』なのではないかと。
「……から? ……まさか、棺桶を全部下ろせば天秤は釣り合うという事か!」
「ええ、天秤の上にあるすべての棺桶を、噴水の傍へ移動し皿の上を『空』に……合っているか分かりませんが」
だが、もう。
全ての可能性を排除したなら、考えられることはそれしかない。
「謎解きの文章には『棺桶をのせて』天秤を等しく平らかとは言っていません。条件は満たしてはいるのでは?」
「……そもそも左右で皿の重さが違って釣り合わないとか言ったら、作った奴を張り倒すが」
「……まあ、そうですね。天秤が何も乗せてなくても片方に傾いていないという前提がなければ成り立ちませんが」
だが、察するに。恐らく『嘘偽りは言っていない』という言い逃れが出来る状況を作った上で、作り手はこのような悪趣味な謎を提示しているのだろう。
「問題は既に乗っている棺桶をどうやって下ろすかじゃが」
「そうですね、それに天秤が急激に傾かないように、タイミングを合わせる必要もあるでしょう」
「ならばここはわしが人肌脱ごう。文字通り!」
「おや」
バサァ。
言うや否や、玄信は道着を脱ぎ捨て惜しげもなくその上半身を晒した。
だが気持ちの問題と言うか、安易に脱いだわけでは勿論ない。そう、ユーベルコードの力により玄信は、服を脱ぎ肌を晒している面積と時間に比例し、あらゆる事象の成功率を上げることが出来るのだ!
「その上で天秤の上の棺桶にロープをくくりつけて、と……」
「では、軽い方はこちらで何とかしましょう。手伝っていただいてもよろしいですか?」
ディルは先に謎解きを開始していた仲間に声をかけ、噴水の縁へ、踏み外さないよう足をかけた。幸い、縁は一般成人男性の足を乗せても幅に余裕があった。
「こちらは準備出来ました。いつでも取り掛かれます」
「よし、ではゆくぞ!!」
せーの、と掛け声に合わせて。
まずは玄信が、ロープを思い切り引っ張り宙へと浮かび上がらせた。それとほぼ同時にディルたちが、軽い方の天秤に乗った棺桶ふたつを、協力して可及的速やかに下ろす。
「これでどうじゃ?!」
落ちてくる棺桶を受け止め、玄信が噴水を、天秤を見た。
天秤は、左右どちらに触れることもなく、釣り合っている。
それを認めた瞬間――噴水に満ちていた酸が、枯れるように水位を下げ、やがてなくなる。謎を解き、仕掛けを解くことで、噴水の底へと収まる仕組みだったようだ。
「!」
更に、ディルはぱきりと何かが割れる音を聞いた。それも、ひとつではない。幾つも、次々と。
魂人を閉じ込めていた棺に巻かれた鎖が次々と壊れ、その蓋が開いたのだ。土の中からも、くぐもりながらも同じく鎖の割れる音がした。こちらは、これから掘り起こしてやらねばならないだろうが、兎も角。
「謎は、無事に解けたようですね」
「うむ。これにて一件落着じゃな!」
残酷にして悪趣味な謎はここに、その答えが示された。
大成功
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